説明

水系塗料組成物

【課題】高耐候性、高耐水性を有する水系塗料組成物を提供する。
【解決手段】分子内にピペリジル基を持つエチレン性不飽和単量体(a)6〜50質量部と、単量体(a)以外のエチレン性不飽和単量体(b)50〜94質量部(ただし、(a)、(b)の合計は100質量部)からなるエチレン性不飽和単量体混合物を乳化重合することで得られ、架橋構造を有する共重合体(A)1〜30質量部と、(メタ)アクリロイルオキシ基を有するシリコーン樹脂と(メタ)アクリル系単量体とを重合したアクリルシリコーン系水系樹脂(B)70〜99質量部(ただし、(A)、(B)の合計は100質量部)とを含むことを特徴とする水系塗料組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は水系塗料に関する物であり、より詳しくは顔料分散性などの高い塗料適性を有し、かつ高い耐候性能及び耐水性能を併せ持つ水系塗料組成物に関する物である。
【背景技術】
【0002】
近年、塗料分野においては、地球環境や塗装作業環境等への配慮から、有機溶剤を媒体とする溶剤系塗料から、水を分散媒とする水系塗料への変換が図られている。そのため、水系塗料の用途が急速に拡大されつつあり、それに伴って水系塗料への要求性能も高度になってきている。そうした要求性能の中でも、塗膜の耐候性能は最も重要な性能の1つであり、シリコーンやフッ素等の高耐候成分を含有させる等、様々な手段によってその向上が図られている。特にアクリルシリコーン系水系塗料は、比較的安価であるにも関わらず、シリコーン成分の有する高い耐候性と耐水性、アクリル成分の有する高い透明性、リコート性、成膜性を備えており、近年需要が高まっている。このため、この分野における耐候性能、耐水性能はますますその向上が求められている。
【0003】
一方、紫外線吸収剤、ヒンダードアミン型ラジカル捕捉剤(以下HALS)、酸化防止剤などの耐候性向上剤の添加は、要求性能の異なる各種塗料の耐候性を向上できる有効な手段として用いられている。しかしながら、水系塗料については、主たる媒体が水であるため、これらを添加した場合、経時的に系の上層に浮遊するなど品質安定性に問題あった。また、攪拌直後の水系塗料を用いて成膜した場合でも塗膜中に均一に分散させることが難しく、十分な性能を発現しない問題点があった。
【0004】
このような点から、特許文献1では、HALSを予め乳化剤を用いて水中に分散させ、塗膜中に均一に分散させる技術が提案されている。しかし、この場合、添加剤の経時的なブリードアウトが起こり、長期に渡って耐候性を維持することは困難である。また、多量に添加される乳化剤によって塗膜の耐水性能が著しく低下する場合がある。
【0005】
そこで、特許文献2では、分子内に不飽和二重結合とピペリジン基を有する反応性HALSを所定量以上乳化重合したポリマー型水分散HALSを予め作成し、これを他の水系樹脂に添加することにより塗装皮膜からのHALS成分の溶出を防止し、高い耐候性能を発現させる技術が提案されている。前記ポリマー型水分散HALSは耐溶出性に優れ、特に非架橋構造体のものは塗膜中における拡散性も高いため、添加した塗装皮膜の耐候性能を飛躍的に向上させることが可能である。しかしながら、前記技術においては、ポリマー型水分散HALSは高い耐候性付与能を有するものの、混ぜられる塗料がアクリルシリコーン系水系塗料である場合、ポリマー型水分散HALSを添加しても高度化する耐候性能、耐水性能を十分に満足することができず、更なる改善が望まれている。
【特許文献1】特公平3−46506号公報
【特許文献2】国際公開第2006/126680号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は前記事情を鑑みてなされたものであり、高耐候性、高耐水性を有する水系塗料組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の水系塗料組成物は、下記一般式(I)で表される、分子内にピペリジル基を持つエチレン性不飽和単量体(a)6〜50質量部と、単量体(a)以外のエチレン性不飽和単量体(b)50〜94質量部(ただし、(a)、(b)の合計は100質量部)からなるエチレン性不飽和単量体混合物を乳化重合することで得られ、架橋構造を有する共重合体(A)1〜30質量部と、(メタ)アクリロイルオキシ基を有するシリコーン樹脂と(メタ)アクリル系単量体とを重合したアクリルシリコーン系水系樹脂(B)70〜99質量部(ただし、(A)、(B)の合計は100質量部)とを含むことを特徴とする水系塗料組成物である。
【0008】
【化1】

【0009】
(R1は水素原子又は炭素数1〜2のアルキル基、Xは酸素原子又はイミノ基、Yは水素原子又は炭素数1〜20のアルキル基又はアルコキシル基、Zは水素原子又はシアノ基を示す。)。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、高い耐水性能を有しつつ、極めて高い耐候性能を有する水系塗料組成物を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の水系塗料組成物は、前記一般式(I)で表される、分子内にピペリジル基を持つエチレン性不飽和単量体(a)6〜50質量部と、単量体(a)以外の単量体(b)50〜94質量部(ただし、(a)、(b)の合計は100質量部)からなる不飽和単量体混合物を乳化重合することで得られ、架橋構造を有する共重合体(A)1〜30質量と、(メタ)アクリロイルオキシ基を有するシリコーン樹脂と(メタ)アクリル系単量体とを重合したアクリルシリコーン系水系樹脂(B)70〜99質量部(ただし、(A)、(B)の合計は100質量部)とを含むことを特徴とする。なお、アクリルシリコーン系水系樹脂(B)の質量部は固形分の質量部である。
【0012】
[単量体(a)]
単量体(a)としては、前記一般式(I)に示す構造を有し、紫外線安定化機能を有するものを使用することができる。
【0013】
一般式(I)において、R1は水素原子又は炭素数1〜2のアルキル基、Xは酸素原子又はイミノ基、Yは水素原子又は炭素数1〜20のアルキル基又はアルコキシル基、Zは水素原子又はシアノ基を示す。
【0014】
単量体(a)としては、例えば、4−(メタ)アクリロイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−(メタ)アクリロイルアミノ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−(メタ)アクリロイルオキシ−1,2,2,6,6−ペンタメチルピペリジン、4−(メタ)アクリロイルアミノ−1,2,2,6,6−ペンタメチルピペリジン、4−シアノ−4−(メタ)アクリロイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン等が挙げられる。これらは必要に応じて1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0015】
[単量体(b)]
単量体(a)以外のエチレン性不飽和単量体(b)としては、特に限定されず、単量体(a)と重合可能なエチレン性不飽和単量体から選択すれば良い。単量体(b)としては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、i−プロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、i−ブチル(メタ)アクリレート、sec−ブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、n−アミル(メタ)アクリレート、i−アミル(メタ)アクリレート、n−ヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、n−オクチル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート等の炭素数1〜12のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレート類;シクロヘキシル(メタ)アクリレート、p−t−ブチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート等のシクロアルキル(メタ)アクリレート類;2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−(3−)ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、グリセロールモノ(メタ)アクリレート等のヒドロキシル基含有ラジカル重合性単量体類;(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ビニルピリジン、ビニルイミダゾールなどの窒素含有重合性単量体;塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニル、フッ化ビニリデン、テトラフルオロエチレン等のハロゲン含有単量体;スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン等の芳香族単量体;酢酸ビニル等のビニルエステル;ビニルエーテル;(メタ)アクリロニトリル等の重合性シアン化合物等が挙げられる。これらは、単独、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0016】
前記単量体(b)のうち、比較的Tg(ガラス転移温度)の低いn−ブチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレートなどの単量体を選択すると、塗膜の耐低温性が向上する。また、シクロヘキシルメタクリレート、t−ブチルメタクリレート等の立体的に嵩高いエステル基を有する、高Tg、低Sp(Fedorsの式の値で19.8以下○○○)値の単量体を選択すると耐候性向上効果が高く、耐ブロッキング性等も付与できる。
【0017】
[共重合体(A)]
本発明の共重合体(A)は、前記単量体(a)及び単量体(b)からなるエチレン性不飽和単量体混合物を公知の乳化剤を用いて乳化重合することにより合成できる。
【0018】
前記共重合体(A)は、本発明の水系塗料組成物を成膜して得られる塗装皮膜の高度な耐水性、耐候性発現の点から、架橋構造を形成している必要がある。共重合体(A)が架橋構造を有する場合、アクリルシリコーン系水系樹脂(B)に添加した際、高い耐水性、耐候性向上効果を発現する。尚、本発明でいう架橋構造を有する共重合体とは、単量体(a)分子内にあるピペリジン環のみが架橋点となって形成された、テトラヒドロフラン溶媒に不溶であってゲルパーミエーションクロマトグラフィーによる分析で分子量測定が不能な共重合体であり、前記単量体(a)及び単量体(b)を用いることで調製可能である。ここで、前記架橋構造は、多官能単量体などのいわゆる架橋剤を用いて形成された架橋構造とは異なるものを表す。したがって、前記共重合体(A)を重合する際の単量体混合物中には、前記多官能単量体を実質的に含んでいないことが好ましい。
【0019】
本発明の共重合体(A)の調製において、水系塗料組成物を製膜して得られる塗装皮膜の耐候性の点から、前記単量体(a)と単量体(b)の合計量を100質量部とした時、単量体(a)を6〜50質量部の範囲にする必要がある。
【0020】
単量体(a)の添加量が6質量部未満の場合、連鎖移動剤を全く使用しない場合でも、共重合体(A)が架橋構造を形成せず、塗装皮膜の耐候性能が十分に向上しない場合があり、好ましくない。単量体(a)の添加量が50質量部を超える場合、重合安定性が確保されない場合があり、好ましくない。単量体(a)の添加量として、10〜40質量部が好ましく、10〜30質量部がより好ましい。
【0021】
また、単量体(b)を50〜94質量部の範囲にする必要がある。単量体(b)の添加量が50質量部未満の場合、重合安定性が低下する。単量体(b)の添加量が94質量部を超える場合、塗装皮膜の耐候性が十分でない。単量体(b)の添加量として、60〜90質量部が好ましく、70〜90質量部がより好ましい。
【0022】
前記単量体(a)及び単量体(b)からなるエチレン性不飽和単量体混合物を乳化重合する際に使用できる乳化剤としては、各種のアニオン性、又はノニオン性の非反応性乳化剤、さらには高分子乳化剤が挙げられる。また、分子内にラジカル重合可能な不飽和二重結合を有する反応性乳化剤を用いると、共重合体(A)を含む水系塗料組成物においてより高度な耐水性、耐候性が得られるため好ましい。
【0023】
反応性乳化剤としては、例えば、旭電化社製商品名「アデカリアソープSR−10」、「アデカリアソープSE−10」、第一工業製薬社製商品名「アクアロンKH−05」、「アクアロンKH−10」、「アクアロンHS−10」等の反応性アニオン性乳化剤、例えば旭電化社製商品名「アデカリアソープNE−10」、「アデカリアソープER−10」、「アデカリアソープNE−20」、「アデカリアソープER−20」、「アデカリアソープNE−30」、「アデカリアソープER−30」、「アデカリアソープNE−40」、「アデカリアソープER−40」、第一工業製薬社製商品名「アクアロンRN−10」、「アクアロンRN−20」、「アクアロンRN−30」、「アクアロンRN−50」等の反応性ノニオン性乳化剤等が挙げられる。これらは必要に応じて1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用できる。特に高い機械安定性が必要とされる用途では、反応性アニオン性乳化剤と反応性ノニオン性乳化剤を併用することがより好ましい。
【0024】
乳化剤の量については特に規定しないが、アクリルシリコーン系水系樹脂を含む水系塗料組成物の耐候性、耐水性の点から、前記単量体(a)及び単量体(b)からなるエチレン性不飽和単量体混合物を100質量部とした時、0.5〜10質量部の範囲内で使用することが好ましい。尚、前記単量体(a)及び単量体(b)は、反応性乳化剤は含まないものとする。
【0025】
本発明の共重合体(A)は、例えば水媒体中で単量体(a)及び単量体(b)を用い、重合開始剤を用いて乳化重合することで調製することができる。
【0026】
なお、共重合体(A)は単層構造であっても多層構造であってもよいが、多層構造の場合、生産効率及び粒子径制御の観点から3層構造以下であることが好ましい。
【0027】
本発明の共重合体(A)を重合するための重合開始剤は、一般的にラジカル重合に使用されるラジカル性重合開始剤が使用可能である。その具体例としては、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩類;アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)、2−フェニルアゾ−4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル等の油溶性アゾ化合物類;2,2’−アゾビス{2−メチル−N−[1,1−ビス(ヒドロキシメチル)−2−ヒドロキシエチル]プロピオンアミド}、2,2’−アゾビス{2−メチル−N−[2−(1−ヒドロキシエチル)]プロピオンアミド}、2,2’−アゾビス{2−メチル−N−[2−(1−ヒドロキシブチル)]プロピオンアミド}、2,2’−アゾビス[2−(5−メチル−2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]及びその塩類、2,2’−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]及びその塩類、2,2’−アゾビス[2−(3,4,5,6−テトラヒドロピリミジン−2−イル)プロパン]及びその塩類、2,2’−アゾビス{2−[1−(2−ヒドロキシエチル)−2−イミダゾリン−2−イル]プロパン}及びその塩類、2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン)及びその塩類2,2’−アゾビス(2−メチルプロピンアミジン)及びその塩類、2,2’−アゾビス[N−(2−カルボキシエチル)−2−メチルプロピオンアミジン]及びその塩類等の水溶性アゾ化合物;過酸化ベンゾイル、クメンハイドロパーオキサイド、t−ブチルハイドロパーオキサイド、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシイソブチレート等の有機過酸化物類等が挙げられる。これらの重合開始剤は単独でも使用できるほか、2種類以上の混合物としても使用できる。
【0028】
また、重合速度の促進、70℃以下での低温の重合が望まれるときには、例えば、重亜硫酸ナトリウム、硫酸第一鉄、アスコルビン酸塩等の還元剤をラジカル重合触媒と組み合わせて用いると有利である。
【0029】
また、本発明の共重合体(A)を乳化重合する際の重合場のpHは特に規定しないが、pH=7以上が好ましく、pH=8以上がより好ましい。重合場のpHが酸性領域の場合、重合時の安定性が低下し好ましくない。pH=8を超えれば、単量体(a)の共重合量が増加しても安定に重合することができる。
【0030】
また、本発明の共重合体(A)からなる粒子の粒子径は特に規定しないが、重量平均粒子径で200nm以下であることが好ましい。重量平均粒子径が200nmを超えると、成膜条件によっては、ラジカルトラップ能を有する官能基が十分に分散できないため、高度な耐候性向上効果を発現しない場合がある。重量平均粒子径としては、130nm以下がより好ましく、100nm以下が更に好ましい。また乳化剤の増加による耐水性低下を防ぐため、重量平均粒子径が30nm以上であることが好ましい。
【0031】
また、本発明の共重合体(A)のTgは特に規定しないが、100℃以下であることが好ましい。共重合体(A)のTgが100℃を超えると、共重合体(A)を含む水系塗料組成物において、十分な造膜性が得られない場合があり、耐水性や耐候性を低下させる要因となりえる。共重合体(A)のTgとして、好ましくは70℃以下であり、50℃以下がより好ましい。
【0032】
なお、前記TgとしてはFoxの計算式により求められる計算ガラス転移温度を使用する。Foxの式とは、以下に示すような、共重合体のガラス転移温度(℃)と、共重合モノマーのそれぞれを単独重合したホモポリマーのガラス転移温度(℃)との関係式である
1/(273+Tg)=Σ(Wi/(273+Tgi))
[式中、Wiはモノマーiの質量分率、TgiはモノマーiのホモポリマーのTg(℃)を示す。]。
【0033】
なお、ホモポリマーのTgとしては、具体的には、「Polymer Handbook 3rd Edition」(A WILEY−INTERSCIENCE PUBLICATION、1989年)に記載された値を使用することができる。
【0034】
また、本発明の共重合体(A)は乳化重合時に、架橋構造の生成を阻害しない範囲であれば連鎖移動剤を添加して重合しても良く、全不飽和単量体の合計100質量部に対し、1.5質量部未満が好ましい。連鎖移動剤としては、n−ドデシルメルカプタン、t−ドデシルメルカプタン、n−オクチルメルカプタン、ハロゲン化合物、α−メチルスチレンダイマー等が挙げられる。
【0035】
乳化重合法により得た共重合体(A)は、重合後、塩基性化合物の添加により系のpHを弱アルカリ性、すなわちpH7.5〜10.0程度の範囲に調整することで系の安定性を高めることができる。
【0036】
前記塩基性化合物としては、例えば、アンモニア、トリエチルアミン、プロピルアミン、ジブチルアミン、アミルアミン、1−アミノオクタン、2−ジメチルアミノエタノール、エチルアミノエタノール、2−ジエチルアミノエタノール、1−アミノ−2−プロパノール、2−アミノ−1−プロパノール、2−アミノ−2−メチル−1−プロパノール、3−アミノ−1−プロパノール、1−ジメチルアミノ−2−プロパノール、3−ジメチルアミノ−1−プロパノール、2−プロピルアミノエタノール、エトキシプロピルアミン、アミノベンジルアルコール、モルホリン、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等が挙げられる。VOCを含まないことが望まれる内装用途などの場合は、無機系塩基化合物を用いることが好ましい。さらに僅かな臭気もないことが望まれる場合は、水酸化ナトリウムや水酸化カリウム等の不揮発性無機系塩基化合物を用いることがより好ましい。
【0037】
共重合体(A)は1種を単独で用いても、組成、粒子径等の異なる2種以上の共重合体(A)を併用しても良い。
【0038】
本発明の水系塗料組成物は、耐候性能及び顔料分散性の点で、水系塗料組成物の全質量を100質量部とした時、共重合体(A)を1〜30質量部含んでいることが必要である。共重合体(A)の含有量が1質量部以上であれば、高い耐候性能を付与できる。共重合体(A)の含有量が30質量部以下であれば、水系塗料組成物の顔料分散性、塗膜の耐候性および耐水性を低下させない。共重合体(A)の含有量として、1.5〜20質量部が好ましく、2〜20質量部がより好ましい。
【0039】
[アクリルシリコーン系水系樹脂(B)]
本発明の水系塗料組成物を主として構成する塗料成分は、アクリルシリコーン系水系樹脂を用いる。塗料成分にアクリルシリコーン系水系樹脂を用いた場合、共重合体(A)は高い耐候性向上効果を発揮し、元来耐候性能の高いアクリルシリコーン系水系樹脂の耐候性能をさらに向上することができる。
【0040】
本発明におけるアクリルシリコーン系水系樹脂(B)は、(メタ)アクリロイルオキシ基を有するシリコーン樹脂と、(メタ)アクリル系単量体とを重合したアクリルシリコーン系水系樹脂を示す。
【0041】
本発明の水系塗料組成物は、耐候性能及び顔料分散性の点で、水系塗料組成物の全質量を100質量部とした時、アクリルシリコーン系水系樹脂(B)の含有量が70〜99質量部である必要がある。アクリルシリコーン系水系樹脂(B)の含有量が70質量部より少ない場合、十分な顔料分散性が発現しない場合がある。アクリルシリコーン系水系樹脂(B)の含有量が99質量部よりも多いと、相対的に共重合体(A)の含有量が少なくなり、十分な耐候性能が得られない場合がある。アクリルシリコーン系水系樹脂の含有量として、80〜98.5質量部が好ましく、80〜98質量部がより好ましい。
【0042】
前記アクリルシリコーン系水系樹脂(B)の原料であるシリコーン樹脂としては、(メタ)アクリロイルオキシ基を有するシリコーン樹脂であれば特に限定されない。例えば、(メタ)アクリロイルオキシ基を有するシリコン元素含有単量体を単量体の一種に用いた重合体や、ジメチルシロキサンとシランカップリング剤の縮合物からなるアクリルグラフト点を持つシリコーンポリマー等が挙げられる。
【0043】
特に、環状オルガノシロキサンと(メタ)アクリロイルオキシ基を有するグラフト交叉剤を共重合して得られるシリコーン樹脂が、耐候性、耐水性の観点から好ましい。
【0044】
前記環状オルガノシロキサンとしては、3〜7量体のオルガノシロキサンが好ましい。好ましい環状オルガノシロキサンとしては、ヘキサメチルシクロトリシロキサン、オクタメチルシクロテトラシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサン、ドデカメチルシクロヘキサシロキサン、トリメチルトリフェニルシクロトリシロキサン、テトラメチルテトラフェニルシクロテトラシロキサン、オクタフェニルシクロテトラシロキサン等が挙げられる。これらは単独であるいは2種類以上を混合して用いることができる。
【0045】
前記(メタ)アクリロイルオキシ基を有するグラフト交叉剤としては、例えば、β−メタクリロイルオキシエチルジメトキシメチルシラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルジエトキシメチルシラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルトリエトキシシラン等が挙げられる。これらは単独であるいは2種類以上を混合して用いることができる。
【0046】
前記グラフト交叉剤の使用量は、特に限定されるものではないが、環状オルガノシロキサンとグラフト交叉剤との合計量を100質量%としたとき、0.5〜30質量%であることが耐水性、耐候性の観点から好ましい。
【0047】
(メタ)アクリロイルオキシ基を有するシリコーン樹脂は、例えば、前記環状オルガノシロキサンと前記グラフト交叉剤とをアルキルベンゼンスルホン酸等を乳化剤としてホモミキサーや圧力型ホモジナイザー等で水中に強制的に乳化分散させ、縮合重合させることにより調製することができる。
【0048】
ここで、アルキルベンゼンスルホン酸等の酸性乳化剤は、乳化作用と同時に前記環状オルガノシロキサンと前記グラフト交叉剤の重縮合開始剤として作用する。アルキルベンゼンスルホン酸としては、ドデシルベンゼンスルホン酸などの非エーテル系のスルホン酸が重縮合時の耐酸安定性の観点から好ましい。
【0049】
前記(メタ)アクリロイルオキシ基を有するシリコーン樹脂と重合する(メタ)アクリル系単量体は、特に限定されない。例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、i−プロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、i−ブチル(メタ)アクリレート、sec−ブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、n−アミル(メタ)アクリレート、i−アミル(メタ)アクリレート、n−ヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、n−オクチル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート等の炭素数1〜12のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレート類;シクロヘキシル(メタ)アクリレート、p−t−ブチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート等のシクロアルキル(メタ)アクリレート類;2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−(3−)ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、グリセロールモノ(メタ)アクリレート等のヒドロキシル基含有ラジカル重合性単量体類;(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ビニルピリジン、ビニルイミダゾールなどの窒素含有重合性単量体;塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニル、フッ化ビニリデン、テトラフルオロエチレン等のハロゲン含有単量体;スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン等の芳香族単量体;酢酸ビニル等のビニルエステル;ビニルエーテル;(メタ)アクリロニトリル等の重合性シアン化合物;(メタ)アクリル酸、クロトン酸、イタコン酸、イタコン酸モノメチル、イタコン酸モノエチル、イタコン酸モノプロピル、イタコン酸モノブチル、フマル酸、フマル酸モノメチル、フマル酸モノエチル、フマル酸モノプロピル、フマル酸モノブチル、マレイン酸、マレイン酸モノメチル、マレイン酸モノエチル、マレイン酸モノプロピル、マレイン酸モノブチル等の酸性官能基含有単量体、及び前記単量体(a)等の光安定化機能基含有単量体等が挙げられる。前記単量体は1種を単独で使用できる他、2種以上を組み合わせて使用できる。前記単量体の中でも塗装皮膜の耐候性向上の点で、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレートから選ばれる1種以上の単量体を含有することが好ましい。また、前記単量体に加え、シランカップリング剤などを共重合することも自由である。また、水系塗料組成物の顔料分散性の点で、前記酸性官能基含有単量体を含有することが好ましい。
【0050】
酸性官能基含有単量体の含有量は特に規定されないが、得られるアクリルシリコーン系水系樹脂の全重量を100質量部とした時、0.2〜5質量部であることが好ましい。酸性官能基含有単量体の含有量が0.2質量部以上であれば、最低限必要な顔料分散性を得ることができる。また、酸性官能基含有単量体の含有量が5質量部以下であれば、十分な耐候性能を得ることができる。酸性官能基含有単量体の含有量として0.2〜3質量部がより好ましく、0.5〜3質量部の範囲が更に好ましい。
【0051】
本発明におけるアクリルシリコーン系水系樹脂は、前記(メタ)アクリロイルオキシ基を有するシリコーン樹脂と、前記(メタ)アクリル系単量体とを乳化重合することにより調製することができる。
【0052】
乳化重合法は特に限定されるものではなく、例えば、乳化剤の存在下、前記(メタ)アクリル系単量体を前記シリコーン樹脂の分散体に添加し、過硫酸アンモニウム等の水溶性の重合開始剤や、t−ブチルハイドロパーオキサイド等の有機過酸化物と、チオ硫酸ナトリウム、ロンガリット等の還元剤とを組み合わせたレドックス系開始剤等により重合を行うことができる。
【0053】
特に、前記(メタ)アクリル系単量体を2種類以上用い、2段以上に分けて添加することが耐汚染性と低温追従性が両立できる観点から好ましい。多段重合を行うことにより、多段構造型のアクリルシリコーン系水系樹脂(B)粒子を得ることができる。その層数は特に規定されず、2〜5層の範囲であることが生産性の点で好ましい。
【0054】
アクリルシリコーン系水系樹脂(B)中のシリコーン成分の含有量については、特に規定されないが、シリコーンポリマーをSi原料に用いる場合は、Si元素量として0.2〜20質量%を含むことが好ましい。シリコン元素含有単量体の重合体をSi原料に用いる場合は、Si元素量として0.02〜2質量%を含むことが好ましい。
【0055】
また、前記アクリルシリコーン系水系樹脂(B)粒子の粒子径については特に規定されないが、重量平均粒子径で300nm以下であることが塗装皮膜の耐水性能の点で好ましく、200nm以下であることがより好ましい。また乳化剤の増加による耐水性低下を防ぐためには、重量平均粒子径が30nm以上であることがより好ましい。
【0056】
また、アクリルシリコーン系水系樹脂(B)の最低造膜温度(MFT)は特に限定されないが、100℃以下であることが塗装皮膜の初期外観の点で好ましく、70℃以下であることがより好ましく、50℃以下であることが更に好ましい。尚、本発明における最低造膜温度は、「JIS K 6828 5.11」準拠の方法により求められる水系塗料の特性値を示す。
【0057】
前記アクリルシリコーン系水系樹脂(B)は、重合後、塩基性化合物の添加により系のpHを弱アルカリ性、即ちpH7.5〜10.0程度の範囲に調整することで系の安定性を高めることができる。この塩基性化合物としては、例えば、アンモニア、トリエチルアミン、プロピルアミン、ジブチルアミン、アミルアミン、1−アミノオクタン、2−ジメチルアミノエタノール、エチルアミノエタノール、2−ジエチルアミノエタノール、1−アミノ−2−プロパノール、2−アミノ−1−プロパノール、2−アミノ−2−メチル−1−プロパノール、3−アミノ−1−プロパノール、1−ジメチルアミノ−2−プロパノール、3−ジメチルアミノ−1−プロパノール、2−プロピルアミノエタノール、エトキシプロピルアミン、アミノベンジルアルコール、モルホリン、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等が挙げられる。VOCを含まないことが望まれる内装用途などの場合は、無機系塩基化合物を用いることが好ましい。さらに僅かな臭気もないことが望まれる場合は、水酸化ナトリウムや水酸化カリウム等の不揮発性無機系塩基化合物を用いることがより好ましい。
【0058】
前記アクリルシリコーン系水系樹脂(B)は、1種を単独で使用できる他、組成、アクリルシリコーン樹脂粒子の粒子径、最低造膜温度、固形分濃度等の異なる2種以上のアクリルシリコーン系水系樹脂を混合して用いても良い。
【0059】
[共重合体(A)以外のヒンダードアミン型光安定剤]
また、本発明の水系塗料組成物は、更なる耐候性向上の点で、共重合体A以外のヒンダードアミン型光安定剤(以下、HALS)を添加して用いることが好ましい。本発明の水系塗料組成物に添加できるHALSのヒンダードアミン部位の骨格については特に規定されず、「N−Hタイプ」、「N−Rタイプ」、「N−O−Rタイプ」などの既知のヒンダードアミン型光安定剤を用いればよいが、塗装皮膜の耐候性向上の点で、「N−O−Rタイプ」のヒンダードアミン型光安定剤が好ましい。
【0060】
「N−Hタイプ」の光安定剤としては、例えば、チバ・スペシャルティーケミカルズ社製商品名「チヌビン770」、ADEKA社製商品名「アデカスタブLA−57」、「アデカスタブLA−63P」、「アデカスタブLA−68P」などが挙げられる。「N−Rタイプ」の光安定剤(B)としては、チバ・スペシャルティーケミカルズ社製商品名、「チヌビン292」、「チヌビン144」、「チヌビン765」、「キマソーブ119FL」、ADEKA社製商品名「アデカスタブLA−52」、「アデカスタブLA−62」、「アデカスタブLA−67」等が挙げられる。「N−O−Rタイプ」の光安定剤(B)としては、チバ・スペシャルティーケミカルズ社製商品名「チヌビン123」、「チヌビン123DW」、「チヌビン494AR」、「チヌビンNOR371FF」、「フレームスタブNOR116FF」等が挙げられる。これらの光安定剤は単独で使用できる他、2種以上を組み合わせて使用することができる。前記HALSの中でも水系塗料組成物への分散性の点で、「チヌビン292」、「チヌビン123」、「チヌビン123DW」が好ましい。
【0061】
本発明の水系塗料組成物中のHALS添加量については特に規定されないが、水系塗料組成物中の固形分量を100質量部とした時、0.01〜1質量部範囲で添加されることが好ましい。HALSの添加量が0.01質量部以上であれば、十分な耐候性向上効果を発現する。また、添加量が1質量部以下であれば、塗装皮膜の耐水性能を低下させない。HALSの添加量として、0.01〜0.8質量部であることがより好ましい。
【0062】
[紫外線吸収剤]
また、本発明の水系塗料組成物は、更なる耐候性向上の点で、紫外線吸収剤(以下、UVA)を添加して用いることが好ましい。本発明の水系塗料組成物に添加できるUVAとしては、ベンゾフェノン系UVA、ベンゾトリアゾール系UVA、無機系UVA、ヒドロキシフェニルトリアジン系UVAなどの既知のUVAを使用できる。
【0063】
ベンゾフェノン系UVAとしては、例えば、住友化学社製商品名「スミソーブ130」、BASFジャパン社製商品名「Uvinul3049」、「Uvinul3050」等が挙げられる。ベンゾトリアゾール系UVAとしては、例えば、チバ・スペシャルティーケミカルズ社製商品名「チヌビンPS」、「チヌビン99−2」、「チヌビン109」、「チヌビン384−2」、「チヌビン900」、「チヌビン928」、「チヌビン1130」、住友化学社製商品名「スミソーブ200」、「スミソーブ250」、「スミソーブ300」、一方社油脂工業社製商品名「ULS−1935LH」、城北化学工業社製商品名「JF−77」、「JF−78」、「JF−79」、「JF−80」、「JF−83」等が挙げられる。無機系UVAとしては、例えば、多木化学社製商品名「ニードラールW−100」、「ニードラールP−10」、「ニードラールU−15」等が挙げられる。ヒドロキシフェニルトリアジン系UVAとしては、チバ・スペシャルティーケミカルズ社製商品名「チヌビン400」、「チヌビン405」、「チヌビン460」、「チヌビン477−DW」、「チヌビン479」等が挙げられる。これらのUVAのうち、塗装皮膜の耐候性向上能の点で、ヒドロキシフェニルトリアジン系UVAが好ましい。これらのUVAは1種を単独でもしくは2種以上を組合せて使用してもよい。
【0064】
本発明の塗料組成物に添加されるUVAの量は特に規定されないが、水系塗料組成物中の固形分及びUVAの和を100質量部とした時、0.1〜2.0質量部以下であることが好ましい。UVAの添加量が0.1質量部以上であれば十分な耐候性向上効果を発現する。また、2.0質量部以下であれば、クリヤー塗膜着色性に問題を生じない。
【0065】
本発明の水系塗料組成物に高度な性能を発現させるために、各種顔料、消泡剤、顔料分散剤、レベリング剤、たれ防止剤、艶消し剤、酸化防止剤、耐熱性向上剤、遮熱剤、スリップ剤、防腐剤、防汚剤、コロイダルシリカ等を適宜添加してもよい。
【0066】
本発明の水系塗料組成物を用いて各種材料の表面に塗膜を形成するためには、例えば、噴霧コート法、ローラーコート法、バーコート法、エアナイフコート法、刷毛塗り法、ディッピング法等の公知の塗装法を適宜選択して実施すればよい。この際、水系塗料組成物の造膜性を向上させる目的で、造膜助剤を添加しても良い。
【実施例】
【0067】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらによって何ら限定されるものではない。なお、以下の記載において「部」は質量基準である。
【0068】
製造例1〜8は共重合体(A)の製造例、製造例A〜Cはアクリルシリコーン系水系樹脂(B)の製造例、実施例1〜7、比較例1〜5は、前記共重合体(A)とアクリルシリコーン系水系樹脂(B)を混合して得られる水系塗料組成物の調製例に関する。
【0069】
共重合体(A)、アクリルシリコーン系水系樹脂(B)及び水系塗料組成物についての評価は、下記方法に従って実施した。
【0070】
(1)重合安定性
製造例1〜8において、重合時の状態について以下の基準で評価した。
【0071】
「○」:重合安定性に問題なく、重合可能
「×」:不安定なため、重合不可能。
【0072】
(2)架橋構造の判定及び重量平均分子量(Mw)評価
製造例1〜8について、得られた共重合体(A)0.1gをサンプル瓶に採取し、テトラヒドロフラン(THF)10gを添加して室温で一晩放置した。調製した試料溶液を東ソー(株)製「HLC−8120」を用いて以下の条件にて測定し、十分なピークが検出された試料は「可溶(=非架橋構造)」と判断し、標準ポリスチレン換算した重量平均分子量(Mw)を得た。一方、THF溶液のろ過が行えない場合や、ろ過が可能であってもろ液を用いて測定した場合のリテンションタイムが20分を過ぎてもピークが検出されない場合及び検出されたピークが極端に小さい場合は、「不溶(=架橋構造)」と判断した。
【0073】
カラム:TSK−gel TSL−gel SuperHM−M×4本(6.0mmI.D.×15cmL)
溶離液:THF
流量:0.6ml/min
注入量:20μl
カラム温度:40℃
検出器:RI。
【0074】
(3)固形分濃度
本実施例において、固形分濃度は、105℃で3時間乾燥させ加熱前後の質量より求めた。
【0075】
(4)重量平均粒子径
本実施例において、重量平均粒子径は、濃厚系アナライザー「FPAR−1000」(商品名、大塚電子(株)社製)を用い、25℃にて測定して得られたキュムラント解析平均粒子径の値を用いた。
【0076】
(5)ガラス転移温度(Tg)
本実施例において、一段目および二段目のTgを、各成分のホモポリマーのTgに基づき前記Foxの式から求めた。
【0077】
(6)粘度
本実施例において、粘度はBM型粘度計を用いて、60rpmにて測定した。
【0078】
(7)耐候性試験
水系塗料組成物としての耐候性試験については、下記方法で成膜用塗料を調製後、下記方法に従って試験を実施した。
【0079】
<クリアー塗料の調製>
製造例1〜8の共重合体(A)を製造例A〜Cのアクリルシリコーン系水系樹脂(B)に表3記載の割合にて配合する。調製した水系塗料組成物100gに対し、造膜助剤として「CS−12」(商品名、チッソ(株)製、造膜助剤)を最低造膜温度が0℃となるまで加え、「SPシールH」(商品名、(株)カレイド製、シリカ系つや消し剤)を10g、「RHEOLATE350」(商品名、RHEOX(株)製、増粘剤)を0.5g、「サーフィノールDF−58」(商品名、エア・プロダクツ(株)製、消泡剤)0.5gを加え、十分に攪拌し、100メッシュナイロン紗を用いてろ過を行い、評価用クリアー塗料を得た。リン酸亜鉛処理鋼鈑(「ボンデライト」#100処理鋼鈑、板厚0.8mm、70mm×150mm)に前記で作成した評価用クリアー塗料を乾燥膜厚が50μmになるようにスプレー塗装し、その後室温で1時間放置し、80℃で1時間強制乾燥したものを、耐候性試験の試験塗板とした。なお、最低造膜温度は、「JIS K 6828 5.11」準拠の方法により、水系塗料組成物3gを用いて、最低造膜温度測定装置(高林理化(株)製)により測定した。
【0080】
前記方法で作成した試験塗板を、サンシャインカーボンウエザオメーター(スガ試験機製、WEL−SUN−HC−B型)耐候試験機(ブラックパネル温度63±3℃、降雨12分間、照射48分間のサイクル)を用いて試験した。10000時間経過後の60゜グロスの光沢保持率を耐候性の指標とし、以下の基準で判定した。なお、60°グロスは日本電飾工業(株)製偏光光度計「VG−2000型」を用いて測定した。
【0081】
「1」:80%以上
「2」:70%以上、80%未満
「3」:60%以上、70%未満
「4」:60%未満。
【0082】
(8)耐水性試験
前記方法で作成した試験塗板の塗装面以外にポリエステルテープを張付け、耐水性試験時にかかる水滴等が塗装面以外のところへ付着することを防止した後に、50℃の温水中に10日間浸漬した後に取り出し、取り出し直後の塗膜の白化を、スペクトロカラーメーター「SE−2000」(商品名、日本電色工業(株))製を用いて測定し、以下の基準で評価した。なお、下記ΔLは塗膜の白化の程度を示す指標であり、ΔLが小さいほど白化の程度が低く、耐水性が良好であることを示す。
【0083】
「1」:ΔLが3以下である
「2」:ΔLが3より大きく、5以下である
「3」:ΔLが5より大きく、10以下である
「4」:ΔLが10より大きい。
【0084】
<実施例>
[共重合体(A)の調製]
(製造例1)
攪拌機、還流冷却管、温度制御装置、滴下ポンプ及び窒素導入管を備えたフラスコに、脱イオン水45部、表1に示す割合で配合された乳化物(A)の5質量%を反応容器内に仕込み、反応容器内部を窒素で置換しながら75℃まで昇温した。その後、過硫酸アンモニウム(重合開始剤)0.1部を1部の水に溶解した開始剤溶液を加えシード粒子を形成した。溶液の温度を温度計にて計測し、発熱ピークを確認した後、乳化物(A)の残り95質量%を内温75℃で4時間かけて滴下し、さらに内温75℃のまま2時間熟成することで乳化物(A)の単量体の重合を行った。
【0085】
その後冷却を行い、60℃以下の温度で25質量%アンモニア水をpH9になるまで添加し、共重合体(A)を得た。得られた共重合体(A)の最低造膜温度、固形分濃度、pH、共重合体(A)粒子の重量平均粒子径、重合安定性は下記表1に示す通りであった。また、共重合体(A)は前記架橋構造判定試験において、「架橋構造」であった。
【0086】
(製造例2〜5)
製造例1と同様の方法で、表1に示された組成の乳化物(A)を調製し、同様に共重合体(A)を得た。得られた共重合体(A)の最低造膜温度、固形分濃度、pH、共重合体(A)粒子の重量平均粒子径、重合安定性は下記表1に示す通りであった。また、共重合体(A)は前記架橋構造判定試験において、「架橋構造」であった。
【0087】
(製造例6)
製造例1と同様の方法で、表1に示された組成の乳化物(A)を調製し、重合を開始したが、重合滴下開始10分にて凝固物を生じ、攪拌が困難となったため重合を中止した。
【0088】
(製造例7、8)
製造例1と同様の方法で、表1に示された組成の乳化物(A)を調製し、同様に共重合体(A)を得た。得られた共重合体(A)の最低造膜温度、固形分濃度、pH、共重合体(A)粒子の重量平均粒子径、重合安定性は下記表1に示す通りであった。また、共重合体(A)は前記架橋構造判定試験において、「非架橋構造」であった。
【0089】
【表1】

【0090】
HALS1:4−メタクリロイルオキシ−1,2,2,6,6−ペンタメチルピペリジン
HALS2:4−メタクリロイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン
MMA:メチルメタクリレート
CHMA:シクロヘキシルメタクリレート
n−BMA:ノルマルブチルメタクリレート
t−BMA:ターシャリーブチルメタクリレート
n−BA:ノルマルブチルアクリレート
2−EHA:2−エチルヘキシルアクリレート
n−DM:ノルマルドデシルメルカプタン
アデカリアソープSR−10:商品名、ADEKA社製
アデカリアソープER−30:商品名、ADEKA社製。
【0091】
[アクリルシリコーン系水系樹脂(B)の調製]
<ポリオルガノシロキサン重合体の水性分散体の調製>
オクタメチルシクロテトラシロキサン95部、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン5部、水310部及びドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム1部からなる組成物をホモミキサーで予備混合した。その後、圧力式ホモジナイザーにより19.6MPa(200kg/cm2)の圧力で強制乳化してポリオルガノシロキサンエマルジョンを得た。
【0092】
次いで、水50部及びドデシルベンゼンスルホン酸5部を、攪拌機、コンデンサー、加熱ジャケット及び滴下ポンプを備えたフラスコに仕込み、攪拌下に、フラスコ内の温度を85℃に保ちながら5時間かけて前記ポリオルガノシロキサンエマルジョンを滴下した。滴下終了後、さらに1時間重合を進行させた後、冷却してアンモニア水を加えて中和し、エチレン性不飽和基を有するポリオルガノシロキサン重合体の水性分散体を得た。固形分濃度は20質量%、ポリオルガノシロキサン重合体粒子の重量平均粒子径は110nmであった。
【0093】
(製造例A)
攪拌機、コンデンサー、温度制御装置、滴下ポンプ及び窒素導入管を備えたフラスコ内に、前記ポリオルガノシロキサン重合体の水性分散体を50部、及び表2に示す1段目乳化物42.5部を加えて、40分間窒素雰囲気下で攪拌する。その後槽内を60℃に昇温し、「パーブチルH69」(商品名、日本油脂(株)製、t−ブチルハイドロパーオキサイドの69%水溶液)0.1部、ついで硫酸第一鉄0.0002部、エチレンジアミン四酢酸2ナトリウム塩0.0004部、そしてロンガリット0.02部を溶解させた水1部を加えて重合を開始させた。開始1時間後に槽内温度を80℃に昇温し、さらに2時間反応させた後、表1に示す2段目乳化物と、過硫酸アンモニウム0.2部と水5部の水溶液を2時間かけて滴下した。その後80℃にて2時間保持した後、室温まで冷却、pHを9に調整して、異相構造型重合体であるアクリルシリコーン系水系樹脂(B)を得た。得られたアクリルシリコーン系水系樹脂(B)のTg、最低造膜温度、固形分濃度、粘度、pH、アクリルシリコーン系水系樹脂(B)粒子の重量平均粒子径は下記表2に示す通りであった。
【0094】
(製造例B)
製造例Aと同様の方法で、表1に示された組成の1段目乳化物、2段目乳化物を調製し、同様の方法にてアクリルシリコーン系水系樹脂(B)を得た。得られたアクリルシリコーン系水系樹脂(B)のTg、最低造膜温度、固形分濃度、粘度、pH、アクリルシリコーン系水系樹脂(B)粒子の重量平均粒子径は下記表2に示す通りであった。
【0095】
(製造例C)
製造例Aと同様の方法で、表1に示された組成の1段目乳化物、2段目乳化物を調製した。なお、本製造例では、前記ポリオルガノシロキサン重合体の水性分散体は添加していない。攪拌機、コンデンサー、温度制御装置、滴下ポンプ及び窒素導入管を備えたフラスコ内に、水50部、「SR−10」を1部、1段目乳化物のうち15部を加えて70℃に昇温し、過硫酸アンモニウム0.1部と水3部を投入し、シード粒子を形成しピークトップ後、内温を80℃とし1段目乳化物の残りを2時間かけて滴下した。滴下後80℃にて1時間反応させた後、2段目乳化物と過硫酸アンモニウム0.2部と水5部を2時間かけて滴下した。滴下後80℃にて1時間反応させた後、加えて40分間窒素雰囲気下で攪拌した。室温まで冷却、pHを9に調整してアクリル系水系樹脂を得た。得られたアクリル系水系樹脂のTg、最低造膜温度、固形分濃度、粘度、pH、アクリルシリコーン系水系樹脂(B)粒子の重量平均粒子径は下記表2に示す通りであった。
【0096】
【表2】

【0097】
MMA:メチルメタクリレート
t−BMA:ターシャリーブチルメタクリレート
n−BMA:ノルマルブチルメタクリレート
CHMA:シクロヘキシルメタクリレート
n−BA:ノルマルブチルアクリレート
2EHA:2エチルヘキシルアクリレート
St:スチレン
n−DM:ノルマルドデシルメルカプタン
アデカリアソープSR−10:商品名、ADEKA社製
アデカリアソープER−30:商品名、ADEKA社製。
【0098】
(実施例1)
製造例1の共重合体(A)と製造例Aのアクリルシリコーン系水系樹脂(B)を表3に示す比率にて混合し、水系塗料組成物を得た後、前記方法により試験塗板を作成し、耐候性試験及び耐水性試験に供した。耐候性能及び耐水性能は表3に示す通りであった。
【0099】
(実施例2〜5、比較例1〜5)
実施例1と同様の方法で水系塗料組成物を得た後、同様に試験塗板を作成し、耐候性試験及び耐水性試験に供した。耐候性能及び耐水性能は表3に示す通りであった。
【0100】
(実施例6)
製造例2の共重合体(A)に加え、ヒンダードアミン型光安定剤として、「チヌビン292」(チバ・ジャパン社製、商品名)を製造例Bのアクリルシリコーン系水系樹脂(B)に表3に示す比率にて配合し、水系塗料組成物を得た後、試験塗板を作成し、耐候性試験及び耐水性試験に供した。耐候性試験及び耐水性試験結果は表3に示す通りであった。
【0101】
(実施例7)
製造例4の共重合体(A)に加え、ヒンダードアミン型光安定剤として、「チヌビン292」(チバ・ジャパン社製、商品名)及び紫外線吸収剤として「チヌビン477」(チバ・ジャパン社製、商品名)を製造例Aのアクリルシリコーン系水系樹脂(B)に表3に示す比率にて配合し、水系塗料組成物を得た後、試験塗板を作成し、耐候性試験及び耐水性試験に供した。耐候性試験及び耐水性試験結果は表3に示す通りであった。
【0102】
【表3】

【0103】
「チヌビン292」:商品名、チバ・ジャパン社製
「チヌビン477」:商品名、チバ・ジャパン社製。
【0104】
表1から分かるように、本発明の水系塗料組成物は共重合体(A)を含み、高い耐水性能を有するばかりでなく、極めて高い耐候性能を発現した。一方、比較例1記載の水系塗料組成物は、共重合体(A)中の単量体(a)の含有量が特定の範囲内に入っておらず、耐候性及び耐水性が十分でなかった。また、比較例2は、共重合体(A)の構造が非架橋構造であり、耐候性及び耐水性が十分でなかった。さらに比較例3、4は共重合体(A)の添加量が適切でないため、耐候性及び耐水性が不十分であった。比較例5は製造例A又はBで調製したアクリルシリコーン系水系樹脂(B)ではなく、製造例Cで調製したアクリル系水系樹脂を用いたため、耐候性及び耐水性が低位であった。したがって、本発明の水系塗料組成物は高い耐候性能と耐水性能を両立する水系塗料組成物として、極めて有用である。
【産業上の利用可能性】
【0105】
本発明の水系塗料組成物は、セメントモルタル、スレート板、石膏ボード、押し出し成形板、発泡性コンクリート、金属、ガラス、磁器タイル、アスファルト、木材、防水ゴム材、プラスチック、珪酸カルシウム基材等の各種素材の表面仕上げに使用される水系塗料として、工業上極めて有益なものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I)で表される、分子内にピペリジル基を持つエチレン性不飽和単量体(
a)6〜50質量部と、単量体(a)以外のエチレン性不飽和単量体(b)50〜94質量部(ただし、(a)、(b)の合計は100質量部)からなるエチレン性不飽和単量体混合物を乳化重合することで得られ、架橋構造を有する共重合体(A)1〜30質量部と、
(メタ)アクリロイルオキシ基を有するシリコーン樹脂と(メタ)アクリル系単量体とを重合したアクリルシリコーン系水系樹脂(B)70〜99質量部(ただし、(A)、(B)の合計は100質量部)とを含む水系塗料組成物。
【化1】

(R1は水素原子又は炭素数1〜2のアルキル基、Xは酸素原子又はイミノ基、Yは水素原子又は炭素数1〜20のアルキル基又はアルコキシル基、Zは水素原子又はシアノ基を示す。)
【請求項2】
前記アクリルシリコーン系水系樹脂(B)が、前記(メタ)アクリロイルオキシ基を有するシリコーン樹脂と前記(メタ)アクリル系単量体とを2段以上に分けて乳化重合することにより調製したものである請求項1に記載の水系塗料組成物。
【請求項3】
前記アクリルシリコーン系水系樹脂(B)の重量平均粒子径が、30nm以上、300nm以下である請求項1又は2に記載の水系塗料組成物。
【請求項4】
前記(メタ)アクリロイルオキシ基を有するシリコーン樹脂が、環状オルガノシロキサンと(メタ)アクリロイルオキシ基を有するグラフト交叉剤とを共重合して得られるシリコーン樹脂である請求項1から3のいずれか1項に記載の水系塗料組成物。
【請求項5】
共重合体(A)以外のヒンダードアミン型光安定剤を含む請求項1から4のいずれか1項に記載の水系塗料組成物。

【公開番号】特開2009−280675(P2009−280675A)
【公開日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−133085(P2008−133085)
【出願日】平成20年5月21日(2008.5.21)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】