説明

汚泥の脱水方法

【課題】従来の複数の凝集剤を用いる汚泥の脱水方法と同等またはそれ以上の効果が得られ、しかも溶解槽を一つまたは一種類の凝集剤に対応する数しか持たない処理場でも用いることの出来る汚泥の脱水方法を提供することを課題とする。
【解決手段】汚泥に低分子量アニオン性高分子水溶液とカチオン性高分子凝集剤水溶液または両性高分子凝集剤水溶液を添加した後、脱水する汚泥の脱水方法において、低分子量アニオン性高分子水溶液として分子量1,000〜100,000、好ましくは1,000〜10,000の水溶性アニオン性高分子水溶液を用いることにより、従来の分子量が100万以上のアニオン性高分子凝集剤とカチオン性高分子凝集剤または両性高分子凝集剤の組合せによる二液添加法と比較して、凝集剤溶解槽を増設する必要がなく、作業が容易であり、しかもほぼ同等の脱水効果が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分子量が1,000〜100,000の低分子量アニオン性高分子水溶液と分子量が100万以上の高分子量のカチオン性高分子凝集剤または両性高分子凝集剤を用いた新規な組合せによる汚泥の脱水方法に関するものであり、カチオン性高分子凝集剤単独や両性高分子凝集剤単独の一液法では十分な凝集効果が得られない系に有効な方法であり、特に複数の溶解槽を持たない処理施設に適した汚泥の脱水方法に関する。
【背景技術】
【0002】
下水、し尿または各種産業廃水から発生する汚泥は、有機分の高含有化が進み、また汚泥の集中処理による輸送時間の増大などが重なって、ますます難脱水となってきている。一方、脱水ケーキの最終処分としての乾燥、焼却に要するエネルギーを極力少なくすることが望ましく、脱水ケーキの含水率を出来るだけ低くすることが重要な課題となっている。この課題に対応するため、凝集フロックを大きくでき、しかも脱水性の良好な凝集剤および脱水方法が求められており、多くの提案がなされている。例えば、従来のカチオン性高分子凝集剤単独使用に代わって、カチオン性高分子凝集剤とアニオン性高分子凝集剤の併用(例えば、特許文献1、2)、カチオン性高分子凝集剤と両性高分子凝集剤の併用(例えば、特許文献3)、両性高分子凝集剤とアニオン性高分子凝集剤の併用(例えば、特許文献4)などがそれに当たり、汚泥の種類や使用する脱水機に応じて最適の方法が選択され、現在広く用いられている。
【0003】
しかしながら、これらの方法は複数の凝集剤を用いるため、その溶解作業に複数の溶解槽を必要とする場合が多く、一つの凝集剤に対応する溶解槽しか持たない処理場では溶解槽を増設するか、またはこれらの方法を採用することができない。また、複数の凝集剤に対応する溶解槽を有する場合でも、これらの方法は溶解作業に多くの労力を要し、汚泥の性状が変動して凝集剤を変更する場合の対応も複雑である。
【0004】
【特許文献1】特開平10−249399号公報
【特許文献2】特開2001−286898号公報
【特許文献3】特開平2−31899号公報
【特許文献4】特開2003−117600号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、従来の複数の凝集剤を用いる汚泥の脱水方法と同等またはそれ以上の効果が得られ、しかも一つの凝集剤に対応する溶解槽しか持たない処理場でも用いることの出来る汚泥の脱水方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、汚泥に低分子量のアニオン性高分子水溶液とカチオン性高分子凝集剤水溶液または両性高分子凝集剤水溶液を添加した後、脱水する汚泥の脱水方法において、アニオン性高分子水溶液として分子量1,000〜100,000、好ましくは1,000〜10,000の水溶性アニオン性高分子水溶液を用いることにより、従来の分子量が100万以上のアニオン性高分子凝集剤、カチオン性高分子凝集剤、両性高分子凝集剤の組合せによる二液添加法と比較して、凝集剤溶解槽が一つあるいは一種類の凝集剤に対応する数で済み、作業が容易であり、しかもほぼ同等の脱水効果が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明は、下水処理場、し尿処理場、その他各種廃水処理施設で汚泥を脱水するに際し、低分子量アニオン性高分子水溶液とカチオン性高分子凝集剤または両性高分子凝集剤水溶液を用い、添加順序は問わないが、好ましくは最初に低分子量アニオン性高分子水溶液を添加し、次いでカチオン性高分子凝集剤水溶液または両性高分子凝集剤水溶液を添加した後、脱水する汚泥の脱水方法に関する。
【0008】
本発明では、低分子量水溶性アニオン性高分子として、通常汚泥の凝集沈殿に用いられる分子量が約百万以上のアニオン性高分子とは異なる、分子量が1,000〜100,000、好ましくは1,000〜10,000の低分子量アニオン性高分子の水溶液を用いることが特徴の一つである。この低分子量水溶性アニオン性高分子として、好ましくはポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリアクリル酸塩の部分加水分解物、ポリメタクリル酸塩の部分加水分解物、ポリアクリルアミドの部分加水分解物、ポリメタクリルアミドの部分加水分解物、アクリルアミドとアクリル酸またはメタクリル酸との共重合物、メタクリルアミドとアクリル酸またはメタクリル酸との共重合物、アクリルアミドとアクリル酸塩またはメタクリル酸塩との共重合物の部分加水分解物、メタクリルアミドとアクリル酸塩またはメタクリル酸塩との共重合物の部分加水分解物などが挙げられるが、これらに限定されない。また、これらの多くは約20〜50重量%水溶液の形で市販されており、低分子量のため粘性が低く、高濃度での注入が可能であり、原液をそのままあるいは希釈して用いることが出来、ポンプ等の注入設備は小さくて済み、実際の使用にあたって溶解槽を必要とせずに凝集槽に添加できる利点を有する。
【0009】
本発明で使用するカチオン性高分子凝集剤は、従来から汚泥の脱水等に用いられている分子量が100万以上の通常のカチオン性高分子であり、好ましくはジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレートまたはそれらの4級塩もしくは3級塩の単独重合物、あるいはそれらとアクリルアミドまたはメタクリルアミドとの共重合物、ポリアクリルアミドまたはポリメタクリルアミドのホフマン分解物、ポリアミジンなどが挙げられるが、これらに限定されない。
【0010】
本発明で使用する両性高分子凝集剤は、アニオン性モノマーとカチオン性モノマーの共重合物、アニオン性モノマーとカチオン性モノマーとノニオン性モノマーの共重合物、あるいはアニオン性モノマーとカチオン性モノマーの共重合物のマンニッヒ変性物またはホフマン分解物などを挙げることができる。具体的には、カチオン性モノマーとしては、ジアルキルアミノアルキルアクリレート、ジアルキルアミノアルキルメタクリレート、ジアルキルアミノアルキルアクリルアミドなどの3級化物あるいは4級化物が挙げられ、例えばジメチルアミノエチルメタクリレート、ジメチルアミノエチルアクリレート、ジメチルアミノプロピルアクリルアミドの3級化物あるいは4級化物が具体例として挙げられるが、これらに限定されない。アニオン性ビニル系モノマーとしては、アクリル酸、メタクリル酸、ビニルスルホン酸、3−メタクリロイルオキシプロパンスルホン酸およびこれらのアルカリ金属塩、アンモニウム塩などが挙げられるが、これらに限定されない。ノニオン性ビニル系モノマーとしては、例えばアクリルアミド、メタクリルアミドなどのビニル基含有アミド類、さらにはビニル基含有ニトリル類、(メタ)アクリル酸のアルキルエステル類などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0011】
本発明の上述した汚泥の脱水方法は、本来凝集性を持たない低分子量のアニオン性高分子水溶液とカチオン性高分子凝集剤または両性高分子凝集剤との組合せにより、カチオン性高分子凝集剤単独または両性高分子凝集剤単独よりも凝集および脱水性能が上がり、また高分子量のアニオン性高分子凝集剤とカチオン性高分子凝集剤の併用法とほぼ同等の効果が得られることを見出したものである。従って、本発明の方法は、その使用に制限はないが、例えばカチオン性高分子凝集剤単独の一液法で脱水性能がやや不十分であったり、汚泥の変動によって脱水性が低下した場合などに、溶解設備を増設することなく、本発明の方法を容易に用いることができる利点を有する。
【0012】
具体的には、カチオン性高分子凝集剤の一液法ではフロックが小さすぎて脱水できない場合、あるいはフロックが小さく、SS回収率が悪い汚泥の場合などに、カチオン性高分子凝集剤を加える前に低分子量アニオン性高分子水溶液を加えることにより、フロック径を大きくし、フロック強度を上げることができ、また脱水ケーキの含水率を下げることができる。また、両性高分子凝集剤の一液法で処理している場合で、含水率が下がらない場合に、両性高分子凝集剤に低分子量アニオン性高分子水溶液を併用するか、または両性系に変えて、低分子量アニオン性高分子水溶液とカチオン性高分子凝集剤の併用系とすることによって、汚泥の脱水性を改善することが可能となるなど、多様な利用法が考えられる。
【0013】
本発明において、低分子量アニオン性高分子水溶液、各凝集剤を汚泥に添加する場合、最適な方法は汚泥性状によっても異なるが、まず好ましくは低分子量アニオン性高分子水溶液を添加し、その後カチオン性高分子凝集剤水溶液または両性高分子凝集剤水溶液を添加することが好ましい。あるいはカチオン性高分子凝集剤水溶液または両性高分子凝集剤水溶液を添加後、低分子量アニオン性高分子水溶液を添加する方法、アニオン性高分子水溶液とカチオン性高分子凝集剤水溶液または両性高分子凝集剤水溶液とを同時に添加する方法も可能である。添加量については、アニオン性高分子水溶液を汚泥に10〜1000ppm添加することによって効果を発揮するが、より好ましい添加量は30〜500ppmである。さらに、添加するアニオン性高分子水溶液とカチオン性高分子凝集剤または両性高分子凝集剤との純分換算重量比は、1:2〜1:10の範囲が好ましい。
【0014】
本発明の処理対象となる汚泥としては、下水・し尿処理場、各種工場、食品関係、畜産関係、農業集落廃水等の生物処理汚泥で、特に制限はないが、前述した通り、本発明の方法は凝集剤の溶解槽を増設する必要がなく、溶解槽を一つしか持たない小規模の廃水処理施設の汚泥処理に特に有効である。なお、脱水機については特に制限はない。
【発明の効果】
【0015】
本発明は、汚泥に分子量が1,000〜100,000のアニオン性高分子水溶液を添加し、次いでカチオン性高分子凝集剤または両性高分子凝集剤を添加することによって、通常の分子量が100万以上のアニオン性高分子凝集剤とカチオン性高分子凝集剤を用いる二液法と同等の凝集効果が得られることを見出してなされたものである。本発明の低分子量のアニオン性高分子水溶液は20〜50重量%水溶液として市販されており、そのままあるいは希釈して用いることができ、溶解槽を必要としない。したがって、溶解槽を1槽あるいは一種類の凝集剤に対応する数しか持たない処理場において、カチオン性高分子凝集剤または両性高分子凝集剤単独では十分な凝集効果が得られなくなった場合に、本発明の方法を採用することにより、溶解槽を増設することなく、二液法とほぼ同等の凝集効果を得ることが可能となる。
【実施例】
【0016】
以下に実施例および比較例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの例によって限定されるものではない。
【0017】
以下の実施例、比較例には、下記のアニオン性高分子水溶液、高分子凝集剤を用いた。
アニオン性高分子水溶液(LA);
ポリアクリル酸(MW約5000)40重量%水溶液
カチオン性高分子凝集剤(CA);
DAC:AAM(モル比80:20)
カチオン性高分子凝集剤(CM);
DMCホモポリマー
ここで用いた略号は以下の化合物を示す。
DAC;ジメチルアミノエチルアクリレート/塩化メチル4級塩
DMC;ジメチルアミノエチルメタクリレート/塩化メチル4級塩
AAM;アクリルアミド、
【0018】
(比較例1〜3)
試験用の汚泥として、以下の性状の工場廃水汚泥を用いた。
pH:6.82
TS:1.87%
SS:1.83%
VTS:85.9%
Mアルカリ度:550ppm
300mlビーカーに上記汚泥100mlを採り、攪拌下にカチオン性高分子凝集剤(CA)を量を変えて添加した後、350rpmで60秒間攪拌した。凝集状態、フロック径を測定後、60メッシュのナイロン製ろ布を敷いたヌッチェ漏斗によりろ過を行った。得られたケーキを60メッシュナイロン製ろ布にはさみ、圧搾脱水試験器により、面圧0.5kg/cmで1分間圧搾した後、ケーキ含水率を求めた。結果を表−1に示す。表から明らかなとおり、添加した凝集剤の量によらず、いずれも、フロック性状、脱水性共に不十分な結果である。
【0019】
(実施例1〜3)
比較例1〜3と同一の汚泥を用い、汚泥に10重量%に希釈したアニオン性高分子水溶液(LA)50ppmを添加、攪拌後、カチオン性高分子凝集剤(CA)を添加する以外は、比較例1〜3と同様の操作を行った。結果を表−1に示す。カチオン性高分子凝集剤を添加する前に、低分子量のアニオン性高分子水溶液を添加することによって、フロック性状(径及び強度)、脱水性共に大幅な改善が認められた。
【0020】
【表−1】

【比較例4〜6】
【0021】
試験用の汚泥として、以下の性状の養豚場廃水生汚泥を用いた。
pH:8.74
TS:1.77%
SS:0.97%
VTS:60.4%
Mアルカリ度:11,400ppm
300mlビーカーに上記汚泥100mlを採り、攪拌下にカチオン性高分子凝集剤(CM)を量を変えて添加した後、350rpmで60秒間攪拌した。凝集状態、フロック径を測定後、60メッシュのナイロン製ろ布を敷いたヌッチェ漏斗によりろ過を行った。得られたケーキを60メッシュナイロン製ろ布にはさみ、圧搾脱水試験器により、面圧0.5kg/cmで1分間圧搾した後、ケーキ含水率を求めた。結果を表−2に示す。
【実施例4〜6】
【0022】
比較例4〜6と同一の汚泥を用い、汚泥に10重量%に希釈したアニオン性高分子水溶液(LA)300ppmを添加、攪拌後、カチオン性高分子凝集剤(CA)を添加する以外は、比較例1〜3と同様の操作を行った。結果を表−2に示す。比較例のカチオン性高分子凝集剤単独添加では、フロックは小さく、脱水困難であり、SS回収率はいずれも50%以下であったが、カチオン性高分子凝集剤を添加する前に、低分子量のアニオン性高分子水溶液を添加することによって、フロック性状(径及び強度)、脱水性、SS回収率共に大幅に改善した。
【0023】
【表−2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
汚泥に低分子量アニオン性高分子水溶液とカチオン性高分子凝集剤水溶液または両性高分子凝集剤水溶液を添加した後、脱水する汚泥の脱水方法において、アニオン性高分子が分子量1,000〜100,000の水溶性アニオン性高分子であることを特徴とする汚泥の脱水方法。
【請求項2】
汚泥に低分子量アニオン性高分子水溶液を添加し、次にカチオン性高分子凝集剤水溶液または両性高分子凝集剤水溶液を添加する請求項1記載の方法。
【請求項3】
アニオン性高分子が、ポリ(メタ)アクリル酸、ポリ(メタ)アクリル酸塩の部分加水分解物、ポリ(メタ)アクリルアミドの部分加水分解物、(メタ)アクリル酸と(メタ)アクリルアミドとの共重合物、(メタ)アクリル酸塩と(メタ)アクリルアミドとの共重合物の部分加水分解物から選ばれた少なくとも一種からなる請求項1、2記載の方法。

【公開番号】特開2007−29940(P2007−29940A)
【公開日】平成19年2月8日(2007.2.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−241801(P2005−241801)
【出願日】平成17年7月28日(2005.7.28)
【出願人】(000142148)ハイモ株式会社 (151)
【Fターム(参考)】