説明

水素供給装置及び燃料電池システム

【課題】水素吸蔵量が多く、水素放出速度が小さい水素貯蔵材料が備えられていても、必要とされる水素放出量を長期間に亘って確保することが可能な水素供給装置、及び、当該水素供給装置を備える燃料電池システムを提供する。
【解決手段】少なくとも第1の水素貯蔵材料及び第2の水素貯蔵材料を収容した、水素貯蔵手段を具備し、第2の水素貯蔵材料の水素吸蔵圧は、第1の水素貯蔵材料の水素放出圧よりも低く、かつ、第2の水素貯蔵材料の水素放出速度は、第1の水素貯蔵材料の水素放出速度よりも大きい、水素供給装置とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、貯蔵した水素を機器へ供給する水素供給装置、及び、当該水素供給装置を備える燃料電池システムに関する。
【背景技術】
【0002】
地球温暖化対策技術として研究が進められている燃料電池は、反応物(水素や空気等)の電気化学反応の過程で生じた電気エネルギーを外部へ取り出す装置であり、有害ガス等を発生させないクリーンなエネルギー源として知られている。燃料電池を搭載した自動車(以下「燃料電池車」という。)において、反応物として水素を用いる場合、使用される水素を貯蔵する手段が必要とされ、水素の貯蔵形態としては、気体の水素を直接充填する形態や液体水素を用いる形態のほか、水素吸蔵合金を用いる形態等が提案されている。これらの中でも、液体水素よりも多量の水素を貯蔵でき、安全性に優れる等の観点から、水素吸蔵合金を用いる形態が注目されている。
【0003】
水素吸蔵合金は、温度や圧力を制御することにより水素を吸蔵・放出し得る合金である。ここで、燃料電池車に搭載される水素貯蔵手段には、燃料電池車の航続距離を長期間に亘って維持するために、多量の水素を吸蔵可能であることが必要とされる。さらに、燃料電池車の運転状態に応じて、幅広い水素放出速度に対応可能であることが必要とされる。それゆえ、燃料電池車に搭載される水素貯蔵手段に水素吸蔵合金が収容される場合、水素吸蔵量が大きく、かつ、水素の吸蔵・放出速度が大きい水素吸蔵合金を用いることが重要になる。
【0004】
水素吸蔵合金を備えた水素貯蔵手段に関する技術として、例えば、特許文献1には、熱供給部材を備えたタンク本体内に水素吸蔵合金を充填してなる水素吸蔵合金タンクにおいて、上記水素吸蔵合金を、所定の水素放出圧を得るに必要な温度であってその属性から決定される属性温度が異なる複数種類の水素吸蔵合金で構成するとともに、該複数の水素吸蔵合金を、属性温度の高い水素吸蔵合金ほど上記タンク本体内の上記熱供給部材から供給される熱量が多い部位寄りに位置せしめた状態で配置した水素吸蔵合金タンク構造が開示されている。また、特許文献2には、水素を吸蔵・解離する水素吸蔵材を備えた水素供給装置に関する技術が開示されている。
【0005】
【特許文献1】特開平07−208696号公報
【特許文献2】特開2001−173899号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に開示されている技術によれば、水素吸蔵合金タンクに複数種類の水素吸蔵合金が備えられるので、長期間に亘って水素を放出することが可能になると考えられる。しかし、特許文献1に開示されている技術では、水素の放出速度については考慮されていない。水素吸蔵合金タンクには、水素を貯蔵可能であるのみならず、必要十分な量の水素を放出可能であることも必要とされるため、水素の放出速度について考慮されていない特許文献1に開示された技術では、例えば、一度に大量の水素が必要とされる場面において、十分な量の水素を供給できない虞があるという問題があった。かかる問題は、特許文献2に開示されている技術、及び、特許文献1に開示されている技術と特許文献2に開示されている技術とを組み合わせた技術によっても解決が困難であった。
【0007】
そこで本発明は、水素吸蔵量は多いが水素放出速度は小さい水素貯蔵材料が備えられていても、必要とされる水素放出量を長期間に亘って確保することが可能な水素供給装置、及び、当該水素供給装置を備える燃料電池システムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明は以下の手段をとる。すなわち、
第1の本発明は、少なくとも第1の水素貯蔵材料及び第2の水素貯蔵材料を収容した、水素貯蔵手段を具備し、第2の水素貯蔵材料の水素吸蔵圧は、第1の水素貯蔵材料の水素放出圧よりも低く、かつ、第2の水素貯蔵材料の水素放出速度は、第1の水素貯蔵材料の水素放出速度よりも大きいことを特徴とする、水素供給装置である。
【0009】
ここで、「第1の水素貯蔵材料」及び「第2の水素貯蔵材料」は、水素を貯蔵・放出可能な材料であれば、その形態は特に限定されるものではない。第1の水素貯蔵材料及び第2の水素貯蔵材料の具体例としては、水素吸蔵合金を挙げることができる。さらに、本発明における「水素吸蔵圧」及び「水素放出圧」は、Hydrogen pressure-composition-isotherms曲線(以下「PCT曲線」という。)のプラトー領域における圧力(プラトー領域が水平ではなく傾きを有する直線で近似される場合には、当該プラトー領域の平均圧力(プラトー領域の最大圧力をPx、最小圧力をPyとするとき、(Px+Py)/2で表される圧力))を意味する。
【0010】
上記第1の本発明において、第1の水素貯蔵材料及び第2の水素貯蔵材料が、同一容器に収容されていることが好ましい。
【0011】
第2の本発明は、上記第1の本発明にかかる水素供給装置と、該水素供給装置から取り出された水素が供給される燃料電池と、を備えることを特徴とする、燃料電池システムである。
【発明の効果】
【0012】
第1の本発明によれば、水素吸蔵量は多いが相対的に水素放出速度の小さい第1の水素貯蔵材料に加え、相対的に水素放出速度の大きい第2の水素貯蔵材料が備えられ、かつ、当該第2の水素貯蔵材料の水素貯蔵圧は、第1の水素貯蔵材料の水素放出圧よりも小さい。そのため、水素貯蔵手段内の圧力が高い間は、高圧ガスの状態で存在する水素を供給でき、水素貯蔵手段内の圧力が低下すると、第1の水素貯蔵材料及び第2の水素貯蔵材料から水素が放出される。そして、第1の水素貯蔵材料からのみでは水素の供給が追いつかない時、水素放出速度の大きい第2の水素貯蔵材料から水素が放出される。それゆえ、水素貯蔵手段内の圧力の高低によらず、水素放出速度の大きい状態を維持することができる。したがって、第1の本発明によれば、水素吸蔵量が多く、水素放出速度が小さい水素貯蔵材料が備えられていても、必要とされる水素放出量を長期間に亘って確保することが可能な、水素供給装置を提供することができる。
【0013】
第1の本発明において、第1の水素貯蔵材料及び第2の水素貯蔵材料が同一容器に収容されることにより、第1の水素貯蔵材料から第2の水素貯蔵材料に水素が移動する際に、水素を吸蔵する第2の水素貯蔵材料から発せられた熱を、水素を放出する際に熱を吸収する第1の水素貯蔵材料へと移動させることができる。すなわち、かかる形態とすることで、水素の吸蔵・放出時における外部からの熱の供給が不要になるので、上記効果に加えて補機損失を低減することが可能な、水素供給装置を提供することができる。
【0014】
第2の本発明によれば、上記第1の本発明にかかる水素供給装置が備えられるので、水素吸蔵量が多く、水素放出速度が小さい水素貯蔵材料が備えられていても、必要とされる水素放出量を長期間に亘って確保することが可能な、燃料電池システムを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
水素貯蔵材料を用いて水素を貯蔵する場合、水素貯蔵量の多い水素貯蔵材料に貯蔵することが有効である。しかし、水素貯蔵量の多い水素貯蔵材料は、水素の放出速度が小さい場合があるため、大きな水素放出速度が要求される水素供給装置では、水素貯蔵量の多い水素貯蔵材料の使用が困難であった。一方で、水素エンジン自動車や燃料電池車等に搭載される水素貯蔵タンクを備えた水素供給装置では、多量の水素を貯蔵可能な形態とすることが好ましい。それゆえ、水素吸蔵量が多く、かつ、水素放出速度が大きい水素供給装置の開発が望まれている。
【0016】
本発明は、かかる観点からなされたものであり、その要旨は、水素吸蔵量が多く、水素放出速度が小さい水素貯蔵材料が備えられていても、必要とされる水素放出量を長期間に亘って確保することが可能な水素供給装置、及び、当該水素供給装置を備える燃料電池システムを提供することにある。
【0017】
以下、図面を参照しつつ、本発明の水素供給装置及び燃料電池システムについて説明する。なお、以下の説明では、本発明の水素供給装置及び燃料電池システムが燃料電池車に搭載された場合を例示するが、以下に示す形態はあくまでも例示であり、本発明は以下の形態に限定されるものではない。
【0018】
1.水素供給装置
図1は、本発明にかかる水素供給装置の水素貯蔵手段に収容される、第1の水素貯蔵材料(以下「水素貯蔵材料A」という。)のPCT曲線、及び、第2の水素貯蔵材料(以下「水素貯蔵材料B」という。)のPCT曲線の形態例を示す概念図であり、同一温度におけるPCT曲線の形態を示している。図2は、水素が充填されている途中の時点における、水素貯蔵手段の圧力と、水素貯蔵材料Aの水素吸蔵圧及び水素放出圧並びに水素貯蔵材料Bの水素吸蔵圧及び水素放出圧(以下「水素貯蔵材料の水素吸放出特性」という。)との関係を示す概念図である。図3は、水素充填完了後に、水素貯蔵手段から水素が短時間で大量に放出される状態で燃料電池車が運転された場合における、水素貯蔵手段の圧力と、水素貯蔵材料の水素吸放出特性との関係を示す概念図である。図4は、図3に示す状態を経た後に、水素貯蔵手段から放出される水素が所定値以下の状態で燃料電池車が運転された場合における、水素貯蔵手段の圧力と、水素貯蔵材料の水素吸放出特性との関係を示す概念図である。図5は、図4に示す状態を経た後に、水素貯蔵手段から水素が短時間で大量に放出される状態で燃料電池車が運転された場合における、水素貯蔵手段の圧力と、水素貯蔵材料の水素吸放出特性との関係を示す概念図である。図1〜図5の縦軸は圧力[MPa]、同横軸は、水素貯蔵材料の固相中に貯蔵された水素原子Hと当該水素貯蔵材料を構成する金属原子Mとの質量比H/Mである。以下、図1〜図5を参照しつつ、本発明の水素供給装置について説明する。
【0019】
1.1.水素充填時
図1に示すように、本発明にかかる水素供給装置の水素貯蔵手段に収容される水素貯蔵材料Aは、PCT曲線のプラトー領域の圧力が、P1及びP2であり、水素貯蔵材料Bは、PCT曲線のプラトー領域の圧力がP3及びP4である。すなわち、水素貯蔵材料Aの水素吸蔵圧及び水素放出圧はP1及びP2、水素貯蔵材料Bの水素吸蔵圧及び水素放出圧はP3及びP4であって、P1、P2、P3、及び、P4の間には、P4<P3<P2<P1の関係が成立する。
【0020】
図1に示す水素吸放出特性を有する水素貯蔵材料A及び水素貯蔵材料Bを収容した水素貯蔵手段に水素を充填させると、水素貯蔵手段の内部圧力PがP<P3である間は、水素貯蔵材料A及び水素貯蔵材料Bに吸蔵される水素は僅かな量に留まる。その後、水素貯蔵手段に充填された水素量が増大することにより、水素貯蔵手段の内部圧力PがP=P3になると、水素吸蔵圧がP3である水素貯蔵材料Bに多量の水素が吸蔵される。一方、水素貯蔵材料Aの水素吸蔵圧はP1(>P3)であるため、水素貯蔵材料Bに多量の水素が吸蔵される状態であっても、水素貯蔵材料Aに吸蔵される水素は依然として僅かな量に留まる。
【0021】
水素貯蔵材料Bに多量の水素が吸蔵された後も水素貯蔵手段に水素を供給し続けると、やがて、水素貯蔵手段の内部圧力PがP>P3となり、その後、P=P1へと上昇する。水素貯蔵手段の内部圧力PがP=P1になると、水素吸蔵圧がP1である水素貯蔵材料Aに多量の水素が吸蔵される。そして、水素吸蔵材料Aに多量の水素が吸蔵された後、水素貯蔵手段の内部圧力が所定値にまで到達すると、水素の充填が終了される。すなわち、水素貯蔵手段への水素の充填が完了した時点における、水素貯蔵手段の内部圧力Pは、P1<Pとなる(図2参照)。なお、上記の水素吸放出特性を有する水素貯蔵材料A及び水素貯蔵材料Bは、多くの場合、水素貯蔵材料Bよりも水素貯蔵材料Aの方が水素吸蔵量が大きく、水素貯蔵材料Bよりも水素貯蔵材料Aの方が水素の放出速度が小さい傾向が認められる。
【0022】
1.2.走行時(その1)
水素充填の終了後に燃料電池車を始動させると、短時間に多量の水素が水素貯蔵手段から放出される。ところが、水素充填終了直後における水素貯蔵手段の内部圧力Pは、P1<Pであり、かかる圧力状態において水素貯蔵材料A及び水素貯蔵材料Bから放出される水素は、微量である。そのため、燃料電池車の始動直後には、水素貯蔵手段の内部に高圧ガスの状態で存在する水素(水素貯蔵材料A及び水素貯蔵材料Bに吸蔵されず、水素貯蔵材料A及び水素貯蔵材料Bの外側であって水素貯蔵手段の内部に存在する高圧ガスとしての水素)が、水素貯蔵手段から放出される。このようにして、高圧ガスの水素が水素貯蔵手段から放出されると、水素貯蔵手段の内部圧力Pは徐々に低下し、やがて、P=P2となる。
【0023】
P=P2になると、本格的に、水素貯蔵材料Aから水素が放出されるが、上述のように、水素貯蔵材料Aは水素の放出速度が小さい。そのため、燃料電池車の加速時に必要とされる水素を、常に水素貯蔵材料Aから放出される水素で賄うことができるとは限らない。その際には、水素貯蔵材料Aから水素が本格的に放出され始めても、水素貯蔵手段の内部圧力Pは低下し続け、やがて、P=P4になると考えられる。
【0024】
P=P4になると、本格的に、水素貯蔵材料Bから水素が放出される。上述のように、水素貯蔵材料Bは水素の放出速度が大きい。そのため、P=P4となって、水素貯蔵材料Bから多量の水素が放出されるようになると、必要とされる全ての量の水素を、水素貯蔵材料Aから放出される水素及び水素貯蔵材料Bから放出される水素によって賄うことが可能になる。その結果、水素貯蔵手段の内部圧力Pは、P=P4に維持され、以後、しばらくの間はP=P4のまま、水素貯蔵手段から安定して水素が放出される(図3参照)。
【0025】
1.3.走行時(その2)
図3に示す始動直後の状態に代表される、高負荷状態(燃料電池で所定量を超える水素が消費される状態。例えば、燃料電池車の急加速時等。)を経て、燃料電池車が低負荷状態(燃料電池で所定量以下の水素が消費される状態。燃料電池車の停止時も含む。)へ移行すると、水素貯蔵手段から取り出される水素量が減る。そうすると、水素貯蔵手段から取り出される水素の量よりも、水素貯蔵材料から放出される水素の方が多くなる。そのため、水素貯蔵手段の内部圧力Pは、P4<Pとなり、やがて、P3≦P<P2となる。水素貯蔵手段の内部圧力PがP3≦P<P2の状態下では、水素放出圧がP2である水素貯蔵材料Aから水素が放出される一方、水素吸蔵圧がP3である水素貯蔵材料Bへ水素が吸蔵される。それゆえ、かかる圧力状態下では、水素貯蔵材料Aから放出された水素が水素貯蔵材料Bへと吸蔵され、見かけ上、水素が水素貯蔵材料Aから水素貯蔵材料Bへと移動する(図4参照)。
【0026】
水素貯蔵材料Aから水素貯蔵材料Bへの水素の移動は、水素貯蔵手段の内部圧力PがP3≦P<P2である間に生じ、最終的に、水素貯蔵材料Aに貯蔵されていた水素が全て放出された段階で、終了する。なお、水素貯蔵材料Aから水素貯蔵材料Bへ水素が移動している間に、高負荷状態で燃料電池車が運転されると、水素貯蔵手段の内部圧力Pは、P<P3となり、水素貯蔵材料Aから水素貯蔵材料Bへの水素の移動は、一旦、終了する。しかし、燃料電池車が高負荷状態から低負荷状態へ移行すると、再び、水素貯蔵手段の内部圧力Pは、P3≦P<P2となり、水素貯蔵材料Aから水素貯蔵材料Bへ水素が移動する。結局、水素貯蔵手段の内部圧力PがP≦P1になった後は、水素貯蔵手段に新たに水素を充填しない限り、当該圧力PがP1<Pとなることはない。そして、水素貯蔵材料Aに貯蔵されていた水素は、水素貯蔵手段の外へと取り出されるか、又は、水素貯蔵材料Bに吸蔵されることによって底をつく。したがって、水素貯蔵手段に貯蔵されている水素の残量が少なくなると、水素貯蔵材料Bに水素が貯蔵され、水素貯蔵材料Aには水素が貯蔵されていない状態となる。
【0027】
1.4.走行時(その3)
図3及び図4に示す状態を経て、水素貯蔵手段に貯蔵されている水素の残量が少なくなり、水素貯蔵手段の内部圧力PがP<P4になると、水素貯蔵材料Aに貯蔵されていた水素は底をつき、原則として、水素貯蔵材料に貯蔵されている水素は、水素貯蔵材料Bに貯蔵されている水素のみになる(図5参照)。ここで、上述のように、水素貯蔵材料Bは、水素の放出速度が大きい。そのため、かかる状態になっても、水素貯蔵手段からは一度に多量の水素を取り出すことができる。
【0028】
このように、本発明の水素供給装置によれば、最終的には、水素の放出速度が大きい水素貯蔵材料Bから水素が放出されるので、水素貯蔵手段に水素が貯蔵されている間は、燃料電池車に搭載された燃料電池で使用される単位時間当たりの水素量によらずに、必要とされる水素を確実に供給することができる。これに対し、従来のように、水素吸蔵量は多いが水素の放出速度が小さい水素吸蔵合金(例えば、上記水素貯蔵材料A)のみが備えられる水素供給装置では、水素貯蔵タンク等に代表される水素貯蔵手段内の水素充填量が多い時には高圧ガスとして存在している水素を供給できるため、短時間は高負荷運転状態を維持できるものの、高圧ガスとして存在している水素が残り少なくなると、一度に多量の水素を取り出すことができず、結果として、高負荷運転を長時間に亘って維持することが困難であった。ところが、本発明の水素供給装置によれば、水素貯蔵材料Aとともに、P4<P3<P2<P1の関係を満たし水素の放出速度が大きい水素貯蔵材料Bが備えられる構成とすることで、当該水素貯蔵材料Bを水素貯蔵材料Aのバッファタンクとして機能させ、水素の残量が少なくなっても大きな水素放出速度を維持することができる。それゆえ、本発明によれば、長期間に亘って高負荷運転状態を維持し得る、水素供給装置を提供することができる。
【0029】
本発明の水素供給装置において、水素貯蔵材料A及び水素貯蔵材料Bの収容形態は、特に限定されるものではないが、水素貯蔵材料A及び水素貯蔵材料Bとして水素吸蔵合金を用いる場合には、水素吸蔵時に発熱反応が生じ、水素放出時に吸熱反応が生じる。それゆえ、上記走行時(その2)に、水素貯蔵手段へ熱量を供給する熱量供給手段で消費されるエネルギーを低減し(又は、当該熱量供給手段を不要とし)て、エネルギーの利用効率を向上させ得る形態の水素供給装置を提供する等の観点からは、水素を吸蔵する水素貯蔵材料Bが発する熱を、水素を放出する水素貯蔵材料Aが吸収可能な形態で、水素貯蔵材料A及び水素貯蔵材料Bが収容されることが好ましい。かかる観点から、水素貯蔵材料A及び水素貯蔵材料Bは、同一容器に収容されることが好ましい。
【0030】
また、本発明にかかる水素供給装置の水素貯蔵手段に収容される、水素貯蔵材料A及び水素貯蔵材料Bの質量は特に限定されるものではないが、水素貯蔵材料Bの質量が小さすぎると、水素貯蔵材料Aに吸蔵された水素を水素貯蔵材料Bへ移動させ、水素貯蔵材料に貯蔵された水素の残量が少なくなった場合には、水素の放出速度が大きい水素貯蔵材料Bから水素を放出させる、という本発明の効果が得られ難い。一方、水素貯蔵材料A及び水素貯蔵材料Bの合計量に占める水素貯蔵材料Bの割合が大きすぎると、水素貯蔵手段に貯蔵可能な水素量が低減する虞がある。そこで、本発明の水素供給装置では、これらの点を考慮して、水素貯蔵手段に収容される水素貯蔵材料A及び水素貯蔵材料Bの質量を決定する事が好ましい。
【0031】
本発明の水素供給装置で使用される水素貯蔵材料A及び水素貯蔵材料Bは、P4<P3<P2<P1の関係を満たし、かつ、水素貯蔵材料Bの水素放出速度が水素貯蔵材料Aの水素放出速度よりも大きい材料であれば、特に限定されるものではなく、当該関係を満たす水素吸蔵合金等を好適に用いることができる。本発明の水素供給装置で使用可能な水素貯蔵材料Aの具体例としては、TiCrV等に代表されるVを含有する体心立方構造を持つ合金や、Mg系合金のほか、AlHを含む錯体系材料等を挙げることができる。さらに、本発明の水素供給装置で使用可能な水素貯蔵材料Bの具体例としては、TiCrMn等に代表されるラーベス構造を持つ合金や、LaNi等に代表されるミッシュメタルを含む合金等を挙げることができる。
【0032】
2.燃料電池システム
図6は、本発明の燃料電池システムの形態例を簡略化して示す概念図である。図6に示すように、本発明の燃料電池システム10は、少なくとも上記水素貯蔵材料A及び水素貯蔵材料Bを収容した水素貯蔵手段1、及び、当該水素貯蔵手段1から取り出された水素が流通する水素流通手段2、を備える水素供給装置3と、当該水素供給装置3から取り出された水素が供給される燃料電池4と、を備え、燃料電池4には、図示されていない酸化剤供給手段を介して酸化剤(例えば、空気等)が供給される。本発明の燃料電池システム10が燃料電池車に搭載されると、燃料電池車の運転状態に応じて、燃料電池4で消費される水素量が変動し得る。ところが、上述のように、本発明の水素供給装置3の水素貯蔵手段1には、水素吸蔵量が多く水素放出速度が小さい水素貯蔵材料Aに加えて、水素貯蔵材料Bが収容されている。そのため、燃料電池システム10によれば、燃料電池車が低負荷状態で運転される場合のみならず、高負荷状態で運転される場合であっても、長期間に亘って、燃料電池4で必要とされる水素を供給することができる。したがって、本発明によれば、水素吸蔵量が多く、水素放出速度が小さい水素貯蔵材料Aが備えられていても、必要とされる水素放出量を長期間に亘って確保することが可能な、燃料電池システム10を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明にかかる水素供給装置の水素貯蔵手段に収容される、水素貯蔵材料AのPCT曲線、及び、水素貯蔵材料BのPCT曲線の形態例を示す概念図である。
【図2】水素貯蔵手段の圧力と水素貯蔵材料の水素吸放出特性との関係を示す概念図である。
【図3】水素貯蔵手段の圧力と水素貯蔵材料の水素吸放出特性との関係を示す概念図である。
【図4】水素貯蔵手段の圧力と水素貯蔵材料の水素吸放出特性との関係を示す概念図である。
【図5】水素貯蔵手段の圧力と水素貯蔵材料の水素吸放出特性との関係を示す概念図である。
【図6】本発明の燃料電池システムの形態例を示す概念図である。
【符号の説明】
【0034】
1…水素貯蔵手段
2…水素流通手段
3…水素供給装置
10…燃料電池システム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも第1の水素貯蔵材料及び第2の水素貯蔵材料を収容した、水素貯蔵手段を具備し、
前記第2の水素貯蔵材料の水素吸蔵圧は、前記第1の水素貯蔵材料の水素放出圧よりも低く、かつ、前記第2の水素貯蔵材料の水素放出速度は、前記第1の水素貯蔵材料の水素放出速度よりも大きいことを特徴とする、水素供給装置。
【請求項2】
前記第1の水素貯蔵材料及び前記第2の水素貯蔵材料が、同一容器に収容されていることを特徴とする、請求項1に記載の水素供給装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の水素供給装置と、該水素供給装置から取り出された水素が供給される燃料電池と、を備えることを特徴とする、燃料電池システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−127787(P2009−127787A)
【公開日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−305248(P2007−305248)
【出願日】平成19年11月27日(2007.11.27)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】