説明

水系プライマー組成物、およびそれを用いたプラスチック製品

【課題】基体上にハードコート層を形成するのに有用なプライマー組成物であって、製品全体としての耐衝撃性を高めるプライマー組成物を提供する。
【解決手段】(A)水分散系ポリウレタン樹脂、及び
(B)ジエン系合成ゴム系エマルジョンもしくはアクリル系エマルジョン
を含有する水系プライマー組成物。例えば、高い耐衝撃性を有するプラスチックレンズの製造に有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水系プライマー組成物、それを用いたプラスチック製品、特にプラスチックレンズに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、眼鏡用のプラスチックレンズレンズ基体としてポリカーボネートが硬度、耐衝撃性等に優れるものとして知られている。しかし、ポリカーボネートは屈折率が1.58〜1.56程度であるので、レンズ基体として薄くするためにはより屈折率の高い材料が求められる。そこで、屈折率1.60〜1.70程度のレンズ基体材料としてポリウレタン樹脂が注目されるに至った。しかし、ポリウレタン樹脂系のレンズ基体は硬度、耐衝撃性等においてポリカーボネートに劣るために、該レンズ基体上にプライマー層を形成しさらにその上にハードコート層を形成して耐衝撃性、硬度等を改良することが試みられて来たい。米国眼鏡市場においては安全な耐衝撃性を要求するFDA規格が存在するが、プライマー層を設けても得られる耐衝撃性はFDA規格値の4倍未満であった。
【0003】
近年、眼鏡レンズとして「薄くて、軽く、傷つきにくい」ものが国内市場でも海外市場でもますます求められるに至っている。
【0004】
そこで、屈折率を高めるために屈折率が1.70を超え、1.74をも超えることが可能であるエピスルフィド樹脂をはじめとするポリチオエポキシ樹脂が注目されるに至った。ところが、ポリチオエポキシ樹脂系レンズ基体はイオウ成分の添加量を増すと屈折率を高めることが可能であるが、イオウ成分の添加により脆性が高まり耐衝撃性が低下するという傾向を示す。そのため、ポリチオエポキシ樹脂系レンズ基体にプライマー層を形成しさらにその上にハードコート層および無機金属酸化物を含む反射防止層を積層することによりレンズ製品全体としての耐衝撃性を高めることが行われている。しかし、一方、特に、米国眼鏡市場においては、実用上、耐衝撃性は上記のFDA規格値の4倍以上であることが求められるが、上記の技術により得られるポリエポキシ樹脂レンズ製品の耐衝撃性はこの要求を満たすことができず、かかるレンズを使用した眼鏡を着用した場合、安全性は不十分である。
【0005】
特許文献1には、アニオン性ジオール、およびポリエーテルジオールおよびポリエステルジオールから成る群から選ばれたポリオールと多官能性イソシアネートとの縮合によって生成された自己乳化型ポリウレタン水性分散液をプラスチック基体の表面に適用し硬化させてプライマー層を形成し、その上にハードコート層を形成することが記載されている。しかし、特許文献1に記載のようにして得られるポリエポキシ樹脂系レンズは耐候密着性と耐衝撃性が不十分であった。
【0006】
ウレタンエラストマーを主成分とするプライマー組成物が特許文献2に記載されている。
【0007】
【特許文献1】特許第3269630号公報
【特許文献2】特開平6-82604号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで本発明の課題は、基体上にハードコート層を形成するのに有用なプライマー組成物であって、製品全体としての耐衝撃性を高めるプライマー組成物を提供することにある。
【0009】
また、本発明の課題は、該プライマー組成物を使用し、プラスチックからなる基体の改質方法、改質した製品を提供することになる。
【課題を解決するための手段】
【0010】
即ち、本発明は、上記の課題を解決する手段として、
第一に、
(A)水分散系ポリウレタン樹脂、および
(B)ジエン系合成ゴム系エマルジョン、アクリル系エマルジョンもしくはこれらの組み合わせ
を含有するプライマー組成物を提供する。
【0011】
該組成物はその好ましい実施形態において、さらに、(C)金属酸化物微粒子の水ゾルを含有してもよい。
【0012】
また、好ましくは、前記(A)成分の水分散系ポリウレタン樹脂がノニオン性である。
【0013】
該プライマー組成物は、プラスチックからなる基体(以下、プラスチック基体ともいう)の上にハードコート層を形成するために好適に用いられる。
【0014】
前記プラスチック基体の例としては、プラスチックレンズ基体、プラスチック平面板等が挙げられる。
【0015】
前記プラスチック基体の材料としては、透明性を有するアリルジエチレングリコールビスカーボネート樹脂、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、チオウレタン樹脂、エポキシ樹脂、チオエポキシ樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリアミド樹脂等が挙げられる。
【0016】
本発明は、第二に、
プラスチックからなる基体の少なくとも一部の表面に上記のプライマー組成物を塗布し乾燥させてプライマー層を形成する工程と、
該プライマー層の上にハードコート層を形成する工程と
を有するプラスチックからなる基体の改質方法が挙げられる。
【0017】
前記ハードコート層の上に、必要に応じてさらに反射防止層を形成してもよい。
【0018】
本発明は第三に、プラスチックからなる基体と、該基体の少なくとも一部の表面上に形成されたプライマー層と、該プライマー層上に形成されたハードコート層とを備えたプラスチック製品であって、
前記プライマー層が、上記のプライマー組成物から形成されたものであるプラスチック製品を提供する。
【0019】
上記のハードコート層の上には必要に応じてさらに反射防止膜を備えることができる。
【0020】
上記プラスチック製品の代表例としては、前記プラスチック基体が屈折率1.70以上のエピスルフィド樹脂等のチオエポキシ樹脂或いはウレタン樹脂であるプラスチックレンズ製品が挙げられる。特に、プラスチック基体がプラスチックレンズ基体であるプラスチック製品が挙げられる。
【0021】
即ち、本発明は、屈折率1.70以上のポリチオエポキシ樹脂或いはウレタン樹脂からなるプラスチックレンズ基体と、プラスチックレンズ基体の少なくとも片面に形成されたプライマー層と、該プライマー層の上に形成されたハードコート層とを有するプラスチックレンズ製品において、
前記プラスチックレンズ基体が、屈折率1.70以上のポリチオエポキシ樹脂或いはウレタン樹脂からなり、
前記プライマー層が上記のプライマー組成物を塗布し乾燥させて形成したものである、
ことを特徴とするプラスチックレンズ製品をも提供する。
【0022】
該プラスチックレンズ製品は、通常中心の厚さが0.5〜1.3mmであって、耐衝撃エネルギー値がFDA規格値である0.204ジュールの4.0倍以上の衝撃強度を有する。
【発明の効果】
【0023】
本発明のプライマー組成物を用いて基体表面にハードコート層を形成すると、ハードコート層を基体に高い接着強度で形成することができるばかりでなく、ハードコート形成後の製品の耐衝撃性が著しく向上する。ハードコートの高い密着性は、製品に優れた耐候性をも与える。
【0024】
特に、屈折率1.70以上のエピスルフィド樹脂等のチオエポキシ樹脂からなるプラスチックレンズ基体は、レンズ厚さを薄くできる反面、機械的強度が脆いという難点があるが、本発明のプライマー組成物を用いてプライマー層を形成すると、FDA規格値の4.0倍以上の耐衝撃性を有する眼鏡レンズを得ることができる。
【0025】
しかも、本発明によれば、干渉縞の少ない、外観の優れた高屈折率プラスチックレンズを得ることができる。
【0026】
本発明のプライマー組成物により得られるプライマー層の屈折率は、プラスチック基体の屈折率に応じて該組成物への金属酸化物水ゾルの添加量を調整することができる。そのため、干渉縞の少ない、耐候密着性に優れたプラスチックレンズを得ることができる。
【0027】
なお、チオエポキシ樹脂系レンズ基体は染色できないが、染色性のプライマー層を形成することによりレンズ製品が着色可能になることが知られている。しかし、プライマー層を厚くすることが困難であったため着色度に限界があった。その点、本発明のプライマー組成物の採用により染色性プライマー層を容易に厚くすることができるので、レンズ製品の着色度を高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、本発明を詳細に説明する。なお、本明細書において、「プラスチック製品」とはプラスチックからなる基体(即ち、プラスチック基体)の表面の少なくとも一部にプライマー層を形成し、さらにハードコート層を積層したものを言う。また、「プラスチックレンズ基体」とはレンズ形状に成型されたプラスチック基体を意味し、「プラスチックレンズ製品」とは該プラスチックレンズ基体の表面の少なくとも一部にプライマー層を形成し、さらにハードコート層を積層したものを意味する。
【0029】
<プライマー組成物>
本発明のプライマー組成物は、(A)水分散系ポリウレタン樹脂、および(B)ジエン系合成ゴムエマルジョン、アクリル系エマルジョンもしくはこれらの組み合わせを必須の成分として含有する。
【0030】
−(A)水分散系ウレタン樹脂−
水分散系ウレタン樹脂は、即ち、ウレタン樹脂の水分散液である。ウレタン樹脂は水分散性であれば、イオン性は特に限定されず、ノニオン性でもアニオン性でもカチオン性でも両性でもよい。
【0031】
ノニオン性水分散系ウレタン樹脂の例としては、例えば、(株)ADEKAの商品名アデカボンタイターHUX-822,HUX-830,HUX-840,HUX-895,SPX-168がある。ノニオン性水分散系ウレタン樹脂を使用すると強靭なプライマー層が得られ、該プライマー層は特に耐熱着色性、可とう性、耐水性、耐久性、防塵性に優れ、高硬度である。特にエポキシ樹脂等の架橋剤を併用することにより耐久性を一層向上させることができる。
【0032】
アニオン性水分散系ウレタン樹脂としては、例えば、(株)ADEKAの商品名;アデカボンタイターHUX-232,HUX-320,HUX-350,HUX-386,HUX-420,HUX-522がある。アニオン性水分散系ウレタン樹脂を使用することにより、耐水性・耐薬品性・耐磨耗性・高ガラス転移点を有し、可とう性を向上させることができる。
【0033】
カチオン性水分散ウレタン樹脂としては、例えば、(株)ADEKAの商品名;アデカボンタイターHUX-680がある。カチオン性水分散ウレタン樹脂を使用することにより、耐水性に優れ、可とう性を向上させることができる。
【0034】
中でも、特に好ましい水分散系ウレタン樹脂としては、ノニオン性水分散系ウレタン樹脂であり、例えば、ノニオン性ジオールを主成分とする平均分子量200以上の高分子ポリオール、鎖延長剤および有機ポリイソシアネート化合物から製造され、水に強制乳化分散されている水分散系ウレタン樹脂が挙げられる。このタイプの特に好ましい市販の水分散系ウレタン樹脂液として、(株)ADEKAのイオン性がノニオン性で、ホルマリン未配合のアデカボンタイターHUXシリーズを挙げられる。
【0035】
(A)成分の水分散系ポリウレタン樹脂の固形分濃度は、通常、10〜30重量%、好ましくは15〜20重量%である。
【0036】
−(B)ジエン系合成ゴム系エマルジョンまたはアクリル系エマルジョン−
本発明の組成物に(B)成分として使用されるジエン系合成ゴム系エマルジョン、アクリル系エマルジョンまたはこれらの組み合わせは、水を分散媒とする水系エマルジョンである。該(B)成分は(A)成分の水系ウレタン分散液と良好な相溶性を有し、プライマー層に良好な粘弾性を付与する作用を有する。その結果、該プライマー組成物の使用により得られる製品の耐衝撃性の向上に寄与すると考えられる。
【0037】
ジエン系合成ゴム系エマルジョンの分散ポリマーであるジエン系合成ゴムとしては、例えば、カルボキシル変性型のJSR(株)の商品名S2990G,S2990L,S2990Hがある。ジエン系合成ゴム系エマルジョンの使用により、プラスチック製品の衝撃性・相溶性・耐候性および硬度を向上させることができる。好ましくは、実施例1で使用されたS2990Gである。
【0038】
アクリル系エマルジョンの分散ポリマーであるアクリルポリマーとしては、例えば、高カルボキシ変性型とカルボキシ変性コロイダル型のJSR(株)の商品名SX-8990A,SX8900D,SX402Aが挙げられる。好ましくは、実施例6の使用したSX8900Dである。
【0039】
(B)成分は、得られるプライマー層に良好な粘弾性を付与し、ハードコート形成後の耐衝撃性を高める働きをする。
【0040】
特に好ましいジエン系合成ゴム系およびアクリル系エマルジョンは、JSR(株)製のカルボキシ変性型ジエン系合成ゴム系エマルジョンであるS2990シリーズ(商品名)およびカルボキシ変性型アクリル系エマルジョンであるSX8900シリーズ(商品名)である。
【0041】
(B)成分のエマルジョンの固形分濃度は、通常、30〜52重量%、好ましくは40〜50重量%である。
【0042】
本発明のプライマー組成物における(B)成分の配合量は、得られるプライマー層の硬度、プラスチック製品の外観(白化が起こりにくい)、プライマー層のプラスチック基体への密着性、得られる耐衝撃性の点で(A)成分の100重量部当り、(B)成分の配合量は、4〜20重量部である。下限は好ましくは6重量部以上、より好ましくは8重量部以上である。上限は、好ましくは14重量部以下、より好ましくは10重量部以下である。
【0043】
−(C)金属酸化物微粒子の水ゾル−
本発明の組成物は(C)成分として金属酸化物微粒子の水ゾルを含有することが望ましい。金属酸化物微粒子は形成されるプライマー層の屈折率を高める作用を有する。したがって、特に基体が透明プラスチック製でレンズ基体として用いられるときには、レンズ基体とプライマー層との屈折率差が小さいことが望まれる。該(C)成分の配合量を調節することによりプライマー層の屈折率を調整することができる。
【0044】
従来通常用いられている金属酸化物ゾルは分散媒が水とアルコールであるが、これは(A)成分の水分散系ウレタン樹脂液との相溶性が悪いためゲル化したり、分散液として安定性が低いため寿命が短い。しかし、本発明の(C)成分である金属酸化物水ゾルは(A)成分の水分散系ウレタン樹脂との相溶性が良く、得られるプライマー組成物の安定性は良好である。
【0045】
金属酸化物微粒子の水ゾルとしては、例えば、SnO2-ZrO-Sb2O5-SiO2複合金属ゾル、TiO2-SnO2-ZrO2-WO-Sb2O5-SiO2複合金属ゾルが挙げられ、金属酸化物微粒子の粒径は、通常10〜100nm、好ましくは30〜50nmである。
【0046】
特に好ましい市販の金属酸化物微粒子水ゾルの例は、日産化学工業(株)製のSnO2を主成分とするHX305シリーズおよびHX307シリーズ(商品名)である。
【0047】
(C)成分の金属酸化物微粒子ゾルの固形分濃度は、通常、15〜30重量%、好ましくは20〜25重量%である。
【0048】
本発明のプライマー組成物における(C)成分の金属酸化物微粒子水ゾルの配合量は、(A)成分の固形分100重量部当り、通常、20〜100重量部である。下限は、好ましくは60重量部以上である。(C)成分の配合量が多すぎると、硬度は硬く、干渉縞は低減するが、相溶性が悪くなり塗布膜が白化する。少なすぎると、所定の屈折率に到達せず干渉縞が現れる。
【0049】
−その他の成分−
本発明のプライマー組成物には上述した成分のほかに、必要に応じて、例えば、染色成分、紫外線吸収剤、レベリング剤等を本発明の目的、効果を損なわない範囲で添加することができる。
【0050】
本発明のプライマー組成物の固形分濃度は、所要の厚さのプライマー層を形成しやすく、作業性が良好である点から、10〜40重量%が好ましく、より好ましく、15〜25重量%であり、さらに好ましくは18〜20重量%である。
【0051】
−プライマー層の形成−
基体のハードコート層を形成するべき所定の表面にプライマー組成物を塗布し乾燥する。塗布方法は制限されず、例えば、浸漬法、スプレー法、スピン法、フローコート法、カーテンコート法等を使用することができる。
【0052】
乾燥、硬化は室温でもよいが、短時間硬化を行うために85〜100℃で加熱して硬化を促進することもできる。加熱時間は適切に選べばよいが、約5〜20分間程度でよい。好ましい例としては、室温で20分間の乾燥、および90℃で5分間程度の加熱が挙げられる。この乾燥、硬化工程において、プライマー層内で硬化反応が起こり、三次元架橋が生成するものと推測される。
【0053】
こうして乾燥して得られるプライマー層の厚さは、1.5〜3.0μm、好ましくは2.0〜2.5μmである。本発明のプライマー組成物の利点の一つは、プライマー層を容易にこのように厚く形成することができる点である。従来使用される有機溶剤を溶媒とするプライマー組成物(例えば、SDCテクノロジーズアジア(株)製、商品名;CP-619およびCP-817)には通常有機溶剤としてノルマルブタノール、イソブタノール、ポリプロピレングリコールメチルエーテル等の高沸点のものが使用されるため、乾燥に長時間を要し作業性が低かった。そのため、作業性を高めるためにプライマー層を厚くすることが困難で、最大膜厚1.0μm程度であったため、耐衝撃性の改良に限界があった。しかし、本発明のプライマー組成物を使用すると、上記の通りの厚さのプライマー層を上で例示のように(室温で20分間または90℃で5分間程度)の低温条件で形成することができ、良好な作業性で耐衝撃性を向上させることができる。
【0054】
<ハードコート層>
基体上にプライマー層を形成後、その上にハードコート層が形成される。ハードコート層は耐擦傷性、光透過性、耐候性、染色性の向上を図るために形成される。
【0055】
ハードコート液としては、例えば、無機金属酸化物微粒子ゾル(例えば、SnO2,TiO2,
ZrO2,Sb2O5,SiO2等の金属酸化物複合ゾル)にシランカップリング剤を添加し加水分解させ、硬化触媒、紫外線吸収剤、染色成分、レベリング剤等を混合した通常のハードコート液を用いることができる。
【0056】
金属酸化物微粒子としては、(C)成分の説明において上述したものが挙げられ、好ましくは、SnO2-ZrO2-Sb2O5-SiO2複合ゾルである。
【0057】
シランカップリング剤としては、例えばγ-グリシドキシエチルトリメトキシシラン、β-グリシドキシエチルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、グリシドキシメチルトリメトキシシラン、トリメチルクロロシラン、テトラメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、テトラメトキシシラン等が挙げられ、少なくとも2種以上を併用することが好ましい。
【0058】
プライマー層上へのハードコート層の形成は、該ハードコート液をプライマー層上に塗布し乾燥すればよい。塗布方法は制限されず、例えば、浸漬法、スプレー法、スピン法、フローコート法、カーテンコート法等を用いることができる。
【0059】
ハードコート層の厚さは、通常、1.5〜10μm、好ましくは2.5〜5.0μmである。
【0060】
<反射防止層>
反射防止層は必要に応じてハードコート層上に形成される。公知の方法で形成することができ、例えば、SiO2・TiO2・ZrO2・Al2O3等の無機金属酸化物を真空蒸着法により5〜7層に積層する方法、アモルファス型フッ素樹脂等の有機反射防止液を浸漬法・スピン法・カーテンコート法等の塗布方法で1層に塗布する方法を用いることができる。好ましい反射防止層は、イオンアシスト法により真空蒸着した、SiO2-TiO2-ZrO2系またはSiO2-ZrO2-Al2O3系の積層構造である。
【0061】
反射防止層の厚さは、通常、100〜300nm、好ましくは150〜250nmである。
【0062】
<基体>
本発明の方法によりプライマー層およびハードコート層を形成して改質する対象としては、例えば、プラスチックからなる基体が挙げられる。プラスチック基体としては、例えば、プラスチック樹脂レンズ、プラスチック樹脂パネルが挙げられる。
【実施例】
【0063】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明する。
【0064】
〔実施例1〕
(1)ノニオン性水分散系ウレタン樹脂((株)ADEKA製、商品名HUX-840)50重量部に、溶剤としてN−メチル−2−ピロリドン9重量部およびイオン交換水35重量部を加え、さらにカルボキシ変性型ジエン系エマルジョン((株)JSR製、商品名S2990G)5重量部、およびレベリング剤としてフッ素樹脂系界面活性剤((株))住友3M製、商品名;FC-4430)1重量部を混合して固形分濃度18重量%のプライマー組成物を調製した。
【0065】
(2)エピスルフィド樹脂からなる直径80mmφ、中心厚0.7mm、凸メニスカス形状のプラスチックレンズ基体(三井化学(株)製、商品名;MR-174)の凸面側に(1)で調製したプライマー組成物を塗布した後室温で乾燥させて厚さ2.0μmのプライマー層を形成した。指触乾燥状態のプライマー層の上にハードコート液((株)アサヒオプティカル製、製品名;AHC162NT)を塗布し乾燥させて厚さ3.0μmのハードコート層を形成した。得られたハードコート層の上に真空蒸着法にてSiO2-ZrO2-Al2O3系の層を5層積層して無機金属酸化物系反射防止コート層を形成した。
【0066】
ここで用いたハードコート液(AHC162NT液)は、金属酸化物微粒子のゾル(日産化学工業(株)製、商品名;HX-305M6)40重量部に、シランカップリング剤のメチルトリメトキシシラン(東レダウコーニングシリコーン(株)製、商品名;SZ-6070)とγ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(東レダウコーニングシリコーン(株)製、商品名;SH-6040)の加水分解物30重量部を添加し、さらに、メタノールとメトキシプロパノールとの重量比1:2の混合溶媒25重量部、硬化触媒としてアルミニウムアセチルアセトン3重量部、紫外線吸収剤、そして、レベリング剤としてシリコーン樹脂系界面活性剤2種(東レダウコーニングシリコーン(株)製、商品名;ペインタッドPA-57(0.5重量部)とペインタッドPA-31(0.3重量部))0.8重量部を添加して調製したものである。
【0067】
〔実施例2〕
ジエン系合成ゴム系エマルジョンとしてS2990Gの代わりにカルボキシ変性型ジエン系エマルジョン(JSR(株)製、商品名;S2990L)を使用した以外は、実施例1と同様にしてプライマー組成物(固形分濃度18重量%)を調製し、プラスチックレンズ基体に厚さ2.0μmのプライマー層、厚さ3.0μmのハードコート層、反射防止コート層を形成した。
【0068】
〔実施例3〕
ジエン系合成ゴム系エマルジョンとしてS2990Gの代わりにカルボキシ変性型ジエン系エマルジョン(JSR(株)製、商品名;S2990H)を使用した以外は、実施例1と同様にしてプライマー組成物(固形分濃度18重量%)を調製し、プラスチックレンズ基体に厚さ2.0μmのプライマー層、厚さ3.0μmのハードコート層、反射防止コート層を形成した。
【0069】
〔実施例4〕
ジエン系合成ゴム系エマルジョンであるS2990Gの代わりに高カルボキシ変性型系アクリルエマルジョン(JSR(株)製、商品名;SX8900A)を使用した以外は、実施例1と同様にしてプライマー組成物(固形分濃度18重量%)を調製し、プラスチックレンズ基体に厚さ2.0μmのプライマー層、厚さ3.0μmのハードコート層、反射防止コート層を形成した。
【0070】
〔実施例5〕
ジエン系合成ゴム系エマルジョンであるS2990Gの代わりにカルボキシ変性コロイダル型アクリルエマルジョン(JSR(株)製、商品名;SX8900D)を使用した以外は、実施例1と同様にしてプライマー組成物(固形分濃度18重量%)を調製し、プラスチックレンズ基体に厚さ2.0μmのプライマー層、厚さ3.0μmのハードコート層、反射防止コート層を形成した。
【0071】
〔実施例6〕
ノニオン性の水分散系ウレタン樹脂として、HUX-840の代わりに架橋剤のホルマリン未配合で高硬度化した特長を持つ(株)ADEKA製品を使用した以外は実施例1と同様にしてプライマー組成物(固形分濃度16重量%)を調製し、プラスチックレンズ基体に厚さ1.8μmのプライマー層、厚さ3.0μmのハードコート層、反射防止コート層を形成した。
【0072】
〔実施例7〕
プライマー組成物の調製において、溶媒として用いたイオン交換水の量35重量部を、60重量部に変更した以外は、実施例1と同様にしてプライマー組成物(固形分濃度10重量%)を調製し、プラスチックレンズ基体に厚さ1.5μmのプライマー層、厚さ3.0μmのハードコート層、反射防止コート層を形成した。
【0073】
〔実施例8〕
HUX-840の代わりに、アニオン性の水分散系ウレタン樹脂((株)ADEKA製、商品名;HUX-240)を使用した以外は実施例1と同様にしてプライマー組成物(固形分濃度15重量%)を調製し、プラスチックレンズ基体に厚さ2.0μmのプライマー層、厚さ3.0μmのハードコート層、反射防止コート層を形成した。
【0074】
〔実施例9〕
HUX-840の代わりに、カチオン性の水分散系ウレタン樹脂((株)ADEKA製、商品名;HUX-680)を使用した以外は実施例1と同様にしてプライマー組成物(固形分濃度20重量%)を調製し、プラスチックレンズ基体に厚さ2.5μmのプライマー層、厚さ3.0μmのハードコート層、反射防止コート層を形成した。
【0075】
〔実施例10〕
実施例1の(2)で用いたエピスルフィド樹脂レンズ基体の代わりに材料がチオウレタン樹脂からなるもの(三井化学(株)製、商品名;MR-8)を使用した以外は、実施例1と同様にして、プラスチックレンズ基体に厚さ2.0μmのプライマー層、厚さ3.0μmのハードコート層、反射防止コート層を形成した。
【0076】
〔実施例11〕
実施例1の(2)で用いたエピスルフィド樹脂レンズ基体の代わりに材料がチオウレタン樹脂)からなるもの(三井化学(株)製、商品名;MR-7を使用した以外は、実施例1と同様にして、プラスチックレンズ基体に厚さ2.0μmのプライマー層、厚さ3.0μmのハードコート層、反射防止コート層を形成した。
【0077】
〔実施例12〕
実施例1で調製したプライマー組成物を、ポリアミド樹脂製の透明プラスチック平面板(厚さ3mm,A4版サイズ)の片面に実施例1と同様にして厚さ1.5μmのプライマー層、厚さ2.5μmのハードコート層、反射防止コート層を形成した。
【0078】
・評価試験1:
実施例で使用したプライマー液を扁平な皿状ステンレス製容器上に流延し室温で12時間程度放置し自然乾燥により固化させて2mm厚のシート状に成形した。該プライマー・シートについて、固体粘弾性装置(Metravib製、商品名;DMA-50N)を使用して、粘弾性特性値の測定を行った結果を表1に示す。
【0079】
また、参考のために、評価試験2の5)の耐衝撃性試験の測定結果を表1に併記する。
【0080】
【表1】

【0081】
・評価試験2:
各実施例で得られた製品のプラスチックレンズ(レンズの中心厚:0.75mm)について、次の特性について下記の方法で評価を行った結果を表2に示す。
【0082】
1)外観
三波長型昼光白色蛍光灯下で透過光および反射光を被験レンズに当て、前記コート付レンズに生じた干渉縞の程度と白化状態を目視で観察し、次の基準で評価した。B−以上のランクが合格と判定される。
【0083】
A: 干渉縞も白化もなし
B+: 干渉縞極微、しかし白化なし
B−: 干渉縞極微、かつ白化極微
C: 干渉縞極微、白化顕著
【0084】
2)表面硬度
JIS K 5600規格に準じてスチールウールのメッシュ#0000を使用し、1kg荷重下で10往復/15秒間擦り、それにより被膜上に生じた傷の本数を計数し次に基準で評価した。表2において括弧内に生じた傷の本数をしました。なお、B以上のランクが合格と判定される。
【0085】
A: 傷なし
B: 傷の本数1〜3本
C: 傷の本数4本以上
【0086】
3)密着性
JIS K 5600−5−6規格に準じて碁盤目試験を行った。粘着テープとしてセロファンテープ(ニチバン製、商品名;「セロテープCT-24」(登録商標))にて10回剥離を繰り返した後、被膜の密着性を観察・判定した。100枡(分母)中、剥離しない枡の数を(分子)に示す。
【0087】
4)相溶性
使用したプライマー組成物において、ジエン系合成ゴム系エマルジョンまたはアクリル系エマルジョンとその他の成分との「相溶性」を目視で観察し、次の基準で評価した。
【0088】
○:混合液であるプライマー組成物が透明である場合に「相溶性があり」とした。
【0089】
×:混合液であるプライマー組成物が白濁またはゲル化した場合に「相溶性がなし」とした。
【0090】
5)耐衝撃性
米国のFDAでは、眼鏡用のプラスチックレンズなどの安全のために衝撃テスト(Impact test)を規定し、これに合格することを求めている。該テストによると、5/8インチ(16mm)で重さ約0.56オンス(16.4g)の鋼球を高さ50インチ(127cm)の高さから水平に置いたレンズの上側表面の幾何学的中心から5/8インチ(約16mm)直径の円内に当るように落下させる。そして、破損(fracture)が生じないたときに合格としている。
【0091】
本明細書では、プラスチックレンズの耐衝撃性を次のようにして評価した。
・FDAの上記衝撃テストに規定の条件で鋼球を落下させたときに供試レンズに与える衝撃エネルギー値は0.204ジュール(本明細書では「FDA規格値」という)である。
・鋼球の重さを16.4gから32.8g(2倍)、65.6g(4倍)、131.2g(8倍)、そして196.8g(12倍)と増す以外は、FDAの衝撃テストと同じ条件で鋼球を供試レンズに落下させ、与える衝撃エネルギー値を2倍、4倍、8倍、12倍に増していく。そして、供試レンズに破損(割れ、欠け、微細なクラック)発生の有無を目視および顕微鏡で観察し、破損が発生する最小衝撃エネルギー値を測定する。該最小衝撃エネルギー値が上記FDA規格値の何倍であるかで耐衝撃性を評価する。
【0092】
6)染色性
染色剤(BPI社製、商品名;Molecular Catalytic Dye)の Gray色#32000またはBrown色#32100をイオン交換水10重量部に1重量部を充分に溶解させて染色液を調製した。供試品であるレンズを該染色液に92℃で20分間浸漬後、村上色彩技術研究所製の分光測色システム Color Space for PC装置 DOT-3にて波長550nmにおいて吸光度を測定した。染色を全くしていない以外は供試品と同じレンズについて同様の測定を行い、これを基準とし、染色による吸光度を測定し、レンズの染色濃度%を評価した。(即ち、吸光度0〜100%は濃度0〜100%に対応する。)






【0093】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)水分散系ポリウレタン樹脂、および
(B)ジエン系合成ゴム系エマルジョン、アクリル系エマルジョンもしくはこれらの組み合わせ
を含有する水系プライマー組成物。
【請求項2】
さらに、(C)金属酸化物微粒子の水ゾルを含有する請求項1に係る水系プライマー組成物。
【請求項3】
前記(A)成分の水分散系ポリウレタン樹脂がノニオン性である請求項1または2に係る水系プライマー組成物。
【請求項4】
プラスチックからなる基体の上にプライマー層を形成し、さらに該プライマー層の上にハードコート層を形成するために用いられる請求項1〜3のいずれか1項に係る水系プライマー組成物。
【請求項5】
プラスチックからなる基体が透明性を有するプラスチックレンズ基体或いはプラスチック平面板である請求項4に係る水系プライマー組成物。
【請求項6】
前記プラスチックからなる基体が、アリルジエチレングリコールビスカーボネート樹脂、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、チオウレタン樹脂、エポキシ樹脂、チオエポキシ樹脂、ポリオレフィン樹脂またはポリアミド樹脂のいずれかからなる請求項5に係る水系プライマー組成物。
【請求項7】
プラスチックからなる基体の少なくとも一部の表面に請求項1〜3のいずれか1項に記載の水系プライマー組成物を塗布し乾燥させてプライマー層を形成し、該プライマー層の上にハードコート層を形成したプラスチック製品。
【請求項8】
前記ハードコート層の上に反射防止層を形成した請求項7に係るプラスチック製品。
【請求項9】
プラスチックレンズ或いはプラスチック平面板である請求項8に係るプラスチック製品。
【請求項10】
前記プラスチックからなる基体が屈折1.70以上のポリチオエポキシ樹脂或いはウレタン樹脂からなる請求項7−9のいずれか1項に係るプラスチック製品。
【請求項11】
屈折率1.70以上のポリチオエポキシ樹脂或いはウレタン樹脂からなるプラスチックレンズ基体と、プラスチックレンズ基体の少なくとも片面に形成されたプライマー層と、該プライマー層の上に形成されたハードコート層とを有するプラスチックレンズ製品において、
前記プラスチックレンズ基体が、屈折率1.70以上のポリチオエポキシ樹脂或いはウレタン樹脂からなり、
前記プライマー層が請求項1〜3のいずれか1項に記載のプライマー組成物を塗布し乾燥させて形成したものである、
ことを特徴とするプラスチックレンズ製品。
【請求項12】
前記プラスチックレンズ製品の中心における厚さが0.5〜1.3mmであって、耐衝撃エネルギー値がFDA規格値である0.204ジュールの4.0倍以上の衝撃強度を有する請求項11に係るプラスチックレンズ製品。

【公開番号】特開2010−150309(P2010−150309A)
【公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−327041(P2008−327041)
【出願日】平成20年12月24日(2008.12.24)
【出願人】(391003750)株式会社アサヒオプティカル (13)
【Fターム(参考)】