説明

永久磁石及びその製造方法、接着方法

【課題】 樹脂被膜を有する希土類焼結磁石に優れた接着性を付与する。
【解決手段】 表面に樹脂被膜が形成された希土類焼結磁石に対し、紫外線オゾン照射を行う。この紫外線オゾン照射により被膜表面の接着性阻害物を除去し、表面改質した後、接着を行う。被膜をエポキシ樹脂被膜とした場合、接着性阻害物の残存率は、40%以下とする。また、その場合の接着剤としては、例えばアクリル系接着剤を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、希土類焼結磁石を磁石素体とし、その表面に被膜が形成されてなる永久磁石に関するものであり、特に、その接着性を改善するための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
希土類焼結磁石、例えばNd−Fe−B系焼結磁石は、磁気特性に優れていること、主成分であるNdが資源的に豊富で比較的安価であること等の利点を有することから、近年、その需要は益々拡大する傾向にある。例えば、家電製品や産業機械等の分野において、フェライト磁石との置き換えが進んできている。
【0003】
このような状況から、Nd−Fe−B系焼結磁石の磁気特性を向上するための研究開発や、品質の高い希土類磁石とするための改良等が各方面において進められている。例えば、希土類焼結磁石は、基本的には、原料合金を粉砕して得た合金粉末(磁石原料粉)を磁場中でプレス成形して成形体を形成し、この成形体を焼結炉において焼結処理することにより製造される。したがって、希土類焼結磁石はフェライト磁石等と比べて耐食性が低いという欠点を有している。このような状況から、希土類焼結磁石においては、必ずといって良いほど表面処理が必要になり、電解Ni、アルミニウムイオンプレーティング、樹脂塗装等が施されている。
【0004】
これらの中で、樹脂塗装は、特に大きめな磁石においてコストパフォーマンスが良く、耐薬品性、耐油性、耐塩水噴霧性等も良好であるため、希土類焼結磁石の表面処理として検討されている(例えば、特許文献1や特許文献2等を参照)。具体的には、特許文献1には、ポリカルボン酸樹脂を電着塗装して耐食性樹脂層を形成した永久磁石(希土類焼結磁石)が開示されている。特許文献2には、エポキシ樹脂、熱硬化型アクリル樹脂、アルキド樹脂、メラミン樹脂、シリコン樹脂等の塗装用合成樹脂からなる耐酸化性樹脂層を有する永久磁石(希土類焼結磁石)が開示されている。特許文献3には、保護膜として形成される樹脂膜の希土類永久磁石に対する耐剥離性を良好なものとするため、希土類永久磁石本体の表面を所定の表面粗さとすることが開示されている。
【特許文献1】特公平5−3722公報
【特許文献2】特公平5−6322公報
【特許文献3】特開平7−66032公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、前記希土類焼結磁石を家電製品や産業機械等に使用する場合、用途に対応して接着強度が重要な要求項目となっている。例えば、希土類焼結磁石をロータ等に接着して使用する場合、磁石の重量が比較的重く、また磁石が剥がされる方向に力が加わる場合もあり、接着強度が不足すると、脱落する可能性がある。磁石の脱落はロータの機能喪失につながり、信頼性を大きく損なうことになる。したがって、接着強度の確保は、非常に重要な信頼性要求項目となっている。
【0006】
このような観点から見た場合、前記樹脂塗装により形成される被膜の接着剤に対する接着性は十分とは言い難く、接着強度の不足が大きな課題となっている。しかしながら、前記被膜を有する希土類焼結磁石の接着剤に対する接着性についは、これまでほとんど検討されたことがなく、例えば樹脂被膜表面の接着性の改善が試みられた例はない。
【0007】
本発明は、このような従来の実情に鑑みて提案されたものである。すなわち、本発明は、被膜を有する希土類焼結磁石に優れた接着性を付与することを目的とし、接着剤による接着性に優れ、信頼性の高い接着状態を実現することが可能な永久磁石を提供することを目的とし、さらには、簡単に高い接着性を付与することが可能な永久磁石の製造方法、接着方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、前述の目的を達成するべく検討を重ねた結果、被膜表面には未反応・未硬化物や熱硬化時生成物等が接着強度を阻害する物質として働き、これを効果的に除去することが有効であるとの知見を得るに至った。
【0009】
本発明は、このような知見に基づいて完成されたものである。すなわち、本発明の永久磁石は、希土類焼結磁石の表面にエポキシ樹脂被膜が形成されるとともに、当該エポキシ樹脂被膜の表面の接着性阻害物の残存率が40%以下とされていることを特徴とする。
【0010】
エポキシ樹脂被膜の表面には、前記の通り、未反応・未硬化物や熱硬化時生成物等が接着性阻害物として存在し、接着剤に対する接着性を低下する原因となっている。本発明では、この接着性低下の原因となる接着性阻害物を除去し、所定のレベル以下としているので、接着剤に対する指向性等が解消され、様々な接着剤に対して高強度が得られる。
【0011】
また、本発明の永久磁石の製造方法、接着方法は、表面に樹脂被膜が形成された希土類焼結磁石に対し、紫外線オゾン照射を行うことを特徴とし、さらには、前記紫外線オゾン照射を行った後、接着剤により接着することを特徴とする。
【0012】
希土類焼結磁石の表面に形成される被膜が樹脂塗膜のような有機物である場合、紫外線オゾン照射を行うと、未反応・未硬化物や熱硬化時生成物等の接着性阻害物は、容易に反応鎖が分断され、さらにオゾンによる強制酸化により、炭素が二酸化炭素に、水素が水にまで酸化分解され、再付着や再汚染することなく揮発除去される。また、前記紫外線オゾン照射によって、樹脂塗膜の表面に酸素リッチな官能基が形成され、表面改質される。
【0013】
これら接着性阻害物の揮発分解や表面改質により、正常な安定した被膜表面が得られ、接着剤に対する接着性が改善され、接着強度が十分に引き出される。なお、接着性阻害物を除去し、接着性を改善する方法としては、溶剤洗浄等も考えられるが、その効果は十分とは言えず、前記紫外線オゾン照射を採用することによって、初めて実用に耐え得る優れた接着性が実現される。
【発明の効果】
【0014】
本発明の永久磁石は、接着剤に対する接着性に優れることから、信頼性の高い接着状態を実現することが可能であり、例えばロータ等に使用した場合にも、十分な接着強度を確保することが可能である。
【0015】
また、本発明の永久磁石の製造方法、接着方法によれば、接着性阻害物の除去や表面改質により、樹脂被膜が形成された希土類焼結磁石に優れた接着性を付与することができ、接着強度を最大限に引き出して、信頼性を確保するに足る接着強度を実現することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明に係る永久磁石及びその製造方法、接着方法について、詳細に説明する。
【0017】
先ず、本発明の永久磁石は、基本的には、原料合金を粉砕して得た磁石原料粉を磁場中でプレス成形して成形体を形成し、この成形体を焼結炉において焼結処理し、次いで時効処理することにより製造される希土類焼結磁石を磁石素体とするものである。
【0018】
前記希土類焼結磁石としては、ネオジム鉄ボロン系磁石等を挙げることができる。ネオジム鉄ボロン系磁石は、例えば、R−T−B(Rは希土類元素の1種又は2種以上、但し希土類元素はYを含む概念である。TはFeまたはFe及びCoを必須とする遷移金属元素の1種または2種以上であり、Bはホウ素である。)で表され、希土類元素Rが20〜40質量%、ホウ素Bが0.5〜4.5質量%、残部が遷移金属元素Tとなるような組成を有する。ここで、Rは、希土類元素、すなわちY、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Yb及びLuから選ばれる1種、または2種以上である。中でも、Ndは、資源的に豊富で比較的安価であることから、主成分をNdとすることが好ましい。また、Dyの含有は異方性磁界を増加させるため、保磁力Hcjを向上させる上で有効である。
【0019】
あるいは、添加元素Mを加えて、R−T−B−M系希土類焼結磁石とすることも可能である。この場合、添加元素Mとしては、Al、Cr、Mn、Mg、Si、Cu、C、Nb、Sn、W、V、Zr、Ti、Mo、Bi、Ga等を挙げることができ、これらの1種または2種以上を選択して添加することができる。これら添加元素Mの添加量は、残留磁束密度等の磁気特性を考慮して、3質量%以下とすることが好ましい。添加元素Mの添加量が多すぎると、磁気特性が劣化するおそれがある。
【0020】
希土類焼結磁石は、酸化し易い希土類元素を含む金属磁石であるため、酸化に対する保護膜を形成する必要がある。そこで、本発明の永久磁石は、前記希土類焼結磁石を磁石素体とし、その表面に樹脂塗装を施し、樹脂被膜を形成することとする。ここで、樹脂被膜としては、入手が容易であること、被膜形成が容易であること、保護膜としての機能に優れること等の理由から、エポキシ樹脂被膜とする。
【0021】
エポキシ樹脂被膜は、塗布やディッピング等の手法により、磁石素体である希土類焼結磁石の表面に容易に形成することができる。なお、このエポキシ樹脂被膜の厚さは任意であるが、あまり薄すぎると保護膜としての機能が不十分になるおそれがあり、逆に厚すぎると生産性や磁石性能の低下をもたらすおそれがある。したがって、エポキシ樹脂被膜の厚さは、15μm〜35μm程度とすることが好ましい。
【0022】
本発明の永久磁石において重要なのは、前記エポキシ樹脂被膜の表面の接着性阻害物を除去し、その残存率を40%以下、好ましくは36%以下とすることである。前記接着性阻害物の残存率が40%を越えると、接着剤に対する接着性を十分に確保することが難しくなるおそれがある。接着性組成物の残存率を40%以下、好ましくは36%以下とすることにより、例えば接着強度(引っ張りせん断強度)を10N/mm以上とすることができる。より好ましくは残存率23%以下であり、これにより接着強度を15N/mm以上とすることができる。エポキシ樹脂被膜を形成した場合、その表面には接着性阻害物が残存するが、その残存量は、例えば紫外線オゾン照射における紫外線照射量等によって変化する。紫外線照射量が多くなれば接着性阻害物の残存量は減少する。この接着性阻害物の残存量の減少は、エポキシ樹脂被膜の重量の変化として測定することができる。本発明では、このエポキシ樹脂被膜における重量変化より接着性阻害物の残存率(単位面積当たりの重量減少率)を求め、前記の通り、この残存率の値に基づいて接着性を判断することとする。
【0023】
以上のように、エポキシ樹脂被膜の表面の接着性阻害物の残存率を40%以下に制限することにより、接着剤に対する接着性を大幅に改善することができ、接着剤の種類によらず、接着強度を確保することが可能である。特に、信頼性の高い接着剤として知られるアクリル系接着剤と組み合わせた場合にも、十分な接着性、接着強度を確保することができ、被膜としてのエポキシ樹脂被膜と接着剤としてのアクリル系接着剤との組み合わせは、永久磁石を接着する上で好適な組み合わせと言える。
【0024】
前記接着性阻害物の除去は、例えば紫外線オゾン照射によって行うことができる。以下、永久磁石の製造方法を説明し、この中で紫外線オゾン照射による接着性改善について説明する。なお、紫外線オゾン照射による接着性の改善は、前記エポキシ樹脂被膜に限らず、樹脂被膜全般に適用可能である。
【0025】
前述の希土類焼結磁石の製造には、例えば粉末冶金法が採用される。そこで、先ず、希土類焼結磁石、例えばネオジム鉄ボロン系磁石の粉末冶金法による製造方法について説明する。
【0026】
粉末冶金法による希土類磁石の製造プロセスは、基本的には、合金化工程、粗粉砕工程、微粉砕工程、磁場中成形工程、焼結工程、時効工程、機械加工工程、被膜形成工程等により構成される。なお、酸化防止のために、焼結後までの各工程は、ほとんどの工程を真空中、あるいは不活性ガス雰囲気中(窒素雰囲気中、Ar雰囲気中等)で行う。
【0027】
合金化工程では、原料となる金属、あるいは合金を磁石組成に応じて配合し、真空あるいは不活性ガス、例えばAr雰囲気中で溶解し、鋳造することにより合金化する。鋳造法としては、溶融した高温の液体金属を回転ロール上に供給し、合金薄板を連続的に鋳造するストリップキャスト法(連続鋳造法)が生産性等の観点から好適であるが、これに限られるものではない。原料金属(合金)としては、純希土類元素、希土類合金、純鉄、フェロボロン、さらにはこれらの合金等を使用することができる。
【0028】
合金はほぼ最終磁石組成である単一の合金を用いても、最終磁石組成になるように、組成の異なる複数種類の合金を混合しても良い。混合は合金・原料粗粉・原料微粉のどの工程でもよいが、混合性から合金での混合が望ましい。
【0029】
粗粉砕工程では、先に鋳造した原料合金の薄板、あるいはインゴット等を、粒径数十μm程度になるまで粉砕する。粉砕手段としては、スタンプミル、ジョークラッシャー、ブラウンミル等を用いることができる。粗粉砕性を向上させるために、水素を吸蔵させた後、粗粉砕を行うことが効果的である。
【0030】
前記粗粉砕工程は、複数の粉砕手段を組み合わせた複数工程により構成することも可能である。例えば水素粉砕工程と、機械的粗粉砕工程の2工程とすることができる。水素粉砕工程は、鋳造した原料合金に水素を吸蔵させ、相によって水素吸蔵量が異なることを利用して、自己崩壊的に粉砕する工程である。これにより、粒径数mm程度の大きさに粉砕することができる。機械的粗粉砕工程は、先にも述べたようなブラウンミル等の機械的手法を利用して粉砕する工程であり、前記水素粉砕工程により数mm程度の大きさに粉砕された原料合金粉を、粒径数十μm程度になるまで粉砕する。水素粉砕工程を行う場合、機械的粗粉砕工程は省略することも可能である。
【0031】
前述の粗粉砕工程が終了した後、通常、粗粉砕した原料合金粉に粉砕助剤を添加する。粉砕助剤としては、例えば脂肪酸系化合物等を使用することができるが、特に、脂肪酸アミドを粉砕助剤として用いることで、良好な磁気特性を有する希土類焼結磁石を得ることができる。粉砕助剤の添加量としては、0.03〜0.4質量%とすることが好ましい。この範囲内で粉砕助剤を添加した場合、焼結後の残留炭素の量を低減することができ、希土類磁石の磁気特性を向上させる上で有効である。
【0032】
粗粉砕工程の後、微粉砕工程を行うが、この微粉砕工程は、例えばジェットミルを使用して行われる。微粉砕の際の条件は、用いる気流式粉砕機に応じて適宜設定すればよく、原料合金粉を平均粒径が1〜10μm程度、例えば3〜6μmとなるまで微粉砕する。ジェットミルは、高圧の不活性ガス(例えば窒素ガス)を狭いノズルより開放して高速のガス流を発生させ、この高速のガス流により粉体の粒子を加速し、粉体の粒子同士の衝突や、ターゲットあるいは容器壁との衝突を発生させて粉砕する方法である。ジェットミルは、一般的に、流動層を利用するジェットミル、渦流を利用するジェットミル、衝突板を用いるジェットミル等に分類される。
【0033】
微粉砕工程の後、磁場中成形工程において、磁石原料粉を磁場中にて成形する。具体的には、微粉砕工程にて得られた磁石原料粉を電磁石を配置した金型内に充填し、磁場印加によって結晶軸を配向させた状態で磁場中成形する。磁場中成形は、縦磁場成形、横磁場成形のいずれであってもよい。この磁場中成形は、例えば800〜1500kA/mの磁場中で、130〜160MPa前後の圧力で行えばよい。
【0034】
成形された成形体は、次に焼結工程において焼結し、希土類磁石(ネオジム鉄ボロン系磁石)とする。焼結工程においては、前記成形体を真空または不活性ガス雰囲気中(窒素雰囲気中、Ar雰囲気中等)で焼結する。焼結温度は、組成、粉砕方法、粒度と粒度分布の違い等、諸条件により調整する必要があるが、例えば1000〜1150℃で1〜5時間程度焼結すればよい。
【0035】
前記焼結後には、得られた焼結体に時効処理を施すことが好ましい。この時効処理は、得られる希土類磁石の保磁力Hcjを制御する上で重要な工程であり、例えば不活性ガス雰囲気中あるいは真空中で時効処理を施す。時効処理としては、2段時効処理が好ましく、1段目の時効処理工程では、800℃前後の温度で1〜3時間保持する。次いで、室温〜200℃の範囲内にまで急冷する第1急冷工程を設ける。2段目の時効処理工程では、550℃前後の温度で1〜3時間保持する。次いで、室温まで急冷する第2急冷工程を設ける。600℃近傍の熱処理で保磁力Hcjが大きく増加するため、時効処理を一段で行う場合には、600℃近傍の時効処理を施すとよい。
【0036】
前記焼結工程及び時効工程の後、機械加工工程や被膜形成工程を行う。機械加工工程は、所望の形状に機械的に成形する工程であり、製品形状に応じて所定の機械加工を加える。被膜形成工程は、得られた希土類磁石の酸化を抑えること等を目的に行う工程であり、例えばめっき被膜や樹脂被膜を希土類磁石の表面に形成する。
【0037】
本発明では、前記被膜の形成の後、紫外線オゾン照射を行う。紫外線オゾン照射は、短波長紫外線光源を用いて行うことができ、短波長紫外線光源としては、低圧水銀ランプやエキシマランプ等を使用することができる。紫外線オゾン照射においては、紫外線の他、オゾンが必要であるが、オゾンは紫外線照射により生成したものを使うので、オゾン発生器は必要としない。
【0038】
前記紫外線オゾン照射により、被膜表面の汚染物の分解除去(光洗浄)と、例えば樹脂被膜の場合、表面に酸素リッチな官能基が形成される表面改質が行われ、これら両者が接着性を向上させる。
【0039】
前記紫外線オゾン照射においては、例えば紫外線の照射量に最適値があり、対象となる被膜に応じて適正な条件で紫外線オゾン照射を行うことが好ましい。例えば、被膜がエポキシ樹脂被膜の場合には、紫外線照射量を290mW・秒/cm〜1500mW・秒/cmとすることが好ましく、490mW・秒/cm〜1080mW・秒/cmとすることがより好ましい。紫外線照射量が前記範囲を下回ると、十分な効果が得られず、接着強度が不足するおそれがある。逆に、紫外線照射量が前記範囲を越えると、却って接着強度の低下を招くおそれがある。
【0040】
本発明者らの実験によれば、前記紫外線オゾン照射の後の接着強度の経時変化は認められなかった。具体的には、数日間の常温放置によっても、接着強度が劣化しないことがわかった。経時変化の加速試験として、温度85℃、相対湿度85%の環境下での耐湿試験にて、336時間まで確認した結果でも、接着強度の劣化は認められなかった。
【0041】
紫外線オゾン照射により接着剤に対する接着性が改善された永久磁石は、家電機器や産業機械等の分野において、接着して使用することができる。例えば希土類焼結磁石表面の被膜がエポキシ樹脂である場合、アクリル系接着剤を用いることにより、高い接着強度で接着され、信頼性の高い接着状態とすることができる。
【実施例】
【0042】
以下、本発明を適用した具体的な実施例について、実験結果に基づいて説明する。なお、本発明が以下の実施例の記載に限定されるものでないことは言うまでもない。
【0043】
<試料の作製>
本実施例では、以下のように矩形形状のNdFeB磁石を製造した。すなわち、先ず、Nd30質量%、Dy4質量%、B1.0質量%、Co0.5質量%、残部Feなる組成を有する磁石原料粉を作製し、磁場中成形して成形体を得た。これを焼結して縦36.2mm、横32.0mm、厚さ2.7mmの希土類焼結磁石とし、その表面にエポキシ樹脂を20μm〜30μmの厚さとなるように塗装し、永久磁石試料とした。
【0044】
<紫外線オゾン照射>
処理装置として、セン特殊光源社製、商品名PL2002N−48/UE2002N−9を用いた。この装置は、低圧水銀ランプを光源とするもので、低圧水銀ランプのランプ電力は200W、照射紫外線波長は184.9nm及び253.7nmである。
【0045】
<接着条件>
鋼ラップシェア板(100mm×25mm×1.6mm)をサンドブラスト♯60で研磨し、エタノールで洗浄した。これに加熱硬化型アクリル系接着剤「商品名ロックタイト5200(LPD−80)」を塗布し、前記永久磁石試料と重ね合わせた。接着面積は、250mmを目安とした。硬化条件は、130℃、2時間とし、前記硬化後、室温まで冷却した。
【0046】
<接着強度の測定>
島津製作所社製、商品名AGS−1000Aを用い、引っ張り剪断強度試験を行った。引っ張りスピードは、10mm/分とした。
【0047】
<紫外線オゾン照射時間と接着強度の関係>
前記永久磁石試料に対して、紫外線照射量を変えて紫外線オゾン照射を行い、接着強度の違いを調べた。結果を図1に示す。この図1から明らかなように、紫外線オゾン照射によって接着強度が変化している。ただし、紫外線照射時間が長くなり、紫外線照射量が多くなると、却って接着強度の低下が見られる。
【0048】
光源と永久磁石試料との距離、照射時間に基づいて紫外線照射量の最適値を求めたところ、距離10mmで15秒〜75秒の照射を行うことにより、10N/mm以上の接着強度(未処理の場合の2倍以上)が得られることがわかった。これは、紫外線照射量に換算すると、290mW・秒/cm〜1500mW・秒/cmとなる。また、15N/mm以上の接着強度(紫外線オゾン照射を行わない場合の3倍の接着強度)が必要な場合には、距離10mmで25秒〜55秒の照射が有効であり、これを紫外線照射量に換算すると、490mW・秒/cm〜1080mW・秒/cmとなる。
【0049】
<接着性阻害物の残存率の測定>
前記永久磁石試料に対して紫外線オゾン照射に伴う重量変化を測定し、接着性阻害物の残存率を算出した。なお、紫外線照射強度は、16.4mW/cm(照射距離20mm)とした。重量変化の測定に際しては、先ず、36.2mm×32.0mmの平面(面積1158.4mm)上にエポキシ樹脂を塗布して紫外線オゾン照射を行い、紫外線オゾン照射前後の重量変化を求めた。重量変化は紫外線照射エネルギー(紫外線照射強度×紫外線照射時間)に比例するものとし、また、未照射時の残存率を100%、接着強度ピーク時の残存率を0%として、各紫外線照射時間における残存率を算出した。その結果を表1に示す。
【0050】
【表1】

【0051】
この表1から明らかなように、紫外線オゾン照射により接着性阻害物の残存量が175ng/mm以下、すなわち接着性阻害物の残存率が36%以下のときに、接着強度10N/mm以上が実現されている。さらに、接着性阻害物の残存量が110ng/mm以下、残存率が23%以下のときに、接着強度15N/mm以上が実現されている。
【0052】
<紫外線オゾン照射後の常温放置>
光源からの距離10mmで40秒間の紫外線オゾン照射を行い、常温放置時間と接着強度の関係を調べた。結果を図2に示す。紫外線オゾン照射後、常温で1日〜9日放置した場合でも、接着強度の劣化が見られなかった。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】紫外線照射時間と接着強度の関係を示す特性図である。
【図2】紫外線オゾン照射後の常温放置時間と接着強度の関係を示す特性図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
希土類焼結磁石の表面にエポキシ樹脂被膜が形成されるとともに、当該エポキシ樹脂被膜の表面の接着性阻害物の残存率が40%以下とされていることを特徴とする永久磁石。
【請求項2】
紫外線オゾン照射により接着性阻害物が除去されていることを特徴とする請求項1記載の永久磁石。
【請求項3】
前記希土類焼結磁石は、R(Rは希土類元素の1種又は2種以上、但し希土類元素はYを含む概念である。)、T(TはFeまたはFe及びCoを必須とする遷移金属元素の1種または2種以上である。)、及びB(ホウ素)を含むことを特徴とする請求項1または2記載の永久磁石。
【請求項4】
表面に樹脂被膜が形成された希土類焼結磁石に対し、紫外線オゾン照射を行うことを特徴とする永久磁石の製造方法。
【請求項5】
前記被膜は、エポキシ塗装により形成することを特徴とする請求項4記載の永久磁石の製造方法。
【請求項6】
紫外線照射量を290mW・秒/cm〜1500mW・秒/cmとすることを特徴とする請求項5記載の永久磁石の製造方法。
【請求項7】
紫外線照射量を490mW・秒/cm〜1080mW・秒/cmとすることを特徴とする請求項6記載の永久磁石の製造方法。
【請求項8】
表面に樹脂被膜が形成された希土類焼結磁石に対し、紫外線オゾン照射を行った後、接着剤により接着することを特徴とする永久磁石の接着方法。
【請求項9】
前記被膜がエポキシ樹脂被膜であり、前記接着剤がアクリル接着剤であることを特徴とする請求項8記載の永久磁石の接着方法。
【請求項10】
紫外線照射量を290mW・秒/cm〜1500mW・秒/cmとすることを特徴とする請求項9記載の永久磁石の接着方法。
【請求項11】
紫外線照射量を490mW・秒/cm〜1080mW・秒/cmとすることを特徴とする請求項10記載の永久磁石の接着方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−156787(P2006−156787A)
【公開日】平成18年6月15日(2006.6.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−346585(P2004−346585)
【出願日】平成16年11月30日(2004.11.30)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】