説明

水素水の調整方法及び生水器

【課題】水と反応して短時間で水素を発生する水素発生剤を用いて水素水を調整する方法に於いて、剤と水の反応生成物が水素水中に残存しない安全で且つ高濃度の溶存水素を含む水素水を簡便に調整する方法とその生水器を開発すること。
【解決手段】PETボトルなどの容器内に水若しくは水溶液(A液)を入れて、その開口部に底壁と側壁からなる隔壁で形成された内部空間を有する内蓋を挿入する。この内蓋内で水素発生剤と水を接触させて水素を発生させ、内蓋の隔壁に設けた連通孔から水素のみを容器空間に導きA液と接触させる。外蓋で容器を密閉して容器空間を水素で加圧状態にして水素の溶解を促進する。水素発生剤の加水分解速度が速い場合は外蓋で密閉してから内蓋内で剤と水を接触させる方法が好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はPETボトルなどの容器中の水、各種飲料水やお酒などの水若しくは水溶液に水素を溶解させる水素水の調整方法及びその装置に関する。
【背景技術】
【0002】
最近、水素ガスを溶解した水が人の健康に資するということで市場に登場し始めた。水素を溶解した水は水素水と呼ばれているが、その製造方法は大きく2種類に分類される。一つは、工場などで飲料水に水素を加圧溶解してそれを容器に充填する方法である(特許文献1)。他の方法は水と反応して水素を発生するマグネシウム金属粉末などの水素発生剤を用いて、水の入った容器内に水素発生剤を投入して密閉し、発生する水素を水に溶解させて水素水を調整する方法である(特許文献2)。
【0003】
水素は気体中で一番分子量が小さくそのために水素水を調整して容器に密閉しても、保存中に気散してしまう問題がある。従って、工場で水素水を調整して容器に詰めても保存や流通過程で水素が容器から気散してしまい、消費者の手元に渡った時点ではかなり水中の溶存水素濃度(DHと略す)が低下したものとなってしまう欠点があった。 一方、水素発生剤を使用する方法は、水素水を飲む直前に水素水を調整することが出来るので上記のような課題は解決されるが、マグネシウム金属は水との反応が遅く水素水を調整するのに時間を要したり、未反応の金属残渣が水中に残存する欠点があった。
【0004】
本発明者は最近、水との反応が早い水素化マグネシウム(MgH2)や水素化カルシウム(CaH2)などの水素化合物を用いた新規な水素発生剤を開発してこれらの欠点を解決した(特許文献3)。しかしながら、これらの水素発生剤は水素化合物の種類や組成によっては水との反応が早いため、水を入れた容器に水素発生剤を投入して密栓をする間に、水素が発生して容器の開口部から空気中に気散してしまう欠点が見つかった。
【0005】
この欠点を解決するために、本発明者らは内部空間を有する特殊な内蓋を用いて、その内部空間に水素発生剤を充填して水の入った容器の開口部に挿入し、外蓋で容器を密閉した後に容器を傾斜若しくは倒立させて容器内の水と水素発生剤を反応させることで、水素を気散させることなく容器内の水に溶解させる装置を考案した(実用新案文献1)。しかしながらこの方法では得られる水素水に水素発生剤が直接溶解するために、水素発生剤と水の反応生成物が水素水中に残存するため、反応生成物が飲用しても安全な水素発生剤を使用しなければならないという制限があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−177724号公報
【特許文献2】特開2007−1633号公報
【特許文献3】WO2007/055146号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】実用新案登録第3164045号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
水と反応して短時間で水素を発生する水素発生剤を用いて水素水を調整する際に、水素発生剤と水の反応生成物を水素水中に残存させない、飲用に適した高濃度のDHを有する水素水を簡便に調整する方法並びにその装置(生水器)を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題は水若しくは水溶液(A液と略す)に水素を溶解して水素水を調整する方法において、A液を開口部を有する容器内にいれ、前記開口部に底壁と側壁からなる隔壁(A)で囲まれた内部空間を有する内蓋を挿入し、該内蓋内で水素発生剤と水を接触させて水素を発生させ、この水素のみを内蓋内と容器内を連通する連通孔を通してA液へ溶解させる水素水の調整方法で解決される。
【0010】
この方法に於いて外蓋で容器を密閉した後に、該容器に外力を加えて水素発生剤と水を接触させる方法が水素を容器の外に気散させないので好ましい。また、これらの調整方法に於いて使用する水素発生剤としては水素化アルカリ土類金属若しくは水素化アルカリ土類金属を含む組成物を用いるのが剤の安全性や水素発生速度が速いので好ましい。
【0011】
また上記課題は開口部を有する容器と、前記開口部に挿入する内蓋と、前記容器を密閉する外蓋からなる器具であって、前記内蓋は側壁と底壁からなる隔壁(A)で囲まれた内部空間を有し、該隔壁に前記容器内の空間と連通する連通孔が存在する器具と水素発生剤のセットからなる生水器を用いることで解決される。
【0012】
この生水器において連通孔にチューブ状の細管が挿入されており、該細管の一端は内蓋の内部空間の上部まで伸長し、他端は容器の底部付近まで伸長している生水器が好ましく、また内蓋が円筒状であり、連通孔が円筒底部にありチューブ状の細管がこの連通孔を通過して伸張している生水器が好ましい。
【0013】
細管で内蓋の内部空間と容器内が連通する生水器において、容器の開口部にアダプターが装着されており、該アダプター内に内蓋が挿入されアダプターの開口部を外蓋で密閉する構造を有する生水器が好ましい。
【0014】
細管を装着しない内蓋の場合、内蓋の内部空間が隔壁(B)により上部空間(71)と下部空間(72)に分割され、前記隔壁には内蓋を傾斜若しくは振動すると可動して上部空間(71)と下部空間(72)を連通させる可動体が存在し、上部空間(71)の側壁に連通孔が存在する生水器が好ましく、更に内蓋が上部空間(71)を形成する上部内蓋と下部空間(72)を形成する下部内蓋に分離可能な構造を有する生水器がより好ましい。
【0015】
さらに、細管を装着しない内蓋を使用する場合、外蓋の上面の一部に貫通孔が存在し、該貫通孔に弾性体が装着されている生水器も好ましい。これらの生水器において水素発生剤が水素化アルカリ土類金属若しくは水素化アルカリ土類金属を含む組成物を用いるのが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明の方法並びに生水器を用いることにより、水素発生剤と水の反応生成物を水素水中に残存させることなく高いDHを含む水素水を調整することが出来た。そのために用いる水素発生剤の制限を緩和することが可能となり飲用に適した水素水を簡便に短時間で調整することが出来た。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1は本発明の生水器に用いる器具の1例の断面図である。(実施例1,2)
【図2】図2は図1の器具に用いられる内蓋でa)は断面図、b)は上面図である。
【図3】図3は図1の容器にA液を入れて内蓋内に水素発生剤を充填した状態の断面図である。
【図4】図4は図3に於いて内蓋内で水素発生剤と水を接触させた状態の断面図である。
【図5】図5は本発明の生水器の他の態様を示す断面図である。(実施例4)
【図6】図6は本発明の生水器に用いる他の態様の内蓋でa)断面図、b)上面図である。(実施例3)
【図7】図7は図6の内蓋の組み立ての断面図である。
【図8】図8は図6の内蓋の下部空間に水素発生剤を充填し、上部空間に水の入った内蓋がA液の入った容器の開口部に挿入されて外蓋で密閉された状態を示す断面図である。
【図9】図9は本発明の生水器に用いる器具の他の態様を示す断面図である。(実施例5,6,7,9)
【図10】図10は図9の器具に使用される内蓋のa)断面図、b)上面図である。
【図11】図11は図9の容器にA液を入れ、内蓋内に水素発生剤を充填した状態の断面図である。
【図12】図12は図11の容器開口部を外蓋で密閉し、容器の側壁を圧迫して容器内のA液を細管を通して内蓋内の水素発生剤と接触させた状態の断面図である。
【図13】図13は図11の内蓋の内部空間上部に消泡材を配置させた状態の断面図である。(実施例8)
【図14】図14は本発明の生水器に用いる器具の他の態様を示す断面図で容器開口部にアダプターを装着したものである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の水素水の調整方法並びにその生水器を以下に図面を援用して説明する。図1は開口部を有する容器(1)の開口部に、内蓋本体(2)が挿入され容器の外蓋(3)で密閉された器具の断面図を示したものである。特徴的なのはこの内蓋の隔壁に内蓋の内部空間と容器内の空間を連通する連通孔(4)が設けられている事である。
【0019】
図2は図1の内蓋の断面図と上面図である。内蓋本体(2)は側壁(5)と底壁(6)からなる隔壁で形成される内部空間(7)を有し、内蓋上部の隔壁には連通孔(4)が1個以上存在する。
【0020】
図3は図1の容器内にA液(8)を入れ、更に内蓋の内部空間に水素発生剤(9)を充填し状態の断面図である。この状態で内蓋内に水(10)をスポイド等を用いて少量注入して水素発生剤と接触させて直ちに外蓋(3)で容器を密閉した状態が図4である。
【0021】
水と接触した水素発生剤からは水素が発生しその水素は連通孔(4)を通して容器の上部空間に移動して水と接触してA液へ溶解する。この水素水の調整方法(前接触法と略す)は水素発生剤が水と接触して水素を発生する速度(以降、加水分解速度と言う)が比較的に緩やかな水素発生剤を用いて水素水を調整する場合に適している。内蓋内の水素発生剤と水の反応液が連通孔から容器内へ漏洩するのを防ぐために連通孔(4)は内蓋の上部にあるのが好ましい。
【0022】
一方、加水分解速度の速い水素発生剤の場合は上記の方法では外蓋で密閉する間に空気中へ水素が一部気散してしまう恐れがある。このような場合は外蓋で容器開口部を密閉した後に水を内蓋に注入する方法が好ましい(後接触法と略す)。例えば、外蓋で密閉した後に容器を少し傾斜させて容器側壁を手で圧迫することで容器内のA液を連通孔(4)を通して内蓋内に注入することが出来る。
【0023】
注入されたA液は水素発生剤と接触して水素を直ちに発生するので、水素発生剤との反応液が連通孔から漏洩しないようにA液を注入後、容器を直ちに正立状態に戻すのが好ましい。発生した水素は連通孔(4)を通して容器内の上部空間に移動して容器内のA液に溶解し水素水が生成される。
【0024】

外蓋で密閉後に水素発生剤と水の接触を確実に行う方法としては図5に示した器具や方法を用いることが出来る。外蓋に小孔を開けてその孔にゴム等の弾性体(11)を装填した外蓋を予め用意し、水素発生剤を充填した内蓋を容器開口部に挿入し前記の外蓋で密閉する。次いで注射器(12)と針(13)を使用して内蓋内に水を注入して水素発生剤と接触させる方法である。
【0025】
後接触法の器具としては内蓋の構造を工夫することで種々考えられる。図6は内蓋本体(2)が上部空間(71)を有する上部内蓋と下部空間(72)を有する下部内蓋で形成された内蓋を示す。上下の内蓋の間には隔壁B(14)が存在しこの隔壁には内蓋を傾斜若しくは振動すると可動して上部空間(71)と下部空間(72)を連通させる可動体(15)が存在する。また、上部空間(71)の側壁に連通孔が存在する。
【0026】
図6では隔壁(14)の中央部に設けられた円形の孔に着座した球状体(15)を示したが、円形の孔の直径よりも大きな直径を有する円盤状の板などでも良い。即ち、内蓋に外力(傾斜若しくは振動させるなど)を加えることにより可動体が移動して、隔壁(14)に水や粉体が通過できる間隙が生じる機能を有するものであれば良い。
【0027】
図7は図6の内蓋の好ましい組み立て図で、上部内蓋(21)は隔壁(14)を底壁とし側壁(51)とで形成される上部空間(71)を有し、下部内蓋(22)は底壁(6)と側壁(52)で形成される下部空間(72)を有し、上下の内蓋が分離可能な構造を示している。内蓋の内部空間が分離出来ることで下部内蓋に水素発生剤を充填して、上部内蓋の側壁(51)に嵌めこむことで水素発生剤を充填した内蓋が容易に得られる。
【0028】
図8はこの内蓋をA液の入った容器の開口部に挿入してスポイドなどで水を内蓋の上部空間に添加して、直ちに外蓋で容器を密閉した状態を示している。この状態で容器を傾斜させたり振動させると隔壁を構成する可動体が移動して上部の水(10)が下部内蓋へ注入されて水素発生剤と接触する。そして発生した水素は上部内蓋の連通孔を通じて容器内の空間に移動する。この内蓋では下部内蓋に水を入れ、上部内蓋に粉体状の水素発生剤を入れて同様に外力を容器に与えることで水素を発生させることが出来る。
【0029】
図9は本発明の生水器の他の態様の器具である。この器具では図10に示すように内蓋の底壁(6)に連通孔(4)があり、その連通孔を通してチューブ状の細管(16)が内蓋内部空間の上部まで一端が伸長している。細管の他端は容器の底部付近まで伸長させる。連通孔の位置は側壁に近い位置が、水素発生剤の充填が容易になるので好ましい。このような内蓋は底壁に連通孔を空けその直径とほぼ同じ外径を有するプラスチック製の細管を通すことで容易に作成できる。
【0030】
図11は容器内にA液を入れてその開口部に図10の内蓋を挿入し、水素発生剤(9)を充填した状態を示している。内蓋の底がA液中に沈んでいても細管が連通孔を完全に塞いでいるのでこの状態でA液が内蓋内に侵入することはない。水素発生剤の加水分解速度が緩やかな剤の場合は、この状態でスポイド等で水を内蓋内へ注入して直ちに外蓋で開口部を密閉することが出来る(前接触方式)。
【0031】
一方、加水分解速度が速い剤の場合は図12に示すように外蓋で容器開口部を密閉した後に容器の側壁に外力を加える、例えば手で圧迫することでA液は細管を上昇して内蓋内に注入される(後接触方式)。水若しくはA液と接触した水素発生剤から水素が発生し細管を通して容器内へ流出してA液内を気泡となって上昇し容器の上部空間に集合する。気泡がA液内を上昇中にも水素はA液に溶解するので細管の他端は容器の底部付近にあるのが好ましい。
【0032】
内蓋内での細管の端は出来るだけ外蓋に近い上部が好ましい。これは剤と水の反応液が細管を通して容器へ漏洩するのを防ぐためである。剤の組成によっては反応液が発泡して内蓋内を上昇する場合がある。その場合は図13に示すように内蓋の上部に消泡材(18)を配置することで反応液の容器への漏洩を効果的に防ぐ事が出来る。消泡材は柔らかい不織布など水やガスが容易に通過出来る柔軟性のあるものが好ましい。
【0033】

容器内の上部空間に集合した水素は発生した水素の容積と初期の容器空間の容積から計算される全圧に比例した圧力を容器内に与えるので容器内は加圧状態となる。従って外蓋を開ける際に一気に開けると容器内のA液が外部に噴き出す恐れがある。そのために外蓋の開放は少しづつ行うのが好ましい。容器内のA液の量を少なくして噴出を防ぐことが出来るが、図14に示すように容器開口部にアダプター(19)を別途装着してアダプター内に内蓋を挿入することでA液の水面と開口部の距離を大きくして噴出を防ぐのが効果的である。
【0034】
水素の水中への溶解は気液接触界面の面積が大きいほど早く、また界面での濃度分極などを考えると容器中の水を撹拌するのが短時間でDHの高い水素水を調整するのに好ましい。そのためには外蓋で密閉して容器内を水素で加圧状態にした後に容器を手で振動して容器内のA液を攪拌するのが好ましい。この撹拌効果を高めるために、予め容器内にプラスチックなどの板片を入れたり、内蓋や容器の底部に邪魔板などを設けた構造を有する器具を用いるなどの工夫は好ましい。
【0035】
本発明で用いる密閉容器は数気圧の圧力に耐える容器であれば金属製、プラスチック製のいずれでも使用可能である。プラスチック製では炭酸飲料水などに使用される肉厚のPETボトルが安全性の面から好ましい。また、容器本体(1)の大きさには制限は無いが、動力を使用せずに移動可能で簡便に水素水が調整できる本発明の生水器開発の目的からは100ml〜2Lの容積を有する容器が好ましい。容器の構造としては後接触方式で水素を発生させる場合は側壁が若干変形する軟構造を有したもの好ましい。
【0036】
本発明に用いられる水素発生剤は水と反応して短時間で水素を発生するものが用いられる。このような化合物としては水素化リチウム、水素化ナトリウムなどの水素化アルカリ金属、水素化マグネシウム(MgH2)、水素化カルシウム(CaH2)などの水素化アルカリ土類金属、水素化ホウ素ナトリウムや水素化ホウ素カリウムなどの水素化ホウ素金属塩と酸の組み合わせなどが例示される。また、従来のマグネシウム金属でも粉末状の金属を酸性の水と反応させると反応速度が速くなるので本発明の方法で水素水を調整することが出来る。
【0037】
本発明では内蓋内で発生する水素のみをA液に溶解するために、水素発生剤と水の反応生成物が有毒なものとして残存するような水素発生剤でも使用可能である。しかしながら、同一容器内にある内蓋内で反応させるために、内蓋の隔壁にある連通孔から反応液がA液中に混入する恐れが否定できないので安全な水素発生剤を用いることが好ましい。この観点から水素発生剤としては水素化アルカリ土類金属若しくはこれらを含む組成物からなる水素発生剤を用いるのが好ましい。
【0038】
CaH2は水との反応が著しく早いので反応速度を遅くするためにトレハロースやポリエチレングリコール(PEG)などの水溶性化合物中に溶融包埋して反応速度を遅くした水素発生剤として用いるのが好ましい。また、反応液はアルカリ性となるため中和する目的でクエン酸、コハク酸、シュウ酸、アジピン酸などの有機酸と混合して用いるのが好ましい。
【0039】
CaH2は水溶性化合物で溶融包埋して水素発生剤としても粉末状のものは加水分解速度が可なり早い。例えば1gの粉末状の剤は水と接触すると直ちに水素が発生し約2分で終了する。このような剤は後接触方式で水素を発生させるのに用いるのが好ましい。一方、粉末状の剤を固めて錠剤状に成型して用いると錠剤が水に溶解するまでの時間が必要となり、結果的に加水分解速度を穏やかにすることが出来る。例えば上述と同じ剤で成形した1gの錠剤は反応終了までに10分前後かかる。このように錠剤に成形した剤では前接触方式に用いることが出来る。
【0040】
MgH2の加水分解反応は高温の水や酸の共存で早く進行する。従って酸の共存下で使用するのが本願発明では好ましい。酸としては前述の有機カルボン酸が固体状粉末として市販されているのでそれを利用することが出来る。本発明者らの検討の結果、加水分解速度は(カルボン酸/MgH2)の中和当量比が大きいほど早い事が判明した。即ち、この当量比が1以下であれば加水分解速度が比較的に穏やかで前接触方式が可能であり、1以上では後接触方式が好ましい。
【0041】
また、当量比が大きいとMgH2の水素発生率(実測発生量/理論発生量)が大きくなることが分かった。従ってMgH2を大量の有機酸と共にPEGなどに溶融包埋することで水素発生率は高いが加水分解速度を抑えた剤を調整することが出来る。溶融包埋処理で得られる水素発生剤は反応速度を遅くする効果以外に剤の取扱い性が向上するので好ましい水素発生剤である。MgH2の粉末とカルボン酸の粉末の混合物も本願発明の水素発生剤として使用可能である。
【0042】
これらの水素発生剤は微量の水分とも反応して水素を発生するので、使用直前まではアルミラミネート袋などの透湿性の低い容器内に保管しておくのが好ましい。本発明の方法ではA液として水道水、天然水、炭酸水、お茶、ジュース等各種の飲料水を用いて水素水を調整することが出来る。
【0043】
以下に実施例を用いて本発明をさらに説明する。本発明での水素水中のDHの測定はガスクロマトグラフィー法で行った。PETボトル中の水素水のサンプリングは水素の気散を最小限にするために、外蓋を取り内蓋を取りだして直ちに図5に示したゴム栓付き外蓋で容器を密閉した。その後マイクロシュリンジでゴム栓を通してサンプリングを行った。
【実施例1】
【0044】
MgH2の粉末50mgとコハク酸の粉末243mgをビーカー内で均一に混合して水素発生剤とした。この水素発生剤の(コハク酸/MgH2)の中和当量比は1.0であり、水を添加して別途測定した水素発生量は67ml(25℃)で発生終了までに8分を要した。この発生量から計算した水素発生率は65.4%である。
【0045】
市販の280ml容量の肉厚PETボトルの開口部に挿入できる図2の内蓋をポリエチレン樹脂を加工して作成した。円筒状内蓋の側壁の外径は18mm、内部空間(7)の内径は16mm、フランジ部も含めた高さは60mmとした。また、連通孔(4)として直径2mmの孔を内蓋の上部から3mmの位置に4ケ作成した。PETボトルを密閉するための外蓋は市販の炭酸飲料用PETボトルの蓋を用いた。
【0046】
PETボトルに水道水を280ml入れて上記で試作した内蓋を容器開口部に挿入した。内蓋の内部空間(7)に上記で調整した水素発生剤の粉末を充填してスポイドで水を5mlその上に注入して直ちに外蓋で密閉した。10分間、容器を時々手で水平に振動させて容器内の水を撹拌した。その間、内蓋内の反応液が容器内へ漏洩することは無かった。その後、外蓋を開けるとシューという音が発生して内部が加圧状態であったことが分かった。容器内部の水素水のDHを測定したところ0.40ppmであった。比較のために市販のアルミ缶に充填された水素水中のDHを同様に測定すると0.17ppmであった。
【実施例2】
【0047】
無水トレハロースとアジピン酸の混合物をホットプレート上で溶融して、その中に硫酸ナトリウム、硫酸マグネシウム及び水素化カルシウム(CaH2)の粉末を添加して混合・撹拌した。この混合物を冷却して固化させることでトレハロースとアジピン酸の溶融体にCaH2等を溶融包埋した水素発生剤を得た。固化した混合物を粉砕機で粉砕して粉末状の水素発生剤を調整した。この水素発生剤1gを水と反応させると37ml(25℃)の水素が発生した。この粉末をシリンダー内に入れてピストンで加圧して直径18mm、厚み2.6mmの錠剤状の水素発生剤を成形した。
【0048】
実施例1で用いた器具を使用して、同様にPETボトルに水道水を280ml入れて内蓋を容器開口部に挿入した。内蓋の内部空間(7)に上記の錠剤状水素発生剤1gを4分割して入れ、スポイドで水道水を5ml添加して直ちに外蓋で密閉した。水の添加と同時に錠剤は水素を発生しながら水に溶解し水素の発生が終了するまでに約10分を要した。この間、内蓋内の反応液が容器内へ漏洩することは無かった。
【0049】
PETボトルを水素の発生が終了するまで手で軽く揺すって容器内の水を攪拌した。12分経過後、ボトルの外蓋を開けるとシューとする音が発生して内部が加圧状態であることを確認した。この間、内蓋内の反応液は連通孔から外部へ漏れて容器内の水と混合することはなかった。この水素水のDHは0.37ppmであった。
【実施例3】
【0050】
図7に示したような隔壁に球状体を可動体とした円筒状の上部内蓋(21)と、円筒状の下部内蓋(22)をプラスチックで成形した。上部内蓋の側壁の内径と外径は16mm、18mmでフランジ部を含めた高さは35mmとした。また、連通孔(4)として直径2mmの孔を上部から6mmの位置に4ケ作成した。球状体はアクリル樹脂で成形したものを用いた。下部内蓋は上部内蓋に嵌めこむためにその内径を18mmとし高さが35mmの円筒をプラスチックで成形した。
【0051】
下部内蓋(22)に実施例2で調整した粉末状の水素発生剤を1g充填して上部内蓋(21)に嵌めこみ、実施例2と同様に280mlの水道水の入ったPETボトルの開口部に挿入した。スポイドで水を5ml上部内蓋に添加して外蓋で密閉した。PETボトルを傾斜並びに揺すって球状体を移動させ上部内蓋の水を下部内蓋へ落下させ水素発生剤と反応させた。
【0052】
水の落下と同時に反応は進行して水素が発生し、約3分で水素の発生は終了した。その間、PETボトルを時々揺すって内部の水を攪拌させたが、内蓋内の反応液は外部に漏れることはなかった。水素の発生開始から10分経過後に、外蓋を開封するとシューと言う音が発生して容器内が加圧状態にあったことを確認した。水素水のDHを測定すると0.97ppmであった。
【実施例4】
【0053】
実施例1で用いた市販の280mlPETボトルと外蓋を用意した。外蓋の中心部に直径5mmの小孔を貫通させてその孔にシリコンゴム栓を挿入した。PETボトルに水道水を280ml入れその開口部に実施例1で用いた内蓋を挿入した。内蓋の内部空間に実施例2で調整した粉末状の水素発生剤1gを充填し上記のゴム栓付き外蓋で容器を密閉した。
【0054】
注射器に水道水を採取して注射針を外蓋のゴム栓に差し込み5mlの水を内蓋内に添加し注射針をゴム栓から抜き取った。水の添加と共に水素が発生して約2分間継続した。その間、PETボトルを時々揺すって内部の水を攪拌させたが、内蓋内の反応液は外部に漏れることはなかった。水の添加から5分後に外蓋を開封するとシューと言う音が発生して容器内が加圧状態にあったことを確認した。この水素水のDHを測定すると0.65ppmであった。
【実施例5】
【0055】
市販の280ml容量の肉厚PETボトルの開口部に挿入できる図10の内蓋を、円柱状のポリエチレン樹脂を機械加工して作成した。円筒状内蓋の側壁の外径は21mm、内部空間の内径は19mm、フランジ部も含めた高さは50mmとした。円筒の底壁に中心から離れた位置に直径3mmの貫通孔を開けて外径3mmのプラスチック製のチューブ(細管)を貫通させた。細管の長さはその端部が図9に示したように内蓋の上部付近、容器の底部付近に位置する長さに設定した。
【0056】
このPETボトルに水道水を280ml入れて上記で試作した内蓋を容器開口部に挿入した。内蓋の内部空間に実施例2で調整した粉末状の水素発生剤1gを入れ容器の外蓋で密閉した。次いで容器の側壁を手で2回圧迫して容器内の水を内蓋内に導入した。水と接触した水素発生剤から水素が発生して容器底部にある細管から気泡が発生するのが観察された。
【0057】
気泡の発生は約2分間継続し、その間ボトルを机の上で水平に振動させて容器内の水を攪拌した。内蓋内での反応液は発泡して内部空間を上昇したが細管の端部から漏洩して容器内の水に混入することはなかった。水素発生剤と水の接触開始から5分後に外蓋を開栓すると、シューと言う音が発生して内部が加圧状態であった事が解った。内蓋を取りだして容器内の水素水のDHを測定すると0.87ppmであった。
【実施例6】
【0058】
MgH2の粉末30mgとコハク酸の粉末292mgをビーカー内で均一に混合して水素発生剤とした。この水素発生剤の(コハク酸/MgH2)の中和当量比は2.0であり、水を添加して別途測定した水素発生量は51ml(25℃)で約3分で発生は終了した。この発生量から計算した水素発生率は84%である。
【0059】
実施例5で使用したのと同じ器具を用いて内蓋内にこの水素発生剤を充填して、280mlの水を入れたPET容器の開口部に挿入し外蓋で密閉した。水の入った容器の側壁を手で2回圧迫することで容器内の水を内蓋内に注入して水素発生剤と水を接触させた。容器の底部にある細管から激しく気泡が発生するのが観察された。約2分間容器を水平に振動させて容器内の水を撹拌した。5分後に外蓋を開けて容器内の水素水のDHを測定したところ0.97ppmであった。
【実施例7】
【0060】
ホットプレート上でPEG(分子量13000)を溶融して、その中にCaH2とコハク酸の粉末を添加して攪拌・混合した。溶融混合物を冷却して固化物を粉砕して粉末状の水素発生剤を得た。この水素発生剤1gを水と接触させると80ml(25℃)の水素が発生して2分で完了することを実験で確認した。
【0061】
実施例5と同様の器具を用いて同じ方法で水素水を調整した。但し、内蓋に充填した水素発生剤の量は0.66gとした。内蓋内の反応液が容器内に細管を通して漏洩することは無かった。得られた水素水中のDHは1.1ppmであった。
【実施例8】
【0062】
実施例2で調整したCaH2を含む粉末状の水素発生剤1.5gを図9の器具の内蓋内に充填し、内蓋上部の空間に35mm角に切断した不織布を挿入した(図13の状態)。実施例5と同様にして280mlの水を入れたPETボトルの開口部に内蓋を挿入して外蓋で容器開口部を密閉して同様に水素水を調整した。剤が水と接触してから5分後に外蓋を開栓して得られた水素水のDHを測定したところ、1.3ppmであった。また、内蓋の反応液が容器内に漏洩することはなかった。

【実施例9】
【0063】
実施例2で得られたCaH2からなる錠剤状の水素発生剤1gを4分割して図9の生水器の器具の内蓋に充填した。280mlPETボトル内に280mlの水を入れボトル開口部に上記の内蓋を挿入してスポイドで水を5ml注入して直ちに外蓋で容器を密閉した。
【0064】
容器内の細管の端から水素の気泡が激しく発生するのが確認された。水素の発生は約11分継続したので12分後に外蓋を開けて内蓋を取り出し容器内の水素水のDHを測定したところ0.51ppmであった。外蓋を開けるまでは容器を手で振動させて容器内の水を撹拌したが、内蓋内の反応液が容器内に漏洩することは無かった。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明により飲料に適した高濃度の水素を含む水素水を簡便な方法でしかも短時間で調整することが出来るので、人体の健康促進に役立つことが期待できる。
【符号の説明】
【0066】
1 容器本体
2 内蓋本体
21 上部内蓋
22 下部内蓋
3 外蓋
4 連通孔
5 側壁
51 上部内蓋側壁
52 下部内蓋側壁
6 底壁
7 内部空間
71 上部内部空間
72 下部内部空間
8 A液
9 水素発生剤
10 水
11 ゴム栓
12 注射器
13 注射針

14 隔壁(B)
15 球状体
16 細管
17 気泡
18 消泡材
19 アダプター

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水若しくは水溶液(A液と略す)に水素を溶解して水素水を調整する方法において、A液を開口部を有する容器内にいれ、前記開口部に底壁と側壁からなる隔壁で囲まれた内部空間を有する内蓋を挿入し、該内蓋内で水素発生剤と水を接触させて水素を発生させ、この水素のみを内蓋内と容器内を連通する連通孔を通してA液へ溶解させる水素水の調整方法。
【請求項2】
外蓋で容器を密閉した後に、該容器に外力を加えて水素発生剤と水を接触させる請求項1の調整方法。
【請求項3】
水素発生剤が水素化アルカリ土類金属若しくは水素化アルカリ土類金属を含む組成物である請求項1及び2の調整方法。
【請求項4】
開口部を有する容器と、前記開口部に挿入する内蓋と、前記容器を密閉する外蓋からなる器具であって、前記内蓋は側壁と底壁からなる隔壁(A)で囲まれた内部空間を有し、該隔壁に前記容器内の空間と連通する連通孔が存在する器具と水素発生剤のセットからなる水素水の生水器。
【請求項5】
連通孔にチューブ状の細管が挿入されており、該細管の一端は内蓋の内部空間の上部まで伸長し、他端は容器の底部付近まで伸長している請求項4の生水器。
【請求項6】
内蓋が円筒状であり、連通孔が円筒底部に存在する請求項5の生水器。
【請求項7】
容器の開口部にアダプターが装着されており、該アダプター内に内蓋が挿入され、アダプターの開口部を外蓋で密閉する構造を有する請求項5及び6の生水器。
【請求項8】
内蓋の内部空間が隔壁(B)により上部空間(71)と下部空間(72)に分割され、前記隔壁には内蓋を傾斜若しくは振動すると可動して上部空間(71)と下部空間(72)を連通させる可動体が存在し、上部空間(71)の側壁に連通孔が存在する請求項4.の生水器。
【請求項9】
内蓋が上部空間(71)を形成する上部内蓋と下部空間(72)を形成する下部内蓋に分離可能な構造を有する請求項8の生水器。
【請求項10】
外蓋の上面の一部に貫通孔が存在し、該貫通孔に弾性体が装着されている請求項4の生水器。
【請求項11】
水素発生剤が水素化アルカリ土類金属若しくは水素化アルカリ土類金属を含む組成物である請求項4から10の生水器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2012−176395(P2012−176395A)
【公開日】平成24年9月13日(2012.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−127493(P2011−127493)
【出願日】平成23年6月7日(2011.6.7)
【出願人】(300052051)株式会社ヒロマイト (5)
【Fターム(参考)】