説明

水素化脱金属の触媒及び方法

本発明は、アルミノケイ酸マグネシウム粘土を用いた水素化脱金属触媒及び水素化脱金属法を対象とする。アルミノケイ酸マグネシウム粘土は、特徴的な29Si NMRスペクトルを有する。アルミノケイ酸マグネシウム粘土は、一連の特異な反応ステップの生成物である。手短に言うと、本発明の触媒及び方法で用いられるアルミノケイ酸マグネシウム粘土は、酸性pHの水性条件下で、ケイ素成分、アルミニウム成分及びマグネシウム成分を一緒にして、第1の反応混合物を形成し、続いて第1の反応混合物のpHを約7.5超に調整して、第2の反応混合物を形成する。第2の反応混合物を、アルミノケイ酸マグネシウム粘土の形成に十分な条件下で反応させる。生成したアルミノケイ酸マグネシウム粘土は、水素化脱金属の触媒及び方法に使用するための高い表面積及び活性を併有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、「アルミノケイ酸マグネシウム粘土を用いた水素化分解の触媒及び方法(Hydrocracking catalyst and process using a magnesium aluminosilicate clay)」及び「アルミノケイ酸マグネシウム粘土の合成及び触媒作用(Magnesium aluminosilicate clays− synthesis and catalysis)」と題し、その全体が本明細書に組み込まれる、併行出願した2つの特許出願に関係している。
【0002】
本発明は、アルミノケイ酸マグネシウム粘土を用いた水素化脱金属触媒及び水素化脱金属法を対象とする。
【背景技術】
【0003】
供給原料の重質化が進み、含まれるヘテロ原子量が増加するにつれ、こうした供給原料の品質を上げる新たな方法が重要となる。例えば、水素化脱金属の改良法を開発して、バナジウム、ニッケル及び他の金属を除去する必要がある。重質供給原料には、ガソリン、ディーゼル、ジェット燃料及び潤滑油等のより価値の高い製品を生産するために、水素化分解及び他の水素化処理も必要である。
【0004】
水素化脱金属触媒は、各種の成分を含むことができる。水素化脱金属触媒に使用できる一成分は、アルミノケイ酸マグネシウム粘土である。層状アルミノケイ酸マグネシウムは、八面体配位マグネシウム原子並びに四面体配位ケイ素及び/又はアルミニウム原子の交互層を含む、1種の粘土と表現することができる。アルミノケイ酸マグネシウム粘土は、陽イオンで均衡を取ることができる負の層電荷を有する。文献には、触媒又は触媒成分として使用されるアルミノケイ酸マグネシウム粘土の例が収載されている。
【0005】
粘土の合成は、特に大規模では困難になり得るが、粘土は、水素化処理反応に使用するために関心を引いてきた。例えば、米国特許第3,844,978号は、アルミノケイ酸マグネシウムの層状の2八面体の粘土様鉱物を開示している。この粘土は、触媒又は触媒組成物中の成分として使用することができる。
【0006】
米国特許第3,844,979号は、アルミノケイ酸マグネシウムの層状の3八面体粘土様鉱物、前記アルミノケイ酸マグネシウムを含む触媒組成物、及び前記アルミノケイ酸マグネシウムを用いた水素化処理法を開示している。
【0007】
米国特許第3,887,454号は、アルミノケイ酸マグネシウムの層状の2八面体粘土様鉱物を使用する水素化転換法を開示している。触媒組成物、並びにアルミノケイ酸マグネシウム及びVIII族金属などの水素化成分を含んだ触媒組成物を使用する水素化反応も、開示されている。
【0008】
米国特許第6,187,710号及び米国特許第6,565,643号は、合成膨潤性粘土鉱物、膨潤性粘土鉱物の作製法、及び炭化水素反応触媒としての前記膨潤性粘土鉱物の使用を開示している。米国特許第6,334,947号は、膨潤性粘土を含む触媒組成物、及び水素化処理反応における前記触媒組成物の使用を開示している。アルミノケイ酸マグネシウムは、米国特許第6,187,710号、米国特許第6,565,643号及び米国特許第6,334,947号に開示されている膨潤性粘土の例である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
水素化脱金属の触媒及び方法における触媒又は触媒組成物の成分として使用できる、特性の改良されたアルミノケイ酸マグネシウム粘土に対する必要性が存在する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本出願は、アルミノケイ酸マグネシウム粘土を含む水素化脱金属触媒であって、アルミノケイ酸マグネシウム粘土が、以下の工程:
a)第1の反応温度及び常圧の水性条件下で、(1)ケイ素成分、(2)アルミニウム成分、及び(3)マグネシウム成分を一緒にして、第1の反応混合物を形成する工程であって、前記第1の反応混合物のpHが酸性である工程と、
b)第1の反応混合物にアルカリ塩基を添加して、第1の反応混合物のpHより大きいpHを有する第2の反応混合物を形成する工程と、
c)第2の反応温度で、アルミノケイ酸マグネシウム粘土を含む生成物の形成に十分な時間、第2の反応混合物を反応させる工程と
を含む方法に従って合成される、水素化脱金属触媒を開示する。
【0011】
本発明の別の態様は、上記に示した工程で合成されるアルミノケイ酸マグネシウム粘土を含む水素化脱金属触媒であって、1種又は複数の触媒活性金属を更に含む水素化脱金属触媒である。特に有用な触媒活性金属は、VIB族及び/又はVIII族金属、特にコバルト、ニッケル、モリブデン及びタングステンである。
【0012】
本出願は、アルミノケイ酸マグネシウム粘土を含む水素化脱金属触媒組成物であって、前記アルミノケイ酸マグネシウム粘土が、3より大きいケイ素対アルミニウムの元素モル比を有し、アルミノケイ酸マグネシウム粘土の29Si NMRが、表1に示すようなピークを含む、水素化脱金属触媒組成物も開示する。
【表1】

【0013】
ある実施形態では、アルミノケイ酸マグネシウム粘土はメソポーラスである。
【0014】
本発明の別の態様は、水素化脱金属条件下の炭化水素性供給原料と、アルミノケイ酸マグネシウム粘土を含む触媒とを接触させる工程を含む水素化脱金属法であって、前記アルミノケイ酸マグネシウム粘土が、以下の工程:
a.第1の反応温度及び常圧の水性条件下で、(1)ケイ素成分、(2)アルミニウム成分、及び(3)マグネシウム成分を一緒にして、第1の反応混合物を形成する工程であって、前記第1の反応混合物のpHが酸性である工程と、
b.第1の反応混合物にアルカリ塩基を添加して、第1の反応混合物のpHより大きいpHを有する第2の反応混合物を形成する工程と、
c.第2の反応温度で、アルミノケイ酸マグネシウム粘土を含む生成物の形成に十分な時間、第2の反応混合物を反応させる工程と
を含む方法に従って合成される、水素化脱金属法である。
【0015】
別の実施形態では、本発明は、水素化脱金属条件下の炭化水素性供給原料と、少なくともアルミノケイ酸マグネシウム粘土を含む触媒とを接触させる工程を含む水素化脱金属法であって、アルミノケイ酸マグネシウム粘土が、3より大きいケイ素対アルミニウムの元素モル比を有し、アルミノケイ酸マグネシウム粘土の29Si NMRが、表1に示すようなピークを含む、水素化脱金属法である。
【表2】

【0016】
他の目的及び利点は、詳細な説明及び添付した特許請求の範囲から明らかになろう。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の水素化脱金属触媒は、アルミノケイ酸マグネシウム粘土を含む。アルミノケイ酸マグネシウム粘土は、以下の工程:
a)第1の反応温度及び常圧の水性条件下で、(1)ケイ素成分、(2)アルミニウム成分、及び(3)マグネシウム成分を一緒にして、第1の反応混合物を形成する工程であって、前記第1の反応混合物のpHが酸性である工程と、
b)第1の反応混合物にアルカリ塩基を添加して、第1の反応混合物のpHより大きいpHを有する第2の反応混合物を形成する工程と、
c)第2の反応温度で、アルミノケイ酸マグネシウム粘土を含む生成物の形成に十分な時間、第2の反応混合物を反応させる工程と
により調製される。
【0018】
次いで、アルミノケイ酸マグネシウム粘土は、イオン交換反応でアルカリ陽イオンを交換することにより、プロトン化形態へ転換することができる。一般に、アルカリ陽イオンはアンモニウム陽イオンに交換される。次いで、生成したアンモニウム置換アルミノケイ酸マグネシウム粘土は、焼成によりアンモニア除去され、アルミノケイ酸マグネシウム粘土のプロトン化形態を生じる。アルミノケイ酸マグネシウム粘土の焼成は、水素化脱金属触媒の形成の前、その間、又は後に行うことができる。上記の方法により合成したアルミノケイ酸マグネシウム粘土は、本発明の水素化脱金属触媒を形成するために、幾種もの他の成分と複合することができる。他の成分の例には、それだけに限らないが、ゼオライト、無機酸化物、活性金属、分子篩及び他の粘土が挙げられる。本発明の別の態様は、上記の触媒を用いた水素化脱金属法である。
【0019】
定義
本発明は、様々な改変及び代替形態を受入れ得るが、特定のその実施形態を本明細書で詳細に説明する。しかし、特定の実施形態の本明細書における説明は、開示した特定の形態に本発明を制限する意図はなく、反対にその意図する所は、添付した特許請求の範囲が規定するような本発明の趣旨及び範囲の中に入る、全ての改変、等価物及び代替を包含することであることを理解されたい。
【0020】
以下の用語は、本明細書を通じて使用し、別途指示がない限り以下の意味をもつことにする。
【0021】
本明細書で使用する場合、「熱水の」とは、100℃を超える温度及び大気圧を超える(即ち、約1.2バールを超える)圧力の水又は水蒸気の存在下で行われる反応を指す。
【0022】
本明細書で使用する場合、「炭化水素」とは、水素及び炭素を含む任意の化合物を指し、「炭化水素性供給原料」とは、炭素及び水素を約90重量%を超えて含有する任意の仕込み原料を指す。
【0023】
本明細書で使用する場合、「VIB族」又は「VIB族金属」とは、CAS周期表のVIB族から選択される、1種若しくは複数の金属、又はその化合物を指す。
【0024】
本明細書で使用する場合、「VIII族」又は「VIII族金属」とは、CAS周期表のVIII族(VIII B族)から選択される、1種若しくは複数の金属、又はその化合物を指す。
【0025】
本明細書で使用する場合、「水性混合物」とは、水の存在下における1種又は複数の成分の組合せを指す。該成分は、可溶、ある程度可溶、又は不溶のこともある。水性混合物は、均一又は不均一のこともある。
【0026】
用語「メソポーラス」とは、約2〜50nmの平均細孔径を指す。
【0027】
用語「常圧」とは、約0.9バールから約1.2バールの範囲の圧力を指す。
【0028】
BET表面積は、77Kにおける窒素の吸着により決定され、メソポア表面積は、BJH法(E.P.Barrett,L.C.Joyner and P.H.Halenda,J.Amer.Chem.Soc.,73,1951,373に記載)により決定される。マイクロポア容積は、DR式(Dubinin,M.M.Zaverina,E.D.and Raduskevich,L.V.Zh.Fiz.Khimii,1351−1362,1947に記載の通り)によって決定される。全細孔容積は、窒素吸着データから決定され、メソポア容積は、全細孔容積とマイクロポア容積との差により決定される。
【0029】
29Si NMRスペクトルは、回転速度8kHzで、少なくとも500回のスキャン及びスキャン間の緩和時間100秒で収集することができる。
【0030】
アルミノケイ酸マグネシウム粘土のケイ素対アルミニウムの元素モル比は、29Si NMRからピーク強度に基づいて決定することができる。例えば、G.Engelhardt and D.Michel(1987),High−Resolution Solid−State NMR of Silicates and Zeolites.New York:John Wiley & Sonsの特に180〜187頁を参照されたい。
【0031】
本発明に用いるアルミノケイ酸マグネシウム粘土を作製する合成法は、ケイ素成分、アルミニウム成分及びマグネシウム成分の水性混合物を酸性条件下で形成し、第1の反応混合物を形成することを含む。本明細書で使用する場合、「成分」とは、所与の元素源として作用できる、前記元素を含む任意の物質、塩及び/又は化合物を指す。例えば、「ケイ素成分」とは、ケイ素源として使用できる、元素状のケイ素、ケイ素含有化合物及び/又はケイ素塩を指すことができる。ケイ素成分の例には、それだけに限らないが、ケイ酸ナトリウム、ケイ酸カリウム、シリカゲル、シリカゾル、及びそれらの組合せが挙げられる。一実施形態では、ケイ素成分はケイ酸ナトリウムである。アルミニウム成分の例には、それだけに限らないが、アルミン酸ナトリウム、アルミン酸カリウム、硫酸アルミニウム、硝酸アルミニウム、及びそれらの組合せが挙げられる。本発明の一実施形態では、アルミニウム源は硝酸アルミニウムである。マグネシウム成分の例には、それだけに限らないが、マグネシウム金属、水酸化マグネシウム、ハロゲン化マグネシウム、硫酸マグネシウム及び硝酸マグネシウムが挙げられる。本発明の一実施形態では、マグネシウム成分は硝酸マグネシウムである。
【0032】
第1の反応混合物において、ケイ素対アルミニウム対マグネシウムの比は、元素モル比によって、
aSi:bAl:cMg
と表すことができ、式中「a」は6〜8の値を有し、「b」は0.001〜7.9の値を有し、「c」は0.1〜6の値を有しており、b=(6−c)+(8−a)であり、a:bは少なくとも3である。
【0033】
ケイ素、アルミニウム及びマグネシウム成分は、水性条件下で一緒にして、酸性条件下の第1の反応混合物を形成する。実施形態において、第1の反応混合物は、約0〜約5の間のpHを有する。第1の反応混合物のpHは、酸の添加により調整して、約0〜約5の間のpHを実現することができる。酸の例には、それだけに限らないが、硫酸、塩酸及び硝酸等の鉱酸が挙げられる。酢酸、クエン酸、ギ酸及びシュウ酸等の有機酸も、使用することができる。
【0034】
第1の反応混合物は、一般に、常圧及び常温の条件下で形成される。この反応の圧力範囲は、約0.9バール〜約1.2バール、好ましくは約1.0バール〜約1.1バールの間である。第1の反応混合物を形成する温度は、重大ではない。該温度は、一般に、反応混合物の凝固点から沸点の間である。該温度は、約0℃及び100℃、好ましくは少なくとも50℃にし得る。
【0035】
ケイ素、アルミニウム及びマグネシウム成分を添加し、pHを約0〜約5の間に調整して第1の反応混合物を形成した後、アルカリ塩基を添加して、第2の反応混合物を形成する。アルカリ塩基の例には、それだけに限らないが、水酸化ナトリウム及び水酸化カリウムが挙げられる。生成する第2の反応混合物のpHが少なくとも7.5となるように、十分なアルカリ塩基が第1の反応混合物に添加される。
【0036】
次いで、第2の反応混合物は、本発明の触媒及び方法で使用するアルミノケイ酸マグネシウム粘土の形成に十分な時間及び十分な温度で反応させる。実施形態において、その時間は、少なくとも1秒、好ましくは少なくとも15分、最も好ましくは少なくとも30分である。幾つかの実施形態では、アルミノケイ酸マグネシウム粘土の析出が瞬間的なこともある。該温度は、一般に、反応混合物の凝固点から沸点の間である。該温度は、約0℃から約100℃にし得る。ある実施形態では、第2の反応混合物の温度は、少なくとも50℃である。一般に、温度が高いほど、アルミノケイ酸マグネシウム粘土を形成する時間が短い。第2の反応混合物の工程は、常圧でなし得るが、圧力の増減を排除するものではない。記載した合成法において、アルミノケイ酸マグネシウム粘土は、第2の反応混合物の工程で形成される。幾つかの実施形態では、アルミノケイ酸マグネシウム粘土は、第2の反応混合物から定量的に析出する。第2の反応混合物は、アルミノケイ酸マグネシウム粘土が析出した際、固体のアルミノケイ酸マグネシウム粘土、及び上澄みを含む。「上澄み」とは、液状で、固体又は粒子物質を本質的に含んでいない、反応混合物の水溶液部分を意味する。アルミノケイ酸マグネシウム粘土は、例えばろ過、上澄みの蒸発又は遠心分離により回収することができる。この合成法の第2工程の間にアルカリ塩基を添加することにより、アルカリ陽イオンが、アルミノケイ酸マグネシウム粘土の中に取り込まれることになろう。
【0037】
次いで、アルミノケイ酸マグネシウム粘土は、洗浄及び/又は乾燥及び/又はイオン交換及び/又は焼成することができる。実施形態において、アルミノケイ酸マグネシウム粘土は、アンモニウム塩溶液でイオン交換反応を受け、生成物中のアルカリの少なくとも一部分が、アンモニウム陽イオンで交換される。アルミノケイ酸マグネシウム粘土は、イオン交換の前に、第2の反応混合物から単離する必要はない。例えば、固体状又は液状のアンモニウム塩は、アルミノケイ酸マグネシウム粘土が析出した後、第2の反応混合物に直接添加することができる。アンモニウム塩の例には、それだけに限らないが、硝酸アンモニウム、重炭酸アンモニウム及び塩化アンモニウムが挙げられる。一般に、アンモニウム陽イオンは、式[NHを有すると見込まれ、式中Rは、任意のアルキル基又は他の有機基原子団であり、x=1〜4、y=0〜4及びx+y=4である。好ましい実施形態では、アンモニウム陽イオンはNH陽イオンである。イオン交換の後、アルミノケイ酸マグネシウム生成物は、次いで、ろ過、遠心分離、又は当技術分野で公知の他の任意の方法により、上澄みから分離することができる。次いで、生成物は、乾燥及び/又は焼成することができる。
【0038】
イオン交換工程からの上澄みは、他の用途で使用するために回収することができる。例えば、硝酸を合成中に使用し、イオン交換反応でアンモニウム陽イオンを使用したのであれば、この排出液は硝酸アンモニウムに富んでいよう。アルミノケイ酸マグネシウム粘土を単離した後、硝酸アンモニウム豊富な上澄みを、肥料又は肥料中の成分として使用することができる。アルミノケイ酸マグネシウム生成物の析出は本質的に定量的になり得るので、上澄みには、マグネシウム、ケイ素又はアルミニウムが本質的に存在することができない。過剰量のケイ素及び/又はアルミニウム及び/又はマグネシウムが存在すれば、上澄みの肥料又は肥料成分としての有用性は低下することになろう。上澄み並びにアルミノケイ酸マグネシウム粘土生成物の使用により、試薬の無駄も、マグネシウム、ケイ素及び/又はアルミニウムを含有する上澄みの高価なリサイクルも殆どないため、経済的利益を実現することができる。
【0039】
触媒又は触媒中の成分として使用する前に、アルミノケイ酸マグネシウム粘土は焼成することができる。アルミノケイ酸マグネシウム粘土は、焼成の前又は後に他の成分と合わせることができる。焼成は、一般に、不活性雰囲気下、約750°F〜約1700°Fの間の温度で約1時間〜約12時間の範囲の時間行われる。焼成反応の時間及び温度は、重大ではない。例えば、アルミノケイ酸マグネシウム粘土がアンモニウム陽イオンを含むのであれば、焼成は、一般に、脱アンモニアし、又は生成物から他の窒素含有化合物を除去して、生成物中の電荷補償イオンとしてプロトンを残すように、十分な温度及び十分な時間で行われる。脱アンモニアとは、アンモニアを追い出して、生成物中の電荷補償イオンとしてプロトンを残すことを意味する。
【0040】
上記方法の生成物は、アルミノケイ酸マグネシウム粘土である。アルミノケイ酸マグネシウム粘土におけるケイ素対アルミニウムの比は、少なくとも3である。アルミノケイ酸マグネシウム粘土のケイ素対アルミニウム対マグネシウムの比は、元素モル比によって、
dSi:eAl:fMg
と表すことができ、式中「d」は6〜8の値を有し、「e」は0.001〜7.9の値を有し、「f」は0.1〜6の値を有しており、e=(6−f)+(8−d)であり、d:eは少なくとも3である。
【0041】
本発明の触媒及び方法に用いられるアルミノケイ酸マグネシウム粘土は、基本的な粘土小板で構成される層状物質である。アルミノケイ酸マグネシウム粘土の粘土小板のサイズは、第2反応混合物の反応温度及び反応時間に依存する。一般に、温度が高いほど、そして、時間が長いほど、粘土小板は大きくなる。生成物中の粘土小板の所望サイズに応じて、反応の時間及び温度をそれに従って変化させることができる。一実施形態では、アルミノケイ酸マグネシウムは、最長の寸法が平均サイズ約5nm〜約500nmの粘土小板(clay platelet)を含む。別の実施形態では、生成物は、最長の寸法が平均サイズ約5nm〜約50nmの粘土小板を含む。
【0042】
粘土小板の積層度は、第2の反応混合物のイオン強度に依存する。イオン強度が高いと積層の多い構造が得られるのに対し、イオン強度が低いと殆ど積層していない構造となろう。第2の反応混合物のイオン強度は、反応剤(ケイ素、アルミニウム及びマグネシウム成分)の濃度の増減、及びpHの変化によって調節することができる。例えば、pH約8の希釈溶液は、反応剤が高い濃度でpHが8より高い溶液より、低いイオン強度を有することになろう。一実施形態では、粘土小板は1〜約5の間の積層度を有し、別の実施形態では、粘土小板は約1〜約3の間の積層度を有する。その下限は、1の「積層度」を有する非積層粘土小板により構成される。2個のパラメーター、粘土小板のサイズ及び積層度は、それぞれ透過型電子顕微鏡(TEM)及び粉末X線回折により推定することができる。ある実施形態では、本発明のアルミノケイ酸マグネシウム粘土の粉末X線回折は、広幅のピークしか示さない。広幅のピークは、低い積層度を示している。
【0043】
個々の粘土小板は、酸素イオンによって相互連結された八面体配位金属イオンのシート、及び酸素イオンによって相互連結された四面体配位金属イオンのシートで構成されている。四面体シートの頂点酸素原子は、八面体シートの底面の形成を補助するため、シート同士は相互に接続している。シート同士の規則的集合(例えば、四面体−八面体又は四面体−八面体−四面体)は、層と呼ばれる。シートの配列が四面体−八面体であれば、これを1:1と称し、シートの配列が四面体−八面体−四面体であれば、これを2:1と称する。本発明の生成物は、2:1の層状アルミノケイ酸マグネシウムと表現することができる。
【0044】
アルミノケイ酸マグネシウム粘土の触媒活性は、一部がシート上の電荷に由来する。中性の四面体シートでは、四面体配位金属イオンが4価の電荷を有することが必要である。一般に、この金属イオンはSi4+となろう。中性の八面体層を有するためには、その層中に存在する金属イオンは、3個の八面体のキャビティーごとに6+の全電荷を供給しなければならないことになろう。これは、各3個の八面体のキャビティーのうち2個を、Al3+などの3価金属イオンで満たすか、又は3個の八面体のキャビティーの各1組の全キャビティーを、Mg2+などの2価金属イオンで満たすことにより、実現することができる。この結果、2種類の八面体層、即ち、全ての八面体部位が満たされている3八面体層、及び八面体部位の2/3が満たされている2八面体層が得られる。本発明の生成物は、2:1の3八面体アルミノケイ酸マグネシウムを含むと考えられる。粘土の分類に関する更なる説明については、参照により本明細書に組み込まれるJ.Theo Kloprogge,Sridhar Komarneni,and James E.Amonette,「スメクタイト粘土鉱物の合成 批判的総説(Synthesis of smectite clay minerals;a critical review)」Clays and Clay Minerals;October 1999;v.47;no.5;p.529−554を参照されたい。
【0045】
低価数の陽イオンで、粘土小板構造における高価数の陽イオンを置換又は部分置換すると、粘土小板は負に荷電する。例えば、四面体層において、3価金属イオン、例えばAl3+で、Si4+などの4価金属イオンの一部を置換し得る。本発明の方法の生成物等の、3八面体層構造の粘土の場合、このような置換でサポナイト又はバーミキュライトが得られる。八面体層中の2価のMg2+金属イオンは、Na、K又はLi等の1価金属イオンで、置換又は部分置換することができる。
【0046】
本発明のある実施形態において、アルミノケイ酸マグネシウム粘土では、中性粘土と比較して、ケイ素、アルミニウム及び/又はマグネシウム陽イオンの少なくとも0.1原子%が、低価数の陽イオンで置換されている。粘土小板中のケイ素、アルミニウム及び/又はマグネシウム陽イオンは、好ましくは少なくとも1原子%、より好ましくは少なくとも5原子%が、低価数の陽イオンで置換されている。八面体層において、マグネシウムイオンの好ましくは50原子%以下が、中性の状況と比較して、低価数のイオンで置換されており、より好ましくは30原子%以下が置換されている。四面体層の場合、存在するケイ素イオンの好ましくは30原子%以下が、低価数のイオンで置換されており、より好ましくは15原子%以下が置換されている。同形置換(Isomorphous substitution)は、八面体層だけ、四面体層だけ、又は両層で起こり得る。これとの関連で、同形置換という用語は、置換陽イオンを格子中に取り込まず、そのため空格子点が生成される、陽イオンの除去も指す。この除去でも負電荷が生成することは、明らかであろう。
【0047】
中性の四面体層はSi4+イオンを含む。Si4+イオンの少なくとも一部分は、3価イオンで置換して、その層上に負電荷を付与することができる。四面体層中の3価イオンは、好ましくはアルミニウム(Al3+)イオンであるが、クロム、コバルト(III)、鉄(III)、マンガン(III)、チタン(III)、ガリウム、バナジウム、モリブデン、タングステン、インジウム、ロジウム及び/又はスカンジウム等の他の3価イオンも、代用することができる。本発明のある態様では、アルミノケイ酸マグネシウム粘土は少なくとも1ppmのAl3+イオンを含む。中性の八面体層は、2価マグネシウム(Mg2+)イオンを含むが、ニッケル、コバルト(II)、鉄(II)、マンガン(II)、銅(II)及び/又はベリリウム等の他の2価イオンも、中性の八面体層中に取り込むことができる。中性の八面体層の2価イオンは、リチウム(Li)イオン等の1価イオンで置換して、八面体層上に負電荷を付与することができる。
【0048】
同形置換で生成する負電荷は、対イオンとしても知られている陽イオンを粘土小板間の空間中に取り込むことにより、相殺される。こうした対イオンは、ナトリウム又はカリウムであることが多い。一般に、こうした陽イオンは、水和形で取り込まれ、粘土の膨潤を起こす。このために、粘土小板が負荷電の粘土は、膨潤性粘土としても知られている。粘土が触媒作用における使用に有利となり得るのは、同形置換が起こす負電荷のためであるが、その理由は、負電荷によって、粘土が固体酸として機能する潜在力を得るからである。しかし、固体酸として機能できるために、粘土鉱物は、プロトンを含むことが必須であり、それは、プロトンが、こうした化合物の触媒活性を少なくとも部分的に担っているからである。プロトンは、ナトリウム又はカリウム等の非加水分解性対イオンをアンモニウムイオンで置換し、次いでその全体を加熱することにより、粘土中に取り込むことができる。このプロセスにより、当該物質は脱アンモニアを受け、プロトンが残ることになろう。プロトンは、Mn(II)及びCa(II)等の加水分解性金属イオンで対イオンを置換することによっても、導入することができる。
【0049】
一般に、加水分解性金属イオン(Mn+)は、次のスキームに従い、pH及び濃度に依存して加水分解し、


式(3)によりプロトンを生じ得る。
【0050】
本発明の触媒及び方法で用いるアルミノケイ酸マグネシウム粘土は、表面積及び細孔特性により特徴付けることができる。本発明のアルミノケイ酸マグネシウム粘土は、100〜1000m/gの範囲、好ましくは400〜900m/gの範囲に平均BET表面積を有する。アルミノケイ酸マグネシウム粘土は、BET窒素吸着により決定したとき、0.3〜2.0cc/gの範囲、好ましくは少なくとも0.5cc/gの範囲、最も好ましくは少なくとも0.9cc/gの範囲に平均細孔容積を有する。アルミノケイ酸マグネシウム粘土は、窒素吸着/脱着により決定したとき、メソポーラス範囲に平均細孔径を有する。実施形態において、本発明のアルミノケイ酸マグネシウム粘土は、メソポーラスで、約2nm〜約50nmの平均細孔径を有する。
【0051】
ある実施形態では、アルミノケイ酸マグネシウム粘土は、3より大きいケイ素対アルミニウムの元素モル比を有する。アルミノケイ酸マグネシウム粘土の29Si NMRは、表1に示したようなピークを含む。
【0052】
理論には全く拘束されないが、本発明者等は、上記の合成プロセスで調製したアルミノケイ酸マグネシウム粘土は、メソポーラスな内部構造、高い表面積、均一に小さな小板サイズ、及び低い積層度を示すため、より効率的な触媒となると考えている。これは、より可用度の高い外部及び内部表面による金属分散の改良、触媒反応が起こる部位の産生量の増加、並びに表面積(内部、外部共に)の高い可用度を理由とする、コーキング、硫化バナジウム及び/又は硫化ニッケルの析出による触媒失活の制限によって、発現する。それに加え、本発明者等は、上記のアルミノケイ酸マグネシウム粘土は、シリカ−アルミナゲルの初期形成により調製したアルミノケイ酸マグネシウム粘土より、四面体層におけるAl3+の大きな置換度を示すと考えている。Si4+のAl3+による高い置換度によって、アルミノケイ酸マグネシウム粘土の酸性が増加するために、イオン交換及び焼成の後で、アルミノケイ酸マグネシウム粘土の活性が高くなる。
【0053】
本発明の方法で用いられる本発明の水素化脱金属触媒は、広範に変化する組成を取り得るが、但し、上記のアルミノケイ酸マグネシウム粘土を含有する。本発明の水素化脱金属触媒は、金属、ゼオライト、他の粘土、分子篩、無機酸化物、結合剤、希釈剤、及びそれらの組合せなどの成分を含むことができる。以下の触媒例は、本発明の範囲を如何ようにも制限することを意図していない。
【0054】
本発明の水素化脱金属触媒及び方法で用いられるアルミノケイ酸マグネシウム粘土は、少なくとも1種の活性金属の担体として作用することができる。本明細書で使用する場合、「活性金属」とは、水素化反応の活性化エネルギーを下げることができる任意の金属又は金属化合物を指す。本明細書で使用する場合、「水素化金属」及び「触媒活性金属」とは、水素化反応の活性化エネルギーを下げることができる任意の金属又は金属化合物を指し、「活性金属」と互換的に使用される。水素化金属の例には、それだけに限らないが、ニッケル、ルテニウム、タングステン、モリブデン、コバルト、鉄及びロジウムが挙げられる。一般に、触媒活性金属は、周期表のVIB族及び/又はVIII族から選定される。スズ、ゲルマニウム、鉛等の他の金属、又はその化合物は、特に触媒がニッケルを含有する場合、助触媒として添加することができる。助触媒は、触媒に対して、金属として計算して、0.1〜30重量%、好ましくは0.2〜15重量%の量で存在できる。
【0055】
本発明で用いられるアルミノケイ酸マグネシウム粘土は、酸性型を取ることができる。水素化脱金属触媒中で使用する場合、本発明で用いられるアルミノケイ酸マグネシウム粘土は、好ましくは酸性型を取る。「酸性型」とは、アルミノケイ酸マグネシウム粘土が、プロトン化又は部分プロトン化形態を取ることを意味する。これは、非酸性陽イオンの少なくとも一部分をプロトンで置換して、負荷電四面体及び/又は負荷電八面体のシートを均衡させることを指している。
【0056】
本発明で用いられるアルミノケイ酸マグネシウム粘土が酸性型を取るとき、アルミノケイ酸マグネシウムは、炭化水素供給原料をクラッキングすることができる。炭化水素供給原料のクラッキング、特にアスファルテンのクラッキングによって、捕捉したバナジウム及び/又はニッケル錯体を供給原料のアスファルテン部分から除去することにより、効率的な脱金属の実現が促進される。したがって、アルミノケイ酸マグネシウム粘土の酸性特質は、触媒組成物の全体的な触媒活性に寄与することができる。
【0057】
水素化脱金属触媒の一例は、1種又は複数の無機酸化物、VIB族金属及び/又はVIII族金属と組み合わせて、上記のアルミノケイ酸マグネシウム粘土を含む。
【0058】
シリカ、アルミナ、マグネシア、チタニア、ジルコニア及びそれらの組合せ等の無機酸化物は、水素化脱金属触媒の成分になり得る。無機酸化物は、酸部位の寄与を介して触媒組成物の全体的な触媒活性に寄与できる、又は無機酸化物は、希釈剤若しくは結合剤として作用することができる。無機酸化物は、ゼオライト若しくは分子篩等の結晶、又は非晶質の場合もある。無機酸化物は、例えば、粘土小板のクラッキング活性の希釈剤として作用し、したがって触媒のクラッキング活性の調節を可能にする、充填材として機能することができる。無機酸化物は、それ自体は触媒活性を示さないが、触媒組成物の耐摩滅性を改善する、1種又は複数の触媒活性成分用のマトリックスを供給することができる。本発明の水素化処理触媒に添加すべき無機酸化物の量は、一般に、最終的触媒組成物の所望活性に依存しており、0%〜約95%の範囲にすることができる。無機酸化物は、触媒組成物の触媒活性成分のために増加した表面積を供給することができる。一実施形態では、該無機酸化物は、窒素の吸着/脱着により測定した際、平均細孔径が約2〜50nmのメソポーラス無機酸化物とし得る。好ましくは、無機酸化物の平均細孔径は、約7.5〜12nmの間である。
【0059】
本発明の水素化脱金属触媒は、VIB族金属、VIII族金属及びそれらの組合せから選択される水素化成分を更に含むことができる。当業者には明らかであるように、これに関する単語「成分」とは、状況に応じて、当該金属の金属形態、酸化物形態、硫化物形態、又は任意の中間体を示す。水素化金属は、周期表のVIB族及びVIII族金属(CAS周期表)から選択される。一般には、触媒は、VIB族金属成分及び/又は非貴金属のVIII族金属成分を含有することになろう。ある実施形態では、水素化金属は、モリブデン、タングステン、ニッケル、コバルト又はそれらの混合物である。VIB族及び/又は非貴金属のVIII族の水素化金属は、金属酸化物として計算して、好ましくは2〜50wt%の量、より好ましくは5〜30wt%の量、最も好ましくは5〜25wt%の量で存在する。
【0060】
本発明で用いられるアルミノケイ酸マグネシウム粘土は、上記のような水素化金属が、アルミノケイ酸マグネシウムの小板構造中に少なくとも部分的に取り込まれることを可能にする。例えば、コバルト又はニッケルは、八面体層中に存在し得る。触媒活性となるためには、これらの金属が、触媒の使用中に粘土小板構造から取り出されなければならない。この取出しは、例えば、触媒が使用前に還元条件下で硫化される際に、例えば還元又は硫化によって行うことができる。代替として、水素化金属は、粘土小板間の中間層の中にイオン交換を介して取り込むことができる。取込み部位に関わらず、アルミノケイ酸マグネシウム粘土は、触媒活性金属の分散を補助する。
【0061】
活性金属を触媒組成物に添加する各種方法は、当技術分野で公知である。手短に言えば、活性金属の取込み法には、イオン交換、均一析出沈殿、レドックス化学法、化学気相堆積、及び含浸が挙げられる。活性金属を触媒組成物中に取り込むために、好ましくは、含浸が用いられる。含浸は、取り込むべき1種又は複数の金属の溶液を触媒組成物に曝した後、溶媒を蒸発させることを伴う。ある実施形態では、キレート剤が金属の含浸中に使用される。「キレート剤」又は「キレート」は、金属イオンと結合又は錯形成することができる、1個又は複数の原子を含有する分子と表現することができる。キレート剤は、しばしばキレート剤中の電子対供与原子を介して、VIB族及び/又はVIII族金属イオンに対して配位子として作用する。キレート化金属イオンは、溶解性を増す傾向があり、キレート剤は、触媒組成物の全体に亘る金属イオンの分散を改善することができる。キレートは、1つ又は複数の位置を介して金属イオンと結合又は錯形成することができるため、多座になり得る。例えば、二座配位子は金属イオンと2個の結合を形成するが、六座配位子は金属イオンと6個の結合を形成する。キレート剤の例には、それだけに限らないが、クエン酸塩、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、エチレングリコール四酢酸(EGTA)、ニトリロ三酢酸(NTA)、ハロゲン化物、硝酸塩、硫酸塩、酢酸塩、サリチル酸塩、シュウ酸塩及びギ酸塩が挙げられる。キレート剤の他の例には、それだけに限らないが、グリコール酸、乳酸、酒石酸、リンゴ酸、マレイン酸、クエン酸、グリセリン酸、グルコン酸、メトキシ酢酸、エトキシ酢酸、マロン酸、コハク酸及びグリオキシル酸等のカルボン酸、並びにメルカプト酢酸、1−メルカプトプロピオン酸、2−メルカプトプロピオン酸、2,3−ジメルカプトコハク酸、メルカプトコハク酸、チオ酢酸、チオジグリコール酸、ジチオジグリコール酸、チオサリチル酸、メルカプトエタノール、β−チオジグリコール及びチオ尿素等の有機硫黄化合物が挙げられる。カルボン酸以外の他の酸素含有化合物も、キレート剤として使用することができる。例には、それだけに限らないが、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリメチレングリコール、トリエチレングリコール、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、グリセリン、トリメチロールエタン及びトリメチルプロパンが挙げられる。ある実施形態では、クエン酸ニッケル溶液が、触媒組成物を含浸するために使用される。触媒又は触媒組成物を金属又は金属イオンで含浸するために使用できる、金属イオン−キレート錯体の他の例には、EDTAニッケル、酢酸ニッケル、ギ酸ニッケル、クエン酸モリブデン、NTAニッケル及びNTAモリブデンが挙げられる。総説については、全体が参照により本明細書に組み込まれるA.Jos van Dillen,R.J.A.M.Terorde,D.J.Lensveld,J.W.Geus,and K.P.de Jong,「水性キレート化金属錯体を用いた含浸及び乾燥による担持触媒の合成(Synthesis of supported catalysts by impregnation and drying using aqueous chelated metal complexes)」,Journal of Catalysis,2003,p.257−264を参照されたい。
【0062】
VIB族及び/又はVIII族の金属は、焼成の前又は後にアルミノケイ酸マグネシウム粘土に添加することができる。例えば、アルミノケイ酸マグネシウム粘土は、(1)乾燥し、活性金属(単数若しくは複数)で含浸し、押出成形し、焼成する、又は(2)活性金属(単数若しくは複数)で含浸し、押出成形し、焼成する、(3)乾燥し、押出成形し、乾燥若しくは焼成し、活性金属(単数若しくは複数)で含浸し、焼成する、又は(4)乾燥し、押出成形し、焼成し、活性金属(単数若しくは複数)で含浸することができる。アルミノケイ酸マグネシウム粘土は、VIB族及び/又はVIII族の金属で含浸する前又は後に、ゼオライト、結晶性無機酸化物成分、非結晶性無機酸化物成分、触媒不活性結合剤、希釈剤、及びそれらの組合せ等の1種又は複数の成分と混合することができる。
【0063】
最終的な水素化脱金属触媒に対する水素化脱金属触媒成分の添加順序は、変えることができる。アルミノケイ酸マグネシウム粘土を含む触媒は、当技術分野で公知の任意の方法で調製することができる。例えば、アルミノケイ酸マグネシウム粘土は、粒子に押出成形し、粒子を焼成し、次いで焼成粒子を、場合によりリン酸及び/又は錯形成剤等の他の成分と組み合わせた、導入すべき水素化金属の塩を含む含浸溶液で含浸することができる。代替法として、アルミノケイ酸マグネシウムは、それ自体触媒活性をもち得る非晶質アルミナ、シリカアルミナ等の他の担体材料と混合し、直ちにこの混合物を押出成形し、生成した押出成形物を焼成することができる。次いで、焼成した押出成形物を上記のように含浸することができる。押出成形の前に、ある種の水素化金属成分を触媒組成物に添加することも可能であり、より特定すれば、本発明の方法で用いられるアルミノケイ酸マグネシウム及び他の任意の担体材料を酸化モリブデンと混合し、その後、生成混合物を押出成形し、焼成することが提案される。
【0064】
触媒が、非貴金属のVIII族金属及び/又はVIB族金属を水素化金属として含有する場合、使用する前に硫化することが好ましい。これは、触媒中の金属成分を硫化形へ転換することを伴う。硫化は、当業者に公知の方法によって、例えば、昇温中の反応器内の触媒を、水素及び含硫原料と、又は水素及び硫化水素の混合物と接触させることにより、行うことができる。その場外での予備硫化も可能である。硫化条件には、200°〜400℃、好ましくは250°〜300℃の温度範囲、及び大気圧と高圧との間で変化し得る圧力が含まれる。硫化剤には、単体硫黄、メルカプタン、チオフェン、又は水素及び硫化水素の混合物がなり得る。
【0065】
硫化後、触媒は、従来の固定床反応器又は沸騰床反応器のいずれかで使用する準備ができる。
【0066】
一般に、本発明で用いられるアルミノケイ酸マグネシウム粘土は、水素化脱金属触媒を約1%〜約30%含む。例えば、触媒は、アルミノケイ酸マグネシウム粘土を1〜30wt%、水素化金属成分を2〜35wt%、残りとして無機酸化物マトリックス材料を含有すると想定されている。適切な無機酸化物マトリックス材料は、例えば、アルミナ、シリカ、チタニア、ジルコニア、及びそれらの組合せである。無機酸化物は、結晶性若しくは非結晶性又はその両方でもよい。一実施形態では、無機酸化物マトリックス材料は、アルミナである。ある実施形態では、水素化脱金属触媒は、(1)VIB族金属、VIII族非貴金属又はそれらの組合せを、酸化物として計算して5〜30wt%、(2)リンをPとして計算して1〜10wt%、及び(3)アルミノケイ酸マグネシウム粘土を1〜30wt%含み、アルミノケイ酸マグネシウム粘土は、上記に概説したプロセスステップに従って合成されたものであり、触媒の残りは、アルミナなどの無機酸化物である。
【0067】
ある実施形態では、触媒は、VIB族金属を酸化物として計算して5〜20wt%、好ましくは8〜16wt%含む。一般に、5wt%未満を使用すれば、触媒の活性は不十分である。一方で、20wt%超を使用しても、触媒性能はそれ以上改善されない。
【0068】
別の実施形態では、触媒は、VIII族金属を酸化物として計算して0.5〜6wt%、好ましくは1〜5wt%含む。この量が0.5wt%未満であれば、触媒の活性は低過ぎることになろう。6wt%超が存在しても、触媒性能はそれ以上改善されることはなかろう。
【0069】
リン、ホウ素又はそれらの組合せなどの助触媒は、当技術分野で知られているように、場合により添加することができる。例えば、リンは、いずれか1つの形成段階中にある触媒を、適量のリン含有化合物、例えばリン酸と接触させることにより、適切に触媒中に取り込むことができることは、当業者には明白であろう。例えば、触媒は、他の任意の成分以外にリンを含有する含浸溶液で含浸することができる。本発明による触媒がリンを含有する場合、この化合物は、触媒組成物の重量に対して、Pとして計算して0.5〜10wt%の量で存在するのが好ましい。
【0070】
上記の触媒は、多くの異なる形状の粒子形態を取ることができる。適切な形状には、球、円筒、環、及び対称又は非対称の多葉、例えば三葉及び四葉が挙げられる。該粒子は、普通0.5〜10mmの範囲の直径を有し、その長さは、同様に0.5〜10mmの範囲にある。
【0071】
本発明の方法は、多種多様な炭化水素性供給原料を用いることができる。炭化水素性供給原料は、炭素化合物を含み、原油留分、再利用石油留分、シェールオイル、液化石炭、タールサンドオイル、NAOからの合成パラフィン、再利用プラスチック供給原料、植物油、植物ワックス、動物脂肪、動物油等の生物由来供給原料、及びそれらの組合せ等の異なる多くの供給源に由来することができる。他の原料には、酸化物含有フィッシャー・トロプシュ法を含め、フィッシャー・トロプシュ法に由来し、約371℃(700°F)未満で沸騰するもの等の合成原料が含まれる。供給原料の例には、それだけに限らないが、石油蒸留液、溶媒脱アスファルト石油残渣、シェールオイル、コールタール蒸留液、並びに動物、植物及び/又は藻類源由来の炭化水素供給原料が挙げられる。供給原料は、200°Fを超えて沸騰することができる。供給原料は、350〜950°Fの範囲で沸騰する物質を相当量で含有し、400〜900°Fの範囲で沸騰する物質さえ相当量で含有することができる。他の適切な供給原料には、従来のFCC原料及びその一部分だけでなく、重質直留ガスオイル及び重質分解循環油と通常規定される重質蒸留液が挙げられる。一般に、該原料は、水素化処理触媒反応を受け易い任意の炭素含有供給原料とし得る。炭化水素性原料が受けようとする処理のタイプに応じて、該原料は、金属を含有してもよく、又は金属を含有しなくてもよく、また、窒素又は硫黄不純物が多くても、少なくてもよい。
【0072】
当該触媒で効果的に処理できる炭化水素性供給原料には、バナジウム、ニッケル、砒素、鉄又はそれらの組合せを含有するものが挙げられる。供給原料のバナジウム、ニッケル、砒素及び/又は鉄の含量は、1000ppmを超えることができる。供給原料は、5wt%より多量にアスファルテンを含むことができる。供給原料は、8wt%より多量にアスファルテンを含むことができる。幾つかの実施形態では、供給原料は、25wt%より多量にアスファルテンを含むことができる。実施形態において、供給原料は、10ppm超のバナジウム含量を含む。別の実施形態では、供給原料は、100ppm超のバナジウム含量を含む。処理すべき供給原料の硫黄含量は、変化することができる。1%、2%又はそれより多量の硫黄含量が可能である。供給原料の硫黄含量は、1%未満でもよい。供給原料の窒素含量は、0ppmから1000ppm超に亘ることができる。
【0073】
分解原料は、石油、ギルソナイト、シェール及びコールタールから得られるものを含め、各種原料の熱分解又は接触分解から得ることができる。供給原料は、本発明の触媒と接触させる前に、ハイドロファイニング処理、水素化処理、水素化分解処理、又はそれらの組合せを受けることができる。供給原料の有機窒素含量は、一般に1000ppm(百万分の1)未満、好ましくは0.5〜500ppm、より好ましくは0.5〜100ppmである。本発明の触媒と接触させる際、供給原料の硫黄含量を約0〜3重量%、好ましくは0〜1重量%の範囲に維持することが好ましい。
【0074】
炭化水素性供給原料の水素化脱金属は、プロセスの所望タイプに応じて、好都合な任意の方式、例えば流動床、移動床又は固定床の反応器中で行うことができる。触媒粒子の処方は、プロセス及び操作法に応じて変化することになろう。
【0075】
ある実施形態では、本発明は、水素化脱金属条件下の炭化水素供給原料と、アルミノケイ酸マグネシウム粘土を含む触媒とを接触させる工程を含む水素化脱金属法であって、前記アルミノケイ酸マグネシウム粘土が、以下の工程:
a)第1の反応温度及び常圧の水性条件下で、(1)ケイ素成分、(2)アルミニウム成分、及び(3)マグネシウム成分を一緒にして、第1の反応混合物を形成する工程であって、前記第1の反応混合物のpHが酸性である工程と、
b)第1の反応混合物にアルカリ塩基を添加して、第1の反応混合物のpHより大きいpHを有する第2の反応混合物を形成する工程と、
c)第2の反応温度で、アルミノケイ酸マグネシウム粘土を含む生成物の形成に十分な時間、第2の反応混合物を反応させる工程と
を含む方法により合成される、水素化脱金属法を対象とする。
【0076】
ある実施形態では、本発明は、炭化水素性供給原料と、アルミノケイ酸マグネシウム粘土を含む触媒組成物とを接触させる工程を含む水素化脱金属法であって、アルミノケイ酸マグネシウム粘土が、3より大きいケイ素対アルミニウムの元素モル比を有し、アルミノケイ酸マグネシウム粘土の29Si NMRが、表1に示すようなピークを含む、水素化脱金属法を対象とする。
【0077】
別の態様では、本発明は、アルミノケイ酸マグネシウム粘土を含む水素化脱金属触媒であって、アルミノケイ酸マグネシウム粘土が、3より大きいケイ素対アルミニウムの元素モル比を有し、アルミノケイ酸マグネシウム粘土の29Si NMRが、表1に示すようなピークを含む、水素化脱金属触媒を対象とする。
【0078】
水素化脱金属触媒、水素及び炭化水素性供給原料の間の適切な任意の反応時間(接触時間)を利用することができる。一般に、接触時間は、約0.1時間から約10時間の範囲となろう。好ましくは、反応時間は、約0.4〜約4時間の範囲となろう。したがって、連続操作における炭化水素含有原料ストリームの流速は、反応器の通過に混合物が要する時間(滞留時間)が、約0.1〜約10時間の範囲、好ましくは約0.4〜約4時間の範囲になるようなものとすべきである。このためには、一般に、触媒1ccにつき1時間当たり原料油約0.10〜約10cc、好ましくは約0.2〜約2.5cc/cc/hrの範囲にある液空間速度(LHSV)が必要である。
【0079】
一実施形態によれば、炭化水素原料は、普通、固定床反応器中で、水素の存在下で水素化脱金属触媒と接触させられる。水素化脱金属プロセスの条件は、原料の特質、意図する製品品質、及び各精油所の特定の施設に従って変化し得る。温度は、普通450°Fより高く、600°F〜900°Fの間であることが多い。圧力は、普通0.5バールより大きく、10バールより大きいことが多い。H/炭化水素の比は、普通100scfbより大きく、普通150〜15000scfbの間であることが多い。液空間速度(LHSV)は、一般に触媒1体積につき1時間当たり原料約0.01〜約20体積の間である。この特定の実施形態による水素化脱金属プロセスは、好ましくは600°F〜750°Fの温度で行われる。
【0080】
水素化処理の他の触媒及び反応も、上記のアルミノケイ酸マグネシウムを用いて想定される。水素化脱金属と組み合わせた水素化分解は、本明細書に記載のアルミノケイ酸マグネシウムを含む触媒に対して想定される水素化処理反応である。表2に、上記のアルミノケイ酸マグネシウムを含む触媒に対する一般的なプロセス条件を示す。
【表3】

【0081】
水素化処理の他の触媒及び反応も、上記のアルミノケイ酸マグネシウムを用いて想定される。水素化処理中に、炭化水素性原料中に存在する酸素、硫黄及び窒素は、低濃度に還元される。芳香族及びオレフィンも、原料中に存在する場合、二重結合の飽和を受け得る。幾つかの事例では、水素化処理触媒及び水素化処理条件は、脱硫の最も進んだ製品(通常、燃料として有用)の収率を低下させる恐れのある、クラッキング反応を最少に抑えるように選定される。
【0082】
水素化処理条件には、通常、400〜900°F(204〜482℃)、例えば650〜850°F(343〜454℃)の間の反応温度、500〜5000psig(3.5〜34.6Mpa)、例えば1000〜3000psig(7.0〜20.8MPa)の間の圧力、0.5hr−1〜20hr−1(v/v)の原料速度(LHSV)、及び液体炭化水素原料1バレルにつき水素総消費量300〜2000scf(53.4〜356m/m原料)が含まれる。水素化処理触媒は、上記のアルミノケイ酸マグネシウムを含むことができる。
【0083】
理論には全く拘らないが、本発明者等は、上記のようなアルミノケイ酸マグネシウム粘土を含む触媒組成物は、バナジウム、ニッケル又はそれらの組合せ、並びにアスファルテンを含む、炭化水素供給原料の水素化脱金属等の水素化処理反応に特に適していると考えている。効率的な水素化脱金属は、本発明で用いられるアルミノケイ酸マグネシウム粘土の大きな表面積、細孔構造、及び高密度の酸部位のために起こる。高分子量の炭化水素(炭素原子が20個を超える炭化水素)、芳香族化合物及びアスファルテン等の比較的大型の有機分子は、本発明で用いられるアルミノケイ酸マグネシウム粘土のメソポアに浸透する、又はアルミノケイ酸マグネシウム粘土の表面にある酸部位と反応することができる。本発明で用いられ、表面積が広大なアルミノケイ酸マグネシウム粘土は、活性なVIB族及び/又はVIII族金属の分散を補助し、多くの目立たない部位に起こるべき水素化反応を提供する。更に、本発明の触媒を構成し、本発明の方法で用いられるアルミノケイ酸マグネシウム粘土は、他の方法で合成されたアルミノケイ酸マグネシウム粘土より高い活性を示すが、その原因は、恐らく、四面体シート中へのAl3+の取込み量の増加による、酸部位密度の上昇及び触媒組成物の活性増大である。硫化バナジウム及び/又は硫化ニッケルの析出による触媒の失活は、本発明の水素化脱金属触媒の利用可能な広大な表面積により軽減される。
【実施例】
【0084】
(例1)
元素組成Mg5.4[Si6.6 Al1.4]O20(OH)4であり、Si/Al=4.7のアルミノケイ酸マグネシウム粘土を以下のように調製した。水ガラス(27wt%SiO)を室温で硝酸アルミニウムと混合し、pHを硝酸で約1に調整した。硝酸マグネシウムの溶液を添加して、第1の反応混合物を形成した。第1の反応混合物のpHは酸性であった。次いで、NaOHの添加により、第1の反応混合物のpHを約8.4に調整して、第2の反応混合物を形成した。約50℃で1時間反応を進行させ、その後第2の反応混合物をろ過し、洗浄してアルミノケイ酸マグネシウム粘土を産生した。
【0085】
(例2)
硝酸アンモニウムの0.1M溶液に例1のアルミノケイ酸マグネシウム粘土を添加し、ナトリウム陽イオンをアンモニウム陽イオンで交換した。アンモニウム置換アルミノケイ酸マグネシウム粘土をろ過により回収し、水で洗浄した。次いで、アンモニウム置換アルミノケイ酸マグネシウム粘土を450℃で12時間焼成して、アルミノケイ酸マグネシウム粘土をプロトン化形態へ転換した。
【0086】
(例3)
例2のアルミノケイ酸マグネシウム(16wt%)を、硝酸が存在する水性条件下でアルミナ(84wt%)と混合して、押出成形可能な混合物を形成した。混合物を押出成形し、250°Fで2時間、次いで400°Fで2時間乾燥した。乾燥後、混合物を1200°Fで1時間焼成して、焼成押出成形物を形成した。次いで、焼成押出成形物を、噴霧含浸を用いてモリブデン(11wt%)、ニッケル(2.7wt%)及びリン(3.85wt%)で含浸したが、各金属含量及びリン含量は酸化物として計算した。次いで、その材料を950°Fで1時間焼成して、本発明の水素化脱金属触媒を形成した。
【0087】
(例4)
例2のアルミノケイ酸マグネシウム(8wt%)を、硝酸が存在する水性条件下でアルミナ(92wt%)と混合して、押出成形可能な混合物を形成した。混合物を押出成形し、250°Fで2時間、次いで400°Fで2時間乾燥した。乾燥後、混合物を1200°Fで1時間焼成して、焼成押出成形物を形成した。次いで、焼成押出成形物を、噴霧含浸を用いてモリブデン(11wt%)、ニッケル(2.7wt%)及びリン(3.85wt%)で含浸したが、各金属含量及びリン含量は酸化物として計算した。次いで、その材料を950°Fで1時間焼成して、本発明の水素化脱金属触媒を形成した。
【0088】
(例5)(比較用)
アルミナ(80.7wt%)を、モリブデン(12.2wt%)、ニッケル(2.9wt%)及びリン(4.2wt%)で含浸したが、各金属含量及びリン含量は酸化物として計算した。その材料を950°Fで1時間焼成した。
【0089】
(例6)
例4(本発明)、例5(本発明)及び例6(比較用)の触媒を、表3に示す特性を有する供給原料に対する水素化脱金属活性について比較した。
【表4】

【0090】
表3に記載した供給原料に対して、水素化脱金属の結果を表4に示す。反応条件には、およそ2250psigの圧力、水素対炭化水素のモル比5000scfb、及び0.50hr−1LHSVの原料速度が含まれていた。全ての触媒は、使用前にDMDSの溶液(ヘプタン中6%ジメチルジスルフィド)で硫化した。
【表5】

【0091】
表4は、本発明の水素化脱金属触媒が、従来の水素化脱金属触媒と比較して、改良されたバナジウム及びニッケル転換率を有することを実証している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミノケイ酸マグネシウム粘土を含む水素化脱金属触媒であって、前記アルミノケイ酸マグネシウム粘土が、以下の工程:
a.第1の反応温度及び常圧の水性条件下で、(1)ケイ素成分、(2)アルミニウム成分、及び(3)マグネシウム成分を一緒にして、第1の反応混合物を形成する工程であって、前記第1の反応混合物のpHが酸性である工程と、
b.前記第1の反応混合物にアルカリ塩基を添加して、前記第1の反応混合物のpHよりも大きなpHを有する第2の反応混合物を形成する工程と、
c.第2の反応温度で、アルミノケイ酸マグネシウム粘土を含む生成物の形成に十分な時間、前記第2の反応混合物を反応させる工程と
を含む方法に従って合成される、前記水素化脱金属触媒。
【請求項2】
アルミノケイ酸マグネシウム粘土が、水素化脱金属触媒の約1wt%〜約30wt%を占める、請求項1に記載の水素化脱金属触媒。
【請求項3】
アルミノケイ酸マグネシウム粘土が、水素化脱金属触媒の約5wt%〜約20wt%を占める、請求項2に記載の水素化脱金属触媒。
【請求項4】
アルミノケイ酸マグネシウム粘土が、プロトン化形態を取る、請求項1に記載の水素化脱金属触媒。
【請求項5】
アルミノケイ酸マグネシウム粘土が、焼成されている、請求項1に記載の水素化脱金属触媒。
【請求項6】
無機酸化物を更に含む、請求項1に記載の水素化脱金属触媒。
【請求項7】
無機酸化物が、シリカ、アルミナ、マグネシア、チタニア、ジルコニア及びそれらの組合せからなる群から選択される、請求項6に記載の水素化脱金属触媒。
【請求項8】
CAS周期表の、VIB族金属、VIII族金属又はそれらの組合せを更に含む、請求項1に記載の水素化脱金属触媒。
【請求項9】
硫化されている、請求項8に記載の水素化脱金属触媒。
【請求項10】
VIB族金属が、クロム、モリブデン、タングステン又はそれらの組合せである、請求項8に記載の水素化脱金属触媒。
【請求項11】
VIII族金属が、ニッケル、コバルト、鉄、ルテニウム、ロジウム、イリジウム又はそれらの組合せである、請求項8に記載の水素化脱金属触媒。
【請求項12】
として計算して、0.5wt%〜10wt%のリンを更に含む、請求項1に記載の水素化脱金属触媒。
【請求項13】
アルミノケイ酸マグネシウム粘土を含む水素化脱金属触媒であって、アルミノケイ酸マグネシウム粘土が、3より大きいケイ素対アルミニウムの元素モル比を有し、アルミノケイ酸マグネシウム粘土の29Si NMRが、表1に示すようなピークを含む、上記水素化脱金属触媒。
【請求項14】
アルミノケイ酸マグネシウム粘土が、メソポーラスである、請求項14に記載の水素化脱金属触媒。
【請求項15】
水素化脱金属条件下の炭化水素性供給原料と、アルミノケイ酸マグネシウム粘土を含む触媒とを接触させる工程を含む水素化脱金属法であって、前記アルミノケイ酸マグネシウム粘土が、以下の工程:
a.第1の反応温度及び常圧の水性条件下で、(1)ケイ素成分、(2)アルミニウム成分、及び(3)マグネシウム成分を一緒にして、第1の反応混合物を形成する工程であって、前記第1の反応混合物のpHが酸性である工程と、
b.前記第1の反応混合物にアルカリ塩基を添加して、前記第1の反応混合物のpHより大きなpHを有する第2の反応混合物を形成する工程と、
c.第2の反応温度で、アルミノケイ酸マグネシウム粘土を含む生成物の形成に十分な時間、前記第2の反応混合物を反応させる工程と
を含む方法に従って合成される、上記水素化脱金属法。
【請求項16】
前記供給原料が、少なくとも5ppmのバナジウムを含む、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記供給原料が、少なくとも10ppmのバナジウムを含む、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
水素化脱金属条件が、200℃〜550℃の範囲の反応温度、500〜5000psigの範囲の反応圧力、0.1〜15hr−1(v/v)の範囲のLHSV、及び150〜15000scfbの範囲の水素対炭化水素比を含む、請求項15に記載の方法。
【請求項19】
前記供給原料が、減圧ガスオイル、重質常圧ガスオイル、ディレイドコーカーガスオイル、ビスブレーカーガスオイル、脱金属油、FCC軽質循環油、減圧残渣脱アスファルト油、フィッシャー・トロプシュストリーム、FCCストリーム及びそれらの組合せからなる群から選択される、請求項15に記載の方法。
【請求項20】
水素化脱金属条件下の炭化水素性供給原料と、少なくともアルミノケイ酸マグネシウム粘土を含む触媒とを接触させる工程を含む水素化脱金属法であって、アルミノケイ酸マグネシウム粘土が、3より大きいケイ素対アルミニウムの元素モル比を有し、アルミノケイ酸マグネシウム粘土の29Si NMRが、表1に示すようなピークを含む、上記水素化脱金属法。

【公表番号】特表2012−504493(P2012−504493A)
【公表日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−530158(P2011−530158)
【出願日】平成21年9月30日(2009.9.30)
【国際出願番号】PCT/US2009/058948
【国際公開番号】WO2010/039779
【国際公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【出願人】(503148834)シェブロン ユー.エス.エー. インコーポレイテッド (258)
【Fターム(参考)】