説明

油性インクジェットインク

【課題】油性インクジェットインクを画像形成後の印刷物から不快なアルコール臭が発生することのないものとする。
【解決手段】少なくとも顔料、分散剤、溶剤からなる油性インクジェットインクにおいて、溶剤に含まれる脂肪酸エステル溶剤が多価アルコールと脂肪族カルボン酸とのジエステル以上の脂肪酸エステル溶剤であって、多価アルコールのOH基からβ位にある炭素が4級炭素であるもの、または溶剤に含まれる脂肪酸エステル溶剤が、カルボニル基からα位にある炭素が4級炭素である脂肪酸エステル溶剤とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油性インクジェットインク、詳細には画像形成後(印刷後)の印刷物から不快なアルコール臭が発生することのない油性インクジェットインクに関するものである。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録方式は、流動性の高いインクジェットインクを微細なヘッドノズルからインク粒子として噴射し、上記ノズルに対向して置かれた印刷紙に画像を記録するものであり、低騒音で高速印字が可能であることから、近年急速に普及している。このようなインクジェット記録方式に用いられるインクとして、非水溶性溶剤に顔料を微分散させたいわゆる油性インクジェットインクが種々提案されている。
【0003】
例えば、本発明者らは特許文献1において、顔料をエステル溶剤、高級アルコール溶剤、炭化水素溶剤等の非極性溶剤に分散させたインクを提案している。このインクは機上安定性に優れるとともに、PPC複写機やレーザープリンターで印刷された印刷面と重ね合わせた場合でも貼り付かない印字面を得ることができるという利点を有するものである。
【0004】
ところで、インクジェット印刷に伴い、臭気が問題となる場合がある。例えば、UVインク中の残留モノマーによるもの(特許文献2)、印刷媒体が塩化ビニルである非水系インクに含まれる溶媒に因るもの(特許文献3)がある。しかし、一般に使用される油性インクに関しては、これまでの所、臭気の問題が報告された例はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−126564号公報
【特許文献2】特開2003−159791号公報
【特許文献3】特開2008−274034号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、最近、上記のような臭気の原因となるような特定の物質を含有していない通常の油性インクを用いたインクジェットについても、画像形成後の印刷物から不快臭がするという問題が発生した。本発明者らが鋭意検討を重ねたところ、紙中には、炭酸カルシウム、水酸化カルシウム、酸化カルシウム等のカルシウム化合物が含まれているが、これらのうち、水に抽出され易く高いpHを示す水酸化カルシウムが臭気の問題を起こす原因となっていることがわかった。つまり、臭気の問題は一般のインクに広く使用されている脂肪酸エステル、例えばセバシン酸ジエチル、オレイン酸メチル、パルミチン酸イソオクチル等の脂肪酸エステルに対して、印刷紙中の水酸化カルシウムが触媒として働いて脂肪酸エステルを加水分解し、不快臭を有するアルコールを発生するためであることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は画像形成後の印刷物から不快なアルコール臭が発生することのない油性インクジェットインクを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第一の態様の本発明の油性インクジェットインクは、少なくとも顔料、分散剤、溶剤からなる油性インクジェットインクにおいて、前記溶剤に含まれる脂肪酸エステル溶剤が多価アルコールと脂肪族カルボン酸とのジエステル以上の脂肪酸エステル溶剤であって、前記多価アルコールのOH基からβ位にある炭素が4級炭素であることを特徴とするものである。
前記多価アルコールはネオペンチル構造を有するものであることが好ましく、ネオペンチルグリコールがさらに好ましい。
【0008】
第二の態様の本発明の油性インクジェットインクは、少なくとも顔料、分散剤、溶剤からなる油性インクジェットインクにおいて、前記溶剤に含まれる脂肪酸エステル溶剤が、カルボニル基からα位にある炭素が4級炭素である脂肪酸エステル溶剤であることを特徴とするものである。
前記脂肪酸エステル溶剤はネオデカン酸オクチルドデシルであることがより好ましい。
【発明の効果】
【0009】
第一の態様の本発明の油性インクジェットインクは、少なくとも顔料、分散剤、溶剤からなる油性インクジェットインクにおいて、溶剤に含まれる脂肪酸エステル溶剤が多価アルコールと脂肪族カルボン酸とのジエステル以上の脂肪酸エステル溶剤であって、多価アルコールのOH基からβ位にある炭素が4級炭素であるので、印刷紙中に水酸化カルシウムが含まれている場合であっても、画像形成後の印刷物から不快なアルコール臭が発生することを抑制することができる。
【0010】
多価アルコールと脂肪族カルボン酸とのジエステル以上の脂肪酸エステル溶剤であって、多価アルコールのOH基からβ位にある炭素が4級炭素である脂肪酸エステル溶剤は、エステル結合が脂肪酸および多価アルコールによって保護されるような立体構造をとりやすいために、印刷紙中に含まれる水酸化カルシウムが触媒として機能することが阻害される結果、脂肪酸エステルの加水分解が抑制されて不快臭を有するアルコールの発生が抑制されるためであると考えられる。また、仮に加水分解されても、発生するアルコールは非常に揮発しにくいものとなるため、臭気が発生することがないものと考えられる。
【0011】
第二の態様の本発明の油性インクジェットインクは、少なくとも顔料、分散剤、溶剤からなる油性インクジェットインクにおいて、前記溶剤に含まれる脂肪酸エステル溶剤が、カルボニル基からα位にある炭素が4級炭素である脂肪酸エステル溶剤であるので、印刷紙中に水酸化カルシウムが含まれている場合であっても、画像形成後の印刷物から不快なアルコール臭が発生することを抑制することができる。
【0012】
カルボニル基からα位にある炭素が4級炭素である脂肪酸エステル溶剤は、エステル結合が脂肪酸側のかさ高い置換基によって保護されるような立体構造をとりやすいために、印刷紙中に含まれる水酸化カルシウムが触媒として機能することが阻害される結果、脂肪酸エステルの分解が抑制されて不快臭を有するアルコールの発生が抑制されるためであると考えられる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
第一の態様の本発明の油性インクジェットインクは、少なくとも顔料、分散剤、溶剤からなる油性インクジェットインクにおいて、溶剤に含まれる脂肪酸エステル溶剤が多価アルコールと脂肪族カルボン酸とのジエステル以上の脂肪酸エステル溶剤であって、多価アルコールのOH基からβ位にある炭素が4級炭素である脂肪酸エステル溶剤(以下、第一の態様における脂肪酸エステル溶剤ともいう)であることを特徴とする。第二の態様の本発明の油性インクジェットインクは、少なくとも顔料、分散剤、溶剤からなる油性インクジェットインクにおいて、前記溶剤に含まれる脂肪酸エステル溶剤が、カルボニル基からα位にある炭素が4級炭素である脂肪酸エステル溶剤(以下、第二の態様における脂肪酸エステル溶剤ともいう)であることを特徴とする(以下、上記二つの態様の油性インクジェットインクを単にインクともいう)。
【0014】
第一の態様における脂肪酸エステル溶剤の原料となる多価アルコールはネオペンチル構造を有することが好ましい。ネオペンチル構造有する多価アルコールとしては、具体的にはネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトールを好ましく挙げることができる。この中でも、吐出性能の観点から、ネオペンチルグリコールがより好ましい。また、ネオペンチル構造を有するアルコールと共にエステルを形成する脂肪酸の具体例としては、炭素数7〜18の飽和又は不飽和脂肪酸等を好ましく挙げることができる。
【0015】
第一の態様における脂肪酸エステル溶剤としてより詳細には、テトラ−2−エチルヘキサン酸ペンタエリスリット、トリエチルヘキサン酸トリメチロールプロパン、トリイソステアリン酸トリメチロールプロパン、ジカプリン酸ネオペンチルグリコール、ジエチルヘキサン酸ネオペンチルグリコール、ジイソノナン酸ネオペンチルグリコール等を好ましく挙げることができ、これらの脂肪酸エステル溶剤は単独で、あるいは2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。
【0016】
第一の態様における脂肪酸エステル溶剤は多価アルコールと脂肪族カルボン酸とのジエステル以上の脂肪酸エステル溶剤であって、多価アルコールのOH基からβ位にある炭素が4級炭素であるため、エステル結合が脂肪酸および多価アルコールによって保護されるような立体構造をとりやすくなり、とりわけ炭素数の長い脂肪酸(炭素数7〜18)を有している場合には、印刷紙中に含まれる水酸化カルシウムが触媒として機能することが立体的に阻害されるため、不快臭を有するアルコールの発生が抑制されると考えられる。また、仮に加水分解されても、発生するアルコールは多価アルコールであるために揮発しにくく、臭気の発生を抑制することが可能である。
【0017】
第二の態様における脂肪酸エステル溶剤の原料となる脂肪酸は、カルボニル基からα位にある炭素が4級炭素であり、具体的にはネオペンチル酸、ネオヘプタン酸、ネオデカン酸等のネオ構造を有する脂肪酸を好ましく挙げることができる。また、カルボニル基からα位にある炭素が4級炭素である脂肪酸と共にエステルを形成するアルコールの具体例としては、炭素数1〜20の飽和アルコールを挙げることができる。
【0018】
第二の態様における脂肪酸エステル溶剤としてより詳細には、ネオペンタン酸イソデシル、ネオペンタン酸イソステアリル、ネオペンタン酸オクチルドデシル、ジネオペンタン酸ジエチルペンタンジオール、ジネオペンタン酸メチルペンタンジオール等を好ましく挙げることができ、これらの脂肪酸エステル溶剤は単独で、あるいは2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。
【0019】
第二の態様における脂肪酸エステル溶剤はカルボニル基からα位にある炭素が4級炭素であるため、エステル結合が脂肪酸側のかさ高い置換基によって保護されるような立体構造をとりやすくなり、印刷紙中に含まれる水酸化カルシウムが触媒として機能することが立体的に阻害されるため、不快臭を有するアルコールの発生が抑制されると考えられる。
【0020】
上記の第一の態様における脂肪酸エステル溶剤と第二の態様における脂肪酸エステル溶剤は単独で、あるいは第一の態様における脂肪酸エステル溶剤と第二の態様における脂肪酸エステル溶剤を適宜組み合わせて用いてもよい。なお、溶剤に含まれる脂肪酸エステル溶剤はその全てが第一の態様における脂肪酸エステル溶剤および/または第二の態様における脂肪酸エステル溶剤であることが好ましいが、不快なアルコール臭を発生しない程度においては第一の態様における脂肪酸エステル溶剤および第二の態様における脂肪酸エステル溶剤以外の脂肪酸エステル溶剤を含んでいてもよい。
【0021】
第一の態様における脂肪酸エステル溶剤および第二の態様における脂肪酸エステル溶剤以外の脂肪酸エステル溶剤は、例えば、ラウリン酸エチル、イソノナン酸イソノニル、ラウリル酸イソプロピル、ミリスチン酸イソプロピル、パルミチン酸イソプロピル、パルミチン酸イソオクチル、パルミチン酸イソステアリル、オレイン酸イソプロピル、オレイン酸ブチル、リノール酸イソブチル、イソステアリン酸イソプロピル、大豆油イソブチル、トール油イソブチル、アジピン酸ジイソプロピル、セバシン酸ジイソプロピル、モノカプリン酸プロピレングリコール、クエン酸トリエチルヘキシル、トリ2−エチルヘキサン酸グリセリル等が挙げられる。
【0022】
通常インクの溶剤には非極性有機溶剤と極性有機溶剤が含まれるが、第一の態様における脂肪酸エステル溶剤および/または第二の態様における脂肪酸エステル溶剤はその溶剤の種類によっても異なるが、概ね極性有機溶剤全量に対して5〜100質量%の範囲、より好ましくは10〜90質量%の範囲で含有させることが可能である。
【0023】
本発明のインクは、第一の態様における脂肪酸エステル溶剤および/または第二の態様における脂肪酸エステル溶剤以外に顔料、分散剤、その他の溶剤、必要に応じて各種添加剤等を含有することができる。
【0024】
本発明で使用される顔料としては特に限定されず、従来公知の無機顔料および有機顔料を使用することができる。例えば、無機顔料としては、酸化チタン、ベンガラ、コバルトブルー、群青、紺青、カーボンブラック、炭酸カルシウム、カオリン、クレー、硫酸バリウム、タルク、シリカ等が挙げられる。有機顔料としては、不溶性アゾ顔料、アゾレーキ顔料、縮合アゾ顔料、縮合多環顔料、銅フタロシアニン顔料等が挙げられる。これらの顔料は、単独で用いてもよいし、適宜組み合わせて使用することも可能である。顔料の添加量は、インク全量に対して0.5〜20質量%が好ましい。
【0025】
顔料分散剤としては、例えば、水酸基含有カルボン酸エステル、長鎖ポリアミノアマイドと高分子量酸エステルの塩、高分子量ポリカルボン酸の塩、長鎖ポリアミノアマイドと極性酸エステルの塩、高分子量不飽和酸エステル、変性ポリウレタン、変性ポリアクリレート、ポリエーテルエステル型アニオン系活性剤、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物塩、ポリオキシエチレンアルキルリン酸エステル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリエステルポリアミン、ステアリルアミンアセテート等が挙げられる。
【0026】
これらのうち、高分子系分散剤が好ましく使用され、例えば、以下の商品名で販売されているものが挙げられる:ソルスパース5000(フタロシアニンアンモニウム塩系)、11200(ポリアミド系)、13940(ポリエステルアミン系)、17000、18000(脂肪酸アミン系)、22000、24000、及び28000(いずれも日本ルーブリゾール社製);エフカ400、401、402、403、450、451、453(変性ポリアクリレート)、46、47、48、49、4010、及び4055(変性ポリウレタン)(いずれもEfka CHEMICALS社製);デモールP、EP、ポイズ520、521、530、及びホモゲノールL−18(ポリカルボン酸型高分子界面活性剤)(いずれも花王(株)製);ディスパロンKS−860、KS−873N4(高分子ポリエステルのアミン塩)(いずれも楠本化成社製);ディスコール202、206、OA−202、及びOA−600(多鎖型高分子非イオン系)(いずれも第一工業製薬(株)製);ANTARON V216(ビニルピロリドン−ヘキサデセンコポリマー)(アイエスピー・ジャパン(株)製)。なかでも、ポリアミド系及びビニルピロリドン−ヘキサデセンコポリマーがより好ましい。分散剤の含有量は、上記顔料を十分にインク中に分散可能な量であればよく、通常、1〜7質量%程度である。
【0027】
インクの溶剤としては、第一の態様における脂肪酸エステル溶剤および/または第二の態様における脂肪酸エステル溶剤の他に非極性有機溶剤、極性有機溶剤、又はこれらの混合物を含でいてよく、特に非極性溶剤を併用することが好ましい。非極性溶剤を併用することにより、臭気発生の抑制がより効果的になるうえ、吐出性能を良好なものとすることができる。非極性溶剤と極性溶剤の含有量は、20〜80質量%の非極性溶剤と80〜20質量%の極性溶剤であることが好ましく、より好ましくは、30〜60質量%の非極性溶剤と70〜40質量%の極性溶剤、さらには、35〜60質量%の非極性溶剤と65〜40質量%の極性溶剤であることが好ましい。
【0028】
非極性有機溶剤の例としては、脂肪族炭化水素溶剤、脂環式炭化水素系溶剤、芳香族炭化水素溶剤等を挙げることができる。脂肪族炭化水素溶剤、脂環式炭化水素系溶剤としては、パラフィン系、イソパラフィン系、ナフテン系の溶剤が挙げられる。例えば、以下の商品名で販売されているものが挙げられる。テクリーンN−16、テクリーンN−20、テクリーンN−22、日石ナフテゾールL、日石ナフテゾールM、日石ナフテゾールH、0号ソルベントL、0号ソルベントM、0号ソルベントH、日石アイソゾール300、日石アイソゾール400、AF−4、AF−5、AF−6、及びAF−7(いずれも新日本石油(株)製);Isopar(アイソパー)G、IsoparH、IsoparL、IsoparM、ExxolD40、ExxolD80、ExxolD100、ExxolD130、及びExxolD140(いずれもExxon社製)。芳香族炭化水素溶剤としては、新日本石油(株)製の日石クリーンソルG(アルキルベンゼン)、Exxon社製のソルベッソ200等が挙げられる。これらのうち、ナフテン系溶剤、AF−4、AF−5、AF−6、及びAF−7(商品名)が多用される。
【0029】
極性有機溶剤としては、第一の態様における脂肪酸エステル溶剤および/または第二の態様における脂肪酸エステル溶剤以外に、アルコール系溶剤、高級脂肪酸系溶剤、エーテル系溶剤を用いることができる。アルコール系溶剤としてはイソミリスチルアルコール、イソパルミチルアルコール、イソステアリルアルコール、オレイルアルコール;高級脂肪酸系溶剤としてはイソノナン酸、イソミリスチン酸、ヘキサデカン酸、イソパルミチン酸、オレイン酸、イソステアリン酸;エーテル系溶剤としてはジエチルグリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールジブチルエーテルが挙げられる。
【0030】
上記各成分に加えて、本発明のインクには慣用の添加剤が含まれていてよい。添加剤としては、界面活性剤、例えばアニオン性、カチオン性、両性、もしくはノニオン性の界面活性剤、酸化防止剤、例えばジブチルヒドロキシトルエン、没食子酸プロピル、トコフェロール、ブチルヒドロキシアニソール、及びノルジヒドログアヤレチック酸等、が挙げられる。
【0031】
本発明のインクは、例えばビーズミル等の公知の分散機に全成分を一括又は分割して投入して分散させ、所望により、メンブレンフィルター等の公知のろ過機を通すことにより調製できる。具体的には、予め溶剤の一部と顔料及び分散剤の全量を均一に混合させた混合液を調製して分散機にて分散させた後、この分散液に残りの成分を添加してろ過機を通すことにより調製することができる。
以下に本発明の油性インクジェットインクの実施例を示す。
【実施例】
【0032】
(第一の態様における脂肪酸エステル溶剤を用いたインクの調製)
下記表1に示す配合(表1に示す数値は質量部である)で原材料をプレミックスした後、ビーズミルにて約10分間分散させて実施例1〜6および比較例1〜5のインクを調製した。
【0033】
(評価)
上記で調製した各インクを、インクジェットヘッドCB2ヘッド(東芝テック(株)製)に装填し、普通紙(COPY&LAZER:April Paper社製普通紙)に、液滴42plで150dpi相当のベタ画像を印刷し、印刷直後、印刷後1週間目にそれぞれの臭気を3人のパネルにより臭いを嗅いでもらい、下記基準によって官能評価した。
○:臭気がしない
×:臭気が顕著である
【0034】
上記で調製した実施例の各インクを、インクジェットヘッドCB2ヘッド(東芝テック(株)製)に装填し、普通紙(COPY&LAZER:April Paper社製普通紙)に液滴42pLで吐出をおこない、下記基準によって吐出性能を評価した。なお、比較例に関しては臭気が顕著であったため、吐出性能の評価は行わなかった。
○:常温(23℃)で全ノズルの吐出が可能であった
△:加温(50℃)により全ノズルの吐出が可能であった
×:加温(50℃)しても不吐出のノズルが半分以上あり吐出不良であった
【0035】
各インクの処方と臭気評価および吐出性能の結果を表1に、実施例および比較例で用いたエステル溶剤の溶剤そのものの臭気を表2に示した。なお表2に示す溶剤の臭気も印刷物の臭気を評価したときと同様に3人のパネルにより臭いを嗅いでもらい、上記基準によって官能評価した。
【0036】
【表1】

【0037】
【表2】

【0038】
表に示すように第一の態様における脂肪酸エステル溶剤は溶剤そのものに臭気がなく、この脂肪酸エステル溶剤を用いた実施例1〜6では印刷後1週間経過しても臭気は認められなかった。一方、比較例1〜5のような脂肪酸エステル溶剤を用いた場合には印刷後1週間目にして顕著な不快臭が認められた。とりわけ、比較例5のような脂肪酸エステル溶剤を用いた場合には、溶剤そのものが臭気を発することから、印刷直後から顕著な不快臭が認められた。
【0039】
(第二の態様における脂肪酸エステル溶剤を用いたインクの調製)
下記表3に示す配合(表3に示す数値は質量部である)で原材料をプレミックスした後、ビーズミルにて約10分間分散させて実施例11〜16および比較例11〜15のインクを調製した。
【0040】
第一の態様における脂肪酸エステル溶剤を用いたインクの評価と同様に、上記で調製した第二の態様における脂肪酸エステル溶剤を用いたインクを評価した。なお、比較例に関しては臭気が顕著であったため、吐出性能の評価は行わなかった。各インクの処方と臭気評価および吐出性能の結果を表3に、実施例および比較例で用いたエステル溶剤の溶剤そのものの臭気を表4に示した。
【0041】
【表3】

【0042】
【表4】

【0043】
表に示すように第二の態様における脂肪酸エステル溶剤も溶剤そのものに臭気がなく、この脂肪酸エステル溶剤を用いた実施例11〜16では印刷後1週間経過しても印刷物からのアルコール臭は認められなかった。なお、実施例14以外はアルコール臭ではないが実用上は問題にならない程度のわずかな臭いが認められた。一方、比較例11〜15のような脂肪酸エステル溶剤を用いた場合には印刷後1週間目にして顕著なアルコール臭が認められた。とりわけ、比較例15のような脂肪酸エステル溶剤を用いた場合には、溶剤そのものが臭気を発することから、印刷直後から顕著な不快臭が認められた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも顔料、分散剤、溶剤からなる油性インクジェットインクにおいて、前記溶剤に含まれる脂肪酸エステル溶剤が多価アルコールと脂肪族カルボン酸とのジエステル以上の脂肪酸エステル溶剤であって、前記多価アルコールのOH基からβ位にある炭素が4級炭素であることを特徴とする油性インクジェットインク。
【請求項2】
前記多価アルコールがネオペンチルグリコールであることを特徴とする請求項1記載の油性インクジェットインク。
【請求項3】
少なくとも顔料、分散剤、溶剤からなる油性インクジェットインクにおいて、前記溶剤に含まれる脂肪酸エステル溶剤が、カルボニル基からα位にある炭素が4級炭素である脂肪酸エステル溶剤であることを特徴とする油性インクジェットインク。

【公開番号】特開2011−162757(P2011−162757A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−38384(P2010−38384)
【出願日】平成22年2月24日(2010.2.24)
【出願人】(000250502)理想科学工業株式会社 (1,191)
【復代理人】
【識別番号】100111040
【弁理士】
【氏名又は名称】渋谷 淑子
【Fターム(参考)】