説明

水素吸蔵材料及びその製造方法

【課題】 希少元素の含有量が少なく、軽量であり、かつ、多量の水素を相対的に低温で吸蔵/放出することが可能な水素吸蔵材料及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】 組成式: (Ca1−xLi)1−zSi(但し、0.25≦x≦0.4、0.38≦z≦0.58)で表される水素吸蔵材料。また、Ca、Li及びSiの比が、組成式: (Ca1−xLi)1−zSi(但し、0.25≦x≦0.4、0.38≦z≦0.58)となるように、CaHと、LiHと、Siとを配合し、配合物を機械的混合プロセスで複合化する複合工程と、該複合工程で得られた水素化物複合体を熱処理する熱処理工程とを備えた水素吸蔵材料の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可逆的な水素の吸蔵・放出が可能な水素吸蔵材料及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、二酸化炭素の排出による地球の温暖化等の環境問題や、石油資源の枯渇等のエネルギー問題から、クリーンな代替エネルギーとして水素エネルギーが注目されている。水素エネルギーの実用化に向けて、水素を安全に貯蔵、輸送する技術の開発が重要となる。水素の貯蔵方法にはいくつかの候補があるが、中でも可逆的に水素を貯蔵・放出することのできる水素化物/水素吸蔵材料を用いる方法は、最も安全に水素を貯蔵・輸送する手段と考えられており、燃料電池車に搭載する水素吸蔵媒体として期待されている。
【0003】
水素吸蔵材料としては、活性炭、フラーレン、ナノチューブ等の炭素材料や、LaNi、TiFe等の水素吸蔵合金が知られている。これらの内、水素吸蔵合金は、炭素材料に比べて単位体積当たりの水素密度が高いので、水素を貯蔵・輸送するための水素吸蔵材料として有望視されている。
しかしながら、LaNi、TiFe等の水素吸蔵合金は、La、Ni、Ti等の希少金属を含んでいるため、その資源確保が困難であり、コストも高いという問題がある。
また、LaNi等の希土類系合金のように、初めから容易に水素を吸蔵するものもあるが、水素吸蔵合金は、一般に、合金表面に吸着しているガスや酸化被膜のため、初期の水素吸蔵能力は低い。そのため、このような合金においては、清浄な合金表面を露出させるための前処理(初期活性化)が必要となる。特に、TiFeは、初期活性化が難しく、相対的に多量の水素を吸蔵・放出させるためには、高温・高圧下での水素の吸蔵と吸蔵された水素の放出とを複数回繰り返す処理(活性化処理)が必要となる。
さらに、従来の水素吸蔵合金は、合金自体の重量が大きいために、単位重量当たりの水素密度が小さい、すなわち、大量の水素を貯蔵するために極めて重い吸蔵材料を必要とするという問題がある。
【0004】
そこでこの問題を解決するために、軽元素を含む種々の水素吸蔵材料の開発が試みられている。例えば、特許文献1及び非特許文献1には、六方晶系C12型結晶構造を有するCa(Si2−x)(0<x≦0.5、0.8≦y≦1.2)、及び、Cr型結晶構造を有するCaSiが開示されている。
【0005】
また、特許文献2には、組成式(Ca1−x)(Si1−y)(Aは、アルカリ金属元素、アルカリ土類金属元素、希土類元素、3〜6族元素、Ni、Au、In、Tl、Sn、Fe、Co、Cu、Agから選ばれる少なくとも1種、Bは、7〜17族元素、希土類元素、Hf、Beから選ばれる少なくとも1種、0≦x<1、0≦y<1)で表される水素吸蔵材料が開示されている。
さらに、非特許文献2には、LiHとSiの混合物を遊星ボールミルで機械的に粉砕することにより得られる混合物が開示されている。同文献には、2.5LiH+Si混合物及びこれから脱水素することにより得られるLixSi合金は、476℃において、約5wt%の水素を吸蔵/放出する点が記載されている。
【0006】
【特許文献1】特開平10−8180号公報
【特許文献2】特開2004−176089号公報
【非特許文献1】J.Solid State Chem., 2001, 159, p.149-162
【非特許文献2】J.J.Vajo et al., J.Phys.Chem.B, 2004, 108, 13977-13983
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
Ca及びSiは、資源が豊富であるので、これらを構成元素とする水素吸蔵材料は、低コストである。しかしながら、Ca(Si2−x)、及び、CaSiは、いずれも、室温付近での水素の吸蔵は困難である。また、水素を吸蔵・放出させるためには、高温、高圧下での活性化処理が必要となる。
また、LiH+Si混合物及びこれから脱水素することにより得られるLixSi合金は、Li量(x)を最適化することによって、相対的に多量の水素を吸蔵/放出することができるが、動作温度が400℃以上と非常に高い。
【0008】
本発明が解決しようとする課題は、希少元素の含有量が少なく、軽量であり、かつ、多量の水素を相対的に低温で吸蔵/放出することが可能な水素吸蔵材料及びその製造方法を提供することにある。
また、本発明が解決しようとする他の課題は、いわゆる「活性化処理」が不要な水素吸蔵材料及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために本発明に係る水素吸蔵材料は、
組成式: (Ca1−xLi)1−zSi
(但し、0.25≦x≦0.4、0.38≦z≦0.58)
で表されるものからなる。
また、本発明に係る水素吸蔵材料の製造方法は、Ca、Li及びSiの比が、
組成式: (Ca1−xLi)1−zSi
(但し、0.25≦x≦0.4、0.38≦z≦0.58)
となるように、CaHと、LiHと、Siとを配合し、配合物を機械的混合プロセスで複合化する複合工程と、該複合工程で得られた水素化物複合体を熱処理する熱処理工程とを備えていることを要旨とする。
【発明の効果】
【0010】
Ca、Li及びSiを含む水素吸蔵材料において、これらの元素比を最適化すると、200℃〜230℃において、相対的に多量の水素を吸蔵/放出する。これは、
(1) 水素と反応しやすい親水素性元素であるCaやLiと、水素と反応し難い疎水素性元素であるSiとを合金化することにより、これらが熱的に不安定となり、より低温での水素の吸蔵・放出が可能となること、及び、
(2) CaLiSi型結晶構造を有する化合物相の割合が高くなるほど、より低温で水素吸蔵/放出反応が進行すること、
によると考えられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の一実施の形態について詳細に説明する。
なお、本発明において、「水素吸蔵材料」とは、水素ガスを吸蔵する能力を有するものをいう。「水素吸蔵材料」という時は、水素を完全に放出した材料だけでなく、最大吸蔵量に満たない水素を吸蔵している材料も含まれる。
また、本発明において、「水素化物複合体」とは、2種以上の金属水素化物を含む複合体であって、水素ガスを放出する能力を有するものをいう。
【0012】
本発明に係る水素吸蔵材料は、(1)式に示す組成式で表されるものからなる。
(Ca1−xLi)1−zSi ・・・(1)
(但し、0.25≦x≦0.4、0.38≦z≦0.58)
(1)式において、xが0.25未満であると、水素吸蔵量が低下する。一方、xが0.40を超えると、水素の吸蔵/放出が容易なCaLiSi型結晶構造を有する化合物相(以下、これを単に「CaLiSi型化合物相」という。)の含有量が少なくなる。CaLiSi型化合物相の含有量をある一定量以上とし、水素の吸蔵/放出を容易化するためには、xは、さらに好ましくは、0.30以上0.36以下である。
また、(1)式において、zが0.38未満である場合、及び、zが0.58を超える場合は、いずれも、CaLiSi型結晶構造を有する化合物相の含有量が少なくなる。CaLiSi型化合物相の含有量をある一定量以上とするためには、zは、さらに好ましくは、0.45以上0.55以下である。
【0013】
Ca−Li−Si系には、種々の化合物相がある。これらの化合物相の中でも、CaLiSi型化合物相は、優れた水素吸蔵/放出特性を示す。優れた水素吸蔵/放出特性を得るためには、水素吸蔵材料は、CaLiSi型化合物相を主相とするものが好ましい。
ここで、「CaLiSi型化合物相を主相とする」とは、水素吸蔵材料全体に占めるCaLiSi型化合物相の割合が50mol%以上であることを言う。高い水素吸蔵/放出特性を得るためには、CaLiSi型化合物相の割合は、高いほど良い。後述する方法を用いると、CaLiSi型化合物相の割合が80mol%以上である水素吸蔵材料が得られる。
【0014】
次に、本発明に係る水素吸蔵材料の製造方法について説明する。本発明に係る水素吸蔵材料の製造方法は、複合工程と、熱処理工程とを備えている。複合工程は、Ca、Li及びSiの比が(1)式に示す組成式となるように、CaHと、LiHと、Siとを配合し、配合物を機械的混合プロセスで複合化する工程である。
【0015】
まず、出発原料であるCaH、LiH及びSiを所定の比率で配合する。出発原料の形態は、特に限定されるものではないが、通常は、粉末を用いる。
また、出発原料として粉末を用いる場合、その粒径は、特に限定されるものではない。一般に、出発原料として粒径の細かい粉末を用いるほど、複合化させる際の負荷を軽減することができる。一方、必要以上に細かい粉末を出発原料として用いると、粉末表面が酸化等により被毒されるおそれがある。従って、粉末の粒径は、作業性、コスト、被毒の有無等を考慮して、最適な粒径を選択するのが好ましい。
【0016】
次に、所定の比率で配合された出発原料を機械的混合プロセスで複合化する。機械的混合プロセスにより出発原料を処理すると、CaH、LiH及びSiが所定の比率で配合された水素化物複合体が得られる。
この場合、水素化物複合体は、CaH、LiH及びSiが均一、かつ、微細に分散しているのが好ましい。構成物質が均一かつ微細に分散しているほど、後述する熱処理工程において、合金化が容易化する。また、水素の吸蔵/放出反応は、元素の拡散を伴うので、各構成物質が均一かつ微細に分散しているほど、可逆的な水素の吸蔵/放出を容易に行うことができる。構成物質が均一かつ微細に分散している水素化物複合体は、機械的混合プロセスの処理条件を最適化することにより得られる。
【0017】
ここで、「機械的混合プロセス」とは、出発原料に機械的応力を与え、粉砕しながら均一に混合するプロセスをいう。このような機械的混合プロセスとしては、具体的には、遊星ボールミル、回転ミル、振動ミル等の粉砕機で原料粉末を混合粉砕する方法、乳鉢で原料粉末を混合粉砕する方法などがある。
機械的混合プロセスは、出発原料の酸化を防ぐために、非酸化雰囲気下(例えば、アルゴン雰囲気下、水素雰囲気下など)で行うのが好ましい。
また、機械的混合プロセスの処理時間は、出発原料の均一かつ微細な混合物が得られるように、処理方法、出発原料の種類、形態等に応じて、最適な処理時間を選択する。一般に、処理時間が長くなるほど、出発原料が微細に粉砕され、粉砕された粉末が均一に混合した複合体が得られる。但し、必要以上の処理は、効果に差がなく、実益がない。例えば、遊星ボールミルを用いて混合粉砕する場合において、出発原料として粉末を用いる時には、処理時間は、1〜十数時間が好ましい。
【0018】
熱処理工程は、複合工程で得られた水素化物複合体を熱処理する工程である。水素化物複合体を所定の条件下で熱処理すると、水素化物複合体から水素が放出されると同時に、Ca−Li−Siが合金化し、(1)式に示す組成を有する水素吸蔵材料が得られる。
【0019】
熱処理条件は、特に限定されるものではなく、水素化物複合体の組成や、水素吸蔵材料に要求される特性等に応じて、最適な条件を選択する。
一般に、加熱温度が高くなるほど、脱水素が容易化する。また、加熱温度が高くなるほど、元素の拡散が容易化するので、合金化が促進され、CaLiSi型化合物相の含有量が多い水素吸蔵材料が得られる。但し、加熱温度が高くなりすぎると、CaLiSi型化合物相以外の化合物相の割合が増加するので好ましくない。
加熱時間は、加熱温度に応じて、最適な時間を選択する。一般に、加熱温度が高くなるほど、短時間で脱水素及び合金化を完了させることができる。また、加熱時の雰囲気は、非酸化雰囲気下(例えば、アルゴン雰囲気下)が好ましい。
【0020】
このようにして得られた水素吸蔵材料と水素ガスとを所定の条件下で反応させると、水素が吸蔵され、最終的には水素化物複合体に戻る。最適な水素との反応条件は、水素吸蔵材料の組成によって異なるが、通常は、水素ガスの圧力:0.1〜50MPa程度、温度:100〜800℃(373〜1073K)程度である。
例えば、(1)式で表される水素吸蔵材料を、水素ガスの圧力:9MPa、温度:230〜250℃(503〜523K)の条件下で水素と反応させると、2.5〜2.9wt%の水素ガスを吸蔵することができる。また、このようにして得られた水素化物複合体を、温度:250℃(523K)、水素ガスの圧力:1MPaの条件下で加熱すると、吸蔵した水素ガスの全量を放出することができる。
【0021】
次に、本発明に係る水素吸蔵材料及びその製造方法の作用について説明する。
本発明に係る水素吸蔵材料(及び水素化物複合体)は、500K程度の低温において、相対的に多量(3wt%程度)の水素を放出/吸蔵することができる。このような優れた水素放出/吸蔵特性を示す理由の詳細については、明らかではないが、以下のような理由によると考えられる。
【0022】
すなわち、CaやLiは、水素と反応しやすい親水素性元素である。そのため、CaやLiと結合している水素を放出させるためには、相対的に大きなエネルギーを必要とする。一方、Siは、水素と反応し難い疎水素性元素である。そのため、Ca、Liに対してSiを合金化させると、水素化物が熱的に不安定となり、相対的に低温において水素の可逆的な吸蔵・放出が可能となると考えられる。
【0023】
また、Ca−Li−Si系の金属間化合物の中でも、CaLiSiは、他の化合物に比べて、水素吸蔵量が多く、しかも、水素吸蔵・放出反応が比較的容易である。次の(2)式に、CaLiSiの水素吸蔵・放出反応の反応式を示す。
CaLiSi+5/2H ⇔ 2CaH+LiH+3Si ・・・(2)
(水素吸蔵・放出量 2.9wt%)
そのため、水素吸蔵材料に含まれるCaLiSi型化合物相の割合が高くなるほど、相対的に低温における水素の吸蔵・放出が容易化し、水素吸蔵量も増大すると考えられる。
【0024】
CaLiSi型化合物相は、所定の比率で配合されたCa、Li及びSiの混合物を溶解・鋳造することによっても生成する。しかしながら、溶解・鋳造法では、単相のCaLiSiを得るのは難しい。これに対し、水素化物を出発原料に用いて、これらを機械的混合プロセスにより複合化し、水素を放出させると、CaLiSi型化合物相の含有量が高い均質な材料を容易に作製することができる。
【0025】
本発明に係る水素吸蔵材料は、Ca、Siを主要構成元素としているので、軽量かつ安価である。また、Ca、Siに対して、さらにLiが添加されているため、より軽量となり、単位重量当たりの水素密度が向上する。さらに、本発明に係る水素吸蔵材料は、活性化が容易であり、基本的には、高温・高圧下での水素の吸蔵と吸蔵された水素の放出とを複数回繰り返す活性化処理を必要としない。
そのため、これを例えば、燃料電池システム用の水素貯蔵物質に応用すれば、燃料電池システムのエネルギー効率を飛躍的に向上させることができる。
【実施例】
【0026】
(実施例1)
Ca−Li−Si3元系合金(CaLiSi、CaLiSi、及び、Ca1.65Li1.85Si)の水素化反応の生成熱ΔHの計算を行った。計算には、密度汎関数法を用いた。なお、交換相関エネルギーには、局所密度近似に密度勾配の補正を施したものを使用した。表1に、生成熱ΔH及び水素吸蔵量の計算結果を示す。なお、表1には、比較のためにCaSiの実験結果も併せて示した。
表1より、CaLiSiは、生成熱ΔHの絶対値が最も小さく、かつ、水素吸蔵量が最も大きいことがわかる。生成熱ΔHの絶対値が小さいことは、より低温において水素の吸蔵・放出反応が生ずる可能性があることを示している。
【0027】
【表1】

【0028】
(実施例2)
CaH粉末(純度95%)、LiH粉末(純度95%)、Si粉末(純度99.999%)をArガスで満たされたグローブボックス内で秤量した。次いで、秤量された混合粉末0.8gを鋼鉄製ボールと一緒にミリング容器に入れ、アルゴン雰囲気下で10時間ミリング処理した。得られた粉末を冷間プレスし、さらに加熱炉を用いてAr雰囲気下で熱処理し、Ca0.67Li0.33Si組成を有する合金を得た。
【0029】
得られた合金をグローブボックス内で粉砕後、水素吸蔵・放出特性の評価を行った。Ca0.67Li0.33Si合金の場合、活性化処理することなく、水素圧力:9MPa、温度:230℃の条件下で水素と反応させたところ、2.9wt%の水素を吸蔵した。また、水素を吸蔵した後の材料を250℃に加熱すると、吸蔵した水素の全量を放出した。さらに、水素吸蔵・放出過程を10サイクル繰り返した後の水素吸蔵量を測定したところ、1サイクル目の水素量と同等の値であった。
【0030】
また、得られた合金及び水素吸蔵後の合金について、粉末X線回折測定を行った。その結果、粉末X線回折プロファイルから、
(1) 水素吸蔵前の合金は、ほぼCaLiSi型化合物相の単相であること、
(2) 水素を吸蔵させると、CaH、LiH及びSiに分解すること、並びに、
(3) 水素を放出させると、再度、CaLiSi型化合物相に戻ること、
を確認した。
【0031】
(実施例3)
CaH粉末(純度95%)、LiH粉末(純度95%)、Si粉末(純度99.999%)をArガスで満たされたグローブボックス内で秤量した。次いで、秤量された混合粉末2.0gを鋼鉄製ボールと一緒にミリング容器に入れ、アルゴン雰囲気下で5時間ミリング処理した。得られた粉末を冷間プレスし、さらに加熱炉を用いてAr雰囲気下で熱処理し、Ca0.75Li0.25Si組成を有する合金を得た。
【0032】
得られた合金をグローブボックス内で粉砕後、水素吸蔵・放出特性の評価を行った。Ca0.75Li0.25Si合金の場合、活性化処理することなく、水素圧力:9MPa、温度:230℃の条件下で水素と反応させたところ、2.5wt%の水素を吸蔵した。また、水素を吸蔵した後の材料を250℃に加熱すると、吸蔵した水素の全量を放出した。さらに、水素吸蔵・放出過程を10サイクル繰り返した後の水素吸蔵量を測定したところ、1サイクル目の水素量と同等の値であった。
【0033】
(実施例4)
CaH粉末(純度95%)、LiH粉末(純度95%)、Si粉末(純度99.999%)をArガスで満たされたグローブボックス内で秤量した。次いで、秤量された混合粉末1.0gを鋼鉄製ボールと一緒にミリング容器に入れ、アルゴン雰囲気下で2時間ミリング処理した。得られた粉末を冷間プレスし、さらに加熱炉を用いてAr雰囲気下で熱処理し、Ca0.6Li0.4Si組成を有する合金を得た。
【0034】
得られた合金をグローブボックス内で粉砕後、水素吸蔵・放出特性の評価を行った。Ca0.6Li0.4Si合金の場合、活性化処理することなく、水素圧力:9MPa、温度:230℃の条件下で水素と反応させたところ、2.8wt%の水素を吸蔵した。また、水素を吸蔵した後の材料を250℃に加熱すると、吸蔵した水素の全量を放出した。さらに、水素吸蔵・放出過程を10サイクル繰り返した後の水素吸蔵量を測定したところ、1サイクル目の水素量と同等の値であった。
【0035】
図1に、(Ca1−xLi)Si合金のLi量xと、水素吸蔵量との関係を示す。図1より、Li量xを0.25以上とすると、水素吸蔵量が2.5wt%以上である水素吸蔵材料が得られることがわかる。
【0036】
以上、本発明の実施の形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々の改変が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明に係る水素吸蔵材料及びその製造方法は、燃料電池システム用の水素貯蔵手段、超高純度水素製造装置、ケミカル式ヒートポンプ、アクチュエータ、金属−水素蓄電池用の水素貯蔵体等に用いられる水素吸蔵材料及びその製造方法として使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】(Ca1−xLi)Si合金のLi量と水素吸蔵量との関係を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
組成式: (Ca1−xLi)1−zSi
(但し、0.25≦x≦0.4、0.38≦z≦0.58)
で表される水素吸蔵材料。
【請求項2】
CaLiSi型結晶構造を有する化合物相を主相とする請求項1に記載の水素吸蔵材料。
【請求項3】
Ca、Li及びSiの比が、
組成式: (Ca1−xLi)1−zSi
(但し、0.25≦x≦0.4、0.38≦z≦0.58)
となるように、CaHと、LiHと、Siとを配合し、配合物を機械的混合プロセスで複合化する複合工程と、
該複合工程で得られた水素化物複合体を熱処理する熱処理工程とを備えた水素吸蔵材料の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2006−256888(P2006−256888A)
【公開日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−74740(P2005−74740)
【出願日】平成17年3月16日(2005.3.16)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【出願人】(000003218)株式会社豊田自動織機 (4,162)
【Fターム(参考)】