説明

油脂のカルボニル価の測定方法及びカルボニル価測定組成物

【課題】 有害な試薬を使用せず安全であり、かつ、発色がよく目視で容易に判定を行うことができる油脂中のカルボニル価の測定技術を提供すること。
【解決手段】 油脂含有試料にシッフ試薬及び無機酸を含む組成物を混合し、シッフ試薬と油脂中のカルボニル化合物とを反応させることにより生じる呈色を検出することを特徴とする、油脂のカルボニル価の測定方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食品、化粧品、機械・装置等の各種の産業分野で利用される動・植物油脂、鉱物油等のカルボニル価の安全かつ簡便な測定方法と、該測定方法において好適に用い得るカルボニル価測定用組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
油脂(例えば動物油、植物油、鉱物油)中に存在するカルボニル化合物量は、酸化劣化程度を判定する指標として利用されている。カルボニル価は酸化を通じて生成したカルボニル化合物の量を示す値で、特に食品、フライ油などの加熱を伴う油脂類の劣化程度を示す値として重要である。
【0003】
油脂中のアルデヒドやケトンなどのカルボニル化合物の測定方法として特に優れているとされるヘニック(Henick)らの方法では、カルボニル化合物をベンゼン中で2,4−ジニトロフェニルヒドラジン(2,4−DNPH)と反応させ、ヒドラゾン誘導体にして比色定量する(例えば、非特許文献1を参照。)。この方法については種々の改良が提案され、基準油脂分析試験法(日本油化学協会)では、過酸化物価が20〜30meq/kgを超える試料については、塩化第一スズで還元した後に、2,4−DNPHと反応させる方法を定めている。しかし、通常過酸化物価が30meq/kgを超えることは少ないため、操作が簡便な熊沢と大山の方法が多用されている(例えば、非特許文献2を参照。)。そこでは、カルボニル価は試料に2,4−DNPHを作用させた場合の、440nmにおける吸光度を試料1kgあたりに換算した値として定義され、例えば、弁当及び総菜の衛生規範(昭和54年6月23日環食、第161号)では、かかる定義に基づく揚げ油のカルボニル価は50を超えてはならないとされている。
【0004】
しかし、上記方法のいずれにおいても肝障害や発ガン性の恐れがあるベンゼンを多量に使用するため、実際に食品工場などの現場では利用されていない。このような有害な溶剤の使用を回避する方法として、アニシジン価もまた、油脂の熱酸化による劣化度の評価に利用されている(例えば、非特許文献3を参照。)。アニシジン価は酢酸の存在下で、アルデヒドがp−アニシジンと反応して生じる黄色を比色する方法で、簡便でかつ有害な溶剤を使用しなくても済むという特徴を有する。しかし、アニシジン価は加熱の初期段階では経時的に増加するものの、ある程度の時間加熱された後では減少する傾向があり、また呈色度がカルボニル化合物量に比例せず、その化学構造によって異なるという欠点を有する。従って、熱劣化型の指標として重要なカルボニル価の代用として用いるには、信頼性が劣っている。
【0005】
水溶性物質(例えば牛乳、豆乳)のカルボニル価の測定方法として、エタノールを用いる方法(例えば、非特許文献4を参照。)が知られているが、この方法は油脂類に適用することはできない。
【0006】
一方、溶剤の使用を伴わない方法として、油脂の誘電率を測定する方法(例えば、特許文献1及び2を参照。)が知られている。油脂のカルボニル価と誘電率は確かに相関性を有するが、装置毎に検出感度が異なり、また測定値が油脂中の水分含量に大きく影響されるため、常に信頼のできる値を示すわけではない。従って、カルボニル価に替わる油脂の劣化指標として用いることは困難である。
【0007】
また、2,4−DNPHを用いたカルボニル価の比色定量技術として、溶剤に上記ベンゼン等を使用せず、替わりにプロパノールやブタノールのような炭素数3以上のアルコールを用いて油脂のカルボニル価を測定する方法(特許文献3を参照。)も開発されている。これにより、有害な溶媒を使用せず、安全性の向上が図れたが、分光光度計のような装置を必要とし、操作においては未だ簡便とはいえない状況にある。
【特許文献1】特公平8−14559号公報.
【特許文献2】特公平8−14560号公報.
【特許文献3】特開2002−365274号公報.
【非特許文献1】Henick等、J.Am.Oil.Chem.Soc.,31,88(1954).
【非特許文献2】熊沢、大山、油化学、14,167(1965).
【非特許文献3】Standard Methods of the Oils and Fats Division of the I.U.P.A.C.,II.D.26.
【非特許文献4】J.Am.Oil.Chem.Soc.,70,881(1993).
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述したような従来のカルボニル価測定技術は、研究機関等で用いられる手段としては適しているといえるが、食品加工工場のような、特に安全性、簡便性を求められる現場においては必ずしも満足いくものではない。油脂の劣化を正確に把握するためには油脂中のカルボニル化合物量、つまりカルボニル価の測定を行うことは重要であり、このカルボニル価を安全且つ正確・簡便に測定し得る技術の確立が切に望まれているのが現状である。
【0009】
本発明の目的は、有害な試薬を使用せず安全であり、かつ、発色がよく目視で容易に判定を行うことができる油脂中のカルボニル価の測定技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者等は鋭意検討した結果、シッフ試薬が2,4−DNPHに替わる発色剤として有用であることが明らかとなった。そこで、かかるシッフ試薬を発色剤として用いたカルボニル価の測定技術により上記目的が達成されることを見出し、本発明を完成するに至ったものである。
【0011】
すなわち、本発明の課題は、下記(1)〜(11)により達成される。
【0012】
(1) 油脂含有試料にシッフ試薬及び無機酸を含む組成物を混合し、シッフ試薬と油脂中のカルボニル化合物とを反応させることにより生じる呈色を検出することを特徴とする、油脂のカルボニル価の測定方法。
【0013】
(2) 前記呈色の検出が、生じた呈色の度合いを、trans−2−デセナールを標準物質として該標準物質とシッフ試薬との反応により生じる呈色の度合いと目視により比較することにより行われる、(1)項に記載の油脂のカルボニル価の測定方法。
【0014】
(3) 前記呈色の検出が、生じた呈色を分光光度計を用いて波長範囲400〜600nmの吸光度を測定することにより行われる、(1)項に記載の油脂のカルボニル価の測定方法。
【0015】
(4) 前記呈色の検出が、trans−2−デセナールを標準物質として該標準物質とシッフ試薬との反応により生じる呈色を、分光光度計を用いて波長範囲400〜600nmの吸光度を測定することにより作成された検量線との対比により行われる、(3)項に記載の油脂のカルボニル価の測定方法。
【0016】
(5) 油脂含有試料と、シッフ試薬及び無機酸を含む組成物との前記混合物中に、溶媒として炭素数5以下のアルコールが1種又は2種以上含有される、(1)項乃至(4)項のいずれか1項に記載の油脂のカルボニル価の測定方法。
【0017】
(6) 前記炭素数5以下のアルコールが、メタノール、エタノール、n−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、n−ブタノール、2−ブタノール、tert−ブタノール、n−ペンタノール、3−メチル−1−ブタノール、2−メチル−1−ブタノール、2,2−ジメチル−1−プロパノール、2−ペンタノール、3−メチル−2−ブタノール、及び3−ペンタノール2−メチル−2−ブタノールから選択される、(5)項に記載の油脂のカルボニル価の測定方法。
【0018】
(7) 前記混合物中のシッフ試薬及び炭素数5以下のアルコールの含有量が下式を満たす、(5)項又は(6)項に記載の油脂のカルボニル価の測定方法。
【0019】
0.00015≦シッフ試薬(ml)/(シッフ試薬(ml)+アルコール(ml))≦0.95
(8) 前記シッフ試薬が、フクシン又はパラローズアニリン、もしくはその誘導体を呈色成分とする、(1)乃至(7)のいずれか1項に記載の油脂のカルボニル価の測定方法。
【0020】
(9) シッフ試薬と無機酸とを含有する、油脂のカルボニル価測定用組成物。
【0021】
(10) 更に炭素数5以下のアルコールを1種又は2種以上含有する、(9)項に記載の油脂のカルボニル価測定用組成物。
【0022】
(11) 前記炭素数5以下のアルコールが、メタノール、エタノール、n−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、n−ブタノール、2−ブタノール、tert−ブタノール、n−ペンタノール、3−メチル−1−ブタノール、2−メチル−1−ブタノール、2,2−ジメチル−1−プロパノール、2−ペンタノール、3−メチル−2−ブタノール、及び3−ペンタノール2−メチル−2−ブタノールから選択される、(10)項に記載の油脂のカルボニル価測定用組成物。
【0023】
(13) 油脂中のカルボニル化合物との呈色反応によるカルボニル価の測定において発色剤として用いられるシッフ試薬。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明において測定対象となる油脂は、使用による経時変化及び加熱による劣化が問題とされるもので、主としてカルボニル基の生成にその原因がある動植物油、脂肪、脂肪性物質、鉱物油等が挙げられる。具体的には、その構造の主体がトリアシルグリセロールである油脂で動物、植物、微生物起源のもの、またはその構造の主体がハイドロカーボンであるトランスオイル、モーターオイル等の鉱物油が含まれる。
【0025】
本発明者等は、シッフ試薬が、かかる油脂のカルボニル価測定における2,4−DNPHに替わる呈色試薬として極めて有効であることを見出したものである。本発明の測定方法は、カルボニル価測定対象である油脂を含んでなる油脂含有試料に、無機酸の存在下、シッフ試薬を添加、混合し、シッフ試薬と油脂中のカルボニル化合物とを反応させることにより呈色反応を生じさせる工程を含むものである。生じた呈色を吸光度法又は目視にて観測することによりカルボニル価を測定することができる。
【0026】
本発明において、油脂含有試料、無機酸、及びシッフ試薬の混合は、シッフ試薬及び無機酸を含む組成物(以下において、「本発明の反応試薬」又は単に「反応試薬」と称する。)を油脂含有試料に添加、混合することにより行うことができる。カルボニル価測定試料となる油脂含有試料と本発明の反応試薬との混合物は固形状であってもよいし、溶媒を含む溶液状であってもよく、吸光度法により呈色を検出する場合には、溶液状であることが望ましい。溶媒は油脂を溶解するために用いられ、油脂を予め溶媒に溶解させてからシッフ試薬及び無機酸を含む本発明の反応試薬と混合してもよいし、あるいはシッフ試薬及び本発明の反応試薬を予め溶媒と混合してからこれに油脂を溶解させてもよい。溶媒としては、常温で液体であって油脂を溶解することができ、且つ、水と混和可能なアルコールが好ましく、具体的には炭素数5以下のアルコールを主成分とする溶媒が好適に用いられる。
【0027】
本発明においてシッフ試薬は、測定対象となる油脂中のカルボニル化合物と反応し、発色剤として呈色反応を生じさせるものであり、フクシン、又はパラローズアニリン、もしくはそれらの誘導体を呈色成分とするものが好適に用いられる。無機酸としては、塩酸又は硝酸が好適に用いられる。
【0028】
シッフ試薬の配合率は、シッフ試薬と溶媒であるアルコールの合計体積に対し0.015%〜95%であることが好ましく、より好ましくは60〜80体積%である。また、無機酸の配合率は、前記合計体積に対し0.1〜5%であることが好ましい。
【0029】
溶媒の主成分たるアルコールとしては、炭素数5以下のアルコールが好適に用いられ、例えば、メタノール、エタノール、n−プロパノール、2−プロパノール、n−ブタノール、2−ブタノール、tert−ブタノール、n−ペンタノール、3−メチル−1−ブタノール、2−メチル−1−ブタノール、2,2−ジメチル−1−プロパノール、2−ペンタノール、3−メチル−2−ブタノール、及び3−ペンタノール2−メチル−2−ブタノール等が挙げられ、1種を単独で、又は2種以上を混合して用いることができる。操作性の観点からは、炭素数3又は4のアルコールが好適に用いられ、n−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、tert−ブタノール等が挙げられる。なかでも2−プロパノールと1−ブタノールの混合液は操作性、検出感度において特に優れており、本発明において用い得る溶媒として最も好ましい。
【0030】
本発明の一態様において、測定対象である油脂は溶媒に溶解した状態で用いられる。かかる油脂含有試料溶液における油脂濃度は、カルボニル化合物の含有率が0.005〜500mmol/Lの範囲となるように溶解することが好ましく、0.2〜4mmol/Lの範囲となるように溶解することがより好ましい。カルボニル化合物の含有率が0.005mmol/L未満では、検出が困難となり、一方500mmol/Lを超える場合は一定値を示すからである。
【0031】
本発明では、目視または分光光度計により反応組成物の呈色を観測することができる。
【0032】
目視による観測においては、油脂含有試料に本発明の反応試薬を混合し呈色させたものを、標準物質(例えば、trans−2−デセナール)の呈色に基づき作成した色表と比較することによってカルボニル価を求めることが望ましい。また、時間経過とともに呈色が強く現れるため、目視までの時間は油脂含有試料と反応試薬を混合後、好ましくは5〜15分、より好ましくは7〜10分とする。5分未満では、色素による呈色が不十分でカルボニル価を低く、15分を超えると呈色が強すぎてカルボニル価を高く見積もってしまい、油脂中のカルボニル価を正確に求めることができない。
【0033】
分光光度計を用いた観測においては、波長範囲400〜600nmの範囲における吸光度を測定することにより、色素量を測定することが望ましい。また、時間経過とともに吸光度の上昇が見られるため、吸光度を測定する時間は、反応液と試料溶液を混合した後、好ましくは5分〜15分、より好ましくは7分〜10分とする。5分未満では色素による呈色が不十分なためカルボニル価を低く算出し、15分を超えると吸光度が高すぎてカルボニル価を高く算出する傾向があり、油脂中のカルボニル価を正確に求めることが困難となるからである。
【0034】
前記吸光度法を用いた本発明に係るカルボニル価の測定においては、油脂劣化の指標とするための標準物質を用い、本発明によるカルボニル価算出用検量線を作成する。すなわち、まず、公定法により標準物質のカルボニル価を求め、標準物質濃度とカルボニル価との関係を示すグラフを作成する(図1を参照。)。次いで、本発明の反応試薬と標準物質を混合し、例えば5分後の吸光度を測定して標準物質濃度と吸光度の関係を示すグラフを作成する(図2を参照。)。これらの得られたデータから、カルボニル価と吸光度との関係を示す本発明のカルボニル価算出用検量線を得る(図3を参照。)標準物質としては、trans−2−デセナールが好適に用いられる。
【実施例】
【0035】
次に本発明を実施例により更に詳細に説明するが、実施例は例示のために提示するものであって、どのようにも本発明を限定することを意図するものではない。
【0036】
(実施例1)市販のシッフ試薬を用いた本発明の反応試薬(a)の調製
市販のシッフ試薬(和光純薬製)0.2mlに2−プロパノール0.4ml、1−ブタノール1.9ml、12Mの塩酸5μlを混合し、反応試薬(a)を調製した。
【0037】
(実施例2)フクシンを用いた本発明の反応試薬(b)の調製
フクシン0.05gをエタノール50mlに溶解した。これに、別に調製した10%亜硫酸ナトリウム水溶液100mlを混合した。混合時に生成した沈殿物をろ過し、得られたろ液に12Mの塩酸22.5mlを添加し、反応試薬(b)を調製した。得られた組成物(b)は冷暗所に保存し、使用時には保存時に析出した沈殿物もろ過して除去した。
【0038】
(実施例3)油脂劣化の判定I
なたね油の濃度が10mg/mlのn−ブタノール溶液を加熱劣化油及び未加熱油について調製した。この溶液0.5mlを実施例1で調製した反応試薬(a)に添加・混合し、呈色させた。同様の方法で、標準物質であるtrans−2−デセナールの4mM、2mM、1mM、500μM、200μM n−ブタノール溶液を用いて呈色させ、これと5分後の呈色度合いを目視で比較した。
【0039】
その結果、加熱劣化油を用いた場合の呈色度合いはtrans−2−デセナールの4mM溶液と同程度であった。未加熱油を用いた場合の呈色度合いはtrans−2−デセナールの200μM溶液の呈色度合いより低かった。したがって、加熱劣化油の劣化度合いを反応組成物の呈色により判断することができた。
【0040】
(実施例4)油脂劣化の判定II
なたね油の濃度が30mg/mlのn−ブタノール溶液を加熱劣化油及び未加熱油について調製した。この溶液3mlを実施例2で調製した反応試薬(b)に添加・混合し、5分後の呈色度合いを比較した。同様の方法で、標準物質であるtrans−2−デセナールの4mM、2mM、1mM、500μM、200μM n−ブタノール溶液を用いて呈色させ、これと5分後の呈色度合いを目視で比較した。
【0041】
その結果、加熱劣化油を用いた場合の呈色度合いはtrans−2−デセナールの4mM溶液と同程度であった。未加熱油を用いた場合の呈色度合いはtrans−2−デセナールの200μM溶液の呈色度合いより低かった。したがって、加熱劣化油の劣化度合いを反応組成物の呈色により判断することができた。
【0042】
(実施例5)油脂劣化の判定III
なたね油の濃度が20mg/mlのn−プロパノール溶液を加熱劣化油及び未加熱油について調製した。この溶液1mlを実施例1で使用した市販のシッフ試薬2mlと12Mの塩酸100μlの混合物に添加・混合し、5分後の呈色度合いを比較した。同様の方法で、標準物質であるtrans−2−デセナールの4mM、2mM、1mM、500μM、200μM n−プロパノール溶液を用いて呈色させ、これと5分後の呈色度合いを目視で比較した。
【0043】
その結果、加熱劣化油を用いた場合の呈色度合いはtrans−2−デセナールの4mM溶液と同程度であった。未加熱油を用いた場合の呈色度合いはtrans−2−デセナールの200μM溶液の呈色度合いより低かった。したがって、加熱劣化油の劣化度合いを反応組成物の呈色により判断することができた。
【0044】
(実施例6)油脂劣化の判定IV
なたね油の濃度が20mg/mlのtert−ブタノール溶液を加熱劣化油及び未加熱油について調製した。この溶液1mlを実施例1で使用した市販のシッフ試薬2mlと12Mの塩酸100μlの混合物に添加・混合し、5分後の呈色度合いを比較した。同様の方法で、標準物質であるtrans−2−デセナールの4mM、2mM、1mM、500μM、200μM tert−ブタノール溶液を用いて呈色させ、これと5分後の呈色度合いを目視で比較した。
【0045】
その結果、加熱劣化油を用いた場合の呈色度合いはtrans−2−デセナールの4mM溶液と同程度であった。未加熱油を用いた場合の呈色度合いはtrans−2−デセナールの200μM溶液の呈色度合いより低かった。したがって、加熱劣化油の劣化度合いを反応組成物の呈色により判断することができた。
【0046】
(比較例1)
塩酸を加えない以外は実施例1と同様にして調製した組成物を用い、実施例3と同様にして加熱劣化油及び未加熱油の呈色度合いを比較した。
【0047】
その結果、加熱劣化油及び未加熱油の呈色度合いはtrans−2−デセナールの4mM溶液と同程度であった。したがって、加熱劣化油の劣化度合いを反応組成物の呈色により評価することはできなかった。
【0048】
(比較例2)
塩酸を加えない以外は実施例2と同様にして調製した組成物を用い、実施例4と同様にして加熱劣化油及び未加熱油の呈色度合いを比較した。
【0049】
その結果、加熱劣化油及び未加熱油の呈色度合いはtrans−2−デセナールの4mM溶液と同程度であった。したがって、加熱劣化油の劣化度合いを反応組成物の呈色により評価することはできなかった。
【0050】
(比較例3)
塩酸を加えない以外は実施例5と同様にして調製した組成物を用い、実施例3と同様にして加熱劣化油及び未加熱油の呈色度合いを比較した。
【0051】
その結果、加熱劣化油及び未加熱油の呈色度合いはtrans−2−デセナールの4mM溶液と同程度であった。したがって、加熱劣化油の劣化度合いを反応組成物の呈色により評価することはできなかった。
【0052】
(比較例4)
塩酸を加えない以外は実施例6と同様にして調製した組成物を用い、実施例3と同様にして加熱劣化油及び未加熱油の呈色度合いを比較した。
【0053】
その結果、加熱劣化油及び未加熱油の呈色度合いはtrans−2−デセナールの4mM溶液と同程度であった。したがって、加熱劣化油の劣化度合いを反応組成物の呈色により評価することはできなかった。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】公定法による標準物質(trans−2−デセナール)の濃度とカルボニル価の関係を示すグラフの一例。
【図2】本発明の反応試薬と混合した標準物質(trans−2−デセナール)の濃度と吸光度との関係を示すグラフの一例。
【図3】カルボニル価と吸光度との関係を示す本発明のカルボニル価算出用検量線の一例。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
油脂含有試料にシッフ試薬及び無機酸を含む組成物を混合し、シッフ試薬と油脂中のカルボニル化合物とを反応させることにより生じる呈色を検出することを特徴とする、油脂のカルボニル価の測定方法。
【請求項2】
前記呈色の検出が、生じた呈色の度合いを、trans−2−デセナールを標準物質として該標準物質とシッフ試薬との反応により生じる呈色の度合いと目視により比較することにより行われる、請求項1に記載の油脂のカルボニル価の測定方法。
【請求項3】
前記呈色の検出が、生じた呈色を分光光度計を用いて波長範囲400〜600nmの吸光度を測定することにより行われる、請求項1に記載の油脂のカルボニル価の測定方法。
【請求項4】
前記呈色の検出が、trans−2−デセナールを標準物質として該標準物質とシッフ試薬との反応により生じる呈色を、分光光度計を用いて波長範囲400〜600nmの吸光度を測定することにより作成された検量線との対比により行われる、請求項3に記載の油脂のカルボニル価の測定方法。
【請求項5】
油脂含有試料と、シッフ試薬及び無機酸を含む組成物との混合物中に、溶媒として炭素数5以下のアルコールが1種又は2種以上含有される、請求項1乃至4のいずれか1項に記載の油脂のカルボニル価の測定方法。
【請求項6】
前記炭素数5以下のアルコールが、メタノール、エタノール、n−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、n−ブタノール、2−ブタノール、tert−ブタノール、n−ペンタノール、3−メチル−1−ブタノール、2−メチル−1−ブタノール、2,2−ジメチル−1−プロパノール、2−ペンタノール、3−メチル−2−ブタノール、及び3−ペンタノール2−メチル−2−ブタノールから選択される、請求項5に記載の油脂のカルボニル価の測定方法。
【請求項7】
前記混合物中のシッフ試薬及び炭素数5以下のアルコールの含有量が下式を満たす、請求項5又は6に記載の油脂のカルボニル価の測定方法。
0.00015≦シッフ試薬(ml)/(シッフ試薬(ml)+アルコール(ml))≦0.95
【請求項8】
前記シッフ試薬が、フクシン又はパラローズアニリン、もしくはその誘導体を呈色成分とする、請求項1乃至7のいずれか1項に記載の油脂のカルボニル価の測定方法。
【請求項9】
シッフ試薬及び無機酸を含有する、油脂のカルボニル価測定用組成物。
【請求項10】
更に炭素数5以下のアルコールを1種又は2種以上含有する、請求項9に記載の油脂のカルボニル価測定用組成物。
【請求項11】
前記炭素数5以下のアルコールが、メタノール、エタノール、n−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、n−ブタノール、2−ブタノール、tert−ブタノール、n−ペンタノール、3−メチル−1−ブタノール、2−メチル−1−ブタノール、2,2−ジメチル−1−プロパノール、2−ペンタノール、3−メチル−2−ブタノール、及び3−ペンタノール2−メチル−2−ブタノールから選択される、請求項10に記載の油脂のカルボニル価測定用組成物。
【請求項12】
油脂中のカルボニル化合物との呈色反応によるカルボニル価の測定において発色剤として用いられるシッフ試薬。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−139558(P2007−139558A)
【公開日】平成19年6月7日(2007.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−333075(P2005−333075)
【出願日】平成17年11月17日(2005.11.17)
【出願人】(591074736)宮城県 (60)
【Fターム(参考)】