説明

治療におけるレトロトランスポゾン阻害

少なくとも1つのLINE−1反復因子の一部分を認識するRNA干渉は、癌性病変の治療に有用である。

【発明の詳細な説明】
【発明の背景】
【0001】
本発明は、治療における逆転写酵素発現の阻害剤の使用に関する。
【0002】
Spadafora(Cytogenet Genome Res 105:346-350 (2004))は、自身の論文で、内因性非テロメア逆転写酵素、ならびに胚形成および形質転換へのその関与について論じている。
【0003】
より詳細には、逆転写酵素(RT)は、2種類の反復ゲノム因子、すなわちレトロトランスポゾンおよび内因性レトロウイルスによってコードされる。これらの因子はいずれも、それらの機構の必須成分としてRTを必要としている。
【0004】
長鎖散在反復配列(long interspersed elements)(LINE)などのレトロ転位可能な因子は、「ジャンクDNA」であり、もはや必要ではないが、ゲノムから削除されていない残りのDNAとしてほとんど何の役割も果たさないと長い間考えられてきた。1971年というかなり以前から(Temin, J Natl Cancer Inst 46:56-60)、この見解は疑問視されていたが、当技術分野では依然としてこのような因子を単に「ジャンクDNA」として考えている。
【0005】
Spadafora(前掲)は、自身の論文で当該技術を再検討し、RTコード遺伝子の発現が、一般には、非病理学的な終末分化細胞では抑制されるが、ごく初期の胚、胚細胞、胚および腫瘍組織(これらは全て高い増殖能を有している)においては活性であることを論証している。ネズミ胚でRTを阻止するとそれらの発育は停止し、阻止作用を取り除いても胚形成は再開しなかった。癌細胞では、増殖は著しく低下し、分化は48時間から72時間までの間で顕著であった。
【0006】
Kuoら(Biochem and Biophys Res Com 253:566-570 (1998))は、ヒト小細胞肺癌のcDNAライブラリから1.7kbのLINE−1(L1)転写産物を同定した。彼らは、この反復因子が正常ヒト組織(繊維芽細胞および肝臓)および形質転換されたヒト組織の両方において普遍的に発現することを見出した。更に、彼らは、この転写産物に由来する、ヒト肝臓癌細胞を用いてインキュベーションされたセンスオリゴヌクレオチドが細胞増殖率を低下させることを示した。正常組織および癌組織の両方におけるこの因子の存在は、この反復因子と、細胞増殖の一般的な機能とを関連付けるようである。細胞増殖の低下は、突然変異による、細胞増殖の制御に関与する遺伝子のサイレンシングまたは機能的改変の結果であると、著者らは説明している。著者らは、形質転換が可逆的な事象であるとは示唆していない。
【0007】
対照的に、本発明者らは、レトロトランスポゾンのLINE−1ファミリーの阻害が、癌性組織の増殖を阻害または阻止すると共に、それらの分化を刺激するのに効果的であることを本明細書中で立証している。
【発明の概要】
【0008】
従って、第一の態様では、本発明は、癌性組織の未分化(unspecialised)増殖を阻害するためのRNA干渉の使用を提供し、該RNAは少なくとも1種のLINE−1反復因子の一部分を認識するものである。
【0009】
他の態様では、本発明は、癌性病変の治療におけるRNA干渉(RNAi)の使用を提供し、該RNAは少なくとも1種のLINE−1反復因子の一部分を認識するものである。
【0010】
本発明のRNAiの使用によりRT発現が低下すると、癌性組織の増殖が低下し、多くの場合には50%を超える低下が見られ、その後の増殖は、少なくとも処理細胞においては、概して分化増殖に起因している。従って、本発明のRNAiは、一般に、癌性組織の増殖を低下させ、かつ分化を刺激するという両方の役割を果たす。
【0011】
本発明のRNAiがLINE−1に特異的であること、かつ、それを使用することにより、全てのRTを阻止する包括的な非ヌクレオチドRT阻害剤(NNRTI)を使用する必要がなくなることが理解される。実際、LINE−1がRTコード因子のサブグループにすぎないことを考えると、LINE−1を対象とする本発明のRNAiが癌性組織の増殖を阻止または阻害する役割を果たすということは驚くべきことである。
【0012】
現在、LINE−1ファミリーのわずか数種(約6〜8)のメンバーだけがきわめて高い活性を有するものとして認識されており、これらのいずれか1つに対するRNAiが本発明により想定される。各RNAが個々のLINE−1レトロトランスポゾンに対して特異的であるRNAiを使用する組み合わせ療法が想定されるが、コンセンサンス配列に対するRNAを使用することが好ましい。コンセンサス配列は、2種以上のLINE−1ファミリーメンバーに関するものであってもよいが、活性メンバーに関するものであるのが好ましく、それ以上が同定される場合にはそれ以上のメンバーに関するものであってもよい。
【0013】
好ましくは、RNAiは短鎖干渉RNA(siRNA)であるか、または二本鎖RNA(dsRNA)である。
【0014】
また、RNAは短鎖ヘアピンRNAであり、好ましくはsiRNA発現ベクターに適合され、好ましくはそれにより投与されることが好ましい。好適なベクターとしては、当技術分野において周知であり、かつ本明細書に記載されているレトロウイルスのプラスミドが挙げられる
【0015】
一般に、本発明で使用するRNAの伸張部は、10以上、例えば15、20、30、40以上のヌクレオチドであるのが好ましく、これらヌクレオチドは転写LINE−1 DNAの領域の直接的なセンス等価物である。しかしながら、21個のヌクレオチドが特に好ましい。転写LINE−1 DNAは、コンセンサス領域から選択されるのが好ましい。しかしながら、本発明の干渉RNAがLINE−1 DNAからの転写RNAを結合する役割を果たす場合、ヌクレオチドの伸張部は、転写LINE−1 DNAの選択領域に対して完全に忠実である必要はない。
【0016】
それにもかかわらず、RNAiからのRNAヌクレオチドの伸張部は、LINE−1配列からの転写DNAの相当する伸張部に対して忠実であることが特に好ましい。RNAIは、LINE−1配列からの転写DNAの相当する伸張部に対して忠実な21個のヌクレオチド配列を含むのが好ましく、当該配列からなるのがより好ましい。
【0017】
本発明のRNAiはループ構造を形成してもよく、ループは上述のヌクレオチドの伸張部内に位置していてもよく、その場合、伸張部はループによって中断されていてもよい。このループは、その構造の一部分についてはdsRNAの形態を取っていてもよく、RNAの伸張部内に1、2または3のヌクレオチド分のギャップを設けていてもよい。標的mRNAは選択配列に沿って結合されるように、前記ループはRNAの伸張部から何も削除しないのが一般的に好ましい。
【0018】
本発明のRNAiは、単にLINE−1因子からの対応する転写配列に結合することが可能な短い配列であってもよく、1種または2種の末端配列および/または内部ループ配列を更に含んでもよい。
【0019】
LINE−1内で選択された配列は、オープンリーディングフレームであるべきであり、例えば、RTのORF1およびORF2から選択されてもよいことが理解される。従って、オープンリーディングフレームは逆転写酵素をコードするのが好ましい。これには、逆転写活性を有するあらゆるタンパク質が含まれる。
【0020】
RNAi療法は、あらゆる便利な方法で行われてもよい。一般に、RNAiが標的細胞に到達することを保証することが重要である。
【0021】
本発明のRNAiは、任意の好適なベヒクル中に含まれた形で標的部位に直接注入してもよいが、例えば、スカフォードまたはナノ粒子に固定して投与してもよい。
【0022】
より好ましくは、RNAiは、例えばプラスミドとして、またはレトロウイルスを介して投与してもよい。アデノウイルスおよびアデノ随伴ウイルスベクターを用いて、好ましくはプラスミドの形態で、RNAi用コード配列を分配してもよい。他の同様のウイルスおよびレトロウイルス、ならびに他のこのようなベヒクルを使用してもよい。特に、血管内皮増殖因子(VEGF)などの透過因子を使用すると、プラスミドなどのコード配列を標的部位に送達する効果が血液循環において増大し得ることが確立されている。
【0023】
別の好適な送達手段は、pSUPER RNAiシステムキット(www.oligoengine.com)である。
【発明の具体的説明】
【0024】
本発明のRNAiが対象とするLINE−1因子(L1)は、好ましくは、Brouhaらの教示(2003)(参照することにより本明細書の一部とされる)に従って選択される。
【0025】
L1は活性である場合にRTを発現することができるようであるので、活性L1が好ましい。従って、本発明のRNAiは、好ましくは、少なくとも1つの活性L1の一部分を認識するか、または標的とする。好ましくは、RT発現は、RNAiによって阻害される。
【0026】
使用するRNAi配列は、標的L1内に含まれる特定のORFからの転写によって得られるRNAを認識し、かつ該RNAと結合できることが理解される。L1因子は、本明細書に記載される好ましい配列も含むという事実によって特徴付けられる。
【0027】
従って、L1配列は、他の箇所で論じるように、本発明の好ましい配列(例えば配列番号27)、その対応するDNA配列またはその相同体などによって同定されるが、L1配列はまた、タンパク質、好ましくはRTを発現可能であるのが好ましく、その発現はRNAiによって阻害される。
【0028】
LINE−1 RNAに対するRNAi配列の結合は、50%ホルムアミドと6×SSCとを含有する緩衝液中などのストリンジェント条件下でなされるのが好ましい。
【0029】
L1因子を特徴付けるために使用する配列は、それ自身がORFである、ORFの一部分である、またはORFの少なくとも一部分を含むのが好ましい。好ましくは、RNAiが標的として使用するL1配列は前記L1因子のORF内に含まれる。
【0030】
故に、好ましい特定のDNA配列について言及すると、これは、同定するのに使用される配列であり、L1因子のより大きな配列内に含有されるようであることが理解される。従って、L1因子自身が発現可能なORFを含有する場合、L1因子の同定配列はORFを含有する必要はなく、ORFから転写されたRNAは、当該特定L1因子を標的とするRNAiに結合され得る。
【0031】
故に、RNAiは、この好ましいDNA配列もしくその対応配列、またはその相同体を含むL1因子を標的とするのが好ましい。
【0032】
好ましいL1因子に含まれるORFの例は、配列番号20〜25のプライマー配列に相当する配列である。従って、RNAiは、好ましくは、これらの配列番号またはそれらに相当する配列を認識する。
【0033】
より詳細には、ORF1については:
5’−AGAAATGAGCAAAGCCTCCA−3’(配列番号20);
5’−GCCTGGTGGTGACAAAATCT−3’(配列番号21);および
5’−TAAGGGCAGCCAGAGAGAAA−3’(配列番号24)。
【0034】
ORF2については:
5’−TCCAGCAGCACATCAAAAAG−3’(配列番号22);
5’−CCAGTTTTTGCCCATTCAGT−3’(配列番号23);および
5’−TGACAAACCCACAGCCAATA−3’(配列番号25)。
【0035】
従って、これらの配列のRNA等価物は、ORF1については:
5’−AGAAAUGAGCAAAGCCUCCA−3’(配列番号39);
5’−GCCUGGUGGUGACAAAAUCU−3’(配列番号40);および
5’−UAAGGGCAGCCAGAGAGAAA−3’(配列番号41)であり、
【0036】
ORF2については:
5’−UCCAGCAGCACAUCAAAAAG−3’(配列番号42);
5’−CCAGUUUUUGCCCAUUCAGU−3’(配列番号43);および
5’−UGACAAACCCACAGCCAAUA−3’(配列番号44)である。
【0037】
従って、RNAiは、配列番号39から44のいずれか1つからの少なくとも1つの断片、好ましくは少なくとも10個の連続する、より好ましくは15個、最も好ましくは20個の連続するヌクレオチドを含むことが特に好ましい。上述のように、様々な機構が散在する前記配列のより短い伸張部、例えばヘアピンループも好ましい。
【0038】
L1RPの場合、ORF1のCDSは、配列番号27の907位〜1923位に存在して、配列番号45のタンパク質配列をコードし、配列番号27の1987位から5814位に存在するCDSはORF2をコードし、このタンパク質配列は配列番号46で表される。RT活性を有すると考えられるのは、ORF2にコードされるタンパク質である。従って、RNAiは配列番号27の907位〜1923位および/または配列番号27の1987位〜5814位に含まれるDNAを対象とし、好ましくは配列番号45、最も好ましくは配列番号46に従ったタンパク質の発現を阻害することができるのが好ましい。同様に、CDSは、配列番号32の17717位〜18697位、および115033位〜116161位に存在するが、これらは擬似遺伝子と記載され、故に好ましくない。
【0039】
従って、RNAiは配列番号45、最も好ましくは配列番号46に従ったタンパク質をコードするRNA配列に相当するRNAの伸張部を含むことが好ましい。この伸張部は、他の箇所に記載されるヘアピン構造または他の機構を包含していてもよい。好ましくは、RNAiは、配列番号45、最も好ましくは配列番号46に従ったタンパク質をコードするRNA配列に相当するRNAの20または21bpの伸張部からなる。好ましくは、RNAiは、配列番号19の配列またはそのRNA等価物(配列番号47)を有し、これはホットL1におけるコンセンサス配列を標的とする。
【0040】
更なる態様において、本発明はこのようなRNAiを提供する。
【0041】
Brouha(2003)らの文献に記載されるように、活性L1は、好ましくは多型であり、「若い」、すなわち最近形成されたものであるのが好ましい。その理由は、L1因子または配列の年齢が、そこで起こり得る多様化(diversion)を決定するからである。Brouha(2003)らの文献で論じられるように、配列の多様化がほとんど見られないL1は、一般には、集団内では多型であり、培養細胞内では活性であった。逆に、高度に多様化したL1配列は、最も頻繁には固定され、不活性である。
【0042】
活性L1は、6kbp長である場合が多く、5’欠失がないことを示している。従って、LINE−1因子は、少なくとも6kbp長であるのが好ましい。
【0043】
好ましいのは、平均的なヒトにおける、Brouha(2003)らの文献において活性であると予測された80〜100個のレトロ転位コンピテントなL1である。これらのレトロ転位コンピテントなL1のうちの6種は「高度に活性なL1(ホットL1)」であることが判明した。ホットL1は、L1RPの活性の少なくとも1/3を示すのが好ましい。従って、L1配列が「ホットL1」であり、ヒトにおいて高い生物学的活性を有し、好ましくはL1RP活性の少なくとも1/3を示すことが特に好ましい。
【0044】
L1RPはホットL1であり、Brouhaら(2003)の文献およびHum.Mol.Genet.8(8),1557−1560(1999)に記載されている(http://hmg.oxfordjournals.org/cgi/reprint/8/8/1557で入手可能:NCBIアクセッション番号AF148856、配列番号27)。ORFを標的とするのが好ましいので、配列番号27の907位〜1923位(ORF1)および1987位〜5814位(ORF2)のヌクレオチドがRNAiの特に好ましい標的である。
【0045】
L1RPに関する活性は、好適なアッセイによって、例えば当業者によって容易に選択される検出可能な発現マーカーにLINE−1因子を連結することによって測定してもよい。好ましくは、これには、Brouhaら(2003)の文献で使用されている方法やEGFPアッセイが含まれる。EGFPカセットの構築および活性を評価するための当該カセットの使用方法は、Brouhaら(2003)の文献からの参照番号23、Haig H. Kazazian Jr et al:Nucleic Acids Research, 2000, Vol. 28, No. 6, 1418−1423に更に記載されている。EGFPを含むL1の好適な例は、以下に記載される配列番号26である。
【0046】
理論に拘束されることなく、転写は、その5開始UTR内に位置する内部プロモータから開始され、RNAは細胞質に移送されると考えられている。L1コードタンパク質、すなわちORF1pおよびORF2pは、それらをコードしたmRNAに作用し、この現象はcis型優先(cis preference)として知られている。
【0047】
次いで、生じたリボヌクレオタンパク質粒子は、細胞核に再度入り、ここで、最初に標的開始(target-primed)逆転写によってL1の組み込みが生じると考えられている。このプロセスの間、L1エンドヌクレアーゼは、ゲノムDNA中の緩いコンセンサス配列5’−TTTTT/A−3’にて一本鎖ニックを生成して、3’OHを露出し、これはL1 RT(逆転写酵素)によるL1 RNAの逆転写用プライマーとして使用される。
【0048】
好ましくは、LINE−1配列は、21塩基対のコンセンサス配列(配列番号19)、その対応する(アンチセンス)DNA配列またはそのRNA等価物を含む。故に、本発明のRNAiがこの21塩基対配列のRNA等価物、または配列番号19に相当するDNA配列のRNA等価物、または6×SSCなどのストリンジェント条件下でそれとハイブリダイズできる配列を含むことも好ましい。
【0049】
また、RNAiが標的とする配列は、配列番号35〜38のいずれか、より好ましくは配列番号37、最も好ましくは配列番号35であるのが好ましい。対応するDNA配列またはそのRNA等価物もこれに含まれる。配列番号35は実施例2において標的とされる60bpの配列であり、一方、配列番号36〜38は、下記に記載されるような、より長いコンセンサス配列である。
【0050】
標的とされるL1配列はまた、本明細書に記載される配列のいずれかと、ある程度の相同性、好ましくは少なくとも70%、より好ましくは少なくとも85%、より好ましくは少なくとも95%、より好ましくは少なくとも99%、より好ましくは少なくとも99.5%、より好ましくは少なくとも99.9%、より好ましくは少なくとも99.95%、最も好ましくは少なくとも99.99%の相同性を有することができる。故に、RNAiは、これらの好ましい配列またはそれらの対応する配列、またはその相同体を含むL1因子を標的とするのが好ましい。
【0051】
特定の配列について言及すると、当該配列がDNA配列の場合、これには、その対応するDNA配列(例えば、6×SSCなどの高度にストリンジェントな条件下で前記配列とハイブリダイズする配列)、またはそのRNA等価物、すなわち前記DNA配列の転写によって得られるRNA配列が含まれると理解される。
【0052】
LINE−1因子(L1)は、RTをコードするものであれば、広範なレトロ転位可能な因子群から選択されてもよい。L1は、L1因子の「転写群A」(Ta)サブセットまたはプレ−Taサブセットに由来するのが好ましい。しかしながら、Taサブセットが特に好ましく、特にTa−1dファミリーが好ましい。
【0053】
しかしながら、L1がLRE3、L1RP(NCBIアクセッション番号AF148856)、ならびにアクセッション番号ac004200、ac002980、al356438、al512428、ac021017およびal137845(それぞれ配列番号26〜33)からなる群から選択されることが特に好ましい。これらの配列およびその関連する特徴データは、NCBIウェブサイト(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/entrez/query.fcgi)から入手可能である。
【0054】
配列番号26に関して、与えられた全配列は、LRE3−EGFPの合成構築物、すなわちEGFP(強化緑色蛍光タンパク質(Enhanced Green Fluorescent Protein))で標識されたLRE3、ならびに破壊されたDlgh2遺伝子(部分配列)である。しかしながら、当業者であれば、1位〜155位にEGFPコード領域を包含する必要はなく、また510位〜910位にDlgh2遺伝子部分を包含する必要もなく、これらは、与えられた他のL1に存在するようなORF1およびORF2と置き換えてもよいことを容易に理解する。この特徴および更なる特徴に関する情報は、NCBIウェブサイトから配列番号26に関するアクセッション番号、すなわちAY995186のもとで入手可能である。
【0055】
当業者は、EGFPのような検出可能なマーカーを包含するL1を設計することができ、開始点または鋳型として配列番号26を使用してもよい。
【0056】
L1因子群に関するコンセンサス配列は、配列番号36〜38に提供されている。配列番号36はTa−1dコンセンサス配列であり、配列番号37はホット因子コンセンサス配列であり、配列番号38は90個の活性なL1に関するより広範なコンセンサス配列である。これらは、Brouhaら(2003)のオンライン文献の「supporting information」から得られたものである(www.pnas.orgから入手可能)。
【0057】
故に、L1配列は、配列番号36、37および38のいずれか、またはその対応する配列または相同体から選択されることが好ましい。相同体は、好ましくは、前記配列番号またはその対応する配列と、好ましくは少なくとも70%、より好ましくは少なくとも85%、より好ましくは少なくとも95%、より好ましくは少なくとも99%、より好ましくは少なくとも99.5%、より好ましくは少なくとも99.95%、最も好ましくは少なくとも99.99%の相同性を有する。
【0058】
ホットL1コンセンサス配列(配列番号37)またはその対応する配列もしくは相同体は、活性が高いので特に好ましい。ホットl1コンセンサスに対する相同性または類似性の程度は、レトロ転位活性の良好な予測材料となる。Brouha(2003)は、L1活性とヌクレオチド配列との関係を分析し、コンセンサス配列(8個のホットL1(LRE3、L1RP、ac004200、ac002980、al356438、al512428、ac021017およびal137845)を有する配列番号37)を構築した。この配列は、1033位におけるORF1のサイレント変異を除いて、Ta−1dコンセンサス(配列番号36)と同じであり、12個の多型部位を除いて、90個の無傷なL1のコンセンサスと同じである。
【0059】
Brouhaら(2003)は、L1を、最初に活性群および不活性群として、次に対で、ホット因子のコンセンサスと比較した。彼らは、L1を、全体的に、次いで領域ごとに、最後にアミノ酸変異を引き起こす差異ごとに分析した。活性または不活性L1と独自に関連するヌクレオチド変異は存在しないことが判明した。予期するように、幾つかの例外はあるが、L1がホットL1コンセンサスに近い程、活性である可能性が高かった。上記の結果を踏まえると、彼らのデータは、レトロ転位活性の低下が時間の関数として生じることを示している。L1が「ホット」コンセンサス配列から遠い程、活性である可能性は低い。
【0060】
LINE−1因子が上述の配列、特にホットL1に対してきわめて高い配列相同性を有することが特に好ましい。この理由は、Brouhaらの文献で論じられるように、幾つかの例外はあるが、L1配列は、ホットL1配列に近い程、活性である可能性が高いからである。上述のように、LINE−1配列または因子がホットL1であり、好ましくはL1RPの活性の少なくとも1/3、好ましくは少なくとも2/3、より好ましくは100%、最も好ましくは100%よりも高く、好ましくは150%以上であるのが好ましい。
【0061】
特に好ましいホットL1の中では、全てが多型であり、そのうち3個(ac002980、ac004200およびal356438)が、最も若いTa−1d群に由来する。更に、1つはTa−1nd群(al512428)であり、別のものは、より若いTa−0サブグループ(al137845)のメンバーである。これら5個の標準的なホットL1の配列は、それら各々の群またはサブグループのコンセンサス配列に非常に類似しており、これは、それらがヒトの進化の過程で比較的最近になってレトロ転位したことを示している。最後に、1つのホットL1(ac021017)は非標準的である。
【0062】
21個のヌクレオチド配列(配列番号19)は、約90(80〜100)個の活性なL1レトロ因子内に存在する対応配列に相補的であり、これらのレトロ因子は本発明の好ましい標的である。故に、RNAiは、好ましくは、当該配列もしくはその対応配列、またはその相同体を含むL1因子を標的とする。
【0063】
約30年前からLINE−1と逆転写酵素(RT)との関連が知られていたが、RTがLINE−1にコードされる遺伝子の1つであることが明らかにされた後は、LINE−1レトロ因子は、従来から無用なものとして分類され、しばしば「ジャンクDNA」と呼ばれている。従って、このジャンクDNAは、生物学的役割を果たさないものとして広くみなされていた。これにもかかわらず、本発明者らは、驚くべきことに、RT阻害が腫瘍増殖に拮抗することができることを発見した。本発明者らは初めて、LINE−1配列に特異的な標的RNAiが、培養物における細胞増殖および動物モデルにおける腫瘍増殖を阻害することを認識した。
【0064】
Oncogene 2003,Vol.22,pp.2750〜2761(Mangiacasaleら)は、薬理学的RT阻害剤に焦点を当てており、RNAiについては全く言及していない。Cytogenet. Genome Res 2004,Vol.105,pp.346〜360(本発明者らの一人であるC. Spadafora)は、従来技術の様々な系譜をまとめた総説であるが、やはりRNAiの手法は開示していない。
【0065】
RNAiは、好ましくは二本鎖である。好ましくは、二本鎖リボオリゴヌクレオチドは、細胞トランスフェクションのために、遊離形態では使用されておらず、好ましくは特異的siRNAをコードするDNA構築物によって担持されている。好ましくは、転写RNAは、細胞「dicer」システムによって更に自然発生的に加工される二本鎖パリンドローム構造を形成することにより、例えばBrummelkampら(2002)に教示されるようなsiRNA分子を形成する。(DMIに対する注記:この参照を参考文献一覧の最後に挿入する)
【0066】
他の態様において、RNAiを送達するための標準的な細胞トランスフェクション手順を、レトロウイルスまたはアデノウイルス起源の適切な送達システムに置き換えるのが好ましい。このようなウイルスシステムは、当技術分野において周知である。好ましくは、L1標的RNAiを発現するウイルスベクターまたはキャプシド、好ましくはsiRNAは、腫瘍細胞を特異的に標的とすることができ、腫瘍細胞に感染することによってRNAiを発現させ、例えば転写によってsiRNAを提供し、それにより腫瘍の増殖に拮抗し、腫瘍細胞の分化を刺激する。
【0067】
あらゆる腫瘍細胞を標的とする、または治療することが想定されるが、腫瘍細胞は、好ましくは乳癌腫瘍、肺癌腫瘍、黒色腫および前立腺癌からなる群から選択され得る。実際、黒色腫および前立腺癌が特に好ましい。
【0068】
従って、適切である場合には、RNAiは、例えば注入または移植片からの放出により癌性組織に送達されることが特に好ましい。上述のように、好ましくは特異的siRNAをコードするDNA構築物を含むウイルスベクターまたはキャプシドが使用されることが特に好ましい。この例において、ウイルスベクターまたはキャプシドは、標的組織、すなわち癌性組織または腫瘍組織においてDNA構築物を発現できるのが好ましい。これは、DNA構築物に含まれる適切な組織特異的プロモータによる、および/または特定の組織に特異的なウイルスキャプシドまたはベクターによるものであってもよい。
【0069】
上述のことは、特異的siRNAをコードするポリヌクレオチド、好ましくはDNAを含むプラスミドにも当てはまる。特に、このプラスミドが、好適な組織特異的プロモータまたはsiRNAの組織特異的発現のための他の手段を含むのが好ましい。
【0070】
プラスミドおよびベクターまたはキャプシドのいずれの例においても、プラスミド、ベクターまたはキャプシドが、やはり好ましくは組織特異的に癌性組織のみを標的とするのが好ましい。
【0071】
更なる態様において、本発明はまた、癌または腫瘍を有する患者を治療する方法を提供し、該方法は、好ましくは上述のようなRNA干渉の利用を含む。好ましくは、この方法は、上述のように、癌性組織を有する個人を選択し、少なくとも1つのL1因子に対してRNA干渉手法を使用することを含む。好ましくは、この方法は、癌性組織の増殖の阻害または阻止を引き起こす、好ましくは前記組織の分化を刺激するのに十分な逆転写酵素(RT)の治療的に有効な阻害を含む。
【0072】
1個のLINE−1因子だけを標的とすることが想定されているが、複数のLINE−1因子を、同時にまたは連続的に、予定される投薬計画の一部として、標的とすることが好ましい。
【0073】
更なる態様において、本発明はまた、癌性疾患を治療するための医薬の製造における、少なくとも1つのLINE−1因子の一部分を標的とするか、またはこれを認識することができるsiRNAをコードするポリヌクレオチド配列、好ましくはDNA配列の使用を提供する。好ましくは、この医薬は、当該ポリヌクレオチドを含んでなるウイルスキャプシドまたはベクターを含む。
【0074】
ここで、本発明は、添付の非制限的な実施例を参照して更に説明される。
【実施例】
【0075】
実施例1
方法
細胞培養物
ヒトA−375黒色腫(ATCC−CRL−1619)、TVM−A12一次黒色腫由来(20)、HT29腺癌(ATCC HTB−38)、H69小細胞肺癌(SCLC)(ATCC HTB119)およびPC3前立腺癌(ATCC CRL−1435)細胞系を、10〜5×10細胞/ウェルの密度にて6ウェルプレートに播種し、10%ウシ胎仔血清を含むDMEMまたはRPMI1640内で培養した。ネビラピン(Nevirapine)およびエファビレンツ(Efavirenz)を、上述のような市販のビラミューン(Viramune)(Boehringer-Ingelheim)およびサスティバ(Sustiva)(Bristol-Myers Squibb)から精製した(18)。薬剤をジメチルスルホキシド(DMSO)(Sigma-Aldrich)中でそれぞれ350μMおよび15μMとし、播種から5時間後に細胞に添加した。対照には、同じDMSO容積(最終濃度0.2%)を添加した。48時間ごとに新鮮なRT阻害剤含有培地に交換した。細胞を96時間ごとに回収し、Burkerチャンバ内でカウントし(2回のカウント/試料)、同じ密度にて再プレーティングした。
【0076】
細胞周期および細胞死分析
回収直前の30分間に、BrdU(20μM)を培養物に添加した。次いで、回収した細胞を抗BrdU抗体およびヨウ化プロピディウム(PI)で処理し、FACStar Plusフローサイトメーター(Beckton-Dickinson)においてDNA含量とBrdU取り込みとの二重パラメータ(biparametric)分析に供した。DAPI(核形態学)、PI(細胞浸透性)および3,3ジヘキシルオキサカルボシアニン[DiOC6(3)]、ミトコンドリア膜電位用蛍光プローブによる複合染色後、顕微鏡で細胞死を評価した。
【0077】
間接的免疫蛍光検査および共焦点レーザー走査顕微鏡法
A−375およびTVM−A12細胞を4%パラホルムアルデヒドで10分間固定し、PBS中の0.2%Triton−X100において5分間浸透化した。マウスモノクローナル抗ウシα−チューブリン(Molecular Probes, A-11126)をAlexa Fluor 488−結合二次抗体(Molecular Probes, cat. A-11001)によって顕在化し、0.1mg/mlのリボヌクレアーゼAの存在下、2μg/mlのPIで核を染色した。アルゴン/クリプトンレーザー(励起波長および発光波長:Alexa488の場合488nmおよび510nm、PIの場合568nmおよび590nm)を備えた共焦点Leica TCS 4D顕微鏡下で撮像した。共焦点区域は、0.5〜1μm間隔で設けた。
【0078】
走査電子顕微鏡(SEM)
A−375およびTVM−A12細胞を、0.1M Millonig’sリン酸塩緩衝液中の2.5%グルタルアルデヒドで固定した。洗浄後、細胞をMPB中の1%OsO(1時間、4℃)でポスト固定し、高アセトン濃度で脱水した。液体COを用いて試料を臨界点乾燥させ、金でスパッタコーティングし、Stereoscan240走査電子顕微鏡(Cambridge Instr.(英国、ケンブリッジ(Cambidge, UK)))上で検査した。
【0079】
半定量的RT−PCR
RNA抽出およびRNaseを含まないDNase Iによる処理は(18)に記載される通りに行った。300ngのRNA、オリゴ(dT)およびThermoscriptシステム(Invitrogen)を用いてcDNAを合成した。最初の工程は94℃で2分間、続いて94℃で30秒、58℃〜62℃で30秒、72℃で1分間のサイクルにて、Platinum Taq DNA Polymeraseキット(Invitrogen)および30pmolのオリゴヌクレオチド(MWG-Biotech、ドイツ、エーベルスベルグ(Ebersberg, Germany))を用いて反応混合物の1/25を増幅した。
【0080】
サイクル数を増やした(25〜40)一連の増幅において、各オリゴ対を使用した。PCR産物を、電気泳動させ、膜に転写し、[32P]γ−ATP末端標識内部オリゴヌクレオチドで42℃にて16時間ハイブリダイズさせた。各遺伝子につき少なくとも3回の独立した実験において、増幅シグナルの強度をデンシトメトリーによって測定した。
【0081】
半定量的PCR分析に使用するオリゴヌクレオチド(正:F、逆:R)およびハイブリダイゼーション用の内部プローブ(INT)
C−myc PCR産物のサイズ:633bp;
F,5’−gtcacacccttctcccttcg−3’(配列番号1);
R,5’−tgtgctgatgtgtggagacg−3’(配列番号2);
INT,5’−agagaagctggcctcctacc−3’(配列番号3);
【0082】
Bcl2 PCR産物のサイズ:459bp;
F,5’−ggtgccacctgtggtccacctg−3’(配列番号4);
R,5’−cttcacttgtggcccagatagg−3’(配列番号5);
INT,5’−ctgaagagctcctccaccac−3’(配列番号6);
【0083】
E−カドヘリン PCR産物のサイズ:732bp;
F,5’−ctcctctcctggcctcagaa−3’(配列番号7);
R,5’−tactgctgcttggcctcaaa−3’(配列番号8);
INT,5’−gaacgcattgccacatacac−3’(配列番号9);
【0084】
PSA PCR産物のサイズ:584bp;
F,5’−ttgtcttcctcaccctgtcc−3’(配列番号10);
R,5’−agcacacagcatgaacttgg−3’(配列番号11);
INT,5’−ccacacccgctctacgatat−3’(配列番号12);
【0085】
Ccnd1 PCR産物のサイズ:690bp;
F,5’−ccctcggtgtcctacttcaa−3’(配列番号13);
R,5’−tcctcctcttcctcctcctc−3’(配列番号14);
INT,5’−cgcacgatttcattgaacac−3’(配列番号15);
【0086】
Gapdh PCR産物のサイズ:590bp;
F,5’−aggggtctacatggcaactg−3’(配列番号16);
R,5’−acccagaagactgtggatgg−3’(配列番号17);
INT,5’−gtcagtggtggacctgacct−3’(配列番号18)。
【0087】
LINE−1に対するRNA干渉
Bruhaらの文献(21)に記載される高度に活性なLINE−1因子のコンセンサス配列を標的とするべく、A21−nt二本鎖siRNAオリゴヌクレオチド(L1−I)(5’−AAGAGCAACTCCAAGACACAT−3’(配列番号19))を設計した。具体的に、以下の配列を標的とした:
【0088】
i)8個のホットL1(LRE3(配列番号26)、LIRP(配列番号27)、ac004200(配列番号28)、ac002980(配列番号29)、al356438(配列番号30)、al512428(配列番号31)、ac021017(配列番号32)、al1378459(配列番号33));
【0089】
ii)Ta−1dファミリー;および
【0090】
iii)90個の全長L1因子。対照については、トランスフェクション効率をモニタリングするために3’−フルオレセイン修飾された非特異的siRNA(配列番号34)を細胞にトランスフェクトした。
【0091】
QIAGEN(米国)によってsiRNAオリゴヌクレオチドを合成した。ウェルごとに1.5μgのsiRNAを添加した24ウェルプレートにおいて、RNAiFect Transfection Reagent(QIAGEN cat. 301605)を用いてA−375細胞においてトランスフェクションを行った。トランスフェクションから48時間後および72時間後に細胞をカウントし、Olympus CAMEDIAデジタルカメラを備えたOlympus CK30倒立顕微鏡下で細胞形態を記録した。蛍光顕微鏡によって測定されるように、細胞の約80%が24時間後にトランスフェクトされた。
【0092】
トランスフェクションから48時間後、LINE−1 ORF−1およびORF−2に特異的なプライマー対を用いて、RT−PCRによってLINE−1発現を分析した:
【0093】
ORF−1:
F,5’−AGAAATGAGCAAAGCCTCCA−3’(配列番号20);
R,5’−GCCTGGTGGTGACAAAATCT−3’(配列番号21)
【0094】
ORF−2:
F,5’−TCCAGCAGCACATCAAAAAG−3’(配列番号22);
R,5’−CCAGTTTTTGCCCATTCAGT−3’(配列番号23)。
【0095】
RNA抽出およびRT−PCR条件は、アニーリングT℃が54℃であり、増幅が23サイクル行われたことを除いて、本明細書に記載される通りであった。サザン分析用の内部オリゴヌクレオチドは、5’−TAAGGGCAGCCAGAGAGAAA−3’(ORF−1(配列番号24))および5’−TGACAAACCCACAGCCAATA−3’(ORF−2(配列番号25))であった。
【0096】
腫瘍異種移植片および動物の治療
欧州連合ガイドラインに従って保有された5週齢の無胸腺ヌードマウス(イタリア、ハーラン(Harlan, Italy))に、100μlのPBS中のA−375黒色腫(4x10)、H−69(10)、PC3(2x10)およびHT−29(10)細胞を皮下接種した。生理溶液で1:1に新たに希釈したDMSO中の4mg/mlのストックを用いて、エファビレンツ(20mg/kg)を週に5日、毎日マウスに皮下注射した。対照には50%DMSOを注射した。治療は、腫瘍の移植から1日後または1週間後に開始し、幾つかの実験においては14日後に中断した。キャリパー測定により腫瘍の増殖を一日おきにモニタリングし、以下の式を用いて体積を計算した:
長さ×幅×高さ×0.52 (22)。
【0097】
結果
RTコードLINE−1ファミリーを標的としたRNA干渉(RNAi)は、黒色腫細胞において増殖を低下させ、分化を促進する
以下に論じるように、医薬RT阻害剤に反応して観察された増殖率の低下および分化の誘発が、実際に、細胞RTの特異的な阻害に起因するかどうかを究明しようとした。これに対処すべく、ヒト細胞において最も豊富に発現することが知られているLINE−1因子のサブファミリー(21個、および上述の「方法」の対応する部分に記載される標的配列)を特異的標的とするようにRNAi実験を設計した。
【0098】
LINE−1 ORF1(図4、パネルA)に相同な二本鎖RNAオリゴヌクレオチドをA−375細胞内にトランスフェクトした。トランスフェクトから48〜72時間後、典型的な分化形態(パネルB)が誘発された。それに付随して、増殖は、非特異的オリゴヌクレオチドでトランスフェクトされた細胞と比べて、約70%低下した(パネルC)。これらの結果は、医薬RT阻害により得られたものに匹敵する。半定量的RT−PCR分析により、ORF1およびORF2双方の発現は、非特異的オリゴヌクレオチドでトランスフェクトされた細胞と比べて、ほぼ80%低下した(パネルD)。更に、LINE−1因子に対するRNAiは、RT阻害剤に反応して見られるように、GAPDHではなく、c−mycおよびサイクリン−D1遺伝子の発現の下方制御を誘発した。
【0099】
RT阻害剤は細胞増殖を可逆的に低下させる
また、広く使用されている2つのRT阻害剤、すなわちネビラピンおよびエファヴィレンツに長期間曝露したヒト形質転換細胞系の反応を調査した。A−375黒色腫、PC3前立腺癌およびTVM−A12一次黒色腫由来細胞系からの培養物を継代培養し、カウントし、少なくとも20日間(96時間周期を5回)連続的に薬剤を再添加しつつ96時間ごとに再プレーティングした。図1Aに示すように、これらの阻害剤はいずれも、全ての細胞系において細胞の増殖を効果的に低下させ、長期間の曝露中に安定な阻害効果を呈する。増殖の阻害は可逆的であった。RT阻害剤を除去すると、全ての細胞系は1回または2回の96時間周期中、対照と同程度の比率で増殖を再開した。薬剤の再添加により、全ての細胞系において再び増殖が阻害された。故に、RT阻害に関連する細胞増殖の低下は、細胞分裂を通じての永続的変化として継承したものではない。
【0100】
増殖低下の根拠を解明するために、いずれのRT阻害剤もA−375またはPC3細胞系における細胞死を誘発するかどうかを調査した。透過性壊死細胞を顕在化するためにPIを使用し、アポトーシス核を視覚化するためにDAPIを使用し、ミトコンドリア膜電位の損失をモニタリングするためにDiOC6(3)を使用した複合染色は、いずれのRT阻害剤によっても著しい細胞死の誘発は見られなかった。低い割合を記録したもの(いずれかの薬剤に曝露してから72時間後、最大で15%)は、概してアポトーシスによって説明された(データ示さず)。故に、いずれの薬剤も著しい非特異的毒性を有しておらず、これは、細胞増殖の低下が細胞周期遅延の誘発をかなり反映していることを示唆している。
【0101】
これを評価するために、RT阻害剤に対する曝露を96時間周期で4回行った後に、DNA含量(PIにより顕在化)およびDNA複製(BrdUの取り込みによる)を測定するために二重パラメータFACS分析を用いた。細胞周期のプロファイルは、抗RT処理培養物においては著しく変化し、これは、A−375細胞培養物において特に顕著なG0/G1内容物を有するBrdU陰性細胞の割合が増加したことを示している(図1B)。薬剤を除去すると、もとの細胞周期プロファイルが再び確立し、G1遅延が排除された。
【0102】
ネビラピンは、形質転換細胞系において、形態的分化ならびに分化および増殖遺伝子の発現を誘発する
黒色腫は、治療に対して最も耐性が高いので、RT阻害剤が細胞増殖の低下に付随する分化を誘発するかどうかを解明するのに適切であった。まず、幾つかの分化誘導因子に反応して、典型的な樹状表現型を取得することができるA−375黒色腫細胞を試験した(23)。図2Aに示すように、細胞の形状によって示された形態的分化(樹状伸長および接着性の増加)は、DMSOで処理した対照(a)と比べて、ネビラピン(d)またはエファビレンツ(g)への曝露から4〜5日の間に明らかとなった。走査電子顕微鏡(SEM)により、ネビラピン(e)およびエファビレンツ(h)を用いて培養したA−375細胞は、処理していない対照(b)と比べて平坦化しており、基質に密着する伸長した樹状伸長を呈していた。α−チューブリン免疫染色後の共焦点顕微鏡検査により、更に、対照(c)とは異なり、RT阻害細胞(f−i)における成長した樹状突起の長さ全体にわたって微小管アレイが再編成され、ここでは短い微小管が核形成中心の周りに集中していることが判明した。
【0103】
ネビラピン処理後、黒色腫由来の一次TVM−A12細胞においても同様の反応が認められた。未処理細胞は、位相差顕微鏡(a)およびSEM(b)で観察すると、スピンドル状形態を有する。ネビラピンで処理したTVM−A12細胞は、その代わりに典型的な分岐樹状突起(d−e)を形成し、未処理細胞(c)と比べて、よく編成された伸長微小管アレイ(f)を呈した。
【0104】
形態的分化の誘発は、重要な調節遺伝子が、RT阻害処理に反応して調節されることを示唆している。これは、DMSOのみで、またはネビラピンもしくはエファビレンツで4周期間処理した培養物の半定量的RT−PCR分析において調査した。A−375黒色腫細胞において、4種の遺伝子の組、すなわち、細胞間接着に関与し、分化した非腫瘍細胞内で発現するE−カドヘリン遺伝子(24)、および黒色腫細胞増殖および腫瘍増殖に直接関与するc−myc、bcl−2(25)およびサイクリン D1(26)遺伝子に焦点をあてた。
【0105】
図3Aに示すように、E−カドヘリン遺伝子は、対照と比べて、RT阻害A−375培養物において著しく上方制御され、対照的に、c−myc、bcl−2およびサイクリンD1遺伝子は下方制御されることが判明した。サイクリンD1発現を下方制御できなかった1つの例外が、エファビレンツに関して記録された。また、PC3前立腺癌細胞、および分化した前立腺上皮の選択された2つのマーカー遺伝子、すなわち前立腺特異的抗原PSA(27)およびアンドロゲン受容体(AR)(28)遺伝子を分析した。これらの遺伝子はいずれも、未処理培養物では発現されないが、いずれの遺伝子もRT阻害剤に反応して誘発された(図3B)。再び、全ての遺伝子の発現は、阻害剤を除去すると、元のレベルに戻った。故に、RT阻害剤は、分化の誘発と一致した、形質転換細胞における重要遺伝子の発現を再プログラミングするが、この再プログラミングは可逆的であり、RT阻害が解除されると行われなくなる。
【0106】
RT阻害剤は、無胸腺ヌードマウスにおけるヒト腫瘍異種移植片の成長を低下させる
増殖および分化を含む形質転換細胞の重要な特徴がRT阻害によって調節されるので、RT阻害剤が腫瘍増殖に拮抗する能力をin vivoでテストした。
【0107】
これらの実験用に選択した発癌性細胞系としては、A−375およびPC系、ならびにHT29コドンおよびH69小細胞肺癌系が挙げられ、これらはまた、RT阻害剤(19、およびデータ示さず)に反応して細胞増殖の低下を示した。無胸腺ヌードマウスの肢部に細胞を皮下接種した。次いで、動物をエファビレンツによる処理に供した。その理由は、この薬剤が、事前アッセイにおいてネビラピンよりも高いin vivo効率を示したからである。4〜40mg/kgの薬剤をテストする用量反応実験において最適な投薬量(20mg/kg体重)を決定した。
【0108】
エファビレンツ処理は、全ての動物群において安全であり、これらの群のいずれにおいても動物の死や明白な毒性の徴候を示さないことが分かった。但し、40mg/kgで処理した群は、60%を超える動物において著しい体重の減少を示した。図5は、未処理マウス(赤)または腫瘍接種から1日後(紫)、または1週間後(黄色)にエファビレンツによる処理を開始したマウスにおける腫瘍増殖の記録曲線を示している。
【0109】
全タイプの異種移植片について、処理動物における腫瘍増殖は、未処理動物と比べて著しく低下し、初期の腫瘍サイズの差にもかかわらず、処理開始のタイミングに関係なく、腫瘍の進行は同程度の効率で拮抗された。接種後1日目から処理し、15日目に処理を中断した動物におけるPC3およびHT29由来腫瘍の増殖曲線(緑色の曲線)は、腫瘍増殖のRT依存性阻害がin vivoで可逆的であることを示している。
【0110】
エファビレンツで処理したPC3細胞は、腫瘍形成をin vivoで低下させる
また、形質転換細胞をエファビレンツで事前処理したときに、生成された異種移植片の腫瘍形成能が調節されるかどうかを調査した。PC3前立腺癌細胞を、2回の96時間周期(PSAおよびAR遺伝子を誘導するに十分な時間)の間、20μMのエファビレンツを用いて培養し(図3B)、次いでヌードマウスに接種した。
【0111】
平行バッチの動物に未処理細胞を接種した。次いで、エファビレンツで事前処理した、または未処理のPC3細胞異種移植片を連続してエファビレンツでin vivoで処理するか、または未処理のまま放置した。図6Aに示すように、未処理PC3細胞は、全ての動物において侵攻性腫瘍を生じた。対照的に、エファビレンツで事前処理したPC3細胞は、in vivoで腫瘍を形成する能力が低下し、異種移植片の成長はより緩慢であった。図6Bに要約されるように、エファビレンツで事前処理したPC3細胞は、未処理細胞を使用する100%と比較して、接種動物の65%において緩慢に成長する異種移植片を生じた。更に、事前処理した細胞を接種し、更にin vivoでエファビレンツにより処理した動物の40%だけが腫瘍を発現し、その場合、増殖曲線は平坦であった。故に、エファビレンツは形質転換細胞の腫瘍形成能を減衰させる。
【0112】
考察
この研究は、癌に関与するヒトゲノムの3つの特徴を強調している。第一に、LINE−1因子は、細胞分化および増殖の制御に関与する機構の活性成分として同定される。第二に、LINE−1因子のRNAi依存型の不活性化、またはそれらがコードする内因性RT活性の薬理学的阻害は、形質転換細胞におけるこれらの特色の制御を回復させることができる。第三に、RT阻害剤は、動物モデルにおける腫瘍の増殖をin vivoで低下させる。
【0113】
この研究で使用するRT阻害剤、すなわちネビラピンおよびエファビレンツは、RT酵素のp66サブユニットにおいて疎水性ポケットを結合することにより、共通の作用機序を有する(29,30)。両阻害剤は、HIVコードRTを標的とするべく設計されているが、非感染細胞における内因性RTの酵素活性をin vivoで阻害する(19)。ここで、両阻害剤が、概して細胞死とは独立しているが、G1遅延または停止に関連する形質転換細胞の増殖を低下させることを示している。これに付随して、RT阻害剤は、形質転換細胞の形態的分化を誘発する。長い治療時間(120日)を必要とするテロメラーゼ関連RT(TERT)の阻害剤によって引き起こされた表現型の変化とは異なり、分化の誘発は迅速である(31)。更に、老化細胞に特有のアクチンストレス繊維または焦点接着部位の再編成は認められなかった。老化特異的変異の不在および分化の迅速な誘発は、ここで使用されるRT阻害剤がTERTを標的とせず、老化ではなく低増殖性分化表現型を誘発することを示している。
【0114】
特に驚くべきことは、RT阻害効果の特異性が、ヒト細胞において高度に発現される6個のLINE−1レトロポゾンのサブグループを標的とするRNAi実験において証明され、レトロ転位能全体の84%を示すことであった(21)。特に、RNAiがA−375細胞におけるLINE−1由来ORF1およびORF2の発現をおよそ80%低下させることが判明し、これは、生物学的に活性なLINE−1サブグループが効果的に下方制御されたことを示唆している。RNAiによって誘発されるRTコードLINE−1因子の変化は、薬理学的RT阻害剤により引き起こされる変化と区別できず、これは、LINE−1が細胞増殖および分化の制御に関与していることを暗示している。独立した手法で観察された表現型の類似性は、LINE−1発現またはRT活性の阻害が増殖を遅延させ、分化を促進するのに十分であることを示している。これらの観察によれば、薬剤のいかなる未知の副作用も、非特異的に観察された表現型の一因にはあたらないことを示している。
【0115】
増殖の低下および分化形態の誘発と一致して、選択された遺伝子パネルの発現がRT阻害に反応して再プログラミングされることが判明した。これは、RT活性が、増殖度が高い形質転換した表現型から増殖度が低い分化した表現型への遷移を促進する遺伝子の発現を効果的に調節できることを示しており、これは、ゲノム機能がRT活性の医薬的またはRNAi依存性阻害の究極的な標的であることを示唆している。しかしながら、遺伝子発現における変化は、細胞分裂中に継承されるものではなく、RT阻害を解除すると回復する。試験した特徴の可逆性および阻害剤の存在に対するそれらの依存性は、LINE−1コードRTが遺伝子発現を調節する後成的機構の一部であり、細胞増殖および分化の基礎となる分子機構において役割を果たすという概念と一致している。
【0116】
この研究の1つの態様は、4つのヒト異種移植片モデルをin vivoで接種したヌードマウスにおいて腫瘍増殖を低下させるというRT阻害剤の能力にある。細胞系において観察されるように、動物に対してRT阻害剤が供給されている限り、腫瘍増殖は阻害され、処理が中断されると再開された。このデータは、癌治療におけるRT阻害剤の有望な細胞増殖抑制能力を例証しているが、腫瘍増殖における内因性RTの後成的役割を確認するものである。更に、PC3前立腺癌細胞のエファビレンツによるin vitro事前処理は、それらの腫瘍形成をin vivoで減衰させる。故に、RT阻害に関連する分化マーカーの活性化と増殖の低下は、形質転換細胞の悪性表現型をin vivoで減衰させることができる大規模な再プログラミングの一部である。
【0117】
増えつつあるデータは、後成的変化が、腫瘍細胞を再プログラムし、かつ、形質転換された表現型を「標準の」非病理学的状態に転換することができることを示している(32,33)。後成的再プログラミングは、元来、多様な腫瘍における悪性形質転換の原因となる遺伝子変化を回避することができる(32)。故に、後成的な調節因子は、腫瘍治療において貴重な価値ある標的と見なされている(34)。しかしながら、多くの試験化合物は、一般には毒性であり、かつ/または化学的に不安定であることが判明している。ネビラピンおよびエファビレンツは、長年AIDS治療に用いられてきた。これらのRT阻害剤が連続投与に対して一般に良好な耐性を有することを示す疫学的記録に鑑みると、当該阻害剤を使用するという展望は明白な利点を有する。更に、後成的証拠は、カポジ肉腫(35)および他のAIDS関連癌(36)の発生が、高度に活性な抗レトロウイルス療法(HAART)で治療した患者において低下することを示している。これは、一般的には、治療した患者において免疫反応が向上したことの表れとして見なされるが、それはまた、腫瘍細胞における内因性RT活性に対するHAARTの直接的な阻害効果を示唆している。
【0118】
この段階では、RT活性が細胞の運命を指示できる機構は依然として不明確である。レトロポゾンは、分裂酵母におけるヘテロクロマチン形成に寄与し得る(37)。このような機構はより高等な真核生物においては立証されなかったが、研究所内での研究は、LINE−1コードRTが、DNAメチル化の再分布およびクロマチン再構築に依存する遺伝子発現の調節に関与する。
【0119】
合成の際、内因性RTは、高い増殖および分化の欠損と関連する細胞機構の「機能的な」マーカーとして出現し、癌治療の新規な潜在的標的と見なすことができる。データは、特に前立腺癌について奨励しており、AR発現の欠損がホルモン療法失敗の主な原因である。RT阻害剤はARおよびPSA遺伝子の両方を上方制御するので、これらの分化誘発化合物は、前立腺癌細胞におけるアンドロゲン感受性を回復するのに有用であろう。
【0120】
実施例2
A)LINE−1標的siRNAを発現するDNA構築物のクローニング
siRNA標的配列は、ヒト細胞において高度に活性であることが知られているLINE−1因子に由来していた(Brouha et al., 2003, supplementary material)。標的配列は60bp長(1492〜1552)であって、配列番号35で表され、二本鎖DNAとして人工的に合成された。次いで、市販のベクターpSuper.retro.neo+GFPにおいて、DNAオリゴヌクレオチドをクローニングした(OligoEngine, USA, cat.#VEC-PRT-0006)。
【0121】
B)レトロウイルスベクターの組立て
次に、レトロウイルス産生Phi−NX細胞(ATCCから入手)内で構築物をトランスフェクトし、新たに合成したレトロウイルス粒子内にパッケージし、細胞から培地内へ自然発生的に放出させた。トランスフェクションから48時間後、レトロウイルス粒子(pS−L1iと呼ぶ)を遠心分離によって収集し、0.45マイクロメートルのMilliporeフィルタを用いて濾過し、細胞感染に使用した。このプロトコルは、製造業者の推奨(OligoEngine)に従って行った。
【0122】
C)ヒト発癌性細胞系の感染
トランスフェクト細胞の上澄みと、細胞培養物とを単純に混合し、24時間インキュベーションすることによって、A375(黒色腫)およびPC3(前立腺癌)ヒト細胞系をpS−Lliに感染させた。次いで、ネオマイシンの存在下、7日間トランスフェクト細胞を選択した。全てのネオ耐性細胞がGFPレポーター遺伝子の発現に対して陽性であることが判明した。対照として、同じ細胞系からの平行培養物を、siRNAコード配列を持たない空のDNAベクター(pS)を含有するレトロウイルス粒子に感染させた。
【0123】
図7に示すように、pS−L1に感染した細胞は、劇的な増殖の低下を呈し、これは少なくとも39日間一定のままであった。非感染細胞は、高い増殖率を維持し、pS感染細胞は、感染から最初の数日は穏やかな増殖の低下を示したが、次いで、非感染細胞に匹敵する高い増殖率まで急速に戻った。
【0124】
これらデータとよく相関して、特異的抗体を用いたウエスタンブロット分析(データ示さず)によって明らかになるように、LINE−1(ORF1およびORF2の両方)の発現は、pS感染細胞以外のpS−L1において、RNAレベルおよびタンパク質レベルの両方において強力に下方調整された。
【0125】
D)pS−L1感染A375細胞は、ヌードマウスにおける接種により、in vivoアッセイにおいて測定されるような腫瘍形成の低下を示す
pS−Lli細胞の腫瘍形成能が影響を受けたかどうかを評価するために、pSベクターまたはLINE−1ノックアウトpS−L1i構築物に感染させた5×10 A375細胞を、2群の無胸腺ヌードマウスに皮内接種した(感染から15日後)。次いで、両マウス群において腫瘍の進行をモニタリングした。図8のパネルAは、A375 pSおよびA375 pS−L1i細胞を接種されたマウスにおける腫瘍増殖の進行を示している。パネルBにおける例は、対照細胞を接種されたマウスと比べて、LINE−1感染細胞を接種されたマウスでは腫瘍の増殖が著しく低下したことを示している。
【0126】
共に、これらの結果は、LINE1遺伝子活性が、形質転換細胞の増殖に寄与し、遺伝子癌治療における新規な潜在的標的と見なされ得るという結論を支持するものである。
【0127】
故に、遺伝子治療による本発明の開発を改良するために、以下の2つの改良が、記載される方法に導入されている:
【0128】
i)二本鎖リボオリゴヌクレオチドは、細胞トランスフェクションのために遊離形態では使用されず、特異的siRNAをコードするDNA構築物によって担持される。転写RNAは、細胞の「dicer」システムによって更に自然発生的に加工される二本鎖パリンドローム構造を形成し、それによりsiRNA分子を形成する(Brummelkamp et al., 2002, reference 38)。
【0129】
ii)標準的な細胞トランスフェクション手順を、レトロウイルスまたはアデノウイルス起源の適切な送達システムに置き換える必要がある。
【0130】
換言すると、本方法の改良は、腫瘍に感染させるのに使用されるLINE−1標的siRNAを発現するウイルスベクターの開発にある。LINE−1標的siRNA発現構築物は、ウイルスベクターによって発癌性細胞に送達され、それにより内因性LINE−1の発現を阻害する。これまでの経験に基づけば、このようにして得られたLINE−1の構成的な機能的ノックアウトは、腫瘍の進行に対して強く拮抗する。
【0131】
参考文献
【表1】



【0132】
L1RPに関する追加情報:
NCBIアクセッション番号AF148856、http://www.ncbi.nig.gov/entrez/viewer.fcgi?db=nucleotide&val=5070620で入手可能および以下に記載:
【表2】

【0133】
重要な配列
【化1】















【図面の簡単な説明】
【0134】
【図1】抗RT薬剤による増殖阻害。(A)DMSO(対照)、ネビラピン(NEV)およびエファビレンツ(EFV)で処理した培養物における細胞の増殖。細胞をカウントし、96時間毎に5周期の間、再プレーティングした。次いで、阻害剤を含まない培地内で細胞を培養した(2周期)。次いで、RT阻害剤を2周期の間再び添加した。細胞の数は対照(100%とする)の%で表される。値は、3つの実験から蓄積したデータである。(B)96時間周期を4回行う間および薬剤除去後の、RT阻害剤の存在下での細胞周期プロファイル。
【図2】RT阻害剤は黒色腫細胞における形態的分化を誘発する。 (A)DMSO(a,b,c)、ネビラピン(d,e,f)またはエファビレンツ(g,h,i)において培養されたA−375細胞系。Wright Giemsa染色後に位相差顕微鏡によって(左欄)、SEMによって(中欄)、およびα−チューブリン染色(緑)および核のPI染色(赤)後に共焦点顕微鏡によって(右欄)、培養物を観察した。 (B)黒色腫由来TVM−A12一次細胞。位相差顕微鏡(左欄)、SEM(中欄)および共焦点顕微鏡(右欄)下で観察したDMSO(a,b,c)およびネビラピン処理(d,e,f)細胞。バー:20μm。
【図3】RT阻害剤はA−375(パネルA)およびPC3(パネルB)細胞系における遺伝子発現を調節する。 DMSO(ctr)、ネビラピン(nev)またはエファビレンツ(efv)で処理した細胞からRNAを抽出し、ネビラピン(nev/r)またはエファビレンツ(efv/r)を除去した後、当該RNAをRT−PCRによって増幅し、ブロットし、内部オリゴヌクレオチドでハイブリダイズした。GAPDHを内部標準として使用した。
【図4】LINE−1に対するRNAiは、A−375細胞において形態的分化を誘発し、増殖を低下させ、かつ遺伝子発現を調節する。 (A)全長LINE−1因子の構造。siRNAオリゴヌクレオチドの位置が示されている。矢印は、RT−PCR分析に使用するプライマー対の位置を示している。 (B)対照(CTR)およびLINE−1 siRNAオリゴヌクレオチド(LI−i)でトランスフェクトしたA−375培養物の位相差顕微鏡図。 (C)CTRおよびLI−iオリゴヌクレオチドでのトランスフェクション後の細胞増殖。 (D)CTRおよびLI−iオリゴヌクレオチドでトラスフェクトしたA−375細胞からのRNAの半定量的RT−PCR後の遺伝子発現パターンを例証している。定量的変動(CTRトランスフェクト培養物内のシグナルに対するL1−i内のシグナルの%として表される)は、独立した3つの実験からの平均を表している。増幅産物は、帯域のデンシトメトリーによって推定し、同実験におけるGAPDHシグナルに対して標準化した。
【図5】エファビレンツはヌードマウスにおけるヒト腫瘍増殖を低下させる。 示した細胞系により形成される腫瘍の増殖を、未処理動物(赤)および接種後1日目(紫)または1週間目(黄)にエファビレンツで処理した動物においてモニタリングした。PC3およびHT29における上から2つの曲線は、処理済動物におけるPC3およびH69由来腫瘍の増殖が接種後1日目から開始し、14日後に処理が中止されたことを示している。曲線は、5種の動物群における腫瘍サイズの平均値を示す。
【図6】エファビレンツで事前処理したPC3細胞の腫瘍形成の低下。 (A)処理しなかったか、またはin vivoでエファビレンツで事前処理したマウスに注入した未処理細胞またはエファビレンツ事前処理細胞によって形成された腫瘍の増殖。 (B)示した処理を30日間行った後のPC3由来異種移植片の結果(n=20種の動物/群)。
【図7A】pS−L1感染細胞の増殖は劇的に低下する。 pS−L1感染細胞はA375pS−l1として示されている。増殖は、少なくとも39日間一定のままであった。非感染細胞(A375、図7A)は、高い増殖率を維持し、pS感染細胞(A375pS、図7B)は、感染してから最初の数日は中程度の増殖の低下を示したが、その後、非感染細胞と同程度の高い増殖を迅速に再開した。
【図7B】pS−L1感染細胞の増殖は劇的に低下する。 pS−L1感染細胞はA375pS−l1として示されている。増殖は、少なくとも39日間一定のままであった。非感染細胞(A375、図7A)は、高い増殖率を維持し、pS感染細胞(A375pS、図7B)は、感染してから最初の数日は中程度の増殖の低下を示したが、その後、非感染細胞と同程度の高い増殖を迅速に再開した。
【図8】LINE1感染細胞を接種されたマウスにおける腫瘍増殖は、対照と比較して著しく低減された。 パネルAは、A375pSおよびA375 pS−L1i細胞を接種されたマウスにおける腫瘍増殖の進行度を示す。パネルBにおける例は、LINE1干渉細胞を接種されたマウスにおける腫瘍増殖が、対照細胞を接種されたマウスと比較して著しく低減されたことを示している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
癌性組織の未分化増殖を阻害するためのRNA干渉の使用であって、該RNAが少なくとも1つのLINE−1(L1)反復因子の一部分を認識するものである、使用。
【請求項2】
癌性病変の治療におけるRNA干渉の使用であって、該RNAが少なくとも1つのLINE−1(L1)反復因子の一部分を認識するものである、使用。
【請求項3】
請求項1または2に定義される、RNAi。
【請求項4】
LINE−1ファミリーメンバーの転写オープンリーティングフレームに対して特異的である、請求項3に記載のRNAi。
【請求項5】
前記オープンリーディングフレームが逆転写酵素をコードするものである、請求項4に記載のRNAi。
【請求項6】
前記L1因子が活性L1因子である、請求項3〜5のいずれか一項に記載のRNAi。
【請求項7】
LINE−1コンセンサス配列に対して特異的である、請求項3〜6のいずれか一項に記載のRNAi。
【請求項8】
前記RNAが短鎖干渉RNA(siRNA)である、請求項3〜7のいずれか一項に記載のRNAi。
【請求項9】
前記RNAが二本鎖RNA(dsRNA)である、請求項3〜7のいずれか一項に記載のRNAi。
【請求項10】
前記RNAが短鎖ヘアピンRNAであり、siRNA発現ベクターによる投与に適合するものである、請求項3〜7のいずれか一項に記載のRNAi。
【請求項11】
前記RNAi配列が、標的L1内に含まれるORFからの転写により得られるRNAを認識し、かつ該RNAに結合することができるものである、請求項3〜10のいずれか一項に記載のRNAi。
【請求項12】
前記RNAiの結合が、50%ホルムアミドおよび6×SSCを含有する緩衝液中などのストリンジェント条件下でなされるものである、請求項11に記載のRNAi。
【請求項13】
前記RNAiによって認識される前記L1配列が、ORFの少なくとも一部分を含んでなるものである、請求項3〜11のいずれか一項に記載のRNAi。
【請求項14】
前記L1 ORF配列が、配列番号20〜25またはそれらに相当するDNA配列のいずれかである、請求項13に記載のRNAi。
【請求項15】
配列番号39〜44のいずれか1つからの少なくとも20個の連続するヌクレオチドを含んでなる、請求項3〜14のいずれか一項に記載のRNAi。
【請求項16】
配列番号27の907位〜1923位および/または配列番号27の1987位〜5814位に含まれるDNAを対象とするものである、請求項3〜15のいずれか一項に記載のRNAi。
【請求項17】
配列番号45および/または配列番号46に従ったタンパク質の発現を阻害することができるものである、請求項16に記載のRNAi。
【請求項18】
配列番号45および/または配列番号46に従ったタンパク質をコードするRNA配列に相当するRNAの伸張部を含んでなる、請求項17に記載のRNAi。
【請求項19】
配列番号45および/または配列番号46に従ったタンパク質をコードするRNA配列に相当するRNAの20または21bpの伸張部からなるものである、請求項18に記載のRNAi。
【請求項20】
配列番号19の配列またはそのRNA等価物(配列番号47)を有するものである、請求項18または19に記載のRNAi。
【請求項21】
前記少なくとも1つのL1が、多型および/または6kbp長である、請求項3〜20のいずれか一項に記載のRNAi。
【請求項22】
前記少なくとも1つのL1が、ヒトにおいて高度に活性である「ホットL1」であり、L1RP(配列番号27)の活性の少なくとも1/3を有するものである、請求項3〜21のいずれか一項に記載のRNAi。
【請求項23】
前記少なくとも1つのL1配列が、配列番号35〜38、またはこれらの配列に対して少なくとも70%の配列相同性を有する相同体、またはその相当するDNA配列からなる群から選択されるものである、請求項3〜22のいずれか一項に記載のRNAi。
【請求項24】
前記少なくとも1つのLINE−1因子が、L1因子の「転写群A」(Ta)サブセット、またはプレ−Taサブセットに由来するものである、請求項3〜23のいずれか一項に記載のRNAi。
【請求項25】
前記少なくとも1つのL1が、LRE3、L1RP(NCBIアクセッション番号AF148856)、ならびにアクセッション番号ac004200、ac002980、al356438、al512428、ac021017およびal137845(それぞれ配列番号26〜33)からなる群から選択されるものである、請求項24に記載のRNAi。
【請求項26】
前記少なくとも1つのL1がL1RP(配列番号27)である、請求項25に記載のRNAi。
【請求項27】
前記発現ベクターが、前記siRNAをコードするDNA構築物を含んでなるレトロウイルスまたはアデノウイルス起源のものである、請求項10に記載のRNAi。
【請求項28】
前記発現ベクターが、前記siRNAをコードするDNA構築物を含んでなるプラスミドである、請求項10に記載のRNAi。
【請求項29】
癌または腫瘍を有する患者を治療する方法であって、請求項3〜28のいずれか一項に記載の、少なくとも1つのL1因子に対するRNA干渉の利用を含んでなる、方法。
【請求項30】
癌性疾患を治療するための医薬の製造における、少なくとも1つのLINE−1因子の一部分を標的とするか、またはこれを認識することができるsiRNAをコードするポリヌクレオチド配列の使用。
【請求項31】
配列番号19の配列、またはそのRNA等価物(配列番号47)を有する、RNAi。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7A】
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【図7B】
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【図8】
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【公表番号】特表2008−526710(P2008−526710A)
【公表日】平成20年7月24日(2008.7.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−548775(P2007−548775)
【出願日】平成17年12月30日(2005.12.30)
【国際出願番号】PCT/EP2005/014206
【国際公開番号】WO2006/069812
【国際公開日】平成18年7月6日(2006.7.6)
【出願人】(506119132)
【出願人】(507223535)
【氏名又は名称原語表記】ENRICO GARACI
【出願人】(507223546)
【氏名又は名称原語表記】PAOLA SINIBALDI
【Fターム(参考)】