説明

水熱反応によるガラクトマンナン部分加水分解物の製造方法

【課題】 分解することが非常に困難であるガラクトマンナンを高濃度でかつバイオプロセスを経ることのない操作工程によって、効率的に冷凍変性防止活性を有するガラクトマンナン部分加水分解物を生産する。
【解決手段】 1.0重量%〜5.0重量%のガラクトマンナン溶液を無機アンモニウム塩またはアミノ化合物の触媒存在下で高圧水熱反応を与えることによって、冷凍変性防止効果を有するガラクトマンナン部分加水分解物を製造する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は水熱反応により分解しにくい多糖類であるガラクトマンナンを発酵および酵素反応などのバイオプロセスを経ずに部分加水分解し、低分子化する製造技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年の食の多様化を反映し、加熱調理後、即時に喫食可能である利便性を有した多種多様の食品あるいは食品素材が、冷凍状態で流通されている。当該冷凍食品は、通常−18℃以下の低温で管理されているが、長時間の保存期間中には食品成分の一つであるタンパク質が不可逆の変性を起こし、食感・味質などの質的劣化を招いてきた。これを防止するため、それぞれの食品あるいは食品素材に適したボイルやフライ等の調理処理を施し、冷凍変性防止剤を添加した後、冷凍する方法が採られている。
【0003】
食品の安定剤や増粘剤として多くの食品に利用されているガラクトマンナンは、凍結保護機能が以前から報告されている。しかしながら、ガラクトマンナンは水への溶解度が低く、その溶液も高粘度であることから凍結防止機能が十分に発揮される濃度までの添加が困難であった。そこで近年ガラクトマンナンの部分加水分解を行い低分子化することで、低粘度化や溶解度を上げる方法が考案されている。
【0004】
従来、ガラクトマンナンの低分子化は、1.アルカリ処理、2.熱分解、3.食品酵母による発酵または酵素処理、4.酸加水分解といった方法が行われていた。
【0005】
特許文献1および2にはガラクトマンナンを水親和性有機溶剤の水溶液中で分散させ、酵素の存在下でアルカリ処理する方法、過酸化水素あるいはアルカリ金属化酸化物を使用する方法が記載されている。
【0006】
特許文献3にはガラクトマンナンを100℃から150℃で加熱処理することで部分加水分解する方法が記載されている。
【0007】
特許文献4および5にはガラクトマンナーゼ、セルラーゼ、ポリガラクチュロナーゼ、ヘミセルラーゼ、β−マンノシダーゼ、α−マンノシダーゼ等の酵素やマンノシダーゼを生産する食品酵母の発酵を利用し部分加水分解する方法が記載されている。
【0008】
特許文献6および7には硫酸、塩酸、硝酸、リン酸、亜硫酸等の鉱酸やシュウ酸、クエン酸、酢酸、ギ酸等の有機酸、クエン酸を添加、加熱することで部分加水分解する方法が記載されている。特許文献8にはアスコルビン酸を添加し、pH4.5〜6.0に調整を行った後加熱することで部分加水分解する方法が記載されている。
【0009】
しかし、アルカリ処理、アルカリ金属化酸化物を使用する方法では副産する中和塩を除去するために複数回にわたるアルコール洗浄工程を必要とし、多量のアルコールを消費するばかりでなく、製品中へアルコール溶媒が残留しないよう十分な品質管理が必要であった。熱分解による方法は加熱によって生じた副生成物が反応することによって、製品が着色するという問題があり、利用できる食品が限定されている。また硫酸、塩酸、硝酸、リン酸、亜硫酸等の鉱酸やシュウ酸、クエン酸、酢酸、ギ酸等の有機酸による方法では、pHの制御下で長時間の反応を加えなければならず、またこの後の中和工程によって中和塩が製品中に残留するおそれがある。アスコルビン酸を添加して加熱する方法では、その他の酸による加水分解方法よりもpHを高く設定して処理することができるというメリットがあるものの、処理可能な基質濃度が低いことから生産性が著しく低い。さらに、上述の方法では、分解の目的であるところの冷凍変性防止活性が大きく損なわれ、冷凍変性防止活性と粘度および溶解性の基本的物性との両立が困難であり、産業上の課題となっている。
【0010】
酵素処理および食品酵母の発酵による方法では、前述の物理化学的な反応よりも熱的にも化学的にも温和な条件で部分加水分解することが可能である。特に特許文献5記載の方法によると、従来の化学的製造方法では得ることが出来なかった冷凍変性防止活性の高い分子構造を有する部分加水分解物を得ることが可能となった。しかし、酵素反応や食品酵母の発酵といたバイオプロセスによる加水分解は、食品酵母の発酵や酵素反応の活性を維持するために基質濃度を低く設定しなければならず、また酵素反応条件のばらつきによって安定した冷凍変性防止活性機能を持つ製品を大量に生産することは困難であった。何よりもガラクトマンナンが難生分解性のため、反応は30時間以上におよぶという課題があった。また食品酵母の発酵または酵素反応後、添加酵素および菌体の失活工程があり、特に高粘度反応液から失活菌体および酵素を除去するといった高度な分離精製処理技術を行う必要があった。
【0011】
従来の方法による冷凍変性防止活性の高い分子構造を有する部分加水分解物を得る方法は、酵素反応または食品酵母による発酵といったバイオプロセスが必要であることから生産性が著しく低く、酵素反応の制御、酵素および菌体の失活・除去等の複数の工程を組み合わせる必要があり、一定の品質の製品を大量に生産するためには克服しなければならない多くの課題があった。そのため、バイオプロセスを経ない工程のみで高濃度の溶液を処理する効率的な製造技術が求められていた。
【特許文献1】特開昭58−111802
【特許文献2】特公昭55−1021
【特許文献3】米国特許第3415927
【特許文献4】特開昭63−269993
【特許文献5】特開2008−143986
【特許文献6】特開2000−70000
【特許文献7】特開2001−178379
【特許文献8】特開2004−269556
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上記のように、ガラクトマンナンを低分子化する方法は、酸、アルカリ処理や熱分解、有機酸を用いた方法等が用いられてきたが、冷凍変性防止活性が大きく損なわれてしまっていた。唯一、冷凍変性防止活性を有する分子構造の部分分解物を得る方法である酵素または食品酵母の発酵といったバイオプロセスを用いた低分子化方法では処理可能な基質濃度が低く、酵素反応の制御、酵素または菌体の失活・除去等の複数の処理工程を必要とするといった問題があったため、必ずしも合目的なものではなかった。
【0013】
本発明の目的は、ガラクトマンナンを高濃度で且つ操作工程が少なく短時間で処理可能な方法で加水分解を行い、冷凍変性防止活性を有する分子構造の部分加水分解物を効率的に製造することができる方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記の技術課題に対し、本発明の低分子化ガラクトマンナンの製造方法は、原料となる1.0重量%〜5.0重量%ガラクトマンナン溶液にガラクトマンナン100質量部に対して15〜200質量部の無機アンモニウム塩およびアミノ化合物を触媒として添加し、110℃〜210℃、0.1MPa〜2.0MPaの圧力下にて30〜300分間高圧水熱反応を与えることで解決するものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明の製造方法で処理可能なガラクトマンナンの濃度は、前述の従来技術よりも高く、製造後に濃縮工程を必要としないため、生産に消費するエネルギーが少なく、大量に処理することができるようになった。さらに、本発明によって製造した低分子化ガラクトマンナンは、従来の食品酵母の発酵または酵素反応による技術と同等もしくはそれ以上の冷凍変性防止活性を有している。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明によって得られる低分子化ガラクトマンナンは、分子量100〜300kDa、β−1,4結合したD−マンノース単位の主鎖およびα−1,6結合したD−ガラクトース単位の側鎖を有し、その構成比が4:1〜15:1であるような特定の分子構造を有するガラクトマンナンである。冷凍変性防止活性の高い分子構造を有する低分子化ガラクトマンナンは、原料となるガラクトマンナンに無機アンモニウム塩およびアミノ化合物を触媒とし、高熱水熱反応を与えることによって部分的に加水分解することで得られる。
【0017】
低分子化ガラクトマンナンの原料となるガラクトマンナンは、β−1,4結合したD−マンノース単位の主鎖およびα−1,6結合したD−ガラクトース単位の側鎖を有しているものであれば、その起源に限定されるものではなく、また、高度に精製された状態のものである必要もない。ガラクトマンナンとしては、イナゴ豆の種子粉末、グアーガムが好ましいが、他のガラクトマンナンとして、カシアガム、大豆種皮由来のソイビーンフル、タムソンガムなどが挙げられる。これらは、食品産業においては増粘剤として、また医薬品産業においては錠剤補助剤として使用されている安全性の高い物質である(非特許文献1)。起源の異なるガラクトマンナンはマンノース単位とガラクトース単位の構成比率が異なるが、該当ガラクトマンナン部分加水分解物の原料として、単一起源物でも異起源の混合物でもよく、また、水溶液または懸濁液でもよい。さらに、原料となるガラクトマンナンの濃度には特に制限はないが、1.0重量%以下での処理は技術的に可能であるが、従来技術でも低分子化ガラクトマンナンを生産することができることから、本発明の進歩性が認められない。5.0重量%以上では、懸濁する工程で時間がかかってしまい、生産効率が低下するため本発明の優位性が失われてしまう。以上の理由から1.0〜5.0重量%で反応させることが好ましい。
【0018】
当該低分子化ガラクトマンナンは無機アンモニウム塩およびアミノ化合物のうち1種または2種を組み合わせたものを触媒とし、高圧水熱反応を与えることにより製造される。触媒として用いる無機アンモニウム塩およびアミノ化合物は、それぞれ同等な効果を示すが、水熱反応後の精製の簡便性から硫酸アンモニウが最も有利である。
【0019】
触媒として添加する無機アンモニウム塩およびアミノ化合物の濃度は0.5〜2.5重量%がよい。触媒として添加する無機アンモニウム塩またはアミノ化合物は2.5%以上添加すると、塩除去操作といった工程が必要となるため処理工程が煩雑となる。さらに、0.5重量%以下では、反応時間に数十倍の時間がかかってしまい生産効率が著しく低下してしまう。このことから0.5重量%〜2.5重量%の範囲での実施が最適である。
【0020】
本発明の反応温度は110℃〜210℃で、110℃未満では反応速度が遅く反応に2倍以上の時間要してしまい、210℃より高温では過分解が生じてしまうため、110℃〜210℃の範囲での実施するのが好ましい。
【0021】
本発明の反応時間は、30〜300分間で、30分以下では十分分解されず、冷凍変性防止活性を得る濃度での利用が困難であり、300分以上では過分解が生じ精製後の収率が低下してしまうため、30〜300分間の範囲での実施が望ましい。反応終了後,当該低分子化ガラクトマンナンをアルコール沈殿やゲルろ過クロマトグラフィーといった方法によって精製することができる。
【実施例】
【0022】
以下に、本発明の実施例を示し、本発明をさらに具体的に説明する。
【実施例1】
【0023】
原料ガラクトマンナンとして0.5〜5.0重量%イナゴ豆の種子粉末水溶液に1.25重量%硫酸アンモニウムを添加し、120℃,240分間加熱した。加熱後、イソプロピルアルコールで沈殿させ、得られた低分子化ガラクトマンナンをGPCに供し、分子量測定を行った。結果を図1に示す。
【実施例2】
【0024】
原料ガラクトマンナンとして2.0重量%イナゴ豆の種子粉末水溶液に1.25重量%硫酸アンモニウムを添加し、120℃、30〜480分間加熱した。加熱後、イソプロピルアルコールで沈殿させ、得られた低分子化ガラクトマンナンをGPCに供し、分子量測定を行った。結果を図2に示す。
【実施例3】
【0025】
原料ガラクトマンナンとして2.0重量%イナゴ豆の種子粉末水溶液に2.5重量%無機アンモニウム塩およびアミノ化合物を添加し、120℃、240分間加熱した。加熱後、イソプロピルアルコールで沈殿させ、得られた低分子化ガラクトマンナンをGPCに供し、分子量測定を行った。結果を図3に示す。
【実施例4】
【0026】
原料ガラクトマンナンとして1.0重量%イナゴ豆の種子粉末水溶液に0.15〜1.25重量%硫酸アンモニウムを添加し、120℃、240分間加熱した。加熱後、イソプロピルアルコールで沈殿させ、得られた低分子化ガラクトマンナンをGPCに供し、分子量測定を行った。さらに、アルコール沈殿後の硫酸アンモニウム沈殿量の測定を行った。結果を図4に示す。
【実施例5】
【0027】
乳酸脱水素酵素は冷凍変性に対し、著しく耐性の低い酵素であり、換言すれば冷凍解凍後の当該酵素の残存活性は、冷凍変性防止活性の指標となる。未処理のガラクトマンナンおよび実施例3で得られたガラクトマンナン部分加水分解物を終濃度0.005重量%となるように乳酸脱水素酵素へ添加後、毎分1℃の速度で冷却し、−20℃で24時間凍結保持した。解凍後、当該乳酸脱水素酵素の残存活性を測定した結果、未処理のガラクトマンナン添加区の残存活性は45%であったのに対し、無機アンモニウム塩およびアミノ化合物を触媒として用いたガラクトマンナン部分加水分解物添加区では、すべて100%の残存活性を示した。当該がガラクトマンナン部分加水分解物は、0.005%という極めて低濃度の添加量において優れた冷凍変性防止活性を有していることが判明した。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明により、低分子化ガラクトマンナンの生産性の向上に貢献すると共に、冷凍保蔵技術の改善にも資するものである。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】原料ガラクトマンナンの濃度と生成する低分子化ガラクトマンナンの分子量の関係
【図2】加熱時間と生成する低分子化ガラクトマンナンの分子量の関係
【図3】各種無機アンモニウム化合物及びアミノ化合物のガラクトマンナンに対する低分子化活性の比較
【図4】硫酸アンモニウム濃度と生成する低分子化ガラクトマンナンの分子量

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラクトマンナン溶液を原料とし、1.0重量%〜5.0重量%ガラクトマンナン100質量部に対して15〜200質量部の無機アンモニウム塩またはアミノ化合物のいずれか1種または2種以上を組み合わせた触媒存在下で、110℃〜210℃、0.1MPa〜2.0MPaの圧力下にて30〜300分間高圧水熱反応を与えることを特徴とする、ガラクトマンナンの低分子化方法。
【請求項2】
触媒として添加する無機アンモニウム塩が硫酸アンモニウム、硫化アンモニウム、硫酸アンモニウムコバルト、硫酸四アンモニウムセリウム、硫酸アンモニウム鉄、硫酸ニッケルアンモニウム、アンモニウム明礬から選ばれる請求項1記載のガラクトマンナンの低分子化方法。
【請求項3】
触媒として添加するアミノ化合物がアミノ酸または2〜10個結合したオリゴペプチドから選ばれる請求項1記載のガラクトマンナンの低分子化方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−224650(P2012−224650A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−179608(P2009−179608)
【出願日】平成21年7月31日(2009.7.31)
【出願人】(000226415)物産フードサイエンス株式会社 (30)
【Fターム(参考)】