説明

沸騰水型原子炉のドライヤの健全性を確認する方法

【課題】
原子力プラントの圧力容器の蒸気ドーム内の圧力脈動を高い精度で評価し、圧力容器内のドライヤの健全性確認を正確に行い、原子力プラントの安全性を向上させる。
【解決手段】
沸騰水型原子炉の圧力容器の上部に装備された蒸気ドーム1に接続した流れの無い配管5、例えば計測用配管に、圧力センサ7を配管5の長さ方向に距離を隔てて複数箇所設置して、それらの圧力センサ7からのセンサ結果を基に蒸気ドーム1内の圧力脈動をその配管5内を通じて蒸気の流れに影響されることなく精度良く評価し、その評価をドライヤの健全性を評価するベースに用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、沸騰水型原子炉の蒸気乾燥器であるドライヤの振動健全性の確認方法に関する。
【背景技術】
【0002】
沸騰水型原子炉の圧力容器内に納まる蒸気乾燥器であるドライヤの健全性を評価確認する従来の手法としては、ドライヤの外面にセンサを直接貼り付けて、ドライヤの健全性を評価する方法がある。ドライヤ表面に、ひずみゲージ,圧力計及び加速度計等のセンサを設置して、ドライヤに発生する振動応力を評価することにより、ドライヤの健全性を直接評価していた。この手法では、ドライヤに発生する応力を直接測定できるため、評価精度が高いと考えられる。この手法は主に、放射線を受けていない、新しく製作したドライヤに適用されている。
【0003】
また、他の従来手法として、主蒸気配管にセンサを設置してドライヤの健全性を確認する方法がある。この場合は、主蒸気配管の外表面にひずみゲージを設置して、その配管のフープ方向のひずみ量の振動より、主蒸気配管内の圧力脈動を評価している。そして、解析等を用いて、蒸気ドーム内の圧力脈動(ドライヤに作用する応力)と主蒸気配管内圧力脈動の関連を評価して、主蒸気配管の圧力脈動測定結果をもとに蒸気ドーム内の圧力脈動を算出し、ドライヤの健全性を確認する手法である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の手法で、ドライヤ表面にセンサを設置する方法では、新しく製作して放射線を受けていないドライヤには適用し易いが、既に運転中のドライヤに対しては、センサを設置する作業が困難である。既に運転しているドライヤは定期検査中においても、水中に保存されており、ドライヤにセンサを設置するためには、水中溶接等の特殊な作業が必要となる。そのため、センサの設置には作業が困難であり、コストが比較的高く、より合理的な手法が望まれると考える。
【0005】
一方、主蒸気配管にセンサを設置する方法では、主蒸気配管の圧力脈動をもとに、蒸気ドーム内の圧力脈動を解析等で評価する必要があり、直接的にドーム内の圧力脈動を評価することは菌難である。また、主蒸気配管のように流れが存在すると、流れにより発生する圧力脈動の影響により圧力センサの計測精度が低下する可能性がある。
【0006】
さらに、流れがあると、圧力センサ自身が圧力脈動の発生原因、もしくは共鳴箇所となる可能性がある。また、主蒸気配管の圧力センサ取り付け工事は配管サイズが大きいため、作業が困難である。
【0007】
そのため、ここでは圧力センサを使用しないで、配管内の圧力脈動を配管外表面に貼り付けたひずみゲージで測定している。主蒸気配管の外表面にひずみゲージを取り付けて計測した場合、内部圧力脈動が小さく計測できるひずみが微小な場合、内部の圧力脈動測定精度が課題になる可能性がある。
【0008】
すなわち、ひずみゲージで測定した場合、圧力脈動の大きさ,周波数に関して、精度良く測定できる範囲が限られてくる。そのため、圧力センサで、微小な内部の圧力脈動を、より高い精度で測定することが望まれている。
【0009】
本発明の目的は、圧力センサで圧力脈動をより高い精度で測定して沸騰水型原子炉の圧力容器内に納められたドライヤの健全惟を正確に確認することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
以上のように、蒸気ドーム内の圧力脈動を容易に、かつ精度良く評価するために以下の手段を考案した。蒸気ドームは安全性の観点から、既に運転している原子炉に圧力センサ等のセンサを直接蒸気ドーム外表面に設置することは困難である。
【0011】
また、主蒸気配管に圧力センサを設置すると流れの影響により、精度が低下することが懸念される。一方、蒸気ドームには、通常、水位や圧力などを測定するための計装配管等が複数接続されている。
【0012】
このような配管では、主蒸気配管と異なり、流れが存在しない。そのため、圧力センサを設置しても流れの影響を受けることがない。また、これらの配管は小口径であり、センサ取り付け工事も比較的容易である。このような、蒸気ドームに連結されていて流れの無い配管に分岐管,管台もしくはボス部を設置し、その各場所の圧力脈動を測定するための圧力センサを設置して、圧力脈動を測定することを考案した。
【0013】
しかしながら、放射空間で圧力脈動を直接測定する場合と異なり、密閉された配管内では音の反射,減衰等により、圧力脈動は位置と時間の関数となって複雑に変化しており、圧力脈動の再現は困難である。
【0014】
そこで、配管内の圧力脈動を再現するため、蒸気ドームに接続する流れの無い配管において、分岐管もしくはボス部を複数個設置し、その各分岐管もしくはボス部に内部圧力を評価できるセンサを設置して、配管内の圧力脈動を評価することを考案した。すなわち、複数点で測定した圧力脈動波形をもとに、配管内の圧力脈動の位置と時間の波形形状を把握して、蒸気ドーム内の圧力脈動を精度良く予測してドライヤの健全性を正確に確認する。
【発明の効果】
【0015】
本発明の適用により、蒸気ドーム内の圧力脈動を予測することができ、圧力脈動に起因するドライヤの振動健全性を確認でき、ドライヤの高サイクル疲労による損傷を未然に防止することが実現できる。その結果、原子力プラントの安全性及び信頼性を向上することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
沸騰水型原子炉(BWRと略称することもある。)に本発明を適用した場合について、図1を用いて説明する。図1では本発明に関連する、原子炉圧力容器内の原子炉上部に位置する蒸気ドーム1,蒸気ドーム内に設置されているドライヤ2,主蒸気ノズル3及び主蒸気配管4を記載している。ドライヤ2は下部からきた蒸気に含まれる水滴を、ドライヤ2内部に設置した波板で分離して、蒸気を乾燥(水滴を分離)させる装置であるドライヤを通過した流れは、蒸気ドーム1内を対流して、主蒸気ノズル3を通じて、主蒸気配管4に流入する。蒸気ドーム1には、通常、圧力容器内の原子炉水位や圧力などを測定するための配管5が複数接続されている。
【0017】
なお、これらの配管には、蒸気ドーム内の圧力を測定する圧力計や差圧計等が通常設置されているが、測定精度や配管内圧力脈動の減衰により、蒸気ドーム内における高周波数の圧力脈動を測定,評価することはできない。また、圧力容器内の諸状態を測定するために装備された配管5では、主蒸気配管4内とは異なり、蒸気の流れが存在しない。もっとも、僅かな対流が存在している可能性はある。配管5は、新たに蒸気ドーム内に連通するように圧力容器の上部、即ち蒸気ドームの壁に設置した新たな配管であっても良く、新たな配管を用いる場合には、蒸気ドーム内の蒸気が通り抜けないように新たな配管の開口部を蒸気ドーム側だけとする。
【0018】
本発明では、蒸気ドームに連結されていて、流れの無い配管5にボス部6を複数体設置し、その各場所に圧力脈動を測定することが可能な圧力センサ7を複数個、設置する。ボス部の代わりに分岐管もしくは管台等でも良い。この圧力センサ7は、高温,高圧下において微小な変動圧力を測定できる、特殊な動圧力センサを用いる。なお、圧力脈動の減衰を考慮すると、圧力センサの設置場所は蒸気ドーム1に近いほうが望ましい。
【0019】
圧力脈動の反射を考慮して、極力曲がり部のある部分を避けて圧力センサを設置し、曲がり部が存在する場合は、曲がり部より、蒸気ドーム側に圧力センサを設置したほうが望ましい。また、各センサの設置場所は想定できる測定周波数範囲を考慮して決められる。
【0020】
圧力センサ7はケーブル8により、圧力計測器9と接続されており、圧力計測器9により配管内の圧力脈動を評価できる。計測した圧力脈動は計算機10に取り込まれる。ここで、各場所で測定した圧力脈動の相関関係を把握するため、各圧力センサ7による計測は同期して計測する必要がある。
【0021】
圧力計測器9で得られた複数点の圧力脈動波形をもとに、位置と時間の関数である配管内の圧力脈動を再現する。ここで、各場所で同期して測定した圧力脈動波形はそれぞれ異なっており、この相違より位置と時間の関数である配管内の圧力脈動を再現できる。
【0022】
そして、再現された配管内の圧力脈動波形をもとに、蒸気ドーム内に発生している圧力脈動を評価することが可能となる。この圧力脈動をドライヤに作用する荷重として、構造解析等により、ドライヤに働く応力を計算し、ドライヤの振動に対する健全性を評価することができる。
【0023】
図3に本発明のBWRドライヤ健全性評価手順を示す。まず、図1に示す本計測系の設置により、配管5内の圧力脈動波形を測定評価することが可能となる。圧力センサ7及び圧力計測器9で計測して計算機10に取り込まれた圧力脈動は時系列の圧力波形及び周波数に対する圧力強度等を評価できる。
【0024】
圧力センサ1点で測定した圧力脈動は時系列の圧力波形及び周波数に対する圧力強度の評価が可能であるが、空間的な圧力脈動の分布を評価することができない。しかしながら、複数の場所で圧力脈動を同期して計測し、各複数の圧力脈動を連立して評価したり、各複数の圧力脈動のクロススペクトル,相関を評価することにより、圧力脈動の時間的,空間的な分布を評価することが可能となる。すなわち、配管5内で測定評価した圧力脈動波形から、測定点場所以外の空間における圧力脈動波形を評価できる。
【0025】
ここで、音響解析や縮小試験を実施することにより、あらかじめ配管5内の圧力脈動波形と蒸気ドーム1内の圧力脈動特性の関係を求めておく。配管5内に流れが無いため、この関係は比較的、求めやすい。そして、原子力プラント内で実際に計測した配管5内の圧力脈動より、配管5と蒸気ドーム1内の圧力脈動の関係をもとに、蒸気ドーム1内の圧力脈動を予測する。蒸気ドーム1内の圧力脈動特性をもとに、ドライヤに作用する荷重を予測評価する。
【0026】
そして、算出した荷重を、ドライヤを模擬した構造解析モデルに入力する。算出した荷重を入力して構造解析を実施し、ドライヤ各部分に働く応力を計算する。最終的には、計算した応力と、材料の疲労限を比較して、ドライヤの健全性を確認する。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明のBWRドーム内の圧力脈動評価方法の実施設備の概略図である。
【図2】本発明のBWRドーム内の圧力脈動評価方法の他の実施設備の概略図である。
【図3】本発明のBWRドライヤ健全性評価手順の概略図である。
【符号の説明】
【0028】
1 蒸気ドーム
2 ドライヤ
3 主蒸気ノズル
4 主蒸気配管
5 配管
6 ボス部(或いは分岐管)
7 圧力センサ
8 ケーブル
9 圧力計測器
10 計算機

【特許請求の範囲】
【請求項1】
沸騰水型原子炉の圧力容器の蒸気ドームに接続する流れの無い配管内の圧力脈動を評価することにより、前記圧力容器内のドライヤの振動健全性を確認する方法。
【請求項2】
請求項1において、前記蒸気ドームに接続する流れの無い配管に、前記配管内部の圧力脈動を測定できる圧力センサを設置して、前記配管内の圧力脈動を評価することにより、ドライヤの振動健全性を確認する方法。
【請求項3】
請求項2において、前記蒸気ドームに接続する流れの無い配管に、分岐管もしくはボス部を複数個設置し、その各分岐管もしくはボス部に、前記配管内部の圧力脈動を測定できる圧力センサを複数個設置して、前記配管内の圧力脈動を評価することにより、ドライヤの健全性を確認する方法。
【請求項4】
請求項3において、前記蒸気ドームに接続する流れの無い配管に、分岐管もしくはボス部を複数個設置し、その各分岐管もしくはボス部に、前記配管内部の圧力脈動を測定できる圧力センサを複数個設置して、前記配管内の圧力脈動を同期して測定し、前記配管内の圧力脈動を評価することにより、ドライヤの健全性を確認する方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−74878(P2009−74878A)
【公開日】平成21年4月9日(2009.4.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−243208(P2007−243208)
【出願日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【出願人】(507250427)日立GEニュークリア・エナジー株式会社 (858)
【Fターム(参考)】