治療応答を誘導するための組成物
特定の細胞を生体内部位に誘引するための組成物と、所望の治療を達成するために、該誘引された細胞および局在細胞を刺激するための組成物とを説明する。一実施形態では、組織の修復および再生を刺激および促進するための組成物を説明する。別の実施形態では、腫瘍細胞に細胞障害反応を誘導するための組成物を説明する。組成物は、(1)組織部位に1種類以上の所望の細胞を誘引すること、(2)上記誘引細胞内で、活性(例えば増殖および分化)を刺激ならびに/あるいは所望の活性を促進する生物学的因子の放出を刺激すること、(3)上記誘引細胞および必要に応じて局在細胞の生存を引き延ばすことに対して効果的な1種類以上の治療薬を含む薬物レザバから構成される。所望の部位で組成物を投与するデバイスも説明する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(発明の分野)
本発明は、生体内(in vivo)部位に特定の細胞を誘引するための、またその誘引された細胞および局在細胞を刺激して所望の治療を達成するための組成物に関する。より具体的には、本発明は、(1)傷害または損傷組織の部位で、生体内での細胞および組織の再生するために、あるいは(2)癌に対する細胞性免疫応答の誘導に有用な組成物に関する。傷害組織部位または腫瘍部位での組成物の沈着は、組織修復の場合、傷害組織領域での外見上正常な機能および血流を促進するために、あるいは癌免疫療法の場合、腫瘍組織の破壊を起こさせるために、必要な細胞を誘引するために効果的である。本発明は、生体内で、所望の部位に組成物を沈着させるためのデバイスも提供する。
【背景技術】
【0002】
(発明の背景)
退化、壊死、およびその後の機能喪失もしくは線維症(例えば本明細書ではひとまとめにして「組織傷害(組織傷害)」もしくは「組織外傷(tissue trauma)」として言及)は、疾患または損傷から生ずる可能性がある。例えば、心筋壊死および線維芽細胞増殖は、冠動脈閉塞による虚血が原因となり得る。さらに、脳卒中による虚血は、脳退化および壊死をもたらすことがある。組織外傷は、糖尿病、多発性硬化症、肝硬変、腎不全等を含む種々の病弊の構成要素でもありえる。外傷もまた、手術または物理的損傷による組織破壊から生じる。
【0003】
身体は、凝固カスケードと免疫系との両方の要素の相互作用を伴う組織修復の機構を提供する。この組織修復のプロセスは、しばしば3つのフェーズ、すなわち(1)炎症、(2)増殖、および(3)再構築のフェーズに分けられる。これらのフェーズは異なったイベントとして定義されるにもかかわらず、それらは連続したものとして生じ、また組織修復が1つのフェーズから別のフェーズに移る点は主観的である。
【0004】
しかし、内在性組織修復機構は、いくつかの組織傷害では存在せず、あるいは組織を完全に回復させるには不十分である。例えば、中枢神経系の軸索突起に対する損傷は、組織機能を回復させるために神経を再生することができない永久的なダメージをもたらす。I型糖尿病、肝硬変、うっ血性心不全、骨格筋萎縮症、パーキンソン病、および脊椎損傷は、組織機能の損失をもたらし得る条件の他の例である。疾患損傷または遺伝的欠損のいずれかによる生命のある器官組織の死は、器官機能の全体的損失または部分的損失をもたらすことがあり、またしばしば機能の損失が回復不可能であり、また不可逆的である。
【0005】
虚血症状の発現は、重要な組織傷害のもう一つの原因である。組織傷害に到る虚血性発症は、心筋梗塞、脳卒中、骨格筋梗塞、および他の疾患を招く。現在のところ、これらの状態に対して、治療を提供したり、外傷性、例えば、壊死性、喪失または繊維化した機能しない組織の再生を促進するような処置は、存在しない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、組織の再生を促す手段(メカニズム)が強く求められている。特に、傷害を負っていない組織と一体化することで、傷害組織領域内または隣接して血流を促進し、該組織に対して外見上正常な機能(quasi−normal function)を可能にする組織を再構成する組成物および方法を提供することが望ましい。
【0007】
癌を処置するための改善された組成物および方法も求められている。癌は身体の多くの組織および器官で生じ得るもので、しばしば血管系もしくはリンパ系を介して転移部位へ送られる細胞を放出することもある原発腫瘍を伴う。癌がひとたび確立されると、それを排除するには、患者を殺すことなしに全ての悪性細胞を破壊もしくは除去することが必要となる。原発腫瘍および転移腫瘍は両方とも、外科的切除、化学療法、放射線療法、または免疫療法によって、今日では概ね処置されている。外科的治療は、器官(例えば、脳、肝臓、肺、および膵臓)内で、いくつかの腫瘍の塊に到達しがたいことによって、しばしば妨げられる。また、あらゆる癌細胞を根絶することは困難である。なぜなら手術ですべての転移を取り除くことができるわけではなく、また癌細胞を殺す処置は正常細胞にとっても毒性があるからである。癌細胞が若干残る場合、このような癌細胞が増殖して疾患の再発が生ずる可能性があり、また、正常細胞とは異なり、該癌細胞に対して使用される治療薬に対する耐性を発現する場合もある。したがって、手術、化学療法、および放射線のいずれも疾患の再発に対する持続的な抵抗性(免疫)を与えるものではない。癌細胞を認識して破壊するために免疫系を刺激することで、癌を処置するために、積極性には劣るが、より効果的かつ長期的なアプローチが与えられる。動物での実験では、腫瘍に対する免疫応答に関する証拠が得られ、またTリンパ球が腫瘍免疫の媒体であることが示された。抗原提示とT細胞活性化に関与する分子とに関する知見の進歩によって、免疫応答に関するさらなる理解にもとづく新たな免疫療法が得られた。癌の免疫療法が数多くの動物腫瘍系で前途有望な結果が得られた一方で、免疫療法の臨床試験では一貫性なく好成績が得られた(Janeway,C.ら,Immunobiology:The Immune System in Health and Disease,5th Edition,Garland Science Publishing,2001)。
【0008】
腫瘍浸潤リンパ球(TIL)は、通常、認識可能な腫瘍抗原を提示している腫瘍細胞に対する免疫適格宿主(immunocompetent host)による細胞障害性攻撃薬剤であると一般に考えれていた。しかし、腫瘍細胞は宿主による免疫学的認識を妨げるための数多くの戦略を発展させた。したがって、原発性悪性腫瘍または転移腫瘍の部位で、腫瘍抗原認識と腫瘍細胞に対する細胞障害反応の発現とを促進する機構が求められている。また、細胞障害性細胞によって腫瘍の浸潤を促進することも求められている。特に必要とされることは、手術または放射線療法では処置不可能である遠位な部位にある腫瘍塊でのそれらの現象を促進することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(発明の要旨)
一態様として、本発明は細胞応答を誘導するための組成物を包含し、該組成物は、1つ以上の所望の細胞を組織部位に誘引するために効果的な第1の薬剤と、そのような細胞の活性を刺激するために効果的な第2の薬剤と、そのような細胞の生存に影響を及ぼすために効果的な第3の薬剤とを含む。一実施形態では、前記組成物が細胞の再生を促進するためのものであり、ならびに/または前記第1の薬剤が前記組織部位に対して幹細胞、前駆細胞、および補助細胞の1つ以上を誘引するのに効果的である。別の実施形態では、組成物は腫瘍に対する免疫応答を誘導するためのものであり、また第1の薬剤はTリンパ球、マクロファージ、顆粒球、抗原提示細胞、およびナチュラルキラー細胞からなる群から選択される1種類以上の細胞を誘引するために効果的である。
【0010】
一実施形態では、前記第2の薬剤が増殖と分化とから選択される活性を刺激することに効果的である。
【0011】
治療応答を誘導するための組織は、多くの実施形態で、骨格筋、肝臓、膵臓、脳、心筋、中枢神経系、または腫瘍組織である。
【0012】
一実施形態では、前記組織が心臓組織であり、第1の薬剤が循環血液単球、循環脈管形成細胞、および循環動脈形成細胞からなる群から選択される細胞を誘引し、前記第2の薬剤が前記細胞から因子(factor)の放出を刺激して血管新生および/または動脈形成を促進し、さらに第3の薬剤が心臓組織に常在する循環血液単球由来マクロファージの生存に影響を及ぼす。
【0013】
一実施形態では、上記第1の薬剤が、マクロファージ化学誘引タンパク質(MCP)−1、MCP−2、MCP−3、MCP−4、MCP−5、活性化に応じて調節される正常T細胞発現および分泌サイトカイン(RANTES)、フラクタルカイン、マクロファージ炎症タンパク質(MIP)−1−α、MIP−1−β、N−ファルネシルペプチド、補体活性化産物C5a、ロイコトリエンB4、血小板活性化因子(PAF)、トランスフォーミング増殖因子β(TGF−β)、インターロイキン、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM−CSF)、顆粒球コロニー刺激因子(G−CSF)、コロニー刺激因子−1(CSF−1)、ならびにマクロファージコロニー刺激因子(M−CSF)からなる群から選択される。
【0014】
別の実施形態では、第2の薬剤は、マクロファージ化学誘引タンパク質(MCP)−1、MCP−2、MCP−3、MCP−4、MCP−5、腫瘍壊死因子(TNF)α、TNF−β、活性化に応じて調節される正常T細胞発現および分泌サイトカイン(RANTES)、フラクタルカイン、マクロファージ炎症タンパク質(MIP)−1−α、MIP−1−β、N−ファルネシルペプチド、補体活性化産物C5a、ロイコトリエンB4、血小板活性化因子(PAF)、トランスフォーミング増殖因子β(TGF−β)、インターロイキン、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM−CSF)、顆粒球コロニー刺激因子(G−CSF)、コロニー刺激因子−1(CSF−1)、マクロファージコロニー刺激因子(M−CSF)、およびリポ多糖からなる群から選択される。
【0015】
他の実施形態では、上記第3の薬剤は、GM−CSF、G−CSF、CSF−1、およびM−CSFからなる群から選択される。
【0016】
別の実施形態では、上記組成物は、腫瘍において治療応答を誘導するように設計されている。この実施形態では、上記第1の薬剤がIL−8、MIG、IL−12、MCP−1、−2、−3、−4、−5、MIP−1α、MIP−1β、MIP−1γ、およびRANTESからなる群から選択される。上記第2の薬剤は、GM−CSFおよびIL−12からなる群から選択される。上記第3の因子は、MIG、血小板因子4、MCP−1、−2、−3、およびMIP−1γからなる群から選択される。
【0017】
上記薬剤は、前記組成物から同時に放出されるか、もしくは前記組成物から逐次的に放出される。種々の薬剤が含まれる薬物レザバを、生物分解性または非生物分解性ポリマーから形成することができる。別の実施形態では、上記薬物レザバは、該レザバの外面に結合した標的リガンド、例えば細胞接着分子を含む。
【0018】
薬物レザバ組成物を、例えば、エマルジョン、ゲル、ペースト、および液体から選択される剤形に処方することができる。
【0019】
別の態様によれば、本発明は、選択された組織部位内に、または該組織部位に隣接して、所望の応答を誘導するために効果的な1種類以上の治療薬を含む1つ以上の薬物レザバから構成される上記した組成物を沈着させることで特定の組織部位で治療応答を誘導する方法を包含する。要するに、上記薬物レザバは、(i)前駆細胞、補助細胞、Tリンパ球、マクロファージ、多形核白血球、抗原提示細胞、およびナチュラルキラー細胞からなる群から選択される一つ以上の幹細胞を前記組織部位に誘引すること、(ii)前記1つ以上の誘引された細胞を刺激して増殖および分化から選択される活性を起こすこと、ならびに(iii)組織内での上記1つ以上の誘引された細胞の生存を促すことに対して、効果的である1種類以上の薬剤を含む。
【0020】
一実施形態では、上記組織が心臓組織であり、また上記沈着が動脈形成および/または血管新生を促進するために効果的である。
【0021】
別の実施形態では、上記組織が腫瘍の塊(tumor mass)であり、上記沈着が細胞障害性細胞を腫瘍の中に誘引するために効果的である。
【0022】
別の態様によれば、本発明は細胞再生および/または組織再生を促進するための方法を包含する。この方法は、選択された組織部位内に、または該組織部位に隣接して、1種類以上の治療薬を含む1つ以上の薬物レザバを沈着させることを含み、該治療薬は、(i)1つ以上の幹細胞、前駆細胞、および補助細胞を前記組織部位に誘引すること、(ii)局所および誘引された細胞および細胞外マトリックスの成分に対する直接作用と、細胞および/または組織再生を促進する局所および誘引された細胞からの生物学的薬剤の放出とを刺激すること、ならびに(iii)そのような組織での誘引され、かつ局所的に再生した細胞の製造を促すことに対して、効果的である。
【0023】
一実施形態では、組織部位に沈着した上記レザバは、1種類以上の生物学的薬剤を含む。
【0024】
別の実施形態では、障害を受けた実質組織を再生させるために、上記組成物が投与される。典型的な組織は心筋組織であり、例えば動脈形成および/または血管新生が促進される。
【0025】
上記薬物レザバに含まれる生物学的薬剤として、心筋再生のための典型的な実施形態では、(i)循環血液単球、循環脈管形成細胞、および循環動脈形成細胞から選択される細胞を誘引するために効果的な第1の薬剤と、(ii)血管新生および/または動脈形成を促進するために因子の放出を刺激するために効果的な第2の薬剤と、(iii)心筋組織に存在する循環血液単球由来マクロファージの生存を促すために効果的な第3の薬剤とが挙げられる。
【0026】
一実施形態では、上記第1の薬剤は前駆細胞、幹細胞、および必要に応じて補助細胞を誘引するために効果的なペプチドである。第1の薬剤は、マクロファージ化学誘引タンパク質(MCP)−1、MCP−2、MCP−3、MCP−4、MCP−5、活性化に応じて調節される正常T細胞発現および分泌サイトカイン(RANTES)、フラクタルカイン、マクロファージ炎症タンパク質(MIP)−1−α、MIP−1−β、N−ファルネシルペプチド、補体活性化産物C5a、ロイコトリエンB4、血小板活性化因子(PAF)、トランスフォーミング増殖因子β(TGF−β)、インターロイキン、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM−CSF)、顆粒球コロニー刺激因子(G−CSF)、コロニー刺激因子−1(CSF−1)またはマクロファージコロニー刺激因子(M−CSF)と、それの機能的に等価なフラグメントとであってもよい。
【0027】
一実施形態では、上記第2の薬剤は、前記誘引細胞および/または局所的に再生した細胞を刺激するために効果的である。典型的な第2の薬剤として、マクロファージ化学誘引タンパク質(MCP)−1、MCP−2、MCP−3、MCP−4、MCP−5、腫瘍壊死因子(TNF−α、TNF−β、活性化に応じて調節される正常T細胞発現および分泌サイトカイン(RANTES)、フラクタルカイン、マクロファージ炎症タンパク質(MIP)−1−α、MIP−1−β、N−ファルネシルペプチド、C5a、ロイコトリエンB4、血小板活性化因子(PAF)、トランスフォーミング増殖因子β(TGF−β)、インターロイキン、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM−CSF)、顆粒球コロニー刺激因子(G−CSF)、コロニー刺激因子−1(CSF−1)、マクロファージコロニー刺激因子(M−CSF)、リポ多糖、およびそれらの機能的に等価なフラグメントが挙げられる。
【0028】
一実施形態では、上記第3の生物学的薬剤は、GM−CSF、G−CSF、CSF−1、M−CSF、およびそれらの機能的に等価なフラグメントからなる群から選択される。
【0029】
上記薬物レザバに含有される典型的な他の生物学的薬剤として、線維芽細胞増殖因子(FGF、FGF−1、FGF−2)、TGFα、インスリン様増殖因子(IGF−1)、アンジオポエチン−1、アンジオポエチン−2、血管内皮増殖因子(VEGF)、VEGF−2、VEGF165、およびVEGF121等のVEGFの構築物、血小板由来増殖因子(PDGF)−A、PDGF−B、PDGF−BB、内皮マイトジェニック増殖因子(mitogenic growth factor)、およびそれらの機能的に等価なフラグメントが挙げられる。
【0030】
上記方法を用いた処置について考えられる組織として、例えば骨格筋、肝臓、膵臓、脳、心筋、および中枢神経系が挙げられる。
【0031】
一実施形態では、上記薬物レザバは、該薬物レザバの外面に結合した生物学的リガンドを持つ。典型的なリガンドとして細胞接着分子が挙げられる。
【0032】
別の実施形態では、上記薬物レザバは、生物分解性ポリマーまたは非生物分解性ポリマーから処方される。別の実施形態では、上記薬物レザバは、ベシクル形成脂質から構成されるか、もしくはエマルジョン、ゲル、ペースト、および液体から選択される剤形に処方される。
【0033】
いくつかの実施形態では、薬物レザバを間質組織間隙内に沈着させ、この間隙内で該薬物レザバは可動性を持つ。
【0034】
さらに別の態様によれば、本発明は細胞および/または組織の再生を促進するための組成物を包含するもので、該組成物は、前駆細胞、幹細胞、および補助細胞を上記組織に誘引するために効果的な第1の薬剤と、そのような細胞の活性および/または局所的に再生した細胞の活性を刺激するために効果的な第2の薬剤と、そのような細胞の生存に影響を及ぼすために効果的な第3の因子とを含む。
【0035】
一実施形態では、上記薬剤は組成物から同時に放出される。別の実施形態では、上記薬剤は組成物から逐次的に放出される。
【0036】
さらに別の実施形態では、上記薬剤がポリマーから構成される球状の薬物レザバに詰め込まれている。いくつかの実施形態では、薬物レザバはその外面に結合した生物学的リガンドを有することができる。典型的なリガンドは、細胞接着分子である。
【0037】
さらに別の態様によれば、本発明は、癌細胞の破壊を促進するために、一つの部位に対して免疫細胞を誘引するための組成物を包含する。その方法は、選択された部位内または該部位に隣接して、(i)上記組織部位に、リンパ球、マクロファージ、抗原提示細胞(樹状細胞を含む)、炎症細胞、ナチュラルキラー細胞、前駆細胞、および補助細胞を誘引すること、(ii)局所および誘引された細胞ならびに細胞外マトリックスの構成要素に対する直接作用と、上記局在および誘引された細胞からの生物学的薬剤の放出とを刺激して、癌細胞に対する細胞障害性を促進すること、(iii)そのような組織での誘引されて局在的に再生する細胞の生存を促し、癌細胞に対する免疫原性の反応を促進することに効果的な1種類以上の治療薬を含む1つ以上の薬物レザバを沈着させることを含む。
【0038】
典型的な実施形態では、レザバは生物学的薬剤を含み、該生物学的薬剤は、(i)リンパ球、マクロファージ、抗原提示細胞(樹状細胞含む)、および炎症細胞を化学的誘引(血流、リンパ管、および隣接組織から腫瘍塊の中心領域への多形リンパ球の誘引)する機能と、(ii)身体にある全ての腫瘍細胞(上記組成物を受け取る腫瘍内にあるもの、および身体内の他の腫瘍塊に含まれるもの)に対して向けられた全身性細胞免疫反応(細胞障害性リンパ球およびナチュラルキラー細胞の形で)の発現に到る、抗原提示細胞によるリンパ球に対する腫瘍提示細胞を刺激する機能と、(iii)誘引された細胞および局所常在細胞に対する免疫原性反応の促進(腫瘍塊内への細胞障害性およびナチュラルキラーTILの輸送を促進することを含む)によって腫瘍細胞破壊をもたらす機能とを達成し得る。
【0039】
一実施形態では、細胞の化学誘引は、IL−8、MIG、IL−12、MCP−1、−2、−3、4、−5、MIP−1α、MIP−1β、MIP−1γ、およびランテスからなる群から選択される一種類以上の化学誘引薬剤を、上記薬物レザバに入れることによって達成される。
【0040】
別の実施形態では、上記薬物はGM−CSFおよびIL−12からなる群から選択される刺激薬剤を含む。
【0041】
さらに別の態様では、誘引された細胞の生存の促進および腫瘍に対する免疫治療の促進のための上記薬物レザバ内の第3の因子は、MIG、血小板因子4、MCP−1、−2、−3、およびMIP−1γから選択される1種類以上の薬剤である。
【0042】
別の態様にれば、本発明は組成物、特に上記したような組成物の送達のためのデバイスも包含する。このデバイスは、ポートにまで延びる内腔、少なくとも部分的に可撓性を有する遠位領域、少なくとも部分的に硬質の近位端、および前記近位端にある強化軸セグメントを有するカテーテル軸部と、少なくとも部分的に前記軸部近位領域を通して延びる少なくとも1つのハイポ管と、少なくとも部分的に前記軸部近位領域を通して延びる少なくとも1つのハイポ管と、前記カテーテル軸部の遠位端に隣接して位置し、ガイドワイヤ係合セグメントを有するモノレールセグメントと、遠位端および近位端を有し、該遠位端で前記カテーテル軸部の近位端と固定連結されているユーザインタフェースと、可動自在のピストンを収納するために前記インタフェースの近位端に連結したシースとから構成される。
【0043】
一実施形態では、上記デバイスは、非配置状態(non−deployed state)にある前記カテーテル軸部の遠位領域に少なくとも部分的に置かれ、配置状態(deployed state)にある前記カテーテル軸部から配置可能である針を、さらに含む。前記針は直線状または屈曲したものであってもよい。
【0044】
別の実施形態では、上記ガイドワイヤ係合セグメントは、脈管または体腔の壁に沿って前記組成物を沈着させるための腔内舗装デバイスを、さらに含む。この実施形態では、前記腔内舗装デバイスが細長い可撓性のカップを有し、該カップは前記カテーテル軸部のポートから前記組成物を受け取るための中央キャビティを有する。さらに、この実施形態では、前記腔内舗装デバイスが、前記カップを介して前記ガイドワイヤを導入するための少なくとも上部開口部と下部開口部とを有する。好ましくは、腔内舗装デバイスとともに螺旋状のガイドワイヤが用いられる。
【0045】
上記デバイスは、前記軸部遠位領域を少なくとも部分的に介して延在する複合管も含むものであってもよい。この複合管は熱可塑性エラストマーおよびワイヤ編物から構成されるものであってもよい。一実施形態では、上記複合管は針の近位端と接する。別の実施形態では、上記複合管は針の近位端に付着する。上記カテーテル軸部の近位端は、ユーザインタフェースの遠位端と接する強化軸セグメントを、さらに含むものであってもよい。
【0046】
上記デバイスは、少なくとも部分的に前記軸部近位領域を通して延びる少なくとも1つのハイポ管を、さらに含むものであってもよい。一実施形態では、カテーテル軸部の近位領域に対して構造支持または剛性を与える少なくとも2本のハイポ管を有する。
【0047】
遠位領域と近位領域とを移行領域で接続することが可能である。上記移行領域は、近位および遠位領域にまたがって融合、熱成形、熱可塑性エラストマーから形成されている。別の実施形態では、上記移行領域は複合管の遠位端と少なくとも1本のハイポ管の近位端とに連結するアダプターを有する。
【0048】
上記薬物送達デバイスは、モノレールセグメントの末端部分に配置される少なくとも1つのバルーンを、さらに含むものであってもよい。一実施形態では、少なくとも1つのバルーンは、モノレールセグメントの両側に配置された少なくとも2つのバルーンから構成される。別の実施形態では、少なくとも1つのバルーンは膨張時に双円錐形の輪郭を描く。上記デバイスは、流体の導入および除去のために、特にバルーンからへの導入および該パルーンからの排出のために、1本以上の流路を、さらに有するものであってもよい。
【0049】
さらに別の態様によれば、本発明は、組成物を送達するための送達デバイスを包含し、該送達デバイスは(i)ポートにまで延びる内腔、少なくとも部分的に可撓性を有する遠位領域、少なくとも部分的に硬質の近位端、遠位端と近位端とのあいだに配置された移行領域、および前記近位端にある強化軸セグメントを有するカテーテル軸部と、(ii)前記カテーテル軸部の遠位端に隣接して位置し、ガイドワイヤ係合セグメントを有するモノレールセグメントと、(iii)遠位端および近位端を有し、該遠位端で前記カテーテル軸部の近位端と固定連結されているユーザインタフェースと、(iv)可動自在のピストンを収納するために前記インタフェースの近位端に連結したシースとから構成される。上記デバイスは、少なくとも部分的に近位軸領域を介して延びて移行領域で終わる複合管を含む。このデバイスは、カテーテル軸部の近位領域を少なくとも部分的に介して延びる少なくとも1本のハイポ管を含む。
【0050】
本発明のこれらの目的および他の目的ならびに特徴は、本発明の以下の詳細な説明を添付図面と関連させて読むことによって、より完全に理解されるだろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0051】
(発明の詳細な説明)
(1.定義)
本明細書で用いられるように、「組織(tissue)」とは、生体内(in vitro)または生体外(ex vivo)のいずれかで、器官全体、、器官のフラグメント、または2つ以上の細胞を意味する。
【0052】
本明細書で用いられるように、「実質(parenchyma)」とは、特定の器官を識別する特定の機能的組織のことをいう。例えば、心臓の実質は、心筋繊維と血管系とからなる。さらに、肝臓の実質は、主に肝細胞からなる。
【0053】
「変性(degeneration)は、種々の侵襲(insults)に応じて細胞および組織での可逆変化である。これらの侵襲として、有害薬剤(化学的または生物学的)および物理的因子(圧力、高温および低温の極限を含む)にさらすことが挙げられる。そのような侵襲への露出が長期にわたったり、あるいは増大することで、細胞死および壊死に到ることがある。
【0054】
「壊死(necrosis)」とは、細胞死となる形態学的変化のことをいう。したがって、「壊死組織(nectrotic tissues)」は、壊死性の形態を示す細胞群から構成される。
【0055】
本明細書で用いられるように、「組織傷害(tissue damage)」とは、組織に対する種々の侵襲の1つ以上の効果のことをいい、これらの効果として、実質細胞の変性、細胞死、壊死、実質欠損、および線維芽細胞もしくはグリア細胞の瘢痕が挙げられる。
【0056】
本明細書で用いられるように、「幹細胞」とは、一般にその細胞自体を一新して分化した細胞型を生ずる独特の能力を持つ特別な型の細胞のことをいう。身体の大部分の細胞(例えば心臓細胞または皮膚細胞)は特定の機能を行うことが確定されているが、幹細胞は不確定であり、特定の細胞に分化するシグナルを受け取るまで不確定のままである。幹細胞は、それ自体の同一のコピーを作ることができ、また特性、形態、および特化した機能を持つ成熟細胞型を生ずることもできる。典型的な幹細胞は、中間の細胞型もしくは該細胞が完全に分化した状態に達する以前の型を精製する。中間細胞は、前駆体または前駆細胞と呼ばれている。幹細胞は、有糸分裂的にそれ自体を一新することができ、またヒト成体で見つかる準機能的組織(quasi−functional tissues)の細胞成分に分化することができる前駆細胞を生じることもできる(有糸分裂によって)。本明細書で用いられる幹細胞は成体幹細胞を含み、該成体幹細胞は、ヒト成体の体全体に分布した未分化細胞であり、末梢血、血液および骨髄由来造血性、間質性、および間充織性の幹細胞が挙げられる。例えば、成人骨髄中に存在している造血幹細胞は、通常の皮質性神経回路機能の中心となる高度に分化したプルキンエ神経細胞によって大脳皮質を精製することができる(Wagersら,Science,297:2256(2002))。
【0057】
本明細書で用いられるように、「前駆細胞」とは、健康な組織の再生プロセスに加わることが可能な細胞を意味する。「前駆細胞」は、幹細胞が有糸分裂することで生ずる娘細胞の一つである。これらの細胞は、細胞クラスの部分的に分化したファミリーを生ずる分化プログラム(種々の薬剤によって刺激される)への関与(コミットメント)によって、幹細胞と区別される。こられの細胞クラスは、その組織の実質で通常見いだされる完全に分化し、かつ特化した表現型の細胞によって特定の組織を究極的には再生する。例えば、心筋細胞、骨格筋芽細胞、脾臓のα、β、およびδ細胞、肝細胞、神経、中枢神経系のアストログリア、オリゴデンドログリア、およびミクログリアは全て、骨髄幹細胞と局所組織由来の成熟幹細胞とに由来するものと考えられ、特定の器官の分化した組織内に残ることが可能である。このリストは、単に典型的かつ非限定的なものに過ぎないが、これらの細胞の各々は組織再生をイニシエートする能力を持つ。前駆細胞のさらなる例は、成体脳内の部分的に分化した細胞であり、該細胞は特定の領域に存在する神経成体幹細胞の娘細胞である(例えば、海馬歯状回および脳室下領域)。これらの部分的に分化した細胞は、脳の遠位領域に移動する。これらの細胞は、それらの遠位部位で、完全に分化した神経細胞または特定の型のグリア細胞のいずれかになることが約束される。神経細胞は、神経回路の範囲内で通常な機能を引き受ける。グリア細胞は、グリア型に特有の分化型機能を実行する。例えば、オリゴデンドログリア細胞は、神経軸索を電気的に絶縁にするCNS内の必須細胞外マトリックス成分であるミエリンを作るプログラムを実行する。衛生細胞は、骨格筋細胞の前駆体であって、概して分化型の筋線維の表面近傍に存在する。衛生細胞は、有糸分裂に入り、融合して分化型の多核筋繊維を形成する。前駆細胞は、適当な化学誘引物質の存在によって、目的とする特定の組織領域に誘引され、健康な組織の再生プロセスを開始させることができる。
【0058】
本明細書で用いられるように、「補助細胞」とは、実質細胞の再生に関係しているが、実質細胞、幹細胞、または実質細胞前駆体ではない細胞のことをいう。すなわち、補助細胞は、生物学的薬剤を合成および分泌することができ、該生物学的薬剤は幹細胞および前駆細胞(例えば、補助細胞として機能する骨髄間質細胞は、神経アポトーシスを防ぐ肝細胞増殖因子(HGF)と、神経成長因子(NGF)、ニューロトロピン4(NT5)および脳由来神経栄養因子(BDNF)(これらは全て神経前駆体の増殖および分化を刺激する)とを産生し、分化した神経細胞のアポトーシスを抑制する。補助細胞は、自室組織の機能的アーキテクチャーにとって必須である細胞外マトリックス成分を合成および分泌する。補助細胞は、細胞外マトリックスの修復および再構築をおこなう生物学的薬剤の合成および分泌をおこない、障害組織からの実質再生を促進する。補助細胞の例として、限定されるものではないが、以下のものが挙げられる。すなわち、(a)循環血液単球に由来する組織マクロファージと、(b)組織を再生させる際に間充織細胞を生じる骨髄間質細胞と、(c)中枢神経系に存在するミクログリアとが挙げられる。
【0059】
本明細書で用いられるように、「刺激する(stimulate)」または「誘引された細胞または局所的に再生する細胞を刺激する(stimulate an attracted cell or a locally regenerated cell)」とは、刺激物の標的である細胞に関係している種々様々な活性および現象の誘導のことをいう。これらの活性および現象として、
(i)組織内での運動性の増加、
(ii)1つの組織からもう一方の組織への運動性の増加(例えば、骨髄から血流へ、さらにそれに続く遠位組織へのの幹細胞の放出)、
(iii)他の細胞、細胞外マトリックス、および細胞粘着リガンドに対する細胞の結合、
(iv)DNA複製および有糸分裂の刺激、
(v)サイトカイン合成および分泌の刺激、
(vi)ケモカイン合成および分泌の刺激、
(vii)細胞外マトリックス成分合成および分泌の刺激、
(viii)アポトーシスの抑制、
(ix)変性薬剤の作用(例えば酸化防止作用)に対する防御、
(x)細胞外マトリックスを変性させる因子の合成および分泌の刺激(例えば、組織マクロファージによってマトリックスメタロプロテアーゼの放出を刺激することで、虚血性侵襲に反応した再生細動脈のため、および細胞の転位のために、細胞外マトリックス内に間隙を形成する)、
(xi)分化細胞間での細胞間結合アーキテクチャーの可塑性の誘導(例えば、間質細胞由来因子1ーα(SDF−1α)およびインターロイキンー6(IL−6)が直接、分化CNS神経細胞に作用し、神経細胞への毒性障害に対する再生的に反応してシナプス結合の再構築を引き起こすことが知られている)、
(xii)完全に機能的な実質細胞への前駆細胞および幹細胞の分化の促進、
(xiii)再生実質内の種々の異なった細胞型の分化プログラムの調節(モジュレーション)および編成(オーケストレーション)、
(xiv)新脈管形成および/または動脈形成を促進する誘引された細胞からの生物学的薬剤の放出、
(xv)幹細胞、前駆細胞、補助細胞、または局所的に再生する細胞の増殖促進、および/または
(xvi)リンパ球、B細胞、樹状細胞、ナチュラルキラー細胞、リンホカイン活性化キラー細胞、およびマクロファージの癌細胞に対する細胞障害反応を増加させる因子であるサイトカインの合成および分泌の刺激、
が挙げられる。
【0060】
特定の組織領域に「配置(placed at)」または「沈着(deposited)」された組成物に関連して使用される用語「配置(placed at)」および用語「沈着(depositing)」とは、所望の部位または該所望の部位近傍に組成物を導入することを意味する。組成物を直接、標的部位に配置することができ、あるいは該標的組織部位に隣接した体腔内に配置することができる。例えば、心臓内の組織部位への配置は、心臓組織(心筋)自体の中またはその上に組成物を沈着させるのと同様に、囲心腔(心臓を包む壁側心膜と臓側心膜との間の間隙)内に組成物を沈着させることを含む。
【0061】
薬剤は、細胞からの活性物質放出を刺激することによってのみではなく、前駆細胞の有糸分裂、前駆細胞の分化、異なる細胞クラスでの分化プログラムの調整、または細胞外マトリックスの再構築を誘導することによっても、それが作用した場合に、細胞に対して「直接的な(direct)」効果を有する。
【0062】
本明細書で使用される「新脈管形成(angiogenesis)」とは、新規毛管ネットワークの形成に到る内皮細胞の形成のことをいう。
【0063】
本明細書で用いられるように、「動脈形成(arteriogenesis)」とは、虚血性組織、腫瘍、または炎症部位に血液を供給している既存の細動脈結合からの内皮細胞および平滑筋細胞の増殖による動脈の生体内原位置(in situ)での成長のことをいう。
【0064】
「虚血性組織(ischemic tissue)」、すなわち「虚血の危険性がある組織(虚血の危険にさらされた組織)」とは、不十分な血液供給を経験しているか、または同様の危険性がある組織、腫瘍、または炎症部位のことをいう。
【0065】
「虚血(ischemia)」または「虚血性イベント(ischemic event)」とは、特定の細胞、組織、または器官に対する血液の不十分な供給のことをいう。血液供給が減少することで、器官または組織への酸素供給が不十分になる(低酸素症)。低酸素症が長引くと影響を受けた器官または組織に損傷をもたらす場合がある。
【0066】
「無酸素(anoxia)」とは、器官または組織中の酸素が実質的に完全な無酸素状態にあり、もしそれが長引けば細胞、器官、または組織の死をもたらす場合があることをいう。
【0067】
「低酸素症(hypoxia)」または「酸素圧低下状態(hypoxic condition)」とは、細胞、器官、または組織が受ける酸素供給が不十分である状態を意味する。
【0068】
(II.組織再生および癌免疫療法のための組成物)
一態様によれば、本発明は組織部位への生体内投与に適した組成物を包含するもので、該組織部位は、持続性の細胞編成、または細胞および組織の死、または壊死(組織損失)、または壊死後の繊維眼細胞もしくはグリア細胞の瘢痕、またはそれらの効果の全てを有し、あるいはこれらの効果のいずれか1つ、いずれか2つ以上、または全ての危険性がある。より簡単に述べると、上記組成物は外傷後の組織または外傷を受ける危険性がある組織での使用に適している。組成物は、組織外傷の領域に対して、幹細胞および前駆細胞の少なくとも一方を誘引するために効果的な第1の薬剤と、誘引された細胞の活性を刺激するために効果的な第2の薬剤と、誘引された細胞の生存を促すために効果的であり、また必要に応じて、誘引された細胞から生じる分化細胞の生存を促すために効果的な第3の薬剤とを含む。いくつかの実施形態では、第1の薬剤は、さらに補助細胞を誘引する。さらに後述するように、第1、第2、および第3の薬剤は組織の型に依存し、また幹細胞もしくは前駆細胞および任意に補助細胞がその部位に誘引される。前述の細胞の全てが自家組織由来のものである。全ての細胞が、身体に通常存在している導管(例えば、血管およびリンパ管系、脳脊髄液系、ならびに身体の組織にある間質間隙を介した移動経路)を介して、問題となっている組織部位に転位される。
【0069】
前述のように、組成物は外傷後または外傷の危険性がある種々様々な組織での使用を見いだし、特定の組織に合うように調製された組成物の例を以下に示す。上記組成物について一般的ではあるが詳細に説明することを目的として、脳組織の一部位に沈着した組成物を図1について提供する。しかし、以下の開示から明らかになるように、図1に詳細に示した組成物およびプロセスは脳での組織外傷を例示するものであり、広範囲かつ一般的な概念はいかなる傷害組織に対しても適用可能である。
【0070】
図1は、請求の範囲に記載されている組成物を沈着させた後、脳の一組織部位で細胞段階での単純化された組織再生プロセスを示す。傷害を受けた脳組織(概ね10で示す)は、虚血性イベント(例えば脳卒中)または疾患(アルツハイマー症、多発性硬化症、髄膜脳炎、もしくは物理的外傷によるもの)の結果によるものと考えられる。組成物を組織部位10または該部位に隣接して沈着させることで、傷害を受けた組織または壊死組織の再異性を促進する。この実施形態では、上記組成物は、薬物レザバの形状(例えば、レザバ12、14、16)であり、選択された治療薬を含有および放出するように設計されている。上記したように、薬物レザバを調製し、幹細胞および/または前駆細胞、ならびに必要に応じて補助細胞を上記組織部位に誘引するために効果的な第1の治療薬と、誘引された細胞の活性を刺激するために効果的な第2の治療薬と、誘引された細胞、必要に応じて再生して完全に分化した細胞の生存を促すために有用な第3の治療薬とを含む。いくつかの実施形態では、以下にさらに説明するように、同一の薬剤が両方の化学誘引物質(例えば、第1の治療薬としての機能を果たし、刺激剤および/または生存促進剤としての機能を果たす)としての機能を果たす。すなわち、場合によっては、一つの薬剤が第1、第2、および第3の薬剤の機能のうち1つ以上を提供するものであってもよい。
【0071】
この特定の例示では、薬物レザバ12、14、16は、幹細胞(例えば、循環骨髄由来幹細胞、例えば近くの毛細血管20内の細胞18)の化学誘引物質として作用する第1の薬剤を含む。薬物レザバからの化学誘因物質の放出によって確立されたケモカイン勾配に応じて、細胞22で例示されるように、幹細胞は近隣の組織に毛細血管内皮を通して移住する。幹細胞は、毛細血管内皮を介して、細胞22に示されるように、近隣の組織に移住する。誘引された細胞として、幹細胞および/または前駆細胞(例えば、単核細胞および組織再生を援助することができる他の細胞)を挙げることができる。周辺にある補助細胞(例えば、マクロファージ24によって例示されるようなマクロファージ)は、25によって示されるケモカイン勾配に応じて、組織領域に付着する。周辺にある補助細胞(例えば、マクロファージ24によって例示されるようなマクロファージ)は、25によって示されるケモカイン勾配に応じて、組織領域に付着する。また、隣接組織内の幹細胞もしくは特定の幹細胞由来部位からの幹細胞は、上記勾配に応じて組織部位に移動する。例えば、脳に関して、海馬歯状回もしくは脳室下領域のいずれかに由来する成人神経幹細胞(例えば、細胞26)は、その領域に引き寄せられる。ケモカインによるレザバへの細胞誘引の全体的結果は、幹細胞および/または前駆細胞の濃度増加をもたらし、補助細胞のいくつかの例では、図1に示すように、レザバ近傍で沈着する。
【0072】
いくつかの実施形態では、組成物に含まれる薬物レザバは、組織部位に誘引された細胞もしくは該組織部位に存在する細胞と相互作用するための表面リガンドを含む。この特徴は、レザバ14の細胞表面に結合した幹細胞(例えば、細胞28、30)によって、図1に示されている。表面結合リガンドは多機能であり、傷害組織部位に誘引された細胞に対して結合部位を与える機能を果たすことができ、機能的に効果的な方法で細胞表面受容体に対して刺激性の生物学的薬剤を提示し、さらに/あるいは分解から生物学的薬剤を保護する。リガンドは、処置されている組織に基づいて、また誘引された細胞の要求に基づいて、選択される。典型的なリガンドとして、細胞接着分子、細胞外マトリックス成分、およびそれらのフラグメントが挙げられる。特定の組織に対する他の典型的なリガンドを以下に示す。
【0073】
組織部位に沈着した組成物内の薬物レザバは、放出するために、誘引された細胞を刺激して該細胞の作用を引き出すために効果的な薬剤を含有する。図1は、薬物レザバ16から放出されたサイトカイン32を示すもので、該サイトカイン32は幹細胞34を誘導して錯体神経36に分化させる。レザバ14に結合した幹細胞14は、レザバ14内の適当な刺激薬剤によって、グリア細胞(星状細胞)38に分化する。さらに、上記領域に誘引されたマクロファージを刺激することで、ケモカインおよびサイトカインが産生される(例えばサイトカイン42を産生するマクロファージ40)。他の細胞の増殖は、刺激薬剤の存在下で誘導され、例えば神経幹細胞46はサイトカインによる刺激に応じて増殖し娘細胞50、52になる。娘細胞はさらに、例えば矢印54に示すような錯体神経に分化することができる。
【0074】
図1では例示していないが、上記薬物レザバもまた、誘引された細胞の生存を許容するために、あるいは傷害組織で、誘引された細胞および生成して完全に分化した細胞の寿命を延ばすために効果的な薬剤を含む。適当な薬剤は組織型および誘引された細胞にもとづいて変わり、多様な組織に対して以下のものが例としてあげられる。
【0075】
組成物の別の特徴によれば、上記薬物レザバは組織間隙を介して、最初の沈着部位から移動および分散することが可能である。このような特徴は、レザバ12の移動を示す矢印27によって図1に例示されている。概して、そのような移動は、組織内での濃度プロフィール、浮力、および/または流体運動の結果として起こる。
【0076】
図2は、図1の薬物レザバ12内の領域Aの詳細図である。この実施形態では、孔開口部60によって例証されるように、受容体12は多孔性である。以下でさらに説明するように、上記組成物の他の実施形態は、治療薬を閉じこめるために多孔性のレザバを含まないことが意図されている。治療薬を、例えば孔60内のサイトカイン62のように、レザバの孔の中に含有するが、レザバの孔と孔との間の領域、例えば固い領域の中、例えばレザバ成分の分子間間隙内に保持することも可能である。細胞接着リガンド(例えば、細胞接着ペプチド68)をレザバマトリックスに取り込むことができるので、誘引された細胞を薬物レザバ近傍に保持するために、該ペプチドのいくつかが66に示すようにレザバ表面に露出される。レザバの他の実施形態として、細胞表面受容体と結合するために露出される細胞接着ペプチドを含む組成物によってレザバ表面が被覆されたものが考えれる。
【0077】
要約すると、(i)外傷後または外傷の危険性がある組織に対して、幹細胞および/または前駆細胞、および任意に補助細胞を誘引すること、(ii)誘引された細胞(例えば、幹細胞、前駆細胞、および/または補助細胞、および/または局所的に再生する細胞)を刺激して組織再生をもたらすイベントのカスケードを開始させるか、または該カスケードに関与すること、ならびに(iii)再生された組織の活性および寿命を延ばすために、誘引された細胞およびその領域にある他の細胞の生存を促すことに対して効果的な1種類以上の治療薬を含む組成物の沈着。機能的な組織の再生は、該組織が外見上正常に機能することを可能にし、また好ましい実施形態では、外傷領域に隣接する傷害を受けていない健康な組織と上記再生された組織とが統合される。組成物は、瘢痕および傷害組織領域を生存可能かつ健康な組織細胞によって再び占めることで、組織の再生を促進する。
【0078】
上記のことから理解されるように、上記組成物を、慨して傷害組織、特に傷害を受けた実質組織の再生で使用することを目的としている。ここで、本発明は、疾患または外傷によって傷害を受けた特定の組織を再生するために適宜調製された特定の組成物を手段として、さらに例証され、典型的な特定の組織として、心筋、骨格筋、肝臓、膵臓、中枢神経系、および腎臓が挙げられる。
【0079】
(A.実質再生(parenchymal regeneration)を促進するための組成物)
(1.後虚血組織または虚血の危険にさらされた組織)
一実施形態において、組成物は、虚血性イベントによる組織傷害の再生のために1種類以上の選択された治療薬を含んでいる薬物レザバから構成される。虚血により生じた疾患の状態を処置することは、特に虚血性心疾患が死亡率の主な原因である西洋世界で使用するために、積極的に探査される医学領域で有り続ける。心臓虚血は、心臓の筋細胞(心筋細胞)ならびに心臓の供給領域の血管構造物の死をもたらす主要冠動脈の突然の妨害に起因する。同様に、他の器官および組織に対する主要血管の妨害は、その組織の生きた細胞の死と、その正常および適当な機能を保つ組織の能力の著しい悪化とを招く。脳虚血は、例えば、脳の一部に対する動脈血流が妨げられるか、あるいはクリティカルレベルを下回るまで減少するもので、一過性の脳虚血発作および脳卒中の両方をもたらすことができる。心臓虚血および脳虚血が虚血のより一般的な形態のうちの2つである一方で、他の体組織(例えば、眼、腎臓、肝臓、体下肢、腸、および皮膚)に対する傷害ならびに皮膚弁の拒絶等にも関係する。
【0080】
虚血を取り扱うための最近のアプローチは、新脈管形成および動脈形成を介した新規毛細管ネットワークの成長と副行血管の発現とを刺激する試みを伴う。血管新生とは、概して、毛細管ネットワークを形成している新規の内皮化(endotheliallined)血管の形成のことをいう。動脈形成は、新脈管形成とは異なるもので、内皮および平滑筋細胞の有糸分裂、結合組織の外膜層および弾性板の形成による既存の側副細動脈の成長および機能的動脈への再構築のことをいう。血管平滑筋細胞は、血管運動性制御および構造強さおよび安全性を与える。細動脈は、毛細管ネットワークと対比される。毛細管ベッドは、組織内での栄養およびガス交換にとって必要である。毛細血管の直径が小さいことから、毛細血管は高容量血流に対する組織による要求を常に満足することはできない。この要求に対しては、しばしば、直径が大きい動脈のみがその要求に応える。
【0081】
新脈管形成および動脈形成の刺激に対する戦略は、虚血性組織の局所化された領域に対する必要な生物学的ペプチドの送達に対してフォーカスをあてた。例えば、損なわれた動脈に対する塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)の送達は、血流改善を示唆する変化を生ずる(Laham R.J.ら,Clin.Cardiol.22(Supp.I):16−19,(1999)。血管内皮増殖因子(VEGF)の投与が心筋血流量を改善し、血管組織の修復に使用することが提案されている(EP−A−506 477)。新脈管形成および/または動脈形成の形成に使用することが提案された他の生物学的薬剤として、胎盤増殖因子(WO 01/57181;WO 01/56593)と、コロニー刺激因子(WO99/17798)とが挙げられる。当該技術分野で説明されていることは、動脈形成を刺激するために単球に治療薬を充填することを含む方法(WO 00/60054)である。心筋虚血ならびに虚血性四肢(ischemic limbs)を持つ患者の新脈管形成をもたらす、さらに別のアプローチ(Isner,J.M.ら,Lancet,348:370−374,(1996))がphVEGFの動脈遺伝子導入を用いた(Losorda,D.W.ら,Circulation,98(25):2800−2804,(1996))。
【0082】
心筋細胞または骨格筋芽細胞を移植することで、心臓および骨格筋の壊死および瘢痕化した組織ゾーンを置き換える戦略(Leor,J.ら,Circulation,94(Supp.II):331−336,(1996);Murryら,J.Clin.Invest.,98:2512−2523,(1996);Taylorら,Nat.Med.,4:929−933,(1998);Tomitaら,Circulation,100(Supp,II):247−256,(1999);Menuscheら,Lancet,357:279,(2000))は、移植した細胞のいくつかが生存するという多少の成功を示した。しかし、それらは、生き残っている健康な組織と機能的に統合される健康な心筋または骨格筋と冠状動脈または末梢動脈とを再構築することに失敗した。
【0083】
これらのアプローチは、新脈管形成および動脈形成の細胞移植および促進を通して虚血に対する治療的アプローチでの初期の心みを反映する。いくつかの有望な知見にもかかわらず、これらのアプローチのいずれも、虚血領域の生理学的パフォーマンスを臨床的に改善するために有意な程度に、血流の回復または細胞構造の統合性の回復を達成した。血管新生、動脈形成、および実質細胞の復活を、臨床的に有用である有意な程度まで、引き起こすことが切迫して求められている。
【0084】
実質組織の回復と虚血の危険にさらされた組織、すなわち後虚血組織または低酸素組織での血液循環とを促進するための組成物および方法が、本明細書で提供される。記載されている組成物は、治療法として、新脈管形成、動脈形成、ならびに心筋および骨格筋繊維再生に対して有効である。
【0085】
(1.実質細胞再生、新脈管形成および/または動脈形成のための治療薬)
上記したように、組成物は幹細胞および/または前駆細胞ならびに任意に補助細胞を誘引するために効果的な1種類以上の治療薬を含み、それらの細胞を刺激して該細胞の作用を引き出したり、該細胞の生存を促す。虚血性組織を処置するために設計された組成物について、さらに具体的に言えば、治療薬の選択を、(i)骨髄細胞、幹細胞、および前駆細胞と、単球(補助細胞として機能)とを含む循環血液細胞を、虚血部位または虚血の危険にさらされた組織に誘引すること、(ii)これらの細胞での種々の現象、例えば有糸分裂、運動性、結合、分化、および生物学的薬剤放出(新脈管形成、動脈形成、ならびに骨髄および幹細胞の心筋細胞および骨格筋線維への分化を促進)を刺激すること、(iii)組織内の単球由来マクロファージ、分化した筋細胞の生存と、筋線維、筋細胞、筋芽細胞、骨格筋細胞、および内皮細胞の前駆細胞の生存とを促すことのために、おこなう。周知の如く、単球は骨髄由来骨髄系前駆細胞に由来し、単核食細胞系に属している。これらの細胞(白血球のカテゴリー)は、血中を循環して血流から内皮層を介して組織間隙に移動し、そこで成熟してマクロファージになる。そこでマクロファージは、侵入してくる微生物および異物、同様に傷付いたり老化した細胞を、貪食して消化する。これらの細胞はまた、細胞外マトリックスのチャンネルを開くタンパク質分解酵素を分泌することで、動脈への細動脈の再構築も助け、平滑筋細胞の増殖および移動と再構築された動脈の適応を促進させる。本明細書で用いられるように、「単球(monocyte)」とは、単球と同様に、単球の生物学的作用と同一または類似した作用を示す他の細胞のことをもいう。
【0086】
心臓筋細胞および骨格筋芽細胞は、筋肉に残る幹細胞および骨髄幹細胞に由来する。これらは、筋芽細胞に類似し、衛生細胞と呼ばれている筋幹細胞から分化する。衛生細胞は有糸分裂に入り、いくつかが融合して分化した筋線維を形成する。これらの細胞は、適当な化学誘引物質の存在によって、目的の組織領域に誘引され、虚血領域および虚血の危険性がある領域で健康な筋組織の再生プロセスを開始する。
【0087】
したがって、虚血組織での使用のための本発明の組成物に含まれる治療薬の一クラスは、循環している血液単球、骨髄細胞、骨髄由来の筋原性前駆細胞、ならびに前駆体内皮および平滑筋細胞を、危険性のある組織へ誘引するために効果的な生物学的薬剤である。そのような薬剤を情報伝達(シグナリング)分子とすることができ、例えば、循環している単球、骨髄細胞、骨髄および筋由来筋原性前駆細胞、ならびに前駆体内皮および平滑筋細胞を組織領域に誘引し、循環から組織領域へ移動させるために効果的な化学誘引物質が挙げられる。使用に適した化学誘引物質は、限定されるものではないが、ケモカイン、例えばマクロファージ化学誘引物質タンパク質(MCP−1、MCP−2、MCP−3、MCP−4、およびMCP−5)、ランテス(RANTES)(活性化に対して調節されている、正常T細胞発現および分泌サイトカイン)、フラクタルカイン(Fraktalkines)、マクロファージ炎症タンパク質(MIP)−1−αおよびMIP−1−β;N−ファルネシルペプチド、補体活性化産物C5a、ロイコトリエンB4、血小板活性化因子(PAF)、幹細胞因子(SCF)、肝細胞増殖因子(HGF)、塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)、血小板由来増殖因子ABおよびBB(PDGF−AB、BB)白血病抑制因子(LIF)、ならびにこれらの化学誘引物質と機能的に等価のフラグメントが挙げられる。また、単球、骨髄幹細胞、骨髄および筋由来筋原性前駆細胞、前駆体内皮および平滑筋細胞の誘引剤としての使用について考えると、トランスフォーミング増殖因子β(TGF−β)、インターロイキン、およびコロニー刺激因子であり、該コロニー刺激因子として、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM−CSF)、顆粒球コロニー刺激因子(G−CSF)、コロニー刺激因子−1(CSF−1)、およびマクロファージコロニー刺激因子(M−CSF)とそれの機能的に等価なフラグメントが挙げられる。
【0088】
化学誘引物質が、新脈管形成および/または動脈形成のプロセスに関係する他の細胞を誘引するために適当であると考えられることはいうまでもない。または、単球、骨髄幹細胞、骨髄および筋由来筋原性前駆細胞、前駆体内皮および平滑筋細胞に加えて、化学誘引物質は特に他の細胞を誘引するのに選ばれることができる。新脈管形成、動脈形成、および筋細胞分化にも伴う細胞の循環として、他の白血球、血小板、骨髄由来白血球前駆体、骨髄由来幹細胞、および血管内皮細胞前駆体が挙げられる。血管平滑筋細胞(VSMC)は、骨髄幹細胞、マクロファージ、および局部組織間充織細胞を含む種々の前駆体から分化する。平滑筋細胞および内皮細胞のための刺激剤としての使用について考えられるものは、GM−CSF、G−CSF、M−CSF、SCF、および内皮マイトジェニック増殖因子(PDGF−BB)である。
【0089】
表1は、心筋細胞および骨格筋細胞とそれらの前駆体との刺激効果を有する種々の増殖因子を要約する。これらの因子は、化学誘引物質として、または特定の細胞の更なる増殖および分化に対する薬剤として適当である。
【0090】
【表1】
上記組成物に含まれる別の治療薬は、新脈管形成および/または動脈形成を促進する生物学的薬剤の放出を刺激することができる薬剤であり、本明細書では「刺激薬剤(stimulation agent)」と呼ぶ。この刺激薬剤を、単球、幹細胞、および筋原性前駆細胞を目的の組織へ誘引する際に用いられる薬剤と同一のもの、または異なる薬剤とすることができることは、いうまでもない。刺激薬剤は、新脈管形成、動脈形成、および筋細胞再生のプロセスに関与する1種類以上の生物学的成分の放出に対する危険にさらされている組織内または該組織に隣接して、単球、幹細胞、または他の新脈管形成および動脈形成細胞を刺激するために有効である。新脈管形成、動脈形成、および筋細胞分化プロセスに関係する単球以外の細胞として、内皮細胞、マスト細胞、リンパ球、顆粒球、白血球、血小板、骨髄由来白血球前駆体、骨髄由来幹細胞、血管内皮細胞、血管平滑筋細胞、およびそれらの前駆体が挙げられる。
【0091】
上記刺激薬剤が、同様に、単球、他の補助細胞、幹細胞、および筋細胞前駆細胞に対する直接的な作用による動脈形成、新脈管形成、および筋実質再生に対して作用可能であることは、これらの細胞に対する直接的な作用によって、十分に理解される。表1に例示されるように、再生心筋線維および骨格筋線維を形成するために心筋および骨格筋細胞前駆細胞の増殖および分化を刺激することが知られている薬剤の多くが、それらの標的に対するそれらの直接的な作用を達成する。筋実質の再生は、中間生物学的因子の生産および分泌の刺激なしに生じることが可能である。同様に、新脈管形成および動脈形成を刺激する多くの薬剤の効果は、血管内皮細胞および該細胞の前駆体ならびに血管平滑筋細胞および該細胞の前駆体に対して、直接作用することで、達成される。
【0092】
刺激薬剤を、マクロファージおよび他の血管新生および動脈新生細胞からの血管新生および動脈新生生物学的活性分子の産生を刺激し、あるいは幹細胞の分化と筋細胞の増殖および生存と筋芽細胞の融合とを刺激する生物学的または非生物学的化合物とすることができる。典型的な生物学的因子は、限定されるものではないが、ケモカイン、例えばマクロファージ化学誘引物質タンパク質(MCP−1、MCP−2、MCP−3、MCP−4、MCP−5)、腫瘍壊死因子(TNF−α、TNF−β)、ランテス(RANTES)(活性化に対して調節されている、正常T細胞発現および分泌サイトカイン)、フラクタルカイン(Fraktalkines)、マクロファージ炎症タンパク質(MIP)−1−αおよびMIP−1−β、ならびにこれらの薬剤と機能的に等価のフラグメントが挙げられる。また、刺激薬剤としての使用が考えられるものとして、インターロイキン、コロニー刺激因子(例えば、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM−CSF)、顆粒球コロニー刺激因子(G−CSF)、コロニー刺激因子−1(CSF−1)、およびマクロファージコロニー刺激因子(M−CSF))、血小板由来増殖因子(PDGFーABおよびPDGF−BB)、塩基性線維芽増殖因子(bFGF)、インスリン様増殖因子(IGF−1)、神経成長因子(NFG)、およびそれらの薬剤の機能的に等価ないずれかのフラグメントが挙げられる。ある細菌細胞壁の誘導体であるリポ多糖(LIS)もまた、LPSのマクロファージ刺激効果を持つが該分子の毒性領域は欠けているLPS様分子であることから、効果的な刺激剤として適当であると考えられる。刺激薬剤としての使用が考えられるものとして、アンジオポエチン−1および−2(Ang−1およびAng−2)、肝細胞増殖因子(HGF)、ロイコトリエンB4、補体活性化産物C3aおよびC5a、白血病抑制因子(LIF)、エリスロポイエチン(Epo)、5‐アザシチジン、およびトランスフォーミング増殖因子(TGF−β))が挙げられる。
【0093】
循環する単球、骨髄幹細胞、骨髄および筋由来筋原性前駆細胞、ならびに前駆体内皮および平滑筋細胞を、対象とする組織に対して誘引することと、直接的作用によって、あるいは生物学的に活性のある薬剤の分泌誘導を介して、新脈管形成、動脈形成、および筋実質再生を刺激することとに対して、有効である薬剤の添加に加えて、組成物は、血管および筋実質の再生に関与している対象とする組織内の細胞の生存を促すために効果的な薬剤を、さらに含む。例えば、組織領域に誘引された単球に由来するマクロファージの生存の延長と組織領域にある他の血管新生または動脈新生細胞の生存の延長とが、新脈管形成および/または動脈形成に関与する所望の薬剤の放出を促進かつ延長する。上記組成物は、新脈管形成および動脈形成に関与し、心筋細胞および骨格筋細胞に分化し得る樹幹幹細胞の数を増加させるために効果的な薬剤も含むことができる。循環血単球および組織常在の単球由来マクロファージ、新脈管形成および動脈形成に貢献し、幹細胞の数を増加させる他の細胞の生存を促すことができる生物学的因子として、GM−CSF、G−GSF、CSF−1、M−CSF、IGF−1、Ang−1、および機能的に等価な薬剤ならびにそれらのフラグメントが挙げられる。
【0094】
上記組成物は、新脈管形成および動脈形成のプロセスに関与する生物学的薬剤を1種類以上含むこともできる。これらの薬剤は、典型的に虚血性組織内のマクロファージおよび他の細胞から放出されるが、治療用組成物の一部として提供することも可能である。新脈管形成および/または動脈形成に関与する因子として、線維芽細胞増殖因子(FGF、FGF−1、FGF−2)、TGF−α、インスリン様増殖因子−1(IGF−1)、アンジオポエチン−1(Ang−1)、アンジオポエチン−2(Ang−2)、血管内皮増殖因子(VEGF)、それの機能的に等価なフラグメント、VEGFの構築物(例えば、VEGF−2、VEGF165、およびVEGF121)、血小板由来増殖因子−A(PDGF−A)および/またはPDGF−Bおよび/またはPDGF−BB、胎盤由来増殖因子(PIGF)、ならびに他の内皮由来増殖因子の構築物またはそれの機能的に等価のフラグメントが挙げられる。
【0095】
上記組成物は、循環している単球、マクロファージ、および他の細胞を組織領域に結合させる際の補助となる薬剤も含むことができる。この薬剤は、マクロファージと薬物レザバとを結合または密接に関連させるために機能して、そのレザバから放出されている薬剤の近傍にマクロファージを運ぶことができる。一実施形態では、上記組成物は、さらに、細胞接着分子、例えばICAM、VCAM、PECAM;VEーカドヘリン;フィブロネクチンフラグメント(例えば、RGDおよびREDV);合成接着ペプチド(例えば、VAPGおよびKQAGDV);細胞外マトリックス分子、ならびにコラーゲン、フィブロネクチン、ヘパリン、デキストラン、ハイラン、ラミニン、および動物由来の加工された細胞外マトリックス(ECM)の異質成分からなる混合物を含むことができる。
【0096】
(2.心筋再生)
上記の考察から明らかなように、虚血の危険にさらされた心臓組織または後虚血心筋組織の処置は、本明細書中に記載される組成物によって達成される。梗塞または脳卒中による虚血に加えて、心臓組織は他の状態(例えば、炎症性、毒性、代謝、および先天性の病因による心筋症(cardiomyophathies)、さらにうっ血性心不全)からの傷害を受けやすい。虚血心臓組織に適した上記の典型的な組成物は、虚血以外の状態による心臓組織傷害の治療でも有用であると考えられる。さらに、傷害を向けた心筋を処置するための組成物を以下の議論に基づいて設計することができる。
【0097】
上記したように、本発明の組成物は、幹細胞前駆細胞、および補助細胞の化学的誘引、そのような細胞の刺激、ならびに該細胞および再生心筋の分化細胞の生存強化という3つの機能が可能である生物学的因子を必要とする。心臓組織の処置に合うように変えられる組成物は、心臓筋芽細胞(心筋細胞)、骨髄幹細胞、造血性幹細胞、髄間質細胞、および常在の心筋細胞幹細胞を含む前駆細胞の誘引に関与する。内皮細胞、血管平滑筋細胞、およびそれらの前駆体は、組織修復プロセスにも関与している。したがって、組成物はこれらの前駆細胞の少なくとも1つ以上にとって化学誘引物質として用いられる少なくとも1つの因子を含む。多数の典型的な化学誘引物質が上記されている。
【0098】
上記組成物は、さらに、例えば、分化および/または増殖するために、前駆細胞を刺激して該細胞の作用を引き出す作用をする少なくとも1つの因子を含む。適当な刺激因子として、限定されるものではないが、幹細胞因子、インスリン様増殖因子−1および−2(IGF−1、IGF−2)、トランスフォーミング増殖因子−α、−β(TGF−α、TGF−β)、ヘパリン結合上皮細胞増殖因子様増殖因子(HB−EGF)、ならびに5‐アザシチジンが挙げられる。
【0099】
上記組成物は、少なくとも1つの因子も含む。この因子は前駆細胞および該細胞の分化した子孫の生存を促進するように作用するもので、典型的な刺激薬剤として、限定されるものではないが、GM−CSF、G−CSF、CSF−1、M−CSF、およびIGF−1が挙げられる。
【0100】
上記組成物は、幹細胞(特にVLA4)および前駆細胞上の細胞表面インテグリンに結合する細胞接着分子リガンドも含む。典型的なリガンドは、血管細胞接着分子1(VCAM−1)である。そのようなリガンドによる接着によって、傷害組織での組成物沈着部位に対する幹細胞の配置が確かなものとなる。
【0101】
(3.骨格筋再生)
別の実施形態では、筋線維の生産によって骨格筋の修復をおこうように設計された組成物が考えられる。組成物は、熱傷、デュシェンヌ筋ジストロフィー、物理的挫滅外傷、閉塞性末梢疾患、および他の侵襲によって傷害を受けた骨格筋の再生にとって適当である組成物が考えられる。
【0102】
修復プロセスに関係する前駆細胞として、骨髄幹細胞、造血性幹細胞、骨髄基質細胞、骨格筋衛星細胞、筋芽細胞、末梢血液細胞、および筋肉前駆細胞が挙げられる。骨格筋傷害部位へのこれらの細胞の誘引は、化学誘引物質を含有する組成物の導入によって達成される。典型的な誘引物質として、増殖因子、例えば塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)、肝細胞増殖因子(HGF)、トランスフォーミング増殖因子−3(TGF−3)、血小板由来増殖因子(PDGF)、血小板由来増殖因子−AB(PDGF−AB)、血小板由来成増殖殖因子−BB(PDGF−BB)、インターロイキン‐8(IL−8)、腫瘍壊死因子−α(TNF−α)、ロイコトリエンB4、フィブロネクチン(Fn)フラグメント、補体活性化産物C3aおよびC5a、白血病抑制因子(LIF)、ならびに活性化に対して調節されている正常T細胞発現および分泌サイトカイン(ランテス(RANTES))が挙げられる。
【0103】
上記組成物は、誘引された細胞を刺激して該細胞の作用を引き出す少なくとも1つの因子を含む。適当な因子として、限定されるものではないが、インスリン様増殖因子I(IGF−I)、インスリン様増殖因子II(IGF−II)、塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)、神経成長因子(NGF)、肝細胞増殖因子(HGF)、血小板由来増殖因子(PDGF)、血小板由来増殖因子−BB(PDGF−BB)、トランスフォーミング増殖因子R(TGF−R)、エリスロポエチン(EPo)、ヒト白血病抑制因子(hLIF)、および5‐アザシチジンが挙げられる。
【0104】
上記組成物は、前駆細胞および調節(イオン)実質の分化細胞の生存を延ばす1種類以上の因子も含む。骨格筋組織で細胞の生存を延ばす因子として、インスリン様増殖因子−I(IGF−I)、インスリン様増殖因子−II(IGF−II)、血小板由来増殖因子−BB(PDGF−BB)、およびエリスロポエチン(EPO)が挙げられる。
【0105】
上記組成物は、幹細胞および前駆細胞上の細胞表面インテグリンに結合する細胞接着分子リガンドも含む。典型的なリガンドとして、血管細胞接着分子1(VCAM−1)、マトリゲル(Matrigel)、およびフィブロネクチンフラグメント(Fn)が挙げられる。そのようなリガンドによる接着は、傷害組織内の組成物沈着部位への幹細胞の配置を確かなものにする。マトリゲル(Matrigel)は、刺激因子として上記に考えられた多くのサイトカインの活性を安定化および保存すること、また最適な刺激を生ずるために幹細胞および前駆細胞上の受容体に対してそれらのサイトカインリガンドを提示するように作用することも知られている。
【0106】
(4.肝臓での組織再生)
肝臓は、広範囲におよぶ疾患での攻撃の標的である。これらの疾患として、感染性、自己免疫性、同様に非伝染性プロセス(例えば化学毒性)が挙げられる。感染症の例として、(i)ウイルス性肝炎(例えばA、B、C、D、E、およびG型肝炎)と(ii)寄生性の肝炎(例えば、マンソン住血吸虫(Schistosoma mansoni)、ビルハルツ住血吸虫(Schistosoma hematobium)、および日本住血吸虫(Schistosoma japonicum)が挙げられる(Harrison’s Principles of Internal Medicine,Fauci らeds.,1998,pgs 1660−1725)。肝臓に影響を及ぼす非伝染性疾患の例として、自己免疫疾患、例えば(i)自己免疫肝炎および(ii)原発性胆汁性肝硬変)が挙げられる(Harrison’s Principles of Internal Medicine,Fauciら編,1998,pgs 1701−1709)。肝臓への攻撃が伝染性、自己免疫性、または非伝染性であるかどうかにかかわらず、肝臓に対する傷害が未処置のままであったら瘢痕または線維症を引き起す。線維症の末期は肝硬変である。病理学的に、肝硬変は再生可能な小結節の形成に関連した肝臓での広範囲な線維症として定義される。肝硬変は慢性肝臓傷害の多くの(全てではないとしたら)タイプに共通する最後にたどる経路であって、概して進行性である。いくつかの状況では、肝臓がそれ自体を再生させる相当な能力を有するにもかかわらず、この再生能が肝臓障害によって阻害または破棄される。したがって、本発明は肝臓組織の再生をもたらすために組成物の沈着を考察する。
【0107】
肝臓の再生に関与する幹細胞および前駆細胞として、肝細胞、骨髄細胞、肝臓前駆体幹細胞、肝臓成人幹細胞、肝臓上皮性導管細胞、および卵形細胞が挙げられる。組織外傷部位に対するこれらの細胞の誘引は、化学誘引物質を含む組成物を導入することによって達成される。典型的な誘引剤として、顆粒球コロニー刺激因子(G−CSF)、インターロイキン−8(IL−8)、間質細胞由来因子(SDF−1)、幹細胞因子(SCF)、硫酸化多糖類(例えば、フルコイダン)、ならびに心筋、骨格筋で使用するための上記した化学誘引物質および新脈管形成および/または動脈形成を促進するために幹細胞および前駆細胞を誘引するための化学誘引物質が挙げられる。
【0108】
上記組成物は、誘引された細胞を刺激して該細胞の作用を引き出すために少なくとも1つの因子も含む。適当な因子として、限定されるものではないが、インスリン様増殖因子−I(IGF−I)、インスリン様増殖因子−11(IGF−11)、上皮増殖因子(EGF)、塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)、肝細胞増殖因子(HGF)、ケラチノサイト増殖因子(KGF)、アクチビン−B、インターロイキン−6(IL−6)、腫瘍壊死因子(TNF)、リポ多糖(LPS)、トランスフォーミング増殖因子−α(TGF−α)、ならびに転写制御因子(B細胞のκ鎖に対する核因子(NFKB)、STAT3、AP−1、C/EBP、および肝臓刺激物質(HSS))が挙げられる。
【0109】
上記組成物は、前駆細胞の残存と再生する肝実質の分化細胞を延長する1種類以上の因子も含む。肝臓組織で細胞の残存を延長する因子として、インターロイキンー6(IL−6)および腫瘍壊死因子(TNF)が挙げられる。
【0110】
(5.脾臓での組織再生)
ヒト脾臓は、外分泌および内分泌という両方の組織から構成される腺であり、外分泌組織によって消化酵素の分泌に関係し、また内分泌組織によってインスリン、グルカゴン、ソマトスタチン、および脾臓ポリペプチドの生産に関与する。インスリンおよびグルカゴンは、協同してブドウ糖の生産および代謝を調整する。内分泌膵は膵ランゲルハンス島を含み、該膵ランゲルハンス島は、腺房の組織の全体を通じて広く点在するポリペプチドホルモン生産細胞の集合体であり、膵臓の尾部部分に最も数多くある。概して、全島組織は、膵質量のわずか約1または2パーセントを構成する。
【0111】
島組織は少なくとも3種類の機能的に異なる細胞を含有する。すなわち、グルカゴンを作ることができるA(または「α(アルファ)」)細胞、インスリンを作るB(または「β(ベータ)」)細胞、第3の島ホルモンであるソマトスタチンを作るD(または「δ(デルタ)」)細胞、さらに膵臓ポリペプチドを作るPP細胞である。B細胞は、島細胞の3つのタイプのなかで、最も豊富である。インスリンは細胞(特に筋細胞)によってブドウ糖の取り込みを促進し、肝臓と筋肉に保管されるグリコーゲンの過剰な分解を予防する。
【0112】
糖尿病は、全世界の人口の4ないし5%で発症しており、最も一般的な代謝疾患である。特に先進国で、糖尿病で診断されるヒトの数が、急速に増加しており、またこの疾患は、しばしば二次合併症(例えば網膜症、腎症、神経障害、および循環器病)をもたらす。II型(非インスリン依存性)糖尿病は、もっとも一般的な糖尿病の病型(診断されたケースの90%を上回る)であり、インスリン耐性、膵臓β−細胞機能障害または両方の組合せから生ずる。β−細胞機能障害は、1つには、インスリン需要の増加に対してβ細胞が十分な量の活性インスリンを産生および分泌することができないことに起因して起こると思われる。I型(インスリン依存性)糖尿病は、インスリン産生β細胞の自己免疫性破壊に起因する。両タイプの糖尿病に対する既存の治療は、インスリンを日々投与する必要性がある。これらの治療は、回復を与えるものではなく、多くの場合、糖尿病に伴う二次合併症を予防することがほとんど不十分であることから、満足のゆくものではない。
【0113】
インスリンを産生する膵臓のβ細胞を取り替える戦略として、同種膵島細胞および幹細胞の移植に焦点が当てられてきた。レシピエント自身のものとは異なるドナーからの細胞の移植では、常に、移植宿主疾患(graft host disease)の移植組織拒絶反応を防ぐための免疫抑制剤の長期投与、細菌およびウイルス感染に対する移植ドナーのスクリーニング、ならびに他の衰弱性疾患に関する素因についての遺伝学的スクリーニングをおこなう必要がある。
【0114】
膵臓組織に対する傷害は、糖尿病から生じることがある。したがって、本発明は、膵臓組織の再生または修復をおこなうために組成物の沈着を考察する。
【0115】
障害を受けた膵臓組織の再生に関与する細胞として、β細胞、島幹細胞、島前駆細胞、および脾管幹細胞が挙げられる。組織傷害部位へのこれらの細胞の誘引は、化学誘引物質を含む組成物の導入によって達成される。典型的な化学誘引物質として、血管内皮増殖因子(VEGF)(顆粒球コロニー刺激因子(G−CSF))、インターロイキン−8(IL−8)、間質細胞由来因子−1(SDF−1)、幹細胞因子(SCF)、フルコイダン、および細胞外マトリックス(ECM)が挙げられる。
【0116】
上記組成物は、誘引された細胞を刺激して該細胞の作用を引き出すための少なくとも1つの因子も含む。適当な因子として、限定されるものではないが、神経成長因子(NGF)、塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)、血管内皮増殖因子(VEGF)、インスリン様増殖因子−I(IGF−I)、インスリン様増殖因子−II(IGF−11)、肝細胞増殖因子(HGF)、血小板由来増殖因子(PDGF)、トランスフォーミング増殖因子−β(TGF−β)、上皮増殖因子(EGF)、ケラチノサイト増殖因子(KGF)、アクチビン−A、エクステンジン−4、成長ホルモン、プロラクチン、胎盤性ラクトゲン、ニコチンアミド、ベータセルリン(BTC)、白血病抑制因子(CIF)、マクロファージ遊走阻止因子(MIF)、島因子−1(Isl−1)、膵臓十二指腸ホメオボックス−1(Pdx−1)、膵臓十二指腸ホメオボックス−4(Pdx−4)、膵臓十二指腸ホメオボックス−6(Pdx−6)、cdx−2、Nkx−6、および肝細胞核因子(HNF−1α)が挙げられる。
【0117】
上記組成物は、再生組織の幹細胞、前駆細胞、および分化細胞の生存を延ばす1種類以上の因子も含む。膵臓組織で細胞の生存を延ばす典型的な因子として、インスリン様増殖因子−I(IGF I)、神経成長因子(NGF)、およびインターロイキンー6(IL−6)が挙げられる。
【0118】
上記組成物は、幹細胞および前駆細胞の表面が結合し得るリガンドも含むことができる。これらのリガンドは、該組成物の一部でもある刺激因子の近傍で細胞の数を増加させることで再生の効率を高めることが意図されている。幹細胞および前駆細胞を細胞外マトリックスの細胞接着部分に結合させることで、有糸分裂および分化が促進されることが知られている。適当なリガンドとして、N,R,E−カドヘリンおよび他の細胞接着分子(CAM)が挙げられる。
【0119】
(6.中枢神経系での組織再生)
脳および脊髄組織に対する傷害は、種々の状況および条件から生じることもあり、そのような状況および条件として、感染症(例えば、種々の細菌性およびウィルス性髄膜脳炎)、血管障害(例えば、出血性および虚血性脳卒中)、退行性疾患(例えば、多発性硬化症およびパーキンソン病アルツハイマー病)、ならびに物理的外傷が挙げられ、該物理的外傷として、脳振盪、脳裂傷、および脊髄に対する圧迫および挫傷が挙げられる。
【0120】
したがって、一実施形態では、本発明は、傷害後の脳および脊髄組織または傷害の危険性がある脳および脊髄組織を再生させるために組成物を用いることを意図している。特に、この組成物は、必須の細胞を誘引するために効果的な第1の薬剤を含むもので、該細胞として、限定されるものではないが、ミクログリア、オリゴデンドログリア、神経成人幹細胞、神経細胞、骨髄(BM)細胞、補助細胞(AC)、平滑筋細胞(SMC)、骨髄基質細胞(mSC)、造血性骨髄幹細胞(hSC)、および星状細胞が挙げられる。これらの細胞のいくつかは、血液脳関門(BBB)を横切って移動することができ、さらに/または脳組織内に存在する。補助細胞の誘引は、傷害に対する脳の反応において必須であることが知られている。骨髄基質細胞(mSC)、骨髄造血性幹細胞(hSC)、他の骨髄(BM)細胞、ミクログリア、アストログリア、および単球マクロファージは、傷害組織領域に入り、種々のサイトカインおよび他の生物学的因子(グリアおよび神経細胞を機能させるために幹細胞および前駆細胞の有糸分裂ならびに前駆細胞の分化を直接誘導する)を産生することで、補助細胞(AC)として作用することが知られている。これら上記の細胞の一つ以上を誘引するために効果的な薬剤として、肝細胞増殖因子(HGF)、マクロファージ化学誘引物質タンパク質1−1(MCP−1)、間質細胞由来因子−1α(SDF−1α)、間質細胞由来因子−1β(SDF−1β)、塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)、上皮増殖因子(EGF)、インターロイキン−1(IL−1)、および血小板由来増殖因子AB(PDGF−AB)が挙げられる。
【0121】
第2の薬剤は、誘引された細胞内で種々の現象を刺激するために上記組成物に含まれる。これらの現象として、(i)幹細胞および前駆細胞の増殖、(ii)機能的実質細胞への分化、および(iii)増殖および分化を刺激し、また再生グリア細胞および神経細胞間での分化を変調および整合する種々のサイトカインおよび他の生物学的薬剤の産生が挙げられる。典型的な薬剤として、限定されるものではないが、ニューロトロフィン3(NT3)、脳由来神経栄養因子(BDNF)、神経成長因子(NGF)、表皮増殖因子(EGF)、塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)、Nogoタンパク質のNEP1−40阻害剤、ニューロトロフィン4(NT4)(3−メルカプトエタノール(3−ME))、ヒト白血病抑制因子(hLIF)、レチノイン酸(RA)、インターロイキン‐1(IL−1)、インターロイキンー6(IL−6)、血小板由来増殖因子−AB(PDGF−AB)、トランスフォーミング増殖因子−α(TGF−α)、幹細胞因子(SCF)、血管内皮増殖因子(VEGF)、インスリン、フォルスコリン、バルプロ酸、ヘパリン、ヘパラン、グリコシル化サイトスタチン−C、およびホルボールミリステートアセテート(TPA)が挙げられる。
【0122】
上記組成物に対して、付加的に、細胞外マトリックスと脳血液関門とに直接作用して、再生神経系実質の完全な成長を可能にする薬剤を含ませることが考えられる。そのような薬剤は、神経の可塑性を取り戻す作用をすることがあり、実質再生が、傷害組織の神経ネットワークとは異なる構成で、神経ネットワークを再結合することによって達成される。再生のこれらの成分を達成する典型的な薬剤として、ニューロトロフィン3(NT3)、コンドロイチン分解酵素ABC(chABC)、Nogoタンパク質結合のNEPI−40タンパク質阻害剤、および血管内皮増殖因子A(VEGF−A)が挙げられる。
【0123】
上記組成物は、幹細胞、前駆細胞、および/または分化細胞の生存をのばす1種類以上の因子を含む。脳組織の細胞の生存をのばす因子として、脳神経栄養因子(BDNF)、神経成長因子(NGF)、塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)、表皮増殖因子(EGF)、血小板由来増殖因子−AB(PDGF−AB)、グリコシル化サイトスタチン−C、3−メルカプトエタノール(3−ME)、ブチル化水酸化アニソール(BHA)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、肝細胞増殖因子(HGF)、神経成長因子、ニューロトロフィン4(NT4)、ブチル化水酸化トルエン(BHT)、およびヒト白血病抑制因子(hLIF)が挙げられる。
【0124】
上記組成物は、幹細胞、前駆細胞、および他の細胞の表面が結合することができるリガンドも含むことができる。これらのリガンドは、上記組成物の一部でもある刺激因子に近接した細胞の数を増加させることで、再生効率を高めると考えられる。幹細胞および前駆細胞を細胞外マトリックスの細胞接着部分に結合させることで、有糸分裂および分化が促進されることが知られている。適当なリガンドとして、ラミニンおよび血管細胞接着分子1(VCAM−1)が挙げられる。
【0125】
(7.腎臓での組織再生)
別の実施形態では、本発明は腎臓での組織再生を包含する。種々の疾患が腎実質に対する傷害(例えば粥状塞栓疾患、腎静脈血栓症、腎動脈塞栓症、血栓症、糖尿病性腎症、種々の病因による糸球体腎炎、中毒性ネフローゼ、および腎盂腎炎)によって引き起こされる。傷害の結果として、腎機能の急性または慢性低下に起因するかどうかに関係なく、腎不全は、腎臓の濾過、再吸収、内分泌物、および恒常性機能の実質的または完全な不全をもたらし得る重篤な状態である。
【0126】
したがって、腎臓によって与えられる機能のいくつかまたは該機能の全てを供給し得る細胞および機能的腎細胞を生成もしくは機能的腎臓を再生することができる細胞を誘引するために効果的な治療薬剤を含む組成物の沈着が、考えられる。腎臓の幹細胞は、後腎小管細胞の形成の一因となることができる。骨髄間質細胞(mSC)は骨髄から末梢血中を進み、糸球体腎炎による傷害部位に移動することができ、腎臓を再生させる際にネフロン(腎臓の基本的な機能単位)の機能に不可欠な間充織細胞構造に貢献することが知られている。造血性幹細胞は、糸球体間質細胞に分化することができる。分化および増殖は、薬剤(例えばインターロイキン−11(IL−11)およびスチール因子)によって促進される。細胞の分化および増殖を促進する薬剤と幹細胞、前駆細胞、および分化細胞の生存を高める薬剤とともに、腎細胞を形成する細胞へ分化することができる幹細胞または前駆細胞を引き寄せる化学誘引物質を含む組成物の沈着は、例えば、種々の腎細胞(例えば、腎間質細胞、有足細胞、上皮細胞、平滑筋細胞、および内皮細胞)の再生によって、傷害を受けた腎臓組織の修復を結果としてもたらすと思われる。
【0127】
(8.組織再生組成物および幹細胞移植)
種々の疾患(例えば白血病および多発性骨髄腫)を処置するための治療法として幹細胞移植が広く研究されている。本発明の別の実施形態は、幹細胞および前駆細胞の化学誘引物質、細胞を刺激して分化または増殖させるための因子、ならびにそのような細胞の生存を高める因子を含む組成物の沈着を、幹細胞移植と組み合わせて、検討した。この実施形態では、因子の選択は処置すべき疾患および/または組織にもとづいておこなう。適当な因子の選択は、上記説明で提供したガイダンスに基づいて決定することができる。
【0128】
(B.腫瘍部位に対する免疫細胞の誘引のための組成物)
別の態様では、本発明は、原発腫瘍および/または転移腫瘍内での腫瘍浸潤リンパ球(TIL)による腫瘍細胞に対する細胞障害性の攻撃を促進するための組成物を提供する。この組成物は、原発腫瘍または転移腫瘍部位での沈着に応じて、腫瘍退縮を促進し、究極的には腫瘍破壊を促進する。上記組成物は、さもなければ別の未処置の宿主によって、細胞障害性、全身性免疫反応を刺激するために有効であり、刺激された反応が原発腫瘍または転移腫瘍での腫瘍抗原に対して直接向けられる。上記組成物は、腫瘍部位での沈着に適した薬物レザバを1つ以上含むもので、該レザバは、(i)Tリンパ球に対する化学誘引物質、細胞毒性およびヘルパーT細胞、樹状およびナチュラルキラー細胞、それらの前駆細胞および補助細胞(例えばエオシン好性および殺腫瘍性マクロファージが挙げられる)、(ii)細胞が活性化されるように、また分化および増殖するように該細胞を刺激するための薬剤、ならびに(iii)細胞の生存を高め、免疫性を付与するために効果的な薬剤を含む。
【0129】
より具体的には、上記組成物は、(i)リンパ球(天然Tリンパ球および天然キラーリンパ球のすべてのサブセットを含む)、マクロファージ、多形核白血球および抗原提示細胞(樹状細胞を含む)を誘引し腫瘍集団内に侵入させることによる、成長可能な腫瘍細胞および壊死した腫瘍細胞への直接アクセス;(ii)通常、腫瘍に冒された体内で得られる細胞障害性および天然キラーリンパ球集団の増殖が最高潮に達しているであろうリンパ球に対する腫瘍抗原を提示するためのセッティングとなる,腫瘍集団内での応答の活性化;および(iii)直接のアクセスによって腫瘍細胞を殺すための、免疫宿主内の細胞障害性および天然キラーリンパ球を腫瘍集団内に移動させることを可能にする誘引細胞の生存の促進に有用な1つ以上の治療のための薬剤を含む。
【0130】
一実施形態では、1つ以上の細胞を腫瘍部位に誘引する上記1種類以上の薬剤として、GM−CSF、インターロイキン−12(IL−12)、2次リンパ組織ケモカイン(SLC)、単球化学誘引物質タンパク質(MCP)、IFNγ(MIG)腫瘍壊死因子(TNF)によって誘導されるモノカイン、マクロファージ炎症タンパク質(MIP)、間質細胞由来因子−1α(SDF−1α)、間質細胞由来因子−1β(SDF−1β)、ランテス(RANTES)、およびインターロイキン−1(IL−1)が挙げられる。好ましい化学誘引薬剤は、IL−8、MIG、IL−12、MCP−1、−2、−3、−4、−5、MIP−1α、MIP−1β、MIP−1γ、およびランテス(RANTES)等の化学誘引薬剤である。
【0131】
第2の薬剤は、誘引された細胞での種々の現象を刺激することができ、該現象として、
(i)Tリンパ球、例えば細胞毒性およびヘルパーT細胞、樹状およびナチュラルキラー細胞、リンホカイン活性化キラー細胞、そららの前駆細胞および補助細胞(例えば、好酸球および殺腫瘍性マクロファージならびにそれらの前駆細胞)の増殖と、(ii)機能的かつ活性化免疫および補助細胞への分化と、(iii)増殖および分化を刺激し、免疫系前駆細胞間での分化の調節および同調をおこない、免疫および補助細胞の生存を促し、さらに免疫細胞の細胞障害性致死可能性(cytotoxic killing potential)を高める種々のサイトカインおよび生物学的薬剤の生産とが挙げられる。典型的な刺激薬剤として、限定されるものではないが、インターロイキン−1(IL−1)、インターロイキン−2(IL−2)、インターロイキンー6(IL−6)、インターロイキン−7(IL−7)、インターロイキン−12(IL−12)、およびGM−CSFが挙げられる。
【0132】
癌免疫療法のための組成物に含まれる第3の薬剤は、誘引および局所細胞の生存を促進する能力を有し、細胞障害性およびナチュラルキラーリンパ球の腫瘍塊への移動を促進することが可能な薬剤である。適当な薬剤として、MIG、血小板因子4、MCP−1、−2、−3、およびMIP−1γが挙げられる。
【0133】
(C.薬物レザバ)
上述の1種類以上の薬剤は、所望の薬剤を含むレザバの形態にある目的とする組織領域に沈着される。上記レザバは、治療薬を含有および放出することで、幹細胞、前駆細胞、および任意に補助細胞の誘引および刺激を促進し、さらに補助細胞、前駆細胞、および完全に分化した組織実質細胞の生存を促す。レザバは、後述するように、結合した薬剤を動力学的に望ましいモードで放出するように、設計および合成される。
【0134】
第1の典型的な薬物レザバは、相互に結合した複数の孔を持つ生物学的および化学的に不活性である粒子から構成されるマクロポーラスレザバである。これらの孔は、粒子表面に開口して粒子の外側と孔内部空間とのあいだを連通させる。そのようなマクロポーラスレザバを形成するための典型的な粒子は、例えば、米国特許第5,135,740号に記載されている(ここに本明細書の一部を構成するものとして該米国特許の内容を援用する)。
【0135】
粒子は、液液系で懸濁重合によって概ね形成される。一般に、水で不混和性である単量体および重合触媒を含む溶液を作る。この溶液と混合可能ではあるが、水とは不混和性である不活性溶媒がこの溶液に含まれる。次に、この溶液を水溶液に懸濁する。この水溶液は一般に懸濁液または乳濁液を促進するための界面活性剤および分散剤等の添加物を含む。ひとたび懸濁液が所望のサイズの離散的な液滴で確立されると、温度上昇または照射のいずれかによって、概ね反応物を活性化させることで重合が生ずる。ひとたび重合が完了すると、結果として生ずる固体粒子が懸濁液が回収される。粒子は固形、球状、多孔質構造であり、ポリマーは不活性液体周辺に形成され、それによって孔ネットワークが形成される。ポロゲンまたは孔形成薬剤としての役割を担う不活性溶媒は、粒子の孔をふさぐ。ポロゲンを実質的に取り除くことで、後述するように、治療薬で満たすことが可能となる。
【0136】
マクロポーラス粒子もまた、生物分解性または非分解性ポリマーのいずれからでも溶媒蒸発によって調製することができる。溶媒蒸発プロセスのために、所望のポリマーを有機溶媒に溶かし、次に溶液を所望の粒子サイズの塩化ナトリウム結晶からなる層の上に注ぐ(Mooney,ら,J.Biomed.Mater.Res.37:413−420,(1997))。溶媒の除去は、一般に蒸発によっておこなわれ、結果として生ずる固体ポリマーを水に浸して塩化ナトリウムを浸出させ、多孔質ポリマーレザバを産出する。あるいは、攪拌によって塩化ナトリウム結晶をポリマー溶液に分散させることで、塩化ナトリウム結晶の均一分散を得る。上記分散を次にポリマーのための非溶媒中に液滴状に押出し、一方で攪拌することで塩化ナトリウム結晶の周囲にポリマー液滴を沈殿させる。固体ポリマー粒子を濾過または遠心によって回収し、次に水に浸し、塩化ナトリウムを浸出させ、所望の多孔度を作り出す。塩化ナトリウムの代替物として、浸出して所望の多孔度を作り出す任意の非毒性水溶性塩または低分子量水溶性ポリマーが挙げられることはいうまでもない。
【0137】
実施例1に記載された本発明を支持して実施される研究では、ポリマー製薬物レザバを調製した。平均寸法が20pmである粒子をメタクリル酸ブチル、エチレングリコールジメタクリレート、およびポリビニルアルコールから形成した。その粒子多孔度は80%であった。実施例3Aは、別の実施例を詳述するもので、GM−CSFを含み生体分解性ポリマーからなる固体球状粒子を調製した。
【0138】
粒子のサイズを、直径で約0.0001ミクロンから約100ミクロンまで、好ましくは約0.001ミクロンから約40ミクロンまで幅広く変えることが可能である。使用したポリマーの化学的特徴に応じて結果として生ずる寸法により、粒子内の孔の寸法もまた幅広く変えることが可能である。一般に、全孔容積は、約0.01ないし約10cc/g、好ましくは約0.1ないし約6cc/gの範囲であり、孔の平均直径が約0.000001ミクロンから約3.0ミクロン、好ましくは約0.000001ミクロンから約1.0ミクロンまで及ぶ。
【0139】
例えば、水溶液(必要に応じて適当なpHに緩衝化)に薬剤を溶解し、粒子と水溶液とを、該液体の全てが粒子に吸収されてフリーの流動粉末が得られるまで攪拌することによって、上記した1種類以上の治療薬とともに粒子を装填した。次に粒子を凍結乾燥して粒子内の水相を取り除き、粒子の孔内で治療薬を凍結乾燥状態のままにしておいた。実施例2では、粒子と生物学的薬剤の水溶液を混合して、単一の生物学的薬剤を多孔質ポリマー粒子内に装填する研究について記載する。溶液の吸着後、粒子を凍結乾燥して水相を取り除き、生物学的薬剤を粒子の孔内に取り込ませたままにしておいた。実施例2もまた、生物学的薬剤の組み合わせを含む薬物溶液の調製を記載する。
【0140】
実施例3では別の研究について説明する。ここでは、1種類以上の生物学的薬剤を含む生体分解性ポリマー球体を調製する。生体分解性ポリマー球体は、DL−ラクチドーコグリコリドから形成され、単一の薬剤(GM−CSF)または薬剤の組み合わせ(G−CSFおよびランテス(RNATES))を含んだ。実施例2および3に記載する調製方法は任意の所望の単一薬剤または薬剤の組み合わせを多孔性または個体粒子に取り込ませることができることは、いうまでもない。
【0141】
粒子に治療薬を取り込ませるための代わりの方法は、最初に、薬剤を多孔質粒子に取り込む前に、治療薬をポリマー溶液(例えばポリエチレンオキシド−ポリプロピレンオキシド−ポリエチレンオキシド(Pluronic(登録商標))からなる共重合体)、他の水溶性ポリマー(例えば、ポリビニルピリリドン、ポリビニルアルコール)、または他の任意の非毒性水溶性ポリマー(コラーゲン、フィブリン、ヒアルロン酸等の生物ポリマー)等に添加する。つぎに、治療薬−ポリマー水溶液を上記したように多孔質粒子に取り込む。この別法では、凍結乾燥された治療薬の周辺にコーティングされたポリマーの利点が提供され、該ポリマーは、取り込まれた薬剤を送達の際に酵素的攻撃から保護し、多孔質粒子からの薬剤放出の制御の段階をさらに高める役割を担う。容易に理解されるように、薬剤の放出に対するこのような高められた制御は、治療薬をコートするポリマーの選択による。薬剤の放出に対する制御もまた、多孔質粒径、孔の寸法、および粒子内への薬剤の充填の選択によって達成される。多孔質粒子に取り込まれたいくつかの薬剤の一つを該多孔質粒子への取り込みに先立って1種類以上の異なるコーティングポリマーで被覆することができ、それによって粒子からの各薬剤の異なった放出が可能となる。
【0142】
本発明の組成物で用いるための別の薬物用域は、マイクロカプセルおよび微粒子であり、所望の治療薬がそれらの中に含有または分散される。マイクロカプセルおよび微粒子はともに医薬および薬物送達産業で周知となっている(例えば、Baker,R.W.,CONTROLLED RELEASE OF BIOLOGICALLY ACTIVE AGENTS,John Wiley & Sons,NY,1987;Ranade V.and Hollinger,M.,DRUG DELIVERY SYSTEMS,CRC Press,1996を参照せよ)。マイクロカプセルとは、概して、高分子膜シェルによって囲まれた活性薬剤のレザバのことをいう。微小粒子は、概して、治療薬が粒子全体に分散するモノリシック系である。しかし、多くの製剤がこれら2つの定義にあてはまり(例えば、マイクロカプセルの凝集塊)、そのような製剤は本発明での使用に適していると思われる。
【0143】
マイクロカプセルおよび微粒子は生物分解性または非生物分解性ポリマーから調製することができる。マイクロカプセルは、いくつかの方法によって容易に形成され、該方法としてコアセルベーション、界面重合法、溶媒蒸発、および物理的なカプセル法が挙げられる(Baker,R.W.,CONTROLLED RELEASE OF BIOLOGICALLY ACTIVE AGENTS,John Wiley & Sons,NY,1987)。微粒子は、当技術分野で既知の数多くの技術によって調製することができ、一つの単純な方法は分散治療薬を含有したポリマーを適当な大きさに挽くだけである。もう一つのアプローチとして、ポリマー溶液から乾燥微粒子治療薬を噴霧することがある。生物活性のある薬剤のカプセル化のための具体的手順が米国特許第4,675,189号および米国特許出願第20010033868号に記載されており、ここに本明細書の一部を構成するものとしてこれらの内容を援用する。
【0144】
本発明の組成物で使用される別の送達ビヒクルは、ポリマーゲル製剤である。そのようなゲル製剤で使用される1つの特に適したポリマーは、ポリオキシプロピレンブロック共重合体(Pluonic(登録商標))である。これらの共重合体は、逆熱ゲル化の挙動を示し、優れた薬物放出特性と低い毒性とを持つ。温度およびポリマー濃度の関数として、共重合体がゲル化する。ここで、溶液が暖められるにつれて、水溶液がゲル化する。ゲルは、室温(25℃)では粘性が低くいが、生体内体温(37℃)では粘性が増加する。
【0145】
組成物を形成するために、所望の治療薬が液体、好ましくは水溶液中でポリマーと結合される。この溶液は、適当な送達デバイス(後述するカテーテル)を介して標的部位に投与することができる。より暖かい環境に対して送達すると、ゲル化が起こり、所望の部位で治療薬を局所化して沈着させる。
【0146】
送達レザバを調製するための他の適当なポリマーとして、限定されるものではないが、コラーゲン(Pieper,J.S.ら,Biomaterials,21:1689−1699(2000));フィブリン(Grassl,E.D.ら,J.Biomed.Mater.Res.,60:607−612(2002));ヤウポン(yaupon)ゲル(Ramamurthi,A.ら,J.Biomed.Mater.Res.,60:196−205(2002));誘導デキストラン(Letourneur,D.ら,J.Biomed.Mater.Res.,60:94−100(2002)):ヘパリンアルギン酸塩(Laham,R.ら,Circulation,100:1865−1871(1999));アルギン酸塩(米国特許第6,238,705;6,096,344号);およびチョクリエート(chochleate)(米国特許第6,403,056号)が挙げられる。所望の治療薬が入った薬物レザバを、例えば、ポリマーと薬剤との水溶液を調節し、凍結乾燥によって溶媒を取り除くことによって、レザバ内に生物学的薬剤の凍結乾燥形態が生ずる。結乾燥された乾燥粉末を直接投与、または任意の適当な液体(例えば低い粘性体液、粘性ゲルまたは軟膏または油中水型または水中油型乳剤)に再懸濁して投与することができる。懸濁媒は水性または非水性であってもく、多くの因子(例えばビヒクル内のレザバ処方の間の時間経過、組織への送達の時間、および生物学的薬剤の所望の放出カイネティックス)に基づいて選択される。
【0147】
さらにもう一つの適当な薬物レザバは、リポソームである。リポソームは球状の脂質ビヒクルであり、その大きさは、0.01から10ミクロンまでの範囲内で変動し、水性の空間を封入している1種類以上の脂質二重層からなる。二重層を形成するために、種々の両親媒性の脂質、例えばリン脂質(例えば、米国特許第5,013,556号参照))が用いられる。脂質分子は、水相に向けられた極性頭基と、二重層内で互いに隣接する疎水性炭化水素の尾部とをもって配置され、したがって水性成分を分離する閉じた同心的な二分子脂質リーフレットが形成される。
【0148】
治療薬は、薬剤の物理化学的特性に依存して、リボソームの水性間隙の中に取り込まれるか、もしくは脂質二重層内に取り込まれる。リポソームからの薬剤の放出は、脂質二重層成分の選択に基づいて、合うように調整される。
【0149】
本発明の一実施形態では、治療薬を含む薬物レザバは、該薬物レザバの外面に結合した生物学的薬剤を有する。例えば、リポソーム型の薬物レザバでは、リポソームの外面が脂質二重層を形成しているリン脂質の極性頭基から構成される。リン脂質の一部分の極性頭基を、リポソーム形成前後に誘導体化し、生物学的薬剤(例えば、細胞接着分子)を包含させることができる。生物学的薬剤を直接、脂質頭基に結合、またはポリマーの腕を介して結合させる。どちらのアプローチ(リポソーム表面接着分子およびスペーサーアームを介して結合した分子)も、当技術分野ですでに説明されている(例えば、米国特許第5,013,556号;Zalipsky,S.,polyethylene glycol−lipid conjugates in Lasic,D,and Martin,F.,Eds.STEALTH LIPOSOMES,CRC Press,1995;WO 98/16202;WO 94121281を参照せよ)。
【0150】
生物学的薬剤が上記薬物レザバに容易に結合することは、いうまでもない。例えば、所望の治療薬をその表面に結合させる後続の反応のために、マイクロカプセルまたは微粒子の他のポリマーシェルを処理して、あるポリマー部分を活性化させる。あるいは、治療薬をマイクロカプセルまたは微小粒子の表面で覆ってもよい。このようにして、標的組織での組成物沈着に対して迅速に作用させることを目的として、上記治療薬を露出させる。
【0151】
薬物レザバが作られる生物学的ポリマーまたは合成ポリマーを、その化学構造に関して選択することが可能であり、あるいはそれを誘導体化することで該レザバと生物学的薬剤とが治療薬をその表面に保持する同一タイプの物理的誘引に関与することも可能であることも十分に理解される。このように、標的組織での組成物の沈着に対して迅速に作用すること目的として、治療薬を露出させる。
【0152】
上記のように、薬物レザバは1種類以上の治療薬(例えば、化学誘引物質、刺激薬剤および/または生存を高める薬剤)を含む。1種類以上の薬剤の放出は、薬物レザバの選択および組成物の処方によって調整することができる。例えば、2種類の薬剤が薬物レザバに取り込まれた場合、これらの薬剤を同時放出または逐次放出を目的に処方することができる。取り込まれた治療薬がカプセルの外側被膜を形成するポリマーもしくは粒子のマトリックスを形成するポリマーに対する透過性が著しく異なる場合、マイクロカプセルまたは微粒子からの放出は逐次的におこなわれる。微粒子およびマイクロカプセルからの逐次的放出は、例えば、異なるポリマーからなる積層体を調製し、この際、1種類以上の治療薬を種々の積層された層の中または積層された各々の層の間に分散させることで、達成される。例えば、経時的な放出の例は、米国特許第5,472,708号、第5,260,069号に開示されている。
【0153】
経時的な放出を達成するための別のアプローチとして、2種類以上の薬物レザバ群を投与することで、第1の群は一定の速度で第1の薬剤を放出するように設計され、第2およびそれ以降の群は第2およびそれ以降の薬剤を異なる速度で放出するように設計される。異なる速度での放出は、ポリマーを主成分とするレザバの場合、ポリマーの組成、ポリマーの厚さ、および粒径を変えることで、あるいはリポソーム型レザバの場合、脂質選択およびベシクルの寸法を変えることで、容易に達成される。
【0154】
実施例4は、生物分解性ポリマー、DL−ラクチド−コグリコリドから構成される薬物レザバからのIL−12の生体外(in vitro)放出を説明する。手短に言えば、IL−12を含む薬物レザバを緩衝生理食塩水含有ベシクルの中に配置し、その生理食塩水へのIL−12の放出を時間の関数として測定した。11日間にわたって、1L−12の60%が放出された。
【0155】
さらに後述するように、使用に際して、上記した薬物レザバのいずれかが、例えばボーラスとして、所望の組織部位内、該部位で、あるいは該部位上に沈着される(実施例5および6を参照せよ)。例えば、薬物レザバのボーラスを、沈着用カテーテルが配置される血管壁から数ミリメートル離れた心筋内に沈着させることができる。記載したレザバは、間隙を介して組織内を自由に移動し得る。各レザバは、新脈管形成、動脈形成、および筋細胞分化の焦点であり、該レザバが組織内を移動することから、これらのプロセスを異なる位置で繰り返し促進することができる。このように、浸潤性が最小限のアプローチを用いた比較的広範囲にわたる治療効果が達成される。
【0156】
また、後述するように、心筋で使用するために、レザバ送達の1つのオプションは、小径の針を冠動脈壁に穿刺して該レザバの送達をおこなうことである。別のオプションは、心膜側から、外科的手技の最中に心筋に対して直接注射することである。心筋への直接注射に代わるルートとしては、皮膚(トランスバスキュラ(transvascular)経路を経由する)から心室の心内膜に通じるルートがある。骨格筋では、レザバの送達を、小径の経皮的針穿刺を介しておこなうことができる。レザバはまた、PTCA、ステント、またはアテローム切除術の手順の間、経皮的におこなうことができ、あるいはレザバ置換のために経皮的手順単独でおこなうことができる。いくつかの例では、経皮的にレザバを配置することが有利であると考えられ、血管内撮像技術を同時に使用することから、より正確な配置が可能となる。
【0157】
本発明のレザバによって提供される別の特徴は、処置部位での沈着後の可動性(mobility)である。可動性は、少なくとも部分的に、レザバの比重が間質性体液の比重よりも低くなるように処方することによって、達成される。このことは、レザバが組織液に浮遊して体液とともに移動することを可能にする。
【0158】
(III.組成物を用いる方法)
(A.組織再生を促進するための方法)
別の態様によれば、本発明は傷害後の組織または壊死および傷害の危険性がある組織での組織再生を促進する方法を包含する。この方法は、一次処置様式(primary treatment modality)として使用、すなわち他の薬物、外科的、または介入性の治療と組み合わせることなく使用することを意図している。しかし、この方法は、そのような他の処置様式と組み合わせて使用することも可能である。例えば、上記したように、1種類以上の治療薬を含む薬物レザバから構成される組成物を、ステント装着およびバルーン血管形成術の後に沈着させることで、処置された狭窄領域を囲んでいる虚血性組織への血液還流を強化することが可能である。上記組成物は、冠動脈疾患の処置に使用される他の治療薬(例えば、抗血栓剤)の送達と組み合わせることも可能である。また、手術時もしくは浸潤性が最小限である何らかの手順を実施している最中に、目的とする組織内または該組織近傍で、レザバを沈着させることも意図している。
【0159】
一実施形態では、組織再生は、選択された組織部位に1種類以上の治療薬を含有する1つ以上の薬物レザバを沈着させることによって、組織修復、新脈管形成および/または動脈形成を促進することで達成されるもので、該治療薬は、(i)組織に循環血液単球、新脈管形成および動脈形成に貢献している他の細胞、または幹細胞および該幹細胞の分化型である子孫細胞を、組織に対して誘引すること、(ii)新脈管形成および動脈形成を促進する生物学的薬剤の放出と完全に分化した心筋または骨格筋線維の浸潤を促進すること(筋細胞再生)、また新脈管形成、動脈形成、および筋細胞分化に貢献する単球、幹細胞、前駆細胞、および他の細胞に対する直接的な作用によって、これらの現象を達成すること、(iii)新脈管形成および動脈形成に貢献する循環血液単球、誘導マクロファージ、および他の細胞の生存と、そのような組織でのそれらの分化した子孫細胞の生存とを促すことに対して、有効である。例えば、循環血液単球および誘導マクロファージの生存を延ばすMCP−1およびGM−CSGF等の化学誘引物質を含む薬物溶液を、虚血危険性部位(at−risk ischemic site)または後虚血部位(site post ischemia)に沈着させる。MCP−1は、循環血液単球を組織領域に誘引し、誘引された単球/誘導マクロファージを刺激して新脈管形成および/または動脈形成い関与する因子を放出させる役割を担う。末梢単球の誘引および刺激と、組織マクロファージへの成熟のためのそれに続く間隙への単球移動とが、毛細血管の形成および動脈への細動脈の再構築に直接影響を与えるシグナル因子の放出を開始させる。GM−CSFの存在は、マクロファージの生存時間を高め、補充(リクルート)されたマクロファージからの生物学的因子の放出期間を延ばす。このように、標的部位を囲んでいる新脈管形成および/または動脈形成が促進される。
【0160】
例えば、組織に循環幹細胞を誘引する幹細胞因子(SCF)および循環幹細胞の数を増加させる能力を持つGM−SCF等の化学誘引物質を含む薬物レザバを、虚血危険性部位(at−risk ischemic site)または後虚血部位(site post ischemia)で沈着させる。SCFは、循環および常在の幹細胞を組織領域に誘引する役割を担い、GM−SCFはその領域に入る幹細胞の数を高める役割を担う。増殖因子は、幹細胞が筋芽細胞に分化するのを容易にし、該筋芽細胞が融合することで心筋および骨格筋組織の再生がおこなわれる。このようにして、標的部位を囲む組織内の再生筋細胞が促進(プロモート)される。
【0161】
実施例5は、虚血発症後のウサギでの細胞および組織再生に対するGM−CSF、MCP−1、およびランテス(RANTES)の使用について説明する。GM−CSF、MCP−1、およびランテス(RANTES)は、細胞再生に関わる細胞にとって化学誘引物質としての活性を各々が有し、またそれらの細胞の分化および増殖にとっては刺激物質としての活性を有する。
【0162】
もう一つの例として、単球または他の血管新生および動脈新生細胞が組織領域に接着するのを促進させるために、薬物レザバもまたICAM等の細胞接着分子を含むように処方することができる。細胞接着分子を、1つ以上の薬物レザバの外面に結合、または放出のためにレザバ内に含ませることができる。接着分子は、マクロファージ、線維芽細胞、および平滑筋細胞の原形質膜上に存在するインテグリンおよび類似の種に対するリガンドとしての役割を果たす。接着分子はまた、マクロファージを薬物レザバに誘引し、レザバへの物理的結合を可能にすることで、所望の領域にマクロファージを固定し、マクロファージが薬物溶液から放出された分子シグナル因子に対して露出されるのを最大にする。
【0163】
化学誘引物質、刺激薬剤、および生存促進作用分子に加えて、薬物レザバは、新脈管形成、動脈形成形成、および筋細胞分化プロセスに関与する他の薬剤を任意に含むことができる。例えば、薬物レザバに増殖因子またはサイトカインを含ませて、新脈管形成、動脈形成形成、および筋細胞分化プロセスでのイベントのカスケードに関与するか、もしくはそのプロセス内のある種のイベントに変更を加えることが望まれる場合もある。
【0164】
上記したように、1種類以上の取り込まれた治療薬の放出動力学(カイネティックス)を、薬物溶液の選択および処方を介して制御することができる。薬物レザバは、前駆細胞の生存、増殖、および分化を誘引、保持、刺激、および強化するのに役立ち、前駆細胞としては、限定されるものではないが、末梢単球、心臓筋細胞、および骨格筋芽細胞が挙げられ、その後、それらによって、組織再生に関与する種々のシグナル因子を放出し、該組織再生は新脈管形成、および/または動脈形成を含むことはないと考えられる。薬物レザバが、制御された時間の長さにわたって生物学的薬剤を放出することから、薬剤の持続性局所濃度は、標的組織反応のあいだ、維持される。また、異なる標的細胞反応を呈する複数の生物学的薬剤は、異なるカイネティックスプロフィールで放出され、組織反応の継続時間にわたって所望の薬剤の有効濃度が得られる。このように、新脈管形成、動脈形成、および筋細胞分化に関与する種々の細胞群が、協調および調和することで、危険にさらされた組織の機能的な新たな脈管構造、心筋、および末梢筋の形成を促進する。例えば、新たな細動脈または小動脈の内腔に沿って並ぶ血管内皮細胞の増殖の刺激は、血管内皮細胞を覆う筋層の形成に対して血管平滑筋細胞の増殖および運動性の刺激と協調することができる。本発明の一実施形態では、沈着薬物レザバは、単球の生存を誘引、刺激、および促進する役割を担い、刺激に対して、単球は新脈管形成および/または動脈形成プロセスで適当な時間で適当な因子を放出する。別の実施形態では、薬物レザバはさらに、新規細動脈形成に関わったり、該形成を高めるために、補充された単球から放出された因子の濃度を補う薬剤を含む。
【0165】
別の実施形態では、本発明は筋肉組織の再生過程での神経再生の方法を考察する。適当な治療および生物学的薬剤が充填された薬物レザバの沈着、ならびに後虚血領域にある神経成長因を刺激する治療および生物学的薬剤を再生する方法が考察される。
【0166】
処置の方法では、薬物レザバを種々の技術によって組織部位に沈着させることができる。例えば、レザバは組織に直接注射することができ、あるいは注入液針を用いて標的組織に隣接した空洞に注射することができる。レザバを整然とした形状または医療器具(例えば、ステント)と組み合わせて外科的に移植することができる。
【0167】
薬物レザバを、レザバを含む粘着性ペースト、ヒドロゲル、または他のポリマー担体マトリックスからなる薄層を、標的部位に隣接した腔内壁または標的組織(例えば、心臓の心外膜表面を囲む心膜に隣接した)他の体腔に適用することで、組織部位に沈着させることもできる。ベーストまたはゲルを形成するポリマー担体は、生物分解性であり、および/または生物学的薬剤が放出される一方で一時的な壁支持体として機能する。腔内舗装材料系は、例えば米国特許第5,328,471号に記載されている。本組成物用に設計された腔内舗装デバイスの具体例を以下に示す。
【0168】
脳梗塞または虚血の領域で新脈管形成および動脈形成を誘導するために、例として、ペーストに製剤化された薬物レザバは、心膜または脳脊髄液内に沈着される。レザバによって確立される濃度勾配は、組織に血流から血管新生および動脈新生細胞を誘引する。あるいは、ペーストまたはゲルは、血管制限(妨害物)の近傍で血管壁または健康な血管領域に適用され、実際の虚血または潜在的虚血の部位に対する血管壁を介した輸送を達成する。
【0169】
レザバもまた、カテーテルを用いて沈着させることができ、より詳しくは後述する。カテーテルは一般に当技術分野で知られており、例えば薬物を直接注入することができるカテーテルならびに治療薬を投与する能力を有しているバールンカテーテルが適当である。好ましい実施形態では、間隙内にレザバを配置するために組織または血管壁を貫通する構造を持つカテーテルが用いられる。例えば、血管新生因子を送達するための小さな針を持つデバイスが米国特許第6,152,141号に開示されている。ここに本明細書の一部を構成するものとして、この特許の内容を援用する。別の典型的なデバイスは以下の通りである。
【0170】
本発明の方法で使用される薬物レザバもまた、経壁送達用の従来の医薬組成物に取り込むことができる。連続カテーテル送達の場合、薬物レザバは許容可能な流体担体に組み込まれ、該担体として、例えば、滅菌水、等張食塩水、グルコース溶液、またはその他の製剤化されたものが挙げられる。製剤は、一般に医薬的製剤で使われるような医薬的に許容される補助物質を含むものであってもよく、緩衝薬剤、緊張度を調整する薬剤、例えば酢酸曹達、乳酸ナトリウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、その他が挙げられる。そのような医薬製剤を調製する一般的な方法は、Remington’s PHARMACEUTICAL SCIENCES,Mack Publishing Co.,Philadelphia,Pa.,1985に記載されている。
【0171】
組成物の送達は、所望の生理学的効果(すなわち、標的部位を囲む組織での血管および筋細胞の再増殖の促進)を達成するために十分な時間、おこなわれた。一般に、送達された生物学的因子の総量は、組織の状態、患者特性、および所望の効果にもとづいて変化する。所定の患者に対する適当な投薬計画の決定は、主治医の技術の十分に範囲内である。適当な投薬量は、年齢および一般的な健康状態にもとづいてヒト毎に変動することから、患者を「用量漸増(dose−titrate)」することが、医師にとっての一般的な方法である。すなわち、所望の反応を生ずるために必要なレベルよりも低いところにある投薬計画で患者が開始し、徐々に投薬量を所望の効果が達成されるまで増加させる。
【0172】
薬物レザバを含む製剤は、選択された生物学的因子に加えて他の薬剤を含むものであってもよいことが十分理解される。例えば、製剤は血液凝固阻止剤および抗血栓薬剤(例えばヘパリン、低分子ヘパリン等)を含むことができる。
【0173】
(B.癌治療のための細胞免疫反応を促進する方法)
別の態様によれば、本発明は、被験体で癌に細胞免疫反応を促進する方法を包含する。この方法は、原発腫瘍または転移腫瘍内に、またはそれに隣接して、(i)組織部位に対して、リンパ球、マクロファージ、樹状細胞、ナチュラルキラー細胞、前駆細胞、および補助細胞の1種類以上を誘引すること、(ii)局所および誘引細胞ならびに細胞外マトリックスの成分、癌細胞の細胞毒性を促進する上記局所および誘引細胞からの生物学的薬剤の放出に対する直接的な作用を刺激すること、(iii)そのような組織での誘引および局所的に再生する細胞の生存を促し、癌細胞に対して長期間にわたる免疫原性の反応を促進することに対して有効である1種類以上の薬剤を含む組成物を沈着させることを含む。
【0174】
上記したように、1種類以上の治療薬を含む薬物レザバから構成される組成物を、原発腫瘍に直接注射することを介して、または腫瘍細胞に感染した遠位部位に対するカテーテルを介して、沈着させる。この組成物は、癌治療に用いられる他の化学治療薬の送達と組み合わせて用いることができる。また、手術時もしくは浸潤性が最小限である何らかの手順を実施している最中に、目的とする組織内または該組織近傍で、レザバを沈着させることも意図している。上記製剤は、この態様にとって等しく適している。
【0175】
実施例6は、マウスでの腫瘍の退縮を目的としてIL−12を含む生物分解性ポリマー薬物レザバから構成される組成物の使用について記載する。上記したように、IL−12はリンパ球、マクロファージ、抗原提示細胞(樹状細胞を含む)、および炎症細胞の化学誘引物質として作用する。IL−12はまた、これらの細胞の刺激剤として作用し、増殖、分化、および/または抗原提示を促進する。これらの活性は、最終的に腫瘍の退縮をもたらす反応となる。
【0176】
(IV.典型的な組成物を投与するための方法)
別の態様では、本発明は、選択された組織部位での薬物レザバ沈着のためのデバイスを提供する。このデバイスの種々の典型的な実施形態が、図3ないし図18に関して、ここで説明される。
【0177】
図3は、上記した薬物レザバの沈着での使用のための典型的なデバイスの平面図である。デバイス110は、カテーテル軸部112と、ユーザインタフェース114と、ピストンを配置するためのシース116とから構成される。カテーテル軸部112は、図4に詳細に示されており、上記軸部が遠位チップ118と強化軸セグメント120とのあいだに延びる。強化軸セグメントは、ユーザインタフェース114(図3)に隣接し、後述するように、使用中に上記軸部がよじれるのを防ぐように設計されている。カテーテル軸部は、さらにガイドワイヤをセグメント122に導入するための近位ガイドワイヤボート124モノレールガイドワイヤ係合セグメント122を含む。遠位可撓性シャフトセグメント126は蛇行血管でナビゲーションを提供する。より硬質の近位軸セグメント128で、遠位シャフトセグメントの押圧およびトルク付与が可能となる。
【0178】
カテーテル軸部112の遠位セグメントの詳細図を図5Aに示す。カテーテル軸部の遠位可撓性シャフトセグメント126およびモノレールガイドワイヤ係合セグメント122を示す。カテーテル軸部は、モノレールセグメントのところのみで係合を介してガイドワイヤ130上に載せられる。ガイドワイヤと軸部との限定された係合は、直径の小さな血管を通して遠位側選択のステアリングを最大にする。軸部は、組織部位で薬物溶液を沈着させるために、針132で終了する。一実施形態では、図5Bおよび図5Cに示すように、針が組織を穿刺して、間隙に沈着さる。図5Bは、身体血管134に配置されている遠位可撓性カテーテル軸部セグメント126を示す。上記軸部はモノレールガイドワイヤセグメント122でガイドワイヤ130と係合する。針132は、間隙へのエントリーと薬物レザバの配置とに関して、血管壁を付き通ることが可能である斜角をつけた(面取りされた)先端136で終わる。図5Cは、血管134内の同一デバイスを示すが、斜角をつけられた針132が図5Bで例示された別の位置で血管壁を穿刺するために回転する。
【0179】
図6Aおよび6Bは、図5Cの6A−6A線および6B−6B線に沿った横方向断面図であって、モノレールセグメント122(図6A)および該モノレールセグメントに直近位にある領域(図6B)の断面を示す。図6Aでは、モノレールセグメント122は、血管134に配置される。ガイドワイヤ130がモノレールセグメントと係合し、ガイドワイヤ内腔138に配置される。カテーテル軸部のシャフト内腔140は可視的であり、シャフト内腔140に配置されているものは、薬物レザバの送達のための針内腔142を規定する針132である。図6Bは、モノレールガイドワイヤセグメントに近似した領域を示す。ここでは、シャフト内腔140を定める遠位シャフトセグメント126が示されている。針132はシャフト内腔140に配置され、針内腔142を定める。デバイス内のこの位置にあるガイドワイヤ130は、カテーテル軸部とは係合的には連結されていない。
【0180】
図7Aおよび7Bは、デバイスの別の実施形態を例証するもので、ここでは遠位バルーンが、組織貫通のための直針の形態で、カテーテルの先端を位置決めするために使用される。図7Aでは、ガイドワイヤ130が、このデバイスの可撓性シャフトセグメント126に対して遠位のモノレールセグメント122と係合しているところが示されている。モノレールセグメントの遠位位置上の配置されているものは、膨らませた際(図示するように)に双円錐形のプロフィールを有しているバルーン144である。言うまでもないが、バルーンの膨張は血管壁にカテーテル遠位の先端が鋭角に置かれることで、近隣の組織間隙での薬物レザバの沈着のために、直針146が血管壁を貫通するのを許す。図7Bは、二球状バルーン148、150がモノレールセグメント122の両側に配置される他の実施形態を示す。膨らんだ状態で示されているバルーンは、血管壁に対して先端が鋭角になっているカテーテル遠位側先端を配置することで、直針146が血管壁を貫通するのを可能にする。
【0181】
図7Cおよび図7Dは、上記した2つの実施形態を示すもので、血管内に配置された双円錐形および二球状バルーン(それぞれ)を持つ。図7Cでは、針146が角度αで血管壁を突き通すように血管壁134がバルーン144を拘束する。図7Dでは、針146が角度αで血管壁を突き通すように、二球状バルーン148、150が血管壁を拘束する。
【0182】
図8Aは、図4の領域Aの断面図である。モノレールセグメント122はガイドワイヤ内腔139とシャフト内腔142とを有する。シャフト内腔142に配置されたものが、斜角になった先端46aを持つ針146である。ガイドワイヤ130は、内腔138に配置されている。図8Bは、同一の断面図ではあるが、所望の組織部位に薬物レザバを配置するために、カテーテル軸部から延びて遠位端118を越えた針146を有する。針は角度αの配置状態で図示されている。こ言うまでもないが、図7Aないし7Dで説明するように、バルーン等のデバイス手段を介して達成された配置の角度と同様に、この角度は針自体の予め形成された湾曲に応じて幅広く変化するものである。
【0183】
図9Aは、図5の領域Bの断面図である。遠位の可撓性カテーテル軸部セグメント126は、針146が配置されるシャフト内腔140を定義する。この針146に隣接して、熱可塑性エラストマー154とワイヤブレイド156とから構成される複合管152がある。複合管と針とのインタフェース158は、これら2つの接触点として働き、接着材料または他の接着手段をこのインタフェースに配置させることができる。
【0184】
図9Bは、図9AのF−F線に沿う断面図であり、カテーテル軸部126の内腔140に配置された針146が示されている。図9Cおよび図9Dは同様の断面図ではなるが、双円錐形バルーン(図7Aに示す)を有するデバイスか、二球状バルーン(図7Bに示す)を有するデバイスであるかの違いがある。1つ以上のバルーンを有するデバイスは、流体(典型的には血管造影用の造影剤)をバルーンに導入して膨らませ、流体を取り除くことで収縮させることを目的として、1本以上の流路(例えば、図9Cの流路158、図9Dの流路160,162)を有する。
【0185】
図10は、カテーテルの遠位可撓性シャフトセグメント126とより硬質な近位シャフトセグメント128とからの移行領域164にわたる図4の領域Dの長手方向断面図である。移行領域164は、可撓性遠位シャフトと硬質近位シャフトとの間の領域におよぶ融合、熱融合、熱可塑性エラストマーからなる。可撓性シャフトの内腔に位置した複合管152は、アダプター166と接続する。このアダプター166は、好ましくはステンレス鋼等の金属から形成される。複合管とコネクターとが、第1の端部166aで、適当な手段、例えば接着、ハンダ、溶接等の任意の適当な手段によってインタフェース168で接続する。近位シャフト領域128での剛性が、例えば、近位シャフト128を形成している弾性管状壁部170に沿って補強ハイポ管169を合体させることで達成される。一般に、ハイポ管169および近位シャフトセグメントを接合し、インタフェース167で、ハイポ管に熱可塑性エラストマー成分を熱整形することによって、接着によって、またはエラストマー−ハイポ管複合構造の可撓性を可能にする適当な他の任意の手段によって、固定する。
【0186】
第2の端部166bにあるアダプターにハイポ管172が隣接している。ハイポ管172は、ハイポ管169によって定められた内腔内に配置されており、組織部位に沈着される薬物レザバ製剤で満たされているレザバ注射用シリンジのバレルとして機能する。例えば、ハイポ管を凍結乾燥されたレザバ材料で満たすことができ、あるいは複合管を介してピストンによって針内腔内へ移動させ、最終的には所望の組織に移動させるために、液体レザバ懸濁液で満たすこともできる。デバイスのこのような態様は、図11でより詳しく示されている。
【0187】
図11は、ハイポ管172内で可動自在のピストン176の位置を示す図4中の領域Cの長手方向断面図である。ピストン176は、以下の図15〜17に記載したユーザインタフェース内のメカニカル機構によって可動自在であり、ハイポ管内を滑動する連続的な金属心軸である。ピストン176をステンレス鋼で形成することができ、ピストンを自由に滑動させるために、遠位先端で、滑沢剤としてポリテトラフルオロエチレンで該ピストンを被覆することができる。ピストンは、ハイポ管内を滑動し、好ましくは薬物レザバ製剤の移動を達成するために液体密封状態が作られている。ポリテトラフルオロエチレン被覆もまた、液体密封を確実にする協力的なスリーブとして作用する。
【0188】
図12は、ユーザインタフェース114(図3)に対してまさに遠位にある強化軸セグメント120(図4)を示す図4の領域Eの長手方向断面図である。押出筒状部材178をユーザインタフェースに据え付け、デバイスの位置決めおよび設置に対してより良好な制御を達成するために上記軸部を堅くするのに役立つ。特に、部材178によって強化および硬化を付加することで、トルクおよび湾曲の領域で軸部のよじれを除去する。
【0189】
ユーザインタフェースを詳細に説明する前に、物レザバを、例えば虚血を生ずるアテローム硬化型閉塞に対して遠位の虚血性部位の心筋への沈着のためのデバイスの典型的な例証は、図13に示す。この図を見ると、左冠動脈前下行枝180に置かれるデバイス110の遠位の可撓軸部分126が図示されている。デバイスは、左主幹冠動脈184に置かれる冠動脈を導いているカテーテル182によって導入される。大動脈弓、下静脈洞穴、および左主幹冠動脈の小孔が186、188、190としてそれぞれ図示されている。デバイスは、アテローム性の閉塞192を過ぎた所の冠状ガイドワイヤ130によって、虚血部位または虚血の危険にさらされていてる虚血性部位194に導かれる。針132はデバイスから配置され、薬物レザバ製剤のボーラス196は虚血性部位に沈着する。
【0190】
上記したデバイスの実施形態では、従来のまっすぐなガイドワイヤ(要素130)を使用してデバイスを所望の組織部位に導く。別の実施形態では、図14A〜14Cに示すように、螺旋状ガイドワイヤを使用してデバイスを進めて、組織に刺し通すために針を配置する。図14Aは、血管200と該血管の内腔に置かれた螺旋状ガイドワイヤ202とを示す。本発明のこの態様にもとづくカテーテルデバイスを、図14Bに示すように、螺旋状ガイドワイヤを越えてトラッキングすることで血管内に挿入する。より単純に見るために、図14Cでは血管を省いてその柔軟に遠位端で係合的にモノレールセグメント122で螺旋状ガイドワイヤ202と連結しているカテーテルデバイスを示す。カテーテル軸部の遠位先端119から直針146が延びて、図14Bに示すように、血管壁の浸透のために螺旋状ガイドワイヤによって曲げられる。螺旋状ガイドワイヤの屈曲角度が血管壁で浸透の角度を変えるために変化可能であることはいうまでもない。
【0191】
図4で示されるユーザインタフェース120は、ここでは図15ないし図17に関して記載される。図15は、ユーザインタフェース120の好ましい実施形態の全体の上面図を表す。インタフェースは、押出筒状部材178(図12に記載)でカテーテル軸部にしっかりと連結する遠位セグメント220が含まれる。ユーザインタフェースの対向した末端に、近位セグメント222があり、このセグメントは内側にハイポ管(要素172、図10)、複合管(要素152、図9A)、および針と強固に連結されており、集合的に「針アセンブリ(needle assembly)」と呼ばれ、ユーザが針を制御するのを可能にするもので、該制御には、カテーテル軸部からの配置または延長、軸部の内側の収納位置への針の撤退、および針の回転が含まれる。近位セグメント222も、摺動ピストン(要素76、図11)を前進させることによって、薬物レザバ製剤の送達の制御ができるようにする。ユーザインタフェースの近位セグメントに結合しているものは、ピストンシース116(図4にも記載)に対する張力緩和を提供するグロメット224である。ユーザインタフェースの近位および遠位セグメント上の溝が形成されたグリップ領域226、228は、それぞれ、デバイスを制御するためにユーザによって可動自在である。具体的には、グリップ領域228の回転は、カテーテルのトルクの適用を可能にする。グリップ領域226の動きは、針アセンブリおよび該針の回転を制御する。
【0192】
図16Aおよび図16Bは、図15に示すユーザインタフェースの側面図(図16A)および斜視図(図16B)である。ユーザインタフェースの近位セグメント222に配置されている沈着アクチュエータボタン230は、ユーザによって移動可能であり、ピストン176(不図示、図11の要素76に言及)を前進させる。沈着アクチュエータボタンを押し下げることは、ピストンを前進させて、薬物レザバ製剤の再生産可能な沈澱物を分配するために、一対のローラーまたは摺動コレットを係合する。ユーザインタフェースの遠位セグメント上で、針アセンブリロックアクチュエータボタン232はユーザによって移動可能である。ボタン232が押し下げられることで、近位セグメント222を解錠して、針の対応する回転、前進、または撤回のために、該セグメントの回転、前進、または撤回が可能になる。ボタン232が完全に延びた位置、すなわち押し下げられていない状態では、近位セグメントがロックされ、針アセンブリが遠位セグメントおよびカテーテル軸部に対する位置におかれる。針アセンブリロックアクチュエータボタン232は、凹部234に鎮座し、不注意による針アセンブリのアンロッキングを予防する。インデックスインディケータ236aおよび236bは、遠位および近位セグメント上に置かれ、針の相対的延びおよび回転とカテーテル軸部に対す傾斜した遠位針セグメントの方向を示す。
【0193】
図17Aおよび図17Bは、図15および図16のユーザインタフェースの斜視図である。近位セグメントが回収された(引き込まれた)位置にあり(図17A)、その回収位置で、90°回転している(図17B)。その回収位置にある近位セグメントは、カテーテルの遠位絵具メント内の針の完全な収縮に対応する。先に示した図で、ユーザインタフェースが、針アセンブリが延びて針が組織部位で薬物レザバの沈着のために配置される位置にあることを示している。針本体アセンブリ238は強固に近位アセンブリに取り付けられており、遠位セグメントの中で滑動自在および回転自在である。図17Bに示すように、近位セグメントの回転は、針の回転に対応する。回転の範囲は、インデックスインディケータ236a、236bを用いて視覚化されている。
【0194】
図18Aないし18Dは、身体で血管または空洞の壁に沿って組成物を沈着させるための腔内舗装デバイスを例示する。デバイスは、やや細長くなった可撓性のカップ350を含み、該カップには供給管352によって組成物を受けるための中央キャビティがある。供給管は可撓性のカップと、望ましくは一体的に形成され、開口部354で終わり、最も良く図18Aで見られるように、それを介して組成物が供給管を通って可撓性カップへ送られる。カップは、壁に沿って沈着を確実にするために、血管壁と閉じた後部分(図18Cを見よ)と側壁に沿って組成物の沈着のために開いた表面とを有する。
【0195】
追加の開口部358、358が、ガイドワイヤ360をカップの外側に導入するためにカップに形成されている。螺旋状ガイドワイヤ360は、図18B(正面図)、図18C(背面図)、および図18D(血管に挿入される)でカップの上部開口部356と下部開口部358とに挿入されるのが見られる。必要に応じて、適当な密封機構が開口部356、358にあるガイドワイヤの接続部に設けられ、該接合部での組成物の損失を取り除くかもしくは少なくすることができる。
【0196】
図18Dに最もよく示されているように、螺旋状ガイドワイヤは、血管362の内壁と強固に接触している。使用の際、可撓性カップ(モノレールセグメントとして機能)は、近位端でユーザまたは自動制御により、螺旋状ガイドワイヤにそって物理的に取り除かれる。カップがモノレールに沿って移動するので、血管内壁に接触した状態の開口カップ内に上記組成物が導入される。カップの移動は、血管壁上で組成物の層を拡げて、本質的に血管壁を組成物で「舗装(paving)」する。舗装のためのレザバ組成物の供給は、既に記載したように、レザバ製剤のピストン置換によって達成される。その経路に沿った舗装デバイスの移動は、レザバ製剤がカップに一定して置換および押出することによって達成される。
【0197】
前述から、本発明の種々の目的および特性がどのようにして達成されるのかが分かる。薬物レザバを含む組成物は、治療的効果が必要とされる特異的組織間隙に沈着される。上記薬物レザバは、この組織区画中を自由に移動可能であり、種々の必須細胞を標的組織区画に誘引する生物学的薬剤を放出する。組織修復と再生のために、特異的組織のタイプに従う前駆細胞および補助細胞で、薬物レザバは、幹細胞、補助細胞、および/または前駆細胞の組織区画への回帰を起こす誘引剤を放出するように設計される。いくつかの幹細胞(骨髄造血性細胞および間葉細胞を含む)は、種々の異なる組織(例えば肝臓、骨格筋および脳)で、レザバ沈着によってむしろ無差別に誘引されることがある。典型的な前駆細胞は、毛細管とより大きな動脈と静脈、骨髄からの内皮細胞前駆体、局所組織から平滑筋細胞、循環平滑筋細胞前駆体、局部組織からのまたは血液からの線維芽細胞前駆体、近くの筋線維からの衛星細胞、大脳皮質の特異的な領域からの神経成人幹細胞、および隣接筋芽細胞と他の細胞を含む、局所血管から内皮細胞を含む。単球マクロファージを含む補助細胞は、末梢血から誘引される。特異的組織に特有な、同様の食作用性の補助細胞は、例えば肝臓からの星細胞と、脳からのミクログリアといった局所ソースから誘引されることができる。
【0198】
腫瘍退縮に用いるために、薬物レザバは、リンパ球、マクロファージ、多形核白血球、抗原提供細胞および/またはナチュラルキラー細胞の回帰を起こす誘引剤を放出するように設計される。腫瘍トリガー内のこれら細胞の存在は、最終的に腫瘍退縮に導くイベントのカスケードの引き金となる。
【0199】
上記レザバは、更に放出のための生物学的薬剤を含む。それらの因子は、誘引された細胞を刺激して種々の必須な事柄、例えばコラーゲン、エラスチンといった細胞外マトリックス(ECM)材料の激増を引き起こすこと、細胞癒着の媒体を合成するために、ECMの分解と再造形を引き起こすこと、さらに特殊関数で細胞に文化するために、細胞間のシグナル分子を合成すること(例えば、筋細胞前駆体、平滑筋細胞のための収縮性、内皮細胞のために特異的な種類の細胞交差点を形成する能力、神経細胞と横紋筋繊維のための収縮性と伝道)を実行する異なる生物学的薬剤の位相および多様性放出を通して、レザバは、異なる細胞母集団による合成と分化の活性の経時的な段階を調整できる。
【0200】
さらに、レザバは重要な細胞母集団で分化、機能、静止状態、および/またはアポトーシスのパターンに影響を与える生物学的薬剤を放出する。レザバによる適当な薬剤の放出は、壊死または壊死後の繊維化された領域の回復で、外見上正常な機能に対する、細胞に基づく必須イベントの組織化および調和を促進する。
【実施例】
【0201】
(V.実施例)
以下の実施例は本明細書に記載した組成物の調製および使用を説明するもので、本発明の範囲を制限することを意図したものではない。
【0202】
(実施例1)
(ポリマー薬物レザバの調製)
以下の成分を反応器に投入した。すなわち、メタアクリル酸ブチル12g、ジメタアクリル酸エチレングリコール8g、80gのトルエンに溶解した過酸化ベンゾイル0.2g、および400gの蒸留水に溶解したポリビニルアルコール16gを反応器に投入した。反応器の内容物を機械式スターラーで攪拌し、水相中に有機相の懸濁液を形成した。平均液滴サイズが約20μmになるように攪拌速度を上げた。次に、混合液を70度に加熱し、3時間この温度に保持して重合を完了させ、固形の微孔性レザバ粒子を形成した。
【0203】
固形粒子を濾過により回収し、温水で数回洗浄して懸濁剤を除去した。微孔性粒子を水中で再懸濁させ、得られた懸濁液に蒸気を注入して該粒子からトルエンを除去した。全トルエンを除去した後、粒子を水で洗浄し、濾過し、次いで乾燥した。固形の微孔性ポリマーマイクロスフィア粒子を解析して、その粒度および多孔度を求めた。微孔性レザバの平均粒度は25μm、平均多孔度は80%であった。
【0204】
(実施例2)
(生物学的薬剤を含む組成物の調製)
以下のサイトカインおよび増殖因子を、実施例1で説明した様に調製したポリマー薬物レザバに充填した。すなわち、凍結乾燥インターロイキン−12(IL−12)、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM−CSF)、インターフェロンガンマ(INF−γ)、活性化に応じて調節される正常T細胞発現および分泌サイトカイン(RANTES)、二次リンパ組織ケモカイン(SLC)、腫瘍壊死因子α(TNF−α)、顆粒球コロニー刺激因子(GCSF)、およびマクロファージ化学誘引タンパク質(MCP)−1を、一つのサイトカインもしくは増殖因子を含む粒子、あるいは、二つ以上のサイトカインもしくはサイトカインと増殖因子との組み合わせを含む粒子レザバとしての粒子に充填した。所望の作用薬または作用薬の組み合わせを以下のようにして粒子に充填した。すなわち、レザバ粒子1mgを純粋なイソプロピルアルコールで洗浄し、濾過し、次いで真空下で乾燥した。凍結乾燥したサイトカインまたは増殖因子100μgを緩衝生理食塩水に溶解し、得られた溶液を0.2μmのフィルターで濾過した。濾過後の溶液に、洗浄・濾過したレザバ粒子を混合し、該粒子に溶液が吸着するまで攪拌した。粒子を凍結乾燥して水相を除去し、凍結乾燥したサイトカインまたは増殖因子がレザバ粒子中に取り込まれた状態とした。
【0205】
同様の手順でサイトカインの組み合わせ、増殖因子の組み合わせ、またはサイトカインと増殖因子との組み合わせを充填した。例えば、凍結乾燥IL−12100μgおよび凍結乾燥GM−CSF100μgを緩衝生理食塩水に溶解した。得られた溶液を濾過し、洗浄・乾燥したポリマー薬物レザバと混合し、溶液が該ポリマー薬物レザバに吸着するまで攪拌した。粒子を凍結乾燥し、凍結乾燥したIL−12およびGM−CSFを微孔性粒子中に取り込ませた状態とした。
【0206】
(実施例3)
(GM−CSFを充填した薬物レザバ、ならびにG−CSFおよびRANTESを充填した薬物レザバの調製)
(A.G−CSFを含む粒子)
凍結乾燥したGM−CSF100μgを、DL−ラクチドグリコリドの50/50共重合体を含む4%塩化メチレン溶液1ccに超音波処理により分散した。サイトカインが均一に分散した後、分散したサイトカインを含むポリマー溶液を過剰量の沈殿用溶媒(例えば石油エーテル)に注いだ。分散したGM−CSFを含むポリマー溶液の球状液滴は、GM−CSFを含む固形の球状ポリマー粒子として沈殿した。固形粒子を濾過によって回収し、凍結乾燥して残留溶媒を除去した。
【0207】
(B.G−CSFおよびRANTESを含む粒子)
サイトカインの組み合わせ、増殖因子の組み合わせ、またはサイトカインと増殖因子との組み合わせを含む生物浸食性(bioerodable)マイクロスフィアを以下のように調製した。すなわち、凍結乾燥G−CSF100μgおよび凍結乾燥RANTES100μgを、DL−ラクチドグリコリドの50/50共重合体を含む4%塩化メチレン溶液に超音波処理により分散した。サイトカインが均一に分散された後、分散したサイトカインを含むポリマー溶液を過剰量の沈殿用溶媒(例えば石油エーテル)に注いだ。分散したG−CSFおよびRANTESを含むポリマー溶液の球状液滴は、G−CSFおよびRANTESを含む固形の球状ポリマー粒子として沈殿した。固形粒子を濾過によって回収し、凍結乾燥して残留溶媒を除去した。
【0208】
(実施例4)
(薬物レザバ組成物からのIL−12の試験管内(in vitro)放出)
実施例2に記載の手順に従って、薬物レザバ粒子にIL−12を充填した。IL−12の生物分解レザバからの放出は、粒子を緩衝生理食塩水にインキュベートし、IL−12に特異的な酵素結合免疫吸着検定法によって放出されたIL−12をアッセイをすることによって測定した。11日間に渡って放出されたIL−12の放出カイネティクスは60%であった。
【0209】
(実施例5)
(細胞および組織の再生を目的とした組成物)
ニュージーランドホワイトウサギの左前方かつ下向きに伸びる冠状動脈の主枝を結紮して、閉塞した該動脈の遠心側に心筋梗塞を引き起こした。梗塞の二週間後に、実施例3Bに記載のように調製した、GM−CSF、MCP−1およびRANTESを含む、適量の微孔質レザバおよび生物分解性マイクロスフィアが、大腿動脈を通じて、梗塞領域周辺に送達された。適量の微孔質レザバおよび生物分解性マイクロスフィアを、図3および図13に記載のレザバ沈着デバイスを用いて梗塞領域周辺に送達した。ある動物群を、GM−CSF、MCP−1およびRANTESを含むレザバを受け取る群とし、他の動物群を、サイトカインおよび増殖因子を含まないブランクのレザバを受け取る対照群とした。動物死後の血管撮影図にもとづく側副動脈の数および大きさの増加、および血管拡張中の最大血流量の増加をモニターすることによって、動脈新生応答の程度を時間の関数として測定した。処置を施した動物から単離した細胞を評価し、レザバ領域への単球(monocyte)の浸潤程度および誘引された細胞のアポトーシス(残存)を確かめた。さらに、組織を評価し、レザバ部分への血液循環による、骨髄由来の多能性単球(monocyte)幹細胞が存在するか確かめた。
【0210】
(実施例6)
(腫瘍縮小を目的とした、薬物レザバ組成物からのIL−12の生体内放出)
BALB/cマウスの雄および雌にそれぞれ、大腸腫瘍細胞株である、生存可能なCT−26細胞を1x106個皮下注射し、腫瘍細胞を、固形腫瘍の形態および微構造を有する固形の塊(solid mass)に組織化させた。腫瘍の体積は2日おきに測定した。腫瘍の塊(tumor mass)の形成から14日後に、動物を二つの群に分けた。一方の群を対照群とし、他方の群を、IL−12を含む薬物レザバ150μgを腫瘍中に一度注入する群とした。対照群、およびIL−12を充填したレザバを受け取る群の腫瘍体積を4日おきに測定した。処置を施した動物では腫瘍体積の減少が観察された。
【0211】
本発明を特定の実施の形態に関して説明してきたが、本発明から逸脱しない範囲において、様々な変更、改良が可能であることは当業者にとって明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0212】
【図1】図1は、本発明による組成物の沈着によってもたらされた細胞の段階での組織再生プロセスの全体を概略的に説明するための図である。
【図2】図2は、組成物で使用される典型的な薬物レザバの表面および断面の斜視詳細図である。
【図3】図3は、典型的な薬物レザバ沈着デバイスの平面図である。
【図4】図4は、図3のデバイスのカテーテル軸部の詳細平面図である。
【図5A】図5Aは、モノレールセグメント内のガイドワイヤ係合を示すカテーテル軸部の遠位セグメントの詳細図である。
【図5B】図5Bは、組織貫通のための針先端部を示すカテーテル軸部の遠位セグメントの詳細図である。
【図5C】図5Cは、組織貫通のための針先端部を示すカテーテル軸部の遠位セグメントの詳細図である。
【図6A】図6Aは、図5Cの6A−6A線および6B−6B線に沿う横方向断面図である。
【図6B】図6Bは、図5Cの6A−6A線および6B−6B線に沿う横方向断面図である。
【図7A】図7Aは、双円錐形バルーンの輪郭を持つバルーン−カテーテル実施形態を示す。
【図7B】図7Bは、二重球状バルーンを持つバルーン−カテーテル実施形態を示す。
【図7C】図7Cは、血管内の組織の針穿通をもたらす双円錐形バルーンを示すバルーン−カテーテル実施形態の図である。
【図7D】図7Dは、二重球状バルーンの配置を示すバルーン−カテーテル実施形態の図である。
【図8A】図8Aは、針が引っ込められた場合の図4にある領域Aの断面図である。
【図8B】図8Bは、針がカテーテル軸部から延びた場合の図4にある領域Aの断面図である。
【図9A】図9Aは、図4内の領域Bの断面図である。
【図9B】図9Bは、図9AのF−F線に沿う断面図である。
【図9C】図9Cは、双円錐形バルーン(図7Aに記載)または二球状バルーン(図7Bに記載)を持つデバイスである点を除いては図9Bと同様の断面図である。
【図9D】図9Dは、双円錐形バルーン(図7Aに記載)または二球状バルーン(図7Bに記載)を持つデバイスである点を除いては図9Bと同様の断面図である。
【図10】図10は、図4の領域Dの長手方向断面図である。
【図11】図11は、図4の領域Cの長手方向断面図である。
【図12】図12は、図4の領域Eの長手方向断面図である。
【図13】図13は、虚血性部位で心筋に薬物レザバ製剤を大量瞬時投与して沈着させるためのデバイスの使用を説明するための図である。
【図14A】図14Aは、組織貫通のためにデバイスを進めて針の位置決めをおこなうために螺旋状ガイドワイヤが用いられる他の実施形態を示す。
【図14B】図14Bは、組織貫通のためにデバイスを進めて針の位置決めをおこなうために螺旋状ガイドワイヤが用いられる他の実施形態を示す。
【図14C】図14Cは、組織貫通のためにデバイスを進めて針の位置決めをおこなうために螺旋状ガイドワイヤが用いられる他の実施形態を示す。
【図15】図15は、デバイスのユーザインタフェースの上面全体図である。
【図16A】図16Aは、図15に示すユーザインタフェースの側面図である。
【図16B】図16Bは、図15に示すユーザインタフェースの斜視図(図16B)である。
【図17A】図17Aは、取り外し位置にある状態(図7A)と取り外し位置にあり、かつ90°回転された状態とにある近位セグメントを示すユーザインターロイキンエースの全体図である。
【図17B】図17Bは、取り外し位置にある状態(図7A)と取り外し位置にあり、かつ90°回転された状態とにある近位セグメントを示すユーザインターロイキンエースの全体図である。
【図18A】図18Aは、血管または体腔の壁に沿って組成物を沈着させるための腔内舗装デバイスの図である。
【図18B】図18Bは、血管または体腔の壁に沿って組成物を沈着させるための腔内舗装デバイスの図である。
【図18C】図18Cは、血管または体腔の壁に沿って組成物を沈着させるための腔内舗装デバイスの図である。
【図18D】図18Dは、血管または体腔の壁に沿って組成物を沈着させるための腔内舗装デバイスの図である。
【技術分野】
【0001】
(発明の分野)
本発明は、生体内(in vivo)部位に特定の細胞を誘引するための、またその誘引された細胞および局在細胞を刺激して所望の治療を達成するための組成物に関する。より具体的には、本発明は、(1)傷害または損傷組織の部位で、生体内での細胞および組織の再生するために、あるいは(2)癌に対する細胞性免疫応答の誘導に有用な組成物に関する。傷害組織部位または腫瘍部位での組成物の沈着は、組織修復の場合、傷害組織領域での外見上正常な機能および血流を促進するために、あるいは癌免疫療法の場合、腫瘍組織の破壊を起こさせるために、必要な細胞を誘引するために効果的である。本発明は、生体内で、所望の部位に組成物を沈着させるためのデバイスも提供する。
【背景技術】
【0002】
(発明の背景)
退化、壊死、およびその後の機能喪失もしくは線維症(例えば本明細書ではひとまとめにして「組織傷害(組織傷害)」もしくは「組織外傷(tissue trauma)」として言及)は、疾患または損傷から生ずる可能性がある。例えば、心筋壊死および線維芽細胞増殖は、冠動脈閉塞による虚血が原因となり得る。さらに、脳卒中による虚血は、脳退化および壊死をもたらすことがある。組織外傷は、糖尿病、多発性硬化症、肝硬変、腎不全等を含む種々の病弊の構成要素でもありえる。外傷もまた、手術または物理的損傷による組織破壊から生じる。
【0003】
身体は、凝固カスケードと免疫系との両方の要素の相互作用を伴う組織修復の機構を提供する。この組織修復のプロセスは、しばしば3つのフェーズ、すなわち(1)炎症、(2)増殖、および(3)再構築のフェーズに分けられる。これらのフェーズは異なったイベントとして定義されるにもかかわらず、それらは連続したものとして生じ、また組織修復が1つのフェーズから別のフェーズに移る点は主観的である。
【0004】
しかし、内在性組織修復機構は、いくつかの組織傷害では存在せず、あるいは組織を完全に回復させるには不十分である。例えば、中枢神経系の軸索突起に対する損傷は、組織機能を回復させるために神経を再生することができない永久的なダメージをもたらす。I型糖尿病、肝硬変、うっ血性心不全、骨格筋萎縮症、パーキンソン病、および脊椎損傷は、組織機能の損失をもたらし得る条件の他の例である。疾患損傷または遺伝的欠損のいずれかによる生命のある器官組織の死は、器官機能の全体的損失または部分的損失をもたらすことがあり、またしばしば機能の損失が回復不可能であり、また不可逆的である。
【0005】
虚血症状の発現は、重要な組織傷害のもう一つの原因である。組織傷害に到る虚血性発症は、心筋梗塞、脳卒中、骨格筋梗塞、および他の疾患を招く。現在のところ、これらの状態に対して、治療を提供したり、外傷性、例えば、壊死性、喪失または繊維化した機能しない組織の再生を促進するような処置は、存在しない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、組織の再生を促す手段(メカニズム)が強く求められている。特に、傷害を負っていない組織と一体化することで、傷害組織領域内または隣接して血流を促進し、該組織に対して外見上正常な機能(quasi−normal function)を可能にする組織を再構成する組成物および方法を提供することが望ましい。
【0007】
癌を処置するための改善された組成物および方法も求められている。癌は身体の多くの組織および器官で生じ得るもので、しばしば血管系もしくはリンパ系を介して転移部位へ送られる細胞を放出することもある原発腫瘍を伴う。癌がひとたび確立されると、それを排除するには、患者を殺すことなしに全ての悪性細胞を破壊もしくは除去することが必要となる。原発腫瘍および転移腫瘍は両方とも、外科的切除、化学療法、放射線療法、または免疫療法によって、今日では概ね処置されている。外科的治療は、器官(例えば、脳、肝臓、肺、および膵臓)内で、いくつかの腫瘍の塊に到達しがたいことによって、しばしば妨げられる。また、あらゆる癌細胞を根絶することは困難である。なぜなら手術ですべての転移を取り除くことができるわけではなく、また癌細胞を殺す処置は正常細胞にとっても毒性があるからである。癌細胞が若干残る場合、このような癌細胞が増殖して疾患の再発が生ずる可能性があり、また、正常細胞とは異なり、該癌細胞に対して使用される治療薬に対する耐性を発現する場合もある。したがって、手術、化学療法、および放射線のいずれも疾患の再発に対する持続的な抵抗性(免疫)を与えるものではない。癌細胞を認識して破壊するために免疫系を刺激することで、癌を処置するために、積極性には劣るが、より効果的かつ長期的なアプローチが与えられる。動物での実験では、腫瘍に対する免疫応答に関する証拠が得られ、またTリンパ球が腫瘍免疫の媒体であることが示された。抗原提示とT細胞活性化に関与する分子とに関する知見の進歩によって、免疫応答に関するさらなる理解にもとづく新たな免疫療法が得られた。癌の免疫療法が数多くの動物腫瘍系で前途有望な結果が得られた一方で、免疫療法の臨床試験では一貫性なく好成績が得られた(Janeway,C.ら,Immunobiology:The Immune System in Health and Disease,5th Edition,Garland Science Publishing,2001)。
【0008】
腫瘍浸潤リンパ球(TIL)は、通常、認識可能な腫瘍抗原を提示している腫瘍細胞に対する免疫適格宿主(immunocompetent host)による細胞障害性攻撃薬剤であると一般に考えれていた。しかし、腫瘍細胞は宿主による免疫学的認識を妨げるための数多くの戦略を発展させた。したがって、原発性悪性腫瘍または転移腫瘍の部位で、腫瘍抗原認識と腫瘍細胞に対する細胞障害反応の発現とを促進する機構が求められている。また、細胞障害性細胞によって腫瘍の浸潤を促進することも求められている。特に必要とされることは、手術または放射線療法では処置不可能である遠位な部位にある腫瘍塊でのそれらの現象を促進することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(発明の要旨)
一態様として、本発明は細胞応答を誘導するための組成物を包含し、該組成物は、1つ以上の所望の細胞を組織部位に誘引するために効果的な第1の薬剤と、そのような細胞の活性を刺激するために効果的な第2の薬剤と、そのような細胞の生存に影響を及ぼすために効果的な第3の薬剤とを含む。一実施形態では、前記組成物が細胞の再生を促進するためのものであり、ならびに/または前記第1の薬剤が前記組織部位に対して幹細胞、前駆細胞、および補助細胞の1つ以上を誘引するのに効果的である。別の実施形態では、組成物は腫瘍に対する免疫応答を誘導するためのものであり、また第1の薬剤はTリンパ球、マクロファージ、顆粒球、抗原提示細胞、およびナチュラルキラー細胞からなる群から選択される1種類以上の細胞を誘引するために効果的である。
【0010】
一実施形態では、前記第2の薬剤が増殖と分化とから選択される活性を刺激することに効果的である。
【0011】
治療応答を誘導するための組織は、多くの実施形態で、骨格筋、肝臓、膵臓、脳、心筋、中枢神経系、または腫瘍組織である。
【0012】
一実施形態では、前記組織が心臓組織であり、第1の薬剤が循環血液単球、循環脈管形成細胞、および循環動脈形成細胞からなる群から選択される細胞を誘引し、前記第2の薬剤が前記細胞から因子(factor)の放出を刺激して血管新生および/または動脈形成を促進し、さらに第3の薬剤が心臓組織に常在する循環血液単球由来マクロファージの生存に影響を及ぼす。
【0013】
一実施形態では、上記第1の薬剤が、マクロファージ化学誘引タンパク質(MCP)−1、MCP−2、MCP−3、MCP−4、MCP−5、活性化に応じて調節される正常T細胞発現および分泌サイトカイン(RANTES)、フラクタルカイン、マクロファージ炎症タンパク質(MIP)−1−α、MIP−1−β、N−ファルネシルペプチド、補体活性化産物C5a、ロイコトリエンB4、血小板活性化因子(PAF)、トランスフォーミング増殖因子β(TGF−β)、インターロイキン、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM−CSF)、顆粒球コロニー刺激因子(G−CSF)、コロニー刺激因子−1(CSF−1)、ならびにマクロファージコロニー刺激因子(M−CSF)からなる群から選択される。
【0014】
別の実施形態では、第2の薬剤は、マクロファージ化学誘引タンパク質(MCP)−1、MCP−2、MCP−3、MCP−4、MCP−5、腫瘍壊死因子(TNF)α、TNF−β、活性化に応じて調節される正常T細胞発現および分泌サイトカイン(RANTES)、フラクタルカイン、マクロファージ炎症タンパク質(MIP)−1−α、MIP−1−β、N−ファルネシルペプチド、補体活性化産物C5a、ロイコトリエンB4、血小板活性化因子(PAF)、トランスフォーミング増殖因子β(TGF−β)、インターロイキン、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM−CSF)、顆粒球コロニー刺激因子(G−CSF)、コロニー刺激因子−1(CSF−1)、マクロファージコロニー刺激因子(M−CSF)、およびリポ多糖からなる群から選択される。
【0015】
他の実施形態では、上記第3の薬剤は、GM−CSF、G−CSF、CSF−1、およびM−CSFからなる群から選択される。
【0016】
別の実施形態では、上記組成物は、腫瘍において治療応答を誘導するように設計されている。この実施形態では、上記第1の薬剤がIL−8、MIG、IL−12、MCP−1、−2、−3、−4、−5、MIP−1α、MIP−1β、MIP−1γ、およびRANTESからなる群から選択される。上記第2の薬剤は、GM−CSFおよびIL−12からなる群から選択される。上記第3の因子は、MIG、血小板因子4、MCP−1、−2、−3、およびMIP−1γからなる群から選択される。
【0017】
上記薬剤は、前記組成物から同時に放出されるか、もしくは前記組成物から逐次的に放出される。種々の薬剤が含まれる薬物レザバを、生物分解性または非生物分解性ポリマーから形成することができる。別の実施形態では、上記薬物レザバは、該レザバの外面に結合した標的リガンド、例えば細胞接着分子を含む。
【0018】
薬物レザバ組成物を、例えば、エマルジョン、ゲル、ペースト、および液体から選択される剤形に処方することができる。
【0019】
別の態様によれば、本発明は、選択された組織部位内に、または該組織部位に隣接して、所望の応答を誘導するために効果的な1種類以上の治療薬を含む1つ以上の薬物レザバから構成される上記した組成物を沈着させることで特定の組織部位で治療応答を誘導する方法を包含する。要するに、上記薬物レザバは、(i)前駆細胞、補助細胞、Tリンパ球、マクロファージ、多形核白血球、抗原提示細胞、およびナチュラルキラー細胞からなる群から選択される一つ以上の幹細胞を前記組織部位に誘引すること、(ii)前記1つ以上の誘引された細胞を刺激して増殖および分化から選択される活性を起こすこと、ならびに(iii)組織内での上記1つ以上の誘引された細胞の生存を促すことに対して、効果的である1種類以上の薬剤を含む。
【0020】
一実施形態では、上記組織が心臓組織であり、また上記沈着が動脈形成および/または血管新生を促進するために効果的である。
【0021】
別の実施形態では、上記組織が腫瘍の塊(tumor mass)であり、上記沈着が細胞障害性細胞を腫瘍の中に誘引するために効果的である。
【0022】
別の態様によれば、本発明は細胞再生および/または組織再生を促進するための方法を包含する。この方法は、選択された組織部位内に、または該組織部位に隣接して、1種類以上の治療薬を含む1つ以上の薬物レザバを沈着させることを含み、該治療薬は、(i)1つ以上の幹細胞、前駆細胞、および補助細胞を前記組織部位に誘引すること、(ii)局所および誘引された細胞および細胞外マトリックスの成分に対する直接作用と、細胞および/または組織再生を促進する局所および誘引された細胞からの生物学的薬剤の放出とを刺激すること、ならびに(iii)そのような組織での誘引され、かつ局所的に再生した細胞の製造を促すことに対して、効果的である。
【0023】
一実施形態では、組織部位に沈着した上記レザバは、1種類以上の生物学的薬剤を含む。
【0024】
別の実施形態では、障害を受けた実質組織を再生させるために、上記組成物が投与される。典型的な組織は心筋組織であり、例えば動脈形成および/または血管新生が促進される。
【0025】
上記薬物レザバに含まれる生物学的薬剤として、心筋再生のための典型的な実施形態では、(i)循環血液単球、循環脈管形成細胞、および循環動脈形成細胞から選択される細胞を誘引するために効果的な第1の薬剤と、(ii)血管新生および/または動脈形成を促進するために因子の放出を刺激するために効果的な第2の薬剤と、(iii)心筋組織に存在する循環血液単球由来マクロファージの生存を促すために効果的な第3の薬剤とが挙げられる。
【0026】
一実施形態では、上記第1の薬剤は前駆細胞、幹細胞、および必要に応じて補助細胞を誘引するために効果的なペプチドである。第1の薬剤は、マクロファージ化学誘引タンパク質(MCP)−1、MCP−2、MCP−3、MCP−4、MCP−5、活性化に応じて調節される正常T細胞発現および分泌サイトカイン(RANTES)、フラクタルカイン、マクロファージ炎症タンパク質(MIP)−1−α、MIP−1−β、N−ファルネシルペプチド、補体活性化産物C5a、ロイコトリエンB4、血小板活性化因子(PAF)、トランスフォーミング増殖因子β(TGF−β)、インターロイキン、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM−CSF)、顆粒球コロニー刺激因子(G−CSF)、コロニー刺激因子−1(CSF−1)またはマクロファージコロニー刺激因子(M−CSF)と、それの機能的に等価なフラグメントとであってもよい。
【0027】
一実施形態では、上記第2の薬剤は、前記誘引細胞および/または局所的に再生した細胞を刺激するために効果的である。典型的な第2の薬剤として、マクロファージ化学誘引タンパク質(MCP)−1、MCP−2、MCP−3、MCP−4、MCP−5、腫瘍壊死因子(TNF−α、TNF−β、活性化に応じて調節される正常T細胞発現および分泌サイトカイン(RANTES)、フラクタルカイン、マクロファージ炎症タンパク質(MIP)−1−α、MIP−1−β、N−ファルネシルペプチド、C5a、ロイコトリエンB4、血小板活性化因子(PAF)、トランスフォーミング増殖因子β(TGF−β)、インターロイキン、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM−CSF)、顆粒球コロニー刺激因子(G−CSF)、コロニー刺激因子−1(CSF−1)、マクロファージコロニー刺激因子(M−CSF)、リポ多糖、およびそれらの機能的に等価なフラグメントが挙げられる。
【0028】
一実施形態では、上記第3の生物学的薬剤は、GM−CSF、G−CSF、CSF−1、M−CSF、およびそれらの機能的に等価なフラグメントからなる群から選択される。
【0029】
上記薬物レザバに含有される典型的な他の生物学的薬剤として、線維芽細胞増殖因子(FGF、FGF−1、FGF−2)、TGFα、インスリン様増殖因子(IGF−1)、アンジオポエチン−1、アンジオポエチン−2、血管内皮増殖因子(VEGF)、VEGF−2、VEGF165、およびVEGF121等のVEGFの構築物、血小板由来増殖因子(PDGF)−A、PDGF−B、PDGF−BB、内皮マイトジェニック増殖因子(mitogenic growth factor)、およびそれらの機能的に等価なフラグメントが挙げられる。
【0030】
上記方法を用いた処置について考えられる組織として、例えば骨格筋、肝臓、膵臓、脳、心筋、および中枢神経系が挙げられる。
【0031】
一実施形態では、上記薬物レザバは、該薬物レザバの外面に結合した生物学的リガンドを持つ。典型的なリガンドとして細胞接着分子が挙げられる。
【0032】
別の実施形態では、上記薬物レザバは、生物分解性ポリマーまたは非生物分解性ポリマーから処方される。別の実施形態では、上記薬物レザバは、ベシクル形成脂質から構成されるか、もしくはエマルジョン、ゲル、ペースト、および液体から選択される剤形に処方される。
【0033】
いくつかの実施形態では、薬物レザバを間質組織間隙内に沈着させ、この間隙内で該薬物レザバは可動性を持つ。
【0034】
さらに別の態様によれば、本発明は細胞および/または組織の再生を促進するための組成物を包含するもので、該組成物は、前駆細胞、幹細胞、および補助細胞を上記組織に誘引するために効果的な第1の薬剤と、そのような細胞の活性および/または局所的に再生した細胞の活性を刺激するために効果的な第2の薬剤と、そのような細胞の生存に影響を及ぼすために効果的な第3の因子とを含む。
【0035】
一実施形態では、上記薬剤は組成物から同時に放出される。別の実施形態では、上記薬剤は組成物から逐次的に放出される。
【0036】
さらに別の実施形態では、上記薬剤がポリマーから構成される球状の薬物レザバに詰め込まれている。いくつかの実施形態では、薬物レザバはその外面に結合した生物学的リガンドを有することができる。典型的なリガンドは、細胞接着分子である。
【0037】
さらに別の態様によれば、本発明は、癌細胞の破壊を促進するために、一つの部位に対して免疫細胞を誘引するための組成物を包含する。その方法は、選択された部位内または該部位に隣接して、(i)上記組織部位に、リンパ球、マクロファージ、抗原提示細胞(樹状細胞を含む)、炎症細胞、ナチュラルキラー細胞、前駆細胞、および補助細胞を誘引すること、(ii)局所および誘引された細胞ならびに細胞外マトリックスの構成要素に対する直接作用と、上記局在および誘引された細胞からの生物学的薬剤の放出とを刺激して、癌細胞に対する細胞障害性を促進すること、(iii)そのような組織での誘引されて局在的に再生する細胞の生存を促し、癌細胞に対する免疫原性の反応を促進することに効果的な1種類以上の治療薬を含む1つ以上の薬物レザバを沈着させることを含む。
【0038】
典型的な実施形態では、レザバは生物学的薬剤を含み、該生物学的薬剤は、(i)リンパ球、マクロファージ、抗原提示細胞(樹状細胞含む)、および炎症細胞を化学的誘引(血流、リンパ管、および隣接組織から腫瘍塊の中心領域への多形リンパ球の誘引)する機能と、(ii)身体にある全ての腫瘍細胞(上記組成物を受け取る腫瘍内にあるもの、および身体内の他の腫瘍塊に含まれるもの)に対して向けられた全身性細胞免疫反応(細胞障害性リンパ球およびナチュラルキラー細胞の形で)の発現に到る、抗原提示細胞によるリンパ球に対する腫瘍提示細胞を刺激する機能と、(iii)誘引された細胞および局所常在細胞に対する免疫原性反応の促進(腫瘍塊内への細胞障害性およびナチュラルキラーTILの輸送を促進することを含む)によって腫瘍細胞破壊をもたらす機能とを達成し得る。
【0039】
一実施形態では、細胞の化学誘引は、IL−8、MIG、IL−12、MCP−1、−2、−3、4、−5、MIP−1α、MIP−1β、MIP−1γ、およびランテスからなる群から選択される一種類以上の化学誘引薬剤を、上記薬物レザバに入れることによって達成される。
【0040】
別の実施形態では、上記薬物はGM−CSFおよびIL−12からなる群から選択される刺激薬剤を含む。
【0041】
さらに別の態様では、誘引された細胞の生存の促進および腫瘍に対する免疫治療の促進のための上記薬物レザバ内の第3の因子は、MIG、血小板因子4、MCP−1、−2、−3、およびMIP−1γから選択される1種類以上の薬剤である。
【0042】
別の態様にれば、本発明は組成物、特に上記したような組成物の送達のためのデバイスも包含する。このデバイスは、ポートにまで延びる内腔、少なくとも部分的に可撓性を有する遠位領域、少なくとも部分的に硬質の近位端、および前記近位端にある強化軸セグメントを有するカテーテル軸部と、少なくとも部分的に前記軸部近位領域を通して延びる少なくとも1つのハイポ管と、少なくとも部分的に前記軸部近位領域を通して延びる少なくとも1つのハイポ管と、前記カテーテル軸部の遠位端に隣接して位置し、ガイドワイヤ係合セグメントを有するモノレールセグメントと、遠位端および近位端を有し、該遠位端で前記カテーテル軸部の近位端と固定連結されているユーザインタフェースと、可動自在のピストンを収納するために前記インタフェースの近位端に連結したシースとから構成される。
【0043】
一実施形態では、上記デバイスは、非配置状態(non−deployed state)にある前記カテーテル軸部の遠位領域に少なくとも部分的に置かれ、配置状態(deployed state)にある前記カテーテル軸部から配置可能である針を、さらに含む。前記針は直線状または屈曲したものであってもよい。
【0044】
別の実施形態では、上記ガイドワイヤ係合セグメントは、脈管または体腔の壁に沿って前記組成物を沈着させるための腔内舗装デバイスを、さらに含む。この実施形態では、前記腔内舗装デバイスが細長い可撓性のカップを有し、該カップは前記カテーテル軸部のポートから前記組成物を受け取るための中央キャビティを有する。さらに、この実施形態では、前記腔内舗装デバイスが、前記カップを介して前記ガイドワイヤを導入するための少なくとも上部開口部と下部開口部とを有する。好ましくは、腔内舗装デバイスとともに螺旋状のガイドワイヤが用いられる。
【0045】
上記デバイスは、前記軸部遠位領域を少なくとも部分的に介して延在する複合管も含むものであってもよい。この複合管は熱可塑性エラストマーおよびワイヤ編物から構成されるものであってもよい。一実施形態では、上記複合管は針の近位端と接する。別の実施形態では、上記複合管は針の近位端に付着する。上記カテーテル軸部の近位端は、ユーザインタフェースの遠位端と接する強化軸セグメントを、さらに含むものであってもよい。
【0046】
上記デバイスは、少なくとも部分的に前記軸部近位領域を通して延びる少なくとも1つのハイポ管を、さらに含むものであってもよい。一実施形態では、カテーテル軸部の近位領域に対して構造支持または剛性を与える少なくとも2本のハイポ管を有する。
【0047】
遠位領域と近位領域とを移行領域で接続することが可能である。上記移行領域は、近位および遠位領域にまたがって融合、熱成形、熱可塑性エラストマーから形成されている。別の実施形態では、上記移行領域は複合管の遠位端と少なくとも1本のハイポ管の近位端とに連結するアダプターを有する。
【0048】
上記薬物送達デバイスは、モノレールセグメントの末端部分に配置される少なくとも1つのバルーンを、さらに含むものであってもよい。一実施形態では、少なくとも1つのバルーンは、モノレールセグメントの両側に配置された少なくとも2つのバルーンから構成される。別の実施形態では、少なくとも1つのバルーンは膨張時に双円錐形の輪郭を描く。上記デバイスは、流体の導入および除去のために、特にバルーンからへの導入および該パルーンからの排出のために、1本以上の流路を、さらに有するものであってもよい。
【0049】
さらに別の態様によれば、本発明は、組成物を送達するための送達デバイスを包含し、該送達デバイスは(i)ポートにまで延びる内腔、少なくとも部分的に可撓性を有する遠位領域、少なくとも部分的に硬質の近位端、遠位端と近位端とのあいだに配置された移行領域、および前記近位端にある強化軸セグメントを有するカテーテル軸部と、(ii)前記カテーテル軸部の遠位端に隣接して位置し、ガイドワイヤ係合セグメントを有するモノレールセグメントと、(iii)遠位端および近位端を有し、該遠位端で前記カテーテル軸部の近位端と固定連結されているユーザインタフェースと、(iv)可動自在のピストンを収納するために前記インタフェースの近位端に連結したシースとから構成される。上記デバイスは、少なくとも部分的に近位軸領域を介して延びて移行領域で終わる複合管を含む。このデバイスは、カテーテル軸部の近位領域を少なくとも部分的に介して延びる少なくとも1本のハイポ管を含む。
【0050】
本発明のこれらの目的および他の目的ならびに特徴は、本発明の以下の詳細な説明を添付図面と関連させて読むことによって、より完全に理解されるだろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0051】
(発明の詳細な説明)
(1.定義)
本明細書で用いられるように、「組織(tissue)」とは、生体内(in vitro)または生体外(ex vivo)のいずれかで、器官全体、、器官のフラグメント、または2つ以上の細胞を意味する。
【0052】
本明細書で用いられるように、「実質(parenchyma)」とは、特定の器官を識別する特定の機能的組織のことをいう。例えば、心臓の実質は、心筋繊維と血管系とからなる。さらに、肝臓の実質は、主に肝細胞からなる。
【0053】
「変性(degeneration)は、種々の侵襲(insults)に応じて細胞および組織での可逆変化である。これらの侵襲として、有害薬剤(化学的または生物学的)および物理的因子(圧力、高温および低温の極限を含む)にさらすことが挙げられる。そのような侵襲への露出が長期にわたったり、あるいは増大することで、細胞死および壊死に到ることがある。
【0054】
「壊死(necrosis)」とは、細胞死となる形態学的変化のことをいう。したがって、「壊死組織(nectrotic tissues)」は、壊死性の形態を示す細胞群から構成される。
【0055】
本明細書で用いられるように、「組織傷害(tissue damage)」とは、組織に対する種々の侵襲の1つ以上の効果のことをいい、これらの効果として、実質細胞の変性、細胞死、壊死、実質欠損、および線維芽細胞もしくはグリア細胞の瘢痕が挙げられる。
【0056】
本明細書で用いられるように、「幹細胞」とは、一般にその細胞自体を一新して分化した細胞型を生ずる独特の能力を持つ特別な型の細胞のことをいう。身体の大部分の細胞(例えば心臓細胞または皮膚細胞)は特定の機能を行うことが確定されているが、幹細胞は不確定であり、特定の細胞に分化するシグナルを受け取るまで不確定のままである。幹細胞は、それ自体の同一のコピーを作ることができ、また特性、形態、および特化した機能を持つ成熟細胞型を生ずることもできる。典型的な幹細胞は、中間の細胞型もしくは該細胞が完全に分化した状態に達する以前の型を精製する。中間細胞は、前駆体または前駆細胞と呼ばれている。幹細胞は、有糸分裂的にそれ自体を一新することができ、またヒト成体で見つかる準機能的組織(quasi−functional tissues)の細胞成分に分化することができる前駆細胞を生じることもできる(有糸分裂によって)。本明細書で用いられる幹細胞は成体幹細胞を含み、該成体幹細胞は、ヒト成体の体全体に分布した未分化細胞であり、末梢血、血液および骨髄由来造血性、間質性、および間充織性の幹細胞が挙げられる。例えば、成人骨髄中に存在している造血幹細胞は、通常の皮質性神経回路機能の中心となる高度に分化したプルキンエ神経細胞によって大脳皮質を精製することができる(Wagersら,Science,297:2256(2002))。
【0057】
本明細書で用いられるように、「前駆細胞」とは、健康な組織の再生プロセスに加わることが可能な細胞を意味する。「前駆細胞」は、幹細胞が有糸分裂することで生ずる娘細胞の一つである。これらの細胞は、細胞クラスの部分的に分化したファミリーを生ずる分化プログラム(種々の薬剤によって刺激される)への関与(コミットメント)によって、幹細胞と区別される。こられの細胞クラスは、その組織の実質で通常見いだされる完全に分化し、かつ特化した表現型の細胞によって特定の組織を究極的には再生する。例えば、心筋細胞、骨格筋芽細胞、脾臓のα、β、およびδ細胞、肝細胞、神経、中枢神経系のアストログリア、オリゴデンドログリア、およびミクログリアは全て、骨髄幹細胞と局所組織由来の成熟幹細胞とに由来するものと考えられ、特定の器官の分化した組織内に残ることが可能である。このリストは、単に典型的かつ非限定的なものに過ぎないが、これらの細胞の各々は組織再生をイニシエートする能力を持つ。前駆細胞のさらなる例は、成体脳内の部分的に分化した細胞であり、該細胞は特定の領域に存在する神経成体幹細胞の娘細胞である(例えば、海馬歯状回および脳室下領域)。これらの部分的に分化した細胞は、脳の遠位領域に移動する。これらの細胞は、それらの遠位部位で、完全に分化した神経細胞または特定の型のグリア細胞のいずれかになることが約束される。神経細胞は、神経回路の範囲内で通常な機能を引き受ける。グリア細胞は、グリア型に特有の分化型機能を実行する。例えば、オリゴデンドログリア細胞は、神経軸索を電気的に絶縁にするCNS内の必須細胞外マトリックス成分であるミエリンを作るプログラムを実行する。衛生細胞は、骨格筋細胞の前駆体であって、概して分化型の筋線維の表面近傍に存在する。衛生細胞は、有糸分裂に入り、融合して分化型の多核筋繊維を形成する。前駆細胞は、適当な化学誘引物質の存在によって、目的とする特定の組織領域に誘引され、健康な組織の再生プロセスを開始させることができる。
【0058】
本明細書で用いられるように、「補助細胞」とは、実質細胞の再生に関係しているが、実質細胞、幹細胞、または実質細胞前駆体ではない細胞のことをいう。すなわち、補助細胞は、生物学的薬剤を合成および分泌することができ、該生物学的薬剤は幹細胞および前駆細胞(例えば、補助細胞として機能する骨髄間質細胞は、神経アポトーシスを防ぐ肝細胞増殖因子(HGF)と、神経成長因子(NGF)、ニューロトロピン4(NT5)および脳由来神経栄養因子(BDNF)(これらは全て神経前駆体の増殖および分化を刺激する)とを産生し、分化した神経細胞のアポトーシスを抑制する。補助細胞は、自室組織の機能的アーキテクチャーにとって必須である細胞外マトリックス成分を合成および分泌する。補助細胞は、細胞外マトリックスの修復および再構築をおこなう生物学的薬剤の合成および分泌をおこない、障害組織からの実質再生を促進する。補助細胞の例として、限定されるものではないが、以下のものが挙げられる。すなわち、(a)循環血液単球に由来する組織マクロファージと、(b)組織を再生させる際に間充織細胞を生じる骨髄間質細胞と、(c)中枢神経系に存在するミクログリアとが挙げられる。
【0059】
本明細書で用いられるように、「刺激する(stimulate)」または「誘引された細胞または局所的に再生する細胞を刺激する(stimulate an attracted cell or a locally regenerated cell)」とは、刺激物の標的である細胞に関係している種々様々な活性および現象の誘導のことをいう。これらの活性および現象として、
(i)組織内での運動性の増加、
(ii)1つの組織からもう一方の組織への運動性の増加(例えば、骨髄から血流へ、さらにそれに続く遠位組織へのの幹細胞の放出)、
(iii)他の細胞、細胞外マトリックス、および細胞粘着リガンドに対する細胞の結合、
(iv)DNA複製および有糸分裂の刺激、
(v)サイトカイン合成および分泌の刺激、
(vi)ケモカイン合成および分泌の刺激、
(vii)細胞外マトリックス成分合成および分泌の刺激、
(viii)アポトーシスの抑制、
(ix)変性薬剤の作用(例えば酸化防止作用)に対する防御、
(x)細胞外マトリックスを変性させる因子の合成および分泌の刺激(例えば、組織マクロファージによってマトリックスメタロプロテアーゼの放出を刺激することで、虚血性侵襲に反応した再生細動脈のため、および細胞の転位のために、細胞外マトリックス内に間隙を形成する)、
(xi)分化細胞間での細胞間結合アーキテクチャーの可塑性の誘導(例えば、間質細胞由来因子1ーα(SDF−1α)およびインターロイキンー6(IL−6)が直接、分化CNS神経細胞に作用し、神経細胞への毒性障害に対する再生的に反応してシナプス結合の再構築を引き起こすことが知られている)、
(xii)完全に機能的な実質細胞への前駆細胞および幹細胞の分化の促進、
(xiii)再生実質内の種々の異なった細胞型の分化プログラムの調節(モジュレーション)および編成(オーケストレーション)、
(xiv)新脈管形成および/または動脈形成を促進する誘引された細胞からの生物学的薬剤の放出、
(xv)幹細胞、前駆細胞、補助細胞、または局所的に再生する細胞の増殖促進、および/または
(xvi)リンパ球、B細胞、樹状細胞、ナチュラルキラー細胞、リンホカイン活性化キラー細胞、およびマクロファージの癌細胞に対する細胞障害反応を増加させる因子であるサイトカインの合成および分泌の刺激、
が挙げられる。
【0060】
特定の組織領域に「配置(placed at)」または「沈着(deposited)」された組成物に関連して使用される用語「配置(placed at)」および用語「沈着(depositing)」とは、所望の部位または該所望の部位近傍に組成物を導入することを意味する。組成物を直接、標的部位に配置することができ、あるいは該標的組織部位に隣接した体腔内に配置することができる。例えば、心臓内の組織部位への配置は、心臓組織(心筋)自体の中またはその上に組成物を沈着させるのと同様に、囲心腔(心臓を包む壁側心膜と臓側心膜との間の間隙)内に組成物を沈着させることを含む。
【0061】
薬剤は、細胞からの活性物質放出を刺激することによってのみではなく、前駆細胞の有糸分裂、前駆細胞の分化、異なる細胞クラスでの分化プログラムの調整、または細胞外マトリックスの再構築を誘導することによっても、それが作用した場合に、細胞に対して「直接的な(direct)」効果を有する。
【0062】
本明細書で使用される「新脈管形成(angiogenesis)」とは、新規毛管ネットワークの形成に到る内皮細胞の形成のことをいう。
【0063】
本明細書で用いられるように、「動脈形成(arteriogenesis)」とは、虚血性組織、腫瘍、または炎症部位に血液を供給している既存の細動脈結合からの内皮細胞および平滑筋細胞の増殖による動脈の生体内原位置(in situ)での成長のことをいう。
【0064】
「虚血性組織(ischemic tissue)」、すなわち「虚血の危険性がある組織(虚血の危険にさらされた組織)」とは、不十分な血液供給を経験しているか、または同様の危険性がある組織、腫瘍、または炎症部位のことをいう。
【0065】
「虚血(ischemia)」または「虚血性イベント(ischemic event)」とは、特定の細胞、組織、または器官に対する血液の不十分な供給のことをいう。血液供給が減少することで、器官または組織への酸素供給が不十分になる(低酸素症)。低酸素症が長引くと影響を受けた器官または組織に損傷をもたらす場合がある。
【0066】
「無酸素(anoxia)」とは、器官または組織中の酸素が実質的に完全な無酸素状態にあり、もしそれが長引けば細胞、器官、または組織の死をもたらす場合があることをいう。
【0067】
「低酸素症(hypoxia)」または「酸素圧低下状態(hypoxic condition)」とは、細胞、器官、または組織が受ける酸素供給が不十分である状態を意味する。
【0068】
(II.組織再生および癌免疫療法のための組成物)
一態様によれば、本発明は組織部位への生体内投与に適した組成物を包含するもので、該組織部位は、持続性の細胞編成、または細胞および組織の死、または壊死(組織損失)、または壊死後の繊維眼細胞もしくはグリア細胞の瘢痕、またはそれらの効果の全てを有し、あるいはこれらの効果のいずれか1つ、いずれか2つ以上、または全ての危険性がある。より簡単に述べると、上記組成物は外傷後の組織または外傷を受ける危険性がある組織での使用に適している。組成物は、組織外傷の領域に対して、幹細胞および前駆細胞の少なくとも一方を誘引するために効果的な第1の薬剤と、誘引された細胞の活性を刺激するために効果的な第2の薬剤と、誘引された細胞の生存を促すために効果的であり、また必要に応じて、誘引された細胞から生じる分化細胞の生存を促すために効果的な第3の薬剤とを含む。いくつかの実施形態では、第1の薬剤は、さらに補助細胞を誘引する。さらに後述するように、第1、第2、および第3の薬剤は組織の型に依存し、また幹細胞もしくは前駆細胞および任意に補助細胞がその部位に誘引される。前述の細胞の全てが自家組織由来のものである。全ての細胞が、身体に通常存在している導管(例えば、血管およびリンパ管系、脳脊髄液系、ならびに身体の組織にある間質間隙を介した移動経路)を介して、問題となっている組織部位に転位される。
【0069】
前述のように、組成物は外傷後または外傷の危険性がある種々様々な組織での使用を見いだし、特定の組織に合うように調製された組成物の例を以下に示す。上記組成物について一般的ではあるが詳細に説明することを目的として、脳組織の一部位に沈着した組成物を図1について提供する。しかし、以下の開示から明らかになるように、図1に詳細に示した組成物およびプロセスは脳での組織外傷を例示するものであり、広範囲かつ一般的な概念はいかなる傷害組織に対しても適用可能である。
【0070】
図1は、請求の範囲に記載されている組成物を沈着させた後、脳の一組織部位で細胞段階での単純化された組織再生プロセスを示す。傷害を受けた脳組織(概ね10で示す)は、虚血性イベント(例えば脳卒中)または疾患(アルツハイマー症、多発性硬化症、髄膜脳炎、もしくは物理的外傷によるもの)の結果によるものと考えられる。組成物を組織部位10または該部位に隣接して沈着させることで、傷害を受けた組織または壊死組織の再異性を促進する。この実施形態では、上記組成物は、薬物レザバの形状(例えば、レザバ12、14、16)であり、選択された治療薬を含有および放出するように設計されている。上記したように、薬物レザバを調製し、幹細胞および/または前駆細胞、ならびに必要に応じて補助細胞を上記組織部位に誘引するために効果的な第1の治療薬と、誘引された細胞の活性を刺激するために効果的な第2の治療薬と、誘引された細胞、必要に応じて再生して完全に分化した細胞の生存を促すために有用な第3の治療薬とを含む。いくつかの実施形態では、以下にさらに説明するように、同一の薬剤が両方の化学誘引物質(例えば、第1の治療薬としての機能を果たし、刺激剤および/または生存促進剤としての機能を果たす)としての機能を果たす。すなわち、場合によっては、一つの薬剤が第1、第2、および第3の薬剤の機能のうち1つ以上を提供するものであってもよい。
【0071】
この特定の例示では、薬物レザバ12、14、16は、幹細胞(例えば、循環骨髄由来幹細胞、例えば近くの毛細血管20内の細胞18)の化学誘引物質として作用する第1の薬剤を含む。薬物レザバからの化学誘因物質の放出によって確立されたケモカイン勾配に応じて、細胞22で例示されるように、幹細胞は近隣の組織に毛細血管内皮を通して移住する。幹細胞は、毛細血管内皮を介して、細胞22に示されるように、近隣の組織に移住する。誘引された細胞として、幹細胞および/または前駆細胞(例えば、単核細胞および組織再生を援助することができる他の細胞)を挙げることができる。周辺にある補助細胞(例えば、マクロファージ24によって例示されるようなマクロファージ)は、25によって示されるケモカイン勾配に応じて、組織領域に付着する。周辺にある補助細胞(例えば、マクロファージ24によって例示されるようなマクロファージ)は、25によって示されるケモカイン勾配に応じて、組織領域に付着する。また、隣接組織内の幹細胞もしくは特定の幹細胞由来部位からの幹細胞は、上記勾配に応じて組織部位に移動する。例えば、脳に関して、海馬歯状回もしくは脳室下領域のいずれかに由来する成人神経幹細胞(例えば、細胞26)は、その領域に引き寄せられる。ケモカインによるレザバへの細胞誘引の全体的結果は、幹細胞および/または前駆細胞の濃度増加をもたらし、補助細胞のいくつかの例では、図1に示すように、レザバ近傍で沈着する。
【0072】
いくつかの実施形態では、組成物に含まれる薬物レザバは、組織部位に誘引された細胞もしくは該組織部位に存在する細胞と相互作用するための表面リガンドを含む。この特徴は、レザバ14の細胞表面に結合した幹細胞(例えば、細胞28、30)によって、図1に示されている。表面結合リガンドは多機能であり、傷害組織部位に誘引された細胞に対して結合部位を与える機能を果たすことができ、機能的に効果的な方法で細胞表面受容体に対して刺激性の生物学的薬剤を提示し、さらに/あるいは分解から生物学的薬剤を保護する。リガンドは、処置されている組織に基づいて、また誘引された細胞の要求に基づいて、選択される。典型的なリガンドとして、細胞接着分子、細胞外マトリックス成分、およびそれらのフラグメントが挙げられる。特定の組織に対する他の典型的なリガンドを以下に示す。
【0073】
組織部位に沈着した組成物内の薬物レザバは、放出するために、誘引された細胞を刺激して該細胞の作用を引き出すために効果的な薬剤を含有する。図1は、薬物レザバ16から放出されたサイトカイン32を示すもので、該サイトカイン32は幹細胞34を誘導して錯体神経36に分化させる。レザバ14に結合した幹細胞14は、レザバ14内の適当な刺激薬剤によって、グリア細胞(星状細胞)38に分化する。さらに、上記領域に誘引されたマクロファージを刺激することで、ケモカインおよびサイトカインが産生される(例えばサイトカイン42を産生するマクロファージ40)。他の細胞の増殖は、刺激薬剤の存在下で誘導され、例えば神経幹細胞46はサイトカインによる刺激に応じて増殖し娘細胞50、52になる。娘細胞はさらに、例えば矢印54に示すような錯体神経に分化することができる。
【0074】
図1では例示していないが、上記薬物レザバもまた、誘引された細胞の生存を許容するために、あるいは傷害組織で、誘引された細胞および生成して完全に分化した細胞の寿命を延ばすために効果的な薬剤を含む。適当な薬剤は組織型および誘引された細胞にもとづいて変わり、多様な組織に対して以下のものが例としてあげられる。
【0075】
組成物の別の特徴によれば、上記薬物レザバは組織間隙を介して、最初の沈着部位から移動および分散することが可能である。このような特徴は、レザバ12の移動を示す矢印27によって図1に例示されている。概して、そのような移動は、組織内での濃度プロフィール、浮力、および/または流体運動の結果として起こる。
【0076】
図2は、図1の薬物レザバ12内の領域Aの詳細図である。この実施形態では、孔開口部60によって例証されるように、受容体12は多孔性である。以下でさらに説明するように、上記組成物の他の実施形態は、治療薬を閉じこめるために多孔性のレザバを含まないことが意図されている。治療薬を、例えば孔60内のサイトカイン62のように、レザバの孔の中に含有するが、レザバの孔と孔との間の領域、例えば固い領域の中、例えばレザバ成分の分子間間隙内に保持することも可能である。細胞接着リガンド(例えば、細胞接着ペプチド68)をレザバマトリックスに取り込むことができるので、誘引された細胞を薬物レザバ近傍に保持するために、該ペプチドのいくつかが66に示すようにレザバ表面に露出される。レザバの他の実施形態として、細胞表面受容体と結合するために露出される細胞接着ペプチドを含む組成物によってレザバ表面が被覆されたものが考えれる。
【0077】
要約すると、(i)外傷後または外傷の危険性がある組織に対して、幹細胞および/または前駆細胞、および任意に補助細胞を誘引すること、(ii)誘引された細胞(例えば、幹細胞、前駆細胞、および/または補助細胞、および/または局所的に再生する細胞)を刺激して組織再生をもたらすイベントのカスケードを開始させるか、または該カスケードに関与すること、ならびに(iii)再生された組織の活性および寿命を延ばすために、誘引された細胞およびその領域にある他の細胞の生存を促すことに対して効果的な1種類以上の治療薬を含む組成物の沈着。機能的な組織の再生は、該組織が外見上正常に機能することを可能にし、また好ましい実施形態では、外傷領域に隣接する傷害を受けていない健康な組織と上記再生された組織とが統合される。組成物は、瘢痕および傷害組織領域を生存可能かつ健康な組織細胞によって再び占めることで、組織の再生を促進する。
【0078】
上記のことから理解されるように、上記組成物を、慨して傷害組織、特に傷害を受けた実質組織の再生で使用することを目的としている。ここで、本発明は、疾患または外傷によって傷害を受けた特定の組織を再生するために適宜調製された特定の組成物を手段として、さらに例証され、典型的な特定の組織として、心筋、骨格筋、肝臓、膵臓、中枢神経系、および腎臓が挙げられる。
【0079】
(A.実質再生(parenchymal regeneration)を促進するための組成物)
(1.後虚血組織または虚血の危険にさらされた組織)
一実施形態において、組成物は、虚血性イベントによる組織傷害の再生のために1種類以上の選択された治療薬を含んでいる薬物レザバから構成される。虚血により生じた疾患の状態を処置することは、特に虚血性心疾患が死亡率の主な原因である西洋世界で使用するために、積極的に探査される医学領域で有り続ける。心臓虚血は、心臓の筋細胞(心筋細胞)ならびに心臓の供給領域の血管構造物の死をもたらす主要冠動脈の突然の妨害に起因する。同様に、他の器官および組織に対する主要血管の妨害は、その組織の生きた細胞の死と、その正常および適当な機能を保つ組織の能力の著しい悪化とを招く。脳虚血は、例えば、脳の一部に対する動脈血流が妨げられるか、あるいはクリティカルレベルを下回るまで減少するもので、一過性の脳虚血発作および脳卒中の両方をもたらすことができる。心臓虚血および脳虚血が虚血のより一般的な形態のうちの2つである一方で、他の体組織(例えば、眼、腎臓、肝臓、体下肢、腸、および皮膚)に対する傷害ならびに皮膚弁の拒絶等にも関係する。
【0080】
虚血を取り扱うための最近のアプローチは、新脈管形成および動脈形成を介した新規毛細管ネットワークの成長と副行血管の発現とを刺激する試みを伴う。血管新生とは、概して、毛細管ネットワークを形成している新規の内皮化(endotheliallined)血管の形成のことをいう。動脈形成は、新脈管形成とは異なるもので、内皮および平滑筋細胞の有糸分裂、結合組織の外膜層および弾性板の形成による既存の側副細動脈の成長および機能的動脈への再構築のことをいう。血管平滑筋細胞は、血管運動性制御および構造強さおよび安全性を与える。細動脈は、毛細管ネットワークと対比される。毛細管ベッドは、組織内での栄養およびガス交換にとって必要である。毛細血管の直径が小さいことから、毛細血管は高容量血流に対する組織による要求を常に満足することはできない。この要求に対しては、しばしば、直径が大きい動脈のみがその要求に応える。
【0081】
新脈管形成および動脈形成の刺激に対する戦略は、虚血性組織の局所化された領域に対する必要な生物学的ペプチドの送達に対してフォーカスをあてた。例えば、損なわれた動脈に対する塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)の送達は、血流改善を示唆する変化を生ずる(Laham R.J.ら,Clin.Cardiol.22(Supp.I):16−19,(1999)。血管内皮増殖因子(VEGF)の投与が心筋血流量を改善し、血管組織の修復に使用することが提案されている(EP−A−506 477)。新脈管形成および/または動脈形成の形成に使用することが提案された他の生物学的薬剤として、胎盤増殖因子(WO 01/57181;WO 01/56593)と、コロニー刺激因子(WO99/17798)とが挙げられる。当該技術分野で説明されていることは、動脈形成を刺激するために単球に治療薬を充填することを含む方法(WO 00/60054)である。心筋虚血ならびに虚血性四肢(ischemic limbs)を持つ患者の新脈管形成をもたらす、さらに別のアプローチ(Isner,J.M.ら,Lancet,348:370−374,(1996))がphVEGFの動脈遺伝子導入を用いた(Losorda,D.W.ら,Circulation,98(25):2800−2804,(1996))。
【0082】
心筋細胞または骨格筋芽細胞を移植することで、心臓および骨格筋の壊死および瘢痕化した組織ゾーンを置き換える戦略(Leor,J.ら,Circulation,94(Supp.II):331−336,(1996);Murryら,J.Clin.Invest.,98:2512−2523,(1996);Taylorら,Nat.Med.,4:929−933,(1998);Tomitaら,Circulation,100(Supp,II):247−256,(1999);Menuscheら,Lancet,357:279,(2000))は、移植した細胞のいくつかが生存するという多少の成功を示した。しかし、それらは、生き残っている健康な組織と機能的に統合される健康な心筋または骨格筋と冠状動脈または末梢動脈とを再構築することに失敗した。
【0083】
これらのアプローチは、新脈管形成および動脈形成の細胞移植および促進を通して虚血に対する治療的アプローチでの初期の心みを反映する。いくつかの有望な知見にもかかわらず、これらのアプローチのいずれも、虚血領域の生理学的パフォーマンスを臨床的に改善するために有意な程度に、血流の回復または細胞構造の統合性の回復を達成した。血管新生、動脈形成、および実質細胞の復活を、臨床的に有用である有意な程度まで、引き起こすことが切迫して求められている。
【0084】
実質組織の回復と虚血の危険にさらされた組織、すなわち後虚血組織または低酸素組織での血液循環とを促進するための組成物および方法が、本明細書で提供される。記載されている組成物は、治療法として、新脈管形成、動脈形成、ならびに心筋および骨格筋繊維再生に対して有効である。
【0085】
(1.実質細胞再生、新脈管形成および/または動脈形成のための治療薬)
上記したように、組成物は幹細胞および/または前駆細胞ならびに任意に補助細胞を誘引するために効果的な1種類以上の治療薬を含み、それらの細胞を刺激して該細胞の作用を引き出したり、該細胞の生存を促す。虚血性組織を処置するために設計された組成物について、さらに具体的に言えば、治療薬の選択を、(i)骨髄細胞、幹細胞、および前駆細胞と、単球(補助細胞として機能)とを含む循環血液細胞を、虚血部位または虚血の危険にさらされた組織に誘引すること、(ii)これらの細胞での種々の現象、例えば有糸分裂、運動性、結合、分化、および生物学的薬剤放出(新脈管形成、動脈形成、ならびに骨髄および幹細胞の心筋細胞および骨格筋線維への分化を促進)を刺激すること、(iii)組織内の単球由来マクロファージ、分化した筋細胞の生存と、筋線維、筋細胞、筋芽細胞、骨格筋細胞、および内皮細胞の前駆細胞の生存とを促すことのために、おこなう。周知の如く、単球は骨髄由来骨髄系前駆細胞に由来し、単核食細胞系に属している。これらの細胞(白血球のカテゴリー)は、血中を循環して血流から内皮層を介して組織間隙に移動し、そこで成熟してマクロファージになる。そこでマクロファージは、侵入してくる微生物および異物、同様に傷付いたり老化した細胞を、貪食して消化する。これらの細胞はまた、細胞外マトリックスのチャンネルを開くタンパク質分解酵素を分泌することで、動脈への細動脈の再構築も助け、平滑筋細胞の増殖および移動と再構築された動脈の適応を促進させる。本明細書で用いられるように、「単球(monocyte)」とは、単球と同様に、単球の生物学的作用と同一または類似した作用を示す他の細胞のことをもいう。
【0086】
心臓筋細胞および骨格筋芽細胞は、筋肉に残る幹細胞および骨髄幹細胞に由来する。これらは、筋芽細胞に類似し、衛生細胞と呼ばれている筋幹細胞から分化する。衛生細胞は有糸分裂に入り、いくつかが融合して分化した筋線維を形成する。これらの細胞は、適当な化学誘引物質の存在によって、目的の組織領域に誘引され、虚血領域および虚血の危険性がある領域で健康な筋組織の再生プロセスを開始する。
【0087】
したがって、虚血組織での使用のための本発明の組成物に含まれる治療薬の一クラスは、循環している血液単球、骨髄細胞、骨髄由来の筋原性前駆細胞、ならびに前駆体内皮および平滑筋細胞を、危険性のある組織へ誘引するために効果的な生物学的薬剤である。そのような薬剤を情報伝達(シグナリング)分子とすることができ、例えば、循環している単球、骨髄細胞、骨髄および筋由来筋原性前駆細胞、ならびに前駆体内皮および平滑筋細胞を組織領域に誘引し、循環から組織領域へ移動させるために効果的な化学誘引物質が挙げられる。使用に適した化学誘引物質は、限定されるものではないが、ケモカイン、例えばマクロファージ化学誘引物質タンパク質(MCP−1、MCP−2、MCP−3、MCP−4、およびMCP−5)、ランテス(RANTES)(活性化に対して調節されている、正常T細胞発現および分泌サイトカイン)、フラクタルカイン(Fraktalkines)、マクロファージ炎症タンパク質(MIP)−1−αおよびMIP−1−β;N−ファルネシルペプチド、補体活性化産物C5a、ロイコトリエンB4、血小板活性化因子(PAF)、幹細胞因子(SCF)、肝細胞増殖因子(HGF)、塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)、血小板由来増殖因子ABおよびBB(PDGF−AB、BB)白血病抑制因子(LIF)、ならびにこれらの化学誘引物質と機能的に等価のフラグメントが挙げられる。また、単球、骨髄幹細胞、骨髄および筋由来筋原性前駆細胞、前駆体内皮および平滑筋細胞の誘引剤としての使用について考えると、トランスフォーミング増殖因子β(TGF−β)、インターロイキン、およびコロニー刺激因子であり、該コロニー刺激因子として、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM−CSF)、顆粒球コロニー刺激因子(G−CSF)、コロニー刺激因子−1(CSF−1)、およびマクロファージコロニー刺激因子(M−CSF)とそれの機能的に等価なフラグメントが挙げられる。
【0088】
化学誘引物質が、新脈管形成および/または動脈形成のプロセスに関係する他の細胞を誘引するために適当であると考えられることはいうまでもない。または、単球、骨髄幹細胞、骨髄および筋由来筋原性前駆細胞、前駆体内皮および平滑筋細胞に加えて、化学誘引物質は特に他の細胞を誘引するのに選ばれることができる。新脈管形成、動脈形成、および筋細胞分化にも伴う細胞の循環として、他の白血球、血小板、骨髄由来白血球前駆体、骨髄由来幹細胞、および血管内皮細胞前駆体が挙げられる。血管平滑筋細胞(VSMC)は、骨髄幹細胞、マクロファージ、および局部組織間充織細胞を含む種々の前駆体から分化する。平滑筋細胞および内皮細胞のための刺激剤としての使用について考えられるものは、GM−CSF、G−CSF、M−CSF、SCF、および内皮マイトジェニック増殖因子(PDGF−BB)である。
【0089】
表1は、心筋細胞および骨格筋細胞とそれらの前駆体との刺激効果を有する種々の増殖因子を要約する。これらの因子は、化学誘引物質として、または特定の細胞の更なる増殖および分化に対する薬剤として適当である。
【0090】
【表1】
上記組成物に含まれる別の治療薬は、新脈管形成および/または動脈形成を促進する生物学的薬剤の放出を刺激することができる薬剤であり、本明細書では「刺激薬剤(stimulation agent)」と呼ぶ。この刺激薬剤を、単球、幹細胞、および筋原性前駆細胞を目的の組織へ誘引する際に用いられる薬剤と同一のもの、または異なる薬剤とすることができることは、いうまでもない。刺激薬剤は、新脈管形成、動脈形成、および筋細胞再生のプロセスに関与する1種類以上の生物学的成分の放出に対する危険にさらされている組織内または該組織に隣接して、単球、幹細胞、または他の新脈管形成および動脈形成細胞を刺激するために有効である。新脈管形成、動脈形成、および筋細胞分化プロセスに関係する単球以外の細胞として、内皮細胞、マスト細胞、リンパ球、顆粒球、白血球、血小板、骨髄由来白血球前駆体、骨髄由来幹細胞、血管内皮細胞、血管平滑筋細胞、およびそれらの前駆体が挙げられる。
【0091】
上記刺激薬剤が、同様に、単球、他の補助細胞、幹細胞、および筋細胞前駆細胞に対する直接的な作用による動脈形成、新脈管形成、および筋実質再生に対して作用可能であることは、これらの細胞に対する直接的な作用によって、十分に理解される。表1に例示されるように、再生心筋線維および骨格筋線維を形成するために心筋および骨格筋細胞前駆細胞の増殖および分化を刺激することが知られている薬剤の多くが、それらの標的に対するそれらの直接的な作用を達成する。筋実質の再生は、中間生物学的因子の生産および分泌の刺激なしに生じることが可能である。同様に、新脈管形成および動脈形成を刺激する多くの薬剤の効果は、血管内皮細胞および該細胞の前駆体ならびに血管平滑筋細胞および該細胞の前駆体に対して、直接作用することで、達成される。
【0092】
刺激薬剤を、マクロファージおよび他の血管新生および動脈新生細胞からの血管新生および動脈新生生物学的活性分子の産生を刺激し、あるいは幹細胞の分化と筋細胞の増殖および生存と筋芽細胞の融合とを刺激する生物学的または非生物学的化合物とすることができる。典型的な生物学的因子は、限定されるものではないが、ケモカイン、例えばマクロファージ化学誘引物質タンパク質(MCP−1、MCP−2、MCP−3、MCP−4、MCP−5)、腫瘍壊死因子(TNF−α、TNF−β)、ランテス(RANTES)(活性化に対して調節されている、正常T細胞発現および分泌サイトカイン)、フラクタルカイン(Fraktalkines)、マクロファージ炎症タンパク質(MIP)−1−αおよびMIP−1−β、ならびにこれらの薬剤と機能的に等価のフラグメントが挙げられる。また、刺激薬剤としての使用が考えられるものとして、インターロイキン、コロニー刺激因子(例えば、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM−CSF)、顆粒球コロニー刺激因子(G−CSF)、コロニー刺激因子−1(CSF−1)、およびマクロファージコロニー刺激因子(M−CSF))、血小板由来増殖因子(PDGFーABおよびPDGF−BB)、塩基性線維芽増殖因子(bFGF)、インスリン様増殖因子(IGF−1)、神経成長因子(NFG)、およびそれらの薬剤の機能的に等価ないずれかのフラグメントが挙げられる。ある細菌細胞壁の誘導体であるリポ多糖(LIS)もまた、LPSのマクロファージ刺激効果を持つが該分子の毒性領域は欠けているLPS様分子であることから、効果的な刺激剤として適当であると考えられる。刺激薬剤としての使用が考えられるものとして、アンジオポエチン−1および−2(Ang−1およびAng−2)、肝細胞増殖因子(HGF)、ロイコトリエンB4、補体活性化産物C3aおよびC5a、白血病抑制因子(LIF)、エリスロポイエチン(Epo)、5‐アザシチジン、およびトランスフォーミング増殖因子(TGF−β))が挙げられる。
【0093】
循環する単球、骨髄幹細胞、骨髄および筋由来筋原性前駆細胞、ならびに前駆体内皮および平滑筋細胞を、対象とする組織に対して誘引することと、直接的作用によって、あるいは生物学的に活性のある薬剤の分泌誘導を介して、新脈管形成、動脈形成、および筋実質再生を刺激することとに対して、有効である薬剤の添加に加えて、組成物は、血管および筋実質の再生に関与している対象とする組織内の細胞の生存を促すために効果的な薬剤を、さらに含む。例えば、組織領域に誘引された単球に由来するマクロファージの生存の延長と組織領域にある他の血管新生または動脈新生細胞の生存の延長とが、新脈管形成および/または動脈形成に関与する所望の薬剤の放出を促進かつ延長する。上記組成物は、新脈管形成および動脈形成に関与し、心筋細胞および骨格筋細胞に分化し得る樹幹幹細胞の数を増加させるために効果的な薬剤も含むことができる。循環血単球および組織常在の単球由来マクロファージ、新脈管形成および動脈形成に貢献し、幹細胞の数を増加させる他の細胞の生存を促すことができる生物学的因子として、GM−CSF、G−GSF、CSF−1、M−CSF、IGF−1、Ang−1、および機能的に等価な薬剤ならびにそれらのフラグメントが挙げられる。
【0094】
上記組成物は、新脈管形成および動脈形成のプロセスに関与する生物学的薬剤を1種類以上含むこともできる。これらの薬剤は、典型的に虚血性組織内のマクロファージおよび他の細胞から放出されるが、治療用組成物の一部として提供することも可能である。新脈管形成および/または動脈形成に関与する因子として、線維芽細胞増殖因子(FGF、FGF−1、FGF−2)、TGF−α、インスリン様増殖因子−1(IGF−1)、アンジオポエチン−1(Ang−1)、アンジオポエチン−2(Ang−2)、血管内皮増殖因子(VEGF)、それの機能的に等価なフラグメント、VEGFの構築物(例えば、VEGF−2、VEGF165、およびVEGF121)、血小板由来増殖因子−A(PDGF−A)および/またはPDGF−Bおよび/またはPDGF−BB、胎盤由来増殖因子(PIGF)、ならびに他の内皮由来増殖因子の構築物またはそれの機能的に等価のフラグメントが挙げられる。
【0095】
上記組成物は、循環している単球、マクロファージ、および他の細胞を組織領域に結合させる際の補助となる薬剤も含むことができる。この薬剤は、マクロファージと薬物レザバとを結合または密接に関連させるために機能して、そのレザバから放出されている薬剤の近傍にマクロファージを運ぶことができる。一実施形態では、上記組成物は、さらに、細胞接着分子、例えばICAM、VCAM、PECAM;VEーカドヘリン;フィブロネクチンフラグメント(例えば、RGDおよびREDV);合成接着ペプチド(例えば、VAPGおよびKQAGDV);細胞外マトリックス分子、ならびにコラーゲン、フィブロネクチン、ヘパリン、デキストラン、ハイラン、ラミニン、および動物由来の加工された細胞外マトリックス(ECM)の異質成分からなる混合物を含むことができる。
【0096】
(2.心筋再生)
上記の考察から明らかなように、虚血の危険にさらされた心臓組織または後虚血心筋組織の処置は、本明細書中に記載される組成物によって達成される。梗塞または脳卒中による虚血に加えて、心臓組織は他の状態(例えば、炎症性、毒性、代謝、および先天性の病因による心筋症(cardiomyophathies)、さらにうっ血性心不全)からの傷害を受けやすい。虚血心臓組織に適した上記の典型的な組成物は、虚血以外の状態による心臓組織傷害の治療でも有用であると考えられる。さらに、傷害を向けた心筋を処置するための組成物を以下の議論に基づいて設計することができる。
【0097】
上記したように、本発明の組成物は、幹細胞前駆細胞、および補助細胞の化学的誘引、そのような細胞の刺激、ならびに該細胞および再生心筋の分化細胞の生存強化という3つの機能が可能である生物学的因子を必要とする。心臓組織の処置に合うように変えられる組成物は、心臓筋芽細胞(心筋細胞)、骨髄幹細胞、造血性幹細胞、髄間質細胞、および常在の心筋細胞幹細胞を含む前駆細胞の誘引に関与する。内皮細胞、血管平滑筋細胞、およびそれらの前駆体は、組織修復プロセスにも関与している。したがって、組成物はこれらの前駆細胞の少なくとも1つ以上にとって化学誘引物質として用いられる少なくとも1つの因子を含む。多数の典型的な化学誘引物質が上記されている。
【0098】
上記組成物は、さらに、例えば、分化および/または増殖するために、前駆細胞を刺激して該細胞の作用を引き出す作用をする少なくとも1つの因子を含む。適当な刺激因子として、限定されるものではないが、幹細胞因子、インスリン様増殖因子−1および−2(IGF−1、IGF−2)、トランスフォーミング増殖因子−α、−β(TGF−α、TGF−β)、ヘパリン結合上皮細胞増殖因子様増殖因子(HB−EGF)、ならびに5‐アザシチジンが挙げられる。
【0099】
上記組成物は、少なくとも1つの因子も含む。この因子は前駆細胞および該細胞の分化した子孫の生存を促進するように作用するもので、典型的な刺激薬剤として、限定されるものではないが、GM−CSF、G−CSF、CSF−1、M−CSF、およびIGF−1が挙げられる。
【0100】
上記組成物は、幹細胞(特にVLA4)および前駆細胞上の細胞表面インテグリンに結合する細胞接着分子リガンドも含む。典型的なリガンドは、血管細胞接着分子1(VCAM−1)である。そのようなリガンドによる接着によって、傷害組織での組成物沈着部位に対する幹細胞の配置が確かなものとなる。
【0101】
(3.骨格筋再生)
別の実施形態では、筋線維の生産によって骨格筋の修復をおこうように設計された組成物が考えられる。組成物は、熱傷、デュシェンヌ筋ジストロフィー、物理的挫滅外傷、閉塞性末梢疾患、および他の侵襲によって傷害を受けた骨格筋の再生にとって適当である組成物が考えられる。
【0102】
修復プロセスに関係する前駆細胞として、骨髄幹細胞、造血性幹細胞、骨髄基質細胞、骨格筋衛星細胞、筋芽細胞、末梢血液細胞、および筋肉前駆細胞が挙げられる。骨格筋傷害部位へのこれらの細胞の誘引は、化学誘引物質を含有する組成物の導入によって達成される。典型的な誘引物質として、増殖因子、例えば塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)、肝細胞増殖因子(HGF)、トランスフォーミング増殖因子−3(TGF−3)、血小板由来増殖因子(PDGF)、血小板由来増殖因子−AB(PDGF−AB)、血小板由来成増殖殖因子−BB(PDGF−BB)、インターロイキン‐8(IL−8)、腫瘍壊死因子−α(TNF−α)、ロイコトリエンB4、フィブロネクチン(Fn)フラグメント、補体活性化産物C3aおよびC5a、白血病抑制因子(LIF)、ならびに活性化に対して調節されている正常T細胞発現および分泌サイトカイン(ランテス(RANTES))が挙げられる。
【0103】
上記組成物は、誘引された細胞を刺激して該細胞の作用を引き出す少なくとも1つの因子を含む。適当な因子として、限定されるものではないが、インスリン様増殖因子I(IGF−I)、インスリン様増殖因子II(IGF−II)、塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)、神経成長因子(NGF)、肝細胞増殖因子(HGF)、血小板由来増殖因子(PDGF)、血小板由来増殖因子−BB(PDGF−BB)、トランスフォーミング増殖因子R(TGF−R)、エリスロポエチン(EPo)、ヒト白血病抑制因子(hLIF)、および5‐アザシチジンが挙げられる。
【0104】
上記組成物は、前駆細胞および調節(イオン)実質の分化細胞の生存を延ばす1種類以上の因子も含む。骨格筋組織で細胞の生存を延ばす因子として、インスリン様増殖因子−I(IGF−I)、インスリン様増殖因子−II(IGF−II)、血小板由来増殖因子−BB(PDGF−BB)、およびエリスロポエチン(EPO)が挙げられる。
【0105】
上記組成物は、幹細胞および前駆細胞上の細胞表面インテグリンに結合する細胞接着分子リガンドも含む。典型的なリガンドとして、血管細胞接着分子1(VCAM−1)、マトリゲル(Matrigel)、およびフィブロネクチンフラグメント(Fn)が挙げられる。そのようなリガンドによる接着は、傷害組織内の組成物沈着部位への幹細胞の配置を確かなものにする。マトリゲル(Matrigel)は、刺激因子として上記に考えられた多くのサイトカインの活性を安定化および保存すること、また最適な刺激を生ずるために幹細胞および前駆細胞上の受容体に対してそれらのサイトカインリガンドを提示するように作用することも知られている。
【0106】
(4.肝臓での組織再生)
肝臓は、広範囲におよぶ疾患での攻撃の標的である。これらの疾患として、感染性、自己免疫性、同様に非伝染性プロセス(例えば化学毒性)が挙げられる。感染症の例として、(i)ウイルス性肝炎(例えばA、B、C、D、E、およびG型肝炎)と(ii)寄生性の肝炎(例えば、マンソン住血吸虫(Schistosoma mansoni)、ビルハルツ住血吸虫(Schistosoma hematobium)、および日本住血吸虫(Schistosoma japonicum)が挙げられる(Harrison’s Principles of Internal Medicine,Fauci らeds.,1998,pgs 1660−1725)。肝臓に影響を及ぼす非伝染性疾患の例として、自己免疫疾患、例えば(i)自己免疫肝炎および(ii)原発性胆汁性肝硬変)が挙げられる(Harrison’s Principles of Internal Medicine,Fauciら編,1998,pgs 1701−1709)。肝臓への攻撃が伝染性、自己免疫性、または非伝染性であるかどうかにかかわらず、肝臓に対する傷害が未処置のままであったら瘢痕または線維症を引き起す。線維症の末期は肝硬変である。病理学的に、肝硬変は再生可能な小結節の形成に関連した肝臓での広範囲な線維症として定義される。肝硬変は慢性肝臓傷害の多くの(全てではないとしたら)タイプに共通する最後にたどる経路であって、概して進行性である。いくつかの状況では、肝臓がそれ自体を再生させる相当な能力を有するにもかかわらず、この再生能が肝臓障害によって阻害または破棄される。したがって、本発明は肝臓組織の再生をもたらすために組成物の沈着を考察する。
【0107】
肝臓の再生に関与する幹細胞および前駆細胞として、肝細胞、骨髄細胞、肝臓前駆体幹細胞、肝臓成人幹細胞、肝臓上皮性導管細胞、および卵形細胞が挙げられる。組織外傷部位に対するこれらの細胞の誘引は、化学誘引物質を含む組成物を導入することによって達成される。典型的な誘引剤として、顆粒球コロニー刺激因子(G−CSF)、インターロイキン−8(IL−8)、間質細胞由来因子(SDF−1)、幹細胞因子(SCF)、硫酸化多糖類(例えば、フルコイダン)、ならびに心筋、骨格筋で使用するための上記した化学誘引物質および新脈管形成および/または動脈形成を促進するために幹細胞および前駆細胞を誘引するための化学誘引物質が挙げられる。
【0108】
上記組成物は、誘引された細胞を刺激して該細胞の作用を引き出すために少なくとも1つの因子も含む。適当な因子として、限定されるものではないが、インスリン様増殖因子−I(IGF−I)、インスリン様増殖因子−11(IGF−11)、上皮増殖因子(EGF)、塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)、肝細胞増殖因子(HGF)、ケラチノサイト増殖因子(KGF)、アクチビン−B、インターロイキン−6(IL−6)、腫瘍壊死因子(TNF)、リポ多糖(LPS)、トランスフォーミング増殖因子−α(TGF−α)、ならびに転写制御因子(B細胞のκ鎖に対する核因子(NFKB)、STAT3、AP−1、C/EBP、および肝臓刺激物質(HSS))が挙げられる。
【0109】
上記組成物は、前駆細胞の残存と再生する肝実質の分化細胞を延長する1種類以上の因子も含む。肝臓組織で細胞の残存を延長する因子として、インターロイキンー6(IL−6)および腫瘍壊死因子(TNF)が挙げられる。
【0110】
(5.脾臓での組織再生)
ヒト脾臓は、外分泌および内分泌という両方の組織から構成される腺であり、外分泌組織によって消化酵素の分泌に関係し、また内分泌組織によってインスリン、グルカゴン、ソマトスタチン、および脾臓ポリペプチドの生産に関与する。インスリンおよびグルカゴンは、協同してブドウ糖の生産および代謝を調整する。内分泌膵は膵ランゲルハンス島を含み、該膵ランゲルハンス島は、腺房の組織の全体を通じて広く点在するポリペプチドホルモン生産細胞の集合体であり、膵臓の尾部部分に最も数多くある。概して、全島組織は、膵質量のわずか約1または2パーセントを構成する。
【0111】
島組織は少なくとも3種類の機能的に異なる細胞を含有する。すなわち、グルカゴンを作ることができるA(または「α(アルファ)」)細胞、インスリンを作るB(または「β(ベータ)」)細胞、第3の島ホルモンであるソマトスタチンを作るD(または「δ(デルタ)」)細胞、さらに膵臓ポリペプチドを作るPP細胞である。B細胞は、島細胞の3つのタイプのなかで、最も豊富である。インスリンは細胞(特に筋細胞)によってブドウ糖の取り込みを促進し、肝臓と筋肉に保管されるグリコーゲンの過剰な分解を予防する。
【0112】
糖尿病は、全世界の人口の4ないし5%で発症しており、最も一般的な代謝疾患である。特に先進国で、糖尿病で診断されるヒトの数が、急速に増加しており、またこの疾患は、しばしば二次合併症(例えば網膜症、腎症、神経障害、および循環器病)をもたらす。II型(非インスリン依存性)糖尿病は、もっとも一般的な糖尿病の病型(診断されたケースの90%を上回る)であり、インスリン耐性、膵臓β−細胞機能障害または両方の組合せから生ずる。β−細胞機能障害は、1つには、インスリン需要の増加に対してβ細胞が十分な量の活性インスリンを産生および分泌することができないことに起因して起こると思われる。I型(インスリン依存性)糖尿病は、インスリン産生β細胞の自己免疫性破壊に起因する。両タイプの糖尿病に対する既存の治療は、インスリンを日々投与する必要性がある。これらの治療は、回復を与えるものではなく、多くの場合、糖尿病に伴う二次合併症を予防することがほとんど不十分であることから、満足のゆくものではない。
【0113】
インスリンを産生する膵臓のβ細胞を取り替える戦略として、同種膵島細胞および幹細胞の移植に焦点が当てられてきた。レシピエント自身のものとは異なるドナーからの細胞の移植では、常に、移植宿主疾患(graft host disease)の移植組織拒絶反応を防ぐための免疫抑制剤の長期投与、細菌およびウイルス感染に対する移植ドナーのスクリーニング、ならびに他の衰弱性疾患に関する素因についての遺伝学的スクリーニングをおこなう必要がある。
【0114】
膵臓組織に対する傷害は、糖尿病から生じることがある。したがって、本発明は、膵臓組織の再生または修復をおこなうために組成物の沈着を考察する。
【0115】
障害を受けた膵臓組織の再生に関与する細胞として、β細胞、島幹細胞、島前駆細胞、および脾管幹細胞が挙げられる。組織傷害部位へのこれらの細胞の誘引は、化学誘引物質を含む組成物の導入によって達成される。典型的な化学誘引物質として、血管内皮増殖因子(VEGF)(顆粒球コロニー刺激因子(G−CSF))、インターロイキン−8(IL−8)、間質細胞由来因子−1(SDF−1)、幹細胞因子(SCF)、フルコイダン、および細胞外マトリックス(ECM)が挙げられる。
【0116】
上記組成物は、誘引された細胞を刺激して該細胞の作用を引き出すための少なくとも1つの因子も含む。適当な因子として、限定されるものではないが、神経成長因子(NGF)、塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)、血管内皮増殖因子(VEGF)、インスリン様増殖因子−I(IGF−I)、インスリン様増殖因子−II(IGF−11)、肝細胞増殖因子(HGF)、血小板由来増殖因子(PDGF)、トランスフォーミング増殖因子−β(TGF−β)、上皮増殖因子(EGF)、ケラチノサイト増殖因子(KGF)、アクチビン−A、エクステンジン−4、成長ホルモン、プロラクチン、胎盤性ラクトゲン、ニコチンアミド、ベータセルリン(BTC)、白血病抑制因子(CIF)、マクロファージ遊走阻止因子(MIF)、島因子−1(Isl−1)、膵臓十二指腸ホメオボックス−1(Pdx−1)、膵臓十二指腸ホメオボックス−4(Pdx−4)、膵臓十二指腸ホメオボックス−6(Pdx−6)、cdx−2、Nkx−6、および肝細胞核因子(HNF−1α)が挙げられる。
【0117】
上記組成物は、再生組織の幹細胞、前駆細胞、および分化細胞の生存を延ばす1種類以上の因子も含む。膵臓組織で細胞の生存を延ばす典型的な因子として、インスリン様増殖因子−I(IGF I)、神経成長因子(NGF)、およびインターロイキンー6(IL−6)が挙げられる。
【0118】
上記組成物は、幹細胞および前駆細胞の表面が結合し得るリガンドも含むことができる。これらのリガンドは、該組成物の一部でもある刺激因子の近傍で細胞の数を増加させることで再生の効率を高めることが意図されている。幹細胞および前駆細胞を細胞外マトリックスの細胞接着部分に結合させることで、有糸分裂および分化が促進されることが知られている。適当なリガンドとして、N,R,E−カドヘリンおよび他の細胞接着分子(CAM)が挙げられる。
【0119】
(6.中枢神経系での組織再生)
脳および脊髄組織に対する傷害は、種々の状況および条件から生じることもあり、そのような状況および条件として、感染症(例えば、種々の細菌性およびウィルス性髄膜脳炎)、血管障害(例えば、出血性および虚血性脳卒中)、退行性疾患(例えば、多発性硬化症およびパーキンソン病アルツハイマー病)、ならびに物理的外傷が挙げられ、該物理的外傷として、脳振盪、脳裂傷、および脊髄に対する圧迫および挫傷が挙げられる。
【0120】
したがって、一実施形態では、本発明は、傷害後の脳および脊髄組織または傷害の危険性がある脳および脊髄組織を再生させるために組成物を用いることを意図している。特に、この組成物は、必須の細胞を誘引するために効果的な第1の薬剤を含むもので、該細胞として、限定されるものではないが、ミクログリア、オリゴデンドログリア、神経成人幹細胞、神経細胞、骨髄(BM)細胞、補助細胞(AC)、平滑筋細胞(SMC)、骨髄基質細胞(mSC)、造血性骨髄幹細胞(hSC)、および星状細胞が挙げられる。これらの細胞のいくつかは、血液脳関門(BBB)を横切って移動することができ、さらに/または脳組織内に存在する。補助細胞の誘引は、傷害に対する脳の反応において必須であることが知られている。骨髄基質細胞(mSC)、骨髄造血性幹細胞(hSC)、他の骨髄(BM)細胞、ミクログリア、アストログリア、および単球マクロファージは、傷害組織領域に入り、種々のサイトカインおよび他の生物学的因子(グリアおよび神経細胞を機能させるために幹細胞および前駆細胞の有糸分裂ならびに前駆細胞の分化を直接誘導する)を産生することで、補助細胞(AC)として作用することが知られている。これら上記の細胞の一つ以上を誘引するために効果的な薬剤として、肝細胞増殖因子(HGF)、マクロファージ化学誘引物質タンパク質1−1(MCP−1)、間質細胞由来因子−1α(SDF−1α)、間質細胞由来因子−1β(SDF−1β)、塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)、上皮増殖因子(EGF)、インターロイキン−1(IL−1)、および血小板由来増殖因子AB(PDGF−AB)が挙げられる。
【0121】
第2の薬剤は、誘引された細胞内で種々の現象を刺激するために上記組成物に含まれる。これらの現象として、(i)幹細胞および前駆細胞の増殖、(ii)機能的実質細胞への分化、および(iii)増殖および分化を刺激し、また再生グリア細胞および神経細胞間での分化を変調および整合する種々のサイトカインおよび他の生物学的薬剤の産生が挙げられる。典型的な薬剤として、限定されるものではないが、ニューロトロフィン3(NT3)、脳由来神経栄養因子(BDNF)、神経成長因子(NGF)、表皮増殖因子(EGF)、塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)、Nogoタンパク質のNEP1−40阻害剤、ニューロトロフィン4(NT4)(3−メルカプトエタノール(3−ME))、ヒト白血病抑制因子(hLIF)、レチノイン酸(RA)、インターロイキン‐1(IL−1)、インターロイキンー6(IL−6)、血小板由来増殖因子−AB(PDGF−AB)、トランスフォーミング増殖因子−α(TGF−α)、幹細胞因子(SCF)、血管内皮増殖因子(VEGF)、インスリン、フォルスコリン、バルプロ酸、ヘパリン、ヘパラン、グリコシル化サイトスタチン−C、およびホルボールミリステートアセテート(TPA)が挙げられる。
【0122】
上記組成物に対して、付加的に、細胞外マトリックスと脳血液関門とに直接作用して、再生神経系実質の完全な成長を可能にする薬剤を含ませることが考えられる。そのような薬剤は、神経の可塑性を取り戻す作用をすることがあり、実質再生が、傷害組織の神経ネットワークとは異なる構成で、神経ネットワークを再結合することによって達成される。再生のこれらの成分を達成する典型的な薬剤として、ニューロトロフィン3(NT3)、コンドロイチン分解酵素ABC(chABC)、Nogoタンパク質結合のNEPI−40タンパク質阻害剤、および血管内皮増殖因子A(VEGF−A)が挙げられる。
【0123】
上記組成物は、幹細胞、前駆細胞、および/または分化細胞の生存をのばす1種類以上の因子を含む。脳組織の細胞の生存をのばす因子として、脳神経栄養因子(BDNF)、神経成長因子(NGF)、塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)、表皮増殖因子(EGF)、血小板由来増殖因子−AB(PDGF−AB)、グリコシル化サイトスタチン−C、3−メルカプトエタノール(3−ME)、ブチル化水酸化アニソール(BHA)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、肝細胞増殖因子(HGF)、神経成長因子、ニューロトロフィン4(NT4)、ブチル化水酸化トルエン(BHT)、およびヒト白血病抑制因子(hLIF)が挙げられる。
【0124】
上記組成物は、幹細胞、前駆細胞、および他の細胞の表面が結合することができるリガンドも含むことができる。これらのリガンドは、上記組成物の一部でもある刺激因子に近接した細胞の数を増加させることで、再生効率を高めると考えられる。幹細胞および前駆細胞を細胞外マトリックスの細胞接着部分に結合させることで、有糸分裂および分化が促進されることが知られている。適当なリガンドとして、ラミニンおよび血管細胞接着分子1(VCAM−1)が挙げられる。
【0125】
(7.腎臓での組織再生)
別の実施形態では、本発明は腎臓での組織再生を包含する。種々の疾患が腎実質に対する傷害(例えば粥状塞栓疾患、腎静脈血栓症、腎動脈塞栓症、血栓症、糖尿病性腎症、種々の病因による糸球体腎炎、中毒性ネフローゼ、および腎盂腎炎)によって引き起こされる。傷害の結果として、腎機能の急性または慢性低下に起因するかどうかに関係なく、腎不全は、腎臓の濾過、再吸収、内分泌物、および恒常性機能の実質的または完全な不全をもたらし得る重篤な状態である。
【0126】
したがって、腎臓によって与えられる機能のいくつかまたは該機能の全てを供給し得る細胞および機能的腎細胞を生成もしくは機能的腎臓を再生することができる細胞を誘引するために効果的な治療薬剤を含む組成物の沈着が、考えられる。腎臓の幹細胞は、後腎小管細胞の形成の一因となることができる。骨髄間質細胞(mSC)は骨髄から末梢血中を進み、糸球体腎炎による傷害部位に移動することができ、腎臓を再生させる際にネフロン(腎臓の基本的な機能単位)の機能に不可欠な間充織細胞構造に貢献することが知られている。造血性幹細胞は、糸球体間質細胞に分化することができる。分化および増殖は、薬剤(例えばインターロイキン−11(IL−11)およびスチール因子)によって促進される。細胞の分化および増殖を促進する薬剤と幹細胞、前駆細胞、および分化細胞の生存を高める薬剤とともに、腎細胞を形成する細胞へ分化することができる幹細胞または前駆細胞を引き寄せる化学誘引物質を含む組成物の沈着は、例えば、種々の腎細胞(例えば、腎間質細胞、有足細胞、上皮細胞、平滑筋細胞、および内皮細胞)の再生によって、傷害を受けた腎臓組織の修復を結果としてもたらすと思われる。
【0127】
(8.組織再生組成物および幹細胞移植)
種々の疾患(例えば白血病および多発性骨髄腫)を処置するための治療法として幹細胞移植が広く研究されている。本発明の別の実施形態は、幹細胞および前駆細胞の化学誘引物質、細胞を刺激して分化または増殖させるための因子、ならびにそのような細胞の生存を高める因子を含む組成物の沈着を、幹細胞移植と組み合わせて、検討した。この実施形態では、因子の選択は処置すべき疾患および/または組織にもとづいておこなう。適当な因子の選択は、上記説明で提供したガイダンスに基づいて決定することができる。
【0128】
(B.腫瘍部位に対する免疫細胞の誘引のための組成物)
別の態様では、本発明は、原発腫瘍および/または転移腫瘍内での腫瘍浸潤リンパ球(TIL)による腫瘍細胞に対する細胞障害性の攻撃を促進するための組成物を提供する。この組成物は、原発腫瘍または転移腫瘍部位での沈着に応じて、腫瘍退縮を促進し、究極的には腫瘍破壊を促進する。上記組成物は、さもなければ別の未処置の宿主によって、細胞障害性、全身性免疫反応を刺激するために有効であり、刺激された反応が原発腫瘍または転移腫瘍での腫瘍抗原に対して直接向けられる。上記組成物は、腫瘍部位での沈着に適した薬物レザバを1つ以上含むもので、該レザバは、(i)Tリンパ球に対する化学誘引物質、細胞毒性およびヘルパーT細胞、樹状およびナチュラルキラー細胞、それらの前駆細胞および補助細胞(例えばエオシン好性および殺腫瘍性マクロファージが挙げられる)、(ii)細胞が活性化されるように、また分化および増殖するように該細胞を刺激するための薬剤、ならびに(iii)細胞の生存を高め、免疫性を付与するために効果的な薬剤を含む。
【0129】
より具体的には、上記組成物は、(i)リンパ球(天然Tリンパ球および天然キラーリンパ球のすべてのサブセットを含む)、マクロファージ、多形核白血球および抗原提示細胞(樹状細胞を含む)を誘引し腫瘍集団内に侵入させることによる、成長可能な腫瘍細胞および壊死した腫瘍細胞への直接アクセス;(ii)通常、腫瘍に冒された体内で得られる細胞障害性および天然キラーリンパ球集団の増殖が最高潮に達しているであろうリンパ球に対する腫瘍抗原を提示するためのセッティングとなる,腫瘍集団内での応答の活性化;および(iii)直接のアクセスによって腫瘍細胞を殺すための、免疫宿主内の細胞障害性および天然キラーリンパ球を腫瘍集団内に移動させることを可能にする誘引細胞の生存の促進に有用な1つ以上の治療のための薬剤を含む。
【0130】
一実施形態では、1つ以上の細胞を腫瘍部位に誘引する上記1種類以上の薬剤として、GM−CSF、インターロイキン−12(IL−12)、2次リンパ組織ケモカイン(SLC)、単球化学誘引物質タンパク質(MCP)、IFNγ(MIG)腫瘍壊死因子(TNF)によって誘導されるモノカイン、マクロファージ炎症タンパク質(MIP)、間質細胞由来因子−1α(SDF−1α)、間質細胞由来因子−1β(SDF−1β)、ランテス(RANTES)、およびインターロイキン−1(IL−1)が挙げられる。好ましい化学誘引薬剤は、IL−8、MIG、IL−12、MCP−1、−2、−3、−4、−5、MIP−1α、MIP−1β、MIP−1γ、およびランテス(RANTES)等の化学誘引薬剤である。
【0131】
第2の薬剤は、誘引された細胞での種々の現象を刺激することができ、該現象として、
(i)Tリンパ球、例えば細胞毒性およびヘルパーT細胞、樹状およびナチュラルキラー細胞、リンホカイン活性化キラー細胞、そららの前駆細胞および補助細胞(例えば、好酸球および殺腫瘍性マクロファージならびにそれらの前駆細胞)の増殖と、(ii)機能的かつ活性化免疫および補助細胞への分化と、(iii)増殖および分化を刺激し、免疫系前駆細胞間での分化の調節および同調をおこない、免疫および補助細胞の生存を促し、さらに免疫細胞の細胞障害性致死可能性(cytotoxic killing potential)を高める種々のサイトカインおよび生物学的薬剤の生産とが挙げられる。典型的な刺激薬剤として、限定されるものではないが、インターロイキン−1(IL−1)、インターロイキン−2(IL−2)、インターロイキンー6(IL−6)、インターロイキン−7(IL−7)、インターロイキン−12(IL−12)、およびGM−CSFが挙げられる。
【0132】
癌免疫療法のための組成物に含まれる第3の薬剤は、誘引および局所細胞の生存を促進する能力を有し、細胞障害性およびナチュラルキラーリンパ球の腫瘍塊への移動を促進することが可能な薬剤である。適当な薬剤として、MIG、血小板因子4、MCP−1、−2、−3、およびMIP−1γが挙げられる。
【0133】
(C.薬物レザバ)
上述の1種類以上の薬剤は、所望の薬剤を含むレザバの形態にある目的とする組織領域に沈着される。上記レザバは、治療薬を含有および放出することで、幹細胞、前駆細胞、および任意に補助細胞の誘引および刺激を促進し、さらに補助細胞、前駆細胞、および完全に分化した組織実質細胞の生存を促す。レザバは、後述するように、結合した薬剤を動力学的に望ましいモードで放出するように、設計および合成される。
【0134】
第1の典型的な薬物レザバは、相互に結合した複数の孔を持つ生物学的および化学的に不活性である粒子から構成されるマクロポーラスレザバである。これらの孔は、粒子表面に開口して粒子の外側と孔内部空間とのあいだを連通させる。そのようなマクロポーラスレザバを形成するための典型的な粒子は、例えば、米国特許第5,135,740号に記載されている(ここに本明細書の一部を構成するものとして該米国特許の内容を援用する)。
【0135】
粒子は、液液系で懸濁重合によって概ね形成される。一般に、水で不混和性である単量体および重合触媒を含む溶液を作る。この溶液と混合可能ではあるが、水とは不混和性である不活性溶媒がこの溶液に含まれる。次に、この溶液を水溶液に懸濁する。この水溶液は一般に懸濁液または乳濁液を促進するための界面活性剤および分散剤等の添加物を含む。ひとたび懸濁液が所望のサイズの離散的な液滴で確立されると、温度上昇または照射のいずれかによって、概ね反応物を活性化させることで重合が生ずる。ひとたび重合が完了すると、結果として生ずる固体粒子が懸濁液が回収される。粒子は固形、球状、多孔質構造であり、ポリマーは不活性液体周辺に形成され、それによって孔ネットワークが形成される。ポロゲンまたは孔形成薬剤としての役割を担う不活性溶媒は、粒子の孔をふさぐ。ポロゲンを実質的に取り除くことで、後述するように、治療薬で満たすことが可能となる。
【0136】
マクロポーラス粒子もまた、生物分解性または非分解性ポリマーのいずれからでも溶媒蒸発によって調製することができる。溶媒蒸発プロセスのために、所望のポリマーを有機溶媒に溶かし、次に溶液を所望の粒子サイズの塩化ナトリウム結晶からなる層の上に注ぐ(Mooney,ら,J.Biomed.Mater.Res.37:413−420,(1997))。溶媒の除去は、一般に蒸発によっておこなわれ、結果として生ずる固体ポリマーを水に浸して塩化ナトリウムを浸出させ、多孔質ポリマーレザバを産出する。あるいは、攪拌によって塩化ナトリウム結晶をポリマー溶液に分散させることで、塩化ナトリウム結晶の均一分散を得る。上記分散を次にポリマーのための非溶媒中に液滴状に押出し、一方で攪拌することで塩化ナトリウム結晶の周囲にポリマー液滴を沈殿させる。固体ポリマー粒子を濾過または遠心によって回収し、次に水に浸し、塩化ナトリウムを浸出させ、所望の多孔度を作り出す。塩化ナトリウムの代替物として、浸出して所望の多孔度を作り出す任意の非毒性水溶性塩または低分子量水溶性ポリマーが挙げられることはいうまでもない。
【0137】
実施例1に記載された本発明を支持して実施される研究では、ポリマー製薬物レザバを調製した。平均寸法が20pmである粒子をメタクリル酸ブチル、エチレングリコールジメタクリレート、およびポリビニルアルコールから形成した。その粒子多孔度は80%であった。実施例3Aは、別の実施例を詳述するもので、GM−CSFを含み生体分解性ポリマーからなる固体球状粒子を調製した。
【0138】
粒子のサイズを、直径で約0.0001ミクロンから約100ミクロンまで、好ましくは約0.001ミクロンから約40ミクロンまで幅広く変えることが可能である。使用したポリマーの化学的特徴に応じて結果として生ずる寸法により、粒子内の孔の寸法もまた幅広く変えることが可能である。一般に、全孔容積は、約0.01ないし約10cc/g、好ましくは約0.1ないし約6cc/gの範囲であり、孔の平均直径が約0.000001ミクロンから約3.0ミクロン、好ましくは約0.000001ミクロンから約1.0ミクロンまで及ぶ。
【0139】
例えば、水溶液(必要に応じて適当なpHに緩衝化)に薬剤を溶解し、粒子と水溶液とを、該液体の全てが粒子に吸収されてフリーの流動粉末が得られるまで攪拌することによって、上記した1種類以上の治療薬とともに粒子を装填した。次に粒子を凍結乾燥して粒子内の水相を取り除き、粒子の孔内で治療薬を凍結乾燥状態のままにしておいた。実施例2では、粒子と生物学的薬剤の水溶液を混合して、単一の生物学的薬剤を多孔質ポリマー粒子内に装填する研究について記載する。溶液の吸着後、粒子を凍結乾燥して水相を取り除き、生物学的薬剤を粒子の孔内に取り込ませたままにしておいた。実施例2もまた、生物学的薬剤の組み合わせを含む薬物溶液の調製を記載する。
【0140】
実施例3では別の研究について説明する。ここでは、1種類以上の生物学的薬剤を含む生体分解性ポリマー球体を調製する。生体分解性ポリマー球体は、DL−ラクチドーコグリコリドから形成され、単一の薬剤(GM−CSF)または薬剤の組み合わせ(G−CSFおよびランテス(RNATES))を含んだ。実施例2および3に記載する調製方法は任意の所望の単一薬剤または薬剤の組み合わせを多孔性または個体粒子に取り込ませることができることは、いうまでもない。
【0141】
粒子に治療薬を取り込ませるための代わりの方法は、最初に、薬剤を多孔質粒子に取り込む前に、治療薬をポリマー溶液(例えばポリエチレンオキシド−ポリプロピレンオキシド−ポリエチレンオキシド(Pluronic(登録商標))からなる共重合体)、他の水溶性ポリマー(例えば、ポリビニルピリリドン、ポリビニルアルコール)、または他の任意の非毒性水溶性ポリマー(コラーゲン、フィブリン、ヒアルロン酸等の生物ポリマー)等に添加する。つぎに、治療薬−ポリマー水溶液を上記したように多孔質粒子に取り込む。この別法では、凍結乾燥された治療薬の周辺にコーティングされたポリマーの利点が提供され、該ポリマーは、取り込まれた薬剤を送達の際に酵素的攻撃から保護し、多孔質粒子からの薬剤放出の制御の段階をさらに高める役割を担う。容易に理解されるように、薬剤の放出に対するこのような高められた制御は、治療薬をコートするポリマーの選択による。薬剤の放出に対する制御もまた、多孔質粒径、孔の寸法、および粒子内への薬剤の充填の選択によって達成される。多孔質粒子に取り込まれたいくつかの薬剤の一つを該多孔質粒子への取り込みに先立って1種類以上の異なるコーティングポリマーで被覆することができ、それによって粒子からの各薬剤の異なった放出が可能となる。
【0142】
本発明の組成物で用いるための別の薬物用域は、マイクロカプセルおよび微粒子であり、所望の治療薬がそれらの中に含有または分散される。マイクロカプセルおよび微粒子はともに医薬および薬物送達産業で周知となっている(例えば、Baker,R.W.,CONTROLLED RELEASE OF BIOLOGICALLY ACTIVE AGENTS,John Wiley & Sons,NY,1987;Ranade V.and Hollinger,M.,DRUG DELIVERY SYSTEMS,CRC Press,1996を参照せよ)。マイクロカプセルとは、概して、高分子膜シェルによって囲まれた活性薬剤のレザバのことをいう。微小粒子は、概して、治療薬が粒子全体に分散するモノリシック系である。しかし、多くの製剤がこれら2つの定義にあてはまり(例えば、マイクロカプセルの凝集塊)、そのような製剤は本発明での使用に適していると思われる。
【0143】
マイクロカプセルおよび微粒子は生物分解性または非生物分解性ポリマーから調製することができる。マイクロカプセルは、いくつかの方法によって容易に形成され、該方法としてコアセルベーション、界面重合法、溶媒蒸発、および物理的なカプセル法が挙げられる(Baker,R.W.,CONTROLLED RELEASE OF BIOLOGICALLY ACTIVE AGENTS,John Wiley & Sons,NY,1987)。微粒子は、当技術分野で既知の数多くの技術によって調製することができ、一つの単純な方法は分散治療薬を含有したポリマーを適当な大きさに挽くだけである。もう一つのアプローチとして、ポリマー溶液から乾燥微粒子治療薬を噴霧することがある。生物活性のある薬剤のカプセル化のための具体的手順が米国特許第4,675,189号および米国特許出願第20010033868号に記載されており、ここに本明細書の一部を構成するものとしてこれらの内容を援用する。
【0144】
本発明の組成物で使用される別の送達ビヒクルは、ポリマーゲル製剤である。そのようなゲル製剤で使用される1つの特に適したポリマーは、ポリオキシプロピレンブロック共重合体(Pluonic(登録商標))である。これらの共重合体は、逆熱ゲル化の挙動を示し、優れた薬物放出特性と低い毒性とを持つ。温度およびポリマー濃度の関数として、共重合体がゲル化する。ここで、溶液が暖められるにつれて、水溶液がゲル化する。ゲルは、室温(25℃)では粘性が低くいが、生体内体温(37℃)では粘性が増加する。
【0145】
組成物を形成するために、所望の治療薬が液体、好ましくは水溶液中でポリマーと結合される。この溶液は、適当な送達デバイス(後述するカテーテル)を介して標的部位に投与することができる。より暖かい環境に対して送達すると、ゲル化が起こり、所望の部位で治療薬を局所化して沈着させる。
【0146】
送達レザバを調製するための他の適当なポリマーとして、限定されるものではないが、コラーゲン(Pieper,J.S.ら,Biomaterials,21:1689−1699(2000));フィブリン(Grassl,E.D.ら,J.Biomed.Mater.Res.,60:607−612(2002));ヤウポン(yaupon)ゲル(Ramamurthi,A.ら,J.Biomed.Mater.Res.,60:196−205(2002));誘導デキストラン(Letourneur,D.ら,J.Biomed.Mater.Res.,60:94−100(2002)):ヘパリンアルギン酸塩(Laham,R.ら,Circulation,100:1865−1871(1999));アルギン酸塩(米国特許第6,238,705;6,096,344号);およびチョクリエート(chochleate)(米国特許第6,403,056号)が挙げられる。所望の治療薬が入った薬物レザバを、例えば、ポリマーと薬剤との水溶液を調節し、凍結乾燥によって溶媒を取り除くことによって、レザバ内に生物学的薬剤の凍結乾燥形態が生ずる。結乾燥された乾燥粉末を直接投与、または任意の適当な液体(例えば低い粘性体液、粘性ゲルまたは軟膏または油中水型または水中油型乳剤)に再懸濁して投与することができる。懸濁媒は水性または非水性であってもく、多くの因子(例えばビヒクル内のレザバ処方の間の時間経過、組織への送達の時間、および生物学的薬剤の所望の放出カイネティックス)に基づいて選択される。
【0147】
さらにもう一つの適当な薬物レザバは、リポソームである。リポソームは球状の脂質ビヒクルであり、その大きさは、0.01から10ミクロンまでの範囲内で変動し、水性の空間を封入している1種類以上の脂質二重層からなる。二重層を形成するために、種々の両親媒性の脂質、例えばリン脂質(例えば、米国特許第5,013,556号参照))が用いられる。脂質分子は、水相に向けられた極性頭基と、二重層内で互いに隣接する疎水性炭化水素の尾部とをもって配置され、したがって水性成分を分離する閉じた同心的な二分子脂質リーフレットが形成される。
【0148】
治療薬は、薬剤の物理化学的特性に依存して、リボソームの水性間隙の中に取り込まれるか、もしくは脂質二重層内に取り込まれる。リポソームからの薬剤の放出は、脂質二重層成分の選択に基づいて、合うように調整される。
【0149】
本発明の一実施形態では、治療薬を含む薬物レザバは、該薬物レザバの外面に結合した生物学的薬剤を有する。例えば、リポソーム型の薬物レザバでは、リポソームの外面が脂質二重層を形成しているリン脂質の極性頭基から構成される。リン脂質の一部分の極性頭基を、リポソーム形成前後に誘導体化し、生物学的薬剤(例えば、細胞接着分子)を包含させることができる。生物学的薬剤を直接、脂質頭基に結合、またはポリマーの腕を介して結合させる。どちらのアプローチ(リポソーム表面接着分子およびスペーサーアームを介して結合した分子)も、当技術分野ですでに説明されている(例えば、米国特許第5,013,556号;Zalipsky,S.,polyethylene glycol−lipid conjugates in Lasic,D,and Martin,F.,Eds.STEALTH LIPOSOMES,CRC Press,1995;WO 98/16202;WO 94121281を参照せよ)。
【0150】
生物学的薬剤が上記薬物レザバに容易に結合することは、いうまでもない。例えば、所望の治療薬をその表面に結合させる後続の反応のために、マイクロカプセルまたは微粒子の他のポリマーシェルを処理して、あるポリマー部分を活性化させる。あるいは、治療薬をマイクロカプセルまたは微小粒子の表面で覆ってもよい。このようにして、標的組織での組成物沈着に対して迅速に作用させることを目的として、上記治療薬を露出させる。
【0151】
薬物レザバが作られる生物学的ポリマーまたは合成ポリマーを、その化学構造に関して選択することが可能であり、あるいはそれを誘導体化することで該レザバと生物学的薬剤とが治療薬をその表面に保持する同一タイプの物理的誘引に関与することも可能であることも十分に理解される。このように、標的組織での組成物の沈着に対して迅速に作用すること目的として、治療薬を露出させる。
【0152】
上記のように、薬物レザバは1種類以上の治療薬(例えば、化学誘引物質、刺激薬剤および/または生存を高める薬剤)を含む。1種類以上の薬剤の放出は、薬物レザバの選択および組成物の処方によって調整することができる。例えば、2種類の薬剤が薬物レザバに取り込まれた場合、これらの薬剤を同時放出または逐次放出を目的に処方することができる。取り込まれた治療薬がカプセルの外側被膜を形成するポリマーもしくは粒子のマトリックスを形成するポリマーに対する透過性が著しく異なる場合、マイクロカプセルまたは微粒子からの放出は逐次的におこなわれる。微粒子およびマイクロカプセルからの逐次的放出は、例えば、異なるポリマーからなる積層体を調製し、この際、1種類以上の治療薬を種々の積層された層の中または積層された各々の層の間に分散させることで、達成される。例えば、経時的な放出の例は、米国特許第5,472,708号、第5,260,069号に開示されている。
【0153】
経時的な放出を達成するための別のアプローチとして、2種類以上の薬物レザバ群を投与することで、第1の群は一定の速度で第1の薬剤を放出するように設計され、第2およびそれ以降の群は第2およびそれ以降の薬剤を異なる速度で放出するように設計される。異なる速度での放出は、ポリマーを主成分とするレザバの場合、ポリマーの組成、ポリマーの厚さ、および粒径を変えることで、あるいはリポソーム型レザバの場合、脂質選択およびベシクルの寸法を変えることで、容易に達成される。
【0154】
実施例4は、生物分解性ポリマー、DL−ラクチド−コグリコリドから構成される薬物レザバからのIL−12の生体外(in vitro)放出を説明する。手短に言えば、IL−12を含む薬物レザバを緩衝生理食塩水含有ベシクルの中に配置し、その生理食塩水へのIL−12の放出を時間の関数として測定した。11日間にわたって、1L−12の60%が放出された。
【0155】
さらに後述するように、使用に際して、上記した薬物レザバのいずれかが、例えばボーラスとして、所望の組織部位内、該部位で、あるいは該部位上に沈着される(実施例5および6を参照せよ)。例えば、薬物レザバのボーラスを、沈着用カテーテルが配置される血管壁から数ミリメートル離れた心筋内に沈着させることができる。記載したレザバは、間隙を介して組織内を自由に移動し得る。各レザバは、新脈管形成、動脈形成、および筋細胞分化の焦点であり、該レザバが組織内を移動することから、これらのプロセスを異なる位置で繰り返し促進することができる。このように、浸潤性が最小限のアプローチを用いた比較的広範囲にわたる治療効果が達成される。
【0156】
また、後述するように、心筋で使用するために、レザバ送達の1つのオプションは、小径の針を冠動脈壁に穿刺して該レザバの送達をおこなうことである。別のオプションは、心膜側から、外科的手技の最中に心筋に対して直接注射することである。心筋への直接注射に代わるルートとしては、皮膚(トランスバスキュラ(transvascular)経路を経由する)から心室の心内膜に通じるルートがある。骨格筋では、レザバの送達を、小径の経皮的針穿刺を介しておこなうことができる。レザバはまた、PTCA、ステント、またはアテローム切除術の手順の間、経皮的におこなうことができ、あるいはレザバ置換のために経皮的手順単独でおこなうことができる。いくつかの例では、経皮的にレザバを配置することが有利であると考えられ、血管内撮像技術を同時に使用することから、より正確な配置が可能となる。
【0157】
本発明のレザバによって提供される別の特徴は、処置部位での沈着後の可動性(mobility)である。可動性は、少なくとも部分的に、レザバの比重が間質性体液の比重よりも低くなるように処方することによって、達成される。このことは、レザバが組織液に浮遊して体液とともに移動することを可能にする。
【0158】
(III.組成物を用いる方法)
(A.組織再生を促進するための方法)
別の態様によれば、本発明は傷害後の組織または壊死および傷害の危険性がある組織での組織再生を促進する方法を包含する。この方法は、一次処置様式(primary treatment modality)として使用、すなわち他の薬物、外科的、または介入性の治療と組み合わせることなく使用することを意図している。しかし、この方法は、そのような他の処置様式と組み合わせて使用することも可能である。例えば、上記したように、1種類以上の治療薬を含む薬物レザバから構成される組成物を、ステント装着およびバルーン血管形成術の後に沈着させることで、処置された狭窄領域を囲んでいる虚血性組織への血液還流を強化することが可能である。上記組成物は、冠動脈疾患の処置に使用される他の治療薬(例えば、抗血栓剤)の送達と組み合わせることも可能である。また、手術時もしくは浸潤性が最小限である何らかの手順を実施している最中に、目的とする組織内または該組織近傍で、レザバを沈着させることも意図している。
【0159】
一実施形態では、組織再生は、選択された組織部位に1種類以上の治療薬を含有する1つ以上の薬物レザバを沈着させることによって、組織修復、新脈管形成および/または動脈形成を促進することで達成されるもので、該治療薬は、(i)組織に循環血液単球、新脈管形成および動脈形成に貢献している他の細胞、または幹細胞および該幹細胞の分化型である子孫細胞を、組織に対して誘引すること、(ii)新脈管形成および動脈形成を促進する生物学的薬剤の放出と完全に分化した心筋または骨格筋線維の浸潤を促進すること(筋細胞再生)、また新脈管形成、動脈形成、および筋細胞分化に貢献する単球、幹細胞、前駆細胞、および他の細胞に対する直接的な作用によって、これらの現象を達成すること、(iii)新脈管形成および動脈形成に貢献する循環血液単球、誘導マクロファージ、および他の細胞の生存と、そのような組織でのそれらの分化した子孫細胞の生存とを促すことに対して、有効である。例えば、循環血液単球および誘導マクロファージの生存を延ばすMCP−1およびGM−CSGF等の化学誘引物質を含む薬物溶液を、虚血危険性部位(at−risk ischemic site)または後虚血部位(site post ischemia)に沈着させる。MCP−1は、循環血液単球を組織領域に誘引し、誘引された単球/誘導マクロファージを刺激して新脈管形成および/または動脈形成い関与する因子を放出させる役割を担う。末梢単球の誘引および刺激と、組織マクロファージへの成熟のためのそれに続く間隙への単球移動とが、毛細血管の形成および動脈への細動脈の再構築に直接影響を与えるシグナル因子の放出を開始させる。GM−CSFの存在は、マクロファージの生存時間を高め、補充(リクルート)されたマクロファージからの生物学的因子の放出期間を延ばす。このように、標的部位を囲んでいる新脈管形成および/または動脈形成が促進される。
【0160】
例えば、組織に循環幹細胞を誘引する幹細胞因子(SCF)および循環幹細胞の数を増加させる能力を持つGM−SCF等の化学誘引物質を含む薬物レザバを、虚血危険性部位(at−risk ischemic site)または後虚血部位(site post ischemia)で沈着させる。SCFは、循環および常在の幹細胞を組織領域に誘引する役割を担い、GM−SCFはその領域に入る幹細胞の数を高める役割を担う。増殖因子は、幹細胞が筋芽細胞に分化するのを容易にし、該筋芽細胞が融合することで心筋および骨格筋組織の再生がおこなわれる。このようにして、標的部位を囲む組織内の再生筋細胞が促進(プロモート)される。
【0161】
実施例5は、虚血発症後のウサギでの細胞および組織再生に対するGM−CSF、MCP−1、およびランテス(RANTES)の使用について説明する。GM−CSF、MCP−1、およびランテス(RANTES)は、細胞再生に関わる細胞にとって化学誘引物質としての活性を各々が有し、またそれらの細胞の分化および増殖にとっては刺激物質としての活性を有する。
【0162】
もう一つの例として、単球または他の血管新生および動脈新生細胞が組織領域に接着するのを促進させるために、薬物レザバもまたICAM等の細胞接着分子を含むように処方することができる。細胞接着分子を、1つ以上の薬物レザバの外面に結合、または放出のためにレザバ内に含ませることができる。接着分子は、マクロファージ、線維芽細胞、および平滑筋細胞の原形質膜上に存在するインテグリンおよび類似の種に対するリガンドとしての役割を果たす。接着分子はまた、マクロファージを薬物レザバに誘引し、レザバへの物理的結合を可能にすることで、所望の領域にマクロファージを固定し、マクロファージが薬物溶液から放出された分子シグナル因子に対して露出されるのを最大にする。
【0163】
化学誘引物質、刺激薬剤、および生存促進作用分子に加えて、薬物レザバは、新脈管形成、動脈形成形成、および筋細胞分化プロセスに関与する他の薬剤を任意に含むことができる。例えば、薬物レザバに増殖因子またはサイトカインを含ませて、新脈管形成、動脈形成形成、および筋細胞分化プロセスでのイベントのカスケードに関与するか、もしくはそのプロセス内のある種のイベントに変更を加えることが望まれる場合もある。
【0164】
上記したように、1種類以上の取り込まれた治療薬の放出動力学(カイネティックス)を、薬物溶液の選択および処方を介して制御することができる。薬物レザバは、前駆細胞の生存、増殖、および分化を誘引、保持、刺激、および強化するのに役立ち、前駆細胞としては、限定されるものではないが、末梢単球、心臓筋細胞、および骨格筋芽細胞が挙げられ、その後、それらによって、組織再生に関与する種々のシグナル因子を放出し、該組織再生は新脈管形成、および/または動脈形成を含むことはないと考えられる。薬物レザバが、制御された時間の長さにわたって生物学的薬剤を放出することから、薬剤の持続性局所濃度は、標的組織反応のあいだ、維持される。また、異なる標的細胞反応を呈する複数の生物学的薬剤は、異なるカイネティックスプロフィールで放出され、組織反応の継続時間にわたって所望の薬剤の有効濃度が得られる。このように、新脈管形成、動脈形成、および筋細胞分化に関与する種々の細胞群が、協調および調和することで、危険にさらされた組織の機能的な新たな脈管構造、心筋、および末梢筋の形成を促進する。例えば、新たな細動脈または小動脈の内腔に沿って並ぶ血管内皮細胞の増殖の刺激は、血管内皮細胞を覆う筋層の形成に対して血管平滑筋細胞の増殖および運動性の刺激と協調することができる。本発明の一実施形態では、沈着薬物レザバは、単球の生存を誘引、刺激、および促進する役割を担い、刺激に対して、単球は新脈管形成および/または動脈形成プロセスで適当な時間で適当な因子を放出する。別の実施形態では、薬物レザバはさらに、新規細動脈形成に関わったり、該形成を高めるために、補充された単球から放出された因子の濃度を補う薬剤を含む。
【0165】
別の実施形態では、本発明は筋肉組織の再生過程での神経再生の方法を考察する。適当な治療および生物学的薬剤が充填された薬物レザバの沈着、ならびに後虚血領域にある神経成長因を刺激する治療および生物学的薬剤を再生する方法が考察される。
【0166】
処置の方法では、薬物レザバを種々の技術によって組織部位に沈着させることができる。例えば、レザバは組織に直接注射することができ、あるいは注入液針を用いて標的組織に隣接した空洞に注射することができる。レザバを整然とした形状または医療器具(例えば、ステント)と組み合わせて外科的に移植することができる。
【0167】
薬物レザバを、レザバを含む粘着性ペースト、ヒドロゲル、または他のポリマー担体マトリックスからなる薄層を、標的部位に隣接した腔内壁または標的組織(例えば、心臓の心外膜表面を囲む心膜に隣接した)他の体腔に適用することで、組織部位に沈着させることもできる。ベーストまたはゲルを形成するポリマー担体は、生物分解性であり、および/または生物学的薬剤が放出される一方で一時的な壁支持体として機能する。腔内舗装材料系は、例えば米国特許第5,328,471号に記載されている。本組成物用に設計された腔内舗装デバイスの具体例を以下に示す。
【0168】
脳梗塞または虚血の領域で新脈管形成および動脈形成を誘導するために、例として、ペーストに製剤化された薬物レザバは、心膜または脳脊髄液内に沈着される。レザバによって確立される濃度勾配は、組織に血流から血管新生および動脈新生細胞を誘引する。あるいは、ペーストまたはゲルは、血管制限(妨害物)の近傍で血管壁または健康な血管領域に適用され、実際の虚血または潜在的虚血の部位に対する血管壁を介した輸送を達成する。
【0169】
レザバもまた、カテーテルを用いて沈着させることができ、より詳しくは後述する。カテーテルは一般に当技術分野で知られており、例えば薬物を直接注入することができるカテーテルならびに治療薬を投与する能力を有しているバールンカテーテルが適当である。好ましい実施形態では、間隙内にレザバを配置するために組織または血管壁を貫通する構造を持つカテーテルが用いられる。例えば、血管新生因子を送達するための小さな針を持つデバイスが米国特許第6,152,141号に開示されている。ここに本明細書の一部を構成するものとして、この特許の内容を援用する。別の典型的なデバイスは以下の通りである。
【0170】
本発明の方法で使用される薬物レザバもまた、経壁送達用の従来の医薬組成物に取り込むことができる。連続カテーテル送達の場合、薬物レザバは許容可能な流体担体に組み込まれ、該担体として、例えば、滅菌水、等張食塩水、グルコース溶液、またはその他の製剤化されたものが挙げられる。製剤は、一般に医薬的製剤で使われるような医薬的に許容される補助物質を含むものであってもよく、緩衝薬剤、緊張度を調整する薬剤、例えば酢酸曹達、乳酸ナトリウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、その他が挙げられる。そのような医薬製剤を調製する一般的な方法は、Remington’s PHARMACEUTICAL SCIENCES,Mack Publishing Co.,Philadelphia,Pa.,1985に記載されている。
【0171】
組成物の送達は、所望の生理学的効果(すなわち、標的部位を囲む組織での血管および筋細胞の再増殖の促進)を達成するために十分な時間、おこなわれた。一般に、送達された生物学的因子の総量は、組織の状態、患者特性、および所望の効果にもとづいて変化する。所定の患者に対する適当な投薬計画の決定は、主治医の技術の十分に範囲内である。適当な投薬量は、年齢および一般的な健康状態にもとづいてヒト毎に変動することから、患者を「用量漸増(dose−titrate)」することが、医師にとっての一般的な方法である。すなわち、所望の反応を生ずるために必要なレベルよりも低いところにある投薬計画で患者が開始し、徐々に投薬量を所望の効果が達成されるまで増加させる。
【0172】
薬物レザバを含む製剤は、選択された生物学的因子に加えて他の薬剤を含むものであってもよいことが十分理解される。例えば、製剤は血液凝固阻止剤および抗血栓薬剤(例えばヘパリン、低分子ヘパリン等)を含むことができる。
【0173】
(B.癌治療のための細胞免疫反応を促進する方法)
別の態様によれば、本発明は、被験体で癌に細胞免疫反応を促進する方法を包含する。この方法は、原発腫瘍または転移腫瘍内に、またはそれに隣接して、(i)組織部位に対して、リンパ球、マクロファージ、樹状細胞、ナチュラルキラー細胞、前駆細胞、および補助細胞の1種類以上を誘引すること、(ii)局所および誘引細胞ならびに細胞外マトリックスの成分、癌細胞の細胞毒性を促進する上記局所および誘引細胞からの生物学的薬剤の放出に対する直接的な作用を刺激すること、(iii)そのような組織での誘引および局所的に再生する細胞の生存を促し、癌細胞に対して長期間にわたる免疫原性の反応を促進することに対して有効である1種類以上の薬剤を含む組成物を沈着させることを含む。
【0174】
上記したように、1種類以上の治療薬を含む薬物レザバから構成される組成物を、原発腫瘍に直接注射することを介して、または腫瘍細胞に感染した遠位部位に対するカテーテルを介して、沈着させる。この組成物は、癌治療に用いられる他の化学治療薬の送達と組み合わせて用いることができる。また、手術時もしくは浸潤性が最小限である何らかの手順を実施している最中に、目的とする組織内または該組織近傍で、レザバを沈着させることも意図している。上記製剤は、この態様にとって等しく適している。
【0175】
実施例6は、マウスでの腫瘍の退縮を目的としてIL−12を含む生物分解性ポリマー薬物レザバから構成される組成物の使用について記載する。上記したように、IL−12はリンパ球、マクロファージ、抗原提示細胞(樹状細胞を含む)、および炎症細胞の化学誘引物質として作用する。IL−12はまた、これらの細胞の刺激剤として作用し、増殖、分化、および/または抗原提示を促進する。これらの活性は、最終的に腫瘍の退縮をもたらす反応となる。
【0176】
(IV.典型的な組成物を投与するための方法)
別の態様では、本発明は、選択された組織部位での薬物レザバ沈着のためのデバイスを提供する。このデバイスの種々の典型的な実施形態が、図3ないし図18に関して、ここで説明される。
【0177】
図3は、上記した薬物レザバの沈着での使用のための典型的なデバイスの平面図である。デバイス110は、カテーテル軸部112と、ユーザインタフェース114と、ピストンを配置するためのシース116とから構成される。カテーテル軸部112は、図4に詳細に示されており、上記軸部が遠位チップ118と強化軸セグメント120とのあいだに延びる。強化軸セグメントは、ユーザインタフェース114(図3)に隣接し、後述するように、使用中に上記軸部がよじれるのを防ぐように設計されている。カテーテル軸部は、さらにガイドワイヤをセグメント122に導入するための近位ガイドワイヤボート124モノレールガイドワイヤ係合セグメント122を含む。遠位可撓性シャフトセグメント126は蛇行血管でナビゲーションを提供する。より硬質の近位軸セグメント128で、遠位シャフトセグメントの押圧およびトルク付与が可能となる。
【0178】
カテーテル軸部112の遠位セグメントの詳細図を図5Aに示す。カテーテル軸部の遠位可撓性シャフトセグメント126およびモノレールガイドワイヤ係合セグメント122を示す。カテーテル軸部は、モノレールセグメントのところのみで係合を介してガイドワイヤ130上に載せられる。ガイドワイヤと軸部との限定された係合は、直径の小さな血管を通して遠位側選択のステアリングを最大にする。軸部は、組織部位で薬物溶液を沈着させるために、針132で終了する。一実施形態では、図5Bおよび図5Cに示すように、針が組織を穿刺して、間隙に沈着さる。図5Bは、身体血管134に配置されている遠位可撓性カテーテル軸部セグメント126を示す。上記軸部はモノレールガイドワイヤセグメント122でガイドワイヤ130と係合する。針132は、間隙へのエントリーと薬物レザバの配置とに関して、血管壁を付き通ることが可能である斜角をつけた(面取りされた)先端136で終わる。図5Cは、血管134内の同一デバイスを示すが、斜角をつけられた針132が図5Bで例示された別の位置で血管壁を穿刺するために回転する。
【0179】
図6Aおよび6Bは、図5Cの6A−6A線および6B−6B線に沿った横方向断面図であって、モノレールセグメント122(図6A)および該モノレールセグメントに直近位にある領域(図6B)の断面を示す。図6Aでは、モノレールセグメント122は、血管134に配置される。ガイドワイヤ130がモノレールセグメントと係合し、ガイドワイヤ内腔138に配置される。カテーテル軸部のシャフト内腔140は可視的であり、シャフト内腔140に配置されているものは、薬物レザバの送達のための針内腔142を規定する針132である。図6Bは、モノレールガイドワイヤセグメントに近似した領域を示す。ここでは、シャフト内腔140を定める遠位シャフトセグメント126が示されている。針132はシャフト内腔140に配置され、針内腔142を定める。デバイス内のこの位置にあるガイドワイヤ130は、カテーテル軸部とは係合的には連結されていない。
【0180】
図7Aおよび7Bは、デバイスの別の実施形態を例証するもので、ここでは遠位バルーンが、組織貫通のための直針の形態で、カテーテルの先端を位置決めするために使用される。図7Aでは、ガイドワイヤ130が、このデバイスの可撓性シャフトセグメント126に対して遠位のモノレールセグメント122と係合しているところが示されている。モノレールセグメントの遠位位置上の配置されているものは、膨らませた際(図示するように)に双円錐形のプロフィールを有しているバルーン144である。言うまでもないが、バルーンの膨張は血管壁にカテーテル遠位の先端が鋭角に置かれることで、近隣の組織間隙での薬物レザバの沈着のために、直針146が血管壁を貫通するのを許す。図7Bは、二球状バルーン148、150がモノレールセグメント122の両側に配置される他の実施形態を示す。膨らんだ状態で示されているバルーンは、血管壁に対して先端が鋭角になっているカテーテル遠位側先端を配置することで、直針146が血管壁を貫通するのを可能にする。
【0181】
図7Cおよび図7Dは、上記した2つの実施形態を示すもので、血管内に配置された双円錐形および二球状バルーン(それぞれ)を持つ。図7Cでは、針146が角度αで血管壁を突き通すように血管壁134がバルーン144を拘束する。図7Dでは、針146が角度αで血管壁を突き通すように、二球状バルーン148、150が血管壁を拘束する。
【0182】
図8Aは、図4の領域Aの断面図である。モノレールセグメント122はガイドワイヤ内腔139とシャフト内腔142とを有する。シャフト内腔142に配置されたものが、斜角になった先端46aを持つ針146である。ガイドワイヤ130は、内腔138に配置されている。図8Bは、同一の断面図ではあるが、所望の組織部位に薬物レザバを配置するために、カテーテル軸部から延びて遠位端118を越えた針146を有する。針は角度αの配置状態で図示されている。こ言うまでもないが、図7Aないし7Dで説明するように、バルーン等のデバイス手段を介して達成された配置の角度と同様に、この角度は針自体の予め形成された湾曲に応じて幅広く変化するものである。
【0183】
図9Aは、図5の領域Bの断面図である。遠位の可撓性カテーテル軸部セグメント126は、針146が配置されるシャフト内腔140を定義する。この針146に隣接して、熱可塑性エラストマー154とワイヤブレイド156とから構成される複合管152がある。複合管と針とのインタフェース158は、これら2つの接触点として働き、接着材料または他の接着手段をこのインタフェースに配置させることができる。
【0184】
図9Bは、図9AのF−F線に沿う断面図であり、カテーテル軸部126の内腔140に配置された針146が示されている。図9Cおよび図9Dは同様の断面図ではなるが、双円錐形バルーン(図7Aに示す)を有するデバイスか、二球状バルーン(図7Bに示す)を有するデバイスであるかの違いがある。1つ以上のバルーンを有するデバイスは、流体(典型的には血管造影用の造影剤)をバルーンに導入して膨らませ、流体を取り除くことで収縮させることを目的として、1本以上の流路(例えば、図9Cの流路158、図9Dの流路160,162)を有する。
【0185】
図10は、カテーテルの遠位可撓性シャフトセグメント126とより硬質な近位シャフトセグメント128とからの移行領域164にわたる図4の領域Dの長手方向断面図である。移行領域164は、可撓性遠位シャフトと硬質近位シャフトとの間の領域におよぶ融合、熱融合、熱可塑性エラストマーからなる。可撓性シャフトの内腔に位置した複合管152は、アダプター166と接続する。このアダプター166は、好ましくはステンレス鋼等の金属から形成される。複合管とコネクターとが、第1の端部166aで、適当な手段、例えば接着、ハンダ、溶接等の任意の適当な手段によってインタフェース168で接続する。近位シャフト領域128での剛性が、例えば、近位シャフト128を形成している弾性管状壁部170に沿って補強ハイポ管169を合体させることで達成される。一般に、ハイポ管169および近位シャフトセグメントを接合し、インタフェース167で、ハイポ管に熱可塑性エラストマー成分を熱整形することによって、接着によって、またはエラストマー−ハイポ管複合構造の可撓性を可能にする適当な他の任意の手段によって、固定する。
【0186】
第2の端部166bにあるアダプターにハイポ管172が隣接している。ハイポ管172は、ハイポ管169によって定められた内腔内に配置されており、組織部位に沈着される薬物レザバ製剤で満たされているレザバ注射用シリンジのバレルとして機能する。例えば、ハイポ管を凍結乾燥されたレザバ材料で満たすことができ、あるいは複合管を介してピストンによって針内腔内へ移動させ、最終的には所望の組織に移動させるために、液体レザバ懸濁液で満たすこともできる。デバイスのこのような態様は、図11でより詳しく示されている。
【0187】
図11は、ハイポ管172内で可動自在のピストン176の位置を示す図4中の領域Cの長手方向断面図である。ピストン176は、以下の図15〜17に記載したユーザインタフェース内のメカニカル機構によって可動自在であり、ハイポ管内を滑動する連続的な金属心軸である。ピストン176をステンレス鋼で形成することができ、ピストンを自由に滑動させるために、遠位先端で、滑沢剤としてポリテトラフルオロエチレンで該ピストンを被覆することができる。ピストンは、ハイポ管内を滑動し、好ましくは薬物レザバ製剤の移動を達成するために液体密封状態が作られている。ポリテトラフルオロエチレン被覆もまた、液体密封を確実にする協力的なスリーブとして作用する。
【0188】
図12は、ユーザインタフェース114(図3)に対してまさに遠位にある強化軸セグメント120(図4)を示す図4の領域Eの長手方向断面図である。押出筒状部材178をユーザインタフェースに据え付け、デバイスの位置決めおよび設置に対してより良好な制御を達成するために上記軸部を堅くするのに役立つ。特に、部材178によって強化および硬化を付加することで、トルクおよび湾曲の領域で軸部のよじれを除去する。
【0189】
ユーザインタフェースを詳細に説明する前に、物レザバを、例えば虚血を生ずるアテローム硬化型閉塞に対して遠位の虚血性部位の心筋への沈着のためのデバイスの典型的な例証は、図13に示す。この図を見ると、左冠動脈前下行枝180に置かれるデバイス110の遠位の可撓軸部分126が図示されている。デバイスは、左主幹冠動脈184に置かれる冠動脈を導いているカテーテル182によって導入される。大動脈弓、下静脈洞穴、および左主幹冠動脈の小孔が186、188、190としてそれぞれ図示されている。デバイスは、アテローム性の閉塞192を過ぎた所の冠状ガイドワイヤ130によって、虚血部位または虚血の危険にさらされていてる虚血性部位194に導かれる。針132はデバイスから配置され、薬物レザバ製剤のボーラス196は虚血性部位に沈着する。
【0190】
上記したデバイスの実施形態では、従来のまっすぐなガイドワイヤ(要素130)を使用してデバイスを所望の組織部位に導く。別の実施形態では、図14A〜14Cに示すように、螺旋状ガイドワイヤを使用してデバイスを進めて、組織に刺し通すために針を配置する。図14Aは、血管200と該血管の内腔に置かれた螺旋状ガイドワイヤ202とを示す。本発明のこの態様にもとづくカテーテルデバイスを、図14Bに示すように、螺旋状ガイドワイヤを越えてトラッキングすることで血管内に挿入する。より単純に見るために、図14Cでは血管を省いてその柔軟に遠位端で係合的にモノレールセグメント122で螺旋状ガイドワイヤ202と連結しているカテーテルデバイスを示す。カテーテル軸部の遠位先端119から直針146が延びて、図14Bに示すように、血管壁の浸透のために螺旋状ガイドワイヤによって曲げられる。螺旋状ガイドワイヤの屈曲角度が血管壁で浸透の角度を変えるために変化可能であることはいうまでもない。
【0191】
図4で示されるユーザインタフェース120は、ここでは図15ないし図17に関して記載される。図15は、ユーザインタフェース120の好ましい実施形態の全体の上面図を表す。インタフェースは、押出筒状部材178(図12に記載)でカテーテル軸部にしっかりと連結する遠位セグメント220が含まれる。ユーザインタフェースの対向した末端に、近位セグメント222があり、このセグメントは内側にハイポ管(要素172、図10)、複合管(要素152、図9A)、および針と強固に連結されており、集合的に「針アセンブリ(needle assembly)」と呼ばれ、ユーザが針を制御するのを可能にするもので、該制御には、カテーテル軸部からの配置または延長、軸部の内側の収納位置への針の撤退、および針の回転が含まれる。近位セグメント222も、摺動ピストン(要素76、図11)を前進させることによって、薬物レザバ製剤の送達の制御ができるようにする。ユーザインタフェースの近位セグメントに結合しているものは、ピストンシース116(図4にも記載)に対する張力緩和を提供するグロメット224である。ユーザインタフェースの近位および遠位セグメント上の溝が形成されたグリップ領域226、228は、それぞれ、デバイスを制御するためにユーザによって可動自在である。具体的には、グリップ領域228の回転は、カテーテルのトルクの適用を可能にする。グリップ領域226の動きは、針アセンブリおよび該針の回転を制御する。
【0192】
図16Aおよび図16Bは、図15に示すユーザインタフェースの側面図(図16A)および斜視図(図16B)である。ユーザインタフェースの近位セグメント222に配置されている沈着アクチュエータボタン230は、ユーザによって移動可能であり、ピストン176(不図示、図11の要素76に言及)を前進させる。沈着アクチュエータボタンを押し下げることは、ピストンを前進させて、薬物レザバ製剤の再生産可能な沈澱物を分配するために、一対のローラーまたは摺動コレットを係合する。ユーザインタフェースの遠位セグメント上で、針アセンブリロックアクチュエータボタン232はユーザによって移動可能である。ボタン232が押し下げられることで、近位セグメント222を解錠して、針の対応する回転、前進、または撤回のために、該セグメントの回転、前進、または撤回が可能になる。ボタン232が完全に延びた位置、すなわち押し下げられていない状態では、近位セグメントがロックされ、針アセンブリが遠位セグメントおよびカテーテル軸部に対する位置におかれる。針アセンブリロックアクチュエータボタン232は、凹部234に鎮座し、不注意による針アセンブリのアンロッキングを予防する。インデックスインディケータ236aおよび236bは、遠位および近位セグメント上に置かれ、針の相対的延びおよび回転とカテーテル軸部に対す傾斜した遠位針セグメントの方向を示す。
【0193】
図17Aおよび図17Bは、図15および図16のユーザインタフェースの斜視図である。近位セグメントが回収された(引き込まれた)位置にあり(図17A)、その回収位置で、90°回転している(図17B)。その回収位置にある近位セグメントは、カテーテルの遠位絵具メント内の針の完全な収縮に対応する。先に示した図で、ユーザインタフェースが、針アセンブリが延びて針が組織部位で薬物レザバの沈着のために配置される位置にあることを示している。針本体アセンブリ238は強固に近位アセンブリに取り付けられており、遠位セグメントの中で滑動自在および回転自在である。図17Bに示すように、近位セグメントの回転は、針の回転に対応する。回転の範囲は、インデックスインディケータ236a、236bを用いて視覚化されている。
【0194】
図18Aないし18Dは、身体で血管または空洞の壁に沿って組成物を沈着させるための腔内舗装デバイスを例示する。デバイスは、やや細長くなった可撓性のカップ350を含み、該カップには供給管352によって組成物を受けるための中央キャビティがある。供給管は可撓性のカップと、望ましくは一体的に形成され、開口部354で終わり、最も良く図18Aで見られるように、それを介して組成物が供給管を通って可撓性カップへ送られる。カップは、壁に沿って沈着を確実にするために、血管壁と閉じた後部分(図18Cを見よ)と側壁に沿って組成物の沈着のために開いた表面とを有する。
【0195】
追加の開口部358、358が、ガイドワイヤ360をカップの外側に導入するためにカップに形成されている。螺旋状ガイドワイヤ360は、図18B(正面図)、図18C(背面図)、および図18D(血管に挿入される)でカップの上部開口部356と下部開口部358とに挿入されるのが見られる。必要に応じて、適当な密封機構が開口部356、358にあるガイドワイヤの接続部に設けられ、該接合部での組成物の損失を取り除くかもしくは少なくすることができる。
【0196】
図18Dに最もよく示されているように、螺旋状ガイドワイヤは、血管362の内壁と強固に接触している。使用の際、可撓性カップ(モノレールセグメントとして機能)は、近位端でユーザまたは自動制御により、螺旋状ガイドワイヤにそって物理的に取り除かれる。カップがモノレールに沿って移動するので、血管内壁に接触した状態の開口カップ内に上記組成物が導入される。カップの移動は、血管壁上で組成物の層を拡げて、本質的に血管壁を組成物で「舗装(paving)」する。舗装のためのレザバ組成物の供給は、既に記載したように、レザバ製剤のピストン置換によって達成される。その経路に沿った舗装デバイスの移動は、レザバ製剤がカップに一定して置換および押出することによって達成される。
【0197】
前述から、本発明の種々の目的および特性がどのようにして達成されるのかが分かる。薬物レザバを含む組成物は、治療的効果が必要とされる特異的組織間隙に沈着される。上記薬物レザバは、この組織区画中を自由に移動可能であり、種々の必須細胞を標的組織区画に誘引する生物学的薬剤を放出する。組織修復と再生のために、特異的組織のタイプに従う前駆細胞および補助細胞で、薬物レザバは、幹細胞、補助細胞、および/または前駆細胞の組織区画への回帰を起こす誘引剤を放出するように設計される。いくつかの幹細胞(骨髄造血性細胞および間葉細胞を含む)は、種々の異なる組織(例えば肝臓、骨格筋および脳)で、レザバ沈着によってむしろ無差別に誘引されることがある。典型的な前駆細胞は、毛細管とより大きな動脈と静脈、骨髄からの内皮細胞前駆体、局所組織から平滑筋細胞、循環平滑筋細胞前駆体、局部組織からのまたは血液からの線維芽細胞前駆体、近くの筋線維からの衛星細胞、大脳皮質の特異的な領域からの神経成人幹細胞、および隣接筋芽細胞と他の細胞を含む、局所血管から内皮細胞を含む。単球マクロファージを含む補助細胞は、末梢血から誘引される。特異的組織に特有な、同様の食作用性の補助細胞は、例えば肝臓からの星細胞と、脳からのミクログリアといった局所ソースから誘引されることができる。
【0198】
腫瘍退縮に用いるために、薬物レザバは、リンパ球、マクロファージ、多形核白血球、抗原提供細胞および/またはナチュラルキラー細胞の回帰を起こす誘引剤を放出するように設計される。腫瘍トリガー内のこれら細胞の存在は、最終的に腫瘍退縮に導くイベントのカスケードの引き金となる。
【0199】
上記レザバは、更に放出のための生物学的薬剤を含む。それらの因子は、誘引された細胞を刺激して種々の必須な事柄、例えばコラーゲン、エラスチンといった細胞外マトリックス(ECM)材料の激増を引き起こすこと、細胞癒着の媒体を合成するために、ECMの分解と再造形を引き起こすこと、さらに特殊関数で細胞に文化するために、細胞間のシグナル分子を合成すること(例えば、筋細胞前駆体、平滑筋細胞のための収縮性、内皮細胞のために特異的な種類の細胞交差点を形成する能力、神経細胞と横紋筋繊維のための収縮性と伝道)を実行する異なる生物学的薬剤の位相および多様性放出を通して、レザバは、異なる細胞母集団による合成と分化の活性の経時的な段階を調整できる。
【0200】
さらに、レザバは重要な細胞母集団で分化、機能、静止状態、および/またはアポトーシスのパターンに影響を与える生物学的薬剤を放出する。レザバによる適当な薬剤の放出は、壊死または壊死後の繊維化された領域の回復で、外見上正常な機能に対する、細胞に基づく必須イベントの組織化および調和を促進する。
【実施例】
【0201】
(V.実施例)
以下の実施例は本明細書に記載した組成物の調製および使用を説明するもので、本発明の範囲を制限することを意図したものではない。
【0202】
(実施例1)
(ポリマー薬物レザバの調製)
以下の成分を反応器に投入した。すなわち、メタアクリル酸ブチル12g、ジメタアクリル酸エチレングリコール8g、80gのトルエンに溶解した過酸化ベンゾイル0.2g、および400gの蒸留水に溶解したポリビニルアルコール16gを反応器に投入した。反応器の内容物を機械式スターラーで攪拌し、水相中に有機相の懸濁液を形成した。平均液滴サイズが約20μmになるように攪拌速度を上げた。次に、混合液を70度に加熱し、3時間この温度に保持して重合を完了させ、固形の微孔性レザバ粒子を形成した。
【0203】
固形粒子を濾過により回収し、温水で数回洗浄して懸濁剤を除去した。微孔性粒子を水中で再懸濁させ、得られた懸濁液に蒸気を注入して該粒子からトルエンを除去した。全トルエンを除去した後、粒子を水で洗浄し、濾過し、次いで乾燥した。固形の微孔性ポリマーマイクロスフィア粒子を解析して、その粒度および多孔度を求めた。微孔性レザバの平均粒度は25μm、平均多孔度は80%であった。
【0204】
(実施例2)
(生物学的薬剤を含む組成物の調製)
以下のサイトカインおよび増殖因子を、実施例1で説明した様に調製したポリマー薬物レザバに充填した。すなわち、凍結乾燥インターロイキン−12(IL−12)、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM−CSF)、インターフェロンガンマ(INF−γ)、活性化に応じて調節される正常T細胞発現および分泌サイトカイン(RANTES)、二次リンパ組織ケモカイン(SLC)、腫瘍壊死因子α(TNF−α)、顆粒球コロニー刺激因子(GCSF)、およびマクロファージ化学誘引タンパク質(MCP)−1を、一つのサイトカインもしくは増殖因子を含む粒子、あるいは、二つ以上のサイトカインもしくはサイトカインと増殖因子との組み合わせを含む粒子レザバとしての粒子に充填した。所望の作用薬または作用薬の組み合わせを以下のようにして粒子に充填した。すなわち、レザバ粒子1mgを純粋なイソプロピルアルコールで洗浄し、濾過し、次いで真空下で乾燥した。凍結乾燥したサイトカインまたは増殖因子100μgを緩衝生理食塩水に溶解し、得られた溶液を0.2μmのフィルターで濾過した。濾過後の溶液に、洗浄・濾過したレザバ粒子を混合し、該粒子に溶液が吸着するまで攪拌した。粒子を凍結乾燥して水相を除去し、凍結乾燥したサイトカインまたは増殖因子がレザバ粒子中に取り込まれた状態とした。
【0205】
同様の手順でサイトカインの組み合わせ、増殖因子の組み合わせ、またはサイトカインと増殖因子との組み合わせを充填した。例えば、凍結乾燥IL−12100μgおよび凍結乾燥GM−CSF100μgを緩衝生理食塩水に溶解した。得られた溶液を濾過し、洗浄・乾燥したポリマー薬物レザバと混合し、溶液が該ポリマー薬物レザバに吸着するまで攪拌した。粒子を凍結乾燥し、凍結乾燥したIL−12およびGM−CSFを微孔性粒子中に取り込ませた状態とした。
【0206】
(実施例3)
(GM−CSFを充填した薬物レザバ、ならびにG−CSFおよびRANTESを充填した薬物レザバの調製)
(A.G−CSFを含む粒子)
凍結乾燥したGM−CSF100μgを、DL−ラクチドグリコリドの50/50共重合体を含む4%塩化メチレン溶液1ccに超音波処理により分散した。サイトカインが均一に分散した後、分散したサイトカインを含むポリマー溶液を過剰量の沈殿用溶媒(例えば石油エーテル)に注いだ。分散したGM−CSFを含むポリマー溶液の球状液滴は、GM−CSFを含む固形の球状ポリマー粒子として沈殿した。固形粒子を濾過によって回収し、凍結乾燥して残留溶媒を除去した。
【0207】
(B.G−CSFおよびRANTESを含む粒子)
サイトカインの組み合わせ、増殖因子の組み合わせ、またはサイトカインと増殖因子との組み合わせを含む生物浸食性(bioerodable)マイクロスフィアを以下のように調製した。すなわち、凍結乾燥G−CSF100μgおよび凍結乾燥RANTES100μgを、DL−ラクチドグリコリドの50/50共重合体を含む4%塩化メチレン溶液に超音波処理により分散した。サイトカインが均一に分散された後、分散したサイトカインを含むポリマー溶液を過剰量の沈殿用溶媒(例えば石油エーテル)に注いだ。分散したG−CSFおよびRANTESを含むポリマー溶液の球状液滴は、G−CSFおよびRANTESを含む固形の球状ポリマー粒子として沈殿した。固形粒子を濾過によって回収し、凍結乾燥して残留溶媒を除去した。
【0208】
(実施例4)
(薬物レザバ組成物からのIL−12の試験管内(in vitro)放出)
実施例2に記載の手順に従って、薬物レザバ粒子にIL−12を充填した。IL−12の生物分解レザバからの放出は、粒子を緩衝生理食塩水にインキュベートし、IL−12に特異的な酵素結合免疫吸着検定法によって放出されたIL−12をアッセイをすることによって測定した。11日間に渡って放出されたIL−12の放出カイネティクスは60%であった。
【0209】
(実施例5)
(細胞および組織の再生を目的とした組成物)
ニュージーランドホワイトウサギの左前方かつ下向きに伸びる冠状動脈の主枝を結紮して、閉塞した該動脈の遠心側に心筋梗塞を引き起こした。梗塞の二週間後に、実施例3Bに記載のように調製した、GM−CSF、MCP−1およびRANTESを含む、適量の微孔質レザバおよび生物分解性マイクロスフィアが、大腿動脈を通じて、梗塞領域周辺に送達された。適量の微孔質レザバおよび生物分解性マイクロスフィアを、図3および図13に記載のレザバ沈着デバイスを用いて梗塞領域周辺に送達した。ある動物群を、GM−CSF、MCP−1およびRANTESを含むレザバを受け取る群とし、他の動物群を、サイトカインおよび増殖因子を含まないブランクのレザバを受け取る対照群とした。動物死後の血管撮影図にもとづく側副動脈の数および大きさの増加、および血管拡張中の最大血流量の増加をモニターすることによって、動脈新生応答の程度を時間の関数として測定した。処置を施した動物から単離した細胞を評価し、レザバ領域への単球(monocyte)の浸潤程度および誘引された細胞のアポトーシス(残存)を確かめた。さらに、組織を評価し、レザバ部分への血液循環による、骨髄由来の多能性単球(monocyte)幹細胞が存在するか確かめた。
【0210】
(実施例6)
(腫瘍縮小を目的とした、薬物レザバ組成物からのIL−12の生体内放出)
BALB/cマウスの雄および雌にそれぞれ、大腸腫瘍細胞株である、生存可能なCT−26細胞を1x106個皮下注射し、腫瘍細胞を、固形腫瘍の形態および微構造を有する固形の塊(solid mass)に組織化させた。腫瘍の体積は2日おきに測定した。腫瘍の塊(tumor mass)の形成から14日後に、動物を二つの群に分けた。一方の群を対照群とし、他方の群を、IL−12を含む薬物レザバ150μgを腫瘍中に一度注入する群とした。対照群、およびIL−12を充填したレザバを受け取る群の腫瘍体積を4日おきに測定した。処置を施した動物では腫瘍体積の減少が観察された。
【0211】
本発明を特定の実施の形態に関して説明してきたが、本発明から逸脱しない範囲において、様々な変更、改良が可能であることは当業者にとって明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0212】
【図1】図1は、本発明による組成物の沈着によってもたらされた細胞の段階での組織再生プロセスの全体を概略的に説明するための図である。
【図2】図2は、組成物で使用される典型的な薬物レザバの表面および断面の斜視詳細図である。
【図3】図3は、典型的な薬物レザバ沈着デバイスの平面図である。
【図4】図4は、図3のデバイスのカテーテル軸部の詳細平面図である。
【図5A】図5Aは、モノレールセグメント内のガイドワイヤ係合を示すカテーテル軸部の遠位セグメントの詳細図である。
【図5B】図5Bは、組織貫通のための針先端部を示すカテーテル軸部の遠位セグメントの詳細図である。
【図5C】図5Cは、組織貫通のための針先端部を示すカテーテル軸部の遠位セグメントの詳細図である。
【図6A】図6Aは、図5Cの6A−6A線および6B−6B線に沿う横方向断面図である。
【図6B】図6Bは、図5Cの6A−6A線および6B−6B線に沿う横方向断面図である。
【図7A】図7Aは、双円錐形バルーンの輪郭を持つバルーン−カテーテル実施形態を示す。
【図7B】図7Bは、二重球状バルーンを持つバルーン−カテーテル実施形態を示す。
【図7C】図7Cは、血管内の組織の針穿通をもたらす双円錐形バルーンを示すバルーン−カテーテル実施形態の図である。
【図7D】図7Dは、二重球状バルーンの配置を示すバルーン−カテーテル実施形態の図である。
【図8A】図8Aは、針が引っ込められた場合の図4にある領域Aの断面図である。
【図8B】図8Bは、針がカテーテル軸部から延びた場合の図4にある領域Aの断面図である。
【図9A】図9Aは、図4内の領域Bの断面図である。
【図9B】図9Bは、図9AのF−F線に沿う断面図である。
【図9C】図9Cは、双円錐形バルーン(図7Aに記載)または二球状バルーン(図7Bに記載)を持つデバイスである点を除いては図9Bと同様の断面図である。
【図9D】図9Dは、双円錐形バルーン(図7Aに記載)または二球状バルーン(図7Bに記載)を持つデバイスである点を除いては図9Bと同様の断面図である。
【図10】図10は、図4の領域Dの長手方向断面図である。
【図11】図11は、図4の領域Cの長手方向断面図である。
【図12】図12は、図4の領域Eの長手方向断面図である。
【図13】図13は、虚血性部位で心筋に薬物レザバ製剤を大量瞬時投与して沈着させるためのデバイスの使用を説明するための図である。
【図14A】図14Aは、組織貫通のためにデバイスを進めて針の位置決めをおこなうために螺旋状ガイドワイヤが用いられる他の実施形態を示す。
【図14B】図14Bは、組織貫通のためにデバイスを進めて針の位置決めをおこなうために螺旋状ガイドワイヤが用いられる他の実施形態を示す。
【図14C】図14Cは、組織貫通のためにデバイスを進めて針の位置決めをおこなうために螺旋状ガイドワイヤが用いられる他の実施形態を示す。
【図15】図15は、デバイスのユーザインタフェースの上面全体図である。
【図16A】図16Aは、図15に示すユーザインタフェースの側面図である。
【図16B】図16Bは、図15に示すユーザインタフェースの斜視図(図16B)である。
【図17A】図17Aは、取り外し位置にある状態(図7A)と取り外し位置にあり、かつ90°回転された状態とにある近位セグメントを示すユーザインターロイキンエースの全体図である。
【図17B】図17Bは、取り外し位置にある状態(図7A)と取り外し位置にあり、かつ90°回転された状態とにある近位セグメントを示すユーザインターロイキンエースの全体図である。
【図18A】図18Aは、血管または体腔の壁に沿って組成物を沈着させるための腔内舗装デバイスの図である。
【図18B】図18Bは、血管または体腔の壁に沿って組成物を沈着させるための腔内舗装デバイスの図である。
【図18C】図18Cは、血管または体腔の壁に沿って組成物を沈着させるための腔内舗装デバイスの図である。
【図18D】図18Dは、血管または体腔の壁に沿って組成物を沈着させるための腔内舗装デバイスの図である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞応答を誘導するための組成物であって、1つ以上の所望の細胞を組織部位に誘引するために効果的な第1の薬剤と、そのような細胞の活性を刺激するために効果的な第2の薬剤と、そのような細胞の生存に影響を及ぼすために効果的な第3の薬剤とを含む、組成物。
【請求項2】
前記組成物が細胞および/または組織の再生を促進するためのものであり、前記第1の薬剤が前記組織部位に対して幹細胞、前駆細胞、および補助細胞の1つ以上を誘引するのに効果的である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記第2の薬剤が増殖および分化から選択される活性を刺激することに効果的である、請求項1または請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
前記組織が骨格筋、肝臓、膵臓、脳、心筋、および中枢神経系からなる群から選択される、請求項3に記載の組成物。
【請求項5】
前記組織が心臓組織であり、前記第1の薬剤が循環血液単球、循環脈管形成細胞、および循環動脈形成細胞からなる群から選択される細胞を誘引し、前記第2の薬剤が前記細胞からの薬剤の放出を刺激して血管新生および/または動脈形成を促し、前記第3の薬剤が該心臓組織に存在する循環血液単球由来マクロファージの生存に影響を及ぼす、請求項3に記載の組成物。
【請求項6】
前記第1の薬剤が、マクロファージ化学誘引タンパク質(MCP)−1、MCP−2、MCP−3、MCP−4、MCP−5、活性化に応じて調節される正常T細胞発現および分泌サイトカイン(RANTES)、フラクタルカイン、マクロファージ炎症タンパク質(MIP)−1−α、MIP−1−β、N−ファルネシルペプチド、補体活性化産物C5a、ロイコトリエンB4、血小板活性化因子(PAF)、トランスフォーミング増殖因子β(TGF−β)、インターロイキン、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM−CSF)、顆粒球コロニー刺激因子(G−CSF)、コロニー刺激因子−1(CSF−1)、ならびにマクロファージコロニー刺激因子(M−CSF)からなる群から選択される、請求項5に記載の組成物。
【請求項7】
前記第2の薬剤が、マクロファージ化学誘引タンパク質(MCP)−1、MCP−2、MCP−3、MCP−4、MCP−5、腫瘍壊死因子(TNF)−α、TNF−β、活性化に応じて調節される正常T細胞発現および分泌サイトカイン(RANTES)、フラクタルカイン、マクロファージ炎症タンパク質(MIP)−1−α、MIP−1−β、N−ファルネシルペプチド、補体活性化産物C5a、ロイコトリエンB4、血小板活性化因子(PAF)、トランスフォーミング増殖因子β(TGF−β)、インターロイキン、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM−CSF)、顆粒球コロニー刺激因子(G−CSF)、コロニー刺激因子−1(CSF−1)、マクロファージコロニー刺激因子(M−CSF)、およびリポ多糖からなる群から選択される、請求項5に記載の組成物。
【請求項8】
前記第3の薬剤が、GM−CSF、G−CSF、CSF−1、およびM−CSFからなる群から選択される、請求項5に記載の組成物。
【請求項9】
前記第1、第2、または第3の薬剤の1つ以上が、線維芽細胞増殖因子(FGF、FGF−1、FGF−2)、TGFα、インスリン様増殖因子(IGF−1)、アンジオポエチン−1、アンジオポエチン−2、血管内皮増殖因子(VEGF)、VEGF−2、VEGF165、およびVEGF121のようなVEGFの構築物、血小板由来増殖因子(PDGF)−A、PDGF−B、PDGF−BB、胎盤由来増殖因子(PIGF)、および内皮有糸分裂誘発性増殖因子からなる群から選択される、請求項5に記載の組成物。
【請求項10】
前記組成物が、腫瘍に対する免疫応答を誘導するためのものであり、前記第1の薬剤が、Tリンパ球、マクロファージ、多形核白血球、抗原提示細胞、およびナチュラルキラー細胞からなる群から選択される一つ以上の細胞を誘引するために効果的である、請求項1に記載の組成物。
【請求項11】
前記第1の薬剤が、IL−8、MIG、IL−12、MCP−1、MCP−2、MCP−3、MCP−4、MCP−5、MIP−1α、MIP−1β、MIP−1γ、およびRANTESからなる群から選択される、請求項10に記載の組成物。
【請求項12】
前記第2の薬剤が、GM−CSFおよびIL−12からなる群から選択される、請求項10または請求項11に記載の組成物。
【請求項13】
前記第3の薬剤が、MIG、血小板因子4、MCP−1、−2、−3、およびMIP−1γからなる群から選択される、請求項12に記載の組成物。
【請求項14】
前記薬剤が前記組成物から同時に放出される、請求項1、2、または10のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項15】
前記薬剤が前記組成物から逐次的に放出される、請求項1、2、または10のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項16】
前記薬剤がポリマーから構成される球状の薬物レザバに詰め込まれている、請求項1、2、または10のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項17】
前記薬物レザバが外面を有し、該外面に生物学的リガンドが結合している、請求項16に記載の組成物。
【請求項18】
前記リガンドが細胞接着分子である、請求項17に記載の組成物。
【請求項19】
前記組成物が、エマルジョン、ゲル、ペースト、および液体から選択される剤形に処方される複数の薬物レザバから構成される、請求項16に記載の組成物。
【請求項20】
特定の組織部位での治療応答を誘導するための組成物であって、請求項1、2、または10のいずれか一項に記載の組成物を含む1つ以上の薬物レザバを含む、組成物。
【請求項21】
特定の組織部位で治療応答を誘導するための薬物の調製で使用するための組成物であって、請求項1、2、または10のいずれか一項に記載の組成物を含む1つ以上の薬物レザバを含む、組成物。
【請求項22】
請求項1、2、または10のいずれか一項に記載の組成物を送達するための薬物送達デバイスであって、
カテーテル軸部を通ってポートにまで延びる内腔、少なくとも部分的に可撓性である遠位領域、少なくとも部分的に硬質である近位端、および該近位端にある強化軸セグメントを有するカテーテル軸部と、
少なくとも部分的に該軸部近位領域を通って延びる少なくとも1つのハイポ管と、
該カテーテル軸部の該遠位端に隣接して位置し、ガイドワイヤ係合セグメントを有するモノレールセグメントと、
遠位端および近位端を有し、インターフェース遠位端で該カテーテル軸部の該近位端と強固に連結されているユーザインタフェースと、
可動ピストンを収納するために前記インタフェースの該近位端に連結したシースと、
を具備する、薬物送達デバイス。
【請求項23】
非配置状態では前記カテーテル軸部の遠位領域に少なくとも部分的に置かれ、配置状態では該カテーテル軸部から配置可能である針を、さらに備える、請求項22に記載の薬物送達デバイス。
【請求項24】
前記針が直針および曲げ針からなる群から選択される、請求項23に記載の薬物送達デバイス。
【請求項25】
前記ガイドワイヤ係合セグメントが、脈管または体腔の壁に沿って前記組成物を沈着させるための腔内舗装デバイスをさらに備える、請求項22に記載の薬物送達デバイス。
【請求項26】
前記腔内舗装デバイスが細長い可撓性のカップを有し、該カップは前記カテーテル軸部のポートから前記組成物を受け取るための中央キャビティを有する、請求項25に記載の薬物送達デバイス。
【請求項27】
前記腔内舗装デバイスが、前記カップを介して前記ガイドワイヤを導入するための少なくとも上部開口部および下部開口部を有する、請求項26に記載の薬物送達デバイス。
【請求項1】
細胞応答を誘導するための組成物であって、1つ以上の所望の細胞を組織部位に誘引するために効果的な第1の薬剤と、そのような細胞の活性を刺激するために効果的な第2の薬剤と、そのような細胞の生存に影響を及ぼすために効果的な第3の薬剤とを含む、組成物。
【請求項2】
前記組成物が細胞および/または組織の再生を促進するためのものであり、前記第1の薬剤が前記組織部位に対して幹細胞、前駆細胞、および補助細胞の1つ以上を誘引するのに効果的である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記第2の薬剤が増殖および分化から選択される活性を刺激することに効果的である、請求項1または請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
前記組織が骨格筋、肝臓、膵臓、脳、心筋、および中枢神経系からなる群から選択される、請求項3に記載の組成物。
【請求項5】
前記組織が心臓組織であり、前記第1の薬剤が循環血液単球、循環脈管形成細胞、および循環動脈形成細胞からなる群から選択される細胞を誘引し、前記第2の薬剤が前記細胞からの薬剤の放出を刺激して血管新生および/または動脈形成を促し、前記第3の薬剤が該心臓組織に存在する循環血液単球由来マクロファージの生存に影響を及ぼす、請求項3に記載の組成物。
【請求項6】
前記第1の薬剤が、マクロファージ化学誘引タンパク質(MCP)−1、MCP−2、MCP−3、MCP−4、MCP−5、活性化に応じて調節される正常T細胞発現および分泌サイトカイン(RANTES)、フラクタルカイン、マクロファージ炎症タンパク質(MIP)−1−α、MIP−1−β、N−ファルネシルペプチド、補体活性化産物C5a、ロイコトリエンB4、血小板活性化因子(PAF)、トランスフォーミング増殖因子β(TGF−β)、インターロイキン、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM−CSF)、顆粒球コロニー刺激因子(G−CSF)、コロニー刺激因子−1(CSF−1)、ならびにマクロファージコロニー刺激因子(M−CSF)からなる群から選択される、請求項5に記載の組成物。
【請求項7】
前記第2の薬剤が、マクロファージ化学誘引タンパク質(MCP)−1、MCP−2、MCP−3、MCP−4、MCP−5、腫瘍壊死因子(TNF)−α、TNF−β、活性化に応じて調節される正常T細胞発現および分泌サイトカイン(RANTES)、フラクタルカイン、マクロファージ炎症タンパク質(MIP)−1−α、MIP−1−β、N−ファルネシルペプチド、補体活性化産物C5a、ロイコトリエンB4、血小板活性化因子(PAF)、トランスフォーミング増殖因子β(TGF−β)、インターロイキン、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM−CSF)、顆粒球コロニー刺激因子(G−CSF)、コロニー刺激因子−1(CSF−1)、マクロファージコロニー刺激因子(M−CSF)、およびリポ多糖からなる群から選択される、請求項5に記載の組成物。
【請求項8】
前記第3の薬剤が、GM−CSF、G−CSF、CSF−1、およびM−CSFからなる群から選択される、請求項5に記載の組成物。
【請求項9】
前記第1、第2、または第3の薬剤の1つ以上が、線維芽細胞増殖因子(FGF、FGF−1、FGF−2)、TGFα、インスリン様増殖因子(IGF−1)、アンジオポエチン−1、アンジオポエチン−2、血管内皮増殖因子(VEGF)、VEGF−2、VEGF165、およびVEGF121のようなVEGFの構築物、血小板由来増殖因子(PDGF)−A、PDGF−B、PDGF−BB、胎盤由来増殖因子(PIGF)、および内皮有糸分裂誘発性増殖因子からなる群から選択される、請求項5に記載の組成物。
【請求項10】
前記組成物が、腫瘍に対する免疫応答を誘導するためのものであり、前記第1の薬剤が、Tリンパ球、マクロファージ、多形核白血球、抗原提示細胞、およびナチュラルキラー細胞からなる群から選択される一つ以上の細胞を誘引するために効果的である、請求項1に記載の組成物。
【請求項11】
前記第1の薬剤が、IL−8、MIG、IL−12、MCP−1、MCP−2、MCP−3、MCP−4、MCP−5、MIP−1α、MIP−1β、MIP−1γ、およびRANTESからなる群から選択される、請求項10に記載の組成物。
【請求項12】
前記第2の薬剤が、GM−CSFおよびIL−12からなる群から選択される、請求項10または請求項11に記載の組成物。
【請求項13】
前記第3の薬剤が、MIG、血小板因子4、MCP−1、−2、−3、およびMIP−1γからなる群から選択される、請求項12に記載の組成物。
【請求項14】
前記薬剤が前記組成物から同時に放出される、請求項1、2、または10のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項15】
前記薬剤が前記組成物から逐次的に放出される、請求項1、2、または10のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項16】
前記薬剤がポリマーから構成される球状の薬物レザバに詰め込まれている、請求項1、2、または10のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項17】
前記薬物レザバが外面を有し、該外面に生物学的リガンドが結合している、請求項16に記載の組成物。
【請求項18】
前記リガンドが細胞接着分子である、請求項17に記載の組成物。
【請求項19】
前記組成物が、エマルジョン、ゲル、ペースト、および液体から選択される剤形に処方される複数の薬物レザバから構成される、請求項16に記載の組成物。
【請求項20】
特定の組織部位での治療応答を誘導するための組成物であって、請求項1、2、または10のいずれか一項に記載の組成物を含む1つ以上の薬物レザバを含む、組成物。
【請求項21】
特定の組織部位で治療応答を誘導するための薬物の調製で使用するための組成物であって、請求項1、2、または10のいずれか一項に記載の組成物を含む1つ以上の薬物レザバを含む、組成物。
【請求項22】
請求項1、2、または10のいずれか一項に記載の組成物を送達するための薬物送達デバイスであって、
カテーテル軸部を通ってポートにまで延びる内腔、少なくとも部分的に可撓性である遠位領域、少なくとも部分的に硬質である近位端、および該近位端にある強化軸セグメントを有するカテーテル軸部と、
少なくとも部分的に該軸部近位領域を通って延びる少なくとも1つのハイポ管と、
該カテーテル軸部の該遠位端に隣接して位置し、ガイドワイヤ係合セグメントを有するモノレールセグメントと、
遠位端および近位端を有し、インターフェース遠位端で該カテーテル軸部の該近位端と強固に連結されているユーザインタフェースと、
可動ピストンを収納するために前記インタフェースの該近位端に連結したシースと、
を具備する、薬物送達デバイス。
【請求項23】
非配置状態では前記カテーテル軸部の遠位領域に少なくとも部分的に置かれ、配置状態では該カテーテル軸部から配置可能である針を、さらに備える、請求項22に記載の薬物送達デバイス。
【請求項24】
前記針が直針および曲げ針からなる群から選択される、請求項23に記載の薬物送達デバイス。
【請求項25】
前記ガイドワイヤ係合セグメントが、脈管または体腔の壁に沿って前記組成物を沈着させるための腔内舗装デバイスをさらに備える、請求項22に記載の薬物送達デバイス。
【請求項26】
前記腔内舗装デバイスが細長い可撓性のカップを有し、該カップは前記カテーテル軸部のポートから前記組成物を受け取るための中央キャビティを有する、請求項25に記載の薬物送達デバイス。
【請求項27】
前記腔内舗装デバイスが、前記カップを介して前記ガイドワイヤを導入するための少なくとも上部開口部および下部開口部を有する、請求項26に記載の薬物送達デバイス。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図15】
【公表番号】特表2007−525444(P2007−525444A)
【公表日】平成19年9月6日(2007.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−509414(P2006−509414)
【出願日】平成16年3月25日(2004.3.25)
【国際出願番号】PCT/US2004/009526
【国際公開番号】WO2004/087065
【国際公開日】平成16年10月14日(2004.10.14)
【出願人】(505356963)ヘリコニア コーポレイション (1)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成19年9月6日(2007.9.6)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年3月25日(2004.3.25)
【国際出願番号】PCT/US2004/009526
【国際公開番号】WO2004/087065
【国際公開日】平成16年10月14日(2004.10.14)
【出願人】(505356963)ヘリコニア コーポレイション (1)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]