説明

水蒸気発生器及び燃料電池システムの運転方法

【課題】起動時における燃料電池スタックの酸化劣化を防止するための水素を安全に燃料電池スタックに供給できると共に、システムの小型化に有効である水蒸気発生器を提供する。
【解決手段】改質器5に水蒸気を供給する水気化器7において、改質用水を蓄える筐体部15と、改質用水を加熱する配管17と、筐体部15内に設けられたカソード電極部21と、筐体部15内に設けられたアノード電極部23と、筐体部15内に設けられると共に、カソード電極部21とアノード電極部23との間に配置されて水素と酸素とを分離する隔膜19とを備える。この水気化器7によれば、SOFCスタック3のアノードの酸化劣化防止のための水素を生成する別装置などは不要であるため小型化に有効であり、さらに、改質用水の電気分解によって水素を生成できるので安全性も高い。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素含有の改質ガスを生成する改質器に供給するために、改質用水を気化して水蒸気を生成する水蒸気発生器及び改質ガスを用いて発電を行う燃料電池システムの運転方法に関する。
【背景技術】
【0002】
固体酸化物電解質形燃料電池(Solid Oxide FuelCell:SOFC)システムは、通常、灯油や都市ガスなどの燃料を改質して得られる水素含有ガス(改質ガス)を発生させるための改質器と、改質ガス及び空気を電気化学的に発電反応させるためのセルスタックと、を備えている。セルスタックは、固体電解質を挟んで配置されたアノード電極層とカソード電極層とを備える。アノード電極層に改質ガスを流通させ、カソード電極層に空気を流通させて、電気的な負荷をかけることで発電反応が起きる。
【0003】
この種のセルスタックを備えた燃料電池システムでは、運転を開始する際に、バーナなどからの熱によってセルスタックを常温から発電温度まで昇温する必要がある。この際、アノードが酸化劣化点以上に上昇し、アノードが例えば空気や水蒸気などの酸化性ガス雰囲気下にあった場合には、アノードが酸化劣化する場合がある。そこで、特許文献1に示された従来の燃料電池システムでは、システムの起動時に水蒸気改質や部分酸化改質によって酸化防止用の還元性の強い改質ガスを生成し、その改質ガスを酸化劣化防止のためにアノード電極層に供給していた。
【特許文献1】特開2005−293951号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の燃料電池システムでは、運転開始時に合わせてセルスタックに改質ガスを供給するために、本来の改質器とは別に酸化防止用の改質ガスを生成する改質器が必要であり、小型のシステムには不向きであった。また、小型化を図るために、改質器を設けることなく水素の貯蔵、および供給設備を設けることは、安全上の問題から実用的ではなかった。
【0005】
本発明は、以上の課題を解決することを目的としており、起動時における燃料電池スタックの酸化劣化を防止するための水素を安全に燃料電池スタックに供給できると共に、燃料電池スタックを備えたシステムの小型化に有効である水蒸気発生器及び燃料電池スタックの運転方法を提供することを目的とする。
【0006】
本発明は、燃料電池スタックでの発電に用いられる改質ガスを生成する改質器に、改質用水を気化した水蒸気を供給する水蒸気発生器において、改質用水を蓄える貯留部と、改質用水を加熱する伝熱部と、貯留部内に設けられたカソード電極部と、貯留部内に設けられたアノード電極部と、貯留部内に設けられると共に、カソード電極部とアノード電極部との間に配置されて水素と酸素とを分離する分離部と、を備えることを特徴とする。
【0007】
この水蒸気発生器では、改質器に供給するための水蒸気の生成に加えて、電気分解によって水素と酸素を生成でき、水素は分離部によって酸素とは分離される。そのため、燃料電池スタックでの酸化防止用の改質ガスを生成するための別の装置や水素を貯蔵するためのタンクなどを設けることなく、水素を燃料電池スタックに供給でき、システムの小型化に有効である。さらに、酸化防止用の水素は、貯留部内に設けられたアノード電極部とカソード電極部との通電による改質用水の電気分解によって生成されるため、水素を貯蔵しておく場合に比べて安全性も高い。
【0008】
さらに、貯留部内に導電性の電極粒子群を備えると好適である。導電性の電極粒子群により、電極と改質用水との接触面積が増大し、電気分解反応の過電圧を低減でき、水素や酸素の生成効率を高めることができる。さらに、電極粒子群を有することで、突沸の発生箇所は分散し、複数の突沸が同時に発生する確率も低減して突沸による蒸発振動の振幅を大幅に小さくできる。その結果、水蒸気を安定して生成できる。以上のように、上記構成によれば、電極反応面積が増大するため、水蒸気発生器を小型化することができ、システムの小型化に有効である。また、電気分解による水素や酸素の生成効率を高めることができ、さらに、水蒸気を安定して供給することができる。
【0009】
さらに、分離部は、多孔性セラミック部材からなると好適である。多孔性セラミック部材は、固体電解質に比べて強度も強く、設置が容易である。
【0010】
さらに、改質器では、自己熱改質反応によって改質ガスが生成され、貯留部と改質器とを連絡すると共に、カソード電極部とアノード電極部との通電によりアノード電極部で発生する酸素を改質器に導入する酸素導入ラインを備えると好適である。
【0011】
自己熱改質反応は、発熱反応である部分酸化改質と吸熱反応である水蒸気改質を同時に進行させる反応である。自己熱改質反応はオーバーオールで発熱反応とする(部分酸化改質反応による発熱が、水蒸気改質反応の吸熱を上回るようにする)ことで、水素を発生させながら改質器を昇温させることができ、SOFCシステムの起動時間の短縮に有効である。自己熱改質反応における部分酸化改質反応には、改質原料として酸素が必要であるが、従来のシステムでは、酸素源として入手の容易性から空気を使用していた。しかしながら、改質器に空気を供給した場合には、窒素を含む分だけ酸素濃度は薄く、純酸素を供給する場合に比べて酸化性ガスの供給量が増えてしまい、その増加分だけオーバーオールで発熱反応とするための昇温に必要な熱エネルギーが増加する。一方で、上記構成によれば、水蒸気発生器での電気分解で生じた純酸素を改質器に供給できるため、昇温に必要な熱エネルギーは少なく、空気を供給する場合に比べて水蒸気改質に適した温度に到達するまでの時間を短縮できる。また、改質器をより高温にできるため、改質器を小型化することができる。
【0012】
また、本発明は、燃料電池スタックと、燃料電池スタックに供給する改質ガスを生成する改質器と、改質器に供給するために、改質用水を気化して水蒸気を生成する水蒸気発生器と、を備える燃料電池システムの運転方法において、燃料電池システムを起動するときには、水蒸気発生器において改質用水を電気分解して水素を生成し、水素を燃料電池スタックに供給することを特徴とする。
【0013】
この運転方法によれば、燃料電池システムを起動するときには、水蒸気発生器で生成した水素を燃料電池スタックに供給できる。したがって、酸化防止用の改質ガスを生成するための別の装置や水素を貯蔵するためのタンクなどが不要であり、燃料電池システムの小型化に有効である。さらに、酸化防止用の水素は、水蒸気発生器での改質用水の電気分解によって生成されるため、水素を貯蔵しておく場合に比べて安全性も高い。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、起動時における燃料電池スタックの酸化劣化を防止するための水素を安全に燃料電池スタックに供給できると共に、燃料電池スタックを備えたシステムの小型化に有効である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明に係る燃料電池システムの好適な実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0016】
図1は、本発明の第1実施形態に係る燃料電池システムを示す図である。図1に示されるように、燃料電池システム1Aは、改質ガスと空気とを用いて発電を行う平板型の固体酸化物形燃料電池(SOFC)スタック3と、SOFCスタック3に供給するために、原燃料と改質用水の水蒸気とから水蒸気改質反応によって水素リッチな改質ガスを生成する改質器5と、改質器5に供給するために、改質用水を気化して水蒸気を生成する水気化器(水蒸気発生器)7と、水気化器7への改質用水の供給量や改質器5への原燃料の供給量の制御、改質器5やSOFCスタック3の温度管理などを行うコントロールユニット9と、が設けられている。
【0017】
SOFCスタック3は、複数の単セルスタックが積層され、単セルスタックの積層体が1対のエンドプレートによって挟みつけられて固定されている。単セルスタックは、アノード(燃料極)と、カソード(空気極)と、アノードとカソードとの間に配置されたイットリア安定化ジルコニアなどからななる固体電解質と、アノード及びカソードの外側にそれぞれ配置されたセパレータとを有している。アノードには、改質器5からの改質ガスが導入され、カソードには、空気が導入される。これにより、各単セルスタックにおいて電気化学的な発電反応が行われることになる。SOFCスタック3の作動温度は、550°C〜1000°Cである。
【0018】
改質器5は、気化した灯油や都市ガスなどの原燃料ガスと水気化器7から供給された水蒸気とを改質触媒で水蒸気改質反応させて、水素及び一酸化炭素を含有する改質ガスを生成する。水蒸気改質反応は非常に大きな吸熱反応であり、反応温度が550〜750℃程度と比較的高いので、高温の熱源が必要となる。このため、改質器5には、バーナなどが設けられている。改質器5には、SOFCスタック3に接続された改質ガス供給ライン11が接続されている。改質器5及びSOFCスタック3は、モジュール容器13に収容されている。モジュール容器13は、ステンレス鋼(SUS)等の金属からなり、例えば周囲に断熱材が配置されている。
【0019】
図2に示されるように、水気化器7は、改質用水を貯留する円筒状の筐体部(貯留部)15を備える。筐体部15は、ステンレス鋼(SUS)等の金属からなり、内部は電気的な絶縁材からなる被膜で覆われている。筐体部15の周囲には、燃料電池スタック3や改質器5の加熱によって生じたモジュール排ガスGが流れる配管17が設けられている。配管17は、筐体部15に接しており、配管17を流れるモジュール排ガスGから筐体部15内の改質用水に伝熱され、改質用水が沸点に達して水蒸気になる。配管17は、伝熱部に相当する。なお、モジュール排ガスGが流れる配管17の代わりにバーナなどの熱源を設けるようにしてもよい。
【0020】
筐体部15内は、多孔性セラミック部材からなる隔膜(分離部)19によって第1領域R1と第2領域R2とに区画されている。第1領域R1内には、ロッド状のカソード電極部21が差し込まれており、第2領域R2には、ロッド状のアノード電極部23が差し込まれている。カソード電極部21は、電源33の負極に接続され、アノード電極部23は、電源33の正極に接続されている。
【0021】
第1領域R1内には、導電性の金属粒子25が充填されている。金属粒子25は、カソード電極部21の先端に固定されたカソード側集電板27によって支持されており、筐体部15内に固定されたカソード側電極粒子群29を形成する。同様に、第2領域R2内には、導電性の金属粒子25が充填され、金属粒子25は、アノード電極部23の先端に固定されたアノード側集電板30によって支持されており、筐体部15内に固定されたアノード側電極粒子群31を形成する。金属粒子25には、球、円柱、楔、直方体など、適宜の形状を採用することができる。
【0022】
カソード電極部21、アノード電極部23、カソード側金属粒子群27及びアノード側電極粒子群31の材料としては、温度及び雰囲気に耐える材料から適宜選ぶことができ、例えば、カーボン、白金やニッケルなどの金属、ランタン・ストロンチウム・マンガン系複合酸化物やランタン・ストロンチウム・コバルト系複合酸化物などのセラミックスを用いることができる。特に、高温になる部分の電極材料としては、耐熱性、活性及び導電性の観点から、カソード電極部21やカソード側金属粒子群27にはニッケルが有効であり、アノード電極部23やアノード側電極粒子群31には、ランタン・ストロンチウム・マンガン系複合酸化物やランタン・ストロンチウム・コバルト系複合酸化物が有効である。
【0023】
電源33によってカソード電極部21及びアノード電極部23に所定の電圧を印加することで改質用水は電気分解される。すると、カソード電極部21の近傍では水素が発生し、アノード電極部23の近傍では酸素が発生する。カソード電極部21とアノード電極部23とは、隔膜19によって区画されており、水素はカソード電極部21側の第1領域R1に貯まり、酸素はアノード電極部23側の第2領域R2に貯まる。この電気分解によって熱も発生するため、この熱を改質用水の気化に利用できる。なお、カソード電極部21及びアノード電極部23の構造については、水気化器7のサイズ、SOFCスタック3のアノードの酸化劣化防止に必要とされる水素量、熱などに応じて適宜設計することができる。例えば、電気分解によって発生させる熱よりも水素を多く取り出したい場合には、カソード電極部21及びアノード電極部23の反応面積を大きくするのが望ましく、多孔体としてもよい。
【0024】
特に、本実施形態では、カソード側電極粒子群29及びアノード側電極粒子群31が設けられているので、電気分解のための反応面積、すなわち改質用水との接触面積が大きくなり、電気分解反応の過電圧を低減でき、水素や酸素の生成効率を高めることができる。さらに、カソード側電極粒子群29及びアノード側電極粒子群31は多数の金属粒子25の充填によって形成されているので、改質用水が気化する際に生じ易い突沸の発生箇所は分散し、複数の突沸が同時に発生する確率も低減して突沸による蒸発振動の振幅を大幅に小さくできる。突沸が低減すると、水気化器7で水蒸気を安定して生成でき、改質器5に供給される水蒸気の流量変動及び改質器5で生成される改質ガスの流量変動は低減してSOFCスタック3での電圧変動は小さくなり、大電流を取り出し易くなって出力密度の低下あるいは発電効率の低下が防止される。さらに、電圧変動を小さくすることで、SOFCスタック3の劣化を低減し、長寿命化させることができる可能性がある。
【0025】
筐体部15は、アノード電極部23、カソード電極部21、カソード側電極粒子群29及びアノード側電極粒子群31から絶縁されている。筐体部15の下部には、改質用水が流入する流入部15aが設けられている。筐体部15のアノード電極部23側(第1領域R1)の上部には、第1気体流出部15bが設けられており、カソード電極部21側(第2領域R2)の上部には、第2気体流出部15cが設けられている。第1気体流出部15bは、改質器5に連絡する水蒸気供給ライン35に接続されている。また、第2気体流出部15cは、大気に開放されたベントに連絡する酸素排出ライン37に接続されている。酸素排出ライン37上には、三方制御弁からなるOバルブ39が設けられており、Oバルブ39には、水蒸気供給ライン35に接続された水蒸気補填ライン41が接続されている。
【0026】
コントロールユニット9は、具体的にはPLC(Programmable LogicController)等が相当し、CPU(Central Processing Unit)やメモリ等のハードウェアによって構成される。コントロールユニット9は、水気化器7に改質用水を移送するポンプ、電源33、改質器5のバーナ、改質器5への原燃料の供給装置、SOFCスタック3などに接続されており、改質用水や原燃料の供給量制御や、改質器5やSOFCスタック3の温度管理などを行う。
【0027】
次に、燃料電池システム1Aの運転方法における起動開始工程について説明する。図3は、燃料電池システム1Aの起動開始工程を示すフローチャートである。SOFCスタック3で発電させるためには、SOFCスタック3を熱源によって常温から発電温度まで加熱する必要がある。この際、アノードが酸化劣化点以上に上昇し、アノードが例えば空気や水蒸気などの酸化性ガス雰囲気下にあった場合には、アノードが酸化劣化する場合がある。そこで、本実施形態に係る運転方法では、燃料電池システム1Aを起動するときに、水気化器7で改質用水を電気分解して水素を生成し、その水素を、改質器5を介してSOFCスタック3に供給することで、SOFCスタック3のアノードの酸化劣化を防止する。以下、図3を参照して、詳しく説明する。
【0028】
燃料電池システム1Aはコントロールユニット9を備え、コントロールユニット9は、運転を開始すると、Oバルブ39を大気開放されたベント側に切り替え(ステップS1)、その後、水気化器7への改質用水の供給を開始する(ステップS2)。
【0029】
カソード電極部21とアノード電極部23には、微弱な電圧が印加されている。コントロールユニット9は、カソード電極部21及びアノード電極部23間の抵抗値を検出することで、水気化器7内の改質用水の液面を検出する(ステップS3)。改質用水が、所定の液面まで達すると、コントロールユニット9は、電気分解のための電圧をカソード電極部21とアノード電極部23とに印加し、カソード電極部21とアノード電極部23との間で通電させるための電流制御を開始する(ステップS4)。
【0030】
電流制御によってカソード電極部21では水素が発生し、アノード電極部23のでは酸素が発生する。ここで、隔膜19によって水素と酸素とは分離され、水素は第1気体流出部15bから水蒸気供給ライン35を通り、改質器5及び改質ガス供給ライン11を経由してSOFCスタック3のアノード側に供給される。水素の還元作用によってSOFCスタック3のアノードの酸化劣化は防止される。また、アノード電極部23で発生した酸素は第2気体流出部15cから酸素排出ライン37を通り、ベントから大気に排出される。また、改質用水の電気分解によって熱が発生するため、この熱を、改質用水の気化に利用できる。
【0031】
改質用水の電気分解によって発生する水素と酸素とは筐体部15から流出し、筐体部15に貯留されている改質用水は減少する。コントロールユニット9は、貯留されている改質用水の減少分に応じて、改質用水の液面を一定高さに維持するために、水流量制御を行う(ステップS5)。
【0032】
その後、コントロールユニット9は、バーナからの熱によってSOFCスタック3および改質器5を加熱してモジュール昇温を開始する(ステップS6)。改質器5を収容するモジュール容器13内の熱エネルギーは、モジュール排ガスGの対流によって水気化器7まで伝熱され、水気化器7内の改質用水を加熱する。
【0033】
その後、コントロールユニット9は、改質器5の温度が水蒸気改質に適する温度になるまで待機(ステップS7)し、また、カソード電極部21側の第1気体流出部15bから流出する水蒸気の流量が最初の改質に必要な流量になるまで待機(ステップS8)する。コントロールユニット9は、カソード電極部21側(第1領域R1)から流出する水蒸気流量を求めるために、まず、カソード電極部21とアノード電極部23間を流れる電流値から電解水量を求め、液面高さを維持するための改質用水の供給量から電解水量を差し引くことで全体水蒸気量を求める。さらに、第1領域R1から流出される水蒸気流量と第2領域R2から流出される水蒸気流量との比率を予め知っておき、上述の全体水蒸気量と比率からカソード電極部21側(第1領域R1)から流出する水蒸気流量を算出する。
【0034】
その後、コントロールユニット9は、改質器5への原燃料の供給を開始する(ステップS9)。改質器5では、水気化器7からの水蒸気と原燃料とから水蒸気反応によって水素リッチな改質ガスを生成し、改質ガス供給ライン11を介してSOFCスタック3のアノード側に改質ガスを供給する。その後、コントロールユニット9は、カソード電極部21とアノード電極部23との間に改質用水の液面検出に必要となる程度の微弱な電圧の印加に切り替え、電流制御を終了する(ステップS10)。
【0035】
その後、コントロールユニット9は、酸素排出ライン37中の酸素濃度を検出してアノード電極部23側からの水蒸気によって酸素がパージされたか否かを判断し(ステップS11)、パージされていると判断する場合には、Oバルブ39を改質器5側に切り替え(ステップS12)。その結果として、アノード電極部23側(第2領域R2)からも水蒸気が水蒸気補填ライン41を介して改質器5内に供給される。コントロールユニット9は、水蒸気の増量分だけ改質用水の供給量を減らす。この際、ステップS12前後で改質器5に供給される水蒸気流量は変化しない。その後、改質用水の液面を一定高さに保つための水流量制御を終了(ステップS13)する。以上により、燃料電池システム1Aの起動開始工程は終了し、起動工程(図示せず)を開始する。
【0036】
起動工程では、コントロールユニット9は、起動完了時の流量になるまで、予め定めた工程に基づき、原燃料および改質用水の流量を増加させる。起動工程の終了後、燃料電池システム1Aの通常運転が開始される。
【0037】
以上の水気化器7では、改質器5に供給するための水蒸気の生成に加えて、電気分解によって水素と酸素を生成でき、水素は隔膜19によって酸素とは分離される。そのため、SOFCスタック3での酸化防止用の改質ガスを生成するための別の装置や水素を貯蔵するためのタンクなどを設けることなく、水素をSOFCスタック3に供給でき、システムの小型化に有効である。さらに、酸化防止用の水素は、筐体部15内に設けられたアノード電極部23とカソード電極部21への通電による改質用水の電気分解によって生成されるため、水素を貯蔵しておく場合に比べて安全性も高い。
【0038】
さらに、隔膜19は、多孔性セラミック部材からなるため、固体電解質に比べて強度も強く、設置が容易である。
【0039】
また、本実施形態に係る運転方法では、燃料電池システム1Aを起動するときには、水気化器7で生成した水素をSOFCスタック3に供給する。したがって、酸化防止用の改質ガスを生成するための別の装置や水素を貯蔵するためのタンクなどが不要であり、燃料電池システムの小型化に有効である。さらに、酸化防止用の水素は、水気化器7での改質用水の電気分解によって生成されるため、水素を貯蔵しておく場合に比べて安全性も高い。
【0040】
(第2実施形態)
図4を参照して第2実施形態に係る燃料電池システム1Bについて説明する。図4は、第2実施形態に係る燃料電池システムを示す図である。燃料電池システム1Bは、第1実施形態に係る燃料電池システム1Aとの相違点を中心に説明し、同一または同等の要素や部材については図面中で燃料電池システム1Aと同一の符号を記して説明を省略する。
【0041】
図4に示されるように、燃料電池システム1Aは、SOFCスタック3と、SOFCスタック3に供給するために、自己熱改質反応[ATR(Auto Thermal Reforming)ともいう]によって水素リッチな改質ガスを生成する改質器51と、改質器51に供給するために、改質用水を気化して水蒸気を生成する水気化器7と、コントロールユニット9とを備えている。SOFCスタック3と改質器51とはモジュール容器13内に収容されている。
【0042】
改質器51には、自己熱改質反応によって水素含有の改質ガスの生成を促進する自己熱改質触媒が収容されている。自己熱改質反応は、発熱反応である部分酸化改質と吸熱反応である水蒸気改質を同時に進行させる反応である。自己熱改質反応はオーバーオールで発熱反応とする(部分酸化改質反応による発熱が、水蒸気改質反応の吸熱を上回るようにする)ことで、水素を発生させながら改質器51を昇温させることができ、SOFCシステムの起動時間の短縮に有効である。
【0043】
自己熱改質触媒としては、ニッケル、白金、ロジウム及びルテニウムなどの貴金属等が知られており、触媒形状としては、ペレット状、ハニカム状、その他の公知の形状を適宜採用することができる。
【0044】
自己熱改質反応には、改質原料として酸素が必要である。改質器51には、原燃料及び空気を導入するための原燃料導入ライン53と、水蒸気を導入するための水蒸気供給ライン35とが接続されている。
【0045】
水蒸気供給ライン35は、水気化器7の第1気体流出部15bに接続されている。水気化器7の第2気体流出部15cには、酸素排出ライン37が接続されている。酸素排出ライン37上には、三方制御弁からなる流量制御バルブ55が設けられており、流量制御バルブ55には、水蒸気供給ライン35に接続された一部酸素供給ライン57が接続されている。酸素排出ライン37、流量制御バルブ55及び一部酸素供給ライン57によって酸素導入ライン59が構成される。酸素排出ライン37を流下する酸素の全量ではなく、流量制御バルブ55を介して一部の酸素を改質器51に供給することにより、改質器51において水素と反応し、電気分解で生成した水素の全量が消費され、SOFCスタック3のアノードに水素が供給されないことを抑止できる。
【0046】
燃料電池システム1Bの運転方法における起動開始工程について、図5を参照し、第1実施形態に係る燃料電池システム1Aの起動開始工程との相違点を中心にして説明する。図5は、燃料電池システム1Bの起動開始工程を示すフローチャートである。燃料電池システム1Bを起動するときには、コントロールユニット9は、流量制御バルブ55を大気開放されたベント側に切り替え(S21)、水気化器7への改質用水の供給を開始すると共に、水気化器7内の改質用水の液面を検出する(S22,S23)。
【0047】
改質用水が所定の液面まで達すると、コントロールユニット9は、電気分解のためにカソード電極部21とアノード電極部23とに電圧を印加する電流制御を行う(S24)。この電流制御によって改質用水は電気分解され、カソード電極部21では水素が発生し、アノード電極部23では酸素が発生する。電気分解によって発生する水素は、第1実施形態に係る燃料電池システム1Aと同様にSOFCスタック3に供給され、アノードの酸化劣化を防止する。その後、コントロールユニット9は、改質用水の液面を一定に保つための水流量制御を開始すると共に、モジュール昇温を開始する(S25,S26)
【0048】
コントロールユニット9は、改質器51の温度が自己熱改質反応に適した温度になると第1回目の改質器暖気完了と判断し(S27)、さらに、カソード電極部21側の第1気体流出部15bから流出する水蒸気の流量が最初の自己熱改質反応に必要な流量になったら(S28)、流量制御バルブ55によって最初の自己熱改質反応に必要な流量の酸素を改質器51に供給する(S29)。その後、原燃料を改質器51に供給し、オーバーオールで発熱反応となるよう自己熱改質反応を生じさせて改質ガスを生成させる。
【0049】
その後、コントロールユニット9は、改質器51の温度が上昇して水蒸気改質反応に適した温度になると第2回目の改質器暖気完了と判断し(S31)、電気分解を終了させる(S32)、水蒸気を主体的に改質器51に供給させるようにする。その後、コントロールユニット9は、アノード電極部23側からの水蒸気によって、一部酸素供給ライン57中の酸素がパージされたか否かを判断する(ステップS33)。この判断は、例えば、アノード電極部23から改質器51までの流路容積、すなわち酸素排出ライン37の上流側一部と一部酸素供給ライン57とを合わせた流路容積と流量とから求めた酸素の滞留時間で判断したり、予備実験でパージに必要な時間を知っておき、経過時間によって判断したりすることができる。
【0050】
コントロールユニット9は、一部酸素供給ライン57中の酸素がパージされたと判断する場合には、酸素排出ライン37を流れる水蒸気の全量が改質器51に供給されるように、流量制御バルブ55を改質器5側に切り替え(ステップS34)、電気分解に伴う減少分の水量を補うための水流量制御を終了する(ステップS35)。以上により、燃料電池システム1Bの起動開始工程は終了する。
【0051】
燃料電池システム1Bのように、電気分解によって発生する酸素を改質器51に供給することで、窒素を含む空気を供給する場合に比べて、高濃度の酸素を供給できる。その結果、昇温に必要な熱エネルギーは少なく、空気を供給する場合に比べて水蒸気改質反応に適した温度に到達するまでの時間を短縮でき、さらに、改質器を小型化することができる。
【0052】
以上、第1または第2実施形態に係る燃料電池システム1A,1Bを説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。例えば、上記の実施形態では、SOFCスタック3を例に説明したが、例えば、溶融炭酸塩形(MCFC)スタックなどであってもよい。また、上記実施形態では、SOFCスタック3を平板型構造としたが、円筒型のSOFCバンドル(スタック)を備えた燃料電池システムにも適用可能である。
【0053】
また、水蒸気発生器の伝熱部としては、スタックオフガス燃焼ガスなどの高温ガスや、スタック輻射熱などの適宜の熱源を利用することができる。また、水蒸気発生器は、燃料電池スタックや改質器を収容するモジュール容器の内外いずれに設置してもよい。
【0054】
また、水蒸気発生器の構造は、多管型、螺旋管型、多螺旋管型などの適宜の構造を適用できる。また、水素と酸素を分離する分離部は、多孔性セラミック部材に限定されず、適宜の固体電解質を適用してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明の第1実施形態に係る燃料電池システムを示す図である。
【図2】水気化器の断面図である。
【図3】第1実施形態に係る燃料電池システムの運転方法における起動開始工程の動作手順を示すフローチャートである。
【図4】本発明の第2実施形態に係る燃料電池システムを示す図である。
【図5】第2実施形態に係る燃料電池システムの運転方法における起動開始工程の動作手順を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0056】
1A,1B…燃料電池システム、3…SOFCスタック(燃料電池スタック)、5,51…改質器、7…水気化器(水蒸気発生器)、15…筐体部(貯留部)、19…隔膜(分離部)、21…カソード電極部、23…アノード電極部、29…カソード側電極粒子群、31…アノード側電極粒子群、59…酸素導入ライン。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料電池スタックでの発電に用いられる改質ガスを生成する改質器に、改質用水を気化した水蒸気を供給する水蒸気発生器において、
前記改質用水を蓄える貯留部と、
前記改質用水を加熱する伝熱部と、
前記貯留部内に設けられたカソード電極部と、
前記貯留部内に設けられたアノード電極部と、
前記貯留部内に設けられると共に、前記カソード電極部と前記アノード電極部との間に配置されて水素と酸素とを分離する分離部と、
を備えることを特徴とする水蒸気発生器。
【請求項2】
前記貯留部内に設けられた導電性の電極粒子群、を更に備えることを特徴とする請求項1記載の水蒸気発生器。
【請求項3】
前記分離部は、多孔性セラミック部材からなることを特徴とする請求項1または2記載の水蒸気発生器。
【請求項4】
前記改質器では、自己熱改質反応によって前記改質ガスが生成され、
前記貯留部と前記改質器とを連絡すると共に、前記カソード電極部と前記アノード電極部との通電により前記アノード電極部で発生する酸素を前記改質器に導入する酸素導入ラインを更に備えることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項記載の水蒸気発生器。
【請求項5】
燃料電池スタックと、前記燃料電池スタックに供給する改質ガスを生成する改質器と、前記改質器に供給するために、改質用水を気化して水蒸気を生成する水蒸気発生器と、を備える燃料電池システムの運転方法において、
前記燃料電池システムを起動するときには、前記水蒸気発生器において前記改質用水を電気分解して水素を生成し、前記水素を前記燃料電池スタックに供給することを特徴とする燃料電池システムの運転方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−70585(P2009−70585A)
【公開日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−234607(P2007−234607)
【出願日】平成19年9月10日(2007.9.10)
【出願人】(000004444)新日本石油株式会社 (1,898)
【Fターム(参考)】