説明

油圧緩衝器

【課題】 ピストンロッドの伸び切り時に不快な音や衝撃を発生させることのないリバウンド部材を備えた緩衝器の構造を提供する。
【解決手段】 シリンダ3と、シリンダ3にピストン4を介して移動自在に挿入したピストンロッド5と、シリンダ3に設けた伸び切り規制部材6とピストンロッド5に設けたストッパ部材7との間に介装されて伸び切り時の衝撃を緩和するリバウンド部材8とを備え、リバウンド部材8は上記伸び切り時に軸方向に隣り合うコイル部35同士が当接するよう圧縮可能なコイルスプリング22を備えている油圧緩衝器において、コイルスプリング22には上記当接時に隣接するコイル部35同士を係合するための係合部25、26が設けられていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に、ピストンロッドの最大伸び切り時の衝撃を緩和するためのリバウンド部材を備えた油圧緩衝器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、ピストンロッドの最大伸び切り時の衝撃を緩和するリバウンド部材を備えた油圧緩衝器としては、特許文献1に示すものを例示することができる。
【0003】
この油圧緩衝器は、シリンダ端部を封止しピストンロッドを軸支する伸び切り規制部材としてのロッドガイドと、ピストンロッドの基端側に設けたストッパ部材としてのフランジ部材との間に、両端にガイドが嵌合されたコイルスプリングからなるリバウンド部材を介装している。
【0004】
そして、この油圧緩衝器にあっては、ピストンロッドの伸び切り時にコイルスプリングが圧縮されることにより、この伸び切り時の衝撃を緩和するようになっている。
【特許文献1】特開平7−238980号公報(図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記のように構成された油圧緩衝器においては、次に示すような問題点が考えられる。
【0006】
即ち、ピストンロッドの伸び切り時には、コイルスプリングも最圧縮状態となるので、コイルスプリングを構成するコイル部はその軸方向に隣り合うコイル部同士がぴったりと密着することになる。
【0007】
このとき、図7に示すように、上記従来構造のコイルスプリング41はこのコイルスプリング41を構成する線材が、断面円形に形成されているので、最圧縮状態で密着した隣り合うコイル部42同士は互いに点接触状態となる。
【0008】
ところが、上記の伸び切り時に至る過程は、油圧緩衝器の使用条件によって様々であり、例えば、ピストン速度が遅い状態で伸び切り時を迎える場合があれば、ピストン速度が速い状態で伸び切り時を迎える場合もある。
【0009】
従って、例えば、ピストン速度が速い状態で隣り合うコイル部42同士が接触すると、互いの接触抵抗が小さいが故にコイル部42同士が滑り、図8に示すように、一部のコイル部43がピストンロッド45の外周側或いはシリンダの内周側へ向かって飛び出すことが想定される。
【0010】
この場合には、飛び出したコイル部43の外側或いは内側端部がシリンダ内周やピストンロッド45外周に接触し、不快な音や衝撃等を発生させる場合が考えられる。
【0011】
そこで、本発明は上記の問題点を解決するために創案されたものであって、その目的は、ピストンロッドの伸び切り時に不快な音や衝撃を発生させることのないリバウンド部材を備えた緩衝器の構造を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の目的を達成するため、本発明は、シリンダと、シリンダにピストンを介して移動自在に挿入したピストンロッドと、シリンダに設けた伸び切り規制部材とピストンロッドに設けたストッパ部材との間に介装されて伸び切り時の衝撃を緩和するリバウンド部材とを備え、リバウンド部材は上記伸び切り時に軸方向に隣り合うコイル部同士が当接するよう圧縮可能なコイルスプリングを備えている油圧緩衝器において、コイルスプリングには上記当接時に隣接するコイル部同士を係合するための係合部が設けられていることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、伸び切り規制部材とストッパ部材との間に介装されたリバウンド部材がそのコイルスプリングを圧縮状態とする伸び切り時には、コイルスプリングに設けた係合部によって各コイル部同士が連結されるので、コイル部同士の径方向への滑りが防止できる。
【0014】
従って、従来のように、一部のコイル部がピストンロッドの外周側或いはシリンダの内周側へ向かって飛び出し、飛び出したコイル部の外側或いは内側端部がシリンダ内周やピストンロッド外周に接触して不快な音や衝撃等を発生させる可能性を確実に防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下に、本発明を自動車のサスペンション装置に使用するストラット型の油圧緩衝器に具体化した実施の形態を図に基づいて説明する。
【0016】
この油圧緩衝器1は、図1に示すように、外筒2内に挿入されたシリンダとしての内筒3と、内筒3内にピストン4を介して出没自在に挿入されたピストンロッド5と、内筒3端部を封止しピストンロッド5を軸支する伸び切り規制部材としてのロッドガイド6と、ピストンロッド5の基端側に設けたストッパ部材7と、ストッパ部材7とロッドガイド6との間に介装されたリバウンド部材8とを備えている。
【0017】
以下、詳細に説明すると、外筒2と内筒3とは同芯に配置され、外筒2の端部内周と内筒3の端部とに渡ってロッドガイド6が嵌合されている。ロッドガイド6はその中央にピストンロッド5を案内する案内孔11が設けられ、案内孔11内に嵌合された環状の軸受部材12を介しピストンロッド5が摺動自在に軸支されている。
【0018】
又、ロッドガイド6の上面にはピストンロッド5との隙間をシールするシール部材13が配置され、外筒2の端部を内側に折り曲げて加締めることによってロッドガイド6及びシール部材13を外筒2と内筒3に対して固定するようになっている。
【0019】
ピストン4は、ピストンロッド5の基端部に挿入されてナット15により固定されると共に、このピストン4により内筒3内がロッド室Rとピストン室Pに区画されている。
【0020】
又、ピストン4のロッド室R側面には圧側ポート(図示なし)を開閉可能に閉塞する圧側バルブ16が設けられ、ピストン4のピストン室P側面には伸側ポート17を開閉可能に閉塞する伸側バルブ18が設けられている。
【0021】
ストッパ部材7は、上部にフランジ部21を有する筒状に形成され、ピストンロッド5に挿入されてこのピストンロッド5の基端側となるピストン4の直上部に溶接等により固定されている。
【0022】
そして、このストッパ部材7のフランジ部21と、ロッドガイド6との間に介装された本発明の最も特徴とする構成であるリバウンド部材8は、コイルスプリング22と、この両端に嵌合された合成樹脂製の上部及び下部ホルダ23、24とから構成されている。
【0023】
コイルスプリング22は、図2に示すように、断面略四角形状をなす線材34をコイリングすることで形成された軸方向に隣接する多重のコイル部35からなり、このコイル部35の上面に断面V溝状の凹部25、下面に上記凹部25に対向する断面逆山形状の凸部26を形成している。
【0024】
この凹部部25と凸部26は、線材34の軸線に沿って連続して形成しても良く、部分的に隔設しても良い。
【0025】
従って、伸び切り時におけるコイルスプリング22の圧縮状態では、上下に隣り合ったコイル部35同士が当接すると共に、図3に示すように、各コイル部35の当接部となる上面及び下面に夫々設けた凹部25と凸部26が係合することで各コイル部35同士が連結されるようになっている。
【0026】
尚、本発明におけるコイル部35とは線材34をコイリングすることによってできる円周部全てを示し、所謂、座巻き部、ピッチ部を構成する全ての円周部を含む概念として用いることとする。
【0027】
上部ホルダ23及び下部ホルダ24には夫々ピストンロッド5を挿通する挿通孔23a、24aが設けられており、下部ホルダ24の挿通孔24aの内面にはピストンロッド5に対して下部ホルダ24を圧入固定するための図示しないリブが形成されている。
【0028】
上部ホルダ23は、円筒状のホルダ本体28と、本体28から垂設され、外径がホルダ本体28よりも小径の嵌合部29と、この嵌合部29から延設されたテーパ部30とから構成されており、コイルスプリング22の上端部がこのテーパ部30に案内されて嵌合部29に嵌合されるようになっている。
【0029】
又、上部ホルダ23の上面には断面山形状の消音部材としての複数の突部27が所定間隔をおいて円周状に配置され、伸び切り時に上部ホルダ23がロッドガイド6に当接した時、緩衝作用を発揮して異音等を発生しないようになっている。
【0030】
本実施の形態では、突部27を構成する弾性材として上部ホルダ23と同一の合成樹脂を用いており、これにより突部27を上部ホルダ23の形成と同時に一体的に形成している。
【0031】
下部ホルダ24は、円筒状のホルダ本体28と、本体28から垂設され、外径がホルダ本体28よりも小径の嵌合部29と、この嵌合部29から延設されたテーパ部30とから構成されており、コイルスプリング22の下端部がこのテーパ部30に案内されて嵌合部29に嵌合されるようになっている。
【0032】
尚、図中、31は、外筒の外周に溶接固定されたスプリングシート、32は外筒の端部に嵌合されたバンプストッパである。
【0033】
上記のように構成された油圧緩衝器においては、ピストンロッド5の伸び切り時、加圧されたロッド室R内の作動油が伸側ポート17を介して伸側バルブ18を押し開きピストン室P側に流れると同時に伸側の減衰力を発生する。
【0034】
又、この伸側減衰力の発生と同時に、ストッパ部材7とロッドガイド6との間に介装されたリバウンド部材8がロッドガイド6に当接し、そのコイルスプリング22を最圧縮状態とすることによってこの伸び切り時の衝撃を緩和する。
【0035】
このとき、コイルスプリング22は、図3に示すように、その各コイル部35の上面及び下面に夫々設けた凹部25と凸部26が互いに係合するので、各コイル部35同士が連結され、コイル部35同士の径方向への滑りを防止する。
【0036】
従って、従来のように、一部のコイル部35がピストンロッド45の外周側或いは内筒3の内周側へ向かって飛び出し、飛び出したコイル部35の外側或いは内側端部が内筒3内周やピストンロッド5外周に接触して不快な音や衝撃等を発生させる可能性を防止することができる。
【0037】
又、上記凹部25及び凸部26の断面形状をV溝状、山形状としたので、コイル部35同士の軸心が多少ずれても調芯機能で両者を確実に係合させることができる。
【0038】
又、上記凹部25及び凸部26を同一形状をなす平面で構成することで、コイル部35同士を常に面接触させて接触抵抗を常に大きな状態とすることができ、上記した係合状態を確実に維持することができる。
【0039】
又、本実施の形態では、上記した断面略四角形状をなす線材34をコイリングすることで上面及び下面に夫々凹部25と凸部26が形成されたコイル部35を形成したので、コイリングした後に凹部25と凸部26を形成することに比較し、コイルスプリング22自体を簡単且つ安価に製造することができる。
【0040】
又、コイルスプリング22の両端に上部及び下部ホルダ23,24を嵌合させ、この両ホルダ23,24に設けた挿通孔23a,23bを介してピストンロッド5を挿通させたので、コイルスプリング22をピストンロッド5の外周の所定位置に常に安定して配置させることができる。
【0041】
従って、コイルスプリング22自体の外周或いは内周方向への移動が規制でき、コイルスプリング22自体の移動によって、このコイルスプリング22がピストンロッド5外周や内筒3内周に接触して音等を発生させることを更に確実に防止できる。
【0042】
又、上部ホルダ23の上面に断面山形状の突部27を形成したので、伸び切り時には上部ホルダ23全体がロッドガイド6にいきなり当接するのではなく、突部27を弾性変形させた後にロッドガイド6に当接することができる。
【0043】
従って、上部ホルダ23がロッドガイド6に対して急激に当接しても、この突部27の緩衝作用によって、異音等が発生するのを防止することができる。
【0044】
尚、本発明は上記の実施の形態に限定されるものではなく、例えば、次のように変更して具体化することも可能である。
【0045】
1)コイルスプリング22の上面及び下面に夫々設けた凹部25と凸部26の断面形状は、本実施の形態では断面山形状としたが、これに限定されるものではなく、例えば、図4に示すような断面半円弧状の凹部25aと凸部26aを有するコイルスプリング36や、図5に示すような断面角溝状の凹部25bと長方形状の凸部26bを有するコイルスプリング37や、図6に示すような断面台形状の凹部25cと凸部26cを有するコイルスプリング38としても良い。
【0046】
又、この形状以外にも上下両面が係合されるものであれば、その形状は任意のものを採用することができる。
【0047】
2)本実施の形態では、コイル部35の上面に凹部25、下面に凸部26を設けて係合させたが、これに限定されるものではなく、下面に凹部25、上面に凸部26を設けるようにしても良い。
【0048】
3)本実施の形態では、上記凹部25及び凸部26を同一形状で構成したが、これに限定されるものではなく、係合可能であれば、凹部25と凸部26の断面形状が異なっていても良い。
【0049】
4)上部及び下部ホルダ23、24は必ずしも両方必要ではなく、どちらか一方だけでも、又、無くても良い。
【0050】
5)本実施の形態では、複筒型のストラット型の油圧緩衝器1に具体化したが、ストラット型でなくても、また、単筒型の油圧緩衝器に具体化しても良い。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明の一実施の形態を示す油圧緩衝器の要部破断正面図である。
【図2】コイルスプリングを形成する線材を示す斜視図である。
【図3】コイルスプリングの最圧縮状態を示す断面図である。
【図4】コイルスプリングの別例を示す断面図である。
【図5】同じくコイルスプリングの別例を示す断面図である。
【図6】同じくコイルスプリングの別例を示す断面図である。
【図7】従来のコイルスプリングの最圧縮状態を示す断面図である。
【図8】図7のコイルスプリングのコイル部同士が滑った状態を示す断面図である。
【符号の説明】
【0052】
3 内筒(シリンダ)
4 ピストン
5 ピストンロッド
6 ロッドガイド(伸び切り部材)
7 ストッパ部材
8 リバウンド部材
22 コイルスプリング
23 上部ホルダ
23a 挿通孔(上部ホルダ用)
24 下部ホルダ
24a 挿通孔(下部ホルダ用)
25 25a,25b,25c 凹部(係合部)
26 26a,26b,26c 凸部(係合部)
34 線材
35 コイル部
36 コイルスプリング
37 コイルスプリング
38 コイルスプリング

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダと、シリンダにピストンを介して移動自在に挿入したピストンロッドと、シリンダに設けた伸び切り規制部材とピストンロッドに設けたストッパ部材との間に介装されて伸び切り時の衝撃を緩和するリバウンド部材とを備え、リバウンド部材は上記伸び切り時に軸方向に隣り合うコイル部同士が当接するよう圧縮可能なコイルスプリングを備えている油圧緩衝器において、コイルスプリングには上記当接時に隣接するコイル部同士を係合するための係合部が設けられていることを特徴とする油圧緩衝器。
【請求項2】
コイルスプリングとその両端に嵌合した上部及び下部ホルダとから上記リバウンド部材を構成し、上部及び下部ホルダにピストンロッドが挿通される挿通孔を穿設した請求項1記載の油圧緩衝器。
【請求項3】
コイル部同士の当接時に隣接す一方のコイル部の当接面に凸部を設け、他方のコイル部の当接面にはこの凸部と係合する凹部を設けて上記係合部とした請求項1又は2記載の油圧緩衝器。
【請求項4】
上面に凹部、下面にこの凹部と係合する凸部を備えた断面略四角形状をなす線材をコイリングすることで上記コイルスプリングを形成した請求項1、2又は3記載の油圧緩衝器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−132620(P2006−132620A)
【公開日】平成18年5月25日(2006.5.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−320576(P2004−320576)
【出願日】平成16年11月4日(2004.11.4)
【出願人】(000000929)カヤバ工業株式会社 (2,151)
【Fターム(参考)】