説明

油性ゲル状組成物

【課題】 調製が簡便であり、生体や環境に対する高い安全性、良好なゲル形成能、優れた使用感、取扱性の良さを全て併せ持つゲル形成剤を提供すること。
【解決手段】 レシチン100重量部に対して、ポリグリセリン脂肪酸エステルを30〜150重量部配合され、
該ポリグリセリン脂肪酸エステルが、炭素数14以下の脂肪酸残基を有し、有機概念図で算出されるHLBが15以上で、グリセリン単位の重合度が8〜40であることを特徴とするゲル形成剤を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゲル形成剤、及び該ゲル形成剤と油相成分とを含有する油性ゲル状組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
動植物油類、鉱物油類、炭化水素類、脂肪酸エステル類等の各種油相成分を増粘又はゲル形成して固化するゲル形成剤は、化粧料、医薬品、食品、塗料、インク、潤滑油等の様々な分野で広く利用されている。ゲル形成剤に一般的に要求される性能としては、少量の添加で目的とする油相成分をゲル形成でき、得られたゲルが長期にわたり安定であることなどが挙げられる。さらに用途によっては、人体や環境に対する安全性が高いこと、チキソトロピー性を有するゲルを生成すること、得られたゲルの触感がよいことなども要求されている。
【0003】
従来、ゲル形成剤としては、低分子ゲル形成剤(1,2,3,4−ジベンジリデン−D−ソルビトール、12−ヒドロキシステアリン酸、アミノ酸誘導体等)、高分子ゲル形成剤(ポリアクリル酸誘導体、デキストリン誘導体等)等が知られている。低分子ゲル形成剤は、油相成分中で自己集合し、巨大な網目構造を形成することで油相成分が非流動化しゲルを形成し、一方、高分子ゲル形成剤は、それらが複雑に絡まり合い網目構造を形成することで油相成分のゲル形成を引き起こすものである。
【0004】
一方、逆紐状ミセルによる油相成分のゲル形成も少数であるが報告されている(非特許文献1−6)。逆紐状ミセルとは、界面活性剤の形成する自己集合体の一種であり、油相成分中で網目構造を形成するためにゲル形成を引き起こすことが知られている。逆紐状ミセルは内部に親水的な環境を有しているために水溶性の薬物や酵素等を内包することが可能であり、上記したゲル形成剤にはない特長を有している。
【0005】
この逆紐状ミセルを形成する代表的な系として、レシチン/水/各種油相成分の3成分混合系が報告されている(非特許文献1)。また、水の代替物質には、エチレングリコール、ホルムアミド、グリセリン、胆汁酸塩(非特許文献3)、尿素(非特許文献4)、ショ糖脂肪酸エステル(非特許文献5)、D−リボース及びD−デオキシリボース(非特許文献6)が報告されている。通常、レシチンは油相成分中で逆球状ミセルあるいは逆楕円状ミセルを形成するが、これに少量の水等を添加すると、これがレシチンのリン酸基に水素結合し、分子集合体の界面曲率が減少するために逆紐状ミセルの成長が起こると考えられている。
【0006】
さらに、上記以外に油相成分をゲル形成する方法として、エマルションによる油相成分のゲル形成が報告されている(特許文献1)。すなわち、レシチン、ショ糖脂肪酸エステル等の界面活性剤を1種あるいは2種以上組み合わせ、これに高級アルコール、グリセリン、油相成分を加えたゲル状エマルションである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平5−4911号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】P. L. Luisi et al., Colloid & Polymer Science, vol. 268, p. 356 (1990)
【非特許文献2】Yu.A. Shchipunov, Colloids and Surfaces A, vol.183-185, p. 541 (2001)
【非特許文献3】S. H. Tung et al. Journal of the American Chemical Society, vol. 128, p. 5751 (2006)
【非特許文献4】K. Hashizaki et al., Colloid & Polymer Science, vol. 287, p. 927 (2009)
【非特許文献5】K. Hashizaki et al., Colloid & Polymer Science, vol. 287, p. 1099 (2009)
【非特許文献6】K. Hashizaki et al., Chemistry Letters, vol. 38, p. 1036 (2009)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記低分子ゲル形成剤の1,2,3,4−ジベンジリデン−D−ソルビトールは、様々な種類の油相成分をゲル形成できる優れた化合物であるが、分解してベンズアルデヒドが生成するという点で安全性に問題があり実用化はされていない。12−ヒドロキシステアリン酸は、廃天ぷら油のゲル形成剤として市販されているが、チキソトロピー性に欠ける。また、アミノ酸誘導体のゲル形成剤は油相成分に難溶性であるため、溶解させるには高温での加熱や長時間の撹拌などの煩雑な操作が必要となる。しかも、このような操作はゲルに配合される他成分の品質の変化を招く恐れがある点でも問題がある。一方、高分子ゲル形成剤のデキストリン誘導体では、ゲル形成に高濃度の添加が必要である上に、高分子特有の「べたつき感」を生じ使用感が良くない。ポリアクリル酸誘導体では少量の添加で良好な増粘ゲル形成を示すが、皮膚に使用した際には高分子特有の「べたつき感」を生じ、使用感が良くない。
【0010】
次に、従来の逆紐状ミセルが抱える問題として、代表的なレシチン/水/各種油相成分から成る逆紐状ミセルでは、水が成分中に含まれているために加水分解を受けやすい薬物等を配合することはできない。また、水の代替物質として常温で液体のグリセリンを用いた場合はゲル形成能が不十分であり、同様に常温で液体のエチレングリコールやホルムアミドを用いた場合は皮膚、眼、粘膜等への強い刺激性を有するために人体には適用できないといった問題がある。また、常温で固体の胆汁酸塩、尿素、ショ糖脂肪酸エステル、D−リボース等を用いた場合は、液体を用いた場合に比べて調製方法が煩雑になるといった問題がある。よって、調製が簡便であり、なおかつ、生体や環境に対する高い安全性、良好なゲル形成能、優れた使用感、取扱性の良さ等を全て併せ持つゲル形成剤は今まで得られていない。
【0011】
また、特許文献1は、レシチン、ショ糖脂肪酸エステル等の界面活性剤を1種あるいは2種以上組み合わせ、これに高級アルコール、グリセリン、油相成分を加えたゲル状エマルションである。このゲルは、先に述べたゲル形成剤や逆紐状ミセルから成るゲルに比べて弾性が低いために、液だれしやすくハンドリングが悪いうえに、高級アルコール及びグリセリンのいずれかが欠けると効果が得られないといった問題がある。
【0012】
従って、本発明の目的は、調製が簡便であり、生体や環境に対する高い安全性、良好なゲル形成能、優れた使用感、取扱性の良さを全て併せ持つゲル形成剤を提供することにある。
本発明の他の目的は、上記優れた特性を有するゲル形成剤と油相成分からなるゲル安定性に優れる油性ゲル状組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上述のように、ゲル形成剤及び増粘ゲル状組成物を化粧料、医薬品、食品、塗料、インク、潤滑油等の様々な分野に用いる場合は、少量の添加で目的とする油相成分をゲル形成でき、得られたゲルが長期にわたり安定であることなどが求められる。さらに用途によっては、人体に対して極めて安全性が高いこと、チキソトロピー性を有するゲルを生成すること、得られたゲルの触感がよいことなども要求されている。しかし、従来技術ではその全てを併せ持つ十分なゲル形成剤を得ることはできなかった。
【0014】
そこで、本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討した結果、レシチン/ポリグリセリン脂肪酸エステル/油相成分の3成分混合系を用いて、逆紐状ミセルからなるゲル形成剤及び増粘ゲル状組成物を得ることに成功した。
【0015】
本発明で用いるレシチンは2本のアルキル鎖を持つ両性リン脂質であり、食品用乳化剤として、乳製品の乳化、チョコレートの粘度低下に、また医薬製剤などにも広く利用されており、生体や環境に対する高い安全性を有している。一方、ポリグリセリン脂肪酸エステルはその強い水素結合能と高い安全性により、化粧品の保湿剤として、また、食品用乳化剤として利用されている。本発明では、逆紐状ミセルを形成し得るゲル形成剤の調製にレシチン/ポリグリセリン脂肪酸エステル/油相成分の3成分混合系を用いたところ、ポリグリセリン脂肪酸エステルの有する脂肪酸残基、該ポリグリセリン脂肪酸エステルの有機概念図で算出されるHLB、重合度によって、それぞれゲル形成に適切な配合範囲があることを見出した。
【0016】
すなわち、本発明は、
ゲル形成剤1〜30重量%と油相成分70〜99重量%とからなる油性ゲル状組成物であって、
該ゲル形成剤が、レシチン100重量部に対して、ポリグリセリン脂肪酸エステルを30〜150重量部配合され、
該ポリグリセリン脂肪酸エステルが、炭素数14以下の脂肪酸残基を有し、有機概念図で算出されるHLBが15以上で、グリセリン単位の重合度が8〜40であることを特徴とする油性ゲル状組成物を提供する。
【0017】
この油性ゲル状組成物において、
レオロジー測定で得られる粘度曲線から求められるゼロシア粘度が50Pa・s以上であることがより好ましい。
【0018】
本発明は、また、
レシチン100重量部に対して、ポリグリセリン脂肪酸エステルを30〜150重量部配合され、
該ポリグリセリン脂肪酸エステルが、炭素数14以下の脂肪酸残基を有し、有機概念図で算出されるHLBが15以上で、グリセリン単位の重合度が8〜40であることを特徴とするゲル形成剤を提供する。
【0019】
なお、本発明にいう油性ゲル状組成物とは、水を含まないか、あるいは極微量(例えば、1重量%以下、好ましくは0.2重量%以下)しか含まないゲル状組成物をいう。
【発明の効果】
【0020】
本発明のゲル形成剤は、上記の構成を有するので、調製が簡便であり、生体や環境に対する安全性が高く、しかも良好なゲル形成能、優れた使用感、取扱性の良さを全て併せ持つ。また、透明性にも優れる。
本発明の油性ゲル状組成物は、上記の構成を有するので、生体や環境に対して高い安全性を有するとともに、使用感に優れる上、ゲル安定性に優れる。また、透明性にも優れる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
[レシチン]
レシチンは、ホスファチジルコリンを主成分とする脂質製品であり、天然の動物、植物、微生物など生体に広く分布するもので、肝臓、卵黄、大豆、酵母等に多く含まれることが知られている。代表的なレシチンとして、卵黄レシチン、大豆レシチンなどが挙げられる。レシチンは単独で又は2種以上を混合して用いることができる。レシチンとしては、ホスファチジルコリンの含有量が55〜99重量%程度のものが好ましい。この範囲のものは、クリーム状となりやすく、適度の稠度があり、肌につけたときに流れ落ちたりせず、使用感が良好である。天然のレシチンは、L−α−形のみであるが、それ以外のものも使用可能である。天然のレシチンは酸化されやすく、不安定であるので、使用に際しては、公知の方法により水素添加しておけばよい。本発明においては、このような水素添加されたレシチンも「レシチン」に含まれる。
【0022】
ホスファチジルコリンは、グリセロール(グリセリン)を少なくとも1つの不飽和脂肪酸及びリン酸と反応させることにより得られるエステルを意味し、該リン酸のプロトンはアミン官能基としてのコリンで置換されている。本発明では、不飽和結合が水素添加されたホスファチジルコリンも「ホスファチジルコリン」に含める。
【0023】
本発明において、ホスファチジルコリンは、特に下記一般式(I)に従って定義される。ここで、R1及びR2は、互いに独立して、炭素数4〜24の飽和又は不飽和の脂肪酸に由来する(対応する)脂肪族炭化水素基(すなわち、炭素数3〜23の飽和又は不飽和脂肪族炭化水素基)を示し、それらは直鎖状又は分岐鎖状のいずれであってもよく、1以上のヒドロキシル官能基及び/又はアミン官能基で置換されていてもよい。Xはコリン残基を示す。ホスファチジルコリンとしては、式(I)で表される化合物のうちの1種であってもよく、2種以上の混合物であってもよい。
【0024】
【化1】

【0025】
本発明の実施態様の一つにおいて、R1及びR2に対応する脂肪酸(R1COOH、R2COOH)は、例えば、酪酸、カプロン酸、カプリル酸、カプリン酸、カプロレイン酸、ラウリン酸、ラウロレイン酸、ミリスチン酸、チリストレイン酸、パルミチン酸、パルミトレイン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、アラキジン酸、イソステアリン酸、ジヒドロキステアリン酸、及びリシノール酸から選択される。
【0026】
本発明の組成物の実施に適切である水素化されていないホスファチジルコリン(PC)は、「天然」又は「合成」起源であり得る。
【0027】
「天然」のPCは、動物源又は植物源、例えば大豆、ヒマワリ、又は卵からの抽出により得られ得る。天然物から、例えば大豆から得られた水素化されていないホスファチジルコリンは、一般的にグリセロールをエステル化する脂肪酸としてパルミチン酸、ステアリン酸、パルミトレイン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、及びおそらくC20〜22の脂肪酸を含む。
【0028】
[ポリグリセリン脂肪酸エステル]
本発明に用いられるポリグリセリン脂肪酸エステルは様々な方法を用いて製造される。例えば、(1)グリセリンにグリシドールを付加重合した後、これに脂肪酸でエステル化する方法、(2)グリシドールを脂肪酸に付加する方法、またこれに関連して(3)水酸基を保護したグリシドールをグリセリンに付加した後、脱保護をし、これを任意の重合度になるまで繰り返したあと、これに脂肪酸でエステル化する方法、(4)グリセリンをアルカリ存在下熱縮合させたあと、これに脂肪酸でエステル化する方法が挙げられる。このうち、最も好ましい製造方法は(1)の方法であり、当該油性ゲル状組成物のゲル形成剤として好適に用いることができる。
【0029】
用いるポリグリセリン脂肪酸エステルは、炭素数14以下の脂肪酸残基を有するが、炭素数が6〜14であることがより好ましい。炭素数が14を上回ると、透明な溶液状となり、ゲル組成を得ることができなくなる。肪酸残基は、直鎖状でも分岐鎖状であっても良いが、直鎖状であることが好ましい。また、脂肪酸残基は、飽和脂肪酸でも不飽和脂肪酸であっても良いが飽和脂肪酸であることが好ましい。脂肪酸残基の具体例としては、例えば、ヘキサン酸、ヘプタン酸、オクタン酸、ノナン酸、デカン酸、ウンデカン酸、ドデカン酸、テトラデカン酸などが挙げられる。ポリグリセリン脂肪酸エステルは、これらの脂肪酸残基を単独で又は2種以上有していても良い。
【0030】
用いるポリグリセリン脂肪酸エステルのグリセリン単位の重合度は8〜40であり、特に、重合度8〜20であることが好ましい。重合度が8より少ないと安定なゲルを得ることができず、40より大きい場合は乳化組成となり、透明なゲルを得ることができなくなるばかりか、ゲル自体を得ることができなくなる。
【0031】
これらのポリグリセリン脂肪酸エステルにおいて、有機概念図で計算されるHLBは15以上であるが、15〜20であることがより好ましい。有機概念図で計算されるHLBが15を下回ると透明な溶液状となり、ゲル組成を得ることができない。有機概念図で計算されるHLBが15〜20の場合、乳化組成になることを防止でき、ゲル組成を得ることがより容易になる。なお、有機概念図から計算されるHLBとは、下記式(A)によって得られた値とする。
HLB=Σ無機性/Σ有機性×10 (A)
(参考文献:日本エマルジョン(株)「有機概念図による乳化処方設計」)
【0032】
ポリグリセリン脂肪酸エステルは、単独であるいは異なる重合度のものを複数組合わせて使用することもできる。
【0033】
[ゲル形成剤]
本発明のゲル形成剤は、レシチン100重量部に対して、前記ポリグリセリン脂肪酸エステルを30〜150重量部配合してなる。
【0034】
前記のように、レシチンとしては、ホスファチジルコリンの含有量が55〜99重量%のものが好ましいので、ゲル形成剤としては、ホスファチジルコリン55〜99重量部(例えば、75重量部)に対して、該ポリグリセリン脂肪酸エステルが、30〜150重量部の割合で配合されているのが好ましい。
【0035】
ゲル形成剤は、油性ゲル状組成物全体に対して、1〜30重量%含ませることができるが、5〜20重量%含ませることが好ましく、特に10〜15重量%含ませるのが好ましい。油性ゲル状組成物全体に対するゲル形成剤の含有量(レシチンと該ポリグリセリン脂肪酸エステルの総量)が少ないとゲル形成不良となり、安定な油性ゲル状組成物を得ることができない。また、油性ゲル状組成物全体に対するゲル形成剤の含有量が多いと、ゲル形成力、保湿・保水効果が頭打ちとなるために多量に用いるメリットがなく、経済的でない。したがって上記範囲で含有することが好ましい。
【0036】
油性ゲル状組成物全体の中でのレシチン含量は、上記から算出できるが、1〜20重量%の範囲が好ましく、6〜15重量%の範囲が特に好ましい。レシチンの含有量が少ないとゲル形成不良となりやすく、安定な油性ゲル状組成物を得ることができない。また、含有量が多すぎる場合は、ゲル形成力、保湿・保水効果が頭打ちとなるために多量に用いるメリットがなく、経済的でない。したがって上記範囲で含有することが好ましい。なお、油性ゲル状組成物全体の中でのホスファチジルコリンの含量は、例えば、0.75〜19重量%、好ましくは4〜14重量%である。
【0037】
該ポリグリセリン脂肪酸エステルの、油性ゲル状組成物全体の中での含有量も上記から算出できるが、0.5〜30重量%の範囲となるような範囲が好ましく、1〜20重量%の範囲が特に好ましい。該ポリグリセリン脂肪酸エステルの含有量が少ないと、安定な油性ゲル状組成物を得ることができず、含有量が多すぎる場合は、ゲル形成力、保湿・保水効果が頭打ちとなるために多量に用いるメリットがなく経済的でない。したがって上記範囲で含有することが好ましい。
【0038】
[油相成分]
本発明で用いる油相成分は、極性油のみ、あるいは極性油と非極性油の混合物、あるいは非極性油を主成分とする。非極性油としては、スクワラン、ワセリン、流動パラフィン等の炭化水素類、鎖状または環状のシリコーン油等を挙げることができ、極性油の例として、オリーブ油等の油脂類、ラノリン等のロウ類、ミリスチン酸イソプロピル、オレイン酸デシル、トリ−2−エチルヘキサン酸グリセリン等のエステル類[炭素数8以上(好ましくは、炭素数8〜25)の脂肪酸とアルコールとのエステル等]、オレイン酸、ラウリン酸等の高級脂肪酸類[炭素数12以上(好ましくは、炭素数12〜25)の脂肪酸等]、セタノール等の常温で固体の高級アルコール類[炭素数12以上(好ましくは、炭素数12〜25)のアルコール等]などを挙げることができる。これら油相成分の含有量は、油性ゲル状組成物全量に対し、70〜98重量%の範囲で、単独あるいは組み合わせて配合される。油相成分の含有量が70重量%より低濃度ではゲル形成剤の量が多くなりすぎ、また、98重量%を越えるとゲルの安定性が悪くなり、さらに経済的でないことから上記範囲が好ましい。油相成分の含有量は、油性ゲル状組成物全量に対して、80〜95重量%が好ましく、85〜90重量%がより好ましい。
【0039】
[その他]
レシチンは、それ自体が皮膚の角質の隅々まで行き渡って、老化した角質を軟質化する化粧料として効果的なものであるが、さらに皮膚用化粧料としての効果を高めるため、ビタミンB、ビタミンE等や、各種香料等の成分を添加しておくことができる。添加成分としては、アスコルビン酸が特に効果的である。アスコルビン酸のpH値は2程度であり、これを添加すると、化粧料のpH値が低下するとともに、角質溶解作用が発揮され、古い角質が除去される。アスコルビン酸をより安定して配合するために、パルミチン酸アスコルビル等のアスコルビン酸誘導体を使用することができる。また、ヒノキチオールやフコイダン、サリチル酸等の抗菌作用をもつ成分を添加すれば、角質に存在する真菌や細菌などに対応することも可能である。さらに、グルチルリチン酸等の植物性消炎/保湿成分を配合しておくと、硬化した角質が裂傷して炎症を起こしている状態における鎮静/保湿作用を期待することができる。また、べたつきを防止するため、シリカ、シリコンパウダー、アクリル酸アルキルコポリマー等の粉末を添加することもできる。
【0040】
本発明の油性ゲル状組成物中には、上記の各成分の他に、通常の一般化粧料に使用される成分を配合することができる。例えば、香料、色素、防腐剤、抗酸化剤、抗炎症剤、紫外線吸収剤、紫外線反射剤、pH調整剤等が挙げられ、さらに必要に応じて、種々の薬効成分、例えば、ヒアルロン酸、アラントイン、ビタミン類、アミノ酸、胎盤エキス等を挙げることができ、単独であるいは組み合わせて適宜配合することができる。
【0041】
本発明の油性ゲル状組成物中における前記ゲル形成剤及び油相成分以外の成分の含有量は、通常29重量%以下(例えば、0.1〜29重量%)、好ましくは20重量%以下(例えば、0.1〜20重量%)、さらに好ましくは10重量%以下(例えば、0.1〜10重量%)である。
【0042】
本発明で得られた油性ゲル状組成物は、例えば3ヶ月以上の長期にわたり安定である。また、レオロジー測定において適度な弾性を有していることが確認されたことから、液だれしにくくハンドリング性が良いと判断される。さらに、チキソトロピー性を有していることから、例えば皮膚等に塗ったときの伸びが良好である。
【0043】
本発明の油性ゲル状組成物のレオロジー測定で得られる粘度曲線から求められるゼロシア粘度は、以下のように定義される。すなわち、せん断速度が限りなくゼロに近い領域においては非ニュートン流体であっても、ニュートン流体に近似できる領域があり、その領域における粘度は変動がなく、ある一定の値を示す。このときの粘度ηを、レオロジー測定で得られる粘度曲線から求められるゼロシア粘度とする。該ゼロシア粘度は、特に制限されないが、ゲル安定性、ゲルの触感、使用感、取扱性等の観点から、50Pa・s以上が好ましく、特に100Pa・s以上であるものが好ましい。該ゼロシア粘度の上限は特になく、また用途によっても異なるが、例えば2000Pa・s、好ましくは1000Pa・sである。
【実施例】
【0044】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。
【0045】
実施例1〜5、比較例1〜14
レシチンとポリグリセリン脂肪酸エステルとn−デカン(油相成分)とを、表1〜3に示す割合で混合して油性ゲル状組成物を調製した。得られた油性ゲル状組成物のレオロジー測定を行い、増粘度ゲル形成の評価を行うとともに、各組成物の透明度を評価した。その結果を表1〜3に示す。表中の数値は各成分の配合割合(重量%)を表す。用いた試薬、調製方法、評価方法を下記に示す。
【0046】
<試薬>
レシチンとして大豆レシチンを用いた。大豆レシチンはAvanti Polar Lipids,Incのもの(フォスファチジルコリン濃度95%)を使用した。n−デカンは関東化学(株)の特級品をそのまま使用した。各種ポリグリセリン脂肪酸エステルはダイセル化学工業(株)の製品をそのまま使用した。
【0047】
<調製方法>
必要量のレシチン、ポリグリセリン脂肪酸エステル及びn−デカンをボトルに封入し、マグネティックスターラーを用いて一晩撹拌した。その後、25℃の恒温槽中で数日間静置して平衡に到達させ試料とした。
【0048】
<評価>
実施例及び比較例で得られた各組成物の評価を以下の方法で行った。
(1)レオロジー測定
コーンプレートセンサー(直径60mmでコーン角1°、直径35mmでコーン角1°、2°、4°を使用)とペルチェ温度コントローラーを装着した粘度・粘弾性測定装置(RheoStress600、HAAKE社製)を用いて行った。測定は全て25℃条件下、定常流粘度測定モードで実施し、せん断速度を対数きざみで0.001〜100(s-1)まで変化させて粘度を測定し、粘度曲線を得た。また各プロットは装置のトルク値変動が5%範囲に収まり、データが安定した時点での値を採用した。
【0049】
(2)増粘度ゲル形成の評価
ポリグリセリン脂肪酸エステルとレシチンとn−デカンとを、表1〜3に示す割合で混合して油性ゲル状組成物を調製し、得られた油性ゲル状組成物のレオロジー測定を行い、各組成物のゼロシア粘度η0を、レオロジー測定で得られる粘度曲線から求めた。上述のように、せん断速度が限りなくゼロに近い領域においては非ニュートン流体であっても、ニュートン流体に近似できる領域があり、その領域において示される一定の粘度ηが、ゼロシア粘度η0とした。ここでは、せん断速度が0.1(s-1)以下で粘度は一定の値となり、その値をゼロシア粘度η0とした。
増粘度ゲル形成(増粘ゲル化)の評価は、このゼロシア粘度η0(Pa・s)に基づき、以下のように判定した。結果を表1〜3に示す。
◎:ゼロシア粘度η0が100Pa・s以上
○:ゼロシア粘度η0が50Pa・s以上、100Pa・s未満
△:ゼロシア粘度η0が20Pa・s以上、50Pa・s未満
×:ゼロシア粘度η0が20Pa・s未満
【0050】
(3)透明度の評価
実施例1〜5、比較例1〜14で得られた油性ゲル状組成物について、透明度を目視により以下のように判定した。結果を表1〜3に示す。
◎:透明である
○:半透明である
△:白濁している
×:二相分離している
【0051】
【表1】

【0052】
【表2】

【0053】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明で得られた逆紐状ミセルを特長とするゲル形成剤及び増粘ゲル状組成物は、人体及び環境に対して極めて安全であることから、化粧料、医薬品、食品、洗浄剤、消臭剤、入浴剤、芳香剤、脱臭剤等として常温でゲル状を呈する各種製品として用いることができる。なかでも化粧料、医薬品の用途に特に適している。化粧料としては、クリ−ム、乳液、ローション、クレンジング料、浴用化粧料、保湿化粧料、血行促進・マッサージ剤、パック化粧料、頭髪化粧料等が挙げられる。医薬品としては、軟膏剤、成形パップ剤、徐放製剤基材、経皮吸収製剤、ドラッグデリバリーシステム担体、電気泳動用ゲル等が挙げられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゲル形成剤1〜30重量%と油相成分70〜99重量%とからなる油性ゲル状組成物であって、
該ゲル形成剤が、レシチン100重量部に対して、ポリグリセリン脂肪酸エステルを30〜150重量部配合され、
該ポリグリセリン脂肪酸エステルが、炭素数14以下の脂肪酸残基を有し、有機概念図で算出されるHLBが15以上で、グリセリン単位の重合度が8〜40であることを特徴とする油性ゲル状組成物。
【請求項2】
レオロジー測定で得られる粘度曲線から求められるゼロシア粘度が50Pa・s以上である、請求項1記載の油性ゲル状組成物。
【請求項3】
レシチン100重量部に対して、ポリグリセリン脂肪酸エステルを30〜150重量部配合され、
該ポリグリセリン脂肪酸エステルが、炭素数14以下の脂肪酸残基を有し、有機概念図で算出されるHLBが15以上で、グリセリン単位の重合度が8〜40であることを特徴とするゲル形成剤。

【公開番号】特開2012−250919(P2012−250919A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−122998(P2011−122998)
【出願日】平成23年6月1日(2011.6.1)
【出願人】(000002901)株式会社ダイセル (1,236)
【出願人】(899000057)学校法人日本大学 (650)
【Fターム(参考)】