説明

水性磁性分散体および磁性インクジェットインク

【課題】粘度を上昇させることなしに多量の磁性体粒子が安定に分散された水性磁性分散体と、前記水性磁性分散体を用いた磁性インクジェットインクとを提供する。
【解決手段】水性磁性分散体は、フェライトからなり実質的に球形である磁性体粒子を、式(2)


(式中、Rは炭素数4以下のアルキル基、Rはアミノ基または水酸基を示す。)
で表されるジホスホン酸化合物と、式(3):


(式中、mは1〜3の数を示し、nは2〜6の数を示す。)
で表されるアミン化合物との塩の存在下、水性分散媒中に分散させた。磁性インクジェットインクは、前記水性磁性分散体を原料として含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微小な磁性体粒子を水性媒体中に分散させた水性磁性分散体と、前記水性磁性分散体を用いて調製される磁性インクジェットインクに関するものである。
【背景技術】
【0002】
文字やバーコードその他のパターンで記録された情報を磁気ヘッドで読み取る、いわゆる磁性像キャラクター認識〔Magnetic Ink Character Recognition:MICR〕システムが普及している。
このシステムにおいて磁気情報を記録する際に、従来は磁性インクリボンとドットインパクトプリンタとを用いるのが一般的であった。しかしドットインパクトプリンタは騒音が大きく、また磁性インクリボンはインクの利用率が低いために印刷コストが高くつくという問題があった。
【0003】
そこで騒音が小さく、しかも必要なときに必要な量のインクによって印刷できるため印刷コストを低く抑えることができるインクジェットプリンタを利用して磁気情報を記録するべく、それに適した磁性インクジェットインクが開発されている。
前記磁性インクジェットインクは、一般に主原料である磁性体粒子を、分散安定剤の存在下、水等の水性分散媒中に分散させて調製される。
【0004】
例えば特許文献1ではポリアクリレート、アクリル酸/アクリルアミド共重合体、ポリビニルホスホン酸等の水溶性高分子を分散安定剤として用いることにより、磁性体粒子の分散性、分散安定性の向上が図られている。
しかし分散安定剤として水溶性高分子を用いた場合には、磁性インクジェットインクをインクジェットプリンタでの使用に適した低粘度に抑制するのが難しく、どうしても固形分濃度が上昇するとともに粘度が上昇する傾向があり、これらのことが原因となってインクジェットプリンタのノズルでの目詰まり等を生じやすいという問題がある。
【0005】
そこで特許文献2では、分散安定剤として低分子量の脂肪酸金属塩、例えばラウリン酸ナトリウム、ステアリン酸ナトリウム、オレイン酸ナトリウム等を使用するとともに、磁性体粒子として、例えば通常の針状のものに比べて水性分散媒に対する分散性に優れた、式(1):
【0006】
【化1】

【0007】
〔式中Mは2価の金属イオンを示す〕
で表されるフェライトからなり実質的に球形である磁性体粒子を用いて、磁性インクジェットインクのもとになる水性磁性分散体を調製することが提案されている。
前記特許文献2の構成によれば、例えば磁性体粒子の含有割合が水性磁性分散体の総量の30質量%未満程度までの範囲において、前記磁性体粒子を安定に分散させることが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平5−140492号公報
【特許文献2】特開2002−241133号公報
【特許文献3】特開平2−233777号公報
【特許文献4】特開2003−147245号公報
【特許文献5】特開2007−277351号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところが近時、記録する磁気情報の磁気量を増加させるべく、磁性インクジェットインクにおける磁性体粒子の含有割合を現状よりも増加させることが求められるようになってきている。
この要求に対応するためには、前記磁性インクジェットインクのもとになる水性磁性分散体において、磁性体粒子を前記範囲を超えて多量に含有させる必要がある。しかしその場合に、特許文献2の構成では磁性体粒子の良好な分散性、分散安定性を維持できないため、例えば水性磁性分散体の貯蔵時に磁性体粒子が沈降してしまったり、沈降は生じないまでも、調製した水性磁性分散体中で多数の磁性体粒子が凝集して大きな凝集粒子を生じたりするといった問題がある。
【0010】
本発明の目的は、その粘度を上昇させることなしに、現状よりもさらに多量の磁性体粒子が安定に分散された水性磁性分散体と、前記水性磁性分散体を用いた磁性インクジェットインクとを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、
(I) 前記式(1)で表されるフェライトからなり、実質的に球形である磁性体粒子、
(II) 分散安定剤としての、式(2)
【0012】
【化2】

【0013】
(式中、Rは炭素数4以下のアルキル基、Rはアミノ基または水酸基を示す。)
で表されるジホスホン酸化合物と、式(3):
【0014】
【化3】

【0015】
(式中、mは1〜3の数を示し、nは2〜6の数を示す。)
で表されるアミン化合物との塩、および
(III) 水性分散媒
を含むことを特徴とする水性磁性分散体である。
本発明によれば、前記式(1)で表されるフェライトからなり、実質的に球形で水性分散媒への分散性に優れた(I)の磁性体粒子を(II)の分散安定剤と組み合わせることにより、後述する実施例、比較例の結果からも明らかなように、前記磁性体粒子の、(III)の水性分散媒に対する分散性、分散安定性をこれまでよりも飛躍的に向上することができる。しかも前記(II)の分散安定剤は、水溶性高分子に比べて低分子量であって、水性磁性分散体の粘度を上昇させるおそれもない。
【0016】
そのため本発明によれば、その粘度を上昇させることなしに、現状よりもさらに多量の磁性体粒子が安定に分散された水性磁性分散体を提供することができる。具体的には、磁性体粒子の含有割合を30質量%以上、50質量%以下という高濃度に設定しても、例えばその貯蔵時に磁性体粒子が沈降するおそれのない水性磁性分散体を得ることができる。
なお「実質的に球形」とは、磁性体粒子の透過型電子顕微鏡写真を撮影し、その中から任意に抽出した所定個数のサンプル粒子の映像について実測した、個々のサンプル粒子における長径hと短径hとの比h/hの、全サンプル粒子での平均値が、1/1〜3/1の範囲内(好ましくは1/1〜2/1の範囲内)にある状態をさすこととする。かかる規定による実質的に球形の粒子には球形のものの他、回転楕円体、多面体、不定形の粒状体などをも含みうる。
【0017】
分散安定剤の含有割合は、前記分散安定剤による、磁性体粒子の分散性、分散安定性を向上する効果をより一層良好に発揮させることを考慮すると、質量比で磁性体粒子の1/60倍以上、1/10倍以下であるのが好ましい。
本発明の磁性インクジェットインクは、前記水性磁性分散体を含むことを特徴とするものである。
【0018】
本発明によれば、前記(II)の分散安定剤の機能によって、現状よりもさらに多量の磁性体粒子を安定に分散させることが可能であるため、磁性インクジェットインクにおける磁性体粒子の濃度を高めて、例えばMICRシステムにおいて記録する磁気情報の磁気量を現状よりも大幅に増加させることが可能となる。
なお特許文献3〜5には、それぞれ前記式(2)で表されるジホスホン酸化合物やその無機塩、すなわちナトリウム塩、カリウム塩、あるいはアンモニウム塩を、磁性でない通常のインクジェットインク中に含有させることが記載されている。
【0019】
しかしその目的は、インクジェットインクがインクジェットプリンタのノズルプレートの表面に濡れ拡がるいわゆるパドリング(インクの溜り)が生じるのを防止したり、インクジェットインクをサーマル方式のインクジェットプリンタに使用した際にいわゆるコゲーション(インクの焦げ付き)が生じるのを防止したりすることにある。
前記特許文献3〜5に記載のジホスホン酸化合物やその無機塩が、磁性体粒子の分散性、分散安定性を向上させるために機能し得ないことは、後述する実施例、比較例の結果から明らかである。
【0020】
しかも特許文献3〜5には、前記ジホスホン酸化合物やその無機塩に代えて、前記(II)の分散安定剤、すなわち式(2)で表されるジホスホン酸化合物と、式(3)で表されるアミン化合物との塩を分散安定剤として用いることや、それによって磁性体粒子の分散性、分散安定性を向上できることについては一切記載されていない。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、その粘度を上昇させることなしに、現状よりもさらに多量の磁性体粒子が安定に分散された水性磁性分散体と、前記水性磁性分散体を用いた磁性インクジェットインクとを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
《水性磁性分散体》
本発明の水性磁性分散体は、
(I) 式(1):
【0023】
【化4】

【0024】
〔式中Mは2価の金属イオンを示す〕
で表されるフェライトからなり、実質的に球形である磁性体粒子、
(II) 分散安定剤としての、式(2)
【0025】
【化5】

【0026】
(式中、Rは炭素数4以下のアルキル基、Rはアミノ基または水酸基を示す。)
で表されるジホスホン酸化合物と、式(3):
【0027】
【化6】

【0028】
(式中、mは1〜3の数を示し、nは2〜6の数を示す。)
で表されるアミン化合物との塩(ジホスホン酸アミン塩)、および
(III) 水性分散媒
を含むことを特徴とするものである。
〈磁性体粒子〉
前記(I)の磁性体粒子としては、前記式(1)で表されるフェライトからなり、実質的に球形である種々の磁性体粒子が使用可能である。ただし前記磁性体粒子としては、例えば下記(a)〜(e)等の条件を満足するものが好ましい。
【0029】
(a) 一次粒子の平均粒径が記録波長に比べて十分に小さく、かつ粒度分布がシャープであること。特に磁性インクジェットインクとしての適性を考慮すると、一次粒子の平均粒径は0.01μm以上、0.02μm以下であるのが好ましい。平均粒径が前記範囲未満では保磁力を維持するのが難しくなるおそれがある。また前記範囲を超える場合には、インクジェットプリンタのノズルでの目詰まり等を生じやすくなるおそれがある。
【0030】
(b) 保磁力が、磁気記録に適した100Oe以上、1000Oe以下程度であること。
(c) 複数の粒子間の焼結がないこと。
(d) 温度や時間に依存して磁気特性が変動しないこと。
(e) 残留磁化が0.3emu/g以上であること。磁気情報の磁気量を増加させるためには、残留磁化は大きいほど好ましい。
【0031】
これらの条件を満足し、なおかつその形状が実質的に球形である磁性体粒子としては、前記式(1)中のMがコバルトである式(4):
【0032】
【化7】

【0033】
で表されるコバルトフェライトの球形粒子(球形コバルトフェライト粒子)が好ましい。
前記球形コバルトフェライト粒子としては、例えば堺化学工業(株)製のFCO−2〔一次粒子の平均粒径0.015μm、保持力450Oe、残留磁化15emu/g〕等が挙げられる。
磁性体粒子の含有割合は任意に設定できるが、特にMICRシステムにおいて記録する磁気情報の磁気量をこれまでより増加させることを考慮すると、水性磁性分散体の総量中の30質量%以上、特に35質量%以上であるのが好ましい。本発明によれば、次に説明する(II)の分散安定剤の作用によって、かかる多量の磁性体粒子を水性分散媒中に安定に分散させることができる。
【0034】
ただし磁性体粒子の含有割合が多すぎる場合には、たとえ(II)の分散安定剤を含有させたとしても、磁性体粒子の全量を安定に分散できないおそれがある。そのため磁性体粒子の含有割合は、前記範囲内でも50質量%以下、特に45質量%以下であるのが好ましい。
〈分散安定剤〉
前記(II)の分散安定剤としてのジホスホン酸アミン塩のもとになる、式(2)で表されるジホスホン酸化合物としては、例えば前記式(2)中のRがメチル基、Rが水酸基である、式(5):
【0035】
【化8】

【0036】
で表されるヒドロキシエチレンジホスホン酸が挙げられる。
また式(3)で表されるアミン化合物としては、例えば前記式(3)中のmが1、nが4である、式(6):
【0037】
【化9】

【0038】
で表される2−アミノ−1−メチル−1−プロパノール〔2−ヒドロキシ−1−メチルプロピルアミン〕や、式(3)中のmが2、nが4である、式(7):
【0039】
【化10】

【0040】
で表されるN,N−ジ(2−ヒドロキシ−1−メチルプロピル)アミン等が挙げられる。
ジホスホン酸アミン塩は、前記式(2)で表されるジホスホン酸化合物中の、Pに直接に結合した水酸基と、式(3)で表されるアミン化合物中のアミノ基とが反応して生成される塩である。
前記ジホスホン酸アミン塩は、例えば冷却下、式(2)のジホスホン酸化合物の水溶液をかく拌しながら式(3)のアミン化合物を所定量滴下する等して合成することができる。
【0041】
合成したジホスホン酸アミン塩は反応液中から一旦単離したのち水性磁性分散体の調製に使用してもよいが、前記反応液(水溶液)を出発原料として水性磁性分散体を調製するのが、製造工程数を少なくして水性磁性分散体の生産性を向上する上で好適である。
前記ジホスホン酸アミン塩としては、式(2)のジホスホン酸化合物と式(3)のアミン化合物の、モル比1:1〜1:4の任意の塩がいずれも使用可能である。またジホスホン酸アミン塩としては、前記モル比の異なる2種以上の塩の混合物を用いることもできる。
【0042】
前記モル比を調整するには、前記反応系に加える式(2)のジホスホン酸化合物と、式(3)のアミン化合物のモル比を調整すればよい。
本発明の水性磁性分散体における、(II)の分散安定剤としてのジホスホン酸アミン塩の含有割合は、質量比で磁性体粒子の1/60倍以上、1/10倍以下であるのが好ましい。
【0043】
含有割合が前記範囲未満では、前記ジホスホン酸アミン塩を含有させることによる、(I)の磁性体粒子の分散性、分散安定性を向上させる効果が十分に得られないため、例えば水性磁性分散体の貯蔵時に磁性体粒子が沈降してしまったり、沈降は生じないまでも、調製した水性磁性分散体中で多数の磁性体粒子が凝集して大きな凝集粒子を生じたりするおそれがある。
【0044】
また含有割合が前記範囲を超えてもそれ以上の効果が得られないだけでなく、過剰のジホスホン酸アミン塩によって却って磁性体粒子の分散性、分散安定性が阻害されて、例えば水性磁性分散体の貯蔵時に磁性体粒子が沈降してしまったり、沈降は生じないまでも、調製した水性磁性分散体中で多数の磁性体粒子が凝集して大きな凝集粒子を生じたりするおそれがある。
【0045】
〈水性分散媒〉
(III)の水性分散媒としては水が好適に使用されるほか、水と水溶性有機溶媒との混合溶媒を用いることもできる。
前記水溶性有機溶媒としては、例えばメタノール、エタノール等の炭素数1〜4の1価のアルコール類;エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル等のエチレングリコールエーテル類;プロピレングリコール、ジエチレングリコール、グリセリン等の2〜3価のアルコール類;ジメチルスルホキシド、N−メチル−2−ピロリドン等が挙げられる。
【0046】
また水性磁性分散体には、前記3種の成分に加えて、例えば消泡剤等の任意の添加剤を添加してもよい。
〈その他〉
水性磁性分散体を製造するには、前記(II)の分散安定剤としてのジホスホン酸アミン塩を(III)の水性分散媒に所定の濃度で溶解した溶液を調製する。この際、先に説明した合成工程で得られたジホスホン酸アミン塩を含む反応液を出発原料として用いて、さらに水性分散媒を加えて前記溶液を調製するのが、生産性の上で好ましい。
【0047】
次に前記溶液に所定量の(I)の磁性体粒子を加えて、例えばペイントシェーカー等を用いて所定時間混合することにより、前記磁性体粒子を、前記(II)の分散安定剤の作用によって(III)の水性分散媒中に分散させることで、本発明の水性磁性分散体が製造される。
前記本発明の水性磁性分散体において、前記(I)の磁性体粒子の分散粒径は100nm(=0.10μm)以下、特に50nm(=0.05μm)以下であるのが好ましい。
【0048】
分散粒径が前記範囲を超えるということは磁性体粒子の分散性が不十分で、水性磁性分散体中に、多数の磁性体粒子が凝集した大きな凝集粒子が生じていることを意味している。そのため、前記水性磁性分散体を用いて調製した磁性インクジェットインクを用いて磁気情報を記録する際に、インクジェットプリンタのノズルでの目詰まり等を生じやすくなるおそれがある。また前記凝集粒子の生成によって分散安定性が低下して、例えば水性磁性分散体の貯蔵時に磁性体粒子が沈降してしまうおそれもある。
【0049】
磁性体粒子の分散粒径は前記範囲内でも小さいほど好ましく、特に使用した磁性体粒子の一次粒子の平均粒径と一致する、すなわち水性磁性分散体中で、磁性体粒子が全く凝集を生じていないのが理想的である。
しかし分散粒径を一次粒子の平均粒径に近づけるためには長時間混合したり、磁性体粒子の含有割合を少なくしたり、(II)の分散安定剤の含有割合を前記範囲内で多めに設定したりしなければならず、水性磁性分散体の生産性が低下したり、記録する磁気情報の磁気量を増加できなかったりするといった別の問題を生じる場合がある。
【0050】
これらの点も併せ考慮すると磁性体粒子の分散粒径は、先に説明した100nm以下、特に50nm以下の範囲内に入っていればよい。
なお前記分散粒径を、本発明では、例えば日機装(株)製のマイクロトラックUPAシリーズの粒度分布測定装置等を用いて、動的光散乱法によって測定した結果から算出した数平均粒径でもって表すこととする。
【0051】
また本発明の水性磁性分散体の、温度23±1℃での粘度は50mPa・S以下、特に20mPa・S以下であるのが好ましい。
粘度が前記範囲を超える場合には、水性磁性分散体を用いて調製する磁性インクジェットインクの粘度が高くなって、インクジェットプリンタのノズルでの目詰まり等を生じやすくなるおそれがある。また磁性インクジェットインクの粘度を提げるために水性磁性分散体の量を少なくすると、記録する磁気情報の磁気量を増加できないという別の問題を生じる。
【0052】
そのため粘度は低いほど好ましいが、先に説明したように総量中の30質量%以上という多くの磁性体粒子を含む水性磁性分散体の粘度を下げることには自ずと限界がある。水性磁性分散体の、温度23±1℃での粘度は5mPa・S以上である。
なお水性磁性分散体、並びに次に説明する磁性インクジェットインクの粘度を、本発明では温度23±1℃の環境下、回転粘度計〔例えば東機産業(株)製のRE215形粘度計等〕を用いて測定した値でもって表すこととする。
【0053】
《磁性インクジェットインク》
本発明の磁性インクジェットインクは、前記本発明の水性磁性分散体を用いること以外は従来同様に構成できる。
すなわち水性磁性分散体とともに磁性インクジェットインクを構成する他の成分としては、例えば顔料等の着色剤、グリセリン、2−ピロリドン、界面活性剤、表面張力調整剤等の、磁性インクジェットインクの粘度や濡れ性、揮発性等を調整するための成分、pH調整剤、防かび剤、殺生剤等の各種添加剤、さらにはインクジェットプリンタを利用した磁気情報の記録(インクジェット印刷)に適した粘度となるように磁性インクジェットインクを希釈するための水性分散媒等が挙げられる。
【0054】
前記各成分を含む本発明の磁性インクジェットインクの、温度23±1℃での粘度は5mPa・S以下、特に3mPa・S以下であるのが好ましい。
粘度が前記範囲を超える場合にはノズルでの目詰まり等を生じやすくなるおそれがある。なお粘度の下限は、水の粘度である1mPa・S程度であるのが好ましく、粘度がこの値に近いほど、磁性インクジェットインクは目詰まりを生じにくくなる。
【0055】
磁性インクジェットインクの粘度を前記範囲内に調整するには、水性磁性分散体の粘度を調整したり、あるいは磁性インクジェットインクにおける固形分濃度を調整したりすればよい。
また磁性インクジェットインク中における磁性体粒子の含有割合は、前記磁性インクジェットインクの総量に対して15質量%以上、30質量%以下であるのが好ましい。
【0056】
含有割合が前記範囲未満では、記録する磁気情報の磁気量を十分に増加できず、前記範囲を超える場合には磁性インクジェットインクの粘度が前記範囲を上回って、インクジェットプリンタのノズルでの目詰まり等を生じやすくなるおそれがある。
磁性インクジェットインクは、例えば水性分散媒に顔料その他各種添加剤を加えて分散体を調製し、前記分散体に、あらかじめ別個に調製しておいた本発明の水性磁性分散体を加えて混合したのち、必要に応じてろ過して分散粒径が過大な磁性体粒子の凝集体等を除去することによって製造される。
【0057】
前記本発明の磁性インクジェットインクは、例えば、サーマル方式〔サーマルジェット(登録商標)方式、バブルジェット(登録商標)方式〕、ピエゾ方式等の、いわゆるオンデマンド型のインクジェットプリンタに使用できる他、インクを循環させながらインクの液滴を形成して印刷を行う、いわゆるコンティニュアス型のインクジェットプリンタにも使用することができる。
【実施例】
【0058】
以下の実施例、比較例における水性磁性分散体、および磁性インクジェットインクの製造、並びに試験を、特記した以外は温度23±1℃、相対湿度55±1℃の環境下で実施した。
〈磁性体粒子の形状観察〉
磁性体粒子として実施例、比較例で使用した球形コバルトフェライト粒子〔堺化学工業(株)製のFCO−2、一次粒子の平均粒径0.015μm〕の粒子形状を、先に述べた透過型電子顕微鏡写真の映像からの評価方法(サンプル数は10個)で評価したところ、長径と短径の比h/hの平均値は1.3/1であり、実質的に球形であることが確認された。
【0059】
〈実施例1〉
(ジホスホン酸アミン塩(i)の合成)
前記式(2)のジホスホン酸化合物としての式(5):
【0060】
【化11】

【0061】
で表されるヒドロキシエチレンジホスホン酸を純水に溶解した30質量%水溶液を氷冷下、かく拌しながら、式(3)のアミン化合物としての式(6):
【0062】
【化12】

【0063】
で表される2−アミノ−1−メチル−1−プロパノールを滴下したのち、さらに純水で希釈して、分散安定剤としてのジホスホン酸アミン塩(i)の30質量%水溶液を得た。ヒドロキシエチレンジホスホン酸と2−アミノ−1−メチル−1−プロパノールのモル比は1:1.2に設定した。
(水性磁性分散体の調製)
前記ジホスホン酸アミン塩(i)の30質量%水溶液6.7質量部に、純水51.2質量部と、消泡剤〔ビイクへミー(BYK−Chemie)社製のBYK(登録商標)025〕0.1質量部とを加えて混合した。
【0064】
次いで前記混合液に、先の球形コバルトフェライト粒子40質量部を加え、ジルコニアビーズとともにペイントシェーカーに入れて5時間混合して水性磁性分散体を調製した。
球形コバルトフェライト粒子の含有割合は、水性磁性分散体の総量の40質量%であった。またジホスホン酸アミン塩の含有割合は、質量比で球形コバルトフェライト粒子の1/16.7倍であった。
【0065】
〈実施例2〜5〉
ジホスホン酸アミン塩(i)の30質量%水溶液、および純水の量を表1に示すように調整して、前記ジホスホン酸アミン塩(i)の含有割合を、質量比で球形コバルトフェライト粒子の1/8.9倍(実施例2)、1/10.3倍(実施例3)、1/58.0倍(実施例4)、および1/66.7倍(実施例5)としたこと以外は実施例1と同様にして水性磁性分散体を調製した。球形コバルトフェライト粒子の含有割合は、水性磁性分散体の総量の40質量%であった。
【0066】
〈実施例6〉
(ジホスホン酸アミン塩(ii)の合成)
式(3)のアミン化合物として式(7):
【0067】
【化13】

【0068】
で表されるN,N−ジ(2−ヒドロキシ−1−メチルプロピル)アミンを用いたこと以外は実施例1と同様にして、ジホスホン酸アミン塩(ii)の30質量%水溶液を得た。
(水性磁性分散体の調製)
前記ジホスホン酸アミン塩(ii)の30質量%水溶液を用いたこと以外は実施例1と同様にして水性磁性分散体を調製した。
【0069】
ヒドロキシエチレンジホスホン酸とN,N−ジ(2−ヒドロキシ−1−メチルプロピル)アミンのモル比は1:1.2に設定した。
球形コバルトフェライト粒子の含有割合は、水性磁性分散体の総量の40質量%であった。またジホスホン酸アミン塩の含有割合は、質量比で球形コバルトフェライト粒子の1/16.7倍であった。
【0070】
〈比較例1〉
ジホスホン酸アミン塩(i)の水溶液に代えて、ヒドロキシエチレンジホスホン酸のアンモニウム塩(無機塩)の30質量%水溶液を用いたこと以外は実施例1と同様にして水性磁性分散体を調製した。
球形コバルトフェライト粒子の含有割合は、水性磁性分散体の総量の40質量%であった。また前記アンモニウム塩の含有割合は、質量比で球形コバルトフェライト粒子の1/16.7倍であった。
【0071】
〈比較例2〉
ジホスホン酸アミン塩(i)の水溶液に代えて、オレイン酸ナトリウムの30質量%水溶液を用いたこと以外は実施例1と同様にして水性磁性分散体を調製した。
球形コバルトフェライト粒子の含有割合は、水性磁性分散体の総量の40質量%であった。またオレイン酸ナトリウムの含有割合は、質量比で球形コバルトフェライト粒子の1/16.7倍であった。
【0072】
〈比較例3〉
ジホスホン酸アミン塩(i)の水溶液に代えて、水溶性高分子であるポリビニルホスホン酸(分子量5000)の30質量%水溶液を用いたこと以外は実施例1と同様にして水性磁性分散体を調製した。
球形コバルトフェライト粒子の含有割合は、水性磁性分散体の総量の40質量%であった。またポリビニルホスホン酸の含有割合は、質量比で球形コバルトフェライト粒子の1/16.7倍であった。
【0073】
〈分散性評価〉
製造直後の各実施例、比較例の水性磁性分散体における球形コバルトフェライト粒子の分散粒径を、日機装(株)製のマイクロトラックUPA250を用いて動的光散乱法によって測定して、下記の基準で分散性を評価した。
○:分散粒径50nm以下。分散性良好。
【0074】
△:分散粒径50nm超、100nm以下。分散性普通。
×:分散粒径100nm超。分散性不良。
〈粘度測定〉
前記各実施例、比較例の水性磁性分散体の粘度を、東機産業(株)製のRE215形粘度計を用いて測定して、下記の基準で評価した。
【0075】
○:粘度20mPa・S以下。粘度良好。
△:粘度20mPa・S超、50mPa・S以下。粘度普通。
×:粘度50mPa・S超。粘度不良。
〈分散安定性評価〉
前記各実施例、比較例の水性磁性分散体をガラス瓶に充てんして60℃で一週間静置する加速テストを実施し、1週間後の水性磁性分散体を観察して下記の基準で分散安定性を評価した。
【0076】
○:沈降なし。分散安定性良好。
×:沈降あり。分散安定性不良。
以上の結果を表1、表2に示す。
【0077】
【表1】

【0078】
【表2】

【0079】
表2の比較例1の結果より、特許文献3〜5に記載されたジホスホン酸の無機塩は、球形コバルトフェライト粒子を40質量%の割合で含有する系において分散安定剤としては機能しえず、前記球形コバルトフェライト粒子の良好な分散性、分散安定性が得られないことが判った。
また比較例2の結果より、特許文献2に記載された低分子量の脂肪酸金属塩も、前記系において分散安定剤としては十分に機能しえず、球形コバルトフェライト粒子の良好な分散性、分散安定性が得られないことが判った。
【0080】
さらに比較例3の結果より、特許文献1に記載された水溶性高分子を前記系に含有させた場合には粘度が高くなりすぎる上、球形コバルトフェライト粒子の良好な分散安定性も得られないことが判った。
これに対し表1の実施例1〜6の結果より、前記式(2)のジホスホン酸化合物と式(3)のアミン化合物との塩であるジホスホン酸アミン塩は、水性磁性分散体の粘度を上昇させることなしに、前記系において分散安定剤として有効に機能して、球形コバルトフェライト粒子の分散性、分散安定性を向上できることが判った。
【0081】
また各実施例の結果より、前記ジホスホン酸アミン塩の含有割合は、球形コバルトフェライト粒子の分散性をより一層向上することを考慮すると、質量比で磁性体粒子の1/60倍以上、1/10倍以下であるのが好ましいことが判った。
〈実施例7〉
純水29.9質量部に、顔料としてのカーボンブラック〔キャボット(Cabot)社製のCAB−O−JET(登録商標)300〕5質量部、グリセリン10質量部、2−ピロリドン5質量部、および界面活性剤〔エアープロダクツ(Air Products)社製のサーフィノール(登録商標)465〕0.1質量部を加えて混合し、次いで実施例1で調製した水性磁性分散体50質量部を加えてさらに30分間混合したのち5μmのメンブランフィルタを用いてろ過して磁性インクジェットインクを調製した。
【0082】
前記磁性インクジェットインクをインクジェットプリンタ〔日本ヒューレットパッカード(株)製のDeskjet(登録商標)6127〕用のインクカートリッジに充てんし、前記インクジェットプリンタに装着して普通紙上にE13B文字を印刷した。そしてこの文字の磁気量を、アトランティックツァイサー(Atlantic−Zeiser)社製のDatentransferを用いて測定したところシグナルストレングスは50〜805であって、磁気情報の磁気量を従来に比べて増加できることが判った。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水性磁性分散体であって、
(I) 式(1):
【化1】

〔式中Mは2価の金属イオンを示す〕
で表されるフェライトからなり、実質的に球形である磁性体粒子、
(II) 分散安定剤としての、式(2)
【化2】

(式中、Rは炭素数4以下のアルキル基、Rはアミノ基または水酸基を示す。)
で表されるジホスホン酸化合物と、式(3):
【化3】

(式中、mは1〜3の数を示し、nは2〜6の数を示す。)
で表されるアミン化合物との塩、および
(III) 水性分散媒
を含むことを特徴とする水性磁性分散体。
【請求項2】
前記磁性体粒子の含有割合が30質量%以上、50質量%以下である請求項1に記載の水性磁性分散体。
【請求項3】
前記分散安定剤の含有割合が、質量比で磁性体粒子の1/60倍以上、1/10倍以下である請求項1または2に記載の水性磁性分散体。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項に記載の水性磁性分散体を含むことを特徴とする磁性インクジェットインク。

【公開番号】特開2011−184262(P2011−184262A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−53265(P2010−53265)
【出願日】平成22年3月10日(2010.3.10)
【出願人】(306029349)ゼネラル株式会社 (19)
【Fターム(参考)】