説明

水溶性フラックスおよびそれを用いた電子回路基板の実装方法

【課題】はんだ付け用水溶性フラックス化合物であって、フローはんだ付け時にも、はんだ付け性を損なうことなく、アミン臭・アンモニア臭を認知することがない水溶性フラックスを提供する。
【解決手段】カルボキシル基を有するロジンまたは活性剤に、炭素数2〜10の炭化水素にヒドロキシル基が少なくとも1つ以上有している第1級、第2級、第3級のアミンを付加させた化合物が含有することを特徴とするはんだ付け用水溶性フラックスを用いれば、はんだ付け性能や接合信頼性を確保しながら、アミン臭・アンモニア臭を認知することがないはんだ付け用水溶性フラックス、ならびにそれを用いた電子回路基板の実装方法を提供することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主として電子回路基板に電子部品等をはんだ付けする際に用いられるフラックス組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の電子回路基板にはんだ付けを実施する際に用いられるフラックスは、ロジンや活性剤などの固形成分をイソプロピルアルコール(IPA)などのアルコール系有機溶剤に溶解させたものである。
【0003】
従来、はんだ付け用のフラックスは、用いるロジンや活性剤などの種類によって異なるが、一般にロジン1〜35重量部、活性剤0.1〜5重量部、アルコール系有機溶剤(例えば、イソプロピルアルコール、エタノール、メタノールなど)65〜99重量部の範囲で構成されている。この構成から明らかのように、従来のフラックスでは、フラックスの全体の重量のうち、3分の2以上がアルコール系有機溶剤である。
【0004】
しかしながら、近年、イソプロピルアルコール、エタノール、メタノールを含む揮発しやすい有機化学物質を揮発性有機化合物(Volatile Organic Compounds、略してVOC)と呼んで、規制する動きが広がっている。これは、揮発性有機化合物が大気中に放出されると、紫外線などにより分解されラジカルを形成し、光化学スモッグなどの発生原因となるからである。また、揮発性有機化合物から発生したオゾンがオゾンホールの原因となるばかりでなく、揮発性有機化合物が分解するときに発生する二酸化炭素が地球温暖化の原因ともなるからである。
【0005】
以上の理由で、揮発性有機化合物の量を減らした、または、用いないフラックスが開発されてきている。
【0006】
そこで近年、揮発性有機化合物の量を減らした、また、用いないフラックス組成物としては、ロジンや活性剤をアミンまたはアンモニウムで中和した化合物(アミン塩、アンモニウム塩)が用いられてきた(特許文献1)。
【0007】
この化合物(アミン塩、アンモニウム塩)は、はんだ付け装置内における噴流はんだ槽の前に設置されているプレヒーター内の温度である100〜150℃で加熱されると、分解して、元のロジンや活性剤に戻って、フラックスとしてのはんだ付け面の洗浄作用を発揮し、電子回路基板へのはんだ付けが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平8−132282号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1に記載のロジンや活性剤をアミンまたはアンモニアで中和した化合物であるアミン塩またはアンモニウム塩は、前述のプレヒーター内の温度である100〜150℃で加熱されるときの分解で、アミンまたはアンモニアが発生する。アミンを使用する場合は、例として、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミンなどが上げられる。
【0010】
アミンやアンモニアは、鼻につんとくる独特の刺激臭(アンモニア臭)を持っており、特に、アンモニアやトリメチルアミンは、悪臭防止法に該当する物質である。アミンやアンモニアがロジンや活性剤と完全に中和してアミン塩またはアンモニア塩になると、アンモニア臭は発生しなくなる。しかし、実際には、アミンまたはアンモニアは、完全に中和するために使用する以上の量を利用しないと、ロジンや活性剤を完全に水に溶解させることは難しい。そのため、アミン塩またはアンモニウム塩の形で水に溶解させたフラックスでは、アミンまたはアンモニアは中和するために使用する以上の量を加えることとなり、アミン臭やアンモニア臭がすることが問題となる。
【0011】
本発明は、従来の課題を解決するもので、アミン臭やアンモニア臭がすることがない、はんだ付け性能や接合信頼性を確保しながら、はんだ付け用水溶性フラックスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために、本発明のはんだ付け用水溶性フラックスは、カルボキシル基を有するロジンまたは活性剤に、炭素数2〜10の炭化水素にヒドロキシル基が少なくとも1つ以上有している第1級、第2級、第3級のアミンを付加させた化合物であるヒドロキシアミン塩が含有することを特徴とする。
【0013】
本構成によって、ヒドロキシアミン塩を水に溶解させるため、アミン臭・アンモニア臭を認知することがないはんだ付け用水溶性フラックスを提供することができる。
【発明の効果】
【0014】
以上のように、本発明のはんだ付け用水溶性フラックスによれば、アミン臭・アンモニア臭を認知することがなく、このフラックスを使用したはんだ付けでは、はんだ付け性能や接合信頼性を確保することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下本発明の実施の形態について、説明する。本発明が以下の実施例に限定されるものではなく、以下の実施例に記載されていなくても一般にフラックスに配合されているような他のフラックス活性剤、艶消し剤、難燃剤、酸化防止剤、消泡剤、防かび剤などと組み合わせることもできるのは言うまでもない。
【0016】
(実施の形態1)
実施例1〜4、比較例1、2で作成したフラックスの配合表を表1に示す(数値は重量%である)。
【0017】
(実施例1)
固体のロジン(荒川化学工業製クリスタルパインKE−604)3モルと、液体の2,2’,2’’−ニトリロトリエタノール(関東化学製)(示性式が N(CHCHOH)、3個のヒドロキシル基−OHを有する、炭素数2、第3級アミン)3モルを、温度計を有する反応釜に仕込み、液温が85℃になるまで加熱した。この液温は、固体のロジンが溶ける温度であれば良い。
【0018】
次いで、上記ロジンと2,2’,2’’−ニトリロトリエタノールと混ぜた混合液を800rpmの回転速度で攪拌を反応釜内で開始した。ロジンが2,2’,2’’−ニトリロトリエタノールに完全に溶解させるために液温85℃で3時間攪拌し続け、溶解の度合いを確認した。確認方法は、ロジンと2,2’,2’’−ニトリロトリエタノール各々が単独で析出していないことをガスクロマトグラフィーで行った。3時間攪拌することで完全に溶解されていることが確認されたことから、この混合液の液温を反応釜内の還流冷却器を使用して25℃にまで冷却し、ロジンに2,2’,2’’−ニトリロトリエタノールが付加された第1の試料(ヒドロキシアミン塩)を得ることができた。得られた第1の試料10重量%に純水(関東化学製)90重量%(残部)を加え、第1の水溶性フラックスとした。
【0019】
ここで得られた第1の水溶性フラックスについて、下記の評価を行った。評価結果を表2に示す。
【0020】
(1)臭気の評価(アミン臭、アンモニア臭)
臭気の評価方法は、人間の嗅覚で判断した。今回は、フラックス10ccをサンプル管にとり、サンプル管の口を鼻から10cmのところに近づけ臭いを嗅ぎ、臭気の強度を判定した。表2における○印はアミン臭・アンモニア臭がほとんど無い(無臭)とし、△印は何のにおいであるかがわかる(認知閾値)つまりアミン臭・アンモニア臭が少しあるとし、×印は強烈な臭いであることとした。
【0021】
前述の第1の水溶性フラックスは、臭気の評価を行ったところ無臭であったことにより、アミン臭・アンモニア臭が認知されないことがわかる。
【0022】
またこの第1の水溶性フラックスが実際にはんだ付けに使用される場合に、はんだのぬれ性も使用条件としては重要であることより、念のためはんだのぬれ広がり評価を行った。
【0023】
(2)はんだのぬれ拡がり評価
ここでは、実施例1で得られた第1のフラックスがはんだ付けに使用されるのに適しているかどうかを確認するために、はんだのぬれ拡がり性を評価する。
【0024】
JIS−Z3197−1986に準じて行った。即ち、酸化処理した銅板にはんだリングとフラックスを載せ、約250℃の温度で約30秒間溶融したはんだを拡げた。はんだの高さを測定し、ぬれ拡がり率をJIS−Z3197−1986に記載の式により算出した。はんだのぬれ拡がり性を評価した。ぬれ拡がり率は、85%以上、好ましくは88%以上あれば良好とした。
【0025】
前述の第1の水溶性フラックスのぬれ拡がり率は、91.0%であったことから良好であると判断される。
【0026】
(実施例2)
実施例2は、前述の実施例1とロジンの種類が相違している点を除いては、反応時間や温度など同様に実施した。実施例2で用いたロジンは、荒川化学工業製クリスタルパインKR−85)3モルである。実施例2で得られたヒドロキシアミン塩は第2の試料とし、この第2の試料10重量%に純水(関東化学製)90重量%(残部)を加えたものを第2の水溶性フラックスとした。
【0027】
前述の実施例1に記載した2種類の評価を行い、その評価結果を表2に示す。この第2の試料を用いた第2の水溶性フラックスは、無臭であり、はんだのぬれ拡がり率は88.5%であったことから良好な水溶性フラックスであると判断した。
【0028】
(実施例3)
実施例3は、前述の実施例1とロジンの種類が相違している点を除いては、反応時間や温度など同様に実施した。実施例3で用いたロジンは、荒川化学工業製クリスタルパインKR−614)3モルである。実施例3で得られたヒドロキシアミン塩は第3の試料とし、この第3の試料10重量%に純水(関東化学製)90重量%(残部)を加えたものを第3の水溶性フラックスとした。
【0029】
前述の実施例1に記載した2種類の評価を行い、その評価結果を表2に示す。この第3の試料を用いた第3の水溶性フラックスは、無臭であり、はんだのぬれ拡がり率は90.3%であったことから良好な水溶性フラックスであると判断した。
【0030】
(実施例4)
実施例4は、前述の実施例1とロジンの種類が相違している点を除いては、反応時間や温度など同様に実施した。実施例4で用いたロジンは、カルボキシル基を2つ有する活性剤であるアジピン酸(関東化学製)3モルである。実施例4では、アジピン酸に2つのカルボキシル基を有することから液体の2,2’,2’’−ニトリロトリエタノール(関東化学製)(示性式が N(CHCHOH)、3個のヒドロキシル基−OHを有する、炭素数2、第3級アミン)6モルとした。実施例4で得られたヒドロキシアミン塩は第4の試料とし、この第4の試料10重量%に純水(関東化学製)90重量%(残部)を加えたものを第4の水溶性フラックスとした。
【0031】
前述の実施例1に記載した2種類の評価を行い、その評価結果を表2に示す。この第4の試料を用いた第4の水溶性フラックスは、無臭であり、はんだのぬれ拡がり率は88.0%であったことから良好な水溶性フラックスであると判断した。
【0032】
ここで、第1〜第4の試料は、いずれもカルボキシル基(−COOH)を有するロジンまたは活性剤に、炭素数2の炭化水素にヒドロキシル基(−OH)を1つ有している第3級のアミンを付加させた化合物である。
【0033】
実施例1〜4では、ヒドロキシル基を1つ有する炭素数2の炭化水素を付加させた第3級アミンを使用しているが、第1級、第2級のアミンである、2−アミノエタノール、2,2’−イミノジエタノールでもよい。
【0034】
また、炭素数が2〜10の炭化水素にヒドロキシル基が1つ以上有している第1級、第2級、第3級のアミンであれば、実施例と同等の効果が得られることを確認している。
【0035】
炭素数10までの組成であれば常温で液体の状態であり、炭素数10より大きなものは固化した状態傾向となるため、本願発明では、炭素数2〜10とした。
【0036】
(比較例1)
ロジン(荒川化学工業製クリスタルパインKE−604)10重量%に、28%アンモニア水3重量%、イソプロピルアルコール8重量%、残部として、純水を加え水溶性フラックスとした。ここでイソプロピルアルコールが8重量%を加えたのは、アンモニア水3重量%では、ロジンが完全に溶解しないからである。得られた水溶性フラックスについて、前述の実施例1に記載した2種類の評価を同様に行い、その評価結果を表2に示す。比較例1の水溶性フラックスは、アンモニア臭の強烈な臭いがあることより評価結果は「×」とした。
【0037】
(比較例2)
ロジン(荒川化学工業製クリスタルパインKE−604)3モルと、3モルのトリメチルアミン(関東化学製)を、実施例1で用いた反応釜に仕込み、液温を85℃に保ちながら、混合液を攪拌し、ロジンがトリメチルアミンに完全に溶解するのを確認したのち、85℃で3時間攪拌し続けた。攪拌後、液温を25℃にまで冷却し、ロジンにトリメチルアミンが付加した第5の試料(アミン塩)を得ることができた。得られた第5の試料、10重量%に、トリメチルアミン4重量%、残部として、純水(関東化学製)を加え、第5の水溶性フラックスとした。前述の実施例1に記載した2種類の評価を同様に行い、その評価結果を表2に示す。比較例の第5の水溶性フラックスは、アミン臭のにおいであるかがわかったことから、においの種類が判別できる認知閾値に相当するとして、評価結果は「△」とした。
【0038】
【表1】

【0039】
【表2】

【0040】
実施例1〜4では、カルボキシル基を有するロジンまたは活性剤に2,2’,2’’−ニトリロトリエタノール(第3級のアミン)を付加させる(第1〜第4の試料:ヒドロキシルアミン塩)ことで、イソプロピルアルコールなどの有機溶剤を用いることなく、水に完全に溶解させたフラックスを得ることができた。実施例1〜4のいずれの水溶性フラックスは、上記表2のようにアミン臭・アンモニア臭の認知もすることがないものである。また実施例1〜4のいずれの水溶性フラックスを使用したはんだ付けのおけるぬれ拡がり率も88%以上であることから、これらの水溶性フラックスを使用したはんだ付けでは、接合信頼性も確保できる。
【0041】
更にここで、実施例1で得た第1の水溶性フラックスのはんだ付け特性を確認した。第1の水溶性フラックスを90mL/m2の塗布量で、電子回路基板に塗布し、噴流式自動はんだ付け装置で以下の条件ではんだ付けを行ったところ、表3に示す結果が得られた。
コンベア速度 1.3m/mim
プリヒート温度 105〜110℃
はんだ付け温度 255℃
【0042】
【表3】

【0043】
実施例1で得た第1の水溶性フラックスは、未はんだ(はんだ不濡れ)、ツララ、ブリッジのいずれも発生することはなかった。このことから第1の水溶性フラックスは、はんだ付け性能においても良好であると判断できる。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明に用いる化合物は、はんだ付け用フラックス化合物として、フローはんだ付け時にも、はんだ付け性を損なうことなく、アミン臭・アンモニア臭を認知することなく水溶性はんだフラックス組成物として利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルボキシル基を有するロジンまたは活性剤に、炭素数2〜10の炭化水素にヒドロキシル基が少なくとも1つ以上有している第1級、第2級、第3級のアミンを付加させた化合物であるヒドロキシルアミン塩が含有することを特徴とするはんだ付け用水溶性フラックス。
【請求項2】
ヒドロキシル基を有している前記アミンは、
2−アミノエタノール、2,2’−イミノジエタノール、2,2’,2’’−ニトリロトリエタノールの少なくとも1種類であることを特徴とする請求項1に記載のはんだ付け用水溶性フラックス。
【請求項3】
請求項1乃至2の何れかに記載のはんだ付け用水溶性フラックスを予め電子部品が装着された電子回路基板に塗布し、
その後、前記電子回路基板にはんだ付けを実施し、前記電子部品が前記電子回路基板に実装されたことを特徴とする電子回路基板の実装方法。

【公開番号】特開2011−110563(P2011−110563A)
【公開日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−267106(P2009−267106)
【出願日】平成21年11月25日(2009.11.25)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】