説明

水辺保護構造、およびその施工方法

【課題】水辺を保護する水辺保護構造が洪水や大波に晒された場合でも、水辺保護構造を構成する壁材や杭の水による流動が抑制されるようにして、その後の水辺保護構造の復旧がより容易に、かつ、短時間でできるようにする。
【解決手段】水辺保護構造5が、水辺1の地盤6上に沿って屈曲しながら延びる長尺で可撓性の複数壁材7〜14と、各壁材7〜14の各部分を貫通し地盤6に打ち込まれて地盤6上に壁材7〜14を固定する杭16とを備える。平面視で、各壁材7〜14により多数の空間域17を区画形成し、各空間域17にそれぞれ石群18を充填可能にする。各壁材7〜14のそれぞれ長手方向の各一端部21を地盤6の標高がより高い位置に杭16により固定し、各壁材7〜14のそれぞれ他端部側を地盤6の標高の低い側に向けて屈曲させながら延ばして他の杭16により固定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、河川など水辺での水の力による侵食を抑制するためや、水辺での自然環境の保護、育生のための水辺保護構造、およびその施工方法に関するものであり、具体的には、長尺で可撓性の壁材を用いて平面視で多数の空間域を水辺の地盤上に区画形成し、これら各空間域にそれぞれ栗石などの石群を充填可能にした水辺保護構造、およびその施工方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
上記水辺保護構造には、従来、下記特許文献1に示されるものがある。この公報のものによれば、水辺保護構造は、水辺の地盤上に沿って屈曲しながら延びる長尺で可撓性の複数壁材と、上記各壁材の各部分を貫通し地盤に打ち込まれてこの地盤上に上記壁材を固定する杭とを備えている。そして、水辺の平面視で、上記各壁材により多数の空間域が区画形成され、これら各空間域にそれぞれ石群が充填可能とされている。
【0003】
そして、上記水辺保護構造によれば、流水や波打ちなどの水の力により水辺が侵食されることが抑制されて、この水辺が保護される。また、この水辺の侵食抑制により、この水辺での植物の成長が維持され、また、この植物の下における小動物の生息も促進されて、水辺における自然環境の保護、育生が期待される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−100849号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、天候が大雨や強風の際には、これにより生じる洪水や大波における水の力の侵食作用によって、上記水辺保護構造を構成する壁材や杭が水と共に流動することが考えられる。この場合、例えば、ある壁材の屈曲により地盤の標高が低い側に向かって凹む凹状部が形成されているとすると、この凹状部内に勢いよく流入する多量の水により、上記壁材に大きな外力が与えられ、この壁材は、この壁材に結合されている他の壁材を引きつれながら、全体的に流動するおそれを生じる。そして、このような水辺保護構造の全体的な流動が生じた場合には、この水辺保護構造の復旧に、多くの労力と時間とが要求される結果となる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記のような事情に注目してなされたもので、本発明の目的は、水辺を保護する水辺保護構造が洪水や大波に晒された場合でも、この水辺保護構造を構成する壁材や杭の水による流動が抑制されるようにして、その後の水辺保護構造の復旧がより容易に、かつ、短時間でできるようにすることである。
【0007】
請求項1の発明は、水辺1の地盤6上に沿って屈曲しながら延びる長尺で可撓性の複数壁材7〜14と、上記各壁材7〜14の各部分を貫通し地盤6に打ち込まれてこの地盤6上に上記壁材7〜14を固定する杭16とを備え、平面視で、上記各壁材7〜14により多数の空間域17を区画形成し、これら各空間域17にそれぞれ石群18を充填可能にした水辺保護構造において、
上記各壁材7〜14のそれぞれ長手方向の各一端部21を上記地盤6の標高がより高い位置に上記杭16により固定し、上記各壁材7〜14のそれぞれ他端部側を上記地盤6の標高の低い側に向けて屈曲させながら延ばして他の杭16により固定したことを特徴とする水辺保護構造である。
【0008】
請求項2の発明は、上記各壁材7〜14を、それぞれ平行に延びる複数の横向き帯板材24と縦向き帯板材25とが互いに交差する格子構造とし、水平方向で互いに近接して対向する両壁材9,10の各部分におけるそれぞれ横向き帯板材24,24を互いに重ね合わせて上下で複数の重ね合わせ部27,27を形成し、平面視で、これら重ね合わせ部27,27同士が互いに離反するよう重ね合わせ部27,27を屈曲させ、互いに離反したこれら重ね合わせ部27,27の間に挿入した杭16により、上記各壁材9,10の上記各部分を地盤6上に固定するようにしたことを特徴とする請求項1に記載の水辺保護構造である。
【0009】
請求項3の発明は、上記地盤6上に沿って標高の高い側から低い側に延びてきた上記壁材10における低位置部分10aと、この壁材10における低位置部分10aの存在位置における地盤6上から更に標高の低い側に延びる他の壁材9における高位置部分9aとを互いに重ね合わせて結合具30により結合したことを特徴とする請求項1に記載の水辺保護構造である。
【0010】
請求項4の発明は、請求項2についての水辺保護構造の施工方法であって、
まず、互いに離反した両重ね合わせ部27,27の間にパイプ材33を挿入して、上記各壁材7〜14とパイプ材33とによる組立体7〜14,33を形成し、
次に、上記組立体7〜14,33を地盤6上の所望位置に搬送して設置し、次に、上記各パイプ材33の内孔を通して上記杭16を地盤6に打ち込み、次に、上記各パイプ材33を上記両重ね合わせ部27,27の間から抜き取るようにしたことを特徴とする水辺保護構造の施工方法である。
【0011】
なお、この項において、上記各用語に付記した符号や図面番号は、本発明の技術的範囲を後述の「実施例」の項や図面の内容に限定解釈するものではない。
【発明の効果】
【0012】
本発明による効果は、次の如くである。
【0013】
請求項1の発明は、水辺の地盤上に沿って屈曲しながら延びる長尺で可撓性の複数壁材と、上記各壁材の各部分を貫通し地盤に打ち込まれてこの地盤上に上記壁材を固定する杭とを備え、平面視で、上記各壁材により多数の空間域を区画形成し、これら各空間域にそれぞれ石群を充填可能にした水辺保護構造において、
上記各壁材のそれぞれ長手方向の各一端部を上記地盤の標高がより高い位置に上記杭により固定し、上記各壁材のそれぞれ他端部側を上記地盤の標高の低い側に向けて屈曲させながら延ばして他の杭により固定している。
【0014】
ここで、水辺を保護する水辺保護構造が洪水や大波に晒された場合、その水の力の侵食作用により、水辺保護構造を構成する壁材や杭が水と共に流動するおそれが生じる。そして、このような流動は、通常、標高の低い側の壁材や杭から始まるものである。
【0015】
このため、上記発明によれば、各壁材の他端部側と、この他端部側を地盤の標高の低い側に固定している他の杭から上記流動が始まる傾向となるが、その一方、上記各壁材の各一端部と、これら各一端部を地盤の標高がより高い位置に固定している杭とは流動が抑制されることから、上記各壁材の他端部側は水に流される吹き流し状態とされたままに維持され、つまり、上記各壁材を含む水辺保護構造が全体的に流動することはより確実に抑制される。
【0016】
よって、その後の水辺保護構造の復旧は、上記のように流動が抑制された各壁材の一端部側を基点とし、これら各壁材の他端部を地盤の標高の低い側に向けて順次屈曲させながら延ばして他の杭により地盤上に固定すればよく、つまり、水辺保護構造の復旧はより容易に、かつ、短時間ですることができる。
【0017】
請求項2の発明は、上記各壁材を、それぞれ平行に延びる複数の横向き帯板材と縦向き帯板材とが互いに交差する格子構造とし、水平方向で互いに近接して対向する両壁材の各部分におけるそれぞれ横向き帯板材を互いに重ね合わせて上下で複数の重ね合わせ部を形成し、平面視で、これら重ね合わせ部同士が互いに離反するよう重ね合わせ部を屈曲させ、互いに離反したこれら重ね合わせ部の間に挿入した杭により、上記各壁材の上記各部分を地盤上に固定するようにしている。
【0018】
ここで、上記各壁材が洪水等の水から外力を受けるときには、上記各杭が貫通している上記各壁材の各部分が上記各杭に圧接して上記外力に対抗し、これにより、上記各壁材が上記杭を介し地盤に支持される。
【0019】
この場合、上記発明によれば、上記各杭が貫通している各壁材の各部分は複数の横向き帯板材を重ね合わせた重ね合わせ部であるため、上記外力に基づきこの重ね合わせ部に生じる応力は小さく抑制される。よって、地盤上への各壁材の固定強度が向上することから、前記洪水等による水辺保護構造の流動は、より確実に抑制される。
【0020】
請求項3の発明は、上記地盤上に沿って標高の高い側から低い側に延びてきた上記壁材における低位置部分と、この壁材における低位置部分の存在位置における地盤上から更に標高の低い側に延びる他の壁材における高位置部分とを互いに重ね合わせて結合具により結合している。
【0021】
ここで、地盤上を標高の高い側から低い側に順次延びるよう配置される各壁材は、その側面視での傾斜角が不一致になりがちである。このため、この側面視で互いに隣り合う標高の高い側の壁材の低位置部分と標高の低い側の壁材の高位置部分とを全体的に重ね合わせることは容易でない。
【0022】
しかし、上記発明によれば、上記した傾斜角の不一致により上記低位置部分と高位置部分とを部分的にしか重ね合わせることができないとしても、これら各部分は上記結合具によって強固に結合させることができる。よって、上記各壁材同士の結合強度が向上することから、前記洪水等による水辺保護構造の流動は、更に確実に抑制される。
【0023】
請求項4の発明は、請求項2についての水辺保護構造の施工方法であって、
まず、互いに離反した両重ね合わせ部の間にパイプ材を挿入して、上記各壁材とパイプ材とによる組立体を形成し、
次に、上記組立体を地盤上の所望位置に搬送して設置し、次に、上記各パイプ材の内孔を通して上記杭を地盤に打ち込み、次に、上記各パイプ材を上記両重ね合わせ部の間から抜き取るようにしている。
【0024】
このため、上記組立体は、上記各パイプ材を中心として上記各壁材を互いに接近させるよう回動させることにより全体的に平坦形状にできることから、この組立体を地盤上の所望位置へ搬送することや、この所望位置への設置作業などの取り扱いが容易にできる。
【0025】
しかも、上記両重ね合わせ部の間に挿入されるパイプ材は杭よりも径寸法が大きいため、上記パイプ材への上記各重ね合わせ部の圧接力をより大きくできる。よって、上記組立体の取り扱い時に、上記組立体からパイプ材が不意に脱落することは抑制されることから、上記水辺保護構造の施工がより容易にできる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】全体平面図である。
【図2】図1のII−II線矢視図である。
【図3】図1中で、一部拡大した部分の斜視図である。
【図4】図3に相当する図で、水辺保護構造の施工方法を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明の水辺保護構造、およびその施工方法に関し、水辺を保護する水辺保護構造が洪水や大波に晒された場合でも、水辺保護構造を構成する壁材や杭の水による流動が抑制されるようにして、その後の水辺保護構造の復旧がより容易に、かつ、短時間でできるようにする、という目的を実現するため、本発明を実施するための形態は、次の如くである。
【0028】
即ち、水辺保護構造は、水辺の地盤上に沿って屈曲しながら延びる長尺で可撓性の複数壁材と、上記各壁材の各部分を貫通し地盤に打ち込まれてこの地盤上に上記壁材を固定する杭とを備える。平面視で、上記各壁材により多数の空間域が区画形成され、これら各空間域にそれぞれ石群が充填可能とされる。上記各壁材のそれぞれ長手方向の各一端部が上記地盤の標高がより高い位置に上記杭により固定される。上記各壁材のそれぞれ他端部側が上記地盤の標高の低い側に向けて屈曲しながら延び、他の杭により固定される。
【実施例】
【0029】
本発明をより詳細に説明するために、その実施例を添付の図に従って説明する。
【0030】
図1〜3において、符号1は河川2の水辺であり、この河川2における矢印はその水3が流れる方向を示している。また、符号5は上記水辺1を保護するための水辺保護構造である。
【0031】
具体的には、この水辺保護構造5によれば、流水や波打ちなどの水3の力により水辺1が侵食されることが抑制されて、この水辺1が保護される。また、この水辺1の侵食抑制により、この水辺1での植物の成長が維持され、また、この植物の下における小動物の生息も促進されて、水辺1における自然環境の保護、育生が達成される。なお、上記水辺1は、上記した河川2の他、海岸、湖岸、池の水辺が含まれる。
【0032】
上記水辺保護構造5は、上記水辺1の地盤6上に沿って屈曲しながら延びる長尺で可撓性かつ弾性の複数(8本)壁材7〜14と、上記各壁材7〜14の各部分を貫通し地盤6に打ち込まれてこの地盤6上に上記各壁材7〜14を固定する杭16とを備えている。上記壁材7〜14は樹脂製とされている。また、上記杭16は粗(そだ)などの小枝や、鉄パイプ、鉄筋などの金属棒により形成される。
【0033】
上記水辺1の平面視(図1)で、上記各壁材7〜14により多数の空間域17が区画形成されている。そして、これら各空間域17にはそれぞれ石群18が充填可能とされている。この石群18は、栗石、砂利などである。
【0034】
ここで、上記河川2の幅方向でこの河川2から遠い側の水辺保護構造5の端縁の位置を横軸A1とし、この横軸A1から上記河川2側の水辺保護構造5の端縁に至る等ピッチの各位置を、順次、横軸A2〜A5とする。また、上記河川2の上流側の水辺保護構造5の端縁の位置を縦軸B1とし、この縦軸B1から上記河川2の下流側の水辺保護構造5の端縁に至る等ピッチの各位置を、順次、縦軸B2〜B5とする。
【0035】
以下、上記水辺保護構造5における目的の地点の表示は、この目的の地点が例えば、横軸A2と縦軸B3との交差点近傍の場合には(A2,B3)と表示する。
【0036】
上記水辺保護構造5における上記各壁材7〜14は上記各横軸Aと縦軸Bとに沿って延び、かつ、上記各杭16は上記横軸Aと縦軸Bとの交差点近傍に配置されている。この結果、上記水辺保護構造5の各空間域17は碁盤目状に区画形成されている。
【0037】
上記水辺保護構造5における地盤6の標高は、上記横軸A1〜A5に関し、横軸A1が最高位で、横軸A5に向かって漸次低くなることとされている。また、上記縦軸B1〜B5に関し、縦軸B1が最高位で、縦軸B5に向かって漸次低くなることとされている。また、(A1,B5)の地点は、(A2,B1)の地点よりもより高位置とされている。
【0038】
上記各壁材7〜14は、それぞれその長手方向の各一端部21が、上記地盤6の標高がより高い位置に杭16により固定され、上記各壁材7〜14のそれぞれ他端部側は、上記地盤6の標高の低い側に向けて延びている。
【0039】
具体的には、壁材7と壁材8との各一端部21は、(A1,B1)の地点で一本の杭16により地盤6上に固定されている。また、他の壁材9〜11の各一端部21は、それぞれ横軸A1上でそれぞれ杭16により上記地盤6上に固定されている。また、更に他の壁材12〜14の各一端部21は、それぞれ縦軸B1上でそれぞれ杭16により上記地盤6上に固定されている。
【0040】
上記各壁材7〜14は、それぞれ平行に延びる複数の横向き帯板材24と縦向き帯板材25とが互いに一体的に交差する格子構造とされている。上記各横向き帯板材24と各縦向き帯板材25とはそれぞれ等ピッチに配置されるが、各横向き帯板材24のピッチよりも各縦向き帯板材25のピッチが十分大きくされている。
【0041】
上記壁材11,14の長手方向の中途部は、その各横向き帯板材24を縫うように貫通する杭16により地盤6上に固定されている。また、例えば、(A3,B5)の地点では、水平方向で互いに近接して対向する両壁材9,10の各部分同士が、一本の杭16により互いに連結されると共に地盤6上に固定されている。
【0042】
具体的には、上記両壁材9,10の上記各部分におけるそれぞれ横向き帯板材24,24が互いに重ね合わされて上下で複数の重ね合わせ部27,27が形成されている。水辺1の平面視で、これら重ね合わせ部27,27同士が互いに離反するようこれら重ね合わせ部27,27の少なくとも一方が弾性的に屈曲させられ、これら重ね合わせ部27,27の間に上下に貫通する通路28が形成されている。そして、この通路28に挿入されると共に地盤6に打ち込まれた杭16により、上記各壁材9,10の上記各部分が互いに連結されると共に地盤6上に固定されている。
【0043】
また、上記(A1,B1)の地点など、互いに近接して対向する両壁材7,8の各部分同士も、上記した(A3,B5)の地点の場合と同様にして、互いに連結されると共に地盤6上に固定されている。
【0044】
例えば、上記した(A3,B5)の地点では、上記地盤6上に沿って標高の高い側から低い側に延びてきた上記壁材10における低位置部分10aと、この壁材10における低位置部分10aの存在位置における地盤6上から更に標高の低い側に向かって延びる他の壁材9における高位置部分9aとの各横向き帯板材24,24同士が、水平方向で互いに重ね合わされて結合具30により互いに結合されている。この結合具30はかしめられる金属製バンドでもよく、しばり付けられる針金やロープなどの索条体でもよい。
【0045】
また、(A1,B2)(A2,B1)(A5,B2)の各地点などにおいても、上記した(A3,B5)の地点の場合と同様にして、各横向き帯板材24,24同士が結合具30により互いに結合されている。
【0046】
上記構成によれば、各壁材7〜14のそれぞれ長手方向の各一端部21を地盤6の標高がより高い位置に上記杭16により固定し、上記各壁材7〜14のそれぞれ他端部側を上記地盤6の標高の低い側に向けて屈曲させながら延ばして他の杭16により固定している。
【0047】
ここで、水辺1を保護する水辺保護構造5が洪水や大波に晒された場合、その水3の力の侵食作用により、水辺保護構造5を構成する壁材7〜14、杭16、および石群18が水3と共に流動するおそれが生じる。そして、このような流動は、通常、標高の低い側の壁材7〜14や杭16から始まるものである。
【0048】
このため、上記構成によれば、各壁材7〜14の他端部側と、この他端部側を地盤6の標高の低い側に固定している他の杭16から上記流動が始まる傾向となるが、その一方、上記各壁材7〜14の各一端部21と、これら各一端部21を地盤6の標高がより高い位置に固定している杭16とは流動が抑制されることから、上記各壁材7〜14の他端部側は水3に流される吹き流し状態(図1中一点鎖線)とされたまま維持され、つまり、上記各壁材7〜14を含む水辺保護構造5が全体的に流動することはより確実に抑制される。
【0049】
よって、その後の水辺保護構造5の復旧は、上記のように流動が抑制された各壁材7〜14の一端部21側を基点とし、これら各壁材7〜14の他端部を地盤6の標高の低い側に向けて順次屈曲させながら延ばして他の杭16により地盤6上に固定すればよく、つまり、水辺保護構造5の復旧はより容易に、かつ、短時間ですることができる。
【0050】
また、前記したように、各壁材7〜14を、それぞれ平行に延びる複数の横向き帯板材24と縦向き帯板材25とが互いに交差する格子構造とし、水平方向で互いに近接して対向する両壁材9,10の各部分におけるそれぞれ横向き帯板材24,24を互いに重ね合わせて上下で複数の重ね合わせ部27,27を形成し、平面視で、これら重ね合わせ部27,27同士が互いに離反するよう重ね合わせ部27,27を屈曲させ、互いに離反したこれら重ね合わせ部27,27の間に挿入した杭16により、上記各壁材9,10の上記各部分を地盤6上に固定するようにしている。
【0051】
ここで、上記各壁材7〜14が洪水等の水3から外力を受けるときには、上記各杭16が貫通している上記各壁材7〜14の各部分が上記各杭16に圧接して上記外力に対抗し、これにより、上記各壁材7〜14が上記杭16を介し地盤6に支持される。
【0052】
この場合、上記構成によれば、上記各杭16が貫通している各壁材7〜14の各部分は複数の横向き帯板材24,24を重ね合わせた重ね合わせ部27であるため、上記外力に基づきこの重ね合わせ部27に生じる応力は小さく抑制される。よって、地盤6上への各壁材7〜14の固定強度が向上することから、前記洪水等による水辺保護構造5の流動は、より確実に抑制される。
【0053】
また、前記したように、上記地盤6上に沿って標高の高い側から低い側に延びてきた上記壁材10における低位置部分10aと、この壁材10における低位置部分10aの存在位置における地盤6上から更に標高の低い側に延びる他の壁材9における高位置部分9aとを互いに重ね合わせて結合具30により結合している。
【0054】
ここで、図2で示すように、地盤6上を標高の高い側から低い側に順次延びるよう配置される各壁材9,10は、その側面視での傾斜角が不一致になりがちである。このため、この側面視で互いに隣り合う標高の高い側の壁材10の低位置部分10aと標高の低い側の壁材9の高位置部分9aとを全体的に重ね合わせることは容易でない。
【0055】
しかし、上記構成によれば、上記した傾斜角の不一致により上記低位置部分10aと高位置部分9aとを部分的にしか重ね合わせることができないとしても、これら各部分10a,9aは上記結合具30によって強固に結合させることができる。よって、上記各壁材9,10同士の結合強度が向上することから、前記洪水等による水辺保護構造5の流動は、更に確実に抑制される。
【0056】
次に、水辺1への水辺保護構造5の施工方法の一例につき説明する。
【0057】
まず、水辺1から離れた平坦で広い工場などの作業空間において、前記のように互いに離反した両重ね合わせ部27,27の間の通路28にそれぞれ杭16を挿入して、上記各壁材7〜14と杭16とによる組立体7〜14,16を形成する。この場合、上記各重ね合わせ部27,27は上記杭16の外周面に弾性的に圧接する。
【0058】
次に、上記組立体7〜14,16を全体的に折り畳んだ平坦形状にさせたまま、地盤6上の所望位置に搬送して設置する。次に、水辺1の平面視で、上記組立体を展開させながら上記各杭16を地盤6に打ち込んで、上記各壁材7〜14の各部分を地盤6上に固定する。これにより、上記施工が終了する。
【0059】
図4を参照して、水辺1への水辺保護構造5の施工方法の他例につき説明する。
【0060】
まず、水辺1から離れた平坦で広い工場などの作業空間において、前記のように互いに離反した両重ね合わせ部27,27の間の通路28にそれぞれパイプ材33を挿入して、上記各壁材7〜14とパイプ材33とによる組立体7〜14,33を形成する。この場合、上記各パイプ材33の内、外径の各寸法は上記杭16の外径寸法よりも大きいものとされる。また、上記各重ね合わせ部27,27は上記パイプ材33の外周面に弾性的に圧接する。また、上記パイプ材33はその上端に外向きフランジ34が形成されている。このため、上記通路28に挿入されたパイプ材33が、上記通路28の下方に不意に抜け落ちることは上記外向きフランジ34によって抑制される。
【0061】
なお、上記のようなパイプ材33の不意の抜け落ちを抑制するため、このパイプ材33を上記通路28に挿入したとき、上記両重ね合わせ部27,27の間に嵌入される係止突起を上記スポット溶接33の外周面に形成しておいてもよい。
【0062】
次に、上記組立体7〜14,33を全体的に折り畳んだ平坦形状にさせたまま、地盤6上の所望位置に搬送して設置する。次に、水辺1の平面視で、上記組立体を展開させながら上記各パイプ材33の内孔を通し上記各杭16を地盤6に打ち込む。次に、上記各パイプ材33を上記通路28から次々と抜き取れば、残された各杭16により上記各壁材7〜14の各部分が地盤6上に固定される。これにより、上記施工が終了する。
【0063】
上記施工方法によれば、上記組立体7〜14,33は、上記各パイプ材33を中心として上記各壁材7〜14を互いに接近させるよう回動させることにより全体的に平坦形状にできることから、この組立体を地盤6上の所望位置へ搬送することや、この所望位置への設置作業などの取り扱いが容易にできる。
【0064】
しかも、上記両重ね合わせ部27,27の間に挿入されるパイプ材33は杭16よりも径寸法が大きいため、上記パイプ材33への上記各重ね合わせ部27の圧接力をより大きくできる。よって、上記組立体の取り扱い時に、上記組立体からパイプ材33が不意に脱落することは抑制されることから、上記水辺保護構造5の施工がより容易にできる。
【0065】
なお、以上は図示の例によるが、上記壁材7〜14のうち、その一端部21が、上記水辺保護構造5における地盤6の標高のより低いところに位置しているものや、長さがより短いものについては、その他端部側を標高の高さに係わらずに延ばしてもよい。
【0066】
また、例えば、壁材7〜11のそれぞれの各他端部側を、各縦軸B1〜B5に沿い上記河川2側に向かって互いに平行となるよう延ばし、これら壁材7〜11の間に配置され、河川2側に向かってジグザグ状に延びる他の壁材を設けてもよく、つまり、各壁材7〜14の延びる形状は、本発明の構成と目的の範囲内で、種々選択可能である。
【0067】
また、水平方向で互いに近接して対向する複数の壁材の部分を杭16により互いに連結しようとする場合に、上記壁材が3枚以上である場合には、これら各壁材の各横向き帯板材24を3枚以上に重ね合わせて重ね合わせ部27を形成すればよい。また、上記したように複数の壁材の部分を杭16により互いに連結しようとする場合に、従来の技術の図3で示されるように、各壁材の横向き帯板材24,24同士を互いに噛み合わせ、この噛み合わせにより形成された通路28に杭16(もしくはパイプ材33)を挿入させてもよい。
【符号の説明】
【0068】
1 水辺
2 河川
3 水
5 水辺保護構造
6 地盤
7〜14 壁材
9a 高位置部分
10a 低位置部分
16 杭
17 空間域
18 石群
21 一端部
24 横向き帯板材
25 縦向き帯板材
27 重ね合わせ部
28 通路
30 結合具
33 パイプ材
A 横軸
B 縦軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水辺の地盤上に沿って屈曲しながら延びる長尺で可撓性の複数壁材と、上記各壁材の各部分を貫通し地盤に打ち込まれてこの地盤上に上記壁材を固定する杭とを備え、平面視で、上記各壁材により多数の空間域を区画形成し、これら各空間域にそれぞれ石群を充填可能にした水辺保護構造において、
上記各壁材のそれぞれ長手方向の各一端部を上記地盤の標高がより高い位置に上記杭により固定し、上記各壁材のそれぞれ他端部側を上記地盤の標高の低い側に向けて屈曲させながら延ばして他の杭により固定したことを特徴とする水辺保護構造。
【請求項2】
上記各壁材を、それぞれ平行に延びる複数の横向き帯板材と縦向き帯板材とが互いに交差する格子構造とし、水平方向で互いに近接して対向する両壁材の各部分におけるそれぞれ横向き帯板材を互いに重ね合わせて上下で複数の重ね合わせ部を形成し、平面視で、これら重ね合わせ部同士が互いに離反するよう重ね合わせ部を屈曲させ、互いに離反したこれら重ね合わせ部の間に挿入した杭により、上記各壁材の上記各部分を地盤上に固定するようにしたことを特徴とする請求項1に記載の水辺保護構造。
【請求項3】
上記地盤上に沿って標高の高い側から低い側に延びてきた上記壁材における低位置部分と、この壁材における低位置部分の存在位置における地盤上から更に標高の低い側に延びる他の壁材における高位置部分とを互いに重ね合わせて結合具により結合したことを特徴とする請求項1に記載の水辺保護構造。
【請求項4】
請求項2についての水辺保護構造の施工方法であって、
まず、互いに離反した両重ね合わせ部の間にパイプ材を挿入して、上記各壁材とパイプ材とによる組立体を形成し、
次に、上記組立体を地盤上の所望位置に搬送して設置し、次に、上記各パイプ材の内孔を通して上記杭を地盤に打ち込み、次に、上記各パイプ材を上記両重ね合わせ部の間から抜き取るようにしたことを特徴とする水辺保護構造の施工方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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