説明

水素発生体、水素発生装置、並びに発電装置及び駆動装置

【課題】水素を効率的に安定して供給可能で、安全且つ環境負荷の小さい水素発生体を提供すること。また、当該水素の発生体が適用された水素発生装置を提供すること。また、当該水素発生装置を適用した発電装置、及び駆動装置を提供すること。
【解決手段】針状、又はドーム状のシリコン微小構造物を基材上に形成された水素発生体用い、これと水とを反応させることにより水素を効率的に発生させればよい。また、当該水素発生体を水素発生装置に適用すればよい。さらに、当該水素発生装置を、発電装置、及び駆動装置に適用すればよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
水素を発生させる水素発生体、及び当該水素発生体が適用された水素発生装置に関する。本発明は水素を用いた発電装置、及び駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、水素を活用する様々な技術の開発が進められている。例えば、燃料電池は、水素と酸素の化学反応によって電気を発電することができる。また、燃料電池はその発電効率が高いことに加え、その排熱を利用することもできる(特許文献1)。
【0003】
また、水素を直接燃焼させて駆動する水素エンジンの開発も進められている。水素エンジンは排ガスとして主に水蒸気が排出されるため、従来のガソリンエンジンのように温室効果や環境汚染に繋がるガスが排出されることを抑制でき、環境負荷の小さいエンジンとして実用化が期待されている。
【0004】
水素を生成する方法としては、例えば水の電気分解による方法や、炭化水素を改質させる方法などが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−281072号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、水素を生成する方法において、水の電気分解を利用して水素を生成する場合、多くの電気エネルギーが必要となる。
【0007】
また、炭化水素を改質して生成する方法では、二酸化炭素などの温室効果ガスが発生してしまう。さらに、炭化水素として石油などの化石燃料、またはバイオエタノールなどを用いるため、環境への負荷を抑制することが困難である。
【0008】
一方、生成した水素を供給する手段としては、水素ステーションなどを設け、ボンベ等に高圧縮水素を充填するなどが考案されているが、高圧縮水素は爆発等の危険性が高く、保管時や輸送時の安全管理が問題となる。
【0009】
本発明は、このような技術的背景のもとでなされたものである。したがって本発明の一態様は、水素を効率的に安定して供給可能で、安全且つ環境負荷の小さい水素発生体を提供することを課題の一とする。また、当該水素発生体が適用された水素発生装置を提供することを課題の一とする。また、当該水素発生装置を適用した発電装置、及び駆動装置を提供することを課題の一とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を達成するために、シリコンと水との酸化還元反応により水素(H)が発生することに着眼した。表面積の大きなシリコン微小構造物が金属表面上に形成された水素発生体と水とを接触させることにより水素を効率的に発生させればよい。また、金属表面とシリコン微小構造物との間の金属シリサイド層により水素を貯蔵すればよい。
【0011】
すなわち、本発明の一態様は、水と接触させて水素を発生する水素発生体であって、金属表面を有する基材と、基材上に、針状又はドーム状のシリコン構造物と、を有し、シリコン構造物の高さは0.1μm以上1000μm以下であり、径は30nm以上10μm以下である、水素発生体である。
【0012】
上記本発明の一態様によれば、シリコンが水を還元することにより水素を発生させることが出来るため、大量のエネルギー消費を要することなく水素が得られる。また、当該反応による副産物は、酸化シリコンのみであるため、環境負荷となる温室効果ガスなどの副産物を形成することもなく、環境負荷を極めて小さくすることができる。
【0013】
また、シリコン構造物の形状は極めて表面積の大きな、微小な針状、またはドーム状であり、その大きな表面積により効率的に水素を発生させ、また未反応のシリコンが残留することなく、材料効率を高めることが出来る。当該シリコン構造物は、高さが0.1μm以上1000μm以下であり、径は30nm以上10μm以下であることが好ましい。このような微小なシリコン構造物は金属表面を有する基材に対しシリコンを堆積することにより形成することができる。
【0014】
本発明の一態様のシリコン構造物は、基材上に形成されていることを特徴とする。例えば水素発生体として粉末状のシリコンを用いた場合、水中で凝集や沈殿してしまうため効率的に反応させるためには攪拌し分散させる必要があり、また反応後の副産物を回収するためにフィルタリングや遠心分離などを行う必要がある。また例えば水素発生体として粉末を圧縮して固形化したものを用いた場合では、その体積に対する表面積が小さくなるため、未反応の部分が残留し水素の発生効率が低下してしまう。基材上に表面積の大きな微小シリコン構造物を形成することにより、水素の発生効率を保持しつつ、反応後の回収も容易となる。
【0015】
また、本発明の一態様は、基材は、導電性又は熱伝導性を有する、上記水素発生体である。
【0016】
上記本発明の一態様によれば、基材を通電、若しくは熱源との接触により加熱することができるため、水素発生量が減少した場合に基材を加熱することによりシリコン構造物と水との反応性を高めることにより、効率よく安定して水素を発生させることが出来る。
【0017】
また、本発明の一態様は、上記基材とシリコン構造物との間にシリサイドからなる水素貯蔵層を有する、上記記載の水素発生体である。
【0018】
上記本発明の一態様によれば、基材とシリコン微小構造物との間に設けられたシリサイド層により、シリコン微小構造物により発生した水素を貯蔵することが出来る。したがって、水素を安全に貯蔵、輸送することが可能となる。貯蔵された水素は、基材を加熱させるなどして当該シリサイド層を加熱することにより放出させることができる。
【0019】
また、本発明の一態様は、シリサイドが、Ti又はNiのいずれか一を含む、上記記載の水素発生体である。
【0020】
上記シリサイドがTiを含む場合、シリコンの微小構造物を高密度に形成することが出来る。また、上記シリサイドがNiを含む場合、水素の貯蔵量を高めると共に、低温で放出させることが可能となる。
【0021】
また、本発明の一態様は、ガス取り出し部と、水導入部とを備える外装部材を有し、当該外装部材内部に、上記水素発生体を有する、水素発生装置である。
【0022】
上記の水素発生体を有し、外装部材にガス取り出し部が設けられた水素発生装置内に水を導入することにより、水素発生体から水素を取り出すことが出来る。このような構成の水素発生装置は、水を導入しない状態では水素を発生することが無く、安全に保管、輸送を行うことが可能となる。
【0023】
また本発明の一態様は、上記記載の水素発生装置と、燃料電池とを有する発電装置である。また本発明の一態様は、当該水素発生装置と、水素エンジンとを有する駆動装置である。
【0024】
このような水素発生装置を、燃料電池に接続することにより、安全且つ環境負荷の小さい発電装置とすることが出来る。さらに、水素エンジンと組み合わせることにより、より環境負荷の小さい駆動装置とすることが出来る。
【0025】
なお、本明細書等において、シリコンからなる微小構造物のうち、針状(棒状、枝状のものもを含む)の形状を示すものについては、針状のシリコン構造物と表記する。一方、ドーム状(半球状、先端が半球状である柱状のものも含む)の形状を示すものについては、ドーム状のシリコン構造物と表記する。なお、これらをまとめてシリコン構造物と表記する場合もある。
【発明の効果】
【0026】
水素を効率的に安定して供給可能で、安全且つ環境負荷の小さい水素発生体、及び水素発生装置を提供できる。また、当該水素発生装置が適用され、安全且つ環境負荷の小さい発電装置、及び駆動装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の一態様の、水素発生体を説明する図。
【図2】本発明の一態様の、水素発生体を説明する図。
【図3】本発明の一態様の、水素発生体を説明する図。
【図4】本発明の一態様の、水素発生体を説明する図。
【図5】本発明の一態様の、水素発生装置を説明する図。
【図6】本発明の一態様の、電気自動車及び水素自動車を説明する図。
【図7】実施例1に係わるSEM観察像。
【図8】実施例2に係わるSEM観察像。
【図9】実施例4に係わるTDS測定結果。
【図10】実施例4に係わるTDS測定結果。
【発明を実施するための形態】
【0028】
実施の形態について、図面を用いて詳細に説明する。但し、本発明は以下の説明に限定されず、本発明の趣旨及びその範囲から逸脱することなくその形態及び詳細を様々に変更し得ることは当業者であれば容易に理解される。従って、本発明は以下に示す実施の形態の記載内容に限定して解釈されるものではない。なお、以下に説明する発明の構成において、同一部分又は同様な機能を有する部分には同一の符号を異なる図面間で共通して用い、その繰り返しの説明は省略する。
【0029】
なお、本明細書で説明する各図において、各構成の大きさ、層の厚さ、または領域は、明瞭化のために誇張されている場合がある。よって、必ずしもそのスケールに限定されない。
【0030】
(実施の形態1)
本実施の形態では、本発明の一態様であるシリコン微小構造物を有する水素発生体の一例について、図1を用いて説明する。
【0031】
<基本構成例>
図1(A)は、本発明の一態様の水素発生体を模式的に示した図である。
【0032】
水素発生体100は、基材101に上に接するシリサイド層103と、シリサイド層103上に接するシリコン構造物105を有する。
【0033】
基材101は、導電性、又は熱伝導性を有する材料を用いることができる。さらに、シリコンと反応し、シリサイドを形成する材料を用いることができる。シリサイドを形成する材料としては、例えばチタン(Ti)、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、ジルコニウム(Zr)、ハフニウム(Hf)、バナジウム(V)、ニオブ(Nb)、タンタル(Ta)、クロム(Cr)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)等が挙げられる。
【0034】
また、基材101として可撓性を有する基材、例えば薄い金属シートなどを用いれば、任意の形状に加工可能となるため、水素発生体の用途の幅が広がり好適である。また基材101は、表面を有する有形の構造体であれば良く、板状やシート状のほか、棒状、筒状であってもよく、その表面は平面であっても曲面であってもよい。
【0035】
シリサイド層103は、基材101を構成する材料を含むシリサイドからなる層である。また、シリサイド層103の組成は必ずしも均一でなくともよく、基材101から膜厚方向に離れるほど、シリサイド層103を構成するシリコンの比率が高い場合がある。
【0036】
シリコン構造物105は、シリコン(Si)からなる針状、又はドーム状の微小構造物であり、シリサイド層103に接して形成されている。シリコン構造物105は、その高さが0.1μm以上1000μm以下であり、径は30nm以上10μm以下である、微小構造物であることが好ましい。ここでシリコン構造物の高さとは、シリコン構造物の最も長い軸の長さを意味し、径とはその軸に垂直に切断した最も大きい切断面を楕円で近似したときの長径を意味する。このような形状の微小シリコン構造物はその表面積が極めて大きく、後に説明する水素の発生時、水との接触面積を大きくすることができるため効率的に水素を発生させることが出来る。
【0037】
また、シリコン構造物105は、結晶性を有していても良い。結晶性を有するシリコン構造物105は、純度を高めることができるため、単位体積あたりの水素の発生量を大きくすることができ、好ましい。
【0038】
<水素の発生方法>
水素発生体100を水と接触させることにより、水素を発生させることが出来る。具体的には、シリコンと水との酸化還元反応により、酸化シリコンと水素が生成される。この反応式は次式のように示すことが出来る。
【0039】
【数1】

【0040】
ここで、シリコンと水の反応において、温度が高いほど水素の発生量が大きくなる。液体の水を用いる場合、温度としては、好ましくは室温以上100℃未満、より好ましくは60℃以上100℃未満である。なお、反応させる水は必ずしも液体である必要は無く、気体(水蒸気)であっても良い。
【0041】
本発明の一態様である水素発生体100は、針状、又はドーム状のシリコンからなるシリコン構造物105と、水とが反応して水素を発生する。シリコン構造物105をこのような形状とすることにより、シリコン膜に比べて表面積を極めて大きくすることが出来るため、水との反応性を向上させ、水素の発生量を大きくすることが出来る。
【0042】
また、水素発生体100は、シリコン構造物105がシリサイド層103を介して基材101に固着していることを特徴とする。ここで例えば、水と反応するシリコンとして粉末状のシリコンを用いた場合、反応後の酸化シリコンを回収するためには、フィルターを介して回収するなどの必要がある。一方、本発明の一態様の水素発生体100を用いれば、反応後の酸化シリコンは基材101と一体となっているため、容易に回収することが可能である。
【0043】
<水素の貯蔵、放出方法>
シリサイド層103として、水素を貯蔵可能な材質を用いることにより、上記シリコン構造物と水との反応により発生した水素を貯蔵することが可能となる。例えば、シリサイド層103にチタンシリサイド、ニッケルシリサイド等の、浸入型の水素貯蔵性を有するシリサイドを用いることができる。
【0044】
シリサイド層103に貯蔵された水素は、加熱、減圧等の方法により放出させることができる。
【0045】
シリサイド層103を加熱する方法としては、ヒーター等を用いて加熱する方法があげられる。また、導電性を有する基材101に電流を流し、抵抗加熱の原理によりシリサイド層103を加熱する方法や、熱伝導性を有する基材101を熱源に接触させ、シリサイド層103を加熱してもよい。またこのような方法により基材101を加熱することは、同時にシリコンと水との反応を促進させる効果を奏する。
【0046】
<変形例>
図1(A)には、基材101の片方の面にシリサイド層103、及びシリコン構造物105を有する構成を示したが、図1(B)に示すように基材101の両面に設ける構成としても良い。基材101の両面にシリサイド層103、及びシリコン構造物105を設けることにより、基材101の単位面積当たりの水素の放出量、貯蔵量を増やすことが出来るため好ましい。
【0047】
また、図1(C)に示すように、基材111上にシリコンと反応してシリサイドを形成する材質を含む金属層113を設け、金属層113に接してシリサイド層103、及びシリコン構造物105を有する構成としてもよい。この場合、基材111としては熱伝導性の高い材質や、通電加熱による発熱の高い材質などを用いても良いし、半導体、ガラス、プラスチックなど、作製工程における熱処理に耐えうるのであれば、特に限定されない。
【0048】
本実施の形態は、本明細書で例示する他の実施の形態及び実施例と適宜組み合わせて実施することが出来る。
【0049】
(実施の形態2)
本実施の形態では、実施の形態1で例示した水素発生体100に適用可能な、基材101上のシリサイド層103、及びシリコン構造物105の具体的な構成、及びその作製方法について図2乃至図4を用いて説明する。
【0050】
<構成例1>
図2は、基材101上に形成された、針状のシリコン構造物125a乃至125cを有する水素発生体120の断面模式図である。
【0051】
水素発生体120は、基材101に接して形成されたシリサイド層123と、シリサイド層123上に接してシリコン構造物125a乃至125cを有するシリコン層127とを有する。
【0052】
基材101は、実施の形態1で例示した材料からなる基材を用いることができるが、比較的シリコンへの拡散係数の小さい材料を用いることが好ましい。シリコンへの拡散係数の小さい材料を用いることにより、後に説明するシリコンの成膜工程において形成されるシリサイド層の膜厚の制御性を高めることができる。本構成例では、基材101としてTiからなる金属シートを用いる。
【0053】
シリサイド層123は、基材101を構成する金属とシリコンとが反応したシリサイドから構成される。シリサイド層123の組成は必ずしも均一でなくともよく、シリコン層127との界面に近いほど、含まれるシリコンの割合が高くなる傾向がある。一方、シリサイド層123は基材101に近いほどシリコンの割合が低いシリサイドで構成されており、条件によってはシリサイド化されていない金属が残留している場合もある。
【0054】
シリコン層127は、シリサイド層123上に接して形成され、その上部には複数の針状のシリコン構造物を有している。明瞭化のため図2には、針状のシリコン構造物125a乃至125cの長軸方向に沿った断面のみを示している。ここで、シリコン層127と、針状のシリコン構造物125a乃至125cとの境界は明瞭ではないため、図中に明示していない。
【0055】
シリコン層127及び針状のシリコン構造物125a乃至125cは、結晶性を有する。また、針状のシリコン構造物125a乃至125cは、長軸方向に一軸配向性を有していても良い。すなわち、針状のシリコン構造物125a乃至125cは、複数の結晶領域を含み、当該結晶領域のそれぞれが長軸方向と略一致する結晶方位を有する。
【0056】
なお、シリサイド層123とシリコン層127との境界付近に、シリサイド粒124を有していても良い。
【0057】
以下で説明する作製工程によれば、このような針状のシリコン構造物を高密度に形成することができる。シリコン構造物の形状を針状とし、これを高密度に形成することにより、その表面積を極めて大きくすることが出来るため、水との反応性を向上させ、水素の発生量を大きくすることが出来る。
【0058】
<作製工程例1>
以下では、上記構成例1で例示した水素発生体120の作製方法について説明する。
【0059】
基材101に対し、基材101を構成する金属とシリコンとが反応し、シリサイド層が形成されるように、シリコンを成膜する。当該成膜方法は、LPCVD(Low Pressure Chemical Vapor Deposition)法、PECVD(Plasma Enhanced Chemical Vapor Deposition)法などの各種成膜方法を適宜用いることができる。例えば、PECVD法を用いる場合は、13.56MHz乃至2.45GHzの範囲のRF電源周波数を用いて、基材101を構成する金属とシリコンとが反応し、所望の厚さのシリサイド層123が形成されるよう、基板温度、圧力、ガス流量、RF電源電力等を適宜調整すればよい。
【0060】
本作製工程例では、LPCVD法を用いてシリコンを成膜する。成膜はシリコンを含む堆積性ガスを含む原料ガスを供給し、500℃より高い温度で且つ装置及び基材101が耐えうる温度以下、好ましくは580℃以上650℃未満の温度で行えばよい。また圧力は、原料ガスを流して保持できる下限以上(例えば5Pa以上)1000Pa以下、好ましくは5Pa以上200Pa以下とする。
【0061】
上記シリコンを含む堆積性ガスとしては、水素化珪素ガス、フッ化珪素ガス、または塩化珪素ガスがあり、代表的にはSiH、Si、SiF、SiCl、SiCl等がある。なお、上記ガスに水素を導入しても良い。また、原料ガスにヘリウム、ネオン、アルゴン、キセノン等の希ガス、または窒素を混合しても良い。
【0062】
なお、LPCVD法の温度、圧力、時間、ガス流量等は、基材101を構成する金属とシリコンとが反応し、シリサイドを形成するよう適宜調整する。本作製工程例では、原料ガスにSiHと窒素の混合ガスを用い、20Pa、600℃で1時間保持するよう成膜を行う。
【0063】
LPCVD法により、基材101を構成する金属とシリコンとが反応し、シリサイド層123が形成される。ここで形成されるシリサイド層123の膜厚は、基材101を構成する材質によって異なるが、例えば基材としてTiを用いた場合は、1nm以上100nm未満、好ましくは1nm以上50nm以下である。シリサイド層123を比較的薄く形成することにより、後に形成されるシリコン構造物が針状の形状となりやすく、また高密度に形成することができる。
【0064】
続いて、シリサイド層123上にシリコン層127が成膜されると共に、シリサイド層123表面の凸部や、シリサイド層123表面に析出するシリサイド粒124を核として、針状のシリコン構造物125a乃至125cが形成される。シリサイド層123の膜厚が薄いほど、核となる凸部やシリサイド粒124の形状が小さくなり、針状のシリコン構造物となりやすい。また、シリコン層127の表面には、針状のシリコン構造物のほかに、凸部が混在して形成されることがある。
【0065】
以上の工程により、基材101上に高密度に多数の針状のシリコン構造物を形成することが出来る。
【0066】
なお、図1(C)で説明したように、金属層113が成膜された基材111上に針状のシリコン構造物を形成する場合は、基材111上に、スパッタリング法などの公知の成膜方法によって金属層113を形成し、その後上記と同様の方法によりシリコンを成膜することにより、形成することができる。ここで、金属層113の膜厚を比較的薄くしておくと、形成されるシリコン構造物の形状が針状になりやすく、また高密度に形成することができる。
【0067】
<構成例2>
以下では、構成例1とは異なる形状であるドーム状のシリコン構造物を有する、水素発生体130の構成例、及びその作製工程例について、図3を用いて説明する。
【0068】
図3に示す水素発生体130は、基材101に接して形成されたシリサイド層133と、シリサイド層133上に接してシリコン構造物135a乃至135dを有するシリコン層137を有する。
【0069】
基材101は、上記構成例1と同様のものを用いることができ、比較的シリコンへの拡散係数の小さい材料を用いることが好ましい。シリコンへの拡散係数の小さい材料を用いることにより、後に説明するシリコンの成膜工程において形成されるシリサイド層の膜厚の制御性を高めることができる。本構成例では、基材としてTiからなる金属シートを用いる。
【0070】
シリサイド層133は、上記構成例1で例示したものと同様、基材101を構成する金属とシリコンとが反応したシリサイドから構成される。またその組成は必ずしも均一ではなく、シリコン層137との界面に近いほど、含まれるシリコンの割合が高くなる傾向がある。
【0071】
シリサイド層133の膜厚は、上記構成例1で例示したシリサイド層123と比べて厚い特徴を有する。シリサイド層133の膜厚は、これを構成する金属元素によって異なるが、例えばTiを用いる場合は、その膜厚は100nm以上である。
【0072】
シリコン層137は、シリサイド層133上に接して形成され、その上部には複数のドーム状(半球状とも言う)のシリコン構造物(シリコン構造物135a乃至135d)を有している。ここで、シリコン層137と、ドーム状のシリコン構造物135a乃至135dとの境界は明瞭ではないため、図中に明示していない。
【0073】
シリコン層137及びドーム状のシリコン構造物135a乃至135dは、結晶性を有する。
【0074】
なお、シリサイド層133と、シリコン層137との境界付近には、シリサイド粒134を有していても良い。
【0075】
以下で説明する作製工程によれば、このようなドーム状のシリコン構造物を高密度に形成することが出来る。シリコン構造物の形状をドーム状とし、これを高密度に形成することにより、その表面積を大きくすることが出来るため水との反応性を向上させ、水素の発生量を大きくすることが出来る。また、シリコン構造物の形状をドーム状とすることにより、針状のシリコン構造物に比べて高さを低減できるため、高集積化に適している。加えて本構成例ではシリサイド層の膜厚を厚くすることができるため、水素の貯蔵量を大きくすることが出来る。
【0076】
<作製工程例2>
以下では、上記構成例2で例示した水素発生体130の作製方法について説明する。
【0077】
基材101に対し、作製工程例1と同様の成膜方法を用いてシリコンを成膜する。本作製工程例では、LPCVD法を用いてシリコンを成膜する。この際、基材101を構成する金属とシリコンとが反応して形成されるシリサイド層133の膜厚が所望の膜厚になるように成膜条件を適宜調整する。例えば基材101を構成する金属としてTiを用いる場合は、シリサイド層133が100nm以上になるようにする。シリサイド層133を比較的厚く形成することにより、後に形成されるシリコン構造物がドーム状の形状となりやすく、また高密度に形成することができる。
【0078】
続いて、シリサイド層133上にシリコン層137が形成されると共に、シリサイド層133表面の凸部や、シリサイド層133表面に析出するシリサイド粒134を核として、ドーム状のシリコン構造物135a乃至135dが形成される。シリサイド層133の膜厚が厚いほど、核となる凸部やシリサイド粒134の形状が大きくなり、ドーム状のシリコン構造物が成長しやすい。なお、条件によっては、ドーム状のシリコン構造物に加えて針状のシリコン構造物が混在する場合もある。
【0079】
以上の工程により、基材101上に高密度に多数のドーム状のシリコン構造物を形成することができる。
【0080】
なお、図1(C)のように、金属層113が成膜された基材111上にドーム状のシリコン構造物を形成する場合は、金属層113を比較的厚く形成し、その後上記と同様の方法によりシリコンを成膜することで形成することができる。
【0081】
<構成例3>
以下では、上記構成例とは異なる形状である、針状のシリコン構造物とシリサイド層を有する水素発生体140の構成例、及びその作製方法について、図4を用いて説明する。
【0082】
図4(A)に示す水素発生体140は、基材101上に接して形成されたシリサイド層143と、シリサイド層143の表面から突出した複数の針状のシリコン構造物145を有する。
【0083】
基材101としては実施の形態1で例示した材料を用いることができるが、比較的シリコンへの拡散係数の高い金属材料を用いることが好ましい。シリコンへの拡散係数の高い材料を用いることにより、後に説明するシリコンの成膜工程において形成されるシリサイド層の膜厚を極めて厚くすることができる。本構成例では、基材101にはNiからなる金属シートを適用する。
【0084】
シリサイド層143は、基材101を構成する金属とシリコンとが反応したシリサイドから構成され、その組成は必ずしも均一ではなく、基材101に近いほど含まれるシリコンの割合は低く、一方表面に近いほど、その割合は高くなる傾向がある。また、基材101にシリコンへの拡散係数の高い金属材料を用いることにより、後に説明するシリコン成膜時のシリサイド形成がされやすく、膜厚の厚いシリサイド層143となる。シリサイド層143の膜厚は、シリコンの成膜条件や、基材101に用いる金属元素の種類によって異なるが、数μm〜数100μm程度の膜厚となり、場合によっては基材101よりも厚いシリサイド層143が形成されることがある。
【0085】
また、シリサイド層143はその表面に起伏の大きな凹凸形状を有しており、その凸部は楕円体の一部に近い形状を有している。またさらに、この凸部の表面は細かい凹凸形状を有している。
【0086】
また、シリサイド層143は結晶性を有していてもよく、その場合は明瞭な結晶粒界を有していても良い。また、部分的に異なる組成のシリサイドが凝集している場合がある。例えば基材101を構成する金属としてNiを用いた場合には、シリサイド層143の基材101に近い部分から表面に向かってシリコンの割合が高くなるように、それぞれのグレインが形成される場合がある。例えば、基材101に近い領域にはNiSiの領域が、中央部にはNiSiの領域が、また表面近傍にはNiSiの領域が形成されていてもよい。
【0087】
針状のシリコン構造物145は、シリサイド層143の表面の凸部から突き出すように形成される。図4(B)には、図4(A)の点線で囲んだ領域を拡大した断面概略図を示している。針状のシリコン構造物145a及び145bは、シリサイド層143の凸部の一領域から突出して形成され、その長軸方向は必ずしも基材101に垂直な方向には一致しない。また、シリサイド層143と針状のシリコン構造物145a及び145bとの境界は明確でなくともよく、針状のシリコン構造物145a及び145bにおいて、シリサイド層143に近い領域はシリサイド化されている場合がある。
【0088】
針状のシリコン構造物145は結晶性を有していてもよい。またその結晶性として、針状のシリコン構造物145の長軸方向に一軸性の配向を有していてもよい。
【0089】
以下で説明する作製工程によれば、このような表面に起伏の大きな凹凸形状を有するシリサイド層と、この凸部から突出する針状のシリコン構造物を高密度に形成することが可能となる。表面積の大きな針状のシリコン構造物とすることにより、水との反応性が向上され、水素の発生量を大きくなると共に、厚いシリサイド層によって当該水素の貯蔵量を増大させることが可能となる。
【0090】
<作製工程例3>
以下では、上記構成例3で例示した水素発生体140の作製方法について説明する。
【0091】
基材101に対して、作製工程例1と同様の成膜方法を用いてシリコンを成膜する。本作製工程例では、LPCVD法を用いてシリコンを成膜する。この際、基材101を構成する金属とシリコンとが反応してシリサイド層143が形成されるが、基材101を構成する材料としてシリコンへの拡散係数の高い材料を用いることにより、形成されるシリサイド層143の膜厚は極めて厚くなる。
【0092】
続いて、シリサイド層143の表面の凸部の一領域から針状のシリコン構造物145が突出するように形成される。
【0093】
以上の工程により、基材101上に表面に起伏の大きな凹凸形状を有するシリサイド層と、この凸部から突出する針状のシリコン構造物を高密度に形成することができる。
【0094】
なお、図1(C)のように、金属層113が成膜された基材111上に、表面に大きな凹凸形状を有するシリサイド層と、この凸部から突出して形成される針状のシリコン構造物を形成する場合は、金属層113を厚く形成し、その後上記と同様の方法によりシリコンを成膜することで形成することが出来る。
【0095】
本実施の形態で説明した水素発生体のシリコン構造物は、シリコンの成膜方法、成膜条件によってその太さ、長さなどの形状を制御することが可能であり、目的や所望の水素発生量などに応じてその形状を適宜選択することが可能である。また、基材として可撓性を有する金属シートを用いることができ、任意の形状に加工が可能なため、水素発生体や、当該水素発生体を用いた装置の形状の自由度が非常に高いことも特徴とする。
【0096】
なお、本実施の形態は、本明細書で例示する他の実施の形態及び実施例と適宜組み合わせて実施することが出来る。
【0097】
(実施の形態3)
本実施の形態では、上記実施の形態で例示した水素発生体を用いた水素発生装置の構成例について、図5を参照して説明する。
【0098】
図5(A)に示す水素発生装置200は、外装部材211の内部に水素発生体201、セパレータ203を有する。
【0099】
外装部材211として用いられる材料としては、水、水素等のガスを透過しない材質のものを用いることができる。例えば金属、セラミック、プラスチック等を用いることができる。また、外装部材211は、箱状や、可撓性を有する袋状の形状とすることができる。
【0100】
水素発生体201としては、上記実施の形態で例示した水素発生体を適宜用いることができる。
【0101】
水素発生体201は水素発生装置200内に折り曲げられて配置されており、対向する表面同士の接触を防ぐためのセパレータ203が設けられている。
【0102】
セパレータ203は水、水素を透過する材質を用いることが好ましい。例えば多孔質のセラミック板などを用いればよい。
【0103】
水素発生装置200には、水を導入するための水導入部205、発生した水素ガスを取り出すためのガス取り出し部207が設けられている。水導入部205には、水素ガスが逆流しないように逆止弁を設けても良い。また、水導入部205とガス取り出し部207とを共有して用いてもよい。
【0104】
また、水素発生体201と電気的、又は熱的に接続された端子部209が設けられている。端子部209を用いて電流を流す、または端子部209に熱源を接触させることにより、水素発生体201を加熱することができる。なお、端子部209は必要なければ設けなくてもよい。
【0105】
また、水素発生装置200の内部、又は外部にヒーターを設け、水素発生装置200内の水や、水素発生体201を加熱する構成としても良い。
【0106】
水素発生装置200は、水導入部205から水を導入しない限り水素が発生しないため、保管や、使用場所までの輸送を極めて安全に行うことが出来る。
【0107】
また、水素発生装置の別の形態として、水素の発生量が減少した水素発生体を交換可能なカートリッジ型の構成としてもよい。
【0108】
図5(B)に示すカートリッジ220は、外装部材211の側壁にフィルター221が設けられている。
【0109】
フィルター221は、水、及び水素ガスを透過する材料からなる、又はこれらを透過する形状を有しており、カートリッジ220の外部から内部に水を取り込み、また水素発生体201によって発生した水素を外部に放出する。また、フィルター221は、カートリッジ220内外の異物の往来を防ぐ役割を有する。カートリッジ内の異物としては、水素発生体201のシリコン構造物やその酸化物などが挙げられる。なお、フィルター221は必要なければ設けなくともよく、スリットを設けただけの構成としてもよい。また、本実施の形態では側壁にフィルターを設ける構成としたが、底部、または側壁と底部の両方に設けても良い。
【0110】
またカートリッジ220には、水素発生体201と電気的、又は熱的に接続された端子部229が設けられている。
【0111】
図5(C)に示すように、カートリッジ220は、本体223に装填して用いる。本体223は、水導入部225、ガス取り出し部227が設けられている。
【0112】
カートリッジ220を本体223に装填したとき、発生する水素ガスがこれらの隙間から漏洩しないようシールされている。
【0113】
このような構成とすることにより、水素発生能力が減少した水素発生体を容易に交換可能であるため、常に所望の水素の発生量を維持することが出来る。また、使用済みのカートリッジは回収し、水素発生体のみを交換することにより再利用することが可能であるため、環境負荷を低減できる。
【0114】
本実施の形態は、本明細書中に例示した他の実施の形態、及び実施例と適宜組み合わせて実施することが出来る。
【0115】
(実施の形態4)
上記実施の形態で説明した水素発生体、及び水素発生装置は、水素を利用する様々な駆動装置、発電装置に適用できる。また、水素を利用する駆動装置または発電装置を用いた自動車、鉄道などの輸送手段、燃料電池やこれを有する排熱利用システムなどにも適用可能である。
【0116】
本実施の形態では、実施の形態3で説明した水素発生装置の応用形態について図6を用いて説明する。
【0117】
実施の形態3で説明した水素発生装置は、水素を用いて発電可能な燃料電池等の蓄電装置に適用可能である。このような蓄電装置は、電気自動車、ハイブリッド自動車、鉄道用電気車両、作業車、カート、車椅子等の電気推進車両に用いることができる。また、水素を直接燃焼させて動力を得る水素エンジンなどの駆動装置を有する自動車などの推進車両にも適用可能である。ここでは、その代表例として電気自動車と水素自動車について説明する。
【0118】
図6(A)は電気自動車301の斜視図である。図6(B)は、図6(A)で示した電気自動車301の透視図である。電気自動車301は、モーター303に電流を流すことによって、動力を得るものである。電気自動車301は、モーター303に電流を流すための電力を供給する燃料電池305、および制御部307を有する。
【0119】
さらに電気自動車301は実施の形態3で例示した水素発生装置309を有し、燃料電池305に水素を供給する。燃料電池305は水素発生装置309から供給された水素を用いて発電を行うことができる。なお、燃料電池305と制御部307との間に、発電した電力を蓄えるバッテリーを設けても良い。
【0120】
図6(C)は、水素自動車311の透視図である。水素自動車311は、水素エンジン313により水素を直接燃焼させることにより動力を得るものである。水素自動車311は、水素エンジン313と、その動作を制御する制御部317と、水素発生装置319とを有する。水素発生装置319から供給された水素が水素エンジン313に供給されることにより駆動することができる。なお、水素自動車311に燃料電池と蓄電装置を設け、水素発生装置319からの水素により必要な電力を発電、蓄電してもよい。
【0121】
なお、本実施の形態は、本明細書中の他の実施の形態、及び実施例と適宜組み合わせて実施することが出来る。
【実施例1】
【0122】
本実施例では、針状のシリコン構造物、及びドーム状のシリコン構造物を基材上に形成し、表面SEM観察を行った結果について説明する。
【0123】
以降、針状のシリコン構造物を形成した試料を試料1、ドーム状のシリコン構造物を形成した試料を試料2とする。
【0124】
まずガラス基板上にスパッタリング法を用いてチタン膜を形成した。試料1ではチタンの膜厚を10nmとし、試料2ではチタンの膜厚を300nmとした。
【0125】
続いて、両者に対してLPCVD法を用いてシリコン膜の成膜を行った。成膜は、SiHとNとを混合比1:1の割合で混合した成膜ガスを流しながら、圧力20Pa、温度600℃で1時間保持するよう成膜を行い、シリコン構造物が形成された試料1及び試料2を得た。
【0126】
続いて、試料1及び試料2についてSEM(Scanning Electron Microscopy)法による観察を行った。図7(A)に試料1の、図7(B)に試料2の観察結果をそれぞれ示す。
【0127】
試料1では、針状のシリコン構造物が極めて高密度に形成されていることが確認できた。また、試料2では、ドーム状(半球状)のシリコン構造物が極めて高密度に形成されていることが確認できた。
【実施例2】
【0128】
本実施例では、実施例1とは異なる基材を用い、針状のシリコン構造物を基材上に形成し、表面SEM観察を行った結果について説明する。
【0129】
Niからなる金属シート(シート厚0.1mm、直径約12mmの円盤状)を基材とし、これに対してLPCVD法を用いてシリコン膜の成膜を行った。成膜は、SiHとNとを混合比1:1の割合で混合した成膜ガスを流しながら、圧力20Pa、温度600℃で2時間15分保持するよう成膜を行い、針状のシリコン構造物が形成された基材(試料3)を得た。
【0130】
続いて、試料3についてSEM法による観察を行った。図8(A)及び図8(B)に試料3の観察結果を示す。
【0131】
図8(A)の結果から、表面に起伏の大きな凹凸形状を有するシリサイド層が高密度に形成されていることが確認できた。そのうち一つの凸部を拡大した図8(B)の結果から、この凸部から突出する針状のシリコン構造物が形成されていることが確認できた。
【実施例3】
【0132】
本実施例では、実施例1で作製した針状のシリコン構造物と水とを反応させ、水素の発生を確認した結果について説明する。
【0133】
まず、試料1で得た針状のシリコン構造物のみを削りとった。その後、削り取った針状のシリコン構造物と、純水とを三角フラスコ内で混合した。
【0134】
続いて、三角フラスコに気体採集用にビーカーを底が上側になるように被せ、ホットプレートを用いて設定温度80℃で約24時間加熱した。
【0135】
その後、ビーカーの上部に溜まった気体に対し、株式会社ジコー製の水素検知器(製品名:水素リークチェッカー JKC−HY)を用いて測定したところ、水素検知レベル表示が最高の値まで達したことから、当該ビーカー上部に数ppm乃至数1000ppm以上の水素を含むことが確認された。この結果から、針状のシリコン構造物と水とが反応し、水素が発生することが確認された。
【実施例4】
【0136】
本実施例では、金属シート上にシリサイド層及びシリコン構造物を形成し、水を含む雰囲気下に保存する前後でのTDS測定を行った結果について説明する。
【0137】
Niからなる金属シート上に針状のシリコン構造物を形成した試料については、実施例2で作製した試料3を用いる。
【0138】
また、Tiからなる金属シート(シート厚0.1mm、直径約12mmの円盤状)を基材とし、LPCVD法を用いてシリコン膜の成膜を行い、ドーム状(半球状、先端が半球状の柱状を含む)のシリコン構造物を有する試料4を作製した。成膜は、SiHを主成分とする成膜ガスを流しながら、圧力100Pa、温度600℃で1時間保持するよう成膜を行い、ドーム状のシリコン構造物が形成された基材(試料4)を得た。
【0139】
その後、試料3及び試料4に対して昇温脱離分析装置を用いてTDS(Thermal Desorption Spectroscopy)測定を行い、試料から脱離するH、HOを測定した。
【0140】
ここで、昇温脱離分析装置は、試料を高真空中で加熱・昇温中に試料から脱離、発生するガス成分を四重極質量分析計で検出、同定する装置であり、試料表面、内部から脱離するガス及び分子が観察できる。検出されるガス成分はM/z(質量/電荷)で区別される。本実施例では、電子科学株式会社製の昇温脱離分析装置(製品名:EMD−WA1000S)を用い、測定条件は、昇温約30℃/分とし、測定中は約1×10−7Paの真空度である。
【0141】
その後、試料3及び試料4のそれぞれを高温高湿環境下(137℃、湿度90%、絶対圧力0.299MPa)で12時間保持させた。
【0142】
続いて試料を取り出した後、昇温脱離分析装置を用いて再度TDS測定により、試料から脱離するH、HOを測定し、高温高湿環境下での保持前後における比較を行った。
【0143】
まず試料3に対するTDS測定結果を図9(A)、図9(B)に示す。図9(A)は試料温度に対する試料から脱離したH(M/z=2)の検出強度であり、図9(B)は同様にHO(M/z=18)の検出強度である。それぞれ、上記高温高湿環境下に保持した試料については実線で、上記環境下に保持する前のものについては破線で示している。高温高湿環境下に保持することにより、温度200℃以下でHOが、また温度200℃以上400℃以下の範囲でHが脱離することが確認された。この結果から、試料3は高温高湿環境下に保持することにより水素が生成、貯蔵され、且つ加熱することにより水素を放出可能であることが確認できた。
【0144】
また試料4に対するTDS測定結果を、図10(A)及び図10(B)に示す。図10(A)、図10(B)は上記と同様に、それぞれ試料温度に対するH、HOの検出強度である。試料4においては、高温高湿環境下に保持した場合でもHOはほとんど脱離しない、つまり貯蔵されないことが確認された。また、Hに関しては、約700℃以上の温度範囲で脱離することが確認された。この結果から、試料4においても、高温高湿環境下に保持することにより水素が発生、貯蔵され、且つ加熱することにより水素を放出可能であることが確認できた。
【符号の説明】
【0145】
100 水素発生体
101 基材
103 シリサイド層
105 シリコン構造物
111 基材
113 金属層
120 水素発生体
123 シリサイド層
124 シリサイド粒
125a シリコン構造物
125b シリコン構造物
125c シリコン構造物
127 シリコン層
130 水素発生体
133 シリサイド層
134 シリサイド粒
135a シリコン構造物
135b シリコン構造物
135c シリコン構造物
135d シリコン構造物
137 シリコン層
140 水素発生体
143 シリサイド層
145 シリコン構造物
145a シリコン構造物
145b シリコン構造物
200 水素発生装置
201 水素発生体
203 セパレータ
205 水導入部
207 ガス取り出し部
209 端子部
211 外装部材
220 カートリッジ
221 フィルター
223 本体
225 水導入部
227 ガス取り出し部
229 端子部
301 電気自動車
303 モーター
305 燃料電池
307 制御部
309 水素発生装置
311 水素自動車
313 水素エンジン
317 制御部
319 水素発生装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水と接触させて水素を発生する水素発生体であって、
金属表面を有する基材と、
前記基材上に、針状又はドーム状のシリコン構造物と、を有し、
前記シリコン構造物の高さは0.1μm以上1000μm以下であり、径は30nm以上10μm以下である、水素発生体。
【請求項2】
前記基材は、導電性又は熱伝導性を有する、請求項1に記載の水素発生体。
【請求項3】
前記基材と前記シリコン構造物との間にシリサイドからなる水素貯蔵層を有する、請求項1又は請求項2に記載の水素発生体。
【請求項4】
前記シリサイドが、Ti又はNiのいずれか一を含む、請求項3に記載の水素発生体。
【請求項5】
ガス取り出し部と、水導入部とを備える外装部材を有し、
前記外装部材内部に、請求項1乃至請求項4のいずれか一に記載の水素発生体を有する、水素発生装置。
【請求項6】
請求項5に記載の水素発生装置と、燃料電池とを有する発電装置。
【請求項7】
請求項5に記載の水素発生装置と、水素エンジンとを有する駆動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図9】
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【図10】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−162447(P2012−162447A)
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−6060(P2012−6060)
【出願日】平成24年1月16日(2012.1.16)
【出願人】(000153878)株式会社半導体エネルギー研究所 (5,264)
【Fターム(参考)】