説明

汗抗原吸着剤

【課題】汗抗原を効率的に吸着除去し、汗によるアトピー性皮膚炎の症状の誘発を軽減あるいは予防し得る安全性の高い材料を提供する。
【解決手段】細孔を有する多孔性粉体からなる汗抗原吸着剤。汗抗原吸着剤としては、60Å以上の細孔径を有する多孔性粉体が好適であり、さらには無機粉体が好ましい。あるいは汗抗原吸着剤としてアロフェンが好適である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、汗抗原吸着剤、特に汗中に含まれる汗抗原を吸着し、例えば汗によるアトピー性皮膚炎症状の発生を抑制又は予防することが可能な汗抗原吸着剤に関する。
【背景技術】
【0002】
アトピー性皮膚炎は、強い痒みを伴う湿疹を主病変とし、その憎悪因子としては様々なものがあるが、一つの重要因子として汗がある。
汗がなぜアトピー性皮膚炎を憎悪させるのか、その研究はほとんどなされてこなかったが、近年、汗中に含まれるタンパク質が抗原成分であることが明らかになってきており、このような抗原成分は「汗抗原」と呼ばれることがある。
【0003】
例えば、特許文献1には、健常人、アトピー性皮膚炎患者、アレルギー性鼻炎患者の汗を回収し、濾過滅菌後、その本人に皮内テストしたところ、健常人では陽性反応が11%とほとんど生じなかったのに対し、アトピー性皮膚炎患者では85%、アレルギー性鼻炎患者では71.4%と高率で膨疹を生じたことが記載されている。また、アトピー性皮膚炎患者の末梢血好塩基球からのヒスタミン遊離を指標としてヒト汗を分画・精製し、アトピー性皮膚炎を誘引するタンパク質として、PRPタンパク質、PIPタンパク質、修飾PIPタンパク質が同定されている。そして、これらの精製タンパク質は、アレルギー性疾患又はアレルギー性素因を有する個人に対して白血球ヒスタミン遊離試験において高い特異性をもって反応すると記載されている。
また、特許文献2には、アトピー性皮膚炎誘引物質として、Con−Aアフィニティー担体非吸着性の高ヒスタミン遊離活性成分をカラムクロマトグラフィーにより分離している。特許文献2のアトピー性皮膚炎誘引物質は、Con−Aアフィニティー担体への吸着性や活性の差異などから、特許文献1のものとは異なると考えられている。
【0004】
このように、汗中にはアトピー性皮膚炎の症状を誘発する汗抗原が含まれており、これがヒトのIgE抗体に結合してマスト細胞及び好塩基球を活性化し、ヒスタミンを遊離することによりアレルギー反応を誘発するものと考えられている。よって、汗に含まれる汗抗原を減少させることにより、アトピー性皮膚炎の症状を軽減あるいは予防することが可能であると考えられるが、現実的には、ヒトはその生体活動において汗の影響を完全には排除し得ない。
【0005】
アトピー性皮膚炎患者は年々増加しており、幼少期のみならず、思春期層や成人層においても発症する例も増加しつつある。また、憎悪・寛解を繰り返しながら慢性化することが多い。アトピー性皮膚炎症状の軽減にはステロイド剤などの外用剤が主に使用されるが、ステロイドを長期にわたって使用すると副作用の懸念があり、乳幼児への使用は特に注意を要する。
従って、あらゆる年齢層を対象とすることができ、副作用の懸念がなく、汗抗原の影響を軽減できる材料が強く望まれるところである。
【0006】
特許文献3には、カチオン化繊維であるカチオン化セルロースが汗抗原を吸着除去できることが記載され、衣服、衛生用品、医療材料、外用剤、医薬部外品、化粧品に応用可能であると記載されている。
しかしながら、このようなカチオン化繊維によっても十分な効果が発揮されないことがあった。また、特許文献3には、多孔性粉体と汗抗原吸着性との関係については記載されていない。
【特許文献1】国際公開第2003/084991号公報
【特許文献2】国際公開第2005/005474号公報
【特許文献3】特開2005−82932号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は前記背景技術の課題に鑑みなされたものであり、その目的は、汗抗原を効率的に吸着除去し、汗によるアトピー性皮膚炎の症状の誘発を軽減あるいは予防し得る安全性の高い材料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を達成するために本発明者らが鋭意検討を行った結果、細孔を有する多孔性粉体が汗抗原を効率的に吸着可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明にかかる汗抗原吸着剤は、細孔を有する多孔性粉体からなることを特徴とする。
本発明において、一つには、前記多孔性粉体が60Å以上の細孔径を有することが好適である。
また、本発明において、前記多孔性粉体が無機粉体であることが好適である。
また、本発明において、一つには、前記多孔性粉体がアロフェンであることが好適である。
【発明の効果】
【0009】
本発明の汗抗原吸着剤は、細孔を有する多孔性粉体からなり、これが汗抗原を効率的に吸着し得る。よって、本発明の汗抗原吸着剤は、例えば汗によるアトピー性皮膚炎の症状の誘発を軽減あるいは予防に有用であり、安全性も高い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の汗抗原吸着剤は、ヒトの汗中に分泌されるアトピー性皮膚炎誘発性の抗原成分(例えば、前記PRPタンパク質、PIPタンパク質、その修飾タンパク質等)を吸着し得る粉体である。このような粉体が皮膚上に存在すると、汗中の汗抗原が吸着除去されるので、汗によるアトピー性皮膚炎の症状発生を軽減あるいは予防することができる。
【0011】
本発明の汗抗原吸着剤は細孔を有する多孔性粉体からなる。
多孔性粉体の種類、大きさ、形状等は特に制限されないが、細孔径は60Å以上、特に110Å以上であるものが好適に使用できる。また、吸着量の点から、粉体の比表面積も大きい方が好ましく、例えば40m/g以上のものが好適である。なお、比表面積が40m/g以上であっても、細孔径が小さいと十分な汗抗原吸着能は発揮されない。
また、無機粉体、有機粉体の何れも使用可能であるが、無機粉体の方が汗抗原吸着能が高い傾向があるので好ましい。多孔性無機粉体を構成する無機物質としては、通常皮膚外用組成物に配合可能なものから選択することができる。例えば、シリカ、二酸化チタン、メタケイ酸アルミニウムマグネシウム、アルミナなどが挙げられるが、これらに限定されない。
【0012】
また、汗抗原吸着剤として、アロフェンも好適に用いることができる。アロフェンは中空球形のアルミノケイ酸塩であり、天然には非晶質の含水ケイ酸アルミニウムの粘土鉱物の形で得ることができ、鹿沼土等の火山灰や軽石が風化した土壌物を脱鉄することよって得ることができる。アロフェンは多孔質であり、SiO2/Al23が1〜2である。アロフェンは、その細孔径が60Å未満でも高い汗抗原吸着能を発揮する。
代表的なアルミノケイ酸塩化合物としては、カオリナイト、雲母等が挙げられるが、これらは層状で細孔を持たないため、アロフェンのような汗抗原吸着能がない。また、アロフェンはその中空球形で直径が通常100Å以下であるため、これら層状アルミノケイ酸塩に比べて、例えば肌に塗布した場合ののび、なめらかさ、調湿性、吸湿性、自然な仕上がり等においても優れる。
アロフェンは、例えばO.P.Mehraらの方法により、土壌物を脱鉄することにより得ることが可能である(Clays and Clay Minerals 7.317−327(1960))。また、特開10−158115号公報に記載のものなども用いることができる。
【0013】
本発明の汗抗原吸着性剤を、各種材料に含有させることにより、該材料にその機能を付与できる。含有方法は、特に制限されず、固着・充填・塗布・配合等とすることができる。
本発明の汗抗原吸着剤を含有する材料の用途・形態は、固体、液体、気体を問わず、特に制限されないが、ヒトの皮膚に直接触れる、あるいは特に摩擦を生じる可能性のある用品、あるいはそれを構成する材料として使用することが好ましい。
例えば、外用剤や化粧用具の他、衣類、衛生材料、医療材料、その他ヒトの皮膚に接触し得る製品用途において好適に利用される。
【0014】
外用剤(化粧料、医薬部外品、医薬品を含む)としては、例えば、化粧水、乳液、クリーム、ファンデーション、化粧下地、口紅、アイシャドー、頬紅、アイライナー、パック、おしろい、制汗剤、ボディパウダー、ベビーパウダー、浴用剤等の皮膚化粧料、へアートリートメント、ヘアリキッド、整髪料、育毛料等の頭髪化粧料などの化粧料、軟膏や貼付剤などが挙げられる。
外用剤は、粉体が配合可能であれば公知の方法で任意の剤型とすることができ、例えば、粉末状、ケーキ状、ペンシル状、スティック状、軟膏状、分散液状、ムース状、スプレー状、ゲル状、シート状などとすることができるがこれらに限定されない。
【0015】
化粧用具としては、例えば、ウエットティッシュ、紙おしろい、クレンジングシート、脂とり紙、コットン、スポンジ、パフ、アイシャドー用チップ、パック用フェイシャルマスク、面棒、化粧筆、ヘアブラシなどが挙げられる。
【0016】
衣類としては、肌につけるものの他、肌に使用するもの、肌に接触するものを含み、衣服、ストッキング、タイツ、下着、肌着、ハンカチ、タオル、シーツなどの他、帽子、靴、いす、ベッド、布団、毛布、座布団、枕やそれらのカバー、カーペット、じゅうたん等の家具・寝具類も含む。
衛生用品、医療材料としては、ウエットティッシュ、コットン、スポンジ、ガーゼ、マスク、包帯、サポーター、ティッシュ、避妊具、便座およびそのカバー、絆創膏、柔軟仕上げ剤などが挙げられる。
【0017】
その他にも、スポーツ用テープ、スポーツ用サポーター、テニス・卓球・スキー等の各種スポーツ用品のグリップ、グローブ、野球のバットやグローブ、ラグビーやフットボール等の各種防具等のスポーツ用品類;自動車、自転車、バス、電車、飛行機等の車両用シートや吊り革、取手、内装用品等の部材類などが挙げられる。
【0018】
本発明の汗抗原吸着剤を外用剤に配合する場合、本発明の効果を損なわない範囲において、通常化粧品や医薬品等の皮膚外用組成物に用いられる他の成分、例えば、粉末成分、液体油脂、固体油脂、ロウ、炭化水素、高級脂肪酸、高級アルコール、エステル、シリコーン、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、両性界面活性剤、非イオン界面活性剤、保湿剤、水溶性高分子、増粘剤、皮膜剤、紫外線吸収剤、金属イオン封鎖剤、低級アルコール、多価アルコール、糖、アミノ酸、有機アミン、高分子エマルジョン、pH調整剤、皮膚栄養剤、ビタミン、酸化防止剤、酸化防止助剤、香料、水等を必要に応じて適宜配合することができる。
【0019】
なお、本発明においては、汗抗原吸着能に特に影響のない限り、必要に応じて公知の表面処理方法、例えば、アルミニウムステアレート、ジンクミリステート等の脂肪酸石鹸、キャンデリラロウ、カルナバロウ等のワックス類、メチルポリシロキサン等のシリコーンオイルで粉体を疎水化して用いることもできる。
【0020】
本発明の外用剤組成物における汗抗原吸着剤の配合量としては、例えば0.1〜100質量%とすることができ、所望の効果の程度に応じて適宜決定することができるが、汗抗原に対する吸着性を十分に発揮させるために、外用剤組成物中の非揮発性成分のうち汗抗原吸着剤が50質量%以上を占めることが好ましく、さらに好ましくは70質量%以上、より好ましくは90質量%以上である。
本発明の外用剤組成物の好適な例として、フェースパウダーやパウダリーファンデーションなどの粉末化粧料あるいは固形化粧料が挙げられる。他の成分の影響を抑えるために、例えば、粉体を組成物中70質量%以上、さらには90質量%以上含む粉末化粧料や固形化粧料とすることができる。
【0021】
また、その他の用途においても、汗抗原吸着剤を各種材料に含有させることができ、このような材料としては特に制限されないが、例えば、繊維、紙、樹脂、接着剤、プラスチック、皮革、木材、セラミック、又は金属及びその誘導体等の材料が挙げられる。
【0022】
繊維材料としては、特に制限はなく、綿、麻、絹、獣毛(例えば、羊毛、豚毛、カシミヤ、アンゴラ他)等の天然繊維、レーヨン、キュプラ、ベンベルグ、アセテート等の再生繊維、プロミックス等の半合成繊維、アクリル、ポリエステル、ナイロン、ビニロン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリウレタン、ポリアミド、ポリ塩化ビニル等の合成繊維、ならびにこれらの複合繊維などが用いられ、その形態としては、糸、ひも、編物、織物、不織布などが挙げられる。
【0023】
本発明の汗抗原吸着剤をこれら材料に含有させる方法としては、例えば汗抗原吸着剤を水に溶解又は分散させた後、若しくは有機溶剤に溶解させた後、スプレー法、パッド法、浸漬法、コーティング法等で材料に付着させ、その後乾燥することにより固着させることができる。さらに、耐久性を得るために、必要に応じて架橋剤やバインダーを併用することもできる。また、樹脂などについては練りこむこともできる。
【0024】
その他、本発明の汗抗原吸着剤を材料に含有させる方法を以下に示すが、これに限定されず、従来公知の方法とすることができる。
紙への充填
紙は本来植物性繊維を主原料とした極めて粗い多孔質シートである。ここに本発明の汗抗原吸着剤を充填することにより、内部に保持することができる。
工程の概要は以下のとおりである。
1.パルプを水に分散させ、叩解機にて繊維の切断、粘状化を施す。
2.フィラーとして、本発明の汗抗原吸着剤を加える。
3.抄紙機へかける。
【0025】
糊、ニス、ラッカー、塗料、接着剤等への配合
本発明の汗抗原吸着剤を糊、ニス、ラッカー、塗料、接着剤に配合し、これを材料に塗布・付着することにより、汗抗原吸着効果が保持される。
工程の概要は以下のとおりである。
1.本発明の汗抗原吸着剤のスラリーを調製する。
2.糊、ニス、ラッカー、塗料、又は接着剤を添加する。
3.均一に塗布し、乾燥する。
【0026】
皮革や木材等への固着
本発明の汗抗原吸着剤を合成樹脂からできたバインダーと共に印捺し、熱処理を行って、当該汗抗原吸着剤を樹脂により固着させる。
【0027】
衣料用柔軟仕上げ剤等への配合
本発明の汗抗原吸着剤を衣料用柔軟仕上げ剤等へ配合することにより、皮膚に触れる衣料品に本発明の汗抗原吸着剤が付着、保持される。
【0028】
樹脂への配合
本発明の汗抗原吸着剤を樹脂へ配合する場合には、例えば、所望の樹脂、汗抗原吸着剤、及び必要に応じて酸化防止剤、熱安定剤、紫外線吸収剤、滑剤、帯電防止剤、難燃剤、結晶化促進剤、及び充填剤等の添加剤を、所定の割合で、溶融混練することができる。この溶融混練は、樹脂の融点又は軟化点以上の温度に加熱することで行われる。溶融混練は、実際には、例えば、一軸押出機、二軸押出機、ロール混練機、及びブラベンダー等の一般的な混練機を用いて行えばよいが、加熱時にせん断力を加えて汗抗原吸着剤を樹脂に均一に分散させるためには、二軸押出機を用いることが好ましい。
【0029】
樹脂としては、ポリエチレン及びポリプロピレンのようなポリオレフィン類、ポリ塩化ビニル、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリ酢酸ビニル、及びポリスチレンのようなビニル重合体、ポリアミド、上記生分解性樹脂のポリエステル系樹脂を除くポリエステル、ポリカーボネート、ポリブタジエン、ブ夕ジエン/スチレン共重合体、エチレン/プロピレン共重合体、ブタジエン/アクリロニトリル共重合体、及びエチレン/プロピレン/ジエン共重合体のようなビニル共重合体、天然ゴム、アクリルゴム、塩素化ブチルゴム、及び塩素化ポリエチレンのようなエラストマー又はこれらの無水マレイン酸等による酸変性物、スチレン/無水マレイン酸共重合体、スチレン/フェニルマレイミド共重合体、ポリアセタール、ポリスルホン、フェノキシ樹脂、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンエーテル、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルケトン、ポリメチルメタクリレート、並びにポリアリレートなどが挙げられる。
得られた汗抗原吸着剤含有樹脂組成物は、公知の方法によりさらに所望の形状、サイズに成形されてよい。
【0030】
汗抗原吸着剤の含有量は特に制限されないが、例えば繊維材料(目付150g/m)の場合、好ましくは0.005〜10g/mであり、より好ましくは10〜5g/mである。含有量が0.005g/m未満であると効果の発現に乏しくなる傾向にあり、10g/mを超えても使用量に見合う汗抗原吸着効果が得られにくく、経済的に不利となる傾向にある。
【実施例】
【0031】
以下、具体例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、配合量は特に示さない限り質量%で示す。
また、本発明で用いた試験方法は次の通りである。
【0032】
[汗抗原吸着試験]
各種試験粉体0.5gを直径約8mmのカラムに充填し、リン酸緩衝液(PBS)10mLで洗浄した。洗浄液が試験粉体充填面まで流下した後カラムの出口を閉じ、このカラムにヒトの汗0.3mLを添加した。汗を粉体内に浸透させた状態で10分放置した後、溶出液の合計が3mLになるまでPBSで溶出した。
この溶出液のヒスタミン遊離活性及び総タンパク量から、各試験粉体のヒスタミン遊離活性抑制率及びタンパク吸着率を求めた。コントロールとしては、ヒト汗をPBSで希釈したものを用いた。
【0033】
(1)ヒスタミン遊離活性抑制率
ヒスタミン遊離活性は、アトピー性皮膚炎患者の末梢血好塩基球を用い、文献記載の方法に従って、溶出液中及びコントロール中のヒスタミン遊離(HR)活性を測定することにより行った(Koro, O. et.al. J. Allergy Clin. Immunol., 103,663−670,1999)。ヒスタミン遊離活性抑制率(HR活性抑制率)は次式に従って算出した。
HR活性抑制率(%)=
(コントロールHR活性−溶出液HR活性)/(コントロールHR活性)×100
HR活性抑制率が高いことは、コントロールに比して溶出液中のHR活性が低いことを意味する。よって、これはヒスタミン遊離活性物質である汗抗原が高率で試験粉体に吸着除去されたことを意味し、HR活性抑制率は汗抗原吸着率と見なすことができる。
【0034】
(2)タンパク吸着率
総タンパク量(Pro)は、Pierce社のMicroBCA Assayキットを用い、製品付属の取扱説明書の方法に従って測定した。タンパク吸着率を次式(1)に従って算出した。
タンパク吸着率(%)=
(コントロールPro−溶出液Pro)/(コントロールPro)×100
【0035】
[比表面積及び細孔径の測定]
試験粉体の比表面積及び細孔径は、OMNISORP 100CX(COULTER株式会社)により測定した。
【0036】
試験例1 細孔
まず、各種粉体を用いてヒスタミン遊離活性抑制効果について調べた。
【表1】

【0037】
表1のように、粉体によってヒスタミン遊離活性抑制効果(すなわち汗抗原吸着効果)に顕著な差異があり、細孔のない板状アルミナやセルロース粉末ではヒスタミン遊離活性抑制効果は低く、細孔を有する多孔性粉体では比較的高いヒスタミン遊離活性抑制効果が認められた。
そして、アロフェン以外の多孔性粉体では、細孔径が小さいとヒスタミン遊離活性抑制効果が低い傾向があり、細孔径が60Å以上、特に110Å以上の粉体で非常に高い汗抗原吸着性が認められた。比表面積については吸着量の点では有利と考えられるが、比表面積が大きくても細孔径が小さいとヒスタミン遊離活性抑制効果は低かった。これは、細孔径が小さいと汗抗原が細孔に侵入できず吸着が十分に行われないためではないかと考えられる。
【0038】
一方、アロフェンに関しては、細孔径が約45Åと比較的小さかったが、高いヒスタミン遊離活性抑制効果が発揮された。アロフェンは中空球形という他の粉体とは異なる特異的な構造を有しており、これが影響している可能性が考えられる。
【0039】
表2は、種々の細孔径と比表面積を有するシリカを用いてさらに比較した結果である。表2のように、細孔のない場合や、比表面積が非常に大きくても細孔径が小さい場合には、ヒスタミン遊離活性抑制率が低く、このことからも細孔径が汗抗原吸着能に影響していることが示唆された。
【0040】
【表2】

【0041】
試験例2 汗抗原に対する吸着選択性
表3は、シリカa及びシリカbのヒスタミン遊離活性抑制率とタンパク吸着率とを比較した結果である。ヒスタミン遊離活性抑制率はタンパク吸着率に比べて高いことから、汗中のタンパク質のうち、汗抗原が選択的に吸着除去されていることが示唆された。
【0042】
【表3】

【0043】
試験例3 表面活性の影響
汗抗原吸着試験におけるヒスタミン遊離活性の抑制効果が、汗抗原の吸着によるものではなく、粉体の表面活性による汗抗原の分解による可能性も考えられる。
そこで、粉体の表面活性の指標として、t−ブチルアルコール(t−BuOH)、及びイソプロピルアルコール(IPA)の分解率を測定した。
【0044】
[表面活性測定方法]
粉末の表面活性は論文(色材.55 [12] 864−871(1982))に報告されている方法に従って測定した。
【0045】
【表4】

【0046】
表4のように、表面活性とヒスタミン遊離活性抑制率の間に特に相関は認められなかった。よって、汗抗原吸着試験におけるヒスタミン遊離活性抑制は汗抗原の分解によるものではなく、吸着除去によるものであると考えられる。
【0047】
試験例4 表面官能基の影響
前記特許文献2には、カチオン基が汗抗原吸着に有効であることが記載されている。そこで、表面に各種官能基を有するPMMA粉末を用いて表面官能基の影響について検討した。
用いたPMMA粉末は何れも粒径約6〜8μmである。多孔性PMMA粉末としては何れも細孔径約110〜150Å、比表面積約140〜150m/gのものを用いた。無孔性PMMA粉末の比表面積は10m/g未満であった。
【表5】

【0048】
表5からわかるように、カチオン基であるアミノ基は汗抗原吸着能に寄与せず、かえって低下させる傾向があった。アニオン性基である水酸基も同様であった。
また、表1に記載されているような無機粉体は、通常負のゼータ電位(負の表面電荷)を有している。
これらのことから、多孔性粉体による汗抗原吸着において、カチオン基のような表面官能基あるいは表面電荷は関係しないものと考えられる。
【0049】
また、表5において、多孔性の方が無孔性の場合に比べて汗抗原吸着能は高かったが、表1の無機粉体に比べると劣るものであった。よって、無機粉体の方が汗抗原吸着性粉体として好ましいと考えられる。
【0050】
試験例5 油分の影響
皮膚外用組成物を製造する場合、製剤設計上、油分の配合が必要とされる場合が多い。そこで、油分の影響について検討するため、試験粉体と油分とを混合し、同様にヒスタミン遊離活性抑制率を測定した。油分としては、下記組成の混合油分を用いた。
混合油分組成:
ポリα−オレフィン水素添加物 41
ワセリン 7
ジメチルポリシロキサン(6mPa・s) 40
2−エチルヘキサン酸セチル 12
計100%
【0051】
【表6】

【0052】
表6からわかるように、酸化チタンやシリカでは、油分の汗抗原吸着能への影響はほとんど認められなかった。これに対し、アロフェンでは油分との混合により汗抗原吸着能が低下する傾向が認められ、この点でも、他の多孔性無機粉体とは異なる傾向を示した。
よって、アロフェンを用いる場合には、油分の配合はアロフェンに対して10質量%以下、さらには5質量%以下とすることが好適である。
【0053】
配合例1 粉白粉
(1)アロフェン 75.0質量%
(2)酸化チタン 3.0
(3)カオリン 5.0
(4)ミリスチン酸亜鉛 5.0
(5)炭酸マグネシウム 5.0
(6)セリサイト 7.0
(7)着色顔料 適量
(8)香料 適量
[製法]
(1)と(7)をブレンダーで混合し、これに(2)〜(6)を添加し、よく混合した後、(8)を噴霧し均一に混合する。これを粉砕機で粉砕した後、ふるいを通し、目的物を得る。
【0054】
配合例2 頬紅
(1)カオリン 19.0質量%
(2)多孔性シリカb 5.0
(3)ベンガラ 0.3
(4)赤色202号 0.5
(5)セレシン 15.0
(6)ワセリン 20.0
(7)流動パラフィン 25.0
(8)イソプロピルミリスチン酸エステル 15.0
(9)酸化防止剤 適量
(10)香料 適量
[製法]
(1)〜(4)を(7)の一部に加え、ローラーで処理する(顔料部)。(5)〜(10)を90℃に加熱溶解し、顔料部を加え、ホモミキサーで均一に分散する。分散後、所定の容器に充填して目的の頬紅を得る。
【0055】
配合例3 ベビーパウダー
(1)アロフェン 93.0質量%
(2)亜鉛華 3.0
(3)ステアリン酸マグネシウム 4.0
(4)香料 適量
[製法]
(1)に(2)及び(3)を添加し、よく混合した後、(4)を噴霧し均一に混合した。これを粉砕器で粉砕した後、ふるいを通し、ベビーパウダーを得た。
【0056】
配合例4 パウダリーファンデーション
(1)タルク 15.0質量%
(2)マイカ 30.0
(3)多孔性微粒子酸化チタン 15.0
(4)二酸化チタン 15.0
(5)雲母チタン 3.0
(6)ステアリン酸亜鉛 1.0
(7)ナイロンパウダー 5.0
(8)酸化鉄赤 1.0
(9)酸化鉄黄 3.0
(10)酸化鉄黒 0.2
(11)スクワラン 6.0
(12)酢酸ラノリン 1.0
(13)ミリスチン酸オクチルドデシル 2.0
(14)ジイソオクタン酸ソルビタン 2.0
(15)モノオレイン酸ソルビタン 0.5
(16)防腐剤 適量
(17)酸化防止剤 適量
(18)香料 適量
[製法]
(1)及び(8)〜(10)をヘンシェルミキサーで混合し、この混合物に(2)〜(7)を添加してよく混合してから(11)〜(18)を70℃で加熱溶解したものを添加混合した。この後、5HPパルペライザー(細川ミクロン)で粉砕し、これを中皿に成形して目的のパウダリーファンデーションを得た。
【0057】
配合例5 樹脂組成物
溶融混練のために、池貝社製PCM−30型2軸押出機を用いた。スクリュー径は30mm、平均溝深さは2.5mmであった。
100質量部のポリエチレンと、8質量部のアロフェンとをドライブレンドし、190℃、スクリュー回転数200rpm(=3.3rps)、滞留時間1.6分で溶融混練を行い、押し出し、ペレット状に加工し、樹脂組成物を得た。
【0058】
配合例6 ウェットティッシュ
(1)不織布の作製
繊度2d/繊維長51mmのレーヨン繊維をカード機で解繊して、目付約40g/mのウェブを得た。該ウェブをウォーターカーテン処理してから、0.08mm径のノズルを二本使用してウォータージェット処理したのち、スルードライヤーで熱風乾燥を施してレーヨン不織布を作製した。ウォータージェット処理は二回行い、一段処理圧50kg/m、二段処理圧70kg/mとした。また、ライン速度は10m/分とした。
【0059】
(2)ウェットティシュの作製
アロフェン2質量%、精製水98質量%からなる分散液40gを、前記(1)の不織布20gに含浸させてウェットティッシュを得た。
【0060】
配合例7 セルロース繊維の製造
平均繊維長が2.35mm、繊維粗度が0.36mg/m、繊維断面の真円度が0.80であるマーセル化パルプ(POROSANIER−JTM:ITT RAYONIER INC.製)100gを水に分散させ、叩解機にて繊維を切断、粘状化した。フィラーとして、シリカbを5g加え、抄紙機へかけた。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
細孔を有する多孔性粉体からなることを特徴とする汗抗原吸着剤。
【請求項2】
請求項1記載の汗抗原吸着剤において、前記多孔性粉体が60Å以上の細孔径を有することを特徴とする汗抗原吸着剤。
【請求項3】
請求項1又は2記載の汗抗原吸着剤において、前記多孔性粉体が無機粉体であることを特徴とする汗抗原吸着剤。
【請求項4】
請求項1記載の汗抗原吸着剤において、前記多孔性粉体がアロフェンであることを特徴とする汗抗原吸着剤。

【公開番号】特開2008−69118(P2008−69118A)
【公開日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−250414(P2006−250414)
【出願日】平成18年9月15日(2006.9.15)
【出願人】(504136568)国立大学法人広島大学 (924)
【出願人】(000001959)株式会社資生堂 (1,748)
【Fターム(参考)】