説明

水頭症の治療および予防

【課題】水頭症の予防または治療。
【解決手段】一実施形態では、本発明は、水頭症の予防または治療のための、1以上の生物利用性フォレート誘導体またはその塩の使用を含む。使用され得る生物利用性フォレート誘導体の例としては、フォリン酸、テトラヒドロフォレート、チミジン、10−ホルミルテトラヒドロフォレートまたはメチルテトラヒドロフォレート、あるいはそれらの塩の任意の組合せが挙げられる。本発明はまた、2以上の生物利用性フォレート誘導体(例えば、フォリン酸およびテトラヒドロフォレート)を含む組成物に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水頭症を予防および治療するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水頭症(HC)は、頭部および脊柱内の脳脊髄液(CSF)の産生および/または吸収における不均衡から生じる多因子病因を伴う状態である。これは、脳室内ならびに脳内および周辺の液体空間内における液体の蓄積につながる。
【0003】
HCの最も深刻な形態である早発性HC(EOHC)は、胎児および新たに生まれた乳児において見受けられるものであり、米国の国立衛生研究所の統計によると、1000回のうち1回のヒト出生に影響を与える。このことは、これを非常に重大な神経学的問題にする。同様の割合が、他の西洋諸国で報告されている。しかしながら、100回のうちの1回までの割合が、第三世界の幾つかの地域で(例、アジア、アラビア、ペルシャ、アフリカで)報告されている。
【0004】
水頭症は脳を傷害するので、思考および挙動は、有害に影響され得る。学習障害は、水頭症を患う者の間で一般的であり、これらの者は、動作性IQに対してよりも言語性IQに対してより良好なスコアを示す傾向がある。これは、脳に対する神経損傷の分布を反映すると考えられる。しかしながら、水頭症の重篤度は、個体間でかなり異なり、ある者は、平均的な、または平均を超える知性を示す。水頭症を患うある人は、動機付けおよび視覚の問題、協調を伴う問題を有し得、そして集団を形成し得る。それらは、平均よりも早く思春期に至る。4人の患者のうちの1人の患者が、てんかんを発症する。
【0005】
水頭症の症状は、年齢、疾患の進行、およびCSFに対する耐性における個体差に応じて変動する。例えば、CSF圧に耐性である乳児の能力は、成人のものとは異なる。乳児の頭蓋は、CSFの貯留に順応して拡張できる。なぜならば、縫合(頭蓋の骨を接続する線維性連結)は、未だ塞がれていないためである。乳児では、水頭症の最も明白な兆候はしばしば、頭囲における急激な拡大または普通ではない大きい頭部サイズである。他の症状としては、嘔吐、眠気、被刺激性、下方への偏視(「サンセッティング(sunsetting)」とも呼ばれる)、および発作が挙げられ得る。より年齢が上の小児および成人は、異なる症状を経る。なぜならば、それらの頭蓋は、CSFの貯留に順応して拡張できないからである。
【0006】
より年齢が上の小児または成人では、症状としては、頭痛に続く嘔吐、悪心、乳頭水腫(視神経の一部である視神経円板の腫脹)、霞み目、複視(二重視)、眼のサンセッティング、平衡の問題、乏しい協調、歩行障害、尿性失調、発達の遅延または喪失、嗜眠、嗜眠状態、被刺激性、または記憶喪失を含む個性または認知における他の変化が挙げられ得る。
【0007】
水頭症は、高周波性の音波、ならびに血管、組織、および器官の画像を生成するコンピュータを使用する診断画像技術である、出産前の超音波によって、出産前に診断され得る。超音波は、内部器官をそれらが機能したままで観察するために、および種々の管を介する血流を評価するために使用される。多くの症例では、水頭症は、妊娠三期のうちの第3期までに発症せず、したがって、妊娠においてより早期に行なわれる超音波では観察されない。また、非定型の症例は、他の臨床症状が明らかになるまで検出されない。症状は、年齢、疾患の進行、およびCSF蓄積に対する耐性における個体差に応じて変動する。さらに、超音波診断はしばしば、偽陽性を生じる。なぜならば、拡大した脳室が正常な発達の一部として生じ、次いで正常サイズに戻り得るためである。このような偽陽性は、不要な中絶につながり得る。
【0008】
水頭症はまた、臨床の神経学的評価を介して、および患者の生涯にわたる障害の状態を評価するために頻繁に使用され得る、コンピュータ断層撮影スキャニング(CTスキャン)を含む頭蓋画像技術を使用することによって、診断され得る。磁気共鳴画像(MRI)の画像化もまた、使用され得る。各CTスキャンは、胸部X線のレベルよりもX線照射のレベルに患者を何度も曝すことに留意することが重要である。さらに一般的に使用される試験としては、異常な液体蓄積を示し得る頭部の透視、CSFの腰椎穿刺および検査、頭蓋X線、液体経路における異常を示し得る放射性同位体を使用する脳スキャン、脳血管の動脈造影が挙げられる。
【0009】
水頭症の既存の治療方法は、通常、脳室腹腔吻合の挿入または脳室フィステル形成術を介したCSFの外科的ドレナージを含む。約35,000〜45,000の吻合手術が、米国では毎年行なわれており、また、約250,000人の患者が、現在、水頭症と共に生活していると見積もられている。吻合形成にかかわらず、これらの患者のうちの多くが、生命の胎児段階の間における大脳皮質の異常な発達に関連付けられる主要な神経学的欠陥を有する。さらに、吻合形成は、合併症(吻合機能不全、吻合不全、および吻合感染)につながり得る。吻合は、一般的に、十分に機能するが、それは、連絡が絶たれる場合、妨害されるようになる場合、または大きく成長した場合に、機能を停止し得る。これが起こった場合、脳脊髄液は、再度蓄積し始め、多数の身体的症状が発生し、幾つかは発作のように極度に深刻である。吻合不全の割合もまた、比較的高く、患者がそれらの寿命内に複数の吻合の修正を有することは稀なことではない。脳脊髄液貯留の診断は、複雑であり、熟練を必要とする。水頭症が治癒しないこと(生活の質に深刻な影響を与え得る生涯にわたる障害であること)に留意することもまた、重要である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上述したように、水頭症の既存の治療は、外科的介入に限定されている。外科的治療に固有の不利益を考慮すると、水頭症の発症を予防する、および水頭症を治療する薬剤を同定する必要があることは明らかである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の局面は、水頭症の予防または治療のために、1以上の生物利用性フォレート誘導体またはその塩を提供する。
【0012】
本発明のさらなる局面は、水頭症の予防または治療のための医薬の製造における、1以上の生物利用性フォレート誘導体またはその塩の使用を提供する。
【0013】
本発明のさらなる局面は、1以上の生物利用性フォレート誘導体またはその塩を、その処置を必要とする被験体に投与することを含む、水頭症の予防または治療方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】インビトロにおけるフォレート誘導体の毒性。妊娠齢20日のWistarから得られた皮質細胞を、補充した神経基礎(neurobasal)培地中において、1×10細胞/mlの開始密度にて、予備処理した96ウェルプレート中に蒔いた。24時間後、培地を、示されるような濃度のサプリメントを含有する新鮮な培地と交換した。培養物を、37℃にて5% CO中で維持した。細胞の増殖を、さらなる24または48時間後に、発光ベースのアッセイを使用して測定した。発光結果を、如何なるサプリメントも添加されていないコントロールウェルに対してノーマライズし、コントロールに対する倍率として提示した。示される結果は、各々が3連で行なわれた1〜2回の実験の平均±SDである。
【図2】増殖のHC CSF媒介阻害に対するフォレート誘導体の効果。妊娠齢20日のWisterから得られた皮質細胞を、補充した神経基礎培地中において、1×10細胞/mlの出発密度にて、予備処理した96ウェルプレート中に蒔いた。24時間後、培地を、示されるようなサプリメントおよび/または20% HC CSFを含有する新鮮な培地と交換した。培養物を、37℃にて5% CO中で維持した。細胞の増殖を、さらなる24または48時間後に、発光ベースのアッセイを使用して測定した。発光結果を平均化し、3連で行なわれた1回の予備実験の平均±SDを示す。
【図3】妊娠を通じた母親の重量に対する葉酸およびフォリン酸補充の効果。母親に、2.5mg/kgのサプリメントである葉酸またはフォリン酸あるいは生理食塩水のコントロールを毎日注射した。注射を、交配の14日前に開始し、妊娠から20日目の胎児の採取に至るまで継続した。母親を毎日同時に秤量し、データを、0日目の開始体重に対する%に変換した。結果を3匹の母親(2匹は生理食塩水処置)に対して平均化し、示される平均±SDとしてプロットした。
【図4】罹患したHC胎児の数に対する長期の葉酸およびフォリン酸補充の効果。母親に、2.5mg/kgのサプリメントである葉酸またはフォリン酸あるいは生理食塩水のコントロールを毎日注射した。注射を、交配の14日前に開始し、妊娠から20日目の胎児の採取に至るまで継続した。胎児を妊娠20日目で採取し、各胎児を、罹患HCまたは正常としてスコア付けした。次いで、各同腹子における正常または罹患胎児の百分率を算出し、結果を3匹の母親(2匹は生理食塩水処置)に対して平均化し、示されるように、平均±SDでプロットした。
【図5】罹患したHC胎児の数に対する短期の葉酸およびフォリン酸補充の効果。母親に、2.5mg/kgのサプリメントである葉酸またはフォリン酸を毎日注射した。注射を、妊娠のE17に開始し、妊娠の残期から20日目の胎児の採取に至るまで継続した。胎児を妊娠20日目に採取し、各胎児を、罹患HCまたは正常としてスコア付けした。次いで、各同腹子における正常または罹患胎児の百分率を算出し、結果を3匹の母親(2匹は生理食塩水処置)に対して平均化し、示されるように、平均±SDでプロットした。
【発明を実施するための形態】
【0015】
「水頭症」によって、我々は、胎児または新生児の期間において生じる任意の水頭症を含むものとし、早発性水頭症(EOHC)、胎児発症水頭症、先天性水頭症、閉塞性水頭症、交通性水頭症が挙げられるがこれらに限定されない。好ましくは、水頭症は、早発性水頭症である。
【0016】
「予防または治療」によって、我々は、本発明が水頭症の発生を予防し得ること、および水頭症から生じる神経学的欠陥を緩和または取り消し得ることの双方の場合を含むものとする。したがって、水頭症を有する被験体は、本発明によって治療された場合、より正常な脳の発達を有することにより、より良質の生活を享受し得る。
【0017】
「被験体」によって、我々は、水頭症に感受性である任意の動物、好ましくは、脊椎動物、より好ましくは、飼い慣らされた飼育動物またはヒト等の哺乳動物を含むものとする。最も好ましくは、被験体は、ヒトである。以下に議論するように、被験体は、妊娠女性、発達中の胎児、新生児、乳児、小児、青年または成人であり得る。
【0018】
本発明者らは、特に早発性水頭症(EOHC)において、水頭症の原因について、この状態の水頭症テキサスラット(H−Tx)モデルを使用して、広範な研究を実施した。H−Txは、ヒト水頭症の特徴を反映する、広く認識され十分に特徴付けされている水頭症モデルである(表1)。
【0019】
本発明者らは、H−Txラットにおける皮質の異常な発達がCSF流の閉塞後に生じることを同定した。異常なCSF流は、皮質板中へのニューロンの進出(output)の低下を生じる、皮質の胚上皮(GE)細胞の増殖の欠如に関連付けられる。GE細胞増殖のこの欠如は、GE細胞複製の阻害によって引き起こされる。なぜなら、水頭症の脳から細胞を取り出し、かつ標準的な増殖培地中にそれらを置くことは、それらのインビボにおける停止(arrest)状態から「それらを開放」し、そしてそれらは正常な分裂能力を示すためである。
【0020】
さらに、正常GE細胞を水頭症ラット胎児由来のCSFでインキュベートすることは、正常GE細胞増殖の阻害を引き起こす。重要なことには、ヒト水頭症乳児由来のCSFはまた、培養物中で成長しているラット皮質ニューロンの増殖を阻害する。これらの研究は、ヒトおよびラットCSFの成分が性質および効果において同様であることを示唆する。
【0021】
したがって、本発明者らは、水頭症ラットおよびヒト由来のCSFの1以上の成分が胚上皮(GE)幹細胞複製に直接的に影響し、それにより皮質中へのニューロンの進入を低下させることを同定した。脳および液体空間内の細胞分裂における一般的低下はまた、水頭症に直接的につながる。1つの可能性のあるメカニズムは、CSFについての排出(ドレイナージ)チャネルの生成の低下を介することである。それ故、CSF組成における変化が、水頭症を引き起こす。
【0022】
正常および罹患ラットの脳脊髄液(CSF)のタンパク質組成を検査することにより、驚くべきことに、本発明者らは、酵素であるホルムテトラヒドロフォレート・デヒドロゲナーゼ(FMTHFDH)が水頭症ラットのCSF中に存在することを見出した。
【0023】
FMTHFDHは、過剰なフォレートを身体(例、血液または肝臓中)から除去するように作用し、それ自体、フォレート代謝の調節において重要な役割を果たす。水頭症ラットでは、FMTHFDHは、CSF中に蓄積し、それによって細胞が利用可能な生物利用性フォレート誘導体の量を低下させるようである。如何なる特定の理論によっても拘束されることを望まないが、本発明者らは、皮質中のGE細胞増殖における低下がCSF内のフォレート代謝における変更に起因すると考えている。従って、本発明者らは、CSF中の生物利用性フォレート誘導体のレベルの低下が水頭症で見受けられる乏しい脳の発達を引き起こし、さらには、CSF蓄積の誘導における原因因子であり得ると結論付ける。
【0024】
フォレート(folate)(または葉酸(folic acid))は、アミノ酸および核酸の生合成についての鍵となる代謝物の必須の供給源である。それは、乳児期および妊娠期のような、急激な細胞の分裂および増殖の期間の間における、非常に重要な食事成分である。受胎前後の期間(女性が妊婦になる直前および直後の時期)の間における適切な葉酸摂取は、神経管欠損(例、二分脊椎および無脳症)を含む多数の先天性異常に対する保護に役立つ。不十分な葉酸と神経管欠損(NTD)との間の関連性の発見は、幾つかの国々において食物強化につながり、誰もが血液フォレートレベルにおける関連する上昇から利益を受ける意図をもって、葉酸が食糧に添加されている。葉酸強化食物の導入以来、神経管欠損の割合は、米国において25%減少した。しかしながら、水頭症が神経管欠損ではないことに注目することは重要である。水頭症は、異なる身体的徴候および異なる原因を有する。
【0025】
生物利用性フォレート誘導体と水頭症との間の関連性は、驚くべきことである。なぜならば、米国におけるフォレート強化プログラムは、集団中の水頭症の事例を低下させなかったからである。従って、当業者は、水頭症の原因を探索しても、フォレート代謝が水頭症に関連付けられるとは考えなかった。
【0026】
本発明者らは、葉酸が水頭症の予防に対する効果を有し得なかった理由が、FMTHFDHの存在によって引き起こされる水頭症CSF内のフォレート代謝の不均衡に起因すると仮定した。この驚くべき知見は、過剰のFMTHFDHが水頭症CSF中に存在するという本発明者らによる実証の前には、明らかではなかった。この驚くべき知見はまた、上述した葉酸強化プログラムが米国集団における発生率において水頭症を低下させなかった理由を説明する。
【0027】
FMTHFDHはフォレート代謝を変更するので、本発明者らは、被験体に1以上の生物利用性フォレート誘導体(好ましくは、誘導体は、FMTHFDHの基質ではない)を供給することにより水頭症を予防または治療することが有益であると推論する。添付する実施例において示されるように、本発明者らは、H−Txラットモデルを用いて、生物利用性フォレート誘導体が水頭症の事例を低下させ得ることを首尾よく実証した。したがって、生物利用性フォレート誘導体は、少なくともラットでは、水頭症を予防するために首尾よく使用され得る。これは、水頭症の予防的処置について最初に成功した実証であることに注目することが重要である。
【0028】
「生物利用性フォレート誘導体(bioavailable folate derivative)」によって、我々は、直接的に使用され得る、またはCSF内で代謝されて直接的に細胞中に取り込まれ得る誘導体を生成し得る、フォレートの任意の誘導体を含むものとする。
【0029】
用語フォレートは、2つの異なる様式において使用され得る。B−ビタミンファミリーのメンバーであるフォレートは、葉酸に構造的に関連し、かつ葉酸と同様の生物学的活性を有する、多数の化学形態についての包括的な用語として使用され得る。フォレートはまた、葉酸の陰イオン形態について使用され得る用語である。葉酸は、食物強化および栄養補給に使用される合成フォレート形態である。それは、包括的な意味において使用される、フォレートの天然に生じる主な形態のうちの一つではない。
【0030】
本出願では、「フォレート」によって、我々は、葉酸の陰イオン形態を意味する。フォレート/葉酸は、従って、フォレートの誘導体ではない。それ故、用語「生物利用性フォレート誘導体」は、フォレート/葉酸を含まない。上記で概略した理由のため、葉酸は、水頭症を予防する効果を有しない。
【0031】
本発明における使用のために適切な生物利用性フォレート誘導体の例としては、フォリン酸、テトラヒドロフォレート、チミジン、10−ホルミルテトラヒドロフォレート、およびメチルテトラヒドロフォレート、またはそれらの塩ならびに組合せが挙げられる。好ましくは、生物利用性フォレート誘導体は、フォリン酸(folinic acid)、またはフォリン酸の非毒性塩、例えば、フォリン酸のカルシウムまたはナトリウムフォリネート塩である。
【0032】
本発明はまた、1以上の生物利用性フォレート誘導体、またはそれらの塩の組合せを含む。例えば、以下にさらに議論するように、テトラヒドロフォレート(テトラヒドロ葉酸の形態であり得る)とのフォリン酸の組合せは、水頭症の予防または治療のために特に効果的であり得る。如何なる特定の理論によっても拘束されることを望まないが、本発明者らは、このような組合せが、細胞中での核酸およびタンパク質の双方の合成に有益であると考えている。したがって、本発明の実施形態は、生物利用性フォレート誘導体がフォリン酸およびテトラヒドロフォレート(テトラヒドロ葉酸)の組合せを含むことである。
【0033】
フォリン酸
フォリン酸は、テトラヒドロ葉酸の5−ホルミル誘導体である。生物利用性フォレート誘導体と水頭症との間の関連性を本発明者らが驚くべきことに見出すまで、フォリン酸が水頭症の予防または治療について考慮されていなかったことに注目することは重要である。
【0034】
フォリン酸は、2−[4−[(2−アミノ−5−ホルミル−4−オキソ−5,6,7,8−テトラヒドロ−1H−プテリジン−6−イル)メチルアミノベンゾイル]アミノペンタンジオン酸の系統(IUPAC)名、C2023の式、および473.44g/molの分子量を有する。フォリン酸についての式を、以下に提示する:
【0035】
【化1】

【0036】
フォリン酸は、薬物メトトレキセートに関する癌化学療法におけるアジュバントとして知られており、一般的には、フォリン酸カルシウムまたはフォリン酸ナトリウム(通例、ロイコボリンとして知られている)として投与されている。それはまた、化学療法5−フルオロウラシルとともに相乗的組合せとして使用される。水頭症の予防または治療におけるフォリン酸の使用については如何なる報告もない。
【0037】
フォリン酸は、Sigma(フォリン酸カルシウム塩;カタログ番号F8259)を含む、多くの供給源から得ることができる。
【0038】
フォリン酸またはその塩は、水頭症を治療するために、および水頭症を予防するための予防薬としての双方のために、本発明において使用され得る。以下の文脈では、他に言及しない限り、「フォリン酸」に対する参照はまた、先に示したフォリン酸の塩を包含する。
【0039】
テトラヒドロフォレート
テトラヒドロフォレートは、食事性フォレートの主要な活性代謝物である。それは、単一の炭素群の転移に関する反応における補酵素として不可欠である。テトラヒドロフォレートが役割を有する経路の例としては、プリン合成、ピリミジン合成、アミノ酸変換(ヒスチジンからグルタミン酸、ホモシステインからメチオニン、セリンからグリシン)が挙げられる。核酸およびアミノ酸合成はテトラヒドロフォレートの欠乏により影響されるので、活発に分裂および増殖している細胞が最初に影響される傾向がある。テトラヒドロフォレートは、酸形態ではテトラヒドロ葉酸であり、テトラヒドロフォレートに対する本明細書中の任意の参照は、テトラヒドロ葉酸を含む。
【0040】
テトラヒドロフォレートは、完全には、5,6,7,8−テトラヒドロフォレートと呼ばれ、C1923の式、および445.43g/molの分子量である。テトラヒドロフォレートについての式は、以下に提示される:
【0041】
【化2】

【0042】
テトラヒドロフォレートは、水頭症を治療するため、および水頭症を予防するための予防薬としての双方のために、本発明において使用され得る。以下の文脈では、他に言及しない限り、「テトラヒドロフォレート」に対する参照はまた、この化合物の任意の塩を包含する。
【0043】
テトラヒドロフォレートは、Sigma(テトラヒドロ葉酸;カタログ番号T3125)を含む、多くの異なる供給源から得ることができる。
【0044】
チミジン
チミジン(デオキシチミジン)は、ピリミジンデオキシヌクレオシド化合物である。それは、ピリミジン塩基であるチミンに連結されたデオキシリボース(ペントース糖)から形成される。デオキシチミジンは、非毒性であり、DNAにおける4つのヌクレオチドのうちの1つの一部である。それは、全ての生存している生物に存在する、天然に生じる化合物である。
【0045】
チミジンは、式C1014を有し、242,23g/molの分子量を有する。チミジンについての式は、以下に与えられる。
【0046】
【化3】

【0047】
チミジンは、Sigma(カタログ番号1895)を含む、多くの供給源から得ることができる。
【0048】
チミジンは、水頭症を治療するため、および水頭症を予防するための予防薬としての双方のために、本発明において使用され得る。以下の文脈では、他に言及しない限り、「チミジン」に対する参照はまた、この化合物の任意の塩を包含する。
【0049】
10−ホルミルテトラヒドロフォレート
10−ホルミルテトラヒドロフォレートは、式C2021を有し、473.17g/molの分子量を有する。10−ホルミルテトラヒドロフォレートについての式は、以下に与えられる:
【0050】
【化4】

【0051】
10−ホルミルテトラヒドロフォレートは、水頭症を治療するため、および水頭症を予防するための予防薬としての双方のため、本発明において使用され得る。以下の文脈では、他に言及しない限り、「10−ホルミルテトラヒドロフォレート」に対する参照はまた、この化合物の任意の塩を包含する。
【0052】
10−ホルミルテトラヒドロフォレートは、周知の実験室方法を用いて容易に合成され得る(例えば、Krupenko,S.A.,Wagner,C.,およびCook,R.J.(1997)J.Biol.Chem.272,10266−1027に記載されるように、Rabinowitz,J.C.(1963)Methods Enzymol.6,814−816を参照のこと)。
【0053】
メチルテトラヒドロフォレート
メチルテトラヒドロフォレート(MTHF)は、脳脊髄液におけるフォレートの主要形態である。CSF中のMTHFレベルの測定は、中枢神経系組織におけるフォレートの欠乏を決定するために有用である。低いCSF MTHFレベルは、フォレート代謝に影響する代謝の生来のエラーおよびフォレートの食事性欠乏に関連する。メチルテトラヒドロフォレートは、アミノ酸であるメチオニンの合成を含む、多数の生合成経路に関与する。メチルテトラヒドロフォレートは、酸形態では5−メチルテトラヒドロ葉酸であり、メチルテトラヒドロフォレートに対する本明細書中の任意の参照は、5−メチルテトラヒドロ葉酸を含む。
【0054】
メチルテトラヒドロフォレート(5−メチル−5,6,7,8−テトラヒドロフォレート)は、式C2025および459,461g/molの分子量を有する。メチルテトラヒドロフォレートについての式は、以下に提示される:
【0055】
【化5】

【0056】
メチルテトラヒドロフォレートは、水頭症を治療するために、および水頭症を予防するための予防薬としての双方のために、本発明において使用され得る。以下の文脈では、他に言及しない限り、「メチルテトラヒドロフォレート」に対する参照はまた、この化合物の任意の塩を包含する。
【0057】
メチルテトラヒドロフォレートは、Sigma(5−メチルテトラヒドロ葉酸;カタログ番号M0132)を含む、多くの異なる供給源から得ることができる。
【0058】
上述したように、本明細書中に提供される1以上の生物利用性フォレート誘導体の組合せは、本発明の局面において使用され得る。このような組合せは、先行技術において知られていないし、示唆もされていない。
【0059】
例えば、添付の実施例に示されるように、インビトロ毒性研究は、フォリン酸およびテトラヒドロフォレートの組合せが細胞に対して毒性がないことを示唆する。さらなるデータは、その組合せがまた水頭症の発達を逆転させ、皮質発達を改善したことを示すようである。如何なる特定の理論によっても拘束されることを望まないが、本発明者らは、このような組合せが有益であると考える。なぜならば、この組合せは、綿密な代謝変換なしに、核酸およびタンパク質合成の一部として、細胞によって直接的に使用され得るからである。したがって、フォリン酸およびテトラヒドロフォレートの組合せは、先行技術において知られていないし、示唆もされていない驚くべき利益を有する。
【0060】
水頭症を診断する方法は、本明細書の先の段落において先に示されている。このような情報を使用することで、当業者は、被験体が水頭症に罹患しているかどうかを容易に診断し得る。「被験体」によって、我々は、妊娠女性、発達中の胎児、新生児、乳児、小児、青年または成人を含むものとする。
【0061】
上述したように、1以上の生物利用性フォレート誘導体が、水頭症の予防および治療の双方のために使用され得る。
【0062】
生物利用性フォレート誘導体が水頭症についての予防的手段として使用され得る幾つかの様式が存在する。
【0063】
生物利用性フォレート誘導体の1つの用途は、この誘導体が妊娠を予定している被験体に、可能であれば食事性サプリメントの形態において投与されることである。このようなサプリメントは、現在のところ利用可能な妊娠前の食事性サプリメントと同様の様式において、錠剤またはカプセル剤として処方され得る。また、生物利用性フォレート誘導体は、妊娠女性を含む全ての消費者が食事性生物利用性フォレート誘導体における増加から利益を受けることを保障するように、食糧を強化するために使用され得る。それ故、本発明の実施形態は、生物利用性フォレート誘導体、または生物利用性フォレート誘導体を含む医薬が食事性サプリメントとして処方されることである。
【0064】
葉酸での食物強化は、近年、米国を含む幾つかの国々で導入された。1996年には、米国食品医薬品局(FDA)は、栄養強化パン、シリアル、小麦粉、ひき割りトウモロコシ、パスタ、米、および他の穀物食品に対する葉酸の添加を必要とする規則を公布した。シリアルおよび穀物は米国において広く消費されているので、これらの食品は、アメリカ人の食事に対する葉酸の非常に重要な貢献因子になった。食品医薬品局によって要求されているような、穀物に基づく食物における葉酸の添加以来、神経管欠損の割合は、米国において25パーセント減少した。このようなアプローチは、生物利用性フォレート誘導体とともに採用され得る。したがって、本発明は、生物利用性フォレート誘導体の予防的使用を達成するための食物強化のプログラムを意図する。
【0065】
葉酸による既存の食物強化は、妊娠三期のうちの第1期の間において十分な量の葉酸を妊婦または妊娠前後の女性に供給することが意図される。これは、神経管欠損が胎児発達におけるこの時点の間におけるフォレートレベルの低下の結果として生じるためである。しかしながら、水頭症は、時期においてそのように限定されない(即ち、生物利用性フォレート代謝物の低下は、胎児発達の間における任意の時点で水頭症を引き起こすことの原因であり得る)。したがって、生物利用性フォレート誘導体は、既に妊娠している女性により摂取された場合、水頭症を予防するために使用され得る。それ故、本発明のさらなる実施形態は、生物利用性フォレート誘導体、または生物利用性フォレート誘導体を含む医薬が妊娠被験体に供給されることである。
【0066】
このような有益な効果は、妊娠におけるかなり後期の段階の間でさえも(ヒト妊娠における6または7ヶ月相当以降の段階まで)見受けられる。したがって、本発明の局面の実施形態は、生物利用性フォレート誘導体が妊娠三期のうちの第2期または第3期の間において被験体(可能性であれば食事性サプリメントの形態において)投与されることである。このような投与レジメは、本発明まで、予期できなかった。
【0067】
1以上の生物利用性フォレート誘導体が水頭症を治療するために使用される場合、この障害に罹患していると同定された被験体は、治療有効量の化合物を投与される。このような使用において、化合物は、治療用組成物として処方および調製される。被験体は、例えば、発達中の胎児、新生児、乳児、小児、青年または成人であり得る。被験体が発達中の胎児である場合、生物利用性フォレート誘導体は、その胎児を妊娠した女性に投与される。
【0068】
それ故、本発明は、1以上の生物利用性フォレート誘導体が投与されるべき被験体を水頭症に罹患していると診断した場合、ならびに生物利用性フォレート誘導体の予防的投与から利益を受ける任意の被験体の双方を包含する。
【0069】
本発明のさらなる局面は、2以上の生物利用性フォレート誘導体を含む組成物を提供する。好ましくは、組成物は、フォリン酸およびテトラヒドロフォレートを含む。
【0070】
上述したように、本発明者らは、フォリン酸およびテトラヒドロフォレート(テトラヒドロ葉酸の形態における)の組合せが驚くべきことに水頭症の予防または治療に有益であると考える。なぜならば、それは、細胞に対して毒性がなく、かつ水頭症の発達を逆転させるようであり、そして皮質の発達を改善したからである。この効果を実証する予備的データは、添付の実施例において簡潔に考察されている。したがって、フォリン酸およびテトラヒドロフォレートの組合せは、本発明まで明らかにされていなかった驚くべき利益を有する。
【0071】
後述するように、組成物中に存在するフォリン酸およびテトラヒドロフォレートの最適な量は、当業者によって決定され得、そして調製物の強度、投与の様式、および組成物で処置されるべき疾患状態の進行に応じて変動する。
【0072】
添付の実施例において示されるように、2.5mg/kg体重のフォリン酸は、胎児発達水頭症の可能性の低下につながる。したがって、本発明のこの局面の組成物は、約2.5mg/kg体重の各々の2以上の生物利用性フォレート誘導体を含み得る。約60kgの妊娠女性によって摂取されるべき一日用量については、組成物は、約150mgの各々の2以上の生物利用性フォレート誘導体(例えば、150mgのフォリン酸および150mgのテトラヒドロフォレート)を含み得る。
【0073】
1以上の生物利用性フォレート誘導体を含有する組成物は、多数の異なる形態を採用し得る:例えば、組成物は、散剤、錠剤、カプセル剤、液剤、軟膏剤、クリーム剤、ゲル剤、ヒドロゲル剤、エアロゾル剤、スプレー剤、ミセル、リポソーム、またはヒトまたは動物に投与され得る任意の他の適切な形態にあり得る。化合物を投与するために使用される賦形剤は、それが与えられる被験体によって十分に許容され、かつ化合物の中枢神経系への送達を可能にするものであるべきであることが理解される。
【0074】
医薬は、多数の様式において使用され得る。例えば、全身投与は、1以上の生物利用性フォレート誘導体が、例えば、錠剤、カプセル剤または液剤の形態において経口摂取され得る組成物内に含有され得る場合に必要とされ得る。あるいは、誘導体は、血流中への注射によって投与され得る。注射は、静脈内(ボーラスまたは注入)あるいは皮下(ボーラスまたは注入)であり得る。化合物はまた、吸入(例、鼻内)によって投与され得る。
【0075】
必要とされる生物利用性フォレート誘導体の量は、生物学的活性および生物利用能により決定され、次いで投与の様式、採用される化合物の物理化学的特性、および化合物が単独療法としてまたは併用療法において使用されるかに依存することが理解される。
【0076】
投与の頻度はまた、上述した因子、特に処置されている被験体内の化合物の半減期によって影響される。
【0077】
投与されるべき最適な投薬量は、当業者によって決定され得、調製物の強度、投与の様式、疾患状態の進行に応じて変動する。処置されている特定の被験体に依存するさらなる因子は、投薬量を調整する必要性を生じ、このようなものとして、被験体の年齢、体重、性別、食事、および投与の時間が挙げられる。
【0078】
薬学産業(例、インビボ実験、臨床試験等)により従来から採用されている手順のような、既知の手順が、組成物の特定の処方および(化合物の一日用量および投与の頻度のような)正確な治療レジメを確立するために使用され得る。
【0079】
概して、0.01μg/kg体重と1.0g/kg体重との間の一日用量の生物利用性フォレート誘導体が、使用され得る。より好ましくは、一日用量は、0.01mg/kg体重と100mg/kg体重との間である。
【0080】
添付の実施例において示されるように、2.5mg/kg体重のフォリン酸は、胎児発達水頭症の見込みの低下をもたらす。したがって、例としては、水頭症を治療するためのフォリン酸(生物利用性フォレート誘導体の一例)の適切な一日用量は、1mg/kg体重と10mg/kg体重との間、最もありそうなことには2.5mg/kg体重である。
【0081】
一日用量は、単回投与として(例、経口消費のための一日用錠剤または単回の一日用注射として)与えられ得る。あるいは、生物利用性フォレート誘導体は、一日の間に2回以上の投与を必要とし得る。純粋な例としては、水頭症を治療するためのフォリン酸(生物利用性フォレート誘導体の一例)は、錠剤形態において0.5mg/kg体重と5mg/kg体重との間の二回(または障害の重篤度に依存してそれ以上)の一日用量として投与され得る。処置を受けている被験体は、起床の際に第1の用量、次いで、晩(2回の用量レジメに対する場合)あるいはその後に3または4時間の間隔で第2の用量を摂取し得る。あるいは、遅延性放出デバイスが、反復用量を投与することを必要とすることなく、最適な用量を被験体に提供するために使用され得る。
【0082】
主題の発明において、「治療有効量」は、被験体に投与された場合に、水頭症の低下、寛解、または退行を引き起こす1以上の生物利用性フォレート誘導体の任意の量である。予防剤として使用される場合、「治療有効量」は、水頭症の実例の低下を生じるものである。
【0083】
本発明の実施において、「薬学的に許容され得る賦形剤」は、薬学的組成物の処方に有用である当業者に公知の任意の生理学的な賦形剤である。
【0084】
一実施形態では、薬学的賦形剤は、液体であり得、そして薬学的組成物は、液剤の形態である。別の実施形態では、薬学的に許容され得る賦形剤は、固体であり、そして組成物は、散剤または錠剤の形態である。さらなる実施形態では、薬学的賦形剤は、ゲルであり、そして組成物は、坐剤またはクリーム剤の形態である。
【0085】
固体賦形剤は、芳香剤、滑沢剤、溶解剤、懸濁剤、充填剤、流動促進剤(glidant)、圧縮補助剤、結合剤または錠剤崩壊剤としてまた作用し得る1以上の物質を含み得る;それはまた、被包材料であり得る。散剤では、賦形剤は、微細に分割された活性成分と混合されている微細に分割された固体である。錠剤では、使用されるべき化合物(例えば、フォリン酸)は、適切な割合において必要な圧縮特性を有する賦形剤と混合され、所望される形状および大きさに凝縮される。散剤および錠剤は、好ましくは、99%までの活性成分を含有する。適切な固体賦形剤としては、例えば、リン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、タルク、糖、乳糖、デキストリン、デンブン、ゼラチン、セルロース、ポリビニルピロリドン、低融点ワックスおよびイオン交換樹脂が挙げられる。
【0086】
液体賦形剤は、液剤、懸濁剤、乳剤、シロップ剤、エリキシル剤および加圧組成物の調製に使用される。生物利用性フォレート誘導体は、水、有機溶媒、その双方の混合物あるいは薬学的に許容され得る油または脂肪等の薬学的に許容され得る液体賦形剤中に溶解または懸濁され得る。液体賦形剤は、可溶化剤、乳化剤、緩衝剤、保存剤、甘味剤、芳香剤、懸濁剤、肥厚剤、着色剤、粘度調節剤、安定化剤または浸透調節剤等の他の適切な薬学的添加剤を含有し得る。経口または非経口投与のための液体賦形剤の適切な例としては、水(上記のような添加剤(例、セルロース誘導体)、好ましくは、カルボキシメチルセルロースナトリウム溶液を部分的に含有する)、アルコール(一価アルコールおよび多価アルコール(例、グリコール)を含む)およびそれらの誘導体、ならびに油(例、分画されたココナッツ油およびピーナッツ油)が挙げられる。非経口投与については、賦形剤はまた、オレイン酸エチルおよびミリスチン酸イソプロピル等の油状エステルであり得る。滅菌性液体賦形剤は、非経口投与のための滅菌性液体形態組成物において有用である。加圧組成物のための液体賦形剤は、ハロゲン化された炭化水素または他の薬学的に許容され得る噴霧剤であり得る。
【0087】
滅菌性液剤または懸濁剤である液体薬学的組成物は、例えば、筋肉内、硬膜外、腹腔内または皮下注射により利用され得る。滅菌性液剤はまた、静脈内に投与され得る。生物利用性フォレート誘導体は、滅菌水、生理食塩水、または他の適切な滅菌性注射可能媒体を用いて、投与時に溶解または懸濁され得る滅菌性固体組成物として調製され得る。賦形剤は、必要かつ不活性な結合剤、懸濁剤、滑沢剤、芳香剤、甘味剤、保存剤、色素、コーティング剤を含むことが意図される。
【0088】
生物利用性フォレート誘導体は、他の溶質、すなわち、懸濁剤(例えば、溶液を等張にするのに十分な生理食塩水またはグルコース)、胆汁塩、アラビアゴム、ゼラチン、ソルビタン・モノオレート、ポリソルベート80(ソルビトールのオレイン酸エステルおよびエキレンオキシドと共重合したその無水物)などを含有する滅菌性液剤または懸濁剤の形態において経口的に投与され得る。
【0089】
生物利用性フォレート誘導体はまた、液体または固体組成物形態のいずれかにおいて経口的に投与され得る。経口投与に適切な組成物としては、ピル、カプセル剤、顆粒剤、錠剤、および散剤等の固体形態、ならびに液剤、シロップ剤、エリキシル剤、および懸濁剤等の液体形態が挙げられる。非経口投与に有用な形態としては、滅菌性液剤、乳剤および懸濁剤が挙げられる。
【0090】
本発明の実施形態はここで、例として、添付の図面を参照して、記載される。
【実施例】
【0091】
実施例1:生物利用性形態のフォレート:水頭症における脳の正常な発達を回復するための処置
【0092】
緒言
水頭症(HC)は、多因子病因を伴う状態である。HCの発生率は、控えめでも、1/500〜1/2000のヒト出生の間にあると見積もられる。HCの最も深刻な形態は、胎児および新たに生まれた乳児において見受けられるものである、早発性HCであり、これは、約1:1000の発生率を有する。治療は、通常、脳室腹腔吻合の挿入または脳室フィステル形成術を介したCSFの外科的ドレナージを含む。吻合形成の利益にもかかわらず、これらの患者のうちの多くの患者が、液体の蓄積および頭蓋内圧の上昇の任意の損傷性効果(これらは、後期と同定された、および/または後期に治療された患者では明らかに重要であるが)ではなく、胎児発達の間における大脳皮質の異常な発達に関連付けられる主要な神経学的欠陥を有する。
【0093】
HCに対する広く大多数の研究は、生後HCならびに液体の蓄積および頭蓋内圧の上昇の効果に対して集中しており、脳実質の機械的圧縮および伸展、虚血および酸素欠乏、脳水腫、ならびに血液脳関門機能不全を含む一次機構に限定される。また、病理学的変化に帰属し得ないが、関連する健康的、教育的および機能的問題を引き起こす異常な発達を生じる液体閉塞の有意な早期帰結も存在する。これらの効果について分子機構を理解することは、たとえ患者が依然として液体の迂回を必要とした場合であっても、発達結末を改善するための治療介入の見通しにつながる。
【0094】
大脳皮質の発達は、最初に、脳のなかでも液体で満たされている脳室に近接する胚上皮(GE)に局在する幹細胞から生じる。我々の活動は、早発性HCでは、脳脊髄液(CSF)閉塞の発生が、胚上皮中の幹細胞の細胞周期に対する直接的な効果を介した皮質発達の停止を出産前に生じることを実証した。我々は、以下を実証した:
1.H−Txラットにおける皮質の異常な発達が、CSF流のその後の(その前ではない)閉塞を生じる。
2.これは、皮質プレート中へのニューロンの進入の低下を生じる皮質GE細胞の増殖の欠如に関連付けられる。
3.GE細胞増殖の欠如は、GE細胞のインビボ阻害の結果である。なぜならば、水頭症の脳から細胞を取り出すこと、およびそれらを標準的増殖培地中に置くことは、それらのインビボ停止状態からそれらを開放し、そしてそれらは、正常に分裂する能力を示すためである。
4.HC胎児脳中のGE細胞は、正常な胎児脳からのものと比較して、細胞周期のS期に集積している。
5.インビトロにおけるHC胎児からのCSFの正常GE細胞への添加は、インビボ状況を模倣し、増殖の阻害およびS期妨害を引き起こす。
6.HC CSFのこれらのインビトロ効果が、2.5% v/vという低いCSF濃度で観察される。
【0095】
同時に、これらのデータは、胎児発症HCに関連する発達異常における責任要因のうちの一つとしてCSF組成を指摘する。CSFは、脈絡叢の分泌性上皮により産生される。液体分泌と同様に、脈絡叢は、神経発生および脳発達に必要とされることがインビトロ研究において示されている多数の重要な増殖因子を含む、CSF内に見出される殆どのタンパク質を分泌する。
【0096】
水頭症のモデル
現在のところ、水頭症の如何なるインビトロモデルも存在しない。H−Txラットは、早発性HCの広く認識されているモデルであり、それ自体、非常に良く特徴付けされている。脳発達のプロセスの複雑性および関与する異なる細胞型の数を考慮すると、任意のインビトロモデルが、このプロセスの全ての局面に適合し得ることはありそうもない。HCの代替動物モデルは、ウサギ、イヌ、ネコまたはラットの大槽へのカオリン(kaolin)またはシアノアクリレート注射による実験的に誘導されたHCを含む。H−Txモデルは、これらに対して優れている。なぜならば、それは、HCが初期の皮質神経発達の間において(自然に)生じる先天性モデルだからである。我々のコロニーは、スイス、ドイツ、米国および日本に局在している他のコロニーとともに、英国において独特である。
【0097】
H−Txモデルの特質は、最も一般的な形態に非常に類似することが示されており、ヒト胎児発症HCを呈示し、先に列挙された他のモデルの全てが、成体発症水頭症を生じる(表1)。実際、我々は、生後まもなく吻合形成されたヒト乳児からCSFの限定されたサンプルを得たところ、これらのサンプルは、培養物中で成長しているラット皮質ニューロンに対して増殖を阻害する同様の効果を有した。これらの研究は、CSFの成分が罹患H−Txラットと罹患ヒトとの間で性質および効果において同様であることを示唆する。
【0098】
我々の調査は、EOHCの新たなる理解を我々にもたらした。我々は、フォレート代謝物レベルが水頭症の病因および結末の双方に重要であること、ならびにこれがヒトにおけるEOHCの全ての症例のうち少なくとも60%に適用可能であり得ることを同定した(推定数は、水管狭窄が明らかに水頭症の一次原因ではない、追従する第3の脳室フィステル形成術を解決しない)。
【0099】
我々の結果は、水頭症とともに、発達中の皮質の細胞に対するフォレート代謝物の生物利用能が低下すること、ならびに特定のフォレート化合物を作り出す合成経路が変更されることを示す。母系食事に対するフォリン酸の補充は、脳のなかでも皮質の正常な発達を回復させ得るか、またはこの衰弱状態を完全に軽減し得さえもする。
【0100】
方法
H−Txコロニーの維持
全ての実験を、ホーム・オフィス・アニマル・プロシージャー・視察団(Home Office Animal Procedures Inspectorate)の認可の下で実施した。Wistar、Sprague−DaweyおよびH−Txラットコロニーの双方を、午前8.00に始めた12:12明暗周期で維持した。それらを、食物および水に対するアクセスが制限されていない大きなラットボックス中で一定温度にて維持した。H−Txコロニーを、罹患していない雄雌間の兄弟−姉妹交配を介して維持する一方で、WistarおよびSprague−Dawleyコロニーを、無作為のペア交配を介して維持した。時限交配を、ボックス中に雄雌を一緒に置き、一時間毎に膣栓の存在について調べることにより行った。栓の存在は、首尾よい交配を示すものとし、時間は、妊娠0日目とした。
【0101】
解析時点
時限妊娠のH−TxまたはWistarラットを、ペントバルビトン(pentobarbitone)ナトリウムの腹腔内注射により殺傷した妊娠雌親から採取した。胎児を、妊娠17〜20日(LCMS実験)、19日(インビトロ培養実験)および20日(インビボ補充実験)にて収集し、断頭した。脳を取り出し、以下に記載されるように処理した。拡大頭部の脳室拡張、混濁および臨床外観を使用して、罹患H−Tx胎児および仔を同定した。組織学的解析により、脳室拡張および水管閉塞が、我々の罹患サンプルで生じたこと、および正常な非罹患H−Txの我々の規定された集団中に存在しなかったことが確認された。
【0102】
皮質培養物の調製
胚日20日目のWistar胎児の脳からの皮質半球を、氷冷滅菌リン酸緩衝化生理食塩水(PBS、pH7.4)中で切開した。この組織を、0.25%トリプシン−EDTA(Sigam,英国)中で20分間37℃で消化した。インキュベーションに続いて、トリプシン−EDTAを、B27培地補充物(GIBCO)を含有する神経基礎培地(GIBCO)で不活化した。引き続き、この懸濁物を、1700rpmで5分間遠心分離し、新鮮な神経基礎培地中で再懸濁した。次いで、この組織を、減少した口径(3mm、2mm、1mm)の滅菌チップを介して剥離させ、続いて1700rpmで5分間遠心分離した。細胞を、新鮮な培地中で再懸濁させ、血球計数器上で計数した。細胞の生存率は、トリパンブルー排除により試験すると、95%を超えていた。
【0103】
剥離した細胞を、B27補充物、2mMグルタミンおよびペニシリン−ストレプトマイシン(0.1mg ml−1)を含有する、前駆細胞および神経細胞型(グリア細胞ではない)を優先的に支持する神経基礎培地中において、1×10細胞ml−1の密度で、予め処理された96ウェルプレート中に蒔いた。この培養物を、37℃で5% CO中で維持した。回収の24時間後、次いで、この培地を除去し、示されるようなサプリメントおよび/またはHC CSFを、さらなる24または48時間、ウェルに添加した。次いで、細胞の増殖を、発光ベースのLumitech Vialight高感度細胞増殖キットを使用して(製造業者の指示書にしたがって)決定した。測定を、Multilabel Counter(Wallac Victor2 1420)上で行った。結果を、(少なくとも3連のサンプルの)平均発光±SDとして表す。
【0104】
CSFの抽出
正常なコントロールの皮質前駆細胞および神経細胞培養物に対するCSFの効果を決定するための実験では、CSFを、非罹患H−TxおよびWistarの大槽、またはE20日の罹患H−Tx胎児の側脳室から取り出した。サンプルを、微量遠心分離機中で13000rpmにて毎回15分間、2回遠心した。上清を取り出し、ドライアイス中で手早く凍結させ、−80℃で保存した。このCSFを、正常培養物の培地/補充培地における20% v/vにてアッセイにおいて含まれるようにした。結果を、(少なくとも3連のサンプルの)平均発光±SDとして表す。
【0105】
インビボ補充プロトコル
雌ラットを、補充プロトコルの開始前に一週間取扱い、取扱いストレスを減少させた。この週の終了の際に、各雌は、フォレート・サプリメントの一日の皮下注射を受けた。時限交配を、第1週の終了の際に行い、サプリメントを、妊娠日E20まで毎日継続した。E17で、妊娠雌親は、2−ブロモデオキシウリジン(Sigma、英国)の腹腔内注射を、60mg/kg体重で受けた。雌親を、妊娠日E20で殺傷し、胎児を、解析のために回収した。各胎児を、CSF、血液および脳組織解析と相関付けるように独自に同定した。血液はまた、血清組成のさらなる解析のために、各妊娠雌親から収集した。胎児脳を、リン酸緩衝化生理食塩水中の4%パラホルムアルデヒドにおいて12〜24時間固定した後、スクロース中で凍結保存した(10%、20%、および30%スクロース溶液中で各々2時間)。各々を、CryoEmbedとともにチャック上に載せ、ドライアイスで冷やしたイソペンタン中で急速に凍結させた。切片を、Leica DM300低温槽を使用して25μmに切断し、代わりのスライド上に収集し、一晩風乾した。BrdU標識細胞を、以前に発表されているモノクローナル抗体(Mashayekhiら)を使用して同定した。さらなる切片を、組織学的解析のために、メチルグリーンおよびピロニンで染色した。染色した切片を、Lecia DMLB写真顕微鏡上で撮影し、Metaviewソフトウェアを使用して解析した。
【0106】
結果および考察
上記のように、以前のデータは、水頭症の胎児では、増殖の欠如に関連する大脳皮質の異常な発達、例えば、胚上皮からの神経の進出が存在することを実証した。この効果は、水頭症CSFを正常な胚上皮細胞に添加することにより、インビトロにおいて模倣され得る。減少した増殖は、細胞周期における妨害に起因したのであり、それにより、細胞は、S期に集積する。細胞周期の動態を調節する多くのチェックポイントが存在するが、周期のSおよびG2/M期における細胞の集積は通常ではない。この型の妨害は、概して、添加された薬物処理またはDNA損傷剤に対する応答においてのみ観察される。このことは、周期の妨害が細胞内の代謝物プール(例、ヌクレオチドプール)における欠乏の結果であり、その結果、DNA複製が正常な速度で進行し得ないという仮説を我々にもたらす。1つの可能性は、この効果が幾つかのフォレート誘導体(プテロイルグルタミン酸誘導体)の利用能における欠乏に関連付けられ、ヌクレオチドであるチミジンおよび代謝物のうちこの重要なファミリーに端を発する他の重要な代謝物の欠如につながるということである。
【0107】
胚上皮細胞中へのフォレート取り込みは、HC CSFにより阻害される
胚マトリクス上皮細胞の阻害がCSF中の生物利用性フォレートの欠如により部分的に説明され得るという予備的な証拠は、これらの細胞中へのフォレートの取り込みを調べたインビトロ研究からきている。予備実験からのデータは、増殖における低下およびS期における細胞の集積が観察される培養条件下でHC CSFを培養物に添加した場合に、細胞中へのフォレートの取り込みの量が低下することを示す。10% HC CSFの存在下における[H]−葉酸の取り込みは、添加されたCSFの非存在下におけるものの53±13%(n=3)である。
【0108】
フォレート取り込みの欠如についての1つの代替の説明は、それが細胞表面でのフォレートトランスポータータンパク質の発現の欠如、または存在するトランスポーターの活性の阻害のいずれかの結果であり得るということである。これは、ありそうにない。なぜなら、HC胚マトリクス細胞をHC CSFの非存在下における正常な条件下で培養した場合、正常レベルの増殖が観察されるためである。このことは、これらの細胞が、如何なる固有の欠陥も有しないこと;活性の欠如がそれらのインビボ環境における幾つかの外部因子、即ち、CSFに起因することを示唆する。
【0109】
CSF中のフォレート代謝酵素
HC CSF中の生物利用性フォレートの欠如について説示する1つの可能性は、HC CSFにおいてこれらの化合物の異常な代謝が存在するということである。フォレート代謝は、高度に複雑なシステムであり、ヌクレオチドおよびアミノ酸合成の双方の多くの重要な局面に関与している。我々は、ここで、プロテオミクスベースの手法を使用して、E17〜E20にわたる胎児齢の範囲(HCの発達および異常な脳発達の徴候に重要な日数)から正常CSFと罹患CSFとの間のタンパク質の差異を同定した。設定されたLCMSデータを、フォレート代謝における役割を有する任意のタンパク質について精査した。刺激的な知見は、罹患CSFにおけるホルミルテトラヒドロフォレートデヒドロゲナーゼ(FMTHFDH)の存在のものであった(表2)。
【0110】
成体CSFでは、フォレートレベルが、15〜35ng/mlであると報告されており、フォレートの大部分が、5,10−メチレンテトラヒドロフォレート・レダクターゼおよびビタミンB12含有酵素である5−メチルテトラヒドロフォレート・ホモシステイン・メチルトランスフェラーゼを含む、一連の酵素の活性により産生される5−メチルテタヒドロプテロイルグルタミン酸の形態にある。発達中の脳におけるCSFについて知られていることは非常に少ないが、我々のデータは、CSF中で合成され、かつCSFを介して細胞に直接的に送達される生物利用性形態のフォレートについての潜在性があることを実証する。このことは、発達の間において、細胞数が急激に増加する場合に、CSFが代謝物を細胞に提供して、重要な化合物の細胞内産生を補充し得ることを意味する。次いで、この細胞外システムの非存在または破壊下では、細胞性代謝、例えば、増殖は、はるかに遅い速度で進行し、異常な皮質発達が生じる。
【0111】
これらの有害な効果は、胚上皮において全く現れ得ない。生物利用性フォレートの欠如は、発達中の脳における他の重要な細胞型、例えば、皮質の発達の間における液体排出(output)チャネルの産生の低下を生じ得る。生成される液体チャネルの数または機能性における低下は、胚性液体産生から胎性液体産生への切り替えが生じる場合に、液体産生と流出との間の不均衡があり、液体蓄積および水頭症を生じることを意味する。
【0112】
同時に、水頭症CSFにおける異常なフォレート代謝の帰結に関する上記仮説は、状態自体の出現およびその後の異常な脳発達の双方を説明し得る。
【0113】
HC CSFと正常なCSFとの間の最も明白な差異のうちの一つは、水頭症被験体のCSF中のFMTHFDHの存在である。FMTHFDHの活性の増加は、フォレート代謝をピリミジン合成から逸脱するように転換し、ヌクレオチドであるチミジンにおける欠乏につながる。これは、発達中のHCの脳中のGE細胞において観察される増殖の欠如についてのより特異的な説明を提供する。しかしながら、代謝経路の一部における任意の不均衡は、全体として経路の破壊につながり、それにより、FMTHFDHの活性の帰結が、幾つかの他の連結経路において現れ得、例えば、ピリミジン合成から、タンパク質合成に関与するシステムの枝への生物利用性フォレートの転換につながる。
【0114】
上記データに基づき、我々は、母親に対する生物利用性形態のフォレートの補充は、この状態を軽減し得るという仮説を案出する。詳細には、母親にフォリン酸(これは、FTHFDHの任意の増強した活性を迂回し、ピリミジン合成が生じることを可能にする)または他の生物利用性形態のフォレート(以下のリストを参照)を供給することにより、発達中の脳におけるフォレート代謝の均衡の回復が可能になり、以下につながる:
1.流出チャネルの正常な発達を可能にすることによる水頭症の予防;
2.正常なフォレート代謝の酵素による妨害を迂回することによる正常な脳発達の許容;および
3.水頭症の遅い診断後に、失われた発達を救援することによる水頭症の治療。
予備実験は、この仮説を試験するために取り組んだ。
【0115】
サプリメントのインビトロ試験
a)毒性試験
インビトロ皮質培養物を、葉酸、フォリン酸、テトラヒドロフォレート、ヒポキサンチン、チミジンおよびテトラヒドロフォレートとのフォリン酸の組合せを含む範囲のサプリメントとともにインキュベートした。サプリメントの濃度は、100nMから100μMまでの範囲であった。このデータを、図1に提示する。
【0116】
この予備データセットにおける変動性を斟酌すると、培養物に対する任意の毒性の如何なる有意な証拠も存在しない。また、観察された効果が同時点でコントロール細胞と比較されたことは特筆に値する。これらの細胞は、48/72時間の期間にわたって増殖し、したがって10/ウェルの元々の開始濃度と比較して、ウェル中に多くのさらなる細胞が存在する。したがって、任意の最小効果が、有意な細胞死ではなく、細胞の増殖における低下に関連する。
【0117】
このデータは、これらのサプリメントが皮質細胞に毒性を示さないことを示唆する。
【0118】
b)HC CSFによる細胞性増殖の阻害に対するサプリメントの効果
我々の以前のデータは、HC CSFの阻害の質を実証した。これはまた、図2において明らかに見受けられる。サプリメントがHC CSFと一緒に添加された全ての場合において、増殖のCSF媒介阻害は、なんら観察されなかった。データは、全ての試験したサプリメントの下で増殖の程度に関して変動するが、コントロールウェルと比較して、補充したウェルについては、HC CSFによる如何なる阻害の証拠も存在しなかった。
【0119】
同時に、このデータは、サプリメントが、毒性を示さず、かつ皮質細胞機能のHC CSF媒介阻害を逆転させる能力を有することから、発達中の脳における生物利用性フォレートの正常レベルを潜在的に回復させるという事実を指摘する。
【0120】
サプリメントのインビボ試験
この仮説を、EOHCのH−Txモデルをさらに用いて試験した。母親に、2.5mg/kgのサプリメント葉酸(3匹の母親−31匹の仔)またはフォリン酸(3匹の母親−35匹の仔)あるいは生理食塩水コントロール(2匹の母親−20匹の仔)を毎日注射した。注射を、交配の14日前に開始し、妊娠から20日目の胎児の採取に至るまで継続した。母親の重量を、毎日モニターしたところ、サプリメント・プロトコルにわたって母親の重量において如何なる有意な差も存在しなかったが、葉酸およびフォリン酸を補充した母親は、生理食塩水処置動物と比較して、わずかに増加した重量を有するようであった(図3)。
【0121】
各胎児を、罹患HCまたは正常としてスコア付けし、脳を、将来の解析のために処理した。第1の実験からのデータを、記録された同腹仔における正常または罹患胎児の百分率とともに図4に示す。生理食塩水コントロールにおけるHCの割合は、45%である。相対的に、葉酸の補充は、これを60%にまで増加させるが、この増加は、この一実験において有意ではない。対照的に、フォリン酸補充動物におけるHCの発生率では、HCの罹患は30%に有意に低下する(p<0.05)。
【0122】
ヒト食事性サプリメントにかかわる一つの問題は、母親が早期段階において妊娠にしばしば気付かず、妊娠前の食事レジメを常に予定または執着するとは限らないことである。HCの状態が妊娠のより後期の段階まで現れないことを考慮すると、我々は、たとえ補充が妊娠のより後期で開始された場合であっても、状態(または脳発達に対するその効果)を軽減(または予防)することが可能であり得ることを期待する。これを試験するための予備実験を、H−Txラットに対して行い、CSF流の妨害が最初に現れるE17の妊娠齢で開始した。母親に、先のような葉酸またはフォリン酸を(注射により)補充した。結果を、図5に示す。フォリン酸は、補充された母親におけるHCの発生率を再度低下させ得るようである。このことは、受胎後の補充もまた有益な効果を有し得ることを示唆する。
【0123】
組合せ処置
次いで、我々は、生物利用性フォレート誘導体の組合せが水頭症および皮質発達に対する有益な効果を有し得るかどうかを評価した。
【0124】
フォリン酸およびテトラヒロ葉酸の組合せを供給されたEOHCのH−Txモデルの2匹の同腹仔からの予備データは、13%が水頭症に罹患するが、一方で83%が罹患せず、残りが肉眼での形態では分類され得なかったことを示す。
【0125】
結論
統合すると、上記データは、フォレートの生物利用性誘導体(およびこのような化合物の組合せ)の母系補充が胎児におけるHC発症の見込みにおける低下の観点から有益な効果を有するという仮説が正しいものであることの証拠を提供する。インビボ研究において使用される用量は、2.5mg/kgである。約330gのラットについての平均重量および約10mlのラット血液容量を考慮すると、これは、およそ0.2mg/ml(またはおよそ500μM)の絶対最大循環濃度に等しい。明白なことには、発達中の胎児のCSFにおいて達成された濃度は、これよりもはるかに低い。より高濃度のサプリメントの使用が100%の正常な胎児につながることが可能である。
【0126】
女性の食事の妊娠前の葉酸補充は、神経管欠損(すなわち、二分脊椎)の発生率を低下させるための機構として十分に確立されている。しかしながら、HCの発生率がこの集団において影響されるという如何なる証拠も存在しない。実際、HCが明確に解析された数件の報告からのデータにより、葉酸の補充がHCの発生率に対して如何なる有意な効果も有さないことが確認される。ラットからの我々のインビボデータは、HC結末に対する葉酸の潜在的に負の効果を実際に指摘する。しかしながら、H−TxラットモデルはHCを発症する遺伝的感受性を有することを心に留めておかなければならない。したがって、この感受性の背景では、葉酸補充の負の効果が明白である。一般の集団では、葉酸は、HCの発生率の増加をもたらさない。我々は、葉酸が効果を有しない一方でこの代謝物の他の生物利用性形態が有する理由が、CSF内のフォレート代謝の均衡に関連付けられると仮定する。葉酸の補充は、HC CSF内のフォレート代謝における酵素不均衡が、この葉酸が必要とされる生物利用性形態に変換され得ない結果である場合には、不十分である。あるいは、胎児CSF中への他の誘導体の移送は、葉酸と比較して、はるかにより効率的であり得る。実際、輸送のレベルでの競合は、何故葉酸がH−Txモデルにおいて負の効果を有するのかを説明し得る。
【0127】
【表1】

【0128】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
水頭症の予防または治療のための、1以上の生物利用性フォレート誘導体またはその塩。
【請求項2】
生物利用性フォレート誘導体が、フォリン酸、テトラヒドロフォレート、チミジン、10−ホルミルテトラヒドロフォレート、もしくはメチルテトラヒドロフォレート、またはそれらの塩であるか、あるいはそれらの任意の組合せである、請求項1に記載の生物利用性フォレート誘導体またはその塩。
【請求項3】
生物利用性フォレート誘導体がフォリン酸またはその塩である、請求項2に記載の生物利用性フォレート誘導体またはその塩。
【請求項4】
塩がフォリン酸カルシウムまたはフォリン酸ナトリウムである、請求項3に記載の生物利用性フォレート誘導体またはその塩。
【請求項5】
生物利用性フォレート誘導体がフォリン酸およびテトラヒドロフォレートの組合せを含む、前記請求項のいずれかに記載の生物利用性フォレート誘導体またはその塩。
【請求項6】
生物利用性フォレート誘導体が食事性サプリメントとして処方される、前記請求項のいずれかに記載の生物利用性フォレート誘導体またはその塩。
【請求項7】
水頭症が早発性水頭症である、前記請求項のいずれかに記載の生物利用性フォレート誘導体またはその塩。
【請求項8】
生物利用性フォレート誘導体がヒト被験体に供給される、前記請求項のいずれかに記載の生物利用性フォレート誘導体またはその塩。
【請求項9】
ヒト被験体が妊娠女性である、請求項8に記載の生物利用性フォレート誘導体またはその塩。
【請求項10】
ヒト被験体が発達中の胎児である、請求項8に記載の生物利用性フォレート誘導体またはその塩。
【請求項11】
生物利用性フォレート誘導体が、その胎児を妊娠している女性に供給される、請求項10に記載の生物利用性フォレート誘導体またはその塩。
【請求項12】
生物利用性フォレート誘導体が、妊娠三期のうちの第2期または第3期の間における妊娠女性に供給される、請求項9または11に記載の生物利用性フォレート誘導体またはその塩。
【請求項13】
ヒト被験体が新生児、乳児、小児、青年または成人である、請求項8に記載の生物利用性フォレート誘導体またはその塩。
【請求項14】
2以上の生物利用性フォレート誘導体を含む、組成物。
【請求項15】
組成物がフォリン酸およびテトラヒドロフォレートを含む、請求項14に記載の組成物。
【請求項16】
1以上の生物利用性フォレート誘導体またはその塩を、その処置を必要とする被験体に投与することを含む、水頭症の予防または治療方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2010−535752(P2010−535752A)
【公表日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−519522(P2010−519522)
【出願日】平成20年8月7日(2008.8.7)
【国際出願番号】PCT/GB2008/002680
【国際公開番号】WO2009/019478
【国際公開日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【出願人】(505395858)ザ・ユニバーシティ・オブ・マンチェスター (18)
【氏名又は名称原語表記】THE UNIVERSITY OF MANCHESTER
【Fターム(参考)】