説明

水性顔料分散液およびそれを用いたインク組成物

【課題】分散安定性および耐熱性に優れ、算術平均粒径の小さい水性顔料分散液を提供する。またピエゾ方式だけでなく高温でのインクの保存安定性が要求されるサーマル方式においても長期に渡り安定なインクの吐出を実現でき、さらに、光学濃度が高くて光沢感のあるインク組成物を提供する。
【解決手段】(A)イソインドリン系顔料、(B)イソインドリン系顔料にスルホン酸基が導入された顔料誘導体、(C)水、(D)水溶性有機溶媒を含有する水性顔料分散液であって、当該分散液を水で希釈して(A)イソインドリン系顔料と(B)顔料誘導体を合わせた濃度を10ppmとしたときの、波長400〜800nmにおける吸収スペクトルのピークのうち、最大のピークの吸光度と該最大ピークに最も近接した長波長側に存在するピークにはさまれた谷間の吸光度との比が1.29以上である水性顔料分散液。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分散安定性と耐熱性に優れる水性顔料分散液およびそれを用いたインク組成物に関する。特にピエゾ方式のインクジェットプリンターやサーマル方式のインクジェットプリンターに使用されるインク組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、インクジェットプリンター用インクや筆記具用インクに利用される着色剤として、染料のかわりに堅牢性に優れる顔料の利用が検討されている。インクジェットインクの吐出方式には、電圧をかけることで圧電素子を変形させインクを押し出すピエゾ方式と加熱による発泡の際に生じる圧力によりインクをとばすサーマル方式とがある。一般にインクジェット用インクでは溶媒として水が使用されるが、顔料は染料と異なり水に不溶なため、顔料を使用するインクジェット用インクでは顔料が微粒子の状態で水中に安定に分散することが重要である。特に、サーマル方式では、インクが吐出時に瞬間的に400〜500℃の高温にさらされるため、高温での耐熱性と顔料の分散安定性が要求される。
【0003】
水中で顔料微粒子を安定に分散する方法としては、高分子分散剤を用いる方法が報告されている(特許文献1参照)。しかし、この方法では、高分子分散剤を顔料粒子表面に吸着させる必要がある。このため、比較的極性が大きいカーボンブラックなどの無機顔料の分散安定化には有効であるが、粒子表面の極性が小さい有機顔料の分散安定化にはそれほど有効な方法でない。
【0004】
また、有機顔料スルホン酸誘導体を用いることにより有機顔料を水中に安定に分散させる方法が提案されている(特許文献2〜6参照)。これらの方法では、有機顔料スルホン酸誘導体が有機顔料表面に強く吸着し、スルホン酸誘導体の静電反発力により顔料の凝集が抑制される。しかし、ピエゾ、サーマルいずれの吐出方式においても、インクジェットノズルからの良好な吐出安定性、耐目詰まり性、保存安定性などを得るためには、限外濾過膜、半透膜、逆浸透膜などを用いる煩雑な精製工程が必要であることが指摘されている。
【0005】
さらに、インクジェット用黄色インクにおいては、有機顔料スルホン化誘導体を用いることにより種々の構造の有機顔料を水中に保存安定性を向上させる方法が提案されている(特許文献7〜9参照)。
【0006】
例えば、インクジェット用の黄色顔料インク組成物の保存安定性を向上させる方法として、インク組成物中の硫酸イオンを取り除く方法が提案されている(特許文献7参照)。この方法では、黄色顔料としてPY138を用い、インク中の硫酸イオン濃度を70ppm〜100ppmとすることで、黄色インク組成物の保存安定性を向上させている。しかし、PY138は顔料自体の着色力が弱いという問題がある。インク中の顔料濃度を向上させたり、インクの記録媒体への打ち込み量を増加させたりすることにより光学濃度を向上させる必要が生じ、光沢の低下を招くという問題がある。
【0007】
また、黄色記録液の保存安定性を向上させる方法として、顔料としてスルホン酸基が導入されたアゾ系顔料を用いる方法が提案されている(特許文献8参照)。この方法では、インク全体量に対してのスルホン酸基が導入されたアゾ系顔料の添加量を1重量%としている。そのため光学濃度が高くて光沢の高い印刷物を得るのは困難である。
【0008】
また、顔料自体の着色が強いイソインドリン系顔料を有機溶媒中で分散安定化する方法が提案されている。(特許文献9参照)この方法では、ポリアリルアミンと顔料スルホン化誘導体とを用いることによりイソインドリン顔料をエチレングリコールモノブチルエーテル中に分散安定化している。しかしながら有機溶媒を使用しているために、安全性の観点から溶媒として水を用いる一般のインクジェット用インクには適用するには問題がある。
【特許文献1】特開平5−179183号公報(第4頁)
【特許文献2】特開2002−121419号公報(第2頁)
【特許文献3】特開2002−121460号公報(第3頁)
【特許文献4】特開2002−285067号公報(第2頁)
【特許文献5】特開2002−309122号公報(第2頁)
【特許文献6】特開2002−241638号公報(第1頁)
【特許文献7】特開2004−196893号公報(第7頁)
【特許文献8】特開2000−265094号公報(第15頁)
【特許文献9】特開2005−23100号公報(第2頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、微粒化した有機顔料の分散安定性および耐熱性が両立した水性顔料分散液を提供することを目的とし、さらにピエゾ方式だけでなく高温でのインクの保存安定性が要求されるサーマル方式においても、長期間にわたり安定なインクの吐出を実現でき、さらに、光学濃度が高くて光沢のある印刷物を得ることができるインク組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
すなわち本発明は、(1)A)イソインドリン系顔料、(B)イソインドリン系顔料にスルホン酸基が導入された顔料誘導体、(C)水、(D)水溶性有機溶媒を含有する水性顔料分散液であって、当該分散液を水で希釈して(A)イソインドリン系顔料と(B)顔料誘導体を合わせた濃度を10ppmとしたときの、波長400〜800nmにおける吸収スペクトルのピークのうち、最大のピークの吸光度と該最大ピークに最も近接した長波長側に存在するピークにはさまれた谷間の吸光度との比が1.29以上である水性顔料分散液である。
【0011】
また、(2)イソインドリン系顔料にスルホン酸基が導入された顔料誘導体と水の混合液の400〜800nmにおける吸収スペクトルの最大吸収波長が423nm以下となる(B)顔料誘導体を用いる上記(1)記載の水性顔料分散液である。
【0012】
また本発明の別の態様は、(3)上記(1)または(2)記載の水性顔料分散液を含有するインク組成物である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、微粒子化された有機顔料の分散安定性が優れ、さらに高温での耐熱性に優れる水性顔料分散液を供給することができる。また本発明の水性顔料分散液を用いて製造されるインク組成物は、耐熱性に優れるため、ピエゾ方式だけでなく、高温でのインクの保存安定性が要求されるサーマル方式においても安定な吐出を実現でき、さらに、本発明のインク組成物は、印刷した状態において光学濃度が高く、また微細化された状態で顔料粒子が存在するため、光沢がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明は(A)イソインドリン系顔料、(B)イソインドリン系顔料にスルホン酸基が導入された顔料誘導体、(C)水、(D)水溶性有機溶媒を含有する水性顔料分散液であって、当該分散液を水で希釈して(A)イソインドリン系顔料と(B)顔料誘導体を合わせた濃度を10ppmとしたときの、波長400〜800nmにおける吸収スペクトルのピークのうち、最大のピークの吸光度と該最大ピークに最も近接した長波長側に存在するピークにはさまれた谷間の吸光度との比が1.29以上であることが必要である。
【0015】
本発明では、最大のピークの吸光度と上記の谷間の吸光度の吸光度比は、次のようにして求める。波長400〜800nmの範囲に発現した吸収スペクトルのピークのうち、最大のピークを有するピークを決定し、その吸光度を読みとる。これを吸光度[1]とする。次に、決定した最大ピークよりも長波長側に最も近接して出現したピークを決定し、これらのピークにはさまれた谷間の吸光度を読みとる。これを吸光度[2]とする。吸光度[1]/吸光度[2]より吸光度比を算出する。本発明における最大のピークの吸光度と該最大ピークに最も近接した長波長側に存在するピークにはさまれた谷間の吸光度との比(以下、吸光度比)は、1.29以上であり、好ましくは1.30以上、より好ましくは1.31以上である。吸光度比が1.29より小さいと顔料分散液の分散安定性が低下する。吸光度比が1.30より小さいと顔料分散液の耐熱性が低下する場合がある。
【0016】
本発明は、水性顔料分散液の分散安定性および耐熱性が、顔料誘導体のスルホン化度合いにより大きく変化することを見いだした結果、得られたものである。さらに、水性顔料分散液の分散安定性および耐熱性を向上させるためには、添加する顔料誘導体のスルホン化の度合いを最適化することにより水性顔料分散液の400〜800nmにおける吸光度比を一定値以上にすることが有効である。
【0017】
ピーク吸光度の比は、顔料分散液に含有される(B)顔料誘導体を合成する時の反応条件(反応温度、反応液濃度、反応時間など)によって制御することが可能である。例えば、濃硫酸、発煙硫酸、クロロスルホン酸、またはこれらの混合液などの濃度や混合比などを適切に調節し、反応温度0〜150℃、反応時間1〜24時間の範囲において適宜反応条件を変更することにより、吸光度比を1.29以上とすることができる。
【0018】
本発明における吸収スペクトルのピーク吸光度の比は例えば次のような試料を作製し、測定する。顔料分散液を(A)イソインドリン系顔料と(B)顔料誘導体の各々の含有量を合わせた濃度が顔料分散液総量に対し、10ppmとなるようイオン交換水で希釈する。次いで、紫外可視分光光度計(例えば(株)島津製作所製MultiSpec−1500等)を用いて、得られた溶液の吸収スペクトルの測定を行う。測定によって得られた吸収スペクトルを用い、上記に示した算出方法に基づき、吸光度比を算出する。
【0019】
本発明に用いる(A)イソインドリン系顔料は、黄色、橙色、赤色、および茶色の色相を示し、耐候性をはじめ各種優れた堅牢性を示す顔料であり、インクジェットプリンター用インクや筆記具用インクに利用される着色剤として優れている。
【0020】
本発明に用いる(A)イソインドリン系顔料は、顔料の主成分が一般式(1)で表されるイソインドリン骨格を有する化合物である。当該化合物のR、Rで示される置換基は、同一であっても異なっていてもよく、シアノアセトアミド残基、バルビツール酸の残基などである。さらにシアノアセトアミドおよびバルビツール酸は、アルキル基、アリール基、ハロゲン、アルキル、アルコキシ、アルコキシカルボニル、ニトロで置換したアリール基、ヘテロアリール基等の置換基を有していてもよい。
【0021】
【化1】

【0022】
本発明に用いる(A)イソインドリン系顔料の具体的な例としては黄色顔料PY139、PY185、橙色顔料PO66、PO69、赤色顔料PR260、などが挙げられる。顔料の着色力が高く、色調にも優れることから、特にPY185の使用が好ましい。
【0023】
本発明における(B)イソインドリン系顔料にスルホン酸基が導入された顔料誘導体とは、(b−1)用いる(A)イソインドリン系顔料と同じ顔料にスルホン酸基が導入された顔料誘導体、(b−2)用いる(A)イソインドリン系顔料が有する化学構造の一部と同一の化学構造を有する顔料にスルホン酸基が導入された顔料誘導体の2種類を指し、それぞれ(b−1)と(b−2)を単独でも、混合して用いても良い。例えば、(A)の有機顔料にイソインドリン系黄色顔料PY185を用いる場合、(b−1)としてPY185にスルホン酸基が導入された顔料誘導体、もしくは(b−2)として、PY185と一部の化学構造が同一である黄色顔料PY139にスルホン酸基が導入された顔料誘導体をそれぞれ単独か、あるいは(b−1)と(b−2)を組み合わせて用いられる。これらの顔料と顔料誘導体は分子間力により強く結合し、微粒子表面を負帯電させる。顔料と顔料誘導体との結合力をより大きくするためには、顔料とその顔料自体にスルホン酸基が導入された顔料誘導体を組み合わせることがさらに好ましい。なお、以下につづく説明において、(B)については、2種類をまとめて「スルホン酸基が導入された顔料誘導体」という。
【0024】
本発明で用いる(B)スルホン酸基が導入された顔料誘導体は、通常、一分子中に1〜4個のスルホン酸基が導入された化合物の混合物である。スルホン酸基が導入された顔料誘導体の吸収スペクトルは、スルホン酸基が導入された顔料誘導体をイオン交換水と混合して、最大吸光度が3(通常の紫外可視分光光度計の検知限界)を越えない濃度の混合液を作製し、この混合液の状態で測定する。本発明で用いるスルホン酸基が導入された顔料誘導体は、その混合液の波長400〜800nmにおける吸収スペクトルの最大吸収波長が423nm以下であることが好ましい。吸収スペクトルの最大吸収波長が423nmより長波長側にある場合、顔料の凝集がおこりやすくなる。顔料の凝集をより少なくするためには吸収スペクトルの最大吸収波長を421nm以下にすることがさらに好ましい。
【0025】
また、スルホン酸基が導入された顔料誘導体の吸収スペクトルの最大吸収波長は、(B)顔料誘導体を合成する時の反応条件(反応温度、反応液濃度、反応時間など)によって制御することが可能である。例えば、濃硫酸、発煙硫酸、クロロスルホン酸、またはこれらの混合液などの濃度や混合比などを適切に調節し、反応温度0〜150℃、反応時間1〜24時間の範囲において適宜反応条件を変更することにより、吸収スペクトルの最大吸収波長を423nm以下とすることができる。
【0026】
本発明における顔料誘導体の吸収スペクトルの最大吸収波長の測定方法は例えば次のような方法により行う。顔料誘導体をイオン交換水に投入し、次いでボールミル、ビーズミル、超音波を印加するなどの方法により、顔料誘導体とイオン交換水の混合液を作製する。最も好ましい方法としては超音波を適当な時間印加し、顔料誘導体とイオン交換水の混合液を作製する。次いで、紫外可視分光光度計(例えば(株)島津製作所製MultiSpec−1500)を用いて混合液の吸収スペクトルの測定を行う。波長400〜800nmの範囲において、最大の吸光度を示す吸収スペクトルのピークの波長を最大吸収波長とする。
【0027】
本発明で用いる(B)スルホン酸基が導入された顔料誘導体は、例えば次のような方法により合成される。前記の有機顔料を濃硫酸、発煙硫酸、クロロスルホン酸、またはこれらの混合液などに投入してスルホン化反応を行う。得られた反応液を水で希釈し、場合により金属アルカリ水溶液またはアミンまたはその水溶液で中和する。このようにして得られた懸濁液をろ過した後に水系の洗浄液で洗浄し、乾燥する。
【0028】
上記の合成過程で中和を行う場合、金属アルカリ水溶液もしくはアミンまたはその水溶液を用いるが、好ましくはアミンまたはその水溶液を用いるほうが良い。インク組成物として金属アルカリを含有していると、基材にインク滴を付着させて溶媒を揮発させた後も金属アルカリ成分が基材に残留する。この場合、基材が再び水に濡れると、残留した金属アルカリ成分が着色した部分の親水性を高め、滲みを生じやすくするおそれがある。一方、アミンは揮発しやすいため、このような滲みが発生するおそれが小さい。
【0029】
中和に用いるアミン水溶液としてはアンモニア、モノエタノールアミン、トリエタノールアミン、テトラメチルアンモニウムヒドロキシドなどの水溶液を用いることができる。本発明では特にこれらに限定されずに種々のアミン水溶液を使用することができるが、アンモニアの使用がその揮発のしやすさから好ましい。
【0030】
本発明において、(A)イソインドリン系顔料と(B)スルホン酸基が導入された顔料誘導体との混合比は、重量比でイソインドリン系顔料:スルホン酸基が導入された顔料誘導体=50〜99:50〜1、好ましくは60〜97:40〜3、より好ましくは70〜95:30〜5で混合される。顔料誘導体の量が少なすぎれば顔料分散安定化効果が発揮されず、逆に顔料化誘導体の量が多すぎれば、色調が好ましくないほど変化する可能性が生じる。
【0031】
本発明において、(A)イソインドリン系顔料と(B)スルホン酸基が導入された顔料誘導体の固形分の顔料分散液全体に対する濃度は4〜20重量%、好ましくは8〜16重量%である。濃度が低すぎると分散液の生産効率が低く製造コストがかさむ。一方、濃度が高すぎると分散状態を安定化することが困難となる。
【0032】
本発明において、水性顔料分散液の25℃での表面張力は60mN/m以下、好ましくは50mN/m以下であることが好ましい。表面張力が60mN/mより大きいと顔料および顔料誘導体の水への濡れ性が悪いために粗大粒子が残りやすい。また、表面張力が50mN/mより大きいと分散機の分散エネルギーを均一に顔料粒子に伝達するのが難しくなる。すると顔料粒径の均一な顔料分散液を得ることが困難となり、インクの吐出特性が不良となる。水性顔料分散液の25℃での表面張力は25mN/m以上であることが好ましい。水性顔料分散液の表面張力が小さすぎると、インク組成物の表面張力も小さくなるために、インクの紙への浸透性が高くなり滲みの原因となる場合がある。
【0033】
本発明の水性顔料分散液の表面張力を調整する方法としては、水溶性有機溶媒、界面活性剤、高分子分散剤等を添加する方法等が挙げられるが、顔料分散液中の顔料の保存安定性および顔料分散液の耐熱性を考慮すると水溶性有機溶媒を添加することが好ましい。
【0034】
本発明で用いる(D)水溶性有機溶媒は、その比誘電率が5以上、好ましくは10以上、さらに好ましくは15以上であることが望まれる。用いる水溶性有機溶媒の非誘電率が小さすぎると、水性顔料分散液の比誘電率も小さくなるために、顔料粒子間の静電反発力が弱くなり、分散安定性が低下する。
【0035】
上記の範囲を満たす水溶性有機溶媒の例としては、エーテル類、アルコール類、エーテルアルコール類、エステル類、ケトン類、酸類、アミン類、酸アミド類などの種々のものを使用することができ、例えばジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、トリエチレングリコール、グリセリン、γ−ブチロラクトン、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチエルスルホキシド、炭酸エチレン、炭酸プロピレン等を使用することができる。
【0036】
本発明において、水と水溶性有機溶媒との混合比は重量比で、水:水溶性有機溶媒=95〜50:5〜50、好ましくは90〜60:10〜40である。水溶性有機溶媒の混合比が少なすぎると、表面張力を60mN/m以下に調整するのが困難であり、逆に混合比が多すぎると分散安定性を低下させる場合がある。
【0037】
本発明の水性顔料分散液において、(A)イソインドリン系顔料と(B)スルホン酸基が導入された顔料誘導体の固形分の濃度が4重量%のときの硫酸イオン濃度は、50ppm以下、好ましくは20ppm以下、より好ましくは10ppm以下である。硫酸イオン濃度が50ppmより高いと顔料分散液の分散状態が不安定化し、硫酸イオン濃度が20ppmより高いと顔料分散液の耐熱性が悪くなる場合がある。また硫酸イオン濃度の下限は、好ましくは0.1ppmである。例えば、透析により硫酸イオン濃度を0.1ppmより小さくしようとすると、透析を繰り返す回数が非常に増大し、透析膜の目詰まりが起きるおそれが大きくなる。
【0038】
本発明の水性顔料分散液は、固形分濃度に比例して硫酸イオン濃度が増大する。そのため水性顔料分散液の固形分が4重量%より少ない場合は、換算して硫酸イオン濃度を算出することができる。例えば、水性顔料分散液の固形分濃度が1重量%の場合は、測定により得られた値を4倍することで、4重量%における硫酸イオン濃度を算出することができる。
【0039】
水性顔料分散液の固形分が4重量%より多い場合は、水性顔料分散液をイオン交換水で希釈することで固形分の濃度を4重量%とし、硫酸イオン濃度を測定する。
【0040】
本発明において、水性顔料分散液のpHは1.5〜6.5、好ましくは2〜6の酸性領域にある。顔料分子中に導入されたスルホン酸基が多いほど顔料誘導体は水に溶解しやすいが、分散液を酸性状態にすることによって、2個以上のスルホン酸基が導入された誘導体を水へ不溶化することができる。これにより、分子に2個以上のスルホン酸基を有する顔料誘導体も1個のみ有する顔料誘導体と同様に水に溶解せずに顔料粒子表面に吸着し、顔料粒子の分散安定化に寄与することが可能となる。一方、酸性が強すぎると水性顔料分散液を希釈して製造するインク組成物を適正なpH範囲におさめることが困難となる。
【0041】
なお、水性顔料分散液中の硫酸イオン濃度を低下させるためには、原料となる(A)イソインドリン系顔料、(B)スルホン酸基が導入された顔料誘導体、(C)水、(D)水溶性有機溶媒のそれぞれに含まれる硫酸イオン濃度が低いことが好ましい。
【0042】
本発明で用いる(C)水としては、例えばイオン交換水や蒸留水などの硫酸イオンを含有しないものを使用することができる。
【0043】
本発明で用いる(A)イソインドリン系顔料は、例えばイオン交換水や蒸留水などで洗浄することで十分に硫酸イオンを洗浄したものを用いることが好ましい。通常有機顔料は水との親和性が低いために、公知の水洗ろ過などの方法で容易に硫酸イオンを除去することが可能である。
【0044】
本発明で用いる(B)スルホン酸基が導入された顔料誘導体中には、通常スルホン化反応後に原料となる硫酸イオンが大量に混入する。顔料誘導体中から硫酸イオンを除去するためには、透析あるいはイオン交換を行う手法が挙げられる。特に透析は顔料誘導体と水と硫酸イオンからなるスラリーから、透析膜を通して水と硫酸イオンを取り除き、取り除いた量と同量のイオン交換水を添加することでスラリーの粘度を増加させることなく効果的に硫酸イオンを除去することが可能である。効率よく硫酸イオンを除去するためには、透析有効面積が大きい中空糸膜を用いることが好ましい。中空糸膜の材質としては、ポリスルホン、ポリメチルメタクリレート、ポリアクリロニトリルなどを使用することができる。
【0045】
本発明の水性顔料分散液を得るための顔料分散機としては、サンドミル、ボールミル、ビーズミル、3本ロールミル、アトライターなどを用いる方法が好ましく採用される。メディアを使用する分散では、ジルコニアビーズ、アルミナビーズ、ガラスビーズなどを用いることができる。
【0046】
本発明の水性顔料分散液の分散安定性は、顔料分散液のCasson降伏値を測定することにより評価することができる。Casson降伏値が小さいほど、粒子分散液中での粒子の凝集が少ない。本発明においては、顔料分散液のCasson降伏値は好ましくは1×10−3Pa以下であるのがよい。
【0047】
本発明の水性顔料分散液の耐熱性は、例えば次のような方法により評価することができる。65℃で30日間処理し、処理前後の粘度の変化率を測定する。処理前後の粘度の変化率が小さいほど耐熱性が良好と考えられ、粘度変化率は好ましくは50%以下、より好ましくは10%以下であるのがよい。
【0048】
本発明の水性顔料分散液中の顔料は、その算術平均径が5〜150nm、好ましくは10〜100nm、の範囲にあることが望まれる。顔料の算術平均径が150nmより大きいと、インクジェットノズルで目詰まりを引き起こす可能性が高くなる。また、顔料の算術平均径が100nmより大きいと印刷物の光沢度が低下する。算術平均径が小さいと、光学濃度が高く光沢のある印刷物が得られるため好ましいが、算術平均径が小さすぎると、粒子の比表面積が大きくなりすぎ、インク組成物中の顔料が凝集しやすくなる傾向がある。
【0049】
次に、本発明の水性顔料分散液を用いたインク組成物について説明する。
【0050】
上記のように、得られた水性顔料分散液を水で希釈し、以下に示すような添加物を加えることによってインク組成物が得られる。
【0051】
本発明では、(A)イソインドリン系顔料と(B)スルホン酸基が導入された顔料誘導体とからなる着色固形分がインク組成物全体量に対し、1〜16重量%、好ましくは2〜8重量%含有されていることが好ましい。インク組成物中に当該固形分が少なすぎると印刷物の着色力が小さくなり良好な描画ができなくなる。一方、当該固形分が多すぎると印刷物の着色力は大きくなるものの光沢が著しく低下する。
【0052】
本発明のインク組成物中には、基材への定着性を向上させるために高分子を含有しても良い。高分子としては、水に溶解する水溶性高分子と水に溶解しない水分散性高分子を含有することができ、アクリル系高分子、酢酸ビニル系高分子、ポリエステル系高分子、ポリウレタン系高分子などを使用することができる。これらの高分子をインク組成物中に含有させる場合には、通常インク組成物全体量に対し、0.1〜10重量%含有される。量が少なすぎれば、基材への定着性を向上させる効果が得られない。一方、量が多すぎれば、インク組成物の粘度を好ましくないほど増大させたり、顔料の凝集を引き起こすことがある。
【0053】
本発明のインク組成物には、インク組成物のインクジェットノズル部分での乾燥の防止や、基材への塗れ性や浸透性を改善する目的で、水溶性の有機溶媒を含有させることができる。このような目的で使用される有機溶媒の例としては、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテルなどのグリコールエーテル類、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、トリエチレングリコール、グリセリンなどの多価アルコール類、γ−ブチロラクトンやN−メチル−2−ピロリドン、ジメチエルスルホキシドなどの非プロトン性極性溶媒のほか、アセチレングリコール類、アセチレンアルコール類、アルキレングリコール類などが挙げられる。これらの水溶性有機溶媒の量は、インクの全溶媒中に対し、通常50重量%以下に抑えられる。50重量%を越えて水溶性有機溶媒を含有させた場合、顔料の分散状態が不安定化するおそれがある。
【0054】
本発明のインク組成物には、カビや細菌の混入を防止する目的で防腐剤を添加することができる。ジンクピリジンチオン−1−オキサイド、1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オン、1−ベンズイソチアゾリン−3−オンのアミン塩などを好適に用いることができる。これらは通常、インク組成物中に0.05〜1重量%含有される。これらの添加量が少なければカビや細菌の混入防止効果が発揮されず、添加量が多すぎれば顔料の分散状態の不安定化を引き起こす可能性が生じる。
【0055】
本発明のインク組成物のpHは、5〜10、好ましくは6〜9の範囲にあることが望ましい。この範囲にあれば接触しても安定して使用することができる。インク組成物のpHはアンモニア、有機アミンなどのpH調整剤やリン酸などの緩衝液を用いて適宜調整することができる。
【0056】
本発明のインク組成物をピエゾ方式のインクジェットプリンター用インクとして使用する場合には、表面張力の調整や基材への浸透性の改善のためにアニオン性、カチオン性、ノニオン性、両性の界面活性剤を添加することができ、泡の発生を防止するために消泡剤を添加することもできる。
【0057】
本発明のインク組成物をインクジェットプリンター用に用いる場合には、インク組成物の粘度が10mPa・s以下、好ましくは5mPa・s以下であることが望ましい。粘度が大きいと適当なサイズのインク滴を発生させてそれをとばすことが困難になる。
【0058】
本発明のインク組成物から得られる印刷物の光学濃度は、例えば光学濃度計により測定することができる。印刷物の光学濃度は、1.8以上、好ましくは1.9以上であることが望まれる。光学濃度が小さすぎると印刷物の着色力が小さくなり良好な印刷物を得ることが困難となる。
【0059】
本発明のインク組成物から得られる印刷物の光沢度は、例えば光沢計により測定することができる。光沢度は、45以上、好ましくは60以上であることが望まれる。光沢度が小さすぎると表面がなめらかで光沢のある印刷物を得ることが困難となる。
【0060】
本発明のインク組成物は耐熱性に優れるため、ピエゾ方式のインクジェットプリンターだけでなく、サーマル方式のインクジェットプリンターにおいても長期間にわたり安定したインクの吐出が実現できる。このインク組成物を用いて基材に描画した画像は対オゾン性に優れ退色しにくい。また、微細化された状態で顔料粒子が存在するため、表面がなめらかで光沢のある印刷物を得ることが可能である。本発明のインク組成物はインクジェットプリンターなどのカラー印刷を行う分野で、インクジェット用インク組成物として利用できる。
【実施例】
【0061】
以下、好ましい実施態様を用いて本発明を更に詳しく説明するが、用いた実施態様によって本発明の効力はなんら制限されるものではない。
実施例中の顔料誘導体、顔料分散液およびインク組成物の評価は以下の方法で行った。
【0062】
<測定方法>
A.顔料分散液の吸収スペクトルの測定
顔料分散液をA)イソインドリン系顔料と(B)顔料誘導体の固形分濃度が合わせて10ppmになるようイオン交換水で希釈し、紫外可視分光光度計((株)島津製作所製MultiSpec−1500)を用いて得られた溶液の吸収スペクトルの測定を室温にて行った。次に、波長400〜800nmの範囲に発現した吸収スペクトルのピークのうち、最大のピークを有するピークを決定し、その吸光度を読みとる。これを吸光度[1]とする。次に、決定した吸光度[1]よりも長波長側に最も近接して出現したピークを決定し、これらのピークにはさまれた谷間の吸光度を読みとる。これを吸光度[2]とする。得られた値より、吸光度[1]/吸光度[2](吸光度比)を算出する。
【0063】
B.顔料誘導体の吸収スペクトルの測定
顔料誘導体をイオン交換水に投入して超音波を印可することにより混合液を作製し、紫外可視分光光度計((株)島津製作所製MultiSpec−1500)を用いて吸収スペクトルの測定を行った。測定の結果、400〜800nmにおいて吸光度の値が最も大きいピークが位置する波長を最大吸収波長とした。
【0064】
C.顔料分散液の粘度測定
円錐平板型粘度計(東機産業(株)製RE100L)を用いて、25℃での顔料分散液およびインク組成物の粘度を測定した。
【0065】
D.顔料分散液の降伏値測定
円錐平板型粘度計(東機産業(株)製RE100L)を用い、異なるずり速度での粘度を3点測定し、Cassonの式を用いることにより求めた。得られた降伏値の値より顔料分散液の保存安定性を評価した。
【0066】
E.顔料分散液の耐熱性
顔料分散液を65℃で30日間の加熱処理を行い、加熱処理前後の粘度を比較することで顔料分散液の耐熱性の指標とした。
【0067】
F.顔料分散液中の顔料粒子の粒径測定
顔料分散液を(A)イソインドリン系顔料と(B)顔料誘導体の固形分の濃度が合わせて0.1重量%となるようイオン交換水で希釈し、動的光散乱式粒径分布測定装置((株)堀場製作所製LB−500)を用いて顔料粒子の算術平均径を求めた。
【0068】
G.インク組成物を用いた印刷時のインクかすれ評価
インク組成物をサーマル方式インクジェットプリンター(キヤノン(株)製“ピクサス”(商品名)550i)のインクカートリッジに詰めて3台並べてインクジェットノズルから5時間連続普通紙(キヤノン(株)製ホワイトリサイクルペーパーEW−500)に印字を行い、次の評価を行った。5時間後に3台とも全てにインクかすれがなかった場合を◎、5時間後に1台以上インクかすれがあるが、インクジェットノズルのクリーニングによりかすれが改善された場合を○、5時間後に1台以上インクかすれがあり、クリーニングしてもかすれが改善されなかった場合を×とした。
【0069】
インク組成物をピエゾ方式インクジェットプリンター(セイコーエプソン(株)製“カラリオ” (商品名)PX−V600)のインクカートリッジに詰めて3台並べてインクジェットノズルから5時間連続普通紙(キヤノン(株)製、ホワイトリサイクルペーパー(商品名)EW−500)に印字を行い、次の評価を行った。5時間後に3台とも全てにインクかすれがなかった場合を◎、5時間後に1台以上インクかすれがあるが、インクジェットノズルのクリーニングによりかすれが改善された場合を○、5時間後に1台以上インクかすれがあり、クリーニングしてもかすれが改善されなかった場合を×とした。
【0070】
H.印刷物に塗布、印刷したときのインク組成物から得られる印画の光学濃度評価
インク組成物をサーマル方式インクジェットプリンター(キヤノン(株)製“ピクサス”(商品名)550i)のインクカートリッジにつめて、記録媒体(キヤノン(株)製“スーパーフォトペーパー”(商品名)SP−101)に印字し、5cm×5cmのベタ画像を得た。
【0071】
インク組成物をピエゾ方式インクジェットプリンター(セイコーエプソン(株)製“カラリオ” (商品名)PX−V600)のインクカートリッジに詰めて、記録媒体(セイコーエプソン(株)製、(商品名)フォト光沢紙顔料専用)に印字し、5cm×5cmのベタ画像を得た。
【0072】
得られたベタ画像部分の光学濃度を、光学濃度計(GRETAG社製、SPECTROEYE)を用い、光源D50、視野角2度で測定した。
【0073】
I.印刷物に塗布、印刷したときのインク組成物から得られる印画の光沢度評価
得られたベタ画像部分の光沢度を、光沢度計((株)村上色材技術研究所製、GM−3D)を用い、測定角度45度で測定した。
【0074】
実施例1
PY185(ビーエーエスエフ社製“パリオトールイエロー”(商品名)D1155)60gを攪拌しながら80℃で発煙硫酸(28%SO)780g中に投入した。3時間攪拌した後、氷水1500g中に注ぎ入れた。30分間放置後、生じた懸濁液を濾過し、得られた生成物を300mlの純水で洗浄した。純水2000ml中へ前記生成物を投入し、アンモニア水溶液でpHが7以上になるまでアンモニア水溶液を添加し、中和を行い、次いで濾過を行った。得られたウェット結晶を純水で洗浄した後、80℃で乾燥した。乾燥して得られたものを純水による洗浄、濾過、乾燥という操作を10回繰り返して、62gのPY185スルホン酸基含有誘導体YS−Aを得た。上記に示した方法により、YS−Aの吸収スペクトルを測定したところ、最大吸収波長は423nmであった。
【0075】
次に、YS−Aとイオン交換水を混合し、硫酸イオンを含むスラリーを作製した。作製したスラリーはPMMA透析モジュール(東レ(株)製“フィルトライザー”(商品名)B3−20A)を用いて透析を行い、PY185誘導体透析物YS−Adを得た。
【0076】
96gのPY185と24gのYS−Adを180gのトリエチレングリコールモノブチルエーテルとともにイオン交換水700gと混合しホモディスパーで攪拌してスラリーを作製した。スラリーを入れたビーカーを循環式ビーズミル分散機(ウイリー・エ・バッコーフェン社製“ダイノーミル”KDL−A)とチューブでつなぎ、メディアとして直径0.3mmのジルコニアビーズを使用して、1600rpm、3時間の分散処理を行い、水性顔料分散液1を得た。上記に示した方法により、水性顔料分散液1の吸収スペクトルを測定し、得られたチャートを図1に示す。吸収スペクトルのピーク吸光度の比は1.291であった。
【0077】
実施例2
反応温度を90℃としたこと以外は実施例1と同様の方法でスルホン化反応を行い、58gのPY185スルホン化誘導体YS−Bを得た。上記に示した方法により、YS−Bの吸収スペクトルを測定したところ、最大吸収波長は421nmであった。
【0078】
次に、実施例1と同様の方法で透析を行い、誘導体透析物YS−Bdを得た。PY185とYS−Bdを用いて実施例1と同様にして、水性顔料分散液2を得た。上記に示した方法により、水性顔料分散液2の吸収スペクトルを測定したところ、吸収スペクトルのピーク吸光度の比は1.317であった。
【0079】
実施例3
反応温度を95℃としたこと以外は実施例1と同様の方法でスルホン化反応を行い、6gのPY185スルホン化誘導体YS−Cを得た。上記に示した方法により、YS−Cの吸収スペクトルを測定したところ、最大吸収波長は419nmであった。
次に、実施例1と同様の方法で透析を行い、PY185誘導体透析物YS−Cdを得た。PY185とYS−Cdを用いて実施例1と同様にして、水性顔料分散液3を得た。上記に示した方法により、水性顔料分散液3の吸収スペクトルを測定したところ、吸収スペクトルのピーク吸光度の比は1.334であった。
【0080】
比較例1
反応温度を70℃としたこと以外は実施例1と同様の方法でスルホン化反応を行い、65gのPY185スルホン化誘導体YS−Dを得た。上記に示した方法により、PY185スルホン化誘導体YS−Dの吸収スペクトルを測定したところ、最大吸収波長は424nmであった。
【0081】
次に、実施例1と同様の方法で透析を行い、PY185誘導体透析物YS−Ddを得た。PY185とYS−Ddを用いて実施例1と同様にして、水性顔料分散液4を得た。上記に示した方法により、水性顔料分散液4の吸収スペクトルを測定したところ、吸収スペクトルのピーク吸光度の比は1.288であった。
【0082】
比較例2
反応温度を60℃としたこと以外は実施例1と同様の方法でスルホン化反応を行い、66gのPY185スルホン化誘導体YS−Eを得た。上記に示した方法により、吸収スペクトルを測定したところ、最大吸収波長は425nmであった。
次に、実施例1と同様の方法で透析を行い、PY185誘導体透析物YS−Edを得た。PY185とYS−Edを用いて実施例1と同様にして、水性顔料分散液5を得た。
上記に示した方法により、水性顔料分散液5の吸収スペクトルを測定し、得られたチャートを図2に示す。吸収スペクトルのピーク吸光度の比は1.271であった。
【0083】
実施例1〜3、比較例1〜2で得られた水性顔料分散液の評価結果を表1に示した。
【0084】
【表1】

【0085】
実施例4
実施例1で得られた41.7gの水性顔料分散液1にイオン交換水43.3g、グリセリン12g、エチレングリコール2.8g、トリエタノールアミン0.2gを加えインク組成物を作製し、評価を行った。結果は表2に示した。
【0086】
実施例5〜6、比較例3
表2に示した各水性顔料分散液を用いて、実施例4と同様の方法でインク組成物を作製し、評価を行った。結果は表2に示した。
【0087】
比較例4
PY74(ビーエーエスエフ社製“シコ”(商品名)イエローFR1252)60gを室温で攪拌しながら98%濃硫酸780g中に投入した。5時間攪拌した後、氷水1500g中に加えた。純粋2000ml中へ前記生成物を投入し、中和(pHが7以上になるまでアンモニア水溶液を添加)し、次いでろ過を行った。得られたウェット結晶を純水で洗浄した後、80℃で乾燥した。乾燥して得られたものを純水による洗浄、濾過、乾燥という操作を10回繰り返して、63gのPY74スルホン酸基含有誘導体YS−Fを得た。次に、実施例1と同様の方法で透析を行い、PY74誘導体透析物YS−Fdを得た。
【0088】
PY74とYS−Fdを用いて実施例1と同様にして、水性顔料分散液6を得た。得られた41.7gの水性顔料分散液6にイオン交換水43.3g、グリセリン12g、エチレングリコール2.8g、トリエタノールアミン0.2gを加えインク組成物を作製し、評価を行った。結果は表2に示した。
【0089】
比較例5
PY138(ビーエーエスエフ社製“パリオトール”(商品名)イエローD0960)60gを25℃で攪拌しながら発煙硫酸(28%SO)780g中に投入した。3時間攪拌した後、氷水1500g中に加えた。純粋2000ml中へ前記生成物を投入し、中和(pHが7以上になるまでアンモニア水溶液を添加)し、次いでろ過を行った。得られたウェット結晶を純水で洗浄した後、80℃で乾燥した。乾燥して得られたものを純水による洗浄、濾過、乾燥という操作を10回繰り返して、63gのPY138スルホン酸基含有誘導体YS−Gを得た。次に、実施例1と同様の方法で透析を行い、PY138誘導体透析物YS−Gdを得た。
【0090】
PY138とYS−Gdを用いて実施例1と同様にして、水性顔料分散液7を得た。得られた水性顔料分散液7を用い、比較例4と同様にしてインク組成物を作製し、評価を行った。結果は表2に示した。
【0091】
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0092】
【図1】実施例1の顔料分散液1の波長400〜800nmの範囲における吸収スペクトルを示したチャート図
【図2】比較例2の顔料分散液5の波長400〜800nmの範囲における吸収スペクトルを示したチャート図
【符号の説明】
【0093】
1 波長400〜800nmにおける吸光度[1]
2 波長400〜800nmにおける吸光度[2]

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)イソインドリン系顔料、(B)イソインドリン系顔料にスルホン酸基が導入された顔料誘導体、(C)水、(D)水溶性有機溶媒を含有する水性顔料分散液であって、当該分散液を水で希釈して(A)イソインドリン系顔料と(B)顔料誘導体を合わせた濃度を10ppmとしたときの、波長400〜800nmにおける吸収スペクトルのピークのうち、最大のピークの吸光度と該最大ピークに最も近接した長波長側に存在するピークにはさまれた谷間の吸光度との比が1.29以上である水性顔料分散液。
【請求項2】
イソインドリン系顔料にスルホン酸基が導入された顔料誘導体と水の混合液の400〜800nmにおける吸収スペクトルの最大吸収波長が423nm以下となる(B)顔料誘導体を用いる請求項1記載の水性顔料分散液。
【請求項3】
請求項1または2記載の水性顔料分散液を含有するインク組成物。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−77340(P2007−77340A)
【公開日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−269581(P2005−269581)
【出願日】平成17年9月16日(2005.9.16)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】