説明

水蒸気改質用触媒および水素の製造方法

【課題】メタノール又はジメチルエーテルの水蒸気改質において、高温においても一酸化炭素の副生を大幅に抑制でき、高い触媒活性を長期間維持できる水蒸気改質用触媒、及び該触媒を用いた水素の製造方法を提供する。
【解決手段】酸化銅、酸化亜鉛、及びジルコニウムとイットリウムの複合酸化物を有効成分として含有し、下記(1)及び(2)の条件を満足することを特徴とする、メタノール及び/又はジメチルエーテルの水蒸気改質用触媒:
(1)酸化銅、酸化亜鉛、及びジルコニウムとイットリウムの複合酸化物の合計量を基準として、酸化銅の含有量が20〜40重量%であって、酸化亜鉛の含有量が酸化銅の含有量の0.6〜1.0倍である、
(2)酸化銅、酸化亜鉛、及びジルコニウムとイットリウムの複合酸化物の合計量を基準として、ジルコニウムとイットリウムの複合酸化物の含有量が35〜65重量%であって、Y/(Zr+Y)(モル分率)=0.1〜0.7ある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メタノール及び/又はジメチルエーテルの水蒸気改質用触媒及びこれを用いた水素の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
メタノールは、水蒸気改質によって主として水素と二酸化炭素に変換され、比較的容易に一酸化炭素の含有量が低い水素が得られることが知られている。このため、メタノールの水素改質方法は、特に、固体高分子形燃料電池への水素供給手段として期待されている。
【0003】
従来より、多くの触媒がメタノールの水蒸気改質用触媒として提案されている。特に、近年では銅−亜鉛−アルミナからなる触媒が、高い活性と低い一酸化炭素選択性を有するため、工業的に使用されるに至っている。このような触媒の定常時における反応温度は通常300℃以下である。この理由としては、水蒸気改質を300℃以下の反応温度で行うことができるために高価な装置を用いる必要がないことや、従来から使用されている触媒は耐熱性が不十分なこと等が挙げられる(下記特許文献1、特許文献2等参照)。
【0004】
このため、今まで開発されてきた触媒の多くは、300℃以下で十分な活性と耐久性を有することを目標としている。実際、300℃を超える高温水蒸気改質に利用することを前提とする以外は、反応活性の測定は300℃以下で行われており、それより高い反応温度で反応を行う場合は触媒の耐久性評価を目的としている。
【0005】
一方、下記特許文献3には、300℃を超える高温反応条件でメタノール水蒸気改質を行うことの利点として、300℃以下では工業的には熱媒を使用して加熱するのに対して、300℃以上では燃焼熱を直接利用でき、反応活性も向上するので装置がコンパクト化できることが述べられている。更に、水素分離と触媒反応を同時に行うメンブレンリアクター(膜型反応器)ではパラジウム系水素分離膜が採用されることが多く、水素分離膜の性能を最大限に発揮させるためには反応温度が350℃以上であることが望まれる。また、ジメチルエーテルの水蒸気改質による水素製造は、メタノールの水蒸気改質触媒にアルミナ等の固体酸触媒を混合した触媒を用いれば可能なことが知られており、この場合、350℃以上の反応温度が通常必要とされている。これは、酸触媒によりジメチルエーテルを加水分解してメタノールとするために、高い反応温度が必要であるためであり、生成したメタノールは水蒸気改質触媒により水素に変換される。
【0006】
しかしながら、一般に反応温度が高くなると一酸化炭素選択性が増加することが知られており(例えば、特許文献2)、その結果、水素の生成量が減少する事態が生じる。例えば、下記特許文献4には、メタノール水蒸気改質における水素ガス発生速度の反応温度依存性が示されているが、何れの触媒においても水素ガス発生速度は反応温度が300℃を超えると頭打ちとなり、却って発生速度は低下する傾向がみられる。
【0007】
下記特許文献5には、炭化水素系燃料の改質触媒として、銅、亜鉛及びジルコニウムを主成分とする化合物にマンガン又はイットリウムを含有させてなる触媒が記載されている。この触媒は、メタノールなどの炭化水素系燃料の水蒸気改質反応に使用できるとされているが、350℃におけるメタノールの水蒸気改質試験後においても活性の劣化があり、高温における水蒸気改質用の触媒としては不適当である。
【0008】
このように、300℃を超える温度で行う水蒸気改質においては、触媒については、耐熱性が良好であることに加えて、一酸化炭素への選択性が低く、活性の劣化が生じにくいことが必要となる。特に反応温度が400℃を超える場合には、300℃以下では低い一酸化炭素選択性を示す触媒でも一酸化炭素の選択率が著しく高くなることがあり、固体高分子形燃料電池に供給する水素としては一酸化炭素の低減に手数を要し、経済性を失う原因となる。
【特許文献1】特開平6−122501号公報
【特許文献2】特開平7−24320号公報
【特許文献3】特開2004−292202号公報
【特許文献4】特開平7−265704号公報
【特許文献5】特開2001−259426号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記した従来技術の現状に鑑みてなされたものであり、その主な目的は、メタノール又はジメチルエーテルの水蒸気改質において、高温においても一酸化炭素の副生を大幅に抑制でき、高い触媒活性を長期間維持できる水蒸気改質用触媒、及び該触媒を用いた水素の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記した目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、酸化銅、酸化亜鉛、及びジルコニウムとイットリウムの複合酸化物を有効成分として含有し、各成分の含有量が特定の条件を満足する混合物が、メタノール又はジメチルエーテルの高温における水蒸気改質反応に対して高い活性を示し、一酸化炭素の選択率が低く、しかも、高温水蒸気改質に長期間用いた場合にも、活性の低下が非常に少なく、高温における水蒸気改質用触媒として優れた性能を有するものであることを見出し、ここに本発明を完成するに至った。
【0011】
即ち、本発明は、下記の水蒸気改質用触媒、該触媒の製造方法、及び水素の製造方法を提供するものである。
1. 酸化銅、酸化亜鉛、及びジルコニウムとイットリウムの複合酸化物を有効成分として含有し、下記(1)及び(2)の条件を満足することを特徴とする、メタノール及び/又はジメチルエーテルの水蒸気改質用触媒:
(1)酸化銅、酸化亜鉛、及びジルコニウムとイットリウムの複合酸化物の合計量を基準として、酸化銅の含有量が20〜40重量%であって、酸化亜鉛の含有量が酸化銅の含有量の0.6〜1.0倍である、
(2)酸化銅、酸化亜鉛、及びジルコニウムとイットリウムの複合酸化物の合計量を基準として、ジルコニウムとイットリウムの複合酸化物の含有量が35〜65重量%であって、Y/(Zr+Y)(モル分率)=0.1〜0.7ある。
2. 酸化銅、酸化亜鉛、及びジルコニウムとイットリウムの複合酸化物を有効成分として含有し、下記(1)及び(2)の条件を満足することを特徴とする、メタノール及び/又はジメチルエーテルの水蒸気改質用触媒:
(1)酸化銅、酸化亜鉛、及びジルコニウムとイットリウムの複合酸化物の合計量を基準として、酸化銅の含有量が30〜37重量%であって、酸化亜鉛の含有量が酸化銅の含有量の0.7〜0.9倍である、
(2)酸化銅、酸化亜鉛、及びジルコニウムとイットリウムの複合酸化物の合計量を基準として、ジルコニウムとイットリウムの複合酸化物の含有量が35〜50重量%であって、Y/(Zr+Y)(モル分率)=0.2〜0.6である。
3. 酸化銅の平均粒子径が25nm以下、酸化亜鉛の平均粒子径が25nm以下、ジルコニウムとイットリウムの複合酸化物の平均粒子径が5nm以下である上記項1又は2に記載の水蒸気改質用触媒。
4. 酸化銅、酸化亜鉛、及びジルコニウムとイットリウムの複合酸化物が無機繊維体に保持されてなる上記項1〜3のいずれかに記載の水蒸気改質用触媒。
5. 銅化合物、亜鉛化合物、ジルコニウム化合物およびイットリウム化合物を含む水溶液に、アルカリ沈殿剤を加えて混合水酸化物を沈殿させた後、形成された沈殿を乾燥し、焼成することを特徴とする上記項1〜4のいずれかに記載の水蒸気改質用触媒の製造方法。
6. 上記項1〜4のいずれかに記載の触媒の存在下に、メタノール及び/又はジメチルエーテルを水蒸気と反応させることを特徴とする、水素の製造方法。
7. 350〜500℃において反応を行う、上記項6に記載の水素の製造方法。
【0012】
以下、本発明の水蒸気改質用触媒について具体的に説明する。
水蒸気改質用触媒
本発明の水蒸気改質用触媒は、酸化銅(CuO)、酸化亜鉛(ZnO)、及びジルコニウムとイットリウムの複合酸化物(Zr2x+1.5y)を有効成分として含有するものである。
【0013】
上記した成分の内で、酸化銅と酸化亜鉛については、これらの混合物を含む触媒(銅―酸化亜鉛系触媒)が、300℃以下においてメタノール水蒸気改質に活性があることが知られている。この様な銅−酸化亜鉛系触媒では、メタノールのみを供給すると300℃以下では水素と一酸化炭素への分解反応がほとんど生じない。このことは水蒸気の存在がメタノールの分解に大きな役割を果たしていることを示すと共に一酸化炭素への選択性が低い要因ともなっている。
【0014】
酸化亜鉛については、これを欠くと高い反応活性が得られないことから、反応促進効果があることが認められる。
【0015】
本発明の触媒では、酸化銅の含有量は、酸化銅、酸化亜鉛、及びジルコニウムとイットリウムの複合酸化物の合計量を基準として、20〜40重量%程度であることが必要であり、30〜37重量%程度であることが好ましい。また、酸化亜鉛の含有量は、酸化銅の含有量の0.6〜1倍程度であることが好ましく、0.7〜0.9倍程度であることがより好ましい。
【0016】
酸化銅の含有量が上記範囲より少ない場合には、水蒸気改質に対して十分な活性が得られず、多すぎる場合には、シンタリングによる活性低下の原因となり、高温での水蒸気改質に長期間用いることができないので、いずれも好ましくない。尚、本発明の触媒を水蒸気改質用触媒として用いると、反応中に酸化銅は金属銅に還元されるが、酸化銅に換算した量として、上記範囲含まれていれば、本発明触媒の優れた性能を発揮できる。
【0017】
酸化亜鉛の含有量については、上記範囲より多すぎる場合及び少なすぎる場合のいずれの場合にも、十分な活性を得ることができないので好ましくない。
【0018】
酸化ジルコニウムは、高温で水を吸着し、表面水酸基の形態で保持できることが知られている。本発明の触媒ではジルコニウムは、イットリウムと共に複合酸化物を形成しており、これにより複合酸化物の粒子径が小さくなって酸化ジルコニウムの有する水酸基の供給機能を高めているものと推定される。
【0019】
本発明の触媒では、ジルコニウムとイットリウムの複合酸化物の含有量は、酸化銅、酸化亜鉛、及びジルコニウムとイットリウムの複合酸化物の合計量を基準として、35〜65重量%程度であることが必要であり、35〜50重量%程度であることが好ましい。更に、ジルコニウムとイットリウムの和に対するイットリウムのモル分率、即ち、Y/(Y+Zr)は、0.1〜0.7程度であることが必要であり、0.2〜0.6程度であることが好ましい。
【0020】
本発明の触媒では、有効成分として含まれる酸化物の粒径は、ジルコニウムとイットリウムの複合酸化物については平均粒子径が5nm程度以下であることが好ましく、酸化銅の平均粒子径は25nm程度以下であることが好ましく、酸化亜鉛の平均粒子径は25nm以下であることが好ましい。これらの各酸化物の平均粒子径は、粉末X線回折による回折ピーク位置とピークの半値幅を測定することにより得られる平均結晶子径と等しいとして求めた値である。
【0021】
上記した条件を満足する各酸化物は、各酸化物の含有量を上記範囲とした上で、例えば、後述する共沈法を適用することによって得ることができる。
【0022】
ジルコニウムとイットリウムの複合酸化物の含有量が上記範囲を下回ると、量的に不足して十分に金属銅粒子と接触できないため、高温で水蒸気改質を行う場合に金属銅のシンタリングが生じて活性が低下しやすく、そのため、短時間に活性の低下が生じると考えられる。ジルコニウムとイットリウムの複合酸化物の含有量が上記範囲を上回ると複合酸化物の粒子径が大きくなり易いので好ましくない。
【0023】
また、ジルコニウムとイットリウムの合計に対するイットリウムのモル分率については、上記範囲外では、多すぎても、少なすぎてもジルコニウムとイットリウムの複合酸化物の粒子径が大きくなるため活性の低下速度が大きくなりやすい。
【0024】
酸化亜鉛の酸化銅に対する比率についても、上記範囲外である場合には、やはりジルコニウムとイットリウムの複合酸化物の粒子径が大きくなり易いので好ましくない。
【0025】
本発明の触媒は、上記した条件を全て同時に満足することによって、メタノール及び/又はジメチルエーテルの水蒸気改質反応に対して優れた活性を有し、且つ一酸化炭素選択率が非常に低い触媒となる。更に、300℃以上の高温での水蒸気改質に用いる場合にも、優れた活性を発揮すると共に、活性の低下が生じにくい安定な触媒となる。
【0026】
本発明の触媒は、上記した酸化銅(CuO)、酸化亜鉛(ZnO)、及びジルコニウムとイットリウムの複合酸化物(Zr2x+1.5y)を含有するものであればよく、その形態は、微粉末状、粉末状、破片状、顆粒状、ペレット状、ハニカム状などの任意の形態とすることができる。例えば、微粉末状としては、100〜200メッシュ程度のものを用いることができ、粉末状としては20〜100メッシュ程度のものを用いることができ、破片状としては、5〜20メッシュ程度のものを用いることができ、顆粒状としては、平均粒子径0.5〜7mm程度のものを用いることができ、ペレット状としては、平均粒子径1〜10mm程度のものを用いることができる。
【0027】
尚、本発明の触媒は、酸化銅(CuO)、酸化亜鉛(ZnO)、及びジルコニウムとイットリウムの複合酸化物(Zr2x+1.5y)を有効成分として含有すればよく、本発明触媒の性能に悪影響を及ばさない限り、必要に応じて、その他の成分を含むことができる。
【0028】
本発明の触媒は任意の担体に保持させて用いてもよい。特に、本発明の触媒を無機繊維体に充填して使用する場合には、触媒の成形性、触媒へのガス拡散性等が向上する。無機繊維体としては、ガラス繊維、セラミック繊維、金属繊維等からなり、不織布、フェルト状、綿状となっているものを用いることができ、空隙率が50%以上であることが好ましく、70%以上であることがより好ましい。無機繊維体への本発明触媒の保持量は、無機繊維体と本発明触媒の合計量に対して40〜80重量%程度とすることが好ましい。
【0029】
水蒸気改質用触媒の製造方法
本発明の触媒は、上記した酸化銅(CuO)、酸化亜鉛(ZnO)、及びジルコニウムとイットリウムの複合酸化物(Zr2x+1.5y)を有効成分として含有するものであればよく、その製造方法については特に限定はない。特に、共沈法によって製造する場合には、各成分が均一に分散して相互作用を高め、一酸化炭素の副生を大幅に抑制しつつ、高い触媒活性を発揮できる触媒を確実に得ることができる。以下、共沈法による製造方法について具体的に説明する。
【0030】
まず、銅化合物、亜鉛化合物、ジルコニウム化合物およびイットリウム化合物を含む原料を水に溶解した混合水溶液を調製する。
【0031】
各原料化合物は、所定の濃度の水溶液を作製するための十分な溶解度を有するものであればよい。例えば、銅化合物としては、硝酸銅、塩化銅、硫酸銅、酢酸銅等が挙を用いることができる。これらは、一種又は二種以上で用いることができる。亜鉛化合物としては、例えば、硝酸亜鉛、塩化亜鉛、硫酸亜鉛、酢酸亜鉛等を用いることができる。これらは、一種又は二種以上で用いることができる。ジルコニウム化合物としては、例えば、硝酸ジルコニル、硫酸ジルコニウム、オキシ塩化ジルコニウム等を用いることができる。これらは、一種又は二種以上で用いることができる。イットリウム化合物としては、例えば、硝酸イットリウム、塩化イットリウム、酢酸イットリウム等を用いることができる。これらは、一種又は二種以上で用いることができる。
【0032】
混合水溶液における各原料化合物の濃度比は、目的とする触媒における金属成分の比率と同様の金属成分比となるようにすればよい。また、銅化合物、亜鉛化合物、ジルコニウム化合物およびイットリウム化合物の合計濃度は、0.1〜10mol/L程度とすることが好ましく、0.3〜5mol/L程度とすることがより好ましい。
【0033】
次いで、上記した各原料化合物を含む水溶液にアルカリ沈殿剤を加えて、触媒前駆体となる混合水酸化物を沈殿させる。アルカリ沈殿剤としては、例えば、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、水酸化ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム、水酸化カリウム、アンモニア等を用いることができる。通常、これらのアルカリ沈殿剤は、そのまま添加しても良いが、水溶液として添加することが好ましい。
【0034】
原料化合物に対するアルカリ沈殿剤の量は、化学当量の1〜2倍程度、好ましくは1.05〜1.6倍程度とすればよい。沈殿物調製時の温度は20〜95℃程度とすることが好ましく、40〜90℃程度とすることがより好ましい。
【0035】
以上のようにして調製された触媒前駆体は、洗浄後、乾燥し、更に、焼成することによって、目的とする本発明の触媒とすることができる。
【0036】
乾燥温度は50〜150℃程度とすればよい。また、焼成温度は400〜900℃程度、好ましくは500〜800℃程度とすればよい。
【0037】
焼成時間は、焼成温度等に応じて適宜設定すればよく、通常1〜24時間程度であればよい。焼成は、例えば、空気中などの酸化性雰囲気下で行えばよい。
【0038】
本発明の触媒の製造時に、必要に応じて、粉砕、成形などを行うことによって、任意の形態の触媒とすることができる。
【0039】
例えば、微粉末状及び粉末状への加工方法としては、ジェットミル、ビーズミル等を用いて粉砕した後、ふるいにかける方法が挙げられる。
【0040】
砕片状への加工方法としては、例えば破砕機を用いて破砕する方法が挙げられる。
【0041】
顆粒状への加工方法としては、例えば微粉末状又は粉末状の乾燥粉や焼成粉に対して、スプレードライ法、転造造粒法、流動床造粒法等各種の公知方法を適用する方法が挙げられる。
【0042】
ペレット状への加工方法としては、例えば微粉末状又は粉末状の乾燥粉や焼成粉をプレス圧縮成形する方法が挙げられる。
【0043】
また、前駆体スラリーや乾燥粉あるいは焼成粉に水等を加えてスラリーやペースト状とし、これを担体や担体構造物に担持させたり、塗布接着させて使用することができる。この場合、担持後、乾燥してそのまま、あるいは焼成して使用することができる。特に担体構造物として無機繊維体を用いることが好ましい。この場合、触媒成分を担持し、乾燥後あるいは焼成後、プレスによる圧縮成形を行っても良く、その後、焼成しても良い。
【0044】
水素の製造方法
本発明の水蒸気改質用触媒の存在下に、メタノール及び/又はジメチルエーテルを水蒸気と反応させることによって、一酸化炭素の副生を大幅に抑制しつつ、水素及び二酸化炭素を得ることができる。
【0045】
メタノール及び/又はジメチルエーテルを水蒸気と反応させる方法については、特に限定はなく、公知の水蒸気改質方法に準じた方法を適用できる。例えばメタノール及び/又はジメチルエーテルと水蒸気の混合ガスを本発明の触媒に連続的に接触させることにより、メタノール及び/又はジメチルエーテルと水蒸気とを気相反応させることができる。
【0046】
尚、本発明の触媒は、単独で用いることが可能であるが、反応ガス中にジメチルエーテルが含まれる場合には、ジメチルエーテルの加水分解によるメタノール生成を効率化するため、本発明の触媒に、アルミナ、ゼオライト、活性白土等の酸触媒を混合することが好ましい。酸触媒の混合量は、体積比で本発明の触媒の0.5〜5倍程度とすることが好ましい。
【0047】
メタノール及び/又はジメチルエーテルと水蒸気の混合ガスにおける各成分の割合は、特に限定的ではないが、例えば、メタノールと水蒸気を反応させる場合には、通常、メタノール:水蒸気のモル比は1:1〜3程度が好ましく、1:1.1〜2程度がより好ましい。従来のメタノール水蒸気改質触媒では、通常1.5以上のメタノールと水蒸気のモル比が採用される。これは1.5以下のモル比では触媒の著しい活性劣化や副生物の増大が生じるためである。本発明の触媒の場合、1.5以下のモル比でも何ら問題なく使用できる。
【0048】
また、ジメチルエーテルと水蒸気を反応させる場合には、通常、ジメチルエーテル:水蒸気のモル比が1:3〜8程度であることが好ましく、1:3.2〜6程度であることがより好ましい。
【0049】
メタノール及び/又はジメチルエーテルと水蒸気の混合ガスには、メタノール及び/又はジメチルエーテルの水蒸気改質を妨げない範囲であれば、他のガス成分が含まれていても良い。他のガス成分としては、例えば酸素、空気、窒素等が挙げられる。本発明の水素の製造方法では、水も反応物質の一つであるため、使用するメタノールには、予め水が含まれていてもよい。
【0050】
混合ガスに酸素及び/又は空気が含まれる場合には、メタノール及び/又はジメチルエーテルの改質と同時に酸化反応が生じやすくなり、メタノール改質に必要な反応熱を酸化反応により供給することが可能となる。メタノールに対する酸素の割合は、メタノール1molに対して、通常、0.25mol以下程度とすることが好ましく、0.05〜0.15mol程度とすることがより好ましい。また、ジメチルエーテルに対する酸素の割合は、ジメチルエーテル1molに対して、通常、0.5molモル程度以下とすることが好ましく、0.1〜0.2mol程度とすることがより好ましい。
【0051】
メタノールと水蒸気との反応は、従来の触媒を用いる場合と同様に、150℃程度以上の温度において行うことが可能である。また、ジメチルエーテルと水蒸気との反応も、従来の触媒を用いる場合と同様に、300℃程度以上の温度において行うことが可能である。
【0052】
特に、本発明の触媒は、高温における水蒸気改質反応において、高い活性を長期間維持でき、しかも一酸化炭素選択率が低いという優れた特徴を有するものである。この様な優れた特性を利用して、水素収率を損なうことなく、高速で水蒸気改質を進行させるためには、高温において水蒸気改質を行うことが好ましい。例えば、定常的に反応を行う温度は、350〜500℃程度の反応温度とすることが好ましい。反応温度がこの範囲を下回ると、高温水蒸気改質の利点である高い水素製造速度を得ることができず、反応温度が高すぎると、一酸化炭素の副生量が増加する傾向にあるので好ましくない。さらに、上記温度範囲とすることによって、ジメチルエーテルを反応ガスとする場合に、ジメチルエーテルの加水分解によるメタノール生成を促進することができる。
【0053】
反応時の圧力については、高めに設定することにより、生成する水素の分圧を高めることができる。通常、0.05MPa〜3MPa程度、好ましくは0.1MPa〜1MPa程度の反応圧力とすることが好ましい。
【0054】
メタノール及び/又はジメチルエーテルと水蒸気を含む混合ガスの供給速度は、特に限定されず、反応器の大きさ、形状、触媒の形状、反応温度、反応圧力等に応じて適宜選択することができる。通常は、反応ガスがメタノールの場合には、気相のメタノール供給速度を、触媒1gあたり3〜50L/h程度とすることが好ましく、5〜40L/h程度とすることがより好ましい。また、反応ガスがジメチルエーテルの場合には、気相のジメチルエーテル供給速度を、触媒1gあたり1〜20L/h程度とすることが好ましく、2〜10L/h程度とすることがより好ましい。
【0055】
尚、本発明の触媒を用いて水蒸気改質反応を行う場合には、反応前に予め水素等の還元性ガスで還元しても差し支えないが、反応前の還元は必須ではなく、触媒をそのまま用いれば良い。反応中に触媒は還元されて、反応に好適な状態となる。このため、起動停止を頻繁に行う反応装置内に触媒を入れても触媒を常時還元状態に保つ必要はなく、これが大きな利点となる。
【0056】
上記した方法により、水素と二酸化炭素を主成分とする水素含有ガスが得られる。
【0057】
なお、必要に応じて、一酸化炭素除去手段を用いることにより、生成ガスから一酸化炭素をさらに除去してもよい。一酸化炭素除去手段としては、例えば水素PSA法により一酸化炭素を生成ガスから分離する方法、水素分離膜により一酸化炭素を生成ガスから分離する方法、ガス中の一酸化炭素を選択的に酸化する方法、ガス中の一酸化炭素をメタンに変換する方法等が挙げられる。
【発明の効果】
【0058】
本発明の高温水蒸気改質用触媒は、メタノール及び/又はジメチルエーテルの水蒸気改質において、高い触媒活性を発揮しつつ、一酸化炭素の副生を大幅に抑制することができる。また、350℃以上の高温で反応を行う場合にも活性の低下が少なく、高い水素生成速度を長期間維持できる。このため、本発明触媒を用い、特に、高温度で水蒸気改質を行うことによって、水素収量を損なうことなく高速で水素製造を行うことができ、装置の小型化を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0059】
以下に、実施例及び比較例を示し、本発明の特徴とするところをより一層明確にする。ただし、本発明は、これら実施例及び比較例に限定されるものではない。
【0060】
なお、後述するメタノール転化率及び一酸化炭素選択率は、ガスクロマトグラフによる反応器出口ガスの組成分析により決定した値である。一酸化炭素選択率は、生成した一酸化炭素のモル数を生成した二酸化炭素と一酸化炭素のモル数の和で除したものである。反応温度は反応管の外壁温度を測定して得た。
【0061】
また、下記実施例及び比較例では反応ガスにアルゴンガスが含まれているが、単に実験を容易とするためのものであり、実際の実施では必ずしも必要としない。
【0062】
実施例1
高温水蒸気改質触媒の製造
硝酸銅、硝酸亜鉛、硝酸ジルコニル及び硝酸イットリウムを、モル比で1.0:0.78:0.60:0.09となるように蒸留水に溶解し、その合計濃度を0.5mol/Lとした。
【0063】
得られた水溶液を80℃に加熱し、これに80℃の1規定の炭酸ナトリウム水溶液を加え攪拌することにより、水酸化物の沈殿を得た。得られた沈殿を蒸留水で洗浄後、120℃で15時間乾燥させ、続けて空気中500℃で12時間加熱することにより、酸化銅(CuO)が35重量%、酸化亜鉛(ZnO)が28重量%、ジルコニウムとイットリウムの複合酸化物(Zr0.870.131.93)が37重量%含まれる触媒を得た。得られた触媒を破砕することにより、20〜100メッシュの粉末状とした。得られた触媒の比表面積は65m/gであった。X線回折法により測定された酸化銅の平均粒子径は14nm、酸化亜鉛の平均粒子径は9nm、ジルコニウムとイットリウムの複合酸化物の平均粒子径は3nm以下であった。
【0064】
水素の製造
上記した方法で得た触媒を固定床流通式反応装置の反応器に充填後、メタノール、水蒸気及びアルゴンからなる混合ガス(容積比 メタノール:水蒸気:アルゴン=1:1.2:0.5)をメタノール供給速度36L/g(触媒)・hの条件で反応温度410℃で供給して、メタノールを主として水素及び二酸化炭素に変換した。反応時間が1時間におけるメタノール転化率は86%、一酸化炭素選択率は3.4%であった。反応時間が7時間におけるメタノール転化率は79%、一酸化炭素選択率は3.1%であり、水素製造速度は84.4L/g・hであり、良好な活性を長時間維持できることが確認できた。
【0065】
実施例2
高温水蒸気改質触媒の製造
硝酸銅、硝酸亜鉛、硝酸ジルコニル及び硝酸イットリウムを、モル比で1.0:0.78:0.52:0.19となるように蒸留水に溶解すること以外は、実施例1と同様に操作して、酸化銅が35重量%、酸化亜鉛が28重量%、ジルコニウムとイットリウムの複合酸化物(Zr0.730.271.87)が37重量%含まれる触媒を得た。得られた触媒を破砕することにより粉末状とした。得られた触媒の比表面積は63m/gであった。X線回折法により測定された酸化銅の平均粒子径は14nm、酸化亜鉛の平均粒子径は10nm、ジルコニウムとイットリウムの複合酸化物の平均粒子径は4nmであった。
【0066】
水素の製造
上記した方法で得た触媒を固定床流通式反応装置の反応器に充填後、実施例1と同様の条件で、メタノール、水蒸気及びアルゴンからなる混合ガスを供給し、供給されたメタノールを、主として水素及び二酸化炭素に変換した。反応時間が1時間におけるメタノール転化率は90%、一酸化炭素選択率は5.1%であった。反応時間が7時間におけるメタノール転化率は87%、一酸化炭素選択率は4.0%であり、水素製造速度は95.9L/g・hであり、良好な活性を長時間維持できることが確認できた。
【0067】
実施例3
高温水蒸気改質触媒の製造
硝酸銅、硝酸亜鉛、硝酸ジルコニル及び硝酸イットリウムを、モル比で1.0:0.78:0.34:0.38となるように蒸留水に溶解すること以外は、実施例1と同様に操作して、酸化銅が35重量%、酸化亜鉛が28重量%、ジルコニウムとイットリウムの複合酸化物(Zr0.480.521.74)が37重量%含まれる触媒を得た。得られた触媒を破砕することにより粉末状とした。得られた触媒の比表面積は53m/gであった。X線回折法により測定された酸化銅の平均粒子径は14nm、酸化亜鉛の平均粒子径は12nm、ジルコニウムとイットリウムの複合酸化物の平均粒子径は3nm以下であった。
【0068】
水素の製造
上記した方法で得た触媒を固定床流通式反応装置の反応器に充填後、実施例1と同様の条件で、メタノール、水蒸気及びアルゴンからなる混合ガスを供給し、供給されたメタノールを、主として水素及び二酸化炭素に変換した。反応時間が1時間におけるメタノール転化率は94%、一酸化炭素選択率は6.6%であった。反応時間が7時間におけるメタノール転化率は94%、一酸化炭素選択率は5.1%であり、水素製造速度は99.8L/g・hであり、良好な活性を長時間維持できることが確認できた。
【0069】
実施例4
高温水蒸気改質触媒の製造
硝酸銅、硝酸亜鉛、硝酸ジルコニル及び硝酸イットリウムを、モル比で1.0:0.78:0.27:0.45となるように蒸留水に溶解すること以外は、実施例1と同様に操作して、酸化銅が35重量%、酸化亜鉛が28重量%、ジルコニウムとイットリウムの複合酸化物(Zr0.380.621.69)が37重量%含まれる触媒を得た。得られた触媒を破砕することにより粉末状とした。得られた触媒の比表面積は47m/gであった。X線回折法により測定された酸化銅の平均粒子径は17nm、酸化亜鉛の平均粒子径は14nm、ジルコニウムとイットリウムの複合酸化物の平均粒子径は4nmであった。
【0070】
水素の製造
上記した方法で得られた触媒を固定床流通式反応装置の反応器に充填後、実施例1と同様の条件で、メタノール、水蒸気及びアルゴンからなる混合ガスを供給し、供給されたメタノールを、主として水素及び二酸化炭素に変換した。反応時間が1時間におけるメタノール転化率は93%、一酸化炭素選択率は5.6%であった。反応時間が7時間におけるメタノール転化率は86%、一酸化炭素選択率は4.4%であり、水素製造速度は91.5L/g・hであり、良好な活性を長時間維持できることが確認できた。
【0071】
実施例5
高温水蒸気改質触媒の製造
硝酸銅、硝酸亜鉛、硝酸ジルコニル及び硝酸イットリウムを、モル比で1.0:0.74:0.72:0.79となるように蒸留水に溶解すること以外は、実施例1と同様に操作して、酸化銅が24重量%、酸化亜鉛が19重量%、ジルコニウムとイットリウムの複合酸化物(Zr0.480.521.74)が57重量%含まれる触媒を得た。得られた触媒を破砕することにより粉末状とした。得られた触媒の比表面積は70m/gであった。X線回折法により測定された酸化銅の平均粒子径は20nm、酸化亜鉛の平均粒子径は21nm、ジルコニウムとイットリウムの複合酸化物の平均粒子径は3nm以下であった。
【0072】
水素の製造
上記した方法で得た触媒を固定床流通式反応装置の反応器に充填後、実施例1と同様の条件で、メタノール、水蒸気及びアルゴンからなる混合ガスを供給し、供給されたメタノールを、主として水素及び二酸化炭素に変換した。反応時間が1時間におけるメタノール転化率は87%、一酸化炭素選択率は4.0%であった。反応時間が7時間におけるメタノール転化率は82%、一酸化炭素選択率は3.7%であり、水素製造速度は85.3L/g・hであり、良好な活性を長時間維持できることが確認できた。
【0073】
実施例6
高温水蒸気改質触媒の製造
実施例3で得た触媒に少量の水を加え濃厚なスラリー状とした。これを空隙率99%の石英綿(平均繊維径、10μm)に含浸し、80℃で12h乾燥することにより石英綿に触媒を保持させた。これを空気中120℃で12時間加熱した後、450℃で5時間加熱した。石英綿に保持された触媒成分は全重量の66重量%であった。
【0074】
水素の製造
上記した方法で得た触媒を固定床流通式反応装置の反応器に充填後、実施例1と同様の条件で、メタノール、水蒸気及びアルゴンからなる混合ガスを供給し、供給されたメタノールを、主として水素及び二酸化炭素に変換した。反応時間が1時間におけるメタノール転化率は85%、一酸化炭素選択率は2.0%であった。担持された触媒量当たりの水素製造速度は138.1L/g・hであり、無機繊維体に触媒を担持することにより、反応効率が向上することが認められた。
【0075】
比較例1
市販の工業用銅−亜鉛−アルミナ系メタノール改質触媒(重量比 銅:亜鉛:アルミナ=1.0:1.1:0.3)を固定床流通式反応装置の反応器に充填した後、250℃で1時間反応器に水素(水素濃度15%、アルゴン希釈)を流すことにより還元した。
【0076】
還元後、メタノール、水蒸気及びアルゴンからなる混合ガス(容積比 メタノール:水蒸気:アルゴン=1:1.5:0.56)をメタノール供給速度4.6L/g(触媒)・hの条件で反応温度410℃で供給することによりメタノールを水素及び二酸化炭素に変換した。反応時間が1時間におけるメタノール転化率は93%、一酸化炭素選択率は10.6%であり、水素製造速度は12.4L/g・hであった。
【0077】
比較例2
硝酸銅、硝酸亜鉛、硝酸ジルコニル及び硝酸イットリウムを、モル比で1.0:0.78:0.64:0.06となるように蒸留水に溶解すること以外は、実施例1と同様に操作して、酸化銅が35重量%、酸化亜鉛が28重量%、ジルコニウムとイットリウムの複合酸化物(Zr0.920.081.96)が37重量%含まれる触媒を得た。得られた触媒を破砕することにより粉末状とした。得られた触媒の比表面積は57m/gであった。X線回折法により測定された酸化銅の平均粒子径は13nm、酸化亜鉛の平均粒子径は10nm、ジルコニウムとイットリウムの複合酸化物の平均粒子径は6nmであった。
【0078】
水素の製造
上記した方法で得た触媒を固定床流通式反応装置の反応器に充填後、実施例1と同様の条件で、メタノール、水蒸気及びアルゴンからなる混合ガスを供給し、供給されたメタノールを、主として水素及び二酸化炭素に変換した。反応時間が1時間におけるメタノール転化率は90%、一酸化炭素選択率は4.1%であった。反応時間が7時間におけるメタノール転化率は80%、一酸化炭素選択率は3.3%であり、水素製造速度は85.4L/g・hであり、メタノール転化率の低下が認められた。
【0079】
比較例3
高温水蒸気改質触媒の製造
硝酸銅、硝酸亜鉛、硝酸ジルコニル及び硝酸イットリウムを、モル比で1.0:1.04:0.34:0.19となるように蒸留水に溶解すること以外は、実施例1と同様に操作して、酸化銅が35重量%、酸化亜鉛が37重量%、ジルコニウムとイットリウムの複合酸化物(Zr0.650.351.82)が28重量%含まれる触媒を得た。得られた触媒を破砕することにより、粉末状とした。得られた触媒の比表面積は51m/gであった。X線回折法により測定された酸化銅の平均粒子径は15nm、酸化亜鉛の平均粒子径は15nm、ジルコニウムとイットリウムの複合酸化物の平均粒子径は7nmであった。
【0080】
水素の製造
上記した方法で得た触媒を固定床流通式反応装置の反応器に充填後、実施例1と同様の条件で、メタノール、水蒸気及びアルゴンからなる混合ガスを供給し、供給されたメタノールを主として水素及び二酸化炭素に変換した。反応時間が1時間におけるメタノール転化率は82%、一酸化炭素選択率は5.2%であった。反応時間が7時間におけるメタノール転化率は64%、一酸化炭素選択率は3.8%であり、水素製造速度は68.2L/g・hであり、メタノール転化率の低下が認められた。
【0081】
比較例4
高温水蒸気改質触媒の製造
硝酸銅、硝酸亜鉛、硝酸ジルコニル及び硝酸イットリウムを、モル比で1.0:0.39:0.77:0.19となるように蒸留水に溶解すること以外は、実施例1と同様に操作して、酸化銅が35重量%、酸化亜鉛が14重量%、ジルコニウムとイットリウムの複合酸化物(Zr0.800.201.90)が51重量%含まれる触媒を得た。得られた触媒を破砕することにより、粉末状とした。得られた触媒の比表面積は49m/gであった。X線回折法により測定された酸化銅の平均粒子径は21nm、酸化亜鉛の平均粒子径は21nm、ジルコニウムとイットリウムの複合酸化物の平均粒子径は7nmであった。
【0082】
水素の製造
上記した方法で得た触媒を固定床流通式反応装置の反応器に充填後、実施例1と同様の条件で、メタノール、水蒸気及びアルゴンからなる混合ガスを供給し、供給されたメタノールを、主として水素及び二酸化炭素に変換した。反応時間が1時間におけるメタノール転化率は62%、一酸化炭素選択率は2.8%であった。反応時間が7時間におけるメタノール転化率は23%、一酸化炭素選択率は3.7%であり、水素製造速度は24.5L/g・hであり、メタノール転化率の低下が認められた。
【0083】
比較例5
高温水蒸気改質触媒の製造
硝酸銅、硝酸亜鉛、硝酸ジルコニル及び硝酸イットリウムを、モル比で1.0:1.17:0.90:0.42となるように蒸留水に溶解すること以外は、実施例1と同様に操作して、酸化銅が24重量%、酸化亜鉛が29重量%、ジルコニウムとイットリウムの複合酸化物(Zr0.680.321.84)が47重量%含まれる触媒を得た。得られた触媒を破砕することにより、粉末状とした。得られた触媒の比表面積は47m/gであった。X線回折法により測定された酸化銅の平均粒子径は19nm、酸化亜鉛の平均粒子径は17nm、ジルコニウムとイットリウムの複合酸化物の平均粒子径は7nmであった。
【0084】
水素の製造
上記した方法で得た触媒を固定床流通式反応装置の反応器に充填後、実施例1と同様の条件で、メタノール、水蒸気及びアルゴンからなる混合ガスを供給し、供給されたメタノールを、主として水素及び二酸化炭素に変換した。反応時間が1時間におけるメタノール転化率は52%、一酸化炭素選択率は3.4%であった。反応時間が7時間におけるメタノール転化率は22%、一酸化炭素選択率は5.2%であり、水素製造速度は23.3L/g・hであり、メタノール転化率の低下が認められた。
【0085】
比較例6
高温水蒸気改質触媒の製造
硝酸銅、硝酸亜鉛、硝酸ジルコニル及び硝酸イットリウムを、モル比で1.0:0.78:3.09:1.12となるように蒸留水に溶解すること以外は、実施例1と同様に操作して、酸化銅が12重量%、酸化亜鉛が10重量%、ジルコニウムとイットリウムの複合酸化物(Zr0.730.271.87)が78重量%含まれる触媒を得た。得られた触媒を破砕することにより、粉末状とした。得られた触媒の比表面積は43m/gであった。X線回折法により測定された酸化銅の平均粒子径は21nm、酸化亜鉛の平均粒子径は21nm、ジルコニウムとイットリウムの複合酸化物の平均粒子径は7nmであった。
【0086】
水素の製造
上記した方法で得た触媒を固定床流通式反応装置の反応器に充填後、実施例1と同様の条件で、メタノール、水蒸気及びアルゴンからなる混合ガスを供給し、供給されたメタノールを、主として水素及び二酸化炭素に変換した。反応時間が1時間におけるメタノール転化率は15%、一酸化炭素選択率は6.3%であった。水素製造速度は15.9L/g・hであり、反応初期よりメタノール転化率が低いことが認められた。
【0087】
比較例7
高温水蒸気改質触媒の製造
硝酸銅、硝酸亜鉛、硝酸ジルコニル及び硝酸イットリウムを、モル比で1.0:0.78:0.22:0.24となるように蒸留水に溶解すること以外は、実施例1と同様に操作して、酸化銅が40重量%、酸化亜鉛が32重量%、ジルコニウムとイットリウムの複合酸化物(Zr0.480.521.74)が28重量%含まれる触媒を得た。得られた触媒を破砕することにより、粉末状とした。得られた触媒の比表面積は37m/gであった。X線回折法により測定された酸化銅の平均粒子径は17nm、酸化亜鉛の平均粒子径は12nm、ジルコニウムとイットリウムの複合酸化物の平均粒子径は4nmであった。
【0088】
水素の製造
上記した方法で得た触媒を固定床流通式反応装置の反応器に充填後、実施例1と同様の条件で、メタノール、水蒸気及びアルゴンからなる混合ガスを供給し、供給されたメタノールを、主として水素及び二酸化炭素に変換した。反応時間が1時間におけるメタノール転化率は87%、一酸化炭素選択率は3.8%であった。反応時間が7時間におけるメタノール転化率は75%、一酸化炭素選択率は3.2%であり、水素製造速度は80.1L/g・hであり、メタノール転化率の低下が認められた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化銅、酸化亜鉛、及びジルコニウムとイットリウムの複合酸化物を有効成分として含有し、下記(1)及び(2)の条件を満足することを特徴とする、メタノール及び/又はジメチルエーテルの水蒸気改質用触媒:
(1)酸化銅、酸化亜鉛、及びジルコニウムとイットリウムの複合酸化物の合計量を基準として、酸化銅の含有量が20〜40重量%であって、酸化亜鉛の含有量が酸化銅の含有量の0.6〜1.0倍である、
(2)酸化銅、酸化亜鉛、及びジルコニウムとイットリウムの複合酸化物の合計量を基準として、ジルコニウムとイットリウムの複合酸化物の含有量が35〜65重量%であって、Y/(Zr+Y)(モル分率)=0.1〜0.7ある。
【請求項2】
酸化銅、酸化亜鉛、及びジルコニウムとイットリウムの複合酸化物を有効成分として含有し、下記(1)及び(2)の条件を満足することを特徴とする、メタノール及び/又はジメチルエーテルの水蒸気改質用触媒:
(1)酸化銅、酸化亜鉛、及びジルコニウムとイットリウムの複合酸化物の合計量を基準として、酸化銅の含有量が30〜37重量%であって、酸化亜鉛の含有量が酸化銅の含有量の0.7〜0.9倍である、
(2)酸化銅、酸化亜鉛、及びジルコニウムとイットリウムの複合酸化物の合計量を基準として、ジルコニウムとイットリウムの複合酸化物の含有量が35〜50重量%であって、Y/(Zr+Y)(モル分率)=0.2〜0.6である。
【請求項3】
酸化銅の平均粒子径が25nm以下、酸化亜鉛の平均粒子径が25nm以下、ジルコニウムとイットリウムの複合酸化物の平均粒子径が5nm以下である請求項1又は2に記載の水蒸気改質用触媒。
【請求項4】
酸化銅、酸化亜鉛、及びジルコニウムとイットリウムの複合酸化物が無機繊維体に保持されてなる請求項1〜3のいずれかに記載の水蒸気改質用触媒。
【請求項5】
銅化合物、亜鉛化合物、ジルコニウム化合物およびイットリウム化合物を含む水溶液に、アルカリ沈殿剤を加えて混合水酸化物を沈殿させた後、形成された沈殿を乾燥し、焼成することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の水蒸気改質用触媒の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれかに記載の触媒の存在下に、メタノール及び/又はジメチルエーテルを水蒸気と反応させることを特徴とする、水素の製造方法。
【請求項7】
350〜500℃において反応を行う、請求項6に記載の水素の製造方法。

【公開番号】特開2008−302276(P2008−302276A)
【公開日】平成20年12月18日(2008.12.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−150299(P2007−150299)
【出願日】平成19年6月6日(2007.6.6)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【出願人】(000231556)日本精線株式会社 (47)
【Fターム(参考)】