説明

油圧緩衝器

【課題】 インナチューブの底部側に設けた懸架スプリングの下ばね受けを昇降させてばね荷重を調整する油圧緩衝器において、車軸から取外さない状態で、外部から下ばね受けを昇降させる構造の簡素を図ること。
【解決手段】 インナチューブ12の作動油室21内で、ピストンロッド23側の上ばね受け31とインナチューブ12の底部側の下ばね受け32との間に懸架スプリング33を介装した油圧緩衝器10において、インナチューブ12の底部の車軸取付孔16を外れる位置で外部に臨むアジャスタ71を該底部に設け、インナチューブ12の底部に設けたアジャストボルト72により下ばね受け32を支持し、外部からアジャスタ71に加える操作によりアジャストボルト72を螺動させ、アジャストボルト72の螺動により下ばね受け32を昇降させて懸架スプリング33のばね荷重を調整するもの。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は車両用の油圧緩衝器に関する。
【背景技術】
【0002】
車両用の油圧緩衝器として、特許文献1に記載の如く、車体側のアウタチューブ内に車軸側のインナチューブを摺動自在に挿入し、前記インナチューブの内周に隔壁部材を設け、該隔壁部材の下部に作動油室を、上部に油溜室を区画し、前記アウタチューブ側に取付けたピストンロッドを、前記隔壁部材を貫通して前記作動油室内に挿入し、該ピストンロッドの先端部に前記作動油室内を摺動するピストンを設け、前記インナチューブの作動油室内で、ピストンロッド側の上ばね受けと該インナチューブの底部側の下ばね受けとの間に懸架スプリングを介装したものがある。
【0003】
特許文献1の油圧緩衝器は、インナチューブの底部側にプランジャを摺動可能に嵌合し、プランジャの上部に懸架スプリングのための下ばね受けを載せ、プランジャの下部に作動油の加圧室を設け、外部操作されて摺動するポンプピストンにより加圧室を加圧することにより、懸架スプリングのばね荷重を外部から調整可能にしている。
【特許文献1】実開平2-150439
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の油圧緩衝器では、インナチューブの底部側にプランジャやポンプピストンを摺動可能に組込む必要があり、部品加工性や組付性に困難を伴ない、コスト高になる。
【0005】
また、懸架スプリングの荷重を加圧室の作動油により支持するものであり、加圧室の高い作動油圧を封止するのに困難を伴ない、コスト高になる。
【0006】
尚、油圧緩衝器において、懸架スプリングのばね荷重の調整は、油圧緩衝器を車軸から取外さない状態でも実施できることが好ましい。
【0007】
本発明の課題は、インナチューブの底部側に設けた懸架スプリングの下ばね受けを昇降させてばね荷重を調整する油圧緩衝器において、車軸から取外さない状態で、外部から下ばね受けを昇降させる構造の簡素を図ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1の発明は、車体側のアウタチューブ内に車軸側のインナチューブを摺動自在に挿入し、前記インナチューブの内周に隔壁部材を設け、該隔壁部材の下部に作動油室を、上部に油溜室を区画し、前記アウタチューブ側に取付けたピストンロッドを、前記隔壁部材を貫通して前記作動油室内に挿入し、該ピストンロッドの先端部に前記作動油室内を摺動するピストンを設け、前記インナチューブの作動油室内で、ピストンロッド側の上ばね受けと該インナチューブの底部側の下ばね受けとの間に懸架スプリングを介装した油圧緩衝器において、前記インナチューブの底部の車軸取付孔を外れる位置で外部に臨むアジャスタを該底部に設け、前記インナチューブの底部に設けたアジャスタボルトにより下ばね受けを支持し、外部からアジャスタに加える操作によりアジャストボルトを螺動させ、アジャストボルトの螺動により下ばね受けを昇降させて懸架スプリングのばね荷重を調整するようにしたものである。
【0009】
請求項2の発明は、請求項1の発明において更に、前記アジャストボルトをインナチューブの底部に直立させて枢支し、該アジャストボルトのねじ部にアジャストナットを螺合し、インナチューブの内部に設けた回り止め手段によりアジャストナットを回り止めし、アジャストナットの先端部に下ばね受けの背面を衝合するようにしたものである。
【0010】
請求項3の発明は、請求項2の発明において更に、前記アジャスタをインナチューブの底部に外部へ抜け止めする状態で支持し、該アジャスタの操作部を外部に臨ませ、該アジャスタのピニオンをアジャストボルトのギアに噛合いさせてなるようにしたものである。
【0011】
請求項4の発明は、請求項1〜3のいずれかの発明において更に、前記インナチューブの内部で、下ばね受けの上部の作動油室を下ばね受けの背面室に対して封止したものである。
【0012】
請求項5の発明は、請求項1〜3のいずれかの発明において更に、前記インナチューブの内部で、下ばね受けの上部の作動油室を下ばね受けの背面室に連通したものである。
【0013】
請求項6の発明は、請求項2〜5のいずれかの発明において更に、前記回り止め手段がインナチューブと車軸ブラケットの間に挟圧されるワッシャからなり、ワッシャに設けた回り止め用異形スリットにアジャストナットの異形部を挿通させたものである。
【発明の効果】
【0014】
(請求項1)
(a)インナチューブの底部側にアジャスタとアジャストボルトを設けるものであり、プランジャ等の摺動部品を組込むものに比して部品加工性や組付性を簡易化できる。
【0015】
(b)懸架スプリングの荷重をアジャストボルトにより直に支持するものであり、作動油の封止構造は簡易で足り、作動信頼性も向上する。
【0016】
(c)アジャスタをインナチューブの車軸取付孔を外れる位置で外部に臨むように該底部に設けたから、油圧緩衝器を車軸から取外さない状態でも、懸架スプリングのばね荷重を調整できる。
【0017】
(請求項2)
(d)アジャストボルトをインナチューブの底部に直立させて枢支する状態で、外部からアジャスタに加える操作によりアジャストボルトを螺動させることにより、回り止めされているアジャストナットを直線動し、アジャストナットが背面支持している下ばね受けを昇降させることができる。
【0018】
(請求項3)
(e)アジャスタのピニオンをアジャストボルトのギアに噛合いさせることにより、アジャスタの操作部に加える回転操作によりアジャストボルトを螺動させることができる。
【0019】
(請求項4)
(f)インナチューブの内部で、下ばね受けの上部の作動油室を下ばね受けの背面室に対して封止したことにより、インナチューブの内部における下ばね受けの昇降が、インナチューブの作動油室を介して油溜室の油面をも昇降させるものになる。従って、下ばね受けの昇降によって懸架スプリングのばね荷重を調整するとともに、油溜室の油面の上昇によって空気室を拡縮し、結果として空気ばねのばね荷重も調整できる。
【0020】
(請求項5)
(g)インナチューブの内部で、下ばね受けの上部の作動油室を下ばね受けの背面室に連通したことにより、下ばね受けの昇降によって懸架スプリングのばね荷重だけを調整できる。
【0021】
(請求項6)
(h)インナチューブと車軸ブラケットの間に挟圧されるワッシャに、アジャストナットのための回り止め用異形スリットを設けたから、アジャストナットを簡易に回り止めできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
図1は油圧緩衝器の全体を示す断面図、図2は図1の下部断面図、図3は図1の中間部断面図、図4は図1の上部断面図、図5はばね荷重調整装置を示す断面図、図6はアジャスタを示し、(A)は正面図、(B)は端面図、図7はプラグを示し、(A)は正面図、(B)は端面図、図8はアジャストボルトを示す正面図、図9はアジャストナットを示し、(A)は半断面図、(B)は端面図、図10は回り止めワッシャを示す平面図、図11は下ばね受けを示す半断面図である。
【実施例】
【0023】
油圧緩衝器10は、アウタチューブ11を車体側に、インナチューブ12を車輪側に配置する倒立型フロントフォークであり、図1〜図4に示す如く、アウタチューブ11の下端開口部の内周に固定したガイドブッシュ11Aと、インナチューブ12の上端開口部の外周に固定したガイドブッシュ12Aを介して、アウタチューブ11の内部にインナチューブ12を摺動自在に挿入する。11Bはオイルシール、11Cはダストシールである。アウタチューブ11の上端開口部にはキャップ13が液密に螺着され、アウタチューブ11の外周には車体側取付部材14A、14Bが設けられる。インナチューブ12の下端開口部には車軸ブラケット15が液密に挿着されて螺着されてインナチューブ12の底部を構成し、車軸ブラケット15には車軸取付孔16が設けられる。
【0024】
油圧緩衝器10は、アウタチューブ11の内周と、インナチューブ12の外周と、前記2つのガイドブッシュ11A、12Aにて区画される環状油室17を区画する。
【0025】
油圧緩衝器10は、インナチューブ12の上端側内周にOリングを介する等により液密に、隔壁部材19を設け、隔壁部材19のロッドガイド部19Aより下部に作動油室21を区画するとともに、上部に油溜室22を区画する。油溜室22の中でその下側領域は油室22A、上側領域は空気室22Bである。
【0026】
油圧緩衝器10は、アウタチューブ11に取付けたピストンロッド23を隔壁部材19のロッドガイド部19Aに摺動自在に挿入する。具体的には、キャップ13の中心部の下端部に中空ピストンロッド23を螺着し、これをロックナット25で固定する。
【0027】
油圧緩衝器10は、隔壁部材19のロッドガイド部19Aからインナチューブ12に挿入したピストンロッド23の先端部に、インナチューブ12の内周に摺接するピストン26を固定し、前記油室21をピストンロッド23が収容されるピストンロッド側油室21Aと、ピストンロッド23が収容されないピストン側油室21Bに区画する。ピストン26はナット27により固定される。
【0028】
油圧緩衝器10は、前記環状油室17を、インナチューブ12に設けた油孔28を介して、ピストンロッド側油室21Aに常時連通する。
【0029】
油圧緩衝器10は、ピストン26のピストン側油室21Bに臨む下端面に上ばね受け31を衝合し、車軸ブラケット15が形成するインナチューブ12の底部に下ばね受け32を着座させ、上ばね受け31のテーパ部31Aに連なる最下端縮径部31Bとの段差部に設けたばね受け部31Cと下ばね受け32の間に懸架スプリング33を介装している。油圧緩衝器10は、車両走行時に路面から受ける衝撃力を懸架スプリング33の伸縮振動により吸収する。
【0030】
油圧緩衝器10は、ピストン26に減衰力発生装置40を備える。
減衰力発生装置40は、圧側流路41と伸側流路42(不図示)を備える。圧側流路41は、バルブストッパ41Bにバックアップされる圧側ディスクバルブ41Aにより開閉される。伸側流路42は、バルブストッパ42Bにバックアップされる伸側ディスクバルブ42Aにより開閉される。尚、バルブストッパ41B、バルブ41A、ピストン26、バルブ42A、バルブストッパ42Bは、ピストンロッド23に挿着されるバルブ組立体を構成し、ピストンロッド23に係着されたストッパリング41Cと、ピストンロッド23に螺着されるナット27に挟まれて固定される。
【0031】
減衰力発生装置40は、キャップ13の中心部にアジャストロッド43を液密に螺着し、アジャストロッド43に固定したニードルバルブ44をピストンロッド23の中空部に挿入し、ピストンロッド23に設けたバイパス路45の開度をニードルバルブ44の上下動により調整する。バイパス路45は、ピストン26をバイパスし、ピストンロッド側油室21Aとピストン側油室21Bを連絡する。
【0032】
減衰力発生装置40は、圧側行程では、低速域で、ニードルバルブ44により開度調整されたバイパス路45の通路抵抗により圧側減衰力を発生し、中高速域で、圧側ディスクバルブ41Aの撓み変形により圧側減衰力を発生する。また、伸側行程では、低速域で、ニードルバルブ44により開度調整されたバイパス路45の通路抵抗により伸側減衰力を発生し、中高速域で、伸側ディスクバルブ42Aの撓み変形により伸側減衰力を発生する。この圧側減衰力と伸側減衰力により、前述した懸架スプリング33の伸縮振動を制振する。
【0033】
油圧緩衝器10は、キャップ13の下端面に、インナチューブ12に設けた隔壁部材19の上端部が最圧縮ストロークで衝合するストッパラバー13A、ストッパ板13Bを固着しており、このストッパラバー13Aによって最圧縮ストロークを規制する。
【0034】
油圧緩衝器10は、インナチューブ12の上端側の隔壁部材19のピストンロッド側油室21Aに臨む下端面に加締め固定したスプリングシート51Aと、ピストンロッド23に係着されたストッパリング51Cにバックアップされるスプリングシート51Bとの間にリバウンドスプリング52を介装してある。油圧緩衝器10の最伸長時に、隔壁部材19がリバウンドスプリング52をバルブストッパ41Bとの間で加圧することにより、最伸長ストロークを規制する。
【0035】
しかるに、油圧緩衝器10にあっては、アウタチューブ11とインナチューブ12の環状隙間からなる前記環状油室17の断面積S1を、ピストンロッド23の断面積(外径に囲まれる面積)S2より大きく形成している(S1>S2、但しS1≧S2でも可)。
【0036】
また、隔壁部材19のロッドガイド部19Aに、圧側行程では油溜室22からピストンロッド側油室21Aへの油の流れを許容し、伸側行程ではピストンロッド側油室21Aから油溜室22への油の流れを阻止するチェック弁60を設けている。隔壁部材19のロッドガイド部19Aの内周にはバルブ室61が設けられ、バルブ室61の上端側の段差部61Aと、バルブ室61の下端側に設けられた前述のスプリングシート51A上のバックアップスプリング53との間にチェック弁60が収容される。チェック弁60は、段差部61Aとスプリングシート51の間隔より短尺とされ、下端面に横溝62を形成される。チェック弁60は、隔壁部材19のロッドガイド部19Aに設けたバルブ室61の内周に摺接して上下変位可能に設けられる。チェック弁60の外周は、隔壁部材19のロッドガイド部19Aに設けたバルブ室61の内周との間に、油溜室22からピストンロッド側油室21Aへの油の流れを許容する流路を形成する。チェック弁60は、ピストンロッド23を摺動自在に支持するブッシュ63をその内周に圧入されて備える。圧側行程では、チェック弁60はインナチューブ12に進入するピストンロッド23に連れ移動して図3の下方に移動し、スプリングシート51に衝合するとともに、段差部61Aとの間に隙間を形成し、ピストンロッド側油室21Aの油を横溝62からその外周経由で段差部61Aとの隙間を通って油溜室22へ排出可能とする。伸側行程では、チェック弁60はインナチューブ12から退出するピストンロッド23に連れ移動して図3の上方に移動し、段差部61Aに衝合して該段差部61Aとの間の隙間を閉じ、ピストンロッド側油室21Aの油が上述した圧側行程の逆経路で油溜室22へ排出されることを阻止する。
【0037】
また、隔壁部材19のロッドガイド部19Aはピストンロッド23の周囲にオイルシールを封着していないから、チェック弁60の内周に圧入してあるブッシュ63がピストンロッド23の周囲に形成する微小間隙(又はチェック弁60が段差部61Aとの間に形成する微小間隙)により、ピストンロッド側油室21Aと油溜室22を連通する微小流路(オリフィス)64(不図示)を構成する。微小流路64は、隔壁部材19のロッドガイド部19Aに穿設され、ピストンロッド側油室21Aと油溜室22を連通するものでも良い。
【0038】
油圧緩衝器10の動作は以下の如くになる。
(圧側行程)
圧側行程でインナチューブ12に進入するピストンロッド23の進入容積分の作動油がインナチューブ12の内周の油室21Aからインナチューブ12の油孔28を介して環状油室17に移送される。このとき、環状油室17の容積増加分ΔS1(補給量)がピストンロッド23の容積増加分ΔS2より大きいから、環状油室17への油の必要補給量のうち、(ΔS1−ΔS2)の不足分が油溜室22からチェック弁60を介して補給される。
【0039】
この圧側行程では、前述した通り、低速域で、ニードルバルブ44により開度調整されたバイパス路45の通路抵抗により圧側減衰力を発生し、中高速域で、圧側ディスクバルブ41Aの撓み変形により圧側減衰力を発生する。
【0040】
(伸側行程)
伸側行程でインナチューブ12から退出するピストンロッド23の退出容積分の作動油が環状油室17からインナチューブ12の油孔29を介してインナチューブ12の内周の油室21Aに移送される。このとき、環状油室17の容積減少分ΔS1(排出量)がピストンロッド23の容積減少分ΔS2より大きいから、環状油室17からの油の排出量のうち、(ΔS1−ΔS2)の余剰分が微小流路64を介して油溜室22へ排出される。
【0041】
この伸側行程では、前述した通り、低速域で、ニードルバルブ44により開度調整されたバイパス路45の通路抵抗により伸側減衰力を発生し、中高速域で、伸側ディスクバルブ42Aの撓み変形により伸側減衰力を発生する。また、上述の微小流路64の通路抵抗による伸側減衰力も発生する。
【0042】
以下、下ばね受け32を昇降し、懸架スプリング33のばね荷重を調整するばね荷重調整装置70について説明する。
【0043】
ばね荷重調整装置70は、図5に示す如く、インナチューブ12の底部を構成する車軸ブラケット15の車軸取付孔16を外れる位置(車軸取付孔16の斜め上部)で外部に臨むアジャスタ71を該底部に設ける。インナチューブ12の底部を構成する車軸ブラケット15の内側底面に設けたアジャストボルト72により下ばね受け32を支持する。外部からアジャスタ71に加える操作によりアジャストボルト72を螺動させ、アジャストボルト72の螺動により下ばね受け32を昇降させて懸架スプリング33のばね荷重を調整する。具体的には以下の如くである。
【0044】
(1)インナチューブ12の下端開口部に螺着される前の車軸ブラケット15の車軸取付孔16を通る中心軸(インナチューブ12に車軸ブラケット15を取付けた状態では、インナチューブ12の車軸取付孔16を通る中心軸と同じ)上で、車軸ブラケット15の内側底面に穿設されている軸受孔15Aにアジャストボルト72の回転軸72Aを挿着し、アジャストボルト72をインナチューブ12(車軸ブラケット15)の底部に直立させて枢支する。アジャストボルト72は、図8に示す如く、回転軸72Aの上部周囲に回転軸72Aと同軸をなす傘歯状ギア72Bを備え、回転軸72Aの上部に回転軸72Aと同軸をなすねじ部72Cを延在して備える。
【0045】
(2)インナチューブ12の下端開口部に螺着される前の車軸ブラケット15の車軸取付孔16を通る前述中心軸(アジャストボルト72の中心軸と同じ)に直交するように、車軸ブラケット15の車軸取付孔16に対する斜め上部で、車軸ブラケット15に貫通状に穿設されてなる支持孔15Bに、アジャスタ71を外部から挿通して支持する。アジャスタ71は、図6に示す如く、一端側に工具係合用六角棒状操作部71Aを備え、他端側にピニオン71Bを備え、中間大径部71CにOリング73を装填するための環状溝71Dを備えるとともに、操作部71Aと中間大径部71Cの間にプラグ74を装填するための中間小径部71Eを備える。プラグ74は、図7に示す如く、アジャスタ71の中間小径部71Eに挿着される筒状をなし、基端フランジ部74Aに二面巾をなす締込操作部74Bを備えるとともに、支持孔15Bのねじ部15Cに螺着されるねじ部74Cを備える。アジャスタ71の環状溝71DにOリング73を装填した状態で、このアジャスタ71を車軸ブラケット15の支持孔15Bに液密に挿入し、中間大径部71Cの端面を支持孔15Bの段差部に当て、アジャスタ71の中間小径部71Eにプラグ74を装填して締込操作部74Bを用いてねじ部74Cを車軸ブラケット15のねじ部15Cに螺着するとともに、プラグ74の基端フランジ部74Aを車軸ブラケット15の支持孔15Bまわりの外端面に当てる。これにより、アジャスタ71の中間大径部71Cをプラグ74の端面と支持孔15Bの段差部との間で回転操作可能に挟み、アジャスタ71をインナチューブ12の底部(車軸ブラケット15)に外部へ抜け止めする状態で回転可能に支持し、アジャスタ71の操作部71Aを外部に臨ませ、アジャスタ71のピニオン71Bをアジャストボルト72のギア72Bに噛合いさせる。
【0046】
(3)インナチューブ12の内部に位置するアジャストボルト72のねじ部72Cに対し、アジャストナット75を螺着する。アジャストナット75は、図9に示す如く、全周に張り出るストッパ75Aから筒状異形部75Bを起立し、異形部75Bの内周にねじ部75Cを備え、異形部75Bの先端を下ばね受け32の背面に衝合する衝合面75とする。異形部75は例えば円筒外面に二面巾部を備える。アジャストナット75は、ストッパ面75Aの側から、アジャストボルト72のねじ部72Cにそのねじ部75Cを螺着する。ストッパ面75Aは後述する回り止めワッシャ76の下面に衝合し、アジャストナット75の上昇ストローク端を規制する。ストッパ面75Aと衝合面75Dは、互いに平行をなしてアジャストナット75の中心軸に対して直交し、回り止めワッシャ76の下面と下ばね受け32の背面のそれぞれに面接触する。
【0047】
(4)インナチューブ12の下端開口部に車軸ブラケット15を螺着する。このとき、インナチューブ12の下端面と車軸ブラケット15の内周段差面15Dとの間に回り止めワッシャ76を挟圧する。回り止めワッシャ76は、図10に示す如く、回り止め用異形スリット76Aを備え、この異形スリット76Aに上述(3)のアジャストナット75の異形部75Bを挿通させる。これにより、アジャストナット75は、アジャストボルト72の螺動に対して回り止めワッシャ76により回り止めされ、異形スリット76A内を直線動して昇降する。
【0048】
(5)インナチューブ12の内周に下ばね受け32を挿入し、アジャストナット75の先端の衝合面75Dに下ばね受け32の背面を衝合する。下ばね受け32は、図11に示す如く、カップ状をなし、カップ底部をアジャストナット75の衝合面75Dに衝合し、カップ外周溝にOリング77を嵌着させる。下ばね受け32はOリング77とともにインナチューブ12の内周に液密に嵌合され、下ばね受け32の上部の油室21を下ばね受け32の背面室78(アジャストボルト72と下ばね受け32との間で、アジャストナット75、回り止めワッシャ76を格納するスペース)に対して液密に封止する。この後、インナチューブ12の内部に懸架スプリング33を挿入し、懸架スプリング33を下ばね受け32に支持させる。
【0049】
油圧緩衝器10を組上げた状態で、工具によりアジャスタ71の操作部71Aを回転操作してアジャストボルト72を螺動すると、アジャストナット75が昇降し、このアジャストナット75に衝合している下ばね受け32が昇降する。下ばね受け32は、ピストンロッド23側の上ばね受け31との間で、懸架スプリング33の初期長さを調整し、懸架スプリング33のばね荷重を調整するものになる。
【0050】
本実施例によれば以下の作用効果を奏する。
(a)インナチューブ12の底部側にアジャスタ71とアジャストボルト72を設けるものであり、プランジャ等の摺動部品を組込むものに比して部品加工性や組付性を簡易化できる。
【0051】
(b)懸架スプリング33の荷重をアジャストボルト72により直に支持するものであり、作動油の封止構造は簡易で足り、作動信頼性も向上する。
【0052】
(c)アジャスタ71をインナチューブ12の車軸取付孔16を外れる位置で外部に臨むように該底部に設けたから、油圧緩衝器10を車軸から取外さない状態でも、懸架スプリング33のばね荷重を調整できる。
【0053】
(d)アジャストボルト72をインナチューブ12の底部に直立させて枢支する状態で、外部からアジャスタ71に加える操作によりアジャストボルト72を螺動させることにより、回り止めされているアジャストナット75を直線動し、アジャストナット75が背面支持している下ばね受け32を昇降させることができる。
【0054】
(e)アジャスタ71のピニオン71Bをアジャストボルト72のギア72Bに噛合いさせることにより、アジャスタ71の操作部71Aに加える回転操作によりアジャストボルト72を螺動させることができる。
【0055】
(f)インナチューブ12の内部で、下ばね受け32の上部の作動油室21を下ばね受け32の背面室78に対して封止したことにより、インナチューブ12の内部における下ばね受け32の昇降が、インナチューブ12の作動油室21を介して油溜室22の油面をも昇降させるものになる。従って、下ばね受け32の昇降によって懸架スプリング33のばね荷重を調整するとともに、油溜室22の油面の上昇によって空気室を拡縮し、結果として空気ばねのばね荷重も調整できる。
【0056】
(g)インナチューブ12と車軸ブラケット15の間に挟圧されるワッシャ76に、アジャストナット75のための回り止め用異形スリット76Aを設けたから、アジャストナット75を簡易に回り止めできる。
【0057】
本発明の他の実施例にあっては、下ばね受け32の外周にOリング77を設けず、下ばね受け32のカップ底部に貫通孔を設けても良い。インナチューブ12の内部で、下ばね受け32の上部の油室21を下ばね受け32の背面室78に連通するものになる。これによれば、アジャスタ71の回転操作部によるアジャストボルト72の螺動に起因する下ばね受け32の昇降によって懸架スプリング33のばね荷重だけを調整できる。
【0058】
以上、本発明の実施例を図面により詳述したが、本発明の具体的な構成はこの実施例に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更等があっても本発明に含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】図1は油圧緩衝器の全体を示す断面図である。
【図2】図2は図1の下部断面図である。
【図3】図3は図1の中間部断面図である。
【図4】図4は図1の上部断面図である。
【図5】図5はばね荷重調整装置を示す断面図である。
【図6】図6はアジャスタを示し、(A)は正面図、(B)は端面図である。
【図7】図7はプラグを示し、(A)は正面図、(B)は端面図である。
【図8】図8はアジャストボルトを示す正面図である。
【図9】図9はアジャストナットを示し、(A)は半断面図、(B)は端面図である。
【図10】図10は回り止めワッシャを示す平面図である。
【図11】図11は下ばね受けを示す半断面図である。
【符号の説明】
【0060】
10 油圧緩衝器
11 アウタチューブ
12 インナチューブ
15 車軸ブラケット
16 車軸取付孔
19 隔壁部材
21 作動油室
22 油溜室
23 ピストンロッド
26 ピストン
31 上ばね受け
32 下ばね受け
33 懸架スプリング
71 アジャスタ
72 アジャストボルト
72A 回転軸
72B ギア
72C ねじ部
74 プラグ
75 アジャストナット
75B 異形部
76 回り止めワッシャ
76A 回り止め用異形スリット
78 背面室

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体側のアウタチューブ内に車軸側のインナチューブを摺動自在に挿入し、
前記インナチューブの内周に隔壁部材を設け、該隔壁部材の下部に作動油室を、上部に油溜室を区画し、
前記アウタチューブ側に取付けたピストンロッドを、前記隔壁部材を貫通して前記作動油室内に挿入し、該ピストンロッドの先端部に前記作動油室内を摺動するピストンを設け、
前記インナチューブの作動油室内で、ピストンロッド側の上ばね受けと該インナチューブの底部側の下ばね受けとの間に懸架スプリングを介装した油圧緩衝器において、
前記インナチューブの底部の車軸取付孔を外れる位置で外部に臨むアジャスタを該底部に設け、
前記インナチューブの底部に設けたアジャスタボルトにより下ばね受けを支持し、
外部からアジャスタに加える操作によりアジャストボルトを螺動させ、アジャストボルトの螺動により下ばね受けを昇降させて懸架スプリングのばね荷重を調整することを特徴とする油圧緩衝器。
【請求項2】
前記アジャストボルトをインナチューブの底部に直立させて枢支し、該アジャストボルトのねじ部にアジャストナットを螺合し、
インナチューブの内部に設けた回り止め手段によりアジャストナットを回り止めし、
アジャストナットの先端部に下ばね受けの背面を衝合する請求項1に記載の油圧緩衝器。
【請求項3】
前記アジャスタをインナチューブの底部に外部へ抜け止めする状態で支持し、該アジャスタの操作部を外部に臨ませ、該アジャスタのピニオンをアジャストボルトのギアに噛合いさせてなる請求項2に記載の油圧緩衝器。
【請求項4】
前記インナチューブの内部で、下ばね受けの上部の作動油室を下ばね受けの背面室に対して封止した請求項1〜3のいずれかに記載の油圧緩衝器。
【請求項5】
前記インナチューブの内部で、下ばね受けの上部の作動油室を下ばね受けの背面室に連通した請求項1〜3のいずれかに記載の油圧緩衝器。
【請求項6】
前記回り止め手段がインナチューブと車軸ブラケットの間に挟圧されるワッシャからなり、ワッシャに設けた回り止め用異形スリットにアジャストナットの異形部を挿通させた請求項2〜5のいずれかに記載の油圧緩衝器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2007−170652(P2007−170652A)
【公開日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−373285(P2005−373285)
【出願日】平成17年12月26日(2005.12.26)
【出願人】(000146010)株式会社ショーワ (715)
【Fターム(参考)】