説明

油圧ショベルの油圧駆動装置

【課題】ブームシリンダを含む複数のシリンダ間の負荷圧の差に伴う圧力損失を生じさせることなく、複数のシリンダの複合操作を実施させることができる油圧ショベルの油圧駆動装置の提供。
【解決手段】ブームシリンダ6、アームシリンダ7、及びバケットシリンダ8と、ブームシリンダ6のみに圧油を供給する第1油圧ポンプ3と、アームシリンダ7及びバケットシリンダ8に圧油を供給する第2油圧ポンプ4と、ブームシリンダ6及びアームシリンダ7に圧油を供給可能な補助ポンプを兼ねるとともに、ブームシリンダ6及びアームシリンダ7の戻り圧によって駆動する油圧モータとして作動する油圧ポンプ・モータ13と、この油圧ポンプ・モータ13を駆動する原動機を兼ねる発電機14と、この発電機14によって生じた電気エネルギを貯えるバッテリ15とを備えた構成にしてある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブームシリンダ、アームシリンダ、及びバケットシリンダと、これらのシリンダに圧油を供給する油圧ポンプとを備えた油圧ショベルの油圧駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の従来技術として、例えば特許文献1に示されるものがある。この従来技術は、ブームを駆動するブームシリンダ、アームを駆動するアームシリンダ、及びバケットを駆動するバケットシリンダと、これらのシリンダに圧油を供給する1つの油圧ポンプとを備え、油圧ポンプの圧油をブームシリンダ、アームシリンダ、バケットシリンダのそれぞれに供給して掘削作業等を実施するようになっている。
【特許文献1】特許第3604094号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上述した従来技術において、掘削作業が実施される場合、ブームシリンダと、アームシリンダ、バケットシリンダとの複合操作が実施されるが、掘削作業に際し、アームシリンダ、バケットシリンダが高い負荷圧に、ブームシリンダが低い負荷圧になりやすい。油圧ポンプから吐出され圧油は、低い負荷圧側に流れる傾向にあるので、このようなブームシリンダとアームシリンダ等との複合操作時には、ブームシリンダを制御するブーム用方向制御弁の絞り量を大きくし、ブームシリンダ側へ圧油が流れ過ぎない制御が行なわれる。すなわち、従来技術にあっては、シリンダ間の負荷圧の差を吸収するための絞り操作が必要であり、この絞り操作に伴って圧力損失が生じ、エネルギの無駄が発生してしまう問題があった。
【0004】
本発明は、上述した従来技術における実状からなされたもので、その目的は、ブームシリンダを含む複数のシリンダ間の負荷圧の差に伴う圧力損失を生じさせることなく、複数のシリンダの複合操作を実施させることができる油圧ショベルの油圧駆動装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この目的を達成するために、本発明は、ブームシリンダ、アームシリンダ、及びバケットシリンダと、これらのシリンダに圧油を供給する油圧ポンプとを備えた油圧ショベルの油圧駆動装置において、上記油圧ポンプが、上記ブームシリンダのみに圧油を供給する第1油圧ポンプと、上記アームシリンダ及び上記バケットシリンダのうちの少なくとも一方に圧油を供給する第2油圧ポンプとを含むことを特徴としている。
【0006】
このように構成した本発明は、ブームシリンダと、アームシリンダまたはバケットシリンダとの複合操作に際し、ブームシリンダは第1油圧ポンプの圧油のみによって駆動し、アームシリンダまたはバケットシリンダは第2油圧ポンプの圧油によって駆動するので、ブームシリンダが比較的低い負荷圧、アームシリンダまたはバケットシリンダが高い負荷圧であって、アームシリンダまたはバケットシリンダの負荷圧と、ブームシリンダの負荷圧との間に圧力差があっても、このような負荷圧の差に影響を受けることなく、ブームシリンダと、アームシリンダまたはバケットシリンダとの複合操作を実施できる。すなわち、ブームシリンダと、アームシリンダまたはバケットシリンダとの負荷圧の差に伴う圧力損失を生じさせることなく、ブームシリンダを含む複数のシリンダの複合操作を実施させることができる。これにより、ブームシリンダ、アームシリンダ、及びバケットシリンダが含まれる油圧回路の圧力損失を少なくすることができる。
【0007】
また、本発明は上記発明において、上記ブームシリンダ及び上記アームシリンダの少なくとも一方に圧油を供給可能な補助ポンプと、この補助ポンプを駆動する電動機とを備えたことを特徴としている。このように構成した本発明は、ブームシリンダに圧油を供給する第1油圧ポンプ、アームシリンダまたはバケットシリンダに圧油を供給する第2油圧ポンプを補助ポンプによって支援させることができ、これによって第1油圧ポンプ及び第2油圧ポンプの不必要な大型化を抑えることができる。
【0008】
また、本発明は上記発明において、上記ブームシリンダ及び上記アームシリンダの少なくとも一方の戻り圧により駆動される油圧モータと、この油圧モータによって駆動される発電機と、この発電機によって生じた電気エネルギを貯えるバッテリとを備えたことを特徴としている。このように構成した本発明は、通常では捨てられてしまうブームシリンダまたはアームシリンダの戻り圧を、電気エネルギを貯えるために活用させることができる。
【0009】
また、本発明は上記発明において、上記油圧モータが、上記ブームシリンダ及び上記アームシリンダの少なくとも一方に圧油を供給可能な補助ポンプを兼ねる油圧ポンプ・モータから成るとともに、上記発電機が上記バッテリの出力電圧によって駆動され、上記油圧ポンプ・モータを駆動する原動機を兼ねることを特徴としている。このように構成した本発明は、機器の数を最少限に抑え、機器の設置スペースを小さく抑えることができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、ブームシリンダのみに圧油を供給する第1油圧ポンプと、アームシリンダ及びバケットシリンダのうちの少なくとも一方に圧油を供給する第2油圧ポンプとを備えたことから、従来のようなブームシリンダを含む複数のシリンダ間の負荷圧の差に伴う圧力損失を生じさせることなく、複数のシリンダの複合操作を実施させることができ、これらの複数のシリンダが含まれる油圧回路の圧力損失を従来に比べて少なくすることができ、従来生じがちであったエネルギの無駄を抑えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下,本発明に係る油圧ショベルの油圧駆動装置を実施するための最良の形態を図に基づいて説明する。
【0012】
図1は、本発明に係る油圧ショベルの油圧駆動装置の一実施形態を示す油圧回路図である。この図1に示すように、本実施形態に係る油圧ショベルの油圧駆動装置は、エンジン1と、このエンジン1に接続された動力伝達ギヤ2と、この動力伝達ギヤ2によって駆動される第1油圧ポンプ3、第2油圧ポンプ4、及び発電機5とを備えている。
【0013】
また、図示しないブームを駆動するブームシリンダ6と、図示しないアームを駆動するアームシリンダ7と、図示しないバケットを駆動するバケットシリンダ8と、図示しない旋回体を駆動する旋回モータ9とを備えている。上述した第1油圧ポンプ3から吐出される圧油は、ブームシリンダ6のみに供給可能になっている。第2油圧ポンプ4から吐出される圧油は、アームシリンダ7またはバケットシリンダ8に供給可能になっており、旋回モータ9は発電機5によって駆動される。
【0014】
第1油圧ポンプ3とブームシリンダ6との間には、ブームシリンダ6に供給される圧油の流れを制御するブーム用方向制御弁10を配置してあり、第2油圧ポンプ4とアームシリンダ7との間には、アームシリンダ7に供給される圧油の流れを制御するアーム用方向制御弁11を配置してあり、第2油圧ポンプ4とバケットシリンダ8との間には、バケットシリンダ8に供給される圧油の流れを制御するバケット用方向制御弁12を配置してある。
【0015】
また、ブームシリンダ6及びアームシリンダ7の戻り圧により駆動される油圧モータ、例えば油圧ポンプ・モータ13と、この油圧ポンプ・モータ13により駆動される発電機14と、この発電機14によって生じた電気エネルギを貯えるバッテリ15とを備えている。上述した油圧ポンプ・モータ13は、ブームシリンダ6及びアームシリンダ7に圧油を供給可能な補助ポンプを兼ねている。また、上述した発電機14はバッテリ15からの出力電圧により油圧ポンプ・モータ14を駆動する原動機を兼ねている。バッテリ15の出力電圧は、旋回モータ9にも供給可能になっている。
【0016】
また、油圧ポンプ・モータ13と、ブームシリンダ6のボトム室とを接続する油路を断接する切換弁16と、油圧ポンプ・モータ13とアームシリンダ7のロッド室とを接続する油路を断接する切換弁17と、油圧ポンプ・モータ13とアームシリンダ7のボトム室とを接続する油路を断接する切換弁18と、ブーム用方向制御弁10とブームシリンダ6のボトム室とを接続する油路を断接する切換弁19とを備えている。
【0017】
このように構成した本実施形態は、エンジン1を駆動させると、動力伝達ギヤ2を介して第1油圧ポンプ3、第2油圧ポンプ4、及び発電機5が駆動し、第1油圧ポンプ3の圧油がブーム用方向制御弁10に供給され、第2油圧ポンプ4の圧油がアーム用方向制御弁11及びバケット用方向制御弁12に供給され、発電機5によって旋回モータ9が駆動する。また、バッテリ15の出力電圧により発電機14が電動機として駆動され、これによって油圧ポンプ・モータ13が駆動する。
【0018】
ここで例えば、切換弁16,17,18を閉位置に保持し、切換弁19を開位置に保持した状態において、掘削作業を実施するために、ブーム用方向制御弁10、アーム用方向制御弁11、及びバケット用方向制御弁12を切り換え操作すると、第1油圧ポンプ3の圧油がブームシリンダ6に供給され、第2油圧ポンプ4の圧油がアームシリンダ7及びバケットシリンダ8に供給され、図示しないブーム、アーム、バケットが駆動して、所望の掘削作業を実施することができる。
【0019】
このような掘削作業中に、ブームシリンダ6、アームシリンダ7の作動速度を速くしたい場合には、例えば切換弁16,18を開位置に切り換えることが行なわれる。これにより、補助ポンプとして作動する油圧ポンプ・モータ13から吐出される圧油が、切換弁16を介して第1油圧ポンプ3から吐出される圧油に合流してブームシリンダ6のボトム室に供給され、また、油圧ポンプ・モータ13から吐出される圧油が、切換弁18を介してアームシリンダ7のボトム室に供給され、ブームシリンダ6、アームシリンダ7を伸張させる動作を速くすることができる。切換弁17を開位置に切り換えた場合も同様である。
【0020】
また、例えば切換弁16が開位置に保たれ、切換弁19が閉位置に切り換えられた状態で、ブーム下げが行なわれると、ブームシリンダ6のボトム室の圧油が切換弁16を介して油圧ポンプ・モータ13に供給され、この油圧ポンプ・モータ13がモータとして作動する。したがって、この油圧ポンプ・モータ13によって発電機14が回転駆動され、生じた電気エネルギがバッテリ15に貯えられる。
【0021】
このように構成した本実施形態は、掘削作業を行なうためのブームシリンダ6と、アームシリンダ7と、バケットシリンダ8との複合操作に際し、ブームシリンダ6は第1油圧ポンプ3の圧油のみによって駆動し、あるいは第1油圧ポンプ3と油圧ポンプ・モータ13から吐出される圧油との合流によって駆動し、また、アームシリンダ7、バケットシリンダ8は第2油圧ポンプ4の圧油によって駆動し、あるいは第2油圧ポンプ3と油圧ポンプ・モータ13から吐出される圧油との合流によって駆動するので、ブームシリンダ6が比較的低い負荷圧、アームシリンダ7、バケットシリンダ8が高い負荷圧であって、アームシリンダ7、バケットシリンダ8の負荷圧と、ブームシリンダ6の負荷圧との間に圧力差があっても、このような負荷圧の差に影響を受けることなく、ブームシリンダ6、アームシリンダ7、及びバケットシリンダ8の複合操作を実施できる。すなわち、アームシリンダ7、バケットシリンダ8と、ブームシリンダ6の負荷圧の差に伴う圧力損失を生じさせることなく、ブームシリンダ6と、アームシリンダ7、バケットシリンダ8との複合操作を実施できる。これにより、ブームシリンダ6、アームシリンダ7、バケットシリンダ8が含まれる油圧回路の圧力損失を少なくすることができ、エネルギの無駄を抑えることができる。
【0022】
また、通常は捨てられるブームシリンダ6、アームシリンダ7の戻り圧を切換弁16,17,18を介して油圧ポンプ・モータ13に導き、この油圧ポンプ・モータ13をモータとして作動させ、発電機14を駆動して、生じた電気エネルギをバッテリ15に貯えるようにしたことから、上述の戻り圧を電気エネルギを貯えるために活用させることができ、これによってもエネルギの無駄を少なくすることができる。
【0023】
また、油圧ポンプ・モータ13が補助ポンプを兼ね、発電機14が電動機を兼ねた構成にしてあることから、機器の数を減らすことができて製作費を低減できるとともに、機器の設置スペースを小さく抑えて機器の配置設計の自由度を大きくすることができる。
【0024】
なお、上記実施形態は、第2油圧ポンプ4から吐出する圧油によってアームシリンダ7、バケットシリンダ8を駆動する構成にしてあるが、第2油圧ポンプ4から吐出される圧油によってアームシリンダ7のみを、あるいはバケットシリンダ8のみを駆動する構成にしてもよい。
【0025】
また、上記では、油圧ポンプ・モータ13がブームシリンダ6及びアームシリンダ7に圧油を供給可能な構成にしてあるが、ブームシリンダ6のみに圧油を供給可能な構成、あるいはアームシリンダ7のみに圧油を供給可能な構成にしてもよい。
【0026】
また、上記では、油圧ポンプ・モータ13が、ブームシリンダ6、アームシリンダ7に圧油を供給可能な補助ポンプを兼ねた構成にしてあるが、配置スペースに余裕がある場合などにあっては、油圧ポンプ・モータ13に代えて補助ポンプを設け、この補助ポンプを電動機で駆動する構成にしてもよい。この場合には、ブームシリンダ6、またはアームシリンダ7の戻り圧によって作動する油圧モータと、この油圧モータによって駆動され、生じた電気エネルギをバッテリ15に貯えさせる、原動機を兼ねない発電機を設けるようにするとよい。
【0027】
また、上記では、旋回体を駆動する旋回モータ9を発電機5によって駆動する原動機によって構成してあるが、このような発電機5によって駆動する原動機から成る旋回モータ9に代えて、油圧によって駆動する旋回モータを設けるとともに、この旋回モータの減速時に流れる圧油によって駆動する油圧モータを設け、この油圧モータによって駆動され、生じた電気エネルギをバッテリ15に貯えさせる発電機を設ける構成としてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明に係る油圧ショベルの油圧駆動装置の一実施形態を示す油圧回路図である。
【符号の説明】
【0029】
1 エンジン
2 動力伝達ギヤ
3 第1油圧ポンプ
4 第2油圧ポンプ
5 発電機
6 ブームシリンダ
7 アームシリンダ
8 バケットシリンダ
9 旋回モータ
10 ブーム用方向制御弁
11 アーム用方向制御弁
12 バケット用方向制御弁
13 油圧ポンプ・モータ(補助ポンプ)
14 発電機(原動機)
15 バッテリ
16 切換弁
17 切換弁
18 切換弁
19 切換弁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブームシリンダ、アームシリンダ、及びバケットシリンダと、これらのシリンダに圧油を供給する油圧ポンプとを備えた油圧ショベルの油圧駆動装置において、
上記油圧ポンプが、上記ブームシリンダのみに圧油を供給する第1油圧ポンプと、上記アームシリンダ及び上記バケットシリンダのうちの少なくとも一方に圧油を供給する第2油圧ポンプとを含むことを特徴とする油圧ショベルの油圧駆動装置。
【請求項2】
上記請求項1記載の発明において、
上記ブームシリンダ及び上記アームシリンダの少なくとも一方に圧油を供給可能な補助ポンプと、この補助ポンプを駆動する電動機とを備えたことを特徴とする油圧ショベルの油圧駆動装置。
【請求項3】
上記請求項1記載の発明において、
上記ブームシリンダ及び上記アームシリンダの少なくとも一方の戻り圧により駆動される油圧モータと、この油圧モータによって駆動される発電機と、この発電機によって生じた電気エネルギを貯えるバッテリとを備えたことを特徴とする油圧ショベルの油圧駆動装置。
【請求項4】
上記請求項3記載の発明において、
上記油圧モータが、上記ブームシリンダ及び上記アームシリンダの少なくとも一方に圧油を供給可能な補助ポンプを兼ねる油圧ポンプ・モータから成るとともに、上記発電機が上記バッテリの出力電圧によって駆動され、上記油圧ポンプ・モータを駆動させる原動機を兼ねることを特徴とする油圧ショベルの油圧駆動装置。

【図1】
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【公開番号】特開2008−45575(P2008−45575A)
【公開日】平成20年2月28日(2008.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−218882(P2006−218882)
【出願日】平成18年8月10日(2006.8.10)
【出願人】(000005522)日立建機株式会社 (2,611)
【Fターム(参考)】