説明

水溶性スルホ基含有コポリマー、その製造方法および使用

本発明は、セメント、石灰、石膏、硬石膏などの水硬結合剤ベースの水性建築材料系と水性塗料および被覆剤系において保水剤、安定剤およびレオロジー調整剤として使用される水溶性コポリマーに関する。本発明のコポリマーは、比較的少量で使用されるときでさえも極めて有効な保水剤である。これらは、優れたエアーポア安定性および接着性も示す。これらを、建築材料および塗料系中での安定剤としても使用することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水溶性スルホ基含有コポリマー、その製造方法ならびにセメント、石灰、石膏、硬石膏などの水硬結合剤ベースの水性建設材料系ならびに水性塗料および被覆剤系におけるその保水剤、安定剤およびレオロジー調整剤としての使用に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、セメントや石膏などの水硬性または潜在的に水硬性の結合剤への添加剤の添加は、有利に建設材料の性質を改変することが知られている。したがって、例えば、可塑剤のグループからの添加剤の添加は、実質的に流動性を改善することにより加工を容易にする。しかし、高度に流動性を有する混合物の場合には、より重い成分(砂あるいは礫)の材料分離傾向および表面上のブリージング水の分離傾向が著しく増加する。このことは、硬化させる建築材料混合物の施工軟度および固体の性質に有害な影響を及ぼす。したがって、安定剤(抗分離剤、抗ブリージング剤または粘度調整剤としても知られる)が、これらの望ましくない影響を防ぐのに使用される。水溶性の非イオン性多糖誘導体、特にセルロースおよびデンプン誘導体は、水性建設材料混合物に従来から使用されている。しかし、例えば、ウエランガム(welan gum)などの微生物により産生された多糖も、望ましくない材料分離およびブリージング水の分離を防ぐために先行技術に従って使用されている。
【0003】
しかし、多糖の水溶性非イオン性誘導体および微生物により産生された多糖をベースとする添加剤は、流動性水性建設材料系に使用される場合に、様々な重大な欠点を示す。
抗ブリージングおよび抗材料分離の性質は、特に、建設材料混合物の濃厚化(粘度増加)により実現されるので、流動性建設材料用途において流動性、したがって施工軟度には悪影響を及ぼす。これらの流動性用途にとって望ましくない過大な粘着性も頻繁に観測される。
特定の建築材料用途(特にコンクリート)には、上記添加剤を水溶液の形で使用しなければならない。しかし、例えば、セルロースエーテルは可溶性が乏しく、低温および熱の影響で凝集することがあるので、既知の添加剤の水溶液の製造は難しい。分解反応も安定性(貯蔵における)が時間とともに不十分なレベルに低下する原因となる(細菌の侵入)。
建築材料工業に使用されるセルロース誘導体の多くが、凝結遅延特性を示す。
【0004】
しかしながら、水溶性の非イオン性多糖誘導体、特にセルロースおよびデンプン誘導体も、水性建設材料混合物に保水剤として、その水和および施工軟度、または下地への流動性にとって必要である水の望ましくない蒸発を遅らせる、あるいは防ぐために使用される。
【0005】
このタイプの添加剤は、水分保持の主要な機能を、塗料系、下塗り、接着モルタル、フィラーおよび目地材のみならず、トンネル建設用空中打設コンクリートおよび水中コンクリートにおいて、制御できるようにする。このタイプの添加剤は、したがって、コンシステンシー(プラスチシティー)、オープンタイム、スムージング能、材料分離、粘着性、接着性(下地またはツールに対する)、安定性、割れ抵抗性、引張り接着強さおよび圧縮強度または縮みにも重要な影響を及ぼす。
【0006】
水性塗料および被覆剤系においても、とりわけ、多糖誘導体は、例えば顔料の沈降を防ぐために先行技術に従って使用される。微生物の侵入も、混合物の貯蔵における安定性に問題を生じる。
【0007】
先行技術は、主としてそれらがレイタンスから周囲の岩盤構造(rock formation)中への水の損失を減少させるために使用される、マッドの冷却およびボアホールセメンテーションにおける添加剤としての安定化特性を有する合成ポリマーを記載している。ドイツ特許DE2931897A1、DE4034642A1、DE19926355A1およびDE19752093C2は、したがってボアホールセメンテーションのセメンチングにおける助剤としての、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸ベースのコポリマーおよびターポリマーを提案している。これらのポリマーは、ボアホールにおける用途の個別の要件に対して最適化される。モルタルおよびコンクリートまたは水性塗料および被覆剤系などの建設材料混合物に使用されるときに、これらは、ユーザーに対して、流動性が過度に制限されている、ブリージング水の分離を防いでいない、あるいは保水能力が不十分であるなどのいずれかの欠点を示す。
【0008】
特開平10-053627は、高度の流動性を有するコンクリート用の安定剤としてのN-ビニルアセトアミド、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸およびアクリロニトリルのターポリマーを記載している。これらのターポリマーは、非常に良好な安定化効果を示すが、これらは、ブリージング水の分離を防ぐことができない。非常に高価なモノマーのN-ビニルアセトアミドが使用されるので、価格/性能比も、セルロースエーテルのそれよりもずっと悪く、したがってユーザーにとっての大きな金銭上の不利益を生じる。
【0009】
ドイツ特許DE19806482A1および国際公開WO02/10229A1は、非常に良好な保水性を示す、非常に高分子量のスルホ基含有四元ポリマーを記載している。さらに、これらは、これらが上記混合物の塑性粘度を著しく増加させるという点で、非常に良好な安定化効果も有する。
【0010】
この著しい濃厚化によって、これらのポリマーは、流動性建設材料混合物または水性塗料および被覆剤系に対して適さなくなる。というのは、施工軟度が、ユーザーにとって受け入れがたい程度に制限されるからである。記載されたポリマーは、魚毒性に関して問題のある相当の割合の陽イオン性モノマーも含有する。
【0011】
流動性を持たない建設材料系においては、ドイツ特許DE-OS19806482および国際公開WO02/10229に記載されたコポリマーは、特にタイル接着剤のみならずプラスターに求められる粘着性を持たないという欠点を示す。上記タイル接着剤は、したがってフィラーに適切に接着せず、スプレッディングコームを用いて除去することができない。
【0012】
両方の用途においては、ただし特にプラスター用途においては、気泡の不十分な安定性も問題である。エアーポアフォーマーを使用してしばしば導入される空気は、しばしば、恐らくポリマー中に含まれる陽イオン性の構造単位の結果として、約10〜20分後に破裂する。
【0013】
高い塩濃度の存在下における濃厚化も、接着剤のみならずプラスターにおいて必要である。ドイツ特許DE19806482A1によるポリマーとは対照的に、高い塩濃度の存在下でさえも、国際公開WO02/10229A1による、スルホ基含有の、高分子量の会合性濃厚化コポリマーは、著しい粘度低下を示さない。
【特許文献1】ドイツ特許DE2931897A1
【特許文献2】ドイツ特許DE4034642A1
【特許文献3】ドイツ特許DE19926355A1
【特許文献4】ドイツ特許DE19752093C2
【特許文献5】特開平10-053627
【特許文献6】ドイツ特許DE19806482A1
【特許文献7】国際公開WO02/10229A1
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明の目的は、先行技術の前述の欠点を持たず、むしろ流動性を持たない建設材料系における用途にとって不十分な気泡安定性および合成ポリマーの不十分な粘着性を改善し、水性流動性建設材料系および水性塗料および被覆剤系用の安定剤としての優れた安定化効果を有し、同時に、施工軟度に悪影響を与えたり、ポンプで圧送する建設材料混合物の場合にポンプ圧力が著しくは増加しないように、上記系の粘度を著しく増加させないコポリマーを提供すること、ならびにその水性建設材料系と水性塗料および被覆剤系用の保水剤、安定剤およびレオロジー調整剤としての用途を提供することである。
【0015】
さらに、上記添加剤は、加工中および硬化または乾燥状態において、建設材料および被覆剤系に、優れた用途関連の特性も与えなければならない。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明によれば、この目的は、請求項1に対応するコポリマーにより達成される。
【0017】
すなわち、本発明によるコポリマーが、セメント、石灰、石膏、硬石膏などの水硬結合剤ベースの水性建設材料系と水性塗料および被覆剤系における、気泡安定性の実質的な改善を提供することが驚くべきことに見出された。
【0018】
上記コポリマーの組成に応じて、レオロジー調整、保水能力および粘着性を各用途に最適に調節することもでき、このことも予測できなかった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明に対応する水溶性スルホ基含有コポリマーは、4種の構造グループa)、b)、c)およびd)のうちの少なくとも3種からなり、構造単位a)およびb)は必須である。
【0020】
第1の構造グループは、式(I)のスルホ基含有置換アクリル酸またはメタクリル酸誘導体であり、
【0021】
【化1】

【0022】
式中、
R1=水素またはメチル、
R2、R3、R4=水素、1〜6個の炭素原子を含有する脂肪族炭化水素基、メチル基で置換されていてもよいフェニル基、
M=水素、1価または2価の金属陽イオン、非置換のアンモニウムイオンまたは有機基で置換されたイオン、
a=1/2または1である。
【0023】
使用される1価または2価の金属陽イオンは、好ましくは、ナトリウム、カリウム、カルシウムまたはマグネシウムイオンである。有機基で置換されたアンモニウムイオンは、好ましくは、第1級、第2級または第3級C1〜C20アルキルアミン、C1〜C20アルカノールアミン、C5〜C8シクロアルキルアミンおよびC6〜C14アリールアミンから誘導される。相当するアミンの例には、プロトン化アンモニウムの形のメチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、シクロヘキシルアミン、ジシクロヘキシルアミン、フェニルアミンおよびジフェニルアミンが含まれる。
【0024】
構造グループa)は、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、2-メタクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、2-アクリルアミドブタンスルホン酸、3-アクリルアミド-3-メチルブタンスルホン酸、2-アクリルアミド-2,4,4-トリメチルペンタンスルホン酸などのモノマーから誘導される。特に好ましいのは、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸である。
【0025】
第2の構造グループである構造グループb)は、式(II)に相当し、
【0026】
【化2】

【0027】
式中、
R1は、上記の意味を有し、
R5およびR6はそれぞれ独立に、水素、1〜20個の炭素原子を含有する脂肪族炭化水素基、5〜8個の炭素原子を含有する脂環式炭化水素基または6〜14個の炭素原子を含有するアリール基を表す。
【0028】
構造(II)を形成するモノマーには、好ましくは、次の化合物、すなわち、アクリルアミド、メタクリルアミド、N-メチルアクリルアミド、N,N-ジメチルアクリルアミド、N-エチルアクリルアミド、N-シクロヘキシルアクリルアミド、N-ベンジルアクリルアミド、N-メチロールアクリルアミド、N-t-ブチルアクリルアミドが含まれる。
【0029】
第3の構造グループである構造グループc)は、式(III)に相当し、
【0030】
【化3】

【0031】
式中、
Y=-COO(CnH2nO)p-R7、-(CH2)q-O(CnH2nO)p-R7
R7=
【0032】
【化4】

【0033】
および10〜40個の炭素原子を含有する不飽和または飽和、直鎖または枝分れした脂肪族アルキル基、
R8=H、C1〜C6アルキル、C1〜C12アルキルを含有するアリールアルキル基およびC6〜C14アリール基、
n=2〜4、
p=0〜200、
q=0〜20、
x=0〜3、
R1は上記の意味を有する。
【0034】
構造(III)を形成する好ましいモノマーには、トリスチリルフェノール-ポリエチレングリコール-1100-メタクリレート、ベヘニルポリエチレングリコール-1100-メタクリレート、ステアリルポリエチレングリコール-1100-メタクリレート、トリスチリルフェノール-ポリエチレングリコール-1100-アクリレート、トリスチリルフェノール-ポリエチレングリコール-1100-モノビニルエーテル、ベヘニルポリエチレングリコール-1100-モノビニルエーテル、ステアリルポリエチレングリコール-1100-モノビニルエーテル、トリスチリルフェノール-ポリエチレングリコール-1100-ビニルオキシ-ブチルエーテル、ベヘニルポリエチレングリコール-1100-ビニルオキシ-ブチルエーテル、トリスチリルフェノール-ポリエチレングリコール-ブロック-プロピレングリコールアリルエーテル、ベヘニルポリエチレングリコール-ブロック-プロピレングリコールアリルエーテル、ステアリルポリエチレングリコール-ブロック-プロピレングリコールアリルエーテルなどが含まれる。
【0035】
第4の構造グループである構造グループd)は、式(IV)に相当し、
【0036】
【化5】

【0037】
式中、
Z=-(CH2)q-O(CnH2nO)p-R9
R9=H、C1〜C4アルキル、
R1、n、pおよびqは、上記の意味を有する。
【0038】
構造(IV)を形成する好ましいモノマーには、アリルポリエチレングリコール-(350〜2000)、メチルポリエチレングリコール-(350〜2000)-モノビニルエーテル、ポリエチレングリコール-(500〜5000)-ビニルオキシ-ブチルエーテル、ポリエチレングリコール-ブロック-プロピレングリコール-(500〜5000)-ビニルオキシ-ブチルエーテル、メチルポリエチレングリコール-ブロック-プロピレングリコールアリルエーテルなどが含まれる。
【0039】
上記コポリマーが、3〜96mol%の構造グループa)、3〜96mol%の構造グループb)、0.01〜10mol%の構造グループc)および/または0.1〜30mol%の構造グループd)からなることは本発明の手段になると見なされるものである。好ましくは、使用されるコポリマーは、30〜80mol%のa)、5〜50mol%のb)、0.1〜5mol%のc)および/または0.2〜15mol%のd)を含む。
【0040】
さらに、構造グループa)、b)およびc)のコポリマーはタイプAと呼ばれ、構造グループa)、b)、c)およびd)のコポリマーはタイプBと呼ばれ、構造グループa)、b)およびd)はタイプCと呼ばれる。
【0041】
本発明の範囲においては、本発明によるタイプBおよびCのコポリマーは、構造グループa)、b)、c)およびd)の合計mol%に対して50mol%までの、特に20mol%のさらなる式(V)の構造グループe)をさらに含有することも可能であり、
【0042】
【化6】

【0043】
式中、
W=-CO-O-(CH2)m-、-CO-NR2-(CH2)m-、
m=1〜6、
R1、R2、R5およびR6は上記の意味を有する。
【0044】
構造(V)を形成するモノマーには、好ましくは、次の化合物、すなわち、[3-(メタクリロイルアミノ)-プロピル]-ジメチルアミン、[3-(アクリロイルアミノ)-プロピル]-ジメチルアミン、[2-(メタクリロイル-オキシ)-エチル]-ジメチルアミン、[2-(アクリロイル-オキシ)-エチル]-ジメチルアミン、[2-(メタクリロイル-オキシ)-エチル]-ジエチルアミン、[2-(アクリロイル-オキシ)-エチル]-ジエチルアミンなどが含まれる。
【0045】
本発明の範囲においては、本発明によるコポリマーにおいて構造グループa)の50%までが、式(VI)のスルホン酸含有ベタインモノマーによって置換されることも可能であり、
【0046】
【化7】

【0047】
式中、
【0048】
【化8】

【0049】
R1、R2およびmは上記の意味を有する。
【0050】
構造(VI)を形成するモノマーには、好ましくは、次の化合物、すなわちN-(3-スルホプロピル)-N-メタクリルオキシエチル-N,N-ジメチル-アンモニウム-ベタイン、N-(3-スルホプロピル)-N-メタクリルアミドプロピル-N,N-ジメチル-アンモニウム-ベタインおよび1-(3-スルホプロピル)-2-ビニル-ピリジニウム-ベタインが含まれる。これらのモノマーは、陽イオン性構造グループも含有するが、このことは、上記用途で気泡安定性に悪影響を与えない。
【0051】
適切な場合には、少量の架橋剤を組み込むことにより、上記コポリマーに、少しだけ枝分れした、または架橋した構造を提供し得る。このタイプの架橋剤の例には、トリアリルアミン、トリアリルメチルアンモニウムクロリド、テトラアリルアンモニウムクロリド、N,N'-メチレン-ビス-アクリルアミド、トリエチレングリコール-ビス-メタクリレート、トリエチレングリコール-ビス-アクリレート、ポリエチレングリコール(400)-ビス-メタクリレート、ポリエチレングリコール(400)-ビス-アクリレートが含まれる。これらの化合物は、水溶性のコポリマーが依然として得られるような量においてのみ使用することができる。当分野の技術者は、架橋剤成分の最大使用可能量を容易に決めることができるが、一般的には、上記濃度は、構造グループa)、b)、c)、d)、e)およびf)の合計に対して0.1mol%を超えることはまれである。
【0052】
本発明によるコポリマーは、ラジカル、イオンまたは錯体配位固相(ionic or complex coordination substance)、溶液、ゲル、乳化、分散または懸濁重合により、構造a)〜d)を形成するモノマーの結合により、それ自体が周知である方法で調製される。本発明による製品は、水溶性コポリマーであるので、水相中の重合、逆エマルジョン重合または逆懸濁重合が好ましい。特に好ましい実施形態においては、上記反応は、水相中のゲル重合として実施される。
【0053】
好ましいゲル重合においては、低い反応温度において適切な開始剤系を用いて重合を実施することが有利である。最初は低温で光化学的に開始され、次いで重合の発熱により熱的に開始される、2つの開始剤系の組合せ(アゾ開始剤およびレドックス系が≧99%の反応率の達成を可能にする。
【0054】
分子量調整剤などの他の助剤、例えば、チオグリコール酸、メルカプトエタノール、ギ酸および次亜リン酸ナトリウムも使用することができる。
【0055】
ゲルブロックの後処理は、ゲル細粒をケーキングから防ぐ剥離剤(例えば、Goldschmidtからのsitren 595)を用いることで促進される。したがって、さらさらしたゲル粒子は、より容易に乾燥格子上に分配することができる。このことは、乾燥プロセスを促進し、乾燥時間の減少を可能にさえする。
【0056】
上記ゲル重合は、好ましくは、-5〜50℃で実施され、水溶液の濃度は、好ましくは、35〜70重量%に調節される。好ましい一実施形態に従って重合を実施するためには、その通常の市販の酸の形の、スルホ基含有(メタ)アクリル酸誘導体を、水に溶解し、アルカリ金属水酸化物の添加により中和し、本発明に従って使用されるさらなるモノマーと緩衝剤、分子量調整剤およびその他の重合助剤と撹拌しながら混合する。好ましくは4〜9である重合pHの調節後、上記混合物を、ヘリウムまたは窒素などの保護ガスでフラッシュし、次いで所定の温度に加熱または冷却する。撹拌しないゲル重合を実施形態として選択する場合、重合を、断熱的な反応条件下で、好ましい2〜20cmの、特に8〜10cmの層厚みで実施する。重合を、低温(-5〜10℃)で重合開始剤の添加および紫外線の照射により開始する。モノマーの反応が完了次第、表面積を増加させることにより乾燥を促進するために、ポリマーを剥離剤(例えば、GoldschmidtからのSitren 595)を用いて細かに砕く。
【0057】
できるだけゆるやかな反応および乾燥条件を用いることが、架橋の二次反応を回避することを可能にし、したがって非常に低いゲル含有率を有するポリマーを提供する。
【0058】
本発明によるコポリマーは、好ましくは、数平均分子量Mnが50,000〜20,000,000g/molであり、セメント、石灰、石膏、硬石膏などの水硬結合剤を含有する水性建築材料系用の優れた添加剤である。これらは、水性塗料および被覆剤系に使用することもできる。
【0059】
構造単位a)、b)およびc)のタイプAのコポリマーは、驚くべきことに非常に良好な気泡安定性を示す。これらは、非常に良好な保水性、塩に安定な濃厚化作用および優れた粘着性(例えば、タイル接着用モルタルにおいて)も有する。構造単位a)、b)、c)およびd)のタイプBのコポリマーも、残りのプラスの性質を犠牲にせずに、顕著な粘着性を示す。共に本発明によるコポリマーであるタイプAおよびBコポリマーは、例えば、タイル接着剤、下塗りおよび目地材などの流動性を持たない建設材料系における使用に理想的である。これらは、加工中においても硬化または乾燥状態においても、これらの建設材料に優れた用途関連の性質を与える。
【0060】
構造単位a)、b)およびd)のタイプCのコポリマーも、非常に良好な気泡安定性を有するが、保水性、粘着性および濃厚化作用は、タイプAおよびBポリマーに比べて著しく減少する。しかし、高度に流動性を有する建設材料系においては、タイプCコポリマーは、少量添加したときでさえも優れた安定化特性を有し、表面におけるブリージング水の分離を防ぐ。これらは、加工中においても硬化または乾燥状態においても、セルフレベリングスクリード、注入モルタルおよび補修用モルタル、フロースクリード(flow screed)、自己充填コンクリート、水中コンクリート、水中モルタル、顔料含有塗料などに、優れた用途関連の性質を与える。上記コポリマーの添加は、建築材料混合物の粘度(塑性粘度)を実質的に増加させず、降伏価は殆ど変わらず、流動性建築材料系の施工軟度は制限されない。コポリマーCの水溶液も、貯蔵において非常に良好な安定性を有する。
【0061】
本発明によるタイプBおよびCコポリマーは、含有する構造単位d)がガラス転移温度を下げることにおいても顕著であり、このことは水性塗料および被覆剤系の用途にとって有利である。構造グループe)のモノマー成分が含まれる場合、この効果はさらに増強される。
【0062】
本発明によるコポリマーは、メチルセルロース(MC)、ヒドロキシエチルセルロース(HEC)、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、メチルヒドロキシエチルセルロース(MHEC)、メチルヒドロキシプロピルセルロース(MHPC)、メチルヒドロキシプロピルセルロース(MHPC)およびウエランガムまたはデュータンガウム(diutan gum)などの非イオン性多糖誘導体と組み合わせて使用することもできる。
【0063】
本発明によるコポリマーの使用される好ましい数量は、使用のタイプに応じて、建設材料、塗料または被覆剤系の乾燥重量に対して、0.001〜5重量%である。
【0064】
乾燥コポリマーが、本発明によるその使用のために粉末状で硬練りモルタル用途に供給される(例えば、タイル接着剤、注入モルタル、フロースクリード)。粉砕パラメーター(Grinding parameters)を適合させることにより、平均粒径が100μm未満で、200μmを超える直径を有する粒子の割合が2重量%未満となるように、粒子サイズ分布を選択することが可能になる。好ましいのは、60μm未満の平均径を有し、120μmを超える直径を有する粒子の割合が2重量%未満である粒子である。特に好ましいのは、50μm未満の平均粒径を有し、100μmを超える直径を有する粒子の割合が2重量%未満である粉末である。
【0065】
一方、コンクリートにおいては、添加剤は一般的に、また安定剤は特に、水溶液の形で使用するのが好ましい。上記溶液を調製するのに特に適しているのは、本発明によるコポリマーの、300μm〜800μmの平均粒径を有し、100μm未満の直径を有する粒子の割合が2重量%未満である比較的粗い細粒である。本発明によるコポリマーを、他のコンクリート添加剤またはコンクリート添加剤の配合物(例えば、可塑剤中に)に溶解する場合も同様である。
【0066】
以下の実施例は、本発明をより詳細に例示する。
【0067】
(実施例)
コポリマー1
水650gを、撹拌機および温度計を備えた1リットルの三つ口フラスコ中に装入した。水酸化ナトリウムペレット87gを撹拌しながら溶解し、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸(I)450g(2.17mol、56.6mol%)をゆっくりと添加し、透明な溶液が得られるまで撹拌した。クエン酸水和物0.50gを添加後、5重量%水酸化ナトリウム水溶液を撹拌かつ冷却しながら添加し、次いで、pH4.60に調節した(1.64mol、42.8mol%)のN,N-ジメチルアクリルアミド(II)164gおよびトリスチリルフェノール-ポリエチレングリコール-1100-メチクリレート(RhodiaからのSipomer SEM 25、25エチレングリコール単位含有)(III)8.6g(0.023mol、0.6mol%)を連続して添加し、そこでpHは3に低下した。ギ酸300ppmを分子量調整剤として添加した。上記溶液を、20%水酸化ナトリウム水溶液を用いてpH=6.0に調節し、30分間窒素でフラッシュして不活性にし、約5℃に冷却した。上記溶液を、15cm×10cm×20cmの寸法(w×d×h)を有する塑性材料容器中に移し、次いで、2,2'-アゾ-ビス-(2-アミジノプロパン)-二塩酸塩150mg、1%ロンガリットC溶液1.0gおよび0.1%t-ブチルヒドロペルオキシド溶液10gを連続して添加した。重合を、紫外線(Philips管2本、Cleo Performance 40W)の照射により開始した。約2〜3時間後、硬いゲルを塑性材料容器から取り出し、はさみを用いて約5cm×5cm×5cmの寸法の立方体のゲルに裁断した。通常のミンサー(mincer)を用いて粉砕する前に、立方体のゲルに、剥離剤のsitren 595(ポリジメチルシロキサンエマルジョン、Goldschmidt)をはけで塗った。離型剤は、1:20の比に水で希釈したポリジメチルシロキサンエマルジョンである。
【0068】
得られたゲル細粒を、乾燥格子上に均一に分配し、一定した重量となるまで90〜120℃において真空下で空気循環乾燥器中において乾燥した。
【0069】
約650gの白色の、硬い細粒が得られ、この細粒を遠心ミルを用いて粉末状態にした。ポリマー粉末の平均粒径は、40μmであり、100μmを超える直径を有する粒子の割合は、1重量%未満であった。
【0070】
コポリマー2
コポリマー1に従って、コポリマー2を、53mol%の2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸(I)、46.7mol%のアクリルアミド(II)および0.3mol%のトリスチリルフェノール-ポリエチレングリコール-1100-メタクリレート(RhodiaからのSipomer SEM 25)(III)から調製した。ギ酸1,200ppmを分子量調整剤として添加した。
【0071】
コポリマー3
コポリマー1に従って、コポリマー3を、54mol%の2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸(I)、45.8mol%のアクリルアミド(II)および0.2mol%のステアリルポリエチレングリコール-1100-メタクリレート(RohmからのPlex 6877-O)(III)から調製した。ギ酸1,200ppmを分子量調整剤として添加した。
【0072】
コポリマー4
コポリマー1に従って、コポリマー4を、50.6mol%の2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸(I)、47.6mol%のアクリルアミド(II)、0.2mol%のトリスチリルフェノール-ポリエチレングリコール-1100-メタクリレート(RhodiaからのSipomer SEM 25)(III)および1.6mol%のポリエチレングリコール-ブロック-プロピレングリコール-(1100)-ビニルオキシ-ブチルエーテル(ClariantからのEmulsogen R 208)(IV)から調製した。ギ酸1,000ppmを分子量調整剤として添加した。
【0073】
コポリマー5
コポリマー1に従って、コポリマー5を、54.3mol%の2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸(I)、44.3mol%のアクリルアミド(II)、0.1mol%のステアリルポリエチレングリコール-1100-メタクリレート(RohmからのPlex 6877-O)(III)および1.3mol%のポリエチレングリコール-ブロック-プロピレングリコール-(1100)-ビニルオキシ-ブチルエーテル(ClariantからのEmulsogen R 208)(IV)から調製した。ギ酸1,000ppmを分子量調整剤として添加した。
【0074】
コポリマー6
コポリマー1に従って、コポリマー6を、52.6mol%の2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸(I)、45.6mol%のアクリルアミド(II)、0.2mol%のトリスチリルフェノール-ポリエチレングリコール-1100-メタクリレート(RhodiaからのSipomer SEM 25)(III)および1.1mol%のポリエチレングリコール-ブロック-プロピレングリコール-(790)-ビニルオキシ-ブチルエーテル(ClariantからのEmulsogen R 109)(IV)および0.5mol%のポリエチレングリコール-ブロック-プロピレングリコール-(3000)-ビニルオキシ-ブチルエーテル(IV)から調製した。ギ酸800ppmを分子量調整剤として添加した。
【0075】
コポリマー7
コポリマー1に従って、コポリマー7を、58.4mol%の2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸(I)、27.2mol%のアクリルアミド(II)、0.3mol%のトリスチリルフェノール-ポリエチレングリコール-1100-メタクリレート(RhodiaからのSipomer SEM 25)(III)および1.7mol%のポリエチレングリコール-ブロック-プロピレングリコール-(1100)-ビニルオキシ-ブチルエーテル(ClariantからのEmulsogen R 109)(IV)および12.4mol%の[3-(アクリロイルアミノ)-プロピル]-ジメチルアミン(V)から調製した。ギ酸800ppmを分子量調整剤として添加した。
【0076】
コポリマー8
コポリマー1に従って、コポリマー8を、56.3mol%の2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸(I)、42.3mol%のアクリルアミド(II)、1.4mol%のポリエチレングリコール-ブロック-プロピレングリコール-(1100)-ビニルオキシ-ブチルエーテル(IV)から調製した。ギ酸300ppmを分子量調整剤として添加した。
【0077】
コポリマー9
コポリマー1に従って、コポリマー9を、70.2mol%の2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸(I)、27.4mol%のアクリルアミド(II)のN,N'-ジメチルアクリルアミド(II)および2.4mol%のポリエチレングリコール-ブロック-プロピレングリコール-(790)-ビニルオキシ-ブチルエーテル(ClariantからのEmulsogen R 109)(IV)から調製した。ギ酸600ppmを分子量調整剤として添加した。
【0078】
コポリマー10
コポリマー1に従って、コポリマー10を、46.6mol%の2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸(I)、52.1mol%のアクリルアミド(II)、1.3mol%のポリエチレングリコール-ブロック-プロピレングリコール-(1100)-ビニルオキシ-ブチルエーテル(ClariantからのEmulsogen R 208)(IV)から調製した。ギ酸800ppmを分子量調整剤として添加した。
【0079】
コポリマー11
コポリマー1に従って、コポリマー11を、60.3mol%の2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸(I)、35.3mol%のN,N'-ジメチルアクリルアミド(II)、3.5mol%のポリエチレングリコール-ブロック-プロピレングリコール-(790)-ビニルオキシ-ブチルエーテル(ClariantからのEmulsogen R 109)(IV)および0.9mol%のポリエチレングリコール-ブロック-プロピレングリコール-(3000)-ビニルオキシ-ブチル(IV)から調製した。ギ酸500ppmを分子量調整剤として添加した。
【0080】
コポリマー12
コポリマー1に従って、コポリマー12を、47.5mol%の2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸(I)、42.3mol%のアクリルアミド(II)、1.5mol%のポリエチレングリコール-ブロック-プロピレングリコール-(1100)-ビニルオキシ-ブチルエーテル(ClariantからのEmulsogen R 208)(IV)および8.7mol%の[3-(アクリロイルアミノ)-プロピル]-ジメチルアミン(V)から調製した。ギ酸800ppmを分子量調整剤として添加した。
【0081】
比較例1
ドイツ特許DE19806482A1に従って、比較例1を、68.8mol%の2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、25.4mol%のN,N'-ジメチルアクリルアミド、5.4mol%の[2-(メタクリロイルオキシ)-エチル]-トリメチルアンモニウムメト硫酸塩および0.4mol%のアリルポリエチレングリコール-550から調製した。
【0082】
比較例2
国際公開WO02/10229A1に従って、比較例2を、69.0mol%の2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、26.4mol%のN,N'-ジメチルアクリルアミド、3.8mol%の[2-(メタクリロイルアミド)-プロピル]-トリメチルアンモニウム塩酸塩および0.8mol%のトリスチリルフェノール-ポリエチレングリコール-1100-メタクリレートから調製した。
【0083】
表1は粉砕特性および所要乾燥時間を記載している。粉砕粉の残存水分は、乾燥プロセス完了時の測定である。
【0084】
【表1】

【0085】
表2は、水溶液の溶液粘度を記載している。
【0086】
【表2】

【0087】
明らかに見られるように、ポリマー溶液の粘度は、塩の添加なしの粘度は同じレベルであるが、電解質を添加したときに比較例1よりずっと高い。比較例2におけるように、実施例1〜3および4〜7の粘度は、電解質の影響で顕著に低下する。粘度の低下は、実施例8〜12においてずっと目立っているが、比較例1ほどには目立っていない。
【0088】
用途例
本発明によるコポリマーの用途関連の評価は、タイル接着用モルタル、機械塗布プラスター、セルフレベリングギャップレベリング材料、注入モルタルおよび自己充填コンクリートの分野からの試験の組合せに基づいた。
【0089】
1)タイル接着用モルタル
実用試験を、本発明によるコポリマーまたは比較用製品を固形で添加したすぐ使用できるドライミックスを用いて実施した。ドライミキシングに次いで、一定量の水を添加しG3ミキサーを備える動力ドリル(2×15秒間)を用いて強力に撹拌した。撹拌した混合物を、次いで最初の外観試験にかける前に5分間放置して養生した。
【0090】
スランプの測定
スランプを、最初に養生時間の後に、第2に撹拌(短時間の手動撹拌後)後30分にDIN 18555,Part 2に従って測定した。
【0091】
保水率の測定
保水率を撹拌後約30分にDIN 18555,Part 7に従って算出した。
【0092】
気泡安定性の判定
気泡安定性を、視覚的評価により定性的に判定した。
【0093】
粘着性の判定
粘着性を視覚的評価により定性的に判定した。
【0094】
タイルのぬれの測定
タイル接着用配合物を、繊維セメント板に塗布し、この板上に10分後にタイル(5×5cm)を置き、このタイルに2kgのおもりを30秒間載せた。さらに60分経過後、このタイルを剥がし、タイルの裏面の何パーセントが依然として接着剤に覆われているかを算出した。
【0095】
表3はタイル接着用モルタルの組成を示している。
【0096】
【表3】

【0097】
本発明によるコポリマーおよび比較例のポリマーを用いて得られた試験結果を表4に示す。
【0098】
【表4】

【0099】
本発明によるタイプAのコポリマー(実施例1〜3)は、比較例1および2と類似した保水率数値および粘着性を生ずることを表4の試験結果は示している。しかし、スランプ、ぬれおよび気泡安定性は、陽イオン性モノマーを含有する比較例1および2より格段に良い。
【0100】
本発明によるタイプBのコポリマー(実施例4〜7)は、同様のプラスの性質のみならず優れた粘着性を示している。最良のタイプBの性質は、2種の鎖長の異なるポリエチレングリコール-ブロック-プロピレングリコール-ビニルオキシ-ブチルエーテルを含有する実施例6により示されている。
【0101】
一方、実施例9および12を用いて得られた試験結果は、本発明によるタイプCのコポリマーは、この用途に適していないことを示している。保水率数値、粘着性、スランプ、ぬれおよび気泡安定性は、タイプAおよびBのコポリマーに比べて減少している。
【0102】
2)機械塗布プラスター
実用試験を、本発明によるコポリマーまたは比較用の製品を固形で添加したすぐ使用できるドライミックスを用いて実施した。ドライミキシングに次いで、一定量の水を添加し、G3ミキサーを備える動力ドリル(2×15秒間)を用いて強力に撹拌した。撹拌した混合物を、次いで2分間放置して養生し、最初の外観試験にかけた。
【0103】
スランプの測定
スランプを、養生時間後に、DIN 18555,Part 2に従って測定した。
【0104】
保水率の測定
保水率を、養生時間後に、DIN 18555,Part 7に従って算出した。
【0105】
気泡含有率の測定
気泡含有率を、養生時間後に、DIN 18555,Part 7に従って算出した。
【0106】
気泡安定性の判定
気泡安定性を、視覚的評価により定性的に判定した。
【0107】
凝結挙動の評価
硬さを、24時間後に視覚的に評価する(定性的評価)。
【0108】
表5は、機械塗布プラスターの組成を示している。
【0109】
【表5】

【0110】
【表6】

【0111】
表6の試験結果は、本発明によるタイプAのコポリマー(実施例2〜3)およびB(実施例4、6および7)は、優れた保水率数値を生ずること(比較例1および2のそれらと類似)を示している。しかし、特にタイプBのコポリマーのスランプは、比較例1および2よりも良い。本発明によるコポリマーを用いてもたらされた気泡安定性は、陽イオン性モノマーを含有する比較例1および2よりも格段に良いことも注目される。
【0112】
一方、実施例9および12を用いて得られた試験結果は、本発明によるタイプCのコポリマーはこの用途に適していないことを示している。保水率数値、スランプおよび気泡含有率は、タイプAおよびBのコポリマーに比べて低下している。
【0113】
3)セルフレベリングセメント質レベリング材料
セルフレベリングセメント質レベリング材料においては、先行技術に従って、この場合に流動促進剤としてだけでなく、安定剤としてもある程度作用するカゼインが使用される。少量のセルロースエーテルが、混合物の安定化(材料分離およびブリージングの防止)を実現するのに十分である。しかし、セルフレベリング下葺(SLU)とも呼ばれるこのタイプのレベリング材料は、ポリカルボキシレートエーテル可塑剤を用いて可塑化することもできる。これも安定剤の添加を必要とする。
【0114】
セルフレベリングセメント質レベリング材料を、実験室でDIN EN 196-1に従って、モルタルミキサーを用いて混合した。混合プロセスをEN 1937に従って実施した。全体の混合時間は7分55秒であった。
【0115】
フローディメンション(=cmで表したスプレッドケーキの直径)を、EN 12706(1999年11月版)に従って、乾燥した窓ガラス板である平面上で規定リング(内径=30mm、高さ=50mm)を用いて測定した。フローディメンションを、時間t=8、30、45分において混合物ごとに3回測定した(フローディメンションの測定前に、いずれの場合も、混合物をスプーンを用いて再び60秒間撹拌した)。
【0116】
自己回復性(self-healing)の判定
塗布したレベリング材料の自己回復特性をナイフカットテストとして知られるテストを用いて試験した。スプレッドケーキを、したがって、時間t=8分に平面のプラスチック材料板上に最初に生成し、EN 12706に従った規定リングを再びこの目的に使用した。放置して養生したこの円形のスプレッドケーキを、通常の包丁を用いて刃が切れ目全体にわたってスプレッドケーキの底部でプラスチック材料板と接触(約2秒間)するように裁断した。ナイフによる裁断を、次いで混合の開始後の時間t=8、15、30および45分に実施した。
【0117】
スプレッドケーキを、次いで標準の大気条件下(プラス20℃、相対湿度65%)で硬化するまで24時間貯蔵した。その前日にナイフカットをおこなった箇所を、スプレッドケーキにナイフカットで形成された切り口がいかに効果的に自己回復したか(すなわち、再収束したか)を明らかにするように次いで視覚的に、場合によっては手で厳密に調べて評価した。
【0118】
次の7段階評価等級を、自己回復特性を評価するのに使用した。
グレード1:切り口は完全に消え、目に見えない
グレード2:切り口は消えてきているが、まだ目で見える
グレード3:切り口は消えてきているが、エッジが目で見える
グレード4:切り口は消えてきているが、エッジがはっきりと目で見える
グレード5:切り口ははっきりと消えておらず、切り口が残っている
グレード6:切り口ははっきりと消えておらず、深い切り口が残っている
グレード7:切り口は消えておらず、切り口が層の底部まで残っている
【0119】
表7は、セルフレベリングセメント質レベリング材料の組成を示している。
【0120】
【表7】

【0121】
【表8】

【0122】
表8の試験結果が示すように、本発明によるタイプCのコポリマー(実施例8〜10および12)は、時間とともに非常に良好なフローディメンションを保証し、効果的にブリージングおよび材料分離を防ぐ。さらに、自己回復能力は、15分および30分後に非常に良好であり、長期の45分後もなお良好である。ポリカルボキシレートエーテルフロー促進剤(Melflux 2651 F)を溶かした、セルフレベリングセメント質ギャップフィリング材料においては、本発明によるタイプCのコポリマーは、優れた安定剤として作用し、建築材料混合物の最適な施工軟度をユーザーに保証する。
【0123】
本発明によるタイプCのコポリマーは、セメント水和も硬化も遅らせない。強度の発展への、認識できる有害な影響もない。
【0124】
タイプA(実施例1)およびタイプB(実施例6)のコポリマーを含有したものも、比較例1および2におけるように、ブリージングおよび材料分離は発生しないが、フロー挙動および自己回復特性は、とりわけ時間が経つと非常に顕著に制限され、このことはユーザーにとって非常に不利である。これらのポリマーの添加量を半減させることは、セルフレベリングセメント質レベリング材料の非常に良好な挙動を提供するが、顕著なブリージングおよび剥離が発生し、このこともユーザーにとって非常に不利である。
【0125】
4)注入モルタル
セメントモルタルを、実験室でDIN EN 196-1に従って、モルタルミキサーを用いて混合した。混合プロセスも、DIN EN 196-1に記載のとおりに実施した。混合時間は4分であった。フローディメンション(=cmで表したスプレッドケーキの直径)を、乾燥した窓ガラスである表面上でDIN EN 196、Part 3に記載のVicat-ring(頂部の内径=70mm、底部の内径=80mm、高さ=40mm)を用いて測定した。フローディメンションを、時間t=5、30、60分において混合物ごとに3回測定した(フローディメンションの測定前に、混合物をいずれの場合もスプーンを用いて再び60秒間撹拌した)。
【0126】
表9は、注入モルタルの組成を示している。
【0127】
【表9】

【0128】
【表10】

【0129】
表10の試験結果は、本発明によるタイプCのコポリマー(実施例8〜12)は、時間が経っても、非常に良好なフローディメンションおよびブリージングおよび材料分離の効果的な防止を保証することを示している。このことは、本発明によるタイプCのコポリマーは、ポリカルボキシレートエーテルのフロー促進剤(Melflux 1641 F、Degussa Construction Polymers GmbH)と協働してユーザーに注入モルタルの最適な施工軟度を保証するための優れた安定剤であることを示している。本発明によるタイプCのコポリマー(実施例8〜12)を含有すると、ブリージングおよび剥離の発生なしに、時間とともにより高いフローディメンションが得られるので、施工軟度は、通常の市販の安定剤(セルロースエーテルとの比較)を含有するよりさらに良い。
【0130】
タイプA(実施例2)およびタイプB(実施例4)のコポリマーも、比較例1および2もブリージングまたは材料分離は発生しないが、フロー挙動は、非常に顕著に制限され、このことは、ユーザーにとって非常に不利である。これらのポリマーの添加量を半減させることは、注入モルタルの非常に良好なフロー挙動を提供するが、顕著なブリージングおよび剥離が発生し、このこともユーザーにとって非常に不利である。
【0131】
5)自己充填コンクリート
自己充填コンクリートを、50リットル強制練りミキサーを用いて実験室で混合した。上記ミキサーの効率は、45%であった。混合プロセス中、添加剤および細粉末物質を、練混ぜ水、フロー促進剤および安定剤(水溶液としてのまたは粉末としての)を次いで添加する前に、ミキサー中で10秒間均質化した。混合時間は4分間であった。フレッシュコンクリートテスト(凝結フローディメンション)を、次いで実施し評価した。コンシステンシープロフィールを120分にわたって観察した。
【0132】
凝結フローディメンションの測定
Abrams-cone(頂部の内径100mm、底部の内径200mm、高さ300mm)として知られるものを流動性の測定(凝結フローディメンション=互いに垂直な二軸で測定し平均したコンクリートケーキのcmで表した直径)に使用した。各フローディメンションの測定前に、混合物をコンクリートミキサーで再び30秒間混合し、凝結フローディメンションを、混合完了後の時間t==0、30、60および90分に混合物ごとに4回測定した。
【0133】
ブリージングおよび材料分離の評価
混合物のブリージングおよび材料分離を視覚的に評価した。
【0134】
表11は、自己充填コンクリートの組成を示している。
【0135】
【表11】

【0136】
【表12】

【0137】
表12の試験結果からわかるように、本発明によるタイプCのコポリマー(実施例10〜12)は、時間が経っても、非常に良好な凝結フローディメンションとブリージングおよび材料分離の効果的な防止を保証する。このことは、本発明によるタイプCのコポリマーは、自己充填コンクリートにおいても優れた安定剤であり、ユーザーにフレッシュコンクリートの最適な施工軟度を保証することを示している。強度の発展に認識できる有害な影響もない。
【0138】
本発明によるタイプA(実施例1)およびタイプB(実施例4)のコポリマーも、非常に効果的にブリージングおよび材料分離の発生を防止するが、コンクリートの流動性は過度に制限され、このことは、施工軟度に有害な影響を有している。
【0139】
一方、比較例を使用する場合、中程度のブリージングおよび材料分離が発生し、このことは、フレッシュコンクリートの均一性に、したがってコンクリートの強度にも有害な影響を有する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水溶性スルホ基含有コポリマーであって、
a)3から96mol%の式(I)、
【化1】

(式中、
R1=水素またはメチル、
R2、R3、R4=水素、1〜6個の炭素原子を含有する脂肪族炭化水素基、メチル基で置換されていてもよいフェニル基、
M=水素、1価または2価の金属陽イオン、非置換のアンモニウムイオンまたは有機基で置換されたアンモニウムイオン、
a=1/2または1である)
b)3から96mol%の式(II)、
【化2】

(式中、
R1は、上記の意味を有し、
R5およびR6はそれぞれ独立に、水素、1〜20個の炭素原子を含有する脂肪族炭化水素基、5〜8個の炭素原子を含有する脂環式炭化水素基または6〜14個の炭素原子を含有するアリール基を表す)
c)0.01から10mol%の式(III)の構造グループ、
【化3】

(式中、
Y=-COO(CnH2nO)p-R7、-(CH2)q-O(CnH2nO)p-R7
R7=
【化4】

および10〜40個の炭素原子を含有する不飽和または飽和、直鎖または枝分れした脂肪族アルキル基、
R8=H、C1〜C6アルキル、C1〜C12アルキルを含有するアリールアルキル基およびC6〜C14アリール基、
n=2〜4、
p=0〜200、
q=0〜20、
x=0〜3、
R1は上記の意味を有する)
および/または
d)0.1から30mol%の式(IV)の構造グループ
【化5】

(式中、
Z=-(CH2)q-O(CnH2nO)p-R9
R9=H、C1〜C4アルキル、
R1、n、pおよびqは、上記の意味を有する)
からなることを特徴とする、コポリマー。
【請求項2】
前記1価または2価の金属陽イオンが、ナトリウム、カリウム、カルシウムまたはマグネシウムイオンからなることを特徴とする、請求項1に記載のコポリマー。
【請求項3】
前記有機基で置換されたアンモニウムイオンが、好ましくは、第1級、第2級または第3級C1〜C20アルキルアミン、C1〜C20アルカノールアミン、C5〜C8シクロアルキルアミンおよびC6〜C14アリールアミンから誘導されることを特徴とする、請求項1または請求項2のいずれか一項に記載のコポリマー。
【請求項4】
30〜80mol%の構造グループa)、5〜50mol%の構造グループb)、0.1〜5mol%の構造グループc)および/または0.2〜15mol%の構造グループd)からなることを特徴とする、請求項1から3のいずれか一項に記載のコポリマー。
【請求項5】
50,000〜20,000,000g/molの数平均分子量を有することを特徴とする、請求項1から4のいずれか一項に記載のコポリマー。
【請求項6】
前記構造グループa)、b)、c)およびd)またはa)、b)およびd)からなる化合物が、構造グループa)、b)、c)およびd)の合計mol%に対して、50mol%までの、特に20mol%の式(V)
【化6】

(式中、
W=-CO-O-(CH2)m-、-CO-NR2-(CH2)m-、
m=1〜6、
R1、R2、R5およびR6は上記の意味を有する)のさらなる構造グループe)を含むことを特徴とする、請求項1から5のいずれか一項に記載のコポリマー。
【請求項7】
スルホン酸含有ベタインモノマーから誘導される式(VI)
【化7】

(式中、
【化8】

R1、R2およびmは上記の意味を有する)
による構造単位f)によって、構造グループa)の50%までが置換されることを特徴とする、請求項1から6のいずれか一項に記載のコポリマー。
【請求項8】
トリアリルアミン、トリアリルメチルアンモニウムクロリド、テトラアリルアンモニウムクロリド、N,N'-メチレン-ビス-アクリルアミド、トリエチレングリコール-ビス-メタクリレート、トリエチレングリコール-ビス-アクリレート、ポリエチレングリコール(400)-ビス-メタクリレートおよびポリエチレングリコール(400)-ビス-アクリレートからなる群から選択される架橋剤成分を、構造グループa)、b)、c)、d)、e)およびf)の合計に対して0.1mol%までさらに含むことを特徴とする、請求項1から7のいずれか一項に記載のコポリマー。
【請求項9】
構造a)〜d)および任意選択でe)およびf)を形成するモノマーを、ラジカル、イオンまたは錯体配位固相、溶液、ゲル、乳化、分散または懸濁重合により反応させることを特徴とする、請求項1から8に記載のコポリマーの製造方法。
【請求項10】
前記コポリマーが、開始剤および任意選択で例えば分子量調整剤などのその他の助剤の存在下で、水相でゲル重合により製造されることを特徴とする、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記ゲル重合が、-5〜50℃および35〜70重量%の水溶液濃度で実施されることを特徴とする、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
セメント、石灰、石膏、硬石膏などの水硬結合剤ベースの水性建設材料系と水性塗料および被覆剤系における添加剤としてであることを特徴とする、請求項1から8に記載のコポリマーの使用。
【請求項13】
前記コポリマーが保水剤、安定剤およびレオロジー調整剤として使用されることを特徴とする、請求項12に記載の使用。
【請求項14】
前記コポリマーが、建設材料、塗料または被覆剤系の乾燥重量に対して、0.001〜5重量%の量で使用されることを特徴とする、請求項12に記載の使用。

【公表番号】特表2008−505234(P2008−505234A)
【公表日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−519683(P2007−519683)
【出願日】平成17年6月30日(2005.6.30)
【国際出願番号】PCT/EP2005/007089
【国際公開番号】WO2006/002936
【国際公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【出願人】(503343336)コンストラクション リサーチ アンド テクノロジー ゲーエムベーハー (139)
【氏名又は名称原語表記】Construction Research & Technology GmbH
【住所又は居所原語表記】Dr.−Albert−Frank−Strasse 32, D−83308 Trostberg, Germany
【Fターム(参考)】