説明

水酸基含有ビニル化合物の製造方法

【課題】アクリレート化合物とアルデヒド系化合物を、触媒として三級アミン化合物と水の存在下に反応させて水酸基含有ビニル化合物を製造するに際して、高い反応速度と高い反応収率を達成し、かつ副生成物の生成を抑制した水酸基含有ビニル化合物の製造方法を提供すること。
【解決手段】アクリレート化合物とアルデヒド系化合物とを、3級アミン化合物と水の存在下に反応させて水酸基含有ビニル化合物を製造するに際し、周期律表1族または2族の金属の無機塩を反応液に添加して反応させることを特徴とする水酸基含有ビニル化合物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アクリレート化合物とアルデヒド系化合物とを反応させて水酸基含有ビニル化合物を製造する方法に関するものである。
【0002】
水酸基含有ビニル化合物は、高屈折率および耐熱性を備えた重合体の製造に供される単量体;塗料、接着剤、洗剤ビルダー、半導体用レジスト材料、印刷版用バインダーポリマー等の各種化学製品の製造原料;抗癌剤、抗ウイルス剤等の医薬品の中間体等として広範囲に用いられる。
【背景技術】
【0003】
従来より水酸基ビニル含有化合物を製造する方法は種々提案されている。例えば、特許文献1には、ビニル化合物とアルデヒド系化合物とを触媒である環状3級アミン化合物の存在下、液相均一系において0℃〜200℃で反応させる方法が開示されている。この反応は一般に、Baylis-Hillman Reactionsとして知られており、ビニル化合物とアルデヒド系化合物とから水酸基含有ビニル化合物を一段反応で合成することができる。そこで、この反応について多くの研究がなされている。ところが上記の方法は、通常反応速度が遅く、しかも水酸基含有ビニル化合物の選択率が低いため、該水酸基含有ビニル化合物の反応収率が低いという欠点を有している。
【0004】
そこで、反応速度を向上させる目的で、特許文献2には、アクリレート化合物とアルデヒド系化合物を反応させて水酸基含有ビニル化合物を製造するに際して、触媒として3級アミンであるDABCOを使用して、5質量%以上の水を溶解することができ、かつ反応開始時に反応液が2相に分離することなく含有することのできる最高量の水の0.5〜2.0倍の水を添加した有機溶剤中で反応することが開示されている。この水の添加により従来法より反応速度は向上するものの十分でなく、また目的物である水酸基ビニル化合物の2分子より脱水されて生成するエーテルダイマー、および目的物と沸点の近い不純物の生成が多く、精製時の負荷が大きいという問題があった。
【0005】
また、上記問題のうちの反応速度を向上させる目的で、特許文献3には、アクリレート化合物とアルデヒド系化合物とを反応させて水酸基含有ビニル化合物を製造するに際して、反応終了時において水相を形成するに足りる水の存在下、かつ特定のN−メチル基を有する3級アミン化合物を触媒として用いる製造方法を提案している。この製造方法は従来法に比較して著しく反応速度を向上させることができ、更に目的とする水酸基含有ビニル化合物を高い収率で得ることができる製造方法である。しかしながら、この製造方法は、原料のアクリレート化合物が、触媒として用いられる3級アミン化合物の強い塩基性のためにアクリレート化合物の一部が加水分解してしまい、触媒活性の低下する場合がある点で、さらに改良の余地があることが判明した。その改良策として、特許文献4では、反応終了時において均一系となるような特定の非プロトン性極性溶媒を存在させておくことにより、加水分解が抑制されることが開示されているが十分ではなく、さらなる改良が求められていた。
【特許文献1】米国特許第3,743,669号明細書
【特許文献2】特開平8−301817号公報
【特許文献3】特開平7−285906号公報
【特許文献4】特開2001-302586公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで本発明の目的は、アクリレート化合物とアルデヒド系化合物を、触媒として三級アミン化合物と水の存在下に反応させて水酸基含有ビニル化合物を製造するに際して、高い反応速度と高い反応収率を達成し、かつ副生成物の生成を抑制した水酸基含有ビニル化合物の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、この反応系において反応速度を向上させる触媒活性を示す化合物について鋭意検討した結果、特定の無機塩を反応液に添加することで反応速度が増大し、高い反応収率で目的化合物を得られるだけでなく、副生成物の生成を抑制できることを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
すなわち本発明は以下のとおりである。
(1)アクリレート化合物とアルデヒド系化合物とを、3級アミン化合物と水の存在下に反応させて水酸基含有ビニル化合物を製造するに際し、周期律表1族または2族の金属の無機塩を反応液に添加して反応させることを特徴とする水酸基含有ビニル化合物の製造方法。
(2)前記無機塩が、リチウム塩、ナトリウム塩またはカリウム塩であることを特徴とする前記(1)に記載の水酸基含有ビニル化合物の製造方法。
(3)前記アクリレート化合物とアルデヒド系化合物とのモル比(アクリレート化合物/アルデヒド系化合物)が2以下の範囲であることを特徴とする前記(1)または(2)に記載の水酸基含有ビニル化合物の製造方法。
(4) 前記水とアルデヒド系化合物とのモル比(水/アルデヒド系化合物)が7〜20の範囲であることを特徴とする前記(1)〜(3)のいずれかに記載の水酸基含有ビニル化合物の製造方法。
(5)前記アルデヒド系化合物が、パラホルムアルデヒドであることを特徴とする前記(1)〜(4)のいずれかに記載の水酸基含有ビニル化合物の製造方法。
(6)さらに非プロトン性極性溶媒を、反応開始時において反応液が2相系を形成しないような量で反応液に添加して反応させることを特徴とする前記(1)〜(5)のいずれかに記載の水酸基含有ビニル化合物の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、反応速度を向上させる触媒活性を示す化合物として、特定の金属の無機塩を使用しているため、高い反応速度と高い反応収率を達成し、かつ副生成物の生成を抑制した水酸基含有ビニル化合物の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明をさらに説明する。
本発明により製造される水酸基含有ビニル化合物としては、特に限定されないが、例えば、下記一般式(1):
【0011】
【化1】

【0012】
(式中、Rは有機残基を表し、Rは水素原子または有機残基を示す。)で示される化合物が挙げられる。
【0013】
具体的には、メチル 2−(ヒドロキシメチル)アクリレート、エチル 2−(ヒドロキシメチル)アクリレート、n−ブチル 2−(ヒドロキシメチル)アクリレート、tert−ブチル 2−(ヒドロキシメチル)アクリレート、2−エチルヘキシル 2−(ヒドロキシメチル)アクリレート、シクロヘキシル 2−(ヒドロキシメチル)アクリレート等のアルキル 2−(ヒドロキシメチル)アクリレート類;メチル 2−(1−ヒドロキシエチル)アクリレート、エチル 2−(1−ヒドロキシエチル)アクリレート、n−ブチル 2−(1−ヒドロキシエチル)アクリレート、メチル 2−(1−ヒドロキシブチル)アクリレート、エチル2−(1−ヒドロキシブチル)アクリレート、n−ブチル 2−(1−ヒドロキシブチル)アクリレート、メチル 2−(1−ヒドロキシベンジル)アクリレート、エチル 2−(1−ヒドロキシベンジル)アクリレート、n−ブチル 2−(1−ヒドロキシベンジル)アクリレート等のアルキル 2−(1−ヒドロキシ−1−アルキルメチル)アクリレート類等が挙げられ、特に本発明は、メチル 2−(ヒドロキシメチル)アクリレート、エチル 2−(ヒドロキシメチル)アクリレート、n−ブチル 2−(ヒドロキシメチル)アクリレート、tert−ブチル2−(ヒドロキシメチル)アクリレート、2−エチルヘキシル 2−(ヒドロキシメチル)アクリレート、シクロヘキシル 2−(ヒドロキシメチル)アクリレートの製造に好適である。
【0014】
本発明において原料として使用される前記アクリレート化合物は、下記一般式(2):
【0015】
【化2】

【0016】
(式中、R1は、有機残基、好ましくは炭素数1〜18のアルキル基、炭素数3〜10のシクロアルキル基、アリール基、炭素数1〜8のヒドロキシアルキル基、−(CH2mNR34基、−(CH2n+567・M-基、−(C24O)o8基を示す。(なおR3,R4,R5,R6,R7,R8で示される置換基は、それぞれ独立して炭素数1〜8の直鎖状または枝分かれ鎖状のアルキル基を表し、m,nは2〜5の整数であり、M-で示される陰イオンはCl-,Br-,CH3COO-,HCOO-,SO42-、またはPO43-を表す。また、oは1〜80の整数である。))で表される化合物である。
【0017】
前記アクリレート化合物として具体的に例示すると、
(a)置換基が炭素数1〜18のアルキル基であるアクリレートとしては、例えば、メチルアクリレート、エチルアクリレート、n-プロピルアクリレート、イソプロピルアクリレート、n-ブチルアクリレート、イソブチルアクリレート、tert-ブチルアクリレート、n-オクチルアクリレート、イソオクチルアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート、ラウリルアクリレート、ステアリルアクリレート等;
(b)置換基が炭素数3〜10のシクロアルキル基であるシクロアルキルアクリレートとしては、例えば、シクロペンチルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート、シクロヘキシルメチルアクリレート等;
(c)置換基がアリールであるアリールアクリレートとしては、例えば、フェニルアクリレート、o-メトキシフェニルアクリレート、p-メトキシフェニルアクリレート、ベンジルアクリレート等;
(d)置換基が炭素数1〜8のヒドロキシアルキル基のヒドロキシアルキルアクリレート
としては、例えば、2-ヒドロキシエチルアクリレート、2-ヒドロキシプロピルアクリレート、3-ヒドロキシプロピルアクリレート、4-ヒドロキシブチルアクリレート等;
(e)置換基が−(CH2mNR34基であるアルキルアミノアクリレートとしては、例えば、N,N-ジメチルアミノエチルアクリレート、N,N-ジエチルアミノエチルアクリレート、N,N-ジメチルアミノプロピルアクリレート、N,N-ジメチルアミノブチルアクリレート、N,N-ジエチルアミノブチルアクリレート、N,N-ジメチルアミノペンチルアクリレート等;
(f)置換基が−(CH2n+567・M-基であるアルキルアミノアクリレートの第4アンモニウム化合物としては、例えば、N,N-ジアルキルアミノアクリレートの第4アンモニウム化合物等;
(g)置換基が−(C24O)oR8基であるアクリレート類としては、例えば、メトキシエチルアクリレート、エトキシエチルアクリレート、ラウリルオキシトリオキシエチルアクリレート、oが1〜80、好ましくは1〜30のメトキシポリオキシエチレンアクリレート等;が挙げられる。これらのアクリレートの内、メチルアクリレート、エチルアクリレート、n−ブチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレートが特に好適である。
【0018】
本発明において用いられるアルデヒド系化合物としては、アルデヒド基を含有する化合物;トリオキサン、パラホルムアルデヒド、パラアセトアルデヒド;及び下記一般式(3):
【0019】
【化3】

【0020】
(式中、Yは水素原子、炭素数1〜8の直鎖状または枝分かれ鎖状のアルキル基を表す)で示されるアルデヒド化合物;及び下記一般式(4):
【0021】
【化4】

【0022】
(式中、Zは水素原子、炭素数1〜8の直鎖状または枝分かれ鎖状のアルキル基、または炭素数3〜10のシクロアルキル基を表し、pは1〜100の整数を表す)で示されるオキシメチレン化合物等が挙げられる。
パラホルムアルデヒド、トリオキサンなどは、ホルムアルデヒドが縮合した化合物であり、水中では分離し、ホルムアルデヒドと同じように作用する。
【0023】
上記アルデヒド基を含有する化合物としては、例えば、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ブチルアルデヒド、バレルアルデヒド、イソブチルアルデヒド、ピバリンアルデヒド、シクロヘキシルアルデヒド、シクロヘキセンアルデヒド、ベンズアルデヒド、フルフラール等が挙げられる。上記オキシメチレン化合物としては、具体的には、例えば、パラホルムアルデヒド、ホルムアルデヒドの20〜50質量%水溶液(水和ホルムアルデヒド)、ホルムアルデヒドの濃度が20〜50質量%であるメタノール水溶液等が挙げられる。これらアルデヒド系化合物のうち、パラホルムアルデヒドが特に好適である。ここでいうパラホルムアルデヒドとはホルムアルデヒドの重合体(8〜100量体)であり、常温において粒状または粉体などの性状を有する固体である。工業的に入手可能なパラホルムアルデヒドは通常水分を含有しており、水分が20質量%以下含有していても差し支えない。前記アルデヒド系化合物は、1種類のみを用いても良く、また、本発明を工業的に実施する際は該アルデヒド系化合物の取扱いの容易さ等を考慮に入れて、2種類以上を適宜混合して用いてもよい。
【0024】
前記アルデヒド系化合物に対するアクリレート系化合物の使用量は、アクリレート化合物とアルデヒド化合物とのモル比(アクリレート化合物/アルデヒド系化合物)が2以下の範囲、好ましくは1以下の範囲、より好ましくは0.25〜0.75の範囲内とすれば良い。該モル比が2より大きい場合には、アクリレート化合物の反応系中への残存が多くなり、目的物の純度が低くなるため、カラムクロマトグラフィー等の煩雑な精製工程が必要になり、好ましくない。
【0025】
本発明において触媒として使用される3級アミン化合物としては、例えばトリメチルアミン、トリエチルアミン、トリ−n−プロピルアミン、トリイソプロピルアミン、トリブチルアミン、トリイソブチルアミン、トリ−n−ペンチルアミン、N−メチルジイソプロピルアミン、N,N−ジエチルイソプロピルアミン、N,N−ジメチルエチルアミン、N,N−ジメチルイソプロピルアミン、トリ−2−エチルヘキシルアミン、N−メチルジエチルアミン、N,N−ジメチル−n−プロピルアミン、N,N−ジメチル−n−ブチルアミン、N,N−ジメチル−イソブチルアミン、N,N−ジメチル−(2−エチルヘキシル)アミン、N,N−ジイソプロピル−(2−エチルヘキシル)アミン、N,N−ジ−n−ブチル−(2−エチルヘキシル)アミン、N−メチル−ジ(2−エチルヘキシル)アミン、N−n−ブチル−ジ(2−エチルヘキシル)アミン、N−イソブチル−ジ(2−エチルヘキシル)アミン、ピロコリン、キノリジン、1,4−ジアザビシクロ−[2,2,2]−オクタン、ヘキサメチレンテトラミン等が挙げられ、特に1,4−ジアザビシクロ−[2,2,2]−オクタン(DABCO)やヘキサメチレンテトラミンが好適である。
これら3級アミン化合物は、1種類のみを用いても良く、また2種類以上を適宜混合して用いても良い。前記3級アミン化合物は、液体状、ガス状等の種々の状態での使用が可能である。3級アミン化合物の使用量については、特に制限されるものでないが、通常3級アミン化合物/アルデヒド系化合物(モル比)は、0.05〜2の範囲内、より好ましくは0.3〜1.0の範囲とすればよい。0.3〜1.0の範囲内のモル比で3級アミン化合物を使用することにより、反応速度を高く維持することができると共に、高い選択率で目的物とする水酸基含有ビニル化合物を得ることができる。
【0026】
本発明においては、前記3級アミン化合物と水の共存下に非プロトン性極性溶媒を添加することで、さらに反応速度を増すことができるため好ましい。
使用する水の量は、添加する該非プロトン性極性溶媒との組み合せの中で反応初期(好ましくは反応終了時においても)において均一系となるよう範囲が決定されるため、該非プロトン性極性溶媒との組み合せ、或いは使用するアクリレート化合物の種類等により詳細な範囲を限定することは困難であるが、好ましくは、水とアルデヒド系化合物とのモル比(水/アルデヒド系化合物)が7以上であり、より好ましくは7〜20、更に好ましくは、10〜20の範囲とすればよい。該モル比が10未満の場合には、反応濃度が高いため目的物である水酸基含有ビニル化合物由来の2量体副生成物の生成が多くなり、該モル比が20を越える場合には、反応終了時に均一系とするための非プロトン性極性溶媒が多量に添加する必要となり、該非プロトン性極性溶媒の分離、回収工程のための労力が多大となる場合がある。ここで使用する水の量とは、反応系中に存在する水の総量のことであり、添加方法としては、単独で水を必要量添加しても良いし、予め3級アミン化合物あるいはアルデヒド化合物に必要量添加したものを用いて調整しても良い。
【0027】
本発明の反応に使用する非プロトン性極性溶媒としては、特に限定されるものではなく
、好ましくは窒素原子含有の非プロトン性極性溶媒、例えば、前記触媒として使用される3級アミン化合物以外のもの、さらには活性水素を持たない3級アミン化合物、より具体的には、テトラヒドロフラン、ピリジン、メチルピリジン、α−ピコリン、β−ピコリン、γ−ピコリン、N,N−ジメチルアニリン、N,N−ジエチルアニリン、N−メチルピペリジン、N−エチルピペリジン、N−メチルピペラジン、N−エチルピペラジン、N−メチルモルホリン、N−エチルモルホリン、N,N,N’,N’−テトラメチルジアミノエタン、N,N,N’,N’−テトラメチルジアミノプロパン等の3級アミン化合物;N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジエチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジエチルアセトアミド、N−メチルピロリドン、N−エチルピロリドン等のアミド化合物が挙げられ、好ましくは、蒸留して容易に回収が可能な常圧において沸点が30℃〜250℃のものが好ましく、さらに好ましくは窒素含有非プロトン性極性溶媒であるN−メチルモルホリン、N−エチルモルホリン、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)、N−メチルピロリドン(NMP)が好適である。
【0028】
添加する非プロトン性極性溶媒の量は、上記の使用する水の量、アクリレート化合物の量、添加する非プロトン性極性溶媒の種類との組合わせの中で、反応開始時において反応液が2相系とならない、すなわち均一系となるよう適宜決定されるが、好ましくは反応開始から反応終了時においても反応系が均一系になるように、さらに好ましくは、非プロトン性極性溶媒と(水+アクリレート化合物)とのモル比(非プロトン性極性溶媒/(水+アクリレート化合物))が0.2〜1.0であり、より好ましくは、0.2〜0.7の範囲とすればよい。
【0029】
また、本発明の反応濃度としては、水または水/非プロトン性極性溶媒からなる反応溶媒量に対するアクリレート化合物の濃度が0.2〜0.70mol/lの範囲であることが好ましく、より好ましくは0.3〜0.6mol/lの範囲であることが好ましい。反応濃度が0.2mol/l未満の場合には、反応濃度が低いために、反応容器に対する目的物の収量が低い、つまり生産性の低下を招き、0.70mol/l以上では、水酸基ビニル化合物の2分子より脱水されて生成するエーテルダイマー等の副生成物の生成が多くなるために副生成物の分離のための労力が多大となる場合がある。
【0030】
次に、本発明の必須成分である周期律表1族または2族の金属の無機塩について説明する。なお、周期律表の1族及び2族の金属とは、アルカリ金属およびアルカリ土類金属である。
本発明の方法においては、周期律表1族または2族の金属の無機塩を添加することにより、上記水/反応溶媒系の反応液中に周期律表1族または2族の金属のカチオンを存在させるものである。
なお、該無機塩は、昇温による反応開始の前までに添加することが好ましい。
【0031】
周期律表1族または2族の金属の無機塩としては、上記水/反応溶媒系に溶解する化合物であれば特に限定されるものではないが、具体的には塩化リチウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、臭化リチウム、臭化ナトリウム、臭化カリウム、ヨウ化リチウム、ヨウ化ナトリウム、ヨウ化カリウム、塩化カルシウム、フッ化リチウム、フッ化ナトリウム、フッ化カリウム、テトラフルオロボレートリチウム塩、ヘキサフルオロホスフェートナトリウム塩等が挙げられるが、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩が特に好ましく、特に、汎用性の面で塩化リチウム、塩化ナトリウムが特に好適に用いられる。無機塩の使用量は、無機塩とアクリレート化合物のモル比(無機塩/アクリレート化合物)が0.2〜10の範囲、好ましくは、0.5〜5.0の範囲内とすれば良い。
【0032】
反応に使用するアクリレート化合物、目的物である水酸基含有ビニル化合物は重合し易
い性質を有している。従って、反応時の重合を抑制するために、反応系に重合防止剤(または重合禁止剤)や分子状酸素を添加することが好ましい。
【0033】
前記重合防止剤としては、例えば、ヒドロキノン、メチルヒドロキノン、tert−ブチルヒドロキノン、2,4−ジ−tert−ブチルヒドロキノン、2,4−ジメチルヒドロキノン等のキノン類;フェノチアジン等のアミン化合物;2,4−ジメチル−6−tert−ブチルフェノール、2,4−ジ−tert−ブチルフェノール、p−メトキシフェノール等のフェノール類;p−tert−ブチルカテコール等の置換カテコール類;置換レゾルシン類等が挙げられるが特に限定されるものでない。これら重合防止剤は、1種類のみを用いても良く、また、2種類以上を適宜混合して用いても良い。
【0034】
また、前記重合防止剤の添加量は、特に限定されるものでないが、例えば、アクリレート化合物に対する割合が、0.01〜1質量%の範囲内となるようにすれば良い。分子状酸素としては、例えば、空気、或いは分子状酸素と窒素との混合ガスを用いることができる。この場合、反応溶液に分子状酸素を含有するガスを吹き込むようにすれば良い。そして、上記重合を充分に抑制するために、重合防止剤と分子状酸素とを併用することが好ましい。
【0035】
本発明に係る反応の反応温度は、特に限定されるものでないが、前記した重合を抑制するために、30〜150℃の範囲内が好ましく、60〜80℃の範囲内がより好ましい。反応温度が30℃よりも低い場合には、反応速度が小さく反応時間が長くなり過ぎ、該水酸基含有ビニル化合物を工業的に製造するに際しては好ましくない。また、反応温度が150℃を越える場合には、前記した重合を抑制することが困難となるので好ましくない。
【0036】
本発明に係る反応の反応時間は、上記反応が完結するように適宜設定すればよく、特に限定されるものでないが、一般的には、1〜7時間程度で充分で、従来の方法に比べ短縮される。また、反応圧力は、特に限定されるものでなく、常圧(大気圧)、減圧、加圧の何れであっても良い。
【0037】
反応終了後は、反応液をそのまま分別蒸留するか、または、反応液に酸性化合物を添加して3級アミン化合物を中和した後分別蒸留することにより、目的とする水酸基含有ビニル化合物を回収することができる。
【実施例】
【0038】
以下、実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明する。
【0039】
なお、化合物の同定は、1H−NMRおよびIRで行った。また、化合物の定量は、高速液体クロマトグラフィ(HPLC)を用いて行なった。
【0040】
〔実施例1〕
温度計、ガス吹込み管、冷却管、攪拌装置および水浴を備えた1000mlの四つ口フラスコに、エチルアクリレート 54g(0.54モル)、パラホルムアルデヒド34.1g(1.1モル)、DABCO 72.9g(0.65モル)に、添加水 324ml(18モル)とN,N−ジメチルアセトアミド 756ml(8.7モル)、塩化リチウム 91.6g(2.16モル)および重合防止剤としてのp−メトキシフェノール0.1gを加え、その後、該反応液を50℃で4時間攪拌して反応させた。この反応は反応開始から反応終了時まで均一系であった。
【0041】
反応終了後、内温30℃以下まで放冷した後、氷浴を用いて10℃以下まで冷却し、4Nの塩酸を650ml投入後さらに15分間攪拌した。酢酸エチルで抽出後、蒸留水10
80mlで有機層を洗浄し、さらに5%炭酸水素ナトリウム水溶液で洗浄した。有機層を硫酸マグネシウムで乾燥後、p−メトキシフェノールを600ppmになるように添加し、ロータリーエバポレータ-で濃縮したところ、目的のエチル 2−(ヒドロキシメチル)アクリレートが得られたことをH−NMRにて確認した。
得られた化合物を高速液体クロマトグラフィ(HPLC)で分析した結果、仕込みアクリレート化合物に対する収率88%で、エチル 2−(ヒドロキシメチル)アクリレートが生成したことが確認された。なお、HPLCの分析波長は210nmで測定した。
【0042】
〔実施例2〜14〕
実施例1において、出発アクリレート化合物、添加溶媒(非プロトン性極性溶媒)、触媒の3級アミン化合物、無機塩、反応時間を変更した以外は、同様の条件で実施した。反応条件と併せて、目的化合物の収率を表1に示した。
【0043】
〔比較例1〕
実施例1において、塩化リチウムを添加しなかった以外は、同様の条件で実施した。結果を表1に併記した。
【0044】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明の製造方法は、反応速度を向上することができると共に、目的とする水酸基含有ビニル化合物の収率を向上することができる。このため工業的に有利に製造方法である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクリレート化合物とアルデヒド系化合物とを、3級アミン化合物と水の存在下に反応させて水酸基含有ビニル化合物を製造するに際し、周期律表1族または2族の金属の無機塩を反応液に添加して反応させることを特徴とする水酸基含有ビニル化合物の製造方法。
【請求項2】
前記無機塩が、リチウム塩、ナトリウム塩またはカリウム塩であることを特徴とする請求項1に記載の水酸基含有ビニル化合物の製造方法。
【請求項3】
前記アクリレート化合物とアルデヒド系化合物とのモル比(アクリレート化合物/アルデヒド系化合物)が2以下の範囲であることを特徴とする請求項1または2に記載の水酸基含有ビニル化合物の製造方法。
【請求項4】
前記水とアルデヒド系化合物とのモル比(水/アルデヒド系化合物)が7〜20の範囲であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の水酸基含有ビニル化合物の製造方法。
【請求項5】
前記アルデヒド系化合物が、パラホルムアルデヒドであることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の水酸基含有ビニル化合物の製造方法。
【請求項6】
さらに非プロトン性極性溶媒を、反応開始時において反応液が2相系を形成しないような量で反応液に添加して反応させることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の水酸基含有ビニル化合物の製造方法。

【公開番号】特開2007−230873(P2007−230873A)
【公開日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−50792(P2006−50792)
【出願日】平成18年2月27日(2006.2.27)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】