説明

水素センサ及び水素の検知方法

【課題】水素吸収体の水素吸収能力を高めて雰囲気中の水素ガス濃度を段階的又は連続的に検出可能な水素センサを提供する。
【解決手段】絶縁基板1と、絶縁基板1の上面のほぼ全面に形成された層状の半導体2と、半導体2の上面中央部に形成された水素吸収体3と、半導体2の表面上であって水素吸収体3の左右両側に形成された内側電極5,5と、半導体2の表面上であって内側電極5,5の外側に形成された外側電極6,6とから水素センサを構成する。水素吸収体3を金又は金を主成分とする金とパラジウムとの合金をもって形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素センサ及び水素の検知方法に係り、特に、半導体上に付設される水素吸収体の材質に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、半導体からなり水素と化学反応する感応体上に、水素吸収体として、或いは感応体への水素吸収反応の触媒作用をもつ触媒層として、パラジウムからなる層を形成した種々の水素ガス検知素子が提案されている(例えば、特許文献1及び特許文献2参照。)。
【0003】
即ち、特許文献1には、絶縁基板と、該絶縁基板上に設けられたSnOやIn等の金属酸化物半導体からなるガス感応体と、該ガス感応体上に設けられた1対の電極及びパラジウムからなる触媒層と、前記絶縁基板の裏面側に配置された発熱体とを備えた水素ガス検知素子が記載されている。この水素ガス検知素子は、素子形成の最終工程において熱処理を施すことにより、水素ガスに対する感度の向上と水素ガス以外のガスに対する感度の低下を図っている。
【0004】
また、特許文献1には、ガス感応体の表面に水素ガス以外の分子の通過を抑制し、水素ガス分子を容易に透過させる燃焼非活性の薄膜、例えばAl、SiO、Si等の薄膜を形成した水素ガス検知素子も記載されている。この水素ガス検知素子は、前記薄膜によってガス感応体の表面に水素ガスを選択的に透過させることができるので、水素ガス以外のガスによる干渉を少なくすることができ、水素ガス検知素子の感度を高めることができる。
【0005】
一方、特許文献2には、絶縁基板と、該絶縁基板上に設けられたInからなる薄膜状ガス感応体と、該ガス感応体上に設けられた1対の電極及びパラジウムからなる触媒層と、該触媒層の表面に付与されたSi酸化物からなる部分被毒剤と、前記絶縁基板の裏面側に配置された発熱体とを備えた水素ガス検知素子が記載されている。この水素ガス検知素子は、触媒層の表面にSi酸化物からなる部分被毒剤を付与し、触媒層に水素ガスを選択的に吸収させるようにしたので、水素ガス以外のガスによる干渉を少なくすることができ、水素ガス検知素子の感度を高めることができる。
【特許文献1】特開平3−259736号公報
【特許文献2】特開平6−148112号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、パラジウムの水素吸収能力は、約0.3%程度の低水素濃度でほぼ飽和状態に達するので、パラジウムを水素吸収体或いは触媒層として備えた水素ガス検知素子では0.3%以上の水素濃度を正確に測定することができない。このため、従来の水素ガス検知素子は、低濃度の水素ガスの有無を検出するためのセンサとしては有効であるが、より高濃度の範囲までの水素を段階的又は連続的に検出可能なセンサとすることは困難であった。
【0007】
本発明は、このような従来技術の不備を解決するためになされたもので、その目的は、水素吸収体の水素吸収能力が飽和する水素濃度を高くすることで、雰囲気中の水素ガス濃度を従来より高濃度の範囲まで段階的又は連続的に検出可能とした水素センサを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するため、本発明は、水素センサに関しては、半導体と、当該半導体上に付設された金又は金を主成分とする金とパラジウムとの合金からなる水素吸収体と、当該水素吸収体の付設位置を挟んで前記半導体上の前記水素吸収体と導通しない位置に配置された少なくとも1対の電極とを備えるという構成にした。
【0009】
実験によると、金にも水素吸収能力があり、金の水素吸収能力は約2.0%程度の濃度まで飽和状態に達しない。したがって、金からなる水素吸収体を備えた水素センサは、パラジウムからなる水素吸収体を用いた場合に比べて水素ガス濃度の検出範囲を拡大することができて、雰囲気中の水素ガス濃度の段階的又は連続的な検出が可能になる。また、金とパラジウムとの合金にも水素吸収能力があり、合金中のパラジウム組成比を10%程度に抑制した場合、その水素吸収能力は約2.0%程度の濃度まで飽和状態に達しない。したがって、金からなる水素吸収体を備えた水素センサと同様に、金とパラジウムとの合金からなる水素吸収体を備えた水素センサについても、パラジウムからなる水素吸収体を用いた場合に比べて水素ガス濃度の検出範囲を拡大することができて、雰囲気中の水素ガス濃度の段階的又は連続的な検出が可能になる。なお、電極は一般に金をもって形成されるので、金をもって水素吸収体を形成すると、水素センサの製造工程を簡略化でき、水素センサの低コスト化を図ることができる。
【0010】
また、本発明は、前記構成の水素センサにおいて、前記半導体として絶縁基板上に層状に形成された半導体を用いるという構成にした。
【0011】
層状の半導体は、真空蒸着やスパッタリングなどの真空成膜法を適用することにより絶縁基板上に必要な膜厚で容易に形成することができる。したがって、半導体を絶縁基板上に設けられた層状のものとすると、水素センサの製造を容易化できて水素センサを低コスト化できると共に、水素センサの小型化も図ることができる。
【0012】
また、本発明は、前記構成の水素センサにおいて、前記半導体として非酸化物系の半導体を用いるという構成にした。非酸化物系の半導体としては、シリコン、炭化珪素、ゲルマニウム、シリコンゲルマニウム、ガリウムヒ素、窒化ガリウム、炭素(ダイヤモンド)のいずれかを主成分とするものを用いることができる。
【0013】
酸化物系の半導体を利用した水素センサは、半導体材料に還元性ガス(可燃性ガス)が作用した場合に、還元性ガスが酸化物半導体材料から酸素を引き剥がす作用を発揮し、酸素にトラップされていた電子が半導体中に残ることによって電気空乏層が薄くなり、荷電キャリアの存在する領域が増して抵抗値が変わるという基本原理を利用するものである。したがって、酸化物系の半導体を利用した水素センサは、原理的に水素ガス以外のメタンガス、プロパンガスやエチルアルコール等の還元性ガスにも必ず反応するので、水素ガスの選択性を向上するための種々の手段を施したとしても、実際上水素ガスのみを検出することができない。また、本構造の水素センサは、酸化物半導体材料と還元性ガスの還元反応を利用するので、200〜300℃の高温で感度が良好となる傾向があり、水素センサに加熱ヒータなどの発熱体を備える必要がある。これに対して、非酸化物系の半導体を用いた水素センサは、酸化又は還元反応に起因するものではない別の抵抗値変動機構によって半導体の内部での電子の移動度に影響が出て抵抗値が変わるものであるので、水素ガス以外の還元性ガスには反応せず、水素ガスのみを検出することができる。また、常温で水素ガスの検出が可能で、加熱ヒータなどの発熱体を備える必要がないので、水素センサの小型化、消費電力の低減、出力の安定性の向上、それにセンサの耐久性の向上などを図ることができる。
【0014】
また、本発明は、前記構成の水素センサにおいて、前記水素吸収体を前記半導体上に直接形成するという構成にした。
【0015】
このように水素吸収体を半導体の表面に直接接触させて形成すると、水素吸収体が吸収した水素の影響を半導体に直に及ぼすことができるので、水素濃度に対応する出力変化を確実に検知することができる。
【0016】
また、本発明は、前記構成の水素センサにおいて、前記半導体と前記水素吸収体との間に薄膜絶縁層を介在するという構成にした。
【0017】
このように薄膜絶縁層を介して半導体上に水素吸収体を形成すると、薄膜絶縁層によって半導体の表面が保護されるので、水素センサの耐久性及び信頼性を高めることができる。薄膜絶縁層を介して半導体上に水素吸収体を形成した場合にも、水素を吸収した水素吸収体は薄膜絶縁層を介して半導体に影響を与え、半導体の抵抗値を変化させる。
【0018】
また、本発明は、前記構成の水素センサにおいて、前記水素吸収体の露出面を水素透過性の保護膜により覆うという構成にした。
【0019】
このように水素吸収体の露出面を水素透過性の保護膜により覆うと、雰囲気中の水素を選択的に水素吸収体に到達させることができるので、水素センサの感度を高めることができる。また、水素吸収体の露出面が水素透過性の保護膜で覆われて保護されるので、水素センサの耐久性及び信頼性を高めることができる。
【0020】
また、本発明は、前記構成の水素センサにおいて、前記水素透過性の保護膜が、多孔性窒化珪素又は酸化珪素若しくはポリイミドからなるという構成にした。
【0021】
多孔性窒化珪素、酸化珪素及びポリイミドは、いずれも水素の選択的透過性に優れるので、これらの各材料からなる保護膜で水素吸収体の露出面を覆うと、他の可燃性ガスの影響を高能率に排除することができ、水素センサの感度を高めることができる。また、これらの各材料は、真空成膜法によって容易に成膜可能であるので、水素センサの生産性の向上を図ることができる。
【0022】
一方、水素の検知方法に関して本発明は、半導体と、当該半導体上に付設された金又は金とパラジウムとの合金からなる水素吸収体と、当該水素吸収体の付設位置を挟んで前記半導体上の前記水素吸収体と導通しない位置に配置された少なくとも1対の電極とを備えた水素センサを用い、前記少なくとも1対の電極間で計測される前記半導体の抵抗値変化から前記水素吸収体への水素吸収の有無と水素吸収量とを検出するという構成にした。
【0023】
このように少なくとも1対の電極間で計測される半導体の抵抗値変化から水素吸収体への水素吸収の有無と水素吸収量とを検出すると、水素ガス利用装置に適用した場合に、例えば低濃度の水素ガスを検出した段階でボンベからの水素ガスの漏れを検出し、高濃度の水素ガスを検出した段階で水素ガス利用装置を強制的に停止させるという制御に適用することができ、水素センサの適用範囲を拡大することができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明の水素センサは、半導体と、当該半導体上に付設された金又は金とパラジウムとの合金からなる水素吸収体と、当該水素吸収体の付設位置を挟んで前記半導体上の前記水素吸収体と導通しない位置に配置された少なくとも1対の電極とを備えるので、約2.0%程度の濃度まで水素吸収体の水素吸収能力が飽和状態に達せず、パラジウムからなる水素吸収体を用いた場合に比べて水素ガス濃度の検出範囲を拡大することができて、雰囲気中の水素ガス濃度の段階的又は連続的な検出が可能になる。
【0025】
本発明の水素の検知方法は、半導体と、当該半導体上に付設された金又は金とパラジウムとの合金からなる水素吸収体と、当該水素吸収体の付設位置を挟んで前記半導体上の前記水素吸収体と導通しない位置に配置された少なくとも1対の電極とを備えた水素センサを用いるので、パラジウムからなる水素吸収体を用いた場合に比べて水素ガス濃度の検出範囲を拡大することができて、雰囲気中の水素ガス濃度の段階的又は連続的な検出が可能になる。そして、少なくとも1対の電極間で計測される半導体の抵抗値変化から単に水素吸収体への水素吸収の有無を検出するのではなく、水素吸収体への水素吸収量を併せて検出するので、水素ガス利用装置に適用した場合に、例えば低濃度の水素ガスを検出した段階でボンベからの水素ガスの漏れを検出し、高濃度の水素ガスを検出した段階で水素ガス利用装置を強制的に停止させるという制御に適用することができ、水素センサの適用範囲を拡大することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
〈第1の実施の形態〉
以下、本発明に係る水素センサの第1例を図1及び図2に基づいて説明する。図1は第1実施形態に係る水素センサの断面図、図2は第1実施形態に係る水素センサの平面図である。
【0027】
これらの図から明らかなように、第1実施形態に係る水素センサAは、絶縁基板1と、絶縁基板1の上面のほぼ全面に形成された層状の半導体2と、半導体2の上面中央部に形成された水素吸収体3と、半導体2の表面上であって水素吸収体3の左右両側に形成された内側電極5,5と、半導体2の表面上であって内側電極5,5の外側に形成された外側電極6,6とからなる。前記内側電極5,5及び外側電極6,6は、水素吸収体3と電気的に導通しないように形成される。
【0028】
絶縁基板1は、SiOなどのガラスや石英、Alなどのセラミック、イオンをドープしていないシリコンなどをもって形成することができる。この絶縁基板1は、半導体2及び電極5,6の形成面が絶縁性を有すれば良いので、導電性の基板の表面に絶縁層を被覆したものを用いることもできる。
【0029】
半導体2は、ITO(インジウムスズ酸化物)、GaN、或いはPをドープして半導体としたn型Siなどを層状に形成してなる。この半導体として好ましくは、本来絶縁物であるがイオンをドープして半導体としたものが特に望ましい。このタイプの半導体として、シリコンにV族元素であるP,As或いはSbなどの元素をイオンドープしてなるn型半導体や、シリコンにBなどのIII族元素をイオンドープしてなるp型半導体などを用いることができる。さらには、半導体2を構成する半導体材料としては、n型又はp型のSiC,Ge,SiGe,GaAs,GaNなどを用いることができる。
【0030】
水素吸収体3は、雰囲気中に水素が存在すると水素を吸収し、雰囲気中から水素がなくなると吸収している水素を放出するものであって、金又は金とパラジウムの合金をもって形成される。水素吸収体3を金とパラジウムの合金をもって形成する場合においては、その水素吸収能力を金単体と同程度にするため、パラジウムの組成比を10%程度までに抑制することが望ましい。この水素吸収体3は、電極5,5間及び電極6,6間を導通させないパターンで形成する必要がある。水素吸収体3のパターン形成に当たっては、フォトリソグラフィ法が好適に用いられる。
【0031】
なお、水素吸収体3は、図1及び図2に示すように連続した膜状に形成することもできるが、電極5,5間及び電極6,6間の導通を防止するため、粒状の水素吸収体材料が島状にとぎれとぎれの状態で分散配置され、全体として絶縁体として機能するように構成することが特に望ましい。
【0032】
粒状の水素吸収体材料が島状にとぎれとぎれの状態で分散配置された水素吸収体3は、水素吸収体3を真空蒸着法やスパッタリング法などの真空成膜法によって形成する場合に、膜が生成される以前の段階で成膜を中止することで形成することができる。具体的には、半導体2上に堆積される水素吸収体材料の層厚を0.5nm〜5nm程度に抑制することにより、抵抗値が1MΩ程度の絶縁体とすることができる。
【0033】
また、水素吸収体3の縦幅は、絶縁基板1の縦幅よりも若干短く、横幅は絶縁基板1の横幅の数分の1に形成される。これにより、図1及び図2に示すように、水素吸収体3の左右両側には、半導体2が露出される。
【0034】
内側電極5,5及び外側電極6,6は、Au又はAlなどの任意の良導電材料で形成することができるが、水素センサの製造工程を簡略化してその低コスト化を図るため、水素吸収体3がAuで形成される場合には、電極5,6もAuで形成することが好ましい。これらの各電極5,6は、真空蒸着法、スパッタリング法或いはスクリーン印刷法などで形成することができる。
【0035】
以上のごとく構成された第1実施形態に係る水素センサAは、測定環境に設置し、外側電極6,6間に所定の電流を印加しながら内側電極5,5間の電圧を測定することで水素の検出を行うことができる。即ち、水素センサAの設置環境に水素ガスが存在すると、水素センサAの水素吸収体3に水素が取り込まれ、半導体2の水素吸収体3と接している部分は水素吸収体3への水素の吸収により荷電キャリアの状態が変化するので、これに応じて半導体2の抵抗値が変化する。また、水素センサAの設置環境から水素ガスがなくなると、水素吸収体3から水素が放出されるので、半導体2の抵抗値は原点に復帰し、再度使用できる状態となる。この場合、第1実施形態に係る水素センサAは、従来の水素センサとは異なり、酸化還元反応に基づいて水素を検出するものではないので、従来の水素センサのように水素の検知後に水素センサを200℃〜300℃の高温に加熱して再酸化する必要がなく、検知後に水素のない常温の環境に放置するだけで再使用が可能になる。
【0036】
なお、第1実施形態に係る水素センサAは、従来の水素センサとは異なり常温で水素の検出を行うことができる点に大きな特徴を有するが、高温の雰囲気中でも水素の検出を行うことができることはもちろんである。
【0037】
〈第2の実施の形態〉
以下、本発明に係る水素センサの第2例を図3及び図4に基づいて説明する。図3は第2実施形態に係る水素センサの断面図、図4は第2実施形態に係る水素センサの平面図である。
【0038】
これらの図から明らかなように、第2実施形態に係る水素センサBは、水素吸収体の露出面を水素透過性の保護膜17にて覆うと共に、半導体2と水素吸収体3の間に薄膜絶縁層14を介在させ、かつ電極5,6の一部及び半導体2の上面の露出面を薄膜絶縁層14で覆ったことを特徴とする。その他については、第1実施形態に係る水素センサAと同じである。
【0039】
水素透過性の保護膜17は、多孔性窒化珪素又は酸化珪素若しくはポリイミドなどをもって形成することができる。これらの各材料は、いずれも水素の選択的透過性に優れるので、これらの各材料からなる保護膜17で水素吸収体3の露出面を覆うと、雰囲気中の水素を選択的に水素吸収体に到達させることができて他の可燃性ガスの影響を高能率に排除することができ、水素センサの感度をより高めることができる。また、これらの各材料は、真空成膜法によって容易に成膜可能であるので、水素センサの生産性の向上を図ることができる。さらに、保護膜17で覆うことにより、水素吸収体3の露出面を保護することができるので、水素センサの耐久性及び信頼性を高めることができる。
【0040】
また、薄膜絶縁層14も、多孔性窒化珪素又は酸化珪素若しくはポリイミドなどをもって形成することができる。このように所定の面に薄膜絶縁層14を形成すると、薄膜絶縁層14によって半導体2の表面が保護されるので、水素センサの耐久性及び信頼性を高めることができる。
【0041】
なお、前記各実施形態においては、絶縁基板1上に膜状の半導体2を形成したが、半導体2の構成に関してはこれに限定されるものではなく、バルク状の半導体や、半導体粒子を圧密して所望の形状に成形した成形体を用いることもできる。
【0042】
〈実験例〉
水素吸収体3の材質が異なる各種の水素センサを作製し、水素ガスの検出実験を行った。以下に、試料である各種水素センサの構成と実験結果とを挙げ、本発明に係る水素センサの効果を明らかにする。
【0043】
試料である水素センサは、縦16mm、横9mmのサファイア基板上に半導体2として厚さ0.1μmのSiをドープしたGaN膜を形成し、GaN膜の中央部に縦5mm、横7mmの水素吸収体3を形成した。また、GaN膜上の水素吸収体3と接しない位置に縦7.5mm、横1.2mmで、下地がTi、上層がAuからなる2層構造の内側電極5と外側電極6とを形成し、第1実施形態に係る水素センサAの外観構成を有するものとした。
【0044】
各試料における水素吸収体3の組成を図5に示す。試料B0はPd100%、試料B1はPd95%でAu5%、試料B2はPd80%でAu20%、試料B3はPd77%でAu23%、試料B4はPd64.5%でAu35.5%、試料B5はPd44%でAu56%、試料B6はPd27%でAu73%、試料B7はPd11.5%でAu88.5%、試料B8はPd5%でAu95%、試料B9はPd3%でAu97%、試料BAはAu100%である。ここで、比率は原子比率である。
【0045】
水素吸収体3の形成は、サンユー電子株式会社製のスパッタリング装置SC−701HMCを用い、電流値が15mA、スパッタガスがAr、真空度が15Pa、スパッタ時間が15分間の成膜条件で行った。ターゲットの構成については、図6に示す通りである。試料B0についてはPdターゲットを用いて成膜した。試料BAについてはAuターゲットを用いて成膜した。また、試料B1〜試料B9については、Pdターゲットの表面に1辺が10mmで厚さが0.7mmのAuチップを図6に示す所要の配列で張り付けたターゲットを用いた。図6でドーナツ上の部位は、ターゲット上でスパッタされる量の多い場所である。
【0046】
これらの各資料を水素センサ測定用のチャンバー内に同時に収容し、130℃で大気雰囲気中及び水素ガス含有大気雰囲気中におけるセンサ出力を測定した。その結果を図7及び図8に示す。図7は試料B0,B7,BAについて、大気雰囲気中におけるセンサ出力が2.5Vであることを確認した後に、大気中の水素ガス濃度を3%、2%、1%、0.5%、0.3%、0%と減少させたときのセンサ出力の変化を示す図であり、図8は各水素ガス濃度で平衡状態となったときのセンサ出力をプロットしたものである。なお、各水素ガス濃度の切り替えは、センサ出力が十分に平衡状態になった後に行った。
【0047】
図7及び図8から明らかなように、Pd100%の試料B0は約0.3%の水素ガス濃度で水素ガス吸収能力が飽和し、水素ガス濃度を0.3%〜3%の範囲で変更したときのセンサ出力変化が小さいので、0.3%以上の水素ガス濃度を検出することが困難である。これに対して、Pd11.5%でAu88.5%の試料B7及びAu100%の試料BAは約2%の水素ガス濃度まで水素ガス吸収能力が飽和せず、0.3%〜2%の範囲の水素ガス濃度を検出することができる。よって、この範囲における水素ガス濃度の段階的又は連続的な検出が可能になり、水素センサの適用範囲を拡大することができる。
【0048】
なお、試料B8,B9についてはほぼ試料B7と等価であり、試料B1〜B6については試料B0に近い値となった。また、第2実施形態に係る水素センサについて同様の実験を行ったところ、前記実験例と同様の結果が得られた。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】第1実施形態に係る水素センサの断面図である。
【図2】第1実施形態に係る水素センサの平面図である。
【図3】第2実施形態に係る水素センサの断面図である。
【図4】第2実施形態に係る水素センサの平面図である。
【図5】各試料の水素吸収体の組成を示す表図である。
【図6】各試料の水素吸収体を製造するに用いたターゲットの構成図である。
【図7】本発明に係る水素センサの効果を比較例に係る水素センサと比較して示すグラフ図である。
【図8】本発明に係る水素センサの効果を比較例に係る水素センサと比較して示すグラフ図である。
【符号の説明】
【0050】
A,B 水素センサ
1 絶縁基板
2 半導体
3 水素吸収体
5 内側電極
6 外側電極
14 薄膜絶縁層
17 水素透過性の保護膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体と、当該半導体上に付設された金又は金を主成分とする金とパラジウムとの合金からなる水素吸収体と、当該水素吸収体の付設位置を挟んで前記半導体上の前記水素吸収体と導通しない位置に配置された少なくとも1対の電極とを備えたことを特徴とする水素センサ。
【請求項2】
前記半導体として、絶縁基板上に層状に形成された半導体を用いたことを特徴とする請求項1に記載の水素センサ。
【請求項3】
前記半導体として、非酸化物系の半導体を用いたことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の水素センサ。
【請求項4】
前記非酸化物系の半導体として、シリコン、炭化珪素、ゲルマニウム、シリコンゲルマニウム、ガリウムヒ素、窒化ガリウム、炭素(ダイヤモンド)のいずれかを主成分とする非酸化物系の半導体を用いたことを特徴とする請求項3に記載の水素センサ。
【請求項5】
前記水素吸収体を前記半導体上に直接形成したことを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の水素センサ。
【請求項6】
前記半導体と前記水素吸収体との間に薄膜絶縁層を介在したことを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の水素センサ。
【請求項7】
前記水素吸収体の露出面を水素透過性の保護膜により覆ったことを特徴とする請求項1乃至請求項6のいずれか1項に記載の水素センサ。
【請求項8】
前記水素透過性の保護膜が、窒化珪素又は酸化珪素若しくはポリイミドからなることを特徴とする請求項7に記載の水素センサ。
【請求項9】
半導体と、当該半導体上に付設された金又は金とパラジウムとの合金からなる水素吸収体と、当該水素吸収体の付設位置を挟んで前記半導体上の前記水素吸収体と導通しない位置に配置された少なくとも1対の電極とを備えた水素センサを用い、前記少なくとも1対の電極間で計測される前記半導体の抵抗値変化から前記水素吸収体への水素吸収の有無と水素吸収量とを検出することを特徴とする水素の検知方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−300585(P2006−300585A)
【公開日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−119575(P2005−119575)
【出願日】平成17年4月18日(2005.4.18)
【出願人】(000010098)アルプス電気株式会社 (4,263)
【Fターム(参考)】