説明

水流式浮遊物回収装置

【課題】波がある場合であっても効率よく浮遊物を回収することができる水流式浮遊物回収装置を提供する。
【解決手段】水流式浮遊物回収装置1は、サイクロン室10と、サイクロン室10に浮遊物を含む水を導く導水路30とを備えており、導水路流入口31を横切る固定堰51が導水路流入口31に設けられている。固定堰51が導水路30内に進入する波のエネルギを抑えるとともに、導水路30内で生じた反射流を小さくする。この結果、導水路30内に流入した浮遊物が導水路30から流出しないので、浮遊物回収効率が高くなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、水流式浮遊物回収装置、特に海、湖沼、河川などで回収場所に浮かべ、油などの浮遊物を回収する水流式浮遊物回収装置に関する。
【背景技術】
【0002】
水流式浮遊物回収装置として、水面に浮かぶ油などの汚染物層を除去する装置が知られている(以下の説明では、汚染物が油であるとする)。この油回収装置は、導水路とこれに接続されたサイクロン室を備えており、サイクロン室には円筒状外壁に入口が設けられている。油回収装置は、船に搭載される。水と油とは、油回収装置と水との相対速度を利用して導水路に取り入れられ、導水路から上記入口を経てサイクロン室に外壁接線方向に沿って流れ込む。水から完全に分離した油はサイクロン室の上部の排出口から取り出され、油が取り除かれた水はサイクロン室下部の出口から水中に排出される。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
従来の水流式浮遊物回収装置では、波がある場合に油回収作業船の前進により導水路内に侵入した水は波エネルギを伴っており、導水路内で波動現象を生じる。波はサイクロン室の外壁に突き当たって反射され、浮遊物が導水路の流入口から流出する。このために、浮遊物の回収効率が低下していた。
【0004】
この発明は、波がある場合であっても効率よく浮遊物を回収することができる水流式浮遊物回収装置を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この発明の水流式浮遊物回収装置は、図1および図2に示すようにサイクロン室10と、サイクロン室10に浮遊物を含む水を導く導水路30とを備えており、サイクロン室10内に浮上した浮遊物を吸引して、サイクロン室10外に排出する。導水路流入口31を横切る固定堰51が、前記サイクロン室流入口31に設けられている。
【0006】
この発明の水流式浮遊物回収装置1では、サイクロン室流入口31に設けられた導水路流入口31を横切る固定堰51が、導水路30内に侵入する波エネルギを抑えるとともに、導水路30内で生じた反射流を小さくする。この結果、導水路30内に流入した浮遊物が逆流して導水路30から流出しないので、浮遊物回収効率が高くなる。
【0007】
上記水流式浮遊物回収装置において、固定堰51の直後に配置したフロート55と、フロート55に固定され、導水路31を横切りかつ静水状態での堰頂の位置が固定堰51のものより高い昇降堰53とを設けることが好ましい。喫水、油回収作業船の傾斜などの変動により導水路30に対する水位が変化し、固定堰51の水面WLに対する堰頂高さ位置が変化してもフロート55が上下し、昇降堰53が昇降して所定の堰頂高さを自動的に維持する。これにより、喫水などが変動しても浮遊物を導水路30内に流入させることができ、浮遊物回収効率が向上する。
【0008】
水面WLに対し導水路の流入口に向かって傾斜する多孔板からな制波板を導水路30の後端寄り、かつ水面WL近くに設けるようにしてもよい。制波板はサイクロン室10に向かって導水路30内を進行する波のエネルギを吸収し、また波の反射により浮遊物が導水路流入口31から流出するのを防ぐ。
【0009】
導水路30の底部40を網目板で構成するようにしてもよい。網目板は、下方からの波エネルギの侵入を遮断するとともに、導水路30内で生じた渦流の中心部が下方に流出するのに伴って上層部に蓄積した油粒が流出するのを防止する。
【0010】
前記サイクロン室10の周壁と導水路30の側壁との間の排水路に逆止め弁を設けてもよい。導水路30内の水位が高くなると、油水が逆流して導水路流入口31から流出する。水位が高まると逆止め弁が開き、導水路底部40の水は後方に排出されるので、水位が下がって油水の流出が防がれる。
【0011】
また、前記水流式浮遊物回収装置において、サイクロン室流入口13を指向するノズルと、ノズルに加圧水を供給する加圧水供給装置とを設け、サイクロン室流入口13にジェット水を噴射するようにしてもよい。
【0012】
前記サイクロン室底部に設けられた排水ダクトと、排水ダクトを指向するノズルと、ノズルに加圧水を供給する加圧水供給装置とを備え、排水ダクトにジェット水を噴射するようにしてもよい。ジェット水の噴射により、サイクロン室流入口13の油水にサイクロン室10内への吸込み力が生じ、排水ダクトからサイクロン室10内への逆流を防ぐことができる。
【発明の効果】
【0013】
この発明の水流式浮遊物は、導水路流入口を横切る固定堰がサイクロン室流入口に設けられているので、固定堰が導水路内に進入する波のエネルギを抑えるとともに、導水路内で生じた反射流を小さくする。この結果、導水路内に流入した浮遊物が導水路から流出しないので、浮遊物回収効率が高くなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
図3〜5はこの発明の実施の1形態を示すのもで、油回収装置2の概略図である。図3は上記油回収装置2の断面側面図であり、図4は正面図であり、図5は断面平面図である。以下、浮遊物が油である場合を例として説明する。
【0015】
油回収装置2は主としてサイクロン室10、導水路30、油水流入堰50、強制排水装置60および油排出装置70から構成されている。
【0016】
サイクロン室10は、円筒状上部室11、円錐状下部室15および油回収室18とからなっている。上部室11の下端寄り流入口13が設けられている。サイクロン室10の内部は凹凸を少なくし、局部渦流の発生を極力少なくしている。サイクロン室10の上部は、仕切り板19で仕切られて油回収室18となっている。上部室11と油回収室18とは、短管20を介して通じている。油回収室18には、これの頂部に取り付けられた空気抜き管22を介して船上の真空ポンプ24が接続されている。
【0017】
導水路30は、先端部が導水路流入口31となっており、後端はサイクロン室流入口13に通じるようにしてサイクロン室10に接続されている。導水路流入口31には金網がはられており、水に浮かぶごみを捕集し、導水路内へのごみの侵入を防ぐ。導水路30の左側壁32の後端部はサイクロン室周壁12と間隔をおいて周壁12に取り付つけられており、右側壁33の後端部はサイクロン室10の周壁12に接するようにして周壁12に固定されている。導水路流入口31寄りの部分の左側壁32は、外に向かって開くように傾斜している。左側壁32の傾斜により、導水路30内の油水はサイクロン室流入口13に向かうように流れる。サイクロン室周壁12と左側壁32との間は、導水路30内に流入した油水が後方に流出しないように後壁35で閉ざされている。
【0018】
逆止め弁37が後壁35に、サイクロン室流入口13より低い位置に設けられている。固定堰51が導水路流入口31にあるために、導水路30内に流入した油水の水位WLが上昇する。また、導水路30の底部40が水流抵抗の大きいエキスパンドメタルで構成されているので、波が導水路30内に打ち込んだときにも水位が高まる。水位が高くなると、油水が逆流して導水路流入口31から流出する。逆止め弁37は水位が高まると開き、導水路底部40の水は後方に排出される。この結果、水位は下がり、油水の流出が防がれる。水位が下がると逆止め弁37は閉じ、後方から導水路30内に侵入する水は阻止される。
【0019】
導水路底部40は、エキスパンドメタル(網目板)で構成されている。エキスパンドメタルは、下方からの波エネルギの侵入を遮断するとともに、導水路30内で生じた渦流の中心部が下方に流出することに伴って上層部に蓄積いた油粒が流出するのを防止する。なお、導水路底部40を網目なし板のめくら板にすると、サイクロン室10への流入抵抗が大きいために油水の流入が困難となり、流入した油が逆流して導水路30から流出する。一方、導水路底部40を底板なしの素通しにすると、油水の流入はよくなるが、導水路30内に生じた渦流の中心が下方へ流出するときに、上方の油粒がこれに巻き込まれて導水路底部40より流出する。エキスパンドメタルの網目は、渦流の下方への流れを途中で断ち切り、油粒の流出を防ぐ。
【0020】
多数の小孔43が設けられた2枚の制波板42が、上下に間隔をおいてサイクロン室周壁12に取り付けられている。制波板42は水面近くに配置されており、導水路流入口31に向かって傾斜している。制波板42は波のエネルギを吸収し、波の逆流を防ぐとともに波の打込みによる導水路30内の水流の撹乱を少なくし、油水分離を促進する。
【0021】
油水流入堰50は、固定堰51および昇降堰53とからなっている。固定堰51はサイクロン室流入口13とほぼ同じ高さの位置にあって、導水路流入口31を横切るようにして左、右側壁32、33に固定されている。昇降堰53は、フロート55に取りつけられている。フロート55は、サイドフロート56と底部フロート57とからなっている。サイドフロート56は左フロートおよび右フロートに分かれており、底部フロート57により連結されて一体となっている。左フロートおよび右フロートは、それぞれ左側壁32および右側壁33に設けられたガイド45に沿って昇降する。昇降堰53は固定堰51の直後にあって、導水路流入口31を横切るようにして底部フロート57にボルトで取り付けられている。昇降堰53は上下位置が調整可能となっており、堰頂54が静水状態で固定堰51の堰頂52より少し高くなるように調整されている。
【0022】
強制排水装置60は、下部室15の底部に排水ダクト61が設けられている。水を噴射するジェットノズル63が、排水ダクト61内に向かって配置されている。ジェットノズル63には船上に設置された加圧水ポンプ66が接続されている。加圧水ポンプ66は船外の水を汲み上げて、ジェットノズル63に加圧水管64を介して加圧水を供給する。固定堰51は導入路30内に流入する油水流の抵抗となるので、油水のサイクロン室10内への押込み力が弱まる。このために、流入量が後述の吸油ポンプ74の吸込み量を下回ると、排水ダクト61からも水が吸引されてサイクロン室10内に逆流し、油回収効率(回収油分濃度)が低下する。この強制排水装置60は、ジェットノズル63からジェット水を噴射し、排水ダクト61の入口周辺の、油が分離された水を誘引してサイクロン室10外に強制的に排水する。この強制排水により、サイクロン室流入口13の油水はサイクロン室10内に吸い込まれる。ジェット水の圧力および流量、ならびに排水ダクトの口径および位置は、押込み力がない場合でも上記逆流が生じない値に設定する。
【0023】
油排出装置70は、油回収室18に油移送管72が接続されており、油移送管72は船上に設置された吸油ポンプ74を介して回収油タンク76に接続されている。
【0024】
図5に示すように、導水路30の左側壁32から延びるアーム81の先端にL形のガイドスライダ82が設けられている。ガイドスライダ82は、油回収作業船5の舷側に沿って鉛直方向に延びるガイド84にはめ合っている。油回収装置2は、船上のクレーン(図示しない)でガイド84に案内されて吊り下ろされ、または吊り上げられて油回収作業船5の舷側に取り付けられる。導水流路30の両側壁32、33に掛け渡された桁86に設けられた滑車87は、油回収装置2を吊り下ろし、あるいは吊り上げる際に用いる。
【0025】
上記のように構成された油回収装置2の運転および作動について、図3〜図5を参照して説明する。油回収装置2は、油が浮遊する油回収場所で油回収作業船5から水面に下ろされる。水面と固定堰51の堰頂52との間を油水が流入する高さに、油回収装置2は下ろされる。昇降堰53の底部フロート57への取付け位置は、油回収作業船5の喫水変化に応じてあらかじめ調整しておく。
【0026】
油回収作業船5の前進に伴い導水路30に流入した油水は、サイクロン室10の周壁12に対しほぼ接線方向に流入口13からサイクロン室10内に流入する。このとき、固定堰51は導水路30内に進入する波のエネルギを抑えるとともに、導水路30内で生じた反射流を小さくして流入した油が導水路30から流出しないようにする。油水の流入が始まると、真空ポンプ24および加圧水ポンプ66を駆動する。加圧水ポンプ66の駆動によりジェットノズル63から水が排水ダクト61に向けて噴射される。油水の接線方向の流入およびジェット水の噴射により、油水はサイクロン室10内で渦運動を生じ、油は水から分離して渦の中心部に集まるとともに浮上する。真空ポンプ24の駆動により油回収室18は負圧となり、上部室11内に浮上した油が油回収室18内に吸い込まれる。油回収室18に油が溜まり始めると、吸油ポンプ74を駆動して、油を船上の油タンク76に回収する。
【0027】
喫水、油回収作業船5の傾斜などの変動により導水路30に対する水位が変化すると、固定堰51の水面WLに対する堰頂高さ位置が変化する。このため、固定堰51を超える水量が微妙に変動するので、昇降堰53により堰頂高さ位置を自動的に調整する。例えば、水面WLが導水路30に対し上昇するとフロート55が上昇し、昇降堰53が固定堰51に代わって所定の堰頂高さを自動的に維持する。
【0028】
図6は、この発明の他の実施の形態である油回収装置3を示している。固定堰51および昇降堰53を設けたことにより、油水がサイクロン室流入口13に流入し難くなり、サイクロン室流入口13の手前に油が堆積しやすくなる。油の粘度が高い場合、特に堆積しやすい。この実施の形態では、油回収装置3に油水押込み装置90を設けて油の堆積を防ぐようにしている。油水押込み装置90は、サイクロン室流入口13に向かって水を噴射するジェットノズル92を備えている。ジェットノズル92には、船上に設置された加圧水ポンプ96が接続されている。加圧水ポンプ96は船外の水を汲み上げて、ジェットノズル92に加圧水管94を介して加圧水が供給する。
【0029】
ジェット水をサイクロン室流入口13に向けて噴射することにより、流入口13手前の油水はサイクロン室10内に押し込まれ、サイクロン室流入口13付近に堆積した油は水流に押し込まれ、あるいは誘引されて導水路30からサイクロン室10へ流れ込む。なお、油が高粘度である場合、油水をサイクロン室流入口13で撹拌しても、油粒のエマルジョン化は小さい。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】この発明の水流式浮遊物(油)回収装置を模式的に示す断面側面図である。
【図2】図1に示す油回収装置の模式的正面図である。
【図3】この発明の1実施の形態を示すもので、水流式浮遊物(油)回収装置の断面側面図である。
【図4】図3に示す油回収装置の正面図である。
【図5】図3に示す油回収装置の平面図である。
【図6】この発明の他の実施の形態を示すもので、水流式浮遊物(油)回収装置を模式的に示す断面側面図である。
【符号の説明】
【0031】
1、2、3 油回収装置 5 油回収作業船
10 サイクロン室 11 サイクロン室上部室
12 サイクロン室周壁 13 サイクロン室流入口
15 下部室 18 油回収室
19 仕切り板 22 空気抜き管
24 真空ポンプ 30 導水路
31 導水路流入口 32、33 導水路側壁
35 導水路底板 40 導水路底部
45 フロートガイド 50 油水流入堰
51 固定堰 52 固定堰の堰頂
53 昇降堰 54 昇降堰の堰頂
55 フロート 56 サイドフロート
57 底部フロート 60 強制排水装置
61 排水ダクト 63 ジェットノズル
64 加圧水管 66 加圧水ポンプ
70 油排出装置 72 油移送管
74 吸油ポンプ 76 回収油タンク
81 アーム 82 ガイドスライダ
84 ガイド 90 油水押し込み装置
92 ジェットノズル 94 加圧水管
96 加圧水ポンプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
サイクロン室と、サイクロン室に浮遊物を含む水を導く導水路とを備え、サイクロン室内に浮上した浮遊物を吸引してサイクロン室外に排出する水流式浮遊物回収装置において、導水路の流入口を横切る固定堰を前記サイクロン室流入口に設けたことを特徴とする水流式浮遊物回収装置。
【請求項2】
前記固定堰の直後に配置されたフロートと、フロートに固定され、導水路を横切りかつ静水状態での堰頂の位置が固定堰のものより高い昇降堰とを備えた請求項1記載の水流式浮遊物回収装置。
【請求項3】
水面に対し導水路流入口に向かって傾斜する多孔板からな制波板を導水路の後端寄り、かつ水面近くに設けた請求項1または請求項2記載の水流式浮遊物回収装置。
【請求項4】
前記導水路の底部が網目状底板からなる請求項1、2または3記載の水流式浮遊物回収装置。
【請求項5】
前記サイクロン室の周壁と導水路の側壁との間の排水路に逆止め弁を設けた請求項1〜4のいずれか1項に記載の水流式浮遊物回収装置。
【請求項6】
前記サイクロン室流入口を指向するノズルと、ノズルに加圧水を供給する加圧水供給装置とを備え、サイクロン室流入口にジェット水を噴射する請求項1〜5のいずれか1項に記載の水流式浮遊物回収装置。
【請求項7】
前記サイクロン室底部に設けられた排水ダクトと、排水ダクトを指向するノズルと、ノズルに加圧水を供給する加圧水供給装置とを備え、排水ダクトにジェット水を噴射する請求項1〜6のいずれか1項に記載の水流式浮遊物回収装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−57423(P2006−57423A)
【公開日】平成18年3月2日(2006.3.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−243406(P2004−243406)
【出願日】平成16年8月24日(2004.8.24)
【出願人】(501028390)国土交通省北陸地方整備局長 (12)
【出願人】(595073649)社団法人日本作業船協会 (6)
【出願人】(000229243)株式会社テトラ (12)
【Fターム(参考)】