説明

水熱反応処理装置及び水熱反応処理方法

【課題】 水熱反応処理手段により、多種の粒子状物質、特に有機性固体粒子の分解を水以外の化学物質を多量に使用することなく効率的にしかも環境に配慮した物質変性・再利用が可能としたものである。
【解決手段】 少なくともスラリー貯槽、加圧送液機、加熱部、冷却器、調圧器及び受槽よりなり、これら各機器を円筒管で接続された流動型の水熱反応処理装置であって、該加熱器内に傾斜角5〜30°の下降斜度を持つ円筒管で構成された水熱処理反応器を設置することを特徴とする水熱反応処理装置及び水熱反応処理方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粒子状固形物の水熱反応を効率よく行うための装置及び該装置による効率的な水熱反応処理方法を提供するものである。詳しくは特定の下降斜度を持つ円筒管で構成された水熱処理反応器を流路内に備えた流動型の水熱反応処理装置、並びに、常温大気圧下でスラリーに調整された粒子状固形物を当該水熱反応処理器に連続的に注入し、上記水熱処理反応器において流動下において加圧加熱処理を施すことにより、効率的に水熱反応処理を行って生成物を回収する装置及び方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
加圧された水は100℃以上でも液体として利用することができ、各種物質の変性処理媒体として有用である。このように加圧加熱された液体状の水による処理を、以下「水熱反応処理」と称する。例えば、蛋白質のような水溶性高分子は水熱反応処理により低分子化、或いはアミノ酸まで加水分解することが既に知られている。このような現象は、特に臨界温度以下、及び臨界圧力以下で活用すれば、非酸化処理のため化学的に安全で、消費するエネルギーも多大でなく、かつ被処理物質を過度に分解して価値を減じることがないので有用物を効率的に回収再利用できるなど、産業上の応用が期待される。
【0003】
水熱反応処理は処理対象が液体である場合には流動型の処理が原理的に可能であり、装置の小型化、効率化に寄与できる。一方、固形物に対して水熱反応処理を行おうとすると、小型化の難しいバッチ処理を適用せざるを得ず、効率化・実用化の面では不満足状況にあった。また、従来超臨界水または亜臨界水を用いる連続処理装置及びこれによる有機物スラリーの加水分解方法も知られている(特許文献1参照)が、難分解物質の効率的な水熱反応処理に適用するには、より適切な水熱反応処理装置及び処理方法が必要となっていた。
【特許文献1】特開2005−034808号公報
【特許文献2】特開2000−309663号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記課題を解決すべく本発明者らは種々検討した結果、特定の下降斜度を持つ円筒管で構成された水熱処理反応器を流路内に備えた流動型の水熱反応処理装置を使用して特定な水熱反応処理条件で水熱反応処理を行うことにより効率的処理が可能になることを見出し、本発明に到達した。
【課題を解決するための手段】
【0005】
すなわち、本発明の要旨は、少なくともスラリー貯槽、加圧送液機、加熱部、冷却器、調圧器及び受槽よりなり、これら各機器を円筒管で接続された流動型の水熱反応処理装置であって、該加熱部内に傾斜角5〜30°の下降斜度を持つ円筒管で構成された水熱処理反応器を設置することを特徴とする水熱反応処理装置に存する。
【0006】
本発明の他の要旨は、粒子状固形物の水熱反応処理方法であって、長径が4mm以下の粒子状固形物を水スラリーとしてスラリー貯槽より供給し、少なくとも加圧送液機、加熱部、冷却器、調圧器部及び受槽が円筒管で接続された流動型の水熱反応処理装置に圧入し、該加熱部内に装置された傾斜角5〜30°の下降斜度を持つ水熱処理反応器にて水熱処理することを特徴とする水熱反応処理方法に存する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、多種の粒子状物質、特に有機性固体粒子の分解を水以外の化学物質を多量に使用することなく効率的に行えるので、環境に配慮した物質変性・再利用が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明を添付図面に基づいて詳細に説明する。図1は本発明の実施例の水熱反応処理装置の模式図であり、また図2は本発明の他の実施例の水熱反応処理装置の模式図である。
【0009】
図1において、1はスラリー貯槽、2は加圧送液機、3は加熱部、3-1は水熱処理反応器、4は冷却器、5は調圧器、6は受槽であり、これら各機器は円筒管7によって接続された水熱反応処理装置である。
【0010】
スラリー貯槽1は、被処理物質である粒子状固形物を水スラリーとして安定的に保持する容器である。当該容器の形状は任意であるが、槽内にて該スラリーを均一に保持するための攪拌機能を有することが望ましい。
【0011】
粒子状固形物の水スラリーが均一に保たれるためには、粒子状固形物の大きさは長径で最大4mm、好ましくは3mm以下、特に好ましくは2mm以下が良い。径が大きすぎるとスラリーすることが難しく、流路の閉塞の原因となる。また粒子径が小さくすることで水熱反応処理への悪影響はないが、固形物を微少粒子化するための工程が必要となるため不経済・非効率である。
【0012】
このような粒子固形物としては、プラスチックのような人工の有機高分子や、植物体、種子、魚介、食肉、畜骨又はそれらの変性物のような天然物が特に好ましい。
【0013】
粒子状固形物の水スラリーを均一に保つ方法として、水中に少量の水溶性高分子物質を添加することができる。高分子物質は粘度を増加させて当該粒子状固形物の沈降或いは浮上速度を低下させる効果があり、また、該粒子状固形物同士が凝集して大粒子化することを防ぐ機能も有する。更にスラリーを均一に保持するために、スラリー貯槽1内を温調することも効果的である。
【0014】
加圧送液機2は、粒子状固形物の水スラリーをスラリー貯槽1より加熱部3に装置されている水熱処理反応器3-1に向けて、加圧下に挿入(以下、圧入と称す)する機器である。送液には任意の形式・形状のポンプを使用することができるが、ポンプによる脈動を低減することが好ましい。これには既知の機器或いは方法を適用できる。例えば複数のプランジャー型ポンプを設置して位相をずらして運転する或いはポンプ出口にダンパーを設置する等の方法が採用できる。
【0015】
加熱部3は、水熱反応処理を行う機器である。当該加熱部3内に設置された水熱反応処理器3-1(その詳細構造は後述)に圧入された粒子状固形物の水スラリーはこの部位で加熱されることで流動下に水熱反応処理される。加熱方法は任意であり、電熱、燃焼熱、熱媒加熱、高周波加熱などを用いることができる。
【0016】
水熱反応処理器3-1は、円筒管で構成されており当該円筒管内を粒子状固形物の水スラリーが均一な固形物濃度を保ったまま流動できる管径を持つことが必要である。この円筒管の内径は4〜50mmであることが好ましく、特に5〜30mmが好ましい。この場合径が小さすぎるとスラリーの流量が大きくできず非効率的であり、また流路が閉塞するなど不都合が起きやすい。一方、径が大きすぎると加熱効率が損なわれやすく、水熱反応処理が完結しなくなる。
【0017】
水熱反応処理器3-1を構成する円筒管は、なだらかな下降傾斜を持つことが好ましい。これにより、粒子状固形物は自重によって流路の前進方向への流動が促進され、水熱反応処理を効率的に行うことができる。下降傾斜としては3〜45°が好ましくは、特に5〜30°が好ましい。斜度が小さすぎると粒子状固形物の淀みが発生して流路閉塞の原因となり、斜度が大きすぎると粒子状固形物沈降がスラリー流速を上回るために水熱反応処理の効率が低下し好ましくない。
【0018】
当該水熱反応処理器3-1を構成する円筒管は、直線状に傾斜させた構造でも良いが、螺旋状にして傾斜させた構造にすることにより反応器としての空間効率を高めることができると共に加熱効率を向上させることができる。螺旋の曲率は厳密に一定である必要はなく直線部分を含んでいてもよいが、円筒管の任意の曲線部分で曲率半径が50mm以上のであることが好ましく、特に60mm以上が好ましい。この曲率半径が小さすぎると流路の閉塞の原因となる。
【0019】
ここで、加圧送液機2より圧入される粒子状固形物の重量は全スラリー重量の5〜50%が好ましい。当該スラリーが流動状態を維持するためには分散液である水の重量よりも大きくなってはならないので、最大で50%である。また粒子状固形物の重量が全スラリー重量に比べて少なすぎると、加熱部での熱エネルギーの大半がスラリー中の水の加熱のために消費されてしまい非効率である。
【0020】
また水熱反応処理器3-1に圧入される粒子状固形物の水スラリーの1時間当たりの圧入量が当該水熱反応処理器容量の30〜400%に設定することが好ましい。反応器内のスラリーの処理時間は現実的には15分〜3時間程度となるよう調整することが好ましい。従って、スラリーの供給速度は水熱反応処理器の容量の4倍から1/3倍程度が最適である。
【0021】
また、水熱反応処理器3-1内で粒子状固形物の水スラリーが常に流動状態を維持させるために、水の臨界温度より低い370℃以下、水の臨界圧より低い23MPa以下に設定することが好ましい。このような各数値を採用することにより水熱反応処理器3-1内でもスラリー中の水は液体状態に維持される。
【0022】
冷却器4は、加熱部3内に設置された水熱反応処理器3-1で水熱反応処理を経た粒子状固形物の水スラリーを常温における水の沸点(100℃)以下まで除熱する機器である。任意の形状・方式の熱交換器を使用することができる。当該冷却器4にて100℃以下に除熱された粒子状固形物の水スラリーは調圧器5に送られる。
【0023】
調圧器5は、流路内の液体圧を調整して常圧(大気圧)まで減じる機器である。これは既存の減圧弁等を使用することができる。
【0024】
受槽6は、水熱反応処理を経て100℃以下に除熱された粒子状固形物の水スラリーを貯留・回収する機器である。調圧器5の出口或いは冷却器4と調圧器5との間に設置することができる。
【0025】
このようにして得られた粒子状固形物の水スラリーの水熱反応処理物は、そのまま或いは濾過・分離等の既存の手法による追加処理を経て最終形態となる。
【0026】
図2は、本発明の他の実施例であり、ポンプ9より高圧水を予熱器10に送り、当該予熱器10で高圧・高温になった高圧熱水は管10を通して加圧送液機2より送出された粒子状固形物の水スラリーに補助的に高圧熱水を供給すると共に、これらの送液はスタティクミキサー8によって均一に攪拌されて加熱部3に送られる。
【実施例1】
【0027】
図2において、市販の高圧プランジャーポンプ2基を、半周期の位相で交互吐出するように配置して加圧送液機2を構成した。当該加圧送液機2の吐出側に内径6.4mmのステンレス製の管7を接続した。
また、内径6.4mmのステンレス製の円筒管を用いて、巻径136mm、巻数22の正円状螺旋管とし、当該螺旋管の軸方向高さは470mm、螺旋管の傾斜角が8.4°である水熱処理反応器3-1を製作した。当該製作された水熱処理反応器3-1を電気炉内に設置して加熱部3を構成した。
【0028】
同様に巻径136mm、巻数20の螺旋管を製作し、別の電気炉内に設置して予熱器10を構成した。当該予熱器10の流入側に市販の高速液体クロマトグラフ用高圧ポンプ9に接続すると共に、当該予熱器10の流出側に内径6.4mmのステンレス製の管11を接続した。
また、内径6.4mmの円筒T接手を使用して、当該接手の一方側にステンレス製の管7の他端を、当該接手の二方側にステンレス製の管11の他端を、当該接手の三方側をスタティクミキサー8の流入側にそれぞれ接続した。
更に、水熱処理反応器3-1出口側には、冷却器4を構成する内径6.4mmのステンレス製の管の流入側に接続し、当該管の流出側を調圧器5を介して受槽6に接続した。
【0029】
豚由来不溶性コラーゲン粒子(平均径0.5mm、分子量10万以上)200gと水800gとを含む懸濁液を調整して10Lアルミ製貯槽1に入れ、原料スラリーとした。水熱処理反応器3-1を240℃に保ち、スラリーを20mL/分、予熱水20mL/分で供給しながら、圧力12MPaで水熱処理を行った。
【0030】
受槽6で得られた処理駅液は均一で固形分はなく、溶解分をゲル浸透クロマトグラフィーで分析したところ、分子量5000の化合物のみ検出された。これは、不溶性コラーゲンが水中無触媒でコラーゲンペプチドに全変換されたことを示している。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の実施例の水熱反応処理装置の模式図。
【図2】本発明の他の実施例の水熱反応処理装置の模式図。
【符号の説明】
【0032】
1 スラリー貯槽
2 加圧送液機
3 加熱部
3-1 水熱処理反応器
4 冷却器
5 調圧器
6 受槽
7 円筒管
8 スタティクミキサー
9 ポンプ
10 予熱器
11 管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともスラリー貯槽、加圧送液機、加熱部、冷却器、調圧器及び受槽よりなり、これら各機器を円筒管で接続された流動型の水熱反応処理装置であって、該加熱部内に傾斜角5〜30°の下降斜度を持つ円筒管で構成された水熱処理反応器を設置することを特徴とする水熱反応処理装置。
【請求項2】
水熱処理反応器は内径が5mm以上の円筒管であって、かつ曲線部の曲率半径が50mm以上の螺旋形状であることを特徴とする請求項1記載の水熱反応処理装置。
【請求項3】
粒子状固形物の水熱反応処理方法であって、長径が4mm以下の粒子状固形物を水スラリーとしてスラリー貯槽より供給し、少なくとも加圧送液機、加熱部、冷却器、調圧器及び受槽が円筒管で接続された流動型の水熱反応処理装置に圧入し、該加熱部内に装置された傾斜角5〜30°の下降斜度を持つ水熱処理反応器にて水熱処理することを特徴とする水熱反応処理方法。
【請求項4】
粒子状固形物の水スラリーが、該粒子状固形物と水又は高分子水溶液の混合物であることを特徴とする請求項3記載の水熱反応処理方法。
【請求項5】
粒子状固形物が有機高分子であることを特徴とする請求項3又は4記載の水熱反応処理方法。
【請求項6】
粒子状固形物が植物体、種子、魚介、肉食、畜骨又はそれらの変性物の破砕物であることを特徴とする請求項3又は4記載の水熱反応処理方法。
【請求項7】
粒子状固形物の水スラリーをスラリー貯槽内にて攪拌し、均一なスラリー濃度を維持しながら該スラリーを水熱反応処理器に圧入することを特徴とする請求項3又は4に記載の水熱反応処理方法。
【請求項8】
粒子状固形物の重量が全スラリー重量の5〜50%であることを特徴とする請求項3〜7の何れかに記載の水熱反応処理方法。
【請求項9】
粒子状固形物の水スラリーの1時間当たりの圧入量が、水熱処理反応器容量の30〜400%であることを特徴とする請求項3〜8の何れかに記載の水熱反応処理方法。
【請求項10】
水熱処理反応が370℃以下、及び23MPa以下で行われることを特徴とする請求項3に記載の水熱反応処理方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−66541(P2009−66541A)
【公開日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−238688(P2007−238688)
【出願日】平成19年9月14日(2007.9.14)
【出願人】(592216384)兵庫県 (258)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】