説明

水素製造用触媒、その触媒の製造方法およびその触媒を用いた水素の製造方法

【課題】本発明は、原料である炭化水素系化合物に含まれる硫黄化合物による被毒、燃料電池システムの稼動停止の繰り返しでの温度や雰囲気変化による触媒成分変質やコーキングに対して長期耐久性を有した水素製造用触媒を提供するものである。
【解決手段】本発明は、炭化水素系化合物の改質により水素を生成する水素製造用触媒であって、活性アルミナおよびセリウム系均密混合酸化物を含有する触媒組成物がハニカム担体に担持されていることを特徴とする水素製造用触媒である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭化水素系化合物を改質して水素含有ガスを製造する水素製造用触媒およびその触媒の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
主に水素と一酸化炭素からなる水素含有ガス(合成ガス)は、水素ガス製造用の他に還元用ガス、更には各種化学製品の原料等として広く活用されており、最近では、燃料電池用燃料等としても実用化研究が進められている。このような水素含有ガスは、炭化水素系化合物の水蒸気改質によって得られることが知られている。天然ガスの主成分であるメタンを原料とした場合の水蒸気改質反応を下式に示した。
【0003】
【化1】

天然ガスの水蒸気改質によって工業的に水素を製造する水素製造用触媒としては主にニッケル系触媒が使用されている。しかしながら家庭用燃料電池システムにおいては、電力および熱需要の状況への対応によりシステムの稼動停止を頻繁に実施される。この際、改質器内部に水および未改質燃料が存在したままシステムを停止すると、触媒の劣化、再起動性の悪化、燃料の漏洩等の原因となる。そこで燃料電池システムを停止する場合は、燃料を停止して水蒸気のみを流通させて改質器内部を不活性なガスでパージしてから停止する方法が採用されている。水素製造用触媒として工業的に実績があるニッケル系触媒は高温の水蒸気雰囲気にてニッケルが酸化されてシンタリングし失活することが知られており、家庭用燃料電池システムの水素製造用触媒としては白金族であるルテニウム系触媒が一般的に使用されている。パージガスとしては水蒸気以外に窒素や空気などが考えられ、特に空気が好ましいがルテニウム系触媒は高温の酸化雰囲気で昇華性が高いことが知られており、耐酸化性の優れた触媒開発が望まれている。
【0004】
また改質反応の原料となる炭化水素系化合物には、メタノール、LPガス、天然ガス、ガソリン、軽油、灯油等が挙げられるが、特に家庭用の燃料電池向けの水素源としてはインフラの点で都市ガス、LPガスおよび灯油を使用することが好ましい。しかしながら、都市ガスやLPガスに付臭剤として含まれるメルカプタン類などの硫黄系化合物や灯油に含まれる硫黄系化合物は微量存在するだけで水蒸気改質触媒や後段のCO変成触媒の触媒被毒物質となることが知られており、触媒の耐硫黄被毒性の向上が望まれている。そこで原料に含まれる硫黄系化合物による水素製造用触媒の劣化を回避するための手段として、改質器の前段に前処理脱硫装置を併設し、原料ガスから予め硫黄分を除去してから改質反応に供する等の防止策が提案されている。しかしながらこれら防止策を講じる場合、前処理脱硫装置の設置や維持管理に費用が発生するため、水素製造コストが上昇するという問題が新たに生じてくる。
【0005】
これに対し、硫黄系化合物を含有する原料の改質反応において、硫黄被毒による触媒劣化を抑制した触媒として、白金およびロジウムを含有する触媒が提案されている(特許文献1)。該文献では、特にロジウムは耐硫黄被毒性の向上に有効的であることが開示されている。同様に、炭化水素化合物類の原料に硫黄系化合物が一定濃度以上含有する場合においても長期間の触媒安定性を確保できる手段として、ルテニウムに加えてロジウムを含有する水蒸気改質触媒が提案されている(特許文献2)。
【0006】
ロジウム含有触媒は耐硫黄被毒性に優れ、耐酸化性も優れているが、ロジウムは白金族金属の中でも非常に高価な貴金属であるため触媒単価の大幅な上昇を招く可能性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平04−281845号公報
【特許文献2】特許公報4227779号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
水素製造用触媒は高温高湿度条件で使用されるため触媒成分のシンタリングによる熱劣化や原料ガスに含まれる硫黄化合物による被毒劣化が生じるため耐久性の向上が望まれている。また触媒寿命は、改質時の反応温度にも依存し、低温で効率的に改質反応が進行すれば触媒寿命を延長することができる。
【0009】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであって、その目的は、原料である炭化水素系化合物に含まれる硫黄化合物による被毒、燃料電池システムの稼動停止の繰り返しでの温度や雰囲気変化による触媒成分変質やコーキングに対して長期耐久性を有した水素製造用触媒、およびその触媒の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、炭化水素系化合物の改質反応について詳細に検討した結果、活性アルミナとセリウム系均密混合酸化物を含有する触媒組成物をハニカム担体に担持した触媒を用いることにより耐硫黄被毒性が改善すると共に、低温活性の向上により熱的負荷が抑制され、触媒寿命を大幅に延長できることを見出し、本発明を完成させた。前記セリウム系均密混合酸化物とはマンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、イットリウムおよびジルコニウムから選ばれる少なくとも1種の遷移金属とセリウムとの複合酸化物、固溶体または混合酸化物(以下、これらを合わせてセリウム系均密混合酸化物と称する)である。
【発明の効果】
【0011】
本発明の水素製造用触媒によれば、原料ガスが硫黄系化合物を含む場合であっても、低温で改質反応を行うことができ、かつ硫黄化合物による被毒を抑制できる。このため、本発明の水素製造用用触媒は燃料電池向けに使用でき、例えば家庭用の固体高分子型燃料電池や固体酸化物型燃料電池への組み込みに適する。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の水素製造用触媒は活性アルミナ及びセリウム系均密混合酸化物を含有する触媒組成物がハニカム担体に担持されており、前記セリウム系均密混合酸化物がマンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、イットリウムおよびジルコニウムから選ばれる少なくとも1種の遷移金属とセリウムとの複合酸化物、固溶体または混合酸化物であることを特徴とする水素製造用触媒である。本水素製造用触媒は改質反応により炭化水素系化合物から水素を生成することができる。以下に本発明を詳細に説明する。
【0013】
本発明に用いる水素製造用触媒は活性アルミナ及びセリウム系均密混合酸化物を含有するものである。セリウム系均密混合酸化物は活性アルミナが100質量部に対してセリウム系均密混合酸化物を10〜200質量部、より好ましくは30〜150質量部、特に好ましくは50〜100質量部の比率で触媒組成物中に添加することが好ましい。セリウム系均密混合酸化物の含有量が10質量部未満である場合は水素製造用触媒の初期性能や耐久性能が不十分となり、200質量部を超えてもコストに見合う性能向上効果が得られない。一般に使用されている二酸化セリウムと比較してセリウム系均密混合酸化物は触媒組成物中の含有率を大幅に高めることが可能であり、それにより著しい耐久性の改善効果が得られるものである。このように高い含有率でセリウム系均密混合酸化物を添加することにより、熱的な触媒活性の低下抑止効果のみならず、硫黄などの触媒毒成分による被毒の低減及び炭素析出の抑止にも有効に作用し、長期間安定して優れた触媒作用を維持することができる。
【0014】
本発明に使用されるセリウム系均密混合酸化物はマンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、イットリウムおよびジルコニウムから選ばれる少なくとも1種の遷移金属とセリウムより構成されているが、好ましくはセリウムと前記遷移金属との複合酸化物またはセリウムと遷移金属との固溶体であることが好ましい。セリウムと遷移金属が複合酸化物を形成していることは、X線回折分析において含有比率の少ない方の酸化物のピークが検出されないか非常にアモルファスなピークになっていることで確認することができる。またセリウムと遷移金属が固溶体を形成している場合は、その含有比率によってX線回折ピークのシフトが生じることによって確認することができる。また前記複合酸化物や固溶体のX線回折ピークに加えて単独酸化物のピークが検出される混合酸化物であってもよい。混合酸化物である場合は、複合酸化物や固溶体のX線回折のメインピークに対して単独酸化物の回折ピークの強度比が70%以下、好ましくは50%以下であることが好ましい。
【0015】
セリウム系均密混合酸化物とは具体的にはセリウム−マンガン均密混合酸化物、セリウム−鉄均密混合酸化物、セリウム−コバルト均密混合酸化物、セリウム−ニッケル均密混合酸化物、セリウム−銅均密混合酸化物、セリウム−亜鉛均密混合酸化物、セリウム−イットリウム均密混合酸化物、セリウム−ジルコニウム均密混合酸化物などの2成分系やセリウム−マンガン−銅均密混合酸化物、セリウム−マンガン−鉄均密混合酸化物、セリウム−ニッケル−イットリウム均密混合酸化物やセリウム−ジルコニウム−イットリウム均密混合酸化物などの3成分系等を挙げることができる。好ましいセリウム系均密混合酸化物としてはセリウム−マンガン均密混合酸化物、セリウム−ニッケル均密混合酸化物、セリウム−ジルコニウム均密混合酸化物およびセリウム−ジルコニウム−イットリウム均密混合酸化物であり、なかでもセリウム−ジルコニウム均密混合酸化物およびセリウム−ジルコニウム−イットリウム均密混合酸化物が好ましい。
【0016】
セリウム系均密混合酸化物はセリウム化合物と遷移金属元素含有化合物の固相反応法、共沈法、沈着法、薬液混合法、含浸法などによって調製されるものであり、セリウムの含有率が30〜98モル%であることが好ましい。より好ましいセリウムの含有率は50〜90モル%、更に好ましくは60〜85モル%である。セリウム系均密混合酸化物におけるセリウムの含有率が30モル%未満である場合は触媒組成物中のセリウム含有率が少なくなり耐硫黄被毒性の低下やコーキングが生じやすくなり、セリウムの含有率が98モル%を超える場合は他元素の含有率が少なくなり十分な耐久性能改善効果が得られなくなる。
【0017】
セリウム系均密混合酸化物の比表面積は20〜100m/g、より好ましくは30〜70m/gであることが好ましい。比表面積が20m/gより小さい場合は、反応ガスとの接触効率が低下し十分な初期活性が得られず、100m/gを超える場合は高温反応においてシンタリングしやすく使用により急激な性能低下を招く可能性がある。特に好ましくはセリウム系均密混合酸化物の調製において700℃5時間以上の焼成後において比表面積が30m/g以上であるセリウム系均密混合酸化物を触媒組成物に含有していることが好ましい。
【0018】
次に本発明に用いられる活性アルミナとしては、γ−アルミナ、δ−アルミナ、θ−アルミナやη−アルミナ等を挙げることができる。なかでも、比表面積が50〜250m/gのγ−アルミナまたはδ−アルミナが好適に用いられる。特にγ−アルミナは、BET比表面積が大きく、反応ガスとの接触面積が大きくなるため改質反応が促進され、また高温耐熱性に優れていることから、特に好適に用いられる。
【0019】
活性アルミナは、市販の酸化アルミニウム粉体が使用できる。また焼成することにより活性アルミナとなるベーマイトや擬ベーマイト状態のアルミナ水和物、水酸化アルミニウムなどを用いてもよい。また、硝酸アルミニウム等のアルミニウム塩水溶液にアルカリ性化合物を加えて水酸化物の沈殿を生成させ、これを乾燥、焼成して得られる活性アルミナでもよい。また、アルミニウムイソプロポキシドなどのアルコキシドを加水分解してアルミナゲルを調製し、これを乾燥、焼成するゾル・ゲル法によって得られる活性アルミナでもよい。また触媒組成物中にベーマイト、硝酸アルミニウムやアルミナゾルなどの活性アルミナの前駆体として添加してハニカム担体に担持してから、焼成して活性アルミナに転換してもよい。
【0020】
また活性アルミナにマグネシウム、カルシウム、バリウムなどのアルカリ土類金属、ランタン、セリウム、ネオジウムなどの希土類元素を添加し、活性アルミナの熱安定性を向上させることもできる。活性アルミナに添加する元素としては活性アルミナが100質量部に対して上記元素を酸化物として1〜20質量部、好ましくは3〜10質量部添加することが好ましい。特にバリウムおよびランタンの添加が好ましく、熱安定化された活性アルミナは800℃以上の高温雰囲気においても曝されても不活性なα−アルミナへの結晶変化を抑制することができる。
【0021】
本発明の水素製造用触媒は活性アルミナ及びセリウム系均密混合酸化物に加えて、パラジウム、白金、ロジウム、ルテニウム、オスミウム、イリジウムよりなる群から選ばれる少なくとも1種の白金族金属元素を含有することが好ましい。この際、ハニカム担体の単位容積あたりの白金族金属含有量は0.2〜20g/Lであり、より好ましくは0.3〜10g/Lであることが好ましい。本発明のセリウム系均密混合酸化物の使用により白金族金属の分散性や耐熱性が著しく改善され、白金族金属の使用量を大幅に低減することができる。また白金族金属の硫黄被毒に対してもセリウム均密混合酸化物と白金族金属の相乗効果により少ない白金族金属の使用量にて低温で高活性が得られ、かつ長期耐久性を持続することができる。
【0022】
白金族金属元素化合物として、例えば、ルテニウム化合物では、塩化ルテニウム水溶液、硝酸ルテニウム水溶液、ロジウム化合物では塩化ロジウム水溶液、硝酸ロジウム水溶液、イリジウム化合物では塩化イリジウム水溶液、硝酸イリジウム水溶液、白金化合物では塩化白金酸水溶液、ジニトロジアミノ白金硝酸水溶液等が使用できる。
【0023】
添加する白金族金属元素としては少なくともルテニウムを含有していることが好ましい。またルテニウムと他の白金族金属を組み合わせて使用することにより、更に低温活性の向上や耐硫黄被毒性の改善効果が得られる。他の白金族金属としては白金、パラジウムまたはロジウムの添加が好ましい。ルテニウムとルテニウム以外の白金族金属元素の質量比は100:0〜70:30、好ましくは97:3〜90:10である。ルテニウム以外の白金族金属元素の比率が増加すると改質反応における水素への選択性の低下や触媒材料費高騰を招く可能性があるため好ましくない。なお、白金族金属は活性アルミナ、セリウム系均密混合酸化物のいずれに担持されていてもよい。例えば予め活性アルミナおよび/またはセリウム均密混合酸化物に白金族金属が担持された粉末を湿式粉砕してハニカム担体に被覆したり、湿式粉砕の際にスラリーに白金族金属の水溶液を触媒組成物に添加してハニカム担体に被覆したり、ハニカム担体に活性アルミナやセリウム系均密混合酸化物を被覆してから白金族金属を担持してもよい。
【0024】
本発明の水素製造用触媒は上記のように活性アルミナ、セリウム系均密混合酸化物や白金族金属を含有する触媒組成物をハニカム担体に担持されてなる。本発明に使用できるハニカム担体としてはコージライトやムライトのようなセラミック製ハニカム担体やステンレス製のメタルハニカムなどが使用することができる。特に、アルミニウムを含有したフェライト系ステンレス(Fe−Cr−Al)薄鋼板からなる平板と波板とを交互に重ね合わせて、渦巻状に積層したメタルハニカム担体を使用することが好ましい。水蒸気改質反応による燃料電池システムは始動時に外部加熱で触媒を500℃以上に昇温する必要があるが、軽量で伝熱性が良好なメタルハニカム担体を担体に用いることで触媒温度が速やか昇温され短時間でのスタートアップが可能となり改質反応の水素製造用触媒として適している。メタルハニカム担体のセル数は100〜600セル/inch2(1平方インチ当たりのセル数)であり、ステンレス薄鋼板の箔厚が10〜50μmであることが好ましい。より好ましくはセル数が200〜400セル/inch2であり、ステンレス薄鋼板の箔厚が20〜30μmである。メタルハニカム担体のセル数が100セル/inch2以下である場合は単位容積当たりのガスとの接触面積が小さくなるため十分な反応速度が得られ難くなり、600セル/inch2を越える場合は触媒組成物の担持に際して目詰まりが生じやすくなるため好ましくない。またステンレス薄鋼板の箔厚が10μm未満の場合はハニカムの機械的強度の低下を招く可能性があり、50μmを超える場合は触媒重量が重たくなり伝熱性が低下するので好ましくない。
【0025】
上記のようなメタルハニカム担体を担体として用いることにより、工業的水素製造用触媒として一般に使用されているペレット形状の触媒と比較して幾何学表面積が著しく大きくなるため、ガスとの接触効率が高くなり触媒単位容積当たりの水素製造速度を高めることができる。またメタルハニカム担体の幾何学表面積は1500m/m以上であることが好ましく、より好ましくは2500m/m以上である。
【0026】
またメタルハニカム担体に触媒組成物を被覆して形成された触媒コート層を、EPMAを用いて測定した平均粒子径が0.5〜10μmであることが好ましい。より好ましくは平均粒子径が1〜5μmであることが好ましい。なお、触媒コート層の平均粒子径は以下の測定方法により求めることができる。
【0027】
<触媒コート層の平均粒子径測定方法>
EPMA(Electron Probe Micro Analyzer)を用い、完成触媒の触媒コート層を5000倍の倍率で、アルミナ、セリウム、遷移金属などの触媒組成物構成元素のX線像を無作為に30ヶ所撮影し、これら写真中の当該元素の分布より各粒子径を測定し、その測定値に基づいて平均粒子径を求める。
【0028】
このようにしてもとめた触媒コート層の平均粒子径が0.5μm未満である場合は、触媒組成物担持工程の乾燥や焼成においてコート層にクラックが生じやすくなり、使用時に触媒成分が剥離したり、スラリーの安定性が不十分となりゲル化してメタルハニカム担体との接着性の低下を招いたりする可能性がある。またコート層の平均粒径が10μmを超える場合は緻密なコート層の形成が困難となりメタルハニカム担体との十分な接着性が得られない。
【0029】
また触媒組成物はハニカム担体の単位容積当たりに100〜300g(g/L:触媒1リットル当たりの質量、以下同じ)で担持されており、より好ましくは150〜250g/Lで担持されていることが好ましい。触媒組成物の単位容積当たりの担持量が100g/L未満である場合は触媒コート層の厚みが薄くなり、ガス拡散が不十分となって反応効率の低下を招くため好ましくない。また300g/Lを超える場合は触媒製造が困難であり、セルの閉塞による圧損上昇や使用時に炭素析出等の不具合が生じやすくなる可能性がある。さらにハニカム担体に担持されている触媒コート層の平均厚みは50〜200μm、好ましくは80〜150μmであることが好ましい。触媒コート層の平均厚みは前述と同様にEPMAを用いて測定することが可能である。
【0030】
(水素製造用触媒の製造方法)
本発明の水素製造用触媒の製造方法は活性アルミナとセリウム系均密混合酸化物とを混合し湿式粉砕して得られたスラリーをハニカム担体に被覆する工程を有するものである。最初に本水素製造用触媒の特徴となるセリウム系均密混合酸化物の調製方法について説明する。セリウム系均密混合酸化物の調製方法としては各種セリウム化合物と遷移金属元素含有化合物とを固相反応法、共沈法、沈着法、薬液混合法、含浸法などによって調製することができる。以下に、セリウム−ジルコニウム均密混合酸化物の場合を例として具体的な調製例を示す。
(1)セリウム酸化物とジルコニウム酸化物とを混合した後、焼成して固相反応する。
(2)セリウム塩水溶液とジルコニウム塩水溶液とを混合した後、乾燥、焼成する。
(3)セリウム塩水溶液とジルコニウム塩水溶液とを混合し、アンモニウム化合物などを添加して加水分解により共沈させた後、乾燥、焼成する。
(4)セリウム酸化物にジルコニウム塩水溶液を浸し混合した後、乾燥、焼成する、あるいはジルコニウム酸化物にセリウム塩水溶液を浸して混合した後、乾燥、焼成する。
(5)セリウム酸化物の前駆体にジルコニウム塩水溶液を浸した後、混合、乾燥、焼成する、あるいはジルコニウム酸化物の前駆体にセリウム塩水溶液を浸した後、混合、乾燥、焼成する。
【0031】
この際、原料となるセリウム化合物としては、市販の酸化セリウム以外に、硝酸セリウム、塩化セリウム、硫酸セリウム、酢酸セリウムなどの水溶性のセリウム塩化合物や前記酸化セリウムの前駆体である酸化セリウムゾル、水酸化セリウムや炭酸セリウムなどを用いることができる。
【0032】
またジルコニウム化合物としては、市販の酸化ジルコニウム以外に、四塩化ジルコニウム、塩化ジルコニル(オキシ塩化ジルコニウム)、硫酸ジルコニル、硝酸ジルコニウム、硝酸ジルコニル、酢酸ジルコニウム、酢酸ジルコニル、シュウ酸ジルコニルなどの水溶性のジルコニウム塩化合物や前記ジルコニウム酸化物の前駆体として酸化ジルコニウムゾル、炭酸ジルコニウム、炭酸ジルコニルなどの炭酸塩や部分加水分解生成物を用いることができる。
【0033】
上記(1)〜(5)の方法においてジルコニウム化合物の代わりにマンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛またはイットリウムを含有する遷移金属元素化合物を選定することにより同様に他のセリウム系均密混合酸化物を容易に調製することができる。なお、セリウム化合物と遷移金属元素化合物の添加比率は調製後の混合酸化物における酸化セリウムの含有率が30〜98モル%となるように配合する。
【0034】
上記(1)〜(5)における焼成は、例えば、空気中で500〜1000℃、好ましくは600〜800℃にて5〜10時間程度実施することで、本発明に使用されるセリウム系均密混合酸化物を得ることができる。このようにして得られたセリウム均密混合酸化物は熱的に安定であり、単独の二酸化セリウムと比較して熱処理後において高い比表面積を維持し、高温での粒子成長が抑制されるというような優れた物性を有している。なかでも(3)の共沈法および(4)、(5)の含浸法により得られたセリウム系均密混合酸化物を用いることにより、高活性で耐久性の優れた水素製造用触媒を製造することができる。特に(5)に示す粉末状の酸化物前駆体に金属塩水溶液を含浸する固−液含浸法は簡便な製造設備で優れた特性を有した複合酸化物や固溶体を容易に調製することができ、例えば共沈法で必要となるpHの制御設備や大量に発生する洗浄排水処理設備が不要である。
【0035】
活性アルミナと上記方法で得られたセリウム系均密混合酸化物とを混合し湿式粉砕して得られたスラリーをハニカム担体に被覆する工程を有する、本発明の水素製造用触媒の代表的な製造方法について以下に説明する。
【0036】
<触媒製造方法1>
活性アルミナ及びセリウム系均密混合酸化物とを混合しボールミルなどの粉砕機に供給し、湿式粉砕してスラリーを調製し、このスラリーをハニカム担体に被覆する工程を有している。触媒成分を被覆した後、乾燥して固定し、焼成および/または還元処理などを必要により実施しても良い。
【0037】
スラリーを調製する際には、上記触媒成分以外にスラリーの粘度調節や安定性改善のため、塩酸、硫酸、硝酸、酢酸、シュウ酸などの酸性化合物、アンモニアや水酸化テトラアンモニウムなどの塩基性化合物、ポリアクリル酸やポリビニルアルコールなどの高分子化合物などを必要に応じて添加してもよい。また前記ハニカム担体がメタルハニカム担体である場合はスラリーの平均粒子径は0.5〜10μmであることが好ましい。より好ましくは平均粒子径が1〜5μmであることが好ましい。スラリーの平均粒子径が0.5μmより小さくても、10μmを超えてもメタルハニカム担体との接着性が低下し、剥がれやすくなる。
【0038】
ハニカム担体へのスラリーの被覆方法としては特に限定されず、含浸法、吸引法、湿式吸着法、スプレー法、塗布法などの方法が適用できる。またスラリー被覆時の条件も適宜変更できる。例えば含浸操作を大気圧下あるいは減圧下で行うことができ特に減圧下で実施することにより容易に均質なコート層を形成することができる。スラリー被覆時の温度も特に制限はなく、必要により加熱してもよく、好ましくは室温から90℃程度の範囲内で行えばよい。メタルハニカム担体を用いる場合は減圧下でスラリー吸引して含浸させると均一に触媒成分を担持させることができるので、この吸引含浸法が好適に用いられる。被覆後は、ハニカム担体に付着している過剰なスラリー(例えば、セル内に残存しているスラリー)をエアブロー等の方法によって除去した後、乾燥するのがよい。
【0039】
乾燥方法についても特に制限はなく、スラリーの水分を除去し得る条件であればいずれも用いることができる。乾燥は常温下、あるいは50〜200℃の熱風をセル内に通風してもよい。乾燥後に焼成することで触媒組成物をハニカム担体に強固に定着させることができる。焼成条件については、例えば、空気中または還元雰囲気下に400〜800℃で焼成すればよい。一回の操作で必要量の触媒組成物を担持できないときは、上記含浸−乾燥−焼成の操作を繰り返して行えばよい。
【0040】
<触媒製造方法2>
白金族金属の水溶液、活性アルミナおよびセリウム系均密混合酸化物をボールミルなどの粉砕機に供給し、湿式粉砕してスラリーを調製し、このスラリーをハニカム担体に被覆する工程を有している。以下は前記触媒製造方法1と同様にして触媒組成物を被覆した後、乾燥し、焼成および/または還元処理などを必要により実施することができる。
【0041】
本製造方法では白金族金属を水溶液にてスラリー中に添加するため製造工程が簡略化できる。また溶液中に白金族金属イオンがフリーで存在するため、セル内の通風乾燥条件を調整することによって触媒コート層の表層部に白金族金属元素を担持でき白金族金属を有効的に利用することができる。また白金族金属塩水溶液種、活性アルミナ源、セリウム系均密混合酸化物源、pH調整剤等を適宜選択することによってスラリー中で白金族金属元素を活性アルミナおよび/またはセリウム酸化物に化学的に固着させることもできる。
【0042】
<触媒製造方法3>
予め白金族金属元素の一部または全量を活性アルミナおよび/またはセリウム系均密混合酸化物に担持固定する工程を有する水素製造用触媒の製造方法である。その他、製造方工程は前記触媒製造方法1または2に準じて製造することができる。
【0043】
本方法で白金族元素を活性アルミナに担持固定するには、前記白金族金属源の水溶液を活性アルミナと接触させた後、乾燥、焼成すればよい。具体的には、所望の白金族金属の担持量となるように、白金族金属水溶液を調製し、活性アルミナを接触混合させ、50〜150℃で乾燥した後、空気中または還元雰囲気下に、例えば、300〜700℃の範囲の温度で2〜6時間程度焼成することにより、白金族金属元素を担持させた活性アルミナが得られる。
【0044】
尚、本製造方法において白金族金属元素を活性アルミナの一部に3〜30質量%、より好ましくは5〜20質量%で高い担持率で担持固定することにより、耐熱性の改善効果が得られることがある。このように高い担持率で白金族金属を活性アルミナに担持した場合は白金族金属が特定の範囲の粒子径で存在し、かつ白金族金属が担持されていない無垢の活性アルミナが被覆層内の近傍に介在することにより、白金族金属の凝集が防止されて耐久性が改善されると推定される。
【0045】
一方、白金族金属元素をセリウム系均密混合酸化物に担持固定するには、前記白金族金属源の水溶液をセリウム系均密混合酸化物と接触させた後、乾燥、焼成すればよい。具体的には、所望の白金族金属の担持量となるように、白金族金属水溶液を調製し、セリウム系均密混合酸化物と接触混合させ、50〜150℃で乾燥した後、空気中または還元雰囲気下に、例えば、300〜700℃の範囲の温度で2〜6時間程度焼成することにより、白金族金属を担持させたセリウム系均密酸化物が得られる。白金族金属をセリウム系均密混合酸化物上に担持固定することにより、セリウム均密混合酸化物の触媒効果が促進され、熱的な触媒活性の低下抑止効果のみならず、硫黄などの触媒毒成分による被毒の低減及び炭素析出の抑止にも有効に作用し、長期間安定して優れた触媒作用を維持することができる。具体的には白金族金属はセリウム系均密混合酸化物に対して0.1〜10質量%、より好ましくは0.2〜5質量%で担持することが望ましい。
【0046】
<触媒製造方法4>
触媒製造方法1と同様にして活性アルミナ及びセリウム系均密混合酸化物をハニカム担体に被覆する工程と、更に前記活性アルミナとセリウム系均密混合酸化物が被覆されたハニカム担体を白金族金属水溶液に含浸して白金族金属を担持する工程を有している水素製造用触媒の製造方法である。
【0047】
本製造方法では最初に活性アルミナおよびセリウム酸化物をボールミルなどの粉砕機に供給し、湿式粉砕してスラリーを調製し、製造方法1と同様にしてスラリーをハニカム担体に被覆して、乾燥し、400〜800℃の空気中で焼成して活性アルミナおよびセリウム系均密混合酸化物をハニカム担体に固定する。このようにして得られた被覆ハニカム担体を白金族金属水溶液に含浸して白金族金属を担持し、乾燥してから空気中または還元雰囲気下に、例えば、300〜600℃の範囲の温度で2〜6時間程度焼成する。
【0048】
本製造方法ではスラリー被覆と貴金属担持が別工程となっているため活性アルミナおよびセリウム系均密混合酸化物の強固な被覆層を形成するのに適している。例えば白金族金属としてルテニウムを使用する場合は、強固な被覆層を形成するために高温の酸素雰囲気で焼成するとルテニウムの一部が飛散する可能性があった。一方、本製造方法では強固な被覆層を形成してから最終工程で白金族金属を担持するため白金族金属の活性化に最適な条件で処理して製品とすることができる。また例えば白金族金属を含浸する際に化学吸着的に被覆層に担持せしめることにより、ガスと接触する被覆層の最表面に白金族金属がリッチな層を形成することができ、白金族金属担持量を低減しても高い触媒活性を得ることができる。このように代表的な触媒製造方法1〜4を示したが、適宜これら製造方法を組み合わせてもよい。
【0049】
(炭化水素系化合物の改質方法)
次に、上述した水素製造用触媒を用いて炭化水素系化合物の改質により水素を製造する方法について説明する。
【0050】
改質反応の原料となる炭化水素系化合物としては、メタン、エタン、プロパン、ブタン、ヘプタン、ヘキサンなどの軽質炭化水素、ガソリン、軽油、ナフサなどの石油系炭化水素などが挙げられ、例えば天然ガス、LPG、都市ガス、灯油などの工業的に安定的に入手できる原料を使用することができる。ただし炭化水素系化合物は脱硫処理などの精製が実施されていても微量に硫黄化合物が残留していたり、一般家庭用LPGや都市ガスに付臭剤としてメルカプタン、チオフェン、スルフィドなどの硫黄化合物が添加されていたりする。硫黄系化合物は触媒の被毒物質となることが知られているが、本発明の水素製造用触媒はこれら硫黄化合物を含有する炭化水素系化合物も改質反応の原料に使用することができる。なお、脱硫器を設置して原料中に含まれる硫黄化合物を除去してから本発明の水素製造触媒により改質反応を実施することにより、長期に渡る触媒使用が可能となり燃料電池システムの維持管理が更に容易となることは言うまでもない。
【0051】
本発明の水素製造方法において、原料ガスとなる炭化水素系化合物は水蒸気とを混合して用いることができる。炭化水素系化合物に含まれる炭素原子モル数に対する水蒸気のモル数の比(S/C比)は1〜5、好ましくは2〜4、より好ましくは2.5〜3.5であることが望ましい。スチーム/カーボン比が1より小さい場合はコークが析出しやすくなり、5より大きくすると設備の大型化を招き好ましくない。
【0052】
圧力は、常圧以上であって5MPa以下、好ましくは3MPa以下とするのがよい。ガス空間速度(SV)は500〜100,000H−1、好ましくは1,000〜30,000H−1とするのがよい。反応温度は、効率的な改質反応を行うために、触媒層温度が500〜1,000℃、好ましくは600〜900℃の範囲内となるようにするのがよい。
また本発明の水素製造用触媒は、耐酸化性が優れており必要により微量酸素を添加してもよい。酸素の添加により炭化水素系化合物が部分酸化反応により発熱し、外部から加熱しなくても触媒の温度を所定の温度に高めることができる炭化水素含有ガスと酸素含有ガスとの割合については、炭素原子モル数に対する酸素分子のモル数の比(酸素/カーボン比)が0〜0.75とすることができる。
【0053】
本発明の水素製造用触媒によって得られる改質ガスは、水素と一酸化炭素を主に含有しており、燃料電池の燃料や、化学工業用原料として使用できる。たとえば高温作動型燃料電池と類別される溶融炭酸塩型燃料電池や固体酸化物型燃料電池は、一酸化炭素や炭化水素も燃料として利用できるので、前記改質ガスをそのまま燃料電池の燃料として使用できる好ましい用途である。
【0054】
また前記改質ガスは、更にCO変性反応で一酸化炭素濃度を低減したり、深冷分離法、PAS法、水素貯蔵合金或いはパラジウム膜拡散法等により不純物を除去したりして高純度の水素ガスとすることができる。例えばCO変性反応は一酸化炭素と水を反応させて水素と二酸化炭素に転換することものであり一酸化炭素濃度を1%程度まで低減することができる。CO変性反応に用いる触媒としては、例えば銅主体、或いは鉄主体とする公知の触媒を用いて行えばよい。低温作動型固体高分子燃料電池の燃料などのように更に一酸化炭素濃度を低減する必要がある場合は、CO変性触媒の後段に設置するCO選択酸化触媒により二酸化炭素に酸化するかCO選択メタン化触媒によりメタンに転換させて、一酸化炭素濃度を10ppm以下とすることが望ましい。
【実施例】
【0055】
以下に、実施例を用いて本発明を詳細に説明するが、本発明の趣旨に反しない限り実施例に限定されるものではない。
【0056】
(実施例1)
セリウム系均密混合酸化物:硝酸ニッケル6水和物291g硝酸セリウム6水和物434gを純水5Lに溶解した混合水溶液を攪拌しながら徐々にアンモニア水を滴下し、共沈させてpHが9となった状態で1晩放置した。次に濾過して十分に水洗してから沈殿物を150℃で12時間乾燥してから、空気雰囲気下にて700℃で5時間焼成してセリウム−ニッケル均密混合酸化物(モル比CeO:NiO=50:50)を得た。得られたセリウム−ニッケル均密混合酸化物はX線回折にてセリウムとニッケルの固溶体の形成が確認され、BET比表面積は45m/gであった。
【0057】
メタルハニカム担体:ハニカム担体としてFe−Cr−Al系耐熱性ステンレス板の箔厚が30μmであって断面積1インチ平方当り400個のセルを有し、外径20mmで長さ66mmのメタルハニカム担体(幾何学表面積約3000m/m)を使用した。
【0058】
スラリーの調製:比表面積が155m/gの活性アルミナ(γ−アルミナ)が75gと前記セリウム−ニッケル均密混合酸化物150g、純水および酢酸をボールミルに供給して湿式粉砕して水性スラリーを調製した。得られたスラリーを粒度分布測定器(レーザー回折散乱式)で観察したところ平均粒子径は4.5μmであった。
【0059】
触媒の製造:該スラリーに上記担体を浸漬させてスラリーを付着させてから取出し、次いで該担体に圧縮空気を吹付けてセル内に残存する余分なスラリーを除去した。次に150℃で乾燥した後、空気中にて600℃で2時間焼成して触媒組成物をメタルハニカム担体に付着させた。上記スラリー担持を2回繰り返して完成触媒(A)を得た。メタルハニカム担体1L当たりの触媒組成物の担持量は220g/Lであった。また完成触媒の触媒コート層をEPMAで測定した結果、平均粒子径が3.9μmで触媒組成物がメタルハニカム担体に被覆されており、平均触媒コート層の厚みは130μmであった。
【0060】
(実施例2)
セリウム均密混合酸化物:炭酸セリウム粉末にオキシ硝酸ジルコニウム水溶液を添加し、均一の混合した後、混合物を150℃で乾燥して水分を除去した後に空気雰囲気下にて700℃で5時間焼成してセリウム−ジルコニウム均密混合酸化物(モル比CeO:ZrO=80:20)を得た。得られたセリウム−ジルコニウム均密混合酸化物はX線回折にて蛍石型二酸化セリウムの結晶構造のみの回折ピークを有する複合酸化物を形成しており、BET比表面積は38m/gであった。
【0061】
スラリーの調製:ルテニウムを7.5g含有する硝酸ルテニウム水溶液、比表面積が155m/gの活性アルミナ(γ−アルミナ)が150gと前記セリウム−ジルコニウム均密混合酸化物75g、純水および酢酸をボールミルに供給して湿式粉砕して水性スラリーを調製した。得られたスラリーを粒度分布測定器(レーザー回折散乱式)で観察したところ平均粒子径は2.7μmであった。
【0062】
触媒の製造:該スラリーに実施例1と同じメタルハニカム担体を浸漬してから取出し、次いで該担体に圧縮空気を吹付けてセル内に残存する余分なスラリーを除去した。次に150℃で乾燥させて触媒成分を担体に付着させた後、水素気流中(水素5%/窒素バランス)にて600℃で2時間還元処理して完成触媒(B)を得た。完成触媒(B)はメタルハニカム担体1L当たりの触媒組成物の担持量は168g/Lであり、Ruとして5.4g/Lで担持されていた。また完成触媒の触媒コート層をEPMAで測定した結果、平均粒子径が2.8μmで触媒組成物がメタルハニカム担体に被覆されており、平均触媒コート層の厚みは100μmであった。
【0063】
(実施例3)
セリウム均密混合酸化物:炭酸セリウム粉末に硝酸マンガン水溶液を添加し、均一の混合した後、混合物を150℃で乾燥して水分を除去した後に空気雰囲気下にて700℃で5時間焼成してセリウム−マンガン均密混合酸化物(モル比CeO:MnO=80:20)を得た。得られたセリウム−マンガン均密混合酸化物はX線回折にて蛍石型二酸化セリウムの結晶構造のみの回折ピークを有する複合酸化物を形成し、BET比表面積は42m/gであった。
【0064】
触媒の製造:上記セリウム系均密混合酸化物を使用した以外は実施例2と同様にして完成触媒(C)を得た。完成触媒(C)はメタルハニカム担体1L当たりの触媒組成物の担持量は158g/Lであり、Ruとして5.1g/Lで担持されていた。また完成触媒の触媒コート層をEPMAで測定した結果、平均粒子径が2.4μmで触媒組成物がメタルハニカム担体に被覆されており、平均触媒コート層の厚みは90μmであった。
【0065】
(実施例4)
セリウム均密混合酸化物:水酸化セリウム粉末に硝酸鉄水溶液を添加し、均一の混合した後、混合物を150℃で乾燥して水分を除去した後に空気雰囲気下にて700℃で5時間焼成してセリウム−鉄均密混合酸化物(モル比CeO:Fe=90:10)を得た。得られたセリウム−鉄均密混合酸化物はX線回折にて蛍石型二酸化セリウムと結晶構造のみ回折ピークを有しており、BET比表面積は35m/gであった。
【0066】
触媒の製造:上記セリウム系均密混合酸化物を使用した以外は実施例2と同様にして完成触媒(D)を得た。完成触媒(D)はメタルハニカム担体1L当たりの触媒組成物の担持量は152g/Lであり、Ruとして4.9g/Lで担持されていた。また完成触媒の触媒コート層をEPMAで測定した結果、平均粒子径が1.8μmで触媒組成物がメタルハニカム担体に被覆されており、平均触媒コート層の厚みは85μmであった。
【0067】
(実施例5)
セリウム均密混合酸化物:実施例2と同様にしてセリウム−ジルコニウム均密混合酸化物を得た。
スラリーの調製:比表面積が155m/gの活性アルミナ(γ−アルミナ)が150gと上記セリウム−ジルコニウム均密混合酸化物100g、シリカゾル(SiO濃度30wt%)50g、純水および酢酸をボールミルに供給して湿式粉砕して水性スラリーを調製した。得られたスラリーの平均粒子径は3.3μmであった。
【0068】
触媒の製造:該スラリーにメタルハニカム担体を浸漬させてスラリーを付着させてから取出し、次いで該担体に圧縮空気を吹付けてセル内に残存する余分なスラリーを除去した。その後、150℃で乾燥させて触媒成分を担体に付着させた後、空気中にて700℃で2時間焼成した。
【0069】
次に上記触媒成分を被覆したメタルハニカム担体を硝酸ルテニウム水溶液に浸漬した。含浸液は25℃に保持し、ハニカムを上下動して含浸液を攪拌してルテニウムが均一に担持されるようにした。1時間後に、含浸液の色が消失するのを確認して含浸液から取り出し、エアブローで水分を除去した後に120℃で乾燥した。ルテニウムが担持されたハニカムを水素気流中(水素5%/窒素バランス)にて500℃で2時間還元処理して完成触媒(E)を得た。メタルハニカム担体1L当りに触媒組成物の担持量は162g/Lであり、Ruとして3.0g/Lで担持されていた。また完成触媒の触媒コート層をEPMAで測定した結果、平均粒子径が3.2μmで触媒組成物がメタルハニカム担体に被覆されており、平均触媒コート層の厚みは95μmであった。また触媒コート層内のルテニウムの分布を調べたところ、触媒に担持されているルテニウムの7割以上が最表面から20μmの領域に存在しており、表層部にルテニウムのリッチ層が形成されていることが観察された。
【0070】
(実施例6)
白金担持活性アルミナ:白金として0.4g含有するジニトロジアミン白金硝酸水溶液に比表面積が90m/gの活性アルミナ(δ−アルミナ)10gを添加して十分に混合してから150℃で乾燥して、空気中にて600℃で2時間焼成して白金が4質量%で担持された活性アルミナを得た。
セリウム系均密混合酸化物:実施例2と同様にしてセリウム−ジルコニウム均密混合酸化物を得た。
スラリーの調製:ルテニウムとして4.0g含有する硝酸ルテニウム水溶液、比表面積が90m/gの活性アルミナ(δ−アルミナ)90g、前記白金担持活性アルミナ10.4gとセリウム−ジルコニウム均密混合酸化物100gと純水および酢酸をボールミルに供給して湿式粉砕して水性スラリーを調製した。得られたスラリーの平均粒子径は2.8μmであった。
【0071】
触媒の製造:該スラリーに上記担体を浸漬させてスラリーを付着させてから取出し、次いで該担体に圧縮空気を吹付けてセル内に残存する余分なスラリーを除去した後、150℃で乾燥させて触媒成分を担体に付着させた後、水素気流中(水素5%/窒素バランス)にて600℃で2時間還元処理して完成触媒(F)を得た。メタルハニカム担体1L当たりの触媒組成物の担持量は154g/Lであり、Ruが3.0g/LおよびPtが0.3g/Lで担持されていた。また完成触媒の触媒コート層をEPMAで測定した結果、平均粒子径が2.8μmで触媒組成物がメタルハニカム担体に被覆されており、平均触媒コート層の厚みは85μmであった。
【0072】
(実施例7)
パラジウム担持セリウム系均密混合酸化物:パラジウムとして0.4g含有する硝酸パラジウム水溶液に実施例2と同様にして得られたセリウム−ジルコニウム均密混合酸化物150gを十分に混合した後、150℃で乾燥して、空気中で600℃で2時間焼成してパラジウムが0.3質量%担持されたセリウム−ジルコニウム均密混合酸化物を調製した。
【0073】
スラリーの調製:ルテニウムを4.0g含有する硝酸ルテニウム水溶液、比表面積が90m/gの活性アルミナ(δ−アルミナ)75g、前記パラジウム担持セリウム−ジルコニウム均密混合酸化物150.4gと純水および酢酸をボールミルに供給して湿式粉砕して水性スラリーを調製した。得られたスラリーの平均粒子径は3.3μmであった。
触媒の製造:該スラリーに上記担体を浸漬させてスラリーを付着させてから取出し、次いで該担体に圧縮空気を吹付けてセル内に残存する余分なスラリーを除去した後、150℃で乾燥させて触媒成分を担体に付着させた後、水素気流中(水素5%/窒素バランス)にて600℃で2時間還元処理して完成触媒(G)を得た。メタルハニカム担体1L当たりの触媒組成物の担持量は175g/Lであり、Ruが3.1g/LおよびPdが0.3g/Lで担持されていた。また完成触媒の触媒コート層をEPMAで測定した結果、平均粒子径が3.1μmで触媒組成物がメタルハニカム担体に被覆されており、平均触媒コート層の厚みは110μmであった。
【0074】
(比較例1)
メタルハニカム担体:実施例1と同じメタルハニカム担体を使用した。
【0075】
セリウム酸化物:市販の炭酸セリウムを空気雰囲気下にて700℃で5時間焼成してセリウム酸化物を得た。得られたセリウム酸化物はX線回折にて蛍石型の結晶構造を有する二酸化セリウムであり、BET比表面積は13m/gであった。
スラリーの調製:比表面積が155m/gの活性アルミナ(γ−アルミナ)が75gと前記二酸化セリウム150g、純水および硝酸をホモミキサーにて分散させて水性スラリーを調製した。得られたスラリーを粒度分布測定器(レーザー回折散乱式)で観察したところ平均粒子径は13.8μmであった。
【0076】
触媒の製造:該スラリーに上記担体を浸漬させてスラリーを付着させてから取出し、次いで該担体に圧縮空気を吹付けてセル内に残存する余分なスラリーを除去した。次に150℃で乾燥させて触媒成分を担体に付着させた後、空気中で700℃にて2時間焼成して比較触媒(a)を得た。メタルハニカム担体1L当たりの触媒組成物の担持量は126g/Lで担持されていた。また比較触媒の触媒コート層をEPMAで測定した結果、平均粒子径が11.5μmで触媒組成物がメタルハニカム担体に被覆されており、平均触媒コート層の厚みは75μmであった。
【0077】
(比較例2)
スラリーの調製:比表面積が155m/gの活性アルミナ(γ−アルミナ)が200gと純水および硝酸を高速循環式ビーズミルに供給して湿式粉砕して水性スラリーを調製した。得られたスラリーの平均粒子径は0.3μmであった。
【0078】
触媒の製造:該スラリーにメタルハニカム担体を浸漬させてスラリーを付着させてから取出し、次いで該担体に圧縮空気を吹付けてセル内に残存する余分なスラリーを除去した後、150℃で乾燥させて、空気中にて600℃で2時間焼成した。メタルハニカム担体1L当りに活性アルミナが70g/Lで担持されていた。次に活性アルミナが担持されたメタルハニカムを硝酸ニッケル水溶液に含浸した。150℃で乾燥後に空気中で600℃5時間焼成した。その後、水素気流中(水素5%/窒素バランス)にて500℃で2時間還元処理して比較触媒(b)を得た。比較触媒(b)はメタルハニカム担体1L当たり、Niとして20g/Lで担持されていた。また試料の触媒コート層をEPMAで測定した結果、平均粒子径が0.3μmで触媒組成物がメタルハニカム担体に被覆されており、平均触媒コート層の厚みは35μmであった。
【0079】
(比較例3)
触媒の製造:活性アルミナのスラリー担持までは比較例2と同様にしてメタルハニカム担体に活性アルミナを75g/L担持した。次に活性アルミナが被覆されたハニカムを硝酸セリウム水溶液に浸漬し、余剰液を除去して150℃で乾燥した後に、空気中で700℃にて5時間焼成し、二酸化セリウムを13g/Lでハニカムに担持した。引き続き当該ハニカムを硝酸ルテニウム水溶液に浸漬し、余剰液を除去した後に120℃で乾燥してから、水素気流中(水素5%/窒素バランス)にて600℃で2時間還元処理して比較触媒(c)を得た。メタルハニカム担体1L当たり、Ruとして5.0g/Lで担持されていた。また試料の触媒コート層をEPMAで測定した結果、平均粒子径が0.2μmで触媒組成物がメタルハニカム担体に被覆されており、平均触媒コート層の厚みは40μmであった。
【0080】
(比較例4)
触媒の製造:比較例1と全く同様にしてメタルハニカム担体に活性アルミナ及び酸化セリウムよりなる触媒組成物を担持した。引き続き、当該ハニカムを硝酸ルテニウム水溶液に浸漬し、余剰液を除去した後に120℃で乾燥してから、水素気流中(水素5%/窒素バランス)にて600℃で2時間還元処理して比較触媒(d)を得た。メタルハニカム担体1L当たりの触媒組成物の担持量は121g/Lであり、Ruとして3.7g/Lで担持されていた。また試料の触媒コート層をEPMAで測定した結果、平均粒子径が12.5μmで触媒組成物がメタルハニカム担体に被覆されており、平均触媒コート層の厚みは70μmであった。
【0081】
【表1】

実施例1〜7及び比較例1〜4の触媒組成およびEPMAで測定したコート層の観察結果のまとめを表1に示した。
【0082】
(初期性能試験)
ラボ活性試験装置を用いて以下の試験条件で水素製造用触媒の初期性能を測定した。原料ガスとして都市ガス13Aを脱硫処理せずにそのまま使用し、触媒入口温度700℃、GHSV=20,000H−1でスチーム/カーボン(S/C)比=2.5の条件にて改質反応を実施した。ガスクロマトグラフィー(島津製作所:ガスクロマトグラフGC−8A)を用いて生成ガスの各濃度を測定し、反応開始3時間後の原料転化率を下記式(1)により算出した。
【0083】
【数1】

なお、上記式において、CO濃度、CO濃度およびCH濃度は、それぞれ生成ガス(触媒出口)における一酸化炭素、二酸化炭素およびメタンのガス濃度を表す。
実施例1、実施例5及び比較例1〜2の水素製造用触媒の性能試験結果を表2に示す。
【0084】
【表2】

(触媒成分接着性試験)
実施例1、実施例5及び比較例1〜2の触媒について触媒成分の接着性を確認するために以下の試験を実施した。試料を1時間純水に浸漬した後に1分間40kHzの超音波洗浄を実施し、取り出して空気圧1kg/cmのブローし150℃で1時間乾燥してから、上記の初期性能試験と同じ試験条件で性能を測定し結果を表2に示した。
【0085】
表2の結果より実施例1の本発明の触媒は比較例の触媒と比較して同等以上の初期性能性能を有している。比較例1および比較例2の触媒は実施例と比較して接着性試験後の性能低下が大きく、触媒成分の剥がれが生じていると考えられる。一方、実施例の触媒は比較触媒と比較し高い接着性を有していることは明らかである。
【0086】
(耐久性能試験)
実施例1〜7及び比較例2〜4の触媒について上記初期性能試験と同一の条件で測定した初期性能(3時間経過後)と反応を40時間継続後の測定値を耐久性能として表3に示した。初期性能において性能差異は小さいが、耐久性能は比較触媒と比較して本願発明の触媒が良好である。なお本耐久性能は触媒の耐熱性、耐水性、耐硫黄被毒性、耐コーキング性、触媒成分の剥離や飛散などの複合要因に対する性能試験になっている。
【0087】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0088】
本発明は、炭化水素系化合物よりなる原料ガスの改質により水素を生成するに際して、長期にわたり性能劣化の少ない水素製造用触媒であり、特に硫黄化合物を含有している原料ガスにも好適に適用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
改質反応により水素を生成する水素製造用触媒であって、活性アルミナおよびセリウム系均密混合酸化物を含有する触媒組成物がハニカム担体に担持されており、前記セリウム系均密混合酸化物はマンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、イットリウムおよびジルコニウムから選ばれる少なくとも1種の遷移金属元素とセリウムとの複合酸化物、固溶体または混合酸化物であることを特徴とする水素製造用触媒。
【請求項2】
前記セリウム系均密混合酸化物はセリウム化合物と遷移金属含有元素化合物の固相反応法、共沈法、沈着法、薬液混合法、含浸法のいずれかによって調製されるものであり、セリウムの含有率が30〜98モル%である請求項1記載の水素製造用触媒。
【請求項3】
前記触媒組成物はさらに白金族金属元素を含有しており、ハニカム担体の単位容積当たりの白金族金属含有量が0.2〜20g/Lである請求項1または2記載の水素製造用触媒。
【請求項4】
前記ハニカム担体はメタルハニカム担体であり、前記触媒組成物をメタルハニカム担体に被覆して形成された触媒コート層をEPMAで測定した平均粒子径が0.5〜10μmである請求項1〜3記載の水素製造用触媒。
【請求項5】
活性アルミナ及びセリウム系均密混合酸化物とを混合し湿式粉砕して得られたスラリーをハニカム担体に被覆する工程を有している請求項1〜4記載の水素製造用触媒の製造方法。
【請求項6】
前記湿式粉砕において更に白金族金属元素の水溶液を添加してスラリーを調製して、該スラリーをハニカム担体に被覆する工程を有している請求項5記載の水素製造用触媒の製造方法。
【請求項7】
前記湿式粉砕の前に白金族金属元素の一部または全量を活性アルミナおよび/またはセリウム系均密混合酸化物に予め固定化する工程を有している請求項5または6記載の水素製造用触媒の製造方法。
【請求項8】
請求項1〜4記載の水素製造用触媒を用いて炭化水素系化合物から改質反応により水素を製造する水素製造方法。

【公開番号】特開2010−279911(P2010−279911A)
【公開日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−136004(P2009−136004)
【出願日】平成21年6月5日(2009.6.5)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】