説明

水素製造方法および水素製造用反応管

【課題】より長期にわたって効率よく水素を製造できる水素製造方法を提供する。
【解決手段】触媒を用いて炭化水素系燃料から水素を製造する反応を進行させながら水素分離膜を用いて水素を分離する水素製造方法であって、水素分離膜として触媒を備える流通式反応管内に設けられたパラジウムを主成分としかつ銀を含む水素分離膜を用い、触媒として金属酸化物担体にハロゲンを含まない活性金属前駆体を用いて活性金属を担持させた触媒であって担持された活性金属が粒子径0.1nm以上3nm未満の粒状である触媒を用いる。この方法を行うに好適な水素製造用反応管。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭化水素系燃料から脱水素反応や水蒸気改質反応によって水素を製造するための水素製造方法および水素製造用反応管に関する。
【背景技術】
【0002】
水素は石油精製、化学産業などをはじめとしてあらゆる産業分野において広く用いられている。とくに近年、将来のエネルギーとして水素エネルギーが注目されてきており燃料電池を中心に研究が進められているが、水素ガスは熱量あたりの体積が大きく、また液化に必要なエネルギーも大きいため、水素の貯蔵、輸送のシステムが重要な課題となっている。また水素供給のためにあらたなインフラストラクチャーの整備が必要である。
【0003】
一方、炭化水素系燃料、特に液体炭化水素系燃料は水素ガスに比べてエネルギー密度が大きく取り扱いやすいことに加え、既存のインフラストラクチャーが利用できるという利点もあることから、炭化水素系燃料を貯蔵、輸送して、必要に応じ炭化水素系燃料から水素を製造する方法は重要である。
【0004】
炭化水素系燃料から水素を製造するために、活性金属として白金などの貴金属を含む触媒が用いられる。貴金属は高価であるため、少量の金属を担体上に小さな粒子径で高分散に担持し有効に活用することが望まれる。そのためにはハロゲン特に塩素を含んだ前駆体化合物を用いることが一般的であった(非特許文献1)。
【0005】
一方、水素分離膜としては銀を含むパラジウムを主成分とする膜が加工性、水素透過性、選択性に優れていることが知られている(非特許文献2)。
【0006】
従って、塩素を含んだ前駆体化合物を用いた触媒と、パラジウム−銀からなる水素分離膜を組み合わせた反応器が最も活性が高くかつ水素回収率も高いように思われる。
【0007】
特許文献1には、内管は水素分離膜からなり、外管は金属製で複数の内部フィンを有し、該フィンに金属酸化物層とさらに触媒を担持させてなる二重管構造の反応管内で、シクロヘキサン環を有する炭化水素を脱水素反応させて水素および芳香族炭化水素を製造し、該脱水素反応を進行させながら反応系内で水素の選択的な膜分離操作をし、透過側に主として水素を除去し、非透過側には主として芳香族炭化水素を得るという技術が開示される。この技術によれば、主としてシクロヘキサン環を有する炭化水素からなる原料油の脱水素反応による水素製造方法における分離、低温化、熱供給などの問題点を解決し、効率よく水素を製造することが可能になるとされる。また特許文献1には、多孔質支持体にパラジウムと銀をコーティングした分離膜と、塩化白金酸の水溶液を用いて白金を担持させた触媒とを用いて、水素を製造することが記載される。
【0008】
しかしパラジウム−銀膜は塩素により被毒され、水素透過係数が低下することが指摘されている。被毒された触媒の水素透過係数を回復させるには、350℃、空気流通下での焼き出しと水素流通下での還元を繰り返す操作に加え400℃での水蒸気による洗浄が必要とされる(非特許文献3)。
【0009】
また、これまでに知られている高い性能を持った水素製造用触媒と水素分離膜として用いられるパラジウム−銀膜とを組み合わせた膜分離反応器では、反応中に触媒に残存しているハロゲン、特に塩素が剥離し、水素分離膜を被毒するため、水素透過係数が低下し、ひいては反応の平衡制約により水素回収率が低下することが指摘されていた(非特許文献4)。
【特許文献1】特開2005−289652号公報
【非特許文献1】Applied Catalysis A: General 177(1999),99〜110頁
【非特許文献2】Knapton AG:Platinum Metals Rev.,21 44−50(1977)
【非特許文献3】Jarnal of Membrane Science 89(1994),171〜184頁
【非特許文献4】Applied Catalysis A: General 155(1997),41〜57頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、生成する水素を分離除去しつつ水素製造反応を進行させる水素製造方法において、高い分散度で活性金属が分散した触媒を用いつつも、パラジウムおよび銀を含む水素分離膜がハロゲンによって被毒されることを防止し、もって、より長期にわたって効率よく水素を製造できる水素製造方法を提供することである。
【0011】
本発明の別の目的は、このような水素製造方法に好適に用いることのできる水素製造用反応管を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明により、触媒を用いて炭化水素系燃料から水素を製造する反応を進行させながら、水素分離膜を用いて水素を分離する水素製造方法であって、
該水素分離膜として、触媒を備える流通式反応管内に設けられた、パラジウムを主成分としかつ銀を含む水素分離膜を用い、
該触媒として、金属酸化物担体にハロゲンを含まない活性金属前駆体を用いて活性金属を担持させた触媒であって、該担持された活性金属が粒子径0.1nm以上3nm未満の粒状である触媒を用いる水素製造方法が提供される。
【0013】
前記活性金属が白金を含むことが好ましい。
【0014】
前記活性金属が白金とレニウムを含むことがより好ましい。
【0015】
前記金属酸化物担体が、アルミナを含むことが好ましい。
【0016】
前記炭化水素系燃料が、水素原子を12質量%以上含む炭化水素を主成分とする、0.1MPaかつ20℃において液体であることが好ましい。
【0017】
前記炭化水素系燃料がシクロヘキサン環を有する炭化水素であり、
前記反応が、シクロヘキサン環からの脱水素反応であることが好ましい。
【0018】
前記流通式反応管が二重管構造を有し、
該二重管構造の外管は金属からなり、内管に前記水素分離膜が設けられ、
該外管には、流通方向に延在しかつ内側に向かって突出する金属からなるフィン状突起が複数設けられており、
少なくとも該フィン状突起の表面に前記触媒を有することが好ましい。
【0019】
本発明により、触媒を用いて炭化水素系燃料から水素を製造する反応を進行させながら、水素分離膜を用いて水素を分離するための水素製造用反応管であって、
該水素製造用反応管が、二重管構造を有する流通式反応管であり、
該二重管構造の外管は金属からなり、内管に水素分離膜が設けられ、
該水素分離膜はパラジウムを主成分としかつ銀を含み、
該外管には、流通方向に延在しかつ内側に向かって突出する金属からなるフィン状突起が複数設けられており、
少なくとも該フィン状突起の表面に、ハロゲンを含まない活性金属前駆体を用いて活性金属を金属酸化物担体に担持させた触媒を有し、該担持された活性金属が粒子径0.1nm以上3nm未満の粒状である
水素製造用反応管が提供される。
【発明の効果】
【0020】
本発明により、生成する水素を分離除去しつつ水素製造反応を進行させる水素製造方法において、高い分散度で活性金属が分散した触媒を用いつつも、パラジウムおよび銀を含む水素分離膜がハロゲンによって被毒されることを防止し、もって、より長期にわたって効率よく水素を製造できる水素製造方法が提供される。
【0021】
本発明により、このような水素製造方法に好適に用いることのできる水素製造用反応管が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下本発明の形態について説明するが本発明はこれによって限定されるものではない。なお、本明細書では特に断らないかぎり圧力は絶対圧で示す。
【0023】
本発明は、触媒を用いて炭化水素系燃料から水素を製造する反応を進行させながら、水素分離膜を用いて水素を分離する水素製造方法である。水素分離膜は、水素製造反応を促進する触媒を備える流通式反応管内に設けられる。反応を進行させて水素を生成させ、同時に、生成した水素をイン・サイチュー(in situ)で水素分離膜により分離して反応系から除去する。これにより高純度な水素を得ることが可能である。また生成物を反応系から除去できるため、平衡反応が関係する場合には、反応をより進行させるうえでも有利である。
【0024】
〔水素を製造する反応〕
水素を製造する反応としては、炭化水素系燃料から水素を製造することのできる反応から適宜選んで採用することができる。
【0025】
上記反応として、脱水素反応がある。特に、常温で液状の炭化水素を脱水素して水素を製造する方法は、反応が単純であることから製造プロセスも単純である。更に、生成物は気体である水素と、常温では液体である不飽和炭化水素であるため、両者の分離が比較的容易であるという特長がある。
【0026】
具体的には、シクロヘキサン環からの脱水素反応がある。炭化水素系燃料としてシクロヘキサン環を有する炭化水素を用い、そのシクロヘキサン環を脱水素し芳香族環にする反応は、脱水素触媒の存在下で容易に反応が進行し、生成物である水素と芳香族炭化水素の分離も比較的に容易であるために、特に小規模の水素製造に適した方法である。
【0027】
また、上記反応として、水蒸気改質反応、部分酸化改質反応、オートサーマルリフォーミング反応(水蒸気改質反応と部分酸化改質反応とを同時に進行させる反応)などの改質反応を採用することもできる。
【0028】
〔水素分離膜〕
水素分離膜とはガス成分の中から水素を選択的に分離する膜をいう。水素分離膜の性能の指標として水素選択性と水素透過性がある。水素選択性とは水素分離膜を透過したガスに含まれる水素の割合を示し、水素選択性100%であることが好ましい。水素透過性とは単位膜面積あたりの透過する水素の量を表し、高いほど好ましい。水素分離膜としては高分子膜、セラミック膜、金属膜などがあるが、水素選択性100%を示すものは金属膜のみである。金属膜の中ではパラジウム膜が水素透過性に優れている。パラジウムに第2金属を添加したパラジウムを主成分とした水素分離膜はさらに水素透過性に優れる。金属膜の組成を質量%で表したとき、最も割合が多い元素成分を主成分という。添加する第2金属としては銀、金、銅などが挙げられる。その中でも銀が好ましく、パラジウム77質量%と銀を23質量%含む膜が最も好ましい。従って水素分離膜としてパラジウムを主成分としかつ銀を含む膜が用いられる。
【0029】
本発明では、水素分離膜を用いて生成した水素を芳香族炭化水素から分離できるため、効率的に水素を得ることが容易である。
【0030】
水素分離膜の構造としては、パラジウム水素分離膜の分野で公知の構造を採用することができる。例えば、管状で細孔を有する多孔質金属支持体もしくは管状で細孔を有する多孔質セラミック支持体の内表面もしくは外表面に、水素分離膜として金属薄膜を形成させたものを用いることができる。
【0031】
このような、金属薄膜の形成方法はパラジウム水素分離膜の分野で公知の方法を選択できるが、具体的には、無電解メッキ法、蒸着法、圧延法などが挙げられる。
【0032】
〔触媒〕
触媒として、金属酸化物担体にハロゲンを含まない活性金属前駆体を用いて活性金属を担持させた触媒を用いる。担持された活性金属は粒子径0.1nm以上、3nm未満が好ましく、さらには2nm未満が好ましい。小さな粒子径の触媒を用いることで活性点の数を増やし、かつ活性金属の担持量を減らすことができる。
【0033】
担体として用いる金属酸化物は、例えばアルミナ、シリカ、チタニア、ジルコニア、シリカアルミナが挙げられる。さらに好ましくはアルミナ、シリカまたはこれらの混合物である。金属酸化物の表面積が高ければ、活性金属を担持した時、活性金属が凝集せず、小さな粒子径を維持できる。従って表面積が高いアルミナ、シリカが好ましい。また、脱水素反応や水蒸気改質反応は吸熱反応であるため、反応場へ迅速に熱を供給するために熱伝導性に優れた金属の酸化物が好ましく、従ってアルミナが最も好ましい。
【0034】
活性金属としては、脱水素反応や改質反応などの水素製造反応を促進する活性を有する成分から適宜選ぶことができる。
【0035】
脱水素活性を有する活性金属としては、周期律表第7〜11族元素を用いることができる。具体的には鉄、コバルト、ニッケル、銅、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、銀、レニウム、オスミウム、イリジウム、白金、金が好ましい。さらに好ましくはニッケル、パラジウム、白金、レニウムである。またこれらの元素の2種類以上を組み合わせても良い。
【0036】
改質活性を有する活性金属としては、例えば、部分酸化改質用としては白金、水蒸気改質用としてはルテニウムおよびニッケル、オートサーマルリフォーミング用としてはロジウムを挙げることができる。
【0037】
中でも水素分子の解離、結合能力に優れ、水素移動能力を示すスピルオーバー効果を持つ白金と脱水素能力を持ち金属の凝集を防ぐアンカー効果を持つレニウムを組み合わせた白金−レニウム系の触媒はC−H結合の活性化と水素分子の生成および反応場からの脱離が素早く行われるため高い活性を示し、また凝集が起こりにくいため高い活性を長時間維持できるため最も好ましい。
【0038】
活性金属前駆体としては、カチオンである活性金属のカウンターアニオンとして周期表第17族ハロゲン元素を含まない化合物を用いる。ハロゲン元素を含まない活性金属前駆体としては、例えば、活性金属の硝酸塩、亜硝酸塩、硫酸塩、水酸化物塩、炭酸塩、アセテート塩、アセチルアセテート塩などがある。これらの塩は配位子としてNH3やH2Oを含んでも良い。活性金属が白金である場合の具体例としては、(NH32Pt(NO22、[Pt(NH34](NO32、Pt(NH34(OH)2、Pt(C5722などが好ましく、その中でも[Pt(NH34](NO32が最も好ましい。
【0039】
これらのハロゲンを含まない活性金属前駆体を担体に含有させる調製法は任意であるが、含浸法が好ましく挙げられる。具体的には、Pore‐filling法、Incipient Wetness法、蒸発乾固法などが挙げられる。用いる元素のハロゲンを含まない活性金属前駆体は水溶性の塩が好ましく、水溶液として含浸することが好ましい。
【0040】
担持した活性金属の粒子径が0.1nm以上3nm未満とするために、1回の担持操作で担持する活性金属の質量が、担体である金属酸化物の質量に対して2%以下となるように含浸溶液を調製し、この浸溶液を用いて活性金属の担持を行うことができる。金属酸化物の質量に対して2%を越える質量の活性金属を担持したい時は、1回の担持量が2%以下である含浸溶液を用いて、含浸、乾燥、焼成の各工程を繰り返し行うことで担持することができる。含浸溶液はpHが6から12であることが好ましい。活性金属前駆体水溶液のpHはアンモニア水、酢酸水、硝酸水を用いて調整しても良い。乾燥工程は80℃〜150℃で1時間以上行うことが好ましく、さらには80℃〜120℃で行うことが好ましい。焼成工程は好ましくは300℃以上500℃以下、より好ましくは300℃以上400℃以下で、好ましくは2時間以下で行うことができる。昇温速度は10℃/分以下が好ましい。
【0041】
活性金属の粒子径を測定する方法としては一酸化炭素の化学吸着量測定により求める方法を用いる。本発明において、活性金属の粒子径は一酸化炭素の化学吸着量測定により求めた値を言う。
【0042】
触媒には必要に応じ添加物を共存させても良い。好ましい添加物として、塩基性物質が挙げられる。塩基性物質が共存することにより、酸性に起因する分解などの副反応が抑制されるとともに、炭素質析出による触媒の劣化が抑制される。塩基性物質の種類は任意であるが、周期律表第1族元素および第2族元素の化合物が好ましく、具体的にはリチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウムの化合物が好ましい。これらの化合物としては、水溶性の物質が好ましい。塩化物、硫酸塩、硝酸塩、炭酸塩がさらに好ましい。塩基性物質の含有量は触媒活性主成分(活性金属)に対して質量比で0.1〜100の範囲が好ましい。これらの塩基性物質を触媒体に含有させる調製法は任意であるが、含浸法が好ましく挙げられる。具体的には、Incipient Wetness法、蒸発乾固法などが挙げられる。
【0043】
触媒として、従来公知の粒状もしくはペレット状等の形状の担体に、活性金属を担持させた触媒を使用することができる。また後述するように、反応管に接続された金属支持体の表面に、活性金属を担持した金属酸化物担体が好ましくは層状に設けられたものを用いると、反応サイトへの熱の供給もしくは反応サイトからの熱の除去が容易であるため、好ましい。
【0044】
〔炭化水素系燃料〕
改質もしくは脱水素反応による水素製造の場合、0.1MPaかつ20℃において液体である炭化水素系燃料(以下、液体炭化水素系燃料という)を用いることが好ましい。なぜなら、固体燃料、気体燃料と比べて液体燃料が最もハンドリングしやすく、水素貯蔵体として輸送が容易であり、かつ水素製造装置への燃料供給が容易であるからである。
【0045】
液体炭化水素系燃料としては、コーキング抑制の観点から水素原子を12質量%以上18質量%未満含む炭化水素を主成分とする燃料であることが好ましい。主成分とは液体炭化水素燃料の組成を質量%で表したとき、最も含有量が多い成分であることをいう。組成の分析方法としてはガスクロマトグラフ分析、液体クロマトグラフ分析などがある。液体炭化水素燃料としては例えばオクタン、ノナン、イソオクタンなどのパラフィン系炭化水素、メチルシクロヘキサン、ヘキサンなどのナフテン系炭化水素およびパラフィン系炭化水素とナフテン系炭化水素の混合物が挙げられる。
【0046】
水素製造反応がシクロヘキサン環からの脱水素反応である場合、炭化水素系燃料として、シクロヘキサン環を有する炭化水素を用いる。その具体例として、シクロヘキサンおよびシクロヘキサンのアルキル置換体、デカリンおよびデカリンのアルキル置換体、テトラリンおよびテトラリンのアルキル置換体が挙げられる。好ましくはメチルシクロヘキサン、ジメチルシクロヘキサン類、デカリン、メチルデカリン類である。これらのシクロヘキサン環を有する炭化水素は複数の炭化水素の混合物であっても良い。さらに反応に支障のない限り、適宜に他の化合物、たとえばシクロヘキサン環を持たない炭化水素などを含んでいても良い。
【0047】
シクロヘキサン環を有する炭化水素を原料とする場合、脱水素の生成物は、水素と不飽和炭化水素であり、不飽和炭化水素は主として芳香族炭化水素である。これらは回収して水素化することにより、原料の炭化水素に戻すことができる。あるいは必要に応じて脱水素反応に必要な熱源の燃料としても用いることができる。また芳香族炭化水素は一般にオクタン価が高いので、沸点が好適な物質はガソリン基材として用いることもできる。あるいは化学製品として用いることもできる。
【0048】
改質反応による水素製造の場合、炭化水素系燃料としては、改質反応によって水素を製造する原料として公知の、分子中に炭素と水素を含む(酸素など他の元素を含んでもよい)化合物もしくはその混合物から適宜選んで用いることができ、炭化水素類、アルコール類など分子中に炭素と水素を有する化合物を用いることができる。例えばメタン、エタン、プロパン、ブタン、天然ガス、LPG(液化石油ガス)、都市ガス、ガソリン、ナフサ、灯油、軽油等の炭化水素燃料、また、メタノール、エタノール等のアルコール、ジメチルエーテル等のエーテル等である。
【0049】
〔反応条件〕
脱水素反応の反応条件は原料(炭化水素系燃料)の種類、反応の種類に応じて適宜選択できる。反応圧力は好ましくは0.1MPa以上、2.0MPa以下であり、さらに好ましくは0.1MPa以上、1.0MPa以下である。反応温度は化学平衡上高温が好ましいが、エネルギー効率の点では低温のほうが好ましい。好ましい反応温度は200℃以上、400℃以下であり、より好ましくは270℃以上、360℃以下、さらに好ましくは220℃以上、360℃以下である。また化学平衡上は不利であるが、触媒の失活を防ぐ目的あるいは装置の運転上の理由で原料に水素を加えても良い。原料に水素を加える場合、水素と原料の比は、モル比で0.01以上、1以下が好ましい。LHSV(液空間速度)の好ましい範囲は、触媒の活性に依存するが、通常は0.2v/v/hr以上、20v/v/hr以下である。
【0050】
ここで、膜分離反応器における水素分離膜の透過側圧力は、0.2MPa以下が好ましく、0.12MPa以下がさらに好ましい。また、水素分離膜の透過側には、透過側水素分圧を低下させる目的で不活性ガスを供給することが好ましい。透過側水素分圧は、0.1MPa以下が好ましく、0.05MPa以下がさらに好ましい。ここで用いる不活性ガスとしては、凝縮させることで容易に分離できるスチームが好ましい。また、固体高分子型燃料電池用途を目的とする場合、スチームならば除去することなく燃料電池に導入可能な点からも、かかる目的にはスチームが好ましい。スチームを透過側に添加することにより、透過側の水素分圧は0.05MPa以下でも高純度な水素を製造することができる。
【0051】
上述の条件を採用すれば、後に図1を用いて詳述する、表面に触媒を有するフィンを備えた二重管構造の反応管を用いる場合はもちろん、二重管の外管と内管との間隙に従来公知の粒状もしくはペレット状触媒を充填し、内管の内側を透過水素の流路とした反応管を採用する場合であっても、膜分離過程における水素回収率として80%以上を達成することが可能である。
【0052】
水蒸気改質では、炭化水素系燃料にスチームが添加される。水蒸気改質の反応温度は例えば400℃〜1000℃、好ましくは500℃〜850℃、さらに好ましくは550℃〜800℃の範囲で行うことができる。反応系に導入するスチームの量は、炭化水素系燃料に含まれる炭素原子モル数に対する水分子モル数の比(スチーム/カーボン比)として定義され、この値は好ましくは1〜10、より好ましくは1.5〜7、さらに好ましくは2〜5とされる。炭化水素系燃料が液体の場合、この時の空間速度(LHSV)は炭化水素系燃料の液体状態での流速をA(L/h)、触媒層体積をB(L)とした場合A/Bで表すことができ、この値は好ましくは0.05〜20h-1、より好ましくは0.1〜10h-1、さらに好ましくは0.2〜5h-1の範囲で設定される。
【0053】
オートサーマル改質ではスチームの他に酸素含有ガスが炭化水素系燃料に添加される。酸素含有ガスとしては純酸素でも良いが入手容易性から空気が好ましい。水蒸気改質反応に伴う吸熱反応をバランスすることのできる発熱量が得られるように酸素含有ガスを添加することができる。酸素含有ガスの添加量は、炭化水素系燃料に含まれる炭素原子モル数に対する酸素分子モル数の比(酸素/カーボン比)として好ましくは0.005〜1、より好ましくは0.01〜0.75、さらに好ましくは0.02〜0.6とされる。オートサーマル改質反応の反応温度は例えば400℃〜1000℃、好ましくは450℃〜850℃、さらに好ましくは500℃〜800℃の範囲で設定される。炭化水素系燃料が液体の場合、この時の空間速度(LHSV)は、好ましくは0.05〜20、より好ましくは0.1〜10、さらに好ましくは0.2〜5の範囲で選ばれる。反応系に導入するスチームの量は、スチーム/カーボン比として好ましくは1〜10、より好ましくは1.5〜7、さらに好ましくは2〜5とされる。
【0054】
部分酸化改質では酸素含有ガスが炭化水素系燃料に添加される。酸素含有ガスとしては純酸素でも良いが入手容易性から空気が好ましい。反応を進めるための温度を確保するため、熱のロス等において適宜添加量は決定される。その量は、炭化水素系燃料に含まれる炭素原子モル数に対する酸素分子モル数の比(酸素/カーボン比)として好ましくは0.1〜3、より好ましくは0.2〜0.7とされる。部分酸化反応の反応温度は、例えば450℃〜1000℃、好ましくは500℃〜850℃、さらに好ましくは550℃〜800℃の範囲で設定することができる。炭化水素系燃料が液体の場合、この時の空間速度(LHSV)は、好ましくは0.1〜30の範囲で選ばれる。反応系においてすすの発生を抑制するためにスチームを導入することができ、その量は、スチーム/カーボン比として好ましくは0.1〜5、より好ましくは0.1〜3、さらに好ましくは1〜2とされる。
【0055】
〔反応管〕
前記流通式反応管が二重管構造を有し、二重管構造の外管は金属からなり、内管には水素分離膜が設けられ、外管には流通方向に延在しかつ内側に向かって突出する金属製の熱伝導性のフィン状突起が複数設けられており、少なくともフィン状突起の表面に水素製造反応促進用の触媒を有することが好ましい。
【0056】
したがって、本発明は次の水素製造用反応管を含む。すなわち、本発明の水素製造用反応管は、触媒を用いて炭化水素系燃料から水素を製造する反応を進行させながら、水素分離膜を用いて水素を分離する水素製造用反応管である。そしてこの水素製造用反応管が、二重管構造を有する流通式反応管である。二重管構造の外管は金属からなる。二重管構造の内管には水素分離膜が設けられる。水素分離膜はパラジウムを主成分としかつ銀を含む。外管には、流通方向に延在しかつ内側に向かって突出する金属製のフィン状突起が複数設けられている。少なくともフィン状突起の表面に、ハロゲンを含まない活性金属前駆体由来の活性金属を金属酸化物担体に担持させた触媒を有する。担持された活性金属が粒子径0.1nm以上3nm未満の粒状である。
【0057】
外管やフィン状突起を形成する材料として、金属を用いる。金属を用いることにより触媒体の熱伝導性が高まって熱供給が速くなり反応効率が向上する効果がある。すなわち、脱水素反応や水蒸気改質反応は吸熱反応であり、二重管の外側から適宜の加熱手段により熱を供給し、脱水素反応に熱を付与することが行われる。このとき、かかる反応への熱の付与が容易となる。外管に直接通電することにより、迅速に反応管を加熱し反応装置の起動時間を著しく短縮させることも可能である。
【0058】
外管やフィン状突起を形成する金属の300Kにおける熱伝導率が10W/m・K以上であることが好ましい。金属の表面に酸化物などの皮膜が形成されていてもよい。
【0059】
外管やフィン状突起を形成する金属には、脱水素もしくは改質による水素製造において反応管に用いられる公知の金属(合金を含む)を用いることができる。
【0060】
脱水素反応による水素製造を行う場合、上記金属として、アルミニウムまたは表面にアルミニウムを有する金属(合金を含む)が好ましい。
【0061】
改質反応による水素製造を行う場合、上記金属として、ステンレス鋼など、改質器に用いられる公知の材料を用いることができる。
【0062】
フィン状突起などの表面に、活性金属の担体としての機能を持たせるべく、この表面を高表面積になるよう処理することができる。この処理の方法については公知の方法が採用できるが、たとえば特開2002−119856号公報に記載されているように、陽極酸化の処理をベースに高表面積化する方法が好ましい。
【0063】
また、フィン状突起などの表面(高表面積化されていてもよい)には、アルミナなどの安定で高表面積の金属酸化物の層を形成することが好ましい。このためには、たとえば、高表面化した基体表面に、アルミナ水和物ゾルを塗布・乾燥後、焼成して金属酸化物層を形成させることができる。この金属酸化物層がアルミナ担体となる。
【0064】
反応熱の供給を効率的に行うためには、熱供給源(反応管外部に設けられたヒータやバーナなど)から触媒への熱伝導が良好に行われることが望まれる。このため二重管外管に直接接する金属体の表面に、触媒を設けることが好ましい。
【0065】
触媒は、たとえば外管の内面等のフィン以外の部分にも上述の方法により適宜に担持させることができる。内管は別に支持されることが可能であるので、外管から内管へ向かって伸びる複数のフィンは、内管を構成する水素分離膜に接触してもしなくとも良い。

本発明による水素製造を好適に行うことのできる二重管構造を有する流通式反応管の例を、図1および2を用いて説明する。図1は二重管の外管1を示すものであり、図2は反応管を示すものである。
【0066】
図1に示した外管1の内部に、水素分離膜が設けられた内管3が挿入される。外管の内壁に複数のフィン2が接続される。フィンは反応管の反応流体の流通方向(長手方向)に延在する。フィン2は内管に接触してもしなくとも良い。フィンの数、その高さ、厚み等は強度等を考慮して適宜に選択できる。またフィン形状も、図1では、外管面から直接垂直に伸びる板状であるが、表面積を大とするべく開口を設けるなど適宜の形状とすることができる。フィン2の表面には触媒が層(膜)状に設けられる。
【0067】
反応管の外側に、熱媒体を流通させることによって反応管を加熱することができる。反応管の外部に、ヒータやバーナなどの加熱手段を設け、これによって反応管を加熱することもできる。
【0068】
原料ガス(炭化水素系燃料のガス)は二重管の一方の端(図2において左端)から外管1と内管3との間の間隙内へ導入され、この間隙の他端(図2において右端)から非透過ガスとして一部の水素と反応生成物が排出される。水蒸気改質反応を行う場合などにおいてはスチームも同様に二重管の一方の端(図2において左端)から外管1と内管3との間の間隙内へ導入することができる。部分酸化改質反応を行う場合には、空気などの酸素含有ガスも上記間隙内に導入することができる。上記間隙内に熱電対を挿入しておき、この熱電対により反応温度を測定することができる。内管内部には選択的に膜分離された水素が透過ガスとして流れる。二重管の一端(図2において左端)から、内管に、透過側ガス中の水素分圧の低減のためにスチームなどの不活性ガスを流すこともできる。二重管の他端(図2において右端)において、内管から透過ガスとして高純度な水素を取り出す。
【0069】
このような構造によれば、反応管外部に配置される加熱源から触媒へと熱が良好に伝えられる(通電により外管自体が発熱する場合も同様)。しかも間隙を流通するガスとの接触面積が大であるので加熱が容易となり好ましい。
【0070】
触媒は必ずしも水素分離膜に接して配置する必要はなく、要は、触媒の作用で発生させた水素を直ちに、同時に、in situで水素膜分離操作にかけ、脱水素の反応系外へ水素を選択的に排出することができればよい。
【0071】
これにより、水素は迅速に分離され、しかも吸熱反応である脱水素反応もしくは水蒸気改質反応が遂行される二重管間隙は、管外部からの適宜の加熱手段により加熱することにより容易に熱が供給可能であり、脱水素反応もしくは水蒸気改質反応が進行しやすい。管外部からの適宜の加熱は、加熱媒体による加熱など公知の方法を適宜に採用できる。
【0072】
なお、本発明の水素製造方法は、上述のような反応管を用いる場合に限られない。例えば、表面に触媒を設ける部材として、フィン形状の突起に替えて、板状、管状、網状、ハニカム状など、適宜の形状の部材を用いることができる。また、このような部材を用いずに、粒状もしくはペレット状の触媒を二重管構造の外管と内管との間の間隙に充填し、内管を透過側水素の流路とすることもできる。
【0073】
本発明による水素製造方法につき、図3を用いて説明する。原料油(液体の炭化水素系燃料)、好ましくはシクロヘキサン環を含む炭化水素は、適宜気化されたうえで反応管に導入され、脱水素触媒上で水素と芳香族炭化水素等の不飽和炭化水素に変換される。生成した水素は水素分離膜により膜分離され、その大部分は透過ガスとして系外へ分離され、高純度な水素として製品水素となる。残った水素の一部と芳香族炭化水素等の不飽和炭化水素は非透過ガスとして回収される。また、必要に応じて水素分離膜の透過側にスチームを導入し、透過側における水素分圧を下げることが膜分離操作上好ましい。改質反応を行う場合は、スチームとともに導入された原料ガスが改質触媒上で水素とCO2、COに変換される。生成した水素は脱水素反応と同様に水素分離膜により膜分離され、その大部分は透過ガスとして系外へ分離され、高純度な水素として製品水素となる。
【実施例】
【0074】
以下、実験例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれら実験例の範囲に限定されるものではない。
【0075】
〔内管〕
外径10mm、内径8.4mm、長さ300mmの多孔質セラミックのチューブ状支持体外表面に無電解メッキによりパラジウムと銀(Pd:Ag=77:23,質量比)をコーティングし、水素透過係数0.63cm3/cm2/min/Pa1/2、膜厚2.5μmである水素分離膜を得た。これを内管として用いた。
【0076】
〔外管A〕
内径24mm、長さ300mm、フィン高さ6mmの、図1に示す構造を有するアルミニウム製内部フィン型反応管を外管として用いた。
【0077】
このフィン部分を希硝酸で洗浄し、水洗、乾燥した後、クロム酸水溶液中で陽極酸化を行う。フィン部分に市販の擬ベーマイトゾル(触媒化成工業(株)製、商品名「カタロイドAS−3」)を塗布し乾燥させる操作を4回繰り返した後、450℃で2時間焼成し、フィン2の表面に金属酸化物層を形成した。
【0078】
塩化白金酸(和光純薬工業株式会社製)の水溶液を用いて含浸法によりフィン部分(金属酸化物層)に0.2504gの白金を担持した。
【0079】
その後、120℃で3時間乾燥させたのち、300℃で2時間焼成した。
【0080】
このようにしてフィン2の表面に、触媒(白金を担持した金属酸化物)の層(膜)を形成した。これを外管Aとする。
【0081】
触媒上に担持された白金の金属粒子径と金属分散度は一酸化炭素の化学吸着量により求めることができる。このとき、白金の金属密度21.45g/cm3、金属断面積は8×10-22/g、一酸化炭素の白金への吸着時の化学量論数は1とする。
【0082】
金属粒子径を日本ベル株式会社製のガス/蒸気吸着量測定装置(商品名:BELSORP−MAX)を用いて測定した例を示す。流通式測定管に触媒500mgを充填した後、前処理として純度99.9999%ヘリウム流通下で350℃まで昇温する。この時ヘリウムのガス流量は3.0×10-33/hであり、以降ガスの流量は全てこの値である。350℃で15分間保持した後、ヘリウムの流通をやめ、純度99.99%酸素を15分間流す。その後、再度ヘリウムに切り替え、15分間流通させた後、純度99.99999%水素に切り替え30分間流通させる。再度ヘリウムに切り替え60分間流通させた後、50℃まで降温する。50℃で60分間ヘリウムを流通させた後、真空排気を行い、その後50℃にて純度99.9995%一酸化炭素の吸着を行い、化学吸着量を得る。この化学吸着量から金属粒子径と金属分散度が求められる。
【0083】
〔外管B〕
塩化白金酸の水溶液に替えて、[Pt(NH34](NO32(STREM社製)の水溶液を用いて含浸法によりフィン部分に0.2504gの白金を担持した。
【0084】
これ以外は実施例1と同様にして、フィン2の表面に、触媒(白金を担持した金属酸化物)の簿層を形成した。これを外管Bとする。
【0085】
〔外管C〕
外管Bのフィン部分に、さらにレニウム粉末(和光純薬工業株式会社製)を硝酸(和光純薬工業株式会社製)水溶液に溶解させて調製した硝酸レニウム水溶液を用いて含浸法により0.2504gのレニウムを担持させ、その後、120℃で3時間乾燥させたのち、300℃で2時間焼成した。
【0086】
このようにしてフィン2の表面に、触媒(白金およびレニウムを担持した金属酸化物)の簿層を形成した。これを外管Cとする。
【0087】
〔外管D〕
塩化白金酸の水溶液に替えて、粒子径2nmの白金コロイドのテトラメチルアミン水溶液(田中貴金属工業株式会社製)を用いて含浸法によりフィン部分に0.2504gの白金を担持した。
【0088】
これ以外は実施例1と同様にして、フィン2の表面に、触媒(白金を担持した金属酸化物)の層(膜)を形成した。これを外管Dとする。
【0089】
〔外管E〕
白金の担持の後、乾燥を160℃で20分、焼成を500℃で3時間行った以外は外管Bと同じ方法でフィン2の表面に、触媒(白金を担持した金属酸化物)の簿層を形成した。これを外管Eとする。
【0090】
〔比較例1〕
外管Aの中に、前述の内管を挿入し、図3に示す構造を有する、触媒と水素分離膜を組み合わせた流通式反応管を組み立てた。
【0091】
この反応管に、メチルシクロヘキサンを原料として導入し、反応圧0.5MPa(絶対圧)、透過側圧力0.1MPa(絶対圧)、反応温度330℃、LHSV5.0h-1の条件下で脱水素反応を行い、反応初期と1週間後の水素透過係数、メチルシクロヘキサン転化率を求めた。結果を表1に示す。LHSVは液空間速度であり、(メチルシクロヘキサン液体体積(ml)/触媒(ml)/時間(h))で表される。メチルシクロヘキサン転化率は、(発生した水素量(mol)/導入したメチルシクロヘキサンからの理論水素発生量(mol)×100)で表される。
【0092】
〔実施例1〕
外管Aに替えて、外管Bを用いた以外は比較例1と同様に水素を製造した。結果を表1に示す。
【0093】
〔実施例2〕
外管Aに替えて、外管Cを用いた以外は比較例1と同様に水素を製造した。結果を表1に示す。
【0094】
〔比較例2〕
外管Aに替えて、外管Dを用いた以外は比較例1と同様に水素を製造した。結果を表1に示す。
【0095】
〔比較例3〕
外管Aに替えて、外管Eを用いた以外は比較例1と同様に水素を製造した。結果を表1に示す。
【0096】
【表1】

【0097】
表1に示すとおり、外管Aを用いた比較例1では、水素分離膜が被毒されておらず水素透過係数が高い反応の初日は、高いメチルシクロヘキサン転化率を示すが、1週間後には水素透過係数が大幅に低下し、その結果、メチルシクロヘキサン転化率も低下している。これは触媒中に残存する塩素により水素分離膜が被毒されたためと考えられる。
【0098】
それに対し、実施例1では、水素分離膜が被毒されておらず水素透過係数が高い反応の初日では比較例1よりメチルシクロヘキサン転化率が若干低いものの、1週間後でも水素分離膜の水素透過係数がほぼ同じであるため、メチルシクロヘキサン転化率も初日とほぼ変わらず、比較例1より大幅に高い。
【0099】
比較例1より白金の金属粒子径が小さく、金属分散度が高い実施例2では初日でも比較例1よりメチルシクロヘキサン転化率が高い。
【0100】
実施例1、実施例2、比較例1と比べて白金の金属粒子径が大きく、金属分散度が低い比較例2、比較例3では塩素を含まないため、反応初日と1週間後でも水素分離膜の水素透過係数はほぼ同じであるが、反応初日からメチルシクロヘキサン転化率が低いままである。
【図面の簡単な説明】
【0101】
【図1】本発明の水素製造用反応管の外管の例を示す模式図であり、(a)は流通方向に垂直な断面を示す断面図、(b)は斜視図である。
【図2】本発明の水素製造用反応管の例を示す模式的断面図である。
【図3】本発明の水素製造方法を説明するための概念図である。
【符号の説明】
【0102】
1: 外管
2: フィン
3: 内管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
触媒を用いて炭化水素系燃料から水素を製造する反応を進行させながら、水素分離膜を用いて水素を分離する水素製造方法であって、
該水素分離膜として、触媒を備える流通式反応管内に設けられた、パラジウムを主成分としかつ銀を含む水素分離膜を用い、
該触媒として、金属酸化物担体にハロゲンを含まない活性金属前駆体を用いて活性金属を担持させた触媒であって、該担持された活性金属が粒子径0.1nm以上3nm未満の粒状である触媒を用いる水素製造方法。
【請求項2】
前記活性金属が白金を含む請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記活性金属が白金とレニウムを含む請求項1記載の方法。
【請求項4】
前記金属酸化物担体が、アルミナを含む請求項1〜3の何れか一項記載の方法。
【請求項5】
前記炭化水素系燃料が、水素原子を12質量%以上含む炭化水素を主成分とする、0.1MPaかつ20℃において液体である請求項1〜4の何れか一項記載の方法。
【請求項6】
前記炭化水素系燃料がシクロヘキサン環を有する炭化水素であり、
前記反応が、シクロヘキサン環からの脱水素反応である請求項1〜4の何れか一項記載の方法。
【請求項7】
前記流通式反応管が二重管構造を有し、
該二重管構造の外管は金属からなり、内管に前記水素分離膜が設けられ、
該外管には、流通方向に延在しかつ内側に向かって突出する金属からなるフィン状突起が複数設けられており、
少なくとも該フィン状突起の表面に前記触媒を有する請求項1〜6の何れか一項記載の方法。
【請求項8】
触媒を用いて炭化水素系燃料から水素を製造する反応を進行させながら、水素分離膜を用いて水素を分離するための水素製造用反応管であって、
該水素製造用反応管が、二重管構造を有する流通式反応管であり、
該二重管構造の外管は金属からなり、内管に水素分離膜が設けられ、
該水素分離膜はパラジウムを主成分としかつ銀を含み、
該外管には、流通方向に延在しかつ内側に向かって突出する金属からなるフィン状突起が複数設けられており、
少なくとも該フィン状突起の表面に、ハロゲンを含まない活性金属前駆体を用いて活性金属を金属酸化物担体に担持させた触媒を有し、該担持された活性金属が粒子径0.1nm以上3nm未満の粒状である
水素製造用反応管。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−297160(P2008−297160A)
【公開日】平成20年12月11日(2008.12.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−145113(P2007−145113)
【出願日】平成19年5月31日(2007.5.31)
【出願人】(590000455)財団法人石油産業活性化センター (249)
【Fターム(参考)】