説明

油分含有固形尿素中の油分除去方法

【課題】油分含有固形尿素中の油分を有機溶媒を用いることなく、簡易な操作で、安価にしかも確実に除去する。
【解決手段】油分含有固形尿素をカルシウムが共存する水溶液として、該油分含有固形尿素中の油分とカルシウムとを反応させてエマルジョン化した後、濾過する。油分含有固形尿素中の油分はカルシウムの共存下の水溶液中において、カルシウムと反応してカルシウム化合物となり、エマルジョン化する。このエマルジョンは、油分とカルシウムとの反応生成物が、ミセルのような凝集体を形成して水中に分散したものであるため、このエマルジョンを濾過することにより、油分を効率的に分離除去することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油分を含有する固形尿素中の油分を、簡易な操作で効率的に除去する方法に関する。本発明はまた、この方法で油分含有固形尿素中の油分を除去して得られた排ガス脱硝用尿素水に関する。
【背景技術】
【0002】
尿素(CO(NH)は、医薬品、保湿剤、肥料の製造原料等、幅広い用途に用いられている。
【0003】
特に、尿素を水に溶解させて得られる尿素水溶液は、エンジンから排出される排ガスからNOxを分解除去するための尿素SCR(Selective Catalytic Reduction:選択還元触媒)システムに使用される排ガス脱硝用尿素水として用いられている。
【0004】
この尿素SCRシステムは、尿素を還元剤として用い、エンジンからの排ガスがSCR触媒コンバータに入る直前に、尿素水溶液を圧縮空気とともに噴射して排ガスに混合し、SCR触媒コンバータ内で、下記反応に従って、排出ガス中のNOxと尿素が分解して生成したアンモニアとで、NOxを水と無害な窒素に分解する。
(NHCO+HO→2NH+CO
4NH+4NO+O→4N+6H
4NH+2NO+O→3N+6H
【0005】
従来、尿素は、アンモニアと二酸化炭素とを高温高圧条件下で反応させることにより製造され、製造された尿素は粒状(固形尿素)として出荷される。
【0006】
工業的に製造された尿素には、その反応工程において、各種の不純物が混入する。製品としての尿素に混入する各種の不純物のうち、特に油分は、医薬品や化粧品等の用途においても問題となることは勿論であるが、前述のSCRシステムの排ガス脱硝用尿素水としての用途において、尿素水溶液噴射ノズルやフィルターの閉塞を引き起こす原因となり得るため、これを予め除去することが望まれる。
【0007】
一般に、固形物中の油分の除去方法としては、有機溶媒を用いる抽出除去法が考えられるが、この方法では操作が煩雑である上に、大量の有機溶媒を必要とし、処理コスト、作業環境、廃液の処理等の面で好ましくない。
工業的に大量に使用される尿素からの油分の除去には、有機溶媒を用いることなく、簡易な操作で確実に油分を除去することが望まれるが、従来において、そのような方法は提案されていない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上記従来の実情に鑑みてなされたものであって、油分含有固形尿素中の油分を有機溶媒を用いることなく、簡易な操作で、安価にしかも確実に除去する方法を提供することを目的とする。
【0009】
本発明はまた、この方法で油分含有固形尿素中の油分を除去して得られた排ガス脱硝用尿素水を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、油分含有固形尿素をカルシウムの存在下に水溶液とすると、油分含有固形尿素中の油分とカルシウムとの反応でエマルジョンとなり、このエマルジョンを濾過することにより、油分をカルシウムとの反応生成物として容易に分離することができることを見出した。
【0011】
本発明はこのような知見をもとに達成されたものであり、以下を要旨とする。
【0012】
[1] 油分含有固形尿素中の油分を除去する方法において、該油分含有固形尿素をカルシウムが共存する水溶液として、該油分含有固形尿素中の油分とカルシウムとを反応させてエマルジョンとした後、該エマルジョンを濾過することを特徴とする油分含有固形尿素中の油分除去方法。
【0013】
[2] [1]において、前記油分含有固形尿素と水溶性カルシウム化合物を水と混合することにより、前記油分とカルシウムとを反応させてエマルジョンとすることを特徴とする油分含有固形尿素中の油分除去方法。
【0014】
[3] [2]において、前記水溶性カルシウム化合物が、臭化カルシウム、炭酸カルシウム、チオシアン酸カルシウム、酢酸カルシウム、塩化カルシウム、ヨウ化カルシウム、硝酸カルシウム、リン酸一水素カルシウム、及びリン酸二水素カルシウムよりなる群から選ばれる少なくとも1種類以上であることを特徴とする油分含有固形尿素中の油分除去方法。
【0015】
[4] [1]〜[3]のいずれかにおいて、前記水溶液中に共存するカルシウム量が、前記油分含有固形尿素中の油分との理論反応当量以上であることを特徴とする油分含有固形尿素中の油分除去方法。
【0016】
[5] [1]〜[4]のいずれかにおいて、前記エマルジョンを、目開き5μm以下の濾材を用いて濾過することを特徴とする油分含有固形尿素中の油分除去方法。
【0017】
[6] [1]〜[5]のいずれかの方法で油分含有固形尿素中の油分を除去して得られた尿素の水溶液よりなる排ガス脱硝用尿素水。
【発明の効果】
【0018】
油分含有固形尿素中の油分はカルシウム共存下の水中において、カルシウムと反応してカルシウム化合物となり、エマルジョン化する。このエマルジョンは、油分とカルシウムとの反応生成物が、ミセルのような凝集体を形成して水中に分散したものであるため、このエマルジョンを濾過することにより、油分を効率的に分離除去することができる。
【0019】
本発明によれば、例えば、油分含有固形尿素と水溶性カルシウム化合物とを水と混合してエマルジョンを形成させ、これを濾過するという極めて簡易な操作で、油分含有固形尿素中の油分を安価にかつ確実に分離除去することができる。
【0020】
この方法でエマルジョンを濾過して得られる濾液は、これをそのまま尿素SCRシステムの排ガス脱硝用尿素水として用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明する。
【0022】
本発明の油分含有固形尿素中の油分除去方法で処理対象とする油分含有固形尿素は、油分を含有するものであり、この油分の由来は多岐にわたるが、例えば、製造工程におけるコンプレッサーからのオイルの混入或いは製造後の保管ないし輸送、その他取り扱い時の汚染によるものなどが挙げられる。
【0023】
本発明で処理する油分含有固形尿素中の油分の含有量については特に制限はなく、本発明によれば、どのような油分含有量の油分含有固形尿素でも処理可能であるが、通常、油分含有固形尿素を40重量%水溶液とした場合の当該水溶液中の油分濃度で1000mg/L以下、例えば0.1〜100mg/L程度の油分含有固形尿素が挙げられる。
本発明によれば、このような油分含有固形尿素を処理して、後述のエマルジョンの濾過に使用する濾材の濾過性能にもよるが、当該水溶液中の油分濃度が0mg/L(実質的に油分不含有)となるように油分を除去することもできる。
【0024】
油分含有固形尿素は、例えば水溶性カルシウム化合物と共に水と混合することによりエマルジョン化する。ここで、用いる水溶性カルシウム化合物としては特に制限はないが、臭化カルシウム、炭酸カルシウム、チオシアン酸カルシウム、酢酸カルシウム、塩化カルシウム、ヨウ化カルシウム、硝酸カルシウム、リン酸一水素カルシウム、リン酸二水素カルシウム等を用いることができる。これらの水溶性カルシウム化合物は1種を単独で用いても良く、2種以上を混合して用いても良い。
これらのうち、油分との反応で、尿素の原料である炭酸が生成し、また、生成した炭酸は容易に除去可能であることから、炭酸カルシウムを用いるのが好ましい。
【0025】
油分含有固形尿素の水溶液を調製する際の水溶液中の尿素濃度は特に制限はないが、過度に低いと処理効率が悪く、過度に高いと尿素が溶解しないことから、油分含有固形尿素濃度として20〜50重量%程度とすることが好ましい。なお、油分含有固形尿素の水への溶解は吸熱反応であるため、油分含有固形尿素を水に混合するに当っては、必要に応じて混合系を加温する。この加温の程度は特に制限はないが、過度に低いと加温効果が十分でなく、過度に高いと尿素が分解する恐れがあるため、尿素水溶液を調製する容器を例えば50〜60℃程度の温水浴中に浸し、尿素水溶液を20〜30℃程度に保つことが好ましい。
【0026】
前述の水溶性カルシウム化合物の添加量は、系内の油分含有固形尿素中の油分との反応当量以上のカルシウムが存在するような量であることが好ましく、例えば、反応当量の1〜2倍、好ましくは1〜1.2倍程度用いることが好ましい。水溶性カルシウム化合物の添加量が少な過ぎると油分含有固形尿素中の油分を十分にエマルジョン化することができず、多過ぎると過剰のカルシウム分が不純物となる恐れがある。
【0027】
油分含有固形尿素中の油分濃度及びその反応当量は、例えば、予め少量の油分含有固形尿素について、クロロホルム又はn−ヘキサン等の有機溶媒を用いた抽出による分析を行って、油分含有固形尿素の油分含有量を測定し、また、抽出した油分について、カルシウム化合物との反応当量を測定する予備実験を行うことにより求めることができる。
【0028】
油分含有固形尿素水溶液はカルシウムの存在下に適度に攪拌することにより、エマルジョン化し、白濁した液となる。本発明ではこのエマルジョンを濾過する。
【0029】
なお、このエマルジョンを形成させる手順には特に制限はなく、水溶性カルシウム化合物の所定量を添加した水溶液中に油分含有固形尿素を混合しても良く、油分含有固形尿素を添加した水溶液中に水溶性カルシウム化合物の所定量を添加混合しても良く、また、水溶性カルシウム化合物と油分含有固形尿素と水とを同時に混合しても良い。場合によっては、油分含有固形尿素に水溶性カルシウム化合物を添加混合して油分との反応を進め、これに水を加えて水溶液とするのも大変効果的である。
【0030】
生成したエマルジョンの濾過に用いる濾材の目開きは、油分の除去効率に影響し、この目開きが大き過ぎると油分を十分に除去し得ない。ただし、濾材の目開きが過度に小さいと濾過による濾材の目詰りが激しく、安定した処理を継続し得ないため、エマルジョン中に形成された油分の凝集体の大きさに応じて適当な目開きの濾材を選択使用することが重要である。
【0031】
このエマルジョンの調製時の攪拌の程度や油分含有固形尿素中の油分量等にもよるが、通常の場合、形成されたエマルジョン中の油分の凝集体は10μmより小さい目開きの濾材、例えば5μm以下、好ましくは3μm以下の濾材を用いることにより高度に除去することができることから、要求される油分除去の程度と、濾過効率とを考慮して、0.45〜5μm程度の目開きの濾材を用いることが好ましい。
【0032】
エマルジョンを濾過して油分をカルシウム化合物として除去することにより、無色透明な尿素水溶液が得られるため、これをそのまま或いは必要に応じて再結晶させて粉末化することにより使用に供する。
【0033】
特に、尿素排ガス脱硝用尿素水としての用途においては、上記エマルジョンの濾過で得られた濾液をそのまま適用することができる。
従って、この場合には、油分含有固形尿素を水に溶解させるに当たり、排ガス脱硝用尿素水として有効な尿素濃度、例えば20〜50重量%の尿素濃度となるように水に溶解させ、エマルジョン化して濾過し、得られた濾液を排ガス脱硝用尿素水とすれば良い。
【実施例】
【0034】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
なお、以下の実施例及び比較例において、処理対象とした油分含有固形尿素は、これを40重量%濃度となるように水に溶解させたときの水溶液中の油分濃度が22mg/Lとなるものである。この油分含有固形尿素については予め予備実験を行って、油分のカルシウム反応当量を求めた。
また、液中の油分濃度は堀場製作所社製油分濃度計(OCMA−305)を使用して測定した。
【0035】
[実施例1〜4]
ビーカーに入れた水に、油分含有固形尿素を40重量%濃度となるように溶解させると共に、水溶性カルシウム化合物として炭酸カルシウムを油分含有固形尿素中の油分の反応当量の1.1倍添加してマグネチックスタラーで攪拌してエマルジョン化させた。なお、ビーカーは55℃の温水浴中に浸し、ビーカー内の水温が20〜30℃となるように保持した。
このエマルジョンを下記仕様のガラス製吸引濾過装置と減圧用フィルターを用いて吸引濾過し、得られた濾液の油分濃度を測定し、結果を表1に示した。
<濾過装置及びフィルターの仕様>
・フィルターサイズ=φ47mmを使用したガラス製吸引濾過装置
・フィルター材質:セルロース混合エステルタイプメンブレンフィルター(東洋濾紙株式
会社製)
・フィルター孔径:10μm、5μm、3μm、又は0.45μm
【0036】
[比較例1〜4]
実施例1〜4において、炭酸カルシウムを添加しなかったこと以外は同様に処理を行い、同様に濾液の油分濃度を測定し、結果を表1に示した。
なお、炭酸カルシウムを添加しなかった比較例1〜4では、エマルジョン化は起こらなかった。
【0037】
【表1】

【0038】
表1から明らかなように、油分含有固形尿素の水溶液に炭酸カルシウムを添加してエマルジョン化し、これを適当な孔径のフィルターで濾過することにより、油分を高度に除去することができ、特にフィルターの孔径を選定することで油分をほぼ完全に除去することもできる。なお、実施例1は、フィルターの孔径が大き過ぎるためにエマルジョンに含まれる油分の凝集体の多くがフィルターの孔から通り抜けてしまったものであり、この結果からフィルターの孔径として、エマルジョン中の油分の凝集体の大きさよりも小さいものを用いることが重要であることが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
油分含有固形尿素中の油分を除去する方法において、該油分含有固形尿素をカルシウムが共存する水溶液として、該油分含有固形尿素中の油分とカルシウムとを反応させてエマルジョンとした後、該エマルジョンを濾過することを特徴とする油分含有固形尿素中の油分除去方法。
【請求項2】
請求項1において、前記油分含有固形尿素と水溶性カルシウム化合物を水と混合することにより、前記油分とカルシウムとを反応させてエマルジョンとすることを特徴とする油分含有固形尿素中の油分除去方法。
【請求項3】
請求項2において、前記水溶性カルシウム化合物が、臭化カルシウム、炭酸カルシウム、チオシアン酸カルシウム、酢酸カルシウム、塩化カルシウム、ヨウ化カルシウム、硝酸カルシウム、リン酸一水素カルシウム、及びリン酸二水素カルシウムよりなる群から選ばれる少なくとも1種類以上であることを特徴とする油分含有固形尿素中の油分除去方法。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項において、前記水溶液中に共存するカルシウム量が、前記油分含有固形尿素中の油分との理論反応当量以上であることを特徴とする油分含有固形尿素中の油分除去方法。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか1項において、前記エマルジョンを、目開き5μm以下の濾材を用いて濾過することを特徴とする油分含有固形尿素中の油分除去方法。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれか1項に記載の方法で油分含有固形尿素中の油分を除去して得られた尿素の水溶液よりなる排ガス脱硝用尿素水。

【公開番号】特開2008−13529(P2008−13529A)
【公開日】平成20年1月24日(2008.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−189147(P2006−189147)
【出願日】平成18年7月10日(2006.7.10)
【出願人】(000230652)日本化成株式会社 (85)
【Fターム(参考)】