説明

治療、診断及び検査のためのMS4A12を伴う方法、及びMS4A12を標的とする剤

本発明は疾患状態、特に癌疾患の治療、診断及び検査に有用なMS4A12を伴う方法、及び、MS4A12を標的とする剤に関する。特に本発明は、MS4A12の発現又は活性を低減又は阻害する剤、これらの剤を含む組成物、及び、EGFに対する細胞の応答性を低減、決定又は増大する方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、疾患、特に癌疾患の治療、診断及び検査に有用な方法及び剤に関する。特に本発明は、例えば、癌患者の腫瘍細胞、特に結腸癌の細胞におけるMS4A12活性の阻害及び決定に関する。
【背景技術】
【0002】
学際的なアプローチ及び古典的治療手順の徹底的な使用にもかかわらず、癌は依然死亡の主要な原因の1つである。
【0003】
抗体を基盤とした癌治療が成功裏に臨床に導入され、過去10年間にわたり、腫瘍学における最も有望な治療法として登場してきている(Glennieら、Drug Discov.Today 8:503−10(2003))。血液悪性腫瘍は、モノクローナル抗体(mAb)に基づく治療概念のために良好な実験場となった。これらの疾患では、CD20、CD22、CD25、CD33及びCD52などの造血細胞の特定の系列のみで発現される抗原(Countouriotisら、Stem Cells20:215−29(2002);Dillmanら、Cancer Pract.9:71−80(2001);Legetら、Curr.Opin.Oncol.10:548−51(1998))が有用な治療標的であることが判明している。これらのうちで最も顕著なものは抗CD20mAbであり、リンパ腫患者の治療を改革している。キメラ抗CD20mAbリツキシマブは多発再発性緩徐進行型B細胞リンパ腫の患者においておよそ40%〜60%の応答率を達成しており、米国食品医薬品局により癌治療のために承認された最初のmAbになっている(Legetら、Curr.Opin.Oncol.10:548−51(1998))。CD20標的治療に好適なリンパ球増殖性障害のスペクトルは依然広がりつつある(Leonardら、Hematology,Am.Soc.Hematol.Educ.Program 335−9(2005))。
【0004】
抗体標的としてCD20の臨床上の成功には、2つの重要な特徴が寄与している。第1に、この標的が、B細胞系列に関する高度に選択的な分化マーカーとして、最適な治療域を提供する点である。CD20発現により、いかなる正常な細胞型も、B細胞系列の幹細胞前駆体も検出されない(Cartronら、Blood 104:2635−42(2004))。したがって、重篤な用量制限毒性がなく、正常なBリンパ球レベルは最終的には標的陰性の幹細胞により回復する。B細胞悪性腫瘍は、通常この分化抗原の発現を保存するので、治療に成功することができる。第2の特徴は、造血性分化抗原に対するその他のmAbと比較して、抗CD20抗体の細胞破壊性効力が異常に高いという点である(Craggら、Blood 101:1045−52(2003))。少なくともインビトロでは、抗CD20抗体は補体依存性細胞毒性(CDC)及び抗体依存性細胞媒介細胞毒性(ADCC)の双方を媒介する。細胞性及び可溶性の免疫エフェクターの効率的な補充は、CD20分子の特徴的な膜トポロジーに密接に連関し、抗体/抗原複合体を側方に動きやすくし、標的エピトープと脂質二重層との間の距離を短くする(Craggら、Blood 101:1045−52(2003);Craggら、Blood 103:2738−43(2004);Johnsonら、Semin.Oncol.30:3−8(2003))。免疫エフェクターの補充に加えて、抗CD20mAbは特定の細胞系において成長抑止及びアポトーシスを媒介することができる(Deansら、Immunology 107:176−82(2002);Shanら、Blood 91:1644−52(1998);Shanら、Cancer Immunol.Immunother.48:673−83(2000);Unruhら、Immunology 116:223−32(2005))。抗CD20mAbが増殖及び生存に干渉するメカニズムは未知なままであったが、近年、B細胞受容体により活性化されるSOC流入経路の構成要素として、CD20が確立された。
【0005】
細胞内Ca2+は細胞機能の必須の調節因子である。成長受容体を介するシグナルにより細胞内ストアから細胞質へCa2+が急速に放出される。ストア枯渇は細胞膜を横切るCa2+流入を活性化し、空のストアを再び満たし、細胞質性の遊離Ca2+の濃度([Ca2+)の持続的に増大する。このCa2+流入は容量性又はストア作動性Ca2+(SOC)流入と称され、生存及び増殖を含む受容体媒介刺激に対する多様な細胞応答を調節するために不可欠である(Berridge,J.Physiol.499:291−306(1997);Berridgeら、Nature 395:645−8(1998);Berridgeら、Nat.Rev.Mol.Cell Biol.1:11−21(2000))。Ca2+シグナル伝達の調整におけるCD20の役割に合わせて、Ca2+流入は、リツキシマブ誘起の抗増殖及びアポトーシス効果に不可欠である(Shanら、Cancer Immunol.Immunother.48:673−83(2000);Ghetieら、Blood 97:1392−98(2001);Hofmeisterら、Blood Cells Mol.Dis.26:133−43(2000))。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
抗CD20抗体から学んだ教訓及び血液学的疾患において発達した原理は、依然、医学的必要性の高い固形癌の合理的なmAb治療の設計を促進することができる。しかしながら固形腫瘍に関しては、類似の潜在能力の標的は依然得られていない。
【0007】
かかる標的構造を同定し、癌の治療、診断及び検査において利用することが本発明の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の目的は特許請求の範囲に記載された主題により達成される。
【0009】
結腸癌の治療抗体の標的として利用可能な結腸上皮の分化遺伝子を発見するデータマイニング手法により、CD20に密接に関係するMS4A12に至った。本発明者らは、MS4A12がSOC流入に関与する結腸細胞特異的分化遺伝子であり、EGFRシグナル伝達の新規モジュレーターとして機能することを知見した。本発明者らにより提供されたデータにより、結腸上皮細胞の生理学及びある癌疾患、特に結腸癌の生物学に予期されなかった見識が与えられ、かかる癌疾患の治療に新規標的が提供される。
【0010】
1つの態様では、本発明は、細胞におけるMS4A12の発現又は活性を低減又は阻害する剤を提供する。
【0011】
好ましくは、その剤はMS4A12に特異的である。「MS4A12に特異的な剤」なる用語は、それが別の遺伝子生成物の発現又は活性を低減又は阻害するよりも高い程度までMS4A12の発現又は活性を低減又は阻害する剤を指す。好ましくは、MS4A12の発現又は活性は、本発明のMS4A12の発現又は活性を低減又は阻害する剤により、その他の遺伝子産物の発現又は活性よりも少なくとも1.2倍、少なくとも1.5倍、少なくとも2倍、少なくとも3倍、少なくとも5倍、少なくとも10倍、少なくとも50倍、少なくとも100倍又は少なくとも1000倍大きい程度まで低減又は阻害される。
【0012】
「細胞におけるMS4A12の発現を低減又は阻害する剤」は、MS4A12遺伝子の転写を低減若しくは阻害でき、MS4A12プレmRNAのプロセシングを低減若しくは阻害でき(例えばスプライシング、ポリアデニル化、キャッピング等)、MS4A12mRNAの半減期を低減でき、及び/又は、MS4A12mRNAのMS4A12タンパク質への翻訳を低減若しくは阻害することができる。特に細胞においてMS4A12遺伝子から合成されるMS4A12タンパク質の量は、細胞におけるMS4A12の発現を低減又は阻害する剤の存在下で低減する。
【0013】
「細胞におけるMS4A12の活性を低減又は阻害する剤」は、MS4A12の1つ以上の活性を低減又は阻害することができる。「MS4A12の活性」なる用語は細胞におけるMS4A12の何らかの活性に関する。
【0014】
好ましくはMS4A12の活性は、結腸癌及び結腸癌転移などの癌疾患に関連する。特に結腸腫瘍若しくは結腸腫瘍転移などの腫瘍若しくは腫瘍転移の形成、進行及び/又は維持が含まれる。好ましくは、MS4A12の活性は、細胞の成長、増殖、生存性、細胞周期の進行、遊走、化学走性及び湿潤を増大又は可能にすることからなる群から選択される。
【0015】
具体的な実施態様では、MS4A12の活性は、細胞のストア作動性Ca2+流入を増大又は可能にすることを含む。
【0016】
細胞におけるMS4A12の発現の低減又は阻害により、好ましくは、上記で述べたように、細胞におけるMS4A12の活性が低減又は阻害されるものであると理解されるべきである。
【0017】
特定の実施態様では、MS4A12の活性は、EGFに対する細胞の応答性を増大し、又は、EGFに対して細胞を応答可能にしている。本発明によれば、「EGFに対する細胞の応答性」とは、EGFとの接触時に1つ以上の応答を呈する細胞の能力を指す。応答は、生化学的応答のような何らかの応答であればよく、生化学的応答には、例えば、カルシウムイオンの分子濃度の変化、特に細胞内Ca2+貯蔵の枯渇若しくはストア作動性Ca2+流入などによる分子濃度の変化や、タンパク質のリン酸化、脱リン酸化、グリコシル化若しくは脱グリコシル化、核酸のメチル化若しくは脱メチル化といった分子修飾などがある。さらに、応答は、シグナル伝達経路の活性化又は阻害であってもよく、特に細胞内Ca2+貯蔵の枯渇やストア作動性Ca2+流入で生じるシグナル伝達経路の活性化、又は、例えばホルモンなどのシグナル分子の分泌であってもよい。応答のさらなる例としては、例えば発癌遺伝子の活性化又は癌抑制遺伝子の不活化のような遺伝子発現の活性化又は阻害など、遺伝子レベルでの応答がある。さらに応答は、細胞形態学における変化又は細胞の成長、増殖、細胞周期の進行、遊走、化学走性若しくは湿潤の増大などの1以上の細胞性特徴における変化であってもよい。
【0018】
好ましいEGF誘起応答は、細胞のEGF誘起成長、EGF誘起増殖、EGF誘起細胞周期の進行、EGF誘起遊走、EGF誘起化学走性及びEGF誘起湿潤並びにその組み合わせである。
【0019】
同様に「EGFに対して応答する細胞」は、EGFと接触させたときに、上記で記載されたいずれかの応答を呈する細胞である。
【0020】
好ましい実施態様では、細胞はMS4A12を発現する。さらに好ましい実施態様では、細胞はEGF受容体をも発現する。
【0021】
1つの実施態様では、本発明のMS4A12の発現又は活性を低減又は阻害する剤は、ヒトMS4A12の発現又は活性を低減又は阻害し、好ましくは、配列番号:2のアミノ酸配列を有するヒトMS4A12の発現又は活性を低減又は阻害する。
【0022】
1つの実施態様では、MS4A12遺伝子のタンパク質産物を生成しないか、又は、生成する量が低減されるように、特異的に標的し、MS4A12遺伝子からのmRNAのRNAi誘起分解を引き起こすsiRNAを含む剤であり、このsiRNAからなる剤が好ましい。
【0023】
本発明によるsiRNAは、センスRNA鎖及びアンチセンスRNA鎖を含み、前記センスRNA鎖及びアンチセンスRNA鎖は、RNA二重螺旋を形成すると好ましい。センスRNA鎖は、MS4A12をコードする核酸が、約19〜約25個の隣接ヌクレオチドの標的配列に実質的に同一であるヌクレオチド配列を含むことが好ましく、MS4A12をコードする核酸としては、MS4A12をコードするmRNAが好ましい。本発明のsiRNAは、単離されていることが好ましい。
【0024】
1つの実施態様では、本発明のsiRNAは2つの核酸フラグメントの組合せであり、1つのフラグメントは前記siRNA分子のセンス鎖を含み、第2のフラグメントは前記siRNA分子のアンチセンス鎖を含む。本発明のsiRNAのさらなる実施態様では、RNA二重螺旋を形成するセンスRNA鎖及びアンチセンスRNA鎖は、例えば一本鎖ヘアピンにより共有結合により連結されている。
【0025】
本発明のsiRNAは、さらに非ヌクレオチド材料を含むのが好ましい。本発明のsiRNAのさらなる実施態様では、センスRNA鎖及びアンチセンスRNA鎖は、ヌクレアーゼ分解に対して安定化されている。
【0026】
本発明のsiRNAは、さらに3'−オーバーハングを含むことが好ましく、1〜約6ヌクレオチドを含む3'−オーバーハングが好ましく、約2ヌクレオチドの3'−オーバーハングがより好ましい。
【0027】
本発明のsiRNAの1つの実施態様では、センスRNA鎖は第1の3'−オーバーハングを含み、かつ、アンチセンスRNA鎖は第2の3'−オーバーハングを含み、第1及び第2の3'−オーバーハングは独立して1〜約6ヌクレオチドを含むことが好ましい。第1の3'−オーバーハングはジヌクレオチドを含み、かつ、第2の3'−オーバーハングはジヌクレオチドを含むことがより好ましく、ジヌクレオチドとしては、ジデオキシチミジル酸又はジウリジル酸が好ましい。
【0028】
本発明のsiRNAの1つの実施態様では、3'−オーバーハングはヌクレアーゼ分解に対して安定化されている。
【0029】
本発明のsiRNAの特定の実施態様では、標的配列が、配列番号:1のヌクレオチド位置344−363のヌクレオチド配列、又は、配列番号:1のヌクレオチド位置247−266のヌクレオチド配列を有する。したがって、標的配列は、配列番号:3又は配列番号:6のヌクレオチド配列を有することができる。本発明のsiRNAのさらに特定の実施態様では、センスRNA鎖は配列番号:4の配列を有し、かつ、アンチセンスRNA鎖は配列番号:5の配列を有するか、又は、センスRNA鎖は配列番号:7の配列を有し、かつ、アンチセンスRNA鎖は配列番号:8の配列を有する。
【0030】
さらなる実施態様は、MS4A12をコードする核酸と選択的にハイブリダイズするアンチセンス核酸を含む剤であり、このアンチセンス核酸からなる剤が好ましい。特にアンチセンス核酸は、MS4A12遺伝子及び/又はMS4A12mRNAと特異的にハイブリダイズし、これによりMS4A12遺伝子の転写、及び/又は、MS4A12mRNAの翻訳が妨げられ、又は、低減する。
【0031】
アンチセンス核酸は、MS4A12をコードする核酸において約20〜約30の隣接ヌクレオチドの標的配列に対して実質的に相補的であることが好ましく、MS4A12をコードする核酸としては、MS4A12をコードする遺伝子又はmRNAが好ましい。本発明のアンチセンス核酸は、単離されていることが好ましい。
【0032】
標的配列は、望ましい効果が達成される限り、MS4A12遺伝子又はMS4A12mRNAのいかなる部分にも位置することができる。例えば、本発明のアンチセンス核酸は、MS4A12遺伝子のプロモーター若しくは転写開始部位、MS4A12プレmRNAのスプライシングドナー若しくはアクセプター部位、MS4A12mRNAのリボソーム結合部位若しくは翻訳開始部位、又は、MS4A12コード領域にハイブリダイズしてもよい。
【0033】
本発明のアンチセンス核酸は、さらに、非ヌクレオチド材料を含むことが好ましい。さらなる実施態様では、本発明のアンチセンス核酸は、ヌクレアーゼ分解に対して安定化されている。
【0034】
さらなる実施態様は、MS4A12に選択的に結合する抗体を含む剤であり、MS4A12に選択的に結合する抗体からなる剤が好ましい。MS4A12に結合することにより、抗体はMS4A12の活性を低減又は阻害する。
【0035】
MS4A12が細胞により発現される場合、抗体は、MS4A12の細胞外領域、すなわち、細胞外で接近可能であるMS4A12の領域に結合することが好ましい。この点において「細胞外で接近可能」とは、抗体などの剤が細胞の細胞外環境に添加されたときに、細胞外標的に結合することができることを意味し、好ましくは、該細胞の細胞膜の中に侵入するか、又は横切ることなく、細胞外標的に結合することをいう。抗体は、配列番号:2のアミノ酸番号113〜126若しくは182〜201内のヒトMS4A12の領域、又は、ヒトMS4A12の誘導体、アイソフォーム、バリアント若しくはホモログにおける対応する領域に結合することが好ましい。
【0036】
本発明の抗体は、モノクローナル又はポリクローナルとすることができ、モノクローナルが好ましい。さらに本発明の抗体は、キメラ若しくはヒト化抗体、又は抗体のF(ab')、Fab、Fv若しくはFdフラグメントのような抗体のフラグメントでもよい。
【0037】
別の実施態様では、本発明のMS4A12の発現又は活性を低減又は阻害する剤は、本発明のsiRNA、アンチセンス核酸又は抗体を発現可能な核酸分子であり、好ましくは組換え核酸分子である。この核酸分子は、本発明のsiRNA、アンチセンス核酸又は抗体を発現するために核酸配列に機能的に連結されたプロモーターを含むことが好ましく、プロモーターとしては、誘導プロモーター又は調節プロモーターが好ましい。核酸分子は、発現プラスミド又はウイルスベクターなどのベクターが好ましい。ウイルスベクターは、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター、レンチウイルスベクター、レトロウイルスベクター及びヘルペスウイルスベクターからなる群から選択することができる。
【0038】
siRNAを発現できる核酸分子は、siRNAのセンスRNA鎖及びアンチセンスRNA鎖を発現するための核酸配列を含む単一のベクターであってもよいし、siRNAセンスRNA鎖を発現するための核酸配列を含む1のベクターと、アンチセンスRNA鎖を発現するための核酸配列を含む1のベクターとを組み合わせた2のベクターであってもよい。
【0039】
1つの実施態様では、核酸分子は宿主細胞に存在する。宿主細胞に存在する核酸分子は、本発明の抗体を発現可能であることが好ましい。好ましい実施態様では、核酸分子により発現される抗体は宿主細胞により分泌される。
【0040】
別の実施態様では、本発明のMS4A12の発現又は活性を低減又は阻害する剤は、MS4A12の発現又は活性を低減又は阻害できるペプチド、タンパク質、核酸及び低分子化合物からなる群から選択される化合物を含むものであり、これらの化合物からなる剤であることが好ましい。
【0041】
例えば、MS4A12の発現又は活性を低減又は阻害できるペプチド、タンパク質、核酸及び低分子化合物は、当分野において知られる適当なスクリーニングアッセイにより同定することができる。スクリーニングアッセイには、異なるペプチド、タンパク質、核酸及び/又は低分子化合物のライブラリーを使用してもよい。ライブラリーは化学的に合成された化合物、天然由来化合物、又は、天然由来化合物から誘導した化合物から構成されてもよい。適当なライブラリーは当分野において知られている。例えばペプチド又はタンパク質ライブラリーは、その表面にペプチド又はタンパク質を提示するファージを含むファージディスプレイライブラリーでもよい。スクリーニングアッセイは、1以上の選択した工程を含む1以上の選択の繰り返しを含んでもよい。ライブラリーのメンバーは、MS4A12に対する結合、MS4A12の発現の低減若しくは阻害、及び/又は、MS4A12の活性の低減若しくは阻害に関してスクリーニングされてもよい。
【0042】
さらなる実施態様では、本発明のMS4A12の発現又は活性を低減又は阻害する剤は、異なる剤の混合物である。この剤は、特に、上記で定義されたような2以上のsiRNAの混合物、上記で定義されたような2以上のアンチセンス核酸の混合物、又は前記で定義されたような2以上の抗体の混合物であってもよいし、さらに、上記で定義されたような1以上のsiRNA、及び/又は上記で定義されたような1以上のアンチセンス核酸、及び/又は上記で定義されたような1以上の抗体の混合物であってもよい。
【0043】
特定の実施態様では、MS4A12mRNA又はMS4A12遺伝子は、(a)配列番号:1の核酸配列、その一部又は誘導体;(b)ストリンジェント条件下で(a)の核酸配列とハイブリダイズする核酸配列;(c)(a)又は(b)の核酸を縮重した核酸配列;(d)(a)、(b)又は(c)の核酸配列に相補的である核酸配列;並びに(e)配列番号:2のアミノ酸配列、その一部、バリアント、アイソフォーム又はホモログをコードする核酸配列からなる群から選択される核酸配列;を含む。
【0044】
さらに特定の実施態様では、MS4A12タンパク質は配列番号:2のアミノ酸配列、その一部、バリアント、アイソフォーム又はホモログからなる群から選択されるアミノ酸配列を含む。
【0045】
本発明のMS4A12の発現又は活性を低減又は阻害する剤は、MS4A12発現又は活性の低減又は阻害が処置に有益な疾患の処置に有用であり、特に、癌及び癌転移の処置に有用であり、好ましくは結腸癌及び結腸癌転移の処置に有用である。特に本発明のMS4A12の発現又は活性を低減又は阻害する剤は、腫瘍成長、腫瘍湿潤及び/又は腫瘍転移を低減又は阻害することができる。1つの実施態様では、本発明のMS4A12の発現又は活性を低減又は阻害する剤は、細胞におけるストア作動性Ca2+流入を低減又は阻害することができる。
【0046】
本発明は、さらに本発明のMS4A12の発現又は活性を低減又は阻害する剤を含む組成物に関し、好ましくは、細胞におけるMS4A12の発現又は活性の低減又は阻害に有効な量及び/又は濃度で、本発明のMS4A12の発現又は活性を低減又は阻害する剤を含む組成物である。この組成物は、本発明のMS4A12の発現又は活性を低減又は阻害する剤を単独で含んでいてもよいし、本発明のMS4A12の発現又は活性を低減又は阻害する異なる剤を組み合わせて含んでいてもよい。
【0047】
1つの実施態様では本発明の組成物はさらに、細胞におけるEGF受容体の発現又は活性を低減又は阻害する剤を含む。
【0048】
「細胞におけるEGF受容体の発現を低減又は阻害する剤」は、EGF受容体遺伝子の転写を低減若しくは阻害することができ、EGF受容体プレmRNAのプロセシング(例えばスプライシング、ポリアデニル化、キャッピング等)を低減若しくは阻害することができ、EGF受容体mRNAの半減期を低減することができ、及び/又はEGF受容体mRNAのタンパク質への翻訳を低減若しくは阻害することができる。特に、細胞におけるEGF受容体の発現を低減又は阻害する剤の存在下で、細胞におけるEGF受容体遺伝子から合成されるEGF受容体タンパク質の量は、低減される。
【0049】
「細胞におけるEGF受容体の活性を低減又は阻害する剤」はEGF受容体の1以上の活性を低減又は阻害することができる。「EGF受容体の活性」なる用語は、EGF受容体を持つ細胞がEGF受容体の活性化時に呈する何らかの応答を指し、特にEGFがEGF受容体に結合することにより呈するものをいう。しかしながら下記にてさらに説明するように、本発明による細胞におけるEGF受容体の活性は、EGF受容体がそのように干渉することにより低減又は阻害されてもよいし、のみならず、EGFのシグナル伝達に関与する何らかの構成要素により低減又は阻害されてもよい。
【0050】
EGF受容体の活性は、結腸腫瘍または結腸腫瘍転移のような腫瘍又は腫瘍転移の形成、進行及び/又は維持に伴うものであることが好ましい。EGF受容体の活性は、細胞成長、増殖,生存性、細胞周期の進行、遊走、化学走性及び湿潤を増大又は可能にすることからなる群から選択されるものであることが好ましい。
【0051】
細胞におけるEGF受容体の活性を低減又は阻害する剤は、EGF受容体と直接相互作用することにより該活性を低減又は阻害することができる。例えば、剤は、EGF受容体のリガンド結合部位を遮断でき、それによりEGFは受容体への結合が妨げられる。この点に関して、EGF受容体に特異的な抗体、拮抗性EGF擬似物質又はリガンド結合部位に結合できる低分子化合物は、適当な剤である。さらに、EGF受容体の二量体化を阻止できる剤であってもよい。かかる剤の例としては、EGF受容体単量体の不活性バリアント、具体的には、その優性ネガティブバリアント、及びEGF受容体単量体の二量化相互作用の表面に結合する抗体又は低分子化合物があげられ、EGF受容体のタンパク質チロシンキナーゼドメインを遮断できる剤、すなわちチロシンキナーゼ阻害剤であってもよく、低分子チロシンキナーゼ阻害剤が好ましい。また、EGF受容体とその下流相互作用パートナーとの相互作用が遮断できる剤とすることができ、例えばPLCγは、例えば相互作用パートナーに結合するEGF受容体の結合部位に結合することによって遮断することができる。
【0052】
別の実施態様では、細胞におけるEGF受容体の活性を低減又は阻害する剤は、EGF受容体と直接相互作用しない。具体的には、EGFと結合することで、EGFが受容体と結合することを妨げ、EGFの生成若しくは分泌を妨げ、又はEGFを分解する剤とすることができる。EGFに特異的な抗体は、このような剤の一例である。さらに、剤は、EGF受容体により誘起される1つ以上、好ましくは全てのシグナル伝達経路を低減又は阻害してもよく、具体的には、細胞内Ca2+貯蔵の枯渇及び/又はストア作動性Ca2+流入に至るシグナル伝達経路を低減又は阻害してもよい。例えば、剤は、PLCγのようなシグナル伝達経路に関与する1以上のタンパク質の発現又は活性を低減又は阻害するものであってもよい。このような剤の例として、こうしたタンパク質の発現を低減又は阻害するsiRNA及びアンチセンス核酸、並びにかかるタンパク質の1以上の活性(例えば、酵素活性又は相互作用パートナーに結合する能力)を低減又は阻害する抗体又は低分子化合物が挙げられる。
【0053】
上記で考察したように、該細胞におけるEGF受容体の活性の低減又は阻害によっても、細胞におけるEGF受容体の発現の低減又は遮断されることが好ましいと理解されるべきである。
【0054】
好ましい実施態様では、EGF受容体の発現又は活性を低減又は阻害する剤は、細胞に存在する1以上のEGF受容体、好ましくは全ての異なるEGF受容体の発現又は活性を低減又は阻害する。EGF受容体は好ましくは、ヒトEGFR、ヒトErbB−1又はヒトHER1のようなヒトEGF受容体である。しかしながら、EGF受容体はこれらのヒトEGF受容体の種相同体であってもよい。
【0055】
細胞におけるEGF受容体の発現又は活性を低減又は阻害する剤は、好ましくは、(i)EGF受容体mRNAを特異的に標的するsiRNA;(ii)EGF受容体をコードする核酸と選択的にハイブリダイズ可能なアンチセンス核酸;(iii)EGF受容体に選択的に結合可能な抗体;(iv)(i)のsiRNA、(ii)のアンチセンス核酸又は(iii)の抗体を発現可能な核酸分子;及び(v)EGF受容体に特異的なチロシンキナーゼ阻害剤;からなる群から選択される。
【0056】
細胞におけるEGF受容体の発現又は活性を低減又は阻害する剤の特定の例としては、抗体としてセツキシマブ、パニツムマブ、ザルツムマブ、ニモツズマブ及びマツズマブ、チロシンキナーゼ阻害剤としてゲフィチニブ、エルロチニブ及びラパチニブ(例えばSridharら、Lancet Oncol.4:397−406(2003))がある。
【0057】
1つの実施態様では、本発明の組成物は医薬組成物である。本発明の医薬組成物は、好ましくは、MS4A12の発現若しくは活性の低減若しくは阻害、及び/又は、EGF受容体の発現若しくは活性の低減若しくは阻害が治療に有益である疾患に有用であり、具体的には、癌及び癌転移に有用であり、好ましくは、結腸癌及び結腸癌転移の治療に有用である。本発明の医薬組成物は、医薬的に混合できる担体を含むことができる。
【0058】
本発明は、さらに本発明のMS4A12の発現又は活性を低減又は阻害する剤に細胞を接触させるステップを含む、EGFに対する細胞の応答性を低減又は阻害する方法に関するものであり、好ましくは、細胞におけるMS4A12の発現又は活性を低減又は阻害するのに有効な量及び/又は濃度で本発明のMS4A12の発現又は活性を低減又は阻害する剤に該細胞を接触させるものである。
【0059】
1つの実施態様では、剤を細胞の細胞外環境に添加することにより細胞の接触をさせる。この実施態様では、上記で記載されたような抗体を剤とすると好ましい。別の実施態様には、剤を細胞に導入して細胞を剤と接触させるものがある。この実施態様では、上記で記載されたようなsiRNA、アンチセンス核酸、又は、siRNA若しくはアンチセンス核酸を発現することが可能な核酸分子を剤とすると好ましい。剤の細胞への導入は、当分野において知られた何らかの方法により行えばよい。例えば、直接注入、リポソームのような脂質ベヒクルを使用する導入、エレクトロポレーション又は速度駆動トランスフェクション(velocity−driven transfection)法(例えば遺伝子銃)が、本発明のMS4A12の発現又は活性を低減又は阻害する何らかの剤の細胞導入に用いることができる。さらにプラスミドベクター若しくはウイルスベクターのようなベクターを使用するトランスフェクション、リン酸カルシウム沈澱、又はDEAE−デキストラン若しくはポリエチレンイミンのようなカチオン性重合体への結合が、siRNA、抗原核酸、及び、siRNA、抗原核酸又は抗体を発現できる核酸分子などの核酸から構成される、本発明のMS4A12の発現又は活性を低減又は阻害する剤の導入に用いることができる。
【0060】
EGFに応答する細胞は、MS4A12を発現することが好ましく、加えてEGF受容体を発現するとさらに好ましい。細胞は、腫瘍細胞(tumor cell)のような新生物細胞(neoplastic cell)が好ましい。
【0061】
1つの実施態様では、EGFに対する細胞の応答性を低減又は阻害する方法は、さらに、細胞におけるEGF受容体の発現又は活性を低減又は阻害する剤に該細胞を接触させるステップを含む。細胞におけるEGF受容体の発現又は活性を低減又は阻害する剤は、好ましくは上記で記載されたような剤である。具体的には、該剤は、(i)EGF受容体mRNAを特異的に標的するsiRNA;(ii)EGF受容体をコードする核酸に選択的にハイブリダイズ可能なアンチセンス核酸;(iii)EGF受容体に選択的に結合可能な抗体;(iv)(i)のsiRNA、(ii)のアンチセンス核酸又は(iii)の抗体を発現可能な核酸分子;及び(v)EGF受容体に特異的なチロシンキナーゼ阻害剤;からなる群から選択されることが好ましい。
【0062】
細胞におけるEGF受容体の発現又は活性を低減又は阻害する剤と細胞を接触させる前記ステップは、本発明のMS4A12の発現又は活性を低減又は阻害する剤に関して上記で記載されたものと同様な方法で実行することができる。細胞は、細胞におけるEGF受容体の発現又は活性を低減又は阻害する剤、及び、本発明のMS4A12の発現又は活性を低減又は阻害する剤に同時に接触させてもよいし、連続的に接触させてもよい。細胞を双方の剤に同時に接触させる場合、剤は1つの組成物中に存在させてもよいし、別個の組成物中に存在させてもよい。
【0063】
1つの実施態様では、インビトロでEGFに対する細胞の応答性を低減又は阻害する方法を実行する。この実施態様では、細胞は単離された細胞であってもよく、インビトロで培養された細胞が好ましい。さらに細胞は、組織試料中に含まれてもよいが、組織試料は、生物から単離されていることが好ましい。
【0064】
別の実施態様では、インビボでEGFに対する細胞の応答性を低減又は阻害する方法を実行する。この実施態様では、細胞は動物などの生物に存在し、動物としては、マウス若しくはラットのようなげっ歯類、霊長類又はヒトのような哺乳動物が好ましい。さらにこの実施態様では、本発明のMS4A12の発現又は活性を低減又は阻害する剤に細胞を接触させる前記ステップ、及び、随意に、細胞におけるEGF受容体の発現又は活性を低減又は阻害する剤に細胞を接触させる前記ステップは、好ましくは該(複数の)剤を生物に投与することを含む。(複数の)剤の投与は、下記で記載するように実施してもよいし、及び/又は、(複数の)剤を前記で記載された細胞に導入する何らかの方法を含んでもよい。投与のための(複数の)剤には、本明細書に記載されるような医薬組成物中に存在していることが好ましい。
【0065】
EGFに対する細胞の応答性を低減又は阻害する方法をインビボで実施する場合、癌及び/又は癌転移を処置するために実施されることが好ましい。
【0066】
つまり、さらなる態様では、本発明は、癌及び/又は癌転移、具体的には、結腸癌及び/又は結腸癌転移を処置する方法に関する。治療は、本発明のMS4A12の発現又は活性を低減又は阻害する剤を患者に投与することを含む。具体的にその方法は、本発明のMS4A12の発現又は活性を低減又は阻害する剤を、有効量、それを必要とする患者、好ましくは結腸癌又は結腸癌転移を有する患者に投与することを含む。その方法で、腫瘍成長、腫瘍湿潤及び/又は腫瘍転移が低減又は阻害されることが好ましい。
【0067】
1つの実施態様では、癌及び/又は癌転移を処置する前記の方法は、さらに細胞におけるEGF受容体の発現又は活性を低減又は阻害する剤を患者に投与することを含む。細胞におけるEGF受容体の発現又は活性を低減又は阻害する剤は、上記で記載されたような剤であることが好ましい。具体的には、該剤は、(i)EGF受容体mRNAを特異的に標的とするsiRNA;(ii)EGF受容体をコードする核酸と選択的にハイブリダイズ可能なアンチセンス核酸;(iii)EGF受容体に選択的に結合可能な抗体;(iv)(i)のsiRNA、(ii)のアンチセンス核酸又は(iii)の抗体を発現可能な核酸分子;及び(v)EGF受容体に特異的なチロシンキナーゼ阻害剤;からなる群から選択されることが好ましい。好ましくは、細胞におけるEGF受容体の発現又は活性を低減又は阻害する剤を有効量で投与する。
【0068】
本発明のMS4A12の発現又は活性を低減又は阻害する剤、及び、随意に細胞におけるEGF受容体の発現又は活性を低減又は阻害する剤を好ましくは本明細書に記載されるような医薬組成物で投与する。細胞におけるEGF受容体の発現又は活性を低減又は阻害する剤、及び、本発明のMS4A12の発現又は活性を低減又は阻害する剤は、同時に投与してもよいし、連続して投与してもよい。双方の剤を同時に投与する場合、1つの医薬組成物中に存在させてもよいし、別個の医薬組成物中に存在させてもよい。
【0069】
本発明によれば、「癌」及び「癌転移」なる用語は、各々好ましくはMS4A12の発現及び/又はEGF受容体の発現を特徴とする癌又は癌転移に関するものである。すなわち、本発明によれば、「癌」及び「癌転移」なる用語は、MS4A12を発現する癌若しくは癌転移の癌細胞の少なくとも一部、及び/又はEGF受容体を発現する癌細胞の少なくとも一部に関するものである。好ましい実施態様では、癌細胞の少なくとも一部はEGFを発現及び/又は分泌する。
【0070】
好ましくは、癌又は癌転移の癌細胞の少なくとも一部は、EGFに対する応答性を有する。EGFに対して応答性を有する細胞において、細胞の成長、増殖、生存性、細胞周期の進行、遊走、化学走性及び/又は湿潤がEGF存在下で増大することが好ましい。1つの実施態様では、癌または癌転移において腫瘍成長、腫瘍湿潤及び/又は腫瘍転移はEGF存在下で増大する。
【0071】
本発明は、さらに細胞におけるMS4A12の発現又は活性のレベルを決定するステップを含む、EGFに対する細胞の応答性を決定する方法に関する。この方法により、好ましくはEGFの添加に対して細胞が応答するかどうか、及び、どの程度まで応答するかに関して、定性的及び/又は定量的な結果に結論を下すことが可能になる。
【0072】
1つの実施態様では、細胞におけるMS4A12の発現のレベルを決定する前記ステップは、該細胞におけるMS4A12mRNA及び/又はMS4A12タンパク質の量を決定することを含む。MS4A12mRNA及び/又はMS4A12タンパク質の量の決定することには、MS4A12mRNA又はMS4A12タンパク質に特異的に結合する剤と細胞を接触し、剤とMS4A12mRNA又はMS4A12タンパク質との間の複合体の量を決定することが含まれると好ましい。
【0073】
本発明によれば、該MS4A12mRNAに特異的にハイブリダイズするオリゴヌクレオチドプローブ又はポリヌクレオチドプローブを使用してMS4A12mRNAの量の決定を実行してもよいし、PCR増幅により、該MS4A12mRNAの選択的増幅してMS4A12mRNAの量の決定を実行してもよい。1つの実施態様では、オリゴヌクレオチドプローブ又はポリヌクレオチドプローブは該MS4A12mRNAの6〜50の隣接ヌクレオチドに相補的である配列を含み、具体的には、10〜30、15〜30及び20〜30の隣接ヌクレオチドに相補的である配列を含む。
【0074】
本発明によれば、該MS4A12タンパク質に特異的に結合する抗体を使用してMS4A12タンパク質の量の決定を実施してもよい。
【0075】
EGFに対する細胞の応答性を決定する方法において、MS4A12mRNA及び/又はMS4A12タンパク質の量の決定に使用される剤は、検出可能な様式で標識されることが好ましく、具体的には、放射性マーカー、蛍光マーカー又は酵素マーカーなどの検出可能なマーカーにより標識されることが好ましい。
【0076】
細胞におけるMS4A12mRNA又はMS4A12タンパク質の存在は、細胞がEGFに対して応答性を有することで示すことが好ましい。細胞におけるMS4A12mRNA又はMS4A12タンパク質の量は、EGFに対する該細胞の予期される応答性のレベルと相関することが好ましい。したがって、細胞においてMS4A12mRNAまたはMS4A12タンパク質の量が高くなるほど、EGFに対する該細胞の予期される応答性のレベルが高くなる。
【0077】
細胞におけるMS4A12の活性のレベルを決定する前記ステップは、細胞におけるMS4A12の1以上の活性を決定することを含むことができる。
【0078】
好ましい実施態様では、EGFに対する細胞の応答性を決定する方法は、MS4A12の発現又は活性を低減又は阻害する剤の存在下及び/又は非存在下での細胞におけるMS4A12の活性のレベルを決定することを含み、具体的には、本発明のMS4A12の発現又は活性を低減又は阻害する剤の存在下及び/又は非存在下での細胞におけるMS4A12の活性のレベルを決定することを含む。
【0079】
MS4A12の活性の検出可能なレベルは、EGFに対する細胞の応答性の指標とすると好ましい。好ましくは、MS4A12の活性のレベルはEGFに対する細胞の予期される応答性のレベルと相関する。
【0080】
MS4A12の発現又は活性を低減又は阻害する剤の存在下及び/又は非存在下でMS4A12の活性のレベルを決定する場合、該剤の存在下でのMS4A12の活性のレベルの低下は、EGFに対する細胞の応答性の指標である。該剤の存在下でのMS4A12の活性のレベルにおける該低下の程度は、好ましくはEGFに対する細胞の予期される応答性のレベルと相関する。
【0081】
1つの実施態様では、細胞におけるMS4A12の活性のレベルを決定する前記ステップは、該細胞におけるストア作動性Ca2+流入を決定することを含む。ストア作動性Ca2+流入が、MS4A12の発現又は活性を低減又は阻害できる剤の存在下及び非存在下で決定されることが好ましく、具体的には、本発明のMS4A12の発現又は活性を低減又は阻害する剤の存在下及び非存在下で決定することが好ましい。該剤は、(i)MS4A12mRNAを特異的に標的するsiRNA;(ii)MS4A12をコードする核酸と選択的にハイブリダイズ可能なアンチセンス核酸;(iii)MS4A12に選択的に結合可能な抗体;及び(iv)(i)のsiRNA又は(ii)のアンチセンス核酸を発現可能な核酸分子;からなる群から選択されることが好ましい。
【0082】
1つの実施態様では、細胞におけるストア作動性Ca2+流入を決定することは、細胞へのCa2+及び/又はSr2+流入の量及び/又は時間経過を決定することを含む。
【0083】
細胞へのCa2+及び/又はSr2+流入の量を決定することは、好ましくは、測定の始めに細胞内Ca2+及び/又はSr2+濃度を決定し、測定の終わりに細胞内Ca2+及び/又はSr2+濃度を決定し、測定の終わりのCa2+及び/又はSr2+濃度と、測定の始めのCa2+及び/又はSr2+濃度との間の差を算出することを含み、前記差を細胞へのCa2+及び/またはSr2+流入の量とするものである。
【0084】
細胞へのCa2+及び/又はSr2+流入の時間経過を決定することは、好ましくは、一定時間の細胞内Ca2+及び/又はSr2+濃度をモニタリングすることを含み、Ca2+及び/又はSr2+濃度の増大をCa2+及び/又はSr2+の流入の指標とし、低下をCa2+及び/又はSr2+の流出の指標とするものである。細胞へのCa2+及び/又はSr2+流入の時間経過から、所定の時間の間に細胞に流入したCa2+及び/又はSr2+の量とCa2+及び/又はSr2+流入の速度とを算出することができる。
【0085】
1つの実施態様では、細胞へのCa2+及び/又はSr2+流入の量及び/又は時間経過は、所定の細胞外Ca2+及び/又はSr2+濃度で決定される。CaCl及び/又はSrClを細胞外環境に添加することにより、細胞外Ca2+及び/又はSr2+を提供することができる。所定の細胞外Ca2+及び/又はSr2+濃度は、約0.01mM〜約100mMが好ましく、約0.1mM〜約10mMがより好ましく、約0.5mM〜約2mMがさらに好ましく、約1mMが最も好ましい。
【0086】
Ca2+及び/又はSr2+の存在に感受性のある化合物によりCa2+及び/又はSr2+流入を測定することができる。この化合物は、Ca2+及び/又はSr2+の非存在下及び存在下で変化する検出可能なシグナルを提供するものが好ましい。検出可能なシグナルは、Ca2+及び/又はSr2+の濃度で変化するものが好ましく、Ca2+及び/又はSr2+の濃度と相関し得るものがより好ましい。1つの実施態様では、Ca2+及び/又はSr2+の存在に感受性のある化合物は、Ca2+感受性色素である。別の実施態様では、化合物を検出可能なマーカーで標識し、マーカーが検出可能なシグナルを提供する。検出可能なマーカーは、蛍光マーカー又は酵素マーカーが好ましい。
【0087】
好ましい実施態様では、Ca2+及び/又はSr2+の存在に感受性のある化合物は、アッセイされるべき細胞に存在し、細胞の細胞質にのみ存在するとさらに好ましい。例えば、FLIPRカルシウム3アッセイキット(Molecular Devices)を製造者の説明書に従って使用することができる。顕微鏡を使用してストア作動性Ca2+流入を測定してもよい。
【0088】
1つの実施態様では、細胞へのCa2+及び/又はSr2+流入の量及び/又は時間経過は、細胞内Ca2+貯蔵が枯渇した後に決定する。細胞内Ca2+貯蔵は、当分野において既知の任意の手段により枯渇させることができ、例えばタプシガルジンのような小胞体Ca2+−ATPアーゼ(SERCA)の阻害剤又はEGFのようなCa2+貯蔵を枯渇する天然の活性剤の投与により枯渇させてもよい。つまり、1つの実施態様では、さらに細胞をEGF及び/又はタプシガルジンと接触させることを含む。好ましくは、細胞内Ca2+貯蔵が細胞外Ca2+及び/又はSr2+の非存在下で枯渇し、該枯渇に続いてCa2+及び/又はSr2+を細胞の細胞外環境に添加する。
【0089】
ストア作動性Ca2+流入を決定するとき、Ca2+の代わりにSr2+を用いてもよいし、Sr2+流入の量及び/又は時間経過は、Ca2+流入の量及び/又は時間経過としてみなしてもよい。
【0090】
検出可能なストア作動性Ca2+流入は、EGFに対する細胞の応答性の指標とすると好ましい。ストア作動性Ca2+流入の程度は、EGFに対する細胞の予期される応答性のレベルに対応させることが好ましい。
【0091】
ストア作動性Ca2+流入がMS4A12の発現又は活性を低減又は阻害する剤の存在下及び非存在下で決定される場合、この剤の存在下におけるストア作動性Ca2+流入の減少がEGFに対する細胞の応答性の指標である。該剤の存在下におけるストア作動性Ca2+流入の低下の程度は、好ましくはEGFに対する細胞の予期される応答性のレベルに対応させる。
【0092】
EGFに対する細胞の応答性を決定する方法の1つの実施態様では、細胞におけるMS4A12の発現又は活性のレベルを決定した結果は、参照細胞におけるMS4A12の発現又は活性のレベルを決定した結果と比較される。参照細胞のEGFに対する応答性は既知であると好ましい。1つの実施態様では、参照細胞は腫瘍細胞である。分析されるべき細胞及び参照細胞は同じ種及び/又は同じ型のものであると好ましい。
【0093】
ある実施態様では、EGFに対する細胞の応答性を決定する方法は、さらに細胞におけるEGF受容体の発現又は活性のレベルを決定することを含む。EGF受容体の発現のレベルは、細胞において使用するEGF受容体mRNA及び/又はEGF受容体タンパク質の量を決定することによって決定されることが好ましく、例えば、EGF受容体mRNAに特異的にハイブリダイズする核酸分子などのEGF受容体mRNAに特異的に結合する剤、及び/又は、EGF受容体タンパク質に特異的な抗体などのEGF受容体タンパク質に特異的に結合する剤を使用して、細胞におけるEGF受容体mRNA及び/又はEGF受容体タンパク質の量を決定することにより、EGF受容体の発現のレベルを決定してもよい。EGF受容体の酵素的活性を決定することにより、EGF受容体の活性のレベルを決定してもよく、具体的には、標的タンパク質をリン酸化してその活性を決定してEGF受容体の活性のレベルを決定してもよい。
【0094】
EGFに対する細胞の応答性を決定する方法の1つの実施態様では、細胞は真核細胞であり、哺乳動物細胞が好ましく、ヒト細胞がさらに好ましい。細胞は腫瘍細胞が好ましい。1つの実施態様では、2以上の細胞のEGFに対する応答性を同時に決定する。
【0095】
好ましくは、インビトロでEGFに対する細胞の応答性を決定する方法を実行する。1つの実施態様では、細胞は、腫瘍試料から誘導されるか、又は、腫瘍試料に存在する腫瘍細胞である。この実施態様では、方法は、誘導された腫瘍細胞から腫瘍細胞のEGFに対する応答性を決定するために有用である。
【0096】
腫瘍試料は播種性腫瘍細胞又は転移性腫瘍細胞を含む腫瘍細胞を含有するものであればいかなる試料であってもよい。腫瘍試料は、結腸腫瘍若しくは結腸腫瘍転移の試料が好ましく、及び/又は、腫瘍細胞は、結腸腫瘍若しくは結腸腫瘍由来の転移細胞であることが好ましい。腫瘍試料は腫瘍又は転移性腫瘍細胞を含有する組織の生検試料であってもよい。また、腫瘍試料は糞便のような生物学的試料であってもよい。好ましくは、腫瘍試料は、癌、好ましくは結腸癌を有すると診断されている患者から得られる。
【0097】
EGFに対する腫瘍の応答性は、腫瘍が本発明の方法及び/又は別の抗EGF腫瘍療法によって処置できることを意味し、特に、本明細書に記載されるようなEGF受容体の発現又は活性を低減又は阻害する剤の投与を含む腫瘍治療によって治療されることを意味する。したがって、本発明の方法により腫瘍がEGFに対して応答するとして決定される場合、該腫瘍を有する患者は本発明の処置方法、及び/又は、別の抗EGF腫瘍療法による処置の成功を予期することができる。
【0098】
本発明はさらにEGFに対する細胞の応答性を増大する方法に関する。この方法は該細胞におけるMS4A12の発現及び/又は活性を増大することを含む。
【0099】
1つの実施態様は、MS4A12タンパク質又はMS4A12タンパク質を発現可能な核酸分子を細胞に導入することを含む方法である。核酸分子は発現プラスミド又はウイルスベクターなどのベクターであることが好ましい。MS4A12タンパク質又はMS4A12タンパク質を発現可能な核酸分子の細胞への導入は、当分野において知られた任意の方法により行えばよい。例えば直接注入、リポソームのような脂質ビヒクルを使用する導入、エレクトロポレーション又は速度駆動トランスフェクション(velocity−driven transfection)法(例えば遺伝子銃)を使用することができる。例えばウイルストランスフェクションを使用するトランスフェクション、リン酸カルシウム沈澱又はDEAE−デキストラン若しくはポリエチレンイミンのようなカチオン性重合体に結合することにより、MS4A12タンパク質を発現可能な核酸分子を細胞に導入してもよい。
【0100】
細胞はEGF受容体を発現することが好ましい。1つの実施態様では、EGFに対する細胞の応答性を増大する方法はさらに、該細胞におけるEGF受容体の発現及び/又は活性を増大することを含む。この実施態様は、好ましくはEGF受容体またはEGF受容体を発現可能な核酸分子を細胞に導入することを含む方法である。その導入はMS4A12タンパク質又はMS4A12タンパク質を発現可能な核酸分子の導入について上記で記載されたように実行することができる。
【0101】
EGFに対する細胞の応答性を増大する方法は、インビトロで実行してもよいし、インビボで実行してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0102】
【図1A】MS4A12発現は正常結腸粘膜及び結腸癌に限定される。 (A)正常組織及び結腸癌におけるMS4A12のエンドポイントRT−PCR(左)及び定量的リアルタイムRT−PCR(右)。各正常組織に関する5つまでの個々の組織標本の平均発現値を示す。エラーバー、STD;破線、発現カットオフ。
【図1B】(B)2つの個々のsiRNA二重螺旋でのトランスフェクション後48時間のLoVo結腸癌細胞におけるMS4A12タンパク質発現のサイレンシング。ns−siRNA、非サイレンシングsiRNA(左)。正常組織及び結腸癌におけるMS4A12タンパク質発現を抗MS4A12/N末端抗血清で検出した(右)。βアクチンを負荷対照として使用し、サイトケラチン18(KRT18)を上皮細胞に特異的なマーカーとして使用した。
【図1C】(C)高(MS4A12+++)及び低(MS4A12+)発現を伴う正常結腸及び結腸癌におけるMS4A12タンパク質発現のIHC検出。
【図2】MS4A12はCD20様細胞膜タンパク質である。 (A)MS4A12の予測される細胞膜トポロジー。CD20に対して高い相同性を有する領域を灰色で囲む。 (B)抗MS4A12/N末端抗血清で染色されたMS4A12−eGFPでトランスフェクトされたCHO細胞のIF顕微鏡的分析。 (C)対照siRNA又はMS4A12特異的siRNAでのトランスフェクション後48時間の抗MS4A12/N末端で染色されたLoVo細胞のIF顕微鏡的分析。 (D)N又はC末端eGFPタグ化MS4A12でトランスフェクトされたCHO細胞のFACS分析。透過処理されていない細胞及び透過処理された細胞をウサギポリクローナル抗eGFP抗体及び抗ウサギCy5−標識二次抗体で染色した。
【図3】MS4A12により媒介されるストア作動性カルシウム流入。(A)Tg(300nM)を用いたCa2+貯蔵−枯渇の後、MS4A12又は対照としてベクター単独を用いてトランスフェクトされたCHO細胞におけるCa2+(1mM)及びSr2+(1mM)流入を測定した。公知のSOC遮断薬La3+(25μM)を用いた細胞の前処理なし(左)、前処理あり(右)。(B)Tg(300nM)を用いたCa2+貯蔵−枯渇の後のLoVo細胞におけるCa2+(1mM)流入、La3+(25μM)での細胞の前処理なし(左)、前処理あり(右)。(C)EGF(50nM、上列;2nM、下列)に応答したCa2+貯蔵−枯渇の後に測定されたCa2+流入。La3+(25μM)での細胞の前処理なし(左)、前処理あり(右)。(3検体ずつで3回の別個の実験の代表的な結果を示す。)
【図4】MS4A12サイレンシングがLoVo結腸癌細胞の増殖を損なう。(A)siRNA導入後48時間のLoVo細胞を50nM EGFを伴って48時間培養した。新たに合成されたDNAへのBrdUの組み込んで、増殖を測定した。(B)異なる細胞周期状態の細胞分画の棒グラフとして示された、同じ条件下で培養されたLoVo細胞の細胞周期分析。全実験を3検体ずつで行い、2回繰り返し、全実験の平均値+/−STDを示す。p<0.05、**p<0.005。
【図5】MS4A12サイレンシングがLoVo結腸癌細胞の運動性及び湿潤を損なう。(A)上部及び下部チャンバーに添加された種々濃度のEGFを伴ってトランスウェル遊走アッセイでケモキネシス(細胞運動性)を分析し、12時間後に分析した。(B)化学誘引物質として種々濃度のEGFを下部チャンバーに添加してしまった後24時間のMatrigelへの化学走性湿潤の分析。各濃度のEGFに関してトランスフェクトされていない対照細胞に対してデータを正規化して、MS4A12ノックダウンが低EGF濃度で運動性及び湿潤に最も顕著な影響力を有することを強調する。全実験を3検体ずつで行い、2回繰り返し、全実験の平均値+/−STDを示す。p<0.05、**p<0.005。
【図6】siRNAを使用するMS4A12転写ノックダウンの定量化。 MS4A12発現結腸癌細胞系LoVoの細胞におけるMS4A12転写ノックダウンは、2つの個々のMS4A12特異的siRNA二重螺旋を用いてトランスフェクションした後48時間にリアルタイムRT−PCRにより定量された。安定かつ再現性のある構成的MS4A12 mRNA発現が90%まで低減したのが観察されたが、スクランブルされた非サイレンシング対照二重螺旋には影響しなかった。
【図7】正常組織におけるMS4A12発現のIHC分析。 正常結腸粘膜以外の精巣及び胃腸管組織から得られた切片における抗MS4A12/N末端抗体での免疫組織化学は、これらの複合性器官組織内に存在するより小さな亜集団がこのタンパク質をまさに発現することを除いて、検出可能なMS4A12染色を示さなかった。
【図8】MS4A12のアミノ酸配列アラインメント。(A)CD20ファミリーのその他のファミリーメンバーとのMS4A12タンパク質配列のアラインメント。MS4A1:配列番号:17;MS4A2:配列番号:18;MS4A3:配列番号:19;MS4A12:配列番号:2。(B)MS4A12タンパク質配列のCD20ドメインとのアラインメント(pfam04103;配列番号:20)。
【発明を実施するための形態】
【0103】
本明細書における数値範囲に対する参照は、該範囲が含む個々の数値の各々を特定し、言及するためのものであると理解されるべきである。
【0104】
「MS4A12」なる用語は「膜貫通4ドメイン、サブファミリーA、メンバー12」を指し、細胞により天然に発現され、又は、MS4A12遺伝子が導入された細胞により発現されるいかなるバリアントを含み、このバリアントとして、具体的には、MS4A12の任意のバリアント、特にスプライシングバリアント、立体構造、アイソフォーム及び種相同体が挙げられる。
【0105】
「MS4A12の核酸」、「MS4A12をエンコードする核酸」、「MS4A12をコードする核酸」、又は「MS4A12遺伝子」は、好ましくは、(a)配列番号:1の核酸配列、その一部又は誘導体;(b)ストリンジェント条件下で(a)の核酸配列とハイブリダイズする核酸配列;(c)(a)又は(b)の核酸の縮重配列;並びに(d)(a)、(b)または(c)の核酸配列に相補的な核酸配列;からなる群から選択される核酸に関する。その用語は、MS4A12をコードするmRNAも含むことができる。
【0106】
「MS4A12タンパク質」又は簡単に「MS4A12」は、好ましくは、前記で言及された核酸によりコードされるアミノ酸配列、好ましくは配列番号:2のアミノ酸配列、その一部又は誘導体からなる群から選択されるアミノ酸を含む。細胞において発現される場合、MS4A12タンパク質は好ましくは細胞膜に位置し、さらに好ましくは細胞膜に組み込まれている。好ましい実施態様では、そのアミノ末端及びカルボキシ末端は細胞質に位置し、1つのさらなる細胞質ドメイン、2つの細胞外ドメイン及び4つの膜貫通ドメインが存在するような様式でMS4A12は細胞の細胞膜に組み込まれている。MS4A12の細胞外ドメインは、好ましくは、配列番号:2のアミノ酸番号113〜126及び182〜201、又は、ヒトMS4A12の誘導体、アイソフォーム、若しくは、種相同体におけるアミノ酸番号に相当する。MS4A12の細胞外ドメインの境界は、またMS4A12のアミノ酸配列において1、2、3、4又は5アミノ酸位置まで移行し得ると理解されるべきである。MS4A12は、図2Aに示されるような細胞膜トポロジーを有することが好ましい。
【0107】
「MS4A12」なる用語はまた、細胞により天然に発現されるか、またはMS4A12遺伝子が導入された細胞により発現されるヒトMS4A12の翻訳後修飾されたバリアント、アイソフォーム及び種相同体をも含む。
【0108】
本発明によれば、核酸は、好ましくはデオキシリボ核酸(DNA)又はリボ核酸(RNA)である。本発明による核酸はゲノムDNA、cDNA、mRNA、組換えにより生成され、化学的に合成された分子を含む。本発明によれば、核酸は、一本鎖として存在してもよいし、二本鎖として存在してもよい。直鎖状で存在してもよいし、共有結合により環状に閉じた分子として存在してもよい。
【0109】
本明細書で使用される際には「RNA」なる用語は、少なくとも1つのリボヌクレオチド残基を含む分子を意味する。「リボヌクレオチド」とはβ−D−リボフラノース部分の2'位置でヒドロキシル基を有するヌクレオチドを意味する。その用語は二本鎖RNA、一本鎖RNA、単離されたRNA、例えば部分的に精製されたRNA、本質的に純粋なRNA、合成RNA、組換えにより生成されたRNAを含み、かつ、1以上のヌクレオチドの付加、欠失、置換及び/又は改変により天然由来RNAとは異なる改変されたRNAを含む。かかる改変には、非ヌクレオチド材料のRNAの(複数の)末端への、又は内部的に、RNAの1以上のヌクレオチドの付加を含むことができる。RNA分子におけるヌクレオチドは、また非天然由来ヌクレオチド若しくは化学的に合成されたヌクレオチド又はデオキシヌクレオチドのような非鎖状ヌクレオチドを含むことができる。これらの改変されたRNAは、アナログ又は天然由来RNAのアナログとも称することができる。
【0110】
本明細書において核酸の量の検出又は決定を参照する場合、実際に検出されるべき核酸、又は、実際に決定されるべきその量は、好ましくはmRNAである。しかしながら、間接的にmRNAが検出される実施態様、又は、mRNAの量が決定される実施態様も含まれてよいことは理解されるべきである。例えば、mRNAをcDNAに変換し、cDNAを検出したり、又は、cDNAの量を決定したりすることもできる。本明細書ではmRNAはcDNAと均等であると考える。当業者には、cDNA配列がmRNA配列と均等であり、本明細書で同じ目的のために、例えば検出されるべき核酸にハイブリダイズするプローブの作成に使用できると理解されよう。したがって本明細書において配列表に示される配列を参照する場合、これには該配列のRNA均等物もまた含まれることになっている。
【0111】
本発明に従って記載される核酸は好ましくは単離されている。本発明によれば「単離された核酸」なる用語は、核酸が(i)例えばポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によりインビトロで増幅された;(ii)クローニングにより組換えにより生成された;(iii)例えば切断及びゲル電気泳動分画化により精製された;または(iv)例えば化学合成により合成された;ことを意味する。単離された核酸は、組換えDNA技術による操作に利用可能な核酸である。
【0112】
本発明による縮重核酸は遺伝子コードの縮重のためにコドン配列において参照核酸とは異なる核酸である。
【0113】
本発明によれば、核酸の「誘導体」とは、1のヌクレオチド置換、欠失及び/又は付加が該核酸に存在すること、又は、少なくとも2、少なくとも4、あるいは、少なくとも6、かつ、好ましくは3以下、4以下、5以下、6以下、10以下、15以下、若しくは20以下のような複数のヌクレオチド置換、欠失及び/又は付加が該核酸に存在することを意味する。さらに「誘導体」なる用語はまた、ヌクレオチド塩基、糖又はリン酸における核酸の化学的誘導体化をも含む。「誘導体」なる用語は、天然に生じないヌクレオチド及びヌクレオチドアナログを含有する核酸をも含む。さらにRNAに関する「誘導体」なる用語は、また配列の安定化、キャッピング及び/又はポリアデニル化により修飾されているRNAをも含む。
【0114】
本明細書に記載される具体的な核酸配列と、該具体的な核酸配列とハイブリダイズする、及び/又は該具体的な核酸配列に関して縮重する、該具体的な核酸配列の誘導体である核酸配列との間の同一性の程度は、少なくとも70%、好ましくは少なくとも75%、好ましくは少なくとも80%、さらに好ましくは少なくとも85%、さらに好ましくは少なくとも90%、又は最も好ましくは少なくとも95%、96%、97%、98%若しくは99%である。同一性の程度は好ましくは少なくとも約30、少なくとも約50、少なくとも約70、少なくとも約90、少なくとも約100、少なくとも約150、少なくとも約200、少なくとも約250、少なくとも約300または少なくとも約400ヌクレオチドの領域に関して与えられる。好ましい実施態様では、同一性の程度は配列表において与えられる核酸配列のような参照核酸配列の全長に対して与えられる。
【0115】
2つの配列がハイブリダイズし、互いに安定した二重螺旋を形成することが可能である場合、核酸は別の核酸に対して「相補的」であり、好ましくは、ハイブリダイゼーションはポリヌクレオチド間で特異的なハイブリダイゼーションを可能にする条件(ストリンジェント条件)下で実施される。ストリンジェント条件は、例えばMolecular Cloning:A Laboratory Manual、J.Sambrookら、第2版(Cold Spring Harbor Laboratory press、コールドスプリングハーバー、ニューヨーク(1989)またはCurrent Protocols in Molecular Biology、F.M.Ausubelら編(John Wiley&Sons,Inc.、ニューヨーク)に記載され、例えばハイブリダイゼーション緩衝液(3.5×SSC、0.02%Ficoll、0.02%ポリビニルピロリドン、0.02%ウシ血清アルブミン、2.5mM NaHPO(pH7)、0.5%SDS、2mM EDTA)中65℃でのハイブリダイゼーションがある。SSCは0.15M塩化ナトリウム/0.15Mクエン酸ナトリウム、pH7である。ハイブリダイゼーションの後、DNAが移されている膜を例えば2×SSC中室温で、次に0.1−0.5×SSC/0.1×SDS中68℃までの温度で洗浄する。
【0116】
相補性パーセントは第2の核酸配列と水素結合(例えばワトソン・クリック塩基対形成)を形成することができる核酸分子における隣接残基のパーセンテージを示す(例えば10の核酸分子のうち、5、6、7、8、9、10の隣接残基は、50%、60%、70%、80%、90%及び100%相補性である)。「完全に相補的」又は「十分に相補的」とは、核酸配列の全ての隣接残基が第2の核酸配列における同数の残基と水素結合するであろうことを意味する。好ましくは本発明による相補性の程度は少なくとも70%、好ましくは少なくとも75%、好ましくは少なくとも80%、さらに好ましくは少なくとも85%、なおさらに好ましくは少なくとも90%または最も好ましくは少なくとも95%、96%、97%、98%もしくは99%である。最も好ましくは本発明による相補性の程度は100%である。
【0117】
「配列類似性」は、同一であるか、又は、保存アミノ酸置換を表すかのいずれかである。2つのポリペプチド又は核酸配列間の「配列同一性」は、配列間で同一であるアミノ酸又はヌクレオチドのパーセンテージを示す。
【0118】
「同一性パーセンテージ」なる用語は、比較されるべき2つの配列間で、最良のアラインメントの後に得られた同一であるヌクレオチド又はアミノ酸残基のパーセンテージを表示すると意図され、このパーセンテージは純粋に統計的であり、2つの配列間の差異は無作為、かつ、その全長にわたって分布される。2つのヌクレオチド又はアミノ酸配列間の配列比較を従来通りに、最適にそれらをアラインしてしまった後にこれらの配列を比較することにより実施し、局所領域の配列類似性を同定及び比較のために、セグメントにより、又は「比較のウィンドウ」により該比較を実施する。比較のための配列の最適なアラインメントは、手作業に加えてSmith及びWatermanの局所相同性アルゴリズム(Ads App.Math.2:482(1981))により、Neddleman及びWunschの局所相同性アルゴリズム(J.Mol.Biol.48:443(1970))により、Pearson及びLipmanの類似性検索方法(Proc.Natl.Acad.Sci.USA 85:2444(1988))により、又はこれらのアルゴリズムを使用するコンピュータープログラム(GAP、BESTFIT、FASTA、BLAST P、BLAST N及びTFASTA、Wisconsin Genetics Software Package、Genetics Computer Group、575サイエンスドライブ、マジソン、ウィスコンシン州)により生成されてもよい。
【0119】
同一性パーセンテージは、比較される2つの配列間の同一位置の数を決定し、この数を比較された位置の数で除し、得られた結果に100を乗じることにより計算され、これら2つの配列間の同一性パーセンテージが得られる。
【0120】
本発明によるペプチド若しくはタンパク質をコードする核酸又はsiRNAを発現可能な核酸又はアンチセンス核酸は単独で、又はその他の核酸、特に異種の核酸との組み合わせで存在し得る。好ましい実施態様では、核酸は、該核酸に関して同種又は異種でもよい発現制御配列又は調節配列と機能的に連結されている。コードする配列/発現配列の発現又は転写が該調節配列の制御下又は影響下にあるような方式で、コードする配列/発現配列及び調節配列が互いに共有結合により連結されている場合、それらは互いに「機能的に」連結されている。コードする配列が機能的タンパク質に翻訳されることになっている場合、次いで該コードする配列に機能的に連結された調節配列を用いて、該調節配列の誘導が該コードする配列の転写を招き、コードする配列又は望ましいタンパク質若しくはペプチドに翻訳できない該コードする配列におけるフレームシフトを引き起こさない。
【0121】
本発明による「発現制御配列」又は「調節配列」は、プロモーター、エンハンサー及び遺伝子の発現を調節するその他の制御エレメントを含む。本発明の特定の実施態様では、発現制御配列により調節されることができる。調節配列の正確な構造は種又は細胞型の機能に応じて異なるが、一般的にはTATAボックス、キャッピング配列、CAAT配列等のような転写及び翻訳の各々の開始に関与する5'非転写配列及び5'非翻訳配列を含む。さらに具体的には、5'非転写調節配列は、機能的に連結された遺伝子の転写制御のためのプロモーター配列を含むプロモーター領域を含む。調節配列はまたエンハンサー配列又は上流のアクチベーター配列を含み得る。
【0122】
本発明によれば、核酸はさらに、別の核酸と組み合わされて存在することができ、その核酸は、宿主細胞からの該核酸によりコードされたタンパク質又はペプチドの分泌を制御するペプチドをコードするものである。本発明によれば核酸はまた、コードされたタンパク質又はペプチドを宿主細胞の細胞膜上に繋留させるか、又は、該細胞の特定のオルガネラに区分化させるペプチドをコードする別の核酸と組み合わせて存在させてもよい。同様に、レポーター遺伝子又は何らかの「タグ」を表す核酸との組み合わせが可能である。
【0123】
好ましい実施態様では、本発明による組換え核酸分子はベクターであり、プロモーターに適切な場合、それは核酸の発現を制御する。「ベクター」なる用語は本明細書ではその最も一般的な意味で用いられ、該核酸が例えば真核細胞及び/又は原核細胞に導入されること、及び、適切な場合、ゲノムに組み込まれることを可能にする、核酸のための任意の媒介ベヒクルを含む。この種類のベクターは、好ましくは細胞において複製され及び/又は発現される。媒介ベヒクルは、例えばエレクトロポレーション、マイクロプロジェクタイルでのボンバードメント、リポソーム投与、アグロバクテリアを援用した移行、又は、DNAもしくはRNAウイルスを介する挿入における使用に適合させることができる。ベクターはプラスミド、ファゲミド、バクテリオファージ又はウイルスゲノムを含む。
【0124】
本明細書で使用される際には、「細胞」なる用語は、好ましくは真核細胞、さらに好ましくは哺乳動物細胞、最も好ましくはヒト細胞を指す。
【0125】
本発明によれば、「宿主細胞」なる用語は、外因性核酸で形質転換又はトランスフェクトできる任意の細胞に関する。本発明による「宿主細胞」なる用語は、原核細胞(例えば大腸菌)又は真核細胞(例えば樹状細胞、B細胞、CHO細胞、COS細胞、K562細胞、酵母細胞及び昆虫細胞)を含む。特に好ましいのはヒト、マウス、ハムスター、ブタ、ヤギ、霊長類由来の細胞など哺乳動物細胞である。細胞は多様な組織型から誘導され、一次細胞及び細胞系を含むことができる。具体的な例としては、ケラチノサイト、抹消血白血球細胞、骨髄の幹細胞及び胚性幹細胞を含む。核酸は、単一のコピー又は2つ以上のコピーの形態で宿主細胞に存在でき、1つの実施態様では宿主細胞において発現される。宿主細胞はヒト身体の一部ではないことが好ましい。
【0126】
本発明によれば、「発現」なる用語はその最も一般的な意味で用いられ、RNAの生成、又は、RNA及びタンパク質の生成を含み、核酸の部分的発現をも含む。さらに、一時的に又は安定して発現を行ってもよい。哺乳動物細胞における好ましい発現系は、pcDNA3.1及びpRc/CMV(Invitrogen、カールスバッド、カリフォルニア州)を含み、それは遺伝子にG418に対する抵抗性を付与する(したがって安定してトランスフェクトされた細胞系を選択することを可能にする)遺伝子のような選択マーカー及びサイトメガロウイルス(CMV)のエンハンサー−プロモーター配列を含有する。
【0127】
核酸の発現を調節、特に低減するために「アンチセンス核酸」を使用することができる。本発明による「アンチセンス核酸」なる用語は、オリゴリボヌクレオチド、オリゴデオキシリボヌクレオチド、修飾されたオリゴリボヌクレオチド又は修飾されたオリゴデオキシリボヌクレオチドであり、生理学的条件下で特定の遺伝子を含むDNA、又は、該遺伝子のmRNAにハイブリダイズし、それにより該遺伝子の転写及び/又は該mRNAの翻訳を阻害するオリゴヌクレオチドを指す。アンチセンス核酸は天然由来mRNAと二重螺旋を形成し、したがってmRNAの蓄積又は翻訳を防御できる。別の可能性は核酸を不活化するためのリボザイムの使用である。
【0128】
本発明に従って好ましいアンチセンスオリゴヌクレオチドは標的核酸の6〜50、特に10〜30、15〜30及び20〜30の隣接ヌクレオチドの配列を有し、標的核酸又はその一部に完全に相補的であると好ましい。
【0129】
好ましい実施態様では、アンチセンスオリゴヌクレオチドは翻訳開始部位、転写開始部位又はプロモーター部位のようなN末端又は5'上流部位にハイブリダイズする。さらなる実施態様では、アンチセンスオリゴヌクレオチドは3'非翻訳領域又はmRNAスプライシング部位にハイブリダイズする。
【0130】
1つの実施態様では、本発明のsiRNA又は本発明のアンチセンス核酸のようなオリゴヌクレオチドは、リボヌクレオチド、デオキシリボヌクレオチド又はその組み合わせからなり、一方のヌクレオチドの5'末端及び他方のヌクレオチドの3'末端は、リン酸ジエステル結合により互いに連結されている。これらのオリゴヌクレオチドを従来の様式で合成するされてもよいし、組換えにより生成されてもよい。
【0131】
好ましい実施態様では、オリゴヌクレオチドは「修飾された」オリゴヌクレオチドである。ここで、オリゴヌクレオチドは、その安定性や治療有効性等を増大させるため、その標的に結合する能力を損なわずに、かなり異なる方式で修飾されてもよい。本発明によれば、「修飾されたオリゴヌクレオチド」なる用語は、(i)そのヌクレオチドの少なくとも2つは合成用のヌクレオシド間結合(すなわちリン酸ジエステル結合ではないヌクレオシド間結合)により互いに連結されている;及び/又は(ii)通常、核酸に見出されない化学基が共有結合でオリゴヌクレオチドに連結されている;オリゴヌクレオチドを意味する。好ましい合成用のヌクレオシド間結合は、ホスホロチオアート、ホスホン酸アルキル、ホスホロジチオアート、リン酸エステル、チオホスホン酸アルキル、ホスホロアミダート、カルバマート、カルボナート、リン酸三エステル、アセトアミダート、カルボキシメチルエステル及びペプチドである。
【0132】
「修飾されたオリゴヌクレオチド」なる用語は、また、共有結合により修飾された塩基及び/又は糖を有するオリゴヌクレオチドを含む。「修飾されたオリゴヌクレオチド」は、例えば3'位のヒドロキシル基及び5'位のリン酸基以外の低分子量有機基に共有結合している糖残基をゆするオリゴヌクレオチドを含む。修飾されたオリゴヌクレオチドは、例えば、2'−O−アルキル化リボース残基を含んでいてもよいし、リボースの代わりにアラビノースのような別の糖を含んでいてもよい。
【0133】
オリゴヌクレオチドに関して上記で記載された全ての実施態様をポリヌクレオチドにも適用できることは理解されるべきである。
【0134】
ここで使用される「低分子干渉RNA」又は「siRNA」とは、標準的なワトソン・クリック塩基対形成相互作用により共にアニーリングされている(以下「塩基対形成された」ともいう。)センスRNA鎖と相補的アンチセンスRNA鎖とを含む、分子又は複合体を意味する。siRNAのセンス鎖及びアンチセンス鎖は、10ヌクレオチド長より大きいことが好ましく、15ヌクレオチド長より大きいとより好ましく、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29又は30ヌクレオチド長であると最も好ましい。19〜25ヌクレオチドの範囲がsiRNAに最も好ましい大きさである。
【0135】
本発明によれば、標的遺伝子のタンパク質生成物が生成されないか、又は生成される量が低減されるように、siRNAは特異的に標的し、標的遺伝子すなわち標的mRNAからRNAi誘起のmRNAの分解を引き起こす。
【0136】
本発明によるsiRNAは、部分的に精製されたRNA、実質的に純粋なRNA、合成RNA、又は組換えにより生成されたRNAを含み、加えて、1つ以上のヌクレオチドの付加、欠失、置換及び/又は改変により天然由来RNAとは異なる改変されたRNAを含むことができる。かかる改変には、非ヌクレオチド材料の、例えばsiRNAの(複数の)末端やsiRNAの1以上の内部ヌクレオチドへの付加;siRNAをヌクレアーゼ消化に対して抵抗性にする修飾(例えば2'置換リボヌクレオチドの使用又は糖−リン酸骨格に対する修飾);又はsiRNAにおける1以上のヌクレオチドのデオキシリボヌクレオチドとの置換;を含むことができる。さらに、siRNAは、修飾されたオリゴヌクレオチドに関して上記で記載されたように、その安定性を増大するために修飾されていてもよく、具体的には、1以上のホスホロチオエート連結を導入してsiRNAを修飾することができる。
【0137】
siRNAの1又は双方の鎖はまた3'−オーバーハングを含むことができる。ここで使用される際には、「3'−オーバーハング」とは、RNA鎖の3'末端から伸びる少なくとも1つの不対ヌクレオチドを指す。つまり、1つの実施態様では、siRNAは1〜約6ヌクレオチド(リボヌクレオチド又はデオキシヌクレオチドを含む)長の少なくとも1つの3'−オーバーハングを含み、好ましくは1〜約5ヌクレオチド長、より好ましくは1〜約4ヌクレオチド長、特に好ましくは約2〜約4ヌクレオチド長の少なくとも1つの3'−オーバーハングを含むことができる。siRNA分子の双方の鎖が3'−オーバーハングを含む実施態様では、オーバーハングの長さは各鎖で同じであってもよいし、異なっていてもよい。最も好ましい実施態様では、3'−オーバーハングはsiRNAの双方の鎖に存在し、2ヌクレオチド長である。例えば本発明のsiRNAの各鎖は、ジデオキシチミジル酸(「TT」)又はジウリジル酸(「uu」)の3'−オーバーハングを含むことができる。
【0138】
siRNAの安定性を増強するために、3'−オーバーハングを分解に対して安定化させることもできる。1つの実施態様では、アデノシン又はグアノシンヌクレオチドのようなプリンヌクレオチドを含めることによりオーバーハングを安定化する。また、修飾されたアナログによるピリミジンヌクレオチドの置換、例えば3'−オーバーハングにおけるウリジンヌクレオチドの2'−デオキシチミジンでの置換は、耐用性を有し、かつ、RNAi分解の効率に影響しない。特に2'−デオキシチミジンにおける2'−ヒドロキシルの不在は組織培養媒質中の3'−オーバーハングのヌクレアーゼ抵抗性を有意に増強する。
【0139】
siRNAのセンス鎖及びアンチセンス鎖は、2つの相補的な一本鎖RNA分子を含むことができるし、2つの相補的部分が塩基対形成され、一本鎖「ヘアピン」エリアにより共有結合により連結されている単一の分子を含むこともできる。すなわち、センス領域とアンチセンス領域とをリンカー分子を介して共有結合により接続することができる。リンカー分子は、ポリヌクレオチドとすることもできるし、非ヌクレオチドリンカーでとすることもできる。いかなる理論にも制約されることを望まないが、siRNA分子の後者の型のヘアピン領域は、「ダイサー」タンパク質(又はその均等物)により細胞内で切断されて、2つの個々の塩基対形成されたRNA分子のsiRNAを形成すると考えられている。
【0140】
ここで使用される「標的mRNA」とは、下方調節のための標的であるRNA分子を指す。当業者であれば、cDNA配列がmRNA配列と均等であり、本明細書において同じ目的、すなわちsiRNAの生成のために使用できると理解されよう。
【0141】
最初に転写されるヌクレオチドがプリンである場合にpol IIIプロモーターからのRNAの発現が効率的であるとだけ考えられているので、標的部位を変えずにpol III発現ベクターからsiRNAを発現することができる。
【0142】
本発明によるsiRNAは、標的mRNA配列(「標的配列」)のいずれかにおけるおよそ19〜25の隣接ヌクレオチドの任意のストレッチを標的とされることができる。siRNAに関する標的配列を選択するための技術は、例えばTuschl T.ら、「The siRNA User Guide」2002年10月11日改訂(その全開示を出典明示により本明細書の一部とする)にて与えられる。「The siRNA User Guide」はワールド・ワイド・ウェブのDr.Thomas Tuschl(ロックフェラー大学、RNA分子生物学研究室、ニューヨーク、米国)により管理されているウェブサイトで利用可能であり、ロックフェラー大学のウェブサイトにアクセスし、キーワード「siRNA」で検索することにより見出すことができる。したがって本siRNAのセンス鎖は、標的mRNAにおける約19〜約25ヌクレオチドの任意の隣接のストレッチに実質的に同一のヌクレオチド配列を含む。
【0143】
一般的に標的mRNA上の標的配列は、標的mRNAに相当する所定のcDNA配列から選択することができ、好ましくは開始コドンから50〜100ヌクレオチド下流で始まる(すなわち3'−方向で)cDNA配列から選択することができる。しかしながら、標的配列は5'−又は3'−非翻訳領域に位置することもできるし、開始コドンの近くの領域に位置することもできる。例えばMS4A12cDNA配列における適当な標的配列は、以下の群の標的配列から選択される:
(i)GATCATGGTTGGATTGATGCA(配列番号:3)
(ii)GTCAACCGGGTCAAGGAAATA(配列番号:6)
【0144】
配列(i)を標的とし、各鎖に3'−オーバーハングを有する(オーバーハングを下線で示す)好ましいsiRNAは:
5' ucaugguuggauugaugcaTT 3'(配列番号:4)
3' CTaguaccaaccuaacuacgu 5'(配列番号:5)
である。
【0145】
配列(ii)を標的とし、各鎖に3'−オーバーハングを有する(オーバーハングを下線で示す)好ましいsiRNAは:
5' caaccgggucaaggaaauaTA 3'(配列番号:7)
3' CAguuggcccaguuccuuuau 5'(配列番号:8)
である。
【0146】
前記のリストでは、核酸配列における全てのデオキシリボヌクレオチドは大文字で表され(例えばデオキシチミジンは「T」である)、核酸配列におけるリボヌクレオチドは小文字で表される(例えばウリジンは「u」である)。
【0147】
ここで与えられる標的配列はヒトMS4A12 cDNAに関するものであり、したがってこれらの配列は「T」により表されるデオキシチミジンを含有することは理解される。当業者であれば、MS4A12mRNAの実際の標的配列では、デオキシチミジンはウリジン(「u」)により置き換えられることは理解されよう。同様に本発明のsiRNA内に含有される標的配列には、デオキシチミジンの代わりにウリジンも含まれよう。
【0148】
siRNAは、当業者に知られた多くの技術を用いて得ることができる。例えばsiRNAは化学的に合成されることもできるし、Tushlらの米国特許出願公開第2002/0086356号(その全開示を出典明示により本明細書の一部とする)に記載されるDrosophilaインビトロ系のような当分野で知られる方法を用いて組換えにより生成することもできる。
【0149】
siRNAは、適切に保護されたリボヌクレオシドホスホラミダイト及び従来のDNA/RNA合成機を使用して化学的に合成することが好ましい。siRNAは、2つの別個の相補的なRNA分子として合成することができるし、2つの相補的領域を有する単一のRNA分子として合成することもできる。
【0150】
また、siRNAは、任意の適当なプロモーターを使用して組換え環状DNAプラスミド又は組換え線状DNAプラスミドから発現させることもできる。かかる実施態様は、本明細書でsiRNAの投与又はsiRNAの医薬組成物への組み込みを参照する場合に、本発明に従って含まれる。本発明のsiRNAをプラスミドから発現するために適当なプロモーターは、例えば、U6又はH1 RNA pol IIIプロモーター配列及びサイトメガロウイルスプロモーターが含まれる。
【0151】
その他の適当なプロモーターの選択は当分野の技術内である。組換えプラスミド又はウイルスベクターのようなsiRNAを発現するための核酸配列を含む核酸分子は、特定の組織又は特定の細胞内環境におけるsiRNAの発現のため、誘導プロモーターや調節プロモーターを含むこともできる。
【0152】
組換えプラスミドから発現されたsiRNAは、標準的な技術により培養細胞発現系から単離されるか、又は、細胞内で発現されるかいずれか行うことができる。siRNAは、組換えプラスミドから2つの別個の相補的なRNA分子として発現することができるし、又は、2つの相補的領域を有する単一のRNA分子のいずれかとして発現することもできる。
【0153】
siRNAを発現するのに適当なプラスミドの選択、siRNAを発現するために核酸配列をプラスミドに挿入するための方法、及び組換えプラスミドを目的の細胞に分配する方法は当分野の技術内である。
【0154】
siRNAは、細胞内インビボで組換えウイルスベクターから発現させることもできる。組換えウイルスベクターは、siRNAをコードする配列、及び、siRNA配列を発現するために適当な任意のプロモーターを含む。組換えウイルスベクターはまた、特定の組織又は特定の細胞内環境におけるsiRNAの発現のための誘導プロモーター又は調節プロモーターを含むこともできる。siRNAは、2つの別個の相補的なRNA分子として、又は、2つの相補的領域を有する単一のRNA分子として、組換えウイルスベクターから発現することができる。
【0155】
ヒトMS4A12遺伝子から転写されたmRNAは、当分野において周知の技術を用いて選択的スプライシング形態を分析することができる。かかる技術には逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT−PCR)、ノーザンブロッティング及びin−situハイブリダイゼーションが含まれる。
【0156】
「RNase保護」と称される技術を用いて選択的スプライシングされたMS4A12mRNAを同定することもできる。RNase保護は、遺伝子配列の合成RNAへの転写を含み、その他の細胞(例えばMS4A12の発現が誘起された細胞)から誘導されたRNAにハイブリダイズされることである。次いでハイブリダイズされた細胞をRNA:RNAハイブリッドミスマッチを認識する酵素と共にインキュベートする。予期されたフラグメントよりも小さいことは、選択的スプライシングされたmRNAの存在を示す。当推定上の選択的スプライシングmRNAは、当業者に周知の方法によりクローン化し、配列することができる。
【0157】
RT−PCRは、選択的スプライシングされたMS4A12mRNAを同定に使用することもできる。RT−PCRでは、MS4A12を発現することが知られている細胞からのmRNAが当業者に周知の方法を用いて逆転写酵素によりcDNAに変換される。cDNAの全コード化配列は、3'非翻訳領域に位置する順方向プライマー及び5'非翻訳領域に位置する逆方向プライマーを使用して、PCRを介して増幅される。増幅された生成物は、増幅された生成物の大きさと通常的にスプライシングされたmRNAからの予期される生成物の大きさとを、アガロース電気泳動等により比較するなどにより、選択的スプライシング形態を分析することができる。増幅された生成物の大きさのいかなる変化も選択的スプライシングを示すことができる。
【0158】
変異体MS4A12遺伝子から生成されたmRNAは、選択的スプライシング形態を同定するための上記で記載された技術を用いて容易に同定することもできる。ここで使用される際には「変異体」MS4A12遺伝子又はmRNAは、本明細書で示されるMS4A12配列とは配列で異なるヒトMS4A12遺伝子又はmRNAを含む。したがって、MS4A12遺伝子の対立遺伝子形態、及びそれから生成されたmRNAは本発明の目的のための「変異体」と考えられる。
【0159】
「低減する」又は「阻害する」とは、本明細書で使用される際には、参照試料(例えばsiRNAで処理されていない試料)と比較して、タンパク質又はmRNA等のレベルの全体的な低下を引き起こす能力を意味し、20%以上低下させると好ましく、50%以上がさらに好ましく、最も好ましくは75%、90%又は95%以上である。標的とされたmRNA切断又は分解を通してRNA又はタンパク質の発現を低減又は阻害することができる。タンパク質発現又は核酸発現のためのアッセイは当分野において知られており、例えばELISA、タンパク質発現のためのウェスタンブロット分析、及びRNAのためのノーザンブロッティング又はRNaseアッセイを含む。ある実施態様では、「阻害する」又は「阻害」なる用語は完全な阻害、すなわちレベルの100%低下を指す。
【0160】
「ペプチド」なる用語は、オリゴペプチド及びポリペプチドを含み、ペプチド結合により共有結合した2以上のアミノ酸を含む物質をいい、好ましくは3以上、好ましくは4以上、好ましくは6以上、好ましくは8以上、好ましくは10以上、好ましくは13以上、好ましくは16以上、好ましくは21以上、好ましくは8以下、10以下、20以下、30以下、40以下又は50以下、特に100以下のアミノ酸を含む物質を指す。「タンパク質」なる用語は大きなペプチド、好ましくは100を超えるアミノ酸残基を有するペプチドを指すが、一般的に「ペプチド」及び「タンパク質」なる用語は同義語であり、ここでは互換的に使用される。
【0161】
本発明に従って記載されるタンパク質及びペプチドは単離されていると好ましい。「単離されたタンパク質」又は「単離されたペプチド」なる用語は、タンパク質又はペプチドがその天然の環境から分離されていることを意味する。単離されたタンパク質又はペプチドは本質的に精製された状態でもよい。「本質的に精製された」なる用語は、タンパク質又はペプチドが、それが天然で又はインビボで随伴されるその他の物質を本質的に含んでいないことを意味する。
【0162】
かかるタンパク質及びペプチドは、例えば抗体の生成に用いられていもよいし、免疫学的アッセイ、診断アッセイ又は治療薬として使用されてもよい。本発明に従って記載されるタンパク質及びペプチドを組織又は細胞ホモジネートのような生物学的試料から単離してもよいし、非常に多数の原核生物又は真核生物発現系において組換えにより発現することもできる。
【0163】
本発明の目的のために、タンパク質、ペプチド、又はアミノ酸配列の「誘導体」はアミノ酸挿入バリアント、アミノ酸欠失バリアント及び/又はアミノ酸置換バリアントを含む。
【0164】
アミノ酸挿入バリアントは、アミノ末端及び/又はカルボキシ末端の融合に、さらに、特定のアミノ酸配列に1又は2以上のアミノ酸を挿入することも含む。得られる生成物の適切なスクリーニングで無作為挿入も可能になるが、挿入を有するアミノ酸配列バリアントの場合、アミノ酸配列の特定の部位に1以上のアミノ酸残基を挿入する。
【0165】
アミノ酸欠失バリアントは、配列からの1以上のアミノ酸の除去を特徴とする。
【0166】
アミノ酸置換バリアントは、配列における少なくとも1の残基が除去されており、別の残基がその場所に挿入されていることを特徴とする。相同なタンパク質若しくはペプチド間で保存されていないアミノ酸配列の位置が修飾されること、及び/又は、アミノ酸が同様な特性を有する他のアミノ酸に置き換えられることが好ましい。
【0167】
好ましくは、タンパク質、ペプチド、又はアミノ酸配列の「誘導体」は、50以下のアミノ酸が挿入、欠失及び/又は置換されたバリアントに関し、より好ましくは20以下、15以下、10以下、8以下、5以下、4以下、3以下、2以下又は1のみのアミノ酸が挿入、欠失及び/又は置換されたバリアントとすることができる。
【0168】
「保存的置換」は、例えば、伴われる残基の極性、電荷、溶解性、疎水性、親水性及び/又は両親媒性の性質における類似性に基づいてなされてもよい。例えば:(a)無極性(疎水性)アミノ酸には、アラニン、ロイシン、イソロイシン、バリン、プロリン、フェニルアラニン、トリプトファン及びメチオニンが含まれ;(b)極性中性アミノ酸には、グリシン、セリン、スレオニン、システイン、チロシン、アスパラギン及びグルタミンが含まれ;(c)正に荷電した(塩基性)アミノ酸には、アルギニン、リジン及びヒスチジンが含まれ;(d)負に荷電した(酸性)アミノ酸には、アスパラギン酸及びグルタミン酸が含まれる。典型的には置換を(a)〜(d)群内で行うことができる。加えて、グリシン及びプロリンは、α螺旋を乱すその能力に基づいて、相互に置換されてもよい。いくつかの好ましい置換が、以下の群の間で行われてもよい;(i)S及びT;(ii)P及びG;並びに(iii)A、V、L及びI。熟練した科学者は、公知の遺伝子コード、並びに、組換えDNA技術及び合成DNA技術が与えられると、保存的アミノ酸バリアントをコードするDNAを容易に構築することができる。
【0169】
本明細書に記載される特定のアミノ酸配列と、該特定のアミノ酸配列の誘導体であるアミノ酸配列との間の類似性、好ましくは同一性の程度は、少なくとも70%であり、好ましくは少なくとも80%、好ましくは少なくとも85%、さらに好ましくは少なくとも90%、又は最も好ましくは少なくとも95%、96%、97%、98%若しくは99%であることが好ましい。類似性又は同一性の程度は、少なくとも約20のアミノ酸の領域に関して与えられることが好ましく、少なくとも約40、少なくとも約60、少なくとも約80、少なくとも約100、少なくとも約120、少なくとも約140、少なくとも約160、少なくとも約200又は250のアミノ酸の領域に関して与えられることが好ましい。好ましい実施態様では、類似性又は同一性の程度は、参照アミノ酸配列の全長に関して与えられる。
【0170】
固相合成(Merrifield、1964)や類似の方法、又は組換えDNA操作などによる、公知のペプチド合成技術を用いることで、上記で記載されたアミノ酸バリアントは、容易に調製することができる。置換、挿入又は欠失を有するタンパク質及びペプチドを調製するDNA配列の操作は、例えばSambrookら(1989)に詳細に記載されている。
【0171】
本発明によれば、タンパク質及びペプチドの「誘導体」は、炭水化物、脂質及び/又はタンパク質若しくはペプチドなどのタンパク質又はペプチドに結合する任意の分子を一又は複数置換、欠失及び/又は付加したものを含む。「誘導体」なる用語はまた該タンパク質及びペプチドの全ての機能的な化学的均等物にまでも及ぶ。
【0172】
本発明によれば、タンパク質又はペプチドの一部又は断片は、誘導されたタンパク質又はペプチドの機能的特性を有することが好ましい。かかる機能的特性は、抗体との相互作用、その他のペプチド又はタンパク質との相互作用、核酸の選択的結合及び酵素活性を含む。タンパク質又はペプチドの一部又は断片は、タンパク質又はペプチドの隣接アミノ酸を少なくとも6含むことが好ましく、特に少なくとも8、少なくとも10、少なくとも12、少なくとも15、少なくとも20、少なくとも30又は少なくとも50含むことが好ましい。タンパク質又はペプチドの一部又は断片は、タンパク質又はペプチドの隣接アミノ酸を8以下含むことが好ましく、特に10以下、12以下、15以下、20以下、30以下、又は55以下含むことが好ましい。タンパク質又はペプチドの一部又は断片は、非膜貫通タンパク質に相当する部分が好ましく、具体的には、タンパク質若しくはペプチドの細胞外部分、又はそれらが含まれていることが好ましい。
【0173】
タンパク質又はペプチドをコードする核酸の一部又は断片は、この発明によれば、上記で定義されたタンパク質若しくはペプチド、及び/又は該タンパク質若しくはペプチドの一部若しくは断片を少なくともコードする核酸の一部に関する。タンパク質又はペプチドをコードする核酸の一部又はフラグメントは、翻訳領域(Open Reading Frame)に相当する核酸の部分であることが好ましい。
【0174】
本発明によれば、「結合」なる用語は、好ましくは特異的な結合に関する。「特異的な結合」とは、抗体などの剤が、エピトープなど別の標的に対する結合と比較して特異的である標的に、より強力に結合することを意味する。剤は、第2の標的に関する解離定数(K)よりも低い解離定数(K)を有する第1の標的に結合する場合、第2の標的と比較して第1の標的により強力に結合する。剤が特異的に結合する標的の解離定数(K)が、剤が特異的に結合しない標的の解離定数(K)よりも10倍を超えると好ましく、20倍を超えると好ましく、より好ましくは50倍を超え、さらに好ましくは100倍を超えるが、200倍、500倍又は1000倍未満が好ましい。
【0175】
本発明によれば、特異的抗体は、その標的に特異的に結合する抗体に関する。かかる特異的抗体は、例えば、その標的で免疫することによって得ることができ、例えばMS4A12タンパク質又はその細胞外領域などその一部で免疫することにより得てもよい。
【0176】
標的タンパク質に特異的に結合する特異的抗体を含有する抗血清は、種々の標準的な方法により調製することができる;例えば「Monoclonal Antibodies:A Practical Approach」、Philip Shepherd、Christopher Dean、ISBN0−19−963722−9;「Antibodies:A Laboratory Manual」、Ed Harlow、David Lane、ISBN:0879693142、「Using Antibodies:A Laboratory Manual:Portable Protocol NO」、Edward Harlow、David Lane、Ed Harlow、ISBN:0879695447参照。これによりその未変性の形態の複合膜タンパク質を認識するアファイン及び特異的抗体を作成することも可能である(Azorsaら、J.Immunol.Methods 229:35−48(1999);Andersonら、J.Immunol.143:1899−1904(1989);Gardsvoll,J.Immunol.Methods 234:107−116(2000))。このことは、特に治療的に使用されるべき抗体の調製に関係する。これに関して、生理学的に折り畳まれた形態で標的分子を発現する細胞と同様に、タンパク質全体で細胞外部分配列を免疫することができる。
【0177】
モノクローナル抗体は伝統的にハイブリドーマテクノロジーを用いて調製される(技術的な詳細に関しては:「Monoclonal Antibodies:A Practical Approach」、Philip Shepherd、Christopher Dean、ISBN:0−19−963722−9;「Antibodies:A Laboratory Manual」、Ed Harlow、David Lane、ISBN:0879693142;「Usin Antibodies:A Laboratory Manual:Portable Protocol NO」、Edward Harlow、David Lane、Ed Harlow、ISBN:0879695447参照)。
【0178】
抗体分子の小部分であるパラトープのみが、そのエピトープへの抗体の結合に関与することが知られている(Clark,W.R.(1986)、The Experimental Foundations of Modern Immunology、Wiley&Sons,Inc.、ニューヨーク;Roitt,I.(1991)、Essential Immunology、第7版、Blackwell Scientific Publications、オックスフォード参照)。pFc'及びFc領域は、例えば、補体カスケードのエフェクターであるが、抗原結合に関与しない。pFc'領域が酵素により除去されている抗体、又はpFc'領域なく生成された抗体は、F(ab')断片と称され、完全抗体の抗原結合部位を双方が担持する。同様に、Fc領域が酵素により除去された抗体、又は、該Fc領域なく生成されている抗体は、Fab断片と称され、インタクトの抗体分子の抗原結合部位を担持する。さらにFab断片は、共有結合した抗体の軽鎖と該抗体の重鎖との部分からなり、Fdと称される。Fd断片は抗体特異性の主な決定因子であり(抗体の特異性を改変することなく、単一のFd断片を10以下の異なる軽鎖と結合させることができる)、Fd断片は単離された場合、エピトープに結合する能力を保持する。
【0179】
抗体の抗原結合部分内には、抗原エピトープと直接相互作用する相補性決定領域(CDR)と、パラトープの三次元構造を維持するフレームワーク領域(FR)とが位置している。Fd断片の重鎖とIgG免疫グロブリンの軽鎖の双方が、3つの相補性決定領域(CDR1〜CDR3)により各々の状況で分離されている4つのフレームワーク(framework region)領域(FR1〜FR4)を含有する。CDR、特にCDR3領域、及び、とりわけ重鎖のCDR3領域が抗体特異性にかなりの程度、関与する。
【0180】
哺乳動物抗体の非CDR領域は、元来の抗体のエピトープに関する特異性は保持されたまま、同じ又は異なる特異性を有する抗体の類似領域と置き換えることができることが知られている。これにより、非ヒトCDRがヒトFR及び/又はFc/pFc'領域に共有結合により連結されて、機能的な抗体を生成する「ヒト化」抗体の開発が可能になった。
【0181】
別の実例として、国際公開第92/04381号パンフレットには、ネズミのFR領域が少なくとも部分的にヒト由来のFR領域と置き換えたヒト化ネズミRSV抗体の生成及び使用について記載されている。抗原結合能力を有するインタクト抗体の断片を含むこの種の抗体は、しばしば「キメラ」抗体と称される。
【0182】
本発明によれば、「抗体」なる用語にはまた、抗体のF(ab')、Fab、Fv及びFd断片、Fc及び/又はFR及び/又はCDR1及び/又はCDR2及び/又は軽鎖CDR3領域が相同なヒト又は非ヒト配列で置き換えられているキメラ抗体、FR及び/又はCDR1及び/又はCDR2及び/又は軽鎖CDR3領域が相同なヒト又は非ヒト配列で置き換えられているキメラF(ab')断片抗体、FR及び/又はCDR1及び/又はCDR2及び/又は軽鎖CDR3領域が相同なヒト又は非ヒト配列で置き換えられているキメラFab断片抗体、並びFR及び/又はCDR1及び/又はCDR2領域が相同なヒト又は非ヒト配列で置き換えられているキメラFd断片抗体が含まれる。また、「抗体」なる用語は「一本鎖」抗体を含む。
【0183】
抗体は、標的抗原を発現する細胞及び組織を表示する特異的なマーカー物質に結合させてもよいし、治療的に有用な物質に結合させてもよい。
【0184】
マーカー物質は、次の機能をする任意の標識を含む;(i)検出可能なシグナルを提供する;(ii)第2の標識と相互作用して第1若しくは第2の標識により提供される検出可能なシグナルを修飾する、例えばFRET(蛍光共鳴エネルギー転移);(iii)電荷、疎水性、形状若しくはその他の物理的パラメーターにより移動度、例えば電気泳動移動度に影響を及ぼす、又は(iv)捕捉部分、例えば親和性、抗体/抗原もしくはイオン性複合体形成を提供する。標識として適当なものは、蛍光標識、発光標識、発色団標識、放射性同位元素標識、同位体標識などの構造であり、好ましくは安定した同位体標識、等圧性標識、酵素標識、粒子標識、特に金属粒子標識、磁性粒子標識、ポリマー粒子標識、ビオチンのような低分子量有機分子、受容体のリガンド又は細胞接着タンパク質若しくはレクチンのような結合分子、結合剤の使用により検出することができる核酸及び/又はアミノ酸残基を含む標識配列等がある。マーカー物質は、限定されないが、硫酸バリウム、イオセタム酸、イオパノ酸、イポダートカルシウム、ジアトリゾ酸ナトリウム、ジアトリゾ酸メグルミン、メトリザミド、チロパノ酸ナトリウム及びフッ素−18及び炭素−11のような陽電子放射体、ヨウ素−123、テクネチウム−99m、ヨウ素−131及びインジウム−111のようなガンマ放射体を含む放射性診断薬、フッ素及びガドリニウムのような核磁気共鳴のための核種を含む。
【0185】
本発明によれば、「低分子化合物」は低分子量の化合物であり、好ましくは20.000Da以下、さらに好ましくは15.000Da以下、10.000Da以下、7.500Da以下、5.000Da以下、2.000Da以下、又は1.000Da以下の分子量を有する化合物である。好ましくは、低分子化合物は有機化合物である。低分子化合物は、修飾又は未修飾の天然由来化合物であってもよいし、化学的に合成された化合物であってもよい。好ましくは、低分子化合物はポリマー化合物ではない。しかしながら、低分子化合物はポリヌクレオチド又はポリペプチドであってもよい。
【0186】
本発明によれば、EGF受容体は上皮成長因子(EGF)が結合する受容体である。好ましくは、EGF受容体は細胞膜に位置し、より好ましくは膜貫通タンパク質である。好ましくは、EGF受容体はチロシンキナーゼ受容体であり、活性は標的タンパク質のリン酸化である。好ましいEGF受容体は、ヒトEGFR、ヒトErbB−1又はヒトHER1である。しかしながら、EGF受容体は、これらのヒトEGF受容体の種相同体であってもよい。
【0187】
本発明によれば、「治療上有用な物質」なる用語は、治療効果を奏し得る任意の分子を意味する。本発明によれば、治療上有用な物質には、抗癌剤、放射性ヨウ素標識された化合物、毒素、細胞分裂阻害薬又は細胞溶解薬等が含まれる。抗癌剤は例えばアミノグルテチミド、アザチオプリン、硫酸ブレオマイシン、ブスルファン、カルムスチン、クロラムブシル、シスプラチン、シクロホスファミド、シクロスポリン、シタラビジン(cytarabidine)、ダカルバジン、ダクチノマイシン、ダウノルビン(daunorubin)、ドキソルビシン、タキソール、エトポシド、フルオロウラシル、インターフェロン−α、ロムスチン、メルカプトプリン、メトトレキサート、ミトタン、プロカルバジンHCl、チオグアニン、硫酸ビンブラスチン及び硫酸ビンクリスチンを含む。その他の抗癌剤は、例えば、Goodman及びGilman、「The Pharmacological Basis of Therapeutics」第8版(1990)、McGraw−Hill,Inc.、特に第52章(Antineoplastic Agents(Paul Calabresi及びBruce A.Chabner)に記載されている。毒素は、ヨウシュヤマゴボウ抗ウイルスタンパク質、コレラ毒素、百日咳毒素、リシン、ゲロニン、アブリン、ジフテリア外毒素又はシュードモナス外毒素のようなタンパク質であってもよい。毒素残基はまたコバルト60のような高エネルギー放出放射性核種であってもよい。
【0188】
本発明による「患者」なる用語はヒト、非ヒト霊長類又は別の動物、特にウシ、ウマ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、イヌ、ネコ、又はマウス及びラットのようなげっ歯類のような哺乳動物を意味する。特に好ましい実施態様では、患者はヒトである。
【0189】
本発明による「増大した」又は「増大した量」なる用語は、好ましくは少なくとも10%、特に少なくとも20%、少なくとも50%又は少なくとも100%の増大を指す。さらに「増大」なる用語はまた、増大されるべき効果又は量が増大の前に存在しなかった、すなわちゼロであったが、増大後に存在する、すなわちゼロよりも大きくなる状況もいう。
【0190】
本発明によれば、「癌」なる用語は任意の癌を含み、好ましくはMS4A12の発現を特徴とする癌、すなわち癌の癌細胞の少なくとも一部がMS4A12を発現する癌を指す。さらに好ましくは、EGF受容体の発現を特徴とし、すなわち癌細胞の少なくとも一部がEGF受容体を発現する癌である。より好ましい実施態様では、EGF受容体の発現及びEGF受容体の発現を特徴とする癌であり、すなわち癌の癌細胞の少なくとも一部がMS4A12を発現し、癌細胞の少なくとも一部がEGF受容体を発現するものである。最も好ましくは、癌細胞の少なくとも一部がMS4A12及びEGF受容体を発現する。
【0191】
本発明によれば、「癌」なる用語は癌の転移を含む。好ましい実施態様では、癌は結腸癌であり、癌転移は結腸癌転移、すなわち結腸癌から誘導された癌転移である。好ましくは、癌は結腸癌腫のような癌腫(carcinoma)、特に結腸の腺癌のような腺癌(adebicacrcinoma)である。
【0192】
「結腸癌」及び「結腸直腸癌」なる用語は本明細書では互換的に用いられ、結腸の癌及び直腸の癌を含む。同様に、「結腸腫瘍」及び「結腸癌腫」なる用語は、各々「結腸直腸腫瘍」及び「結腸直腸癌腫」をも含む。
【0193】
「腫瘍」(tumor)とは、急速に制御なく細胞が増殖することにより成長し、新しい成長を開始した刺激が停止した後に成長を続ける細胞又は組織の異常な群を意味する。腫瘍は構造的構成及び正常組織との機能的協調の部分的又は完全な欠如を示し、通常、組織の明確な腫瘤を形成し、良性又は悪性のいずれであってもよい。好ましくは本発明による腫瘍は、結腸腫瘍である。
【0194】
本発明によれば、「新生物細胞」(neoplastic cell)は異常に増大した細胞増殖を示す細胞である。本発明によれば、「癌細胞」(cancer cell)は癌疾患に関与する細胞であり、腫瘍細胞(tumor cell)、白血病細胞及び転移の細胞を含む。本発明によれば、「腫瘍細胞」は腫瘍組織に存在する細胞である。好ましくは「癌細胞」又は「腫瘍細胞」は新生物細胞である。「癌細胞の少なくとも一部」なる用語は、好ましくは癌細胞の少なくとも5%、少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%又は約100%を指す。
【0195】
「転移」とはその起源の部位から身体の別の部分への癌細胞の広がりを意味する。転移の形成は非常に複雑な過程であり、原発腫瘍からの悪性細胞の剥離、細胞外マトリックスの湿潤、体腔及び血管に侵入するための内皮基底膜の透過、そして、血液により輸送された後、標的器官の浸入によって決まる。最後に、標的部位での新しい腫瘍の成長は、血管形成によって決まる。腫瘍細胞又は構成要素は残存し、転移潜在能力が発達することもあるので、腫瘍転移は原発腫瘍の除去の後でさえもしばしば生じる。1つの実施態様では、本発明による「転移」なる用語は、原発腫瘍及び所属リンパ節系から離れている転移に関する「遠隔転移」に関する。
【0196】
本発明によれば、「腫瘍試料」は1以上の腫瘍細胞を含有する試料である。腫瘍試料は、体液を含む組織試料及び/又は細胞試料でもよく、パンチ生検を含む組織生検や血液、気管支吸引液、痰、尿、糞便又はその他の体液の採取など従来の様式で得ることができる。本発明によれば、「腫瘍試料」なる用語は、腫瘍試料の分画をも含む。好ましくは、腫瘍試料は腫瘍を有する患者から得られ、好ましくは該患者から単離される。
【0197】
本発明はまた核酸、タンパク質又はペプチドの投与を提供する。核酸、タンパク質及びペプチドは、それ自体、知られた様式で投与することができる。例えば、核酸はウイルス及び標的制御(target-controlled)リポソームのようなベクターを使用することによりインビボで投与できる。本発明による核酸の投与又は医薬組成物への組み込みを参照する場合、核酸がかかるベクターに存在する実施態様が含まれる。
【0198】
好ましい実施態様では、核酸の投与のためのウイルス又はウイルスベクターは、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、ワクチニアウイルス及び弱毒化ポックスウイルスを含むポックスウイルス、セムリキ森林ウイルス、レトロウイルス、シンドビスウイルス及びTyウイルス様粒子からなる群から選択される。特に好ましいのは、アデノウイルス及びレトロウイルスである。レトロウイルスは典型的には複製欠損である(すなわちそれらは感染性粒子を作成することが不可能である)。
【0199】
核酸を細胞にインビトロ又はインビボで導入する方法は、核酸のトランスフェクション、リン酸カルシウム沈澱、DEAEに随伴される核酸のトランスフェクション、目的の核酸を担持する上記のウイルスでのトランスフェクション又は感染、リポソーム媒介トランスフェクション等を含む。具体的な実施態様において好ましいのは、核酸を特定の細胞に指向させることである。かかる実施態様では、核酸の細胞への投与のために用いられるキャリアー(例えばレトロウイルス又はリポソーム)は、結合標的制御分子を有していてもよい。例えば、標的細胞上の表面膜タンパク質に特異的な抗体などの分子、又は、標的細胞上の受容体のリガンドは、核酸キャリアーに組み込んでもよいし、付着させてもよい。リポソームを介する核酸の投与が望ましい場合、エンドサイトーシスに関連する表面膜タンパク質に結合するタンパク質は、標的制御及び/又は取り込みを可能にするためにリポソーム処方物に組み込むことができる。かかるタンパク質には、特定の細胞型に特異的であるカプシドタンパク質又はその断片、内部移行するタンパク質に対する抗体、細胞内部位に向かうタンパク質等が含まれる。
【0200】
本発明の治療用組成物は、医薬的に混合できる調製物で投与することができる。かかる調製物は通常、医薬的に混合できる濃度の塩、バッファー物質、保存剤、キャリアーを含有してもよく、アジュバントのような免疫強化物質(CpGオリゴヌクレオチド、サイトカイン、ケモカイン、サポニン、GM−CSF及び/又はRNA)や、適切な場合、その他の治療に活性な化合物を補充する。
【0201】
本発明の治療的に活性な剤は、注射又は注入を含む任意の従来の経路を介して投与することができる。投与は、例えば、経口的に、静脈内、腹腔内、筋肉内、皮下、経皮又は直腸内に実施することができる。アンチセンス核酸は好ましくは緩徐な静脈内投与により投与される。
【0202】
本発明の組成物を有効量で投与する。「有効量」とは単独で、又はさらなる用量と一緒に望ましい反応又は望ましい効果を達成する量を指す。特定の疾患又は特定の症状の処置の場合、望ましい反応は、好ましくは疾患の経過の阻害に関する。これは疾患の進行を緩徐化すること、特に疾患の進行を妨害するか又は逆転させることを含む。疾患又は症状の処置における望ましい反応は、該疾患又は該症状の発症を遅らせ、又は、発症を妨げることあってもよい。本発明によれば、癌の処置には既に形成されているか又は形成されるであろう癌転移の処置も含まれ得る。本発明によれば、「処置」なる用語は、治療的処置、及び、予防的処置(すなわち予防)を含む。
【0203】
本発明の組成物の有効量は、処置されるべき症状、疾患の重篤度、年齢、生理学的状態、サイズ及び体重を含む患者の個々のパラメーター、処置の継続期間、併用療法の型(存在する場合)、投与の具体的な経路及び同様な因子に依存するであろう。
【0204】
本発明の医薬組成物は、好ましくは無菌であり、望ましい反応又は望ましい効果を生じるために有効量の治療的に活性な剤を含有する。
【0205】
本発明の組成物の投与される用量は、投与の型、患者の症状、望ましい投与の期間等のような種々のパラメーターにより決定してもよい。患者における反応が初期用量で不十分な場合には、高用量(異なる又はさらに局所化された投与の経路により達成される有効な高用量)を使用されてもよい。
【0206】
本発明の剤の用量は、一般的に1ng〜1mgであるが、好ましくは10ng〜100μgを処方、投与し、処置又は免疫応答を作成又は増大する。siRNA、アンチセンス核酸又は抗体をコードする核酸分子のような核酸(DNA及びRNA)の投与が望ましい場合は、1ng〜0.1mgが処方され、投与される。
【0207】
本発明の医薬組成物は、一般的に医薬的に混合できる量で、かつ、医薬的に混合できる組成物で投与される。「医薬的に混合できる」なる用語は、医薬組成物の活性成分の作用と相互作用しない無毒性の材料を指す。この種類の調製物は、通常、塩、バッファー物質、保存剤、キャリアーを含み、適切な場合、その他の治療的に活性な化合物を含有してもよい。医薬品で使用される場合、塩は医薬的に混合されるべきである。しかしながら、医薬的に混合しない塩は、医薬的に混合できる塩の調製のために用いられてもよく、本発明に含まれる。この種の薬理学的及び医薬的に混合できる塩は、限定するものではないが、以下の酸から調製されるものを含む:塩酸、臭化水素酸、硫酸、硝酸、リン酸、マレイン酸、酢酸、サリチル酸、クエン酸、ギ酸、マロン酸、コハク酸等。医薬的に混合できる塩をナトリウム塩、カリウム塩又はカルシウム塩のようなアルカリ金属塩又はアルカリ土類金属塩として調製することもできる。
【0208】
本発明の医薬組成物は医薬的に混合できる担体を含むことができる。本発明によれば、「医薬的に混合できる担体」なる用語は、ヒトへの投与のために適当である1つ以上の混合できる固体又は液体の充填剤、希釈剤又は被包物質を指す。「担体」なる用語は、天然又は合成の有機又は無機成分を指し、適用を促進するために活性成分が組み合わされる。本発明の医薬組成物の成分は、通常、望ましい医薬的有効性を実質的に損なう相互作用を生じないようなものである。
【0209】
本発明の医薬組成物は、酢酸の塩、クエン酸の塩、ホウ酸の塩及びリン酸の塩のような適当なバッファー物質を含有できる。
【0210】
医薬組成物は、適切な場合、塩化ベンザルコニウム、クロロブタノール、パラベン及びチメロサールのような適当な保存剤も含んでいてもよい
【0211】
医薬組成物は、通常、均一な投薬形態で提供され、それ自体既知の様式で調製することができる。本発明の医薬組成物は、例えばカプセル、錠剤、坐剤、ロゼンジ、溶液、懸濁液、シロップ、エリキシルの形態で又はエマルジョンの形態でもよい。
【0212】
非経口投与に適当な組成物は、通常、活性化合物の無菌水性又は非水性調製物を含み、好ましくはレシピエントの血液と等張である。混合できる担体及び溶媒の例としては、リンガー液及び等張塩化ナトリウム溶液がある。加えて、通常、無菌の固定油を溶液又は懸濁液媒質として使用する。
【0213】
以下の図面及び実施例により本発明を詳細に記載するが、それらは例証目的のためだけに使用され、限定することを意図するものではない。記載及び実施例のために、同様に本発明に含まれるさらなる実施態様が当業者に利用可能である。
【実施例】
【0214】
本明細書で言及される技術及び方法はそれ自体既知の様式で実施され、例えばSambrookら、Molecular Cloning:A Laboratory Manual、第2版(1989)(Cold Spring Harbor Laboratory Press、コールドスプリングハーバー、ニューヨーク)に記載される。具体的に示さない場合、キット及び試薬の使用を含む全ての方法を製造者の情報に従って実施する。
【0215】
[腫瘍において異常に活性化された胎盤特異的遺伝子に関するスクリーニング]
<組織及び細胞系>
官許を得て、ラインラント・パラチナート(Rhineland−Palatinate)の州政府の規則に従って組換えDNA作業を行った。新鮮凍結組織は、日常的な診断実務又は治療実務の間にヒト余剰材料として入手した。長時間の暴露を回避するように注意を払い、組織を−80℃で用時まで貯蔵した。結腸癌細胞系LoVoをDMEM+10%FBS中で培養した。
【0216】
<発見のためのデータマイニング手法>
最初の工程として、dbESTレポートファイル(ftp://ncbi.nlm.nih.gov/repository/dbEST)の生物分野でキーワード「ホモサピエンス」を含有した全ての利用可能なライブラリーから一般的なヒト発現配列タグ(EST)ファイルを創成した。アプローチの複雑さを低減するため、100を超えるEST、及び、既知の全長遺伝子をコードするESTのみを表すライブラリーのみを考慮した。次にライブラリー名、生物、組織型、器官又は細胞系分野で「結腸」なる用語を含有した一般的なファイルから全てのこれらのESTを抜き出すことにより、結腸組織特異的サブファイルを作成した。合計で、4,021のcDNAライブラリーで表された6,280,883のESTを分析した。いくつかのESTが同じ遺伝子から誘導され得るという事実を説明するために、配列同一性が高い1つ以上のストレッチを共有するESTを集めたクラスターに結腸組織ESTを群分けした。一覧表におけるヒトESTの全てに対して結腸組織ESTサブファイルで記録された各配列に関してS=300;V=300;B=300;n=−20でセットされた相同性ストリンジェンシーを用いて配列相同性検索プログラムblastn(www.ncbi.nlm.nih.gov/BLAST)を逐次的に実行した。結腸組織サブファイルからの各クエリーESTに関して、検索により一般的なESTファイルからEST入力(ヒット)のリストが抜き出され、各々が由来する組織で注釈を付け、「エレクトロニックノーザン(electronic Northern)」を提供した。かかるヒットリストで表された種々の非結腸組織の数を決定して、各個々のESTの結腸組織特異性の程度に関する測定値として使用した。この手順により得られた全ての候補物質は、SMART(http://smart.embl.de/smart)によるモチーフ及び構造分析に供して、潜在表面分子を同定した。この手順により得られた候補物質は、SMARTによるモチーフ及び構造分析に供して、トポロジー的にCD20に類似した表面分子を同定した(最低要件:TMHMMに従って膜貫通ドメインと見なされる少なくとも4つの疎水性領域、及び少なくとも1つの細胞外ループの予測)。
【0217】
<RNA単離、RT−PCR及びリアルタイムRT−PCR>
RNA抽出、第1鎖cDNA合成、RT−PCR及びリアルタイムRT−PCRは、以前に記載されたとおりに行った(Koslowskiら、Cancer Res.64:5988−93(2004))。簡単には、全細胞RNAを凍結組織標本からRNeasyミニキット(Qiagen)を使用して抽出し、dT18オリゴヌクレオチドをプライマーとし、Superscript II(Invitrogen−Life Technologies,Inc.)で製造者の説明書に従って逆転写した。得られたcDNAの完全性は、30サイクルPCR(センス、5'−CGT GAG CGC TTC GAG ATG TTC CG−3'(配列番号:15);アンチセンス,5'−CCT AAC CAG CTG CCC AAC TGT AG−3'(配列番号:16);アニーリング温度67℃)でp53転写物の増幅により試験した。
【0218】
エンドポイント分析のために、MS4A12特異的オリゴヌクレオチド(センス5'−GAG CTT TCC CGT TGT CTG GTG−3'(配列番号:11);アンチセンス5'−GCT GAA GAA GAC GCT GGT GTC−3'(配列番号:12)、60℃アニーリング)を35サイクルRT−PCRで使用した。リアルタイム定量的発現分析は、40サイクルRT−PCRで3検体ずつ実施した。HPRT(センス5'−TGA CAC TGG CAA AAC AAT GCA−3'(配列番号:13);アンチセンス5'−GGT CCT TTT CAC CAG CAA GCT−3'(配列番号:14)、62℃アニーリング)に正規化した後、ΔΔCT計算を用いて腫瘍試料中のMS4A12転写物を正常な組織に相対して定量した。PCR反応の特異性は、任意に選択された試料から、増幅生成物をクローニングし、配列を決定することにより確認した。
【0219】
<抗血清、免疫蛍光及び免疫化学>
ポリクローナル抗血清を組換えにより発現されたMS4A12のフラグメント(アミノ酸1−63)に対して上昇させ、カスタム抗体サービス(Squarix)によりアフィニティー精製した。組織凍結切片でVECTOR NovaRED基質キット(Vector)を製造者の説明書に従って使用して、免疫組織化学を実施した。ウェスタンブロット分析のために、Triton−Xで溶解した細胞から抽出した全タンパク質20μgを使用した。抽出物は還元試料バッファー(Roth、カールスルーエ、ドイツ)で希釈し、SDS−PAGEに供し、引き続いてPVDF膜(Pall)に電子伝達した。MS4A12、KRT18(Abcam)及びβアクチン(Abcam)に反応性を有する抗体で免疫染色した後、一次抗体を西洋ワサビペルオキシダーゼ抱合ヤギ抗マウス及びヤギ抗ウサギ二次抗体(Dako)で検出した。
【0220】
<siRNA二重螺旋>
MS4A12 mRNA配列(NM 017716.1;配列番号:1)のヌクレオチド344−363(siRNA#1、センス5'−r(UCA UGG UUG GAU UGA UGC A)dTdT−3'(配列番号:4)、アンチセンス5'−r(UGC AUC AAU CCA ACC AUG A)dTdC−3'(配列番号:5))及びヌクレオチド247−266(siRNA#2、センス5'−r(CAA CCG GGU CAA GGA AAU A)dTdA−3'(配列番号:7)、アンチセンス5'−r(UAU UUC CUU GAC CCG GUU G)dAdC−3'(配列番号:8))を標的とする2つの個々のMS4A12 siRNA二重螺旋(Qiagen)を設計した。対照として非サイレンシングsiRNA二重螺旋(センス5'−r(UAA CUG UAU AAU CGA CUA G)dTdT−5'(配列番号:9)、アンチセンス5'−r(CUA GUC GAU UAU ACA GUU A)dGdA−3'(配列番号:10))を使用した。MS4A12サイレンシング研究のため、HiPerFectトランスフェクション試薬(Qiagen)を製造者の説明書に従って使用して、細胞に10nM siRNA二重螺旋を導入した。
【0221】
<カルシウム造影>
全ての緩衝液は125mM NaCl、5mM KCl、1mM MgCl、20mM HEPESを含有し、NaOHでpHを7.4に調整した。指示されたように、CaCl及びSrClを最終濃度1mMでバッファーに添加した。Ca2+フリー緩衝液は、0.2mM EGTAを含有した。タプシガルジン、EGF及びLa3+を指示された濃度で使用した。FLIPRカルシウム3アッセイキット(Molecular Devices)を製造者の説明書に従って使用して細胞のフルオロフォア標識を行った。Olympus−IX71倒立顕微鏡及びTILLvisIONソフトウェア(TILL Photonics)を使用して、細胞内カルシウムの変化を記録した。種々の試薬を灌流させながら50セル超の視野の蛍光値を記録した。全てのアッセイを4検体ずつ行い、2回繰り返した。
【0222】
<細胞増殖分析>
siRNA二重螺旋を導入した24時間後に、1×10セルを血清フリーの媒質中で12時間培養した。媒質にEGF(50nM)を補充し、48時間後に、DELFIA細胞増殖キット(Perkin Elmer)を製造者の説明書に従って使用して、Wallac Victorマルチラベルカウンター(Perkin Elmer)で新たに合成されたDNA鎖へのBrdUの組み込みを測定することにより、増殖を分析した。全てのアッセイを3検体ずつ行い、2回繰り返した。
【0223】
<細胞周期分析>
siRNA二重螺旋を導入した24時間後に、1×10セルを血清フリーの媒質中で12時間培養した。媒質にEGF(50nM)を補充し、48時間後に細胞を収集し、EtOH固定し、ヨウ化プロピジウムで染色して、フローサイトメトリーによるDNA含量分析した。細胞周期の異なる相の細胞をFlowJo(商標)(Tree Star)フローサイトメトリー分析ソフトウェアを使用して定量した。全てのアッセイを3検体ずつ行い、2回繰り返した。
【0224】
<細胞遊走及びインビトロ侵襲アッセイ>
8.0μm孔膜(BD Biosciences)を有するトランスウェルチャンバーで、種々の濃度のEGFを伴う媒質中で培養された細胞を用いて細胞運動性(ケモキネシス)アッセイを行った。siRNA二重螺旋を導入した24時間後に細胞を血清フリーの媒質中で12時間培養し、4×10セルを上部チャンバーに添加した。上部及び下部双方のチャンバーが同等な濃度のEGF(50、10、2又は0.4nM)を含有した。24時間後、膜の底側に遊走した細胞を氷冷メタノールに固定した。膜を切除し、顕微鏡スライドに載せ、蛍光顕微鏡用にHoechst(Dako)に載置した。5つの無作為な視野の細胞(拡大率100倍)を各膜に関して計数した。全ての実験を3検体ずつ行った。インビトロ侵襲アッセイ用に、血清フリーの媒質中1mg/mlに希釈したMatrigel(BD Biosciences)100μlで上部チャンバーを調製した。ゲル化びため、チャンバーを37℃で5時間インキュベートした。全てのアッセイを3検体ずつ行い、2回繰り返した。
【0225】
<統計>
腫瘍段階及びグレードを有する結腸癌試料における正規化されたMS4A12 mRNA発現レベルの相関分析は、GraphPad Prismソフトウェアパッケージ(GraphPadソフトウェア)でKruskal−WallisノンパラメトリックANOVA検定を用いて行った。LoVo細胞の増殖、細胞周期の進行、遊走及び湿潤におけるMS4A12サイレンシングの統計的有意性は、siRNA処理された細胞における効果を未処理細胞と比較してGraphPad Prismソフトウェアパッケージ(GraphPadソフトウェア)で不対t検定を用い、siRNA処理された細胞における効果を未処理細胞と比較して計算した。
【0226】
[結果及び考察]
ゲノム規模のデータマイニング手法を結腸癌のモノクローナル抗体治療のための標的の検索に適用した。デジタルcDNAライブラリーサブトラクションに基づくアプローチにより、膜貫通ドメインと見なされる少なくとも4つの疎水性領域を伴うCD20タンパク質に構造的に類似し、結腸上皮細胞に精緻な特異性を有する分化遺伝子を発見した。かかる候補物質を引き続いてこの系列から誘導された癌における保存された発現に関して試験した。使用された検索基準に完全に適合するものをコンピュータースクリーニングし、ヒットしたものの1つがMS4A12であった。この分子は、実際に、CD20(MS4A1)、高親和性IgE受容体β鎖(FcεRIβ)(MS4A2)及びHTm4(MS4A3)のような構造的に関係する細胞表面タンパク質を含むMS4Aファミリーのメンバーである(Ishibashiら、Gene 264:87−93(2001);Liangら、Immunogenetics 53:357−68(2001);Liangら、Genomics 72:119−27(2001))。MS4Aファミリーの大部分のメンバーは、造血性又はリンパ性細胞系列の分化遺伝子であることが以前に示されているが、これとは対照的に、MS4A12はかかる細胞では検出されていない(Liangら、Immunogenetics 53:357−68(2001);Liangら、Genomics 72:119−27(2001))。
【0227】
どのヒト組織がMS4A12を発現するかを決定するため、組織のタイプごとに5人までのドナーから、27の異なる正常ヒト組織標本が包括的に準備され、特異的エンドポイント及び定量的リアルタイムRT−PCRによりプロファイリングされた。組織は、エンドポイントRT−PCRで可視的な増幅生成物がなかった場合において、全ての正常な非結腸組織試料における平均発現のカットオフ+3STDを超えないとき(99%パーセンタイル値)は、陰性として分類された。MS4A12発現は、正常結腸粘膜に限局されることが見出された。全てのその他の正常組織では、転写物レベルは標準的な35サイクルRT−PCRの検出限界を下回り(図1A、左)、微量のMS4A12転写物のみが40サイクルの定量的リアルタイムRT−PCRの後に検出され(図1A、右)、1/5精巣標本のみがわずかに発現カットオフを超えた(表1)。
【0228】
[表1]
定量的リアルタイムRT−PCRにより型付けされた組織におけるMS4A12の発現。2〜5人の異なる個体から得られた標本を正常組織型ごとに調査した。正常組織に関するカットオフは、結腸を除く正常組織における平均発現+3STD(検出限界を10倍超える相対発現)に設定した。腫瘍組織では検出限界を少なくとも100倍超える発現値のみが陽性と採点された。
【0229】
【表1】

【0230】
腫瘍標本のプロファイリングにより、40のうち25(63%)の結腸癌がMS4A12を発現することが示された。qPCRにより測定されるような結腸癌試料におけるMS4A12の発現の頻度を過大評価しないために、正常組織カットオフを少なくとも10倍超える転写物レベルが陽性として分類された(表2)。
【0231】
[表2]
分析した結腸癌試料の特徴。MS4A12の組織学、UICC臨床段階、等級(G)及び相対発現値。検出限界を少なくとも100倍超える発現レベルを有する腫瘍試料のみを陽性とした。
【0232】
【表2】

【0233】
試料集団内のMS4A12の発現レベルは腫瘍段階又は腫瘍等級とは相関しなかった(p=0.68及びp=0.36、Kruskal−Wallis)。MS4A12は乳癌、肺癌、前立腺癌、胃癌、腎細胞癌、悪性メラノーマ、肝細胞癌、白血病、頭頸部癌を含むいずれのその他のヒト腫瘍型でも検出されなかった(表1)。
【0234】
タンパク質発現の分析のため、MS4A12のN末端の63のアミノ酸に対応する組換えにより発現されたポリペプチド(NP_060186)に対して上昇させた、アフィニティー精製されたポリクローナルウサギ抗体(抗MS4A12/N末端)が使用された。抗体遺伝子の特異性を検証するため、短干渉RNA(siRNA)によるMS4A12のサイレンシングを用いた。2つの個々のMS4A12特異的siRNA二重螺旋を用いたMS4A12発現結腸癌細胞系LoVoのトランスフェクションにより、安定かつ再現性よく、90%まで構成的MS4A12mRNA発現を低減させたが、スクランブルされた非サイレンシング対照二重螺旋では影響がなかった(図6)。この観察に合致して、ウェスタンブロットにおいて、LOVO細胞のライゼート中のMS4A12の予測される大きさに従って検出されるおよそ35kDaのバンドは、完全に消失した(図1b)。このことは、抗体が特異性を有することと、MS4A12タンパク質の発現が強力にノックダウンされたことを証明した。抗MS4A12/N末端を有する一次ヒト組織試料におけるMS4A12タンパク質のウェスタンブロット染色により、結腸癌標本におけるMS4A12タンパク質の発現が、正常組織で唯一MS4A12タンパク質を発現する正常結腸粘膜に匹敵するレベルであることが確認された。しかし、RT−PCRにより陰性と型付けされた組織では、MS4A12タンパク質の発現は確認されなかった。標本において上皮細胞部分が高いことの結果として、結腸癌に高いレベルのMS4A12タンパク質が観察されることは、上皮細胞のマーカーであるサイトケラチン−18(KRT18)に対する正規化により除外された。
【0235】
正常結腸粘膜上の抗MS4A12/N末端抗体での免疫組織化学により、正常結腸陰窩の上皮細胞の特徴的で明らかな頂端膜染色が認められた(図1C)。その他の胃腸管組織及び精巣から得られた切片では、これらの複合器官組織内に存在するより小さな亜集団がこのタンパク質をまさに発現することを除いて、MS4A12染色を検出することができなかった(図7)。結腸癌では新生物細胞集団のみが染色されたが、隣接する間質細胞及び非新生物性上皮細胞は陰性であった。さらなる細胞質免疫染色が観察されたが、腫瘍細胞の染色は細胞膜では明白に際立ち、MS4A12が細胞表面タンパク質であるという予測を立証した(Liangら、Genomics 72:119−27(2001))。染色した結腸癌試料の試験的なセットでは、同質の強い発現を有する腫瘍とともに、より異種性の弱い発現を有する標本が観察された(図1C)。
【0236】
CD20の膜トポロジーは、MS4Aファミリーの原型(プロトタイプ)の要素として広く特徴付けられている。CD20は、細胞質性アミノ及びカルボキシ終端と、2つの細胞外ループを形成する4つの膜貫通ドメインとを有する297アミノ酸タンパク質である(Cartronら、Blood 104:2635−42(2004))。MS4Aファミリーメンバー間でかなりの配列同一性があるので(図8a)、その他のMS4Aタンパク質がCD20の表面局在及び特有のトポロジーを共有すると予測されている(Liangら、Genomics 72:119−27(2001))。CD20ドメイン(pfam04103)を有するMS4A12タンパク質配列のアラインメントにより、アミノ酸レベルで43%配列類似性が示された(図8B)。その他のMS4A12ファミリーメンバーに関する報告に類似して、最初の3つの膜貫通ストレッチで最も高度な同一性が見出され(Liangら、Genomics 72:119−27(2001))、4回膜貫通トポロジーが予測された(図2A)。細胞膜の位置は、eGFPタグ化MS4A12構築物が導入されたCHO細胞の免疫蛍光顕微鏡により、実験的に確認された(図2B)。また、抗MS4A12/N末端抗体によりMS4A12を構成的に発現するLoVo結腸癌細胞が明確に細胞膜染色し、MS4A12のsiRNA誘起ノックダウン時にこれが喪失されることによって、さらに支持された(図2c)。予測されたトポロジーを検証するため、CHO細胞に、N末端又はC末端のいずれかでeGFPでタグ化されたMS4A12構築物が導入され、PFA固定の後、抗eGFP抗体で染色した。N末端及びC末端双方に局在するeGFPは、サポニンでトランスフェクトされた細胞を透過処理した後のフローサイトメトリー分析によってのみ検出可能であったが(図2D)、抗体が細胞内への透過を害される条件下では検出されなかった。要約すると、これらのデータにより、N及びC末端の細胞内局在を有する予測されたトポロジーが支持されるとともにMS4A12が細胞表面に局在することが支持される。
【0237】
CD20はストア作動性Ca2+チャネル(SOCC)活性を保有することが示されているので(Liら、J.Biol.Chem.278:42427−34(2003))、MS4A12もまた容量性のカルシウム流入にも関与し得ることが仮定された。MS4A12をコードするプラスミド又は対照として空のベクターのいずれかを導入したCHO細胞を小胞体Ca2+−ATPアーゼ(SERCA)の特異的阻害剤であるタプシガルジン(Tg)で処理して細胞内カルシウム貯蔵を枯渇させた(Thastrupら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 87:2466−70(1990))。Sr2+流入は内因性及び外因性に発現されたSOCチャネルを区別できる可能性があるので、Ca2+流入に加えてSr2+流入もまた試験した(Liら、J.Biol.Chem.278:42427−34(2003);Maら、Science 287:1647−51(2000))。Ca2+感受性色素の蛍光検出により測定されるCa2+レベルの基準値は、対照、及び、MS4A12発現CHO細胞において同一であった(図3A)。予測したように、双方の細胞系において、細胞外Ca2+の非存在下でTgははっきりと[Ca2+を増大した。多くは細胞膜での放出メカニズムのため、内部オルガネラに取り込まれることによって、[Ca2+は徐々に基準値レベルに戻った(Bootmanら、Semin.Cell Dev.Biol.12:3−10(2001))。引き続くSr2+を用いた細胞の灌流は、MS4A12導入細胞においてかなりの蛍光増大を誘起した。これは、貯蔵枯渇に応答してSr2+の流入が生じたことを示唆している。ベクター導入細胞は、Sr2+に応答しなかった。これは、内因性SOCチャネルが実験条件下でSr2+に対して不透過性であることを示している。貯蔵枯渇の前にSr2+流入が生じないことは、CHO細胞のMS4A12発現がSr2+に対する構成的透過性を付与しないことを示している。Sr2+を取り除き、蛍光値が基準値に戻ってしまった後、Ca2+を灌流チャンバーに導入した。ベクター導入細胞にCa2+が流入したことにより、Tg処理後にこれらの細胞が正常なCa2+流入経路を維持していることが示された。MS4A12導入細胞へのカルシウム流入は、ベクター導入細胞で観察されたものを超えて有意に増大した。既知のSOCチャネル遮断薬La3+で細胞を前処理することで、MS4A12導入細胞へのCa2+流入は顕著に低減したが、対照細胞では、このような結果は全く検出されなかった(図3A)。両細胞系におけるSr2+流入は、完全に無効にされた。まとめると、これらのデータにより、MS4A12は、SOC流入経路を形成する能力、及び/又は、体系化する能力を有することが実証される。
【0238】
Ca2+フラックスは、受容体チロシンキナーゼの活性化に続く最も速い応答である(Munaron、Int.J.Mol.Med.10:671−6(2002);Pattersonら、Trends Biochem.Sci.30:688−97(2005))。細胞膜上の受容体にEGFのような成長因子が結合することにより、膜脂質を加水分解するホスホリパーゼCγ(PLCγ)が活性化し、イノシトール1,4,5−三リン酸(IP)を生成する。IPはERの膜に位置するIP受容体に結合し、細胞質へのCa2+放出を刺激する。これが、順にSOC流入に関連付けられる。機能に関しては、Caシグナルの延長が細胞成長などに重要な役割を果たすため、SOC流入は、カルシウム伝達の主要な構成要素である(Berridgeら、Nature 395:645−88(1998);Berridgeら、Nat.Rev.Mol.Cell Biol.1:11−21(2000))。成長因子のシグナル伝達に応答したカルシウム流入におけるMS4A12の役割を評価するため、高レベルの上皮成長因子受容体(EGFR)を発現するMS4A12陽性LoVo結腸癌細胞を使用した(Paiら、Nat.Med.8:289−93(2002))。上皮成長因子(EGF)を用いたLoVo細胞の処置により、PLCγ依存してSOC流入が誘起されることが示されている(Munaron,Int.J.Mol.Med.10:671−6(2002);Kokoskaら、J.Gastrointest.Surg.4:150−61(2000);Kokoskaら、J.Surg.Res.88:97−103(2000);Maら、J.Am.Soc.Nephrol.12:47−53(2001))。MS4A12特異的siRNA又はスクランブルされた対照siRNAを導入したLoVo細胞は、Tg及び2つの異なる濃度のEGFで処理された。基準の蛍光では、再度差異は検出されなかった。双方の細胞系で、Tg及びEGF双方においては、細胞外Ca2+の非存在下で明らかにに[Ca2+が増大した。しかしながら、MS4A12発現がノックダウンされた細胞では、SOC流入が有意に害されたが、対照siRNA導入細胞ではSOC流入は害されなかった(図3A、C)。双方の細胞系は、La3+で前処理することによりSOC流入が完全に阻害された。注目すべきことに、低濃度のEGF(2nM)で処理された細胞におけるCa2+流入は、MS4A12サイレンシングによりほとんど完全に無効にされた。このデータに従って、LoVo細胞におけるSOC流入は少なくとも部分的にはMS4A12により媒介された。MS4A12サイレンシング後に残留するCa2+流入により、この細胞系におけるその他のSOCCの存在が示される。
【0239】
成長因子によって誘起されるシグナル伝達は、しばしば振動性パターンで体系化される(Munaron,Int.J.Mol.Med.10:671−6(2002))。反復性のカルシウムスパイクは、SOCCを介する外部カルシウムの流入、及び、内部貯蔵からのカルシウム放出の双方を必要とする。これにより、休止細胞(G0)を再度細胞周期に入るように誘起する即初期遺伝子(Immediate early genes)を活性化する(Berridge、Bioessays 17:491−500(1995))。最も興味深いことに、Ca2+流入阻害剤によりSOC流入を標的とする臨床試験では、ある癌の腫瘍成長阻止が観察される(Kohnら、Cancer Res.56:569−73(1996);Wasilenkoら、Int.J.Cancer 68:259−64(1996))。そこで、EGFに応答したLoVo細胞に及ぼすMS4A12発現の影響力を評価した。siRNA媒介のMS4A12のサイレンシングを有する細胞においては、対照細胞と比較して、成長因子に誘起される細胞増殖の有意な低減が観察された(図4A)。細胞周期分析により、増殖遮断の根本の原因であるMS4A12−siRNA導入細胞では、明確なG1/S抑止が示されたが(図4B)、細胞の生命力は影響されなかった。
【0240】
遊離の細胞質Ca2+を利用することにより厳格に調節される別の重要な細胞機能は、成長因子誘起細胞運動性及び遊走である(Berridgeら、Nat.Rev.Mol.Cell Biol.1:11−21(2000))。InsP3が細胞内プールからCa2+の放出を媒介することによって遊離細胞質Ca2+が増大すると、膜直下領域におけるアクチン細胞骨格が活性化され(Feldnerら、Exp.Cell Res.272:93−108(2002))、これが細胞遊走の基本となる。成長因子が媒介する、LoVo細胞の運動性に及ぼすMS4A12の影響力をトランスウェル遊走アッセイで調査した。装置の上部及び下部双方のチャンバーに種々の濃度のEGFを添加することにより運動性(ケモキネシス)の基準値を評価した。MS4A12のノックダウンで運動性は有意に低減した(図5A)。なお、細胞の化学侵襲活性は、Matrigelのバリアを突き破りEGFグラジエントに沿って遊走する能力により測定され、MS4A12ノックダウンにより大いに影響を受け、実質的に害された(図5B)。興味深いことに、双方の細胞機能に及ぼすMS4A12サイレンシングの影響力は、特に低濃度EGFに暴露された細胞において著しかった。MS4A12の発現により媒介されたCa2+フラックスの増強により、EGF受容体(EGFR)経路の活性化に必要とされるEGFの閾値濃度が低下する。
【0241】
まとめると、MS4A12の第1の機能的特徴付けを提示する。MS4A12は、SOC流入の構成要素であり、結腸癌細胞におけるEGFRシグナル伝達を調整することが示される。結腸細胞への発現の厳密な制限は、この組織のタイプにおけるMS4A12の特殊化された役割を意味付ける。これは。さらにEGFRシグナル伝達の媒介に関与することにより支持される。それは腸上皮の連続性の発達及び維持に中心的な役割を有し、成長、治癒、接着及び細胞遊走のような種々の上皮細胞特性の制御に関与する(Carpenterら、Annu.Rev.Biochem.48:193−216(1979);Jonesら、Front.Biosci.4:303−9(1999);Lacy,J.Clin.Gastroenterol.10:72−7(1988);Tarnawskiら、J.Clin.Gastroenterol.27:12−20(1998))。これらの機能に関与するその他の成長因子及びペプチド(例えばTGFα、腸トレフォイル因子)は全て、少なくとも部分的にEGFR伝達経路を介して作用する(Giraud,Am.J.Physiol.Gastrointest.Liver Physiol.278:501−6(2000))。一方、最も同族の受容体は上皮基底表面上にあるが、細胞保護的な三葉型ペプチドは粘膜の頂端表面に分泌される(Chineryら、Br.J.Pharmacol.115:77−80(1995);Podolsky,J.Gastroenterol.32:122−6(1997))。頂端上皮単層におけるMS4A12の発現を空間的に限定させることで、かかる因子の細胞保護的な作用に対するこれらの細胞の感受性をさらに高めるものと推測することができる。MS4A12発現は、悪性の形質転換時に維持され、結腸癌の有意な部分で検出することができる。EGFRシグナル伝達のモジュレーターとしては、結腸癌における優性の腫瘍促進因子であるので、上記で記載されたsiRNAデータにより支持されるように、MS4A12発現は、生存性、増殖及び運動性などの腫瘍表現型に寄与する特色に連関される。MS4A12の欠失により、かかるEGFR依存性細胞機能を損なうが、MS4A12の発現により、EGF誘発のCa2+流入に関する閾値を下げるという観察は臨床的な影響力を有する。結腸癌患者のMS4A12発現状態は、癌細胞のEGFに対する感度及びその予後に影響を及ぼす。さらにエルビタックスのようなEGFRに対する抗体での処置に対する患者の応答は、その腫瘍のMS4A12状態と相関すると予期される。
【0242】
さらにいくつかの知見により、MS4A12は、治療用抗体のための新規な標的候補物質として適している。
【0243】
第1に、MS4A12は、結腸上皮に高度に選択的な系列特異的マーカーであるため、その他の毒性に関連する正常組織に存在しない。正常結腸粘膜における発現に関わらず、結腸癌におけるmAbを標的とする分化抗原は、正常粘膜に毒性の副作用を誘起することなく安全に投与することができ(Scottら、Clin.Cancer Res.11:4810−7(2005))、最も可能性が高いのは、結腸細胞の代謝回転が速くなり(Lipkinら、Gastroenterology 45:721−9(1963))、正常粘膜において抗体が蓄積するのを妨げるというものである。正常粘膜の最も頂端の領域におけるMS4A12の発現パターンが空間的に狭くすることで、さらにMS4A12を標的とする抗体の安全性が高められる。
【0244】
第2に、MS4A12発現は結腸癌の有意な部分で維持される。免疫組織化学による結腸癌標本の大規模分析により、MS4A12タンパク質発現の蔓延及び個体腫瘍標本におけるこの標的候補物質の均質性のさらなる評価が進行中である。
【0245】
第3に、MS4A12は表面分子であり、したがって抗体による新薬開発につながる可能性がある。他のMS4Aファミリーメンバーに対する配列類似性及び本発明者らの実験データにより、CD20のようなMS4A12は、2つの細胞外ループとともに細胞膜に組み込まれることが強く示唆される。この特定のトポロジーの結果から、(i)抗原の脱落が防御される;(ii)細胞膜の小さな区域におけるmAbの結合密度が高くなる;及び(iii)標的エピトープと細胞表面との間の距離が短い;ということである。これらの特徴は、mAbが細胞毒性免疫エフェクターメカニズムの効率的な補充を誘起する能力を増強すると報告されている(Bindonら、Eur.J.Immunol.18:1507−14(1988);Borsosら、Science 150:505−6(1965);Golanら、J.Immunol.129:445−7(1982))。CD20に対する構造類似性により、補体及びFcR陽性エフェクター細胞の補充を呈する抗体を操作できる可能性がある。EGFRシグナル伝達との関連により、既に種々のmAb及び低分子化合物により対処されている経路にMS4A12が位置付けられる。これらの治療のうちの多くが承認されるか、又は現在臨床開発が進んでおり、薬物標的としてのその魅力が高まっている。
【0246】
本明細書で提示されたデータにより特に、MS4A12が結腸癌において抗体標的としての治療的潜在能力を持つことが実証される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞におけるMS4A12の発現又は活性を低減又は阻害する剤。
【請求項2】
細胞におけるMS4A12の発現又は活性を前記低減又は前記阻害することが、前記細胞の成長、増殖、生存性、細胞周期の進行、遊走、化学走性及び/又は湿潤を低減又は阻害するものである、請求項1に記載の剤。
【請求項3】
細胞におけるMS4A12の活性が、EGFに対する前記細胞の応答性を増大し、又は、EGFに対して前記細胞を応答可能にし、EGFに対する前記細胞の応答性の増大は、好ましくは前記細胞のEGF誘起成長、EGF誘起増殖、EGF誘起細胞周期の進行、EGF誘起遊走、EGF誘起化学走性及び/又はEGF誘起湿潤を増大するものである、請求項1又は2に記載の剤。
【請求項4】
(i)MS4A12mRNAを特異的に標的するsiRNA;
(ii)MS4A12をコードする核酸と選択的にハイブリダイズ可能なアンチセンス核酸;
(iii)MS4A12に選択的に結合可能な抗体;及び
(iv)(i)のsiRNA、(ii)のアンチセンス核酸又は(iii)の抗体を発現可能な核酸分子;
からなる群から選択される請求項1乃至3いずれか1項に記載の剤。
【請求項5】
細胞におけるMS4A12の活性が、前記細胞におけるストア作動性Ca2+流入を増大又は可能にすることを含む、請求項1乃至4いずれか1項に記載の剤。
【請求項6】
請求項1乃至5いずれか1項に記載の剤を含む、組成物。
【請求項7】
細胞におけるEGF受容体の発現又は活性を低減又は阻害する剤をさらに含む、請求項6に記載の組成物。
【請求項8】
医薬組成物である、請求項6又は7に記載の組成物。
【請求項9】
医薬に使用するための請求項1乃至5いずれか1項に記載の剤、又は、請求項8に記載の組成物。
【請求項10】
癌又は癌転移を処置するための請求項1乃至5いずれか1項に記載の剤、又は、請求項8に記載の組成物。
【請求項11】
請求項1乃至5いずれか1項に記載の剤に細胞を接触させるステップを含む、EGFに対する前記細胞の応答性を低減又は阻害する方法。
【請求項12】
細胞におけるEGF受容体の発現又は活性を低減又は阻害する剤に前記細胞を接触させるステップをさらに含む、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
請求項1乃至5いずれか1項に記載の剤を患者に投与するステップを含む、前記患者の癌又は癌転移、好ましくは結腸癌又は結腸癌転移を処置する方法。
【請求項14】
細胞におけるEGF受容体の発現又は活性を低減又は阻害する剤を前記患者に投与するステップをさらに含む、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
組成物が前記患者の腫瘍成長、腫瘍湿潤及び/又は腫瘍転移を低減又は阻害する請求項13又は14に記載の方法。
【請求項16】
癌細胞の少なくとも一部がEGFに対して応答性を有する、請求項13乃至15いずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
細胞におけるMS4A12の発現及び/又は活性のレベルを決定するステップを含む、EGFに対する細胞の応答性を決定する方法。
【請求項18】
前記細胞におけるMS4A12の発現のレベルを決定する前記ステップが、前記細胞におけるMS4A12mRNA及び/若しくはMS4A12タンパク質の量を決定することを含み、及び/又は、前記細胞におけるMS4A12の活性のレベルを決定する前記ステップが、前記細胞におけるストア作動性Ca2+流入を決定することを含み、前記ストア作動性Ca2+流入が、好ましくは前記細胞におけるMS4A12の発現又は活性を低減又は阻害する剤の存在下及び非存在下で決定される、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記細胞のストア作動性Ca2+流入を決定することが細胞内へのCa2+又はSr2+流入の量及び/又は時間経過を決定することを含み、細胞内へのCa2+又はSr2+流入の量及び/又は時間経過は、好ましくは細胞内Ca2+貯蔵が枯渇した後に決定される、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記細胞が腫瘍細胞であり、好ましくは、EGFに対する腫瘍の応答性を決定し、及び/又は、抗EGF腫瘍治療に対する腫瘍の応答性を決定する方法である、請求項17乃至19のいずれか1項に記載の方法。
【請求項21】
細胞におけるMS4A12の発現又は活性を増大するステップを含む、EGFに対する細胞の応答性を増大する方法。

【図1A】
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【図1B】
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【図1C】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2011−520781(P2011−520781A)
【公表日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−503360(P2011−503360)
【出願日】平成21年3月30日(2009.3.30)
【国際出願番号】PCT/EP2009/002309
【国際公開番号】WO2009/124670
【国際公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【出願人】(504346260)ガニメド ファーマシューティカルズ アーゲー (21)
【出願人】(509256849)
【氏名又は名称原語表記】JOHANNES GUTENBERG−UNIVERSITAET MAINZ
【住所又は居所原語表記】Saarstrasse 21, 55122 Mainz, Germany
【Fターム(参考)】