説明

汚染水中のヒ素除去法およびそれに用いる処理剤

【課題】アルカリ性であるヒ素含有水中のヒ素を効率よく除去し得る方法を提供すること。
【解決手段】ヒ素含有水中のヒ素を除去するための方法であって、鉄粉と酸性溶液とを接触させることにより得られた酸処理鉄粉に、水中のヒ素を吸着させて除去することを特徴とする方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒ素に汚染された地下水や河川水、湖沼水、各種排水などからヒ素を除去する方法、およびヒ素除去用の処理剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、土壌や地下水の重金属による汚染が社会的問題となっている。なかでもヒ素による汚染例が多い。ヒ素の環境基準および飲料水基準は0.01mg/Lであり、排水基準は0.1mg/Lである。そのため、これを超える濃度でヒ素を含有する地下水または排水は、汚染水として浄化処理を施す必要がある。
【0003】
ヒ素含有水の処理法としては、鉄粉により、水中のヒ素を吸着させることが知られており、鉄粉のヒ素吸着能力を向上させるために、様々な提案がなされている。例えば特許文献1は、ヒ素の除去剤として、表面が鉄水酸化物で被覆された鉄粉を開示している。また特許文献2は、所定量のSを含有する鉄粉表面の鉄酸化物および/または水酸化物に、水中のヒ素を吸着させる方法を開示している。
【特許文献1】特開2006−272260号公報
【特許文献2】特開2006−312163号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ヒ素に汚染された地下水などのpHは、周りの環境により様々に変化する。例えば炭酸水素ナトリウムまたはその他のアルカリ成分が溶存する地下水では、pH8程度の弱アルカリ性を示すものがある。また排水等では、さらに高いアルカリ性を示すものがある。しかしヒ素含有水のpHが高くなると、鉄粉へのヒ素吸着量が低下するという問題を見出した。そこで本発明の目的は、アルカリ性であるヒ素含有水中のヒ素を効率よく除去し得る方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成し得た本発明とは、ヒ素含有水中のヒ素を除去するための方法であり、該方法は、鉄粉と酸性溶液とを接触させることにより得られた酸処理鉄粉に、水中のヒ素を吸着させて除去することを特徴とする。
【0006】
前記酸性溶液として、(1)鉄塩を含まないもの、(2)水、並びに硫酸、硝酸、塩酸、クエン酸、酢酸、ギ酸およびリン酸よりなる群から選ばれる少なくとも1種からなる酸性水溶液、(3)4以下のpHを有する酸性水溶液が好ましい。本発明の方法は、中性から弱アルカリ性であるヒ素含有水中のヒ素を除去するために、特に有用である。
【0007】
本発明は、ヒ素含有水中のヒ素を除去するための除去剤も提供し、該除去剤は、水、並びに硫酸、硝酸、塩酸、クエン酸、酢酸、ギ酸およびリン酸よりなる群から選ばれる少なくとも1種からなる酸性水溶液と鉄粉とを接触させることにより得られた酸処理鉄粉を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、酸性溶液で処理した酸処理鉄粉は、アルカリ性のヒ素含有水中のヒ素を効率よく除去することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
アルカリ性のヒ素含有水中のヒ素を効率よく除去するために本発明者らが鋭意検討を重ねた結果、あらかじめ酸性溶液と接触させた酸処理鉄粉は、無処理鉄粉に比べて、アルカリ性ヒ素含有水中のヒ素を効率よく除去できることを見出した。なお上述の特許文献1および2には、アルカリ性のヒ素含有水では鉄粉のヒ素吸着量が低下するという課題、およびそれを解決するために、鉄粉をあらかじめ酸性溶液と接触させるという技術的思想は開示されていない。
【0010】
アルカリ性のヒ素含有水では、酸処理鉄粉が、無処理鉄粉よりも効率よくヒ素を吸着できるメカニズムは、以下のように推定される。但し本発明はこの推定に限定されない:ヒ素含有水中でヒ素は、通常、酸化物イオン(例えばヒ酸イオンまたは亜ヒ酸イオンなど)の形態で溶存しており、鉄粉表面の鉄酸化物または水酸化物は、このヒ酸イオンなどを効率よく吸着する。この鉄酸化物または水酸化物のヒ素の吸着作用は、ヒ素含有水のpHが高いとが阻害されるが、鉄粉をあらかじめ酸で処理しておくことで、吸着作用が阻害されにくくなると考えられる。
【0011】
本発明において、鉄粉と接触させるための酸性溶液には、特に限定は無い。しかしコストの観点から、鉄塩などを含まない酸性溶液が好ましい。特に、水、並びに硫酸、硝酸、塩酸、クエン酸、酢酸、ギ酸およびリン酸よりなる群から選ばれる少なくとも1種からなる酸性水溶液が好ましく、硫酸水溶液が特に好ましい。このような酸性水溶液、例えば硫酸水溶液は、工業的に市販されている。
【0012】
酸性溶液としてあまりに弱い酸を使用すると、鉄粉の酸処理による効果が発揮されない。そこで酸性水溶液を用いる場合、そのpHは4以下、好ましくは3以下であることが好ましい。一方、強い酸性溶液は、鉄粉との浸漬時間をコントロールすることにより使用可能であるが、取り扱いが不便である。特に、あまりに強い酸性溶液を用いると、鉄粉が完全に溶解するおそれもある。そこで酸性水溶液を用いる場合、そのpHは1以上、好ましくは2以上であることが好ましい。
【0013】
本発明において鉄粉の種類に特に限定は無く、工業的に入手可能なあらゆる鉄粉を用いることができる。鉄粉の種類として、例えばアトマイズ鉄粉、鋳鉄粉、およびスポンジ鉄粉、並びにこれらの鉄基完全合金粉および部分合金化粉などが挙げられる。鉄粉の平均粒径は、ヒ素の吸着能力および取扱い性の観点から、好ましくは1μm以上(より好ましくは5μm以上)であり、好ましくは5mm以下(より好ましくは1mm以下)である。
【0014】
本発明において、鉄粉と酸性溶液との接触方法には、特に限定は無く、例えば酸性溶液に鉄粉を浸漬させる方法、または鉄粉を充填したカラムに酸性溶液を流通させる方法などが挙げられる。
【0015】
鉄粉と酸性溶液とを接触させると、以下のような反応:
Fe+2H+→Fe2++H2
により、溶液中の水素イオン量が変化する。そこで鉄粉と酸性溶液(特に酸性水溶液)との接触時間は、水素イオン量(またはpH)の変化がほとんど一定になるまでの時間を目安に適宜決定すればよい。例として、鉄粉1gを硫酸水溶液100mL(pH=2または4)に浸漬させた際の、水素イオン消費量と処理時間のグラフを図1に示す。図1の場合、pH2において50時間、pH4においては20時間程度浸漬すると充分である。
【0016】
所定の接触時間の経過後に、鉄粉と酸性溶液とを分離する。分離して得られる酸性鉄粉を、必要に応じて水洗および乾燥してから、ヒ素含有水中のヒ素の除去に用いればよい。
【0017】
本発明において、酸処理鉄粉を含む除去剤にヒ素含有水を接触させる方法には、特に限定は無く、例えば(1)除去剤を適当な容器に充填し、これにヒ素含有水を通過させて接触させる方法、(2)除去剤をヒ素含有水に添加した後、撹拌・分散させてヒ素を捕捉する方法などが挙げられる。処理するヒ素含有水としては、中性から弱アルカリ性のものが好ましい。具体的にヒ素含有水のpHは、好ましくは7以上であり、好ましくは12以下(より好ましくは8以下)である。
【0018】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例によって制限を受けるものではなく、上記・下記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【実施例1】
【0019】
ヒ素汚染水のモデル液としてAs濃度で1mg/L、10mg/L、100mg/L程度に調整したヒ酸カリウム(KH2AsO4)水溶液を作成し、このモデル液(ヒ素含有水)のpHを、炭酸水素ナトリウムで、それぞれpH=8に調整した。
【0020】
鉄粉として、アトマイズ法により作成した平均粒径が65μmであるものを用いた。この鉄粉を、pH=2またはpH=4に調整した硫酸水溶液に10g/Lの割合で添加して、20℃で72時間撹拌させた後、鉄粉を取り出し、蒸留水で洗浄し、乾燥することにより酸処理鉄粉を作成した。用いた硫酸水溶液のpHにより、以下では、これらを「pH2処理鉄粉」または「pH4処理鉄粉」と表す。また比較例として、酸性溶液と接触させない「無処理鉄粉」を用いた。
【0021】
酸処理鉄粉および無処理鉄粉1gを、それぞれ上記のヒ素含有水100mLに添加し、20℃で72時間、穏やかに撹拌した。72時間後、撹拌を止めて鉄粉と上澄み液とを分離し、上澄み液中の残留ヒ素濃度をフレームレス原子吸光装置により分析した。ヒ素含有水の処理前および処理後のAs濃度を以下の表1に記載する。
【0022】
【表1】

【0023】
表1から明らかなように、pHが8であるヒ素含有水からヒ素を吸着・除去する場合、無処理鉄粉を用いる比較例は、酸処理鉄粉を用いる本発明例と比べて、ヒ素吸着量が大幅に低下している。この結果から、酸性溶液で処理した鉄粉は、無処理鉄粉に比べて、アルカリ性のヒ素汚染水からヒ素を効率的に除去し得ることが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】鉄粉1gを硫酸水溶液100mL(pH=2または4)に浸漬させた際の、水素イオン消費量と処理時間のグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒ素含有水中のヒ素を除去するための方法であって、鉄粉と酸性溶液とを接触させることにより得られた酸処理鉄粉に、水中のヒ素を吸着させて除去することを特徴とする方法。
【請求項2】
前記酸性溶液が、鉄塩を含まないものである請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記酸性溶液が、水、並びに硫酸、硝酸、塩酸、クエン酸、酢酸、ギ酸およびリン酸よりなる群から選ばれる少なくとも1種からなる酸性水溶液である請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記酸性溶液が、4以下のpHを有する酸性水溶液である請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
中性から弱アルカリ性であるヒ素含有水中のヒ素を除去する、請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
ヒ素含有水中のヒ素を除去するための除去剤であって、水、並びに硫酸、硝酸、塩酸、クエン酸、酢酸、ギ酸およびリン酸よりなる群から選ばれる少なくとも1種からなる酸性水溶液と鉄粉とを接触させることにより得られた酸処理鉄粉を含むことを特徴とする除去剤。

【図1】
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【公開番号】特開2008−207071(P2008−207071A)
【公開日】平成20年9月11日(2008.9.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−44189(P2007−44189)
【出願日】平成19年2月23日(2007.2.23)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】