説明

水素貯蔵物質としてアリール又はアルキルを含む有機−遷移金属ハイドライドのより改善された製造方法

【課題】高容量・高効率の水素貯蔵ができ、生成物の分離及び精製の問題点を克服してより安定的な有機−遷移金属ハイドライドの製造方法を提供する。
【解決手段】a)アルカリ金属、アルカリ土金属、又はこれらの混合物とC10乃至C20芳香族環化合物を非陽子性極性溶媒において反応させて複合還元剤組成物を製造する段階;及びb)前記複合還元剤組成物と有機−遷移金属ハロゲン化物を反応させて有機−遷移金属ハイドライドを製造する段階;とを含む有機−遷移金属ハイドライドの製造方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は水素を吸着させて貯蔵する水素貯蔵物質であって、有機−遷移金属ハイドライドの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
多くの研究グループから提案した多様な水素貯蔵物質として金属水素化物、化学的ハイドライド(NaBH、KBH、LiBHなどを含む)、金属−有機物質骨格(MOF、metal-organic framework)、ナノ構造物質(CNT、GNFなど)、高分子−金属錯化合物などが挙げられる。しかし、前記貯蔵物質は1)米国DOE(department of energy)から水素貯蔵物質を実用化するために提示した最少水素貯蔵量の基準値(6wt.%)に未達の水素貯蔵量、2)水素貯蔵量の再現性に劣る問題点、3)比較的に厳しい水素吸・脱着の条件、4)水素の吸・脱着の過程において生じる物質構造の崩壊現象、5)再生産工程開発の必要性などによって商用化に問題点を有する。
【0003】
しかし、最近、韓華石油化学中央研究所によって特許出願された有機−遷移金属ハイドライドの場合、水素と特定遷移金属(Ti、Sc、Vなど)のクバス結合(Kubas binding)によって既存に提案された水素貯蔵物質より1)高容量・高効率の水素貯蔵ができ、2)より緩やかな条件(例えば、吸着は25℃と30気圧で、脱着は100℃で2気圧)において水素の吸・脱着ができ、3)繰返しの水素吸・脱着時に構造崩壊現象が殆どないので商用化に適合している。<韓国特許出願10−2007−0090753、10−2007−0090755、10−2008−0020467>
【0004】
前記韓国特許出願10−2007−0090753と韓国特許出願10−2007−0020467から提示された有機−遷移金属ハイドライドの製造方法は水添脱ハロゲン化(−M−X bond→-M−H bond)反応を用いて、水素供給源と触媒を同時に使用する方法を含む。しかし、前記製造方法は触媒の被毒現状と中和剤で使用するヒドロキシド(inorganic hydroxide)が副反応を起す問題点がある。なお、生成物の分離及び精製が難しいだけでなく溶媒が多様な反応副産物を生成させる問題点がある。
【0005】
前記問題点を克服するために韓国特許出願10−2008−0020467は有機−遷移金属ハロゲン化物とアルミニウムハイドライドとの化合物を反応させて有機−遷移金属−アルミニウムハイドライド複合体を製造し、前記有機−遷移金属−アルミニウムハイドライド複合体をルイス塩基と反応させて有機−遷移金属ハイドライドを製造する方法を提案した。
【0006】
しかし、前記韓国特許出願10−2008−0020467は下記のような問題点を有する。
【0007】
第一は反応段階に関連された問題点であって、生成物を収得するに必要な反応段階が2段階であるため、1段階の反応に比べて反応の効率性が相対的に劣り、反応時間が相対的に長いという問題点がある。
【0008】
第二は1段階反応結果で生成される中間生成物(有機−遷移金属−アルミニウムハイドライド複合体)の分離及び精製に関連された問題点であって、具体的に中間生成物の分離及び精製溶媒で適用されるアルコール類が中間生成物と反応して多様な反応副産物を生成する問題が生じる。
【0009】
第三は2段階反応結果で生成される生成物の分離及び精製に関連された問題点であって、具体的にルイス塩基で適用されるトリエチルアミン及びブチルリチウムが極性及び非極性溶媒に非常によく溶解されるため、未反応物として存在する場合、これを生成物と完璧に分離・精製し難いという問題が生じる。
【0010】
従って、韓国特許出願10−2008−0020467は前記問題点によって高い収率を有する有機−遷移金属ハイドライドの安定的な製造が難しいという限界点を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】韓国特許出願10−2007−0090753
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は高容量・高効率の水素貯蔵ができ、生成物の分離及び精製の問題点を克服してより安定的な有機−遷移金属ハイドライドの製造方法を提供することに目的がある。
【0013】
なお、本発明は従来の水素貯蔵物質に比べて比較的緩やかな条件において水素の吸着及び脱着ができるため、中・小型の燃料電池を駆動するための水素の貯蔵媒体としても利用することができる有機−遷移金属ハイドライドの製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0014】
前記した問題点を解決するために、本発明は強い還元力を有する複合還元剤を反応に適用し、より緩やかな反応条件において副産物の種類及び量を最少化する有機−遷移金属ハイドライドの製造方法を提供する。
【0015】
より具体的に本発明は下記の段階を含む。
【0016】
a)アルカリ金属、アルカリ土金属、又はこれらの混合物とC10乃至C20芳香族環化合物を非陽子性極性溶媒(aprotic polar solvent)において反応させて複合還元剤組成物(complex reducing agent composition)を製造する段階;及び
b)前記複合還元剤組成物と有機−遷移金属ハロゲン化物を反応させて有機−遷移金属ハイドライドを製造する段階;
【0017】
前記a)段階は非陽子性極性溶媒下において、アルカリ金属、アルカリ土金属、又はこれらの混合物が電子を提供し、前記芳香族環化合物が提供された電子を受け入れながら活性化された複合還元剤組成物を製造することを特徴とする。
【0018】
前記b)段階では前記活性化された複合還元剤組成物が有機−遷移金属ハロゲン化物を脱ハロゲン化させ、非陽子性極性溶媒が水素を提供して生成物の有機−遷移金属ハイドライドを製造することを特徴とする。
【0019】
前記b)段階の反応温度は−80乃至50℃、より望ましくは−50乃至30℃、さらに望ましくは−30乃至25℃であり、前記反応温度が−80℃未満の場合は反応が未完結されることがあり、50℃を超える場合は生成物の有機−遷移金属ハイドライドが分解されることがある。
【0020】
前記b)段階の反応時間は1乃至72時間、より望ましくは1乃至48時間、さらに望ましくは1乃至24時間であり、前記反応時間が1時間未満である場合は反応が未完結となり、72時間を超える場合は有機−遷移金属ハイドライドの分解が生じることがある。
【0021】
前記b)段階後、ペンタン、トルエン、ベンゼン、エーテル、又はこれらの誘導体から一つ以上選ばれる非極性溶媒で有機−遷移金属ハイドライドを分離することができる。
【0022】
前記非極性溶媒はより望ましくは、ペンタン、トルエン、ベンゼン、及びこれらの誘導体から一つ以上選ばれて使用でき、これはアルコールを含む極性溶媒を使用する場合、生成物の有機−遷移金属ハイドライドの副反応を起こし、前記有機−遷移金属ハイドライドと副産物を共に溶解させるため、有機−遷移金属ハイドライドの完全な分離及び精製が難しいからである。
【0023】
前記アルカリ金属又はアルカリ土金属は強力な電子供与性であって、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、フランシウム、マグネシウム、カルシウム、ストランジウム、バリウム、及びラジウムよりなる群から一つ以上使用することができ、望ましくは還元力がより優秀なアルカリ金属を使用することができ、さらに望ましくは小さい顆粒(granule)から製造されたリチウムを使用することができる。
【0024】
本発明で前記芳香族環化合物は電子受付性であって、ベンゼン環を2つ以上有し、又はベンゼン環が2つ以上融合された化合物であり、ナフタレン(naphthalene)、ビフェニル(biphenyl)、フェナントレン(phenanthrene)、アントラセン(anthracene)、トランス−スチルベン(trans-stilbene)、及びこれらの誘導体から1種以上選ばれ、望ましくは取り扱いが容易で昇華性に優れて反応後に除去が容易であるナフタレン及びこれらの誘導体を使用するのが良い。
【0025】
それぞれ有機−遷移金属ハロゲン化物の遷移金属のモル数Aに対するアルカリ金属又はアルカリ土金属及びこれらの混合物と芳香族環化合物のモル数Bの割合A:Bは1:0.0001乃至1:10がよく、前記範囲で副産物の生成を減らすことができる。
【0026】
前記非陽子性極性溶媒は水素供給源でありながら溶媒として、テトラヒドロフラン(tetrahydrofuran)、1,2−ジメトキシエタン(1,2-dimethoxyethane)、ジオキサン(dioxane)、ジエチレングリコールジメチルエテール(diethyleneglycoldimethylether)、ジメチルホルムアミド(dimethylformamide)、ジメチルスルホキシド(dimethylsulfoxide)、ジメチルアセトアミド(dimethylacetamide)、ヘキサメチルホスホルアミド(hexamethylphosphoramide)、及びこれらの誘導体のうちから1種以上選ばれて使用することができ、望ましくはテトラヒドロフラン、1,2−ジメトキシエタン、ジオキサン、ジエチレングリコールジメチルエテール、ジメチルホルムアミド、及びこれらの誘導体のうちから1種以上使用することが良く、さらに望ましくは沸騰点が低くてシュレンク技術(Schlenk technology)を容易に適用することができるテトラヒドロフラン、1,2−ジメトキシエタン、及びこれらの誘導体のうち1種以上を選んで使用するのが良い。
【0027】
本発明で前記各段階の反応は反応物と生成物との不安定性によって、グローブボックスとアルゴン、窒素、ヘリウムのうち一つ以上の気流下においてシュレンク技術に基づいて行うことが良い。
【0028】
本発明で有機−遷移金属ハイドライドは下記化学式1から選らばれ、前記有機−遷移金属ハロゲン化物は下記化学式2から選ばれる。
【0029】
<化学式1>
−(AM
【0030】
<化学式2>
−(AM
【0031】
前記式1中、Bは直鎖又は分岐鎖のC2乃至C20アルキル、C6乃至C20アリール、C3乃至C20ヘテロアリール又はC6乃至C20アルC2乃至C20アルキルであり、前記アルキルは炭素鎖内に不飽和結合を含み、前記B内のアリール又はアラルキルをなす炭素原子は窒素、酸素又は硫黄から選ばれるヘテロ原子で置換できる。
【0032】
前記Bはハロゲン元素、−NO、−NO、−NH、−R、−OR、−(CO)R、−SONH、SO、−SONa、−(CHSH、−CNから選ばれる一つ以上の置換基で置換でき、前記置換基内のR乃至Rは独立に直鎖又は分岐鎖のC1乃至C30アルキル、又はC6乃至C20アリールから選ばれる。
【0033】
前記AはO又はSから選ばれ、前記Xはハロゲン元素であり、前記kは0乃至10の整数であり、Mは原子価2価以上の遷移金属元素から選ばれる1種以上であり、より具体的にTi、V又はScから選ばれる1種以上である。mはMの原子価−1の整数であり、nは1乃至10の整数であり、具体的に2乃至6の整数である。
【0034】
前記化学式2において、XはF、Cl、Br又はIから選ばれるハロゲン元素である。
【0035】
より具体的に説明すると、前記化学式1のBは下記構造から選ばれる。
【0036】
【化2】

【0037】
また、本発明は有機−遷移金属ハイドライドが下記化学式3から選ばれ、有機−遷移金属ハロゲン化物は下記化学式4から選ばれる有機−遷移金属ハイドライドの製造方法を提供する。
【0038】
<化学式3>
−(M
【0039】
<化学式4>
−(M
【0040】
前記化学式3及び化学式4のBはシクロペンタジエン誘導体又はシクロペンタジエンを含む融合環化合物から選ばれ、前記Bはハロゲン元素、−NO、−NO、−NH、−R、−OR、−(CO)R、−SONH、SO、−SONa、−(CHSH、−CNから選ばれる一つ以上の置換基で置換でき、前記置換基内のR乃至Rは独立に直鎖又は分岐鎖のC1乃至C30アルキル、又はC6乃至C20アリールから選ばれる。
【0041】
前記Xはハロゲン元素であり、kは0乃至10の整数であり、Mは原子価2価以上の遷移金属元素から選ばれる1種以上であり、より具体的にTi、V又はScから選ばれる1種以上であり、aはMの原子価−1の整数であり、具体的に1乃至6の整数であり、さらに具体的には2乃至4の整数である。bはシクロペンタジエン誘導体又はシクロペタジエンを含む融合環化合物の環数に限られ、1乃至10の整数であり、具体的には2乃至6の整数である。
【0042】
前記Bよりシクロペンタジエン誘導体又はシクロペンタジエンを含む融合環化合物はシクロペンタジエニル、メチルシクロペンタジエニル、ジメチルシクロペンタジエニル、テトラメチルシクロペンタジエニル、ペンタメチルシクロペンタジエニル、ブチルシクロペンタジエニル、sec−ブチルシクロペンタジエニル、tert−ブチルメチルシクロペンタジエニル、トリメチルシリルシクロペンタジエニル、インデニル、メチルインデニル、ジメチルインデニル、エチルインデニル、イソプロピルインデニル、フルオレニル、メチルフルオレニル、ジメチルフルオレニル、エチルフルオレニル、及びイソプロピルフルオレニルよりなる群から選ばれる。
【発明を実施するための形態】
【0043】
以下、有機−遷移金属ハイドライドの製造方法の具体的な実施例を提供するが、1)反応物の有機−遷移金属ハロゲン化物として常温で取り扱いが容易であり、2)生成物の有機−遷移金属ハイドライドの分子量が小さくて相対的に水素貯蔵量の重量比が大きく、3)非極性溶媒の下において溶解度が大きくて分離及び精製が容易なフェノキシチタニウムトリクロライド(phenoxytitani -um trichloride)とシクロペタジエニルチタニウムトリクロライド(cyclopentadien -yltitanium trichloride)を選定した。
【0044】
詳細実験に関する技術は当該発明が属する技術分野において通常の知識を持つ者が容易に実施させるためであって、これで本発明の権利範囲が限られるものではない。
【0045】
<実施例1>
フェノキシチタニウムトリハイドライド(phenoxytitanium trihydride)の製造
【0046】
(リチウム/ナフタレン/1,2−ジメトキシエタン(1,2-dimethoxy ethane)複合還元剤の製造)
【0047】
アルゴン気流の下において、1口の丸いフラスコ250mlの容器内にリチウム0.034g/4.86mmol及びナフタレン0.622/4.86mmolを70mlの1,2−ジメトキシエタンに入れて10時間活性化させて複合還元剤を製造した。
【0048】
(フェノキシチタニウムトリハイドライド(phenoxytitanium trihydride)の製造)
【0049】
アルゴン気流の下において、2口の丸いフラスコ100mlの容器内に フェノキシチタニウムトリクロライド(phenoxytitanium trichloride)0.4g/1.62mmolを30mlの1,2−ジメトキシエタン(1,2-dimethoxy ethane)に溶解(反応物I)させた。
【0050】
前記リチウム/ナフタレン/1,2−ジメトキシエタン(1,2-dimethoxy ethane(DME))複合還元剤を前記反応物Iに徐々に落としながら10℃で18時間還流させた後、反応を終了した。
【0051】
アルゴン雰囲気においてシュレンク法で反応溶媒の1,2−ジメトキシエタンを除去した後、ベンゼンを使用して生成物のフェノキシチタニウムトリハイドライド(phenoxytitanium trihydride)のみ選択的に収得した。
【0052】
以後、シュレンク 技術(Schlenk method)で溶媒を除去してフェノキシチタニウムトリハイドライド(phenoxytitanium trihydride)を99%の収率で得た。
【0053】
Yield: 99% 1H-NMR (CD3CN-d3) δ(ppm): 7.28(d, 1H), 6.95(t, 2H), 6.85(t, 2H), 7.62 (s, 3H)
ESI-MS (positive mode), m/z(relative intensity): [C6H5-O-Ti-H3]+144(9.9), 145(9.4), 146(100), 147(23), 148(10.1)
Anal. Calc. for C6H5OTiH3: C, 50.0; H, 5.6. Found: C, 49.5; H, 5.4%。
【0054】
実施例1によって生成された副産物及び生成物を総合的に究明するために、35Cl−NMR、XRD、IC、EDX、ESR、XRF分析を行い、XRD及び35Cl−NMR分析結果、LiClが副産物で形成されたことがわかり、ベンゼンを使用した分離及び精製の実験結果、生成物内にXRD及び35Cl−NMRで探知されない程度の微量のLiCl又は未反応物が存在することを確認した。
【0055】
生成物内に存在する可能性があるLiCl及び未反応物の存在可能性をさらに具体的に究明するために、IC及びEDX分析を行い、その結果、生成物内に約0.5%のLiClが存在していることがわかった。
【0056】
前記分離及び精製の実験結果、生成物内にLiClが殆ど存在していないことを定量的に確認し、分離及び精製の溶媒としてベンゼンが最も望ましいことがわかった。なお、生成物に対するESR分析結果、Tiの酸化数が+4であることがわかった。最終的に生成物のXRF分析結果、Tiの重量含量が33.2wt.%(理論値:33.27wt.%)であったため、高純度の生成物が得られたことがわかった。
【0057】
<実施例2>
シクロペタジエニルチタニウムトリハイドライド(cyclopentadienyltitaniu -m trihydride)の製造
【0058】
(ナトリウム/ナフタレン/テトラヒドロフラン(tetrahydrofuran(THF))複合還元剤の製造)
【0059】
アルゴン気流の下において、1口の丸いフラスコ250mlの容器内にNa0.034g/4.86mmol及びナフタレン0.622/4.86mmolを70mlのテトラヒドロフランに入れて10時間活性化させた。
【0060】
(シクロペタジエニルチタニウムトリハイドライド(cyclopentadienyltitaniu -m trihydride)の製造)
【0061】
アルゴン気流の下において、2口の丸いフラスコ100mlの容器内に シクロペタジエニルチタニウムトリクロライド(cyclopentadienyltitanium trichloride)0.355g/1.62mmolを30mlのテトラヒドロフラン(tetrahydrofuran(THF))に溶解(反応物I)させた。
【0062】
前記製造されたナトリウム/ナフタレン/テトラヒドロフラン(tetrahydrofuran(THF))複合還元剤を前記反応物Iに徐々に落としながら10℃で18時間還流させた後、反応を終了した。
【0063】
アルゴン雰囲気においてシュレンク技術で反応溶媒のテトラヒドロフランを除去した後、トルエンを使用して生成物のシクロペタジエニルチタニウムトリハイドライド(cyclopentadienyltitanium trihydride)のみ選択的に収得した。
【0064】
以後、シュレンク技術で溶媒を除去して生成物を98%の収率で得た。
【0065】
Yield: 98% 1H-NMR (benzene-d6) δ(ppm): 5.995(t, 5H), 10.62 (s, 3H) ESI-MS (positive mode), m/z(relative intensity): [C5H5-Ti-H3]+ 114(9.9), 115(9.4), 116(100), 117(23), 118(10.1) Anal. Calc. for C5H5TiH3: C, 51.8; H, 6.9. Found: C, 50.5; H, 6.1%。
【0066】
実施例2によって生成された副産物及び生成物を総合的に究明するために、35Cl−NMR、XRD、IC、EDX、ESR、XRF分析を行い、これに関する分析結果は下記の通りである。
【0067】
XRD及び35Cl−NMR分析結果、NaClが副産物で形成されたことがわかり、トルエンを使用した分離及び精製の実験結果、生成物内にXRD及び35Cl−NMRで探知されない程度の微量のNaCl又は未反応物が存在することを確認した。
【0068】
生成物内に存在する可能性があるNaCl及び未反応物の存在可能性をさらに具体的に究明するために、IC及びEDX分析を行い、その結果、生成物内に約0.9%のNaClが存在していることがわかった。
【0069】
これを通じて、分離及び精製の実験結果、生成物内にNaClが殆ど存在していないことを定量的に確認し、分離及び精製の溶媒としてトルエンが最も望ましいことがわかった。
【0070】
なお、生成物に対するESR分析結果、Tiの酸化数が+4であることがわかった。最終的に生成物のXRF分析結果、Tiの重量含量が40.3wt.%(理論値=41.3wt.%)であったため、高純度の生成物が得られたことがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明による製造方法は強い還元力を有する複合還元剤を使用して、有機−遷移金属ハイドライドの分離及び精製の問題点を解決し、変性なく安定的に高い収率で収得する効果を有する。
【0072】
本発明による製造方法は反応結果から形成される多様な反応副産物の種類及び量を最少化することができ、従来の水素貯蔵物質に比べて比較的緩やかな条件において水素の吸着及び脱着ができるため、中・小型の燃料電池を駆動するための水素の貯蔵媒体としても利用することができるという長所がある。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)アルカリ金属、アルカリ土金属、又はこれらの混合物とC10乃至C20芳香族環化合物を非陽子性極性溶媒において反応させて複合還元剤組成物を製造する段階;及び
b)前記複合還元剤組成物と有機−遷移金属ハロゲン化物を反応させて有機−遷移金属ハイドライドを製造する段階;
とを含む有機−遷移金属ハイドライドの製造方法。
【請求項2】
前記有機−遷移金属ハイドライドは下記化学式1から選ばれ、前記有機−遷移金属ハロゲン化物は下記化学式2から選ばれる請求項1に記載の有機−遷移金属ハイドライドの製造方法。
<化学式1>
−(AM
<化学式2>
−(AM
前記式1中、Bは直鎖又は分岐鎖のC2乃至C20アルキル、C6乃至C20アリール、C3乃至C20ヘテロアリール又はC6乃至C20アルC2乃至C20アルキルであり、前記アルキルは炭素鎖内に不飽和結合を含み、前記B内のアリール又はアラルキルをなす炭素原子は窒素、酸素又は硫黄から選ばれるヘテロ原子で置換でき;
前記Bはハロゲン元素、−NO、−NO、−NH、−R、−OR、−(CO)R、−SONH、SO、−SONa、−(CHSH、−CNから選ばれる一つ以上の置換基で置換でき、前記置換基内のR乃至Rは独立に直鎖又は分岐鎖のC1乃至C30アルキル、又はC6乃至C20アリールから選ばれ;
前記AはO又はSから選ばれ、前記Xはハロゲン元素であり;
前記kは0乃至10の整数であり、Mは原子価2価以上の遷移金属元素から選ばれる1種以上であり、mはMの原子価−1の整数であり、nは1乃至10の整数である。
【請求項3】
前記有機−遷移金属ハイドライドは下記化学式3から選ばれ、前記有機−遷移金属ハロゲン化物は下記化学式4から選ばれる請求項1に記載の有機−遷移金属ハイドライドの製造方法。
<化学式3>
−(M
<化学式4>
−(M
前記式中、Bはシクロペンタジエン誘導体又はシクロペンタジエンを含む融合環化合物から選ばれ、前記Bはハロゲン元素、−NO、−NO、−NH、−R、−OR、−(CO)R、−SONH、SO、−SONa、−(CHSH、−CNから選ばれる一つ以上の置換基で置換でき、前記置換基内のR乃至Rは独立に直鎖又は分岐鎖のC1乃至C30アルキル、又はC6乃至C20アリールから選ばれ;
前記Xはハロゲン元素であり、kは0乃至10の整数であり;
は原子価2価以上の遷移金属元素から選ばれる1種以上であり、aはMの原子価−1の整数であり、bは1乃至10の整数である。
【請求項4】
前記Bよりシクロペンタジエン誘導体又はシクロペンタジエンを含む融合環化合物はシクロペンタジエニル、メチルシクロペンタジエニル、ジメチルシクロペンタジエニル、テトラメチルシクロペンタジエニル、ペンタメチルシクロペンタジエニル、ブチルシクロペンタジエニル、sec−ブチルシクロペンタジエニル、tert−ブチルメチルシクロペンタジエニル、トリメチルシリルシクロペンタジエニル、インデニル、メチルインデニル、ジメチルインデニル、エチルインデニル、イソプロピルインデニル、フルオレニル、メチルフルオレニル、ジメチルフルオレニル、エチルフルオレニル、及びイソプロピルフルオレニルよりなる群から選ばれる請求項3に記載の有機−遷移金属ハイドライドの製造方法。
【請求項5】
前記MはTi、V又はScから選ばれる1種以上であり、aは2乃至4の整数であり、bは2乃至6の整数である請求項3に記載の有機−遷移金属ハイドライドの製造方法。
【請求項6】
前記化学式1のBは下記構造から選ばれる請求項2に記載の有機−遷移金属ハイドライドの製造方法。
【化1】

【請求項7】
前記MはTi、V又はScから選ばれる1種以上であり、mは2乃至4の整数であり、nは2乃至6の整数である請求項2に記載の有機−遷移金属ハイドライドの製造方法。
【請求項8】
前記芳香族環化合物はナフタレン(naphthalene)、ビフェニル(biphenyl)、フェナントレン(phenanthrene)、アントラセン(anthracene)、トランス−スチルベン(trans-stilbene)、及びこれらの誘導体から1種以上選ばれる請求項1に記載の有機−遷移金属ハイドライドの製造方法。
【請求項9】
前記非陽子性極性溶媒はテトラヒドロフラン(tetrahydrofuran(THF))、1,2−ジメトキシエタン(1,2-dimethoxyethane(DME))、ジオキサン(dioxane(DXN))、ジエチレングリコールジメチルエテール(diethyleneglycoldimethylether(Diglyme))、ジメチルホルムアミド(dimethylformamide(DMF))、ジメチルスルホキシド(dimethylsulfoxide(DMSO))、ジメチルアセトアミド(dimethylacetamide(DMA))、ヘキサメチルホスホルアミド(hexamethylphosphoramide(HMPA))、及びこれらの誘導体のうちから選ばれる1種以上である請求項1乃至8のいずれかに記載の有機−遷移金属ハイドライドの製造方法。
【請求項10】
前記b)段階の反応温度が−80乃至50℃である請求項1に記載の有機−遷移金属ハイドライドの製造方法。
【請求項11】
前記b)段階後、ペンタン、トルエン、ベンゼン、エーテル、又はこれらの誘導体から一つ以上選ばれる一つ以上の非極性溶媒で有機−遷移金属ハイドライドを分離する段階をさらに含む請求項1に記載の有機−遷移金属ハイドライドの製造方法。

【公開番号】特開2010−43082(P2010−43082A)
【公開日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−185465(P2009−185465)
【出願日】平成21年8月10日(2009.8.10)
【出願人】(595137310)ハンファ ケミカル コーポレーション (31)
【Fターム(参考)】