説明

水素吸蔵合金の製造方法

【課題】Mg の水素吸蔵・放出特性をさらに改善することを目的とし、ナノ組織・構造を作り出し、簡便であることを特徴とするボールミルを用い、少量の触媒添加がより低温での水素吸蔵量ならびに水素吸蔵速度を増大させるという観点から、(1) 分子レベルでの混合を進めるため、液状の触媒を用いる、(2) Mg と合金化すると水素吸蔵量が Mg 単体の場合に比べて減少するため、Mgと固溶しない金属を選び、且つ製造しやすい方法を提供する。
【解決手段】主としてマグネシウム金属からなり、前記マグネシウムに対して金属チタニウムが少なくとも1 wt.%含むようにしたチタニウム4価のハロゲン化チタニウムをシクロヘキサン溶媒とともにボールミルにて混合し、乾燥後、できた組成物に少なくとも1回の水素−脱水素処理して該合金組成物の比表面積を大とする製造方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ニッケル水素二次電池や燃料電池に用いられる、主としてマグネシウムを用いた高密度に水素を貯蔵できる水素吸蔵合金組成物の製法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
水素は、常温常圧で気体であるため、エネルギー密度が低く、液体燃料に比べて取り扱いが格段に難しい。水素の貯蔵方法の代表的なものとして 1 ) 高圧ガスとしての貯蔵、 2 )液体の状態での貯蔵、 3)水素吸蔵合金での貯蔵、などがあり、ほかに、活性炭やカーボンナノチューブなどの炭素系材料、ベンゼンーシク口へキサンなどの化学反応サイクル、アルカリ金属系水素化物のようなケミカルハライドと呼ばれる錯体系材料などを用いる方法などが検討されている。上記水素貯蔵法の水素充填密度(エネルギー密度)、所要エネルギー、安全性、取り扱い、経済性などには一長一短があり、これらの性能を改善する研究が盛んに行なわれている。
水素吸蔵合金の体積あたりの水素密度は、液体水素を上回ることが知られており、乗用車などの容積に制限のある空間に適している。また、水素の放出反応は吸熱反応であることから、容器が万一破損しても、水素が急激に放出されることがないため、高圧ガスボンベに比べると非常に安全な水素貯蔵方法であるといえる。
水素吸蔵合金は、ニッケル水素二次電池の水素吸蔵合金として、また、圧縮水素や液体水素に比ベて安全で高密度に水素を貯蔵できることから燃料電池用の水素貯蔵材料として期待されている。その中で マグネシウムは軽量、安価で高い水素吸蔵能を有することから注目されている。 しかしながら、 マグネシウムは水素吸蔵・放出に高い温度を要し、その反応速度が遅いなどの欠点がある。
【0003】
昨今、マグネシウム粉末を遷移金属粉末とともにボールミルして改質することにより、マグネシウムの水素吸蔵・放出特性を向上させることの提案がある(非特許文献1)。また、ボールミルによる水素吸蔵材料の製造法が提案されている(特許文献1)。
【非特許文献1】第45回電池討論会講演要旨集「燃料電池用水素貯蔵材料としてのマグネシウム複合体の開発とそのキャラクタリゼーション」(2004年11月発表)
【特許文献1】特開2004−204309号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明では、Mgの水素吸蔵・放出特性をさらに改善することを目的とし、ナノ組織・構造を作り出し、簡便であることを特徴とするボールミルを用い、少量の触媒添加がより低温での水素吸蔵量ならびに水素吸蔵速度を増大させるという観点から、(1)分子レベルでの混合を進めるため、液状の触媒を用いる、(2)Mgと合金化すると水素吸蔵量がMg単体の場合に比べて減少するため、Mgと固溶しない金属を選び、且つ製造しやすい方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の第1の解決手段は、主としてマグネシウム金属からなり、前記マグネシウムに対して金属チタニウムが少なくとも1wt%含まれるようにしたチタニウム4価のハロゲン化チタニウムをシクロヘキサン溶媒とともにボールミルにて混合し、乾燥後、できた組成物に少なくとも1回の水素化−脱水素処理して該合金組成物の比表面積を大とすることを特徴とする。
【0006】
また、ボールミルを500rpm、1時間混合することを特徴とし、組成物としてのマグネシウム複合体の水素吸蔵量を最適にすることができる。
【0007】
また、ボールミル混合中の温度を少なくとも250℃以下にしたことを特徴とする製造方法として、比較的に低温にて処理できる。
【0008】
更に、ハロゲン化チタニウムとして、TiClまたはTiBrを用いることを特徴とする製造方法である。
また、ハロゲン化チタニウムとして、液状態の化合物とすることにより、複合体としての水素吸蔵量を最適にすることができる。
【0009】
更に、ハロゲン化チタニウムとして、TiBrを用いたことを特徴とする製造方法である。
【0010】
更に、製造した組成物の比表面積を1.8〜2.1 m2/gとしたことを特徴とする水素吸蔵合金。
【発明の効果】
【0011】
本発明によると、1)有機溶媒の存在下で Mg をボールミルしても、結晶構造の変化はほとんど認められないこと、2)検討した金属錯体の中で、 ハロゲン化チタニウムがよく、特にTiClまたはTiBrのものが、適しており、Mg による水素の吸蔵速度が最も向上する。 特に、低温でも水素の吸蔵・放出が効率よくできるという利点がある。特に、水素化一脱水素を繰り返すことによって吸蔵速度がさらに向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
複合体の作製について1実施例を基にして説明する。
Mg粉末(和光純薬製138-13862、粒径45μm以下、純度99.5%)1.000g 、所定量の添加材、4mlの溶媒を、直径12mmのステンレス製ボールを7個(総重量約 50g)入れたステンレス製ボールミルポット(FRITSCH製、容積45ml)に入れた。アルゴン雰囲気下で密封後、遊星型ボールミル装置(FRITSCH 製P―7型)にセットした後、種々の条件でボールミルした。ボールミル後、1時間真空乾燥を行なった。複合体作製の流れをまとめたものを図1に示す。マグネシウム粉末1に、添加物2を混合し、溶媒3を加えてボールミルポットに充填し、ボールミル装置4にて撹拌混合する。ここまでの操作はすべて不活性雰囲気下で行う。時間については設定時間にて行うこととする。次いで、真空5中にて乾燥し、複合体粉末6を得る。
【0013】
先ず、マグネシウムと溶媒との適正について、実験した。溶媒としては、シクロヘキサン、THF,エタノール、トルエン、を用い、ボールミルの回転数は300rpm、時間は1時間と設定して行い、評価としては、Mgの構造性及び水素吸蔵特性を調査した。その結果、図2に示すように、エタノール中でボールミルした Mg では 20〜 30°付近にブ口−ドなピークが認められる。ボールミル後の試料の質量はボールミル前の約 2 倍になっていたことから、ボールミルの間に Mg とエタノールが反応してマグネシウムエトキシドがMg表面に生成していると考えられる。他の溶媒中でボールミルした Mg には新たな結晶相の生成は認められなかった。また、 Mg の回折ピークのシフトや、ピーク幅の増加もほぼ認められなかった。これらのことから、エタノール以外の溶媒はボールミル中に Mg と反応したりせず、Mgに影響を及ぼさないことがわかった。
【0014】
THF 中でボールミルした Mg では、(002)面の回折ピークが最も強くなっている。これは他とは異なる粉砕がなされ、(001)の面(Z軸)方向に配向しやすい試料になっているのではないかと考えられる。このことは、この試料の SEM 写真において、板状の粒子が多くみられることからも示唆される。
【0015】
次に、シクロへキサン、 THF 、エタノール、トルエン、テトラリン中でボールミルした Mg の 200℃ での水素吸蔵量の経時変化を図 3 に示す。エタノールを用いた試料では、まったく水素を吸蔵しなかった。これは、 前述したように Mg とエタノールとの化合物を生成したことにより、水素の吸蔵を妨害したためと考えられる。また、 THF やトルエン中でボールミルした場合にはシク口へキサン中でボールミルした場合に比べて水素吸蔵速度が低かった。テトラリン中でボールミルした場合にはシクロへキサンよりも若干多くの水素を吸蔵し、試した溶媒の中では一番多量の水素を吸蔵した。このように水素吸蔵速度に違いが見られた理由のひとつとして、溶媒の脱水素のしやすさの差が考えられる。
【0016】
Mg とグラフアイトを有機溶媒存在下で、ボールミルした試料では、ボールミル中に有機物が分解し、それにともない脱水素して生成した水素分子が解離し Mg 中に取り込まれるという報告がある。すなわち、ボールミル中に有機溶媒が分解することにより水素分子が生成し、 Mg 粒子表面に水素化物相の核を形成する。この核が水素化の活性点として働き、水素吸蔵速度を向上させるのではないかということが考えられる。テトラリンおよびシクロヘキサンにはこのような効果が期待できるが、シクロヘキサンの方が安価で汎用性が高いという点から、溶媒としては、シクロヘキサンが最適であると考える。
【0017】
シクロヘキサン溶媒にMg粉末をいれて所定の回転数で1時間ボールミルした後のXRDパターンをとると、図4のようになった。図4を見る限りでは、新たな結晶相の生成などは認められないことがわかる。また、回折ピークのシフトはなくピーク幅もほとんど変化しなかったことから、シク口へキサン中でのボールミルにより Mg の結晶構造は変化しないと考えられる。更に、シク口へキサン中、異なる回転数でボールミルした Mg およびボールミル前の Mg 粉末について、比表面積を図5 に示す。これらの結果より、シク口へキサンが存在するとボールミルしても Mg 粒子がくっついて原料よりも巨大化することのないことがわかった。
【0018】
次に、水素吸蔵特性と回転数の影響について試験した。
シク口へキサン中で 300 rpm 、および 500rpm で 1 時間ボールミルした Mg 粉末の 250℃ での水素吸蔵量の経時変化を図6 に示す。この図より、シク口へキサン中でボールミルした Mg 粉末はボールミルしなかった Mg 粉末にくらべて、多量の水素を吸蔵することがわかる。ボールミル回転数が 300rpm の場合は測定開始 20 時間後で約 7 wt%近く吸蔵し、 500rpm の場合の約 3wt%と比べ水素吸蔵速度は速かった。
【0019】
図7 に 200℃で測定した場合の水素吸蔵量の経時変化を示す。いずれの回転数の場合も水素吸蔵速度は 250℃ の場合に比べて低下した。また、 250℃ の場合と同様に 300 rpmでボールミルした Mg 粉末が最も水素吸蔵速度が速かった。ボールミルによる Mg の水素吸蔵速度が速くなった原因としては、ボールミルにより Mg 表面酸化層の破壊が起きたり、表面に欠陥や歪が生じ水素化に活性なサイトが生成したりすることによると考えられる。
【0020】
次に、水素吸蔵特性とボールミル時間の影響について、検討した。
ボールミル時間を 30 分、 1 時間、 2 時間と変えた場合の 200℃ での水素吸蔵量の経時変化を 300rpmの 場合、500rpm の場合、を図8 に示す。回転数が 300rpm の場合には、ボールミル時間が 1 時間ボールミルした Mg 粉末が、もっとも多量の水素を吸蔵し、回転数が 500rpm の場合には、 30 min ボールミルしたものが最も多量の水素を吸蔵することがわかった。この結果を合わせて考えると、Mg単味の場合、最も優れた水素吸蔵特性をあたえるボールミル条件は、ボールミル回転数 300rpm 、ボールミル時間 1 h であった。
【0021】
次に、種々のTi化合物とMgの複合体の作製について試験した。
Ti 化合物としては、 Ti (和光純薬製 200-05202 、 325 mesh 、純度 95 %)、TiH(和光純薬製 208-08422 、粒径 45 μm 以下 、純度 95 %)、TiCl ( AIdrich 製 45 , 173-8 、純度 99 . 98 %)、TiCl (和光純薬製 202-12592 、純度 99.0 %)、TiBr(和光純薬製 501-22381、純度98 %)を用いた。溶媒にはシク口へキサンを用い、ボールミル条件は、回転数 500 rpm 、 1時間に固定した。Ti化合物は Mg に対してTi化合物中のTiが 1 wt .%含まれるように加えた。
【0022】
以上の各種条件に基づいて、図1の流れで作製したMg−Ti化合物中のTiの水素吸蔵特性に及ぼす影響を評価した。水素吸蔵特性に及ぼす Ti 化合物中の Ti の電子状態および配位子の影響を調べた。様々な Mg-Ti化合物複合体の 200℃ での水素吸蔵量の経時変化を図9に示す。この図より TiBrを用いた複合体が最も速い水素吸蔵速度を示し、TiClも比較的高い吸蔵速度を示した。TiBrとTiClの水素吸蔵曲線には誘導期がなく、水素化開始後すぐに水素が吸蔵されていることを示している。 Ti 、TiH 、 TiC1 、 Ti(OPr) の場合には低い水素吸蔵量しか示さなかった。水素吸蔵特性の優れていた Mg-TiBr、Mg -TiCl複合体についてまとめると、(1) Ti の価数が 4価である。 (2) Mg-TiBr及び Mg-TiClはボールミル中は液体である。 (3)配位子がハ口ゲン元素である、という共通点が挙げられる。
【0023】
(1)、(2)の共通点についてさらに調べるために、 4価であるが固体である Ti0 を用いて作製した複合体の水素吸蔵速度を調べ、比較した。それを図10 に示す。このことから、 Mg-Ti0 複合体では優れた吸蔵速度を示さなかった。作製法は異なるが Mg に Ti0を 20 wt%加えた複合体は、10分で 3.5 wt.%ほど吸蔵するという報告があり、上記のような結果が得られたのは本実験において添加量が非常にわずかであるためと考えられる。それを考慮すると、Mg-TiBr、 Mg-TiCl複合体の水素吸蔵特性の向上は(2)の液体であることが効いているのではないかと考えられる。(3)に関しては、図9において Ti の価数が 2 価である TiH と TiClとの水素吸蔵速度を比べてみると、配位子がハロゲンである TiClのほうが若干初期の水素吸蔵速度が速かった。
【0024】
このことより、ハ口ゲンが水素吸蔵速度を増大させる効果をもっていると考えられる。また、Ti のハ口ゲン化物は、空気中や水中で安定ではない。たとえば、TiClは空気中の水分と反応して、 HCI と Ti0 に変化する。すなわち、ハ口ゲン化物の不安定がMgとの分子レベルでの複合体形成を促進し、水素吸蔵速度を向上させているのではないかと考えられる。また Mg とハ口ゲン化物との反応は、TiCi を Mg で還元してTiを製造する工業的な方法(クロール法)があることからも可能であると考えられる。
【0025】
ボールミルした後のMg複合体の構造、表面形態および比表面積について、試験した。Ti 含有率 1 wt . %の Mg -TiBr、 Mg -TiCl 複合体および Mg 粉末の XRD パターンを図 11 に示す。 XRD パターンよりいずれの場合にも複合体の回折ピークは Mg のそれに一致し、新たな結晶相の生成などは認められなかった。また、回折ピークのシフトやピーク幅も大きくは変化していないことから、TiBrや TiCl の添加によって Mg のバルクの結晶構造は変化せず合金化もしていないと考えられる。 Mg-TiBr複合体において、 200℃ での水素化後には、Ti (OPr) 複合体のときと同様に MgHの回折パターンが観察された。
【0026】
Mg-TiBr、 Mg-TiC1複合体および Mg 粉末の SEM 写真を図12〜14に示す。どちらの複合体(図12,13参照)の粒径も、 20μm 以下の粒子が目立ち、 Mg のそれ(図14参照)に比べてやや小さくなっていることがわかった。Mg-TiBr、 Mg-TiCl 複合体の比表面積を図15 に示す。比表面積は、 Mgの3 〜3.5 倍ほどであった。
【0027】
複合体粒子表面の EPMA による組成分析を行った。 Ti 含有率 1 wt.%、 2 wt.%の Mg-TiBr複合体の分析結果を図 16, 17 にそれぞれ示す。Ti 含有率 l wt.%の複合体(図16参照)では、粒子表面上のどの部分においても Ti が lwt.%程度存在していることがわかる。 Ti 含有率2 wt.%の場合(図 17参照) には、 Ti の組成が全体的に増加し、まんべんなく2wt.%程度存在している。このことから、TiBrはボールミル中、融解して溶媒に溶解していると考えられることから、 Mg少量でもMgとよく混合されていることが示唆された。 Tj 含有量 1 wt.%、 2 wt.%の Mg-TiC1 複合体の分析結果を図 18 , 19 にそれぞれ示す。 Mg -TiBr複合体の場合と同様に、表面上のどの部分においても Ti が存在することがわかった。
【0028】
Ti 含有率の異なる Mg-TiBr、 Mg-TIC1 複合体の200 ℃ の水素吸蔵量の経時変化を図 20 、 21 に示す。 Mg -TiBr複合体ではTi 含有率が 1 wt.%の場合が最も水素吸蔵速度が速く、 Mg-TiCl 複合体の場合には 2 wt.%の場合であった。このような傾向は、添加物が多すぎると、逆に水素化の障壁となることを示唆しているのではないかと考えられる。
【0029】
Ti 含有率 1 wt.%の Mg -TiBr複合体、 Mg-TiCI 複合体を 200℃、24 時間水素化した試料および Mg を 300℃ 、 24時間水素化した試料を、熱分析を行なった結果を図 22 に示す。 示差熱分析(DTA)より複合体水素化物の水素放出開始温度は原料の Mg よりも約 70℃ 低温側にシフトすることがわかった。複合体、Mg ともに水素化物の水素放出量は水素吸蔵量よりも少ないが、これは、測定中にわずかに含まれる酸素によって酸化が起ごり、重量増加となり、重量減少分を相殺しているからであると考えられる。
【0030】
500 rpm でボールミルした Ti含有率 1 wt.%のMg -TiBr複合体の種々の温度における水素吸蔵量の経時変化を図23 に示す。 300℃ では 10 分間で約 5.5 wt.%の水素を吸蔵することがわかった。また温度が下がるにつれて、水素吸蔵速度およぴ水素吸蔵量は低下した。しかし、水素吸蔵速度が遅いが、 200℃ より低温の 150℃ や、100℃ でさえ水素を吸蔵することがわかった。
【0031】
500 rpm でボールミルして作製した Ti含有率 1 wt.%の Mg -TiBr複合体を 200℃ で水素化、 400℃ で脱水素という過程を繰り返したときの 200℃での水素吸蔵量の経時変化を図24 に示す。この図より、水素吸蔵速度が最初の水素化では 30 分で約 3 wt.%であるのに対して、 2 回目以降では 30 分で約5 wt.%に達することがわかった。これは、水素化により Mg 粒子が割れ、 XPS で複合体内部に観察されたように、TiBr4の還元生成物と思われる金属上の Ti が外部に露出し、水素化反応の活性サイトとして働くためではないかと考えられる。
【0032】
200℃ で一回目の水素吸蔵を行い、その後 400℃ で脱水素した Mg -TiBr複合体に関して、 2 回目の水素化を 150 ℃および100 ℃ で行なったときの水素吸蔵量の経時変化を図 25、26 に示す。これらの結果より水素化を繰り返すことによって、水素吸蔵速度、水素吸蔵量ともに高くなり、水素吸蔵量は100℃ でさえ 24 時間後に約 5.0 wt.%に達した。図27 には、比較として、原料の Mg を 350℃で水素化し、 400℃ で脱水素した Mg を 200℃ で水素吸蔵速度を測定したときの結果を示している。この結果から、一度水素化を行なった Mg は 2 回目の水素化で水素を吸蔵することがわかった。
【0033】
200℃ での原料 Mg の一回目の水素化は測定を行なっていないが、 250℃ ではほとんど吸蔵しないことから、 200℃ でもほとんど吸蔵しないと予想される。この結果から考えると、最初の水素化が非常に遅いのは、Mg表面の酸化層を水素が通りにくいためと考えられる。 Mg-TiBr複合体は Mg に比べて、 2 回目の水素化速度は高くなっていることから、この差は複合化処理の効果であると考えられる。
【0034】
Mg を 350℃ で水素化し、 400℃で脱水素した後、 150℃ 、 100℃で得られた水素吸蔵量の経時変化を図28、29 に示す。また、図 27 , 28 ,29 の Mg および Mg -TiBr複合体について二回目の水素化吸蔵曲線のまとめたものを図 30に示す。これらの図より、一度水素化を行なった Mg は、 2 回目の水素化でも水素を吸蔵するが、 150℃ では 24h で 2 wt.%、 100℃ では 0.4 wt% 程度であった。 これに対して、Mg-TiBr複合体の水素吸蔵速度は、 Mg のそれを大きく上回っており、しかも低温になるにしたがってその差は大きくなっており、低温におけるTiBrの触媒効果が明らかになった。
【0035】
500rpm でボールして作製した Ti 含有量 1wt%の Mg-TiBr複合体を図24 に示した。水素化−脱水素を 5 回繰り返した後のSEM写真および比表面積を図31 に示す。図 31 より、水素化を繰り返した後には、粒径が 1μm ほどの小さな粒子が多く見られ、比表面積も水素化前の 2 . l m/g から 17.5m/gへと 8 倍ほどに増加していることがわかった。このことは、水素化−脱水素プ口セスを繰り返すことにより小さな粒子ができていると考えられる。水素化により Mg が微粉化した結果、反応面積が増加し、複合体内部にある金属状Ti が露出した結果、水素吸蔵速度が高くなったのではないかと考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の1実施例水素吸蔵合金の製造方法に関する基本的な流れ図を示す。
【図2】溶媒によってボールミルされたマグネシウム粉末のXRDパターンを示す。
【図3】Mgの水素吸蔵量の経時変化を示す。
【図4】シクロヘキサン溶媒による1時間ボールミルしたMgのXRDパターンを示す。
【図5】ボールミルの回転数とMg粉末比表面積との相関図である。
【図6】ボールミルの回転数と250℃でのMg粉末の水素吸蔵量の経時変化を示す。
【図7】ボールミルの回転数と200℃でのMg粉末の水素吸蔵量の経時変化を示す。
【図8】ボールミルの回転数と時間とにおけるMg粉末での水素吸蔵の相関図である。
【図9】Mg - Ti 化合物複合体の 200℃ での水素吸蔵量の経時変化を示す。
【図10】Mg-TiO2との比較示す200℃での水素吸蔵量の比較図である。
【図11】本発明に用いるMg -TiBr、 Mg -TiCl複合体および Mg 粉末における XRD パターンを示す比較図である。
【図12】Mg -TiBr複合体粉末のSEM写真を示す
【図13】Mg - TIC1 粉末のSEM写真を示す
【図14】Mg粉末のSEM写真を示す。
【図15】Mg -TiBr、 Mg - TiCI 複合体の比表面積を示す。
【図16】Mg -TiBr複合体(Ti 1 wt%)粒子表面のEPMAによる組成分析の結果図である。
【図17】Mg -TiBr複合体(Ti 2 wt%)粒子表面のEPMAによる組成分析の結果図である。
【図18】Mg - TiCI複合体(Ti 1 wt%)粒子表面のEPMAによる組成分析の結果図である。
【図19】Mg - TiCI複合体(Ti 2 wt%)粒子表面のEPMAによる組成分析の結果図である。
【図20】Ti 含有率の異なる Mg -TiBr複合体の 200 ℃ の水素吸蔵量の経時変化を示す。
【図21】Ti 含有率の異なるMg - TIC1 複合体の 200 ℃ の水素吸蔵量の経時変化を示す。
【図22】Ti 含有率 1 wt%の Mg -TiBr複合体、 Mg - TICI 複合体を 200℃ 、 24 時間水素化した試料および Mg を 300℃ 、 24 時間水素化した試料を、熱分析を行なった結果を示す。
【図23】T 1 含有率 1wt%の Mg -TiBr複合体の温度変化における水素吸蔵量の経時変化を示す。
【図24】Ti 含有率 1wt%の Mg -TiBr複合体を 200℃ で水素化、 400℃ で脱水素という過程を繰り返したときの 200℃での水素吸蔵量の経時変化を示す。
【図25】Mg -TiBr複合体に関して、 2 回目の水素化を 150℃で行なったときの水素吸蔵量の経時変化を示す。
【図26】Mg -TiBr複合体に関して、 2 回目の水素化を100℃ で行なったときの水素吸蔵量の経時変化を示す。
【図27】原料の Mg を 350℃で水素化し、 4O0℃ で脱水素した Mg を 200℃ で水素吸蔵速度を測定し、Mg -TiBr複合体での結果とを比較して示す。
【図28】Mg を 350℃ で水素化し、 400℃で脱水素した後、 1 50℃で得られた水素吸蔵量の経時変化を示す。
【図29】Mg を 350℃ で水素化し、 400℃で脱水素した後、1 00℃で得られた水素吸蔵量の経時変化を示す。
【図30】Mg および Mg -TiBr複合体について二回目の水素化吸蔵曲線をまとめて示す。
【図31】Mg -TiBr複合体の脱水素したあとのSEM写真および比表面積を示す。
【符号の説明】
【0037】
1 マグネシウム粉末
2 添加物
3 溶媒
4 ボールミル装置
5 真空乾燥
6 複合体粉末

【特許請求の範囲】
【請求項1】
主としてマグネシウム金属からなり、前記マグネシウムに対して金属チタニウムが少なくとも1wt%含むようにしたチタニウム4価のハロゲン化チタニウムをシクロヘキサン溶媒とともにボールミルにて混合し、乾燥後、該組成物に少なくとも1回の水素−脱水素処理をして該組成物の比表面積を大とすることを特徴とする水素吸蔵合金の製造方法。
【請求項2】
請求項1記載の製造方法において、ボールミルの混合が300rpmのときは、1時間混合とし、500rpmのときは、30分混合とすることを特徴とする請求項1記載の水素吸蔵合金の製造方法。
【請求項3】
請求項1記載の製造方法において、ボールミル混合中の温度を少なくとも250℃以下にしたことを特徴とする請求項1又は2のいずれかの1つに記載の水素吸蔵合金の製造方法。
【請求項4】
請求項1のハロゲン化チタニウムとして、TiClまたはTiBrを用いることを特徴とする請求項1記載の水素吸蔵合金の製造方法。
【請求項5】
請求項4のハロゲン化チタニウムとして、液状態の化合物とすることを特徴とする請求項4記載の水素吸蔵合金の製造方法。
【請求項6】
ハロゲン化チタニウムとして、TiBrを用いたことを特徴とする請求項4記載の水素吸蔵合金の製造方法。
【請求項7】
請求項1により製造した組成物の比表面積を1.8〜2.1 m2/gとしたことを特徴とする水素吸蔵合金。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【公開番号】特開2007−169708(P2007−169708A)
【公開日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−368201(P2005−368201)
【出願日】平成17年12月21日(2005.12.21)
【出願人】(505127721)公立大学法人大阪府立大学 (688)
【Fターム(参考)】