説明

油性酵母菌における多不飽和脂肪酸の生成

本発明は、油性酵母菌におけるω−3および/またはω−6脂肪酸の生成方法に関する。したがってARAおよびEPAの合成のために、リノール酸(LA)からγ−リノレン酸(GLA)、α−リノール酸(ALA)からステアリドン酸(STA)、GLAからジホモ−γ−リノール酸(DGLA)、STAからエイコサテトラエン酸(ETA)、DGLAからアラキドン酸(ARA)、ETAからエイコサペンタエン酸(EPA)、DGLAからETA、EPAからドコサペンタエン酸(DPA)、およびARAからEPAへの転換を触媒できるデサチュラーゼおよびエロンガーゼが、ヤロウイア(Yarrowia)のゲノムに導入された。


【発明の詳細な説明】
【関連出願との関係】
【0001】
本願は2003年5月7日に出願された米国仮出願第60/468677号の優先権の利益を主張する。
【技術分野】
【0002】
本発明はバイオテクノロジー分野に関する。より具体的には本発明は、油性酵母菌における長鎖多不飽和脂肪酸(PUFA)の生成に関する。
【背景技術】
【0003】
特定の多不飽和脂肪酸、すなわちPUFAが健康な細胞の重要な生物学的構成要素であることが、長期にわたり認識されている。例えばこのようなPUFAは、
哺乳類において新規に(de novo)合成できず、食餌中で得られなくてはならない、またはリノール酸(LA)またはα−リノレン酸(ALA)のさらなる不飽和化と延長によって誘導されなくてはならない「必須」脂肪酸、
リン脂質またはトリグリセリドなどの形態で見いだされてもよい細胞原形質膜の構成物、
特に成長中の幼児の脳において適切な発育、そして組織形成および修復に必要である、
プロスタサイクリン、エイコサノイド、ロイコトリエン、およびプロスタグランジンをはじめとする、哺乳類において重要ないくつかの生物学的に活性なエイコサノイドの前駆物質として認識されている。
【0004】
1970年代に、グリーンランドのエスキモーの観察から、心疾患の低発生率と長鎖ω−3PUFAの高摂取量とが結びつけられた(非特許文献1、非特許文献2)。より最近の研究はω−3PUFAの心臓血管保護効果を確証した(非特許文献3、非特許文献4)。さらに血管形成術後の再狭窄率、炎症および関節リウマチ、喘息、乾癬および湿疹の症状などのいくつかの障害はω−3脂肪酸による処置に反応することが見いだされている。γ−リノレン酸(GLA、ω−6PUFA)はストレスに関係した血圧上昇を低下させ、算術試験能力を改善することが示されている。GLAおよびジホモ−γ−リノレン酸(DGLA、もう1つのω−6PUFA)は、血小板凝集を阻害し、血管拡張を引き起こし、コレステロールレベルを低下させ、血管壁平滑筋および繊維組織の増殖を阻害することが示されている(非特許文献5)。GLAまたはDGLAの単独でのまたはエイコサペンタエン酸(EPA、ω−3PUFA)との組み合わせでの投与は、非ステロイド性抗炎症薬によって引き起こされる消化管出血およびその他の副作用を低下させ、または防止することが示されている(特許文献1)。さらにGLAおよびDGLAは、子宮内膜症および月経前症候群を防止または治療し(特許文献2)、筋痛性脳脊髄炎およびウィルス感染後の慢性疲労(特許文献3)を治療することが示されている。その他の証拠は、PUFAがカルシウム代謝調節に関与するかもしれないことを示唆し、骨粗鬆症および腎臓または尿道結石の治療または防止においてそれらが有用であるかもしれないことを示唆する。最後にPUFAは癌および糖尿病の治療において使用できる(特許文献4、非特許文献6)。
【0005】
PUFAは、必須脂肪酸であるリノール酸(LA)およびα−リノレン酸(ALA)それぞれの不飽和化および延長によって誘導される、2つの主要なクラス(ω−6およびω−3脂肪酸からなる)に概して分けられる。この「必須」脂肪酸からの共通の誘導にもかかわらず、健康維持のためには、食餌中のω−6とω−3脂肪酸との比率が重要であることが次第に明らかになってきている。ヒト食習慣の変化のために、好ましいω−6:ω−3脂肪酸比率が2:1であるのに対し、現行の比率はおよそ10:1である(非特許文献7、非特許文献8、非特許文献9)。
【0006】
ω−6脂肪酸の主要供給源は、多量のLAを含有する植物油(例えばコーン油、大豆油)である。GLAは月見草(Oenothera biennis)、ルリヂサ(Borago officinalis)およびクロフサスグリ(Ribes nigrum)をはじめとするいくつかの植物の種子に見いだされる。モルティエレラ(Mortierella)属(糸状菌)、ハエカビ属(Entomophthora)、ピシウム(Pythium)およびチノリモ属(Porphyridium)(紅藻)の微生物は、ω−6脂肪酸、アラキドン酸(ARA)の商業生産に使用できる。例えば菌・カビ類モルティエレラ・アルピナ(Mortierella alpina)は、ARAを含有する油を作り出すのに使用され、他方マーテック社(Martek Corporation)に付与された特許文献5は、ピシウム・インシジウオスム(Pythium insidiuosum)を炭素および窒素源を含有する培地中で培養するステップを含んでなる、ARAを含有する油を製造する方法を教示する。
【0007】
重要なω−3PUFAとしては、どちらも異なるタイプの魚油および海洋性プランクトンに見いだされるEPAおよびドコサヘキサエン酸(DHA)が挙げられる。マーテック社(Martek Corporation)に付与された特許文献6は、発酵槽内で従属栄養性珪藻、具体的にはキクロテラ種およびニッチア種を培養することで、EPAを含有する食用油を作り出す方法について述べる。DHAは冷水海水魚、卵黄画分から、そして渦鞭毛藻綱の特定の従属栄養性微細藻類、具体的にはC.コーニー(C.cohnii)などの海産渦鞭毛藻(Crypthecodinium)種を培養することで得ることができる(特許文献7および特許文献8)。EPAおよびDHAの前駆物質であるステアリドン酸(STA)は魚油および植物種子に見いだされ、その商業的供給源としては、トリコデスマ属およびエキウム(Echium)属における生成が挙げられる。ω−3酸のその他の供給源は、それぞれ主にALAを含有するアマニ油およびクルミ油に見いだされる。
【0008】
天然供給源からの多様なPUFAの商業的供給源にもかかわらず、これらの生成方法と結びついたいくつかの不都合がある。第1に魚および植物などの天然供給源は、高度に不均一な油組成物を有しがちである。したがってこれらの供給源から得られた油は、所望のPUFAの1種もしくはそれ以上を分離または濃縮するために大規模な精製を必要とすることがある。魚油は一般に不快な味と臭いを有し、それは所望の生成物から経済的に分離するのが不可能かもしれず、このような生成物を食物サプリメントとして許容できなくすることができる。不快な味および臭いは、高投薬量の摂取に基づく医療的養生法を望ましくないものにでき、患者の服薬遵守を妨げるかもしれない。さらに魚は環境汚染物質を蓄積するかもしれず、食餌サプリメントとしての魚油カプセル摂取は、望まれない汚染物質の摂取をもたらすかもしれない。天然供給源はまた、制御できない供給のばらつきを被りやすい(例えば天候、疾患、または魚資源の乱獲による)。PUFAを生成する作物は、食物生成のために開発されたハイブリダイズ作物と、経済的競争力がないことが多い。またPUFAを自然に生成するいくつかの生物体(例えばポルフィリディウム(Porphyridium)、モルティエレラ(Mortierella))の大規模発酵は、商業的規模で培養するのが高価および/または困難なことがある。
【0009】
上述の限界の結果として、次に向けた大規模な研究が行われている。1.)商業的に容易に生成できるPUFAの組換え供給源の開発、および2.)所望のPUFA生成を可能にする脂肪酸生合成経路の修正。
【0010】
過去数年間にわたり、様々な生物体からの脂肪酸デサチュラーゼおよびエロンガーゼ遺伝子の単離、クローニング、および操作において進歩があった。これらの遺伝子配列の知識は、PUFAを自然に生成しない新しい宿主生物体中で、所望の脂肪酸および/または
脂肪酸組成物を生成する見込み提供する。文献は、サッカロマイセス・セレヴィシエ(Saccharomyces cerevisiae)における以下のようないくつかの例を報告する。
1.非特許文献10では、海洋珪藻フェオダクチルム・トリコルヌーツムからの2個のデサチュラーゼがS.セレヴィシエ(S.cerevisiae)中にクローン化され、EPAの生成をもたらす。
2.非特許文献11では、線虫(Caenorhabditis elegans)からの遺伝子を使用して、ω−3およびω−6PUFA生合成経路がS.セレヴィシエ(S.cerevisiae)中に再構成される。
3.非特許文献12では、植物脂肪酸デサチュラーゼ(FAD2およびFAD3)がS.セレヴィシエ(S.cerevisiae)中に発現し、ALAの生成をもたらす。
4.アボット・ラボラトリーズ(Abbott Laboratories)のナットゾン(Knutzon)らに付与された特許文献9では西洋油菜(Brassica napus)からの1つのデサチュラーゼおよび菌・カビ類モルティエレラ・アルピナ(Mortierella alpina)からの2個のデサチュラーゼが、S.セレヴィシエ(S.cerevisiae)中にクローン化され、LA、GLA、ALA、およびSTAの生成をもたらす。
【0011】
しかしこれらのタイプの遺伝子を発現させて、商業的量の1種もしくはそれ以上のPUFAの経済的生成を提供できる適切な微生物のシステムに対する必要性がなおもある。さらに特にEPAおよびDHAである特定のPUFAが濃縮されている油に対する必要性が存在する。
【0012】
多くの微生物(藻類、細菌、カビ、および酵母菌をはじめとする)は、通常の細胞代謝経路内で油を合成できる。したがって油生成は、微生物を適切な培地中で培養して油を合成させ、引き続き微生物を発酵培地から分離して細胞内油の回収のために処理することを伴う。使用微生物、油生成を可能にする培地および条件などのパラメータを変化させることを伴う発酵手段(fermentive means)によって、脂肪酸生成を最適化する試みがなされている。しかしこれらの努力は、油生成能を改善し、または生成する油組成物の特性を制御する能力において、ほとんど不成功であることが立証されている。
【0013】
しかしPUFAの生成プラットフォームとしてこれまで調査されていない1つのクラスの微生物は、油性酵母菌である。これらの生物体は、乾燥細胞重量の80%までの油を蓄積できる。高い油含量で油性酵母菌を生育させる技術は十分に開発されており(例えば特許文献10、非特許文献13を参照)、ω−3またはω−6PUFA生成のための商業的な微細藻類発酵と比べてコスト優位性を提供するかもしれない。そのままの酵母菌細胞はまた、機能食品および動物飼料サプリメントで使用するためのω−3またはω−6PUFA−濃縮油を封入する都合よい方法になるかもしれない。
【0014】
【特許文献1】米国特許第4,666,701号明細書
【特許文献2】米国特許第4,758,592号明細書
【特許文献3】米国特許第5,116,871号明細書
【特許文献4】米国特許第4,826,877号明細書
【特許文献5】米国特許第5,658,767号明細書
【特許文献6】米国特許第5,244,921号明細書
【特許文献7】米国特許第5,492,938号明細書
【特許文献8】米国特許第5,407,957号明細書
【特許文献9】米国特許第6,136,574号明細書
【特許文献10】欧州特許第0 005 277B1号明細書
【非特許文献1】ダイヤーバーグ(Dyerberg)J.ら、Amer.J.Clin Nutr.28:958〜966 (1975)
【非特許文献2】ダイヤーバーグ(Dyerberg)J.ら、Lancet 2(8081):117〜119(1978年7月15日)
【非特許文献3】シモカワ(Shimokawa)H.、World Rev Nutr Diet、88:100〜108(2001)
【非特許文献4】フォンシャッキー(von Schacky)C.およびダイヤーバーグ(Dyerberg)J.、World Rev Nutr Diet、88:90〜99 (2001)
【非特許文献5】ブレナー(Brenner)ら、Adv.Exp.Med.Biol.83:85〜101(1976)
【非特許文献6】ホロビン(Horrobin)ら、Am.J.Clin.Nutr.57(付録)732S〜737S(1993)
【非特許文献7】クリス−エサートン(Kris−Etherton)P.M.ら、Am.J.Clin.Nutr.71(1 Suppl.):179S〜88S(2000)
【非特許文献8】シモプロス (Simopoulos)A.P.ら、Ann.Nutr.Metab.43:127〜130(1999)
【非特許文献9】クラウズ(Krauss)R.M.ら、AHA Circulation 102:2284〜2299(2000)
【非特許文献10】ドマーグ(Domergue)F.ら、Eur.J.Biochem.269:4105〜4113(2002)
【非特許文献11】ボードイン(Beaudoin)F.ら、Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.97(12):6421〜6(2000)
【非特許文献12】ダイヤー(Dyer)J.M.ら、Appl.Eniv.Microbiol.、59:224〜230(2002)
【非特許文献13】ラトレッジ(Ratledge)C.、Prog. Ind. Microbiol. 16:119〜206(1982)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
上述の利点にもかかわらず、油性酵母菌中の自然に生成されるPUFAは、18:2脂肪酸(そしてあまり一般的ではなく18:3脂肪酸)に限定されるので、これらの生物体は自然にはω−6およびω−3PUFAを欠いている。したがって解決すべき問題は、ω−3および/またはω−6脂肪酸が濃縮された油を蓄積する油性酵母菌を開発することである。このような目的で、油性酵母菌におけるω−3および/またはω−6脂肪酸の合成および蓄積を可能にする、飽和化酵素およびエロンガーゼを導入することが必要である。遺伝子工学技術は進歩しているが、このような技術は油性酵母菌については開発されていない。したがってPUFA生成のためのこれらの特定宿主生物体の使用に関連した問題を克服しなくてはならない。
【0016】
出願人は、宿主ヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)において、異種性ω−6および/またはω−3生合成経路の導入に続くPUFAの生成を実証することで、既述の問題を解決した。具体的にはARA(代表的なω−6脂肪酸)およびEPA(代表的なω−3脂肪酸)をここで生成して本発明技術を例証する。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は、ω−3および/またはω−6脂肪酸生成のために、油性酵母菌宿主においてω−3/ω−6脂肪酸生合成経路を含んでなる酵素の発現方法を提供する。したがって本発明は、
a)機能的なω−3/ω−6脂肪酸生合成経路を含んでなる油性酵母菌を準備し、
b)ステップ(a)の酵母菌を発酵可能な炭素源の存在下で生育させて、ω−3またはω−6脂肪酸が生成され、
c)場合によりω−3またはω−6脂肪酸を回収すること
を含んでなる、ω−3および/またはω−6脂肪酸の生成方法を提供する。
【0018】
特定の一実施態様では、本発明は、
a)(i)Δ12デサチュラーゼポリペプチドをコードする遺伝子、および
(ii)オレイン酸の内在性供給源
を含んでなる油性酵母菌を準備し、
b)ステップ(a)の酵母菌を適切な発酵可能な炭素源の存在下で生育させて、Δ12デサチュラーゼポリペプチドをコードする前記遺伝子を発現させそしてオレイン酸をリノール酸に変換させ、
c)場合により、ステップ(b)のリノール酸回収すること
を含んでなるリノール酸の生成方法を提供する。
【0019】
特定の実施態様では、本発明は、新規(de novo)生合成または適切な前駆物質からの一段階酵素反応によって、リノール酸(LA)、γ−リノレン酸(GLA)、ジホモ−γ−リノール酸(DGLA)、およびアラキドン酸(ARA)などの特定のω−6脂肪酸の生成を提供する。同様に本発明は、適切な前駆物質からの一段階酵素反応によって、α−リノール酸(ALA)、ステアリドン酸(STA)、エイコサテトラエン酸(ETA)、エイコサペンタエン酸(EPA)、ドコサペンタエン酸(DPA)、およびドコサヘキサエン酸などの特定のω−3脂肪酸の生成を提供する。
【0020】
配列説明
本願明細書の一部を形成する以下の詳細な説明および添付の配列説明によって、本発明をより完全に理解できるであろう。
【0021】
以下の配列は、37C.F.R.§1.821〜1.825(「ヌクレオチド配列および/またはアミノ酸配列開示を含む特許出願の要件−配列規則(Requirements for Patent Applications Containing Nucleotide Sequences and/or Amino Acid Sequence Disclosures − the Sequence Rules)」)を満たし、世界知的所有権機関(WIPO)標準ST.25(1998)およびEPOおよびPCTの配列表要件(規則5.2および49.5(aの2)、および実施細則第208号および附属書C)に一致する。ヌクレオチドおよびアミノ酸配列データのために使用される記号および型式は、37C.F.R.§1.822で述べられる規則に従う。
【0022】
配列番号1は、モルティエレラ・アルピナ(Mortierella alpina)Δ6デサチュラーゼ遺伝子のDNA配列を示し、他方配列番号2は、M.アルピナ(M.alpina)Δ6デサチュラーゼのアミノ酸配列を示す。
【0023】
配列番号3は、モルティエレラ・アルピナ(Mortierella alpina)Δ5デサチュラーゼ遺伝子のDNA配列を示し、他方配列番号4は、M.アルピナ(M.alpina)Δ5デサチュラーゼのアミノ酸配列を示す。
【0024】
配列番号5は、サプロレグニア・ディクリナ(Saprolegnia diclina)Δ17デサチュラーゼ遺伝子のDNA配列を示し、他方配列番号6は対応するS.ディクリナ(S.diclina)Δ17デサチュラーゼのアミノ酸配列を示す。
【0025】
配列番号7は、モルティエレラ・アルピナ(Mortierella alpina)
高親和力エロンガーゼ遺伝子のDNA配列を示し、他方配列番号8は、M.アルピナ(M.alpina)高親和力エロンガーゼのアミノ酸配列を示す。
【0026】
配列番号9は、ヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)中における発現のために最適化された、合成Δ17デサチュラーゼ遺伝子コドンのDNA配列を示す。
【0027】
配列番号10〜31は、11対のオリゴヌクレオチドに対応し、それは一緒に、S.ディクリナ(S.diclina)Δ17デサチュラーゼ遺伝子の全コドン最適化コード領域(例えばそれぞれD17−1A、D17−1B、D17−2A、D17−2B、D17−3A、D17−3B、D17−4A、D17−4B、D17−5A、D17−5B、D17−6A、D17−6B、D17−7A、D17−7B、D17−8A、D17−8B、D17−9A、D17−9B、D17−10A、D17−10B、D17−11A、およびD17−11B)を構成する。
【0028】
配列番号32〜37は、コドン最適化Δ17デサチュラーゼ遺伝子の合成中にPCR増幅のために使用される、プライマーD17−1、D17−4R、D17−5、D17−8D、D17−8U、およびD17−11にそれぞれ対応する。
【0029】
配列番号38および39は、TEFプロモーターを単離するのに使用される、プライマーTEF5’およびTEF3’にそれぞれ対応する。
【0030】
配列番号40および41は、XPR2転写ターミネーターを単離するのに使用される、プライマーXPR5’およびXPR3’にそれぞれ対応する。
【0031】
配列番号42および43は、プラスミドpRSP19から、S.ディクリナ(S.diclina)の野生型Δ17デサチュラーゼ遺伝子を増幅するのに使用される、プライマーYL21AおよびYL22に対応する。
【0032】
配列番号44および45は、pYSD17Mを生じさせるための部位特異的変異誘発のために使用される、プライマーYL53およびYL54にそれぞれ対応する。
【0033】
配列番号46および47は、ヤロウイア(Yarrowia)URA3遺伝子を含有する1.7kBのDNA断片(配列番号48、配列番号49としてアミノ酸配列を提供する)を増幅するのに使用される、プライマーKU5およびKU3にそれぞれ対応する。
【0034】
配列番号50および51は、ホウセンカ(Impatiens balsama)コンジュガーゼ遺伝子を含有する1.1kBのDNA断片(配列番号52、アミノ酸配列は配列番号53として提供)を増幅するのに使用される、プライマーKI5およびKI3にそれぞれ対応する。
【0035】
配列番号54および55は、TEF::コンジュガーゼ::XPRキメラ遺伝子を含有する1.7kBのDNA断片(配列番号56、アミノ酸配列は配列番号57として提供)を増幅するのに使用される、プライマーKTI5およびKTI3にそれぞれ対応する。
【0036】
配列番号58および59は、大腸菌(E. coli)ハイグロマイシン抵抗性遺伝子を含有する1kBのDNA断片(配列番号60、アミノ酸配列は配列番号61として提供)を増幅するのに使用される、プライマーKH5およびKH3にそれぞれ対応する。
【0037】
配列番号62および63は、TEF::HPT::XPR融合遺伝子を含有する1.6
kBのDNA断片(配列番号64、アミノ酸配列は配列番号65として提供)を増幅するのに使用される、プライマーKTH5およびKTH3にそれぞれ対応する。
【0038】
配列番号66および67は、ヤロウイア(Yarrowia)ゲノムのUra遺伝子座中への発現カセットの組み込みを導くのに使用される、ヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)URA3遺伝子の401bpの5’配列および568bpの3’配列にそれぞれ対応する。
【0039】
配列番号68〜71は、pY24−4を生じさせる部位特異的変異誘発のために使用される、プライマーYL63、YL64、YL65、およびYL66にそれぞれ対応する。
【0040】
配列番号72および73は、M.アルピナ(M.alpina)Δ5デサチュラーゼを増幅するために使用される、プライマーYL11およびYL12にそれぞれ対応する。
【0041】
配列番号74〜77は、pYZM5CHを生じさせる部位特異的変異誘発のために使用される、プライマーYL81、YL82、YL83、およびYL84にそれぞれ対応する。
【0042】
配列番号78および79は、pYZM5CHPPを生じさせる部位特異的変異誘発のために使用される、プライマーYL105およびYL106にそれぞれ対応する。
【0043】
配列番号80および81は、pYZM5CHPPAを生じさせる部位特異的変異誘発のために使用される、プライマーYL119およびYL120にそれぞれ対応する。
【0044】
配列番号82および83は、Y.リポリティカ(Y.lipolytica)URA3遺伝子上流の440bpの5’−非翻訳DNA配列(配列番号84)を増幅するために使用される、プライマーYL121およびYL122にそれぞれ対応する。
【0045】
配列番号85および86は、pYZV5およびpYZV5Pを生じさせる部位特異的変異誘発のために使用される、プライマーYL114およびYL115にそれぞれに対応する。
【0046】
配列番号87は、ヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)ゲノム中へのM.アルピナ(M.alpina)Δ5デサチュラーゼ遺伝子の組み込みおよび発現に適した5.2kBのDNA断片に対応する。
【0047】
配列番号88〜91は、pY58BHを生じさせる部位特異的変異誘発のために使用される、プライマーYL61、YL62、YL69、およびYL70にそれぞれ対応する。
【0048】
配列番号92〜95は、pY54PCを生じさせる部位特異的変異誘発のために使用される、プライマーYL77、YL78、YL79AおよびYL80Aにそれぞれ対応する。
【0049】
配列番号96は、ヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)ゲノム中におけるM.アルピナ(M.alpina)Δ6デサチュラーゼ、M.アルピナ(M.alpina)エロンガーゼ、およびM.アルピナ(M.alpina)Δ5デサチュラーゼ遺伝子の組み込みおよび協調発現に適する8.9kBのDNA断片に対応する。
【0050】
配列番号97〜100は、pYSD17SPCを生じさせる部位特異的変異誘発のため
に使用される、プライマーYL101、YL102、YL103、およびYL104にそれぞれ対応する。
【0051】
配列番号101は、ヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)ゲノム中におけるM.アルピナ(M.alpina)Δ6デサチュラーゼ、M.アルピナ(M.alpina)エロンガーゼ、M.アルピナ(M.alpina)Δ5デサチュラーゼ、およびコドン最適化Δ17デサチュラーゼ遺伝子の組み込みおよび協調発現に適する10.3kBのDNA断片に対応する。
【0052】
配列番号102〜113は、プラスミド構築のために使用される、プライマーYL1、YL2、YL3、YL4、YL5、YL6、YL7、YL8、YL9、YL10、YL23、およびYL24にそれぞれ対応する。
【0053】
配列番号114は、サプロレグニア・ディクリナ(Saprolegnia diclina)Δ5デサチュラーゼ遺伝子のDNA配列を示し、他方配列番号115は、S.ディクリナ(S.diclina)Δ5デサチュラーゼのアミノ酸配列を示す。
【0054】
配列番号116、117、120、121、124、および125は、様々なΔ5デサチュラーゼをクローニングするのに使用されるプライマーYL13A、YL14、YL19A、YL20、YL15、およびYL16Bにそれぞれ対応する。
【0055】
配列番号118は、ハプト藻(Isochrysis galbana)Δ5デサチュラーゼ遺伝子のDNA配列を示し、他方配列番号119は、ハプト藻(I.galbana)Δ5デサチュラーゼのアミノ酸配列を示す。
【0056】
配列番号122は、ヤブレツボカビ(Thraustochytrium aureum)Δ5デサチュラーゼ遺伝子のDNA配列を示し、他方配列番号123は、ヤブレツボカビ(T.aureum)Δ5デサチュラーゼのアミノ酸配列を示す。
【0057】
配列番号126は、ヤロウイア(Yarrowia)種中で最適に発現する遺伝子のためのコドン最適化翻訳開始部位に対応する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0058】
主題発明に従って、出願人は油性酵母菌におけるω−3および/またはω−6脂肪酸の生成方法を提供する。具体的には、出願人は、リノール酸、γ−リノレン酸、ジホモ−γ−リノレン酸、アラキドン酸、α−リノレン酸、ステアリドン酸、エイコサテトラエン酸、エイコサペンタエン酸、ドコサペンタエン酸およびドコサヘキサエン酸の生成方法を提供する。これは組換えの発現のために、油性酵母菌宿主中にΔ17デサチュラーゼ、Δ6デサチュラーゼ、Δ5デサチュラーゼ、Δ9デサチュラーゼ、Δ12デサチュラーゼ、Δ15デサチュラーゼ、Δ4デサチュラーゼ、およびエロンガーゼ活性を与える遺伝子によってコードされる、機能的なω−3/ω−6脂肪酸生合成経路を導入することで達成される。したがってこの開示は油性酵母菌を遺伝子操作して、所望されるあらゆるPUFA組成物の生成を可能にできることを実証する。
【0059】
主題発明には多くの用途がある。ここで開示される方法によって製造されるPUFA、またはその誘導体は、食餌代用品、またはサプリメント、特に乳児用調製粉乳として、静脈内栄養補給を受けている患者のために、または栄養不良を防止または処置するために使用できる。代案としては、精製されたPUFA(またはその誘導体)は、正常な使用で受領者が食餌栄養補給のための所望量を受容するように調合された、料理用油、脂肪またはマーガリンに組み込まれてもよい。PUFAはまた、乳児用調製粉乳、栄養サプリメント
またはその他の食物生成物に組み込まれてもよく、抗炎症薬またはコレステロール低下剤としての用途があるかもしれない。場合により組成物は、医薬品用途(ヒトまたは獣医学)のために使用されてもよい。この場合、PUFAは概して経口投与されるが、例えば非経口的(例えば皮下、筋肉内または静脈内)、経直腸、経腟または局所的(例えば皮膚用軟膏またはローションとして)など、それによって成功裏に吸収されるあらゆる経路で投与することができる。
【0060】
組換え手段によって製造されたPUFAによるヒトまたは動物の栄養補給は、追加的なPUFA、ならびにそれらの代謝子孫の増大したレベルをもたらすことができる。例えばアラキドン酸(ARA)による処置は、ARAの増大したレベルだけでなく、プロスタグランジンなどのARAの下流生成物をももたらすことができる。複雑な制御機序は、このような機序を防止、制御または克服して、個々の特定のPUFAの所望のレベルを達成するために、様々なPUFAを組み合わせ、または異なるPUFAコンジュゲートを追加することを望ましいものにできる。
【0061】
定義
本開示では、いくつかの用語および略語が使用される。以下の定義が提供される。
【0062】
「読み取り枠」はORFと略記する。
【0063】
「ポリメラーゼ連鎖反応」はPCRと略記する。
【0064】
「米国微生物系統保存機関」はATCCと略記する。
【0065】
「多不飽和脂肪酸」はPUFAと略記する。
【0066】
「脂肪酸」という用語は、(より長い、およびより短い鎖長の酸の双方も知られているが)約C12〜C22の様々な鎖長の長鎖脂肪族酸(アルカン酸)を指す。優勢な鎖長は、C16〜C22の間である。脂肪酸の構造は単純な表記法システム「X:Y」によって表され、ここでXは炭素(C)原子の総数であり、Yは二重結合の数である。
【0067】
概して脂肪酸は、飽和または不飽和として分類される。「飽和脂肪酸」という用語は、炭素主鎖間に「二重結合」を有さない脂肪酸を指す。対照的に「不飽和脂肪酸」は、それらの炭素主鎖に沿って「二重結合」を有するcis−異性体である。「一不飽和脂肪酸」は、(例えばパルミトレイン酸(16:1)およびオレイン酸(18:1)のように通常9および10番目の炭素原子の間に)炭素主鎖に沿って1つの「二重結合」のみを有し、他方「多不飽和脂肪酸」(または「PUFA」)は、(例えばリノール酸(18:2)のように9番目および10番目、および12番目および13番目の炭素原子間、およびα−リノレン酸(18:3)のように9番目および10番目、12番目および13番目目、および15番目および16番目の炭素原子間に)炭素主鎖に沿って少なくとも2個の二重結合を有する。
【0068】
「PUFA」は、(脂肪酸炭素鎖のメチル末端に最も近い第1の二重結合の位置(n)次第で)2つの主要ファミリーに分類できる。したがって「ω−6脂肪酸」(ω−6またはn−6)は、第1の不飽和二重結合を分子のω(メチル)末端から6個めの炭素原子に有し、さらに分子のカルボキシル末端に向かって3個めの追加的な炭素原子にそれぞれの続く不飽和がある、全部で2つ以上の二重結合を有する。対照的に「ω−3脂肪酸」(ω−3またはn−3)は、第1の不飽和二重結合を分子のω末端から3個離れた炭素原子に有し、さらに分子のカルボキシル末端に向かって3個目の追加的な炭素原子にそれぞれの続く不飽和がある、全部で3個以上の二重結合を有する。
【0069】
本開示の目的のために、ω参照システムを使用して、炭素数、二重結合数、およびω炭素(この目的では1番目とする)から数えたω炭素に最も近い二重結合の位置を示す。この命名法を下の表1で、「省略表記法」と題された欄に示す。表の残りは、ω−3およびω−6脂肪酸の共通の名称、明細書全体で使用される略語、および各化合物の化学名をまとめる。
【0070】
【表1】

【0071】
「必須脂肪酸」と言う用語は、生物体が特定の必須脂肪酸を新規に(de novo)合成できないことから、生きるために摂取しなくてはならない特定のPUFAを指す。例えば、哺乳類は必須脂肪酸LA(18:2、ω−6)を合成できない。その他の必須脂肪酸としては、GLA(ω−6)、DGLA(ω−6)、ARA(ω−6)、EPA(ω−3)、およびDHA(ω−3)が挙げられる。
【0072】
「脂肪」と言う用語は、25℃で固体であり、通常、飽和である脂質物質を指す。
【0073】
「油」と言う用語は、25℃で液体であり、通常、多不飽和である脂質物質を指す。P
UFAは、いくつかの藻類、油性酵母菌および糸状菌の油に見られる。「微生物油」または「単細胞油」は、微生物がそれらの寿命中に自然に生成する油である。このような油は長鎖PUFAを含有することができる。
【0074】
「PUFA生合成経路酵素」と言う用語は、PUFAの生合成に関連した以下の酵素(および前記酵素をコードする遺伝子)のいずれかを指す。Δ4デサチュラーゼ、Δ5デサチュラーゼ、Δ6デサチュラーゼ、Δ12デサチュラーゼ、Δ15デサチュラーゼ、Δ17デサチュラーゼ、Δ9デサチュラーゼ、および/またはエロンガーゼ。
【0075】
「ω−3/ω−6脂肪酸生合成経路」と言う用語は、適切な条件下で発現すると、ω−3およびω−6脂肪酸の片方または双方の生成を触媒する酵素をコードする一組の遺伝子を指す。典型的にω−3/ω−6脂肪酸生合成経路に関与する遺伝子は、以下の酵素のいくつかまたは全てをコードする。Δ12デサチュラーゼ、Δ6デサチュラーゼ、エロンガーゼ、Δ5デサチュラーゼ、Δ17デサチュラーゼ、Δ15デサチュラーゼ、Δ9デサチュラーゼ、およびΔ4デサチュラーゼ。共通の供給源からいかにしてω−3およびω−6脂肪酸の双方が生成できるかを実証する代表的な経路を図2に示す。「機能性」と言う用語は、ここでω−3/ω−6脂肪酸生合成経路の文脈における用法では、経路中の遺伝子のいくつかまたは全てが活性酵素を発現することを意味する。いくつかの脂肪酸生成物はこの経路の遺伝子のサブセットの発現のみを必要とするので、「ω−3/ω−6脂肪酸生合成経路」または「機能的なω−3/ω−6脂肪酸生合成経路」は、この段落に列挙する全ての遺伝子が必要であることを暗示しないものとする。
【0076】
「デサチュラーゼ」と言う用語は、1種もしくはそれ以上の脂肪酸を不飽和化して関心のある一不飽和または多不飽和脂肪酸または前駆物質を生成できる、多酵素複合体のポリペプチド構成要素を指す。特定の脂肪酸を指すために、本願明細書全体を通じてω参照システムを使用するのにもかかわらず、Δシステムを使用して基質のカルボキシル末端から数えることで、デサチュラーゼの活性を示す方が都合よい。ここで特に関心が高いのは、1.)分子のカルボキシル末端から数えて17番目および18番目の炭素原子間で脂肪酸を不飽和化し、例えばARAからEPAへのおよび/またはDGLAからETAへの転換を触媒するΔ17デサチュラーゼ、2.)LAからGLAへのおよび/またはALAからSTAへの転換を触媒するΔ6デサチュラーゼ、3.)DGLAからARAへのおよび/またはETAからEPAへの転換を触媒するΔ5デサチュラーゼ、4.)DPAからDHAへの転換を触媒するΔ4デサチュラーゼ、5.)オレイン酸からLAへの転換を触媒するΔ12デサチュラーゼ、6.)LAからALAへの転換を触媒するΔ15デサチュラーゼ、および7.)パルミチン酸からパルミトレイン酸(16:1)および/またはステアリン酸からオレイン酸(18:1)への転換を触媒するΔ9デサチュラーゼである。
【0077】
「エロンガーゼ」と言う用語は、脂肪酸炭素鎖を伸長して、エロンガーゼが作用した脂肪酸基質よりも炭素2個分長い一不飽和または多不飽和脂肪酸が生成できる、多酵素複合体のポリペプチド構成要素を指す。この延長プロセスは、CoAがアシルキャリアである脂肪酸合成酵素と関連した多段階機序で起きる(ラスナー(Lassner)ら、The
Plant Cell 8:281〜292(1996))。手短に述べると、マロニル−CoAが長鎖アシル−CoAと縮合して、COおよびβ−ケトアシル−CoA(アシル部分が炭素原子2個分伸長された)を生じる。引き続く反応には、β−ヒドロキシアシル−CoAへの還元、エノイル−CoAへの脱水、および伸長されたアシル−CoAを生じる第2の還元が含まれる。エロンガーゼによって触媒される反応の例は、GLAからDGLA、STAからETA、およびEPAからDPAへの転換である。したがってエロンガーゼは、異なる特異性を有することができる(例えばC16/18エロンガーゼはC16基質を好み、C18/20エロンガーゼはC18基質を好み、C20/22エロンガーゼはC20基質を好む)。
【0078】
「高親和力エロンガーゼ」と言う用語は、その基質特異性が、好ましくはGLAに向けたものである(エロンガーゼ反応の生成物としてのDGLAを伴う)エロンガーゼを指す。このようなエロンガーゼの1つについて、国際公開第00/12720号パンフレットで述べられている。
【0079】
「変換効率」および「%基質変換」と言う用語は、それによって特定の酵素(例えばデサチュラーゼまたはエロンガーゼ)が基質から生成物に変換できる効率を指す。変換効率は以下の式に従って測定される。([生成物]/[基質+生成物])×100(式中、「生成物」には即時の生成物およびそれから誘導される経路中の全生成物が含まれる)。
【0080】
「油性」と言う用語は、それらのエネルギー源を脂質の形態で保存する傾向がある生物体を指す(ウィーテ(Weete)「真菌脂質生化学(Fungal Lipid Biochemistry)」第二版、プレナム(Plenum)、1980)。概してこれらの微生物の細胞PUFA含量はS字形曲線に従い、対数後期または初期定常増殖相において脂質濃度が最大に達するまで増大し、次に後期定常および死滅期中に徐々に減少する(ヨンマニットチャイ(Yongmanitchai)およびワード(Ward)、Appl.Environ.Microbiol.57:419〜25(1991))。
【0081】
「油性酵母菌」と言う用語は、少なくとも25%のそれらの乾燥細胞重量を油として蓄積できる酵母菌として分類される微生物を指す。油性酵母菌の例としては、ヤロウイア属(Yarrowia)、カンジダ属(Candida)、ロドトルラ属(Rhodotorula)、ロドスポリジウム属(Rhodosporidium)、クリプトコッカス属(Cryptococcus)、トリコスポロン属(Trichosporon)およびリポマイセス属(Lipomyces)が挙げられるが、決してこれに限定されるものではない。
【0082】
「発酵可能な炭素源」と言う用語は、微生物が代謝してエネルギーを引き出す炭素源を意味する。本発明の典型的な炭素源としては、単糖類、少糖類、多糖類、アルカン、脂肪酸、脂肪酸のエステル、モノグリセリド、ジグリセリド、トリグリセリド、二酸化炭素、メタノール、ホルムアルデヒド、ギ酸、および炭素含有アミンが挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0083】
ここでの用法では、「単離された核酸断片」は、場合により合成、非天然または修飾ヌクレオチド塩基を含有する一本鎖または二本鎖であるRNAまたはDNAのポリマーである。DNAポリマーの形態の単離された核酸断片は、1つまたはそれ以上のcDNA、ゲノムDNAまたは合成DNAの断片を含んでなってもよい。
【0084】
アミノ酸またはヌクレオチド配列の「かなりの部分」とは、当業者による配列の手動評価によって、あるいはBLAST(「基礎的局在性整列化検索ツール(Basic Local Alignment Search Tool)」、アルトシュル(Altschul)S.F.ら、J.Mol.Biol.215:403〜410(1993))などのアルゴリズムを使用したコンピュータ支援配列比較および同定によって、遺伝子またはポリペプチドの推定上の同定を得るのに十分なポリペプチドのアミノ酸配列または遺伝子のヌクレオチド配列を含んでなる部分である。推定的にポリペプチドまたは核酸配列が既知のタンパク質または遺伝子に相同的であると同定するためには、概して10個以上の隣接するアミノ酸または30個以上のヌクレオチド配列が必要である。さらにヌクレオチド配列に関して、20〜30個の隣接するヌクレオチドを含んでなる遺伝子特異的オリゴヌクレオチドプローブを配列依存遺伝子同定法(例えばサザンハイブリダイゼーション)および単離(例えば細菌コロニーまたはバクテリオファージ・プラークの原位置(in
situ)ハイブリダイゼーション)において使用してもよい。さらにプライマーを含んでなる特定の核酸断片を得るために、塩基12〜15個の短いオリゴヌクレオチドをPCRで増幅プライマーとして使用してもよい。したがってヌクレオチド配列の「かなりの部分」は、配列を含んでなる核酸断片を特異的に同定および/または単離できるようにする十分な配列を含んでなる。
【0085】
「相補的」と言う用語は、互いにハイブリダイズできるヌクレオチド塩基間の関係について述べるために用いられる。例えばDNAに関して、アデノシンはチミンに相補的であり、シトシンはグアニンに相補的である。
【0086】
「コドン縮重」とは、コードされるポリペプチドのアミノ酸配列に影響しないヌクレオチド配列の変動を可能にする遺伝子コードの性質を指す。当業者は、特定のアミノ酸を特定化するヌクレオチドコドンの使用における、特定の宿主細胞によって示される「コドン−バイアス」についてよく知っている。したがって宿主細胞中の改善された発現のために遺伝子を合成する場合、そのコドン使用頻度が、宿主細胞の好むコドン使用頻度に近くなるように遺伝子をデザインすることが望ましい。
【0087】
「化学的に合成された」とは、DNA配列に関連して構成要素ヌクレオチドが、生体外で(in vitro)構築されたことを意味する。DNAの手動化学合成は確立した手順を使用して達成されてもよく、あるいはいくつかの市販の機器の1つを使用して自動化学合成を実施できる。「合成遺伝子」は、当業者に知られる手順を使用して、化学的に合成されるオリゴヌクレオチド構成単位から構築できる。これらの構成単位をライゲートしアニールして、遺伝子断片を形成し、次にそれを酵素的に構築して所望の遺伝子全体を構成する。したがって遺伝子をヌクレオチド配列の最適化に基づいて、最適な遺伝子発現のために調整し、宿主細胞のコドンバイアスを反映させることができる。当業者は、コドン利用が宿主によって好まれるコドンに偏っている場合の遺伝子発現成功の見込みを理解する。好ましいコドンの判定は、配列情報が利用できる宿主細胞から誘導される遺伝子の調査に基づくことができる。
【0088】
「遺伝子」とは、コード配列に先行する(5’非コード配列)およびそれに続く(3’非コード配列)制御配列をはじめとする、特定のタンパク質を発現する核酸断片を指す。「天然遺伝子」とは、自然界にそれ自体の制御配列と共に見られる遺伝子を指す。「キメラ遺伝子」とは、自然界に共に見られない制御およびコード配列を含んでなる天然遺伝子でないあらゆる遺伝子を指す。したがってキメラ遺伝子は、異なる供給源から誘導される制御配列およびコード配列、あるいは同一供給源から誘導されるが、自然界に見られるのとは異なるやり方で配列される制御配列およびコード配列を含んでなってもよい。「内在性の遺伝子」とは、生物体ゲノムにおいてその天然位置にある天然遺伝子を指す。「外来性の」遺伝子とは、宿主生物体において常態では見られないが、遺伝子移入によって宿主生物体に導入される遺伝子を指す。外来性の遺伝子は、非天然生物体中に挿入された天然遺伝子、あるいはキメラ遺伝子を含んでなることができる。「導入遺伝子」とは、形質転換によってゲノム中に導入される遺伝子である。「コドン最適化遺伝子」とは、そのコドン使用頻度が宿主細胞の好むコドン使用頻度を模倣するようにデザインされる遺伝子である。
【0089】
「コード配列」とは、特定のアミノ酸配列をコードするDNA配列を指す。「適切な調節配列」とは、コード配列の上流(5’非コード配列)、配列内、または下流(3’非コード配列)に位置して、転写、RNAプロセシングまたは安定性、または関連コード配列の翻訳に影響を及ぼすヌクレオチド配列を指す。調節配列は、プロモーター、翻訳リーダー配列、イントロン、ポリアデニル化認識配列、RNAプロセッシング部位、エフェクター結合部位、およびステム−ループ構造を含んでもよい。
【0090】
「プロモーター」とは、コード配列または機能RNAの発現を調節できるDNA配列を指す。概してコード配列は、プロモーター配列に対して3’に位置する。プロモーターは、そっくりそのまま天然遺伝子から誘導されてもよく、あるいは自然界に見られる異なるプロモーターから誘導される異なる要素からなってもよく、あるいは合成DNAセグメントを含んでなってさえよい。異なるプロモーターは、異なる組織または細胞タイプ中で、あるいは異なる発達段階において、あるいは異なる環境または生理学的条件に呼応して、遺伝子の発現を導いてもよいことが当業者には理解される。ほとんどの細胞タイプ中でほとんどの場合に遺伝子の発現を引き起こすプロモーターは、一般に「構成プロモーター」と称される。ほとんどの場合、制御配列のはっきりした境界は完全に限定されていないので、異なる長さのDNA断片が同一のプロモーター活性を有してもよいこともさらに認識される。
【0091】
「3’非翻訳配列」または「転写ターミネーター」と言う用語は、コード配列の下流に位置するDNA配列を指す。これには、mRNAプロセッシングまたは遺伝子発現に影響できる調節シグナルをコードするポリアデニル化認識配列およびその他の配列が含まれる。ポリアデニル化シグナルは、通常、mRNA前駆物質の3’末端へのポリアデニル酸トラクトの付加に影響することで特性決定される。3’領域は、転写、RNAプロセッシングまたは安定性、または関連コード配列の翻訳に影響できる。
【0092】
「RNA転写物」とは、DNA配列のRNAポリメラーゼが触媒する転写から得られる生成物を指す。RNA転写物がDNA配列の完全な相補的コピーである場合、それは一次転写物と称され、あるいはそれは一次転写物の転写後プロセッシングから誘導されるRNA配列であるかもしれず、成熟RNAと称される。「メッセンジャーRNA」または「mRNA」とはイントロンがなく、細胞によってタンパク質に翻訳されることができるRNAを指す。「cDNA」とは、mRNAに対して相補的であり、それから誘導される二重鎖DNAを指す。「センスRNA」とは、mRNAを含み、細胞によってタンパク質に翻訳されることができるRNA転写物を指す。「アンチセンスRNA」とは、標的一次転写物またはmRNAの全部または一部に相補的であり、標的遺伝子の発現をブロックするRNA転写物を指す(米国特許第5,170,065号明細書、国際公開第99/28508号パンフレット)。アンチセンスRNAの相補性は、特定の遺伝子転写物のあらゆる部分、すなわち5’非コード配列、3’非コード配列、またはコード配列にあっても良い。「機能RNA」とは、翻訳されないがそれでもなお細胞過程に影響するアンチセンスRNA、リボザイムRNA、またはその他のRNAを指す。
【0093】
「作動可能に連結した」と言う用語は、1つの機能が他方の機能によって影響される、単一核酸断片上の核酸配列のつながりを指す。例えばプロモーターはコード配列の発現に影響できる場合、そのコード配列と作動可能に連結する(すなわちコード配列がプロモーターの転写調節の下にある)。コード配列は、センスまたはアンチセンスオリエンテーションで制御配列に作動可能に連結できる。
【0094】
「発現」と言う用語は、ここでの用法では、本発明の核酸断片から誘導されるセンス(mRNA)またはアンチセンスRNAの転写および安定した蓄積を指す。発現はまた、mRNAのポリペプチドへの翻訳を指してもよい。
【0095】
「形質転換」とは、遺伝的に安定した遺伝形質をもたらす、宿主生物体中への核酸分子の転移を指す。核酸分子は、例えば自律的に複製するプラスミドであってもよく、またはそれは宿主生物体のゲノム中に組み込まれてもよい。形質転換核酸断片を含有する宿主生物体は、「遺伝子組換え」または「組換え」または「形質転換」生物体と称される。
【0096】
「プラスミド」、「ベクター」、および「カセット」と言う用語は、細胞の中心的代謝の一部ではない遺伝子を運ぶことが多く、通常環状二本鎖DNA断片の形態である染色体外因子を指す。このような因子は、あらゆる供給源から誘導される一本鎖または二本鎖DNAまたはRNAの配列、ゲノム一体化配列、直鎖または環状のファージまたはヌクレオチド配列を自律的に複製するかもしれず、そこではいくつかのヌクレオチド配列が独自の構成に連結または組み換えされ、それは選択された遺伝子産物のために、適切な3’非翻訳配列と共にプロモーター断片およびDNA配列を細胞中に導入することができる。「形質転換カセット」とは、外来性遺伝子を含有し、外来遺伝子に加えて特定の宿主細胞の形質転換を容易にする因子を有する特定のベクターを指す。「発現カセット」とは、外来性遺伝子を含有し、外来性遺伝子に加えて外来性宿主におけるその遺伝子の促進された発現を可能にする因子を有する特定のベクターを指す。
【0097】
「配列分析ソフトウェア」と言う用語は、ヌクレオチドまたはアミノ酸配列の分析のために有用なあらゆるコンピュータアルゴリズムまたはソフトウェアプログラムを指す。「配列分析ソフトウェア」は、市販のものでも、あるいは独立して開発されても良い。典型的な配列分析ソフトウェアとしては、1.)ウィスコンシン州マディソンのジェネティック・コンピュータ・グループからのGCGパッケージプログラム(Wisconsin Package Version 9.0、Genetics Computer Group(GCG),Madison,WI)、2.)BLASTP、BLASTN、BLASTX(アルシュール(Altschul)ら著、J.Mol.Biol.215:403〜410(1990))、および3.)ウィスコンシン州マディソンのDNASTAR(DNASTAR,Inc.Madison、WI)、4.)ミシガン州アンアーバーのジーン・コーズ社(Gene Codes Corporation(Ann Arbor、MI))からのシーケンチャー(Sequencher)、および5.)スミス−ウォーターマン(Smith−Waterman)・アルゴリズムを組み入れたFASTAプログラム(W.R.ピアソン(Pearson)著、Comput.Methods
Genome Res.[Proc.Int.Symp.](1994)、1992年会議、111〜20、編集者:スハイ,サンドール(Suhai,Sandor)、プレナム(Plenum)、ニューヨーク州ニューヨーク(New York、NY))が挙げられるが、これに限定されるものではない。本願明細書の文脈内では、配列分析ソフトウェアを分析のために使用する場合、分析結果は特に断りのない限り、言及されるプログラムの「デフォルト値」に基づくものと理解される。ここでの用法では、「デフォルト値」とは、最初に初期化されたときにソフトウェアに元々ロードされた、あらゆる値またはパラメータの組を意味する。
【0098】
ここで使用される標準組換えDNAおよび分子クローニング技術は技術分野で良く知られており、サムブルック(Sambrook)J.、フリッチュ(Fritsch)E.F.、およびマニアティス(Maniatis)T.「分子クローニング:実験室マニュアル(Molecular Cloning:A Laboratory Manual)」第二版、コールドスプリングハーバーラボラトリ(Cold Spring Harbor Laboratory)、ニューヨーク州コールドスプリングハーバー(Cold Spring Harbor、NY)(1989)(以下マニアティス(Maniatis));シルハビー(Silhavy)T.J.、ベンナン(Bennan)M.L.およびエンクイスト(Enquist)L.W.「遺伝子融合実験(Experiments with Gene Fusions)」コールドスプリングハーバーラボラトリ:ニューヨーク州コールドスプリングハーバー(Cold Spring Harbor、NY)(1984);およびオースベル(Ausubel)F.M.ら「分子生物学現代プロトコル(Current Protocols in Molecular Biology)」グリーンパブリッシングアッソシエーツ(Greene Publishing Assoc.)およびワイリーインターサイエンス(Wiley−Interscience)による出版(1987)で述べられている。
【0099】
脂肪酸の微生物生合成
一般に油性微生物中の脂質の蓄積は、増殖培地中に存在する全体的な炭素と窒素の比率に応答してトリガーされる(図1)。細胞が利用できる窒素供給を消耗した場合(例えば炭素と窒素の比率が約40を超える場合)、細胞アデノシン一リン酸(AMP)の枯渇は、ミトコンドリア中のAMP−依存イソクエン酸デヒドロゲナーゼ活性の休止、およびクエン酸の蓄積、クエン酸の細胞質ゾル内への輸送、そして引き続くATP−クエン酸リアーゼによるクエン酸の切断をもたらして、アセチル−CoAおよびオキサロ酢酸が生成する。アセチル−CoAは、脂肪酸の新規(de novo)生合成の主要(principle)構成ブロックである。効果的に代謝されてアセチル−CoAを生成できるあらゆる化合物が、脂肪酸前駆物質の役割を果たせるが、このタイプの反応ではグルコースが炭素の主な供給源である(図1)。グルコースは解糖を通じてピルビン酸に変換され、次にピルビン酸はミトコンドリア中に輸送され、そこでピルビン酸デヒドロゲナーゼ(「PD」)によってアセチル−CoAに変換される。アセチル−CoAはミトコンドリア膜を越えて細胞質中に直接輸送できないので、アセチル−CoAからの2個の炭素がオキサロ酢酸と縮合して、クエン酸を生成する(クエン酸合成酵素によって触媒される)。クエン酸は細胞質内に直接輸送されて、そこでにATP−クエン酸リアーゼによって切断され、アセチル−CoAおよびオキサロ酢酸が再生する。オキサロ酢酸は、リンゴ酸への転換を通じて、トリカルボン酸サイクルに再び入る。
【0100】
マロニル−CoAの合成は、細胞質内で起きる脂肪酸生合成の第1の前駆ステップである。マロニル−CoAは、アセチル−CoAカルボキシラーゼ(「ACC」)によって、アセチル−CoAのカルボキシル化を通じて生成される。脂肪酸合成は、多酵素脂肪酸合成酵素複合体(「FAS」)によって触媒され、8個の二炭素断片(アセチル−CoAからのアセチル基)の縮合によって起き、炭素16個の飽和脂肪酸であるパルミチン酸が形成する。より具体的には、FASは以下が関与する一連の7つの反応を触媒する(スミス(Smith)S.、FASEB J.、8(15):1248〜59(1994))。1.アセチル−CoAおよびマロニル−CoAがFASのアシルキャリアペプチド(ACP)に転移される。次にアセチル基がマロニル基に転移されてβ−ケトブチリル−ACPが形成し、COを放出する。
2.β−ケトブチリル−ACPが還元(β−ケトアシル還元酵素による)および脱水(β−ヒドロキシアシルデヒドラターゼによる)を被り、トランス−単不飽和脂肪アシル基が形成する。
3.二重結合がNADPHによって還元され、最初のものよりも炭素が2個分長い飽和脂肪−アシル基が生じる。次に新しいマロニル基と縮合して延長プロセスを繰り返すブチリル基の能力が再生する。
4.脂肪アシル基が炭素16個の長さになったら、チオエステラーゼ活性がそれを加水分解して遊離パルミチン酸を放出する。
【0101】
パルミチン酸(16:0)は、小胞体膜に存在するエロンガーゼおよびデサチュラーゼの作用を通じた、より鎖長が長い飽和および不飽和脂肪酸(例えばステアリン酸(18:0)、パルミトレイン酸(16:1)、およびオレイン酸(18:1))の前駆物質である。パルミチン酸およびステアリン酸は、Δ9デサチュラーゼの作用によってそれらの不飽和誘導体であるパルミトレイン酸(16:1)およびオレイン酸(18:1)酸にそれぞれ変換する。
【0102】
トリアシルグリセロール(脂肪酸の主な貯蔵単位)は、リン酸1,2−ジアシルグリセロール(一般にホスファチジン酸として同定される)を生じる、アシル−CoAの2個の分子からグリセロール−3−リン酸へのエステル化によって形成される(図1)。次にホ
スファチジン酸ホスファターゼによってリン酸が除去され、1,2−ジアシルグリセロールが生成する。第3の脂肪酸を添加すると、ジアシルグリセロール−アシルトランスフェラーゼの作用によってトリアシルグリセロールが形成する。
【0103】
Ω−3およびΩ−6脂肪酸の生合成
非常に単純化すると、LAをGLA、DGLA、およびARA(ω−6経路)に、ALAをSTA、ETA、EPA、およびDHA(ω−3経路)に変換する代謝プロセスは、炭素原子の付加を通じた炭素鎖の延長と、二重結合の添加を通じた分子の不飽和化を伴う(図2)。これは小胞体膜に存在する一連の特別な不飽和化および延長酵素を必要とする。
【0104】
ω−6脂肪酸
オレイン酸は、Δ12デサチュラーゼの作用によって、最初のω−6脂肪酸であるLA(18:2)に変換される。引き続くω−6脂肪酸は、次のようにして生成される。1.)LAがΔ6デサチュラーゼ活性によってGLAに変換され、2.)GLAがエロンガーゼの作用によってDGLAに変換され、3.)DGLAがΔ5デサチュラーゼの作用によってARAに変換される。
【0105】
ω−3脂肪酸
リノール酸(LA)は、Δ15デサチュラーゼの作用によって、最初のω−3脂肪酸であるALAに変換される。引き続くω−3脂肪酸は、ω−6脂肪酸と類似した一連のステップで生成される。具体的には、1.)ALAがΔ6デサチュラーゼ活性によってSTAに変換され、2.)STAがエロンガーゼ活性によってETAに変換され、3.)ETAがΔ5デサチュラーゼ活性によってEPAに変換される。代案としては、ETAおよびEPAは、Δ17デサチュラーゼ活性によって、DGLAおよびARAからそれぞれ生成できる。EPAは、エロンガーゼおよびΔ4デサチュラーゼ活性によって、DHAにさらに変換できる。
【0106】
Ω脂肪酸生成に関与する遺伝子
藻類、細菌、カビおよび酵母菌をはじめとする多くの微生物は、通常の細胞代謝経路内でPUFAおよびω脂肪酸を合成できる。特によく適するのは、ヤブレツボカビ(Thraustochytrium)属の種であるスキゾキトリウム・アグレガトム(Schizochytrium aggregatm)、およびモルティエレラ・アルピナ(Morteriella alpina)をはじめとする菌・カビ類である。さらに多くの渦鞭毛藻類(渦鞭毛藻綱(Dinophyceaae))は、高濃度のPUFAを自然に生成する。したがって油生成に関与する多様な遺伝子が遺伝的手段を通じて同定されており、これらのいくつかの遺伝子のDNA配列は公的に入手できる(制限を意図しない例を下の表2に示す)。
【0107】
【表2】

【0108】
【表3】

【0109】
さらに特許文献は、PUFA生成に関与する多くの追加的な遺伝子のDNA配列(および/または上の遺伝子のいくつかに関する詳細およびそれらの単離方法)を提供する。例えば米国特許第5,968,809号明細書(Δ6デサチュラーゼ)、米国特許第5,972,664号明細書および米国特許第6,075,183号明細書(Δ5デサチュラーゼ)、国際公開第91/13972号パンフレットおよび米国特許第5,057,419号明細書(Δ9デサチュラーゼ)、国際公開第93/11245号パンフレット(Δ15デサチュラーゼ)、国際公開第94/11516号パンフレット、米国特許第5,443,974号明細書および国際公開第03/099216号パンフレット(Δ12デサチュラーゼ)、米国特許出願公開第2003/0196217 A1号明細書(Δ17デサチュラーゼ)、国際公開第02/090493号パンフレット(Δ4デサチュラーゼ)、および国際公開第00/12720号パンフレットおよび米国特許出願公開第2002/0139974 A1号明細書(エロンガーゼ)を参照されたい。これらの各特許および出願は、その内容全体を参照によってここに援用したものとする。
【0110】
当業者には明らかなように、特定のPUFA最終生成物の生成のために宿主生物体に導入する必要がある特定機能は、宿主細胞(およびその未変性PUFAプロフィールおよび/またはデサチュラーゼプロフィール)、基質の入手可能性および所望の最終生成物に左右される。図2に示すように、LA、GLA、DGLA、ARA、ALA、STA、ET
A、EPA、DPA、およびDHAは、以下のPUFA酵素機能の様々な組み合わせを導入することで、全て油性酵母菌中で生成されてもよい。Δ4デサチュラーゼ、Δ5デサチュラーゼ、Δ6デサチュラーゼ、Δ12デサチュラーゼ、Δ15デサチュラーゼ、Δ17デサチュラーゼ、Δ9デサチュラーゼ、および/またはエロンガーゼ。当業者は、公的に入手できる文献(例えばジェンバンク(GenBank))、特許文献、およびPUFAを製造する能力を有する微生物の実験的分析に従って、上の各酵素をコードする様々な候補遺伝子を同定できるであろう。配列は、例えば天然供給源などから(細菌、藻類、菌・カビ類、植物、動物などから)単離され、半合成または新規(de novo)合成経路を通じて生成される、あらゆる供給源に由来してもよい。いくつかの実施態様では、宿主に内在する遺伝子の操作が好ましく、その他の目的では異種性遺伝子を導入する必要がある。
【0111】
宿主に導入されるデサチュラーゼおよびエロンガーゼ遺伝子の特定供給源は、本発明にとって重要でないが、デサチュラーゼまたはエロンガーゼ活性を有する特定のポリペプチドを選択する上での考慮としては、次が挙げられる。1.)ポリペプチドの基質特異性、2.)ポリペプチドまたはその構成要素が律速酵素であるかどうか、3.)デサチュラーゼまたはエロンガーゼが所望のPUFAの合成のために必須であるかどうか、および/または4.)ポリペプチドによって必要とされる補助因子。発現するポリペプチドは、好ましくは宿主細胞内のその位置の生化学的環境と適合性のパラメータを有する。例えばポリペプチドは、宿主細胞内で基質獲得のためにその他の酵素と競争しなくてはならないかもしれない。したがってポリペプチドのKおよび特異的活性分析は、特定の宿主細胞内でPUFA生成を修正するために、特定のポリペプチドの適性を判定する上で考慮される。特定の宿主細胞で使用されるポリペプチドは、意図される宿主細胞中に存在する生化学的条件下で機能できるものであるが、その他の点では所望のPUFAを修正できる、デサチュラーゼまたはエロンガーゼ活性を有するあらゆるポリペプチドであることができる。
【0112】
内在性PUFA遺伝子
場合によっては、その中でPUFAを生成することが望ましい宿主生物体は、いくつかのPUFA生合成経路酵素をコードする内在性遺伝子を有する。例えば油性酵母菌は典型的に18:2脂肪酸を生成できる(18:3脂肪酸を合成する追加的能力を有するものもある)。したがって油性酵母菌は、典型的に未変性Δ12デサチュラーゼ活性を有し、またΔ15デサチュラーゼも有するかもしれない。したがって次の理由で、いくつかの実施態様では、異種性(または「外来」)酵素よりも未変性デサチュラーゼの発現が好ましい。1.)未変性酵素は、細胞内のその他の酵素およびタンパク質との相互作用のために最適化されている。2.)異種性遺伝子は、宿主生物体内で同一のコドン優先度を共有することがありそうもない。さらに標的を定めた混乱によって内在性遺伝子を容易に混乱できるようになるので、未変性遺伝子の配列が知られている場合は利点がある。
【0113】
異種性PUFA遺伝子
多くの場合、所望のPUFA生成物の生成を可能にするのに適したデサチュラーゼおよびエロンガーゼは、選ばれた宿主生物体中に存在しない。したがって異種性遺伝子を導入することが必要である。
【0114】
ここで本発明の目的では、油性の宿主生物体へのω−3および/またはω−6生合成経路導入の例を実証することが望ましかったので、モルティエレラ・アルピナ(Mortierella alpina)Δ5デサチュラーゼ、M.アルピナ(M.alpina)Δ6デサチュラーゼ、サプロレグニア・ディクリナ(Saprolegnia diclina)Δ17デサチュラーゼ、およびM.アルピナ(M.alpina)エロンガーゼをヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)に導入した。しかし宿主生物体に導入される特異的酵素(およびこれらの酵素をコードする遺伝子)、
および生成される特異的PUFAは、ここで本発明を制限するものでは決してない。
【0115】
ここで実証されるように、EPAの生成が所望ならば、Δ5デサチュラーゼ、Δ6デサチュラーゼ、Δ17デサチュラーゼ、およびエロンガーゼ活性を好ましい微生物の宿主中に導入するのに、異なる供給源に由来する多数のその他の遺伝子が適切であることが当業者には明らかである。したがって本発明の一実施態様では、M.アルピナ(M.alpina)Δ6デサチュラーゼ、Δ5デサチュラーゼおよび高親和力PUFAエロンガーゼ、およびS.ディクリナ(S.diclina)Δ17デサチュラーゼと実質的に同一であるその他のDNAもまた、油性酵母菌におけるω−6および/またはω−3脂肪酸(例えばEPA)生成のために使用できる。「実質的に同一」とは、アミノ酸配列または核酸配列が、選択されるポリペプチド、またはアミノ酸配列をコードする核酸配列に対して、好ましい順に少なくとも80%、90%または95%の相同性を示すことが意図される。ポリペプチドでは、比較配列長は概して少なくとも16個のアミノ酸、好ましくは少なくとも20個のアミノ酸、または最も好ましくは35個のアミノ酸である。核酸では、比較配列長は概して少なくとも50個のヌクレオチド、好ましくは少なくとも60個のヌクレオチド、より好ましくは少なくとも75個のヌクレオチド、および最も好ましくは110個のヌクレオチドである。
【0116】
相同性は典型的に配列分析ソフトウェアを使用して測定され、「配列分析ソフトウェア」と言う用語は、ヌクレオチドまたはアミノ酸配列の分析のために有用なあらゆるコンピュータアルゴリズムまたはソフトウェアプログラムを指す。「配列分析ソフトウェア」は、市販のものでも、あるいは独立して開発されても良い。典型的な配列分析ソフトウェアとしては、1.)ウィスコンシン州マディソンのジェネティック・コンピュータ・グループからのGCGパッケージプログラム(Wisconsin Package Version 9.0、Genetics Computer Group(GCG),Madison,WI)、2.)BLASTP、BLASTN、BLASTX(アルシュール(Altschul)ら著、J.Mol.Biol.215:403〜410(1990))、および3.)ウィスコンシン州マディソンのDNASTAR(DNASTAR,Inc.Madison、WI)、および4.)スミス−ウォーターマン・アルゴリズムを組み入れたFASTAプログラム(W.R.ピアソン(Pearson)著、Comput.Methods Genome Res.[Proc.Int.Symp.](1994)、1992年会議、111〜20、編集者:スハイ,サンドール(Suhai,Sandor)、プレナム(Plenum)、ニューヨーク州ニューヨーク(New York、NY))が挙げられるが、これに限定されるものではない。本願明細書の文脈内では、配列分析ソフトウェアを分析のために使用する場合、分析結果は特に断りのない限り、言及されるプログラムの「デフォルト値」に基づくものと理解される。ここでの用法では、「デフォルト値」とは、最初に初期化されたときにソフトウェアに元々ロードされた、あらゆる値またはパラメータの組を意味する。一般にこのようなコンピューターソフトウェアは、様々な置換、欠失、およびその他の変異に相同性の程度を割り当てることで、同様の配列をマッチさせる。
【0117】
さらに当業者はポリペプチドが、ポリペプチドの機能が変性しまたは損なわれないように保存的に置換されたアミノ酸を有してもよいことを理解するであろう。ここで述べられるようなデサチュラーゼおよびエロンガーゼ活性を有し、このような保存的置換を有するポリペプチドは、本発明の範囲内と見なされる。保存的置換としては、典型的に以下のグループ内での置換が挙げられる。1.)グリシンおよびアラニン、2.)バリン、イソロイシンおよびロイシン、3.)アスパラギン酸、グルタミン酸、アスパラギンおよびグルタミン、4.)セリンおよびスレオニン、5.)リジンおよびアルギニン、および6.)フェニルアラニンおよびチロシン。置換はまた、保存された疎水性または親水性に基づいて(カイト(Kyte)およびドゥリトル(Doolittle)、J.Mol.Bio
l.157:105〜132(1982))、または同様のポリペプチド二次構造を呈する能力に基づいて(チョウ(Chou)およびファスマン(Fasman)、Adv.Enzymol.47:45〜148(1978))実施されてもよい。
【0118】
本発明の代案の実施態様では、M.アルピナ(M.alpina)Δ6デサチュラーゼ、Δ5デサチュラーゼおよび高親和力PUFAエロンガーゼ、およびS.ディクリナ(S.diclina)Δ17デサチュラーゼと実質的に同一ではないが、その他のDNAもまた、ここでの目的のために(例えばARAおよびEPAなどのω−3および/またはω−6PUFAの生成のために)使用できる。例えば本発明の教示に従った油性酵母菌への導入に有用なΔ6デサチュラーゼポリペプチドをコードするDNA配列は、GLAまたはSTAを生成する能力を有する微生物から得られてもよい。このような微生物としては、例えばモルティエレラ(Mortierella)属、コニディオボルス(Conidiobolus)、ピシウム(Pythium)、フィトファトラ(Phytophathora)、ペニシリウム(Penicillium)、ポルフィリディウム(Porphyridium)、コイドスポリウム(Coidosporium)、ムコール(Mucor)、フザリウム(Fusarium)、アスペルギルス(Aspergillus)、ロドトルラ(Rhodotorula)、およびハエカビ属(Entomophthora)に属するものが挙げられる。ポルフィリディウム(Porphyridium)属の中で特に関心が高いのは、P.クルエンタム(P.cruentum)である。モルティエレラ(Mortierella)属の中で、特に関心が高いのは、M.エロンガタ(M.elongata)、M.イクシグア(M.exigua)、M.ハイグロフィラ(M.hygrophila)、M.ラマニアナ(M.ramanniana)変種アングリスポラ(angulispora)、およびM.アルピナ(M.alpina)である。ムコール(Mucor)属の中で、特に関心が高いのは、M.シルシネロイデス(M.circinelloides)およびM.ジャヴァニクス(M.javanicus)である。
【0119】
代案としては、飽和化酵素がなおもLAをGLAに、および/またはALAをSTAに効果的に変換できると仮定して、M.アルピナ(M.alpina)Δ6デサチュラーゼと実質的に同一でないが、分子のカルボキシル末端から6番目の炭素で脂肪酸分子を不飽和化できる関連デサチュラーゼもまた、Δ6デサチュラーゼとして本発明で有用であろう。このようにして関連デサチュラーゼおよびエロンガーゼは、ここで開示するデサチュラーゼおよびエロンガーゼと実質的に同一に機能する、それらの能力によって同定できる。
【0120】
要約すると、ここでの目的に適したPUFA生合成経路酵素をコードする遺伝子は、多様な供給源から単離されてもよい。ここでの目的のためのデサチュラーゼは、以下の能力によって特性決定される。1.)分子のカルボキシル末端から17番目と18番目の炭素原子の間で脂肪酸を不飽和化し、ARAからEPA、DGLAからETAへの転換を触媒する(Δ17デサチュラーゼ)、2.)LAからGLAおよび/またはALAからSTAへの転換を触媒する(Δ6デサチュラーゼ)、3.)DGLAからARAおよび/またはETAからEPAへの転換を触媒する(Δ5デサチュラーゼ)、4.)DPAからDHAへの転換を触媒する(Δ4デサチュラーゼ)、5.)オレイン酸からLAへの転換を触媒する(Δ12デサチュラーゼ)、6.)LAからALAへの転換を触媒する(Δ15デサチュラーゼ)、および/または7.)パルミチン酸からパルミトレイン酸、および/またはステアリン酸からオレイン酸への転換を触媒する(Δ9デサチュラーゼ)。同様にして、ここでの目的のために適切なエロンガーゼは、特定供給源からのものに限定されない。代わりにここでの目的のために用途がある酵素は、エロンガーゼが作用する基質よりも脂肪酸炭素鎖を炭素2個分伸長することにより、一不飽和または多不飽和脂肪酸を生成するそれらの能力によって特徴づけられる。
【0121】
特定生物体中での発現のためのΩ脂肪酸遺伝子の最適化
PUFAデサチュラーゼまたはエロンガーゼの特定の供給源は、ここでの発明において重要ではないが、代案宿主中で異種性遺伝子が様々な効率で発現することは、当業者には明らかである。したがって関心のある宿主生物体における代案のデサチュラーゼまたはエロンガーゼ発現に比べて、異種性宿主における発現レベルが好ましい、特定のデサチュラーゼまたはエロンガーゼを選択することで、ω−3および/またはω−6PUFA生成を最適化してもよい。さらに関心のある特定のPUFA生成物の組成に従って、特定のPUFA生合成経路酵素の発現を修正し、それぞれの最適変換効率を達成することが望ましいかもしれない。多様な遺伝子工学技術を利用して、特定酵素の発現を最適化できる。このような技術の2つとしては、下で述べるようにコドン最適化および遺伝子変異が挙げられる。例えばこれらの2つの方法のいずれかによって生成され、デサチュラーゼおよび/またはエロンガーゼ活性を有する遺伝子は、ここで本発明においてω−3および/またはω−6PUFAの合成のために有用である。
【0122】
コドン最適化
当業者によって理解されるように、修正されたポリペプチドが、別の宿主によって好まれるコドンを使用するように、外来宿主中で発現される特定のポリペプチドをコードするコドン部分を修正することが有用なことが多い。宿主が好むコドンの使用は、ポリペプチドをコードする外来遺伝子の発現を実質的に増強できる。
【0123】
一般に、宿主が好むコドンは、タンパク質中のコドン使用を調べて、どのコドンが最高頻度で使用されるか判定することで、関心のある特定の宿主種(好ましくは最大量を発現するもの)内で判定できる。次に宿主種で好まれるコドンを使用して、デサチュラーゼまたはエロンガーゼ活性を有する関心のあるポリペプチドのためのコード配列の全体または一部が合成できる。またDNAの全部(または一部)を合成して、転写mRNA中に存在する、二次構造のあらゆる不安定化配列または領域を除去できる。またDNAの全部(または一部)を合成して、塩基組成物を所望の宿主細胞中でより好ましいものに変更できる。
【0124】
本発明では、ヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)中における遺伝子発現を増強するために、Δ17デサチュラーゼ活性を有するポリペプチドをコードするコドンの部分を修正することが望ましかった。宿主に好まれるコドンを用いるために、未変性遺伝子(例えばサプロレグニア・ディクリナ(Saprolegnia diclina)Δ17デサチュラーゼ)の核酸配列を修正した。当業者は、ω−3/ω−6脂肪酸生合成経路において、この最適化方法がその他の遺伝子に等しく適用できることを理解するであろう(例えば、参照によって全体をここに援用する同時係属米国仮特許出願第60/468718号を参照されたい)。さらにS.ディクリナ(S.diclina)Δ17デサチュラーゼの調節は例示のみを意図する。
【0125】
遺伝子変異
配列を合成し、配列を一緒にまとめる方法は、文献においてよく確立されている。例えば生体外(in vitro)での変異誘発および選択、部位特異的変異誘発、誤りがちなPCR(メルニコフ(Melnikov)ら、Nucleic Acids Research、27(4):1056〜1062(1999年2月15日、))、「遺伝子シャフリング」またはその他の手段を用いて、自然発生的デサチュラーゼまたはエロンガーゼ遺伝子の変異を得ることができる。これによって生体内(in vivo)でデサチュラーゼまたはエロンガーゼ活性をそれぞれ有し、所望のPUFAのより長い半減期またはより速い生成速度など、宿主細胞中で機能するためのより望ましい物理的および動力学的パラメータがあるポリペプチドの生成が可能になる。
【0126】
必要に応じて、酵素活性に重要な関心のあるポリペプチドの領域(すなわちデサチュラーゼまたはエロンガーゼ)は、ルーチンの変異誘発、得られる変異体ポリペプチドの発現、およびそれらの活性の算出を通じて判定できる。変異体は、欠失、挿入、および点変異、またはそれらの組み合わせを含んでもよい。典型的な機能分析は、欠失変異誘発に始まって機能に必要なタンパク質のN−およびC−末端限界を判定し、次に内部欠損、挿入または点変異体を作り出し、機能に必要な領域をさらに判定する。カセット変異誘発または完全合成などのその他の技術もまた使用できる。欠失変異誘発は例えば、エキソヌクレアーゼを使用して、5’または3’コード領域を逐次除去して達成される。このような技術のためのキットが入手できる。欠失後、開始または停止コドンを含有するオリゴヌクレオチドをそれぞれ5’または3’欠失後に、欠失コード領域にライゲーションして、コード領域が完成する。代案としては、部位特異的変異誘発、変異原性PCRをはじめとする多様な方法によって、または既存の制限部位において消化されたDNA上へのライゲーションによって、開始または停止コドンをコードするオリゴヌクレオチドをコード領域に挿入する。内部欠損は、部位特異的変異誘発または変異原性PCRを通じた変異原性プライマーの使用によって、DNA中の既存の制限部位の使用をはじめとする多様な方法を通じて同様に作り出せる。挿入は、リンカー−スキャニング変異誘発、部位特異的変異誘発または変異原性PCRなどの方法を通じて作り出され、他方点変異は、部位特異的変異誘発または変異原性PCRなどの技術を通じて作り出される。
【0127】
化学変異誘発もまた、活性に重要なデサチュラーゼまたはエロンガーゼポリペプチドの領域を同定するために使用できる。変異したコンストラクトが発現し、得られる改変タンパク質がデサチュラーゼまたはエロンガーゼとして機能する能力がアッセイされる。このような構造−機能分析は、どの領域が欠失してもよいか、どの領域が挿入を許容するか、どの点変異によって変異体タンパク質が、未変性デサチュラーゼまたは未変性エロンガーゼと実質的に同じように機能できるようにするかを判定できる。このような全ての変異体タンパク質、およびそれらをコードするヌクレオチド配列は、ここで述べられるコドン最適化遺伝子から誘導され、本発明の範囲内である。
【0128】
本発明では、ヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)中における遺伝子発現を増強するために、Δ17デサチュラーゼ活性を有するポリペプチドをコードするコドンの部分を修正することが望ましかった。宿主に好まれるコドンを用いるために、未変性遺伝子(例えばS.ディクリナ(S.diclina)Δ17デサチュラーゼ)の核酸配列を修正した。当業者は、ω−3/ω−6脂肪酸生合成経路においてこれらの最適化方法がその他の遺伝子に等しく適用でき、さらにS.ディクリナ(S.diclina)Δ17デサチュラーゼ、およびM.アルピナ(M.alpina)Δ6デサチュラーゼ、Δ5デサチュラーゼの調節は、例示のみを意図することを理解するであろう。
【0129】
ω−3および/またはω−6脂肪酸の微生物による生成
微生物によるω−3および/またはω−6脂肪酸の生成には、魚または植物などの天然供給源からの精製に比べて、例えば以下のようないくつかの利点がある。
1.)多くの微生物は、油組成が高等生物のものと比べてはるかに単純であることが知られており、所望の構成要素の精製を容易にする。
2.)微生物による生成には、天候および食物供給などの外部変数によって引き起こされるばらつきがない。
3.)微生物的に生成された油は、実質的に環境汚染物質による混入物がない。
4.)微生物は特定用途を有するかもしれない特定の形態で、PUFAを提供できる。
5.)微生物による油生成は、培養条件を制御することで、特に微生物的に発現される酵素のために特定の基質を提供することで、または化合物の添加/遺伝子工学によって望まれない生化学的経路を抑制することで操作できる。
【0130】
これらの利点に加えて、組換え微生物からのω−3および/またはω−6脂肪酸の生成は、宿主中に新しい生合成経路を提供することで、または望まれない経路を抑制することで、所望のPUFAまたはそれらのコンジュゲートされた形態のレベルを増大させて、望まれないPUFAのレベルを低下させ、自然発生的な微生物の脂肪酸プロフィールを変更する能力を提供する。例えばこのようにして生成したω−3とω−6脂肪酸の比率を修正する、他のω脂肪酸生成を排除しながらω−3またはω−6脂肪酸のどちらか一方だけを生成する、または他のPUFAの下流または上流生成物の顕著な蓄積なしに特異的PUFAの生成を操作することが可能である。
【0131】
発現システム、カセット、およびベクター
ここで述べる遺伝子および遺伝子生成物は、異種性微生物の宿主細胞、特に油性酵母菌(例えばヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica))の細胞中で生成されてもよい。組換え微生物の宿主中の発現は、様々なPUFA経路中間体の生成のために、またはこれまで宿主を使用してできなかった新しい生成物の合成のための、宿主に既存のPUFA経路の調節のために有用かもしれない。
【0132】
微生物の発現システム、および外来タンパク質の高レベル発現を導く調節配列を含有する発現ベクターは、当業者によく知られている。これらのいずれも好ましいデサチュラーゼおよび/またはエロンガーゼ配列のあらゆる遺伝子生成物を生成するためのキメラ遺伝子を構築するのに使用できる。次に形質転換を通じてこれらのキメラ遺伝子を適切な微生物に導入して、コードされた酵素の高レベル発現を提供できる。
【0133】
したがって適切なプロモーター制御下における、PUFA生合成経路(例えばここで述べるΔ5デサチュラーゼ、Δ6デサチュラーゼ、Δ17デサチュラーゼ、およびエロンガーゼ)をコードするキメラ遺伝子の導入は、ω−3および/またはω−6脂肪酸の増大する生成をもたらすことが予期される。これらのPUFAデサチュラーゼおよびエロンガーゼ遺伝子の様々な組み合わせを宿主微生物中で一緒に発現することが、有用であると考察される。特定の発現カセット内に含まれる特定の遺伝子が、宿主細胞、未変性デサチュラーゼおよびエロンガーゼを使用したそのPUFA合成能力、基質および所望の最終生成物の利用可能性に左右されることは、当業者には明らかである。例えばΔ4デサチュラーゼ、Δ5デサチュラーゼ、Δ6デサチュラーゼ、Δ12デサチュラーゼ、Δ15デサチュラーゼ、Δ17デサチュラーゼ、Δ9デサチュラーゼ、および/またはエロンガーゼの1種もしくはそれ以上の酵素活性をコードする遺伝子を含んでなる発現カセットを構築することが望ましいかもしれない。したがって本発明は、基質が所望の脂肪酸生成物に変換するように、脂肪酸基質をここで述べるPUFA酵素に暴露するステップを含んでなる、PUFAを生成する方法を包含する。したがってここで述べる各PUFA遺伝子および対応する酵素生成物(例えば適切なデサチュラーゼまたはエロンガーゼ活性を有する野生型、コドン最適化、合成および/または変異体酵素)は、PUFAの生成のために直接にまたは間接に使用できる。PUFAの直接的生成は、脂肪酸基質が中間ステップまたは経路中間体なしに直接に所望の脂肪酸生成物に変換する場合に起きる。例えばARAの生成は、Δ5デサチュラーゼ活性を提供する発現カセットを添加または導入することで、DLGAを生成する宿主細胞、またはDLGAが提供される宿主細胞中で起きる。
【0134】
対照的にPUFA生合成経路をコードする複数遺伝子を一連の反応が起きて所望のPUFAを生成するように組み合わせて使用してもよい。例えばエロンガーゼ、Δ5デサチュラーゼ、Δ17デサチュラーゼ、およびΔ4デサチュラーゼ活性をコードする発現カセットは、自然にGLAを生成する宿主細胞が、代わりにDHAを生成できるようにする(GLAがエロンガーゼによってDGLAに変換し、次にDGLAはΔ5デサチュラーゼによってARAに変換し、次にARAはΔ17デサチュラーゼによってEPAに変換し、それは次にはエロンガーゼによってDPAに変換してもよく、DPAはΔ4デサチュラーゼによってDHAに変換する)。宿主細胞が油性酵母菌である好ましい実施態様では、これらの生物体において自然に生成されるPUFAは18:2脂肪酸(すなわちLA)、もっとまれには18:3脂肪酸(すなわちALA)に限られるので、PUFA生合成に必要な各酵素をコードする発現カセットを生物体に導入しなくてはならない。代案としては基質供給が必要かもしれない。
【0135】
適切な宿主細胞の形質転換に有用なベクターまたはDNAカセットは、技術分野でよく知られている。コンストラクト中に存在する配列の特定の選択は、所望の発現生成物(上述)、宿主細胞の性質、および提案される形質転換細胞と非形質転換細胞とを分離する手段に左右される。しかし典型的に、ベクターまたはカセットは、関連遺伝子の転写および翻訳を導く配列、選択性マーカー、および自律性複製または染色体組み込みを可能にする配列を含有する。適切なベクターは、転写開始を制御する遺伝子の5’領域、および転写終結を制御するDNA断片の3’領域を含んでなる。双方の制御領域が、形質転換された宿主細胞の遺伝子に由来することが最も好ましいが、このような制御領域は、必ずしも生成宿主として選択された特定種に天然の遺伝子に由来しなくてよいものと理解される。
【0136】
所望の宿主細胞中で、デサチュラーゼおよび/またはエロンガーゼORFの発現を推進するのに有用な開始制御領域またはプロモーターは多数あり、当業者にはなじみが深い。選択された宿主細胞中でのこれらの遺伝子の発現を導くことができる、実質的にあらゆるプロモーターが本発明に適する。宿主細胞中での発現は、一過性または安定様式で達成できる。一過性発現は、関心のある遺伝子に作動可能に連結された、調節可能プロモーターの活性を誘導することで達成できる。安定発現は、関心のある遺伝子に作動可能に連結された構成プロモーターの使用によって達成できる。一例として宿主細胞が酵母菌の場合、酵母菌細胞中で機能する転写および翻訳領域が、特に宿主種から提供される。転写開始調節領域は、例えば、以下から得ることができる。1.)アルコールデヒドロゲナーゼ、グリセルアルデヒド3−リン酸−デヒドロゲナーゼ(参照によってここに援用する米国特許出願第60/482263号明細書参照)、ホスホグリセリン酸ムターゼ(参照によってここに援用する米国特許出願第60/482263号明細書参照)、フルクトース−ビスリン染色体外因子アルドラーゼ(参照によってここに援用する米国特許出願第60/519971号明細書参照)、ホスホグルコース−異性化酵素、ホスホグリセラートキナーゼなどの解糖経路中の遺伝子、または2.)酸ホスファターゼ、ラクターゼ、メタロチオネイン、グルコアミラーゼ、翻訳延長因子EF1−α(TEF)タンパク質(米国特許第6,265,185号明細書)、リボソームタンパク質S7(米国特許第6,265,185号明細書)などの調節可能遺伝子。構成または誘導転写が所望されるかどうか、関心のあるORFを発現する上でのプロモーター効率、構築の容易さなど次第で、いくつかの調節配列のいずれの1つでも使用できる。
【0137】
翻訳開始コドン「ATG」を取り囲むヌクレオチド配列は、酵母菌細胞中の発現に影響することが分かっている。所望のポリペプチドが酵母菌中で発現不良であれば、外来性遺伝子のヌクレオチド配列を修正して効率的な酵母菌翻訳開始配列を含め、最適遺伝子発現を得ることができる。酵母菌中での発現のためには、これは、非効率的に発現する遺伝子をインフレームで内在性酵母菌遺伝子、好ましくは高度に発現する遺伝子に融合させることによる部位特異的変異誘発によって実施できる。代案としてはここでの発明でヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)において実証されるように、宿主中の共通翻訳開始配列を判定して、関心のある宿主中でのそれらの最適発現のために、この配列を異種性遺伝子内に遺伝子操作できる。
【0138】
終結領域は、遺伝子の3’領域から誘導されることができ、開始領域はそれから、または異なる遺伝子から得られた。多数の終結領域が知られており、多様な宿主において満足
に機能する(それらが由来する同一のおよび異なる、属および種の双方で使用した際に)。終結領域は、通常、特定の特性のためと言うよりも、便宜上で選択される。好ましくは、終結領域は、特にサッカロミセス属(Saccharomyces)、分裂酵母属(Schizosaccharomyces)、カンジダ属(Candida)、ヤロウイア属(Yarrowia)またはクリヴェロミセス(Kluyveromyces)である酵母菌遺伝子から誘導される。γ−インターフェロンおよびα−2インターフェロンをコードする哺乳類の遺伝子の3’−領域もまた、酵母菌中で機能することが知られている。終結制御領域もまた、好ましい宿主に天然の様々な遺伝子から誘導されてもよい。場合により終結部位は不必要かもしれないが、含まれることが最も好ましい。
【0139】
当業者は気づいているように、遺伝子をクローニングベクターに単に挿入するだけでは、それが必要なレベルで成功裏に発現することを確証しない。高発現率の必要性に応えて、転写、翻訳、タンパク質安定性、酸素限界、および宿主細胞からの分泌の側面を制御するいくつかの異なる遺伝的要素を操作することで、多くの特殊化した発現ベクターが作り出されている。より具体的には、遺伝子発現を制御するように操作される分子の特徴のいくつかとして以下が挙げられる。1.)関連転写プロモーターおよびターミネーター配列の性質、2.)クローンされた遺伝子のコピー数、および遺伝子がプラスミド上にあるかまたは宿主細胞のゲノム中に組み込まれているかどうか、3.)合成された外来タンパク質の最終細胞内位置、4.)宿主生物体中の翻訳効率、5.)宿主細胞内のクローン化遺伝子タンパク質の本質的な安定性、および6.)頻度が宿主細胞の好むコドン使用頻度に近づくような、クローン化遺伝子内のコドン使用。これらの各タイプの修正は、PUFA生合成経路酵素の発現をさらに最適化する手段として、本発明中に包含される。
【0140】
微生物宿主の形質転換
油性酵母菌中での発現に適したデサチュラーゼまたはエロンガーゼポリペプチドをコードするDNAがひとたび得られると、それは宿主細胞中で自律複製できるプラスミドベクター中に入れられ、またはそれは宿主細胞のゲノム中に直接組み込まれる。発現カセットの組み込みは、宿主ゲノム内で無作為に起きることができ、または宿主遺伝子座内で遺伝子組み換えを標的とするのに十分な宿主ゲノムとの相同性領域を含有するコンストラクトの使用を通じて、標的を定めることができる。コンストラクトが内在性遺伝子座に標的を定めると、全てまたはいくつかの転写および翻訳調節領域が、内在性遺伝子座によって提供できる。
【0141】
別々の複製ベクターから2つ以上の遺伝子が発現する場合、各ベクターが異なる選択手段を有することが望ましく、他のコンストラクトに対する相同性を欠いて、安定した発現を維持し、コンストラクト中における要素の再集合を防止すべきである。調節領域、選択手段、および導入コンストラクト増殖方法の思慮深い選択は、全ての導入された遺伝子が必要なレベルで発現して、所望の生成物の合成を提供するように実験的に判定できる。
【0142】
関心のある遺伝子を含んでなるコンストラクトは、あらゆる標準的技術によって宿主細胞に導入してもよい。これらの技術としては、形質転換(例えば酢酸リチウム形質転換[Methods in Enzymology、194:186〜187(1991)])、プロトプラスト融合、弾道衝撃(bolistic impact)、電気穿孔、マイクロインジェクション、または宿主細胞中に関心のある遺伝子を導入するその他のあらゆる方法が挙げられる。油性酵母菌(すなわち、ヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica))に適用できるより具体的な教示としては、米国特許第4,880,741号明細書および米国特許第5,071,764号明細書、およびチェン(Chen)D.C.ら(Appl Microbiol Biotechnol.48(2):232〜235(1997))が挙げられる。
【0143】
便宜上、DNA配列(例えば発現カセット)を取り込むように、あらゆる方法によって操作されている宿主細胞を「形質転換された」または「組換え」とここで称する。形質転換された宿主は、遺伝子がゲノム中に組み込まれるか、増幅されるか、または複数のコピー数を有する染色体外因子上に存在するかどうか次第で、発現コンストラクトの少なくとも1つのコピーを有し、2つ以上を有してもよい。形質転換された宿主細胞は、導入されたコンストラクト上に含有されるマーカーの選択によって同定できる。多くの形質転換技術は、多くのDNA分子を宿主細胞中に導入するので、代案としては、別々のマーカーコンストラクトを所望のコンストラクトと共に同時形質転換してもよい。典型的に、形質転換された宿主は、選択的培地上で生育するそれらの能力について選択される。選択培地には抗生物質が組み込まれていてもよく、または栄養素または成長因子などの非形質転換宿主の生育に必要な要素が欠如していてもよい。導入されたマーカー遺伝子は、形質転換された宿主中で発現すると、抗生物質抵抗性を与え、または必須成長因子または酵素をコードしてもよく、それによって選択培地上での生育を可能にしてもよい。また発現したマーカータンパク質が直接または間接に検出できる場合に、形質転換された宿主の選択ができる。マーカータンパク質は単独で、または別のタンパク質と融合して発現してもよい。マーカータンパク質は、次によって検出できる。1.)その酵素活性(例えばβ−ガラクトシダーゼは、基質X−gal[5−ブロモ−4−クロロ−3−インドリル−β−D−ガラクトピラノシド]を着色生成物に変換でき、ルシフェラーゼはルシフェリンを発光生成物に変換できる)、または2.)その光生成または修正特性(例えばオワンクラゲ(Aequorea victoria)の緑色蛍光タンパク質は青色光で照明されると蛍光を発する)。代案としては、抗体を使用して、マーカータンパク質、または例えば関心のあるタンパク質の上の分子タグを検出できる。マーカータンパク質またはタグを発現する細胞は、例えば視覚的に、またはFACS、または抗体を使用したパニングなどの技術によって選択できる。酵母菌形質転換体の選択のためには、酵母菌で機能するあらゆるマーカーを使用してもよい。ここで使用するのに好ましいのは、カナマイシン、ハイグロマイシン、およびアミノグリコシドG418に対する抵抗性、ならびにウラシルまたはロイシン欠乏培地上で生育する能力である。
【0144】
形質転換に続いて、組換え的に発現されたデサチュラーゼおよび/またはエロンガーゼ(そして場合により、宿主細胞内で発現するその他のPUFA酵素)に適した基質が、宿主によって自然にまたは遺伝子組換え的に生成されてもよく、またはそれらは外来性に提供されてもよい。
【0145】
微生物中でのω−3および/またはω−6脂肪酸生合成の代謝エンジニアリング
生化学的経路を操作する方法は、当業者によく知られており、油性酵母菌、特にヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)におけるω−3および/またはω−6脂肪酸生合成を最大化するために、多数の操作が可能であることが期待される。これは直接PUFA生合成経路内での代謝エンジニアリング、または炭素をPUFA生合成経路に与える経路の追加的操作を必要とするかもしれない。
【0146】
PUFA生合成経路内での操作の場合、LAの生成を増大させて、ω−6および/またはω−3脂肪酸の増大する生成を可能にすることが望ましいかもしれない。これはΔ9および/またはΔ12デサチュラーゼをコードする遺伝子を導入および/または増幅することで達成してもよい。
【0147】
ARAなどのω−6不飽和脂肪酸生成を最大化するために、実質的にALAを含まない宿主微生物中における生成が有利であることが、当業者にはよく知られている。したがって好ましくは宿主は選択され、またはLAをALAに転換させるΔ15またはω−3タイプのデサチュラーゼ活性を除去または阻害することで得られる。内在性デサチュラーゼ活性は、例えば以下によって低下または除外できる。1.)アンチセンス配列のΔ15デサ
チュラーゼ転写生成物への転写のためのカセットを提供する。2.)標的遺伝子の全てまたは一部挿入、置換および/または欠失によって、Δ15デサチュラーゼ遺伝子を混乱させる。または3.)低いまたは皆無のΔ15デサチュラーゼ活性を自然に有する[または有するように変異された]宿主細胞を使用する。望まれないデサチュラーゼ経路の阻害は、米国特許第4,778,630号明細書で述べられるような特異的デサチュラーゼ阻害剤の使用を通じても達成される。
【0148】
代案としては、ω−3脂肪酸の生成を最大化する(そしてω−6脂肪酸の合成を最小化する)ことが、望ましいかもしれない。したがって上述のいずれかの手段を使用して、オレイン酸からLAへの転換を可能にするΔ12デサチュラーゼの活性が除去または阻害される、宿主微生物が使用できる(例えばその内容全体を本願明細書に引用した同時係属米国仮特許出願第60/484209号も参照されたい)。引き続いてALAのω−3脂肪酸誘導体(例えばSTA、ETA、EPA、DPA、DHA)への転換のために、適切な発現カセットを適切な基質(例えばALA)と共に宿主に導入する。
【0149】
さしあたりのPUFA生合成経路以降、前駆脂肪酸生合成をもたらすその他のいくつかの酵素的経路の操作は、特定PUFAの全体的な正味の生合成に寄与するかもしれないことが期待される。これらの関連経路の同定および操作は、将来有用であろう。
【0150】
望ましい生合成経路を上方制御する技術
デサチュラーゼおよびエロンガーゼ遺伝子の追加的コピーを宿主に導入して、ω−3および/またはω−6脂肪酸生合成経路の産出量を増大させてもよい。デサチュラーゼまたはエロンガーゼ遺伝子の発現はまた、mRNAまたはコードされたタンパク質のいずれかから不安定化配列を除去/消去することで、または安定化配列をmRNA(米国特許第4,910,141号明細書)に追加することで、(制御されたまたは構成的な)より強力なプロモーターの使用を通じて増大する発現を引き起こして、転写レベルで増大できる。本発明で実証されるように、デサチュラーゼまたはエロンガーゼ遺伝子の発現を増大させるさらに別のアプローチは、選択された宿主微生物中での最適遺伝子発現のためのコドンで、未変性遺伝子中のコドンを置換することにより、コードされたmRNAの翻訳効率を増大させることである。
【0151】
望ましくない生合成経路を下方制御する技術
反対に、エネルギーまたは炭素についてω−3および/またはω−6脂肪酸生合成経路と競合する生化学的経路、または特定のPUFA最終生成物の生成を妨げる未変性PUFA生合成経路酵素を遺伝子混乱によって除去またはその他の手段(例えばアンチセンスmRNA)によって下方制御してもよい。遺伝子混乱では、そのコード配列を妨害し、それによって遺伝子を機能的に不活性化するために、混乱させたい構造的遺伝子中に外来DNA断片(典型的に選択可能マーカー遺伝子)を挿入し、混乱させる。混乱カセットの宿主細胞中への形質転換は、相同的組み換えによって、機能的未変性遺伝子の非機能的混乱遺伝子による置換をもたらす(例えばハミルトン(Hamilton)ら、J.Bacteriol.171:4617〜4622(1989);バルバス(Balbas)ら、Genes、136:211〜213(1993);ゲルデナー(Gueldener)ら、Nucleic Acid Res.24:2519〜2524(1996);およびスミス(Smith)ら、Methods Mol.Cell.Biol.5:270〜277(1996)参照)。
【0152】
アンチセンス技術は、標的遺伝子配列が知られている場合に遺伝子を下方制御する別の方法である。これを達成するために、所望の遺伝子からの核酸セグメントをクローン化して、RNAのアンチセンス鎖が転写されるようにプロモーターに作動可能に連結する。次にこのコンストラクトを宿主細胞に導入し、RNAのアンチセンス鎖を生成する。アンチ
センスRNAは、関心のあるタンパク質をコードするmRNAの蓄積を防止することで、遺伝子発現を阻害する。当業者は、特定の遺伝子の発現を低下させるために、特別な考察がアンチセンス技術の使用に関連することを理解する。例えば、アンチセンス遺伝子の適切な発現レベルは、当業者には知られている異なる調節因子を使用した、異なるキメラ遺伝子の使用を必要とするかもしれない。
【0153】
配列が知られている場合、標的を定めた遺伝子混乱およびアンチセンス技術が遺伝子を下方制御する効果的手段を提供するが、配列ベースではないその他のより特異性が低い方法が開発されている。例えば細胞をUV放射線暴露して、次に所望の表現型についてスクリーンしてもよい。変異体を作り出すために、化学薬品による変異誘発もまた効果的であり、一般に使用される物質としては、非複製DNAに影響する化学物質(例えばHNOおよびNHOH)、ならびに複製DNAに影響する薬剤(例えばフレームシフト変異を引き起こすことで注目に値するアクリジン染料)が挙げられる。放射線または化学薬品を使用して変異体を作り出す特定の方法は、技術分野でよく文書化されている。例えばトーマスD.ブロック(Thomas D.Brock)著「バイオテクノロジー:工業微生物学テキストブック(Biotechnology:A Textbook of Industrial Microbiology)」第二版(1989)Sinauer Associates:マサチューセッツ州サンダーランド(Sunderland、MA)、またはデシュパンデ,ムカンド(Deshpande,Mukund)V.、Appl.Biochem.Biotechnol.、36:227(1992)を参照されたい。
【0154】
別の非特異的遺伝子混乱方法は、転移因子またはトランスポゾンの使用である。トランスポゾンは、DNAに無作為に挿入される遺伝的因子であるが、後で配列に基づいて検索して、挿入がどこで起きたのか判定できる。生体内(in vivo)および生体外(in vitro)転位法の双方が知られている。どちらの方法にもトランスポザーゼ酵素と組み合わされた転移因子の使用が関与する。転移因子またはトランスポゾンがトランスポザーゼの存在下で核酸断片に接触すると、転移因子が核酸断片中に無作為に挿入される。混乱された遺伝子は転移因子配列に基づいて同定されてもよいので、技術は、ランダム変異誘発のため、そして遺伝子単離のために有用である。生体外(in vitro)転位のためのキットは市販される。例えば1.)ニュージャージー州ブランチバーグのパーキン・エルマー・アプライド・バイオシステムズ(Perkin Elmer Applied Biosystems(Branchburg、NJ))から入手できる酵母菌Ty1因子に基づく、プライマー・アイランド転位キット、2.)マサチューセッツ州ビバリーのニュー・イングランド・バイオ・ラブズ(New England Biolabs、(Beverly、MA))から入手できる細菌性トランスポゾンTn7に基づくゲノム・プライミング・システム、および3.)ウィスコンシン州マディソンのエピセンター・テクノロジーズ(Epicentre Technologies(Madison、WI))から入手できる、Tn5細菌性転移因子に基づくEZ::TNトランスポゾン挿入システムを参照されたい。
【0155】
本発明の文脈では、上述のいずれか1つの方法によって、脂肪酸生合成経路の発現を調節することが有用であるかもしれない。例えば本発明は、ω−3および/またはω−6脂肪酸生成のために、生合成経路中の重要な酵素をコードする遺伝子を油性酵母菌に導入する方法を提供する。これらの遺伝子は、以下の1種もしくはそれ以上をコードする。Δ6デサチュラーゼ、Δ5デサチュラーゼ、Δ12デサチュラーゼ、Δ15デサチュラーゼ、Δ4デサチュラーゼ、Δ17デサチュラーゼ、Δ9デサチュラーゼ、およびPUFAエロンガーゼ。ω−3および/またはω−6脂肪酸生合成経路を自然に有さない油性酵母菌中でこれらの遺伝子を発現させ、これらの遺伝子の発現を協調させ、宿主生物体の代謝工学のための様々な手段を使用して好ましいPUFA生成物の生成を最大化することが特に有
用であろう。
【0156】
ω−3および/またはω−6脂肪酸の組換え生成のための好ましい微生物宿主
ω脂肪酸生成のための宿主細胞は、広範な温度およびpHで、単純または複合炭水化物、有機酸およびアルコール、および/または炭化水素をはじめとする多様な原材料上で生育する微生物の宿主を含んでもよい。
【0157】
しかし好ましい微生物の宿主は、油性酵母菌である。これらの生物体は自然に油の合成および蓄積ができ、油は、細胞乾燥重量の約25%を超え、より好ましくは細胞乾燥重量の約30%を超え、最も好ましくは細胞乾燥重量の約40%を超える量を構成できる。油性酵母菌として典型的に同定されている属としては、ヤロウイア属(Yarrowia)、カンジダ属(Candida)、ロドトルラ属(Rhodotorula)、ロドスポリジウム属(Rhodosporidium)、クリプトコッカス属(Cryptococcus)、トリコスポロン属(Trichosporon)、およびリポマイセス属(Lipomyces)が挙げられるが、これに限定されるものではない。より具体的には、例証的な油合成酵母菌としては、ロドスポリジウム・トルイデス(Rhodosporidium toruloides)、リポマイセス・スターケイ(Lipomyces starkeyii)、L.リポフェラス(L.lipoferus)、カンジダ・レブカウフィ(Candida revkaufi)、C.プルケリマ(C.pulcherrima)、C.トロピカリス(C.tropicalis)、C.ユチリス(C.utilis)、トリコスポロン・プランス(Trichosporon pullans)、T.クタネウム(T.cutaneum)、ロドトルラ・グルティナス(Rhodotorula glutinus)、R.グラミニス(R.graminis)、およびヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)(以前はカンジダ・リポリティカ(Candida lipolytica)として分類された)が挙げられる。
【0158】
最も好ましいのは油性酵母菌ヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)であり、さらなる実施態様で最も好ましいのは、ATCC番号20362、ATCC番号8862、ATCC番号18944、ATCC番号76982および/またはLGAMS(7)1と称されるY.リポリティカ(Y.lipolytica)株である(パパニコラオウ(Papanikolaou)S.、およびアゲリス(Aggelis)G.、Bioresour.Technol.82(1):43〜9(2002))。
【0159】
歴史的に、Y.リポリティカ(Y.lipolytica)の様々な株が、イソクエン酸リアーゼ(DD259637)、リパーゼ(SU1454852、国際公開第2001083773号パンフレット、DD279267)、ポリヒドロキシアルカノアート(国際公開第2001088144号パンフレット)、クエン酸(RU2096461、RU2090611、DD285372、DD285370、DD275480、DD227448、PL160027)、エリスリトール(欧州特許第770683号明細書)、2−オキソグルタル酸(DD267999)、γ−デカラクトン(米国特許第6,451,565号明細書、FR2734843)、γ−ドデカラトン(dodecalatone)(欧州特許第578388号明細書)、およびピルビン酸(特開平第09252790号公報)の製造および生成のために使用されている。
【0160】
PUFA生成のための発酵プロセス
形質転換された微生物宿主細胞をデサチュラーゼおよびエロンガーゼ活性を最適化させる条件下で生育させ、好ましいPUFAの最大かつ最も経済的な収率を得る。一般に最適化されてもよい培地条件としては、炭素源のタイプおよび量、窒素源のタイプおよび量、
炭素−対−窒素比率、酸素レベル、生育温度、pH、バイオマス生成相の長さ、油蓄積相の長さ、および細胞収穫時間が挙げられる。油性酵母菌などの関心のある微生物を複合培地(例えば酵母菌抽出物−ペプトン−デキストロース液体培地(YPD))上で生育させ、または生育に必要な構成要素が欠如する合成(defined)最少培地(例えばミシガン州デトロイトのディフコ・ラボラトリーズ(DIFCO Laboratories(Detroit、MI))からの酵母菌窒素塩基)上で生育させて、所望の発現カセットの選択を強要する。
【0161】
本発明における発酵培地は、適切な炭素源を含有しなくてはならない。適切な炭素源としては、単糖類(例えばグルコース、フルクトース)、二糖類(例えばラクトース、スクロース)、少糖類、多糖類(例えばデンプン、セルロースまたはそれらの混合物)、糖アルコール(例えばグリセロール)または再生可能原材料からの混合物(例えば乳清透過液、コーンスティープリーカー、甜菜モラセス、大麦の麦芽)が挙げられるが、これに限定されるものではない。さらに炭素源としては、アルカン、脂肪酸、脂肪酸エステル、モノグリセリド、ジグリセリド、トリグリセリド、リン脂質、および植物油(例えばダイズ油)および動物脂肪をはじめとする脂肪酸の様々な商業的供給源が挙げられる。さらに炭素源としては、重要な生化学的中間体への代謝転換が実証されている一炭素源(例えば二酸化炭素、メタノール、ホルムアルデヒド、ギ酸および炭素−含有アミン)が挙げられる。したがって本発明で使用される炭素源は多種多様な炭素含有源を包含し、および宿主生物体の選択によってのみ制限されることが考察された。上述の全ての炭素源およびそれらの混合物が本発明で適切であることが期待されるが、好ましい炭素源は糖および/または脂肪酸である。最も好ましいのは、10〜22個の炭素含有グルコースおよび/または脂肪酸である。
【0162】
窒素は、無機(例えば(NHSO)または有機源(例えば尿素またはグルタミン酸)から供給されてもよい。適切な炭素および窒素源に加えて、発酵培地はまた、適切なミネラル、塩、補助因子、緩衝液、ビタミン、および当業者には知られている微生物の生育とPUFA生成に必要な酵素的経路の促進に適したその他の構成要素を含有しなくてはならない。脂質およびPUFAの合成を促進するいくつかの金属イオン(例えばMn+2、Co+2、Zn+2、Mg+2)が注目されている(ナカハラ(Nakahara)T.ら、「単細胞油の工業的応用(Ind.Appl.of Single Cell Oils)」、D.J.カイル(Kyle)およびR.コリン(Colin)編、p61〜97(1992))。
【0163】
本発明における好ましい増殖培地は、ミシガン州デトロイトのディフコ・ラボラトリーズ(DIFCO Laboratories(Detroit、MI))からの酵母菌窒素塩基などの一般的な商業的調製培地である。またその他の合成(defined)または合成(synthetic)増殖培地が使用されてもよく、特定の微生物の生育に適した培地は、微生物学または発酵科学の当業者に知られている。発酵に適したpH範囲は、典型的に約pH4.0〜pH8.0の間であり、pH5.5〜pH7.0が最初の生育条件の範囲として好ましい。発酵は好気性または好気性条件下で実施されてもよく、マイクロ好気性条件が好ましい。
【0164】
典型的に、油性酵母菌細胞におけるPUFAの高レベルの蓄積は、代謝状態が生育と脂肪合成/貯蔵間で「バランスが取れて」いなくてはならないので、二段階プロセスを必要とする。したがって最も好ましくは、油性酵母菌におけるPUFA生成には、二段階発酵プロセスが必要である。このアプローチでは、第1の発酵状態が細胞集団の生成および蓄積に供され、迅速な細胞生育および細胞分割によって特徴づけられる。発酵の第2段階では、培養内の窒素欠乏条件を確立して、高レベルの脂質蓄積を促進することが好ましい。この窒素欠乏の効果は、細胞内のAMPの効果的濃度を低下させることにより、ミトコン
ドリアのNAD−依存イソクエン酸デヒドロゲナーゼ活性を低下させることである。これが起きるとクエン酸が蓄積するので、細胞質中にアセチル−CoAの豊富なプールが形成し、脂肪酸合成の下準備をする。したがってこの相は、細胞分割休止と、それに続く脂肪酸合成および油蓄積によって特徴づけられる。
【0165】
細胞は典型的に約30℃で生育させるが、いくつかの研究は、より低い温度における不飽和脂肪酸の増大した合成を示している(ヨンマニットチャイ(Yongmanitchai)およびワード(Ward)、Appl.Environ.Microbiol.57:419〜25(1991))。プロセスの経済に基づけば、この温度シフトは、大部分の生物体の生育が起きる二段階発酵の第1相後に起きるはずである。
【0166】
デサチュラーゼおよび/またはエロンガーゼ遺伝子の組換え発現を使用したω脂肪酸の商業生産が所望される場合、多様な発酵プロセスデザインを適用してもよいことが考察される。例えば組換え微生物宿主からのPUFAの商業生産は、バッチ、供給バッチまたは連続発酵プロセスによって生産されてもよい。
【0167】
バッチ発酵プロセスは閉鎖システムであり、培地組成物がプロセス開始時に定められ、プロセス中にpHおよび酸素レベル維持のために必要とされるもの以外は、さらなる追加を受けない。したがって培養プロセスの始めに所望の生物体を培地に接種し、培地への追加的供給源(すなわち炭素および窒素源)の添加なしに、生育または代謝活性を生じさせる。バッチプロセスでは、システムの代謝産物およびバイオマス組成物は、培養が終結するまで絶えず変化する。典型的なバッチプロセスでは、細胞は静止対数相から高生育対数相を通過して、最終的に発育速度が減少または停止する定常相に進む。処置されない場合、定常相の細胞は次第に死滅する。標準バッチプロセスのバリエーションが供給バッチプロセスであり、炭素源は発酵プロセス経過中に発酵槽に連続的に添加される。供給バッチプロセスもまた、本発明に適している。供給バッチプロセスは分解産物抑制が、細胞代謝を阻害する傾向がある場合に、またはあらゆる時点で培地中に限定量の炭素源を有することが望ましい場合に有用である。供給バッチシステム中の炭素源濃度の測定は困難であるので、pH、溶解酸素、および排ガス(例えばCO)などの測定可能な要素の変化に基づいて推定してもよい。バッチおよび供給バッチ培養方法は一般的で技術分野でよく知られており、実例が以下にある。トーマス(Thomas)D.ブロック(Brock)著、「バイオテクノロジー:工業的微生物学テキストブック(Biotechnology:A Textbook of Industrial Microbiology)」第二版、Sinauer Associates:マサチューセッツ州サンダーランド(Sunderland、MA)(1989)、またはデシュパンデ,ムカンド(Deshpande,Mukund)V.、Appl.Biochem.Biotechnol.、36:227(1992)。これらは参照によってここに援用される。
【0168】
デサチュラーゼおよび/またはエロンガーゼ遺伝子の組換え発現を使用したω脂肪酸の商業生産はまた、連続発酵プロセスによって達成されてもよく、そこでは生成物の回収のため等量の培養物を除去するのと同時に、合成培地をバイオリアクター内に連続的に添加する。連続培養は、概して細胞を一定細胞密度の対数増殖期に保つ。連続または半連続培養法は、細胞生育または最終生成物濃度に影響する1つの因子またはあらゆるいくつかの因子の調節を可能にする。例えば1つのアプローチでは炭素源を制限して、あらゆるその他のパラメータが代謝を調節できるようにしてもよい。その他のシステムでは、培地濁度によって測定される細胞濃度を一定に保ちながら、生育に影響するいくつかの因子を連続的に変化させてもよい。連続システムは定常状態生育を維持することを目指すので、細胞生育率は、培養から培地が抜き取られることによる細胞損失に対してバランスが取れていなくてはならない。連続的培養プロセスのために栄養素および成長因子を調節する方法、ならびに生成物形成速度を最大化する技術は工業微生物学の技術分野でよく知られており
、多様な方法が上記のブロック(Brock)で詳述される。
【0169】
PUFAの精製
PUFAは、遊離脂肪酸として、またはアシルグリセロール、リン脂質、スルホリピドまたは糖脂質などのエステル化形態で宿主微生物中に見ることができ、技術分野でよく知られている多様な手段を通じて宿主細胞から抽出されてもよい。酵母菌脂質の抽出技術、品質分析、および許容性基準に関する1つのレビューは、Z.ジェーコブス(Jacobs)(Critical Reviews in Biotechnology、12(5/6):463〜491(1992))である。下流プロセスに関する簡潔なレビューは、A.シン(Singh)およびO.ワード(Ward)(Adv.Appl.Microbiol.45:271〜312(1997))にもある。
【0170】
一般にPUFA精製手段は、有機溶剤、超音波処理、超臨界流体抽出(例えば二酸化炭素を使用して)による抽出と、鹸化と、圧搾などの物理的手段またはそれらの組み合わせを含んでもよい。特に興味深いのは、水の存在下でのメタノールおよびクロロホルムによる抽出である(E.G.ブライ(Bligh)およびW.J.ダイヤー(Dyer)、Can.J.Biochem.Physiol.37:911〜917(1959))。望ましい場合、水性層を酸性化して負の電荷を帯びた部分をプロトン化することで、有機層中への所望の生成物の分配を増大できる。抽出後、有機溶剤は窒素流の下で蒸発によって除去できる。コンジュゲートされた形態で単離されると、生成物は酵素的にまたは化学的に切断されて、関心のある遊離脂肪酸またはより単純なコンジュゲートを放出してもよく、次にさらに操作されて所望の最終生成物を生成してもよい。望ましくはコンジュゲートされた形態の脂肪酸は、水酸化カリウムによって切断される。
【0171】
さらに精製が必要ならば、標準法を用いることができる。このような方法としては、抽出、尿素処理、分別結晶化、HPLC、分留、シリカゲルクロマトグラフィー、高速遠心分離または蒸留、またはこれらの技術の組み合わせが挙げられる。酸またはアルケニル基などの反応性基の保護は、既知の技術(例えばアルキル化、ヨウ素化)を通じて、あらゆるステップで実施してもよい。使用される方法としては、メチルエステルを生成するための脂肪酸のメチル化が挙げられる。同様に、保護基はあらゆるステップで除去されてもよい。望ましくはGLA、STA、ARA、DHA、およびEPAを含有する画分の精製は、尿素および/または分留による処置によって達成されてもよい。
【0172】
好ましい実施態様の説明
本発明は、PUFAの生成のために、油性酵母菌中にω−3および/またはω−6生合成経路を導入することの実行可能性を実証する。このような目的でARA(代表的なω−6脂肪酸)およびEPA(代表的なω−3脂肪酸)が、油性酵母菌、ヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)中で生成するための望ましい生成物として選択された。したがってARAの合成は、Δ6デサチュラーゼ、エロンガーゼ、およびΔ5デサチュラーゼ活性をコードする遺伝子のヤロウイア(Yarrowia)中への導入を必要とし、他方EPAの合成は、Δ6デサチュラーゼ、エロンガーゼ、Δ5デサチュラーゼ、およびΔ17デサチュラーゼ活性をコードする遺伝子のヤロウイア(Yarrowia)中への導入を必要とした。
【0173】
DGLAをARAに、ETAをEPAに変換する能力を有する、異なる生物体からの多様な公的に入手できるΔ5デサチュラーゼをヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)中で発現させ、代案の宿主中で最高レベルの活性を示す遺伝子を同定するために、活性についてスクリーニングした。これに基づいて、モルティエレラ・アルピナ(Mortierella alpina)Δ5デサチュラーゼ(配列番号4)が、基質供給試験において約30%の細胞内DGLAをARAに変換する能力に基づ
き、油性酵母菌中での発現のための好ましい遺伝子として選択された。
【0174】
追加的な基質供給試験を行って、以下の遺伝子によってコードされる酵素活性を確認した。
・LAをGLAに、ALAをSTAに変換するM.アルピナ(M.alpina)Δ6デサチュラーゼ(配列番号2)(Y.リポリティカ(Y.lipolytica)中におけるLAからGLAへの%基質変換は約30%であった)、
・DGLAをETAに、ARAをEPAに変換するサプロレグニア・ディクリナ(Saprolegnia diclina)Δ17デサチュラーゼ(配列番号6)(Y.リポリティカ(Y.lipolytica)中におけるARAからEPAへの%基質変換は約23%であった)、および
・GLAをDGLAに、STAをETAに、EPAをDPAに変換するM.アルピナ(M.alpina)高親和力PUFAエロンガーゼ(配列番号8)(Y.リポリティカ(Y.lipolytica)中におけるGLAからDGLAへの%基質変換は約30%であった)。
【0175】
S.ディクリナ(S.diclina)Δ17デサチュラーゼの(Δ6およびΔ5デサチュラーゼおよびエロンガーゼに比べて)より低い%基質変換に基づいて、この特定の遺伝子をコドン最適化し、ヤロウイア(Yarrowia)中でのその発現を増強した。これはヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)中の構造的遺伝子のコドン使用およびシグネチャを判定し、コドン最適化Δ17デサチュラーゼ遺伝子をデザインし、次に生体外(in vitro)で遺伝子を合成して、代案の宿主中におけるその増大する効率(野生型遺伝子に対して)を可能にすることで達成された。
【0176】
ARAまたはEPAの合成を可能にするために(そしてそれによって油性の宿主が、ω−6およびω−3脂肪酸(すなわちARAおよびEPA)の生成のために遺伝子操作される能力の機能検証を実証するために)、2個の異なるDNA発現コンストラクトを引き続いて調製した。1.)Δ6デサチュラーゼ、Δ5デサチュラーゼ、および高親和力PUFAエロンガーゼを含有する第1のコンストラクト、および2.)Δ6デサチュラーゼ、Δ5デサチュラーゼ、高親和力PUFAエロンガーゼ、およびコドン最適化Δ17デサチュラーゼを含有する第2のコンストラクト。双方のコンストラクトを別々にヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)中に形質転換して、酵素オロチジン−5’−リン染色体外因子デカルボキシラーゼ(EC4.1.1.23)をコードする染色体URA3遺伝子中に組み込んだ。適切な基質を供給した宿主細胞のGC分析からは、ARA(実施例5)およびEPA(実施例6)の生成がそれぞれ検出された。したがってこれは、それによってω−3および/またはω−6生合成経路が油性酵母菌中に導入される、油性酵母菌中におけるPUFA生合成の第1の実証である。
【0177】
ここで述べる教示および結果に基づいて、油性酵母菌を多様なω−3および/またはω−6PUFAの合成ための生成プラットフォームとして使用して作り出される、実現可能性および商業的用途を当業者が認識することが期待される。
【実施例】
【0178】
以下の実施例で本発明をさらに定義する。これらの実施例は、本発明の好ましい実施態様を示しながら、例証のみの目的で提供されるものとする。上の考察およびこれらの実施例から、当業者は本発明の必須特性を把握でき、その精神と範囲を逸脱することなく、本発明の様々な変更および修正を行って、それを様々な使用法および条件に適合できる。
【0179】
一般方法
実施例で使用する標準組換えDNAおよび分子クローニング技術は、技術分野でよく知
られており、1.)サムブルック(Sambrook)、J.、フリッチュ(Fritsch)、E.F.およびマニアティス(Maniatis)T.「分子クローニング:実験室マニュアル(Molecular Cloning:A Laboratory Manual)」、コールドスプリングハーバーラボラトリ:ニューヨーク州コールドスプリングハーバー(Cold Spring Harbor、NY)(1989)(マニアティス(Maniatis))、2.)T.J.シルハビー(Silhavy)、M.L.ベンナン(Bennan)およびL.W.エンクイスト(Enquist)、「遺伝子融合実験(Experiments with Gene Fusions)」(コールドスプリングハーバーラボラトリ:Cold Spring Harbor,NY,1984)、および3.)オースベル(Ausubel)F.M.ら「分子生物学現代プロトコル(Current Protocols in Molecular Biology)」(グリーンパブリッシングおよびワイリーインターサイエンスによる出版;1987)で述べられる。
【0180】
微生物培養の維持および生育に適した材料および方法は、技術分野でよく知られている。以下の実施例で使用するのに適した技術は、次で述べられる。「一般微生物学方法マニュアル(Manual of Methods for General Bacteriology)」、フィリップス・ゲアハルト(Phillipp Gerhardt)、R.G.E.マレー(R.G.E.Murray)、ラルフN.コスティロウ(Ralph N.Costilow)、ユージーンW.ネスター(Eugene W.Nester)、ウィリスA.ウッド(Willis A.Wood)、ノエルR.クリーグ(Noel R.Krieg)、およびG.ブリッグス・フィリップス(G.Briggs Phillips)編、米国微生物学会(American Society for Microbiology)、ワシントンD.C.(Washington,D.C.)(1994)またはトーマス(Thomas)D.ブロック(Brock)著、バイオテクノロジー:工業的微生物学テキストブック(Biotechnology:A Textbook of Industrial Microbiology)第二版、Sinauer Associates:(Sunderland、MA)(1989)。微生物細胞の生育および維持のために使用される全ての試薬、制限酵素および材料は、特に断りのない限り、ウィスコンシン州ミルウォーキーのアルドリッチ・ケミカルズ(Aldrich Chemicals(Milwaukee、WI))、ミシガン州デトロイトのディフコ・ラボラトリーズ(DIFCO Laboratories(Detroit、MI))、メリーランド州ゲーサーズバーグのギブコ/BRL(GIBCO/BRL(Gaithersburg、MD))、またはミズーリ州セントルイスのシグマケミカル(Sigma Chemical Company(St.Louis、MO))から得た。
【0181】
大腸菌(E. coli)(XL1−Blue)コンピテント細胞は、カリフォルニア州サンディエゴのストラタジーン(ストラタジーン(Stratagene、San Diego、CA)から購入した。大腸菌(E. coli)株は、典型的にルリア・ベルターニ(Luria Bertani)(LB)プレート上で37℃で生育させた。
【0182】
一般分子クローニングは、標準法に従って実施された(サムブルック(Sambrook)ら、同上)。オリゴヌクレオチドはシグマ−ジェノシス(Sigma−Genosys、テキサス州スプリング(Spring、TX))によって合成した。部位特異的変異誘発は、ストラタジーン(Stratagene)のクイックチェンジ(QuickChange)TM部位特異的変異誘発キットを製造業者の説明書に従って使用して実施した。ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)または部位特異的変異誘発がサブクローニングに関与する場合、コンストラクトは、配列中に確実にいかなる誤りも導入されないように配列された。PCR生成物は、ウィスコンシン州マディソンのプロメガ(Promega(Madison、WI))からのpGEM−T−イージーベクター中にクローン化した。
【0183】
DNA配列は、ベクターと挿入特異性プライマーの組み合わせを使用して、染料ターミネーター技術(米国特許第5,366,860号明細書、欧州特許第272,007号明細書)を使用して、ABI自動シーケンサー上に生成した。ミシガン州アンアーバーのジーン・コーズ社(Gene Codes Corporation(Ann Arbor、MI))からのシーケンチャー(Sequencher)中で配列編集を実施した。全配列は、双方向で少なくとも2回のカバレッジを示す。遺伝的配列の比較は、DNAスター(DNA Star,Inc.)からのDNASTARソフトウェアを使用して達成された。代案としては、ウィスコンシン州マディソンのジーンズ・コンピューター・グループ(GCG)社(Genes Computer Group Inc.(Madison、WI))から入手できる一組のプログラム、ウィスコンシン・パッケージ(Wisconsin Package Version9.0)を使用して、遺伝的配列の操作が達成された。ギャップ作成デフォルト値12、およびギャップ延長デフォルト値4でGCGプログラム「パイルアップ(Pileup)」を使用した。デフォルトギャップ作成ペナルティ50、およびデフォルトギャップ延長ペナルティ3で、GCG「ギャップ(ギャップ)」または「ベストフィット(Bestfit)」プログラムを使用した。特に断りのない限り、全てのその他の場合において、GCGプログラムのデフォルトパラメータを使用した。
【0184】
略語の意味は以下の通り。「sec」は秒を意味し、「min」は分を意味し、「h」は時間を意味し、「d」は日を意味し、「μL」はマイクロリットルを意味し、「mL」はミリリットルを意味し、「L」はリットルを意味し、「μM」はマイクロモル(micromolar)を意味し、「mM」はミリモル(millimolar)を意味し、「M」はモル(molar)を意味し、「mmol」はミリモル(millimole)を意味し、「μmole」マイクロモル(micromole)を意味し、「g」はグラムを意味し、「μg」はマイクログラムを意味し、「ng」はナノグラムを意味し、「U」は単位を意味し、「bp」は塩基対を意味し、「kB」はキロベースを意味する。
【0185】
ヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)の培養
ヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)株ATCC番号76982およびATCC番号90812は、メリーランド州ロックビルの米国微生物系統保存機関(American Type Culture Collection)(Rockville、MD)から購入した。Y.リポリティカ(Y.lipolytica)株は、通常、28℃においてYPD寒天(1%酵母菌抽出物、2%バクトペプトン、2%グルコース、2%寒天)上で生育させた。形質転換体の選択のために最少培地(ミシガン州デトロイトのディフコ・ラボラトリーズ(DIFCO Laboratories(Detroit、MI))からの硫酸アンモニウムまたはアミノ酸を含まない0.17%酵母菌窒素ベース、2%グルコース、0.1%プロリン、pH6.1)を使用した。適切ならばアデニン、ロイシン、リジンおよび/またはウラシル・サプリメントを最終濃度0.01%に添加した。
【0186】
ヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)脂肪酸分析
ブライ(Bligh)E.G.およびダイヤー(Dyer)W.J.(Can.J.Biochem.Physiol.37:911〜917(1959))で述べられるように、脂肪酸分析のために、細胞を遠心分離し収集して脂質を抽出した。ナトリウムメトキシド(ローガン(Roughan)G.およびニシダ(Nishida)I.Arch Biochem Biophys.276(1):38〜46(1990))による脂質抽出物のエステル交換反応によって、脂肪酸メチルエステルを調製し、30m×0.25mm(内径)HP−INNOWAXヒューレットパッカード(Hewlett−Pack
ard)カラムを装着したヒューレットパッカード(Hewlett−Packard)6890 GCで引き続き分析した。オーブン温度は170℃(25分間保持)から185℃に3.5℃/minで上昇させた。
【0187】
直接塩基エステル交換のために、ヤロウイア(Yarrowia)培養物(3mL)を収集し、蒸留水で1回洗浄し、スピードバック(Speed−Vac)中で真空下で5〜10min乾燥させた。ナトリウムメトキシド(100μLの1%)をサンプルに添加して、次にサンプルをボルテックスし、20分間振盪した。3滴の1M NaClおよび400μLヘキサンを添加した後、サンプルをボルテックスして遠心分離した。上層を除去して上述のようにGCで分析した。
【0188】
実施例1
ヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)中の異種性遺伝子発現に適したプラスミドの構造
図3に図解するように、pINA532の誘導体であるプラスミドpY5(Insitut National Agronomics、Centre de biotechnologie Agro−Industrielle、laboratoire de
Genetique Moleculaire et Cellularie INRA−CNRS、F−78850、Thiverval−Grignon、Franceのクロード・ガィヤルダン(Claude Gaillardin)博士からの贈与)、をヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)中の異種性遺伝子発現のために構築した。
【0189】
最初に、pINA532のARS18配列およびLEU2遺伝子を含有する部分的に消化された3598bpのEcoRI断片をカリフォルニア州サンディエゴのストラタジーン(Strategene、San Diego、CA)からのpBluescriptのEcoRI部位にサブクローニングしてpY2を生成した。TEF5’(配列番号38)およびTEF3’(配列番号39)をプライマーとして使用して、PCRにより、ヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)ゲノムのDNAからTEFプロモーター(ミュラー(Muller)S.ら「酵母菌(Yeast)」14:1267〜1283(1998))を増幅した。100ngのヤロウイア(Yarrowia)ゲノムDNAと、10mM KCl、10mM(NH)2SO、20mMトリス−HCl(pH8.75)、2mM MgSO、0.1%TritonX−100、100μg/mL BSA(最終濃度)を含有するPCR緩衝液と、各200μMのデオキシリボヌクレオチド三リン酸と、10pmoleの各プライマーと、カリフォルニア州サンディエゴのストラタジーン(Stratagene、San Diego、CA)からの1μLのPfuTurbo DNAポリメラーゼとを含有する、50μLの総容積でPCR増幅を実施した。増幅は以下のように実施した。95℃で3minの初期変性、それに続いて95℃で1min、56℃で30sec、72℃で1minを35サイクル。72℃で10minの最終延長サイクル実施し、それに続いて4℃での反応終結。418bpのPCR生成物をpCR−BluntにライゲーションしてpIP−tefを生成した。pIP−tefのBamHI/EcoRV断片をpY2のBamHI/SmaI部位にサブクローニングして、pY4を生成した。
【0190】
テンプレートとしてpINA532、プライマーとしてXPR5’(配列番号40)およびXPR3’(配列番号41)を使用して、PCRによってXPR2転写ターミネーターを増幅した。上述の構成要素および条件を使用して、PCR増幅を50μLの総容積中で実施した。179bpのPCR生成物をSacIIで消化し、pY4のSacII部位にライゲーションしてpY5を生成した。したがってpY5(図3および4に示す)は、以下を含有するヤロウイア(Yarrowia)−大腸菌(E. coli)シャトルプ
ラスミドとして有用である。
1)ヤロウイア(Yarrowia)自律性複製配列(ARS18)、
2)ColE1プラスミド複製起点、
3)大腸菌(E. coli)中の選択のためのアンピシリン−抵抗性遺伝子(Amp)、
4)ヤロウイア(Yarrowia)における選択のためのヤロウイア(Yarrowia)LEU2遺伝子(E.C.4.2.1.33、イソプロピルリンゴ酸異性化酵素をコードする)、
5)ヤロウイア(Yarrowia)における異種性遺伝子発現のための翻訳延長プロモーター(TEFP)、
6)ヤロウイア(Yarrowia)中の異種性遺伝子発現の転写終結のための細胞外のプロテアーゼ遺伝子ターミネーター(XPR2)。
【0191】
pY5−13(図4)をpY5の誘導体として構築して、ヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)中のサブクローニングおよび異種性遺伝子発現を容易にした。具体的にはpY5をテンプレートとして使用して、6ラウンドの部位特異的変異誘発により、pY5−13を構築した。オリゴヌクレオチドYL5およびYL6(配列番号106および107)を使用して、部位特異的変異誘発によってSalIおよびClaI部位の双方をpY5から除去し、pY5−5を生成した。オリゴヌクレオチドYL9およびYL10(配列番号110および111)を使用して、部位特異的変異誘発によってSalI部位をLeu2遺伝子とTEFプロモーターの間でpY5−5に導入し、pY5−6を生成した。オリゴヌクレオチドYL7およびYL8(配列番号108および109)を使用して、PacI部位をLEU2遺伝子とARS18の間でpY5−6に導入し、pY5−8を生成した。オリゴヌクレオチドYL3およびYL4(配列番号104および105)を使用して、NcoI部位をTEFプロモーターの翻訳開始コドン周囲でpY5−8に導入し、pY5−9を生成した。YL1およびYL2オリゴヌクレオチド(配列番号102および103)を使用して、pY5−9のLeu2遺伝子の内側のNcoI部位を除去し、Y5−12を生成した。最後に、オリゴヌクレオチドYL61およびYL62(配列番号88および89)を使用して、BsiWI部位をColEIとXPR2領域の間でpY5−12に導入し、pY5−13を生成した。
【0192】
プラスミドpY5の第2の誘導体を構築し、サブクローニングを容易にした。具体的には、pY5をテンプレートとして使用して、3ラウンドの部位特異的変異誘発によってpY5−4(図4)を構築した。オリゴヌクレオチドYL1およびYL2(配列番号102および103)を使用して、Leu2レポーター遺伝子内に位置するNcoI部位をpY5から除去し、pY5−1を生成した。オリゴヌクレオチドYL3およびYL4(配列番号104および105)を使用して、部位特異的変異誘発によってNcoI部位をTEFプロモーターとXPR2転写ターミネーターの間でpY5−1に導入し、pY5−2を生成した。次にオリゴヌクレオチドYL23およびYL24(配列番号112および113)を使用して、PacI部位をTEFプロモーターとXPR2転写ターミネーターの間でpY5−2に導入し、pY5−4を生成した。
【0193】
実施例2
ヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)中の発現のためのΔ6デサチュラーゼ、Δ5デサチュラーゼ、Δ17デサチュラーゼ、および高親和力PUFAエロンガーゼ遺伝子の選択
ω−3および/またはω−6生合成経路をコードする特定の遺伝子の油性酵母菌への導入に先だって、ヤロウイア(Yarrowia)中で発現した異種性Δ6デサチュラーゼ、エロンガーゼ、Δ5デサチュラーゼ、およびΔ17デサチュラーゼ遺伝子の機能性を確証することが必要であった。これは各野生型遺伝子によってコードされる別の宿主中での変換効率を測定することで達成された。具体的には基質供給試験において、4つのΔ5デサチュラーゼ、モルティエレラ・アルピナ(Mortierella alpina)Δ6デサチュラーゼ、サプロレグニア・ディクリナ(Saprolegnia diclina)Δ17デサチュラーゼ、およびM.アルピナ(M.alpina)高親和力PUFAエロンガーゼが別々に発現され、活性についてスクリーニングされた。これらの結果に基づいて、Δ6およびΔ17デサチュラーゼおよび高親和力PUFAエロンガーゼ遺伝子との組み合わせで使用するために、M.アルピナ(M.alpina)Δ5デサチュラーゼ遺伝子が選択された。
【0194】
発現プラスミドの構造
一般に野生型デサチュラーゼまたはエロンガーゼ遺伝子は、制限酵素消化によって単離され、あるいはPCRによって増幅され、発現のために適切なベクター中に挿入された。各PCR増幅は、10ngテンプレート、10mM KCl、10mM(NHSO、20mMトリス−HCl(pH8.75)、2mM MgSO、0.1%TritonX−100、100μg/mL BSA(最終濃度)を含有するPCR緩衝液と、200μMの各デオキシリボヌクレオチド三リン酸と、10pmoleの各プライマー、およびカリフォルニア州サンディエゴのストラタジーン(Stratagene、San Diego、CA)からの1μLのPfuTurbo DNAポリメラーゼとを含んでなる50μLの総容積中で実施した。増幅を(特に断りのない限り)以下のように実施した。95℃で3minの初期変性、それに続いて95℃で1min、56℃で30sec、72℃で1minを35サイクル。72℃で10minの最終延長サイクルの実施と、それに続く4℃での反応終結。
【0195】
野生型モルティエレラ・アルピナ(Mortierella alpina)(登録番号AF465281)Δ6デサチュラーゼ
M.アルピナ(M.alpina)Δ6デサチュラーゼ遺伝子(配列番号1)を含有するpCGR5(米国特許第5,968,809号明細書)の1384bpのNcoI/NotI断片をpY5−2(実施例1)のNcoI/NotI部位に挿入してpY54を生成した。
【0196】
野生型モルティエレラ・アルピナ(Mortierella alpina)(登録番号AF067654)Δ5デサチュラーゼ
プライマーとしてオリゴヌクレオチドYL11およびYL12(配列番号72および73)、テンプレートとしてプラスミドpCGR−4(米国特許第6,075,183号明細書)を使用して、PCRによって、M.アルピナ(M.alpina)Δ5デサチュラーゼ遺伝子(配列番号3)を増幅した。延長ステップを1.5min(サイクル1〜35で)延長したこと以外は、PCR増幅を上述のようにして実施した。1357bpのPCR生成物をNcoI/NotIで消化して、NcoI/NotI−消化されたpY5−13(実施例1で述べられる)にライゲーションし、pYMA5pb(図5)を生成した。
【0197】
野生型サプロレグニア・ディクリナ(Saprolegnia diclina)(ATCC番号56851)Δ5デサチュラーゼ
プライマーとしてオリゴヌクレオチドYL13AおよびYL14(配列番号116および117)、テンプレートとしてプラスミドpRSP3(国際公開第02/081668号パンフレット)を使用して、PCRによって、S.ディクリナ(S.diclina)Δ5デサチュラーゼ遺伝子(配列番号114)を増幅した。延長ステップを1.5min(サイクル1〜35で)延長したこと以外は、上述のようにしてPCR増幅を実施した。1.4kBPCR生成物をNcoI/PacIで消化し、NcoI/PacI−消化されたpY5−4にライゲーションして(図4、実施例1で述べられる)、pYSD5を生成した。
【0198】
野生型ハプト藻(Isochrysis galbana)CCMP1323Δ5デサチュラーゼ
プライマーとしてオリゴヌクレオチドYL19AおよびYL20(配列番号120および121)、テンプレートとしてプラスミドpRIG−1(国際公開第02/081668 A2号パンフレット)を使用して、PCRによって、ハプト藻(I.galbana)Δ5−デサチュラーゼ遺伝子(配列番号118)を増幅した。延長ステップを1.5min(サイクル1〜35で)延長したこと以外は、上述のようにしてPCR増幅を実施した。1.4kB PCRの生成物をBamHI/PacIIで消化し、BamHI/PacII−消化されたpY5−4(実施例1で述べられる)にライゲーションして、pYIG5を生成した。
【0199】
野生型ヤブレツボカビ(Thraustochytrium aureum)(ATCC番号34304)Δ5デサチュラーゼ
プライマーとしてオリゴヌクレオチドYL15およびYL16B(配列番号124および125)、テンプレートとしてプラスミドpRTA4(国際公開第02/081668
A2号パンフレット)を使用して、PCRによって、ヤブレツボカビ(T.aureum)Δ5−デサチュラーゼ遺伝子(配列番号122)を増幅した。延長ステップを1.5min(サイクル1〜35で)延長したこと以外は、上述のようにしてPCR増幅を実施した。1.4kBのPCR生成物をNcoI/NotIで消化し、NcoI/NotI−消化されたpY5−2(実施例1で述べられる)にライゲーションして、pYTA5を生成した。
【0200】
野生型サプロレグニア・ディクリナ(Saprolegnia diclina)(ATCC番号56851)Δ17デサチュラーゼ
オリゴヌクレオチドYL21A(配列番号42)およびYL22(配列番号43)をプライマーとして使用して、PCRによって、プラスミドpRSP19(米国特許出願公開第2003/0196217 A1号明細書)からS.ディクリナ(S.diclina)の野生型Δ17デサチュラーゼ遺伝子を増幅した。PCR生成物をNcoI/PacIで消化し、次にNcoI/PacI−消化されたpY5−4(図4、実施例1で述べられる)にライゲーションして、pYSD17を生成した。
【0201】
野生型モルティエレラ・アルピナ(Mortierella alpina)(登録番号AX464731)高親和力エロンガーゼ
M.アルピナ(M.alpina)高親和力PUFAエロンガーゼ遺伝子(配列番号7)のコード領域を含有するpRPB2(国際公開第00/12720号パンフレット)の973bpのNotI断片を、pY5(実施例1で述べられる、図3および4)のNotI部位に挿入して、pY58を生成した。
【0202】
ヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)の形質転換
チェン(Chen)D.C.ら(Appl Microbiol Biotechnol.48(2):232〜235(1997))の方法に従って、プラスミドpY54、pYMA5pb、pYSD5、pYIG5、pYTA5、pYSD17、およびpY58を別々にY.リポリティカ(Y.lipolytica)ATCC番号76982中に形質転換した。
【0203】
簡単に述べると、ヤロウイア(Yarrowia)のロイシン栄養要求株をYPDプレート上に画線し、30℃でおよそ18時間生育させた。いくつかの大型白金耳を満たす細胞をプレートからこすり取り、以下を含有する1mLの形質転換緩衝液に再懸濁した。
2.25mLの50%PEG、平均分子量3350、
0.125mLの2M酢酸Li、pH6.0、
0.125mLの2MDTT、および
50μgの剪断サケ精子DNA。
【0204】
約500ngのプラスミドDNAを100μLの再懸濁細胞内で培養し、15min間隔でボルテックス混合しながら39℃に1hr維持した。細胞をロイシン欠乏最少培地プレートに蒔いて、30℃で2〜3日間維持した。
【0205】
%基質変換の算出
pY54、pYMA5pb、pYSD5、pYIG5、pYTA5、pYSD17またはpY58を含有する形質転換体Y.リポリティカ(Y.lipolytica)の単一コロニーをそれぞれ3mLの最少培地(20g/Lグルコース、1.7g/Lのアミノ酸なしの酵母窒素ベース、1g/LのL−プロリン、0.1g/LのL−アデニン、0.1g/LのL−リジン、pH6.1)中で、30℃でOD600が約1.0になるまで生育させた。基質供給のために、次に10μgの基質を含有する3mLの最少培地内で100μLの細胞を30℃で約24hr継代培養した。細胞を引き続き遠心分離によって収集し、脂質を抽出し、エステル交換反応によって脂肪酸メチルエステルを調製し、引き続きGC(一般方法で述べられるように)によって分析した。%基質変換を以下のように計算した。[生成物/(基質+生成物)]×100。
【0206】
M.アルピナ(M.alpina)Δ6デサチュラーゼによる%基質変換
M.アルピナ(M.alpina)Δ6デサチュラーゼは、LAをGLAに、ALAをSTAに変換する。pY54を含有するY.リポリティカ(Y.lipolytica)株を上述のように(基質供給は必要でない)生育させ、脂質を分析した。結果は、pY54のあるヤロウイア(Yarrowia)株が、約30%のLAをGLAに変換することを示した。
【0207】
M.アルピナ(M.alpina)、S.ディクリナ(S.diclina)、ハプト藻(I.galbana)、およびヤブレツボカビ(T.aureum)Δ5デサチュラーゼによる%基質変換
M.アルピナ(M.alpina)、S.ディクリナ(S.diclina)、ハプト藻(I.galbana)、およびヤブレツボカビ(T.aureum)からのΔ5デサチュラーゼは、それぞれDGLAをARAに、ETAをEPAに変換する。pYMA5pb、pYSD5、pYIG5またはpYTA5を含有するY.リポリティカ(Y.lipolytica)株を単一コロニーから別々に生育させ、10μgのDGLAを含有する最少培地で継代培養し、次に上述のように脂質分析にかけた。pYMA5pb(M.アルピナ(M.alpina))を有するヤロウイア(Yarrowia)株は、約30%の細胞内DGLAをARAに変換し、pYSD5(S.ディクリナ(S.diclina))を有するヤロウイア(Yarrowia)株は約12%を変換し、pYIG5(ハプト藻(I.galbana))を有するヤロウイア(Yarrowia)株は約7%を変換し、
pYTA5(ヤブレツボカビ(T.aureum))を有するヤロウイア(Yarrowia)株は、約23%の細胞内DGLAをARAに変換した。
【0208】
S.ディクリナ(S.diclina)Δ17デサチュラーゼによる%基質変換
S.ディクリナ(S.diclina)Δ17デサチュラーゼは、ARAをEPAに、DGLAをETAに変換する。pYSD17を含有するY.リポリティカ(Y.lipolytica)株を単一コロニーから生育させ、10μgのARAを含有する最少培地で継代培養し、上述のように脂質分析にかけた。ARA供給実験の結果は、pYSD17を有するヤロウイア(Yarrowia)株が約23%の細胞内ARAをEPAに変換した
ことを示した。
【0209】
野生型M.アルピナ(M.alpina)高親和力エロンガーゼの%基質変換
M.アルピナ(M.alpina)高親和力PUFAエロンガーゼは、GLAをDGLAに、STAをETAに、EPAをDPAに変換する。pY58を含有するY.リポリティカ(Y.lipolytica)株を単一コロニーから生育させ、10μgのGLAを含有する最少培地で継代培養し、上述のように脂質分析にかけた。GLA供給実験の結果は、pY58を有するヤロウイア(Yarrowia)株が、約30%の細胞内GLAをDGLAに変換したことを示した。
【0210】
実施例3
ヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)中のコドン最適化Δ17デサチュラーゼ遺伝子の合成および発現
実施例2の結果に基づいて、ヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)中でそれぞれが約30%の基質変換ができるΔ6デサチュラーゼ、エロンガーゼおよびΔ5デサチュラーゼ活性をコードする遺伝子が入手できた。しかしS.ディクリナ(S.diclina)からのΔ17デサチュラーゼは、23%のみの最大%基質変換を有した。したがってヤロウイア(Yarrowia)コドン使用パターン、ATG翻訳開始コドン周囲の共通配列、およびRNA安定性の一般規則(グハニヨギ(Guhaniyogi)G.およびJ.ブルーアー(Brewer)、Gene 265(1〜2):11〜23(2001))に従って、サプロレグニア・ディクリナ(Saprolegnia diclina)DNA配列(配列番号5)に基づいて、コドン最適化Δ17デサチュラーゼ遺伝子をデザインした。
【0211】
翻訳開始部位の修正に加えて、1077bpのコード領域(117のコドンを含んでなる)の127bpをコドン最適化した。このコドン最適化DNA配列(配列番号9)とS.ディクリナ(S.diclina)Δ17デサチュラーゼ遺伝子DNA配列(配列番号5)との比較を図6に示し、そこでは太字のヌクレオチドが、コドン最適化遺伝子において修正されたヌクレオチドに対応する。コドン最適化遺伝子中の修正のいずれも、コードされたタンパク質(配列番号6)のアミノ酸配列を変化させなかった。
【0212】
ヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)において好まれるコドン使用の判定
Y.リポリティカ(Y.lipolytica)のおよそ100個の遺伝子が、アメリカ国立バイオテクノロジー情報センター公共データベースにある。121,167bpを含んでなるこれらの遺伝子のコード領域をDNAStarのEditseqプログラムによって対応する40,389個のアミノ酸に翻訳し、表3に示すY.リポリティカ(Y.lipolytica)のコドン使用プロフィールを判定するために表にした。「No.」と題された欄は、特定のコドンが、40,389個のアミノ酸のサンプル中で特定のアミノ酸をコードする回数を指す。「%」と題された欄は、特定のコドンが特定のアミノ酸をコードする頻度を指す。太字で示されるエントリはヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)中で好まれるコドンを表す。
【0213】
【表4】

【0214】
Y.リポリティカ(Y.lipolytica)中でのさらなる遺伝子発現の最適化のために、79個の遺伝子の「ATG」開始コドン周囲の共通配列を調査した。図7では、下線を引いたATG翻訳コドンの第1の「A」は、+1と見なされる。分析された遺伝子の77%が、−3の位置に「A」を有し、この位置における「A」に対する強い優先度が示された。また−4、−2および−1の位置で「A」または「C」に、+5の位置で「A」、「C」または「T」に、+6の位置で「G」または「C」に対する優先度があった。したがってY.リポリティカ(Y.lipolytica)中における遺伝子の最適発現のためのコドン最適化翻訳開始部位の好ましい共通配列は、「MAMMATGNHS」(配列番号126)であり、そこで使用された核酸退縮コードは、以下のようである。M=A/C、S=C/G、H=A/C/T、およびN=A/C/G/T。
【0215】
コドン最適化遺伝子の生体外(in vitro)合成
コドン最適化Δ17デサチュラーゼ遺伝子を合成するのに使用される方法は、図8で図示される。最初に11対のオリゴヌクレオチドがデザインされて、S.ディクリナ(S.diclina)Δ17デサチュラーゼ遺伝子(例えば配列番号10〜31に対応する、D17−1A、D17−1B、D17−2A、D17−2B、D17−3A、D17−3B、D17−4A、D17−4B、D17−5A、D17−5B、D17−6A、D17−6B、D17−7A、D17−7B、D17−8A、D17−8B、D17−9A、D17−9B、D17−10A、D17−10B、D17−11A、およびD17−11B)のコドン最適化コード領域の全長が延長される。各5’末端の4bpのオーバーハングを例外として、センス(A)およびアンチセンス(B)オリゴヌクレオチドの各対は相補的である。さらにプライマーD17−1A、D17−4B、D17−5A、D17−8A、およびD17−8Bもまた、それぞれ引き続くサブクローニングのために、NcoI、BglIIおよびSalI制限部位に導入される。
【0216】
50mMトリス−HCl(pH7.5)、10mM MgCl、10mM DTT、0.5mMスペルミジン、0.5mM ATPおよび10UのT4ポリヌクレオチドキナーゼを含有する20μLの容積中で、100ngの各オリゴヌクレオチドを37℃で1hrリン酸化した。センスおよびアンチセンスオリゴヌクレオチドの各対を混合し、以下のパラメータを使用して、サーモサイクラー中でアニールした。95℃(2min)、85℃(2min)、65℃(15min)、37℃(15min)、24℃(15min)および4℃(15min)。このようにしてD17−1A(配列番号10)をD17−1B(配列番号11)にアニールし、二本鎖生成物「D17−1AB」を生成した。同様に、D17−2A(配列番号12)をD17−2B(配列番号13)にアニールし、二本鎖生成物「D17−2AB」を生成した。
【0217】
次に以下に示すように3個の別個のアニールされた二本鎖オリゴヌクレオチドのプールを一緒にライゲーションした。
・プール1:D17−1AB、D17−2AB、D17−3AB、およびD17−4ABを含んでなる、
・プール2:D17−5AB、D17−6AB、D17−7AB、およびD17−8ABを含んでなる、そして
・プール3:D17−9AB、D17−10AB、およびD17−11ABを含んでなる。
【0218】
アニールされたオリゴヌクレオチドの各プールを20μLの容積中で10UのT4DNAリガーゼと共に混合し、ライゲーション反応を一晩16℃で培養した。
【0219】
次に各ライゲーション反応の生成物をPCRによって増幅した。具体的には、テンプレートとしてライゲーションされた「プール1」混合物(すなわちD17−1AB、D17−2AB、D17−3AB、およびD17−4AB)、プライマーとしてオリゴヌクレオチドD17−1(配列番号32)およびD17−4R(配列番号33)を使用して、コドン最適化Δ17デサチュラーゼ遺伝子の第1の部分をPCRによって増幅した。PCR増幅を10mM KCl、10mM(NHSO、20mMトリス−HCl(pH8.75)、2mM MgSO、0.1%TritonX−100、100μg/mL BSA(最終濃度)を含有するPCR緩衝液と、各200μMのデオキシリボヌクレオチド三リン酸と、10pmoleの各プライマーと、カリフォルニア州サンディエゴのストラタジーン(Stratagene、San Diego、CA)からの1μLのPfuTurbo DNAポリメラーゼとを含んでなる50μLの総容積中で実施した。増幅を以下のようにして実施した。95℃で3minの初期変性と、それに続く95℃で1min、56℃で30sec、72℃で40secの35サイクル。72℃で10minの最終延長サイクルと、それに続く4℃での反応終結を実施した。430bpのPCR断片をpGEM−Tイージーベクター(プロメガ(Promega))中にサブクローニングして、pT17(1−4)を生成した。
【0220】
テンプレートとしてライゲーションされた「プール2」混合物(すなわちD17−5AB、D17−6AB、D17−7AB、およびD17−8AB)、プライマーとしてオリゴヌクレオチドD17−5(配列番号34)およびD17−8D(配列番号35)を使用して、コドン最適化Δ17デサチュラーゼ遺伝子の第2の部分を同様にPCRによって増幅し、pGEM−T−イージーベクター中にクローンしてpT17(5−8)を生成した。最後に、テンプレートとして「プール3」ライゲーション混合物(すなわちD17−9AB、D17−10AB、およびD17−11AB)、プライマーとしてオリゴヌクレオチドD17−8U(配列番号36)、D17−11(配列番号37)を使用して、同様にPCRによってコドン最適化Δ17デサチュラーゼ遺伝子の第3の部分を増幅し、pGEM−T−イージーベクター中にクローンしてpT17(9−11)を生成した。
【0221】
大腸菌(E. coli)をpT17(1〜4)、pT17(5〜8)、およびpT17(9〜11)で別々に形質転換し、プラスミドDNAをアンピシリン−抵抗性形質転換体から単離した。プラスミドDNAを適切な制限エンドヌクレアーゼで精製し消化して、pT17(1〜4)の420bp NcoI/BglII断片、pT17(5〜8)の400bp BglII/SalI断片、およびpT17(9〜11)の300bp SalI/NotI断片を遊離した。次にこれらの断片を組み合わせて一緒にライゲーションして、合成コドン最適化Δ17デサチュラーゼ遺伝子全体の増幅のためのテンプレートとして使用し、D17−1(配列番号32)およびD17−11(配列番号37)をプライマーとして使用した。上述のΔ17デサチュラーゼ遺伝子の各部分のための条件、および以下のサーモサイクリングを使用して、50μLの総容積中でPCR増幅を実施した。95℃で3minの初期変性と、それに続く95℃で1min、56℃で30sec、72℃で1.1minの35サイクル。72℃で10minの最終延長サイクルと、それに続く4℃での反応終結を実施した。これにより1.1kBのPCR生成物が生じた。
【0222】
コドン最適化Δ17デサチュラーゼを含有するプラスミドpYSD17sの構築
合成Δ17デサチュラーゼ全体を含んでなる1.1kBのPCR生成物をNcoI/NotIで消化し、NcoI/NotIで消化されたpY5−13(実施例1)中にサブクローニングして、pYSD17S(図9A)を生成した。
【0223】
追加的な「対照」として、ヤロウイア(Yarrowia)中における野生型と合成遺伝子の効率を比較するために、YL53(配列番号44)およびYL54(配列番号45)をプライマーとして使用して、部位特異的変異誘発によって、pYSD17(野生型遺伝子を含んでなる、実施例2で述べられる)中のATに富んだPacI部位を除外し、pYSD17M(図9B)を生成した。
【0224】
コドン最適化Δ17デサチュラーゼ遺伝子によるヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)の形質転換
実施例2で上述した方法に従って、野生型およびコドン最適化Δ17デサチュラーゼ含有するプラスミドをY.リポリティカ(Y.lipolytica)ATCC番号76982中で別々に形質転換した。この技術を使用して、以下のプラスミドを含有する形質転換体を得た。
【0225】
【表5】

【0226】
コドン最適化Δ17デサチュラーゼ遺伝子による%基質変換
Δ17デサチュラーゼは、ARAをEPAに変換する(図2参照)。一般方法で述べられる方法を使用して、各別のプラスミドコンストラクト、含有するヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)中で、野生型およびコドン最適化Δ17デサチュラーゼ遺伝子の%基質変換([生成物]/[基質+生成物]×100)を計算した。
【0227】
ARA供給実験の結果は、対照プラスミドpYSD17またはpYSD17Mを有するヤロウイア(Yarrowia)株が、約23%の細胞内ARAをEPA(図10A)に変換し、他方、pYSD17S内にコドン最適化Δ17デサチュラーゼ遺伝子を含有するものは、約45%の細胞内ARAをEPA(図10B)に変換することを示した。したがってコドン最適化Δ17デサチュラーゼを含有するヤロウイア(Yarrowia)は、野生型S.ディクリナ(S.diclina)遺伝子を含有する株に比べて約2倍のARAを変換した。
【0228】
実施例4
ヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)中での複数のΩ脂肪酸生合成遺伝子の協調発現に適したプラスミドの構築
本実施例は、以下を構築するのに必要とされる多様な発現プラスミドの合成について述べる。1.)Δ6デサチュラーゼ、PUFAエロンガーゼ、およびΔ5デサチュラーゼ(ARA生成のため)発現のためにヤロウイア(Yarrowia)ゲノム中へ組み込むのに適したDNA断片、および2.)Δ6デサチュラーゼ、PUFAエロンガーゼ、Δ5デサチュラーゼ、およびΔ17デサチュラーゼ(EPA生成のため)発現のためにヤロウイア(Yarrowia)ゲノム中へ組み込むのに適したDNA断片。
【0229】
プラスミドpY24の構築
プラスミドpY24(図11)は、ヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia l
ipolytica)ゲノム中への組み込みに適した、発現カセット構築の親ベクターであった。pY24を以下のようにして構築した。
【0230】
プライマーとしてオリゴヌクレオチドKU5およびKU3(配列番号46および47)、テンプレートとしてヤロウイア(Yarrowia)ゲノムDNAを使用して、ヤロウイア(Yarrowia)URA3遺伝子を含有する1.7kBのDNA断片(配列番号48)をPCR増幅した。PCR増幅は、100ngのヤロウイア(Yarrowia)ゲノムDNAと、10mM KCl、10mM(NHSO、20mMトリス−HCl(pH8.75)、2mM MgSO、0.1%Triton X−100、100μg/mL BSA(最終濃度)を含有するPCR緩衝液と、各200μMのデオキシリボヌクレオチド三リン酸と、10pmoleの各プライマーと、カリフォルニア州サンディエゴのストラタジーン(Stratagene、San Diego、CA)からの1μLのPfuTurbo DNAポリメラーゼとを含有する50μLの総容積中で実施した。増幅を以下のようにして実施した。95℃で3minの初期変性と、それに続く95℃で1min、56℃で30sec、72℃で2minの35サイクル。72℃で10minの最終延長サイクルと、それに続く4℃での反応終結を実施した。PCR生成物をウィスコンシン州マディソンのプロメガ(Promega(Madison、WI))からのpGEM−Tイージーベクターに挿入し、pGYUMを生成した。
【0231】
オリゴヌクレオチドKI5およびKI3(配列番号50および51)を使用して、ホウセンカ(Impatiens balsama)のコンジュガーゼ遺伝子(または「imp H8」)を含有する1.1kBのDNA断片(配列番号52)(clone ids.pk0001.h8、ウィスコンシン州デラウェアのE.I.デュポン・ドゥ・ヌムール・アンド・カンパニー(E.I.duPont de Nemours & Company,Inc.(Wilmington、DE))をPCR増幅した。10ngのids.pk0001.h8のプラスミドDNAをテンプレートとして使用したこと以外は、上述の構成要素を使用して、50μLの総容積中でPCR増幅を実施した。増幅を以下のようにして実施した。95℃で3minの初期変性と、それに続く95℃で1.5min、56℃で30sec、72℃で1.2minの35サイクル。72℃で10minの最終延長サイクルと、それに続く4℃での反応終結を実施した。PCR生成物をNotIで消化し、次にpY5(図3)のNotI部位に挿入して、pY9を生成した。
【0232】
オリゴヌクレオチドKTI5およびKTI3(配列番号54および55)を使用して、pY9のTEF::IMPH8::XPRキメラ遺伝子を含有する1.7kBのDNA断片(配列番号56)をPCR増幅した。10ngのpGYUMのプラスミドDNAをテンプレートとして使用したこと以外は、上述のようにして、50μLの総容積中でPCR増幅を実施した。増幅を以下のようにして実施した。95℃で3minの初期変性と、それに続く95℃で1min、56℃で30sec、72℃で2minの35サイクル。72℃で10minの最終延長サイクルと、それに続く4℃での反応終結を実施した。PCR生成物をPCR−Script(ストラタジーン(Stratagene))中に挿入して、pY9Rを生成した。pY9Rの1.7kBのXho/EcoRV断片をpGYUMのXhoI/EcoRV断片と交換して、pY21を生成した。
【0233】
プライマーとしてオリゴヌクレオチドKH5およびKH3(配列番号58および59)、テンプレートとしてKS65のゲノムDNAを使用して、大腸菌(E. coli)ハイグロマイシン抵抗性遺伝子(「HPT」、カスター(Kaster)K.R.ら、Nucleic Acids Res.11:6895〜6911(1983))を含有する1kBのDNA断片(配列番号60)をPCR増幅した。10ngのids.pk0001.h8のプラスミドDNAをテンプレートとして使用したこと以外は、上述の構成要素を使用して、50μLの総容積中でPCR増幅を実施した。増幅を以下のようにして実施
した。95℃で3minの初期変性と、それに続く95℃で1min、56℃で30sec、72℃で1.2minの35サイクル。72℃で10minの最終延長サイクルと、それに続く4℃での反応終結を実施した。PCR生成物をNotIで消化し、次にpY5(図3)のNotI部位に挿入して、pTHPT−1を生成した。
【0234】
プライマーとしてオリゴヌクレオチドKTH5およびKTH3(配列番号62および63)、テンプレートとしてpTHPT−1プラスミドDNAを使用して、TEF::HPT::XPR融合遺伝子を含有する1.6kBのDNA断片(配列番号64)を上述のように増幅した。PCR生成物をBglIIで消化して、次にpY21中に挿入してpY24を生成した。
【0235】
pY24−4の構築
ヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)ゲノム中への組み込みに適した発現カセット構築のために、プラスミドpY24(図11)を使用した。pY24プラスミド中のY.リポリティカ(Y.lipolytica)URA3遺伝子からの401bpの5’配列(配列番号66)および568bpの3’配列(配列番号67)を使用して、ヤロウイア(Yarrowia)ゲノムのUra遺伝子座中への発現カセットの組み込みを導いた。BamHIでの消化および自己−ライゲーションによって、2つのキメラ遺伝子(TEF::HPT::XPRおよびTEF::IMPH8::XPR)を最初にpY24から除去し、pY24−1を生成した。YL63/YL64(配列番号68および69)およびYL65/YL66(配列番号70および71)プライマー対をそれぞれ使用して、特異的変異誘発によって、PacIおよびBsiWI部位をpY24−1部位に導入し、pY24−4を生成した。
【0236】
Δ5デサチュラーゼの発現のための組み込みベクターの構築
pYMA5pbの4261bpのPacI/BsiWI断片(M.アルピナ(M.alpina)Δ5デサチュラーゼ遺伝子を含んでなる、実施例2で述べられる)をpY24−4のPacI/BsiWI部位(図11)にライゲーションして、pYZM5(図5)を生成した。プライマー対YL81およびYL82(配列番号74および75)およびYL83およびYL84(配列番号76および77)をそれぞれを使用して、特異的変異誘発によって、HindIIIおよびClaI部位をpYZM5部位に導入し、pYZM5CHを生成した。部位特異的変異誘発によって、YL105およびYL106(配列番号78および79)をプライマーとして使用して、PmeI部位をpYZM5CH中に導入し、pYZM5CHPPを生成した。YL119およびYL120(配列番号80および81)をプライマーとして使用して、特異的変異誘発によってAscI部位をpYZM5CHPP部位に導入し、pYZM5CHPPAを生成した(図5)。
【0237】
組み込みベクターを最適化するために、YL121およびYL122(配列番号82および83)をプライマーとして使用して、ヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia
lipolytica)URA3遺伝子(配列番号84)上流の440bpの5’非コーディングDNA配列をPCRによって増幅した。PCR生成物をAscIおよびBsiWIで消化し、次にpYZM5CHPPAのAscI/BsiWI断片(図5および12)と交換し、pYZM5UPA(図12)を生成した。オリゴヌクレオチドYL114およびYL115(配列番号85および86)を使用して、特異的変異誘発によって、pYZM5UPA部位にAscI部位を導入し、pYZV5を生成した。pYZV5中のURA3遺伝子の3’−非コード領域のサイズを低下させるために、オリゴヌクレオチドYL114およびYL115(上述の)を使用して、部位特異的変異誘発によって、この領域の中央に第2のPacI部位を導入し、pYZV5Pを生成した。PacIでの消化および再ライゲーションによって、pYZV5PのPacI断片を切除し、pYZV16(図12)を生成した。AscIによるpYZV16の消化は、Y.リポリティカ(Y.li
polytica)ゲノム中のΔ5デサチュラーゼ遺伝子(「MAD5」)への組み込みおよび発現に適した、5.2kBのDNA断片(配列番号87)を遊離させる。
【0238】
高親和力エロンガーゼおよびΔ5デサチュラーゼ発現のための組み込みベクターの構築
YL61/YL62(配列番号88および89)およびYL69/YL70(配列番号90および91)プライマー対をそれぞれ使用して、部位特異的変異誘発によって、BsiWIおよびHindIII部位をpY58(M.アルピナ(M.alpina)高親和力PUFAエロンガーゼのコード領域を含有する、実施例2で表される)に導入し、pY58BH(図13、「EL」と標識されるエロンガーゼ遺伝子)を生成した。TEF::EL::XPRキメラ遺伝子を含有する、pY58BHの1.7kBのBsiWI/HindIII断片をpYZM5CHPPのBsiWI/HindIII部位(構造は図5で表される)にライゲーションして、pYZM5EL(図13)を生成した。このプラスミドは、Y.リポリティカ(Y.lipolytica)中のM.アルピナ(M.alpina)Δ5デサチュラーゼおよび高親和力PUFAエロンガーゼ遺伝子の組み込みおよび協調発現に適する。
【0239】
Δ6デサチュラーゼ、高親和力エロンガーゼおよびΔ5デサチュラーゼ発現のための組み込みベクターの構築
YL77/YL78(配列番号92および93)およびYL79A/YL80A(配列番号94および95)プライマー対をそれぞれ使用して、部位特異的変異誘発によって、PacIおよびClaI部位をpY54(M.アルピナ(M.alpina)Δ6デサチュラーゼを含有する、実施例2で表される)に導入し、pY54PC(図13、「MAD6」と標識されたΔ6デサチュラーゼ遺伝子)を生成した。TEF::MAD6::XPRキメラ遺伝子を含有するpY54PCの2kBのClaI/PacIのDNA断片をpYZM5ELのClaI/PacI部位にライゲーションして、pYZM5EL6(図13)を生成した。このプラスミドは、Y.リポリティカ(Y.lipolytica)でのM.アルピナ(M.alpina)Δ6デサチュラーゼ、Δ5デサチュラーゼおよび高親和力PUFAエロンガーゼ遺伝子ゲノムの組み込みおよび協調発現に適する。
【0240】
Δ6デサチュラーゼ、PUFAエロンガーゼおよびΔ5デサチュラーゼの発現のためにヤロウイア(Yarrowia)ゲノム中に組み込むのに適したDNA断片の構築
プラスミドpYZV16(構造は図12で表される)は、複数の発現カセットを含有するプラスミド構築のために使用された。
【0241】
最初にpYZV16の3.5kBのBsiWI/PacI断片をpYZM5EL6(構造は図13で表される)の7.9kBのBsiWI/PacI断片にライゲーションして、pYZV5EL6(図14)を生成した。AscIでのpYZV5EL6の消化によって、Y.リポリティカ(Y.lipolytica)ゲノム中のΔ6デサチュラーゼ、PUFAエロンガーゼおよびΔ5デサチュラーゼ遺伝子の組み込みおよび協調発現に適する、8.9kBのDNA断片(配列番号96)が遊離された。
【0242】
Δ6デサチュラーゼ、PUFAエロンガーゼ、Δ5デサチュラーゼ、およびΔ17デサチュラーゼの発現のためにヤロウイア(Yarrowia)ゲノムへの組み込むのに適したDNA断片の構築
実施例3で述べられるように、合成S.ディクリナ(S.diclina)Δ17デサチュラーゼ遺伝子をpY5−13のNcoI/NotI部位に挿入してpYSD17S(図9A)を生成した。YL101/YL102(配列番号97および98)およびYL103/YL104(配列番号99および100)プライマー対をそれぞれ使用して、部位特異的変異誘発によってClaIおよびPmeI部位をpYSD17Sに導入し、pYSD17SPCを生成した(図14)。
【0243】
pYZV5EL6の(図14)の347bpのClaI/PmeI断片をΔ17デサチュラーゼ発現カセットを含有するpYSD17SPCからの1760bp ClaI/PmeI断片と交換して、pYZV5E6/17を生成した。AscIでのpYZV5E6/17の消化により、Y.リポリティカ(Y.lipolytica)ゲノム中におけるΔ6デサチュラーゼ、PUFAエロンガーゼ、Δ5デサチュラーゼ、およびΔ17デサチュラーゼ遺伝子の組み込みおよび協調発現に適する10.3kBのDNA断片(配列番号101)が遊離された。
【0244】
実施例5
ヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)形質転換体中のω−6脂肪酸の生合成
実施例2で述べられる方法に従って、pYZV5EL6(実施例4から、Δ6デサチュラーゼ、PUFAエロンガーゼ、およびΔ5デサチュラーゼ遺伝子を含有する)をAscI制限エンドヌクレアーゼで消化して、ヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)に形質転換した。
【0245】
ロイシン欠乏最少培地上で選択した52の形質転換体の内、34はウラシルもまた欠如している培地上では生育できず、65%の形質転換体が、標的ヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)URA3遺伝子座中に組み込まれた8.9kBの多遺伝子発現カセットを含有することが示唆された。単一コロニーからの形質転換体をロイシン欠乏最少培地に接種して、30℃で48時間まで培養した。
【0246】
細胞を遠心分離して収集し、脂質を抽出して脂肪酸メチルエステルをエステル交換反応によって調製し、引き続きヒューレットパッカード(Hewlett−Packard)6890 GCで分析した(一般方法で述べられる方法に従った)。
【0247】
GC分析は、3個のキメラ遺伝子(図15)を含有する形質転換体中のアラキドン酸(ARA)の存在を示したが、野生型ヤロウイア(Yarrowia)対照株には示されなかった。これらのデータはヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)が遺伝子操作されて、ω−6脂肪酸であるARAを生成したことを確証した。
【0248】
実施例6
ヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)形質転換体中のω−3脂肪酸の生合成
実施例5と同様にして、pYZV5E6/17(実施例4から、Δ6デサチュラーゼ、PUFAエロンガーゼ、Δ5デサチュラーゼ、およびΔ17デサチュラーゼを含有する)をAscI制限エンドヌクレアーゼで消化して、ヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)(ATCC番号76982)に形質転換した。ロイシン欠乏最少培地上で選択した133の形質転換体の内、89はウラシルもまた欠如している培地上では生育できず、67%の形質転換体が、標的ヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)URA3遺伝子座中に組み込まれた10.3kB 多遺伝子発現カセットを含有することが示唆された。
【0249】
GC分析(一般方法で述べられる方法に従った)は、4個のキメラ遺伝子(図16)を含有する形質転換体中のエイコサペンタエン酸(EPA)の存在を示したが、野生型ヤロウイア(Yarrowia)対照株中には示されなかった。これらのデータはヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)が遺伝子操作されて、ω−3脂肪酸であるEPAを生成したことを確証した。
【図面の簡単な説明】
【0250】
【図1】油性酵母菌における脂質蓄積のための生化学的機序の概略図を示す。
【図2】ω−3/ω−6脂肪酸の生合成経路を図示する。
【図3】ヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)中での遺伝子発現のためのプラスミドベクターpY5の構築を図示する。
【図4】Y.リポリティカ(Y.lipolytica)中での遺伝子発現のためのプラスミドベクターpY5−4およびpY5−13の構築を図示する。
【図5】中間ベクターpYZM5CHPPAの構築の概略図である。
【図6】サプロレグニア・ディクリナ(Saprolegnia diclina)Δ17デサチュラーゼ遺伝子のDNA配列と、Y.リポリティカ(Y.lipolytica)における発現に最適化された合成遺伝子コドンとの比較を示す。
【図7】Y.リポリティカ(Y.lipolytica)中の翻訳開始コドン「ATG」周囲の好まれる共通配列を図示する。
【図8】コドン−最適化Δ17デサチュラーゼ遺伝子の生体外(in vitro)合成のために用いられるストラテジーを図示する。
【図9】Y.リポリティカ(Y.lipolytica)中の合成コドン−最適化および野生型Δ17デサチュラーゼ遺伝子発現のためのプラスミドを示す。
【図10A】野生型Δ17デサチュラーゼ遺伝子で形質転換されたY.リポリティカ(Y.lipolytica)中で生成された脂肪酸のガスクロマトグラフィーの分析の結果を示す。
【図10B】合成コドン最適化Δ17デサチュラーゼ遺伝子で形質転換されたY.リポリティカ(Y.lipolytica)中で生成された脂肪酸のガスクロマトグラフィーの分析の結果を示す。
【図11】中間ベクターpY24−4の構築の概略図である。
【図12】中間ベクターpYZV16の構築の概略図である。
【図13】組み込みベクターpYZM5EL6の構築の概略図である。
【図14】組み込みベクターpYZV5EL6およびpYZV5EL6/17の構築の概略図である。
【図15】遺伝子操作されたY.リポリティカ(Y.lipolytica)からのARA生成を図示するクロマトグラムである。
【図16】遺伝子操作されたY.リポリティカ(Y.lipolytica)からのEPA生成を図示するクロマトグラムである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)機能的なω−3/ω−6脂肪酸生合成経路をコードする遺伝子を含んでなる油性酵母菌を準備し、
b)ステップ(a)の酵母菌を発酵可能な炭素源の存在下で生育させ、これにより1種もしくはそれ以上のω−3またはω−6脂肪酸を生成せしめ、
c)場合により、ω−3またはω−6脂肪酸を回収すること
を含んでなるω−3またはω−6脂肪酸の製造方法。
【請求項2】
機能的なω−3/ω−6脂肪酸生合成経路をコードする遺伝子が、Δ12デサチュラーゼ、Δ6デサチュラーゼ、エロンガーゼ、Δ5デサチュラーゼ、Δ17デサチュラーゼ、Δ15デサチュラーゼ、Δ9デサチュラーゼ、およびΔ4デサチュラーゼよりなる群から選択される請求項1に記載の方法。
【請求項3】
発酵可能な炭素源が、単糖類、少糖類、多糖類、モノグリセリド、ジグリセリド、トリグリセリド、メタノールおよび炭素含有アミンよりなる群から選択される請求項1に記載の方法。
【請求項4】
油性酵母菌が、ヤロウイア属(Yarrowia)、カンジダ属(Candida)、ロドトルラ属(Rhodotorula)、ロドスポリジウム属(Rhodosporidium)、クリプトコッカス属(Cryptococcus)、トリコスポロン属(Trichosporon)およびリポマイセス属(Lipomyces)よりなる群から選択される請求項1に記載の方法。
【請求項5】
油性酵母菌がヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)である請求項4に記載の方法。
【請求項6】
a)(i)Δ12デサチュラーゼポリペプチドをコードする遺伝子、および
(ii)オレイン酸からなるデサチュラーゼ基質の供給源
を含んでなる油性酵母菌を準備し、
b)ステップ(a)の酵母菌を適切な炭素源の存在下で生育させ、Δ12デサチュラーゼポリペプチドをコードする遺伝子を発現させそしてオレイン酸をリノール酸に変換させ、
c)場合により、ステップ(b)のリノール酸を回収すること
を含んでなるリノール酸の生成方法。
【請求項7】
a)(i)Δ6デサチュラーゼポリペプチドをコードする遺伝子、および
(ii)リノール酸からなるデサチュラーゼ基質の供給源
を含んでなる油性酵母菌を準備し、
b)ステップ(a)の酵母菌を適切な炭素源の存在下で生育させて、Δ6デサチュラーゼポリペプチドをコードする遺伝子を発現させそしてリノール酸をγ−リノレン酸に変換させ、
c)場合により、ステップ(b)のγ−リノレン酸を回収すること
を含んでなるγ−リノレン酸の製造方法。
【請求項8】
a)(i)Δ6デサチュラーゼポリペプチドをコードする遺伝子、および
(ii)α−リノール酸からなるデサチュラーゼ基質の供給源
を含んでなる油性酵母菌を準備し、
b)ステップ(a)の酵母菌を適切な発酵可能な炭素基質の存在下で生育させて、Δ6デサチュラーゼポリペプチドをコードする遺伝子を発現させそしてα−リノール酸がステ
アリドン酸に変換させ、
c)場合により、ステップ(b)のステアリドン酸を回収すること
を含んでなるステアリドン酸の製造方法。
【請求項9】
a)(i)Δ15デサチュラーゼポリペプチドをコードする遺伝子、および
(ii)リノール酸からなるデサチュラーゼ基質の供給源
を含んでなる油性酵母菌を準備し、
b)ステップ(a)の酵母菌を適切な発酵可能な炭素源の存在下で生育させて、Δ15デサチュラーゼポリペプチドをコードする遺伝子を発現させそしてリノール酸をα−リノール酸に変換させ、
c)場合により、ステップ(b)のα−リノール酸を回収すること
を含んでなるα−リノール酸の製造方法。
【請求項10】
a)(i)C18/20エロンガーゼポリペプチドをコードする遺伝子、および
(ii)γ−リノレン酸からなるエロンガーゼ基質の供給源
を含んでなる油性酵母菌を準備し、
b)ステップ(a)の酵母菌を適切な発酵可能な炭素源の存在下で生育させて、エロンガーゼポリペプチドをコードする遺伝子を発現させそしてγ−リノレン酸をジホモ−γ−リノール酸に変換させ、
c)場合により、ステップ(b)のジホモ−γ−リノール酸を回収すること
を含んでなるジホモ−γ−リノール酸の製造方法。
【請求項11】
a)(i)C18/20エロンガーゼポリペプチドをコードする遺伝子、および
(ii)ステアリドン酸からなるエロンガーゼ基質の供給源
を含んでなる油性酵母菌を準備し、
b)ステップ(a)の酵母菌を適切な発酵可能な炭素源の存在下で生育させて、エロンガーゼポリペプチドをコードする遺伝子を発現させそしてステアリドン酸をエイコサテトラエン酸に変換させ、
c)場合により、ステップ(b)のエイコサテトラエン酸を回収すること
を含んでなるエイコサテトラエン酸の製造方法。
【請求項12】
a)(i)C20/22エロンガーゼポリペプチドをコードする遺伝子、および
(ii)エイコサペンタエン酸からなるエロンガーゼ基質の供給源
を含んでなる油性酵母菌を準備し、
b)ステップ(a)の酵母菌を適切な発酵可能な炭素源の存在下で生育させて、エロンガーゼポリペプチドをコードする遺伝子を発現させそしてエイコサペンタエン酸をドコサペンタエン酸に変換させ、
c)場合により、ステップ(b)のドコサペンタエン酸を回収すること
を含んでなるドコサペンタエン酸の製造方法。
【請求項13】
a)(i)Δ5デサチュラーゼポリペプチドをコードする遺伝子、および
(ii)ジホモ−γ−リノール酸からなるデサチュラーゼ基質の供給源
を含んでなる油性酵母菌を準備し、
b)ステップ(a)の酵母菌を適切な発酵可能な炭素源の存在下で生育させて、Δ5デサチュラーゼポリペプチドをコードする遺伝子を発現させそしてジホモ−γ−リノール酸をアラキドン酸に変換させ、
c)場合により、ステップ(b)のアラキドン酸を回収すること
を含んでなるアラキドン酸の製造方法。
【請求項14】
a)(i)Δ5デサチュラーゼポリペプチドをコードする遺伝子、および
(ii)エイコサテトラエン酸からなるデサチュラーゼ基質の供給源
を含んでなる油性酵母菌を準備し、
b)ステップ(a)の酵母菌を適切な発酵可能な炭素源の存在下で生育させて、Δ5デサチュラーゼポリペプチドをコードする遺伝子を発現させそしてエイコサテトラエン酸をエイコサペンタエン酸に変換させ、
c)場合により、ステップ(b)のエイコサペンタエン酸を回収すること
を含んでなるエイコサペンタエン酸の生成方法。
【請求項15】
a)(i)Δ4デサチュラーゼポリペプチドをコードする遺伝子、および
(ii)ドコサペンタエン酸からなるデサチュラーゼ基質の供給源
を含んでなる油性酵母菌を準備し、
b)ステップ(a)の酵母菌を適切な発酵可能な炭素源の存在下で生育させて、Δ4デサチュラーゼポリペプチドをコードする遺伝子を発現させそしてドコサペンタエン酸をドコサヘキサエン酸に変換させ、
c)場合により、ステップ(b)のドコサヘキサエン酸を回収すること
を含んでなるドコサヘキサエン酸の製造方法。
【請求項16】
a)(i)Δ17デサチュラーゼポリペプチドをコードする遺伝子、および
(ii)ジホモ−γ−リノール酸からなるデサチュラーゼ基質の供給源
を含んでなる油性酵母菌を準備し、
b)ステップ(a)の酵母菌を適切な発酵可能な炭素源の存在下で生育させて、Δ17デサチュラーゼポリペプチドをコードする遺伝子を発現させそしてジホモ−γ−リノール酸をエイコサテトラエン酸に変換させ、
c)場合により、ステップ(b)のエイコサテトラエン酸を回収すること
を含んでなるエイコサテトラエン酸の製造方法。
【請求項17】
a)(i)Δ17デサチュラーゼポリペプチドをコードする遺伝子、および
(ii)アラキドン酸からなるデサチュラーゼ基質の供給源
を含んでなる油性酵母菌を準備し、
b)ステップ(a)の酵母菌を適切な発酵可能な炭素源の存在下で生育させて、Δ17デサチュラーゼポリペプチドをコードする遺伝子を発現させそしてアラキドン酸をエイコサペンタエン酸に変換させ、
c)場合により、ステップ(b)のエイコサペンタエン酸を回収すること
を含んでなるエイコサペンタエン酸の製造方法。
【請求項18】
デサチュラーゼまたはエロンガーゼ基質の供給源が、油性酵母菌に内在性である請求項6〜17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
デサチュラーゼまたはエロンガーゼ基質の供給源が、油性酵母菌に外来性である請求項6〜17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
油性酵母菌が、ヤロウイア属(Yarrowia)、カンジダ属(Candida)、ロドトルラ属(Rhodotorula)、ロドスポリジウム属(Rhodosporidium)、クリプトコッカス属(Cryptococcus)、トリコスポロン属(Trichosporon)およびリポマイセス属(Lipomyces)よりなる群から選択される請求項6〜17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
油性酵母菌がヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)である請求項20に記載の方法。
【請求項22】
Δ6デサチュラーゼポリペプチドをコードする遺伝子が、
(a)配列番号2に記載のアミノ酸配列をコードする単離された核酸分子、および
(b)0.1×SSC、0.1%SDS、65℃、2×SSC、0.1%SDSで洗浄後、0.1×SSC、0.1%SDSのハイブリダイゼーション条件下で(a)とハイブリダイズする単離された核酸分子
よりなる群から選択される請求項7または8のいずれかに記載の方法。
【請求項23】
エロンガーゼポリペプチドをコードする遺伝子が、
(a)配列番号8に記載のアミノ酸配列をコードする単離された核酸分子、および
(b)0.1×SSC、0.1%SDS、65℃、2×SSC、0.1%SDSで洗浄後、0.1×SSC、0.1%SDSのハイブリダイゼーション条件下で(a)とハイブリダイズする単離された核酸分子
よりなる群から選択される請求項10、11および12のいずれかに記載の方法。
【請求項24】
Δ5デサチュラーゼポリペプチドをコードする遺伝子が、
(a)配列番号4、配列番号115、配列番号119、および配列番号123よりなる群から選択されるアミノ酸配列をコードする単離された核酸分子、
(b)0.1×SSC、0.1%SDS、65℃、2×SSC、0.1%SDSで洗浄後、0.1×SSC、0.1%SDSのハイブリダイゼーション条件下で(a)とハイブリダイズする単離された核酸分子
よりなる群から選択される請求項13または14のいずれかに記載の方法。
【請求項25】
Δ17デサチュラーゼポリペプチドをコードする遺伝子が、
(a)配列番号6に記載のアミノ酸配列をコードする単離された核酸分子、および
(b)0.1×SSC、0.1%SDS、65℃、2×SSC、0.1%SDSで洗浄後、0.1×SSC、0.1%SDSのハイブリダイゼーション条件下で(a)とハイブリダイズする単離された核酸分子
よりなる群から選択される請求項16または17のいずれかに記載の方法。
【請求項26】
宿主細胞が、ヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)ATCC番号20362、ヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)ATCC番号8862、ヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)ATCC番号18944、ヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)ATCC番号76982およびヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)LGAMS(7)1よりなる群から選択される請求項5または21のいずれかに記載の方法。
【請求項27】
a)(i)ω−3/ω−6脂肪酸生合成経路中の酵素をコードする遺伝子、および
(ii)オレイン酸の内在性供給源
を含んでなる油性酵母菌を準備し、
b)ステップ(a)の酵母菌を適切な発酵可能な炭素源の存在下で生育させて、ω−3/ω−6脂肪酸生合成経路中の酵素をコードする遺伝子を発現させそしてオレイン酸をエイコサペンタエン酸に変換させ、
c)場合により、ステップ(b)のエイコサペンタエン酸を回収すること
を含んでなるエイコサペンタエン酸の製造方法。
【請求項28】
a)(i)ω−3/ω−6脂肪酸生合成経路中の酵素をコードする遺伝子、および
(ii)オレイン酸の内在性供給源
を含んでなる油性酵母菌を準備し、
b)ステップ(a)の酵母菌を適切な発酵可能な炭素源の存在下で生育させて、ω−3
/ω−6脂肪酸生合成経路中の酵素をコードする遺伝子を発現させそしてオレイン酸をドコサヘキサエン酸に変換させ、
c)場合により、ステップ(b)のドコサヘキサエン酸を回収すること
を含んでなるドコサヘキサエン酸の製造方法。
【請求項29】
ω−3/ω−6脂肪酸生合成経路の酵素をコードする遺伝子を含んでなる形質転換された油性酵母菌。
【請求項30】
ヤロウイア属(Yarrowia)、カンジダ属(Candida)、ロドトルラ属(Rhodotorula)、ロドスポリジウム属(Rhodosporidium)、クリプトコッカス属(Cryptococcus)、トリコスポロン属(Trichosporon)およびリポマイセス属(Lipomyces)よりなる群から選択される請求項29に記載の油性酵母菌。
【請求項31】
酵母菌がヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)である請求項30に記載の油性酵母菌。
【請求項32】
請求項1〜28のいずれか一項に記載の方法によって製造される微生物油。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6A】
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【図6A】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公表番号】特表2007−504839(P2007−504839A)
【公表日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−532907(P2006−532907)
【出願日】平成16年5月7日(2004.5.7)
【国際出願番号】PCT/US2004/014541
【国際公開番号】WO2004/101757
【国際公開日】平成16年11月25日(2004.11.25)
【出願人】(390023674)イー・アイ・デュポン・ドウ・ヌムール・アンド・カンパニー (2,692)
【氏名又は名称原語表記】E.I.DU PONT DE NEMOURS AND COMPANY
【Fターム(参考)】