説明

沈殿槽及びそれを用いた廃水の処理方法

【課題】周辺に強い臭気を放散することなく、且つ含窒素有機物および/または含硫黄有機物を含有する廃水等を大量に処理できる沈殿槽を提供する。
【解決手段】廃水導入口11及び上澄み液排出口12を備え、略円筒形状で上面開口の槽本体1と、槽本体1の上面開口を覆う蓋部材2と、槽本体1の中心軸に沿って設けられ、蓋部材2から上部が突出した回転軸3と、回転軸2の下部に設けられた撹拌翼4と、槽本体1の外周壁の上端面を自走するローラ51と、ローラ51と回転軸3とを繋ぐアーム5とを設ける。そして、ローラ51を槽本体1の外周壁の上端面を自走させることにより、アーム5を旋回させて回転軸3を回転させ、回転軸3に設けられた撹拌翼4を回転させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は沈殿槽及びそれを用いた廃水の処理方法に関し、より詳細には、含窒素有機物および/または含硫黄有機物を含有する廃水の処理に好適な沈殿槽及びそれを用いた廃水の処理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、食品、飲料水、医薬品及び農薬等の製造にあたっては、含窒素有機物および/または含硫黄有機物等を含む廃水が大量に発生する。発生した廃水の処理には、例えば、必要に応じて中和した廃水を沈殿槽中で撹拌して、廃水に含まれていた固形物及び廃水を中和することにより生成した固形物等を沈殿させ、得られた上澄み液を曝気槽中で微生物等と処理することにより、前記上澄み液に含まれる含窒素有機物および/または含硫黄有機物等を分解する活性汚泥法が用いられている(例えば特許文献1を参照)。
【0003】
曝気槽中で分解される前の含窒素有機物および/または含硫黄有機物等は強い臭気を放つため、前記沈殿槽周辺の作業環境等を悪くする場合がある。このため、沈殿槽を密閉型として臭気が外部に放散するのを防止していた。かかる密閉型の沈殿槽では、これまで、撹拌翼を回転させるモータは回転軸上または回転軸近傍に設けられていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平6-190387号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、沈殿槽を大型化すると、大きな撹拌動力が必要となりモータも大型化せざるを得ない。モータが大型化するとその重量が増すためモータを回転軸上または回転軸近傍に設けられなくなる。
【0006】
そこで、本発明は、処理施設周辺に強い臭気を放散させることなく、且つ、沈殿槽上にモータを設けることなく、含窒素有機物および/または含硫黄有機物を含有する廃水等を処理できる沈殿槽等を提供することをその目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成する本発明に係る沈殿槽は、廃水導入口及び上澄み液排出口を備え、略円筒形状で上面開口の槽本体と、前記槽本体の上面開口を覆う蓋部材と、前記槽本体の中心軸に沿って設けられ、前記蓋部材から上部が突出した回転軸と、前記回転軸の下部に設けられた撹拌翼と、前記槽本体の上端部に沿って自走可能なローラと、前記ローラと前記回転軸とを繋ぐアームとを具備し、前記ローラを前記槽本体の上端部に沿って自走させることにより、前記アームを旋回させて前記回転軸を回転させ、前記回転軸に設けられた前記撹拌翼を回転させることを特徴とする。
【0008】
ここで、前記蓋部材として、布状部材から構成される物を用いてもよい。
【0009】
また、前記撹拌翼の下部に、前記槽本体の底面に溜まった沈殿物を前記槽本体の中央部に掻き寄せる掻き寄せ部材を設けるのが好ましい。
【0010】
また本発明に係る廃水の処理方法は、含窒素有機物および/または含硫黄有機物を含有する廃水を沈殿槽の中で撹拌する沈殿工程と、前記沈殿工程で得られた上澄み液を曝気槽中で微生物処理する浄化工程とを含む廃水の処理方法であって、前記沈殿槽が前記のいずれかに記載の沈殿槽であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る沈殿槽及び廃水の処理方法によれば、処理施設周辺に強い臭気を放散させることがない。また、回転軸上または回転軸近傍にモータを設けることなく、しかも小さな回転力で撹拌翼を回転させることができるので沈殿槽を大型化できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明に係る沈殿槽の一例を示す垂直断面図である。
【図2】本発明に係る沈殿槽の一例を示す平面図である。
【図3】沈殿槽上部の部分断面図である。
【図4】布状部材2を取り外した状態の沈殿槽の平面図である。
【図5】図1の円Aで囲んだ部分の斜視図である。
【図6】本発明に係る廃水の処理方法の一例を示す工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明に係る沈殿槽及び処理方法について図に基づいて詳述するが、本発明はこれらの実施形態に何ら限定されるものではない。
【0014】
図1に、本発明に係る沈殿槽の一例を示す垂直断面図を、図2に沈殿槽の平面図をそれぞれ示す。図1の沈殿槽Dは、円筒状で上面開口の槽本体1を有し、槽本体1の底面は中央部に向かって下り勾配とされ、底面中央部には上方に向かって突出した柱状部13が形成されている。柱状部13の下端外周には、後述する掻き寄せブレード(掻き寄せ部材)41によって掻き寄せられた沈殿物が溜まる環状凹部14が形成されている。そして、下面開口の円筒状で、周側面が鉄骨網目構造の回転軸3が柱状部13に外挿されている。柱状部13の上面と回転軸3の内上面との間にはスラスト軸受けが介装されており、回転軸3は柱状部13に対して回転自在とされている。回転軸3の下部外周には4つの撹拌翼4a,4b,4c,4d(以下、「撹拌翼4」と総称して記すことがある。)が周方向に等間隔で取り付けられている(図2を参照)。撹拌翼4a,4cは槽本体1の半径とほぼ同じ長さを有し、撹拌翼4b、4dは槽本体1の半径の約半分長さを有する。それぞれの撹拌翼4の下部には、半径方向に所定間隔で、且つ半径方向に対して所定角度を有するように複数の掻き寄せブレード41が設けられている。
【0015】
回転軸3の上部には、アーム5の一方端が固定され、アーム5の他方端は、槽本体1の外周壁の上端面を自走するローラ51に接続している。これにより、モータMによってローラ51を槽本体1の外周壁の上端面を周方向に走行させると、アーム5及び回転軸3を介して撹拌翼4が回転する。
【0016】
槽本体1の柱状部13の中心部には、廃水導入管17が軸方向下方から上方に向かって内挿されており、柱状部13の上部に形成された廃水導入口11から槽本体1に廃水が流入するようになっている。一方、槽本体1の外周壁の上部には、周方向の等間隔で複数の排出口12が形成されており、排出口12から半径方向外方に延出するように溢出堰16が形成されている。そして、槽本体1の外周壁の外周には集水樋15が設けられており、溢出堰16から溢れ出た槽本体1内の上層の上澄み液は集水樋15で集められ次工程(例えば浄化工程)へ送られる。
【0017】
一方、槽本体1の底面に沈殿した沈殿物は、撹拌翼4に取り付けられた掻き寄せブレード41の回転によって環状凹部14に掻き寄せられる。そして、環状凹部14に掻き寄せられた沈殿物は、環状凹部14の底面に接続している引抜管18を介して不図示のポンプで吸引除去される。
【0018】
図3に沈殿槽上部の部分断面図を、図4に布状部材2を取り外した状態の沈殿槽の平面図を、図5に、図1の円A内の拡大部分斜視図をそれぞれ示す。回転軸3の上面には環状部材61が回転軸3と同心円状に設けられている。環状部材61には周方向に等間隔で複数の車輪62が取り付けられている。そして、図4に示すように、槽本体1の外周壁の上部内周面と環状部材61の外周面との間には、複数本のワイヤー7が周方向に等間隔で取り付けられている。これら複数本のワイヤー7によって環状部材61は定位置に安定して固定され、アーム5の回転によって回転軸3が回転した場合、環状部材61は定位置に留まり車輪62が回転する。なお、ワイヤー7に代えてパイプなど従来公知の線状部材や棒状部材を用いても構わない。
【0019】
図3に示すように、ワイヤー7の上方の、槽本体1の外周壁の上部内周面と環状部材61の外周面との間には、槽本体1の上面開口を覆うように布状部材(蓋部材)2が張設されている。また、布状部材2の途中部には下方に垂れ下がった袋状の掛かり布部21が形成され、この掛かり布部21内をワイヤー7が挿通している。掛かり布部21を介して布状部材2をワイヤー7に掛止することによって、布状部材2のばたつきが抑えられ安定した張設状態が維持される。
【0020】
このように、本発明の沈殿槽Dでは、槽本体1の上面開口を布状部材2で覆っているので、廃水から生じる強い臭気が処理施設周辺に放散されること防止される。また、槽本体1の外周壁の上端面をローラを自走させることによってアーム5と回転軸3とを介して撹拌翼4を回転させるので、「てこ」の原理によって小さな回転力で撹拌翼4を回転させることができ、槽本体1の大型化も可能となる。
【0021】
なお、以上説明した実施形態では、蓋部材2として布状部材を用いていたが、廃水の臭気を透過しない材料であればその材質に特に限定はなく、金属材料や樹脂材料であっても構わない。ただし、組立性や取扱性などの点からは布状部材が好ましい。また、前記実施形態におけるアーム5は、回転軸3とローラ51とを接続する形状であったが、例えば、アーム5の長さを槽本体1の直径以上の長さとし、アーム5の略中央において回転軸3と接続するようにしてもよい。この場合、アーム5の両端に設けるローラ51は、両方又は一方を自走式とすればよい。
【0022】
次に、本発明に係る廃水の処理方法について説明する。図6に、本発明に係る廃水の処理方法の一例を示す工程図を示す。食品、飲料水、医薬品及び農薬等の製造過程で生じる含窒素有機物および/または含硫黄有機物等を含む廃水は、まず中和槽において中和される。次に、第1沈殿槽において、廃水に含まれている固形物及び廃水の中和により生成した固形物等は沈殿して除去され、上澄み液は曝気槽へ送られる(沈殿工程)。曝気槽では、第1沈殿槽から送られてきた上澄み液と微生物(活性汚泥)とは空気(酸素)を供給されながら混合される。これにより、前記上澄み液に含まれる含窒素有機物および/または含硫黄有機物等が微生物によって分解される(浄化工程)。そして、混合された液は第2沈殿槽に送られる。第2沈殿槽では、活性汚泥が水より比重がやや重いことを利用して、混合液が上澄み液と活性汚泥とに分離され、上澄み液は処理水として、必要により消毒処理等された後、河川に放流される。一方、第2沈殿槽の底面に沈殿した活性汚泥は、その一部は不図示のポンプで曝気槽に返送され、残りは余剰汚泥として汚泥処理施設等に送られ処理される。
【0023】
このような本発明の処理方法における大きな特徴は、第1沈殿槽として、前記説明した本発明の沈殿槽を用いることにある。第1沈殿槽に貯留されている廃水には、含窒素有機物および/または含硫黄有機物等が含まれているため強い臭気を放つが、本発明の処理方法では、槽本体の上面開口を蓋部材で覆った本発明の沈殿槽を用いるので、処理施設周辺に強い臭気を放散させることがない。また、本発明の沈殿槽では、槽本体の上端部に沿って自走するローラによって撹拌翼を回転させるので、小さな回転力で撹拌翼を回転させることができ沈殿槽を大型化できる。これにより、大量の廃水処理ができるようになる。
【産業上の利用可能性】
【0024】
本発明に係る沈殿槽及び廃水の処理方法によれば、処理施設周辺に強い臭気を放散させることがない。また、回転軸上または回転軸近傍にモータを設けることなく、しかも小さな回転力で撹拌翼を回転させることができので沈殿槽を大型化でき有用である。
【符号の説明】
【0025】
1 槽本体
2 布状部材(蓋部材)
3 回転軸
4 回転翼
4a,4b,4c,4d 回転翼
5 アーム
D 沈殿槽
11 廃水導入口
12 排出口
41 掻き寄せブレード(掻き寄せ部材)
51 ローラ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
廃水導入口及び上澄み液排出口を備え、略円筒形状で上面開口の槽本体と、前記槽本体の上面開口を覆う蓋部材と、前記槽本体の中心軸に沿って設けられ、前記蓋部材から上部が突出した回転軸と、前記回転軸の下部に設けられた撹拌翼と、前記槽本体の上端部に沿って自走可能なローラと、前記ローラと前記回転軸とを繋ぐアームとを具備し、
前記ローラを前記槽本体の上端部に沿って自走させることにより、前記アームを旋回させて前記回転軸を回転させ、前記回転軸に設けられた前記撹拌翼を回転させることを特徴とする沈殿槽。
【請求項2】
前記蓋部材が布状部材から構成されている請求項1記載の沈殿槽。
【請求項3】
前記撹拌翼の下部に、前記槽本体の底面に溜まった沈殿物を前記槽本体の中央部に掻き寄せる掻き寄せ部材を設けた請求項1又は2記載の沈殿槽。
【請求項4】
含窒素有機物および/または含硫黄有機物を含有する廃水を沈殿槽の中で撹拌する沈殿工程と、前記沈殿工程で得られた上澄み液を曝気槽中で微生物処理する浄化工程とを含む廃水の処理方法であって、
前記沈殿槽が請求項1〜3のいずれか1項に記載の沈殿槽であることを特徴とする廃水の処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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