説明

水硬性組成物用混和剤およびその応用

【課題】水硬性物質に対する混和剤の配合量を下げることのでき、しかも、従来と比較して、同等以上の保水性、作業性、表面仕上がりおよび圧着性を保持することが可能である水硬性組成物用混和剤およびその応用を提供することである。
【解決手段】水硬性組成物用混和剤は、1重量%の水溶液の20℃における粘度が8,000〜50,000mPa・sの水溶性セルロースエーテルからなるA成分と、分子量450〜5,000の糖および/またはその誘導体からなるB成分と、増粘剤および/または流動性向上剤からなるC成分とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主に建築材料として使用される水硬性組成物用混和剤およびその応用に関するものである。
【背景技術】
【0002】
建築材料、特に鏝(こて)で塗布する左官材等で使用される水硬性組成物では、古くは天然物の『つのまた』等の海藻のりを混和剤として加えることにより、塗布時において良好な作業性等が確保されていた。その後、半合成高分子としてメチルセルロースに代表される水溶性セルロースエーテル(水溶性アルキルセルロース、水溶性ヒドロキシアルキルアルキルセルロース、水溶性ヒドロキシアルキルセルロース等)が開発され、現在では一般的に使用されている。
上記水溶性セルロースエーテル(以下では、単にセルロースエーテルということがある。)を配合した水硬性組成物において発揮される作用効果には、以下の(1)〜(5)が挙げられる。
【0003】
(1)中性〜アルカリ性で、安定且つ適度な増粘性をもたらすことができ、鏝塗り時の作業性を改善できる。
(2)増粘効果と水和効果により保水性を向上できる。保水性向上によりたとえば水硬性材料と水が分離するのを防いだり、乾燥により水硬性組成物から水が蒸発するのを防いだりし、タイル貼り付け時の作業可使時間も長くとることも可能となる。
(3)増粘効果、保水性向上、セルロースエーテル分子自体の接着性等の組み合わせにより、圧着性を向上できる。たとえば、セメントモルタルとタイルおよび下地との密着性を向上させ、タイルのずれ落ち防止に寄与したり、硬化後の接着強度の向上に寄与したりする。
(4)鏝塗り時の作業性改善に伴い、表面仕上がりを良好にできる。
(5)ある程度の凝結遅延効果がある。
セルロースエーテル以外の混和剤で、上記(1)〜(5)の作用効果(特に作業性改善と保水性向上)を両立したものは未だ見つかっていない。セルロースエーテルが特に高価であるにもかかわらず、作用効果の点で代替物がないので、使用せざるを得ないのが現状である。
【0004】
近年、中国、インド等の著しい経済成長等に起因して、各種原料が値上り、各建築素材メーカーにおいても、原料、工程上のコストダウンがますます急務になってきている。
従来、セルロースエーテル混和剤の一般的なコストダウンの方法としては、より高粘度のセルロースエーテルを用いてその配合量を下げ、水硬性組成物のトータルコストを下げるということが行われている。
【0005】
しかし、この方法では混和剤配合量と保水性の関係、および混和剤配合量と増粘効果(作業性)の関係がそれぞれ一致している訳ではないために、一般的には同等の作業性を満足させると、保水性を満足することはできず、保水性を満足させるために配合量を調節すると、過度に増粘し作業性は低下する。そのため、実際にコストダウンを図る際、保水性または作業性、悪ければどちらも犠牲にしているのが現状である。
セルロースエーテルに助剤を加え、保水性、作業性等を向上させる取り組みも多くなされている。たとえば、特許文献1にはポリアクリルアミドおよび/または一部アニオン化したポリアクリルアミド、特許文献2にはセピオライト、特許文献3にはヒドロキシアルキルスターチ、特許文献4にはウエランガムおよび/またはラムサンガム、特許文献5にはヒドロキシプロピル化澱粉および/またはガム若しくはその変性物、特許文献6にはカラギーナン、そして特許文献7には(ポリ)グリセリン部分脂肪酸エステルをそれぞれセルロースエーテルと組み合わせて、保水性、作業性等を向上させる取り組みが開示されている。特許文献1〜7のほとんどの場合は、直接的には、配合量を下げてコストダウンを図ることを目的にして実施されている訳ではない。しかしながら、保水性、作業性等の底上げを図ることにより、その分だけは配合量を下げることも可能な方法であると考えられる。
【0006】
特許文献1〜6記載の助剤は、セルロースエーテルとは別に単独でも増粘効果を有するものであり、保水性はセルロースエーテルのみに依存している。これらの方法において保水性を満足させるために混和剤の配合量を調節した場合、助剤の増粘効果も同時に発現し過度に増粘することになる。一般的な左官材としては作業性が悪化する結果となる。また特許文献7記載の助剤は、流動性を向上し粘性を低減する効果を有するものであり、ある程度の粘性の調節は可能である。しかし保水性はやはりセルロースエーテルのみに依存しているため、保水性向上のためにより高粘度のセルロースエーテルを用いる必要があり、結果として増粘することもある。特に高粘度のセルロースエーテルを使用すればするほど、粘性の調節は難しくなる。従って汎用性のある水硬性組成物のコストを低減させるための混和剤を作成するには特許文献1〜7記載とは異なり、セルロースエーテル以外で保水性を発現または補強する成分を取り入れる必要があると考えられる。
また、セルロースエーテルと組み合わせ保水性の補強として用いる糖および/またはその誘導体を、単独で使用しても保水性を発現することはないと考えられていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭60−16849号公報
【特許文献2】特開昭60−122758号公報
【特許文献3】特開昭61−72663号公報
【特許文献4】特開平4−367549号公報
【特許文献5】特開平10−36162号公報
【特許文献6】特開平11−349364号公報
【特許文献7】特開2003−104764号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、同等以上の保水性、作業性、表面仕上がりおよび圧着性を保持したまま、水硬性物質に対する混和剤の配合量を下げることができる、水硬性組成物用混和剤、それを含有する水硬性材料、水硬性組成物および成型物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、通常より高粘度のセルロースエーテルと低分子タイプの糖および/または誘導体、更に増粘剤および/または流動性向上剤を組み合わせることにより、驚くべきことに混和剤の配合量を従来より下げたのにもかかわらず、保水性、作業性およびその他の性能が同等以上になることを確認して、本発明に到達した。
すなわち、本発明にかかる水硬性組成物用混和剤は、1重量%の水溶液の20℃における粘度が8,000〜50,000mPa・sの水溶性セルロースエーテルからなるA成分と、分子量450〜5,000の糖および/またはその誘導体からなるB成分と、増粘剤および/または流動性向上剤からなるC成分とを含む、水硬性組成物用混和剤である。
【0010】
前記A成分と前記B成分との重量比(A成分/B成分)が30/70〜95/5の範囲にあると好ましい。
前記C成分の重量割合が前記A成分およびB成分の合計量に対して、0.01〜2%の範囲にあると好ましい。
【0011】
前記A成分が、水溶性アルキルセルロース、水溶性ヒドロキシアルキルアルキルセルロースおよび水溶性ヒドロキシアルキルセルロースから選ばれる少なくとも1種であると好ましい。
前記増粘剤が、アクリルアマイド系重合体、ジメチルアミンとエピクロルヒドリンとの共重合体(塩)およびジメチルジアリルアンモニウム塩の重合体から選ばれる少なくとも1種であると好ましい。
前記流動性向上剤が、ポリカルボン酸およびアニオン性界面活性剤類から選ばれる少なくとも1種であると好ましい。
【0012】
前記アニオン性界面活性剤類が、アルキルベンゼンスルホン酸(塩)、アルキルスルホン酸(塩)、アルケニルスルホン酸(塩)、アルキルベンゼン硫酸エステル(塩)、アルキル硫酸エステル(塩)およびアルケニル硫酸エステル(塩)から選ばれる少なくとも1種であると好ましい。
本発明にかかる水硬性材料は、上記水硬性組成物用混和剤と水硬性物質を含む水硬性材料である。
【0013】
前記水硬性物質がセメントおよび/または石膏であると好ましい。
前記水硬性材料に占める前記水硬性組成物用混和剤の重量割合が0.003〜2重量%であると好ましい。
【0014】
本発明にかかる水硬性組成物は、上記水硬性材料と水とを混合させてなる水硬性組成物である。
本発明にかかる成型物は、上記水硬性組成物を硬化させてなる成型物である。
【発明の効果】
【0015】
本発明の水硬性組成物用混和剤(以下では、単に混和剤ということがある。)では、水硬性物質に対する配合量を下げることができ、従来と同等以上の保水性、作業性、表面仕上がりおよび圧着性を保持する水硬性材料が得られる。
本発明の水硬性材料は、上記混和剤を含んでいるので、水硬性物質に対する混和剤の配合量を下げることができ、従来と同等以上の保水性、作業性、表面仕上がりおよび圧着性を保持できる。
【0016】
本発明の水硬性組成物は、上記水硬性材料を含んでいるので、従来と同等以上の保水性、作業性を保持したまま、水硬性物質に対する混和剤の配合量を下げることができ、従来と同等以上の表面仕上がりおよび圧着性を保持した成型物を製造できる。
本発明の成型物は、上記水硬性組成物を硬化させて得られるので、従来と同等以上の表面仕上がりおよび圧着性を保持したまま、混和剤の配合量を低減できる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
〔水硬性組成物用混和剤〕
本発明の水硬性組成物用混和剤は、1重量%の水溶液の20℃における粘度が8,000〜50,000mPa・sの水溶性セルロースエーテルからなるA成分と、分子量450〜5,000の糖および/またはその誘導体からなるB成分と、増粘剤および/または流動性向上剤からなるC成分とを含む混和剤である。
【0018】
本発明において、A成分は、単独でも保水性、作業性に寄与するが、糖および/またはその誘導体と組み合わせることによって十分な保水性を付与するとともに、少量配合で作業性調節が可能な増粘剤および/または流動性向上剤と組み合わせることにより、粘性を調節し適度な作業性を付与する成分である。A成分は、1重量%の水溶液の20℃における粘度が8,000〜50,000mPa・sという特定の物性を満足する水溶性セルロースエーテルであれば、特に限定はないが、水溶性アルキルセルロース、水溶性ヒドロキシアルキルアルキルセルロース、水溶性ヒドロキシアルキルセルロースが好ましい。
水溶性アルキルセルロースとしては、特に限定はないが、たとえば、メチルセルロース等が挙げられる。水溶性ヒドロキシアルキルアルキルセルロースとしては、特に限定はないが、たとえば、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース等が挙げられる。水溶性ヒドロキシアルキルセルロースとしては、特に限定はないが、たとえば、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース等が挙げられる。上記水溶性セルロースエーテルの中でも、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース等の水溶性ヒドロキシアルキルアルキルセルロースがより好ましい。
【0019】
水溶性セルロースエーテルは、A成分として水硬性組成物用混和剤の中に少なくとも1種類を含有しておればよく、2種類以上の水溶性セルロースエーテルが含有していてもよい。
市販の水溶性セルロースエーテルとしては、たとえば、メトローズSHV−PF(信越化学工業株式会社製)等のヒドロキシプロピルメチルセルロースや;マーポローズME−250T、マーポローズME−350T(以上、松本油脂製薬株式会社製)やメトローズSHV−WF(信越化学工業株式会社製)等のヒドロキシエチルメチルセルロース等を挙げることができる。
【0020】
水溶性セルロースエーテルの粘度(20℃)は、水溶性セルロースエーテルを1重量%含有する水溶液とした場合に、8,000〜50,000mPa・sであり、好ましくは8,300〜40,000mPa・s、より好ましくは9,000〜36,000mPa・s、さらに好ましくは9,500〜30,000mPa・s、特に好ましくは10,000〜22,000mPa・sである。粘度が8,000mPa・sより低い場合は、十分な保水性、適度な増粘性を得るために配合量を増やす必要があり、コスト的に不利となる場合がある。一方、粘度が50,000mPa・sより高い場合は、大きな増粘性があり、B成分、C成分との組み合わせによっても、保水性と作業性の両立が困難となる場合がある。さらに、現在の技術では、高粘度のセルロースエーテルを工業的に生産することが非常に難しく、コストが非常に高く、経済的に有利ではない。
水溶性セルロースエーテルが多種類から構成される場合、1種類の水溶性セルロースエーテルの粘度が8,000〜50,000mPa・sの範囲外であっても、別の水溶性セルロースエーテルと混合することにより、粘度を全体として8,000〜50,000mPa・sとしてもよい。
【0021】
本発明における粘度は、JIS Z 8803に従って測定され、実施例にその詳細を記載する。
次に、B成分は分子量450〜5,000の糖および/またはその誘導体からなる成分である。本発明において、B成分は、主に、A成分の保水性作用を向上させるという作用効果に寄与する成分である。
【0022】
B成分は、1重量%の水溶液の20℃における粘度では水に極めて近い1.0〜1.1mPa・s程度であり、水硬性組成物内においても増粘性を発現することはないと考えられている。本発明における作用機構は詳細には解明されていないが、水溶性セルロースエーテルおよび糖の保水性が単に合算されている訳ではなく、水溶性セルロースエーテルと保水性のない糖とが何らかの相互作用を及ぼし合い、驚くべきことに保水性を高めているものと推察される。
糖としては、たとえば、マルトトリオース、マルトテトラオース、マルトペンタオース、マルトヘキサオース、マルトへプタオース、マルトオクタノース等のマルトオリゴ糖;キシロへプタオース等のキシロオリゴ糖;セロトリオース、セロテトラオース、セロペンタオース等のセロオリゴ糖;α−シクロデキストリン、β−シクロデキストリン、γ−シクロデキストリン等のシクロデキストリン等が挙げられる。
【0023】
本発明において、B成分である糖の誘導体とは、糖と分子骨格は同じであるが、分子内の水酸基および/またはカルボニル基が別の置換基に置換した物質を意味する。
糖の誘導体としては、たとえば、アガロテトラオース、アガロヘキサオース等のアガロオリゴ糖;N−アセチルキトオリゴ糖(たとえば、N−アセチルキトトリオース、N−アセチルキトテトラオース、N−アセチルキトペンタオース、N−アセチルキトヘキサオース、N−アセチルキトへプタオース等)、キトオリゴ糖(塩)(たとえば、キトトリオース、キトテトラオース、キトペンタオース、キトヘキサオース、キトへプタオース、およびその塩等)等のアミノ糖(塩);グルクロン酸(塩)を構成単位とした3〜10量体、マンノヌロン酸(塩)を構成単位とした3〜10量体、グルクロン酸(塩)とマンノヌロン酸(塩)を構成単位とした3〜10量体等のアルギン酸オリゴ糖(塩);メチル化−マルトトリオース、ヒドロキシプロピルメチル化−β−マルトトリオース、カルボキシメチル化−β−マルトトリオース(塩)等の糖エーテル(糖のアルキル化物、ヒドロキシアルキルアルキル化物、カルボキシアルキル化物、ヒドロキシアルキル化物);アセチル化−マルトトリオース、硫酸化−β−マルトトリオース(塩)等の糖エステル(糖のアセチル化物、硫酸化物、リン酸化物)等が挙げられる。
【0024】
上記糖および/または誘導体(B成分)の中でも、構成単位にグルコース骨格のみからなる糖および/または誘導体が好ましい。好ましいB成分としては、たとえば、マルトオリゴ糖、セロオリゴ糖、シクロデキストリン、N−アセチルキトオリゴ糖、キトオリゴ糖(塩)、メチル化−マルトトリオース、ヒドロキシプロピルメチル化−マルトトリオース、カルボキシメチル化−マルトトリオース(塩)、アセチル化−マルトトリオース、硫酸化−β−シクロデキストリン(塩)等が挙げられる。
上記糖および/または誘導体(B成分)の中でも、構成単位にグルコース骨格のみからなる糖がより好ましい。
【0025】
B成分における塩とは、分子内のカルボン酸基、硫酸基等の酸性基からのプロトンの脱離および/またはアミノ基等の塩基性基へのプロトンの付加によりイオン化した糖および/または誘導体が対となるカチオン、アニオンとイオン結合をした糖および/または誘導体の塩を意味する。
対となるカチオンとしては、特に限定はないが、たとえば、カルシウム(Ca2+)、カリウム(K)、ナトリウム(Na)等が挙げられる。また、対となるアニオンとしては、特に限定はないが、たとえば、塩化物(Cl)、硫酸(SO2−)、硫酸水素(HSO)、酢酸(CHCOO)、乳酸(CHCH(OH)COO)等が挙げられる。対となるカチオン、アニオンがさらに1つまたは2つ以上のカチオン、アニオンとイオン結合をしていてもよい。
【0026】
B成分である糖および/またはその誘導体は水硬性組成物用混和剤の中に少なくとも1種類を含有しておればよい。もちろん2種類以上の糖および/またはその誘導体がB成分として含有していてもよい。
B成分の分子量は450〜5,000であり、好ましくは500〜4,500、より好ましくは600〜3,500、さらに好ましくは700〜2,500、特に好ましくは750〜2,000である。B成分の分子量が、450より小さい場合は、凝結遅延作用が非常に大きくなり、水溶性セルロースエーテルと糖および/またはその誘導体の配合量を調節しても凝結遅延時間が異常に延び硬化初期強度に悪影響を及ぼす場合がある。一方、分子量が5,000より大きい場合は、水溶性セルロースエーテルと組み合わせても、保水性向上にほとんどつながらず、大量に添加する必要が生じコスト的に不利となる場合がある。
【0027】
B成分が複数の糖および/またはその誘導体の混合物である場合は、B成分の分子量は数平均分子量を意味し、450〜5,000を満足すればよい。
B成分は水溶性であることが好ましいが、20℃のイオン交換水100ml中に1g以上溶解すれば全く問題なく使用できる。
【0028】
B成分には、凝結遅延作用および/または流動化作用(減水作用)を持つものがある。凝結遅延作用とは水硬性物質、特にカルシウムイオンと結合し、硬化阻害を起こし凝結時間(始発時間および終結時間)を延長させる作用のことである。凝結遅延作用により、施工時の可使時間を充分確保でき、作業効率を改善することもあるが、強い凝結遅延作用は硬化初期強度の低下につながる恐れがあり好ましくない。前記B成分は、セメント100重量部に対して単独での添加で0.05重量部添加した場合、普通ポルトランドセメントの凝結時間よりそれぞれ250分以下の延長に抑えることができる、糖および/またはその誘導体が好ましい。水溶性セルロースエーテルも凝結遅延作用を持っており、本発明では配合量を減らした水溶性セルロースエーテル(A成分)と糖および/またはその誘導体(B成分)との配合量/種類を組み合わせることにより、従来の水溶性セルロースエーテル添加と比較して、凝結時間を早めることも、同等とすることも、遅らせることも可能である。凝結時間の延長が250分を超えると、水溶性セルロースエーテルと糖および/またはその誘導体の配合量を調節しても凝結遅延時間が異常に延び硬化初期強度に悪影響を及ぼす場合がある。
【0029】
流動化作用とは、添加することで水硬性組成物の流動性を上げることができる作用である。流動性を上げることにより、より少ない水量で取り扱うこともできるので、例えばセメント業界ではそのような作用を減水作用と呼ぶ。
前記流動化作用または減水作用は、あくまでも付加的な作用であり、水硬性組成物の調製条件(水硬性物質の種類、調製時の温度等)によって変化し、その制御が難しい場合がある。また、その作用は、従来の減水剤、AE減水剤、高性能AE減水剤と同じか、多くの場合、それより小さい。このため、A成分、B成分の他に、粘性や流動性を調節する作用の大きいC成分を追加配合することにより、粘性や流動性を調節し適度な作業性を付与する必要がある。
【0030】
前記A成分と前記B成分との重量比(A成分/B成分)は、30/70〜95/5であることが好ましく、より好ましくは40/60〜94/6、さらに好ましくは50/50〜93/7、特に好ましくは55/45〜92/8、最も好ましくは60/40〜90/10である。A成分/B成分が95/5よりも大きい場合は、保水性、作業性を満足させるために、より低粘度の水溶性セルロースエーテルをより多く添加しなければならなくなるので、混和剤の配合量も多くなり従来の配合に比べて優位性が出ない場合がある。一方、A成分/B成分が30/70よりも小さい場合は、A成分が少な過ぎるためにA成分、B成分を組み合わせることによって発現していた保水性が弱くなり、さらに凝結遅延性の調節が困難となる場合がある。
C成分は増粘剤および/または流動化剤からなる成分である。本発明において、C成分は主に、水硬性組成物の粘性や流動性を調節し、適度な作業性を付与する成分である。
【0031】
前記増粘剤は、主に、少量配合するだけで水硬性組成物を増粘させる効果が発現する成分である。糖および/またはその誘導体によって流動化し、作業性が乏しくなった水硬性組成物の作業性を、上記効果により改善することができる。例えば、タイル用セメントモルタルでは、鏝切れを改善したり、また、貼り付けたタイルのズレを防止したりする。増粘剤としては、アクリルアマイド系重合体、ジメチルアミンとエピクロルヒドリンとの共重合体(塩)およびジメチルジアリルアンモニウム塩の重合体等が好ましく、水硬性材料に含まれる他の成分、特に水硬性物質への吸着架橋、水硬性組成物内の荷電中和等の作用により、水硬性材料に含まれる他の成分、特に水硬性物質の凝集を効果的に引き起こし、水硬性組成物を増粘化させる。
アクリルアマイド系重合体は、ノニオン系、アニオン系、カチオン系のいずれでもよい。アクリルアマイド系重合体としては、たとえば、ポリアクリルアマイド、アクリルアマイドとアクリル酸(塩)との共重合体、ポリアクリルアマイド部分加水分解物、スルホン基を導入したスルホン化ポリアクリルアマイド(塩)、アクリルアマイドとジメチルジアリルアンモニウム塩との共重合体等が挙げられる。
【0032】
流動性向上剤は、主に、少量配合するだけで水硬性組成物を流動化させる効果が発現する成分である。糖および/またはその誘導体によってもあまり流動化せず高粘度のセルロースエーテルによって過度に増粘し、作業性が乏しくなった水硬性組成物の作業性を、上記効果により改善することができる。流動性向上剤として、ポリカルボン酸およびアニオン性界面活性剤類等が、水硬性材料に含まれる他の成分、特に水硬性物質へ吸着し、静電反発、立体阻害等の作用により、水硬性材料に含まれる他の成分、特に水硬性物質の分散を効果的に引き起こし、水硬性組成物を流動化させるため好ましい。
ポリカルボン酸としては、無水マレイン酸、マレイン酸(塩)、マレイン酸エステル等のマレイン酸系化合物;アクリル酸(塩)、メタクリル酸(塩)、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル等の(メタ)アクリル酸系化合物;カルボキシル基を有する不飽和(ポリ)アルキレングリコールエーテル系単量体(塩)等の単量体の重合体が挙げられる。ポリカルボン酸は、一種の単量体の単独重合体でも、二種以上の単量体の共重合体でもよい。また、これらの単量体の一種または二種以上と、スチレンやカルボキシル基を有しない不飽和(ポリ)アルキレングリコールエーテル系単量体等他のビニル型単量体の一種または二種以上との共重合体でもよい。
【0033】
本発明において、アニオン性界面活性剤類とは、有機酸の塩からなるアニオン性界面活性剤および/またはその未解離の有機酸を意味する。アニオン性界面活性剤類として、アルキルベンゼンスルホン酸(塩)、アルキルスルホン酸(塩)、アルケニルスルホン酸(塩)、アルキルベンゼン硫酸エステル(塩)、アルキル硫酸エステル(塩)およびアルケニル硫酸エステル(塩)等が、水硬性組成物内のイオンの影響を受けにくく、水硬性材料に含まれる他の成分、特に水硬性物質を安定して分散させるため好ましい。
前記アニオン性界面活性剤類は、分子内のアルキル基またはアルケニル基が6個以上の炭素原子を有するものが好ましく、分子内に8個以上の炭素原子を有するものがさらに好ましい。
【0034】
C成分における塩とは、分子内のカルボン酸基、スルホン酸基、硫酸基等の酸性基からのプロトンの脱離および/またはアミノ基等の塩基性基へのプロトンの付加によりイオン化した増粘剤および/または流動性向上剤が対となるカチオン、アニオンとイオン結合をした増粘剤および/または流動性向上剤の塩を意味する。
対となるカチオンとしては、特に限定はないが、たとえば、カリウム(K)、ナトリウム(Na)、アンモニウム(NH)等が挙げられる。また、対となるアニオンとしては、特に限定はないが、たとえば、塩化物(Cl)、水酸化物(OH)等が挙げられる。対となるカチオン、アニオンがさらに1つまたは2つ以上のカチオン、アニオンとイオン結合をしていてもよい。
【0035】
C成分には、A成分およびB成分と同様に、凝結遅延作用を持つものがある。特にポリカルボン酸にはその作用があると考えられている。しかし、本発明においては、C成分の使用量はA成分またはB成分より少なく、凝結遅延時間の延長にはほとんどつながらない。
前記C成分は、水硬性組成物用混和剤の中に少なくとも1種類を含有しておればよく、2種類以上含有させることで作業性を調節していてもよい。
C成分の重量割合が前記A成分およびB成分の合計量に対して、0.01〜2%の範囲にあると好ましく、より好ましくは0.05〜1.8%、さらに好ましくは0.1〜1.6%、特に好ましくは0.3〜1.4%、最も好ましくは0.5〜1.3%である。C成分の重量割合が0.01%よりも小さい場合は、粘性や流動性を調節できず、適度な作業性のある水硬性組成物を得ることができない場合がある。一方、2%より大きい場合は、十分な保水性が得られず、大量に添加する必要が生じコスト的に不利となる場合がある。
【0036】
C成分は固体状であることが好ましいが、液体状の場合でもA成分およびB成分と液体噴霧等で混合し、水硬性組成物用混和剤を調製することも可能である。本発明の効果を損なわない範囲で、シリカ等の別物質に液体状のC成分を含浸させた後、A成分およびB成分と混合し、水硬性組成物用混和剤を調製してもよい。
C成分は水溶性であることが好ましいが、20℃のイオン交換水100ml中に0.01g以上溶解すれば全く問題なく使用できる。
【0037】
〔水硬性材料〕
本発明の水硬性材料は、上記水硬性組成物用混和剤と水硬性物質とを含む。本発明の水硬性材料は、上記水硬性組成物用混和剤を構成する各成分を別々に水硬性物質と混合して得られるものも含まれる。
水硬性物質としては、セメントおよび/または石膏が好ましい。
【0038】
セメントとしては、特に限定はないが、たとえば、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、耐硫酸塩ポルトランドセメント、低アルカリ形の上記ポルトランドセメント、高炉セメント、シリカセメント、フライアッシュセメント、白色ポルトランドセメント、超速硬セメント、超微粒子セメント、アルミナセメント、ジェットセメント等が挙げられる。
石膏としては、特に限定はないが、たとえば、I型無水石膏、II型無水石膏、III型無水石膏、二水石膏、α型半水石膏、β型半水石膏等が挙げられる。
【0039】
水硬性物質の配合量は、必要強度となるように配合すればよく、特に限定はない。
水硬性材料に占める水硬性組成物用混和剤の重量割合については、特に限定はないが、0.003〜2重量%であることが好ましく、より好ましくは0.005以上1重量%未満、さらに好ましくは0.01〜0.8重量%、特に好ましくは0.02〜0.4重量%、最も好ましくは0.04〜0.15重量%である。水硬性組成物用混和剤の重量割合が2重量%より大きい場合は、配合量が多くコスト的に不利になる場合がある。一方、水硬性組成物用混和剤の重量割合が0.003重量%より小さい場合は、保水性、作業性等の性能が満足できない場合がある。
【0040】
本発明の水硬性材料は、上記成分の他に、必要に応じて、本発明の効果を損なわない範囲で、たとえば、結合材、細骨材、無機増量材、有機増量材、補強繊維、軽量骨材、膨張材、接着性付与剤、充填剤、防錆剤、防水剤、防カビ剤、消泡剤、凝結遅延剤、凝結促進剤、AE剤、AE減水剤、高性能AE減水剤等の各種混和材や混和剤等のその他の成分を含めることができる。
さらに、従来から水溶性セルロースエーテルに併用されていたポリビニルアルコール、ポリアルキレングリコール等の合成水溶性高分子、ヒドロキシプロ
ピル化澱粉等の半合成水溶性高分子、グアーガム、ウエランガム等の天然水溶性高分子を本発明の目的を損なわない範囲で併用することも差し支えない。
【0041】
上記その他の成分を、必要に応じ、水硬性組成物用混和剤の時点で混合しておいてもよい。
〔水硬性組成物および成型物〕
本発明の水硬性組成物は、上記水硬性材料と水とを混合したものである。
【0042】
水硬性組成物中に含まれる水の量は、水硬性材料の種類等に応じて選定され、常用量とすることができるが、水硬性物質に対して10〜100重量%の範囲が好ましい。
本発明の水硬性組成物は、上記水硬性材料を構成する各成分を別々に水と混合して得られるものも含まれる。
【0043】
本発明の成型物は、上記水硬性組成物を硬化させて得られるものであり、たとえば、コンクリート下地セメントモルタル、ラス下地セメントモルタル、タイル用セメントモルタル、サンドモルタル、耐火被膜用セメントモルタル、左官用セメントモルタル、厚塗り用セメントモルタル、補修用セメントモルタル、石膏プラスター、石膏ボンド、石膏パテ等の硬化物が挙げられ、主に建築材料として利用される。
成型物は、上記水硬性組成物を常法によって硬化させて得られる。
【実施例】
【0044】
以下の実施例および比較例で本発明を詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
〔A成分、B成分の粘度測定〕
本発明における粘度は、20mPa・s以上では単一円筒形粘度計としてB型回転粘度計を使用して求めた値とし、20mPa・s未満では毛細管粘度計としてキャノン−フェンスケ粘度計を使用して求めた値とする。各粘度測定はJIS Z 8803に従って20℃で行った。
B型回転粘度計を使用した粘度測定の際、%表示で求められる測定値が測定範囲30〜80%の範囲内に収まるよう回転ローターのタイプ、回転数を決定し、測定した。粘度は測定値に各測定条件(回転ローターのタイプ/回転数)での換算乗数をかけて求めた。測定条件候補が複数ある場合は、回転数12rpm>30rpm>6rpm>60rpmの順番で優先的に採用し、それでも一義的に決定しない場合は回転ローターNo.4>No.3>No.2>No.1の順番で優先的に採用し決定した。
【0045】
上記粘度測定方法に従い、まず本発明のA成分に相当するA1(ヒドロキシプロピルメチルセルロース)を1重量%濃度でイオン交換水に溶解させた後、20℃での粘度を測定した。各測定条件(回転ローターのタイプ/回転数)における粘度(測定値)は、No.4/6rpmで範囲外(30%未満)、No.4/12rpmで15,500mPa・s(31%)、No.4/30rpmで9,600mPa・s(48%)、No.4/60rpmで6,400mPa・s(64%)、No.3/6rpmで範囲外(80%より大)であった。このため、測定条件はNo.4/12rpmを採用し、A1の粘度を15,500mPa・sとした。
A1の粘度決定方法と同様の方法で、表1または表2に示すように実施例、比較例に使用したA成分、B成分の粘度を決定した。
A4、A5について、2種類の水溶性セルロースエーテルをそれぞれ混合し粘度等を調節し以下の実施例に用いており、表1に示すように混合物の種類/比およびその条件での粘度を決定した。
【0046】
〔B成分の凝結遅延時間評価〕
セメント(普通ポルトランドセメント)100重量部に対して、本発明のB成分に相当するB1(β−シクロデキストリン、分子量:1,150;日本食品化工株式会社製、商品名:セルデックスB−100)を、0.05重量部加えた際の凝結遅延時間を評価した。凝結遅延時間評価はJIS R 5201に従い実施した。混練および評価は、いずれも温度18〜22℃、湿度55%〜75%の条件下で実施した。評価では、まず凝結時間、すなわち始発時間Sおよび終結時間Tをそれぞれ評価した。始発時間とは、水硬性材料に水を加えてから水硬性組成物の凝結が開始するまでのJISでの便宜上の時間を示す。終結時間とは、水硬性材料に水を加えてから水硬性組成物の凝結が終了するまでのJISでの便宜上の時間を示す。更に、上記と同様の方法でB1を加えない場合の始発時間Sと終結時間Tもそれぞれ評価し、始発時間、終結時間それぞれの凝結遅延時間(分)を以下の計算式(1)、(2)に従って算出した。
始発時間の凝結遅延時間=S−S (1)
終結時間の凝結遅延時間=T−T (2)
B1の凝結遅延時間と同様の方法で、表2に示すように実施例に使用したB成分の凝結遅延時間を決定した。
【0047】
【表1】

【0048】
【表2】

【0049】
〔実施例1−1〕
A成分に相当する成分としてのA4(A1(ヒドロキシプロピルメチルセルロース)/A2(ヒドロキシプロピルメチルセルロース)=7.0/3.0の混合物)84.3重量部と、B成分に相当する成分としてのB1 15.0重量部と、C成分に相当する成分としてC1(ラウリル硫酸ナトリウム、花王株式会社、商品名:エマールO)0.7重量部を十分に混合して、水硬性組成物用混和剤を調製した。以下では、この水硬性組成物用混和剤を混和剤α−1とする。
【0050】
〔実施例1−2〜1−5および比較例1−1〜1−8〕
実施例1−1において、表3または4に示すようにA成分、B成分およびC成分の種類や量をそれぞれ変更する以外は、実施例1−1と同様にして、混和剤α−2〜α−5をそれぞれ調製した。
混和剤α−1〜α−3に対する従来の混和剤(比較混和剤)の例として、a1(ヒドロキシプロピルメチルセルロース)を混和剤β−1とした。また、混和剤α−4、5に対する従来の混和剤(比較混和剤)の例として、a2(ヒドロキシプロピルメチルセルロース)を混和剤β−2とした。
【0051】
実施例1−1において、表3または4に示すようにA成分、B成分およびC成分の種類や量をそれぞれ変更する以外は、実施例1−1と同様にして、混和剤γ−1〜γ−6をそれぞれ調製した。混和剤γ−1〜γ−6は、混和剤β−1および混和剤β−2とは別の比較混和剤である。
【0052】
【表3】

【0053】
【表4】

【0054】
〔コンクリート下地セメントモルタル試験〕
セメント(普通ポルトランドセメント)65重量部、珪砂8号(細骨材)32.5重量部に対して、表5に示した種類および量の混和剤をそれぞれ加え十分に混合し、水硬性材料を調製した。EVAエマルジョン(エチレン−酢ビ共重合体系エマルジョン、接着性付与剤、固形分濃度:45重量%)2.2重量部(固形分換算)は上記水硬性材料と混合する前に、水に分散させた。
次に、水硬性材料に、EVAエマルジョンを分散させた水を加え、モルタルミキサーにて3分間十分混練し、コンクリート下地セメントモルタル(水硬性組成物)を調製した。なお、混練は、JIS R 5201 10.4.3練混ぜ方法に準じて行った。混練の際、加える水量は後述のフロー値評価により、フロー値が180〜185mmの範囲に収まるように加減し、表5にフロー値を示した。混練および以下の評価、養生は、いずれも温度18〜22℃、湿度55%〜75%の条件下で実施した。調製したセメントモルタルを用いて、後述の保水率評価、鏝塗り作業性評価を実施した。さらにセメントモルタルを一週間養生後、その成型物を用いて、後述のモルタル接着強度評価、表面状態評価を実施した。
【0055】
〔タイル用セメントモルタル試験〕
セメント50重量部、珪砂5号(細骨材)10重量部および珪砂6号(細骨材)40重量部に対して、表6または7に示した種類および量の混和剤をそれぞれ加え十分に混合し、水硬性材料を調製した。
混練の際、加える水量は後述のフロー値評価により、フロー値が164〜169mmの範囲に収まるように加減し、表6または7にフロー値を示した。それ以外の混練および養生は、上記コンクリート下地セメントモルタル試験と同様にしてタイル用セメントモルタル(水硬性組成物)および成型物を調製した。調製したセメントモルタルを用いて、後述の保水率評価、鏝塗り作業性評価、タイルズレ評価を実施し、さらに成型物を用いて、後述のタイル接着強度評価、表面状態評価を実施した。
【0056】
〔石膏ペースト試験〕
石膏(α型半水石膏)99重量部およびRS(リグニンスルホン酸、凝結遅延剤)0.20重量部に対して、表8に示した種類および量の混和剤をそれぞれ加え十分に混合し、水硬性材料を調製した。
混練の際、加える水量は後述のフロー値評価により、フロー値が168〜173mmの範囲に収まるように加減し、表8にフロー値を示した。それ以外の混練および養生は、上記コンクリート下地セメントモルタル試験と同様にして石膏ペースト(水硬性組成物)および成型物を調製し、評価を実施した。
【0057】
1.フロー値評価方法:各セメントモルタル試験、石膏ペースト試験での、各セメントモルタル、石膏ペーストの水量決定のために、本試験前に実施し、フロー値が以下の所定の範囲に収まる水量を、JIS A 6916にしたがって決定した。フロー値は、コンクリート下地セメントモルタル試験では180〜185mm、タイル用セメントモルタル試験では164〜169mm、石膏ペースト試験では168〜173mmの範囲に収まるよう水量を決定した。
2.保水率評価方法:JIS A 6916保水性試験法(ろ紙法)に従い、60分後の水分の広がりとリング型枠の内径とを測定し、保水率Rw(%)を以下に示す計算式(3)で算出した。保水率が大きければ、その水硬性組成物の保水性が強いことを示し、保水率が小さければ、保水性が弱いことを示す。
Rw=(Lr/L60)×100 (3)
(式中、Rw:保水率(%)、L60:60分後の水分の広がり(mm)、Lr:リング型枠の内径(mm))
【0058】
3.鏝塗り作業性評価方法:各セメントモルタルまたは石膏ペーストを鏝塗りし、鏝伸び性、鏝滑り性および鏝切れ性を、下記の判断基準にしたがって評価した(官能試験)。鏝切れ性はタイル用セメントモルタル試験でのみ評価した。
判断基準
◎:非常によい。
○:よい。
△:普通。
×:悪い。
4.モルタル接着強度評価方法:水平な場所で歩道用コンクリート平板(JIS A 5304、300×300×60mm)にコンクリート下地セメントモルタルを1mmの厚さで塗布した。一週間養生した後の成型物を用いて、建研式接着力試験機(山本打重機株式会社製)を用いてモルタル接着強度を求め評価結果とした。
【0059】
5.表面状態評価方法:水平な場所で、歩道用コンクリート平板に各セメントモルタルまたは石膏ペーストを所定の厚さで塗布し、一週間養生した後指触観察によるざらつきの程度を、下記の判断基準にしたがって評価した。塗布する厚さは、コンクリート下地セメントモルタル試験または石膏ペースト試験では1mm、タイル用セメントモルタル試験では5mmとした。
判断基準
○:ざらつきなく良好。
×:ざらつきあり不良。
6.タイルズレ評価方法:水平な場所で歩道用コンクリート平板にタイル用セメントモルタルを5mmの厚さで塗布し、磁器製小口平タイルを貼り付けた後、200gの重りを取り付け、垂直にした後60秒保持した。その後タイルのズレの程度を下記の判断基準にしたがって評価した。
判断基準
○:ずれない。
△:ややずれる。
×:貼付け面から滑落する。
【0060】
5.タイル接着強度評価方法:上記タイルズレ評価方法において、タイル用セメントモルタルを5mmの厚さで塗布後、モルタル表面を整え終えた時間を基準として経過時間(直後、30分後)毎に小口平タイルを圧着した。一週間養生した後の成型物を用いて、建研式接着力試験機(山本打重機株式会社製)を用いて経過時間ごとの接着強度を求め評価結果とした。
【0061】
〔凝結試験〕
表9に示した配合で、水硬性物質および混和剤を加え十分に混合し、水硬性材料を調製した。水硬性物質に対する混和剤の重量割合を上記コンクリート下地セメントモルタル試験での配合と同じにし、細骨材および接着性付与剤の有無に関わらず対応して比較できるようにした。水硬性材料に水を加え、モルタルミキサーにて2.5分間十分混練し、水硬性組成物であるセメントペーストを調製した。凝結試験はJIS R 5201に従い実施した。混練の際、加える水量は軟度評価により、軟度が6±1mmの範囲に収まるようにそれぞれのJISに記載の通りに加減し決定した。凝結時間はその始発時間と終結時間を評価した。
【0062】
〔実施例2−1および比較例2−1〕
実施例2−1では、セメント(65重量部)、珪砂8号(32.5重量部)および混和剤α−1(0.084重量部)を混合して水硬性材料を得た。EVAエマルジョン(2.2重量部、固形分換算)は直接、水(26.1重量部)に分散させた。その後、上記水硬性材料に、EVAエマルジョンを分散させた水を加えて、コンクリート下地セメントモルタルを得た。得られたセメントモルタルを硬化させて、成型物を得た。実施例2−1について上記評価を実施した。結果を表5に示す。
比較例2−1では、実施例2−1の混和剤α−1(0.084重量部)を混和剤β−1(0.130重量部)に変更する以外は実施例2−1と同様にして、水硬性材料、セメントモルタルおよび成型物を得た。実施例2−1の従来の配合として、比較例2−1について上記評価を実施した。結果を表5に示す。
【0063】
実施例2−1では、比較例2−1に比べて混和剤の配合量は少なくなっているのに関わらず、得られたセメントモルタルの保水率、鏝塗り作業性、また成型物のモルタル接着強度、表面状態は、比較例2−1と同等以上であった。鏝塗り作業性のうち、特に鏝滑りが比較例2−1より良好であった。
〔実施例2−2〜2−3および比較例2−2〕
実施例2−2〜2−3および比較例2−2では、実施例2−1において、混和剤の種類および量、水の量を、表5に示すようにそれぞれ変更する以外は、実施例2−1と同様にして水硬性材料、セメントモルタルおよび成型物をそれぞれ得て、上記評価を実施した。
【0064】
実施例2−2〜2−3では、比較例2−1に比べて混和剤の配合量は少なくなっているのに関わらず、得られたセメントモルタルの保水率、鏝塗り作業性、また成型物のモルタル接着強度、表面状態は、比較例2−1と同等以上であった。
本発明におけるC成分を含まない比較例2−2ではセメントモルタルの鏝塗り作業性(特に鏝伸び)、成型物の表面状態が実施例2−1および比較例2−1に比べ劣っていた。さらには過度の増粘性が発揮されフロー値を合わせるのにより多くの水の添加を必要としたため、保水性も悪化した。
【0065】
【表5】

【0066】
〔実施例3−1および比較例3−1〕
実施例3−1では、セメント(50重量部)、珪砂5号(10重量部)、珪砂6号(40重量部)および混和剤α−4(0.105重量部)を混合して水硬性材料を得た。得られた水硬性材料に水(20.0重量部)を加えて、タイル用セメントモルタルを調製した。得られたセメントモルタルを硬化させて、成型物を得た。実施例3−1について上記評価を実施した。結果を表6に示す。
比較例3−1では、実施例3−1の混和剤α−4(0.105重量部)を混和剤β−2(0.150重量部)に変更する以外は実施例3−1と同様にして、水硬性材料、セメントモルタルおよび成型物を得た。実施例3−1の従来の配合として、比較例3−1について上記評価を実施した。結果を表6に示す。
【0067】
実施例3−1では、比較例3−1に比べて混和剤の配合量は少なくなっているのに関わらず、得られたセメントモルタルの保水率、鏝塗り作業性、タイルズレ、また成型物のタイル接着強度、表面状態は、比較例3−1と同等以上であった。鏝塗り作業性のうち、特に鏝滑りが比較例3−1と比べて良好であった。
〔実施例3−2および比較例3−2〜3−7〕
実施例3−2および比較例3−2〜3−7では、実施例3−1において、混和剤の種類および量、水の量を、表6または7に示すようにそれぞれ変更する以外は、実施例3−1と同様にして水硬性材料、セメントモルタルおよび成型物をそれぞれ得て、上記評価を実施した。
【0068】
実施例3−2では、比較例3−1に比べて混和剤の配合量は少なくなっているのに関わらず、得られたセメントモルタルの保水率、鏝塗り作業性、タイルズレ、また成型物のタイル接着強度、表面状態は、比較例3−1と同等以上であった。鏝塗り作業性のうち、特に鏝滑りが比較例3−1と比べて良好であった。
本発明におけるC成分を含まない比較例3−2ではセメントモルタルの鏝塗り作業性(特に鏝切れ)、タイルズレが実施例3−2および比較例3−1に比べ劣っていた。
【0069】
比較例3−3では保水率、タイル接着強度(特に30分後タイル貼り付け時)が実施例3−1〜3−2および比較例3−1に比べて乏しかった。比較例3−4では比較例3−3より混和剤の量を多くしたことによって、鏝塗り作業性(特に鏝滑り、鏝切れ)が悪化し、さらには過度の増粘性が発揮されフロー値を合わせるのにより多くの水の添加を必要としたため、保水性もあまり向上しなかった。すなわち、混和剤として、高粘度の水溶性セルロースエーテルだけ使用し配合量を減らして、従来の配合と同等以上の性能を発揮させることはできなかった。
本発明におけるB成分に相当するB2(マルトオリゴ糖混合物、数平均分子量:1,670;松谷化学工業株式会社製、商品名:パインデックス♯2)のみを混和剤として使用した比較例3−5では実施例3−2および比較例3−1に比べてほぼ全ての評価結果で不良となり、特に保水性評価では試験開始10分以内にろ紙全面に広がり保水性が全く発現されなかった。
【0070】
本発明におけるB成分の比較としてのb1(メチルセルロース、数平均分子量:18,000)を使用した比較例3−6では保水率、タイル接着強度(特に30分後タイル貼り付け時)が実施例3−1および比較例3−1に比べて乏しかった。
本発明におけるB成分の比較としてのb2(イオタカラギーナン・ナトリウム塩)を使用した比較例3−7では、鏝塗り作業性(特に鏝伸び)が悪化し、さらには過度の増粘性が発揮されフロー値を合わせるのにより多くの水の添加を必要としたため、保水性も実施例3−1〜3−2および比較例3−1に比べて乏しかった。
【0071】
【表6】

【0072】
【表7】

【0073】
註1) 試験開始10分以内にろ紙全面に広がったため、保水率の測定はできなかった。
【0074】
〔実施例4−1および比較例4−1〕
実施例4−1では、石膏(99重量部)、RS(0.20重量部)および混和剤α−1(0.39重量部)を混合して水硬性材料を得た。得られた水硬性材料に水(35.8重量部)を加えて、石膏ペーストを調製した。得られた石膏ペーストを硬化させて、成型物を得た。実施例4−1について上記評価を実施した。結果を表8に示す。
比較例4−1では、実施例4−1の混和剤α−1(0.39重量部)を混和剤β−1(0.60重量部)に変更する以外は実施例4−1と同様にして、水硬性材料、石膏ペーストおよび成型物を得た。実施例4−1の従来の配合として、比較例4−1について上記評価を実施した。結果を表8に示す。
【0075】
実施例4−1では、比較例4−1に比べて混和剤の配合量は少なくなっているのに関わらず、得られた石膏ペーストの保水率、鏝塗り作業性、また成型物の表面状態は、比較例4−1と同等以上であった。鏝塗り作業性のうち、特に鏝滑りが比較例4−1と比べて良好であった。
〔実施例4−2〕
実施例4−2では、実施例4−1において、混和剤の種類および量、水の量を、表8に示すようにそれぞれ変更する以外は、実施例4−1と同様にして水硬性材料、石膏ペーストおよび成型物をそれぞれ得て、上記評価を実施した。
【0076】
実施例4−2では、比較例4−1に比べて混和剤の配合量は少なくなっているのに関わらず、得られた石膏ペーストの保水率、鏝塗り作業性、また成型物の表面状態は、比較例4−1と同等以上であった。
【0077】
【表8】

【0078】
〔実施例5−1および比較例5−1〕
実施例5−1では、セメント(65重量部)および混和剤α−1(0.084重量部)を混合して水硬性材料を得た。得られた水硬性材料に水(19.1重量部)を加えセメントペーストを調製した。実施例5−1について上記評価を実施した。結果を表9に示す。
なお、実施例5−1の水硬性材料の配合は実施例2−1の配合のうち、細骨材、接着性付与剤を除いた配合であり、水硬性物質に対する混和剤の重量割合は変化なく一致している。実施例5−1は実施例2−1の凝結時間の目安を示している。
【0079】
比較例5−1では、実施例5−1の混和剤α−1(0.084重量部)の代わりに混和剤β−1(0.130重量部)に変更する以外は実施例5−1と同様にして、水硬性材料およびセメントペーストを得た。実施例5−1の従来の配合として、比較例5−1について上記評価を実施した。結果を表9に示す。比較例5−1は比較例2−1の凝結時間の目安を示している。
実施例5−1の凝結時間は、従来の配合である比較例5−1に比べて、表9に示すように、始発時間、終結時間ともに約1時間遅れた。
【0080】
〔実施例5−2〜5−3〕
実施例5−2〜5−3では、実施例5−1において、混和剤の種類および量、水の量を、表9に示すようにそれぞれ変更する以外は、実施例5−1と同様にして水硬性材料およびセメントペーストをそれぞれ得て、上記評価を実施した。実施例5−2〜5−3は実施例2−2〜2−3の凝結時間の目安をそれぞれ示している。
実施例5−2〜5−3での凝結時間は、従来の配合である比較例5−1に比べて、表9に示すように、始発時間で20分早めることも75分遅らすことも、終結時間で10分早めることも50分遅らすことも可能であった。すなわち凝結時間の調節が可能であった。
【0081】
【表9】

【0082】
上記表のいずれかにおいて、以下の略号が使用されている。
A1:ヒドロキシプロピルメチルセルロース
A2:ヒドロキシプロピルメチルセルロース
A3:ヒドロキシエチルメチルセルロース
a1:ヒドロキシプロピルメチルセルロース
a2:ヒドロキシプロピルメチルセルロース
B1:β−シクロデキストリン(分子量:1,150、日本食品化工株式会社製、商品名:セルデックスB−100)
B2:マルトオリゴ糖混合物(数平均分子量:1,670、松谷化学工業株式会社製、商品名:パインデックス♯2)
b1:メチルセルロース(数平均分子量:18,000)
b2:イオタカラギーナン・ナトリウム塩
C1:ラウリル硫酸ナトリウム(花王株式会社製、商品名:エマールO、註2))
C2:ポリカルボン酸(日油株式会社製、商品名:ポリスターOMP、註2))
C3:アクリルアマイド系共重合体(三共化成工業株式会社製、商品名:サンポリーA−530、註2))
C4:ポリジメチルジアリルアンモニウムクロライド(日進産業株式会社製、商品名:ニッシンフロックD95、註2))
セメント:普通ポルトランドセメント
石膏:α型半水石膏
珪砂5号:細骨材
珪砂6号:細骨材
硅砂8号:細骨材
EVAエマルジョン:エチレン−酢ビ共重合体系エマルジョン(接着性付与剤、固形分濃度:45重量%)
RS:リグニンスルホン酸塩(凝結遅延剤)
【0083】
註2) 20℃のイオン交換水100ml中に0.01g以上溶解した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1重量%の水溶液の20℃における粘度が8,000〜50,000mPa・sの水溶性セルロースエーテルからなるA成分と、分子量450〜5,000の糖および/またはその誘導体からなるB成分と、増粘剤および/または流動性向上剤からなるC成分とを含む、水硬性組成物用混和剤。
【請求項2】
前記A成分と前記B成分との重量比(A成分/B成分)が30/70〜95/5の範囲にある、請求項1に記載の水硬性組成物用混和剤。
【請求項3】
前記C成分の重量割合が前記A成分およびB成分の合計量に対して、0.01〜2%の範囲にある、請求項1または2に記載の水硬性組成物用混和剤。
【請求項4】
前記A成分が、水溶性アルキルセルロース、水溶性ヒドロキシアルキルアルキルセルロースおよび水溶性ヒドロキシアルキルセルロースから選ばれる少なくとも1種である、請求項1〜3のいずれかに記載の水硬性組成物用混和剤。
【請求項5】
前記増粘剤が、アクリルアマイド系重合体、ジメチルアミンとエピクロルヒドリンとの共重合体(塩)およびジメチルジアリルアンモニウム塩の重合体から選ばれる少なくとも1種である、請求項1〜4のいずれかに記載の水硬性組成物用混和剤。
【請求項6】
前記流動性向上剤が、ポリカルボン酸およびアニオン性界面活性剤類から選ばれる少なくとも1種である、請求項1〜5のいずれかに記載の水硬性組成物用混和剤。
【請求項7】
前記アニオン性界面活性剤類が、アルキルベンゼンスルホン酸(塩)、アルキルスルホン酸(塩)、アルケニルスルホン酸(塩)、アルキルベンゼン硫酸エステル(塩)、アルキル硫酸エステル(塩)およびアルケニル硫酸エステル(塩)から選ばれる少なくとも1種である、請求項6に記載の水硬性組成物用混和剤。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の水硬性組成物用混和剤と、水硬性物質とを含む、水硬性材料。
【請求項9】
前記水硬性物質がセメントおよび/または石膏である、請求項8に記載の水硬性材料。
【請求項10】
前記水硬性材料に占める前記水硬性組成物用混和剤の重量割合が0.003〜2重量%である、請求項8または9に記載の水硬性材料。
【請求項11】
請求項8〜10のいずれかに記載の水硬性材料と水とを混合させてなる、水硬性組成物。
【請求項12】
請求項11に記載の水硬性組成物を硬化させてなる、成型物。

【公開番号】特開2011−98851(P2011−98851A)
【公開日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−253729(P2009−253729)
【出願日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【出願人】(000188951)松本油脂製薬株式会社 (137)
【Fターム(参考)】