説明

油水系エマルジョン液の油分除去方法およびそのための油分除去剤

【課題】
切削油、圧延油、水性塗料、コンプレッサーのドレン水、食品加工、油輸送タンカーのバラスト水、船舶のビルジ水、石油や天然ガスの採掘などから大量に発生し、環境汚染の一因となっている水中に油分が微粒子分散した油水系エマルジョン液から、簡便かつ安価に油分の除去ができる処理方法および処理剤を提供する。
【解決手段】
油水系エマルジョン液に対して、脂質を付着させた乾燥菌体と、硫酸アルミニウム、高分子凝集剤の何れか一つ以上を添加し、酸性下で添加混合攪拌することにより、簡便かつ安価に油水系エマルジョン液中の油分を除去処理することが可能になる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油分と水分からなる油水系エマルジョン液の油分除去方法および油分除去剤に関する。即ち、詳しくは、油水系エマルジョン液に脂質を付着させた乾燥菌体と、硫酸アルミニウム、高分子凝集剤の何れか一つ以上を加え、酸性条件下で攪拌混合した後、処理液中に含まれる不溶物を固液分離することによって油分の除去を行うことを特徴とする、油水系エマルジョン液からの油分除去方法、およびそのために使用する、脂質を付着させた乾燥菌体と、硫酸アルミニウム、高分子凝集剤の何れか一つ以上を含む組成物からなる油水系エマルジョン液からの油分除去剤に関する。これらの、油水系エマルジョン液に含まれる油分の除去方法、およびそのための油分除去剤は、原油等の漏出による海洋汚染や、難溶性の汚染化学物質等を除去する手段として極めて重要である。
【背景技術】
【0002】
水中に油分が微粒子分散した油水系エマルジョン液は、切削油、圧延油、水性塗料、コンプレッサーのドレン水、食品加工、油輸送タンカーのバラスト水、船舶のビルジ水、さらには、石油や天然ガスの採掘に伴って発生する涌水などから、大量に発生し、環境汚染の一因となっており、その簡便かつ安価で効果的な処理技術が求められてきた。
【0003】
従来、このようなエマルジョン液の処理方法としては、(1)燃焼炉で消却処理する方法(例えば、特許文献1参照)、(2)蒸発濃縮する方法(例えば、特許文献2参照)、(3)電気分解処理する方法(例えば、特許文献3参照)、(4)加熱処理する方法(例えば、特許文献4参照)、(5)濾過する方法(例えば、特許文献5参照)、(6)貝殻を使用する方法(例えば、特許文献6参照)、(7)pH調整とラムノリピッドを使用する方法(例えば、特許文献7参照)、(8)ある種の微生物を使用する方法(例えば、特許文献8参照)、(9)微生物が産生する高分子物質を使用する方法(例えば、特許文献9参照)、(10)タンニン酸を使用する方法(例えば、特許文献10参照)等がある。
【0004】
しかし、これらの方法は何れの方法も完全な方法とは言い難く、より良い油水系エマルジョン液の処理方法および処理剤の開発が望まれている。
例えば、(1)の燃焼炉で消却処理する方法では、焼却炉などの設備が必要な他、燃焼ガスの処理設備など、設備が大型かつ重量の大きな物になり、小型の船舶などへ搭載することが難しい問題がある。
(2)の蒸発濃縮する方法では、濃縮装置などの設備、濃縮に要する多大なエネルギーが必要となり、さらに濃縮後の廃油処理が別途必要となる問題がある。
(3)の電気分解処理する方法では、電気分解装置などの設備、大量の電力が必要となり、さらに分離した油分の処理が別途必要となる問題がある。
(4)の加熱処理する方法では、加熱に多大なエネルギーを必要とする他、油水が分離するのに時間がかかり、さらに分離後の廃油の処理が別途必要となる問題がある。
(5)の濾過する方法では、高濃度のエマルジョン液の処理が難しい他、さらに分離後の廃油の処理が別途必要となる問題がある。
(6)の貝殻を使用する方法では、分離後の廃油処理が別途必要となる問題がある。
(7)のpH調整とラムノリピッドを使用する方法では、ラムノリピッドを含有しないエマルジョン液の場合は、ラムノリピッドを改めて添加する必要がある他、さらに分離後の廃油の処理が別途必要となる問題がある。
(8)のある種の微生物を使用する方法では、ある種の微生物をあらかじめ培養する必要がある。また、培養後の微生物を保存する場合には、腐敗防止処置が必要な他、分離後の廃油の処理が別途必要となる問題がある。
(9)の微生物が産生する新規高分子物質を使用する方法では、当該微生物を培養し、産生する新規高分子物質を調製する必要がある他、分離後の廃油の処理が別途必要となるであること等の問題がある。
(10)のタンニン酸を使用する方法では、分離後の廃油の処理が別途必要であること等の問題がある。
【0005】
何れにせよ、従来のこれら技術は、油水系エマルジョン液の処理方法や処理剤として、未だ満足できるものではない。
【0006】
【特許文献1】特公平4−21090号公報
【特許文献2】特許第2584707号公報
【特許文献3】特公平7−22650号公報
【特許文献4】特開昭60−135493号公報
【特許文献5】特開2004−223348号公報
【特許文献6】特許第3568932号公報
【特許文献7】特許第2979140号公報
【特許文献8】特開平9−173704号公報
【特許文献9】特許第3086880号公報
【特許文献10】特開平10−216739号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、切削油、圧延油、水性塗料、コンプレッサーのドレン水、食品加工、油輸送タンカーのバラスト水、船舶のビルジ水、さらには、石油や天然ガスの採掘などから、大量に発生し、環境汚染の一因となっている、水中に油分が微粒子分散した油水系エマルジョン液の、簡易かつ安価な処理技術を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記の問題を解決すべく、鋭意検討を行った結果、油水系エマルジョン液に対して、従来から知られている、エマルジョン液pHを下げることによるエマルジョンブレイク操作を行いながら、さらに、脂質を付着させた乾燥菌体と、硫酸アルミニウム、高分子凝集剤の何れか一つ以上を加えて攪拌混合した後、処理液中に存在する不溶物を固液分離することによって、非常に簡便かつ安価で効果的に油水系エマルジョン液の油分除去が可能になることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
即ち、本発明は以下の(1)〜(13)に示す、油水系エマルジョン中に含まれる油分の効率的に優れた分離除去方法およびそのための処理剤に関する。
(1)油水系エマルジョン液中の油分を分離除去する方法において、油水系エマルジョン液に脂質を付着させた乾燥菌体と、硫酸アルミニウム、高分子凝集剤の何れか一つ以上を加え、酸性条件下で攪拌混合した後、該混合液中に含まれる不溶物を固液分離することによって油分の除去を行うことを特徴とする、油水系エマルジョン液からの油分除去方法。
(2)脂質を付着させた乾燥菌体が、脱脂した菌体に脂質を付着させ乾燥させたものである、(1)に記載の油水系エマルジョン液からの油分除去方法。
(3)脂質が、脱脂した菌体自身より抽出された脂質である、(2)に記載の油水系エマルジョン液からの油分除去方法。
(4)pH1〜5の酸性条件下で攪拌混合する、(1)に記載の油水系エマルジョン液からの油分除去方法。
(5)脂質を付着させた乾燥菌体を、油水系エマルジョン液中の油分重量に対して1〜25倍量加える、(1)に記載の油水系エマルジョン液からの油分除去方法。
(6)硫酸アルミニウムを、油水系エマルジョン液に対して0.01〜10重量%加える、(1)に記載の油水系エマルジョン液からの油分除去方法。
(7)高分子凝集剤を、油水系エマルジョン液に対して1〜500ppm加える、(1)に記載の油水系エマルジョン液からの油分除去方法。
(8)高分子凝集剤の平均粒子径が10〜100μmである、(1)に記載の油水系エマルジョン液からの油分除去方法。
(9)高分子凝集剤がカチオン系高分子凝集剤である、(1)に記載の油水系エマルジョン液からの油分除去方法。
(10)カチオン系高分子凝集剤がジメチルアミノエチルメタアクリレート系またはジメチルアミノエチルアクリレート系である、(9)に記載の油水系エマルジョン液からの油分除去方法。
(11)(1)に記載の油水系エマルジョン液からの油分除去方法に用いる、脂質を付着させた乾燥菌体と、硫酸アルミニウム、高分子凝集剤の何れか一つ以上を含む油分除去剤。
(12)硫酸アルミニウムを1〜50重量%含む、(11)に記載の油分除去剤。
(13)高分子凝集剤を0.05〜10重量%含む、(11)に記載の油分除去剤。
【発明の効果】
【0010】
本発明の油分除去方法および油分除去剤を使用すれば、各種の油水系エマルジョン液に含まれる油分を簡便かつ安価で効果的に除去できるので、産業上極めて有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の油水系エマルジョン液の油分除去方法および油分除去剤で処理できるエマルジョン液は、油分と水分とを含み、お互いに混ざり合わない二液相間で、一方が他方の相に微粒子状に分散しているコロイド分散系の物を含んでいるものであれば良く、例えば、油中水滴型エマルジョンであっても、水中油滴型エマルジョンであって良く、さらには、界面活性剤が介在してもしなくても良い。
【0012】
本発明の油水系エマルジョン液の油分除去方法および除去剤で使用する脂質を付着させた乾燥菌体の菌体は、各種培養で得られるバクテリアや酵母等の微生物菌体や、活性汚泥から得られる微生物菌体が好適に使用できる。各種培養に使用する微生物種に特に制限はないが、例えば、アクロモバクター属(Achromobacter)、アルカリゲネス属(Alcaligenes)、オクロバクトラム属(Ochrobactrum)、クリプトコッカス属(Cryptococcus)、クルチア属(Kurthia)、サッカロミセス属(Saccharomyces)、シュードモナス属(Pseudomonas)、スタフィロコッカス属(Staphylococcus)、セラチア属(Serratia)、チオバチルス属(Thiobacillus)、バクテリジウム属(Bacteridium)、パチソレン属(Pachysolen)、バチルス属(Bacillus)、フラボバクテリウム属(Flavobacterium)、ブレビバクテリウム属(Brevibacterium)、プロタモノバクター属(Protamnobacter)、ミクロコッカス属(Micrococcus)、ミコバクテリウム属(Mycobacterium)、ミコプラーナ属(Mycoplana)、メタノモナス属(Metanomonas)、ロツデロマイセス属(Lodderomyces)、ロドコッカス属(Rhodococcus)、ロドシュードモナス属(Rhodopseudomonas)、またはロドスポリジウム属(Rhodosporidium)等から選ばれる微生物が挙げられる。
【0013】
これらの菌体からなる坦体として、あらかじめ有機溶媒で抽出脱脂した物を用いることで、油分の吸着作用を増強することもできる。つまり、上記される菌体を有機溶媒で脱脂した後、脂質、例えば培養した微生物菌体や活性汚泥、場合よってはこれら自身から抽出した脂質、例えば、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルセリン等のリン脂質を多く含む脂質を添加し乾燥付着させた物が好ましい。
【0014】
これらの微生物菌体や活性汚泥から脱脂する方法としては、一般的に用いられる有機溶媒による抽出方法が使用できる。使用する有機溶媒の種類に特に制限はないが、メタノール、エタノール等のアルコール系溶媒、アセトンやメチルエチルケトン等のケトン系溶媒、あるいはこれらの混合溶媒が好適に使用できる。また、抽出時にこれらの有機溶媒に0.5〜10重量%、好ましくは1〜5重量%の水を添加することにより、油分吸着力の強化に効果的な脂質をより良く抽出することができる。
【0015】
担体である菌体に付着させる脂質としては、上記した微生物由来の脂質の他に、例えば、サフラワー油、大豆油、菜種油、パーム油、パーム核油、綿実油、ヤシ油、米糠油、ゴマ油、ヒマシ油、亜麻仁油、オリーブ油、桐油、椿油、落花生油、カポック油、カカオ油、木蝋、ヒマワリ油、コーン油または大豆レシチン等の植物性脂質、イワシ油、ニシン油、イカ油またはサンマ油等の魚由来の脂質、さらに、肝油、鯨油、牛脂、馬油、豚油、羊油、鶏油または卵黄レシチン等の動物性脂質、パルミチン酸やステアリン酸などの脂肪酸等から抽出した脂質またはそれらを精製したものが使用できる。
【0016】
担体である菌体に油脂を付着させる方法としては、脂質を加熱溶解して菌体と混合し乾燥する方法や、脂質を溶媒に溶解して菌体と混合した後に乾燥する方法や、脂質を溶媒に加熱溶解して菌体と混合した後に乾燥する方法や、菌体をあらかじめ溶媒で湿潤させた後に、溶媒に溶解した脂質を混合しその後乾燥する方法や、菌体をあらかじめ溶媒で湿潤させた後に、溶媒に加熱して溶解した脂質を混合しその後乾燥する方法等があるが、これに限定される物ではない。混合および乾燥方法は既存の装置で可能であり、実験室のロータリーエバポレーターや乾燥機のようなものから、大型装置のスプレードライヤーやパドルドライヤー等が使用でき、操作も回分または連続の何れもが適用できる。乾燥温度に特に制限は無いが、菌体および付着させた脂質が変質しない温度以下とすることが好ましい。

このようにして調製した脂質を付着させた乾燥菌体の添加量は、油水エマルジョン液中の油分重量に対して、1〜25倍量添加することが望ましく、さらには、1.5〜10倍量添加することがより望ましい。1倍量を下回ると十分な油分除去効果が得られず、25倍量を上回る場合は単に発生スラッジ量が過大になるだけで不経済である。
【0017】
一方、酸性条件下で攪拌混合するために油水系エマルジョン液のpHを下げる方法には特に制限はなく、廃水処理に通常使用される塩酸や硫酸などの鉱酸が好適に使用できる。調整するpHは1〜5の範囲が好ましく、pH1を下回る場合は使用する酸が過大となるだけで不経済であり、pH5を上回る場合は水と油分との分離性が低下するので好ましくない。
【0018】
このような処理条件で油分を吸着した脂質付着乾燥菌体の凝集化を促進するため、処理液に硫酸アルミニウムを添加することが好ましい。用いる硫酸アルミニウムとしては市場より入手できる通常の粉末状の硫酸アルミニウムでよい。
硫酸アルミニウムを使用する場合は、油水系エマルジョン液に対して、0.01〜10重量%、好ましくは0.05〜5重量%添加することが望ましい。添加量が0.01重量%を下回る場合は、十分な油水分離状態が得られず、10重量%を上回る場合は生成フロックの凝集状態や沈降状態等がかえって悪くなるので好ましくない。
【0019】
使用する高分子凝集剤としては、ノニオン性、弱アニオン性、中アニオン性、強アニオン性、弱カチオン性、中カチオン性または強カチオン性の高分子凝集剤を用いることもできるが、特に凝集フロックの沈降速度の観点から、強カチオン性の高分子凝集剤、例えばメチルアミノエチルメタアクリレート系またはジメチルアミノエチルアクリレート系の高分子凝集剤が好適に使用できる。添加する高分子凝集剤の量としては。油水系エマルジョン液に対して、1〜500ppm、好ましくは5〜500ppmの範囲が望ましい。添加量が1ppmを下回る場合は十分な凝集沈降効果が得られず、500ppmを超えると凝集沈降したフロックがかえって嵩高となり凝集性が悪化する傾向が認められるようになるので好ましくない。
なお、一般的に高分子凝集剤は吸湿性が高い物が多いため、互いに付着して大粒径となり用事に溶解しにくくなる場合があるので、密閉系で粉砕できる高速カッターミルや、乾燥空気下で使用できるピンミル、ジェットミルなどを用いて微粉砕しておくことが好ましい。例えば、アロンフロックC−508を使用した場合は、粉砕後の平均粒径が、10〜100μmで良好な結果が得られる。
【0020】
さらには、油分除去剤として、あらかじめ脂質を付着させた乾燥菌体と、硫酸アルミニウム、高分子凝集剤の何れか一つ以上を配合した組成物を調製し用いることによって、油水系エマルジョンへの添加操作数を減らすことができるので好ましい。なお各成分の組成比率は対象となる油水系エマルジョン液の性状や液量に従って適宜決めればよいが、例えば、脂質を付着させた乾燥菌体に加えて、硫酸アルミニウムを1〜50重量%、高分子凝集剤を0.05〜10重量%含む組成物を挙げることができる
【実施例】
【0021】
以下、実施例および比較例をもって本発明をより具体的に説明する。なお、本発明はこれらの例にのみ限定されるものではない。
【0022】
実施例1
油分分離性と油水系エマルジョン液のpHとの関係
油分の分離除去効果に対する油水系エマルジョン液のpHの影響を検討した。
1.A重油エマルジョン液の調製
ファイバーミキサー(MX−X103、松下電器産業製)に純水500gと界面活性剤(ヤシノミ洗剤レギュラー、サラヤ製)0.5gを添加し5秒間撹拌した。次いで、これにA重油1.0gを添加し、さらに60秒間撹拌してA重油エマルジョン液(pH6.0)を調製した。A重油エマルジョン液は、試験毎にその都度60秒間再攪拌し、直ちに使用した。なお、サラヤ製のヤシノミ洗剤レギュラーの内容物は、界面活性剤(アニオン系界面活性剤のアルキルエーテル硫酸エステルナトリウムとノニオン系界面活性剤の脂肪酸アルカノールアミドの混合物)16%を含むものである。
2.脂質を付着させた乾燥菌体の調製
培養バクテリア(シュードモナス フルオレッセンス)の乾燥菌体10gに、メタノール、アセトンおよび水(重量組成比100:10:10)からなる脱脂用溶媒50gを添加し、50℃で1時間振盪抽出した。この抽出処理液を、浴温80℃、減圧下にて、ロータリーエバポレーターを用いて3時間乾燥させた。得られた乾燥固形物を乳鉢で粉砕し、脱脂した菌体に脂質を付着させた粉末状の乾燥菌体(以下、A吸着剤という)を調製した。
3.A重油エマルジョン液のpHと油分分離性との関係
上記1のようにして調製したA重油エマルジョン液のpHを、硫酸および水酸化ナトリウムを用いて調整し、pHと油水分離性との関係を検討した。油分吸着剤として、上記2のようにして得られたA吸着剤を、pH調整したA重油エマルジョン液へ1重量%となるように添加し攪拌混合後静置し、油水分離状態と油膜形成状態を観察した。なお、油水分離状態とはエマルジョン液における油と水の分離状態の程度、油膜形成状態とはエマルジョン液の上層表面に形成された油膜量の程度をいう。
A重油エマルジョン液はpH5で油水分離を始め、液面上に多量の油膜を形成したが、この状態でA吸着剤を1重量%添加することで、油膜の発生を完全に防止できた。結果を表1に示す。
【0023】
【表1】

【0024】
実施例2
油分分離性とA吸着剤の添加量との関係
実施例1と同様にして調製したA重油エマルジョン液のpHを、硫酸でpH4に調整した後、A吸着剤を、添加量を変えて加え、油水分離状態と油膜形成状態の変化を観察した。
A吸着剤0.3重量%以上の添加で、分離した油分は不溶性浮遊物状のA吸着剤に吸着され、油膜形成は認められなくなった。結果を表2に示す。
【0025】
【表2】

【0026】
実施例3
油分分離性に対する硫酸アルミニウムの添加効果
実施例1と同様にして調製したA重油エマルジョン液に、硫酸アルミニウムの粉末(関東化学製特級試薬14〜18水塩)を添加量を変えて加え、油水分離状態と油膜形成状態との関係を観察した。また、硫酸アルミニウムの粉末と同時にA吸着剤を1重量%添加し、両者併用下での油水分離状態と油膜形成状態との関係を観察した。
硫酸アルミニウムの粉末を単独使用した場合は、0.01重量%添加で油水分離と油膜形成が起こり始め、0.05重量%添加で完全な油水分離と油膜形成を示した。また、硫酸アルミニウムの粉末に加えてA吸着剤を1重量%添加することで、油膜形成を完全に防止できた。なお、硫酸アルミニウムの粉末に換えて、相当量の硫酸アルミニウム水溶液を使用した場合も同等の油水分離と油膜形成の防止効果が認められた。結果を表3に示す。
【0027】
【表3】

【0028】
実施例4
油分分離性に対する高分子凝集剤の添加効果
実施例1と同様にして調製したA重油エマルジョン液に、硫酸アルミニウムの粉末を0.15重量%、A吸着剤を1重量%添加した。この条件で、A重油エマルジョン液の油水分離状態および油膜形成状態は何れも◎であった。
次いで、このA重油エマルジョン液を用いて、その中に含まれる不溶性浮遊物に対する凝集効果を検討するため、各種の高分子凝集剤等についてその添加効果を調べた。添加方法は、前記A重油エマルジョン液に対して500ppm濃度の水溶液を9:1の容量比で添加攪拌後静置し、油水分離状態、油膜形成状態、凝集状態、沈降状態および沈降速度との関係を観察した。なお、凝集状態とは不溶性浮遊物のフロック化の程度、沈降状態とは生成沈降したフロックの締まり具合の程度、沈降速度とは生成したフロックの沈降速度の程度を示す。
油水分離状態、油膜形成状態および不溶性浮遊物の凝集状態については、高分子凝集剤の種類によって大きな差は認められなかったが、生成したフロックの沈降速度の面でカチオン系高分子凝集剤が勝っており、総合評価としてカチオン系高分子凝集剤が他に比較して大変優れていた。結果を表4に示す。
【0029】
【表4】

【0030】
実施例5
油分分離性と高分子凝集剤の添加量との関係
実施例1と同様にして調製したA重油エマルジョン液に、硫酸アルミニウムの粉末を0.15重量%、A吸着剤を1重量%添加し攪拌混合後静置した。この状態で、油水分離状態、油膜形成状態は共に◎であった。次いで、これに高分子凝集剤アロンフロックC−508の水溶液を添加し再度攪拌混合後静置し、高分子凝集剤の添加量と、油水分離状態、油膜形成状態、凝集状態、沈降状態および沈降速度との関係を調べた。
高分子凝集剤アロンフロックC−508を1ppm添加した段階から凝集沈殿が起こり始め、5ppm以上の添加で良好に凝集沈殿した。なお、油水分離状態および油膜形成状態については何れの試験区でも良好であり、高分子凝集剤の添加によって損なわれることはなかった。結果を表5に示す。
【0031】
【表5】

【0032】
実施例6
油水分離性と高分子凝集剤の粒径との関係
A吸着剤を85重量%、硫酸アルミニウムの粉末を14.5重量%、種々の細かさに粉砕した高分子凝集剤アロンフロックC−508(大阪ケミカル製ワンダーブレンダーWB−1使用)を0.5重量%の比率で混合した粉体状の油分除去用組成物を調製し、これを、実施例1と同様にして調製したA重油エマルジョン液に1重量%添加し、攪拌混合後静置し、油水分離状態、油膜形成状態、凝集状態、沈降状態および沈降速度との関係を調べた。
平均粒子径が500μm以下の高分子凝集剤アロンフロックC−508の粉末を用いた場合から油水分離状態、油膜形成状態に加えて凝集状態、沈降状態および沈降速度が改善される傾向が認められ、平均粒子径が100μm以下の段階から、何れの項目とも良好で安定した成績を示した。表6に結果を示す。
【0033】
【表6】

【0034】
実施例7
油分分離性と高分子凝集剤の粉砕方法との関係
高分子凝集剤は吸湿性が高いため、粉砕方法によって油水分離性に差が生じる可能性が想定されることから、粉砕機として大阪ケミカル製のワンダーブレンダーWB−1を用い、高分子凝集剤アロンフロックC−508を単独で粉砕した後、硫酸アルミニウムの粉末とA吸着剤を加え混合した物、硫酸アルミニウムの粉末を145重量部、高分子凝集剤アロンフロックC−508を5重量部の比率で混合し粉砕した後、A吸着剤を加えた物を調製して、比較試験を行った。
粉砕された高分子凝集剤アロンフロックC−508の平均粒径は100μmと102μmとほぼ一致していた。また、油水分離状態、油膜形成状態、凝集状態、沈降状態および沈降速度ともに差は認められなかった。結果を表7に示す。
【0035】
【表7】

【0036】
実施例8
油分分離性とA重油エマルジョン液の界面活性剤との関係
A重油エマルジョン液を調製する際に使用した界面活性剤を替えた以外は実施例1と同様にしてA重油エマルジョン液を調製し、これに実施例7と同様にして調製した硫酸アルミニウムと混合粉砕した物を添加し混合攪拌後静置し比較試験を行った。なお、界面活性剤はヤシノミ洗剤レギュラーに換えて、カデナックスGS−90、サンノールLMT−1430、アーカードT−28(何れもライオン製)を用いた。結果を表8に示す。
【0037】
【表8】

【0038】
実施例9
油分分離性と油水エマルジョン液の油種との関係
A重油以外の油分からなる油水系エマルジョン液に対する油分除去効果を確認するため、油分としてC重油、大豆油、ゴマ油、ラードおよびヘットを用いた以外は実施例1と同様にして油水系エマルジョン液を調製した。なお、その際、ラードは50℃に、ヘットは70℃に加温し油状にした後に添加し使用した。このようにして調製した異なる種類の油分からなる油水系エマルジョン液に、実施例7と同様にして調製した、硫酸アルミニウムの粉末が145重量部、高分子凝集剤アロンフロックC−508が5重量部からなり平均粒径100μmに粉砕された混合物を使用した油分除去剤を用いて比較試験を行った。
油の種類によらず、同等の油分除去効果が認められ、本発明の油分除去方法および油分除去剤が有効に働くことが確認された。結果を表9に示す。
【0039】
【表9】

【0040】
実施例10
油分分離性とA吸着剤添加量との関係
実施例1と同様にして調製したA重油エマルジョン液に、実施例7と同様にして粉砕調製した硫酸アルミニウムの粉末と高分子凝集剤アロンフロックC−508の粉末からなる油分除去用組成物を、硫酸アルミニウムとして0.2重量%相当量、高分子凝集剤として50ppm相当量加えた。そこに、A吸着剤を、添加量を変えて加え、攪拌混合後静置し、油水分離状態、油膜形成状態、凝集状態、沈降状態および沈降速度との関係を調べた。
A吸着剤0.02重量%以上の添加で油膜形成状態についても改善効果が認められ、0.1重量%以上の添加で何れの項目とも良好な成績を示すようになった。なお、A吸着剤を20重量%添加した条件では沈殿物の量が大量となり、過剰添加であることが知られた。結果を表10に示す。
【0041】
【表10】

【0042】
実施例11
油分分離性と硫酸アルミニウム添加量との関係
実施例1と同様にして調製したA重油エマルジョン液に、A吸着剤を1重量%、実施例7と同様にして単独粉砕した高分子凝集剤アロンフロックC−508を50ppm、および硫酸アルミニウムの粉末を添加量を変えて添加し、攪拌混合後静置し、油水分離状態、油膜形成状態、凝集状態、沈降状態および沈降速度との関係を調べた。
硫酸アルミニウムの粉末0.01重量%以上の添加で、何れの項目も良好な成績を示した。なお、硫酸アルミニウムの粉末を10%添加した条件では凝集状態、沈殿状態および沈降速度が若干悪くなり、過剰添加であることが知られた。
【0043】
【表11】

【0044】
実施例12
油分分離性と高分子凝集剤添加量との関係
実施例1と同様にして調製したA重油エマルジョン液に、A吸着剤を1重量%、硫酸アルミニウムの粉末を0.2重量%、および実施例7と同様にして単独粉砕した高分子凝集剤アロンフロックC−508を添加量を変えて加え、攪拌混合後静置し、油水分離状態、油膜形成状態、凝集状態、沈降状態および沈降速度との関係を調べた。
高分子凝集剤添加量0.1ppmから凝集状態、沈降状態および沈降速度の改善傾向が認められ、1ppm以上の添加で全ての項目が良好な成績を示すようになった。なお、高分子凝集剤アロンフロックC−508を1000ppm添加した条件では沈殿状態および沈降速度が不良となり、過剰添加であることが知られた。結果を表12に示す。
【0045】
【表12】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
油水系エマルジョン液中の油分を分離除去する方法において、油水系エマルジョン液に脂質を付着させた乾燥菌体と、硫酸アルミニウム、高分子凝集剤の何れか一つ以上を加え、酸性条件下で攪拌混合した後、該混合液中に含まれる不溶物を固液分離することによって油分の除去を行うことを特徴とする、油水系エマルジョン液からの油分除去方法。
【請求項2】
脂質を付着させた乾燥菌体が、脱脂した菌体に脂質を付着させ乾燥させたものである、請求項1に記載の油水系エマルジョン液からの油分除去方法。
【請求項3】
脂質が、脱脂した菌体自身より抽出された脂質である、請求項2に記載の油水系エマルジョン液からの油分除去方法。
【請求項4】
pH1〜5の酸性条件下で攪拌混合する、請求項1に記載の油水系エマルジョン液からの油分除去方法。
【請求項5】
脂質を付着させた乾燥菌体を、油水系エマルジョン液中の油分重量に対して1〜25倍量加える、請求項1に記載の油水系エマルジョン液からの油分除去方法。
【請求項6】
硫酸アルミニウムを、油水系エマルジョン液に対して0.01〜10重量%加える、請求項1に記載の油水系エマルジョン液からの油分除去方法。
【請求項7】
高分子凝集剤を、油水系エマルジョン液に対して1〜500ppm加える、請求項1に記載の油水系エマルジョン液からの油分除去方法。
【請求項8】
高分子凝集剤の平均粒子径が10〜100μmである、請求項1に記載の油水系エマルジョン液からの油分除去方法。
【請求項9】
高分子凝集剤がカチオン系高分子凝集剤である、請求項1に記載の油水系エマルジョン液からの油分除去方法。
【請求項10】
カチオン系高分子凝集剤がジメチルアミノエチルメタアクリレート系またはジメチルアミノエチルアクリレート系である、請求項9に記載の油水系エマルジョン液からの油分除去方法。
【請求項11】
請求項1に記載の油水系エマルジョン液からの油分除去方法に用いる、脂質を付着させた乾燥菌体と、硫酸アルミニウム、高分子凝集剤の何れか一つ以上を含む油分除去剤。
【請求項12】
硫酸アルミニウムを1〜50重量%含む、請求項11に記載の油分除去剤。
【請求項13】
高分子凝集剤を0.05〜10重量%含む、請求項11に記載の油分除去剤。

【公開番号】特開2009−113011(P2009−113011A)
【公開日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−292186(P2007−292186)
【出願日】平成19年11月9日(2007.11.9)
【出願人】(000004466)三菱瓦斯化学株式会社 (1,281)
【Fターム(参考)】