説明

水系エマルジョンを樹脂原料とするイオン交換膜

【課題】
従来のイオン交換膜の製造法は、製膜後、イオン交換基を固定導入するため、煩雑であり、また多量の廃液を生じる。そのため、イオン交換膜の製造コストは高いものにならざるを得なかった。
【解決の手段】
乳化重合による水系エマルジョンは、表面及びその近傍に親水性のイオン交換基を多く含む。そのエマルジョンを用い、製膜すると、粒子間の界面近くにイオン交換基を多く含む構造が膜に残り、イオンが移動可能な経路を形成する。樹脂に対し0.1〜3mmol/gのイオン交換基濃度を有する水系エマルジョンを用いることにより、イオン交換膜を作ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気透析、電気分解、電池のセパレーターなどの様々な用途に使用されているイオン交換膜に関するものである。
【0002】
詳しくは、樹脂成分に解離基を有し、水にコロイド状に分散したエマルジョンを使用し、製膜してイオン交換膜とする、新規なイオン交換膜に関するものである。
【背景技術】
【0003】
イオン交換樹脂は、原料モノマーを用い、塊(バルク)重合、分散(サスペンション)重合、乳化(エマルジョン)重合などにより樹脂を製造した後、イオン交換基を、化学反応を利用し導入して作られるが、後でイオン交換基を導入するため、あらかじめ樹脂は高度に架橋しているものを使用する。このため、そのままでは膜状に整形することができない。たとえば、
【0004】
米国特許USP4,191,812 あるいはUSP4,312,956では、エマルジョン樹脂に化学反応を利用してイオン交換基を導入し、陽イオン及び陰イオン交換能を持つ水系エマルジョンを合成する提案がなされている。しかし、これらの米国特許では、球形の小さなイオン交換樹脂を作り、粒子として利用することを目的とするものであって、膜に整形することできていない。
【0005】
イオン交換膜のほとんどは、イオン交換基を有する樹脂を加工して薄膜とする方法をとらず、スチレン−ジビニルベンゼンの共重合体によって得られた架橋樹脂をフィルム状にし、溶剤等で膨潤してから、濃硫酸またはクロルスルホン酸を用いてスルホン化することによって作られる。(特公昭39−19543号、特公昭40−28951号、特公昭49−16553号など)
あるいは膨潤したフィルムを、クロルメチル化反応を施し、その後アルキルアミンと反応させ、陰イオン交換膜とする。
【0006】
このようにモノマーから出発しイオン交換膜を製造するには、重合、架橋、製膜、イオン交換基の固定導入という4つの単位操作が必要である。
【0007】
しかしながら、製膜後、スルホン化、クロルメチル化等の反応を利用し、イオン交換基を樹脂に導入するため、イオン交換膜を得るためには煩雑な操作が必要で、さらに、危険な薬剤を使う必要があり、製造設備には特別な配慮が必要である。また、膨潤させた樹脂膜に、イオン交換基を再現良く一定量導入するのは、きわめて難しく品質管理の面から問題がある。また、イオン交換基を導入後は、多量の廃液の処理なども製造上の負担となっていた。
【0008】
製膜後にイオン交換基を導入する不都合の解決法として、特開平5−214124では、解離基を有するモノマーとしてスチレンスルホン酸アルキルアミン塩を使用し、重合と同時に製膜する方法が提案されているが、モノマーを薄膜に閉じこめて重合するため、設備の生産性は高くなく、特殊な製造設備が必要である。また、製膜反応後、イオン交換膜中にあるアルキルアミン塩を除去するためには、苛性ソーダ水溶液を加水分解したあと、アミン塩除去のため含水アルコールで洗浄する必要があり、なお煩雑である。
【0009】
汎用な樹脂の製造法を使い、簡単にイオン交換膜を製造する方法は、未だ開発されていない。このため、イオン交換膜を利用する分野は特別な分野に限られていた。
【0010】
たとえば、燃料電池にはイオン交換膜の利用が最適であるが、水素化硼素金属、あるいはヒドラジンを燃料とするアルカリ型燃料電池につかわれるセパレーターには、イオン交換膜でなく、多孔質のポリテトラフルオロエチレン(PTFE)あるいはポリエチレンフィルム(USP-4,020,239)あるいはアスベスト(USP-3,960,598)が提案されている。しかし、アスベストは、発ガン性を素材であり、作業所の安全管理、廃棄するため特別な配慮が必要である。
【0011】
また、PTFE等の多孔質な素材では、イオン交換膜に比べ、燃料が細孔を伝わり酸素極へ移動する速度が大きいので、小型アルカリ燃料電池には不向きであるという欠点を有する。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
従来のイオン交換膜の製造法は、煩雑であり、多量の廃液を生じる。そのため、イオン交換膜の製造コストは高いものにならざるを得ず、使われる用途も限られていた。汎用な樹脂を使い、製造が簡単なイオン交換膜を提供することにより、生活の利便性に貢献するイオン交換膜の用途拡大が期待できる。特に、ヒドラジン、水素化硼素金属を燃料とするアルカリ型燃料電池に有用なイオン交換膜を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0013】
水系エマルジョンは、塗料、接着剤、粘着剤として広く用いられ、薄い皮膜として様々な分野で使われているが、イオン交換膜として使用する提案はなされていない。
【0014】
発明者は、水系の合成されたエマルジョン粒子が、その表面及びその近傍内部に、プラスあるいはマイナスに帯電した官能基が多く存在し、コロイド状になって水溶液に安定的に分散していることに注目し、エマルジョン水溶液を処理し、樹脂として取り出すと、エマルジョン粒子の表面構造はそのまま残り、粒子同士の重なりで生じる境界面に、イオン化した官能基を多く含むチャンネル(経路)構造を形作くることができ、イオン交換膜として機能することを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0015】
エマルジョン粒子の重なりにより生じる粒界が、イオンの通る経路として機能するため、従来のイオン交換膜に比べ、樹脂あたりイオン交換基の濃度は少なくても、イオン交換膜として機能する。本発明の水系エマルジョンのイオン交換基濃度は0.1mmol/g〜3mmol/gのものが推奨できる。
【0016】
水系エマルジョンを使用し薄膜を作る技術は、すでに塗料、接着剤、粘着剤の分野で、長い年月の技術蓄積があり、公知であり、その方法を用い薄膜を製造することは容易である。
【0017】
また、後工程でイオン交換基の固定導入を行う必要がないので、従来提案されていたイオン交換膜に比べ、廃液処理等の環境処理コストを著しく低減することでき、有利である。
【0018】
たとえば、エマルジョン水溶液を、剥離紙等にコーテング後、乾燥、加熱しフィルムを作ると、粒子の構造は保たれ、粒子内部より粒子界面にイオン交換基が多く存在するチャンネル構造をもつイオン交換膜が容易に製造できる。
【0019】
イオン交換膜は、その用途により、イオン交換基の濃度、種類、及び膜の材質など様々な要求がなされるが、乳化重合法を行うときに、モノマーの種類を選定し、適切な乳化重合条件を選ぶことにより、イオン交換膜の用途に合わせた水系エマルジョンを合目的に製造することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明のイオン交換膜は、乳化重合による水系エマルジョンを用いるため、製造が容易であり、廃液等の環境負荷が、従来のイオン交換膜に比べ少ない。
【0021】
モノマーの種類、乳化剤、反応のさせ方など、製造の自由度は高く、様々な物性の樹脂を製造することができ、目的に合った様々な物性のイオン交換膜を提供することができる。
【0022】
従来は使われていなかった分野への応用が期待される。特に、ヒドラジン、水素化硼素ナトリウムを燃料とする、アルカリ型燃料電池のセパレーターとしても使うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
エマルジョン水溶液は、主に乳化重合法により製造される。乳化重合は、ラジカルによる重合反応であるが、溶液重合法やバルク重合法にくらべ、製造装置制約が少なく、多様なモノマー原料を使えるため、広く利用されている。また、樹脂を微粉砕し、そのあと乳化してエマルジョン水溶液を作る方法もあるが、本発明は、いかなる方法で製造されたものであれ、粒子表面にイオン交換基を持ち、コロイドとして分散しているエマルジョン水溶液であれば、利用することが可能である。
【0024】
エマルジョン粒子のイオン交換基濃度は、電導度滴定により、高分子性イオン交換基として定量できる。樹脂重量あたりのイオン交換基濃度は、高いほどイオン交換能は優れているが、あまり多いと、樹脂の加工性、機械安定性が悪くなり、膜として作ることが難しくなる。また、少ないと、イオン交換能がさがり、実際の使用には適さなくなる。
【0025】
樹脂重量あたり0.1〜3mmol/gの交換容量を有する水系エマルジョンが推奨できる。
【0026】
イオン交換膜の厚みが40〜400ミクロンと厚く、電極反応等のセパレーターとして使用する場合には、0.3mmol/g〜3mmol/gのイオン交換能を有する水系エマルジョンが好適に利用される。
【0027】
エマルジョンを製造するさいには、目安として、原料のモノマー組成で、イオン交換基の濃度が、0.4mmol/g以上になるよう配合を選び、水溶液中で乳化重合を行えば、重合反応の方式にもよるが、イオン交換基は、エマルジョン粒子の内部より表面近くに多く取り込まれるので、電導度滴定で0.3mmol/g以上のイオン交換容量を持つことが可能である。勿論、エマルジョンの粒子径、平均分子量、モノマー添加法、反応のさせ方になどにより変化するので、最終的には、電導度滴定によりイオン交換容量を定量するのが望ましい。
【0028】
電気を伝えるイオンはエマルジョン粒子の境界面を伝わるため、エマルジョン粒子は架橋構造を持たないものでも使用できるが、耐水性、機械安定性を考慮し、架橋されたものであってもよい。ただし、架橋の度合いが進むと、膜に整形するのが困難になるので、製膜性を考慮し、慎重にモノマー配合を決めるべきである。特に、イオン交換基濃度が高くなった場合には、エマルジョンの耐水性の観点から、エマルジョン合成のとき架橋成分を入れ、重合するのが好ましい。勿論、製膜後、架橋処理し耐水性、機械安定性の向上を図っても良い。
【0029】
エマルジョンの物性値、たとえば、粒子経、分子量、Tg(ガラス点温度)最低造膜温度など、特に定めるものでないが、使われる用途に応じ、モノマー組成、乳化重合条件等を考慮し、製造すべきである。
【0030】
本発明では、単一のエマルジョン水溶液だけでなく、複数のエマルジョンを混合して使用しても良いが、混合する場合でも、0.3 mmol/g〜3mmol/gになるよう調整し、使用することが好ましい。
【0031】
イオン交換膜を調整する方法は、通常の薄膜製造技術を使うことができる。たとえば、エマルジョン水溶液を、そのまま剥離紙等にコーテング後 乾燥し、膜として製造することも、あるいは、エマルジョン水溶液に、凝集剤を加え凝集させ、イオン交換樹脂として分離後、通常の方法 たとえばキャステング法、カレンダー法、インフレーション法などを使用し膜に加工しても良い。
【0032】
また、凝集剤を加えたあと、直ちに、剥離紙等にコーテングし、乾燥し、膜として製造することもできる。
【0033】
あるいは、電導性のある網を電極とし、電気を通じ、エマルジョン樹脂をその網上に電着させ、膜として形成させても良い。
【0034】
イオン交換膜の物理的な強度を補強するため、補強材料を使いイオン交換膜を作っても良い。たとえば酸アルカリに強いポリプロピレン等の合成高分子で作った細かなメッシュの網あるいは薄い不織布等を補強材料として使用することができる。
【0035】
かくして製造した本発明のイオン交換膜は、燃料電池、電気分解、電気透析、センサーなどに利用できる。
【0036】
現在使用されている燃料電池の製造コストの大きな部分は、陰極及び陽極に使用する貴金属触媒と電極を隔てるセパレーターである。しかし、その中で、アルカリ水溶液を用いるヒドラジン、あるいは水素化硼素金属を燃料とした燃料電池は、高価な貴金属触媒は、必ずしも必須成分でなく、たとえば米国特許USP−4,001,040に記載されているように、陽極(空気極)は、銀を触媒として使用し、陰極材料には、ニッケル−銅系で、助触媒としてパラジウム使う方法が提案されている。本発明のイオン交換膜を使用すると、安価な小型燃料電池を提供できる。
【実施例1】
【0037】
水系エマルジョンの合成例と、エマルジョンを用いるイオン交換膜の製造例を以下に示すが、これは一例であり、これにとどまるものではない。
【表1】

【0038】
表1の合成1に示す原料組成で乳化重合を行い、エマルジョンを合成した例を以下に示す。
1リットルのビーカーに、イタコン酸2g、N−メチルアクリルアミド 4g、スチレン74g、アクリル酸ブチルエステル120g、水250gを仕込み、乳化剤としてネオペレックG−25(花王製)4g、エマルゲン147(花王製)4gをいれ、ホモミキサーで乳化する。
【0039】
1000mlのガラス製5つ口フラスコに、撹拌装置、温度計、コンデンサー、500mlの滴下ロート、25mlの滴下ロート2つ、窒素ガス通気管を備えた1リットルフラスコに、水250gを仕込み、乳化剤としてネオペレックG−25(花王製)4gとエマルゲン147(花王製)4gをいれる。
【0040】
前述したモノマー乳化液を、500mlの滴下漏斗に仕込み、20mlの滴下漏斗には、それぞれ、10%過硫酸アンモニウム20g及び6%重亜硫酸ソーダ20gを仕込む。
【0041】
反応槽の撹拌装置を動かし、窒素ガスを30分通じ、フラスコ内の酸素を追い出してから、3つの漏斗より同時に3時間かけて原料モノマー及び触媒を滴下した。反応温度は40℃±2℃に保ち、滴下終了後、2時間40℃に保ち熟成した。冷却後、苛性ソーダ水にて中和し、200メッシュのステンレスの金網で濾過し、エマルジョン水溶液を得た。水溶液中の樹脂成分は26.1%で(計算値26.6%)イオン交換基濃度は0.08mmol/gであった。
【0042】
同様な装置を用い、同様な操作で、表1に示す原料組成を用い、合成2、合成3のエマルジョン水溶液を得た。
【表2】

【0043】
以下に表2の合成4を例示するが、表2に示すモノマー組成で同様に乳化重合を行い、合成5及び合成6のエマルジョン水溶液を得た。
【0044】
1リットルのビーカーにアクリル酸10g、メタクリル酸メチルエステル112g、アクリル酸ブチルエステル68g、グリシジルアクリレート 10g、水250gを仕込み、乳化剤としてラテムルS−180(花王製)8g、エマルゲン147(花王製)4gをいれ、ホモミキサーで乳化する。
【0045】
乳化重合反応は、合成例1と同じ装置を使用して行った。1000mlの4つ口フラスコに、エマルゲン147(花王製)4g、水250gを入れ、調整した乳化液のうち75gをフラスコに仕込み、残りの乳化液は、滴下漏斗に入れた。20mlの滴下漏斗には、10%過硫酸アンモニウム20g及び6%重亜硫酸ソーダ20gをそれぞれ仕込んだ。攪拌しながら反応系内を窒素置換し、30分後、触媒の過硫酸アンモニウム水溶液及び重亜硫酸ソーダ水溶液の1/10量を一気に加える。30分間そのまま保ち、反応温度を40℃に保つ。その後、乳化液、過硫酸アンモニウム水溶液及び重亜硫酸ソーダ水溶液を、3時間かけて滴下する。反応温度は40℃±2℃に保ち、滴下終了後、2時間40℃に保ち熟成した。冷却後200メッシュのステンレスの金網で濾過し、エマルジョン水溶液を得た。固形分は26.2%で(計算値26.6%)、イオン交換基濃度は0.59mmol/gであった。
【0046】
イオン交換膜を作る例として、剥離紙にコーテングする例を以下に示したが、薄膜を作る方法はこれに限ったものではない。
【0047】
{イオン交換膜の製造1}
10cm角のポリプロピレン製の薄いスパンボンド不織布に、合成1のエマルジョンを含浸し、剥離紙上に置き、60℃に保った乾燥機中で8時間乾燥したあと、家庭用のアイロンを用い、中温(150℃)で5分間あてて熱処理し、スパンボンドで補強したイオン交換膜を得た。膜の厚みは150ミクロンであった。同様に合成2、合成3、合成4、合成5のエマルジョンを用いイオン交換膜を調整し、それぞれ合成膜1、2、3、4、5とした。
【0048】
{イオン交換膜の製造2}
合成1のエマルジョンを8部、合成6のエマルジョンを2部の割合で混合し、10cm角のポリプロピレン製の薄いスパンボンド不織布に、含浸し、剥離紙上に置き、60℃に保った乾燥機中で8時間乾燥したあと、家庭用のアイロンを用い、中温(150℃)で5分間あてて熱処理し、スパンボンドで補強したイオン交換膜を得た。膜の厚みは200ミクロンであった。
イオン交換基濃度は、計算上 0.08×80%+4.63×20%=0.99mmol/gである。合成膜6とした。
【0049】
{イオン交換膜の製造3}
合成5のエマルジョン10部に対し、5%明礬水溶液2部加え、攪拌し、手早く混合してから、直ちに剥離紙においた10cm角のポリプロピレン製の薄いスパンボンド不織布上にあけ、アプリケーターで均一な厚さになるよう調整した。60℃の乾燥機中で6時間乾燥後、150℃に熱した家庭用のアイロンを用い、中温(150℃)で5分間あてて熱処理し、合成膜7とした。膜の厚みは300ミクロンであった。
【実施例2】
【0050】
{水の電気分解による膜の評価}
図2に示す電気分解槽を用い膜の評価を行った。陽極のセルには、径7mm長さ5cmの炭素棒を差込み、陰極は100メッシュのステンレス製の網で、縦3cm横2cmの大きさを使用した。それぞれのセルに、1mol濃度の苛性カリ水溶液10mlを満たし、両極間に直流電圧をかけ、流れる電流を測定した。合成膜1,合成膜2、合成膜3、及び合成膜4のイオン交換膜を使用した際の電流−電圧特性を図3に示した。なお電解槽の溶液温度は20℃であった。
【0051】
合成膜1、2では電流が少ししか流れず、イオン交換膜として実用に用いるのは困難であるが、合成3イオン交換膜では、3Vで100mA(1.67A/dm)の電流が流れた。原料に使用した水系エマルジョンの樹脂あたりのイオン交換基濃度はそれぞれ0.08,0.15,0.37,0.60mmol/gであり、0.3mmol/g以上のイオン交換基濃度をもつ水系エマルジョンを用いれば、イオン交換膜として実用に供することできる。
【実施例3】
【0052】
{硫酸ソーダ水溶液の電気分解による苛性ソーダの製造}
図4に示す電気分解槽を使用した。陽極には、径7mm長さ5cmの炭素棒を差込み、陰極は100メッシュのステンレス製の網で、縦3cm横2cmの大きさを使用した。5cm角の合成膜4をセルに挟み、陰極に蒸留水を10ml、陽極に20%硫酸ソーダ10mlをいれ、3.4vの直流電圧を加えたところ100mA(1.67A/dm)の電流が流れた。3時間100mAの電気を通じたあと、陰極に生成した苛性ソーダ濃度を定量し、電気分解の電流効率を、以下のように求めた。
【0053】
陰極液 10.0g
サンプル 0.844g
指示薬 フェノールフタレイン
・ 1N 塩酸 f=1.004
滴定量 5.04ml
苛性ソーダ濃度 0.1×1.004×5.04÷0.844=0.6028 mmol/g
生成した苛性ソーダ量 6.028 mmol
電流の総量 100mA×3×60×60÷1000=1080クーロン。
電流量に対応するモル量 1080÷96500×1000=11.19mmol
電流効率 6.028÷11.19=53.9%
【実施例4】
【0054】
実施例3と同じ装置を使用し、5cm角の合成膜5をセルに挟み、電気分解を行ったところ、3.3Vの直流電圧で100mA(1.67A/dm)の電流が流れた、3時間通電し、陰極液中の苛性ソーダを定量し、実施例3と同様に評価したところ、電流効率は70.7%であった。
【実施例5】
【0055】
図5に示す燃料電池セルを使用し、アルカリ水溶液に水和ヒドラジンを溶かした溶液を陰極セル7に加え、起電する電圧と電流を測定し、性能を評価した。
【0056】
陰極セル7は、内径28mm高さ3cmの円筒形である。
【0057】
陽極の空気極6は、カーボン布に5%硝酸銀水溶液を含浸し、乾燥後、苛性ソーダ水溶液に浸しアルカリ処理後、蒸留水で良く洗浄し、乾燥したものを使用した。
【0058】
陰極3は 30メッシュのステンレスの網10cm角を、1N塩酸20mlに塩化パラジウム50mgを溶解した溶液に1時間浸したあと、蒸留水で洗浄して調整した。
【0059】
5cm角の合成6のイオン交換膜を、陽極(空気極)のカーボン布及び4で示す30メッシュのステンレス網、反対面にはパラジウム処理したステンレス網で挟み、更に、セル7と中央に径28mmの穴をもつ空気極の押さえ板8で挟み、燃料水溶液が漏れないように固定金具で固定した。
【0060】
5.00%濃度の水和ヒドラジンを含む1M濃度の苛性カリ水溶液10mlを、7で示した陰極セルに10ml加えた。10分後 セルの端子をテスターに繋ぎ、電流と電圧の関係を測定した。このときセル内の温度は17℃であった。
【0061】
その結果を図6に、ヒドラジンの電流−電圧特性として示した。
【0062】
小型モーターを繋いだところ 0.6V、15mAでモーターは回転した。
24時間経過後も、電池性能の劣化は見られなかった。セル内のヒドラジン濃度を滴定により求めると、2.21%であった。化1に示す反応に従い、ヒドラジンは分解し、電子が流れるとして評価した。
【0063】
【化1】

【0064】
水和ヒドラジンの分子量は50なので、消費した水和ヒドラジンは5.58mmol、理論的に取り出せる電流は5.58×4×96500÷1000=2153クーロンである。15mAで24時間の電流は1296クーロンなので、電流効率は60.2%であった。
【実施例6】
【0065】
合成7のイオン交換膜を使う以外は、実施例5と同じセルを使い、同じ構成で燃料電池を組み立てた。セルに1M KOH 10mlを加え、その溶液に水素化硼素ナトリウム0.1gを加え、攪拌すると、すぐに溶解した。10分後、セルの両端に測定装置を繋ぎ、電流と電圧を測定した。セルの温度は15℃であった。
【0066】
その結果を図6のNaBH4(硼素化水素ナトリウム)の電流−電圧特性として示した。
【0067】
小型のモーターを繋いだところ、 0.7V、15mAでモーターは回転した。24時間後 0.45V、15mAに電圧が低下したので、水素化硼素ナトリウム 0.1g補給したところ、再び 0.7v、15mAに戻りモーターは回転を続けた。

【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】透明塩ビ製のセルの立体図を示す。縦4cm 横3cm 幅1cmのセルで、中央に、イオン交換膜の接液部として縦3cm横2cmの長方形の大きさ開口部を持つ。セル固定用のつばの部分まで含めると、5cmの正方形になっている。5cm角に切断したイオン交換膜(合成膜)を挟むことができる。
【図2】電気分解装置として使用したセルの断面図である。図1のセル2つを使用し、5cm角に切ったイオン交換膜を挟む。 ・ 陰極端子 2、ステンレスの網(陰極)3、イオン交換膜、4、陽極端子、5、黒鉛棒(陽極)、6、陰極セル、7、陽極セル
【図3】電流−電圧特性図
【図4】硫酸ソーダ水溶液の電気分解に用いた電解槽の断面図である。図1のセル2つを使用し、5cm角に切ったイオン交換膜を挟む。 ・ 陰極端子 2、ステンレスの網(陰極)3、イオン交換膜、4、陽極端子、5、黒鉛棒(陽極)、6、陰極セル、7、陽極セル
【図5】燃料電池セルの断面図をAに、立体図をBに示した。7の陰極セルは、塩ビ製で内径は28mm、高さ3cmである。・ 陰極端子 2,陽極端子 3、ステンレスの網、パラジウム処理(陰極)4,ステンレスの網 5、イオン交換膜 6,カーボン布 硝酸銀処理(陽極:空気側)7,陰極セル 8、陽極押さえ板(塩ビ板)
【図6】ヒドラジン及び水素化硼素ナトリウムを用いた燃料電池の電流-電圧特性図

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオン交換基を有する水系エマルジョンを使用して製膜したイオン交換膜。
【請求項2】
樹脂重量に対し、イオン交換容量が、0.3mmol/g以上3mmol/g以下である水系エマルジョンを使用する請求項1記載のイオン交換膜。
【請求項3】
2種類以上の水系エマルジョンの混合し、樹脂重量に対しイオン交換容量が、0.3mmol/g以上3mmol/g以下に調整した水系エマルジョンを使用する請求項1記載のイオン交換膜。
【請求項4】
請求項1,2,3に記載されたイオン交換膜を用い、燃料にヒドラジンあるいは水素化硼素金属を用いるアルカリ型燃料電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−239909(P2008−239909A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−86280(P2007−86280)
【出願日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【出願人】(307000215)
【Fターム(参考)】