説明

水素分離膜、水素分離膜−電解質膜接合体および燃料電池ならびにそれらの製造方法

【課題】 水素分離膜と電解質膜との接触面積を確保することができる水素分離膜、水素分離膜−電解質膜接合体および燃料電池ならびにそれらの製造方法を提供する。
【解決手段】 水素分離膜(100)は、水素透過性を有する水素分離膜(100)であって、水素透過性を有する第1線材(10)を含む金属網を備えることを特徴とするものである。本発明に係る水素分離膜(100)は、複数の第1線材(10)を含む金属網を備えることから、水素分離膜(100)の表面には凹凸が形成される。それにより、水素分離膜(100)上に形成される電解質膜と水素分離膜(100)との接触面積が増加する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素分離膜、水素分離膜−電解質膜接合体および燃料電池ならびにそれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、一般的には水素および酸素を燃料として電気エネルギを得る装置である。この燃料電池は、環境面において優れており、また高いエネルギ効率を実現できることから、今後のエネルギ供給システムとして広く開発が進められてきている。
【0003】
燃料電池のうち固体の電解質を用いたものには、固体高分子型燃料電池、固体酸化物型燃料電池、水素分離膜電池等がある。ここで、水素分離膜電池とは、緻密な水素分離膜を備えた燃料電池である。緻密な水素分離膜は水素透過性を有する金属によって形成される層であり、アノードとしても機能する。水素分離膜電池は、この水素分離膜上にプロトン伝導性を有する電解質膜が積層された構造をとっている。水素分離膜に供給された水素はプロトンに変換され、プロトン伝導性の電解質中を移動し、カソードにおいて酸素と結合して発電が行われる。
【0004】
水素分離膜電池は、水素分離膜の上に電解質膜を成膜する方法により製造される。このとき、水素分離膜の電解質膜が成膜される面を研磨した後に電解質膜を成膜する(例えば、特許文献1参照)。この場合、水素分離膜表面の酸化物を除去することができる。
【0005】
【特許文献1】特開2005−327586号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1の技術では、水素分離膜の研磨面の凹凸が減る。それにより、水素分離膜と電解質膜との界面接触面積が小さくなる。その結果、発電性能が低下するといった問題が生じる。
【0007】
本発明は、水素分離膜と電解質膜との接触面積を確保することができる水素分離膜、水素分離膜−電解質膜接合体および燃料電池ならびにそれらの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る水素分離膜は、水素透過性を有する水素分離膜であって、水素透過性を有する第1線材を含む金属網を備えることを特徴とするものである。本発明に係る水素分離膜は、複数の第1線材を含む金属網を備えることから、水素分離膜の表面には凹凸が形成される。この場合、水素分離膜の表面積が増加する。それにより、水素分離膜上に形成される電解質膜と水素分離膜との接触面積が増加する。
【0009】
上記構成において、金属網は、第1線材と異なる物性を有する第2線材を含むものであってもよい。上記構成において、第2線材は、第1線材の引張り強さよりも大きい引張り強さを有するものであってもよい。この構成によれば、水素分離膜の引っ張り強さが向上する。上記構成において、第2線材は、第1線材の熱膨張係数よりも小さい熱膨張係数を有するものであってもよい。この構成によれば、水素分離膜の熱膨張を抑制することができる。上記構成において、第2線材は、第1線材の水素膨張係数よりも小さい水素膨張係数を有するものであってもよい。この構成によれば、水素分離膜の水素膨張が抑制される。
【0010】
上記構成において、第1線材は、芯材と水素透過性を有する被覆材とからなるものであってもよい。上記構成において、被覆材は、芯材と異なる物性を有するものであってもよい。上記構成において、芯材は、被覆材の引張り強さよりも大きい引張り強さを有するものであってもよい。この構成によれば、水素分離膜の引っ張り強さが向上する。上記構成において、芯材は、被覆材の熱膨張係数よりも小さい熱膨張係数を有するものであってもよい。この構成によれば、水素分離膜の熱膨張が抑制される。上記構成において、芯材は、被覆材の水素膨張係数よりも小さい水素膨張係数を有するものであってもよい。この構成によれば、水素分離膜の水素膨張が抑制される。
【0011】
本発明に係る水素分離膜−電解質膜接合体は、請求項1〜10のいずれかに記載の水素分離膜と、水素分離膜上に設けられ、プロトン伝導性を有する電解質膜とを備えることを特徴とするものである。本発明に係る水素分離膜−電解質膜接合体においては、水素分離膜の表面積が増加する。この場合、水素分離膜上に形成される電解質膜と水素分離膜との接触面積が増加する。それにより、水素分離膜と電解質膜とのプロトン変換効率が向上する。
【0012】
本発明に係る燃料電池は、請求項11に記載の水素分離膜−電解質膜接合体と、水素分離膜−電解質膜接合体の水素分離膜と反対側の面に設けられたカソードとを備えることを特徴とするものである。本発明に係る燃料電池においては、水素分離膜の表面積が増加する。この場合、水素分離膜上に形成される電解質膜と水素分離膜との接触面積が増加する。それにより、水素分離膜と電解質膜とのプロトン変換効率が向上する。その結果、発電性能を向上させることができる。
【0013】
本発明に係る水素分離膜の製造方法は、水素透過性を有する水素分離膜の製造方法であって、水素透過性を有する第1線材を含む金属網を形成する金属網形成工程を含むことを特徴とするものである。本発明に係る水素分離膜の製造方法においては、水素分離膜の表面に凹凸が形成される。この場合、水素分離膜の表面積が増加する。それにより、水素分離膜上に形成される電解質膜と水素分離膜との接触面積が増加する。
【0014】
上記製造方法において、金属網形成工程は、第1線材を含む複数の線材を平畳織りする工程であってもよい。上記製造方法において、金属網形成工程は、第1線材を含む複数の線材を平織りする工程であってもよい。上記製造方法において、金属網形成工程は、第1線材を含む複数の線材をむしろ織りする工程であってもよい。
【0015】
上記製造方法において、金属網は、第1線材と異なる物性を有する第2線材を含むものであってもよい。上記製造方法において、第2線材は、第1線材の引張り強さよりも大きい引張り強さを有するものであってもよい。この構成によれば、引っ張り強さの強い水素分離膜を製造することができる。上記製造方法において、第2線材は、第1線材の熱膨張係数よりも小さい熱膨張係数を有するものであってもよい。この構成によれば、熱膨張を抑制することができる水素分離膜を製造することができる。上記製造方法において、第2線材は、第1線材の水素膨張係数よりも小さい水素膨張係数を有するものであってもよい。この構成によれば、水素膨張を抑制することができる水素分離膜を製造することができる。
【0016】
上記製造方法において、第1線材は、芯材と水素透過性を有する被覆材とからなるものであってもよい。上記製造方法において、被覆材は、芯材と異なる物性を有するものであってもよい。上記製造方法において、芯材は、被覆材の引張り強さよりも大きい引張り強さを有するものであってもよい。この構成によれば、引っ張り強さの強い水素分離膜を製造することができる。上記製造方法において、芯材は、被覆材の熱膨張係数よりも小さい熱膨張係数を有するものであってもよい。この構成によれば、熱膨張を抑制することができる水素分離膜を製造することができる。上記製造方法において、芯材は、被覆材の水素膨張係数よりも小さい水素膨張係数を有するものであってもよい。この構成によれば、水素膨張を抑制することができる水素分離膜を製造することができる。
【0017】
本発明に係る水素分離膜−電解質膜接合体の製造方法は、請求項13〜25のいずれかに記載の製造方法により製造された水素分離膜上に、プロトン伝導性を有する電解質膜を成膜する電解質膜成膜工程を含むことを特徴とするものである。本発明に係る水素分離膜−電解質膜接合体の製造方法においては、水素分離膜の表面に凹凸が形成される。この場合、水素分離膜の表面積が増加する。それにより、水素分離膜上に形成される電解質膜と水素分離膜との接触面積が増加する。その結果、水素分離膜と電解質膜とのプロトン変換効率が向上する。
【0018】
上記製造方法において、金属網形成工程と電解質膜成膜工程との間に、金属網の電解質膜が成膜される面に水素透過性層を形成する工程をさらに含むものであってもよい。この構成によれば、電解質膜に欠陥が生じることを抑制することができる。
【0019】
本発明に係る燃料電池の製造方法は、請求項27に記載の水素分離膜−電解質膜接合体の製造方法により製造された水素分離膜−電解質膜接合体の水素分離膜と反対側の面に、カソードを形成する工程を含むことを特徴とするものである。本発明に係る燃料電池の製造方法においては、水素分離膜の表面に凹凸が形成される。この場合、水素分離膜の表面積が増加する。それにより、水素分離膜上に形成される電解質膜と水素分離膜との接触面積が増加し、水素分離膜と電解質膜とのプロトン変換効率が向上する。その結果、発電性能を向上させることができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、水素分離膜と電解質膜との接触面積を確保することができる水素分離膜、水素分離膜−電解質膜接合体および燃料電池ならびにそれらの製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明を実施するための最良の形態を説明する。
【実施例1】
【0022】
図1(a)および図1(b)は、本発明の第1実施例に係る水素分離膜100を示した模式図である。図1(a)は水素分離膜100の平面図であり、図1(b)は図1(a)のA−A線断面図である。図1(a)および図1(b)に示すように、水素分離膜100は、複数の第1線材10が平畳織りされた金属網構造を有する。ここで、平畳織りとは、縦線と横線とが一本ずつ相互に交わっており、かつ、縦線または横線のいずれかが互いに相接して並んだもので、畳表のような織り方をいう。
【0023】
第1線材10は、水素を選択的に透過する水素透過性金属からなる。それにより、水素分離膜100も水素透過性を有する。第1線材10を構成する材料は、水素透過性を有していれば特に限定されるものではない。第1線材10としては、例えば、Pd(パラジウム)、V(バナジウム)、Ta(タンタル)、Nb(ニオブ)等の金属、または、これらの合金等を用いることができる。本実施例においては、第1線材10としてPdを用いる。第1線材10の線径は、特に限定されないが、10μm〜30μm程度である。この場合、水素分離膜100の膜厚は、30μm〜90μm程度になる。
【0024】
本実施例に係る水素分離膜100においては複数の第1線材10が平畳織りされていることから、水素分離膜100の表面には凹凸が形成される。この場合、水素分離膜100の表面積が増加する。それにより、水素分離膜100上に形成される電解質膜と水素分離膜100との接触面積が増加する。その結果、水素分離膜100と電解質膜との剥離強度が向上するとともに、プロトン変換効率が向上する。
【0025】
ここで、圧延によって形成された水素分離膜の表面を研磨すると、研磨面に局所的に大きい凹凸または尖った凸部が形成されることがある。これに比較して、本実施例に係る水素分離膜100の表面には、平畳織りによって略均一で滑らかな凹凸が形成される。この場合、電解質膜に局所的な応力がかかることを抑制することができる。それにより、電解質膜の割れ、剥離等を抑制することができる。また、水素分離膜100が複数の第1線材10から構成されることから、熱膨張、水素膨張等に起因する歪は、各第1線材10に分散される。
【0026】
また、カソード側とアノード側との短絡を抑制するためには、上記凹凸が覆われるような電解質膜を成膜することが好ましい。この場合、局所的に大きい凹凸があると電解質膜の膜厚を大きくしなければならないが、本実施例においては電解質膜の膜厚を小さくすることができる。
【0027】
なお、複数の第1線材10の線径は、略同一であることが好ましい。水素分離膜100の表面の凹凸が均一化されるからである。また、第1線材10の断面は、円形に限られず、楕円形、矩形等の他の形状であってもよい。また、平畳織りによる方法においては、縦線または横線のいずれかが互いに相接するため、線材同士の隙間が小さくなる。
【0028】
(変形例1)
続いて、本実施例の変形例1について説明する。図2(a)および図2(b)は、本実施例の変形例1に係る水素分離膜100aを示した模式図である。図2(a)は水素分離膜100aの平面図であり、図2(b)は図2(a)のB−B線断面図である。図2(a)および図2(b)に示すように、水素分離膜100aは、第1線材10が平織りされた金属網構造を有する。ここで、平織りとは、縦線と横線とが一本ずつ交互に交わった織り方のことをいう。その他の構成は、図1(a)および図1(b)と同じであるため、説明を省略する。
【0029】
変形例1に係る水素分離膜100aにおいても、水素分離膜100aの表面には凹凸が形成されるため、水素分離膜100aの表面積が増加する。また、水素分離膜100aの表面には、平織りによって略均一な凹凸が形成されるため、水素分離膜100a上に形成される電解質膜に局所的な応力がかかることを抑制することができる。さらに、水素分離膜100aが複数の第1線材10から構成されることから、熱膨張、水素膨張等に起因する歪は、各第1線材10に分散される。また、カソード側とアノード側との短絡を抑制しつつ電解質膜を薄膜化することができる。
【0030】
(変形例2)
続いて、本実施例の変形例2について説明する。図3(a)および図3(b)は、本実施例の変形例2に係る水素分離膜100bを示した模式図である。図3(a)は水素分離膜100bの平面図であり、図3(b)は図3(a)のC−C線断面図である。図3(a)および図3(b)に示すように、水素分離膜100bは、第1線材10がむしろ織りされた金属網構造を有する。ここで、むしろ織りとは、第1線材10を数本ずつ一括して織ったむしろ状の織り方をいう。その他の構成は、図1(a)および図1(b)と同じであるため、説明を省略する。
【0031】
変形例2に係る水素分離膜100bにおいても、水素分離膜100bの表面には凹凸が形成されるため、水素分離膜100bの表面積が増加する。また、水素分離膜100bの表面には、むしろ織りによって略均一な凹凸が形成されるため、水素分離膜100b上に形成される電解質膜に局所的な応力がかかることを抑制することができる。さらに、水素分離膜100bが複数の第1線材10から構成されることから、熱膨張、水素膨張等に起因する歪は、各第1線材10に分散される。また、カソード側とアノード側との短絡を抑制しつつ電解質膜を薄膜化することができる。
【0032】
(変形例3)
続いて、本実施例の変形例3について説明する。図4(a)および図4(b)は、本実施例の変形例3に係る水素分離膜100cを示した模式図である。図4(a)は水素分離膜100cの平面図であり、図4(b)は図4(a)のD−D線断面図である。図4(a)および図4(b)に示すように、水素分離膜100cは、複数の第1線材10と複数の第2線材20とが平畳織りされた金属網構造を有する。第2線材20は、第1線材10と異なる物性を有する線材からなる。その他の構成は、図1(a)および図1(b)と同じであるため、説明を省略する。
【0033】
例えば、第2線材20は、第1線材10に比較して引っ張り強さの大きい線材からなる。第1線材10がPdからなる場合、第2線材20として、ステンレス(SUS)等を用いることができる。この場合、水素分離膜100cの引っ張り強さが向上する。例えば、第2線材20は1〜数本おきに織りこまれている。
【0034】
また、第2線材20は、第1線材10に比較して引っ張り強さが大きく、かつ、水素透過性を有するものであってもよい。例えば、第1線材10がPdからなる場合、第2線材20は、Pdと銀(Ag)、ロジウム(Rh)、白金(Pt)等との合金、PdとPtと金(Au)との合金、PdとAuとPtとRhとの合金等が用いられる。この場合、第2線材20は水素透過性を有するため、水素分離膜100cの引っ張り強さが向上するとともに、水素分離膜100cの水素透過性を確保することができる。
【0035】
また、第2線材20は、第1線材10に比較して小さい熱膨張係数を有するものであってもよい。例えば、第1線材10がPdからなる場合、第2線材20としてSUS等を用いることができる。この場合、水素分離膜100cの熱膨張を抑制することができる。それにより、水素分離膜100c上に成膜される電解質膜の割れ、剥離等を抑制することができる。
【0036】
また、第2線材20は、第1線材10に比較して小さい水素膨張係数を有するものであってもよい。例えば、第1線材10がPdからなる場合、第2線材20として、PdとAu、Pt、Rh等との合金、SUS等を用いることができる。この場合、水素分離膜100cの水素膨張を抑制することができる。
【0037】
なお、変形例3において、水素分離膜100cは、複数の第1線材10と複数の第2線材20とが、平織り、むしろ織り等の他の織り方で織られた金属網構造を有するものであってもよい。
【0038】
(変形例4)
続いて、本実施例の変形例4について説明する。図5(a)および図5(b)は、本実施例の変形例4に係る水素分離膜100dを示した模式図である。図5(a)は水素分離膜100dの平面図であり、図5(b)は図5(a)のE−E線断面図である。図5(a)および図5(b)に示すように、水素分離膜100dは、複数の第1線材10dが平畳織りされた金属網構造を有する。その他の構成は、図1(a)および図1(b)と同じであるため、説明を省略する。
【0039】
ここで、第1線材10dの断面図を図6に示す。図6に示すように、第1線材10dは、芯材30および被覆材35からなる。芯材30の外周は、被覆材35で被覆されている。被覆材35は、水素透過性金属からなる。被覆材35としては、例えばPd、V、Ta、Nb等の金属、または、これらの合金等を用いることができる。変形例4においては、被覆材35としてPdを用いる。被覆材35は、芯材30の外周に、メッキ等によってコーティングすることにより形成される。芯材30は、被覆材35と異なる物性を有する材料からなる。芯材30の線径は、特に限定されないが、10μm〜30μm程度である。また、被覆材35の厚みは、特に限定されないが、1μm〜5μm程度である。
【0040】
芯材30は、被覆材35よりも引っ張り強さの大きいものであってもよい。例えば、被覆材35がPdからなる場合、芯材30としてSUS等を用いることができる。この場合、水素分離膜100dの引っ張り強さが向上する。また、SUSはPdよりも安価であるため、水素分離膜100dの製造コストを低減することができる。
【0041】
また、芯材30は、被覆材35に比較して引っ張り強さが大きく、かつ、水素透過性を有するものであってもよい。例えば、被覆材35がPdからなる場合、芯材30として、PdとAg、Rh、Pt等との合金、PdとPtとAuとの合金、PdとAuとPtとRhとの合金等を用いることができる。この場合、水素分離膜100dの引っ張り強さが向上するとともに、水素分離膜100dの水素透過性を確保することができる。
【0042】
また、芯材30は、被覆材35よりも小さい熱膨張係数を有するものであってもよい。例えば、被覆材35がPdからなる場合、芯材30としてSUS等を用いることができる。この場合、水素分離膜100dの熱膨張を抑制することができる。それにより、水素分離膜100d上に成膜される電解質膜の割れ、剥離等を抑制することができる。
【0043】
また、芯材30は、被覆材35よりも小さい水素膨張係数を有するものであってもよい。例えば、被覆材35がPdからなる場合、芯材30としてSUS、あるいは、PdとAu、Pt、Rh等との合金が用いられる。この場合、水素分離膜100dの水素膨張を抑制することができる。
【0044】
また、芯材30は、被覆材35よりも高い水素透過性を有するものであってもよい。例えば、被覆材35がPdからなる場合、芯材30としてVを用いることができる。Vは、Pdよりも水素透過性が高く、かつ安価である。したがって、水素分離膜100dの水素透過性が向上するとともに、製造コストが低減される。また、Pdは耐酸化性を有することから、Vの酸化を抑制することができる。
【0045】
また、水素分離膜100dは、図4(a)および図4(b)に示した水素分離膜100cにおいて、第1線材10の代わりに第1線材10dを有するものであってもよい。あるいは、第2線材20の代わりに第1線材10dを有するものであってもよい。また、水素分離膜100dは、複数の第1線材10dが平織りあるいはむしろ織りされた金属網構造を有するものであってもよい。
【実施例2】
【0046】
続いて、本発明の第2実施例に係る水素分離膜−電解質膜接合体150について説明する。図7は、水素分離膜−電解質膜接合体150の模式的断面図である。図7に示すように、水素分離膜−電解質膜接合体150は、実施例1に係る水素分離膜100と、水素分離膜100上に設けられた電解質膜120とを備える。
【0047】
電解質膜120は、プロトン伝導性を有する電解質からなる。電解質膜120は、特に限定されないが、例えばSrZr(1−x)In(Sr:ストロンチウム、Zr:ジルコニウム、In:インジウム)のようなAB(1−x)構造を有するペロブスカイト構造を有する電解質を電解質膜120として用いることができる。また、電解質膜120の膜厚は、特に限定されないが、例えば1μm程度である。その他の構成は実施例1と同じであるため、説明を省略する。
【0048】
本実施例における水素分離膜−電解質膜接合体150においては、水素分離膜100の表面には凹凸が形成されるため、水素分離膜100の表面積が増加する。それにより、水素分離膜100上に形成される電解質膜120と水素分離膜100との接触面積が増加する。その結果、水素分離膜100と電解質膜120との剥離強度が向上するとともに、プロトン変換効率が向上する。また、水素分離膜100の表面には、平織りによって略均一な凹凸が形成されるため、電解質膜120に局所的な応力がかかることを抑制することができる。それにより、電解質膜120の割れ、剥離等を抑制することができる。さらに、水素分離膜100が複数の第1線材10から構成されることから、熱膨張、水素膨張等に起因する歪は、各第1線材10に分散される。また、カソード側とアノード側との短絡を防止しつつ電解質膜120を薄膜化することができる。
【0049】
なお、水素分離膜100の代わりに、実施例1の変形例1〜変形例4に示した水素分離膜100a,100b,100c,100dのいずれかを用いてもよい。
【実施例3】
【0050】
続いて、本発明の第3実施例に係る燃料電池200について説明する。図8は、燃料電池200の模式的断面図である。図8に示すように、燃料電池200は、図7に示した実施例2に係る水素分離膜−電解質膜接合体150と、水素分離膜−電解質膜接合体150の水素分離膜100と反対側の面に形成されたカソード140とを備える。カソード140は、酸素とプロトンとの反応を促進するための触媒として機能する。カソード140としては、例えば、La0.6Sr0.4CoO、La0.5Sr0.5MnO、La0.5Sr0.5FeO等のセラミックスを用いることができる。本実施例においては、水素分離膜100は、電解質膜120を支持および補強する支持体として機能するとともに、燃料ガスが供給されるアノードとしても機能する。その他の構成は、図7に示した水素分離膜−電解質膜接合体150と同じであるため、説明を省略する。
【0051】
続いて、燃料電池200の動作について説明する。燃料電池200では、まず、水素を含有する燃料ガスが水素分離膜100に供給される。燃料ガス中の水素は、水素分離膜100を透過して電解質膜120に到達する。電解質膜120に到達した水素は、プロトンと電子とに解離する。プロトンは、電解質膜120を伝導し、カソード140に到達する。一方、酸素を含有する酸化剤ガスは、カソード140に供給される。カソード140においては、酸化剤ガス中の酸素とカソード140に到達したプロトンとから、水が発生するとともに、電力が発生する。以上の動作により、燃料電池200による発電が行われる。
【0052】
燃料電池200においては、水素分離膜100と電解質膜120とのプロトン変換効率が向上することから、電流密度が増加する。また、電解質膜120を薄膜化することができることから、内部抵抗を低下させることができる。さらに、電解質膜120の割れ、剥離等を抑制することができることから、発電性能低下を抑制することができる。
【0053】
なお、本実施例において、水素分離膜100の代わりに、実施例1の変形例1〜変形例4に係る水素分離膜100a,100b,100c,100dのいずれかを用いてもよい。
【0054】
(製造方法)
続いて、水素分離膜100、水素分離膜−電解質膜接合体150および燃料電池200の製造方法について説明する。図9(a)〜図9(c)および図10(a)〜図10(d)は、水素分離膜100、水素分離膜−電解質膜接合体150および燃料電池200の製造方法を示した模式図である。なお、実施例1〜実施例3に示した部材と同じ部材には同じ記号を付し、説明を省略する。
【0055】
まず、図9(a)に示すように、水素透過性金属からなる第1線材10を準備する。第1線材10は、市販品を購入してもよく、製造してもよい。なお、第1線材10は、例えば、水素透過性金属を押し出し加工することにより製造することができる。次に、図9(b)に示すように、複数の第1線材10を平畳織りすることにより金属網を形成する。これにより、水素分離膜100が完成する。図9(c)に、水素分離膜100の模式的断面図を示す。
【0056】
次に、図10(a)に示すように、水素分離膜100上に、電解質膜120を成膜する。この場合、物理蒸着(PVD)、化学蒸着(CVD)等の方法を用いることができる。これにより水素分離膜−電解質膜接合体150が完成する。図10(b)に、水素分離膜−電解質膜接合体150の模式的断面図を示す。
【0057】
次に、図10(c)に示すように、水素分離膜−電解質膜接合体150の水素分離膜100と反対側の面に、カソード140を形成する。この場合、スクリーン印刷法等の方法を用いることができる。これにより、燃料電池200が完成する。図10(d)に、燃料電池200の模式的断面図を示す。
【0058】
上記製造方法によれば、水素分離膜100の表面に凹凸が形成されるため、水素分離膜100の表面積が増加する。それにより、水素分離膜100上に形成される電解質膜120と水素分離膜100との接触面積が増加する。その結果、水素分離膜100と電解質膜120との剥離強度が向上するとともに、プロトン変換効率が向上する。また、水素分離膜100の表面には、平畳織りによって略均一な凹凸が形成されるため、電解質膜120に局所的な応力がかかることを抑制することができる。それにより、電解質膜120の割れ、剥離等を抑制することができる。さらに、水素分離膜100が複数の第1線材10から構成されることから、熱膨張、水素膨張等に起因する歪は、各第1線材10に分散される。また、カソード側とアノード側との短絡を防止しつつ電解質膜120を薄膜化することができる。
【0059】
なお、図9(b)に示す金属網を形成する工程において、第1線材10を平畳織りする代わりに、図2に示したように第1線材10を平織りしてもよく、あるいは図3に示したように第1線材10をむしろ織りしてもよい。また、図9(b)に示す金属網を形成する工程は、図4に示したように第1線材10の他に第2線材20を1〜数本おきに織り込むものであってもよい。
【0060】
また、金属網を形成する工程は、第1線材10の代わりに、図6に示したような第1線材10dを用いてもよい。
【0061】
(他の製造方法)
上記製造方法において、図9(b)に示す金属網を形成する工程と、図10(a)に示す電解質膜を成膜する工程との間に、水素透過性層を形成する工程を行ってもよい。以下に、水素透過性層を形成する工程を備える水素分離膜−電解質膜接合体150aおよび燃料電池200aの製造方法について説明する。図11(a)、図11(b)および図12(a)〜図12(d)は、水素分離膜−電解質膜接合体150aおよび燃料電池200aの製造方法を示した模式図である。なお、実施例1〜実施例3に示した部材と同じ部材には同じ記号を付し、説明を省略する。
【0062】
まず、図9(a)〜図9(c)に示した製造方法で水素分離膜100を製造する。次に、図11(a)に示すように、水素透過性層130を水素分離膜100の電解質膜120が成膜される面に形成する。水素透過性層130は、水素透過性を有する物質であれば特に限定されないが、例えばPdあるいはPd合金からなる。水素透過性層130の成層方法としては、例えばPVD、CVD等の方法を用いることができる。水素透過性層130の層厚は特に限定されないが、例えば1μm〜5μm程度である。図11(b)に水素分離膜100上に水素透過性層130が形成された状態の模式的断面図を示す。
【0063】
次に、図12(a)に示すように、水素分離膜100上に電解質膜120を成膜する。これにより水素分離膜−電解質膜接合体150aが完成する。図12(b)に、水素分離膜−電解質膜接合体150aの模式的断面図を示す。次に、図12(c)に示すように、水素分離膜−電解質膜接合体150aの水素分離膜100と反対側の面に、カソード140を形成する。これにより、燃料電池200aが完成する。図12(d)に、燃料電池200aの模式的断面図を示す。
【0064】
上記製造方法によれば、水素分離膜100に隙間が生じていた場合であっても、水素透過性層130によって隙間が閉塞される。それにより、図12(a)の工程において電解質膜120に欠陥が生じることを抑制することができる。その結果、水素分離膜100とカソード140との短絡を抑制することができる。
【0065】
なお、実施例1〜実施例4において、水素分離膜は、水素分離膜上の凹凸が略均一となる織り方であれば、平畳織り、平織りおよびむしろ織り以外の織り方であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】本発明の第1実施例に係る水素分離膜の模式図である。
【図2】本発明の第1実施例の変形例1に係る水素分離膜の模式図である。
【図3】本発明の第1実施例の変形例2に係る水素分離膜の模式図である。
【図4】本発明の第1実施例の変形例3に係る水素分離膜の模式図である。
【図5】本発明の第1実施例の変形例4に係る水素分離膜の模式図である。
【図6】本発明の第1実施例の変形例4に係る第1線材の模式的断面図である。
【図7】本発明の第2実施例に係る水素分離膜−電解質膜接合体の模式的断面図である。
【図8】本発明の第3実施例に係る燃料電池の模式的断面図である。
【図9】本発明に係る水素分離膜、水素分離膜−電解質膜接合体および燃料電池の製造方法の模式図である。
【図10】本発明に係る水素分離膜、水素分離膜−電解質膜接合体および燃料電池の製造方法の模式図である。
【図11】本発明に係る水素分離膜、水素分離膜−電解質膜接合体および燃料電池の他の製造方法の模式図である。
【図12】本発明に係る水素分離膜、水素分離膜−電解質膜接合体および燃料電池の他の製造方法の模式図である。
【符号の説明】
【0067】
10 第1線材
20 第2線材
30 芯材
35 被覆材
100 水素分離膜
120 電解質膜
140 カソード
150 水素分離膜−電解質膜接合体
200 燃料電池

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素透過性を有する水素分離膜であって、
水素透過性を有する第1線材を含む金属網を備えることを特徴とする水素分離膜。
【請求項2】
前記金属網は、前記第1線材と異なる物性を有する第2線材を含むことを特徴とする請求項1記載の水素分離膜。
【請求項3】
前記第2線材は、前記第1線材の引張り強さよりも大きい引張り強さを有することを特徴とする請求項2記載の水素分離膜。
【請求項4】
前記第2線材は、前記第1線材の熱膨張係数よりも小さい熱膨張係数を有することを特徴とする請求項2記載の水素分離膜。
【請求項5】
前記第2線材は、前記第1線材の水素膨張係数よりも小さい水素膨張係数を有することを特徴とする請求項2記載の水素分離膜。
【請求項6】
前記第1線材は、芯材と水素透過性を有する被覆材とからなることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の水素分離膜。
【請求項7】
前記被覆材は、前記芯材と異なる物性を有することを特徴とする請求項6記載の水素分離膜。
【請求項8】
前記芯材は、前記被覆材の引張り強さよりも大きい引張り強さを有することを特徴とする請求項7記載の水素分離膜。
【請求項9】
前記芯材は、前記被覆材の熱膨張係数よりも小さい熱膨張係数を有することを特徴とする請求項7記載の水素分離膜。
【請求項10】
前記芯材は、前記被覆材の水素膨張係数よりも小さい水素膨張係数を有することを特徴とする請求項7記載の水素分離膜。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれかに記載の水素分離膜と、
前記水素分離膜上に設けられ、プロトン伝導性を有する電解質膜とを備えることを特徴とする水素分離膜−電解質膜接合体。
【請求項12】
請求項11に記載の水素分離膜−電解質膜接合体と、
前記水素分離膜−電解質膜接合体の、前記水素分離膜と反対側の面に設けられたカソードとを備えることを特徴とする燃料電池。
【請求項13】
水素透過性を有する水素分離膜の製造方法であって、
水素透過性を有する第1線材を含む金属網を形成する金属網形成工程を含むことを特徴とする水素分離膜の製造方法。
【請求項14】
前記金属網形成工程は、前記第1線材を含む複数の線材を平畳織りする工程であることを特徴とする請求項13記載の水素分離膜の製造方法。
【請求項15】
前記金属網形成工程は、前記第1線材を含む複数の線材を平織りする工程であることを特徴とする請求項13記載の水素分離膜の製造方法。
【請求項16】
前記金属網形成工程は、前記第1線材を含む複数の線材をむしろ織りする工程であることを特徴とする請求項13記載の水素分離膜の製造方法。
【請求項17】
前記金属網は、前記第1線材と異なる物性を有する第2線材を含むことを特徴とする請求項13〜16のいずれかに記載の水素分離膜の製造方法。
【請求項18】
前記第2線材は、前記第1線材の引張り強さよりも大きい引張り強さを有することを特徴とする請求項17記載の水素分離膜の製造方法。
【請求項19】
前記第2線材は、前記第1線材の熱膨張係数よりも小さい熱膨張係数を有することを特徴とする請求項17記載の水素分離膜の製造方法。
【請求項20】
前記第2線材は、前記第1線材の水素膨張係数よりも小さい水素膨張係数を有することを特徴とする請求項17記載の水素分離膜の製造方法。
【請求項21】
前記第1線材は、芯材と水素透過性を有する被覆材とからなることを特徴とする請求項13〜20のいずれかに記載の水素分離膜の製造方法。
【請求項22】
前記被覆材は、前記芯材と異なる物性を有することを特徴とする請求項21記載の水素分離膜の製造方法。
【請求項23】
前記芯材は、前記被覆材の引張り強さよりも大きい引張り強さを有することを特徴とする請求項22記載の水素分離膜の製造方法。
【請求項24】
前記芯材は、前記被覆材の熱膨張係数よりも小さい熱膨張係数を有することを特徴とする請求項22記載の水素分離膜の製造方法。
【請求項25】
前記芯材は、前記被覆材の水素膨張係数よりも小さい水素膨張係数を有することを特徴とする請求項22記載の水素分離膜の製造方法。
【請求項26】
請求項13〜25のいずれかに記載の製造方法により製造された水素分離膜上に、プロトン伝導性を有する電解質膜を成膜する電解質膜成膜工程を含むことを特徴とする水素分離膜−電解質膜接合体の製造方法。
【請求項27】
前記金属網形成工程と前記電解質膜成膜工程との間に、前記金属網の前記電解質膜が成膜される面に水素透過性層を形成する工程をさらに含むことを特徴とする請求項26記載の水素分離膜−電解質膜接合体の製造方法。
【請求項28】
請求項27に記載の水素分離膜−電解質膜接合体の製造方法により製造された前記水素分離膜−電解質膜接合体の前記水素分離膜と反対側の面に、カソードを形成する工程を含むことを特徴とする燃料電池の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2008−149286(P2008−149286A)
【公開日】平成20年7月3日(2008.7.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−341623(P2006−341623)
【出願日】平成18年12月19日(2006.12.19)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】