説明

油性インク

【課題】油性インクを光沢紙などの空隙の少ない用紙に対しても良好に定着可能なものとする。
【解決手段】少なくとも染料と有機溶剤とを含む油性インクであって、染料をインク全量に対して0.1〜20質量%、有機溶剤中にC=O結合を有する五員複素環式化合物またはリン酸エステルを、インク全量に対して50〜99質量%含むものとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット記録システムの使用に適したインクであって、詳細には色材として染料を含有する油性インクに関するものである。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録方式は、流動性の高いインクジェットインクを微細なヘッドノズルからインク粒子として噴射し、上記ノズルに対向して置かれた印刷用紙に画像を記録するものであり、低騒音で高速印字が可能であること、安価にバリアブルデータが出力できることから、近年急速に普及している。インクジェット記録システムに使用するインクとしては、大きく水性、ソルベント、油性に分けられる。
【0003】
油性インクはソルベントインクに比べ揮発しにくいため安全性に優れ、メンテナンスが容易といった特徴を有し、水性インクのようなコックリングやカールが起きることがないため、高速印刷を行うインクジェット記録システムに適したインクとして多用されている(例えば、特許文献1)。
【0004】
ところで、印刷インクを乾燥方式から分類すると、大まかに、紙などの印刷物に浸透して乾燥する浸透乾燥方式、印字後にインクが揮発して乾燥する揮発乾燥方式、インク自体が乾燥固化する重合乾燥方式に分けられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−126564号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
油性インクは揮発性が低い溶剤を使用しているために揮発乾燥がしにくく、専ら浸透乾燥に依存している。このため、油性インクを光沢紙等空隙が少ない用紙に対して使用すると、インクが浸透しにくいがために、インクが定着しないという問題があった。
本発明は上記事情に鑑みなされたものであり、光沢紙などの空隙の少ない用紙に対しても良好に定着可能な油性インクを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の油性インクは、少なくとも染料と有機溶剤とを含む油性インクであって、前記染料をインク全量に対して0.1〜20質量%、前記有機溶剤中にC=O結合を有する五員複素環式化合物またはリン酸エステルをインク全量に対して50〜99質量%含むことを特徴とするものである。
前記五員複素環式化合物は、カーボネート化合物、ラクトン化合物、イミダゾリジノン化合物、ピロリドン化合物から選ばれる少なくとも1つであることが好ましい。
【0008】
前記カーボネート化合物は、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、1,2−ブチレンカーボネートおよびこれらの誘導体から選ばれる少なくとも1つであることが好ましい。
前記ラクトン化合物はγ−ブチロラクトン、α−アセチル−γ−ブチロラクトン、ペンタノ−4−ラクトンおよびこれらの誘導体から選ばれる少なくとも1つであることが好ましい。
【0009】
前記イミダゾリジノン化合物は2−イミダゾリジノン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、1,3−ジエチル−2−イミダゾリジノン、1,3−ジプロピル−2−イミダゾリジノン、1,3−ジイソプロピル−2−イミダゾリジノン、1,3−ジブチル−2−イミダゾリジノンおよびこれらの誘導体から選ばれる少なくとも1つであることが好ましい。
前記ピロリドン化合物は2−ピロリドン、N−メチル−ピロリドン、1−エチル−2−ピロリドンおよびこれらの誘導体から選ばれる少なくとも1つであることが好ましい。
【0010】
インク中のポリマー成分の含有量は、インク全量に対し1質量%以下であることが好ましい。
ここで、ポリマー成分とは、単量体(モノマー)の繰り返し構造を持つ分子量500以上の重合体を意味する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の油性インクは、染料をインク全量に対して0.1〜20質量%、有機溶剤中にC=O結合を有する五員複素環式化合物またはリン酸エステルをインク全量に対して50〜99質量%含むので、光沢紙などの空隙の少ない用紙に対しても良好に定着可能である。この作用機序は必ずしも明らかではないが、五員複素環式化合物やリン酸エステルが染料を良好に溶解する性質を有するとともに、これら五員複素環式化合物やリン酸エステルは粘度が低く、これらの溶剤をインク全量に対して50〜99質量%含むので、空隙の少ない紙においても、毛細管現象により染料を紙内部に浸透しやすくして、コート紙や光沢紙に対しても定着を促進させることが可能であると考えられる。
【0012】
光沢紙への定着を促進させるためにはインク転移量の低減が効果的であるが、従来の油性インクの場合、インク転移量を低減させると画像濃度が低下してしまうえ、画像濃度を犠牲にして転移量を低減しても、光沢紙への定着は十分とはいえないレベルであった。これに対し、本発明の油性インクの場合、五員複素環式化合物やリン酸エステルが染料を良好に溶解し、これらの溶剤をインク全量に対して50〜99質量%含むので、インク転移量が少ない条件であっても、画像濃度を得やすく良好な画質を形成することが可能である。
従って、本発明の油性インクは光沢紙用インクとして好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の油性インクは(以下単にインクともいう)、少なくとも染料と有機溶剤とを含むインクであって、染料をインク全量に対して0.1〜20質量%、有機溶剤中にC=O結合を有する五員複素環式化合物またはリン酸エステルをインク全量に対して50〜99質量%含むことを特徴とする。
【0014】
五員複素環式化合物は液体であっても、固体であってもよく、固体の場合には有機溶剤に溶解するものであればよい。溶解させる有機溶剤としては後述する有機溶剤を使用することができる。五員複素環式化合物としては、カーボネート化合物、ラクトン化合物、イミダゾリジノン化合物、ピロリドン化合物を好ましく挙げることができる。
【0015】
カーボネート化合物としてはエチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、1,2−ブチレンカーボネートおよびこれらの誘導体を好ましく挙げることができる。
ラクトン化合物としてはγ−ブチロラクトン、α−アセチル−γ−ブチロラクトン、ペンタノ−4−ラクトンおよびこれらの誘導体を好ましく挙げることができる。
【0016】
イミダゾリジノン化合物としては2−イミダゾリジノン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、1,3−ジエチル−2−イミダゾリジノン、1,3−ジプロピル−2−イミダゾリジノン、1,3−ジイソプロピル−2−イミダゾリジノン、1,3−ジブチル−2−イミダゾリジノンおよびこれらの誘導体を好ましく挙げることができる。
ピロリドン化合物としては2−ピロリドン、N−メチル−ピロリドン、1−エチル−2−ピロリドンおよびこれらの誘導体を好ましく挙げることができる。
上記誘導体としては、水素原子がフッ素原子または炭素数が1〜4のアルキル基で置換された化合物を例示することができる。
【0017】
リン酸エステルとしては、リン酸モノエステル、リン酸ジエステル、リン酸トリエステル、を好ましく挙げることができ、より詳細には、リン酸トリメチル、リン酸トリエチル、リン酸トリブチル、リン酸トリイソプロピル、リン酸トリプロピル、リン酸トリアミル、リン酸トリフェニルおよびこれらの誘導体を好ましく挙げることができる。誘導体としては、水素原子がフッ素原子または炭素数が1〜4のアルキル基で置換された化合物を例示することができる。
【0018】
五員複素環式化合物またはリン酸エステルはそれぞれ単独であるいは2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。なお、2種以上を適宜組み合わせて用いる場合には、組み合わせて用いた五員複素環式化合物およびリン酸エステルの総含有量が、有機溶剤全量に対して50〜99質量%であることを意味する。より好ましくは五員複素環式化合物またはリン酸トリエステルの総含有量は、インク全量に対して60〜97質量%であることが好ましい。五員複素環式化合物またはリン酸エステルは粘度が低いため、インクジェットインクとしてより好適に用いることができる。
【0019】
インク中のポリマー成分の含有量はインク全量に対して1質量%以下であり、好ましくは0.5質量%以下であることが望ましい。硬化する性質のポリマーの場合、ポリマー成分が1質量%より多くなると、ノズル目詰まりが発生するため好ましくない。また、硬化する性質ではないポリマーの場合、ポリマー成分は、光沢紙、コート紙に浸透しにくいため、ポリマー成分が1質量%より多くなるとインクの定着性が低下するため好ましくない。
【0020】
インク中のポリマー成分としては、高分子分散剤を含む場合には、例えば市販品として、日本ルーブリゾール株式会社製のソルスパースシリーズ(ソルスパース18000、28000、11200、20000、27000、41000、41090、43000、44000)、BASFジャパン社製のジョンクリルシリーズ(ジョンクリル57、60、62、63、71、501)、第一工業製薬株式会社製のポリビニルピロリドンK−30、K−90等が挙げられる。
【0021】
樹脂を含む場合には、荒川化学工業株式会社製のマルキードNO.31、NO.32、NO.33、マルキードNO.32〜30WS等のマレイン酸樹脂、荒川化学工業株式会社製のタマノリ751、タマノルPA等のフェノール樹脂、BASFジャパン社製のジョンクリル682(商品名)等のスチレンアクリル系樹脂、立化成工業株式会社製のハイラック111、110H等のケトン樹脂、新日鐵化学株式会社製のエスクロンG90、V120等のクマロン樹脂、チッソ株式会社製のビニレックEタイプ、Kタイプ等のポリビニルホルマール樹脂、宇部興産株式会社製のナイロン6等のε−カプロラクタム共重合体、積水化学工業株式会社のエスレックBL−1、BL−2等のポリビニルブチラール樹脂、旭化成工業株式会社のスタイラック−AS767等のポリスチレン、ポリアクリル酸メチル等のポリアクリル酸エステル、ポリメタクリル酸メチル、ポリメタクリル酸プロピル等のポリメタクリル酸エステル、塩素化ポリプロピレン、ポリ酢酸ビニル、無水マレイン酸ポリマー等の付加重合樹脂、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン樹脂、塩素化ポリプロピレン、DFK樹脂、ポリエステル、ポリウレタン、ポリアミド等の縮重合樹脂等が挙げられる。
【0022】
本発明のインクに含まれる有機溶剤はその全部が五員複素環式化合物またはリン酸エステルであってもよいが、その他の有機溶剤を含んでいてもよい。五員複素環式化合物またはリン酸エステル以外の有機溶剤としては、水溶性有機溶剤、石油系炭化水素溶剤を挙げることができ、具体的には、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ペンタエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、などのグリコール類、グリセリン、アセチン類、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、テトラエチレングリコールモノメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジエチルエーテルなどのグリコール誘導体、トリエタノールアミン、β−チオグリコール、スルホラン、AF−7、AF−4などの炭化水素溶剤などを用いることができる。これらの水溶性有機溶剤は単独で、または2種類以上組み合わせて使用することができる。
有機溶剤の含有量はインク粘度の観点から、インク全量中に40質量%以下であることが好ましい。
【0023】
本発明のインクに用いられる染料としては従来公知の染料を用いることができ、アゾ染料、金属錯塩染料、ナフトール染料、アントラキノン染料、インジゴ染料、カーボニウム染料、キノンイミン染料、キサンテン染料、シアニン染料、キノリン染料、ニトロ染料、ニトロソ染料、ベンゾキノン染料、ナフトキノン染料、フタロシアニン染料、金属フタロシアニン染料などの油溶性染料がより好ましい。これらの染料は、単独で用いてもよいし、適宜組み合わせて使用することも可能であるが、インク全量に対して0.1〜20質量%の範囲で、より好ましくは1〜10質量%の範囲で含有することが望ましい。0.1質量%未満では印刷濃度が著しく低下し、20質量%よりも多くなると耐擦過性が低下する。
【0024】
上記各成分に加えて、本発明のインクには慣用の添加剤が含まれていてよい。添加剤としては、界面活性剤、例えばアニオン性、カチオン性、両性、もしくはノニオン性の界面活性剤、酸化防止剤、例えばジブチルヒドロキシトルエン、没食子酸プロピル、トコフェロール、ブチルヒドロキシアニソール、及びノルジヒドログアヤレチック酸等、が挙げられる。
【0025】
本発明のインクは、例えばビーズミル等の公知の分散機に全成分を一括又は分割して投入して分散させ、所望により、メンブレンフィルター等の公知のろ過機を通すことにより調製できる。
以下に本発明のインクの実施例を示す。
【実施例】
【0026】
(インクの調製)
下記表1に示す配合(表1に示す数値は質量部である)で原材料を混合させ、スターラーで1時間攪拌し、孔径3μmのメンブレンフィルターでろ過し、実施例および比較例のインクを得た。
【0027】
(画像採取)
以下の条件で画像を採取した。
ヘッド:CB2ヘッド(東芝テック社製)
解像度:300dpi×300dpi
画像:単色ベタ
1ドット液滴量:42pL
用紙:光沢紙(三菱化学メディア社製、セイコーエプソン社製、DNPフォトマーケティング社製)
【0028】
(定着性評価)
上記画像印字30秒後に印字面に理想用紙IJマット(W)を重ね、その上をプラスチックローラーで5往復し、IJマット(W)に転写した汚れの度合いを下記基準に従って目視で評価した。
◎:汚れは確認されない
○:汚れは極僅かで目立たない
△:やや汚れが目立つ
×:汚れが顕著である
各インクの処方と評価の結果を表1に示す。
【0029】
【表1】

【0030】
表1に示すように、実施例1〜12に示す本発明のインクは3種類の光沢紙のいずれにおいても良好な定着性が得られた。実施例10はインク全量に対し1質量%のポリマー成分を含むインクであるが、ポリマー成分が光沢紙に浸透しにくいために他の実施例よりも定着性が悪くなったと考えられる。また、実施例12は染料の含有量が20質量%と非常に多く、紙面上に色材が多く残りやすいために、他の実施例よりも微差ではあるが定着性が低下した。
【0031】
比較例1は顔料インク、比較例2は染料インクであるが、この場合には顔料もしくは染料が分散剤によって高級アルコール系溶剤や、エステル系溶剤、石油系溶剤の有機溶剤に分散されているのみで、空隙の少ない光沢紙に対してはこれらの有機溶剤が浸透しないがために定着性は顕著に悪かった。また、比較例3では染料の含有量が25質量%と非常に多いために、毛細管現象によって紙内部に浸透する量の限界を超えたがために定着性が悪くなったものと考えられる。
【0032】
以上のように、本発明の油性インクは、有機溶剤中にC=O結合を有する五員複素環式化合物またはリン酸エステルが染料を良好に溶解する性質を有し、これらの溶剤をインク全量に対して50〜99質量%含むので、インク転移量が少ない条件であっても光沢紙上で良好に発色し、画像濃度を得やすく良好な画質を形成することが可能であるとともに、インク転移量が多い条件であっても、毛細管現象により染料を紙内部に浸透しやすく、定着を促進させることができた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも染料と有機溶剤とを含む油性インクであって、前記染料をインク全量に対して0.1〜20質量%、前記有機溶剤中にC=O結合を有する五員複素環式化合物またはリン酸エステルを、インク全量に対して50〜99質量%含むことを特徴とする油性インク。
【請求項2】
前記五員複素環式化合物が、カーボネート化合物、ラクトン化合物、イミダゾリジノン化合物、ピロリドン化合物から選ばれる少なくとも1つであることを特徴とする請求項1記載の油性インク。
【請求項3】
前記カーボネート化合物がエチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、1,2−ブチレンカーボネートおよびこれらの誘導体から選ばれる少なくとも1つであることを特徴とする請求項2記載の油性インク。
【請求項4】
前記ラクトン化合物がγ−ブチロラクトン、α−アセチル−γ−ブチロラクトン、ペンタノ−4−ラクトンおよびこれらの誘導体から選ばれる少なくとも1つであることを特徴とする請求項2記載の油性インク。
【請求項5】
前記イミダゾリジノン化合物が2−イミダゾリジノン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、1,3−ジエチル−2−イミダゾリジノン、1,3−ジプロピル−2−イミダゾリジノン、1,3−ジイソプロピル−2−イミダゾリジノン、1,3−ジブチル−2−イミダゾリジノンおよびこれらの誘導体から選ばれる少なくとも1つであることを特徴とする請求項2記載の油性インク。
【請求項6】
前記ピロリドン化合物が2−ピロリドン、N−メチル−ピロリドン、1−エチル−2−ピロリドンおよびこれらの誘導体から選ばれる少なくとも1つであることを特徴とする請求項2記載の油性インク。
【請求項7】
インク中のポリマー成分の含有量が、インク全量に対し1質量%以下であることを特徴とする請求項1〜6いずれか1項記載の油性インク。
【請求項8】
光沢紙用インクであることを特徴とする請求項1〜7いずれか1項記載の油性インク。

【公開番号】特開2012−219161(P2012−219161A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−85175(P2011−85175)
【出願日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【出願人】(000250502)理想科学工業株式会社 (1,191)
【Fターム(参考)】