説明

油の改善

【課題】油の酸化安定性を改善すること。
【解決手段】植物または動物原料由来の油をイオン交換媒体、好ましくは強陽イオン交換媒体に接触させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料添加剤を含む燃料油組成物に関し、該燃料油は、植物または動物原料(それらの酸化安定性を改善するために処理されている)に少なくとも部分的に由来する。
【背景技術】
【0002】
植物または動物原料に由来する油脂は、燃料として、特に、ディーゼルのような石油由来中間留分燃料に対する部分的または完全な代替として、益々用途を見出している。一般的に、このような燃料は「バイオ燃料」または「バイオディーゼル」として知られている。バイオ燃料は多くの原料に由来し得る。最も一般的であるものの中には、ナタネ、ヒマワリなどのような植物から抽出される脂肪酸のアルキル(しばしばメチル)エステルがある。これらのタイプの燃料は、しばしば、FAME(fatty acid methyl esters、脂肪酸メチルエステル)と呼ばれる。
【0003】
このような燃料は再生可能原料から得られるので、それらの使用を奨励する環境上の動因がある。バイオ燃料は、燃焼に際して、等価な石油由来燃料より環境汚染が少ないという指摘もある。
【0004】
しかし、これらの燃料は天然原料に由来するので、それらは貯蔵された時に酸化によって劣化する傾向がある。これを阻止するために、バイオ燃料に、化学物質の酸化防止添加剤を加えることが、一般的に行われている。使用される最も一般的なタイプの種類は、アリールアミン系およびフェノール系酸化防止剤、例えば、ジフェニルアミン、ジアルキルフェニルアミン、BHT(2,4−ジ−tert−ブチルヒドロキシトルエン)およびBHQ(2,5−ジ−tert−ブチルヒドロキノン)である。やはり使用されるのは、ケトン系、リン系および糖エステル系酸化防止剤、例えば、2,4−ノナンジオン、ジ−ラウリルホスフィット、トリ−トリルホスファートおよびアスコルビルパルミタートである。米国特許出願公開第2004/0139649号は、バイオディーゼルの貯蔵安定性を増すためのBHTの使用を記載する。このような化学物質酸化防止剤は、バイオ燃料の酸化を防止する、または遅らせるのに効果的であるが、それらを使用すると、添加剤自体、および添加剤を貯蔵し、バイオ燃料に添加しブレンドするために必要とされるインフラストラクチャーの両方の点から見て、コストおよび複雑さが増大することに繋がる。したがって、明らかに、化学物質酸化防止剤の必要性を減じることが望ましいであろう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許出願公開第2004/0139649号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、植物または動物原料から得られる脂肪酸のアルキルエステルは、それらの耐酸化性をかなり改善するために、簡単なプロセスを用いて処理できるという発見に基づいている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
したがって、第1の態様によれば、本発明は、燃料油および少なくとも1種の燃料添加剤を含む燃料油組成物を提供し;ここで、該燃料油は、植物または動物原料から得られる脂肪酸のアルキルエステルを、石油由来油と任意選択で組み合わせて含み;植物または動物原料から得られる脂肪酸の該アルキルエステルは、それらの酸化安定性が改善されるように処理されており、このような処理は、該エステルを1種または複数のイオン交換体に接触させることを含み;該1種または複数のイオン交換体は次の式によって表される材料からなる。
【0008】
【化1】

式中、Qは、固体担体を表し、Lは任意選択の連結基を表し、nは1以上の整数である。
【0009】
驚くべきことに、前記エステルを特定のイオン交換体と接触させることによって、エステルの酸化安定性を改善できることが見出された。
【発明を実施するための形態】
【0010】
前記イオン交換体は、スルホン酸官能化イオン交換体である。このタイプの材料は、強陽イオン交換媒体として、当技術分野において知られている。
【0011】
当技術分野において知られているように、イオン交換体の容量は、交換体の単位重量または単位体積当たりで表された、交換のために利用できる化学当量の全数として定義される。乾燥媒体に対しては、通常、ミリ当量(meq)/グラム(乾燥状態)の単位が用いられ、湿潤媒体に対しては、通常、meq/ミリリットル(meq/ml)が用いられる。好ましくは本発明では、前記1種または複数のイオン交換体は、少なくとも2.0、好ましくは少なくとも2.5meq/mlの容量を有する。このパラメータの測定方法は、当業者に知られている。
【0012】
前記固体担体は、イオン交換の用途に広く用いられるどのような固体担体であってもよい。したがって、Qには、酸化物(例えば、本質的に純粋な状態の、またはドーピングされた、シリカ、アルミナ、ジルコニア、イットリアなど)、天然または合成のゼオライト、有機樹脂(例えば、スチレン−ジビニルベンゼンコポリマー、ポリスチレン/ジビニルベンゼンのマトリックス)、天然もしくは合成の繊維または布および類似物が含まれ得る。他の適正な材料は、当業者に知られている。固体担体の物理的形態は、特定の用途に適するように選択され得る;ゲル、樹脂、ビーズおよび粉末はすべて用途を見出し得る。
【0013】
適切なイオン交換媒体は市販されている。例には、Amberlite(登録商標)、Amberlyst(登録商標)、Amberjet(登録商標)およびDowex(登録商標)の商標の下に販売されているものが含まれる。例として、適切であることが見出された1つの交換体は、Amberlyst(登録商標)15である。これらの交換体の通常の用途には、水溶液の脱塩、めっき浴の再生、めっき作業でのすすぎ水リサイクリング、および当業者に知られている他の用途が含まれる。
【0014】
脂肪酸および脂肪酸混合物は動物または植物原料から得ることができる。一般的に使用されるのは、ナタネ油、コリアンダー油、大豆油、綿実油、ヒマワリ油、ヒマシ油、オリーブ油、ピーナッツ油、トウモロコシ(maize)油、アーモンド油、パーム核油、ココナッツ油、マスタード種子油、ジャトロファ(jatropha)油、牛脂油および魚油である。さらなる例には、トウモロコシ(corn)、ジュート、ゴマ、シアナッツ、グラウンドナッツ(ground nut)由来の油および亜麻仁油が含まれる。ナタネ油(これは、グリセロールにより部分的にエステル化された脂肪酸の混合物である)は、大量に利用可能であり、ナタネから、圧搾することによって簡単な方法で得ることができる。使用済みのキッチン油のようなリサイクル油もまた適切である。
【0015】
上の原料からの共通の例示的な脂肪酸には、12から22個の炭素原子を有するもの、例えば、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、パルミトレイン酸、ステアリン酸、オレイン酸、エライジン酸、ペトロセリン酸(petroselic acid)、リシノール酸、エレオステアリン酸、リノール酸、リノレン酸、エイコサン酸、ガドレイン酸、ドコサン酸またはエルカ酸が含まれる。通常、これらは、50から150、特に、90から125のヨウ素価を有する。
【0016】
これらの脂肪酸のアルキルエステルとして、例えば市販の混合物として、次のものが考慮され得る:そのエチル、プロピル、ブチルエステル、特にメチルエステル。特に適切であるのは、16から22個の炭素原子と、1、2または3個の2重結合とを有する脂肪酸の、主として(すなわち、少なくとも50wt%の)メチルエステルを含むものである。脂肪酸の好ましいアルキルエステルは、メチルおよびエチルエステルであり、好ましくはメチルエステルである。最も好ましいのは、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸およびエルカ酸のメチルエステルである。
【0017】
前記の種類の市販の混合物は、例えば、動物および植物油脂の、低級脂肪族アルコールとそれらのエステル交換による、開裂およびエステル化によって得られる。脂肪酸のアルキルエステルの製造では、低レベル(20%未満)の飽和酸を含み、また130未満のヨウ素価を有する油脂から出発すると有利である。
【0018】
現在、バイオ燃料は、石油由来の油と組み合わせて、最も広く用いられている。したがって、本発明は、植物または動物原料から得られる、純粋に脂肪酸アルキルエステルからなる燃料油だけでなく、石油由来の油とそれらの混合物にもまたに適用できる。すなわち、脂肪酸のアルキルエステルである燃料油の比率(重量で)は、純粋なバイオ燃料の場合には本質的に100%であり得る、あるいは、バイオ燃料/ディーゼル燃料のブレンドの場合には100%より小さい任意の比率であり得る。バイオ燃料/ディーゼル燃料の好ましいブレンドは、アルキルエステルの比率(重量で)が2〜95%、好ましくは2〜50%、より好ましくは2〜25%であり、残りの部分が石油由来の油であるものである。
【0019】
脂肪酸のアルキルエステルは、1種または複数のイオン交換体に、エステルが液体状である任意の温度で接触させられ得る。しかし、好ましくは、エステルは高い温度にある。40と100℃の間の温度が適切であることが見出された。
【0020】
エステルが交換体と接触している時間の長さは、交換体の量および表面積、ならびに処理されるエステルの量のような要因に依存する。当業者は、数秒から数時間の範囲であり得る最適な時間を決めることができる。
【0021】
エステルを交換体に接触させるための正確な方法は決定的に重要ではなく、選択肢は当業者の活動範囲内にあることが明らかであろう。攪拌しながら、または攪拌なしに、エステルおよび交換体を適当な容器に単に一緒に入れることは、適切である。代わりに、交換体が、フィルターまたはカラム内に入れられ、エステルが、連続または半連続運転で、交換体の中を通される、または越えて通されてもよい。
【0022】
第2の態様によれば、本発明は、改善された酸化安定性を有する燃料油組成物の製造方法を提供し、該燃料油組成物は燃料油および少なくとも1種の燃料添加剤を含み;ここで、該燃料油は、植物または動物原料から得られる脂肪酸のアルキルエステルを含み、該方法は、(i)該エステルを1種または複数のイオン交換体と接触させるステップ(ここで、該1種または複数のイオン交換体は第1の態様に関連して定義された材料からなる)、および(ii)該燃料油に少なくとも1種の燃料添加剤を加えるステップを含む。
【0023】
上の方法のステップ(i)は、ステップ(ii)の前に実施されても、あるいは逆であってもよい。
【0024】
好ましくは、植物または動物原料から得られる脂肪酸のアルキルエステルの酸化安定性における改善では、処理後のエステルの誘導期間が処理前の誘導期間より長く、誘導期間は、Rancimat試験(ISO 6886、prEN 14112またはEN 15751)によって測定されるものである。
【0025】
Rancimat試験(ISO 6886、prEN 14112またはEN 15751)は食品産業で始まった[例えば、H.Prankl、「Oxidation Stability of fatty acid methyl esters」、10th European Conference on Biomass for Energy and Industry、8−11 June 1998、Wurzburgを参照]。この試験では、10リットル/hrのペースで空気を試料に通しながら、試料が一定温度(110℃)でエージングされる。排出空気流は、蒸留水で満たされた測定セルを通過する。測定セルの電導度が連続的に求められ自動的に記録される。試料が酸化すると、揮発性有機酸が生成され、蒸留水に捕捉される。これは水の電導度を増加させる。酸化の過程には、測定される電導度の緩やかな増加と、その後の急激な増加がある。この急激な増加の前の時間の長さ(「誘導期間」として知られている)は、試験されている試料の酸化安定性の目安である。本発明によるエステルの処理は、誘導期間を長くする。エステルの酸化安定性の改善は、無処理試料と比較して、Rancimat試験によって測定される誘導期間の増加によって明白である。Rancimat試験は、純粋なバイオディーゼル燃料の特性評価における仕様試験として採用された。修正されたEN 15751試験が、バイオディーゼルと石油由来油のブレンドの酸化安定性を評価するために導入されており、その修正は、石油由来成分の比較的大きな揮発性を許容するために必要である。
【0026】
前記燃料油組成物は、少なくとも1種の燃料添加剤を含む。当技術分野において知られているように、燃料油組成物は、一般的に、燃料油の1つまたは複数の性質を改善するために添加剤を含む。
【0027】
好ましくは、前記の少なくとも1種の添加剤は、燃料油の酸化安定性を改善できる酸化防止剤である。適切な種類は当業者に知られている。例は、本明細書において上で記載のアリールアミン系およびフェノール系の酸化防止剤である。特に好ましい実施形態において、少なくとも1種の燃料添加剤はフェノール系酸化防止剤であり、最も好ましくは、2,5−ジ−tert−ブチルヒドロキノン(BHQ)である。本発明に従って処理された燃料油にBHQを添加すると、酸化防止挙動における相乗的改善が認められた。
【0028】
本発明において用途が見出され得る他の適切な添加剤の非網羅的リストには、低温流動性改善添加剤、ワックス沈降防止添加剤、清浄剤、分散剤、潤滑添加剤、解乳化剤、セタン価改良剤、電気伝導度向上添加剤、臭気隠蔽剤(reodourant)および金属キレーターが含まれる。前記の少なくとも1種の燃料添加剤の正確な特質は決定的に重要ではなく、適切な種類は当業者に知られている。通常、各燃料添加剤は、燃料油組成物中に、燃料油の重量に対して、1と10,000重量百万分率の間の量で存在する。
【0029】
本発明が単に例として以下に記載される。
【実施例】
【0030】
燃料1はナタネメチルエステルであった。燃料2は、20重量%の燃料1と、80重量%のディーゼル燃料(203℃の初留点および349℃の最終沸点、ならびに14重量ppmの硫黄含量を有する)とのブレンドであった。
【0031】
実施した実験および得られた結果は、下の表1に列挙する。
【表1】

【0032】
用いた燃料添加剤は、2つのフェノール系酸化防止剤のBHTおよびBHQであった;ワックス沈降防止添加剤(WASA)は、アルキルヒドロキシベンゾアートエステルとホルムアルデヒドとの縮合反応の生成物であった;添加剤パッケージ(P1)は、フェノール系酸化防止剤、分散剤、金属キレート生成化合物および解乳化剤を含んでいた;また、添加剤パッケージ(P2)は、フェノール系酸化防止剤および分散剤を含んでいた。
【0033】
イオン交換体に接触しなかった燃料1の試料に、添加剤を加え、Rancimat誘導時間を測定した。次いで、次のように処理した燃料1の試料に、添加剤を加えた:50gの燃料試料を、100℃の温度で4時間、スルホン酸官能基を有する強陽イオン交換体(Amberlyst(登録商標)15)の0.5gと接触させた。やはり、Rancimat誘導時間を測定した。
【0034】
表1に示すように、すべての場合において、Rancimat誘導時間の増加によって明白に示されるように、燃料組成物の抗酸化挙動は改善された。特に注目されるのはBHQを用いた実験であり、添加剤を用いなかった燃料に対する改善が、イオン交換体と接触した試料では、BHQの添加でかなり大きくなったことが分かる。
【0035】
さらなる1組の実験において、25、100および200wppmのBHQを、燃料1の別々の試料に加え、これらの燃料組成物を、前記のようにして、イオン交換体に接触させた。処理した燃料組成物のRancimat誘導時間は、それぞれ、9.30、12.73および18.27時間であり、すべてが、イオン交換体と接触しなかった試料(表1の結果を参照)を凌ぐかなりの改善を示した。これらの結果は、燃料をイオン交換体に接触させる前または後のいずれでも、添加剤を燃料に添加できることを立証する。
【0036】
さらなる1組の実験は燃料2を用いた。方法は前記と同じであった。結果を下の表2に記す。
【表2】

【0037】
燃料がイオン交換体と接触した後で、各燃料試料に添加剤を加えた。前と同じく、抗酸化挙動におけるかなりの改善が認められた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料油および少なくとも1種の燃料添加剤を含む燃料油組成物であって;該燃料油が、植物または動物原料から得られる脂肪酸のアルキルエステルを含み、または石油由来の油と組み合わせて含んでもよく;植物または動物原料から得られる脂肪酸の該アルキルエステルが、それらの酸化安定性が改善されるように処理されており、このような処理が、該エステルを1種または複数のイオン交換体と接触させることを含み;該1種または複数のイオン交換体が、次の式:
【化1】

(式中、Qは、固体担体を表し、Lは存在する場合は連結基を表し、nは1以上の整数である。)
によって表される材料からなる、燃料油組成物。
【請求項2】
植物または動物原料から得られる脂肪酸の前記アルキルエステルが、メチルまたはエチルエステルから、好ましくはメチルエステルから本質的になる、請求項1に記載の燃料油組成物。
【請求項3】
前記少なくとも1種の燃料添加剤が、燃料油の酸化安定性を改善できる酸化防止剤である、請求項1または2に記載の燃料油組成物。
【請求項4】
前記酸化防止剤が、フェノール系酸化防止剤、好ましくは2,5−ジ−tert−ブチルヒドロキノン(BHQ)である、請求項3に記載の燃料油組成物。
【請求項5】
前記酸化防止剤が2,5−ジ−tert−ブチルヒドロキノン(BHQ)である、請求項4に記載の燃料油組成物。
【請求項6】
前記少なくとも1種の燃料添加剤が、低温流動性改善添加剤、清浄剤、分散剤、潤滑添加剤、解乳化剤、セタン価改良剤、電気伝導度向上添加剤、臭気隠蔽剤および金属不活性化剤を含む群から選択される、請求項1から5のいずれかに記載の燃料油組成物。
【請求項7】
改善された酸化安定性を有する燃料油組成物の製造方法であって、該燃料油組成物が燃料油および少なくとも1種の燃料添加剤を含み、該燃料油が植物または動物原料から得られる脂肪酸のアルキルエステルを含み、(i)該エステルを1種または複数のイオン交換体と接触させるステップ、ここで該1種または複数のイオン交換体は、次の式:
【化2】

(式中、Qは、固体担体を表し、Lは存在する場合は連結基を表し、nは1以上の整数である)によって表される材料からなり、および(ii)該燃料油に少なくとも1種の燃料添加剤を加えるステップを含む方法。
【請求項8】
前記燃料油組成物の前記改善された酸化安定性が、植物または動物原料から得られる脂肪酸のアルキルエステルの、前記1種または複数のイオン交換体との接触後の誘導期間が、接触前の誘導期間より長いことである(誘導期間は、Rancimat試験(ISO 6886、prEN 14112またはEN 15751)によって測定されるものである)、請求項7に記載の方法。