説明

水素タンクライナー用材料及び水素タンクライナー

【課題】ガスバリア性に優れ、かつ低温でも優れた耐衝撃性を有する水素タンクライナー用材料を提供すること。
【解決手段】ポリアミド樹脂組成物全体に対して、(A)ポリアミド樹脂が85〜40重量%、(B)共重合ポリアミドが5〜30重量%、(C)耐衝撃材が10〜30重量%であることを特徴とする請求項1に記載の水素タンクライナー用材料とする。(B)共重合ポリアミドが、PA6/66であること、(C)耐衝撃材が、酸変性エチレン・α−オレフィン系共重合体であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素タンクライナー用材料に関し、さらに詳しくは、ガスバリア性に優れ、かつ−40℃以下の極低温でも優れた耐衝撃性を有する水素タンクライナー用材料及びこれを用いて製造した水素タンクライナーに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化の原因になる二酸化炭素の排出量を抑制するなどの環境面から、燃料電池電気自動車が注目されている。燃料電池電気自動車は、水素と空気中の酸素を電気化学的に反応させて発電する燃料電池を搭載し、燃料電池が発電した電気をモータに供給して駆動力を発生させている。この燃料電池電気自動車は、液体水素などに比べて取り扱いが容易であるなどの理由から水素タンクを搭載している。また、内燃機関を搭載した自動車ではあるが、ガソリンの代わりに水素を燃料とする水素自動車も環境面から注目されており、この水素自動車も同様の理由から水素タンクを搭載している。
【0003】
このような燃料電池電気自動車や水素自動車で使用される水素タンクは、樽のような外形をした高圧水素貯蔵容器であり、水素ガスに直接接触する金属製又は樹脂製の内層(ライナー)とその外周面に積層された繊維強化樹脂層とからなっている(例えば、特許文献1、特許文献2参照)。
しかしながら、水素タンクライナーとして、アルミ等の金属を用いた場合には、ガスバリア性には優れるが、水素吸収し、低温化で脆性破壊を起こす問題があった。また、高密度ポリエチレンを用いた場合には、比較的分子量の大きい天然ガスなどに対しては気密性を発揮するが、分子量の小さい水素に対してはガスバリア性が劣るという問題があった。
【0004】
そこで、高密度ポリエチレンよりもガスバリア性に優れたポリアミド樹脂を水素タンクライナー用材料として使用することが提案されている。
ところで、水素タンクライナーに使用過程で強い衝撃が加わった場合に割れ等が発生するとガス漏れを誘発するので、水素タンクライナー用材料には耐衝撃性が要求されるが、ポリアミド樹脂に耐衝撃材を配合することで耐衝撃性の改善が図られていた。
しかしながら、走行距離を長くする目的で水素タンクの内圧が70MPaの高圧のものになると、高速走行時に水素タンクがかなりの低温になるため、−40℃以下の極低温でも優れた耐衝撃性を有することが要求されている。
【0005】
【特許文献1】特開2002−188794号公報
【特許文献2】特開2004−176898号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記の問題点を解決し、ガスバリア性に優れ、かつ−40℃以下の極低温でも優れた耐衝撃性を有する水素タンクライナー用材料及びこれを用いて製造した水素タンクライナーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、ポリアミド6に共重合ポリアミドと耐衝撃材を配合することにより、ガスバリア性に優れ、−40℃以下の極低温でも優れた耐衝撃性を有する水素タンクライナー用材料が得られることを見出して本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、(A)ポリアミド6、(B)共重合ポリアミド、および(C)耐衝撃材を含むポリアミド樹脂組成物からなることを特徴とする水素タンクライナー用材料に関するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明の水素タンクライナー用材料は、ガスバリア性に優れ、かつ−40℃以下の極低温でも優れた耐衝撃性を有し、かつレーザー溶着が可能であり、射出成形により単層の成形品を製造することができるので、水素タンクライナーに好適に用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明のレーザー溶着用材料は、(A)ポリアミド6、(B)共重合ポリアミド、および(C)耐衝撃材を含むポリアミド樹脂組成物からなる。
【0010】
本発明における(A)ポリアミド6としては、酸アミド結合(−CONH−)を有する次式:(−CO−(CH25−NH−)nで示されるポリアミドが代表的なものであり、ε−カプロラクタムまたは6−アミノカプロン酸を重合させて得ることができる。
【0011】
本発明における(A)ポリアミド6の重合度には特に制限はないが、JIS K6920に従って96%硫酸中濃度1%、温度25℃で測定した相対粘度が1.5〜5.0であることが好ましく、より好ましくは2.0〜4.5である。相対粘度が上記数値の上限以下で加工性がより優れ、上記下限以下で機械的強度が向上するため好ましい。
【0012】
本発明における(B)共重合ポリアミドは、アミノカルボン酸、ラクタムあるいはジアミンとジカルボン酸とから誘導される単位を2種類以上含む共重合ポリアミドである。具体的には、炭素数6〜12のラクタム、炭素数6〜12のアミノカルボン酸、及び炭素数3〜22のジカルボン酸と炭素数2〜20のジアミンの組み合わせから誘導される単位を2種以上含むものが挙げられる。
【0013】
炭素数6〜12のアミノカルボン酸としては、6−アミノカプロン酸、7−アミノヘプタン酸、8−アミノオクタン酸、9−アミノノナン酸、10−アミノカプリン酸、11−アミノウンデカン酸、12−アミノドデカン酸などを用いることができる。
【0014】
炭素数6〜12のラクタムとしては、ε−カプロラクタム、ω−エナントラクタム、ω−ウンデカンラクタム、ω−ドデカラクタムなどを用いることができる。
【0015】
ジアミン及びジカルボン酸としては、直鎖状のジアミンと直鎖状のジカルボン酸が用いられるが、結晶性を低下させる目的で、直鎖状のジアミンと直鎖状のジカルボン酸から誘導されるポリアミドの原料の一部を分岐構造を有するジアミンおよび/またはジカルボン酸に置換した共重合ポリアミドも用いることができる。
【0016】
直鎖状脂肪族ジカルボン酸としては、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカン二酸、ドデカン二酸、トリデカン二酸、テトラデカン二酸、ペンタデカン二酸、ヘキサデカン二酸、ヘプタデカン二酸、オクタデカン二酸、ノナデカン二酸、エイコサン二酸などを用いることができる。
【0017】
直鎖状脂肪族ジアミンとしては、エチレンジアミン、1,3−プロパンジアミン、1,4−ブタンジアミン、1,5−ペンタンジアミン、1,6−ヘキサンジアミン、1,7−ヘプタンジアミン、1,8−オクタンジアミン、1,9−ノナンジアミン、1,10−デカンジアミン、1,11−ウンデカンジアミン、1,12−ドデカンジアミン、1,13−トリデカンジアミン、1,14−テトラデカンジアミン、1,15−ペンタデカンジアミン、1,16−ヘキサデカンジアミン、1,17−ヘプタデカンジアミン、1,18−オクタデカンジアミン、1,19−ノナデカンジアミン、1,20−エイコサンジアミンなどを用いることができる。
【0018】
分岐状脂肪族ジアミンとしては、1−ブチル−1,2−エタンジアミン、1,1−ジメチル−1,4−ブタンジアミン、1−エチル−1,4−ブタンジアミン、1,2−ジメチル−1,4−ブタンジアミン、1,3−ジメチル−1,4−ブタンジアミン、1,4−ジメチル−1,4−ブタンジアミン、2,3−ジメチル−1,4−ブタンジアミン、2−メチル−1,5−ペンタンジアミン、3−メチル−1,5−ペンタンジアミン、2,2−ジメチル−1,6−ヘキサンジアミン、2,5−ジメチル−1,6−ヘキサンジアミン、2,4−ジメチル−1,6−ヘキサンジアミン、3,3−ジメチル−1,6−ヘキサンジアミン、2,2,4−トリメチル−1,6−ヘキサンジアミン、2,4,4−トリメチル−1,6−ヘキサンジアミン、2,4−ジエチル−1,6−ヘキサンジアミン、2,2−ジメチル−1,7−ヘプタンジアミン、2,3−ジメチル−1,7−ヘプタンジアミン、2,4−ジメチル−1,7−ヘプタンジアミン、2,5−ジメチル−1,7−ヘプタンジアミン、2−メチル−1,8−オクタンジアミン、3−メチル−1,8−オクタンジアミン、4−メチル−1,8−オクタンジアミン、1,3−ジメチル−1,8−オクタンジアミン、1,4−ジメチル−1,8−オクタンジアミン、2,4−ジメチル−1,8−オクタンジアミン、3,4−ジメチル−1,8−オクタンジアミン、4,5−ジメチル−1,8−オクタンジアミン、2,2−ジメチル−1,8−オクタンジアミン、3,3−ジメチル−1,8−オクタンジアミン、4,4−ジメチル−1,8−オクタンジアミン、5−メチル−1,9−ノナンジアミンなどを用いることができる。
【0019】
分岐状脂肪族ジカルボン酸としては、ジメチルマロン酸、3,3−ジエチルコハク酸、2,2−ジメチルグルタル酸、2−メチルアジピン酸、3−メチルアジピン酸、トリメチルアジピン酸、2−ブチルスベリン酸(1,6デカンジカルボン酸ともいう)、2,3−ジブチルブタンジオン酸、8−エチルオクタデカンジオン酸、8,13−ジメチルエイコサジオン酸、2−オクチルウンデカンジオン酸、2−ノニルデカンジオン酸などを用いることができる。
【0020】
本発明における(B)共重合ポリアミドは、上記の原料から誘導される2成分からなる2元共重合ポリアミドまたは、3成分以上からなる共重合ポリアミドを用いることができる。好ましい(B)共重合ポリアミドとしては、PA6/66(ポリアミド6/66)、PA6/12(ポリアミド6/12)、PA6/66/12(ポリアミド6/66/12三元共重合体)が挙げられ、PA6/66(ポリアミド6/66)が特に好ましい。
(B)共重合ポリアミドの配合量はポリアミド樹脂組成物全体に対して、5〜30重量%が好ましい。配合量が5重量%以上の場合に耐衝撃性の向上が顕著であり、配合量が30重量%以下で剛性の向上及び結晶化速度が速くなり成形加工性が良くなるので好ましい。
【0021】
本発明におけるポリアミド樹脂組成物には、前記(A)ポリアミド6及び(B)共重合ポリアミド以外の他のポリアミド樹脂又はその他のポリマー樹脂を混合してもよい。混合する他のポリアミド樹脂としては、ポリアミド11、ポリアミド12、ポリアミド66、ポリアミド610、ポリアミド612、ポリアミド1212等を挙げることができる。他のポリマー樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ABS樹脂、ポリフェニレンオキサイド、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等を例示することができる。これらの他のポリマー樹脂を混合物にする場合には、ポリアミド樹脂組成物中の含有率が40重量%以下となるように混合することが好ましい。
【0022】
また、本発明における(C)耐衝撃材としては、(エチレン及び/又はプロピレン)/α−オレフィン系共重合体、(エチレン及び/又はプロピレン)/(α,β−不飽和カルボン酸及び/又は不飽和カルボン酸エステル)系共重合体、アイオノマー重合体、芳香族ビニル化合物/共役ジエン化合物系ブロック共重合体を挙げることができ、これらは1種又は2種以上を用いることができる。好ましくは、エチレン・α−オレフィン系共重合体である。
【0023】
上記の(エチレン及び/又はプロピレン)/α−オレフィン系共重合体は、エチレン及び/又はプロピレンと炭素数3以上のα−オレフィンを共重合した重合体であり、炭素数3以上のα−オレフィンとしては、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−ヘプテン、1−オクテン、1−ノネン、1−デセン、1−ウンデセン、1−ドデセン、1−トリデセン、1−テトラデセン、1−ペンタデセン、1−ヘキサデセン、1−ヘプタデセン、1−オクタデセン、1−ノナデセン、1−エイコセン、3−メチル−1−ブテン、3−メチル−1−ペンテン、3−エチル−1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテン、4−メチル−1−ヘキセン、4,4−ジメチル−1−ヘキセン、 4,4−ジメチル−1−ペンテン、4−エチル−1−ヘキセン、3−エチル−1−ヘキセン、9−メチル−1−デセン、11−メチル−1−ドデセン、12−エチル−1−テトラデセン等が挙げられる。これらは1種又は2種以上を用いることができる。
また、1,4−ペンタジエン、1,4−ヘキサジエン、1,5−ヘキサジエン、1,4−オクタジエン、1,5−オクタジエン、1,6−オクタジエン、1,7−オクタジエン、2−メチル−1,5−ヘキサジエン、6−メチル−1,5−ヘプタジエン、7−メチル−1,6−オクタジエン、4−エチリデン−8−メチル−1,7−ノナジエン、4,8−ジメチル−1,4,8−デカトリエン(DMDT)、ジシクロペンタジエン、シクロヘキサジエン、シクロオクタジエン、5−ビニルノルボルネン、5−エチリデン−2−ノルボルネン、5−メチレン−2−ノルボルネン、5−イソプロピリデン−2−ノルボルネン、6−クロロメチル−5−イソプロペンル−2−ノルボルネン、2,3−ジイソプロピリデン−5−ノルボルネン、2−エチリデン−3−イソプロピリデン−5−ノルボルネン、2−プロペニル−2,5−ノルボルナジエン等の非共役ジエンのポリエンを共重合してもよい。これらは1種又は2種以上を用いることができる。
【0024】
上記の(エチレン及び/又はプロピレン)/(α,β−不飽和カルボン酸及び/又は不飽和カルボン酸エステル)系共重合体は、エチレン及び/又はプロピレンとα,β−不飽和カルボン酸及び/又は不飽和カルボン酸エステル単量体を共重合した重合体であり、α,β−不飽和カルボン酸単量体としては、アクリル酸、メタクリル酸が挙げられ、α,β−不飽和カルボン酸エステル単量体としては、これら不飽和カルボン酸のメチルエステル、エチルエステル、プロピルエステル、ブチルエステル、ペンチルエステル、ヘキシルエステル、ヘプチルエステル、オクチルエステル、ノニルエステル、デシルエステル等が挙げられる。これらは1種又は2種以上を用いることができる。
【0025】
上記のアイオノマー重合体は、オレフィンとα,β−不飽和カルボン酸共重合体のカルボキシル基の少なくとも一部が金属イオンの中和によりイオン化されたものである。オレフィンとしてはエチレンが好ましく用いられ、α,β−不飽和カルボン酸としてはアクリル酸、メタクリル酸が好ましく用いられるが、ここに例示したものに限定されるものではなく、不飽和カルボン酸エステル単量体が共重合されていても構わない。また、金属イオンはLi、Na、K、Mg、Ca、Sr、Ba等のアルカリ金属、アルカリ土類金属の他、Al、Sn、Sb、Ti、Mn、Fe、Ni、Cu、Zn、Cd等が挙げられる。これらは1種又は2種以上を用いることができる。
【0026】
また、芳香族ビニル化合物/共役ジエン化合物系ブロック共重合体は、芳香族ビニル化合物系重合体ブロックと共役ジエン化合物系重合体ブロックからなるブロック共重合体であり、芳香族ビニル化合物系重合体ブロックを少なくとも1個と、共役ジエン化合物系重合体ブロックを少なくとも1個有するブロック共重合体が用いられる。また、上記のブロック共重合体では、共役ジエン化合物系重合体ブロックにおける不飽和結合が水素添加されていてもよい。
【0027】
芳香族ビニル化合物系重合体ブロックは、芳香族ビニル化合物に由来する構造単位から主としてなる重合体ブロックである。その場合の芳香族ビニル化合物としては、スチレン、α−メチルスチレン、o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、1,5−ジメチルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、ビニルナフタレン、ビニルアントラセン、4−プロピルスチレン、4−シクロヘキシルスチレン、4−ドデシルスチレン、2−エチル−4−ベンジルスチレン、4−(フェニルブチル)スチレン等が挙げられ、これらは1種又は2種以上を用いることができる。また、芳香族ビニル化合物系重合体ブロックは、場合により少量の他の不飽和単量体からなる構造単位を有していてもよい。
【0028】
共役ジエン化合物系重合体ブロックは、1,3−ブタジエン、クロロプレン、イソプレン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエン、4−メチル−1,3−ペンタジエン、1,3−ヘキサジエン等の共役ジエン化合物の1種又は2種以上から形成された重合体ブロックであり、水素添加した芳香族ビニル化合物/共役ジエン化合物系ブロック共重合体では、その共役ジエン化合物系重合体ブロックにおける不飽和結合部分の一部又は全部が水素添加により飽和結合になっている。
【0029】
芳香族ビニル化合物/共役ジエン化合物系ブロック共重合体及びその水素添加物の分子構造は、直鎖状、分岐状、放射状、又はそれら任意の組み合わせのいずれであってもよい。これらの中でも、芳香族ビニル化合物/共役ジエン化合物系ブロック共重合体及び/又はその水素添加物として、1個の芳香族ビニル化合物系重合体ブロックと1個の共役ジエン化合物系重合体ブロックが直鎖状に結合したジブロック共重合体、芳香族ビニル化合物系重合体ブロック−共役ジエン化合物系重合体ブロック−芳香族ビニル化合物系重合体ブロックの順に3つの重合体ブロックが直鎖状に結合しているトリブロック共重合体、及びそれらの水素添加物の1種又は2種以上が好ましく用いられ、スチレン/エチレン−ブテン/スチレンブロックコポリマー(SEBS)、スチレン/ブタジエン/スチレンブロックコポリマー(SBS)、スチレン/イソプレン/スチレンブロックコポリマー(SIS)、スチレン/エチレン−プロピレン/スチレン(SEPS)ブロックコポリマー等が挙げられる。
【0030】
また、(C)耐衝撃材として用いられる(エチレン及び/又はプロピレン)/α−オレフィン系共重合体、(エチレン及び/又はプロピレン)/(α,β−不飽和カルボン酸及び/又は不飽和カルボン酸エステル)系共重合体、アイオノマー重合体、芳香族ビニル化合物/共役ジエン化合物系ブロック共重合体は、カルボン酸及び/又はその誘導体で変性された重合体が好ましく使用される。このような成分により変性することにより、ポリアミド樹脂に対して親和性を有する官能基をその分子中に含むこととなる。
【0031】
カルボン酸及び/又はその誘導体の付加量は、前記共重合体の重量に対して、好ましくは0.1〜10重量%、より好ましくは0.5〜5.0重量%の範囲である。0.1重量%以上であるとポリアミド樹脂との相溶性が良くなり、耐衝撃性が顕著に向上するので好ましい。10重量%以下で耐衝撃性の向上効果が顕著であり、生産性が良いため好ましい。
【0032】
ポリアミド樹脂に対して親和性を有する官能基としては、カルボキシル酸基、酸無水物基、カルボン酸エステル基、カルボン酸金属塩、カルボン酸イミド基、カルボン酸アミド基、エポキシ基等が挙げられる。これらの官能基を含む化合物の例として、アクリル酸、メタアクリル酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、クロトン酸、メサコン酸、シトラコン酸、グルタコン酸、シス−4−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸、エンドビシクロ−[2.2.1]−5−ヘプテン−2,3−ジカルボン酸及びこれらカルボン酸の金属塩、マレイン酸モノメチル、イタコン酸モノメチル、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸ヒドロキシエチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸ヒドロキシエチル、メタクリル酸アミノエチル、マレイン酸ジメチル、イタコン酸ジメチル、無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水シトラコン酸、エンドビシクロ−[2.2.1]−5−ヘプテン−2,3−ジカルボン酸無水物、マレイミド、N−エチルマレイミド、N−ブチルマレイミド、N−フェニルマレイミド、アクリルアミド、メタクリルアミド、アクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジル、エタクリル酸グリシジル、イタコン酸グリシジル、シトラコン酸グリシジル等が挙げられる。これらは1種又は2種以上を用いることができる。これらの中では無水マレイン酸が好ましい。
【0033】
(C)耐衝撃材の配合量はポリアミド樹脂組成物全体に対して、10〜30重量%が好ましい。(C)耐衝撃材の配合量が10重量%以上で耐衝撃性の効果が大きいので好ましい。また、30重量%以下で剛性が向上及びガスバリア性が増加するので好ましい。
【0034】
本発明の水素タンクライナー用材料には目的に応じて染料、顔料、繊維状補強物、粒子状補強物、可塑剤、耐熱材、発泡剤、耐候剤、結晶核剤、結晶化促進剤、離型剤、滑剤、帯電防止剤、難燃剤、難燃助剤、着色剤等の機能性付与剤等を適宜配合することができる。
【0035】
本発明の水素タンクライナー用材料の製造方法は特に制限されるものではなく、例えば次の方法を適用することができる。
【0036】
(A)ポリアミド6、(B)共重合ポリアミド、および(C)耐衝撃材の混合には、単軸、2軸の押出機、バンバリーミキサー、ニーダー、及びミキシングロールなど通常公知の溶融混練機が用いられる。例えば、2軸押出機を使用して、全ての原材料を配合後、溶融混練する方法、一部の原材料を配合後、溶融混練し更に残りの原材料を配合し溶融混練する方法、あるいは一部の原材料を配合後、溶融混練中にサイドフィーダーを用いて残りの原材料を混合する方法など、いずれの方法を用いてもよい。
【0037】
本発明の水素タンクライナー用材料から水素タンクライナーを成形する方法については特に制限はなく、通常使用される熱可塑性樹脂の成形機、例えば、押出成形機、ブロー成形機、圧縮成形機、射出成形機等を用いて製造することができる。
特に、本発明の水素タンクライナー用材料は、単層で十分な低温耐衝撃性及びガスバリア性を有するので、単層射出成形により水素タンクライナーを容易に製造することができる。ここで単層とは、単一の可塑化装置で溶融された樹脂組成物をキャビティに充填して得られる成形品層を言う。また、射出成形とは金型キャビティに溶融樹脂を加圧状態で注入し、金型内で固化させて成形品を得るもの全てを指し、通常の射出成形に加え例えば射出圧縮成形も含む。
【0038】
また、水素タンクライナーは、成形品を構成する2つ以上の分割体を単層射出成形によって形成し、次いでこれらをレーザー溶着により相互に接合することによって形成することができる。例えば、中央部分から2つに割った部品を射出成形により製造した後、これらをレーザー溶着で接合することにより、容易に樽状の形状をした部品を製造できる。
【0039】
この場合、一方の部品をレーザー透過性とし、他方の部品をレーザ吸収性とし、レーザー透過性の部品側からレーザー光を照射して両者をレーザー溶着する。
また、他方の部品をレーザー吸収性とする代わりに、表面にレーザー吸収性の塗料を塗布してもよい。さらに、2つの部品の間にレーザー吸収性の樹脂を挟んだ状態でレーザー溶着することもできる。
さらに、2つの部品を同色の着色剤で着色することにより、同色同士の樹脂を接合することができるようになり、接合された樹脂部材の見た目をよくすることができる。
【実施例】
【0040】
以下、本発明を実施例及び比較例により更に詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
なお、実施例および比較例において使用した樹脂及び成形品の物性測定方法を以下に示す。温度については常温及び試験可能な最低温度で実施した。
(1)引張強さ及び破断点伸び:ASTMD638に従い、常温(23℃)、−40℃で厚み3.2mmの試験片を用いて試験を行った。
また、JIS K 7161に従い、−80℃で厚み4mmのJIS K 7162 1A型引張試験片を用いて試験を行った。
(2)曲げ強さ及び曲げ弾性率:ASTMD790に従い、常温で厚み6.4mmの短冊状試験片を用いて3点曲げ試験を行った。
(3)アイゾット衝撃強さ:ASTMD256に従い、厚み6.4mmの短冊状試験片を用いて後加工でノッチをつけて常温(23℃)、−40℃及び−75℃でアイゾット衝撃試験装置にて評価した。
(4)Heガス透過率:理化精機工業(株)製非定常透過計測システムを用いて、以下の試験方法で測定した。
評価試験サンプルサイズ:47mmΦ(T−ダイフィルム成形機で50μmの成形したもの)
セル温度 : 30℃
評価ガス : 純ヘリウム(99.99995%)
供給圧 : 1.0kgf/cm
(5)レーザー透過率:パワーエネルギーアナライザー(コヒレント・ジャパン社製 FieldMaster(登録商標)GS LM−45)を用いて、ASTM1号ダンベルの形状に成形したものについて測定した。
【0041】
・ポリアミド樹脂
PA6:ポリアミド6(宇部興産(株)製 SF1018A:96%硫酸に対する相対粘度=2.98)
PA66:ポリアミド66(宇部興産(株)製 2020:96%硫酸に対する相対粘度=2.75)
PA6/66:ポリアミド6/66樹脂(宇部興産(株)製 5034B:96%硫酸に対する相対粘度=4.05)
・耐衝撃材
EBR:無水マレイン酸変性EBR(三井化学(株)製 タフマーMH5020:密度ρ=0.86)
【0042】
実施例1〜2、比較例1〜3
表1に記載したポリアミド樹脂および耐衝撃材をドライブレンドした後、TEX−44二軸混練機で溶融混練し、目的とするポリアミド樹脂組成物ペレットを作成した。
次に得られたペレットをシリンダー温度280℃、金型温度80℃で射出成形し、各種試験片を製造し、物性を評価した。得られた結果を表1に示す。
【0043】
【表1】

【0044】
実施例3
実施例1の配合を用いて、水素タンクライナーを射出成形した。得られた水素タンクライナーは、ガスバリア性に優れていた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ポリアミド6、(B)共重合ポリアミド、および(C)耐衝撃材を含むポリアミド樹脂組成物からなることを特徴とする水素タンクライナー用材料。
【請求項2】
ポリアミド樹脂組成物全体に対して、(A)ポリアミド樹脂が85〜40重量%、(B)共重合ポリアミドが5〜30重量%、(C)耐衝撃材が10〜30重量%であることを特徴とする請求項1に記載の水素タンクライナー用材料。
【請求項3】
(B)共重合ポリアミドが、PA6/66であることを特徴とする請求項1又は2に記載の水素タンクライナー用材料。
【請求項4】
(C)耐衝撃材が、酸変性エチレン・α−オレフィン系共重合体であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の水素タンクライナー用材料。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の水素タンクライナー用材料を成形してなる水素タンクライナー。
【請求項6】
単層射出成形によって形成されることを特徴とする請求項5に記載の水素タンクライナー。
【請求項7】
成形品を構成する2つ以上の分割体を単層射出成形によって形成し、これらを相互に接合することによって形成されることを特徴とする請求項5に記載の水素タンクライナー。
【請求項8】
成形品を構成する2つ以上の分割体を単層射出成形によって形成し、これらを相互にレーザー溶着により接合することによって形成されることを特徴とする請求項5に記載の水素タンクライナー。

【公開番号】特開2009−191871(P2009−191871A)
【公開日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−30755(P2008−30755)
【出願日】平成20年2月12日(2008.2.12)
【出願人】(000000206)宇部興産株式会社 (2,022)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】