説明

油圧係合装置及び油圧係合装置用ピストン成形方法

【課題】 本発明は車両用の自動変速機における多板式クラッチやブレーキなどに使用され、遠心油圧の解放機構を備えた油圧係合装置に関し、大幅なコスト削減が可能となる新規な構造を提供することを目的とする。
【解決手段】クラッチ外筒16には一連のドライブプレート26が軸線方向に摺動自在に設けられ、クラッチ内筒18には一連のドリブンプレート28が軸線方向に摺動自在にドライブプレート26と交互配置で設けられる。ピストン22は油圧室23の油圧によって移動可能に設けられ、油圧導入時に、ピストン22は、ドライブプレート26及びドリブンプレート28をストッパリング30に押し付け、クラッチ内筒及び外筒16,18は一体化され、入出力軸12, 14は一体化される。弁体46と弁座48とよりなるチェック弁型の遠心油圧解放機構25が設けられる。ピストン22は弁座48も含めて一枚の金属板からのブレス成形品である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は車両用の自動変速機における多板式クラッチやブレーキなどに使用され、遠心油圧の解放機構を備えた油圧係合装置及び油圧係合装置用ピストン成形方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
車両用の自動変速機に使用される多板式クラッチやブレーキにおいては摩擦部材は板状に構成され、板状の摩擦部材は油圧駆動側と被駆動側とで交互に配置され、ピストンの片側における油圧室に駆動油圧を導入することでピストンをリターンスプリングに抗して移動させることで、駆動側の摩擦部材を被駆動側の摩擦部材に係合させ、これにより所期のクラッチ若しくはブレーキ動作を得るようにした構造となっている。クラッチ解放時には油圧室から作動油圧は抜かれるが、油圧室中には作動油が残留しており、他方変速機の回転軸は常時回転しており、この回転によって油圧室に残留する作動油には遠心力が加わり、この遠心力によって油圧室にはクラッチ非操作時(作動油非導入時)にも油圧(所謂遠心油圧)を生じせしめる。遠心油圧は軸線方向成分も具有しているため、遠心油圧は時としてリターンスプリングの設定荷重を超え、この場合はピストンを移動せしめ、摩擦部材を軽微な力で係合させ、これは摩擦板の滑り及びそれに伴う摩擦板の早期磨耗の原因となる。遠心油圧に原因する変速機の異常動作を防止するため遠心油圧解放機構が設けられる。遠心油圧解放機構としてピストンに取り付けられる弁座と、弁座に対向設置される球状弁体とから構成されるものが代表的である。変速機の動作のため油圧室内に導入される駆動油圧は閉弁方向に働くため、球状弁体は弁座に着座されるため、駆動油圧によりピストンは駆動され、変速機は所期の動作を得ることができる。遠心油圧に対しては、遠心力により球状弁体は半径外方に付勢され、弁座のテーパ形状の部分に乗り上げるため、弁座は開口され、油圧室の油圧は外部に解放されるため、油圧室の油圧はスプリング圧より高まることがなく、遠心油圧によりピストンが動いてしまうことは防止される。従来はピストンに対して弁座は別部品として形成され、ピストンに取り付けられる構造となっている(特許文献1)。
【特許文献1】特開平9−196085
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
特許文献1の技術ではピストンと弁座とは別部品として構成され、ピストンを構成する筒状部材に形成された開口部に弁座となる筒状部材を取り付ける構造となっている。そのため、部品点数が増え部品コストが増大するし、筒状部材と弁座との固定化のための溶接工程等が必要となり、製造コスト的にも高くなる。そのため、トータルとしてのコストが嵩む結果となる。そのため、大幅なコスト削減が可能となる新規な構造が希求されていた。この発明はこの目的達成のためなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
この発明の自動変速機等におけるクラッチやブレーキ用の油圧係合装置によれば、ピストンは一枚の金属板材よりのプレス加工により筒状に形成され、プレス加工によるピストンの成形の過程において遠心油圧解放機構の弁座となるテーパ状筒状部分の形成も行われ、プレス品としてのピストン中に弁座部分が一体形成されている。
【0005】
金属板材よりのプレス成形の過程において、ピストンのストッパとなる相手方面との係合部もプレス成形部として同一の板材に成形される。また、ピストンのプレス成形後に油圧室を密封するためのシール部材が相手方部材との摺動面に加硫接着される。
【発明の効果】
【0006】
金属板からの筒状部材としてのピストンのプレス成形過程において、その金属板に遠心油圧解放機構の弁座となるテーパ状筒状部分のプレス成形も行われ、一枚の金属板にピストンとなる筒状部分に弁座となるテーパ状筒状部分及び相手方との当接のためのストッパ部分が一連のプレス工程の過程で形成され、部品点数が削減され及び製造コストが低減するためトータルのコストの大幅低減を実現することができる。また、相手面との密封用のシール部材については加硫固着により簡便に固着形成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
図1はこの発明の油圧係合装置の実施である自動車用の変速機等におけるクラッチ10を示しており、クラッチ10は入力軸12と出力軸14(入力軸12若しくは出力軸14がこの発明の回転軸を構成する)との間における動力伝達の制御のため設けられている。出力軸14は入力軸12と同軸であるが筒状に形成されている。クラッチ10は、入力軸12に固定されたクラッチ外筒16と、出力軸14に固定されたクラッチ内筒18(クラッチ外筒16若しくはクラッチ内筒18がこの発明の筒状回転体を構成する)と、摩擦板ユニット20と、ピストン22と、油圧室23と、リターンスプリング24と、チェック弁型の遠心油圧解放機構25から構成される。摩擦板ユニット20は軸線と平行に交互に配列された一連のドライブプレート26及びドリブンプレート28(ドライブプレート26及びドリブンプレート28の一方がこの発明の第1の摩擦部材を構成し、他方がこの発明の第1の摩擦部材を構成する)から構成される。ドライブプレート26は環状に構成され、外周にスプラインを形成し、この実施形態において駆動側となるクラッチ外筒16の内周のスプライン部16-1にスプライン嵌合されており、そのため、ドライブプレート26はクラッチ外筒16と一体に回転するが軸線と平行な方向に摺動可能となっている。ドリブンプレート28は、この実施形態において被駆動側となるクラッチ内筒18の外周のスプライン部18-1にスプライン嵌合されており、そのため、ドリブンプレート28はクラッチ内筒18と一体に回転するが軸線と平行な方向に摺動可能となっている。一連のドライブプレート26におけるピストン22から最離間側のドライブプレート26の背面にはストッパリング30が位置され、ストッパリング30はクラッチ外筒16の内周に形成した環状溝に嵌挿固定されており、係合時に摩擦板ユニット20がストッパリング30により軸線方向に拘束されることで、入出力軸間での動力伝達が行われるようになっている。
【0008】
ピストン22は後述のように一枚の金属板よりプレス成形され、内側筒状部22-1及び外側筒状部22-2よりなる二重筒状に形成される。ピストン22の内側筒状部22-1は入力軸12に対し軸方向に摺動自在とされ、ピストン22の外側筒状部22-2はクラッチ外筒16に対し軸方向に摺動自在とされ、油圧室23は、入力軸12と、クラッチ外筒16と、ピストン22との間に形成される。入力軸12とピストン22との摺動面(内側筒状部22-1の内周面)にはゴム等の弾性材料よりなる環状の内側シール32が加硫接着されている。他方、ピストン22とクラッチ外筒16との摺動面(外側筒状部22-2の外周面)にもゴム等の弾性材料よりなる環状の外側シール34が加硫接着されている。シール32, 34により油圧室23の密封摺動構造が得られる。ピストン22はコイル状のリターンスプリング24によりクラッチ外筒16に向けた方向(油圧室23の容積を減少する方向)に付勢され、通常は、クラッチ外筒16の内端面における一体部分であるストッパ部40に当接せしめられている。ストッパ部40に当接するピストン22の凸状成形部位としてのストッパ部を42にて表す。このストッパ42は円周方向に間隔をおいて適当な数設けられている。一端がピストン22に当接するスプリング24の他端は環状スプリングシート36にて受け止められている。そして、環状スプリングシート36はスナップリング38にて入力軸12上における所定位置に止められている。尚、ピストン22の裏面側は低圧室39となっており、作動油用の油圧ポンプの吸入側(低圧側)に接続されている。
【0009】
油圧室23は入力軸12に形成される油圧通路44に開口しており、クラッチ係合時には油圧通路44より油圧室23に油圧ポンプからの作動油圧が導入され、導入される油圧室23に導入される作動油圧によりピストン22はリターンスプリング24に抗して図1の左方に移動され、ピストン22の外周フランジ部22-3がドライブプレート26に係合移動せしめられ、ドリブンプレート28を介してストッパリング30に押し付けられ、クラッチ外筒16とクラッチ内筒18とが一体回転し、入力軸12の回転(矢印R)が出力軸14に伝達される。そして、油圧室23の高圧の作動油を油圧通路44より排出することにより、リターンスプリング24はピストン22を図1の右方にストッパ部40, 42が当接する位置まで押し戻す。
【0010】
チェック弁型の遠心油圧解放機構25は図2に示すようにピストン22の外周付近における一箇所に設けられており、球状弁体46と弁座48とから構成される。後述のように弁座48は一枚の金属板からのプレス成形品であるピストン22にプレス成形部として構成される。弁座48は、図1に示すように、球状弁体46の外径より幾分小さな径の流出口48-1と、流出口48-1より拡径するテーパ部48-2と、テーパ部48-2を油圧室23に開口せしめる流入口48-3とから構成される。
【0011】
次に、チェック弁型の遠心油圧解放機構25の動作につい説明すると、球状弁体46は油圧室23の油圧を受けるが、これにより球状弁体46が受ける力は軸線方向成分Pと半径方向成分Pとに分けられる。変速動作のため油圧室23への作動油圧の導入時は図3(イ)に示すように、軸線方向成分Pが半径方向成分Pより大きいため、球状弁体46は軸線方向に付勢され、流出口48-1を完全閉塞する状態をとる。そのため、油圧室23は完全密封され、油圧室23の圧力が高まるためピストン22はリターンスプリング24に抗して図1の左方に移動され、ドライブプレート26とドリブンプレート28とがストッパリング30に係合されたクラッチの係合状態となり、所期の変速動作を取ることができる。
【0012】
油圧室23への作動油圧の導入がない場合は軸線方向成分Pは殆ど消失するが、入力軸12の回転による遠心力による半径方向成分Pは大きいまま残るため、図3(ロ)に示すように軸線方向成分Pより半径方向成分Pが大きくなり、球状弁体46はテーパ部48-2を介して半径方向に変位され流入口48-3の内周面に当接する状態をとる。そのため、油圧室23から流入口48-3及びテーパ部48-2を介して流出口48-1への流路が開口形成される。そのため、作動油の非導入時において入力軸12の回転による遠心力に基づいて油圧室23に生成する油圧は矢印fのように低圧室39に排出される。そのため、遠心油圧により油圧室23の油圧がリターンスプリング24の設定圧以上に高まることはなく、ピストン22の意図しない動きが防止され、クラッチ摩擦板(ドライブプレート26及びドリブンプレート28)の滑りが防止されるだけでなくこれに伴うクラッチ摩擦板の早期磨耗を未然排除することができる。
【0013】
この発明によれば、ピストン22は遠心油圧解放機構25の弁座48の部分も含めて一枚の金属板からのプレス加工品として構成される。即ち、弁座48は板材からのプレス加工による成形部であるため、一枚の金属板材からのピストンの成形のための一連の工程中に弁座の成形工程が組み込まれ、そのため、弁座を別部品として成形し、ピストンに組立てる従来構造と比較して部品コスト及び製造コストの双方において改善されるためコスト的に大きな優位性がある。
【0014】
次に、板材からのピストン22の成形工程について図4によって概略的に説明すると、図4の工程(イ)はブランクの金属板50を示しており、ブランクの金属板50に工程(ロ)に示すように筒状の張り出し部50-1が成形される。張り出し部50-1は一度で行えない場合は多段階で行うことができる。張り出し部50-1が図1の外筒22-2となる。工程(ハ)は中心開口及び弁座の成形のための下孔50-2, 50-3のピアス加工を示す。工程(ニ)では下孔50-2 の部分がポンチとダイによって張出され、筒状部50-3に成形される。工程(ホ)では筒状部50-3の先端がテーパ状に絞られ、このテーパ状に先端が絞られた筒状部50-4が図1の弁座48となる。工程(ニ)も工程(ホ)も一段階のプレス工程では行えない場合には多段階に分けて行うことはもとよりである。次の工程(ヘ)では下孔50-3の部分が張出され、筒状の張り出し部50-5が形成される。張り出しは適当な段数の張り出し加工により行われ、この筒状の張り出し部50-5が図1の内筒22-1となる。これにより、ブランクの金属板材50からの図1のピストン22及び弁座48のプレス成形が完了される。このようにして金属板からプレス加工により成形されたピストン22となるプレス成形品にシール32, 34となるゴム材の加硫が行われる。即ち、ピストン22は加硫型内に設置され、シール32, 34に相当する空所部分にゴム材料が充填され、加熱することにより加硫され、シール32, 34が成形付着される。
【0015】
図4には簡明のため図1のストッパ部42の成形の過程は示されていないが、ブランクの金属板50のプレス成形過程でストッパ部42となるプレス成形部の成形も同様に行われる。例えば、板材50からのプレス過程において、図4(ロ)に示すような凸状の成形部50-6を円周方向に間隔をおいて複数プレス成形し、このプレス成形部50-6を図1のピストン22におけるストッパ部42として機能させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】この発明の実施であるクラッチの軸線に沿った断面図である。
【図2】図2は図1のII−II線に沿って表される矢視図であり、プレス成形品としてのこの発明のピストンの部分的正面図である。
【図3】図3は図1のクラッチにおけるチェック弁型遠心油圧解放機構の動作説明概略図であり、(イ)は閉弁状態、(ロ)は開弁状態を示す。
【図4】図4は図1のクラッチにおけるピストンのプレス成形工程(イ)〜(ト)を模式的に示す図である。
【符号の説明】
【0017】
10…クラッチ
12…入力軸
14…出力軸
16…クラッチ外筒
18…クラッチ内筒
22…ピストン
23…油圧室
24…リターンスプリング
25…遠心油圧解放機構
26…ドライブプレート
28…ドリブンプレート
30…ストッパリング
32…内側シール
34…外側シール
44…油圧通路
46…球状弁体
48…弁座
50…ブランクの金属板







【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸上において筒状回転体の内部にピストンを軸線に沿って移動可能に設け、筒状ピストンの片側の油圧室に外部より導入される駆動油圧によってピストンを移動させ、ピストンに当接される第1の摩擦部材をこれに対向する第2の摩擦部材に係合させ、かつ、ピストンに具備される弁座と、油圧室内に生じた遠心油圧により弁座よりリフトされ、油圧室を低圧側に開放する弁体よりなる遠心油圧解放機構を備えた油圧係合装置において、前記ピストン及び弁座は一枚の金属板からのプレス成形部として構成されていることを特徴とする油圧係合装置。
【請求項2】
請求項1に記載の発明において、ピストンのストッパとなる係合部も前記一枚の金属板におけるプレス成形部として構成されたことを特徴とする油圧係合装置。
【請求項3】
請求項1若しくは2に記載の発明において、油圧室を密封するためのシール部材が筒状回転体に対向するピストンの摺動面に加硫接着されている特徴とする油圧係合装置。
【請求項4】
チェック弁型の遠心油圧解放機構を備えた変速機のクラッチやブレーキの油圧係合装置に使用され、油圧変速動作を行う筒状ピストンの製造方法であって、一枚の金属板より内筒及び外筒よりなる筒状体を一連の工程にてプレス成形し、筒状体のプレス成形の一連の過程において、チェック弁を構成する円錐状弁座をも前記金属板にプレス成形部として成形することを特徴とする方法。
【請求項5】
請求項4に記載の発明において、筒状体及び円錐状弁座のプレス成形後にピストン摺動面におけるシール部材の成形及び加硫を行うことを特徴とする方法。







【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2007−132424(P2007−132424A)
【公開日】平成19年5月31日(2007.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−325649(P2005−325649)
【出願日】平成17年11月10日(2005.11.10)
【出願人】(000178804)ユニプレス株式会社 (83)
【Fターム(参考)】