説明

水性防汚組成物、防汚被膜、および該被膜で被覆された漁網

【課題】本発明は、人体や環境への影響が軽減されるとともに、貯蔵安定性にも優れ、さらに優れた防汚性を有する防汚被膜を形成可能な水性防汚組成物、さらに該組成物から形成される防汚被膜、および該被膜で被覆された漁網を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明の水性防汚組成物は、ポリエーテルシリコーン(A)を含有し、かつ実質的に有機溶剤を含有しないことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人体や環境への安全性および貯蔵安定性に優れ、さらに優れた防汚性を有する防汚被膜を形成可能な水性防汚組成物、防汚被膜、および該被膜で被覆された漁網に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、火力・原子力発電所の給排水口等の水中構造物、各種海洋土木工事の汚泥拡散防止膜、船舶、漁業資材(例:ロープ、漁網、浮き子、ブイ)などの接水部分に、海中生物が付着し生長すると、種々の被害が発生している。特に、養殖網、定置網等の漁網は、海中に長期間設置されるため、この漁網に各種水棲生物例えば、ヒドロゾア等の腔腸動物、青ノリ等の海草類、フジツボ、シロウスホヤ、セルプラ、コケムシ、軟体動物などが多量に付着する。これにより、漁網が重くなり破損しやすくなったり、漁網の取扱い性が低下し、また漁網の網目が目詰まりを起こし海水の流通を阻害し養殖魚類を死に至らしめるなどの被害が生じる恐れがある。
【0003】
このため、従来から、これらの水棲生物の付着を防止すべく、有機溶剤型の防汚組成物が用いられている。しかしながらこのような防汚組成物は、有機溶剤を含有しているため、人体や環境への影響が問題となっていた。このような問題を解決するためには、防汚組成物に含まれている有機溶剤を低減もしくは無添加とする必要がある。しかしながら、防汚組成物に含まれる塗膜形成樹脂などの樹脂は水に溶解しないため、防汚組成物を水性とするには、これらの樹脂をエマルションまたは水溶性として組成物中に分散または溶解させる必要がある。
【0004】
そのような樹脂エマルションまたは水溶性樹脂としては、(メタ)アクリル酸およびこれらのエステルからなるモノマーの1種または2種以上から重合して得られるアクリル系ポリマーのエマルション(特許文献1)、シリコーンエマルション中で、エチレン性不飽和単量体を乳化重合して得られる複合樹脂エマルション(特許文献2)、特定のN−アルキルポリアミン化合物の1種又は2種以上の塩の存在下で、(メタ)アクリル系単量体単独、またはこの単量体と共重合しうる他の単量体と組合せて水性媒体中で乳化重合して得られる樹脂エマルション(特許文献3)、金属カルボキシレート構造を分子内及び/又は分子間に有する樹脂の水性樹脂エマルション(特許文献4)、アクリル樹脂とポリイソブチレンとの混合樹脂の水性樹脂エマルション(特許文献5)、カルボキシル基を有する水溶性有機高分子(特許文献6)、樹脂分子中にカルボキシル基及び/又は金属カルボキシレート基を有し、かつ乳化重合によって得られる樹脂酸価が10〜300KOHmg/gの水性樹脂エマルション(特許文献7)、アクリル樹脂エマルション、ポリ酢酸ビニルエマルション、またはスチレン−アクリル共重合体エマルションなどの水系ポリマーエマルション(特許文献8)、トリオルガノシリル基含有不飽和単量体、及び該単量体と共重合可能なその他の重合性不飽和単量体とを、共重合させて得られる樹脂の水性樹脂エマルション(特許文献9)、塩基性化合物を含有することにより水に可溶となった2価の金属を含有する樹脂(特許文献10)などが提案されている。
【0005】
これらの樹脂エマルション(または水溶性樹脂)を用いれば、水性の防汚組成物を得ることができる。しかしながら、このような樹脂エマルションを用いて水性防汚組成物を調製すると、有機溶剤型の防汚組成物に比較して防汚性が劣るという問題があった。
【0006】
また、本願出願人は、防汚剤とポリエーテルシリコーンと塗膜形成樹脂とを有機溶剤に分散、溶解させてなる防汚組成物を提案している(例えば、特許文献11〜13)。この
防汚組成物は、防汚剤とともにポリエーテルシリコーンを含有することにより防汚性に優れ、さらに長期に亘って係る効果を発揮することができる。しかしながら、これらの特許文献に記載の防汚組成物は有機溶剤型であることから、上記と同様に水性のものが望まれている。ところが、水に防汚剤を分散させ、さらに塗膜形成樹脂だけでなくポリエーテルシリコーンをも乳化、分散させると、組成物中の分散粒子の数が非常に多くなるため、粒子間の相互作用により凝集などが発生し易くなる。したがって、このような水性防汚組成物は、時間とともに樹脂等が分離、沈降し、貯蔵安定性に問題が発生する。
【0007】
したがって、従来から貯蔵安定性にも優れ、さらに優れた防汚性を有する防汚被膜を形成可能な水性防汚組成物が望まれていた。
【特許文献1】特公平7−65008号公報
【特許文献2】特開平8−81524号公報
【特許文献3】特開平9−52803号公報
【特許文献4】特開平11−172159号公報
【特許文献5】特開平11−193203号公報
【特許文献6】特開2000−239572号公報
【特許文献7】特開2000−109729号公報
【特許文献8】特開2000−281942号公報
【特許文献9】特開2003−277680号公報
【特許文献10】特開2003−49123号公報
【特許文献11】特開平9−176576号公報
【特許文献12】特開平9−176577号公報
【特許文献13】特開平11−199414号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、人体や環境への影響が軽減されるとともに、貯蔵安定性にも優れ、さらに優れた防汚性を有する防汚被膜を形成可能な水性防汚組成物、さらに該組成物から形成される防汚被膜、および該被膜で被覆された漁網を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の水性防汚組成物は、ポリエーテルシリコーン(A)を含有し、かつ実質的に有機溶剤を含有しないことを特徴とする。
ポリエーテルシリコーン(A)の親油性親水性バランス(HLB)が1〜10であることが好ましい。
【0010】
水性防汚組成物を100重量部とした場合に、ポリエーテルシリコーン(A)を0.1〜10重量部、水を20〜85重量部の量で含有することが好ましい。
さらに、防汚剤(B)としてビスジメチルジチオカルバモイルジンクエチレンビスジチオカーバメート(b1)を含有することが好ましい。
【0011】
水性防汚組成物を100重量部とした場合に、ポリエーテルシリコーン(A)を0.1〜10重量部、防汚剤としてビスジメチルジチオカルバモイルジンクエチレンビスジチオカーバメート(b1)を1〜30重量部、水を20〜85重量部の量で含有することが好ましい。
【0012】
さらに、防汚剤(B)として銅および/または銅化合物(銅ピリチオンを除く)(b2)を含有することが好ましい。
水性防汚組成物を100重量部とした場合に、ポリエーテルシリコーン(A)を0.1〜10重量部、防汚剤として銅および/または銅化合物(銅ピリチオンを除く)(b2)
を1〜50重量部、水を20〜85重量部の量で含有することが好ましい。
【0013】
さらに、防汚剤(B)として、n−C817−S−S−CH2Cl(クロロメチル−n−
オクチルジスルフィッド)、テトラエチルチウラムジスルフィッド、銅ピリチオン、ジン
クピリチオン、4,5−ジクロロ−2-n−オクチル−4イソチアゾリン−3オン、トリフェニル(オクタデシルアミン)ボロン、トリフェニル[3−(2−エチルヘキシルオキシ)プロピルア
ミン]ボロン、ジフェニルメチルイソプロピルアミンボロン、2,3ジクロロ−N−(2'、6'−ジエチルフェニル)マレイミド、2,3ジクロロ−N−(2'−エチル、6'−メチルフェニル)マ
レイミド、N,N'−ジメチル−N'−フェニル−(N−フルオロジクロロメチルチオ)スルフ
ァミド、N,N'−ジメチル−N'−トリル−(N−フルオロジクロロメチルチオ)スルファミ
ドからなる群から選ばれた少なくとも1種の防汚性化合物(b3)を含有することが好ま
しい。
【0014】
さらに、塗膜形成樹脂(C)(ポリエーテルシリコーン(A)を除く)、またさらに、ポリブテン、ポリスルフイッド、流動パラフィン、ワックス、ワセリンからなる群から選ばれた少なくとも1種の可塑性樹脂(D)を含有することが好ましい。
【0015】
さらに、ベントナイトクレー系粘性調整剤、ヘクトライトクレー系粘性調整剤、ポリサッカライド系粘性調整剤、アルカリ増粘型粘性調整剤、ポリウレタン会合型粘性調整剤、ポリエーテル会合型粘性調整剤、ポリオレフィン系沈降防止剤、セルロース系粘性調整剤からなる群から選ばれた少なくとも1種の粘性調整剤(E)を含有することが貯蔵安定性の点で望ましい。
【0016】
本発明の防汚被膜は、前記水性防汚組成物から形成されたことを特徴とする。
本発明の漁網は、前記防汚被膜で被覆されたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明の水性防汚組成物によれば、人体や環境への影響が軽減されるとともに、貯蔵安定性にも優れ、さらに防汚性に優れる防汚被膜を形成することができる。さらに、本発明の水性防汚組成物は漁網用防汚組成物として好ましく用いられ、該組成物からなる防汚被膜で被覆された漁網は、防汚効果が長期間に亘って優れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明に係る水性防汚組成物について具体的に説明する。
[水性防汚組成物]
本発明の水性防汚組成物は、ポリエーテルシリコーン(A)を含有し、かつ実質的に有機溶剤を含有しない水性防汚組成物である。「実質的に有機溶剤を含有しない」とは、水性防汚組成物中に極少量の有機溶剤を含む態様を排除しない趣旨であり、本発明においては人体や環境への安全性の面から有機溶剤を含有しないことが特に望ましい。また、この有機溶剤とは、キシレンやトルエン等の塗料溶剤として用いられる沸点200℃以下であり、酸素原子を分子中に有さない有機溶剤を意味する。
【0019】
この本発明の水性防汚組成物は、具体的には、水中に、ポリエーテルシリコーン(A)、防汚剤(B)、および塗膜形成樹脂(C)が分散しており、好ましくは可塑性樹脂(D)がさらに分散しており、また、好ましくは粘性調整剤(E)も分散している。
【0020】
以下、これら各成分について説明する。
ポリエーテルシリコーン(A)
ポリエーテルシリコーン(A)は、下記式[I]
【0021】
【化1】

【0022】
(式[I]中、X1、X2、X3はそれぞれ独立にポリエーテル基:-R-A-(R3O)n-R4[Rは炭素数1〜5のアルキレン基、Aは単結合または酸素原子、R3は炭素数1〜5の
アルキレン基、R4は炭素数1〜5のアルキル基または水素を示し、nは1〜30の整数
(繰り返し単位数)を示す。]、または炭素数1〜5のアルキル基を示し、これらX1
2、X3のうちの少なくとも1個は-R-A-(R3O)n-R4[R、A、R3、R4、n:同
上]であり、R2は炭素数1〜3のアルキル基を示し、r、mはそれぞれ繰返し単位総数
を示し、繰返し単位[−Si(R22O−]と[−Si(R2)(X1)O−]との結合順序は任意である。)で表される。
【0023】
このポリエーテルシリコーン(A)の親水性親油性バランス(HLB)は、1〜10、好ましくは2〜7であることが望ましい。このHLBは、エチレンオキシドの量(重量%)を5で割った値(エチレンオキシド量/5)で示され、このHLBが1〜10の範囲にあると防汚性が良好であり、1未満では、該防汚剤で網染めした漁網からの防汚剤の溶出量が少ないため防汚効果が低く、また10を超えると海中への溶出量が多過ぎて長期防汚性に劣る傾向がある。
【0024】
このようなポリエーテルシリコーンは、ポリエーテル変性シリコーンとも言われ、
(a):X1、X2、X3のうちのX1が「-R-A-(C24O)n-CH3(R,A,n:同上)」等のポリエーテル基であり、X2、X3がメチル基等のアルキル基である側鎖型ポリエーテルシリコーン、あるいは
(b):X1、X2、X3のうちのX1がメチル基等のアルキル基であり、X2、X3が「-R-A-(C24O)n-CH3(R,A,n:同上)」等のポリエーテル基である両末端型ポリエーテルシリコーン、さらには、
(c):側鎖と片末端、(d):側鎖と両末端、あるいは(e):片末端のみに上記ポリエーテル基が結合した複合型ポリエーテルシリコーン等が挙げられる。これらのうちでは、側鎖型ポリエーテルシリコーン(a)または両末端型ポリエーテルシリコーン(b)が防汚性等の点から好ましい。
【0025】
上記ポリエーテル基:「-R-A-(R3O)n-R4」中のRは、炭素数1〜5、好ましく
は炭素数2〜5のアルキレン基を示すが、このアルキレン基としては、直鎖状または分岐状であってもよく、具体的には、メチレン基、エチレン基、n-プロピレン基、i-プロピレン基、n-ブチレン基等が挙げられ、中でも直鎖状のものが好ましく、さらにはエチレ
ン基、n-プロピレン基が好ましく、特にエチレン基が好ましい。
【0026】
3は炭素数1〜5の同上のアルキレン基を示し、好ましくはエチレン基が挙げられる
。R4は炭素数1〜5のアルキル基または水素を示し、好ましくはアルキル基であり、こ
のようなアルキル基としては、上記したようなものが例示でき、防汚性の点や、ポリエーテルシリコーン(A)と塗膜形成樹脂(C)との相溶性の点などを考慮するとメチル基が
特に好ましい。
【0027】
このようなポリエーテル基としては、例えば、-C36-O-(C24O)n-C25、-C24-O-(C36O)n-CH3、-C36-O-(C24O)n-CH3、-C24-O-(C36O)n-CH3、-C36-(C24O)n-CH3、-C24-(C36O)n-CH3、-C36-
(C24O)n-H、-C24-(C36O)n-H、-(C36O)n-CH3、-CH2-O-(C24O)n-CH3、-CH2-O-(C24O)n-H、-(C24O)n-CH3、-(C24O)n-H、-CH2-O-(C46O)n-CH3、-CH2-O-(C46O)n-H、-(C46O)n-H 等が挙げられ、防汚性の点や、ポリエーテルシリコーン(A)と塗膜形成樹脂(C)
との相溶性の点などを考慮すると、ポリエーテル基としては、末端がメトキシ基のものが好ましく、より具体的には-C36-O-(C24O)n-CH3、-C24-O-(C36O)n-CH3が特に好ましい。
【0028】
上記R2は、炭素数1〜3のアルキル基を示し、メチル基、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル基が挙げられ、複数のR2は互いに同一であっても異なっていてもよいが、何れもメチル基であることが好ましい。また、繰返し単位[−Si(R22O−]と繰返し単位[−Si(R2)(X1)O−]との結合順序は任意であり、換言すれば、側鎖のX1
がとくに上記ポリエーテル基:「-R-A-(R3O)n-R4」である場合、このX1は、ポリエーテルシリコーン(A)分子中の側鎖基群のうちの任意の位置に存在していてもよい。繰返し単位数rは1〜7000の数であり、またmは1〜50の数である。また、このようなポリエーテルシリコーンの分子量は、通常、1,000〜50,000、好ましくは3,000〜10,000程度である。ポリエーテルシリコーン(A)は、1種または2種以上組み合わせて用いることができる。
【0029】
このようなポリエーテルシリコーン(A)としては、シリコーンオイルKF6016(信越化学(株)製、HLB値=4.5)、ST−114PA(東レ・ダウコーニング(株)製、HLB値=5.6)、ポリエーテルシリコーンX22−6515(信越化学(株)製、HLB値=5.7)などを用いることができる。
【0030】
ポリエーテルシリコーン(A)は、水性防汚組成物を100重量部とした場合に、0.1〜10重量部、好ましくは2〜6重量部となる量で含まれていることが望ましい。含有量がこの範囲にあると塗膜の防汚性が良好であり、0.1重量部未満では、防汚効果が充分発揮されず、また10重量部を超えると水や塗膜形成樹脂(C)との相溶性が低下し、分離を生じる傾向がある。
【0031】
本発明の水性防汚組成物中において、ポリエーテルシリコーン(A)は、平均粒子径0.01〜2μm、好ましくは0.05〜1μmの粒子として分散していることが望ましい。平均粒子径がこのような範囲にあると、分散性に優れるため水性防汚組成物は貯蔵安定性に優れるとともに、防汚効果に特に優れる防汚塗膜を形成することができる。
【0032】
ポリエーテルシリコーン(A)は、水性防汚組成物を調製する際に、以下のようにして用いられる。具体的には、
(1)水に乳化剤や分散剤等を溶解しておき、ここにポリエーテルシリコーン(A)を添加する方法、
(2)水と相溶する少量の有機溶剤にポリエーテルシリコーン(A)を溶解させ、これを乳化剤や分散剤等が溶解された水に添加する方法、
(3)予めポリエーテルシリコーン(A)を乳化剤で乳化してエマルションとし、これを水に添加する方法、
などが挙げられる。本発明においては、水性防汚組成物中においてポリエーテルシリコーン(A)が分散性に優れ、かつ粒子径のコントロールが容易である上記(3)のエマルシ
ョンとする方法が好ましい。ポリエーテルシリコーン(A)のエマルションは、組成物中でのポリエーテルシリコーン(A)の分散性や乳化粒子径のコントロールの観点から、具体的には以下の方法により調製することが好ましい。
【0033】
まず、攪拌機を備えた容器の中に、ポリエーテルシリコーン(A)と、乳化剤とを仕込む。乳化剤の添加量は、ポリエーテルシリコーン(A)100重量部に対して、5〜30重量部、好ましくは10〜15重量部となる量が望ましい。このような量であると、ポリエーテルシリコーン(A)の乳化粒子の安定性が増すため、防汚組成物の貯蔵安定性が向上する。なお、後述する各成分の添加量は、ポリエーテルシリコーン(A)100重量部に対する添加量である。
【0034】
乳化剤としては、ノニオン性界面活性剤および/またはアニオン性界面活性剤を用いることができる。ノニオン性界面活性剤としては例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンオキシプロピレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオキシプロピレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンジスチリルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオキシプロピレンジスチリルフェニルエーテル、ポリオキシエチレントリスチリルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオキシプロピレントリスチリルフェニルエーテルなどを挙げることができ、1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。ノニオン性界面活性剤のHLB値は、7〜16であることが好ましく、10〜14であることがより好ましい。
【0035】
アニオン性界面活性剤としては例えば、前記の非イオン界面活性剤の硫酸エステル塩、リン酸エステル塩や、ポリオキシエチレンアルキルエーテルカルボン酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、ナフタレンスルホン酸塩ホルマリン重縮合物、メラミンスルホン酸塩ホルマリン重縮合物、ポリオキシエチレンアルキルスルホコハク酸二塩などを挙げることができ、1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0036】
このような乳化剤のうちでも、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテルが、上記効果に特に優れるため好ましい。
前記したように、容器内にポリエーテルシリコーン(A)と乳化剤とを仕込んだ後、攪拌機で強攪拌しながら、蒸留水10〜30重量部を、10〜20分程度かけて添加する。攪拌条件は、容器内の混合液の容量や粘度、攪拌機の攪拌方式やその種類によって異なるため、特に限定されないが、上記粒子径範囲の乳化粒子が得られるような強攪拌条件に適宜設定される。
【0037】
蒸留水を添加した後、攪拌を継続しながら、さらに蒸留水80〜120重量部を、10〜40分程度かけて添加する。このような条件で、水を添加することにより、容器内の混合液はW/OからO/Wへ転相乳化し、上記粒子径の乳化粒子が好適に得られる。
【0038】
このようなポリエーテルシリコーン(A)のエマルションによれば、組成物中の乳化粒子の数が多くなっても該粒子間の相互作用による凝集などが起こらず、貯蔵安定性に優れた水性防汚組成物を得ることができる。
防汚剤(B)
本発明に用いられる防汚剤(B)としては、ビスジメチルジチオカルバモイルジンクエチレンビスジチオカーバメート(b1)、銅および/または銅化合物(b2)、前記(b1)および前記(b2)以外の後述する防汚性化合物(b3)、が挙げられ、1種または2種以上組み合わせて用いることができる。
(ビスジメチルジチオカルバモイルジンクエチレンビスジチオカーバメート(b1))
本発明で用いられるビスジメチルジチオカルバモイルジンクエチレンビスジチオカーバ
メート(b1)は、下記式[II]で表わされる化合物であり、東北・北海道の定置網に付着するヒドロゾアに特に効果を発揮する。
【0039】
【化2】

【0040】
このビスジメチルジチオカルバモイルジンクエチレンビスジチオカーバメート(b1)は、水不溶性の防汚剤であり、水中分散性の観点から、平均粒子径が5μm以下であることが好ましい。
【0041】
本発明においては、ビスジメチルジチオカルバモイルジンクエチレンビスジチオカーバメート(b1)は、防汚効果の観点から、水性防汚組成物を100重量部とした場合に、1〜30重量部、好ましくは10〜25重量部となる量で含まれていることが望ましい。(銅および/または銅化合物(b2))
銅および/または銅化合物(b2)のうちで、「銅化合物」は、銅ピリチオンを除くものであって、特に限定されるものではないが、例えば、亜酸化銅(Cu2O)、チオシア
ン化銅(チオシアン酸第一銅、ロダン銅)、塩基性硫酸銅、塩基性酢酸銅、塩基性炭酸銅、水酸化第二銅などの無機銅化合物が挙げられ、好ましくは亜酸化銅が用いられる。亜酸化銅は、西日本の養殖網に付着するフジツボ、セルプラ、ホヤ、藻類に特に効果を発揮する。
【0042】
このような銅化合物は、銅に代えて、あるいは銅と共に1種又は2種以上組み合わせて用いることができる。銅および/または銅化合物(銅ピリチオンを除く)(b2)は、水中分散性の観点から、平均粒子径が8μm以下であることが好ましい。
【0043】
本発明においては、銅および/または銅化合物(b2)は、防汚効果の観点から、水性防汚組成物を100重量部とした場合に、1〜50重量部、好ましくは15〜40重量部の量で含まれていることが望ましい。
(その他の防汚性化合物(b3))
その他の防汚性化合物(b3)としては、クロロメチル−n−オクチルジスルフィッド(式:n−C817−S−S−CH2Cl)、テトラメチルチウラムスルフィド、テトラエチルチウラムジスルフィド、金属ピリチオン塩系化合物、4,5−ジクロロ−2−n−オクチル−4−イソチアゾリン−3−オン、トリフェニルボロン・アミン錯体、ジフェニルボロン・アミン錯体、マレイミド化合物、カーバメイト系化合物、N,N−ジメチルジクロロフェニル尿素、2,4,6−トリクロロフェニルマレイミド、2−メチルチオ−4−tert−ブチルアミノ−6−シクロプロピルSトリアジン、2,4,5,6−テトラクロロイソフタロニトリル、N,N'−ジメチル−N'−フェニル−(N−フルオロジクロロメチ
ルチオ)スルファミド、N,N'−ジメチル−N'−トリル−(N−フルオロジクロロメチルチ
オ)スルファミド等の有機防汚剤が挙げられる。防汚性化合物(b3)は、水中分散性の観点から、平均粒子径が5μm以下であることが好ましい。
【0044】
金属ピリチオン塩系化合物としては、具体的には、下記式[III]
【0045】
【化3】

【0046】
[式中R1 〜R4は、それぞれ独立に水素、アルキル基、アルコキシ基、ハロゲン化アル
キル基を示し、Mは、Cu、Zn、Na、Mg、Ca、Ba、Pb、Fe、Al等の金属を示し、nは価数を示す。]で示される金属−ピリチオン類が挙げられる。これらのうちでは、銅ピリチオン、ジンクピリチオンが好ましい。
【0047】
トリフェニルボロン・アミン錯体はトリフェリルボロンとアミン類とのあいだで形成される錯体である。アミン類としては、脂肪族アミン、脂環式アミン、芳香族アミン、ヘテロ環式アミン等の第一アミン、第二アミンまたは第三アミンのいずれでもよい。具体的には、プロピルアミン、ブチルアミン、ヘキシルアミン、オクチルアミン、デシルアミン、ドデシルアミン、トリデシルアミン、テトラデシルアミン、ヘキサデシルアミン、オクタデシルアミン、3−(2−エチルヘキシルオキシ)プロピルアミン、アニリン、トルイジン等の第一アミン;ジブチルアミン、ジヘキシルアミン、ジオクチルアミン、ジデシルアミン、ジドデシルアミン、ジトリデシルアミン、ジテトラデシルアミン、ジヘキサデシルアミン、ジオクタデシルアミン、ジフェニルアミン等の第二アミン;トリプロピルアミン、トリヘキシルアミン、トリオクチルアミン、トリデシルアミン、トリドデシルアミン、トリトリデシルアミン、トリテトラデシルアミン、トリヘキサデシルアミン、トリオクタデシルアミン、トリフェニルアミン等の第三アミン;ピリジン、2−ピコリン、3−ピコリン、4−ピコリン、2−クロロピリジン、3−クロロピリジン、4−クロロピリジンなどのピリジンまたはその核置換体等のピリジン類などを例示することができる。
【0048】
これらのトリフェニルボロン・アミン錯体のうちでは、トリフェニル(オクタデシルア
ミン)ボロン、トリフェニル[3−(2−エチルヘキシルオキシ)プロピルアミン]ボロンが好
ましく用いられる。
【0049】
ジフェニルボロン・アミン錯体は、ジフェニルアルキルボロンとアミン類との間で形成される錯体である。アルキル基は、炭素数1〜4のアルキル基であり、アミン類としては、トリフェニルボロン・アミン錯体で例示した第一アミン、第二アミン、第三アミン、ヘテロ環アミン等を例示できる。これらのジフェニルボロン・アミン錯体のうちでは、ジフェニルメチルイソプロピルアミンボロンが好ましく用いられる。
【0050】
マレイミド化合物としては、例えば、N−ベンジルマレイミド、N−(2、6−ジエチルフェニル)マレイミド、2,3−ジクロロ−N−エチルマレイミド、2,3−ジクロロ−N−ブチルマレイミド、2,3−ジクロロ−N−シクロヘキシルマレイミド、2,3−ジクロロ−N−(2'−エチル−6'−メチル)マレイミド、2,3−ジクロロ−N−(2'、6'−ジエチルフェニル)マレイミド、2,3−ジクロロ−N−(2'−エチル−6'−メチルフェニル)マレイミド、2,3−ジクロロ−N−ベンジルマレイミド、2,3−ジクロロ−N−(2−クロロベンジル)マレイミド等が挙げられる。これらのマレイミド化合物のうちでは、2,3−ジクロロ−N−(2'、6'−ジエチルフェニル)マレイミド、
2,3−ジクロロ−N−(2'−エチル−6'−メチルフェニル)マレイミドが好ましく用いられる。
【0051】
カーバメート系化合物としては、例えば、ビスジメチルジチオカルバモイルジンクエチレンビスジチオカーバメイト、ジンクジメチルジチオカーバメート、マンガン-2-エチレンビスジチオカーバメート等が挙げられ、ビスジメチルジチオカルバモイルジンクエチレンビスジチオカーバメイトが好ましく用いられる。
【0052】
このような「その他の防汚性化合物(b3)」のうちでも、n−C817−S−S−C
2Cl(クロロメチル−n−オクチルジスルフィッド)、テトラエチルチウラムジスルフ
ィッド、銅ピリチオン、ジンクピリチオン、4,5−ジクロロ−2-n−オクチル−4イソチア
ゾリン−3オン、トリフェニル(オクタデシルアミン)ボロン、トリフェニル[3−(2−エチ
ルヘキシルオキシ)プロピルアミン]ボロン、ジフェニルメチルイソプロピルアミンボロン、2,3−ジクロロ−N−(2'、6'−ジエチルフェニル)マレイミド、2,3ジクロロ−N−(2'−
エチル、6'−メチルフェニル)マレイミド、N,N'−ジメチル−N'−フェニル−(N−フル
オロジクロロメチルチオ)スルファミド、N,N'−ジメチル−N'−トリル−(N−フルオロ
ジクロロメチルチオ)スルファミドからなる群から選ばれた少なくとも1種の防汚性化合
物を用いることが好ましい。
【0053】
「その他の防汚性化合物(b3)」は、防汚効果の観点から、水性防汚組成物を100重量部とした場合に、0.1〜30重量部、好ましくは1〜10重量部となる量で含まれていることが望ましい。
塗膜形成樹脂(C)
塗膜形成樹脂(C)としては、例えば、アクリル樹脂、アクリル・メラミン樹脂、酢酸ビニル樹脂、エポキシエステル樹脂、ウレタン樹脂、アルキッド樹脂、アルキッド・メラミン樹脂、マレイン酸変性された各種樹脂などが挙げられ、1種または2種以上組み合わせて用いることができる。このような塗膜形成樹脂(C)は、エマルション、ディスパージョン、または水溶液として用いられる。なお、塗膜形成樹脂(C)には、上記ポリエーテルシリコーン(A)は含まれない。
【0054】
この塗膜形成樹脂(C)としては、ガラス転移温度(Tg)が、−50℃〜+20℃、好ましくは−40℃〜+10℃のアクリル樹脂を用いることが望ましい。このようなアクリル樹脂は他の各成分との相溶性が良好であり、さらに柔軟性および耐水性に優れた防汚塗膜を得ることができるため好ましい。また、アクリル樹脂をエマルションまたはディスパージョンとして用いることにより、分散性が良好となり、各成分との相溶性がさらに向上するため、上記効果に特に優れる。
【0055】
本発明においては、塗膜形成樹脂(C)は、水性防汚組成物を100重量部とした場合に、5〜40重量部、好ましくは10〜30重量部となる量で含まれていることが望ましい。このような量であると、防汚性や網染め性に優れた水性防汚組成物を得ることができる。
可塑性樹脂(D)
本発明の水性防汚組成物において、好ましく用いられる可塑性樹脂(D)としては、ポリブテン、ポリスルフイッド、流動パラフィン、ワックス、ワセリンが挙げられ、1種または2種以上組み合わせて用いることができる。可塑性樹脂(D)を添加することにより、防汚塗膜の防汚性を向上させるとともに、さらに防汚剤(B)の溶出を調整し長期に亘る防汚効果を発揮することができる。
【0056】
ポリブテンとしては、防汚性の面から数平均分子量が280〜1000のポリブテンが好ましい。このようなポリブテンは、たとえば日本石油株式会社よりLV−5、LV−1
0、LV−25、LV−50、LV−100等の商品名で市販されている。このようなポリオレフィン類は、1種または2種以上組み合わせて用いることができる。
【0057】
ポリスルフイッドは、
式;R1(S)n2
で表わされるジアルキルポリスルフィッドである。式中、R1およびR2は炭素数1〜20個のアルキル基を表し、R1およびR2は同一でも異なっていてもよい。nは2〜10の整数、防汚性の面から4または5の整数が好ましい。
【0058】
このジアルキルポリスルフィッドとしては、ジエチルペンタスルフィッド、ジ第3級ブチルジスルフィッド、ジ第3級ブチルテトラスルフィッド、ジ第3級アミルテトラスルフィッド、ジ第3級オクチルペンタスルフィッド、ジ第3級ノニルペンタスルフィッド、ジ第3級ドデシルペンタスルフィッド、ジノナデシルテトラスルフィッド等が挙げられ、1種または2種以上組み合わせて用いることができる。
【0059】
流動パラフィンは、原油を蒸留してガソリン分、灯油分、軽油分等を除き、スピンドル油からエンジン油までの留分を採り、精製して得られ、主としてアルキルナフテン類からなる液状炭化水素油であり、好ましくは、JISK9003の規定に適合するものである。
【0060】
ワックスとしては、例えば石油系ワックス、ポリエチレン系ワックス、ポリプロピレン系ワックスを挙げることができる。この石油系ワックスとしては、例えば、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、ペトロラタムワックスを例示できるが、特にパラフィンワックスが好ましい。また、ワセリンとしては、白色ワセリン、黄色ワセリン等が挙げられる。
【0061】
このような可塑性樹脂(D)のうちでは、ポリブテン、ポリスルフイッドが防汚効果向上の面から好ましい。
本発明において、可塑性樹脂(D)は、水性防汚組成物を100重量部とした場合に1〜15重量部、好ましくは3〜10重量部となる量で含まれていることが望ましい。このような範囲であると、得られる塗膜の防汚効果が向上するとともに、塗膜強度にも優れるため好ましい。
【0062】
本発明の水中防汚剤組成物には、上記のような成分を含有してなるが、その他の成分として、界面活性剤、粘性調整剤、安定剤、顔料、消泡剤などを、適宜選択して用いることができる。
【0063】
粘性調整剤(E)としては、ベントナイトクレー系粘性調整剤、ヘクトライトクレー系粘性調整剤等の無機系粘性調整剤;
ポリサッカライド系粘性調整剤、ポリウレタン会合型粘性調整剤、ポリエーテル会合型粘性調整剤、ポリオレフィン系沈降防止剤、セルロース系粘性調整剤等の有機系粘性調整剤;
が挙げられる。
【0064】
粘性調整剤(E)としては、その他に、アルカリ増粘型粘性調整剤が挙げられる。
本発明では、好ましくはベントナイトクレー系粘性調整剤、ヘクトライトクレー系粘性調整剤のうちから選択される無機系粘性調整剤が貯蔵安定性の点で望ましい。
【0065】
ベントナイトクレー系粘性調整剤として、具体的には、例えば、「Bentolite H」Southern Clay Products,Inc. 製等が挙げられ、
ヘクトライトクレー系粘性調整剤として、具体的には、例えば、「Bentone HD」エレメンティスジャパン(株)製等が挙げられ、
ポリサッカライド系粘性調整剤として、具体的には、例えば、「Benaqua 1000」エレメンティスジャパン(株)製等が挙げられ、
アルカリ増粘型粘性調整剤として、具体的には、例えば、「Rheolate 450」エレメンティスジャパン(株)製等が挙げられ、
ポリウレタン会合型粘性調整剤として、具体的には、、例えば、「Rheolate 288」エレメンティスジャパン(株)製等が挙げられ、
ポリエーテル会合型粘性調整剤として、具体的には、例えば、「Rheolate 350」エレメンティスジャパン(株)製等が挙げられ、
ポリオレフィン系沈降防止剤は、本発明においてはポリオレフィン系の粘性調整剤として用いられるが、このポリオレフィン系沈降防止剤(粘性調整剤)として具体的には、例えば、「Rheolate 2000」エレメンティスジャパン(株)製等が挙げられ、
セルロース系粘性調整剤として、具体的には、例えば、「フジケミ HEC SW-25F」(ヒ
ドロキシエチルセルロース、住友精化(株)製)、が挙げられる。
【0066】
これら粘性調整剤(E)の配合量は、その種類、防汚剤組成等によっても異なり、一概に決定されないが、これら粘性調整剤(E)を配合する場合には、例えば、水性防汚組成物を100重量部とした場合に0.1〜10重量部、好ましくは0.2〜5重量部となる量で含まれていることが望ましい。このような範囲であると、得られる塗料の粘度が適正となり、貯蔵安定性、特に沈降防止性が非常に良好となり、塗装性が向上するとともに、得られる塗膜は防汚性にも優れるため望ましい。
【0067】
本発明の水性防汚組成物は、上記各成分を水中に分散させることができれば特に限定されず、水に界面活性剤(乳化剤、分散剤)、粘性調整剤を添加混合し、ここに防汚剤(B)を加え、分散させた後、塗膜形成樹脂(C)、ポリエーテルシリコーン(A)、必要に応じて可塑性樹脂(D)やその他の成分((E)など)を順次均一に混合しながら添加し、調製することができる。本発明においては、上述したように、貯蔵安定性および塗膜の防汚性の観点から、ポリエーテルシリコーン(A)を予め乳化剤で乳化されたエマルションを用いることが好ましい。
【0068】
このようにして得られる水性防汚組成物の最も好ましい組成は、該組成物100重量部中に、
ポリエーテルシリコーン(A)を0.1〜10重量部、好ましくは2〜6重量部の量で、
防汚剤(B)として「ビスジメチルジチオカルバモイルジンクエチレンビスジチオカーバメート(b1)」を1〜30重量部、好ましくは10〜25重量部の量で、もしくは「銅および/または銅化合物(銅ピリチオンを除く)(b2)」を1〜50重量部、好ましくは15〜40重量部の量で、
塗膜形成樹脂(C)を5〜40重量部、好ましくは10〜30重量部の量で、
さらに、水を20〜85重量部、好ましくは30〜60重量部の量で含有することが望ましい。
【0069】
さらに、防汚剤として、防汚性化合物(b3)を上記防汚剤(b1)または(b2)と共に、0.1〜30重量部、好ましくは1〜10重量部の量で含有することが望ましく、さらに可塑性樹脂(D)を1〜15重量部、好ましくは3〜10重量部の量で含有することも望ましい。
【0070】
また、粘性調整剤(E)を0.1〜10重量部、好ましくは0.2〜5重量部の量で含有することも望ましい。
このような組成である水性防汚組成物は、有機溶剤を実質的に含有しないため人体や環境への影響が軽減されるとともに、分散粒子や乳化粒子が多く存在していても粒子の凝集などが起こらないため貯蔵安定性にも優れ、さらに長期に亘って防汚効果に優れる防汚被膜を形成することができる。
【0071】
本発明の水性防汚組成物は、pHが5〜9、好ましくは7〜8.5であることが望ましい。このような範囲にあると、乳化剤や分散剤が劣化(分解)することがないため、樹脂の分離や沈殿が発生せず貯蔵安定性に特に優れ、塗膜形成樹脂(C)や可塑性樹脂(D)も劣化することがなく、貯蔵後においても防汚効果が低下することがない。
【0072】
さらに、本発明の水性防汚組成物は、該組成物中の固形分(塗膜形成性成分)を100重量部とした場合に、
ポリエーテルシリコーン(A)を0.1〜10重量部、好ましくは2〜6重量部の量で、
防汚剤(B)として「ビスジメチルジチオカルバモイルジンクエチレンビスジチオカーバメート(b1)」を1〜30重量部、好ましくは10〜25重量部の量で、もしくは「銅および/または銅化合物(銅ピリチオンを除く)(b2)」を1〜50重量部、好ましくは15〜40重量部の量で、
塗膜形成樹脂(C)を5〜40重量部、好ましくは10〜30重量部の量で、含有することが望ましい。さらに、防汚剤として、防汚性化合物(b3)を上記防汚剤(b1)または(b2)と共に、0.1〜30重量部、好ましくは1〜10重量部の量で含有することが望ましく、さらに可塑性樹脂(D)を1〜15重量部、好ましくは3〜10重量部の量で含有することも望ましい。
【0073】
また、粘性調整剤(E)を0.1〜10重量部、好ましくは0.2〜5重量部の量で含有することも望ましい。
水性防汚組成物がこのような組成であると、該組成物から形成される防汚被膜は基材に強固に付着するとともに塗膜強度にも優れるため長期に亘って防汚効果に優れる。
【0074】
[用途]
本発明の水性防汚組成物は、漁網の網染めに好ましく使用される。漁網の網染めを行うには、常法に従えばよく、例えば、水性防汚組成物の中に漁網を浸漬して漁網の繊維内あるいは繊維間に水性防汚組成物を浸透含浸させた後、漁網を引き上げ乾燥させればよい。なお、敷延あるいは広げて吊るした漁網の表裏面に水性防汚組成物を静電塗装の方法で、あるいはエアガン、エアレス塗装等の方法で散布してもよい。本発明の水性防汚組成物は、実質的に有機溶剤を含有しておらず、人体や環境への安全性が高い。
【0075】
このように網染めし乾燥した後の漁網の重量増加は、漁網1kg当たり、通常80〜200g程度である。
上記のような水性防汚組成物は、上記のように主に漁網の防汚処理に好適に使用されるが、例えば、火力・原子力発電所の給排水口等の水中構造物、湾岸道路、海底トンネル、港湾設備、運河・水路等のような各種海洋土木工事の汚泥拡散防止膜、船舶、漁業資材(例:ロープ、浮き子、ブイ)などの各種成形体の表面に常法に従って1回〜複数回塗布してもよく、このようにすれば防汚性に優れ、防汚剤成分が長期間に亘って徐放可能であり、厚塗りしても適度の可撓性を有し耐クラック性に優れた防汚塗膜被覆船舶または水中構造物などが得られる。
【0076】
このような本発明に係る水性防汚組成物を、漁網をはじめ、各種成形体の表面に塗布硬化してなる防汚塗膜は、アオサ、フジツボ、アオノリ、セルプラ、カキ、フサコケムシ等の水棲生物の付着を長期間継続的に防止できるなど防汚性に優れている。
【0077】
このような水性防汚組成物は、漁網の材質が、ポリエチレン、ナイロン、麻、金属、ポリエステルなどである場合に良好に含浸付着する。また、該組成物は、既存の防汚処理漁網表面に含浸付着させてもよい。
【0078】
このように水性防汚組成物を漁網等に塗布すれば、水棲生物の付着を阻止でき漁網の網目の閉塞を防止でき、しかも環境汚染の恐れが少ない。なお、この本発明に係る水性防汚組成物は、直接漁網に含浸塗布してもよく、また予めプライマーなどの下地材が塗布された漁網等の表面に塗布してもよい。さらには、既に従来の漁網用防汚剤による防汚処理が行われ、あるいは本発明の防汚剤処理が行われている漁網の表面に、補修用として本発明の水性防汚組成物による塗布処理を施してもよい。
【0079】
上記のようにして得られる本発明に係る防汚処理漁網は、環境汚染の虞が少なく広汎な漁網付着生物に対して長期防汚性に優れている。
[実施例]
以下、実施例に基づいて本発明の好ましい態様をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。以下、「部」は「重量部」を示す。
【0080】
実施例において使用した材料を以下に示す。
<使用材料>
(ポリエーテルシリコーン(A))
・ 「シリコーンオイルKF6016」信越化学(株)製、HLB値=4.5。
・「ST−114PA」東レ・ダウコーニング(株)製、HLB値=5.6、50%ブチ
ルセロソルブ。
【0081】
「PE−1」:下記の製造方法にて調製されたポリエーテルシリコーンのエマルション。
(防汚剤(B))、
・「TOC3204」ローム&ハース社製、ビスジメチルジチオカルバモイルジンクエチ
レンビスジチオカーバメート。
・「亜酸化銅NC301」NCテック(株)製。
(可塑性樹脂(D))
・・「ポリブテンLV50」新日本石油(株)製、平均分子量430。
(塗膜形成樹脂(C))
・「ニューコートTS100」新中村化学工業(株)製、アクリルエマルション、樹脂含
有量50重量%、ガラス転移温度−35℃。
・「MX3363」三菱レイヨン(株)製、アクリルエマルション、樹脂含有量45重量
%、ガラス転移温度−20℃。
・「WSR−420」大竹明新化学(株)製、アクリルエマルション、樹脂含有量50重
量%、ガラス転移温度−25℃。
(分散剤、粘性調整剤)
・「ポイズ530」花王(株)製、分散剤(特殊ポリカルボン酸型高分子界面活性剤)。

【0082】

・「デモールN」花王(株)製、分散剤(β‐ナフタレンスルフォン酸ホルマリン縮合物
のナトリウム塩)。
・「アデカノールUH−752」旭電化工業(株)製、ポリウレタン会合型粘性調整剤、
ポリエーテルウレタン。
・「タモール850」分散剤、ローム&ハースジャパン(株)製、ポリカルボン酸ナトリ
ウム塩。
・「HEC」粘性調整剤(ヒドロキシエチルセルロース)、住友精化(株)製。
・「Disperbyk−190」分散剤、ビックケミー・ジャパン(株)製、、顔料に 親和性のあるブロック共重合物。
・「エマルゲンA−60」乳化分散剤、花王(株)製、ポリオキシエチレンジスチレン化
フェニルエーテル。
・「Bentone HD」ヘクトライトクレー系粘性調整剤、エレメンティスジャパン
(株)製、ヘクトライトクレイ。
(添加剤)
「BYK−023」および「ADDITOL4973」:消泡剤。
<ポリエーテルシリコーンの乳化物の調製>
高速攪拌機(製品名:DISPERMAT F1、UMA GETZMANN GMBH社製)を備えた容器の中に、ポリエーテルシリコーンX22−6515(信越化学(株)製、HLB値=5.7)25部、乳化剤としてエマルゲン109P(ポリオキシエチレンラウリルエーテル、HLB値=13.6、花王(株)製)3部を仕込み、回転数2000rpmで高速攪拌しながら、蒸留水5部を10分間かけて徐々に加えた。さらに、高速攪拌を継続しながら蒸留水23部を20分間かけて徐々に加えた結果、半透明でペースト状のポリエーテルシリコーンの乳化物を得た。
【0083】
この乳化物を「PE−1」とした。
[実施例1〜6、比較例1〜6]
表1〜表2に示す組成及び配合量により、水性防汚組成物を調製した。
【0084】
具体的には、蒸留水、分散剤、および粘性調整剤を予備混合し、その予備混合物に防汚剤(B)を加え、分散した後、塗膜形成樹脂(C)、ポリエーテルシリコーン(A)、可塑性樹脂(D)、添加剤(粘性調整剤(E)など)を順次均一に混合しながら添加し、水性防汚組成物を調製した。
【0085】
これらの水性防汚組成物を用いて、防汚性試験および貯蔵安定性試験を行った。
(防汚性試験)
水性防汚組成物を水道水で希釈し、これにポリエチレン製無結節網(7節、400デニール/50本)を浸漬し、上記組成物を含浸・塗布し、室内(20〜25℃)で48時間風乾した。なお、水道水での希釈量は、水性防汚組成物の乾燥後の網に対する塗着量が15重量%となるように調整した。
【0086】
この網を海面下約2mに6ヶ月間浸漬保持し、海中生物の付着状況を以下の評価基準に従い目視にて調査した。
「−」 :海中生物の付着なし。
【0087】
「+」 :海中生物の付着ややあり。
「++」:海中生物の付着が非常に多い。
(貯蔵安定性試験)
水性防汚組成物をガラス瓶に入れ、35℃の恒温器に1ヶ月保存し、貯蔵安定性を目視にて確認した。
【0088】
【表1】

【0089】
【表2】

【0090】
表1の実施例と、表2の比較例とを対比すると、ポリエーテルシリコーンを含有する実
施例1〜6の水性防汚組成物は、海中生物の付着に対し良好な防汚性を発揮するとともに、貯蔵安定性にも優れていることが判る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエーテルシリコーン(A)を含有し、かつ実質的に有機溶剤を含有しないことを特徴とする水性防汚組成物。
【請求項2】
ポリエーテルシリコーン(A)の親油性親水性バランス(HLB)が1〜10であることを特徴とする請求項1に記載の水性防汚組成物。
【請求項3】
水性防汚組成物を100重量部とした場合に、ポリエーテルシリコーン(A)を0.1〜10重量部、水を20〜85重量部の量で含有することを特徴とする請求項1〜2の何れかに記載の水性防汚組成物。
【請求項4】
さらに、防汚剤(B)としてビスジメチルジチオカルバモイルジンクエチレンビスジチオカーバメート(b1)を含有することを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の水性防汚組成物。
【請求項5】
水性防汚組成物を100重量部とした場合に、ポリエーテルシリコーン(A)を0.1〜10重量部、防汚剤(B)としてビスジメチルジチオカルバモイルジンクエチレンビスジチオカーバメート(b1)を1〜30重量部、水を20〜85重量部の量で含有することを特徴とする請求項4に記載の水性防汚組成物。
【請求項6】
さらに、防汚剤(B)として銅および/または銅化合物(銅ピリチオンを除く)(b2)を含有することを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の水性防汚組成物。
【請求項7】
水性防汚組成物を100重量部とした場合に、ポリエーテルシリコーン(A)を0.1〜10重量部、防汚剤として銅および/または銅化合物(銅ピリチオンを除く)(b2)を1〜50重量部、水を20〜85重量部の量で含有することを特徴とする請求項6に記載の水性防汚組成物。
【請求項8】
さらに、防汚剤(B)として、n−C817−S−S−CH2Cl(クロロメチル−n−
オクチルジスルフィッド)、テトラエチルチウラムジスルフィッド、銅ピリチオン、ジン
クピリチオン、4,5−ジクロロ−2-n−オクチル−4イソチアゾリン−3オン、トリフェニル(オクタデシルアミン)ボロン、トリフェニル[3−(2−エチルヘキシルオキシ)プロピルア
ミン]ボロン、ジフェニルメチルイソプロピルアミンボロン、2,3ジクロロ−N−(2'、6'−ジエチルフェニル)マレイミド、2,3ジクロロ−N−(2'−エチル、6'−メチルフェニル)マレイミド、N,N'−ジメチル−N'−フェニル−(N−フルオロジクロロメチルチオ)スルフ
ァミド、N,N'−ジメチル−N'−トリル−(N−フルオロジクロロメチルチオ)スルファミ
ドからなる群から選ばれた少なくとも1種の防汚性化合物(b3)を含有することを特徴
とする請求項1〜7の何れかに記載の水性防汚組成物。
【請求項9】
さらに、塗膜形成樹脂(C)(ポリエーテルシリコーン(A)を除く)を含有することを特徴とする請求項1〜8の何れかに記載の水性防汚組成物。
【請求項10】
さらに、ポリブテン、ポリスルフイッド、流動パラフィン、ワックス、ワセリンからなる群から選ばれた少なくとも1種の可塑性樹脂(D)を含有することを特徴とする請求項
1〜9の何れかに記載の水性防汚組成物。
【請求項11】
さらに、ベントナイトクレー系粘性調整剤、ヘクトライトクレー系粘性調整剤、ポリサッカライド系粘性調整剤、アルカリ増粘型粘性調整剤、ポリウレタン会合型粘性調整剤、ポリエーテル会合型粘性調整剤、ポリオレフィン系沈降防止剤、セルロース系粘性調整剤
からなる群から選ばれた少なくとも1種の粘性調整剤(E)を含有することを特徴とする請求項1〜10の何れかに記載の水性防汚組成物。
【請求項12】
請求項1〜11の何れかに記載された水性防汚組成物から形成された防汚被膜。
【請求項13】
請求項12に記載された防汚被膜で被覆された漁網。

【公開番号】特開2006−193731(P2006−193731A)
【公開日】平成18年7月27日(2006.7.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−360241(P2005−360241)
【出願日】平成17年12月14日(2005.12.14)
【出願人】(390033628)中国塗料株式会社 (57)
【Fターム(参考)】